説明

マスタシリンダおよびそれを備えた車両

【課題】シリンダの軸長を短くすることが可能なマスタシリンダおよびそれを備えた車両を提供する。
【解決手段】マスタシリンダ1は、開口部2aと閉口部2bを有し、作動液20が封入されたシリンダ孔2cと、閉口部2bに連通口24が設けられたシリンダ2と、シリンダ孔2cに摺動自在に収納されたピストン8と、一端部がピストン8に接続され、ピストン8の摺動に基づきシリンダボディ2の軸方向を移動し、連通口24を開閉する開閉部材90と、シリンダ孔2cに配置され、開閉部材90を連通口24が開口する方向に付勢するピストンスプリング13と、シリンダ孔2cに配置され、開閉部材90を連通口24が閉口する方向に付勢するバルブスプリング14とを備えている。バルブスプリング14は、付勢力がピストンスプリング13の付勢力よりも小さく、少なくとも一部がシリンダ孔2cの軸方向においてピストンスプリング13の一部と重なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスタシリンダおよびそれを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダにおいて、所謂センターポート式のマスタシリンダに関するものが、下記特許文献1に記載されている。一般的に、センターポート式のマスタシリンダは、少なくともシリンダと、前記シリンダの内部を摺動するピストンと、前記シリンダの内部に封入される作動液と、前記作動液を封入するための液体室と、前記作動液を貯留したリザーバと、前記リザーバと前記シリンダの内部とを連通する第1の通路と、前記第1の通路を前記ピストンの摺動に基づき開閉する閉塞具と、を備えている。また、前記液体室が2つである場合、前記2つの液体室を連通する第2の通路を備えている。この場合、前記閉塞具は、前記第1の通路と前記第2の通路とのいずれかの通路を前記ピストンの摺動によって開閉する。
【0003】
図6に示すように、下記特許文献1に記載されたマスタシリンダ501は、シリンダ502、ピストン508、閉塞具509、リザーバ503を有している。シリンダ502は、軸方向において、一端側に開口部502aを形成し、他端側に筒奥部502bを形成している。ピストン508および閉塞具509は、シリンダ502の内部に配設されている。
【0004】
シリンダ502の内部には、作動液520が封入されている。作動液520は、ピストン508によって隔てられた第1液体室504と第2液体室505とに封入されている。第1液体室504と第2液体室505とは、連通路523により連通されている。また、リザーバ503は、シリンダ502の内部とは別に、作動液520を貯留している。リザーバ503は、前記2つの液体室のうち第1液体室504と補給路522を介して連通している。
【0005】
ピストン508は、シリンダ502の内部に摺動自在に挿入されている。閉塞具509は、ピストン508に係合し、ピストン508の前記摺動に基づいてシリンダ502の内部を移動する。また、閉塞具509は、前記移動により、補給路522を開通もしくは閉塞する。
【0006】
また、マスタシリンダ501は、弾性部材としてリターンスプリング513とバルブスプリング514とを備えている。リターンスプリング513は、ピストン508に当接し、閉塞具509に対し補給路522を開口する方向に付勢力を発生している。バルブスプリング514は、閉塞具509に当接し、閉塞具509に対し補給路522を開通する方向に付勢力を発生している。
【0007】
マスタシリンダ501において、筒奥部502bには、リターンスプリング513の片側端を支持する第1スプリングリテーナ511が設けられている。また、ピストン508の先端(図中の左側)には、リターンスプリング513の他端側を支持するキャップ状の第2スプリングリテーナ512が設けられている。リターンスプリング513は、シリンダ502の軸方向において、第1スプリングリテーナ511と第2スプリングリテーナ512との間に配置される。バルブスプリング514は、一端側が第1スプリングリテーナ511、他端側が閉塞具509に支持されている。しかし、バルブスプリング514は、第1スプリングリテーナ511を基準にして、リターンスプリング513の反対側に配置されている。
【特許文献1】特許第3111334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リターンスプリング513とバルブスプリング514の上記配置によれば、リターンスプリング513およびバルブスプリング514のシリンダ502の軸方向での全体の長さは、リターンスプリング513の長さとバルブスプリング514の長さとを足した長さである。そのため、シリンダ502の軸方向が長い、という問題があった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シリンダの軸長を短くすることが可能なマスタシリンダおよびそれを備えた車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るマスタシリンダは、一端側を開口する開口部と、他端側を閉口する閉口部を有し、内部に作動液が封入されたシリンダ孔と、前記閉口部に形成されリザーバと連接するとともに前記シリンダ孔の口径よりも小さい口径を有する連通口が設けられたシリンダと、前記シリンダ孔に摺動自在に収納されたピストンと、前記シリンダ孔に配置され、一端部が前記ピストンに接続され、前記ピストンの前記摺動に基づき前記シリンダの軸方向を移動し、前記移動に基づき前記連通口を開閉する開閉部材と、前記シリンダ孔に配置され、前記開閉部材を前記連通口が開口する方向に付勢する第1のバネと、前記シリンダ孔に配置され、前記開閉部材を前記連通口が閉口する方向に付勢する第2のバネとを備えている。また、前記第2のバネは、付勢力が前記第1のバネの付勢力よりも小さく、少なくとも一部が前記シリンダの軸方向において前記第1のバネの一部と重なっている。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、シリンダの軸長を短くすることが可能なマスタシリンダおよびそれを備えた車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
《実施形態1》
以下、本発明に係るマスタシリンダの実施形態について、詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係るマスタシリンダを備える車両の一例として自動二輪車100を示している。自動二輪車100は、所謂レーサーレプリカ型の自動二輪車である。なお、本実施形態に係る車両は、自動二輪車100に限定されない。本実施形態に係る車両は、モーターサイクル型、オフロード型、スクータ型等の自動二輪車であってもよい。また、本実施形態に係る車両は、自動二輪車に限定されず、四輪車であってもよい。本実施形態に係る車両は、下記のマスタシリンダ1を備えた車両である。
【0014】
以下の説明において、前後左右の方向は、特に限定しない限り、下記のシート113に着座した乗員から視た方向をいう。
【0015】
自動二輪車100は、車体フレーム107を備えている。車体フレーム107は、ヘッドパイプ107c(図2参照)を有している。ヘッドパイプ107cの上方には操向ハンドル101が設けられている。操向ハンドル101は、トップブリッジ101aとハンドルバー102とを有している。図2に示すように、トップブリッジ101aは、ヘッドパイプ107cの上側に配置される。また、ハンドルバー102は、左右一対に備えられ、トップブリッジ101aに接続している。ただし、ハンドルバー102は、左右一対に備えられていなくてもよい。すなわち、操向ハンドル101は、左右方向に延びる1本のハンドルバー102を有していてもよい。
【0016】
また、図1に示すように、車体フレーム107の後端部には、スイングアーム109が揺動可能に取り付けられている。スイングアーム109の後端部には、後輪110が回転可能に取り付けられている。
【0017】
車体フレーム107の上側には、燃料タンク114が載置される。また、シート113が燃料タンク114の後側で車体フレーム107の上側に載置される。
【0018】
車体フレーム107には、駆動源としてのエンジンを備えたパワーユニット106が懸架されている。パワーユニット106は、動力伝達機構108を介して後輪110に接続されている。動力伝達機構108は、チェーン、ベルト、もしくはドライブシャフト等で構成されている。パワーユニット106において生じる駆動力は、動力伝達機構108を介して後輪110に伝達する。
【0019】
操向ハンドル101の下部(詳しくはヘッドパイプ107cの下端部)には、フロントフォーク104を介して前輪105が回転自在に取り付けられている。前輪105は、タイヤ116とホイール115とブレーキディスク112とを有している。ホイール115は、フロントフォーク104の下端部に取り付けられている。ブレーキディスク112は、ホイール115に固定され、ホイール115とともに回転する。
【0020】
また、自動二輪車100は、前輪105の回転を制動するフロントブレーキ機構を備えている。前記フロントブレーキ機構は、キャリパ111とブレーキディスク112とブレーキホース33とマスタシリンダ1とブレーキレバー103とを有している。キャリパ111は、図示しないブレーキパットを介して、ブレーキディスク112の一部に接触する。また、ブレーキホース33は、マスタシリンダ1とキャリパ111とを接続している。後述するように、マスタシリンダ1、キャリパ111およびブレーキホース33の内部には、作動液20が封入されている。自動二輪車100の乗員がブレーキレバー103を操作することにより、作動液20の液圧が変化する。作動液20の液圧が変化することにより、キャリパ111が作動し、前記ブレーキパッドがブレーキディスク112に接触する。前記ブレーキパッドがブレーキディスク112に接触することにより、前記ブレーキパッドとブレーキディスク112との間に摩擦力および摩擦熱が生じる。前記摩擦力および前記摩擦熱により、ブレーキディスク112およびホイール115の回転が抑制される。ホイール115の回転が抑制されることで、少なくともタイヤ116と路面との摩擦により、自動二輪車100は制動される。
【0021】
図2に示すように、ブレーキレバー103は、ハンドルバー102に取り付けられる。ブレーキレバー103は、自動二輪車100の乗員に操作され、ピボット部103cを中心に揺動する。ブレーキレバー103は、前記フロントブレーキ機構を作動させる際、図のG方向に揺動する。また、ブレーキレバー103は、前記フロントブレーキ機構の作動を解消させる際、図のR方向に揺動する。本実施形態において、マスタシリンダ1は、操向ハンドル101において、ハンドルバー102とブレーキレバー103との間に配置される。また、マスタシリンダ1のシリンダボディ2が延びる方向は、ハンドルバー102が延びる方向から略直角方向を向いている。
【0022】
マスタシリンダ1は、シリンダボディ2とリザーバ3と出力ポート30とを有している。シリンダボディ2とリザーバ3は、補給路22を介して接続している。リザーバ3には、補給口21が設けられている。補給路22は、補給口21においてリザーバ3と接続している。リザーバ3とシリンダボディ2とは、別体であってもよく、一体であってもよい。図2では、シリンダボディ2とリザーバ3とが別体のマスタシリンダ1が図示されている。また、図3では、シリンダボディ2と補給路22とが一体のマスタシリンダ1が示されている。リザーバ3には、キャップ3cが設けられている。キャップ3cは、リザーバ3の本体に対して取り外しが可能である。
【0023】
図3に示すように、シリンダボディ2は、一端側に開口部2aを有し、他端側に閉口した閉口部2bを有している。シリンダボディ2の軸方向において、開口部2aと閉口部2bとの間には、シリンダ孔2cが形成されている。なお、シリンダ孔2cの断面形状は、特に限定されない。シリンダ孔2cの断面形状は、略円形でもよく、多角形であってもよい。本実施形態において、シリンダ孔2cの断面形状は、円形である。なお、開口部の口径は、図3においてdと図示されている。
【0024】
シリンダ孔2cと補給路22とリザーバ3には、作動液20が封入されている。シリンダ孔2cには、作動液20が封入されるための空間が設けられている。図3において、前記空間は、液体室4として図示されている。
【0025】
シリンダ孔2cには、吐出口31が設けられている。吐出口31は、シリンダ孔2cに封入されている作動液20を外部へ流出させる部位である。もしくは、吐出口31は、シリンダ孔2cの外部の作動液20をシリンダ孔2cへ流入させる部位である。マスタシリンダ1には、出力ポート30が設けられている。シリンダ孔2cとブレーキホース33の片側端とは、出力ポート30を介して接続している(図2参照)。出力ポート30の少なくとも一部は、シリンダボディ2に一体式に形成されている。出力ポート30には、ホース接合口32が設けられている。ブレーキホース33の片側端は、ホース接合口32に固定されている。出力ポート30の内部には、空間34が形成されている(図3(b)参照)。空間34と吐出口31とは連通している。また、空間34には作動液20が封入される。つまり、リザーバ3からキャリパ111(図1参照)に至るまでの接続した経路において、作動液20が封入されている。そのため、シリンダ孔2cの外部に封入されている作動液20は、吐出口31より、シリンダ孔2cに流入することができる。または、シリンダ孔2cに封入されている作動液20は、吐出口31より外部へ流出することができる。
【0026】
なお、出力ポート30は、全体がシリンダボディ2と一体式に形成されていてもよい。また、出力ポート30は、全体がシリンダボディ2と別体であってもよい。出力ポート30がシリンダボディ2と別体である場合、出力ポート30の空間34が吐出口31と連通するように、出力ポート30は、シリンダボディ2に取り付けられる。
【0027】
また、マスタシリンダ1には、出力ポート30が設けられていなくてもよい。すなわち、ブレーキホース33の片側端は、シリンダ孔2cの吐出口31に固着されていてもよい。この場合、ブレーキホース33は、シリンダ孔2cと直接的に連通する。
【0028】
図3に示すように、シリンダ孔2cには、ピストン8、バルブステム9、およびバルブ10が設けられている。ただし、本実施形態において、バルブ10およびバルブステム9は、一体式の構成であってもよい。
【0029】
また、開口部2aには、プッシュロッド16が配置される。開口部2aの軸方向の端部は、蓋部材17により、閉口される。プッシュロッド16は、シリンダボディ2の外部から蓋部材17を貫通している。プッシュロッド16の片側端は、ピストン8に当接する。また、プッシュロッド16の他端は、ブレーキレバー103に係合する(図2参照)。
【0030】
本実施形態に係るマスタシリンダ1は、概略的に以下のように作動する。図2に示すG方向にブレーキレバー103が操作されると、プッシュロッド16がピストン8を作動させる。ピストン8は、ブレーキレバー103の操作に基づき、シリンダ孔2cを摺動する。また、バルブステム9は、ピストン8の摺動に基づき、シリンダ孔2cの軸方向に移動する。また、バルブ10は、ピストン8の摺動に基づき、補給路22を閉塞する。補給路22が閉塞され、且つ、さらにピストン8がシリンダ孔2cを摺動すると、シリンダ孔2cに封入されている作動液20は、液量または液圧が変化する。これに従い、ブレーキホース33に封入されている作動液20の液圧が変化し、キャリパ111(図1参照)が作動する。つまり、ブレーキレバー103の操作に基づき、前記フロントブレーキ機構が作動する。なお、図2に示すように、プッシュロッド16には、調整部16aが設けられている。調整部16aが操作されることで、ピストン8(図3参照)のシリンダ孔2cでの摺動量が変化する。
【0031】
また、自動二輪車100は、後輪110の回転を制動するリアブレーキ機構を備えている。前記リアブレーキ機構は、ブレーキシャフト119(図1参照)の操作により作動する。ブレーキシャフト119は、ブラケット150に固定される。ブラケット150は、車体フレーム107に固定されている。
【0032】
以上のように、マスタシリンダ1が作動することにより、前記フロントブレーキ機構が作動する。以下では、シリンダ孔2cにおける作動液20の液圧または液量の変化について詳述する。
【0033】
図3(a)および図4に示すように、ピストン8は、一部に軸方向に沿った空洞8dを有している。空洞8dの径方向の大きさは、後述するストッパフランジ9bの径方向の大きさよりも大きい。
【0034】
図3(a)に示すように、ピストン8の片側端部には、スプリングリテーナ11が取り付けられている。スプリングリテーナ11は、ピストン8とともに摺動する。スプリングリテーナ11は、ピストン8の前記片側端部に固着していてもよい。スプリングリテーナ11は、例えば、キャップ状の形状を有している。
【0035】
また、図5に示すように、スプリングリテーナ11には、バルブステム9の軸部9eがスプリングリテーナ11に対して摺動することができるように、係合孔11bが設けられている。さらに、バルブステム9には、軸部9eの摺動を規制するストッパフランジ9bが設けられている。ストッパフランジ9bがスプリングリテーナ11のステム当接部11aに当接することによって、後述するように、バルブステム9は図5の左側から右側への移動が規制される。
【0036】
また、図3に示すように、ピストン8には、シール7とカップ6とが取り付けられている。シール7およびカップ6は、液体室4に封入されている作動液20が、シリンダボディ2の開口部2aより外部へ漏出するのを規制している。また、カップ6は、ピストン8がシリンダ孔2cの軸方向を図3(a)の右側から左側へ摺動する際、液体室4にある作動液20を図3(a)の右側から左側へ移動させるとともに圧縮する。
【0037】
図3に示すように、シリンダ孔2cには、ピストンスプリング13が設けられている。ピストンスプリング13は弾性部材であり、ピストン8のシリンダ孔2cに対する摺動を軸方向に付勢する付勢力を発生する。本実施形態において、ピストンスプリング13は、液体室4に設けられている。ピストンスプリング13は、シリンダボディ2の軸方向において、後述するストッパ12とスプリングリテーナ11との間に設けられている。ピストンスプリング13の付勢力は、後述するバルブスプリング14の付勢力よりも大きい。また、本実施形態において、ピストンスプリング13は、コイルスプリングで形成されている。
【0038】
例えば、ピストン8が図3の右側から左側に向かって摺動する際、ピストンスプリング13は、図3の左側から右側に向かって付勢力を発生し、ピストン8の摺動を抑制する。逆に、ピストン8が図3の左側から右側に向かって摺動する際、ピストンスプリング13は、図3の左側から右側に向かって付勢力を発生し、ピストン8の摺動を付勢する。つまり、ピストンスプリング13は、図3の左側から右側へ付勢力を発生している。
【0039】
図3または5に示すように、マスタシリンダ1には、シリンダ孔2cにおいてストッパ12が設けられている。ストッパ12は、シリンダボディ2の一端(閉口部2b)側に設けられている。ストッパ12は、シリンダ孔2cに固定されている。ただし、ストッパ12は、シリンダ孔2cに固着される形態であってもよい。また、ストッパ12は、シリンダボディ2の外部より締結具等が用いられて固定される形態であってもよい。もしくは、シリンダ孔2cに設けられているストッパ12が、ピストンスプリング13の付勢力により、閉口部2bで固定される形態であってもよい。
【0040】
ストッパ12は、ピストンスプリング13の一端と当接できるように、ピストンスプリングリテーナ12bを備えている。ピストンスプリングリテーナ12bは、ピストンスプリング13の一端を支持する。図5等に示すピストンスプリングリテーナ12bは一例であって、ストッパ12でのピストンスプリングリテーナ12bの位置は、特に限定されない。もしくは、ストッパ12に別の部材としてリテーナが設けられ、前記リテーナがピストンスプリング13の一端と当接する形態であってもよい。
【0041】
ストッパ12には、バルブスプリングリテーナ12dが一体式に形成されている。バルブスプリングリテーナ12dは、バルブスプリング14の一端を支持する。バルブスプリングリテーナ12dは、シリンダ孔2cの軸方向に関してスプリングリテーナ11とピストンスプリングリテーナ12bとの間に設けられる。また、バルブスプリングリテーナ12dは、シリンダ孔2cの径方向に関してピストンスプリング13よりも径方向の内側に設けられる。図5等に示すバルブスプリングリテーナ12dは一例である。バルブスプリングリテーナ12dがストッパ12に形成されるのに変わり、ストッパ12または後述するバルブステム9に別の部材としてリテーナが設けられることにしてもよい。この場合、前記リテーナがバルブスプリング14の一端と当接する。
【0042】
シリンダ孔2cには、補給路22を開口または閉塞するバルブ10が設けられている。バルブ10は、ピストン8の摺動に基づき補給路22を開口または閉塞する。本実施形態に係るバルブ10は、ストッパ12の径方向内側に配置されている。図5に示すように、バルブステム9のバルブ係合部9cに係着している。ただし、前述したように、バルブ10とバルブステム9は、一体であってもよい。少なくともバルブ10とバルブステム9とにより形成された部材を便宜的に開閉部材90と称する。また、本実施形態において、バルブ10は、弾性部材により形成されている。そのため、バルブ10が補給路22を閉塞する際、バルブ10は弾性変形することができる。ただし、バルブ10は、弾性部材であることに限定されない。バルブ10は、確実に補給路22を開通または閉塞できる部材で形成されていればよい。また、バルブ10およびバルブステム9が一体である場合、開閉部材90は、弾性部材等で形成される。
【0043】
図5に示すように、シリンダ孔2cの径方向に関して、バルブステム9がピストンスプリング13の内側に設けられている。バルブステム9は、ピストンスプリング13の径方向の内側において、シリンダ孔2cの軸方向を移動する。バルブステム9は、摺動部9aを有している。摺動部9aは、ピストン8の摺動に基づき、ストッパ12の径方向内側をシリンダ孔2cの軸方向に摺動する。
【0044】
また、バルブステム9には、複数のリテーナ部9dが形成されている。リテーナ部9dは、摺動部9aの径方向の外側に突出した部位である。複数のリテーナ部9dは、シリンダ孔2cの図示しない軸心を中心として放射状に設けられる。図3または図5に示すように、リテーナ部9dは、シリンダ孔2cの軸方向に関してバルブスプリングリテーナ12dとピストンスプリングリテーナ12bとの間に設けられる。また、リテーナ部9dは、シリンダ孔2cの径方向に関してピストンスプリング13よりも径方向内側に設けられる。図5等に示すリテーナ部9dは一例である。リテーナ部9dがバルブステム9に形成されるのに変わり、バルブステム9またはストッパ12に別の部材としてリテーナが設けられることにしてもよい。この場合、前記リテーナがバルブスプリング14の一端と当接する。
【0045】
図3に示すように、シリンダ孔2cには、バルブスプリング14が設けられている。バルブスプリング14は弾性部材であり、バルブ10による補給路22の開通または閉塞を付勢する。図5に示すように、バルブスプリング14は、シリンダボディ2の軸方向において、バルブステム9のリテーナ部9dとストッパ12のバルブスプリングリテーナ12dとの間に設けられている。具体的には、バルブスプリング14は、ピストンスプリング13よりもシリンダ孔2cの径方向の内側に配置されている。また、バルブスプリング14は、シリンダ孔2cの軸方向においてピストンスプリング13の一部と重なっている。一方、バルブスプリング14の付勢力は、ピストンスプリング13の付勢力よりも小さい。また、本実施形態において、バルブスプリング14は、コイルスプリングで形成されている。
【0046】
液体室4とリザーバ3とは、補給路22により接続している。つまり、液体室4とリザーバ3とに封入されている作動液20は、補給路22を通って行き来できる。閉口部2bの面には、開口した連通口24が形成されている。連通口24が形成される閉口部2bの面は、バルブ10と当接する。この面をシール面18と称する。バルブ10は、補給路22を閉塞するとき、シール面18に当接し連通口24を塞ぐ。なお、連通口24の口径は、図3においてdと図示されている。
【0047】
前述したように、ストッパ12およびバルブステム9において、リテーナ部9dとバルブスプリングリテーナ12dは、シリンダ孔2cの図示しない軸心を中心として放射状に配置されている。また、図5に示すように、ストッパ12の径方向の内側には、軸方向に沿って連通路25が形成されている。そのため、連通路25には、作動液20が封入される。
【0048】
以上、マスタシリンダ1の構成等について説明した。以下では、マスタシリンダ1の組み立て方法並びに作動液20の封入方法について説明する。
【0049】
まず、シリンダボディ2の内部には、シリンダ孔2cおよび吐出口31が形成されているだけで、シリンダ孔2cには、何も封入されていない。この状態から、ピストン8、バルブステム9、バルブ10、ピストンスプリング13、バルブスプリング14、ストッパ12等が開口部2aよりシリンダ孔2cに嵌入される。ピストン8、バルブステム9、バルブ10、ピストンスプリング13、バルブスプリング14、ストッパ12等は、予め一体式に構成されている。
【0050】
これらの部材がシリンダ孔2cに嵌入された後、シリンダボディ2の開口部2aが蓋部材17により閉口される。蓋部材17は、開口部2aに固定される。シリンダ孔2cは、蓋部材17と閉口部2bとによって、軸方向の両端が閉口される。
【0051】
蓋部材17がシリンダボディ2に固定された後、シリンダボディ2は、操向ハンドル101に取り外し自在に組み付けられる。シリンダボディ2が操向ハンドル101に組み付けられることで、シリンダボディ2は、自動二輪車100の車体に対して固定される。すなわち、シリンダボディ2は、自動二輪車100に対して相対移動しない。このとき、シリンダボディ2は、自動二輪車100の車体に関してシリンダボディ2の軸方向が地表面に水平な面を延びるように配置される。つまり、図3(a)に示すシリンダボディ2において、シリンダ孔2cの軸心が通る線は、自動二輪車100に関して地表面と平行である。
【0052】
シリンダボディ2が操向ハンドル101に組み付けられると、プッシュロッド16が開口部2aにおいてシリンダ孔2cに嵌入される。プッシュロッド16がシリンダボディ2に嵌入されると、ピストン8の片側端とプッシュロッド16とが当接する。これにより、ピストン8は、ブレーキレバー103の操作によってシリンダ孔2cを摺動することができる。
【0053】
また、シリンダボディ2が操向ハンドル101に組み付けられる際、ブレーキホース33の上側端が、出力ポート30に取り付けられる。前述したように、ブレーキホース33の上側端は、出力ポート30において、ホース接合口32に固定される。ブレーキホース33の下側端は、予めキャリパ111に接続していてもよい。もしくは、ブレーキホース33の下側端は、後述するように作動液20がシリンダ孔2cに充填された後、キャリパ111に接続することにしてもよい。また、リザーバ3がシリンダボディ2と別体である場合、シリンダボディ2が操向ハンドル101に組み付けられる際、リザーバ3とシリンダボディ2とは補給路22を介して接続される。以上のように、マスタシリンダ1が自動二輪車100の車体に設置される。これにより、前記フロントブレーキ機構は、リザーバ3からキャリパ111までの接続が完了する。
【0054】
前記フロントブレーキ機構がリザーバ3からキャリパ111までの接続が完了すると、マスタシリンダ1等に作動液20が封入される。前記フロントブレーキ機構において、作動液20は、リザーバ3または補給路22から補給される。リザーバ3のキャップ3cは、取り外しが可能である。キャップ3cが取り外されたリザーバ3に作動液20が補給されると、作動液20は、補給路22を通って連通口24から液体室4に流入する。液体室4に流入した作動液20は、連通路25を通って液体室4に流入する。このように、作動液20がシリンダ孔2cにおいて充填される。
【0055】
しかしながら、作動液20がシリンダ孔2cに充填される際、シリンダ孔2cに残っている空気が、作動液20のシリンダ孔2cへの流入を阻害することがある。前述したように、シリンダボディ2は、自動二輪車100の車体に関してシリンダボディ2の軸方向が地表面に水平な面を延びるように配置される。そのため、作動液20がシリンダ孔2cに充填される際、前記空気は、液体室4の上方に溜まってくる。このときのシリンダ孔2cに溜まる前記空気をエア溜まりと便宜的に称する。
【0056】
シリンダ孔2cに設けられる各部材が正常に作動するためは、シリンダ孔2cに作動液20が隙間なく充填されなければならない。したがって、エア溜まりは、シリンダ孔2cの外部へ排出されなければならない。前記エア溜まりは、ピストン8がシリンダ孔2cを図3(a)に示す右側から左側に摺動する際、液体室4の端部に移動する。前記端部は、各部材が嵌入された後のシリンダ孔2cの片側端部である。本実施形態において、前記端部は、具体的にはストッパ12のピストンスプリングリテーナ12bである。そのため、マスタシリンダ1には、シリンダ孔2cの上方、且つ、ストッパ12の一部と重なる位置に吐出口31が設けられる。これにより、エア溜まりは、ピストン8が図3(a)の左側から右側へ摺動する際、吐出口31よりシリンダ孔2cの外部へ排出される。そのため、エア溜まりをシリンダ孔2cの外部へ排出するためのエアブリード等の部材は、シリンダボディ2に設けられる必要がない。前記エアブリード等の部材は、前記フロントブレーキ機構において、シリンダボディ2またはキャリパ111に設けられる。
【0057】
エア溜まりがシリンダ孔2cより排出されることで、シリンダ孔2cには、作動液20が隙間なく充填される。作動液20がシリンダ孔2cに充填されると、次いでブレーキホース33の内部、キャリパ111の内部が作動液20で満たされる。作動液20がブレーキホース33の内部、キャリパ111の内部に充填されると、最後にリザーバ3が作動液20で満たされる。リザーバ3に作動液20が充填され、マスタシリンダ1の全体に渡る作動液20の封入が完了する。作動液20の封入が完了すると、キャップ3cが取り付けられ、リザーバ3は密閉される。以上のようにして、マスタシリンダ1の組み立てが完了する。
【0058】
自動二輪車100に取り付けられたマスタシリンダ1は、以下のように作動する。図2に示すように、自動二輪車100に乗車する乗員によりブレーキレバー103が図中のG方向に操作される。ブレーキレバー103がG方向に操作されると、プッシュロッド16が図3(a)の右側から左側へ向かってピストン8を押し込む。プッシュロッド16がピストン8を押し込むことにより、ピストン8は、図3(a)の右側から左側へ向かってシリンダ孔2cを軸方向に摺動する。次いで、ピストン8がシリンダ孔2cの軸方向に所定距離を移動すると、バルブステム9が図3(a)の右側から左側へ向かってシリンダ孔2cを軸方向に移動する。前記移動によって、バルブ10が閉口部2bのシール面18と当接する。これにより、バルブ10は、連通口24を閉塞する。連通口24がバルブ10により閉塞されると、液体室4とリザーバ3との間において、作動液20の行き来が規制される。
【0059】
バルブ10がシール面18と当接した後、さらにピストン8がシリンダ孔2cを摺動すると、バルブ10が弾性変形し、シール面18における連通口24の閉塞が強固になる。このとき、ピストン8およびスプリングリテーナ11は、ピストンスプリング13の付勢力よりも大きな力をブレーキレバー103の作動により受けることができる。そのため、ピストン8およびスプリングリテーナ11は、シリンダ孔2cを軸方向に摺動することができる。
【0060】
バルブ10が連通口24を閉塞した後、さらに乗員によりブレーキレバー103が操作されると、ピストン8およびスプリングリテーナ11がさらにシリンダ孔2cの軸方向を図中の右側から左側に向かって移動する。前述したように、ピストン8の一部には、軸方向に空洞8dが形成されている。そのため、バルブステム9のストッパフランジ9bおよび軸部9eの一部は、空洞8dを移動することができる。
【0061】
シール面18がバルブ10によって閉塞されているとき、ストッパフランジ9bおよび軸部9eの一部は、空洞8dを移動する。また、シール面18がバルブ10によって閉塞されているとき、ピストン8およびスプリングリテーナ11がシリンダ孔2cの軸方向を図3(a)の右側から左側へ摺動していくと、液体室4の液量または液圧は、ピストン8およびスプリングリテーナ11の摺動に基づいて変化する。具体的には、液体室4における液圧は上昇し、液量は減少する。液体室4の液量は、液体室4に封入されている作動液20が、吐出口31よりシリンダ孔2cの外部へ流出することによって減少する。液体室4の液圧は、液体室4に封入されている作動液20が、ピストン8およびスプリングリテーナ11に押圧されることによって上昇する。
【0062】
液体室4に封入されている作動液20は、吐出口31よりシリンダ孔2cの外部へ流出し、ブレーキホース33を通りキャリパ111(図1参照)の内部へ送出される。キャリパ111の内部では液圧および液量が変化する。具体的には、キャリパ111の内部での液圧および液量は増加する。キャリパ111の内部で液圧および液量が増加するのに基づいて、ブレーキディスク112(図1参照)の回転が抑制される。すなわち、ブレーキレバー103の操作は、前輪105(図1参照)の回転を制動する。
【0063】
また、前記フロントブレーキ機構の制動が解除されるとき、自動二輪車100に取り付けられたマスタシリンダ1は、以下のように作動する。図2に示すように、自動二輪車100に乗車する乗員により、図中のG方向に操作されているブレーキレバー103の操作が解除される。これにより、ブレーキレバー103がR方向に作動する。
【0064】
G方向に操作されているブレーキレバー103の操作が解除されると、キャリパ111の内部に封入されている作動液20は、ブレーキホース33を通り吐出口31よりシリンダ孔2cへ流入する。これにより、液体室4にある作動液20は、液量または液圧が増加する。これと同時に、ピストン8、スプリングリテーナ11、バルブステム9等は、ピストンスプリング13の付勢力を受ける。そのため、ピストン8、スプリングリテーナ11、バルブステム9等は、シリンダ孔2cの軸方向を図3(a)の左側から右側に移動する。このとき、G方向に操作されていたブレーキレバー103が、前輪105(図1参照)の制動を開始する前の位置まで、図2に示すR方向に揺動する。ピストン8、スプリングリテーナ11、バルブステム9等がシリンダ孔2cの軸方向に所定距離を移動すると、バルブステム9のストッパフランジ9b(図5参照)がスプリングリテーナ11のステム当接部11a(図5参照)に当接する。これにより、バルブステム9がシリンダ孔2cの軸方向を図の右側から左側に移動することが規制される。バルブステム9のストッパフランジ9bがステム当接部11aに当接した後、ピストンスプリング13の付勢力により、バルブ10はシール面18から離間する。これにより、連通口24が開通する。バルブ10がシール面18から離間するのは、ピストンスプリング13の付勢力がバルブスプリング14の付勢力よりも大きいためである。
【0065】
連通口24が開通すると、液体室4の作動液20のうちの一部は、補給路22を通ってリザーバ3に流入する。このように、液体室4の作動液20の液量または液圧は、減少する。以上のように、ブレーキレバー103の操作の解除により、前記フロントブレーキ機構による前輪105の制動が解消される。
【0066】
《その他の変形例》
前記実施形態において、マスタシリンダ1は、前記フロントブレーキ機構に備えられていた。しかし、前記リアブレーキ機構がマスタシリンダ1を備えることも可能である。この場合、マスタシリンダ1は、ブレーキシャフト119の操作によって作動する。この場合、マスタシリンダ1は、図1において車体フレーム107の外側でブレーキシャフト119の前方に配置されている。ただし、マスタシリンダ1は、車体フレーム107の内側に配置されていてもよい。また、マスタシリンダ1は、ブレーキシャフト119の後方であってもよい。さらに、マスタシリンダ1は、図示されている位置よりもさらに上方であって、ブレーキシャフト119の上方またはブラケット150の上方であってもよい。
【0067】
後輪110は、タイヤ118とホイール117と図示しないリアブレーキディスクとを有している。ホイール117は、スイングアーム109の後端部に取り付けられている。前記リアブレーキディスクは、ホイール117に固定され、ホイール117とともに回転する。マスタシリンダ1の作動により、前記リアブレーキディスクおよびホイール117の回転が抑制される。ホイール117の回転が抑制されることで、少なくともタイヤ118と路面との摩擦により、自動二輪車100は制動される。
【0068】
(作用および効果)
本実施形態において、マスタシリンダ1は、シリンダボディ2、ピストン8、バルブ10、バルブステム9、ピストンスプリング13、およびバルブスプリング14を備えている。シリンダボディ2は、一端側に開口部2aを有し、他端側に閉口した閉口部2bを有している。閉口部2bには、開口部2aよりも小さい径の連通口24が設けられている。開口部2aの口径dと、連通口24の口径dは、図3に図示されている。シリンダボディ2の内部には、シリンダ孔2cが形成され、作動液20が封入される。また、シリンダ孔2cには、シリンダ孔2cの軸方向に摺動自在であるようにピストン8が挿入されている。さらに、シリンダ孔2cには、開閉部材90が配置されている。開閉部材90は、バルブ10とバルブステム9とが一体となった部材である。開閉部材90は、シリンダボディ2の軸方向に延び、一端部がピストン8に当接している。開閉部材90は、ピストン8のシリンダ孔2cに対する摺動に基づきシリンダ孔2cの軸方向を移動する。開閉部材90は、この移動に基づき連通口24を開通もしくは閉塞する。ピストンスプリング13とバルブスプリング14とは、シリンダ孔2cの軸方向に延びるようにシリンダ孔2cに配置される。ピストンスプリング13は、開閉部材90に対し連通口24を開口する方向に付勢する付勢力を発生させる。バルブスプリング14は、開閉部材90に対し連通口24を閉口する方向に付勢する付勢力を発生させる。バルブスプリング14の付勢力は、ピストンスプリング13の付勢力よりも小さい。また、バルブスプリング14は、少なくとも一部がシリンダ孔2cの軸方向に関してピストンスプリング13の一部と重なっている。
【0069】
以上のように、バルブスプリング14の少なくとも一部が、シリンダ孔2cの軸方向においてピストンスプリング13の一部と重なっている。これにより、ピストンスプリング13およびバルブスプリング14の全体のシリンダボディ2の軸方向での長さは、ピストンスプリング13の長さとバルブスプリング14の長さとを足した長さではなく、ピストンスプリング13の長さのみである。そのため、シリンダボディ2の軸方向の長さを短くすることが可能となる。したがって、本実施形態に係るマスタシリンダ1は、シリンダボディ2の軸長を短くすることが可能である。
【0070】
本実施形態において、マスタシリンダ1は、スプリングリテーナ11と、ピストンスプリングリテーナ12bとをシリンダ孔2cに備えている。スプリングリテーナ11は、ピストン8の片側端部に取り付けられ、ピストンスプリング13の片側端を支持している。また、ピストンスプリングリテーナ12bは、シリンダボディ2の閉口部2b側に設けられ、ピストンスプリング13の他端を支持している。ピストンスプリング13は、スプリングリテーナ11とピストンスプリングリテーナ12bとの間に自然長の状態よりも圧縮された状態で配置される。これにより、ピストンスプリング13は、開閉部材90が連通口24を開口する方向に付勢する付勢力を発生させることができる。
【0071】
また、本実施形態において、マスタシリンダ1は、バルブスプリングリテーナ12dとリテーナ部9dとをシリンダ孔2cに備えている。バルブスプリングリテーナ12dは、シリンダ孔2cの軸方向に関してスプリングリテーナ11とピストンスプリングリテーナ12bとの間に設けられている。また、バルブスプリングリテーナ12dは、シリンダ孔2cの径方向に関してピストンスプリング13よりも径方向の内側に設けられている。リテーナ部9dは、シリンダ孔2cの軸方向に関してバルブスプリングリテーナ12dとピストンスプリングリテーナ12bとの間に設けられている。バルブスプリング14は、バルブスプリングリテーナ12dとリテーナ部9dとの間に自然長の状態よりも圧縮された状態で配置される。これにより、バルブスプリング14は、開閉部材90が連通口24を閉口する方向に付勢する付勢力を発生させることができる。
【0072】
また、本実施形態において、ピストンスプリングリテーナ12bとバルブスプリングリテーナ12dとは、ストッパ12に一体式に形成されている。また、ストッパ12は、シリンダボディ2の閉口部2bに固定されている。ストッパ12がシリンダボディ2に対して固定されるため、ピストンスプリング13の一端は、ピストンスプリングリテーナ12bにより確実に支持される。また、バルブスプリング14の一端は、バルブスプリングリテーナ12dにより確実に支持される。そのため、ピストンスプリング13とバルブスプリング14とは、シリンダ孔2cの軸方向に関して安定して作動することができる。
【0073】
また、本実施形態において、リテーナ部9dは、バルブステム9に一体式に形成されている。そのため、バルブステム9にリテーナ部材が別部材として設けられるのに比べ、部品点数を削減することができる。
【0074】
本実施形態に係るマスタシリンダ1は、車両用として用いることができる。マスタシリンダ1は、前述のとおり、シリンダボディ2の軸長を短くすることが可能である。すなわち、前記車両は、シリンダボディ2の軸長を短くすることが可能なマスタシリンダ1を備えることができる。
【0075】
本実施形態に係るマスタシリンダ1は、前記車両においてシリンダボディ2の軸方向が地表面と平行となるような姿勢に配置される。シリンダ孔2cには、作動液20が封入されている。しかし、シリンダボディ2が地表面と平行に配置されると、作動液20をシリンダ孔2cに封入させる際、エア溜まりはシリンダ孔2cの上方に形成されやすい。それに対し、シリンダ孔2cには、吐出口31が設けられている。吐出口31は、作動液20をシリンダ孔2cの外部へ流出させる部位である。もしくは、シリンダ孔2cの外部に存在する作動液20をシリンダ孔2cの内部へ流入させる部位である。吐出口31は、液体室4に設けられている。作動液20は、シリンダ孔2cに封入される際、連通口24より液体室4に流入する。作動液20がシリンダ孔2cに封入される際、シリンダ孔2cにおいて、エア溜まりが形成される場合がある。前記エア溜まりは、液体室4に形成されやすい。そのため、マスタシリンダ1には、シリンダ孔2cの上方、且つ、液体室4が形成される閉口部2b側に吐出口31が設けられる。これにより、前記エア溜まりは、ピストン8が図3(a)の左側から右側へ摺動する際、吐出口31よりシリンダ孔2cの外部へ排出される。そのため、シリンダボディ2には、エアブリード等の部材が設けられる必要がない。シリンダボディ2にエアブリード等の部材が設けられていない場合、マスタシリンダ1の体積および形状は、小型化が図られる。
【0076】
また、本実施形態では、車両のうち、主に自動二輪車100を一例として説明した。自動二輪車100は、四輪車等の他の車両に比べ、前記フロントブレーキ機構または前記リアブレーキ機構を設けるための車体スペースが限定される。一方、本実施形態に係るマスタシリンダ1は、シリンダボディ2の軸長を短くすることが可能である。また、シリンダボディ2には、エアブリード等の部材が設けられていないため、小型化が図られている。したがって、マスタシリンダ1は、自動二輪車100のように限定された車体スペースに設けられる場合、特に有用である。
【0077】
本実施形態において、マスタシリンダ1は、ハンドルバー102とブレーキレバー103との間に配置されている。マスタシリンダ1の内部に配置されたピストン8は、ブレーキレバー103の操作に基づき作動する。つまり、マスタシリンダ1は、操向ハンドル101の非常に限定されたスペースに設けられる。しかし、本実施形態に係るマスタシリンダ1は、シリンダボディ2の軸長を短くすることが可能である。また、シリンダボディ2には、エアブリード等の部材が設けられていないため、小型化が図られている。したがって、マスタシリンダ1は、操向ハンドル101の非常に限定されたスペースに設けられる場合、特に有用である。
【0078】
また、本実施形態において、マスタシリンダ1のシリンダボディ2が延びる方向は、ハンドルバー102が延びる方向から略直角方向を向いている。つまり、マスタシリンダ1のシリンダボディ2が延びる方向は、ハンドルバー102が延びる方向に平行ではない。この場合、シリンダボディ2の軸方向の長さが大きいと、それだけブレーキレバー103がハンドルバー102から離れてしまう。その結果、シリンダボディ2の軸方向の長さが大きいマスタシリンダは、自動二輪車100に乗車するライダーに対しブレーキ操作のフィーリングを損なうおそれがある。もしくは、シリンダボディ2の軸方向の長さが大きいマスタシリンダは、自動二輪車100に乗車するライダーに対しブレーキ操作のフィーリングを確保するため、ブレーキレバー103の形状を限定させる。しかしながら、本実施形態に係るマスタシリンダ1は、シリンダボディ2の軸長を短くすることが可能である。また、シリンダボディ2には、エアブリード等の部材が設けられていないため、小型化が図られている。したがって、マスタシリンダ1は、シリンダボディ2の延びる方向がハンドルバー102の延びる方向から略直角方向を向いている場合、特に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明はマスタシリンダおよびそれを備えた車両に関して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】自動二輪車100の側面図である。
【図2】マスタシリンダ1、および操向ハンドル101の一部を表す図である。
【図3】本実施形態に係るマスタシリンダ1を表す図であって、(a)は側面断面図であり、(b)は(a)におけるA―A線の断面図である。
【図4】ピストン8の断面図である。
【図5】スプリングリテーナ11、バルブ10、バルブステム9、およびストッパ12の断面図である。
【図6】従来のマスタシリンダの断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1 マスタシリンダ
2 シリンダボディ(シリンダ)
2a 開口部
2b 筒奥部
8 ピストン
9 バルブステム
9d リテーナ部(第4のリテーナ)
10 バルブ
11 スプリングリテーナ(第1のリテーナ)
12 ストッパ
12b ピストンスプリングリテーナ(第2のリテーナ)
12d バルブスプリングリテーナ(第3のリテーナ)
13 ピストンスプリング(第1のバネ)
14 バルブスプリング(第2のバネ)
18 シール面
20 作動液
24 連通口
31 吐出口(出力口)
90 開閉部材
100 自動二輪車(車両)
101 操向ハンドル
103 ブレーキレバー



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側を開口する開口部と、他端側を閉口する閉口部を有し、内部に作動液が封入されたシリンダ孔と、
前記閉口部に形成されリザーバと連接するとともに前記シリンダ孔の口径よりも小さい口径を有する連通口が設けられたシリンダと、
前記シリンダ孔に摺動自在に収納されたピストンと、
前記シリンダ孔に配置され、一端部が前記ピストンに接続され、前記ピストンの前記摺動に基づき前記シリンダの軸方向を移動し、前記移動に基づき前記連通口を開閉する開閉部材と、
前記シリンダ孔に配置され、前記開閉部材を前記連通口が開口する方向に付勢する第1のバネと、
前記シリンダ孔に配置され、前記開閉部材を前記連通口が閉口する方向に付勢する第2のバネと、
を備え、
前記第2のバネは、
付勢力が前記第1のバネの付勢力よりも小さく、
少なくとも一部が前記シリンダの軸方向に関して前記第1のバネの一部と重なっている、
マスタシリンダ。
【請求項2】
少なくとも一部が前記ピストンに取り付けられ、前記第1のバネの片側端を支持する第1のリテーナと、
前記シリンダの前記閉口部に設けられ、前記第1のバネの他端を支持する第2のリテーナと、をさらに備え、
前記第1のバネは、前記第1のリテーナと前記第2のリテーナとの間に自然長の状態よりも圧縮された状態で配置される、
請求項1に記載のマスタシリンダ。
【請求項3】
前記シリンダの軸方向に関して前記第1のリテーナと前記第2のリテーナとの間に、且つ、前記シリンダの径方向に関して前記第1のバネよりも径方向の内側に配置され、前記第2のバネの片側端を支持する第3のリテーナと、
前記シリンダの軸方向に関して前記第3のリテーナと前記第2のリテーナとの間、且つ、前記シリンダの径方向に関して前記第1のバネよりも径方向の内側に配置され、前記第2のバネの他端を支持する第4のリテーナと、をさらに備え、
前記開閉部材は、前記シリンダ孔の径方向に関して前記第1のスプリングよりも径方向の内側に配置され、
前記第2のバネは、前記シリンダ孔の径方向に関して前記開閉部材の外側且つ前記第1のバネの内側に設けられ、前記第3のリテーナと前記第4のリテーナとの間に自然長の状態よりも圧縮された状態で配置される、
請求項2に記載のマスタシリンダ。
【請求項4】
前記第2のリテーナと前記第3のリテーナとは一体に形成され、前記シリンダに固定されている、
請求項3に記載のマスタシリンダ。
【請求項5】
前記第4のリテーナは前記開閉部材と一体に形成されている、
請求項3に記載のマスタシリンダ。
【請求項6】
請求項1に記載のマスタシリンダを備えた車両。
【請求項7】
前記シリンダは軸方向が地表面と平行となるような姿勢に配置され、
前記シリンダの内部に設けられ、前記ピストンの前記摺動に基づき前記シリンダの内部より外部へ前記作動液を吐出する出力口をさらに備え、
前記出力口は、前記シリンダの軸方向に関して前記他端側、且つ、上下方向に関して前記シリンダの上側に設けられている、
請求項6に記載の車両。
【請求項8】
自動二輪車である請求項7に記載の車両。
【請求項9】
操向ハンドルを形成するハンドルバーと、
前記ハンドルバーに設けられるブレーキレバーと、をさらに備え、
前記マスタシリンダは前記ハンドルバーと前記ブレーキレバーとの間に配置され、
前記ピストンは前記ブレーキレバーの操作に基づき作動する、
請求項8に記載の自動二輪車。
【請求項10】
前記マスタシリンダは、前記シリンダの軸方向が前記ハンドルバーに対して略直角方向を向くように配置される、
請求項9に記載の自動二輪車。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate