説明

マスタシリンダおよびその製造方法

【課題】ピストンシールの傷つきを防止することができるマスタシリンダおよびその製造方法の提供。
【解決手段】外周が作動液を供給可能なピストンシールが設けられる周溝47と、周溝47内に開口するとともに周溝47からシリンダ本体15の底部側に延びて圧力室側と周溝47とを連通する連通溝96とを有し、連通溝96はその中心が周溝47の中心に対して偏心して形成され、周溝47と連通溝96とで形成される角部の全範囲に連通溝96と同心の円軌道に沿って面取り部100が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ装置に作動液を供給するマスタシリンダおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキ装置に作動液を供給するマスタシリンダとして、シリンダのスリーブを廃止して有底筒状のシリンダ本体に直接ピストンを嵌挿させる構造のものがある。この種のマスタシリンダは、有底筒状のシリンダ本体と、このシリンダ本体に設けられリザーバから作動液が補給される補給路と、シリンダ本体内にその内部で摺動するピストンにより画成される圧力室と、シリンダ本体に形成された周溝内に設けられ内周がピストンに摺接し外周が補給路から圧力室へ作動液を供給可能なピストンシールと、周溝内に開口するとともにこの周溝からシリンダ本体の底部側に延びて圧力室側と周溝とを連通する連通溝とを有している。この連通溝は、その中心が周溝の中心に対して偏心して形成されており、圧力室に液圧を発生させたピストンが初期位置に戻るとき、周溝の底部とピストンシールの外周側との間から補給される作動液を圧力室へ送り込むために設けられている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−299568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のマスタシリンダにおいては、シリンダのスリーブを廃止してシリンダ本体に直接ピストンを嵌挿させる構造とした結果、シリンダ本体の内周部にピストンシールを配置するために、図7に示すように周溝200および周溝200内に開口するように周溝200に対し偏心する連通溝201を切削加工で形成することが必要となっている。しかしながら、このような周溝200および連通溝201を形成すると、両者の間に角部102が生じ、例えばピストンシールが変形や微小移動する際に、このピストンシールが周溝200と連通溝201との角部202で傷ついてしまう可能性があった。
【0004】
したがって、本発明は、ピストンシールの傷つきを防止することができるマスタシリンダおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、有底筒状のシリンダ本体と、該シリンダ本体に設けられリザーバから作動液が補給される補給路と、前記シリンダ本体内に該シリンダ本体内を摺動するピストンにより画成される圧力室と、前記シリンダ本体に形成された周溝内に設けられ内周が前記ピストンに摺接し外周が前記補給路から前記圧力室へ作動液を供給可能なピストンシールと、前記周溝内に開口するとともに該周溝から前記シリンダ本体の底部側に延びて前記圧力室側と前記周溝とを連通する連通溝とを有し、該連通溝はその中心が前記周溝の中心に対して偏心して形成されているマスタシリンダにおいて、前記周溝と前記連通溝とで形成される角部の全範囲を前記連通溝と同心の円軌道に沿って面取り部を形成したことを特徴としている。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記連通溝は、部分的に前記周溝の底部よりもシリンダ径方向外側まで形成されていることを特徴としている。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る発明において、前記連通溝の底部から前記周溝側に向かうにつれて拡径して形成されていることを特徴としている。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に係る発明において、前記面取り部は、前記連通溝を形成するときに同時に形成されることを特徴としている。
【0009】
請求項5に係る発明は、シリンダ本体内に形成され一部が圧力室を構成するシリンダボアと、該シリンダボアに形成されピストンシールを収容する周溝と、該周溝内に開口するとともに該周溝から前記シリンダボアの底部側に延びて前記圧力室側と前記周溝とを連通し、その中心が前記周溝の中心に対して偏心して形成されている連通溝とを有するマスタシリンダの製造方法であって、前記周溝を切削加工した後に、前記連通溝を切削加工し、前記周溝と前記連通溝とで形成される角部に該連通溝の底部から前記周溝側に向かうにつれて拡径する面取り部を切削加工することを特徴としている。
【0010】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において、前記連通溝は、部分的に前記周溝の底部よりもシリンダ径方向外側まで切削加工されることを特徴としている。
【0011】
請求項7に係る発明は、請求項5または6に係る発明において、前記面取り部は、前記角部の全範囲が前記連通溝と同心の円軌道に沿って切削加工されて形成されることを特徴としている。
【0012】
請求項8に係る発明は、請求項5乃至7のいずれか一項に係る発明において、前記連通溝と前記面取り部とが、同一の切削工具により同時に切削加工されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、ピストンシールを収容する周溝と周溝内に開口する連通溝とで形成される角部の全範囲に面取り部が形成されているため、ピストンシールが変形や微小移動等してもこれを周溝と連通溝との角部で傷つけてしまうことがなくなる。したがって、ピストンシールの傷つきを防止することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、連通溝が、部分的に周溝の底部よりもシリンダ径方向外側まで形成されているため、ピストンシールの外周側と周溝の底部との隙間と、連通溝とを介しての液補給を良好に行うことができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、面取り部が、連通溝の底部から周溝側に向かうにつれて拡径して形成されているため、ピストンシールの外周側と周溝の底部との隙間と、連通溝とを介しての液補給をさらに良好に行うことができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、面取り部が、連通溝を形成するときに同時に形成されるため、周溝に対し偏心していることから形状が複雑で加工しにくい角部を再度別の工具で切削加工して面取り部を形成する場合と比べて容易に加工することができ、生産性を向上することができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、周溝を切削加工した後に、連通溝を切削加工し、周溝と連通溝とで形成される角部に連通溝の底部から周溝側に向かうにつれて拡径する面取り部を切削加工するため、ピストンシールが変形や微小移動等してもこれを周溝と連通溝との角部で傷つけてしまうことがなくなる。したがって、ピストンシールの傷つきを防止することができる。また、面取り部が、連通溝の底部から周溝側に向かうにつれて拡径して形成されるため、ピストンシールの外周側と周溝の底部との隙間と、連通溝とを介しての液補給をさらに良好に行うことができる。
【0018】
請求項6に係る発明によれば、連通溝が、部分的に周溝の底部よりもシリンダ径方向外側まで切削加工されるため、ピストンシールの外周側と周溝の底部との隙間と、連通溝とを介しての液補給を良好に行うことができる。
【0019】
請求項7に係る発明によれば、周溝と連通溝とで形成される角部の全範囲が、連通溝と同心の円軌道に沿って切削加工されて、面取り部が形成されるため、連通溝と面取り部とを同一の工具で一度に切削加工可能となる。したがって、周溝に対し偏心していることから形状が複雑で加工しにくい角部を再度別の工具で切削加工する場合と比べて容易に加工することが可能となり、生産性を向上することが可能となる。
【0020】
請求項8に係る発明によれば、連通溝と面取り部とが、同一の切削工具により同時に切削加工されるため、周溝に対し偏心していることから形状が複雑で加工しにくい角部を再度別の工具で切削加工する場合と比べて容易に加工することができ、生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0022】
図1中符号11は、図示せぬブレーキブースタを介して導入されるブレーキペダルの操作量に応じた力でブレーキ液圧を発生させる本実施形態のマスタシリンダを示しており、このマスタシリンダ11には、その上側にブレーキ液(作動液)を給排するリザーバ12が取り付けられている。
【0023】
マスタシリンダ11は、底部13と筒部14とを有し内側にシリンダボア17を画成する有底筒状に一つの素材から加工されて形成されるとともに横方向に沿う姿勢で車両に配置されるシリンダ本体15と、このシリンダ本体15の開口部16側(図1における右側)に、シリンダ本体15の筒部14の軸線(以下、シリンダ軸と称す)に沿って摺動可能となるように挿入されるプライマリピストン(ピストン)18と、シリンダ本体15のプライマリピストン18よりも底部13側(図1における左側)に、シリンダ軸方向に沿って摺動可能となるように挿入されるセカンダリピストン(ピストン)19とを有するタンデムタイプのものである。
【0024】
シリンダ本体15には、筒部14の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)外側に突出しかつシリンダ軸方向に並設される二カ所の取付台部22,23が筒部14の円周方向(以下、シリンダ円周方向と称す)における所定位置に一体に形成されており、取付台部22,23にリザーバ12を取り付けるための取付穴24,25が、互いにシリンダ円周方向における位置を一致させて形成されている。
【0025】
シリンダ本体15の筒部14の取付台部22,23側には、ブレーキ液を図示せぬブレーキ装置に供給するための図示せぬブレーキ配管が取り付けられるセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27がシリンダボア17から形成されている。なお、これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、互いにシリンダ円周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
【0026】
シリンダ本体15のシリンダボア17を形成する筒部14の底部13側には、セカンダリピストン19を摺動可能に嵌合させる摺動内径部30,31が底部13側から順に形成されており、シリンダ本体15の筒部14の開口部16側にも、プライマリピストン18を摺動可能に嵌合させる摺動内径部35,36が底部13側から順に形成されている。これら摺動内径部30,31,35,36は同軸同径とされている。
【0027】
また、シリンダ本体15の筒部14には、摺動内径部30と底部13との間に、摺動内径部30,31と同軸でこれら摺動内径部30,31よりも大径の大径穴部40が形成されており、摺動内径部31と摺動内径部35との間にも、摺動内径部35,36と同軸でこれら摺動内径部35,36よりも大径の大径穴部41が形成されている。これら大径穴部40,41は同径とされている。
【0028】
シリンダ本体15の筒部14の底部13側において、摺動内径部30のシリンダ軸方向の中間位置には、シリンダ円周方向に環状をなしてシリンダ径方向外側に凹む形状で後述するピストンシール51が嵌合されるシール周溝(周溝)43が形成されている。また、摺動内径部30,31の間には、シリンダ円周方向に環状をなしてシリンダ径方向外側に凹む形状の開口溝44が形成されている。さらに、摺動内径部31のシリンダ軸方向の中間位置には、シリンダ円周方向に環状をなしてシリンダ径方向外側に凹む形状のシール周溝45が形成されている。
【0029】
シリンダ本体15の筒部14の開口部16側においても、摺動内径部35のシリンダ軸方向の中間位置には、シリンダ円周方向に環状をなしてシリンダ径方向外側に凹む形状で後述するピストンシール56が嵌合されるシール周溝(周溝)47が形成されている。また、摺動内径部35,36の間には、シリンダ円周方向に環状をなしてシリンダ径方向外側に凹む形状の開口溝48が形成されている。さらに、摺動内径部36のシリンダ軸方向の中間位置には、シリンダ円周方向に環状をなしてシリンダ径方向外側に凹む形状のシール周溝49が形成されている。
【0030】
シリンダ本体15の摺動内径部30のシール周溝43は、底部13側の取付穴24に近接して形成されており、このシール周溝43にピストンシール51が嵌合されている。ピストンシール51は、その内周と外周とにリップ部を有してC字状断面を有するカップシールであり、底部13側に開口側を配置した状態でシール周溝43に取り付けられる。
【0031】
シリンダ本体15の摺動内径部30,31間の開口溝44には、底部13側の取付穴24から穿設される連通穴52が開口している。ここで、この開口溝44と連通穴52とが、シリンダ本体15とリザーバ12とを連通可能に結ぶとともにリザーバ12に常時連通することでリザーバ12からブレーキ液(作動液)が補給されるセカンダリ補給路(補給路)53を主に構成している。
【0032】
シリンダ本体15の摺動内径部31のシール周溝45には、区画シール54が嵌合されている。この区画シール54もその内周と外周とにリップ部を有してC字状断面を有するカップシールであり、開口部16側に開口側を配置した状態でシール周溝45に取り付けられる。
【0033】
シリンダ本体15の摺動内径部35のシール周溝47は、開口部16側の取付穴25に近接して形成されており、このシール周溝47にピストンシール56が嵌合されている。ピストンシール56は、その内周と外周とにリップ部を有してC字状断面を有するカップシールであり、底部13側に開口側を配置した状態でシール周溝47に取り付けられる。
【0034】
シリンダ本体15の摺動内径部35,36間の開口溝48には、開口部16側の取付穴25から穿設される連通穴57が開口している。ここで、この開口溝48と連通穴57とが、シリンダ本体15とリザーバ12とを連通可能に結ぶとともにリザーバ12に常時連通することでリザーバ12からブレーキ液が補給されるプライマリ補給路(補給路)58を主に構成している。
【0035】
シリンダ本体15の摺動内径部36のシール周溝49には、区画シール59が嵌合されている。この区画シール59もその内周と外周とにリップ部を有してC字状断面を有するカップシールであり、底部13側に開口側を配置した状態でシール周溝49に取り付けられる。
【0036】
シリンダ本体15の底部13側に嵌合されるセカンダリピストン19は、円筒部61と、円筒部61の内側に軸線方向における一側に偏って形成された底部62とを有する有底円筒状をなしており、その底部62をシリンダ本体15の開口部16側に配置した状態でシリンダ本体15の摺動内径部30,31に摺動可能に嵌合されている。また、円筒部61の底部62に対し反対側の端部の外周側には、他の部分よりも径が若干小さい環状の段部64が形成されている。さらに、円筒部61の段部64には、その底部62側にシリンダ径方向に貫通するポート65が複数放射状に形成されている。
【0037】
ここで、シリンダ本体15のシリンダボア17を画成する底部13および筒部14の主として大径穴部40とセカンダリピストン19とで囲まれた部分が、セカンダリ吐出路26に液圧を供給するセカンダリ圧力室(圧力室)68となっている。このセカンダリ圧力室68は、セカンダリピストン19がポート65を開口溝44に開口させる位置にあるとき、セカンダリ補給路53に連通する。シリンダ本体15の底部13側のシール周溝43に設けられたピストンシール51は、内周がセカンダリピストン19の外周側に摺接することになり、セカンダリピストン19がポート65をピストンシール51よりも底部13側に位置させた状態では、セカンダリ補給路53とセカンダリ圧力室68との間を密封可能、つまり、セカンダリ圧力室68と、セカンダリ補給路53およびリザーバ12との連通を遮断可能となっている。
【0038】
シリンダ本体15に形成されたシール周溝43内に設けられ内周がセカンダリピストン19に摺接するピストンシール51は、セカンダリ圧力室68の液圧がセカンダリ補給路53の液圧(つまり大気圧)より大きくなると、セカンダリ圧力室68とセカンダリ補給路53およびリザーバ12との連通を遮断する一方、セカンダリ圧力室68の液圧がセカンダリ補給路53の液圧より小さくなる(負圧)と、外側のリップ部が変形することにより生じるその外周とシール周溝43との隙間を介してセカンダリ圧力室68とセカンダリ補給路53およびリザーバ12とを連通させてセカンダリ圧力室68へのブレーキ液の液補給を可能とする。
【0039】
セカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間には、図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング70を含む間隔調整部71が設けられている。
【0040】
この間隔調整部71は、シリンダ本体15の底部13に当接するバネリテーナ72と、バネリテーナ72に所定範囲内でのみ摺動自在に連結されてセカンダリピストン19の底部62に当接するバネリテーナ73とを有しており、セカンダリピストンスプリング70は、両側のバネリテーナ72,73間に介装されている。
【0041】
シリンダ本体15の開口部16側に嵌合されるプライマリピストン18は、第1円筒部77と、第1円筒部77の軸線方向における一側に形成された底部78と、底部78の第1円筒部77に対し反対側に形成された第2円筒部79とを有する形状をなしており、その第1円筒部77をシリンダ本体15内のセカンダリピストン19側に配置した状態でシリンダ本体15の摺動内径部35,36に摺動可能に嵌合されている。ここで、第2円筒部79の内側には図示せぬブレーキブースタの出力軸が挿入され、この出力軸が底部78を押圧する。
【0042】
第1円筒部77の底部78に対し反対側の端部の外周側には、他の部分よりも径が若干小さい環状の凹部81が形成されている。さらに、第1円筒部77の凹部81には、その底部78側に径方向に貫通するポート82が複数放射状に形成されている。
【0043】
ここで、シリンダ本体15のシリンダボア17を画成する筒部14の主として大径穴部41とプライマリピストン18とセカンダリピストン19とで囲まれた部分が、プライマリ吐出路27に液圧を供給するプライマリ圧力室84(圧力室)となっている。このプライマリ圧力室84は、プライマリピストン18がポート82を開口溝48に開口させる位置にあるとき、プライマリ補給路58に連通する。シリンダ本体15のシール周溝47に設けられたピストンシール56は、内周がプライマリピストン18の外周側に摺接することになり、プライマリピストン18がポート82をピストンシール56よりも底部13側に位置させた状態では、プライマリ補給路58とプライマリ圧力室84との間を密封可能、つまり、プライマリ圧力室84と、プライマリ補給路58およびリザーバ12との連通を遮断可能となっている。
【0044】
シリンダ本体15に形成されたシール周溝47内に設けられ内周がプライマリピストン18に摺接するピストンシール56は、プライマリ圧力室84の液圧がプライマリ補給路58の液圧(つまり大気圧)より高くなると、プライマリ圧力室84とプライマリ補給路58およびリザーバ12との連通を遮断する一方、プライマリ圧力室84の液圧がプライマリ補給路58の液圧より小さくなる(負圧)と、外側のリップ部が変形することにより生じるその外周とシール周溝47との隙間を介してプライマリ圧力室84とプライマリ補給路58およびリザーバ12とを連通させてプライマリ圧力室84へのブレーキ液の液補給を可能とする。
【0045】
シール周溝45に設けられた区画シール54は、セカンダリピストン19に摺接してセカンダリ圧力室68およびセカンダリ補給路53とプライマリ圧力室84との間を密閉させることになり、シール周溝49に設けられた区画シール59は、プライマリピストン18に摺接してプライマリ補給路58およびプライマリ圧力室84を外気に対し密閉させる。
【0046】
セカンダリピストン19とプライマリピストン18との間には、図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング87を含む間隔調整部88が設けられている。
【0047】
この間隔調整部88は、セカンダリピストン19の底部62に当接するバネリテーナ89と、プライマリピストン18の底部78に当接するバネリテーナ90と、バネリテーナ89に一端部が固定されるとともにバネリテーナ90を所定範囲内でのみ摺動自在に支持する軸部材91とを有しており、プライマリピストンスプリング87は、両側のバネリテーナ89,90間に介装されている。
【0048】
シリンダ本体15の摺動内径部30におけるシール周溝43よりも大径穴部40側の部分には、シリンダ軸方向の一端側がシール周溝43内に開口するとともにシリンダボア17の底部13側に延びて他端側が大径穴部40内に開口する連通溝94が、シリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この連通溝94は、大径穴部40に形成されたセカンダリ吐出路26とシール周溝43とをセカンダリ圧力室68を介して連通させるものである。この連通溝94は、摺動内径部30より小径であってシール周溝43の中心に対し偏心した中心を有する円弧状をなしている。この連通溝94の存在により、上述したセカンダリ圧力室68が負圧になったときのセカンダリ補給路53からセカンダリ圧力室68へのブレーキ液の液補給が効率的に行えるようになっている。
【0049】
同様に、シリンダ本体15の摺動内径部35におけるシール周溝47よりも大径穴部41側の部分には、シリンダ軸方向の一端側がシール周溝47内に開口するとともにシリンダボア17の底部13側に延びて他端側が大径穴部41内に開口する連通溝96が、シリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この連通溝96は、大径穴部41に形成されたプライマリ吐出路27とシール周溝47とをプライマリ圧力室84を介して連通させるものである。この連通溝96も、摺動内径部35より小径であってシール周溝47の中心に対し偏心した中心を有する円弧状をなしている。この連通溝96の存在により、上述したプライマリ圧力室84が負圧になったときのプライマリ補給路58からプライマリ圧力室84へのブレーキ液の液補給が効率的に行えるようになっている。
【0050】
そして、本実施形態においては、シール周溝47と連通溝96とで形成される角部の全範囲と、シール周溝43と連通溝94とで形成される角部の全範囲とに、図2〜図5においてシリンダ本体15のプライマリ圧力室84側の連通溝96を例示するように、面取り部100が形成されている。この面取り部100は連通溝96と同心の円軌道に沿って形成されており、連通溝96と同時に加工される。なお、以下の説明においては、図示の関係からプライマリ側を例にとり説明するが、セカンダリ側も同様である。
【0051】
これら連通溝96および面取り部100を同時に加工するティースロットカッタ(工具)101は、図6に示すように、軸方向一端側にあって軸直交方向に沿う第1端面102と、第1端面102の外縁部から軸線方向に離れるほど大径となるように延出するテーパ状の切削面を有する第1切削部103と、第1切削部103の第1端面102とは反対側の外縁部から一定外径の切削面を有して軸線方向に延出する第2切削部104と、第2切削部104の第1切削部103とは反対側に設けられ第2切削部104から軸線方向に離れるほど大径となるテーパ状の切削面を有する第3切削部105と、第3切削部105の外縁部から第2切削部104とは反対に延出する一定外径の切削面を有する第4切削部106と、第4切削部106の第3切削部105とは反対に設けられ第4切削部106から軸線方向に離れるほど小径となるテーパ状の切削面を有する第5切削部107と、第5切削部107の第4切削部106とは反対側にあって軸直交方向に沿う第2端面108とを有している。なお、第5切削部107の切削面の最小径は第3切削部105の切削面の最小径つまり第2切削部104の切削面の外径よりも大径となっている。
【0052】
そして、シリンダ本体15に対して開口部16から挿入される図示略の別のバイトカッタで円形状の略一定断面のシール周溝47を切削加工した後に、同様に開口部16から挿入される上記したティースロットカッタ101を用いてシール周溝47の底部13側に連通溝96を、シリンダ本体15外径側にA方向に向かってその中心をシール周溝47の中心に対して偏心させて切削加工することになるが、このとき、第3切削部105の軸線方向の中間位置がシール周溝47のシリンダ底部13側の壁部110の位置に合うようにシリンダ軸線方向の位置を合わせて第2切削部104をシール周溝47の底部111よりもシリンダ径方向外側までA方向に向かって送る。すると、ティースロットカッタ101で、摺動内径部35におけるシール周溝47よりもシリンダ底部13側をシリンダ軸線方向に貫通させることになる。
【0053】
このとき、第1切削部103で、図4および図5に示す大径穴部41との境界のシリンダ軸直交方向に沿う壁部112が形成されるとともに、壁部112から軸線方向に離れるほど大径となるテーパ状の底面取り部113が形成され、第2切削部104で、連通溝96のシリンダ軸線方向に沿う底部114が形成される。また、第3切削部105で、図5に示す連通溝96の底部114とシール周溝47の壁部110との角部から連通溝96の底部114とシール周溝47の底部111との角部にわたって(つまり、シール周溝47と連通溝96とで形成される角部の全範囲にわたって)、面取り部100が連通溝96と同心の円軌道に沿って形成されることになる。この面取り部100は、連通溝96の底部114からシール周溝47側に向かうにつれて拡径する形状をなす。さらに、第4切削部106で、シール周溝47の底部111にこれよりも深いシリンダ軸直交方向に沿う底部115が形成され、第5切削部107でシール周溝47の底部114に連通溝96から離れるにつれて縮径する図4(A)に示すテーパ部116が形成されるとともに、テーパ部116とシール周溝47の底部111との境界のシリンダ軸直交方向に沿う壁部117が形成される。
【0054】
ここで、上記のように、ティースロットカッタ101の第3切削部104をシール周溝47の底部111よりもシリンダ径方向外側まで送ることで、連通溝96は、部分的にシール周溝47の底部111よりもシリンダ径方向外側まで深く形成されることになる。
【0055】
以上に述べた本実施形態によれば、シール周溝47を切削加工した後に、連通溝96を切削加工し、シール周溝47と連通溝96とで形成される角部に面取り部100を切削加工することになり、この面取り部100は、シール周溝47と連通溝96とで形成される角部の全範囲に形成されているため、ピストンシール56が変形や微小移動等してもこれをシール周溝47と連通溝96との角部で傷つけてしまうことがなくなる。したがって、ピストンシール56の傷つきを防止することができる。
【0056】
また、シール周溝47と連通溝96とで形成される角部の全範囲に、連通溝96と同心の円軌道に沿って面取り部100が形成されているため、連通溝96と面取り部100とを同一のティースロットカッタ101で一度に切削加工することができる。したがって、シール周溝47に対し偏心していることから形状が複雑で加工しにくい角部を再度別の工具で切削加工する場合と比べて容易に加工することができ、生産性を向上することができる。
【0057】
さらに、連通溝96が、部分的にシール周溝47の底部111よりもシリンダ径方向外側まで切削加工で形成されているため、ピストンシール56の外周側とシール周溝47の底部111との隙間と、連通溝96とを介しての液補給を良好に行うことができる。
【0058】
加えて、面取り部100が、連通溝96の底部114からシール周溝47側に向かうにつれて拡径して形成されるため、ピストンシール56の外周側とシール周溝47の底部111との隙間と、連通溝96とを介しての液補給をさらに良好に行うことができる。
【0059】
なお、以上の効果は、上記と同様の構成を採用したセカンダリ側についても同様に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態のマスタシリンダを示すシリンダ軸方向に沿う断面図である。
【図2】本発明の一実施形態のマスタシリンダにおけるシリンダ本体の部分断面斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態のマスタシリンダにおけるシリンダ本体の軸直交断面図である。
【図4】本発明の一実施形態のマスタシリンダにおけるシール周溝および連通溝を示すもので、(a)は図3におけるA−A断面図、(b)は図3におけるB−B断面図である。
【図5】本発明の一実施形態のマスタシリンダにおけるシリンダ本体の図2における範囲Xの拡大斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態のマスタシリンダにおけるシリンダ本体の連通溝を加工する工具の側面図である。
【図7】背景技術のマスタシリンダにおけるシリンダ本体のシール周溝および連通溝の近傍の部分拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
11 マスタシリンダ
12 リザーバ
13 シリンダ本体の底部
15 シリンダ本体
16 シリンダボア
18 プライマリピストン(ピストン)
19 セカンダリピストン(ピストン)
26 セカンダリ吐出路(吐出路)
27 プライマリ吐出路(吐出路)
43,47 シール周溝(周溝)
51,56 ピストンシール(シール部材)
53 セカンダリ補給路(補給路)
58 プライマリ補給路(補給路)
68 セカンダリ圧力室(圧力室)
84 プライマリ圧力室(圧力室)
94,96 連通溝
100 面取り部
111 周溝の底部
114 連通溝の底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状のシリンダ本体と、該シリンダ本体に設けられリザーバから作動液が補給される補給路と、前記シリンダ本体内に該シリンダ本体内を摺動するピストンにより画成される圧力室と、前記シリンダ本体に形成された周溝内に設けられ内周が前記ピストンに摺接し外周が前記補給路から前記圧力室へ作動液を供給可能なピストンシールと、前記周溝内に開口するとともに該周溝から前記シリンダ本体の底部側に延びて前記圧力室側と前記周溝とを連通する連通溝とを有し、該連通溝はその中心が前記周溝の中心に対して偏心して形成されているマスタシリンダにおいて、
前記周溝と前記連通溝とで形成される角部の全範囲に前記連通溝と同心の円軌道に沿って面取り部を形成したことを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
前記連通溝は、部分的に前記周溝の底部よりもシリンダ径方向外側まで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
【請求項3】
前記面取り部は、前記連通溝の底部から前記周溝側に向かうにつれて拡径して形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のマスタシリンダ。
【請求項4】
前記面取り部は、前記連通溝を形成するときに同時に形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマスタシリンダ。
【請求項5】
シリンダ本体内に形成され一部が圧力室を構成するシリンダボアと、該シリンダボアに形成されピストンシールを収容する周溝と、該周溝内に開口するとともに該周溝から前記シリンダボアの底部側に延びて前記圧力室側と前記周溝とを連通し、その中心が前記周溝の中心に対して偏心して形成されている連通溝とを有するマスタシリンダの製造方法であって、
前記周溝を切削加工した後に、前記連通溝を切削加工し、前記周溝と前記連通溝とで形成される角部に該連通溝の底部から前記周溝側に向かうにつれて拡径する面取り部を切削加工することを特徴とするマスタシリンダの製造方法。
【請求項6】
前記連通溝は、部分的に前記周溝の底部よりもシリンダ径方向外側まで切削加工されることを特徴とする請求項5に記載のマスタシリンダの製造方法。
【請求項7】
前記面取り部は、前記角部の全範囲が前記連通溝と同心の円軌道に沿って切削加工されて形成されることを特徴とする請求項5または6に記載のマスタシリンダの製造方法。
【請求項8】
前記連通溝と前記面取り部とが、同一の切削工具により同時に切削加工されることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載のマスタシリンダの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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