説明

マスタシリンダ装置

【課題】 実用性の高いマスタシリンダ装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明のマスタシリンダ装置50は、筒状をなす筒部176およびそれの前方側を閉塞する閉塞部178を有し、加圧ピストン152の後方に配設された入力ピストン156と、筒部に前方が内挿された状態で第1ハウジング部材158と一体とされた第2ハウジング部材160と、入力ピストンの前進に対して弾性反力を付与する反力発生器250とを備え、加圧ピストンと入力ピストンとの間に第1の入力室R1が、ハウジングの内周面と内筒の外周面との間における入力ピストンの筒部の後端の後方に第2の入力室R2が、それぞれ、高圧源装置58からの作動液が入力されるようにして区画され、各入力室の作動液の圧力に依存する入力ピストンへの後方への付勢力と前方への付勢力とがバランスするように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に設けられたブレーキ装置に作動液を加圧して供給するためのマスタシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダ装置では、一般的に、筒状のハウジング内に、ブレーキ装置に供給される作動液を加圧するための加圧ピストンや、運転者のブレーキ操作によって前進する入力ピストンが、直列的に配置されている。また、各ピストン間や、ピストンとハウジングとの間には、作動液で満たされた液室が形成されている。下記特許文献に記載されたマスタシリンダ装置では、入力ピストンの外周に鍔部が形成されており、その鍔部の後方には、前方への付勢力が入力ピストンに作用するように、高圧源から高圧とされた作動液が入力される液室が設けられている。この液室は、入力ピストンとハウジングとによって区画されており、ブレーキ操作によって入力ピストンが前進している場合でもその液室が区画されているように、入力ピストンは、入力ピストンが前進していない状態でその液室を超えて後方に延び出す部分を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−24098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記マスタシリンダ装置は、入力ピストンが後方に延び出す部分を有しているため、自身の全長が比較的長くなってしまう。その結果、マスタシリンダ装置の車両への搭載においては、比較的大きな空間が必要になるという問題がある。その問題に対処するための改良を始め、マスタシリンダ装置には、他にも改良の余地が多分に存在している。したがって、何らかの改良を施せば、マスタシリンダ装置の実用性を向上させることが可能となる。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、マスタシリンダ装置の実用性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のマスタシリンダ装置は、ハウジング本体と、加圧室が前方に区画される加圧ピストンと、筒状をなす筒部およびそれの前方側を閉塞する閉塞部を有し、加圧ピストンの後方に配設された入力ピストンと、筒部に内挿され、後端部においてハウジング本体に固定された内筒と、入力ピストンの前進に対して弾性反力を付与する反力付与機構とを備え、加圧ピストンと入力ピストンとの間に第1の入力室が、ハウジング本体の内周面と内筒の外周面との間における入力ピストンの筒部の後端の後方に第2の入力室が、それぞれ、高圧源からの作動液が入力されるようにして区画され、各入力室の作動液の圧力に依存する入力ピストンへの後方への付勢力と前方への付勢力とがバランスするように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本マスタシリンダ装置によれば、入力ピストンが、第2の入力室を超えて後方に延び出す部分を有していなくても、第2の入力室は区画されることになる。したがって、本マスタシリンダ装置によれば、入力ピストンの全長を比較的短くすることができ、その結果、マスタシリンダ装置の全長を相当に短くすることができる。そのことによって、本マスタシリンダ装置は実用性の高いものとなっている。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)車輪に設けられて作動液の圧力によって作動するブレーキ装置に、加圧された作動液を供給するためのマスタシリンダ装置であって、
前方側が閉塞された筒状のハウジング本体と、
前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧するための加圧室が自身の前方に区画されるようにして前記ハウジング本体内に配設された加圧ピストンと、
筒状をなす筒部と、その筒部の前方側を閉塞する閉塞部とを有し、前記加圧ピストンの後方において前記ハウジング本体内に配設され、前記閉塞部においてブレーキ操作部材に連結された入力ピストンと、
その入力ピストンの前記筒部に内挿され、後端部において前記ハウジング本体に固定されてそのハウジング本体とともに当該マスタシリンダ装置のハウジングを構成する内筒と、
前記入力ピストンの前進に対して弾性反力を付与する反力付与機構と
を備え、
前記加圧ピストンと前記入力ピストンとの間に、高圧源からの作動液が入力される第1の入力室が、前記ハウジング本体の内周面と前記内筒の外周面との間における前記入力ピストンの前記筒部の後端の後方に、前記高圧源からの作動液が入力される第2の入力室が、それぞれ区画され、
前記第1の入力室の作動液の圧力に依存する前記入力ピストンに対する後方への付勢力と、前記第2の入力室の作動液の圧力に依存する前記入力ピストンに対する前方への付勢力とがバランスするように構成されたマスタシリンダ装置。
【0010】
本マスタシリンダ装置では、入力ピストンに作用する後方への付勢力と前方への付勢力とがバランスしているため、入力ピストンは、2つの入力室の作動液の圧力によっては殆ど移動しないことになる。換言すれば、入力ピストンが移動する際、2つの入力室の作動液の圧力は、その移動には殆ど影響を与えないことになる。そのため、本マスタシリンダ装置では、2つの入力室の作動液の圧力に拘らず、操作力に依存して入力ピストンを前進させることができる。また、その前進に対して反力付与機構は弾性反力を入力ピストンに付与し、運転者は、その弾性反力を操作反力として認識することができる。つまり、反力付与機構は、運転者のブレーキ操作を許容しつつ、その操作に対する反力を発生するストロークシミュレータの一構成要素と考えることができる。なお、入力ピストンに作用する後方への付勢力の大きさと前方への付勢力の大きさとは、厳密に一致している必要はなく、殆ど同じであればよい。これらの力が殆ど同じ大きさであれば、高圧源から高圧とされた作動液が第1の入力室および第2の入力室に入力されても、入力ピストンは殆ど移動しない。一方、加圧ピストンは、第1の入力室の作動液の圧力に依存して移動することができ、入力ピストンの移動に拘らず、高圧源から第1入力室に入力される作動液の圧力に依拠して前進し、加圧室の作動液を加圧することができる。
【0011】
後方への付勢力と前方への付勢力とをバランスさせるためには、例えば、入力ピストンにおいて、第1の入力室の作動液の圧力が作用する第1受圧面積と、第2の入力室の作動液の圧力が作用する第2受圧面積とが略等しくされていればよい。このように構成されたマスタシリンダ装置であれば、高圧源から入力される作動液の圧力によって入力ピストンに作用する後方への付勢力と前方への付勢力とがバランスすることになる。また、第1受圧面積と第2受圧面積とが略等しくされている場合には、入力ピストンの移動の際、第1の入力室の容積変化と第2の入力室の容積変化とは略同じとなる。つまり、一方の入力室から流出する作動液の量は、他方の入力室に流入する作動液の量と略等しくなる。そのため、例えば、第1の入力室と第2の入力室とを連通しておけば、入力ピストンが移動する際、作動液が2つの入力室を往来しつつ、各入力室が容積変化することになる。
【0012】
また、本マスタシリンダ装置によれば、入力ピストンは、大まかには、筒部がハウジング本体の内周面と内筒の外周面とに挟まれた状態で、ハウジング本体内に配設されていると考えることができる。第2の入力室を密閉するためには、例えば、入力ピストンの筒部の外周面がハウジング本体の内周面に摺接し、筒部の内周面が内筒の外周面に摺接していればよい。したがって、本マスタシリンダ装置によれば、入力ピストンが、第2の入力室を超えて後方に延び出す部分を有していなくても、第2の入力室が区画されることになる。そのため、本マスタシリンダ装置によれば、入力ピストンの全長を比較的短くすることができ、また、本マスタシリンダ装置の全長を相当に短くすることができる。
【0013】
なお、本マスタシリンダ装置における反力付与機構は、例えば、後述するような、作動液の満たされた反力室が形成され、その作動液を介して入力ピストンに弾性反力を付与するような機構であってもよいし、入力ピストンに弾性反力を直接付与するスプリング等の弾性体であってもよい。
【0014】
(2)当該マスタシリンダ装置において、
前記入力ピストンの筒部の内周面がシールを介して前記内筒の外周面に摺接しており、 前記シールが前記入力ピストンの筒部の内周面の後端に嵌め込まれている(1)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0015】
本マスタシリンダ装置では、ブレーキ操作によって入力ピストンがハウジング本体内のいずれの位置にある場合でも、筒部の内周面はシールを介して内筒の外周面に摺接している。そのため、内筒の軸線方向の長さは、入力ピストンの最大ストローク、つまり、ブレーキ操作がされていない状態でのシールの位置と、ブレーキ操作によって入力ピストンが最も前進している状態でのシールの位置との差以上とするのがよい。また、本マスタシリンダ装置によれば、上記シールは、入力ピストンの筒部の後端に配置されているため、ブレーキ操作がされていない状態、つまり、入力ピストンが最も後方に位置する状態において、内筒の後端部とシールとの間隔を相当に小さくすることができる。また、そのことによって、内筒の軸線方向の長さを、入力ピストンの最大ストロークと殆ど同じくらいの長さにすることもできる。したがって、本マスタシリンダ装置によれば、内筒の長さを比較的短くすることができ、また、内筒が内挿された入力ピストンの筒部の軸線方向の長さを比較的短くすることもできる。その結果、本マスタシリンダ装置の全長を相当に短くすることができるのである。
【0016】
(3)前記ハウジング本体が、前方側に位置して内径が小さくされた前方小径部と、後方側に位置して内径が大きくされた後方大径部とを有し、
前記入力ピストンが、前記筒部の後端の外周に鍔を有し、
前記閉塞部が前記前方小径部に位置し、前記鍔が前記後方大径部に位置することによって、前記鍔の後方に前記第2の入力室が区画され、前記鍔の前方に作動液で満たされた反力室が区画されており、
当該マスタシリンダ装置が、前記反力室と連通して作動液で満たされる蓄圧室を有してその蓄圧室の作動液を弾性的に加圧する加圧機構を備えており、
前記反力付与機構が、前記反力室と加圧機構とを含んで構成された(1)項または(2)項のいずれか一つに記載のマスタシリンダ装置。
【0017】
本項の態様は、反力付与機構に関して限定を加えた態様である。上記構成によれば、反力室の容積は、入力ピストンが前進すれば減少し、後退すれば増大することとなる。その容積の変化に応じて、反力室の作動液は、反力室と連通する蓄圧室に流入あるいは流出することとなる。また、蓄圧室の作動液の圧力は、加圧機構によって弾性的に加圧されているため、ブレーキ操作によって反力室の作動液が蓄圧室に流入して蓄圧室の容積が増大すると、蓄圧室の作動液の圧力は増大することになる。その圧力は入力ピストンの鍔に作用し、入力ピストンには、後方に向かう力が発生することになる。その力が反力となり、運転者は、ブレーキ操作量の増加に応じて、ブレーキ操作部材からの反力が増加することを実感することができる。なお、上記蓄圧室と加圧機構とは、例えば、ハウジング本体外部に設けられていてもよく、その場合、ストロークシミュレータの主要構成要素がハウジング外部に設けられることになる。
【0018】
(4)当該マスタシリンダ装置が、前記反力室を低圧源に開放するための反力室開放器を備えた(3)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0019】
本マスタシリンダ装置の態様は、高圧源からの高圧の作動液によっては加圧室の作動液を加圧できず、操作力に依存して加圧室の作動液を加圧する場合に好ましい態様となっている。詳しく説明すると、反力室が低圧源に開放されると、加圧機構は作動液を加圧することができなくなり、反力付与機構は機能することができなくなる。したがって、操作力は、加圧機構における作動液の加圧に利用されるのではなく、加圧室における作動液の加圧に利用されることになる。そのため、操作力を有効に利用して加圧室の作動液を加圧することができ、操作力に依存して比較的大きな液圧制動力を発生させることができるのである。なお、操作力に依存して加圧室の作動液を加圧するためには、例えば、入力ピストンが前進した場合、入力ピストンの前端が加圧ピストンの後端に当接するように本マスタシリンダ装置が構成されていればよい。その当接によって、入力ピストンは直に加圧ピストンを前進させることが可能となる。
【0020】
(5)前記高圧源の作動が電気的に制御されるものであって、
前記反力室開放器が、電気的失陥時において前記反力室を前記低圧源に開放するように構成された(4)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0021】
上記構成によれば、電気的失陥によって高圧源から高圧の作動液が入力されない場合に、反力付与機構が機能しなくなる。したがって、高圧源に依存して加圧室の作動液を加圧できない場合に、操作力を有効に利用して加圧室の作動液を加圧することができる。
【0022】
(6)前記反力室開放器が、前記反力室と低圧源とを連通するための反力室連通路と、その反力室連通路に設けられた常開の電磁式開閉弁とを含んで構成された(4)項または(5)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0023】
本項の態様は、電気的失陥時に反力室を低圧源に開放する手段に関して限定を加えた態様である。上記構成によれば、電気的失陥時に反力室は自動的に低圧源に開放されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】請求可能発明の実施例のマスタシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを示す模式図である。
【図2】請求可能発明の実施例のマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図3】図2に示す液圧ブレーキシステムにおいて、高圧源で高圧とされた作動液を調圧する増減圧装置を示す図である。
【図4】図2に示すマスタシリンダ装置に採用される反力付与機構の加圧機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記の実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0026】
≪車両の構成≫
図1に、実施例のマスタシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを模式的に示す。車両には、動力源として、エンジン10と電気モータ12とが搭載されており、また、エンジン10の出力により発電を行う発電機14も搭載されている。これらエンジン10,電気モータ12,発電機14は、動力分割機構16によって互いに接続されている。この動力分割機構16を制御することで、エンジン10の出力を、発電機14を作動させるための出力と、4つの車輪18のうちの駆動輪となるものを回転させるための出力とに振り分けたり、電気モータ12の出力を駆動輪に伝達させたりすることができる。つまり、動力分割機構16は、減速機20および駆動軸22を介して駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として機能するのである。なお、「車輪18」等のいくつかの構成要素は、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付して使用する。この表記に従えば、本車両における駆動輪は、車輪18RL,および車輪18RRである。
【0027】
電気モータ12は、交流同期電動機であり、交流電力によって駆動される。車両にはインバータ24が備えられており、インバータ24は、電力を、直流から交流、あるいは、交流から直流に変換することができる。したがって、インバータ24を制御することで、発電機14によって出力される交流の電力を、バッテリ26に蓄えるための直流の電力に変換させたり、バッテリ26に蓄えられている直流の電力を、電気モータ12を駆動するための交流の電力に変換することができる。発電機14は、電気モータ12と同様に、交流同期電動機としての構成を有している。つまり、本実施例の車両では、交流同期電動機が2つ搭載されていると考えることができ、一方が、電気モータ12として、主に駆動力を出力するために使用され、他方が、発電機14として、主にエンジン10の出力により発電するために使用されている。
【0028】
また、電気モータ12は、車両の走行に伴う車輪18RL,18RRの回転を利用して、発電(回生発電)を行うことも可能である。このとき、車輪18RL,18RRに連結される電気モータ12では、電力が発生させられるとともに、電気モータ12の回転を制止するための抵抗力が発生する。したがって、その抵抗力を、車両を制動する制動力として利用することができる。つまり、電気モータ12は、電力を発生させつつ車両を制動するための回生ブレーキの手段として利用される。したがって、本車両は、回生ブレーキをエンジンブレーキや後述する液圧ブレーキとともに制御することで、制動されるのである。一方、発電機14は主にエンジン10の出力により発電をするが、インバータ24を介してバッテリ26から電力が供給されることで、電気モータとしても機能する。
【0029】
本車両において、上記のブレーキの制御や、その他の車両に関する各種の制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって行われる。複数のECUのうち、メインECU30は、それらの制御を統括する機能を有している。例えば、ハイブリッド車両は、エンジン10の駆動および電気モータ12の駆動によって走行することが可能とされているが、それらエンジン10の駆動と電気モータ12の駆動は、メインECU30によって総合的に制御される。具体的に言えば、メインECU30によって、エンジン10の出力と電気モータ12による出力の配分が決定され、その配分に基づき、エンジン10を制御するエンジンECU32、電気モータ12及び発電機14を制御するモータECU34に各制御についての指令が出力される。
【0030】
メインECU30には、バッテリ26を制御するバッテリECU36も接続されている。バッテリECU36は、バッテリ26の充電状態を監視しており、充電量が不足している場合には、メインECU30に対して充電要求指令を出力する。充電要求指令を受けたメインECU30は、バッテリ26を充電させるために、発電機14による発電の指令をモータECU34に出力する。
【0031】
また、メインECU30には、ブレーキを制御するブレーキECU38も接続されている。当該車両には、運転者によって操作されるブレーキ操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)が設けられており、ブレーキECU38は、その操作部材の操作量であるブレーキ操作量(以下、単に「操作量」という場合がある)と、その操作部材に加えられる運転者の力であるブレーキ操作力(以下、単に「操作力」という場合がある)との少なくとも一方に基づいて目標制動力を決定し、メインECU30に対してこの目標制動力を出力する。メインECU30は、モータECU34にこの目標制動力を出力し、モータECU34は、その目標制動力に基づいて回生ブレーキを制御するとともに、それの実行値、つまり、発生させている回生制動力をメインECU30に出力する。メインECU30では、目標制動力から回生制動力が減算され、その減算された値によって、車両に搭載される液圧ブレーキシステム40において発生すべき目標液圧制動力が決定される。メインECU30は、目標液圧制動力をブレーキECU38に出力し、ブレーキECU38は、液圧ブレーキシステム40が発生させる液圧制動力が目標液圧制動力となるように制御するのである。
【0032】
≪液圧ブレーキシステムの構成≫
上述のように構成された本ハイブリッド車両に搭載される液圧ブレーキシステム40について、図2を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、「前方」は図2における左方、「後方」は図2における右方をそれぞれ表している。また、「前側」、「前端」、「前進」や、「後側」、「後端」、「後進」等も同様に表すものとされている。以下の説明において[ ]の文字は、センサ等を図面において表わす場合に用いる符号である。
【0033】
図2に、本車両が備える液圧ブレーキシステム40を、模式的に示す。液圧ブレーキシステム40は、作動液を加圧するためのマスタシリンダ装置50を有している。車両の運転者は、マスタシリンダ装置50に連結された操作装置52を操作することでマスタシリンダ装置50を作動させることができ、マスタシリンダ装置50は、自身の作動によって作動液を加圧する。その加圧された作動液は、マスタシリンダ装置50に接続されるアンチロック装置54を介して、各車輪に設けられたブレーキ装置56に供給される。ブレーキ装置56は、加圧された作動液の圧力(以下、「出力圧」と呼ぶ)、所謂マスタ圧に依存して、車輪18の回転を制止するための力、すなわち、液圧制動力を発生させる。
【0034】
液圧ブレーキシステム40は、高圧源として作動液の圧力を高圧にするための高圧源装置58を有している。その高圧源装置58は、増減圧装置60を介して、マスタシリンダ装置50に接続されている。増減圧装置60は、高圧源装置58によって高圧とされた作動液の圧力(以下、「高圧源圧」と呼ぶ)を、その圧力以下の圧力に制御する装置であり、マスタシリンダ装置50へ入力される作動液の圧力(以下、「入力圧」と呼ぶ)を増加および減少させる。つまり、入力圧は、高圧源圧が制御された圧力であって、制御高圧源圧と呼ぶこともできる。マスタシリンダ装置50は、その入力圧の増減によって作動可能に構成されている。また、液圧ブレーキシステム40は、低圧源として作動液を大気圧下で貯留するリザーバ62を有している。リザーバ62は、マスタシリンダ装置50,増減圧装置60,高圧源装置58の各々に接続されている。
【0035】
操作装置52は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル70と、ブレーキペダル70に連結されるオペレーションロッド72とを含んで構成されている。ブレーキペダル70は、上端部において、車体に回動可能に保持されている。オペレーションロッド72は、後端部においてブレーキペダル70に連結され、前端部においてマスタシリンダ装置50に連結されている。また、操作装置52は、ブレーキペダル70の操作量を検出するための操作量センサ[SP]74と、操作力を検出するための操作力センサ[FP]76とを有している。操作量センサ74および操作力センサ76は、ブレーキECU38に接続されており、ブレーキECU38は、それらのセンサの検出値を基にして、目標制動力を決定する。
【0036】
ブレーキ装置56は、液通路80,82を介してマスタシリンダ装置50に接続されている。それら液通路80,82は、マスタシリンダ装置50によって出力圧に加圧された作動液をブレーキ装置56に供給するための液通路である。液通路80には出力圧センサ[Po]84(所謂マスタ圧センサ)が設けられている。詳しい説明は省略するが、各ブレーキ装置56は、ブレーキキャリパと、そのブレーキキャリパに取り付けられたホイールシリンダ(ブレーキシリンダ)およびブレーキパッドと、各車輪とともに回転するブレーキディスクとを含んで構成されている。液通路80,82は、アンチロック装置54を介して、各ブレーキ装置56のブレーキシリンダに接続されている。ちなみに、液通路80が、後輪側のブレーキ装置56RL,56RRに繋がるようにされており、また、液通路82が、前輪側のブレーキ装置56FL,56FRに繋がるようにされている。ブレーキシリンダは、マスタシリンダ装置50によって加圧された作動液の出力圧に依存して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける。その押し付けによって発生する摩擦によって、各ブレーキ装置56では、車輪の回転を制止する液圧制動力が発生し、車両は制動されるのである。
【0037】
アンチロック装置54は、一般的な装置であり、簡単に説明すれば、各車輪に対応する4対の開閉弁を有している。各対の開閉弁のうちの1つは増圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、開弁状態とされており、また、もう1つは減圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、閉弁状態とされている。車輪がロックした場合に、増圧用開閉弁が、マスタシリンダ装置50からブレーキ装置56への作動液の流れを遮断するとともに、減圧用開閉弁が、ブレーキ装置56からリザーバへの作動液の流れを許容して、車輪のロックを解除するように構成されている。
【0038】
高圧源装置58は、リザーバ62から作動液を吸込んでその作動液の液圧を増加させる液圧ポンプ90と、増圧された作動液が溜められるアキュムレータ92とを含んで構成されている。ちなみに、液圧ポンプ90は電動のモータ94によって駆動される。また、高圧源装置58は、高圧とされた作動液の圧力を検出するための高圧源圧センサ[Ph]96を有している。ブレーキECU38は、高圧源圧センサ96の検出値を監視しており、その検出値に基づいて、液圧ポンプ90は制御駆動される。この制御駆動によって、高圧源装置58は、常時、設定された圧力以上の作動液を増減圧装置60に供給する。
【0039】
増減圧装置60は、自身に導入される作動液の圧力に応じて作動液を調圧する調圧弁装置100と、高圧源装置58に繋がれる増圧用リニア弁102と、リザーバ62に繋がれる減圧用リニア弁104とを有している。調圧弁装置100は、それら増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104に繋がれており、増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104の作動によって作動液を調圧し、その作動液をマスタシリンダ装置50に供給することができる。
【0040】
調圧弁装置100は、図3に示すように、両端が塞がれた概して円筒形状のハウジング110と、そのハウジング110内に配設された円柱状の第1プランジャ112と、第1プランジャ112の下方に配設された円柱状の第2プランジャ114と、第1プランジャ112の上方に配設された円筒状の調圧筒116とを有している。これら第1プランジャ112,第2プランジャ114,調圧筒116は、それぞれ、ハウジング110に摺動可能に嵌合されている。ハウジング110の内周には、直径がいくつかの異なる大きさとされることで段差面が形成されており、概して、上方へ向かうほどその直径は大きくなっている。また、第1プランジャ112,第2プランジャ114,調圧筒116の外周には、それぞれ、直径がいくつかの異なる大きさとされることで段差面が形成されている。調圧筒116には、自身を軸線方向および径方向に貫く貫通穴118が設けられており、上端面,下端面,側面の各々に、貫通穴118の開口が設けられている。調圧筒116の下端面に設けられた開口には、第1プランジャ112の上端部が着座可能となっている。一方、調圧筒116の上端面に設けられた開口には、ハウジング110の上端面に支持されるピン120が嵌め込まれており、調圧筒116は、ピン120に対して移動可能となっている。また、調圧筒116の上方には、調圧筒116のハウジング110への当接を防ぐ環状の緩衝ゴム122が設けられている。第1プランジャ112と調圧筒116との間には、圧縮ばねであるスプリング124が設けられており、そのスプリング124によって、第1プランジャ112と調圧筒116とは互いに離間するように付勢されている。調圧筒116とハウジング110との間にも、圧縮ばねであるスプリング126が設けられており、そのスプリング126によって、調圧筒116は下方に付勢されている。
【0041】
ハウジング110の内部には、ハウジング110の内周面や端面と、第1プランジャ112,第2プランジャ114,調圧筒116の各々の外周面や端面とによって、複数の液室が形成されている。具体的には、第2プランジャ114の下端面とハウジング110の内底面との間には、第1液室130が区画されており、また、第2プランジャ114の上端面と第1プランジャ112の下端面との間には、第2液室132が区画されている。調圧筒116の上部の外径はハウジング110の内径より小さくされており、調圧筒116とハウジング110との間には、第3液室134が区画されている。また、調圧筒116の下部の外径はハウジング110の内径より僅かに小さくされており、調圧筒116とハウジング110との間には、第4液室136が区画されている。さらに、第1プランジャ112上部の外周面と、調圧筒116の下端面と、ハウジング110の内周面とによって第5液室138が区画されている。
【0042】
これらの液室には、それぞれハウジング110に設けられた連通孔を介して外部に連通しており、各液室の作動液は、所定の圧力となっている。具体的には、第1液室130は、液通路80から分岐する液通路に接続されており、第1液室130には、マスタシリンダ装置50によって出力圧とされた作動液が供給される。第2液室132は、増圧リニア弁102および減圧用リニア弁104に繋がっており、第2液室132の作動液は、増圧リニア弁102および減圧用リニア弁104によって調整された圧力となっている。第4液室136は、高圧源装置58に繋がっており、第4液室136の作動液は高圧源圧となっている。第5液室138はリザーバ62に繋がっており、第5液室138の作動液の圧力は大気圧となっている。また、第3液室134の作動液は、後述するように、調圧弁装置100の作動によって圧力が調整されることになる。また、第3液室134は、マスタシリンダ装置50に繋がっており、マスタシリンダ装置50には、その調整された圧力の作動液が入力される。つまり、第3液室134の作動液の圧力は、マスタシリンダ装置50への入力圧となっている。
【0043】
第3液室134の作動液の圧力は、通常、第2液室132に供給される作動液の圧力(以下、「制御用液圧」という場合がある)に応じて調整される。制御用液圧は、増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104への電力が制御されることで増減させられるようになっている。増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104への電力の供給がされていない場合、増圧用リニア弁102は閉弁されるとともに減圧用リニア弁104は開弁されており、制御用液圧は大気圧となる。減圧用リニア弁104に設定された範囲における最大電流を供給し、増圧用リニア弁102への電力を制御すれば、減圧用リニア弁104が閉弁された状態で増圧用リニア弁102の開弁圧が制御される。この際、制御用液圧は、増圧用リニア弁102への電力の増加に応じて増加させられる。一方、増圧用リニア弁102への電力の供給をせず、減圧用リニア弁104への電力を制御すれば、増圧用リニア弁102が閉弁された状態で減圧用リニア弁104の開弁圧が制御される。この際、制御用液圧は、減圧用リニア弁104への電力の減少に応じて減少させられる。
【0044】
上述のように制御用液圧が増加させられると、第1プランジャ112は、コイルスプリング124の弾性力に抗して上方に移動し、調圧筒116の貫通穴118の下端の開口(以下、「第5液室側開口」という場合がある)に着座する。さらに第1プランジャ112が上方へ移動すると、調圧筒116も上方に移動し、調圧筒116の外周面がハウジング110に形成された段差面から離隔する。そのため、第4液室136から第3液室134への作動液の流れが許容され、第3液室の作動液の圧力が増加する。また、制御用液圧が減少させられると、第1プランジャ112が第5液室側開口に着座する状態で、調圧筒116の外周面がハウジング110に形成された段差面に着座する。さらに制御用液圧が減少させられると、第1プランジャ112が第5液室側開口から離隔し、第3液室134は第5液室138を介してリザーバ62に連通する。
【0045】
また、調圧弁装置100は、増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104に電力の供給がされていない場合に、第1液室130の作動液の圧力、つまり、マスタシリンダ装置50の作動による出力圧に依存して、第3液室134の作動液の圧力を増減させることが可能となっている。つまり、第1液室130の作動液の圧力が増加すると、第2プランジャ114は上方に移動するため、第1プランジャ112も上方へ移動させられる。また、第1液室130の作動液の圧力が減少すれば、第2プランジャ114は下方に移動し、第1プランジャ112も下方へ移動する。したがって、第1液室130の作動液の圧力の増減に伴って、前述のように、第3液室134の作動液の圧力が増減されることになる。つまり、調圧弁装置100は、出力圧をパイロット圧として利用して作動することが可能となっている。また、調圧弁装置100は、パイロット圧に基づいて、増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104に電力が供給されている場合と同様に、第3液室134の作動液の圧力を調整することが可能とされている。
【0046】
≪マスタシリンダ装置の構成≫
マスタシリンダ装置50は、マスタシリンダ装置50の筐体であるハウジング150と、ブレーキ装置56に供給する作動液を加圧する第1加圧ピストン152および第2加圧ピストン154と、運転者の操作が操作装置52を通じて入力される入力ピストン156とを含んで構成されている。なお、図2は、マスタシリンダ装置50が動作していない状態、つまり、ブレーキ操作がされていない状態を示している。ちなみに、一般的なマスタシリンダ装置がそうであるように、本マスタシリンダ装置50も、内部に作動液が収容されるいくつかの液室や、それらの液室間,それらの液室と外部とを連通させるいくつかの連通路が形成されており、それらの液密を担保するため、構成部材間には、いくつかのシールが配設されている。それらのシールは一般的なものであり、明細書の記載の簡略化に配慮し、特に説明すべきものでない限り、それの説明は省略するものとする。
【0047】
ハウジング150は、主に、第1ハウジング部材158と第2ハウジング部材160とから構成されている。第1ハウジング部材158は、前端部が閉塞された概して円筒形状とされており、後端部の外周にはフランジ162が形成され、そのフランジ162において車体に固定されている。また、第1ハウジング部材158では、前方側に位置して内径の概して小さい部分が小内径部164とされており、後方側に位置して内径の概して大きい大内径部166とされている。
【0048】
第2ハウジング部材160は概して円筒形状とされており、前方側に位置して外径の概して小さい部分が小外径部168とされており、後方側に位置して内径の概して大きい部分が大外径部170とされている。第2ハウジング部材160は、小外径部168が第1ハウジング部材158の大内径部166内に位置する状態で、かつ、大外径部170が大内径部166の後端に設けられた段差部に嵌め込まれた状態で、第1ハウジング部材158と一体となっている。
【0049】
第1加圧ピストン152と第2加圧ピストン154とは、それぞれ、後端部が塞がれた有底円筒形状をなしており、第1ハウジング部材158の小内径部164に摺動可能に嵌め合わされている。第1加圧ピストン152は、第2加圧ピストン154の後方に配設されている。第1加圧ピストン152の前方で第2加圧ピストン154との間には、2つの後輪に設けられたブレーキ装置56RL,RRに供給される作動液を加圧するための第1加圧室R1が区画形成されており、また、第2加圧ピストン154の前方には、2つの前輪に設けられたブレーキ装置56FL,FRに供給される作動液を加圧するための第2加圧室R2が区画形成されている。第1加圧室R1内,第2加圧室R2内には、それぞれ、圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)172、174が配設されており、それらスプリングによって、第1加圧ピストン152,第2加圧ピストン154はそれらが互いに離間する方向に付勢されつつ、後方に向かうように付勢されている。
【0050】
入力ピストン156は、筒状の円筒部176と、その円筒部176の前方を塞ぐ閉塞部178とを有している。また、入力ピストン156には、円筒部176の後端の外周において、鍔180が形成されている。この入力ピストン156には、前方の外周面にシール182、鍔180の外周にシール184、内周面の後端にシール186が嵌め込まれており、ハウジング150の内部に摺動可能な状態で配設されている。具体的には、入力ピストン156は、シール182が第1ハウジング部材158の小内径部164の内周面に摺接し、シール184が大内径部166の内周面に摺接し、シール186が第2ハウジング部材160の小外径部168の外周面に摺接した状態で、ハウジング150に嵌っている。この状態で、第2ハウジング部材160の小外径部168は、筒部として、入力ピストン156の円筒部176に内挿された状態となっている。そのため、入力ピストン156の円筒部176は、第1ハウジング部材158の大内径部166の内周面と、第2ハウジング部材160の小外径部168の外周面とに挟まれた状態となっている。
【0051】
このようにマスタシリンダ装置50が構成された状態で、マスタシリンダ装置50内には、高圧源装置58からの圧力が入力される2つの液室が形成されている。一方は、第1加圧ピストン152の後端面と入力ピストン156の前端面との間に区画形成されている液室(以下、「第1入力室」という場合がある)R3であり、他方は、入力ピストン156の鍔180の後端面と、第2ハウジング部材160の小外径部168と大外径部170との境に形成された段差面との間に区画形成されている液室(以下、「第2入力室」という場合がある)R4である。ちなみに、第2入力室R4は、図2では、ほとんど潰れた状態で示されている。
【0052】
なお、入力ピストン156は、第1受圧面積、つまり、第1入力室R3の作動液の圧力が作用する前端面の受圧面積と、第2受圧面積、つまり、第2入力室R4の作動液の圧力が作用する鍔180の後端面の受圧面積とが略等しくなるように形成されている。また、入力ピストン156の鍔180の前端面と、第1ハウジング部材158の小内径部164と大内径部166との境に形成された段差面との間には、環状の液室(以下「反力室」という場合がある)R5が区画形成されている。
【0053】
入力ピストン156の閉塞部178の後方には、ブレーキペダル70の操作力を入力ピストン156に伝達すべく、また、ブレーキペダル70の操作量に応じて入力ピストン156を進退させるべく、オペレーションロッド72の前端部が連結されている。なお、入力ピストン156は、鍔180が第2ハウジング部材160の段差面において係止されることで、後退が制限されている。また、オペレーションロッド72には、円板状のスプリングシート188が付設されており、このスプリングシート188と第2ハウジング部材160との間には圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)190が配設されており、このリターンスプリング190によって、オペレーションロッド72は後方に向かって付勢されている。
【0054】
第1加圧室R1は、開口が出力ポートとなる連通孔200を介して、アンチロック装置54に繋がる液通路80と連通しており、第1加圧ピストン152に設けられた連通孔202および開口がドレインポートとなる連通孔204を介して、リザーバ62に連通可能とされている。一方、第2加圧室R2は、開口が出力ポートとなる連通孔206を介して、アンチロック装置54に繋がる液通路82と連通しており、第2加圧ピストン154に設けられた連通孔208および開口がドレインポートとなる連通孔210を介して、リザーバ62に連通可能とされている。
【0055】
第1ハウジング部材158の内径は、第1加圧ピストン152の後方の部分が位置する部分において、第1加圧ピストン152の外径よりも若干大きくされている。そのため、第1ハウジング部材158の内周面と第1加圧ピストン152の外周面との間には、ある程度の流路面積を有し、第1入力室R3と繋がる液通路212が形成されている。第1ハウジング部材158には、一端が外部に開口して他端が液通路212に開口する連通孔214が形成されている。したがって、第1入力室R3は液通路212,連通孔214を介して外部に連通している。また、第1ハウジング部材158には、一端が外部に開口して他端が第2入力室R4に開口する連通孔216が形成されている。したがって、第2入力室R4は、連通孔216を介して外部に連通している。さらに、第1ハウジング部材158には、一端が外部に開口して他端が反力室R5に開口する連通孔218が形成されている。したがって、反力室R5は、連通孔218を介して外部に連通している。
【0056】
このように連通孔と液通路とが形成されたマスタシリンダ装置50において、連通孔214には、一端が増減圧装置60、詳しくは、調圧弁装置100の第3液室134に繋げられた連通路220の他端が接続されている。また、連通孔216には、その連通路220から分岐する液通路の一端が接続されている。つまり、第1入力圧R3と第2入力室R4とは、連通路220を介して互いに連通している。したがって、第1入力室R3および第2入力室R4には、調圧弁装置100によって調整された圧力の作動液が入力される。なお、連通路220の途中には、、第1入力室R3の作動液の圧力を検出するための入力圧センサ[Pi]224が設けられている。
【0057】
連通孔218には、リザーバ62に一端が接続されている外部連通路226の他端が接続されている。その外部連通路226の途中には、電磁式の開閉弁228が設けられており、反力室R5はリザーバ62に連通可能となっている。なお、開閉弁228は、非励磁状態で開弁状態となる常開弁とされており、通常、閉弁状態とされている。このように、マスタシリンダ装置50では、外部連通路226を含んで反力室連通路が形成されており、その外部連通路226と開閉弁228とを含んで、反力室R5を低圧源に開放するための反力室開放器が構成されている。また、外部連通路226の連通孔218と開閉弁228との間には、反力室R5内の作動液が流出入する反力発生器250が設けられている。
【0058】
図4は、反力発生器250の断面図である。反力発生器250は、筐体であるハウジング252と、そのハウジング252内部に配置されたピストン254および圧縮コイルスプリング256を含んで構成されている。ハウジング252は、両端が閉塞された円筒形状とされている。ピストン254は、円板状とされており、ハウジング252の内周面に摺動可能に配設されている。スプリング256は、それの一端がハウジング252の内底面に支持されており、他端がピストン254の一端面に支持されている。したがって、ピストン254は、スプリング256によってハウジング252に弾性的に支持されている。また、ハウジング252の内部には、ピストン254の他端面とハウジング252とによって、蓄圧室R6が区画形成されている。つまり、蓄圧室R6の作動液はスプリング256によって弾性的に加圧されており、反力発生器250は、蓄圧室R6の作動液を弾性的に加圧する加圧機構として機能する。また、ハウジング252には、一端が蓄圧室R6に開口し、他端が連結ポートとされた連通孔258が設けられている。その連通孔258の連結ポートには、外部連通路226から分岐する液通路が接続されている。したがって、蓄圧室R6は反力室R5に連通しており、反力室R5内の作動液も、圧縮コイルスプリング256によって弾性的に加圧可能とされている。したがって、反力発生器250と反力室R5とを含んで、入力ピストン156の前進に対して弾性反力を付与する反力付与機構が構成されていると考えることができ、その反力付与機構は、運転者のブレーキ操作を許容し、かつ、その操作に対する反力を発生するストロークシミュレータの構成要素と考えることができる。
【0059】
なお、本マスタシリンダ装置50に採用される反力発生機構250は、所謂ダイアフラム式の反力発生機構であってもよい。つまり、蓄圧室R6がピストン254の代わりにダイアフラムによって区画されており、作動液がそのダイアフラムを介して加圧機構によって加圧されるような反力発生機構を採用することも可能である。
【0060】
≪マスタシリンダ装置の作動≫
以下にマスタシリンダ装置50の作動について説明する。通常時、つまり、液圧ブレーキシステム40が正常に作動することができる場合、開閉弁228は励磁されて、閉弁させられている。したがって、運転者によってブレーキペダル70の踏込操作が開始され、操作力によって入力ピストン156が前進すると、反力室R5内の作動液が反力発生器250の蓄圧室R6へと流入する。その前進に応じて蓄圧室R6の容積が増加するため、スプリング256の弾性力が増加する。つまり、蓄圧室R6および反力室R5の作動液の圧力が上昇する。この作動液の圧力は、入力ピストン156の鍔180に作用し、入力ピストン156の前進、つまり、ブレーキ操作に対する操作反力となる。したがって、反力発生器250は、反力室R5の作動液を加圧することができ、入力ピストン156を後方へと向かわせる力、つまり、ブレーキ操作に対して反力を付与する反力付与機構とされている。
【0061】
このようにして入力ピストン156が移動する際、入力ピストン156では、上記第1受圧面積と第2受圧面積とが略等しくされているため、高圧源装置58から入力される作動液の圧力によって入力ピストン156に作用する後方への付勢力と前方への付勢力とがバランスすることになる。したがって、第1入力室R3の作動液の圧力と第2入力室R4の作動液の圧力とによっては、入力ピストン156は殆ど移動させられない。したがって、操作力は、第1加圧室R1および第2加圧室R2内の作動液の加圧には利用されず、反力発生器250における弾性反力の発生に専ら利用されることになるため、運転者は、殆どその弾性反力だけを操作反力として感じることになる。また、第1入力室R3の作動液と第2入力室R4の作動液とは、連通路220を介して連通しているため、入力ピストン156の移動の際、第1入力室R3の容積変化と第2入力室R4の容積変化とは略同じとなる。つまり、一方の入力室から流出する作動液の量は、他方の入力室に流入する作動液の量と略等しくなる。そのため、入力ピストン156が移動する際、作動液は2つの入力室を往来しつつ、各入力室が容積変化することになる。
【0062】
上記ブレーキ操作の途中で液圧制動力を発生させるには、高圧源装置58からの作動液が第1入力室R3に入力されればよい。前述のように、本マスタシリンダ装置50の搭載されている車両では、回生ブレーキによって制動力が発生するため、目標制動力が回生制動力を上回ると目標液圧制動力が決定され、その目標液圧制動力に応じて、増減圧装置60で高圧源装置58からの作動液の圧力が調整されて、第1入力室R3に調整された圧力の作動液が導入される。マスタシリンダ装置50では、専らその作動液の圧力に依存して第1加圧ピストン152が前進して第1加圧室R1内の作動液を加圧し、その作動液の圧力に依存して、第2加圧ピストン154も前進して第2加圧室R2内の作動液を加圧する。各ブレーキ装置56には、アンチロック装置54を介して加圧された作動液が供給され、各ブレーキ装置56では液圧制動力が発生する。なお、ブレーキECU38は、入力圧センサ224の検出値を監視しており、増減圧装置60は、その検出値が目標液圧制動力に応じた入力圧となるように制御される。
【0063】
次に、電気的失陥のため、液圧ブレーキシステム40に電力が供給されていない状況下におけるマスタシリンダ装置50の作動について説明する。電気的失陥の場合、高圧源装置60の液圧ポンプ90は作動できず、また、増減圧装置60の増圧リニア弁102および減圧リニア弁104も作動することはできない。しかしながら、入力ピストン156の前端面が第1加圧ピストン152の後端面に当接すれば、操作力に依存して第1加圧ピストン152を前進させることができる。したがって、マスタシリンダ装置50は、操作力に専ら依存して加圧室R1,R2の作動液を加圧することができる。また、電気的失陥の場合、開閉弁228は励磁せずに開弁している。つまり、反力室R5はリザーバ62に連通しているため、反力発生器250は、運転者によってブレーキ操作に対する操作反力を発生させることはできない。したがって、操作力が反力室R5および蓄圧室R6の作動液の加圧に利用されないため、操作力が加圧室R1,R2の作動液の加圧に有効に利用されることになる。そのため、操作力に依存して比較的大きな液圧制動力を発生させることができる。なお、操作力によって加圧室R1,R2の作動液を加圧する場合、運転者は、主に、加圧室R1,R2内の作動液の圧力による反力を操作反力として実感することができる。また、このように操作力によって作動液を加圧する場合でも、前述のように、調圧弁装置100は、出力圧をパイロット圧として利用して作動することができる。そのため、アキュムレータ92に増圧された作動液が残されている場合には、調圧弁装置100は、その作動液を調圧するように作動することができ、マスタシリンダ装置50には、調圧弁装置100によって調整された圧力の作動液が供給されることになる。
【0064】
なお、このように入力ピストン156が第1加圧ピストン152に接しつつ前進した際に、入力ピストン156は最も前進する状態となる。その状態において、シール186は、第2ハウジング部材160の小外径部168の前端近くの外周面に摺接する位置まで前進する。したがって、第2ハウジング部材160の小外径部168の軸線方向の長さは、入力ピストン156の最大ストローク、つまり、ブレーキ操作がされていない状態でのシール186の位置と、ブレーキ操作によって入力ピストン156が最も前進している状態でのシール186の位置との差よりも若干長い程度とされている。つまり、本マスタシリンダ装置50では、第2ハウジング部材160の小外径部168の長さが比較的短くなっている。また、入力ピストン156の移動において、小外径部168が出入する円筒部176の軸線方向の長さは、小外径部168の長さと同程度とされているため、円筒部176の長さも比較的短くなっている。その結果、本マスタシリンダ装置50の全長は相当に短くなっている。
【0065】
また、本マスタシリンダ装置50では、入力ピストン156が最も後方に位置している場合であっても、入力ピストン156は第2入力室R4を超えて後方に延び出す部分を有していないため、入力ピストン156の全長が比較的短くなっている。そのため、マスタシリンダ装置50の全長も相当に短くなっている。
【符号の説明】
【0066】
50:マスタシリンダ装置 56:ブレーキ装置 58:高圧源装置(高圧源) 62:リザーバ(低圧源) 70:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材) 152:第1加圧ピストン(加圧ピストン) 156:入力ピストン 158:第1ハウジング部材(ハウジング本体) 164:小内径部(前方小径部) 166:大内径部(後方大径部) 168:小外径部(内筒) 176:円筒部(筒部) 178:閉塞部 180:鍔 186:シール 226:外部連通路(反力室連通路) 228:電磁式開閉弁 250:反力発生器(加圧機構) 256:圧縮コイルスプリング(加圧機構) R1:第1加圧室(加圧室) R3:第1入力室(第1の入力室) R4:第2入力室(第2の入力室) R5:反力室(反力付与機構) R6:蓄圧室


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に設けられて作動液の圧力によって作動するブレーキ装置に、加圧された作動液を供給するためのマスタシリンダ装置であって、
前方側が閉塞された筒状のハウジング本体と、
前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧するための加圧室が自身の前方に区画されるようにして前記ハウジング本体内に配設された加圧ピストンと、
筒状をなす筒部と、その筒部の前方側を閉塞する閉塞部とを有し、前記加圧ピストンの後方において前記ハウジング本体内に配設され、前記閉塞部においてブレーキ操作部材に連結された入力ピストンと、
その入力ピストンの前記筒部に内挿され、後端部において前記ハウジング本体に固定されてそのハウジング本体とともに当該マスタシリンダ装置のハウジングを構成する内筒と、
前記入力ピストンの前進に対して弾性反力を付与する反力付与機構と
を備え、
前記加圧ピストンと前記入力ピストンとの間に、高圧源からの作動液が入力される第1の入力室が、前記ハウジング本体の内周面と前記内筒の外周面との間における前記入力ピストンの前記筒部の後端の後方に、前記高圧源からの作動液が入力される第2の入力室が、それぞれ区画され、
前記第1の入力室の作動液の圧力に依存する前記入力ピストンに対する後方への付勢力と、前記第2の入力室の作動液の圧力に依存する前記入力ピストンに対する前方への付勢力とがバランスするように構成されたマスタシリンダ装置。
【請求項2】
当該マスタシリンダ装置において、
前記入力ピストンの筒部の内周面がシールを介して前記内筒の外周面に摺接しており、 前記シールが前記入力ピストンの筒部の内周面の後端に嵌め込まれている請求項1に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項3】
前記ハウジング本体が、前方側に位置して内径が小さくされた前方小径部と、後方側に位置して内径が大きくされた後方大径部とを有し、
前記入力ピストンが、前記筒部の後端の外周に鍔を有し、
前記閉塞部が前記前方小径部に位置し、前記鍔が前記後方大径部に位置することによって、前記鍔の後方に前記第2の入力室が区画され、前記鍔の前方に作動液で満たされた反力室が区画されており、
当該マスタシリンダ装置が、前記反力室と連通して作動液で満たされる蓄圧室を有してその蓄圧室の作動液を弾性的に加圧する加圧機構を備えており、
前記反力付与機構が、前記反力室と加圧機構とを含んで構成された請求項1または請求項2に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項4】
当該マスタシリンダ装置が、前記反力室を低圧源に解放するための反力室開放器を備えた請求項3に記載のマスタシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−126231(P2012−126231A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278834(P2010−278834)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】