説明

マスタシリンダ

【課題】製造効率を向上することができるマスタシリンダの提供。
【解決手段】段付シリンダ15に、リザーバ27が接続されるカップ状のボス部23と、減圧バルブ75を介さずにリザーバ27と大径与圧室70とを非制動時に連通する連通路52とが形成され、ボス部23内に減圧バルブ75が配置されるとともに、減圧バルブ75よりもボス部23の開口側に連通路52が開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダには、ディスクブレーキやドラムブレーキ等のブレーキ装置のホイールシリンダに対してブレーキ液を供給する際、作動初期に大容量のブレーキ液を供給する、いわゆるファストフィルを行うことで、ストローク初期の無効液量分を補い、その結果、ペダルストロークを短縮可能なものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このマスタシリンダは、段付シリンダに軸方向に離間して設けられたシール部材の内周を摺動するように段付ピストンが挿入されることにより、小径圧力室と大径与圧室とが形成され、段付ピストンが移動することで大径与圧室から小径圧力室に液圧が供給されるとともに、小径圧力室にホイールシリンダに供給する液圧が発生するようになっている。また、ファストフィル後に大径与圧室の液圧をリザーバに逃がして減圧する減圧バルブが設けられている。
【特許文献1】特開2002−321609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなマスタシリンダには、通路構成等が複雑で製造効率が良くないという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、製造効率を向上することができるマスタシリンダの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、段付シリンダに、リザーバが接続されるカップ状のボス部と、減圧バルブを介さずにリザーバと大径与圧室とを非制動時に連通する連通路とが形成され、前記ボス部内に前記減圧バルブが配置されるとともに、該減圧バルブよりも前記ボス部の開口側に前記連通路の一端が開口している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、製造効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0009】
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態を図1および図2に基づいて説明する。
【0010】
図1に示すマスタシリンダ10は、いわゆるプランジャ型のマスタシリンダであり、図示は略すがブレーキペダルの操作等によって移動するブースタの出力軸で押圧されることでディスクブレーキ等のブレーキ装置のホイールシリンダに導入するブレーキ液圧を発生させるものである。
【0011】
マスタシリンダ10は、底部12と筒部13とを有する有底筒状をなすとともにその口部14側において図示略のブースタに取り付けられるシリンダボディ(段付シリンダ)15と、このシリンダボディ15のボア16内の口部14側に、筒部13の軸線(以下、シリンダ軸と称す)に沿って摺動可能となるように挿入されるプライマリピストン(段付ピストン)17と、シリンダボディ15のボア16内のプライマリピストン17よりも底部12側に、シリンダ軸方向に沿って摺動可能となるように挿入されるセカンダリピストン18とを有するタンデムタイプのものである。
【0012】
ここで、筒部13の内径側は、底部12側に第1小径摺動内径部19が形成されており、中間に第2小径摺動内径部20が形成されていて、口部14側に第1小径摺動内径部19および第2小径摺動内径部20よりも大径の大径摺動内径部21が形成されている。そして、セカンダリピストン18は常に第1小径摺動内径部19で摺動が案内されることになり、プライマリピストン17は、常に大径摺動内径部21および第2小径摺動内径部20で摺動が案内されることになる。
【0013】
シリンダボディ15には、筒部13から筒部13の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)における外側、具体的には、上側に突出する二カ所のカップ状のボス部22,23が、シリンダ軸方向に離間して形成されており、これらボス部22,23それぞれに形成された取付穴24,25にリザーバ27がシール部材26A,26Bを介して接続可能つまりブレーキ液を給排可能に取り付けられる。
【0014】
シリンダボディ15の第1小径摺動内径部19には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のシリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝28およびシール周溝29が底部12側から順に形成されている。底部12側のシール周溝28には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング30が底部12側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。また、口部14側のシール周溝29には、C字状断面を有するカップシールからなるシールリング31が口部14側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。
【0015】
第1小径摺動内径部19には、シール周溝28とシール周溝29との間に、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝33が形成されている。この開口溝33は、底部12側の取付穴24に開口することでリザーバ27に常時連通状態とされる連通路34に連通されている。なお、シリンダボディ15のシール周溝28よりも底部12側には、第1小径摺動内径部19よりも若干大径の底部側大径内径部35が形成されている。
【0016】
シリンダボディ15の第1小径摺動内径部19と第2小径摺動内径部20との間には、これらよりも若干大径の中間大径内径部38が形成されている。
【0017】
第2小径摺動内径部20には、シリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝40が形成されており、このシール周溝40には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング(シール部材)41が、底部12側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。
【0018】
シリンダボディ15の第2小径摺動内径部20と大径摺動内径部21との間には、これらよりも大径で、底部側大径内径部35および中間大径内径部38よりも大径の口部側大径内径部44が形成されている。
【0019】
シリンダボディ15の大径摺動内径部21には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のシリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝46およびシール周溝47が底部12側から順に形成されている。底部12側のシール周溝46には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング(シール部材)48が底部12側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。また、口部14側のシール周溝47には、C字状断面を有するカップシールからなるシールリング(シール部材)49が底部12側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。なお、本実施の形態において、上記シールリング30、41、48は、E字状断面を有するカップシールとしたが、これに限らず、カップシールであればC字状断面等の別の断面形状を有するカップシールを用いても良い。
【0020】
大径摺動内径部21には、シール周溝46とシール周溝47との間に、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝51が形成されている。この開口溝51は、口部14側の取付穴25に開口することでリザーバ27に常時連通状態とされる連通路52に連通されている。この連通路52は、シリンダボディ15の口部14の外側から取付穴25まで穿設される通路穴52aと、シリンダボディ15の開口溝51と通路穴52aの中間位置とを連通させる偏心溝52bとからなり、通路穴52aの外部開口端はボール52cで閉塞されている。
【0021】
シリンダボディ15の筒部13の側部には、いずれもブレーキ液圧を図示せぬブレーキキャリパのホイールシリンダに供給するセカンダリ吐出路53およびプライマリ吐出路54がシリンダ軸方向に離間して形成されている。
【0022】
ここで、シリンダボディ15は、底部側大径内径部35と第1小径摺動内径部19と中間大径内径部38と第2小径摺動内径部20とが小径シリンダ部55を構成しており、口部側大径内径部44と大径摺動内径部21とが、小径シリンダ部55よりも全体として大径の大径シリンダ部56を構成している。
【0023】
シリンダボディ15の底部12側に嵌合されるセカンダリピストン18は、円筒部57と、円筒部57の軸線方向における一側に形成された底部58とを有する有底円筒状をなしており、その円筒部57を底部12側に配置した状態でシリンダボディ15の第1小径摺動内径部19に摺動可能に嵌合されている。円筒部57の底部58に対し反対側の端部には、シリンダ径方向に貫通するポート59が複数放射状に形成されている。
【0024】
ここで、シリンダボディ15の底部12および筒部13の底部12側とセカンダリピストン18とで囲まれてシールリング30でシールされる部分が、セカンダリ吐出路53に液圧を供給するセカンダリ液圧室60となっており、このセカンダリ液圧室60は、セカンダリピストン18がポート59を開口溝33に開口させる位置にあるとき、リザーバ27に連通する。
【0025】
シリンダボディ15の底部12側のシール周溝28に設けられたシールリング30は、内周がセカンダリピストン18の外周側に摺接することになり、セカンダリピストン18がポート59をシールリング30よりも底部12側に位置させた状態では、セカンダリ液圧室60とリザーバ27との連通を遮断可能となっており、これらに圧力差が生じた場合にリザーバ27側からセカンダリ液圧室60側へのブレーキ液の流れのみを許容する。また、シリンダボディ15のシール周溝29に設けられたシールリング31は、内周がセカンダリピストン18の外周側に摺接することになり、リザーバ27に連通する開口溝33と後述するプライマリ液圧室61との連通を遮断する。
【0026】
セカンダリピストン18の底部58とシリンダボディ15の底部12との間には、ブースタ側から入力がない待機状態でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング62を含む間隔調整部63が設けられている。
【0027】
シリンダボディ15の口部14側に嵌合されるプライマリピストン17は、軸線方向一側が、小径ピストン部65とされ、軸線方向他側がこれより大径の大径ピストン部66とされた段付きの外形形状をなしており、軸方向両端側が円筒状をなしている。大径ピストン部66の小径ピストン部65側には環状溝67が形成されており、この環状溝67よりも小径ピストン部65側には軸線方向に沿って延在する連通溝68が複数形成されている。そして、プライマリピストン17は、その小径ピストン部65がシリンダボディ15内における小径シリンダ部55の第2小径摺動内径部20に摺動可能に挿入されるとともに大径ピストン部66がシリンダボディ15内における大径シリンダ部56の大径摺動内径部21に摺動可能に挿入され、小径ピストン部65がシールリング41の内周を摺動し、大径シリンダ部56がシールリング41とは軸方向に離間して設けられたシールリング48,49の内周を摺動する。
【0028】
プライマリピストン17の小径ピストン部65の大径ピストン部66に対し反対側の端部の円筒状部分には、径方向に貫通するポート69が複数放射状に形成されている。
【0029】
ここで、シリンダボディ15の第1小径摺動内径部19と第2小径摺動内径部20との間とプライマリピストン17とセカンダリピストン18とで囲まれ、シールリング31およびシールリング41でシールされる部分が、小径ピストン部65側にあってプライマリ吐出路54に液圧を供給する上記したプライマリ液圧室(小径圧力室)61となっている。また、シリンダボディ15の第2小径摺動内径部20と大径摺動内径部21との間とプライマリピストン17とで囲まれ、シールリング41およびシールリング48でシールされる部分が、大径ピストン部66側にあってプライマリ液圧室61より大径の大径与圧室70となっている。言い換えれば、プライマリピストン17はシリンダボディ15内を大径与圧室70とプライマリ液圧室61とに区画する。プライマリ液圧室61は、プライマリピストン17がポート69を大径与圧室70に開口させる位置にあるとき、大径与圧室70に連通する。
【0030】
シリンダボディ15の第2小径摺動内径部20に設けられたシールリング41は、内周がプライマリピストン17の外周側に摺接することになり、プライマリピストン17がポート69をシールリング41よりも底部12側に位置させた状態では、プライマリ液圧室61と大径与圧室70との連通を遮断可能となっている。また、シールリング41は、カップシールであることから、大径与圧室70とプライマリ液圧室61との間に圧力差が生じた場合に、外周側のリップ部が傾倒することで大径与圧室70側からプライマリ液圧室61側へのブレーキ液の流れのみを許容するようになっている。
【0031】
シール周溝46に設けられたシールリング48は、内周がプライマリピストン17の大径ピストン部66の外周側に摺接することになり、プライマリピストン17が連通溝68および環状溝67をシールリング48よりも底部12側に位置させた状態では、大径与圧室70と連通路52つまりリザーバ27との連通を遮断可能となっている。このシールリング48も、カップシールであることから、大径与圧室70とリザーバ27との間に圧力差が生じた場合に、外周側のリップ部が傾倒することで開口溝51および連通路52を介してリザーバ27側から大径与圧室70側へのブレーキ液の流れのみを許容するようになっている。
【0032】
また、口部14側のシール周溝47に設けられたシールリング49は、プライマリピストン17の大径ピストン部66に摺接することにより、シリンダボディ15の内周側とプライマリピストン17の外周側との隙間を介しての連通路52つまりリザーバ27と外気との連通を遮断する。
【0033】
セカンダリピストン18とプライマリピストン17との間には、図示略のブレーキペダル側から入力がない待機状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング72を含む間隔調整部73が設けられている。
【0034】
なお、シリンダボディ15は、底部12と筒部13とボス部22,23とが、金属、例えばアルミニウム鋳造品からなる一体成形の素材から加工されて形成されている。
【0035】
セカンダリピストン18は、図示略のブレーキペダル側から入力がない非制動時の初期状態(このときの各部の位置を初期位置と以下称す)で、間隔調整部63のセカンダリピストンスプリング62の付勢力で最も底部12から離れた初期位置にある。このとき、セカンダリピストン18は、ポート59を開口溝33に開口させており、その結果、セカンダリ液圧室60を連通路34を介してリザーバ27に連通させている。
【0036】
この状態からセカンダリピストン18がブレーキペダルの入力で底部12側に移動すると、セカンダリピストン18はそのポート59がシールリング30で閉塞され、その結果、セカンダリ液圧室60とリザーバ27との連通が遮断されることになり、これにより、さらにセカンダリピストン18が底部12側に移動することでセカンダリ液圧室60からセカンダリ吐出路53を介してブレーキ装置にブレーキ液を供給する。なお、ポート59を閉塞させた状態であってもリザーバ27側の液圧(大気圧)よりもセカンダリ液圧室60の液圧が低くなると、シールリング30が開いてリザーバ27のブレーキ液がセカンダリ液圧室60に流れるようになっている。
【0037】
また、プライマリピストン17は、間隔調整部63のセカンダリピストンスプリング62の付勢力と間隔調整部73のプライマリピストンスプリング72の付勢力とによって最も口部14側の初期位置に配置された状態にあるとき、プライマリ液圧室61に連通するポート69を開いてプライマリ液圧室61と大径与圧室70とを連通させている。
【0038】
この状態から、プライマリピストン17がブレーキペダルの入力で底部12側に移動すると、プライマリピストン17は、そのポート69がシールリング41で閉塞され、プライマリ液圧室61と大径与圧室70側とのポート69を介しての連通を遮断することになり、この状態からさらに底部12側に移動すると、プライマリ液圧室61からプライマリ吐出路54を介してブレーキ装置にブレーキ液を供給する。なお、ポート69を閉塞させた状態であっても大径与圧室70の液圧がプライマリ液圧室61の液圧より大きくなると、シールリング41を開いて大径与圧室70のブレーキ液がプライマリ液圧室61に流れるようになっている。
【0039】
また、プライマリピストン17は、図示略のブレーキペダル側から入力がない非制動時であって初期位置にあるとき、連通溝68と環状溝67と開口溝51と連通路52とで大径与圧室70とリザーバ27とを連通させている。この状態からプライマリピストン17が、底部12側に摺動すると、連通溝68および環状溝67がシールリング48で閉塞されて、大径与圧室70とリザーバ27との連通を遮断することになり、さらに摺動すると、大径ピストン部66が大径与圧室70の体積を減少させることで、大径与圧室70の液圧を高め、大径与圧室70とプライマリ液圧室61との間に設けられたシールリング41を開いて、大径与圧室70側からプライマリ液圧室61へ液補給を行うことになる。ブレーキ装置に対してブレーキ液を供給する際、このように作動初期にプライマリピストン17のストロークに伴って小径ピストン部55で吐出し得る液量よりも大容量のブレーキ液を供給する、いわゆるファストフィルを行うことで、ストローク初期の無効液量分を補い、ペダルストロークを短縮する。
【0040】
そして、上記したファストフィル時に、プライマリ液圧室61への液補給の進行によってプライマリ液圧室61に液圧が発生すると、大径与圧室70の液圧を減圧する必要が生じる。このため、第1実施形態に係るマスタシリンダ10においては、上記した大径与圧室70およびリザーバ27に接続されるとともに、大径与圧室70の液圧によって所定の開弁圧で開弁して大径与圧室70をリザーバ27に連通して大径与圧室70の液圧の上昇に伴い大径与圧室70の液圧を減圧する減圧バルブ75が、シリンダボディ15の一方のボス部23内に配置されている。
【0041】
つまり、シリンダボディ15の大径与圧室70側のボス部23の取付穴25が、シール部材26Bを介してリザーバ27を嵌合させる最も外側の開口穴部25aと、開口穴部25aの奥側に隣接する開口穴部25aより小径の通路穴部25bと、通路穴部25bの奥側に隣接する通路穴部25bより小径の嵌合穴部25cと、嵌合穴部25cの奥側に隣接する嵌合穴部25cより小径の通路穴部25dと、通路穴部25dの奥側に隣接して大径与圧室70に開口する通路穴部25dより小径の通路穴部25eとからなっており、嵌合穴部25c内に減圧バルブ75が嵌合されている。なお、シリンダボディ15に形成された上記の連通路52は、取付穴25における減圧バルブ75が嵌合される嵌合穴部25cよりも開口穴部25a側の通路穴部25bの位置に開口しており、その結果、減圧バルブ75よりもボス部23の開口側に開口し、図示略のブレーキペダル側から入力がない非制動時であって初期位置にあるときに、リザーバ27と大径与圧室70とを減圧バルブ75を介さずに連通させている。
【0042】
減圧バルブ75は、図2に示すように、ボス部23の取付穴25の嵌合穴部25cに嵌合するバルブボディ80と、バルブボディ80と取付穴25との隙間をシールするOリング81と、バルブボディ80内に移動可能に収容される弁体82と、弁体82をバルブボディ80の方向に付勢するコイルスプリング83と、コイルスプリング83を弁体82との間に保持するカバー84と、嵌合穴部25cの溝86に嵌合されてカバー84を係止する係止リング85とからなっている。
【0043】
バルブボディ80は、嵌合穴部25cに嵌合する主部88と、主部88の中央から大径与圧室70側に突出する主部88より小径の突出部89とを有しており、主部88の突出部89とは反対の外周部に、突出部89側よりも小径の段差部90が、主部88の突出部89側の外周部に面取部91が、それぞれ形成されている。バルブボディ80は、この面取部91が嵌合穴部25cの内周面およびその通路穴部25d側の端面との間でOリング81を挟持することになる。
【0044】
また、バルブボディ80の中央には、軸方向に貫通する通路穴93が形成されている。この連通穴93は、主部88の突出部89とは反対側の端部に設けられた大径穴部93aと、この大径穴部93aの突出部89側に隣接する突出部89側ほど小径となる大径テーパ穴部93bと、この大径テーパ穴部93bの突出部89側に隣接する突出部89側ほど小径となる小径テーパ穴部93cと、この小径テーパ穴部93cの突出部89側に隣接して設けられて突出部89を貫通する小径穴部93dとからなっている。また、通路穴93の大径テーパ穴部93bと小径テーパ穴部93cとの境界位置には、円周方向の一部に切欠部94が形成されている。
【0045】
弁体82は球状をなしており、バルブボディ80の大径テーパ穴部93bと小径テーパ穴部93cとの境界の弁座95に離着座可能となっている。弁体82は、弁座95に着座することで、通路穴93を、切欠部94を除いて閉塞する閉弁状態となり、弁座95から離座することで、通路穴93を、切欠部94を含んで開放する開弁状態となる。
【0046】
コイルスプリング83は、弁体82側が小径で弁体82とは反対側が大径となるテーパ状をなしている。
【0047】
カバー84は、円板部98と、円板部98の外周部から軸方向に延出する小径円筒部99と、小径円筒部99の円板部98とは反対側から半径方向外側に延出する円環部100と、円環部100の外周部から軸方向に小径円筒部99とは反対に延出する大径円筒部101とを有している。カバー84は、コイルスプリング83をその大径側を円板部98に当接させた状態で収容し、大径円筒部101にバルブボディ80の段差部90を嵌合させた状態で、嵌合穴部25cの溝86に嵌合された係止リング85で円環部100が係止される。カバー84の小径円筒部99には径方向に貫通する貫通孔102が形成されている。
【0048】
減圧バルブ75は、バルブボディ80の小径穴部93dおよび小径テーパ穴部93cが、常時大径与圧室70に連通している。その結果、弁体82には、大径与圧室70の液圧でコイルスプリング83の付勢力に抗する方向の推力つまり開弁方向の推力が生じる。この推力により、弁体82がコイルスプリング83の付勢力に抗して移動すると、通路穴93が開放され、大径与圧室70の液圧を通路穴93およびカバー84の貫通孔102を介してリザーバ27側に逃がすことになる。つまり、上記したファストフィル時に、図1に示すシールリング41を押し開いて大径与圧室70からプライマリ液圧室61にブレーキ液が送り込まれ、ストローク初期の無効液量分(主にパッドクリアランス分)を補うことになる。しかし、その後、大径与圧室70とプライマリ液圧室61とがシールリング41によりその連通が遮断されると、そのままでは、大径与圧室70の液圧がブレーキペダルの操作を妨げてしまう(運転者がブレーキペダルを重く感じてしまう)。このため、大径与圧室70が所定の開弁圧である与圧室解除液圧まで上昇すると、それまで閉状態にあった減圧バルブ75が大径与圧室70をリザーバ27に連通して大径与圧室70内部の液圧をリザーバ27に逃がして減圧するようになっている。なお、上記与圧室解除液圧は図示を略したブレーキペダルのレバー比、ブースタの倍力比、ホイールシリンダのサイズ等で適宜、設定するものとなっている。
【0049】
ここで、ブレーキペダルの踏み込みが極緩踏みの場合、弁体82は弁座95から離れず、切欠部94の流路断面積によって大径与圧室70の昇圧速度が決まる。また、ブレーキペダルの踏み込みが緩踏みおよび普通踏みの場合、弁体82が弁座95から離れ、切欠部94の流路断面積と弁体82と弁座95との間の流路断面積とによって大径与圧室70の昇圧速度が決まる。また、ブレーキペダルの踏み込みが急踏みの場合、弁体82が弁座95からさらに離れ、小径穴部93dの流路断面積によって大径与圧室70の昇圧速度が決まる。減圧バルブ75による減圧は、ブレーキペダルの踏み込み速度と、減圧バルブ75の開放流路断面積の大きさとによって制御される。
【0050】
以上に述べた第1実施形態によれば、シリンダボディ15のリザーバ27を接続させるカップ状のボス部23内に減圧バルブ75を配置する構造であるため、取付穴25と減圧バルブ75の配置部位とを共通させることができ、加工穴数を減少させることができる。したがって、製造効率を向上することができる。
【0051】
また、ボス部23内の減圧バルブ75よりも開口側に、減圧バルブ75を介さずにリザーバ27と大径与圧室70とを非制動時に連通する連通路52の一端が開口しているため、通路構成等が簡素となる。したがって、この点からも製造効率を向上することができる。
【0052】
さらに、減圧バルブ75は、バルブボディ80とOリング81と弁体82とコイルスプリング83とカバー84と係止リング85とからなっているため、小型化することができ、部品点数を低減することができる。
【0053】
また、ボス部23内の減圧バルブ75よりも開口側に、減圧バルブ75を介さずにリザーバ27と大径与圧室70とを非制動時に連通する連通路52の一端が開口しているため、リザーバ27と大径与圧室70とを減圧バルブ75を介して連通しているものよりも、非制動時の流路抵抗が減少して、車両姿勢制御装置のポンプへ多くのブレーキ液を供給することが可能となり、いわゆるハイフロー化を図ることができる。したがって、車両姿勢制御装置を有するブレーキ装置に用いて好適なマスタシリンダとすることができる。
【0054】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に図3に基づいて説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0055】
第2実施形態においては、ボス部23の取付穴25の嵌合穴部25c内に第1実施形態とは相違する減圧バルブ105が設けられている。なお、図示は略すが、第2実施形態においても、シリンダボディ15に形成された連通路52は、取付穴25における減圧バルブ105が嵌合される嵌合穴部25cよりも開口穴部25a側の通路穴部25bの位置に開口しており、その結果、減圧バルブ105よりもボス部23の開口穴部25a側に連通路52が開口し、図示略のブレーキペダル側から入力がない非制動時であって初期位置にあるときに、リザーバ27と大径与圧室70とを減圧バルブ105を介さずに連通させている。
【0056】
減圧バルブ105は、図3に示すように、取付穴25の嵌合穴部25cに嵌合するバルブボディ110と、バルブボディ110と取付穴25との隙間をシールするOリング111と、バルブボディ110内に移動可能に収容される弁体112と、弁体112をバルブボディ110の方向に付勢する板バネ113と、板バネ113を弁体112との間に保持するカバー114と、嵌合穴部25cの溝86に嵌合されてカバー114を係止する係止リング115と、バルブボディ110の弁体112とは反対側に保持されるシール部材116とからなっている。
【0057】
バルブボディ110は、嵌合穴部25cに嵌合する主部118と、主部118の中央から大径与圧室70側に突出する主部118より小径の突出部119とを有しており、主部118の突出部119とは反対の外周部に、突出部119側よりも小径の段差部120が、主部118の突出部119側の外周部に面取部121が、突出部119の主部118とは反対の外周部にフランジ部122が、それぞれ形成されている。バルブボディ110は、面取部121が嵌合穴部25cの内周面およびその通路穴部25d側の端面との間でOリング111を挟持することになる。
【0058】
また、バルブボディ110の突出部119とは反対の端部には、凹部123が形成されており、バルブボディ110の中央には、凹部123の位置でバルブボディ110を軸方向に貫通する通路穴124が形成されている。この連通穴124は、主部118の突出部119とは反対側の端部に設けられた大径穴部124aと、この大径穴部124aの突出部119側に隣接する突出部119側ほど小径となる大径テーパ穴部124bと、この大径テーパ穴部124bの突出部119側に隣接する突出部119側ほど小径となる小径テーパ穴部124cと、この小径テーパ穴部124cの突出部119側に隣接して設けられた小径穴部124dと、小径穴部124dの小径テーパ穴部124cとは反対側に隣接して設けられた小径穴部124dよりも大径の開口穴部124eとからなっている。
【0059】
バルブボディ110の通路穴124の周囲には、凹部123の位置でバルブボディ110を軸方向に貫通する貫通穴125が複数形成されている。これら貫通穴125は、突出部119とは反対側の大径穴部125aと、これよりも小径の突出部119側の小径穴部125bとなっている。また、貫通穴125の小径穴部125b側の端部には、小径穴部125bから径方向に沿って面取部121に抜ける切欠部126が形成されている。
【0060】
弁体112は球状をなしており、バルブボディ110の大径テーパ穴部124bと小径テーパ穴部124cとの境界の弁座127に離着座する。弁体112は弁座127に着座することで、通路穴124を閉塞する閉弁状態となり、弁座127から離座することで、通路穴124を開放する開弁状態となる。
【0061】
板バネ113は、弁体112側が小径で弁体112とは反対側が大径となるテーパ状をなしている。
【0062】
カバー114は、円板部128と、円板部128の外周部から軸方向に拡径しつつ延出するテーパ部129と、テーパ部129の円板部128とは反対側から半径方向外側に延出する円環部130と、円環部130の外周部から軸方向にテーパ部129とは反対に延出する大径円筒部131とを有している。カバー114は、板バネ113をその大径側を円環部130に当接させた状態で収容し、大径円筒部131にバルブボディ110の段差部120を嵌合させた状態で、嵌合穴部25cの溝86に嵌合された係止リング115で円環部130が係止される。カバー114の円板部128には軸方向に貫通する貫通孔132が形成されている。
【0063】
シール部材116は、略円板状をなしており、中央の係合孔134においてバルブボディ110の突出部119に保持される。シール部材116は、弾性変形可能であり、バルブボディ110に密着すると貫通穴125を切欠部126を除いて閉じ、バルブボディ110から離間すると貫通穴125を切欠部126を含んで開く。
【0064】
減圧バルブ105は、バルブボディ110の開口穴部124e、小径穴部124dおよび小径テーパ穴部124cが、常時大径与圧室70に連通している。その結果、弁体112には、大径与圧室70の液圧で板バネ113の付勢力に抗する方向の推力つまり開弁方向の推力が生じる。この推力により、弁体112が板バネ113の付勢力に抗して移動すると、通路穴124が開放され、大径与圧室70の液圧を通路穴124およびカバー114の貫通孔132を介してリザーバ27側に逃がすことになる。つまり、上記したファストフィル時に、図1に示すシールリング41を押し開いて大径与圧室70からプライマリ液圧室61にブレーキ液が送り込まれ、ストローク初期の無効液量分(主にキャリパロールバック分)を補うことになるが、その後、プライマリ液圧室61の小径化に伴う液量不足を補うため、大径与圧室70からプライマリ液圧室61にブレーキ液が送り込まれながら、大径与圧室70とプライマリ液圧室61とが同圧で所定の開弁圧である与圧室解除液圧まで上昇する。そして、与圧室解除液圧まで上昇すると、それまで閉状態にあった減圧バルブ105が大径与圧室70をリザーバ27に連通して大径与圧室70の液圧の上昇に伴い大径与圧室70の液圧をリザーバ27に逃がして減圧する。
【0065】
ここで、ブレーキペダルの踏み込みが極緩踏みの場合、弁体112は弁座127から離れず、切欠部126の流路断面積によって大径与圧室70の昇圧速度が決まる。また、ブレーキペダルの踏み込みが緩踏みおよび普通踏みの場合、弁体112が弁座127から離れ、切欠部126の流路断面積と弁体112と弁座127との間の流路断面積とによって大径与圧室70の昇圧速度が決まる。また、ブレーキペダルの踏み込みが急踏みの場合、弁体112が弁座127からさらに離れ、切欠部126の流路断面積と小径穴部124dの流路断面積とによって大径与圧室70の昇圧速度が決まる。減圧バルブ105による減圧は、ブレーキペダルの踏み込み速度と、減圧バルブ105に開放流路断面積の大きさとによって制御される。
【0066】
また、ビークル・ダイナミクス・コントロール等の車両姿勢制御の際に、ブレーキペダルの踏み込みとは無関係に、強制的にポンプでマスタシリンダ10からプライマリ吐出路54を介してブレーキ液を吸引してブレーキ装置を作動させることになるが、このとき、大径与圧室70の液圧が負圧になると、液圧発生状態では閉じられていたシール部材116が貫通穴125を開くことになり、ボス部23内の減圧バルブ105よりも開口側に、減圧バルブ105を介さずにリザーバ27と大径与圧室70とを非制動時に連通する連通路52の一端が開口していることとあいまって、リザーバ27から大径与圧室70への液補給が円滑に行われる。
【0067】
以上に述べた第2実施形態によれば、第1実施形態と同様、シリンダボディ15のリザーバ27を接続させるカップ状のボス部23内に減圧バルブ105を配置する構造であるため、取付穴25と減圧バルブ105の配置部位とを共通させることができ、加工穴数を減少させることができる。したがって、製造効率を向上することができる。
【0068】
また、ボス部23内の減圧バルブ105よりも開口側に、減圧バルブ105を介さずにリザーバ27と大径与圧室70とを非制動時に連通する連通路52が開口しているため、通路構成等が簡素となる。したがって、この点からも製造効率を向上することができる。
【0069】
さらに、シール部材116と貫通穴125とによって、大径与圧室70の液圧が負圧になったときに、リザーバ27から大径与圧室70へ液補給を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る第1実施形態のマスタシリンダを示す側断面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態のマスタシリンダの減圧バルブを示す部分拡大側断面図である。
【図3】本発明に係る第2実施形態のマスタシリンダの減圧バルブを示す部分拡大側断面図である。
【符号の説明】
【0071】
10 マスタシリンダ
15 シリンダボディ(段付シリンダ)
18 プライマリピストン(段付ピストン)
23 ボス部
27 リザーバ
41,48,49 シールリング(シール部材)
52 連通路
61 プライマリ液圧室(小径圧力室)
70 大径与圧室
75,105 減圧弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段付シリンダに軸方向に離間して設けられたシール部材の内周を摺動するように段付ピストンが挿入されることにより、ホイールシリンダに液圧を供給する小径圧力室と大径与圧室とが形成され、前記段付ピストンが移動することで前記大径与圧室から前記小径圧力室に液圧が供給されるとともに前記小径圧力室に液圧が発生し、前記大径与圧室の液圧によって所定の開弁圧で開弁して前記大径与圧室をリザーバに連通して前記液圧の上昇に伴い前記大径与圧室の液圧を減圧する減圧バルブを有するマスタシリンダにおいて、
前記段付シリンダには、前記リザーバが接続されるカップ状のボス部と、前記減圧バルブを介さずに前記リザーバと前記大径与圧室とを非制動時に連通する連通路とが形成され、前記ボス部内に前記減圧バルブが配置されるとともに、該減圧バルブよりも前記ボス部の開口側に前記連通路の一端が開口していることを特徴とするマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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