説明

マスタシリンダ

【課題】ピストンを鍛造により形成しても、ピストンの良好な摺動性能を確保することができるマスタシリンダの提供。
【解決手段】ピストン18は、筒状部71の内周面に設けられリテーナ120と当接可能でリテーナ120のピストン18の径方向への移動を規制する規制部97と、底部72に設けられ鍛造により規制部97から連続して底部72の外周端に形成される環状溝99とを有し、リテーナ120は、底部72の環状溝99より内周側の平面部98に当接するとともに、外周端が規制部97に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のブレーキ装置に用いられるマスタシリンダには、有底筒状のシリンダ本体と、シリンダ本体内を摺動するピストンと、ピストンをシリンダ本体の開口側へ付勢するバネ組立体とを有するものがあり、ピストンを有底筒状としてその内孔にバネ組立体を配置したものがある。そして、このような有底筒状のピストンの内孔を鍛造により形成する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−104164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようにピストンの内孔を鍛造により形成すると、内孔の軸方向壁部と底面との突合せ部に円弧状に繋がる円弧状壁面部が形成されてしまう。これに対して、ピストン内に挿入されるバネ組立体は、例えば、ピストンの軸方向壁部によってセンタリングされるため、底面に当接するリテーナの径をピストンの軸方向壁部から離れるように設定する必要がある。その結果、ピストンの内底部の最外周の円弧状壁面部にリテーナが干渉してその着座性が悪くなり、バネ組立体の全体が傾くことになって、ピストンにこじりモーメントが発生して摺動性能に影響を及ぼす可能性があった。
【0004】
したがって、本発明は、ピストンを鍛造により形成しても、ピストンの良好な摺動性能を確保することができるマスタシリンダの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、ピストンが、筒状部の内周面に設けられリテーナと当接可能で該リテーナの前記ピストンの径方向への移動を規制する規制部と、底部に設けられ鍛造により前記規制部から連続して前記底部の外周端に形成される環状溝とを有し、前記リテーナが、前記底部の前記環状溝より内周側の平面部に当接するとともに、外周端が前記規制部に当接する。
【0006】
また、本発明は、ピストンが、底部の径方向中央に形成されその外周面がリテーナと当接可能で該リテーナの前記ピストンの径方向への移動を規制する突起部と、前記底部に設けられ鍛造により前記突起部の外周面から軸方向に延びて形成される環状溝とを有し、前記リテーナが、筒部と該筒部の開口縁から径方向に延びるフランジ部とから形成され、前記筒部の内周面が前記突起部に当接するとともに、前記フランジ部が前記底部の前記環状溝より外周側の平面部に当接する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ピストンを鍛造により形成しても、ピストンの摺動性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダを図1〜図4を参照して以下に説明する。
【0009】
図1中符号11は、図示せぬブレーキブースタを介して導入されるブレーキペダルの操作量に応じた力でブレーキ液圧を発生させる第1実施形態に係るマスタシリンダを示しており、このマスタシリンダ11には、その重力方向上側にブレーキ液を貯留するリザーバ12が取り付けられている。
【0010】
マスタシリンダ11は、底部13と筒部14とを有する有底筒状に一つの素材から加工されて形成されるとともに横方向に沿う姿勢で車両に配置されるシリンダ本体15と、このシリンダ本体15の開口部16側に摺動可能に挿入されるプライマリピストン18と、シリンダ本体15のプライマリピストン18よりも底部13側に摺動可能に挿入されるセカンダリピストン19とを有するタンデムタイプのものである。なお、プライマリピストン18およびセカンダリピストン19は、シリンダ本体15の筒部14の軸線(以下、シリンダ軸と称す)に直交する断面が円形状の摺動内径部20に摺動可能に案内される。なお、シリンダ本体15の筒部14の摺動内径部20のセカンダリピストン19を嵌合させる範囲よりもセカンダリピストン19の先端側には、摺動内径部20よりも大径の大径部28が形成されている。また、シリンダ本体15の筒部14の摺動内径部20のプライマリピストン18を嵌合させる範囲よりもプライマリピストン18の先端側には、摺動内径部20よりも大径の大径部29が形成されている。
【0011】
シリンダ本体15には、筒部14の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)の外側に突出する取付台部21,22が筒部14の円周方向(以下、シリンダ円周方向と称す)における所定位置に一体に形成されており、取付台部21,22にリザーバ12を取り付けるための取付穴24,25が、互いにシリンダ円周方向における位置を一致させた状態で形成されている。
【0012】
シリンダ本体15の筒部14の取付台部21,22が形成される側には、ブレーキ液を図示せぬディスクブレーキキャリパ等のブレーキ装置に供給するための図示せぬブレーキ配管が取り付けられるセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27が形成されている。なお、これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、互いにシリンダ円周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
【0013】
シリンダ本体15の摺動内径部20には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には4カ所のシール溝30、シール溝31、シール溝32およびシール溝33が底部13側から順に形成されている。これらシール溝30〜33は、シリンダ円周方向に環状をなしてシリンダ径方向外側に凹む形状をなしている。
【0014】
最も底部13側にあるシール溝30は、底部13側の取付穴24の近傍に形成されており、このシール溝30に円環状のカップシール35が嵌合状態で格納されている。
【0015】
シリンダ本体15におけるシール溝30よりも開口部16側には、底部13側の取付穴24から穿設される連通穴36を筒部14内に開口させるように、筒部14の摺動内径部20からシリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝37が形成されている。ここで、この開口溝37および連通穴36は、リザーバ12に常時連通して筒部14内とリザーバ12とを連通可能に結んでいる。
【0016】
シリンダ本体15には、シリンダ軸線方向における上記開口溝37のシール溝30に対し反対側つまり開口部16側に、上記したシール溝31が形成されており、このシール溝31に、円環状の区画シール42が嵌合状態で格納されている。
【0017】
シリンダ本体15のシール溝31よりも開口部16側であって開口部16側の取付穴25の近傍に、上記したシール溝32が形成されており、このシール溝32に円環状のカップシール(シール)45が嵌合状態で格納されている。
【0018】
シリンダ本体15におけるこのシール溝32の開口部16側には、開口部16側の取付穴25から穿設される連通穴46を筒部14内に開口させるように、筒部14の摺動内径部20からシリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝47が形成されている。ここで、この開口溝47および連通穴46は、リザーバ12に常時連通して筒部14内とリザーバ12とを連通可能に結んでいる。
【0019】
シリンダ本体15における上記開口溝47のシール溝32に対し反対側つまり開口部16側に上記したシール溝33が形成されており、このシール溝33に円環状の区画シール52が嵌合状態で格納されている。
【0020】
シリンダ本体15の底部13側に嵌合されるセカンダリピストン19は、円筒部55と、円筒部55の軸線方向における一側に形成された底部56とを有する有底円筒状(カップ状)をなしており、その円筒部55をシリンダ本体15の底部13側に配置した状態でシリンダ本体15の摺動内径部20に摺動可能に嵌合されている。また、円筒部55の底部56に対し反対側の端部の外周側には、他の部分よりも径が若干小さい環状の段部59が形成されており、段部59には、その底部56側にシリンダ径方向に貫通するポート60が複数放射状に形成されている。
【0021】
セカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間には、縮長状態でセカンダリピストン19をシリンダ本体15の開口部16側へ付勢するセカンダリピストンバネ62を含むバネ組立体63が円筒部55内に挿入された状態で設けられている。このバネ組立体63は、シリンダ本体15の底部13に当接する軸線方向長さの長いリテーナ64と、セカンダリピストン19の底部56に当接する軸線方向長さの短いリテーナ65と、長さの短いリテーナ65に一端部が固定されるとともに長さの長いリテーナ64を所定範囲内でのみ摺動自在に支持する軸部材66とを有しており、セカンダリピストンバネ62は、両側の相対移動可能に連結されたリテーナ64,65間にこれらで伸長長さが規制された状態で介装されている。図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態のセカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間隔は、バネ組立体63によって決められる。
【0022】
ここで、カップシール35および区画シール42はセカンダリピストン19の外周に当接している。そして、シリンダ本体15の底部13および筒部14の底部13側とセカンダリピストン19とで囲まれた部分が、カップシール35により画成されてセカンダリ吐出路26に液圧を供給するセカンダリ圧力室68となっている。このセカンダリ圧力室68は、セカンダリピストン19がポート60を開口溝37に開口させる位置にあるとき、リザーバ12に連通する。一方、シリンダ本体15の底部13側のシール溝30に設けられたカップシール35は、内周がセカンダリピストン19の外周側に摺接することになり、セカンダリピストン19がポート60をカップシール35よりも底部13側に位置させた状態では、リザーバ12とセカンダリ圧力室68との間の連通を遮断可能となっている。この状態で、セカンダリピストン19が、シリンダ本体15の摺動内径部20およびシリンダ本体15に保持されたカップシール35および区画シール42の内周で摺動することによって、セカンダリ圧力室68内のブレーキ液を加圧してセカンダリ吐出路26からブレーキ装置に供給することになる。
【0023】
シリンダ本体15の開口部16側に嵌合されるプライマリピストン18は、内側円筒部(筒状部)71と、内側円筒部71の軸線方向における一側に形成された底部72と、底部72の内側円筒部71に対し反対側に形成された外側円筒部73とを有する有底筒状をなしており、その内側円筒部71をシリンダ本体15内のセカンダリピストン19側に配置した状態でシリンダ本体15に挿入されている。ここで、外側円筒部73の内側には図示せぬブレーキブースタの出力軸が挿入され、この出力軸が底部72を押圧する。
【0024】
内側円筒部71の底部72に対し反対側の端部の外周側には、他の部分よりも径が若干小さい環状の凹部75が形成されている。さらに、内側円筒部71の凹部75には、その底部72側に径方向に貫通するポート76が複数放射状に形成されている。
【0025】
セカンダリピストン19とプライマリピストン18との間には、縮長状態でプライマリピストン18をシリンダ本体15の開口部16側へ付勢するプライマリピストンバネ(バネ)78を含むバネ組立体79が内側円筒部71に挿入された状態で設けられている。このバネ組立体79は、セカンダリピストン19の底部56に当接する軸線方向長さの長いリテーナ81と、プライマリピストン18の底部72に当接する軸線方向長さの短いリテーナ120と、長さの短いリテーナ120に一端部が固定されるとともに長さの長いリテーナ81を所定範囲内でのみ摺動自在に支持する軸部材83とを有している。よって、プライマリピストンバネ78は、両側の相対移動可能に連結されたリテーナ81,120間にこれらと軸部材83とで伸長長さが規制された状態で介装されている。図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態のセカンダリピストン19とプライマリピストン18との間隔はバネ組立体79によって決められる。
【0026】
ここで、カップシール45および区画シール52はプライマリピストン18の外周に当接している。そして、シリンダ本体15の筒部14の開口部16側とプライマリピストン18とセカンダリピストン19とで囲まれた部分が、区画シール42およびカップシール45により画成されてプライマリ吐出路27に液圧を供給するプライマリ圧力室(圧力室)85となっている。このプライマリ圧力室85は、プライマリピストン18がポート76を開口溝47に開口させる位置にあるとき、リザーバ12に連通する。一方、シリンダ本体15のシール溝32に設けられたカップシール45は、内周がプライマリピストン18の外周側に摺接することになり、プライマリピストン18がポート76をカップシール45よりも底部13側に位置させた状態では、リザーバ12とプライマリ圧力室85との間の連通を遮断可能となっている。この状態で、プライマリピストン18が、シリンダ本体15の摺動内径部20およびシリンダ本体15に保持されたカップシール45および区画シール52の内周で摺動することによって、プライマリ圧力室85内のブレーキ液を加圧してプライマリ吐出路27からブレーキ装置に供給することになる。
【0027】
シリンダ本体15の開口部16側には、開口部16から突出するプライマリピストン18を覆うようにカバー86が取り付けられている。
【0028】
バネ組立体79において、プライマリピストン18の内側円筒部71内に収容される部分に設けられる端部のリテーナ120は、図2に示すように、軸線方向に貫通する結合穴121が中央に、軸線方向に貫通する周囲穴122が結合穴121の周囲の複数カ所(四カ所)に形成された平板状の円板部123と、この円板部123の外周縁部の等間隔の複数カ所(四カ所)からそれぞれ半径方向に突出した後、軸方向に沿って同側に突出する係止片部124とを有している。より具体的に、係止片部124は、円板部123と同一平面に配置される径方向突出部125と、径方向突出部125の外端から湾曲して軸線方向に指向する湾曲部126と、湾曲部126の径方向突出部125とは反対側の端部から軸方向に突出する軸方向突出部127とからなっている。リテーナ120は、図1に示すように、結合穴121において軸部材83に結合されることになり、複数の係止片部124の内側にプライマリピストンバネ78の端部を係止する。
【0029】
シリンダ本体15の開口部16側に配置される上記したプライマリピストン18は、図3に示す、内側円筒部71の内周側の内壁部90と、底部72の内側円筒部71側の内底部91と、外側円筒部73の内周側の内壁部92と、底部72の外側円筒部73側の内底部93とが鍛造により形成されることになる。つまり、プライマリピストン18は、鍛造により有底筒状に形成される。
【0030】
内側円筒部71の内周面を形成する内壁部90には、内底部91とは反対側に、一定径の円筒面状の内壁面部95がプライマリピストン18の軸方向に沿って形成され、この内壁面部95の内底部91側に、内壁面部95から離れるほど小径となるテーパ面部96が形成され、このテーパ面部96の内底部91側に内壁面部95よりも小径の一定径の円筒面状の内壁面部97がプライマリピストン18の軸方向に沿って形成されている。
【0031】
また、内底部91には、プライマリピストン18の軸直交方向に沿う平面部98が形成され、平面部98の中央に平面部98よりも軸線方向に凹む凹部100が形成されている。この凹部100は、図1に示すように軸部材83のリテーナ120からの突出部分を収容する。
【0032】
そして、図3に示すように、プライマリピストン18の内底部91の外周端には、鍛造により円環状の環状溝99が、プライマリピストン18の軸方向において外側円筒部73側に凹んで形成されている。
【0033】
図4に示すように、この環状溝99は、内壁面部97に隣接しこの内壁面部97からプライマリピストン18の軸方向に離れるほど小径となり且つプライマリピストン18の軸方向断面が円弧状をなす円弧状壁面部103と、円弧状壁面部103の内壁面部97とは反対側に隣接し円弧状壁面部103からプライマリピストン18の軸直交方向に沿って内側に延出する円環状の平坦な溝底面部104とを有している。
【0034】
また、環状溝99は、溝底面部104の内径側に隣接して平面部98側に、プライマリピストン18の軸方向断面が円弧状をなすように延出する円弧状壁面部115と、円弧状壁面部115の溝底面部104とは反対側に隣接して平面部98側にテーパ状に延出するテーパ面部116と、テーパ面部116の円弧状壁面部115とは反対側に隣接して平面部98側に、プライマリピストン18の軸方向断面が円弧状をなすよう延出する円弧状角部117とを有している。この円弧状角部117のテーパ面部116とは反対側に平面部98が隣接している。そして、円弧状壁面部103は、その軸方向断面においてリテーナ120の湾曲部126よりも大径の円弧状をなすように形成されている。
【0035】
内側円筒部71内に収容されるバネ組立体79のリテーナ120は、内壁面部97への嵌合時に、すべての係止片部124が径方向において同時に内壁面部97に当接することになり、これにより、その径方向つまりプライマリピストン18の径方向への移動が規制され、プライマリピストン18に拘束されるようになっている。つまり、リテーナ120は、プライマリピストン18への嵌合時に、円板部123において、内底部91の環状溝99より内周側の平面部98に当接し、外周端の複数の係止片部124の軸方向突出部127において、内壁面部97に当接する。本実施形態においては、内壁面部97によってリテーナの前記ピストンの径方向への移動を規制する規制部が構成されている。
【0036】
ここで、内底部91を鍛造により形成することにより生じる、内底部91の最外周の円弧状壁面部103をリテーナ120に干渉させることなく、リテーナ120の円板部123を平面部98に当接させることができるように、内底部91の外周端の環状溝99の深さが設定されている。ここでは、具体的には、円弧状壁面部103が全体として平面部98よりもプライマリピストン18の軸方向奥側の範囲に形成されるように、言い換えれば、円弧状壁面部103の内壁面部97側の開始点と平面部98とのプライマリピストン18の軸方向における距離が0以上となるように、環状溝99の深さが設定されている。また、上述したように円弧状壁面部103は、その軸方向断面においてリテーナ120の湾曲部126よりも大径の円弧状をなすように形成されている。以上の結果、リテーナ120は、円弧状壁面部103に干渉することなく、外径側が内壁面部97でセンタリングされながら内底部91の環状溝99よりも内周側に形成された平面部98に円板部123において当接する。
【0037】
以上に述べた第1実施形態に係るマスタシリンダ11によれば、プライマリピストン18の内底部91の外周端に、リテーナ120の外周端に当接する内壁面部97から連続して環状溝99を鍛造により形成したため、鍛造による円弧状壁面部103がこの環状溝99の最外周に形成されることになり、円弧状壁面部103を内底部91のリテーナ120の座面となる平面部98よりも奥側にずらすことができる。したがって、プライマリピストン18を鍛造により形成してもその内底部91の最外周へのバネ組立体79のリテーナ120の干渉を防止でき、リテーナ120の着座性が良好になる。よって、バネ組立体79の直立性を確保でき、プライマリピストン18の良好な摺動性能を確保することができる。また、摺動性が向上するためプライマリピストン18のこじりによる傷付きを改善できる。さらに、バネ組立体79のプライマリピストン18の軸線方向に対する傾きを抑制できるので、バネ組立体79が当接するセカンダリピストン19のシリンダ本体15の軸線方向に傾きを抑制でき、セカンダリピストン19の直立性を確保でき、セカンダリピストン19の良好な摺動性能を確保することができる。
【0038】
なお、環状溝99の形状は、バネ組立体79のリテーナ120の着座性を良好にできれば、上記に限定されることなく、鍛造型の形状に応じて適宜変更することができる。また、環状溝99は、プライマリピストン18に形成するようにしたが、セカンダリピストン19に形成するようにしてもよい。
【0039】
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダを主に図5〜図8を参照しつつ第1実施形態との相違部分を中心に以下に説明する。なお、第1実施形態と同様の部分は同一称呼、同一符号としてその説明は略す。
【0040】
第2実施形態においては、図5に示すように、プライマリピストン18の一部形状と、これを押圧するバネ組立体79とが、第1実施形態に対して相違している。
【0041】
第2実施形態のバネ組立体79は、セカンダリピストン19の底部56に当接する軸線方向長さの短いリテーナ131と、プライマリピストン18の底部72に当接する軸線方向長さの長いリテーナ132と、長さの短いリテーナ131に一端部が固定されるとともに長さの長いリテーナ132を所定範囲内でのみ摺動自在に支持する軸部材133とを有している。よって、第2実施形態のバネ組立体79には、両側のリテーナ131,132間にこれらと軸部材133とで伸長長さが規制されて、プライマリピストンバネ78が介装されている。
【0042】
第2実施形態のバネ組立体79において、プライマリピストン18の内側円筒部71内に収容される部分に設けられる端部のリテーナ132は、図6に示すように、軸線方向に貫通する結合穴136が中央に形成された平板状の底板部137と、この底板部137の外周縁部から軸線方向に延出する円筒状の胴部138と、胴部138の底板部137とは反対側の端部から円周方向に等間隔で切り起こされた複数(三カ所)のテーパ片部139と、各テーパ片部139の胴部138とは反対側から軸線方向に沿って延出する円筒片部140と、各円筒片部140のテーパ片部139とは反対側から湾曲して軸直交方向外側に指向する湾曲片部141と、各湾曲片部141の円筒片部140とは反対側から軸直交方向に沿って外側に延出する係止片部142とを有している。
【0043】
ここで、複数のテーパ片部139は共通のテーパ面内に配置されてテーパ部143を構成しており、複数の円筒片部140も共通の円筒面内に配置されて軸線方向に沿う筒部144を構成している。また、複数の当接片部142も共通の平面内に配置されて、筒部144の開口縁から径方向に延びるフランジ部145を構成している。リテーナ132は、図5に示すように、結合穴136において軸部材133に結合されることになり、複数の係止片部142からなるフランジ部145にプライマリピストンバネ78の端部を係止する。
【0044】
第2実施形態のプライマリピストン18は、図7に示すように、内側円筒部71の内周側の内壁部150と、底部72の内側円筒部71側の内底部151とが、第1実施形態と同様、外側円筒部73の内周側の内壁部92と、底部72の外側円筒部73側の内底部93とともに鍛造により形成されることになる。
【0045】
内側円筒部71の内周面を形成する内壁部150は、プライマリピストン18の軸方向に沿う一定径の円筒面状をなしており、この内壁部150の内底部151側の端部には、内壁部150と内底部151とを結ぶように、プライマリピストン18の軸方向断面が円弧状をなす円弧状壁面部152が形成されている。
【0046】
内側円筒部71の内底部151には、円弧状壁面部152の内壁部150とは反対側に隣接してプライマリピストン18の軸直交方向に沿う平面部154が形成されており、径方向の中央に、平面部154よりも軸線方向に突出する突起部155が形成されている。この突起部155は、プライマリピストン18の軸方向に沿う一定径の円筒面状の外周面部156とプライマリピストン18の軸直交方向に沿う平坦な頂面部157とこれらの間の面取部158とからなっている。
【0047】
そして、プライマリピストン18の内底部151には、突起部155の外周面部156から、プライマリピストン18の軸方向に延びて環状溝160が鍛造により外側円筒部73側に凹んで形成されている。つまり、環状溝160は、内底部151の突起部155以外の環状部分の内周端に形成されている。
【0048】
図8に示すように、この環状溝160は、外周面部156に隣接しこの外周面部156からプライマリピストン18の軸方向に離れるほど大径となり且つプライマリピストン18の軸方向断面が円弧状をなす円弧状壁面部162と、円弧状壁面部162の外周面部156とは反対側に隣接し円弧状壁面部162からプライマリピストン18の軸直交方向に沿って外側に延出する円環状の平坦な溝底面部163とを有している。
【0049】
また、環状溝160は、溝底面部163の外径側に隣接して平面部154の方向に、プライマリピストン18の軸方向断面が円弧状をなすように延出する円弧状壁面部164と、円弧状壁面部164の溝底面部163とは反対側に隣接して平面部154の方向に、テーパ状に延出するテーパ面部165と、テーパ面部165の円弧状壁面部164とは反対側に隣接して平面部154の方向に、プライマリピストン18の軸方向断面が円弧状をなすように延出する円弧状角部166とを有している。この円弧状角部166のテーパ面部165とは反対側に平面部154が隣接している。そして、円弧状壁面部162は、その軸方向断面においてリテーナ132の湾曲片部141よりも大径の円弧状をなすように形成されている。
【0050】
バネ組立体79のリテーナ132は、筒部144を構成するすべての円筒片部140の内周面部168が径方向において同時に突起部155の外周面部156に当接することで、その径方向つまりプライマリピストン18の径方向への移動が規制され、プライマリピストン18に拘束されるようになっている。つまり、リテーナ132は、プライマリピストン18への嵌合時に、フランジ部145を構成するすべての係止片部142において、内底部151の環状溝160より外周側の平面部154に当接し、筒部144を構成する複数の円筒片部140の内周面部168において、突起部155の外周面部156に当接する。
【0051】
ここで、内底部151を鍛造により形成することにより生じる、突起部155の基端外周側の円弧状壁面部162をリテーナ132に干渉させることなく、リテーナ132のフランジ部145を平面部154に当接させることができるように、突起部155の外周面部156から軸方向に延びて形成される環状溝160の深さが設定されている。ここでは、具体的に、円弧状壁面部162が全体として平面部154よりもプライマリピストン18の軸方向の奥側の範囲に形成されるように、言い換えれば、円弧状壁面部162の外周面部156側の開始点と平面部154との、プライマリピストン18の軸方向における距離が0以上となるように、環状溝160の深さが設定されている。また、上述したように円弧状壁面部162は、その軸方向断面においてリテーナ132の湾曲片部141よりも大径の円弧状をなすように形成されている。以上の結果、リテーナ132は、円弧状壁面部162に干渉することなく、筒部144の内周面部168が突起部155の外周面部156でセンタリングされて内底部151の環状溝160よりも外周側に形成された平面部154にフランジ部145において当接する。つまり、リテーナ132は、フランジ部145において、内底部151の突起部155以外の環状部分に当接することになり、中央部が、内底部151から離れる方向に膨出してその内周側で突起部155の外周側に当接する筒部144となっている。
【0052】
以上に述べた第2実施形態に係るマスタシリンダ11によれば、プライマリピストン18に、リテーナ132と当接する突起部155の外周面部156から、軸方向に延びる環状溝160を鍛造により形成したため、鍛造による円弧状壁面部162がこの環状溝160の内周に形成されることになり、内底部151のリテーナ132の座面となる平面部154よりも奥側にずらすことができる。したがって、プライマリピストン18を鍛造により形成しても突起部155へのリテーナ132の軸方向の干渉を防止でき、リテーナ132の着座性が良好になる。よって、バネ組立体79の直立性を確保でき、プライマリピストン18の良好な摺動性能を確保することができる。また、摺動性が向上するためプライマリピストン18のこじりによる傷付きを改善できる。さらに、バネ組立体79のプライマリピストン18の軸線方向に対する傾きを抑制できるので、バネ組立体79が当接するセカンダリピストン19のシリンダ本体15の軸線方向に傾きを抑制でき、セカンダリピストン19の直立性を確保でき、セカンダリピストン19の良好な摺動性能を確保することができる。
【0053】
なお、環状溝160の形状も、バネ組立体79のリテーナ132の着座性を良好にできれば、上記に限定されることなく、鍛造型の形状に応じて適宜変更することができる。また、突起部155及び環状溝160は、プライマリピストン18に形成するようにしたが、セカンダリピストン19に形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダを示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダのリテーナを示すもので、(a)は底面図、(b)は側断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダのプライマリピストンを示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダを示す図1の要部Aの拡大断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダを示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダのリテーナを示すもので、(a)は底面図、(b)は側断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダのプライマリピストンを示す断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダを示す図5の要部Bの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0055】
11 マスタシリンダ
15 シリンダ本体
18 プライマリピストン(ピストン)
32 シール溝
45 カップシール(シール)
71 内側円筒部(筒状部)
72 底部
78 プライマリピストンバネ(バネ)
79 バネ組立体
85 プライマリ圧力室(圧力室)
97 内壁面部(規制部)
98 平面部
99 環状溝
120 リテーナ
132 リテーナ
144 筒部
145 フランジ部
154 平面部
155 突起部
156 外周面部(外周面)
160 環状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状に形成され内部に圧力室を画成するためのシールを格納するシール溝が設けられたシリンダ本体と、
前記シールにその外周で当接して前記シリンダ本体内を摺動可能に設けられ、鍛造により有底筒状に形成されるピストンと、
該ピストンを前記シリンダ本体の開口側へ付勢するバネを備え、前記ピストンの筒状部内に収容され前記ピストンの底部に当接可能なリテーナにより前記バネの伸長長さが規制されたバネ組立体と、を有し、
前記ピストンは、前記筒状部の内周面に設けられ前記リテーナと当接可能で該リテーナの前記ピストンの径方向への移動を規制する規制部と、前記底部に設けられ鍛造により前記規制部から連続して前記底部の外周端に形成される環状溝とを有し、
前記リテーナは、前記底部の前記環状溝より内周側の平面部に当接するとともに、外周端が前記規制部に当接することを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
有底筒状に形成され内部に圧力室を画成するためのシールを格納するシール溝が設けられたシリンダ本体と、
前記シールにその外周で当接して前記シリンダ本体内を摺動可能に設けられ、鍛造により有底筒状に形成されるピストンと、
該ピストンを前記シリンダ本体の開口側へ付勢するバネを備え、前記ピストンの筒状部内に収容され前記ピストンの底部に当接可能なリテーナにより前記バネの伸長長さが規制されたバネ組立体と、を有し、
前記ピストンは、前記底部の径方向中央に形成されその外周面が前記リテーナと当接可能で該リテーナの前記ピストンの径方向への移動を規制する突起部と、前記底部に設けられ鍛造により前記突起部の外周面から軸方向に延びて形成される環状溝とを有し、
前記リテーナは、筒部と該筒部の開口縁から径方向に延びるフランジ部とから形成され、前記筒部の内周面が前記突起部に当接するとともに、前記フランジ部が前記底部の前記環状溝より外周側の平面部に当接することを特徴とするマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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