説明

マスタシリンダ

【課題】大型化を抑制しつつ下流側からの吸引でリザーバの作動液を下流側に円滑に流すことができるマスタシリンダの提供。
【解決手段】バイパス通路91に介装されて圧力室内の圧力がリザーバの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁が、リザーバから圧力室への作動液の流通をリップ部142が撓んでバイパス通路91の内周面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通をリップ部142がバイパス通路91の内周面に接して遮断するカップシール92からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧を発生させるマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
下流側からの吸引でリザーバの作動液を比較的大容量で流すハイフローバルブを備えたマスタシリンダがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−230283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のマスタシリンダでは、下流側からの吸引でリザーバの作動液を流すための構成が大型であった。
【0005】
したがって、本発明は、大型化を抑制しつつ下流側からの吸引でリザーバの作動液を下流側に円滑に流すことができるマスタシリンダの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、バイパス通路内に配置されリザーバから圧力室への作動液の流通をリップ部が撓んで前記バイパス通路の内周面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を前記リップ部が前記内周面に接して遮断するカップシールを設けた。
【0007】
また、本発明は、シリンダ通路内に配置され制御弁室と小径圧室とを区画するとともに、前記制御弁室から前記小径圧室への作動液の流通をリップ部が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断するカップシールを備えた。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大型化を抑制しつつ下流側からの吸引でリザーバの作動液を下流側に円滑に流すことができるマスタシリンダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダを示す主断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の変形例に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の第5実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の第6実施形態に係るマスタシリンダを示す主断面図である。
【図9】本発明の第6実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【図10】本発明の第7実施形態に係るマスタシリンダを示す主断面図である。
【図11】本発明の第7実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【図12】本発明の第8実施形態に係るマスタシリンダの要部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態を図1乃至図3に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、第1実施形態に係るマスタシリンダ1は、いわゆるプランジャ型のマスタシリンダであり、図示は略すがブレーキペダルの操作等によって移動するブースタの出力軸で押圧されることによりディスクブレーキ等のブレーキ装置に導入する作動液圧を発生させるものである。
【0013】
マスタシリンダ1は、底部2と筒部3とを有する有底筒状をなすとともにその口部4側において図示略のブースタに取り付けられるシリンダ本体(段付シリンダ)5と、このシリンダ本体5内のボア6の口部4側に、筒部3の軸線(以下、シリンダ軸と称す)に沿って摺動自在に嵌合されるプライマリピストン(ピストン,段付ピストン)8と、シリンダ本体5のボア6内のプライマリピストン8よりも底部2側に、シリンダ軸方向に沿って摺動自在に嵌合されるセカンダリピストン(他のピストン)9とを有するタンデムタイプのものである。なお、本実施形態においては、シリンダ軸は水平に配置されるものとしている。
【0014】
ここで、筒部3の内径側のボア6には、底部2側に第1小径摺動内径部11が形成されており、中間に第2小径摺動内径部12が形成されていて、口部4側に第1小径摺動内径部11および第2小径摺動内径部12よりも大径の大径摺動内径部13が形成されている。そして、セカンダリピストン9は第1小径摺動内径部11で摺動が案内されることになり、プライマリピストン8は、常に大径摺動内径部13で摺動が案内されるとともに、位置により第2小径摺動内径部12でも摺動が案内されることになる。
【0015】
シリンダ本体5には、これと一体に、筒部3から筒部3の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)における外側、具体的には、上側に突出する二カ所の取付台部15,16が、シリンダ軸方向に離間して筒部3の円周方向(以下、シリンダ円周方向と称す)における同位置に形成されており、これら取付台部15,16それぞれに形成された取付穴17,18に、作動液を貯留し作動液をシリンダ本体5に導入するリザーバRが取り付けられる。
【0016】
シリンダ本体5の第1小径摺動内径部11には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のシリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝19およびシール周溝20が底部2側から順に形成されている。底部2側のシール周溝19には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング21が底部2側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。また、口部4側のシール周溝20には、シールリング22が嵌合されている。
【0017】
第1小径摺動内径部11には、シール周溝19とシール周溝20との間に、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝23が形成されている。この開口溝23は、底部2側の取付穴17に開口することでリザーバRに常時連通状態とされる連通穴24に連通されている。なお、シリンダ本体5のシール周溝19よりも底部2側には、第1小径摺動内径部11よりも若干大径の底部側大径内径部25が形成されている。
【0018】
シリンダ本体5の第1小径摺動内径部11と第2小径摺動内径部12との間には、これらよりも若干大径の中間大径内径部26が形成されている。
【0019】
第2小径摺動内径部12には、シリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝28が形成されており、このシール周溝28には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング(逆止開閉部)29が、底部2側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。
【0020】
第2小径摺動内径部12の中間大径内径部26側には、シール周溝28と中間大径内径部26とをつなぐ偏心溝30がシリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この偏心溝30は第2小径摺動内径部12よりも小径であって第2小径摺動内径部12と平行な軸を中心とした円弧状をなしている。
【0021】
シリンダ本体5の第2小径摺動内径部12と大径摺動内径部13との間には、これらよりも大径で、底部側大径内径部25および中間大径内径部26よりも大径の口部側大径内径部31が形成されている。
【0022】
シリンダ本体5の大径摺動内径部13には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のシリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝32およびシール周溝33が底部2側から順に形成されている。底部2側のシール周溝32には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング34が底部2側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。また、口部4側のシール周溝33には、シールリング35が嵌合されている。
【0023】
大径摺動内径部13には、シール周溝32とシール周溝33との間に、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝36が形成されている。この開口溝36は、開口溝36に開口する小径の連通穴37と、連通穴37および取付穴18に対しオフセットして形成されて取付穴18に開口する大径の連通穴38とによって、リザーバRに常時連通状態とされている。
【0024】
シリンダ本体5の筒部3の側部には、作動液を図示せぬブレーキキャリパに供給するための図示せぬブレーキ配管が取り付けられるセカンダリ吐出路40およびプライマリ吐出路41が形成されている。
【0025】
ここで、シリンダ本体5は、底部側大径内径部25と第1小径摺動内径部11と中間大径内径部26と第2小径摺動内径部12とが小径シリンダ部43を構成しており、口部側大径内径部31と大径摺動内径部13とが、小径シリンダ部43よりも全体として大径の大径シリンダ部44を構成している。
【0026】
シリンダ本体5の底部2側に嵌合されるセカンダリピストン9は、円筒部46と、円筒部46の軸線方向における一側に形成された底部47とを有する有底円筒状をなしており、その円筒部46を底部2側に配置した状態でシリンダ本体5の第1小径摺動内径部11に摺動可能に嵌合されている。円筒部46の底部47とは反対側の端部には、径方向内方に若干凹む円環状の環状段差部49が形成されており、この環状段差部49に、シリンダ径方向に貫通するポート48が複数放射状に形成されている。
【0027】
ここで、シリンダ本体5の底部2および筒部3の底部2側とセカンダリピストン9とで囲まれてシールリング21でシールされる部分が、セカンダリ吐出路40に液圧を供給するセカンダリ液圧室(他の液圧室)50となっており、このセカンダリ液圧室50は、セカンダリピストン9がポート48を開口溝23に開口させる位置にあるとき、リザーバRに連通する。言い換えれば、シリンダ本体5とセカンダリピストン9とでセカンダリ液圧室50が形成されている。
【0028】
シリンダ本体5の底部2側のシール周溝19に設けられたシールリング21は、内周がセカンダリピストン9の外周側に摺接することになり、セカンダリピストン9がポート48をシールリング21よりも底部2側に位置させた状態では、セカンダリ液圧室50とリザーバRとの連通を遮断可能となっており、これらに圧力差が生じた場合にリザーバR側からセカンダリ液圧室50側への作動液の流れのみを許容する。また、シリンダ本体5のシール周溝20に設けられたシールリング22は、内周がセカンダリピストン9の外周側に摺接することになり、リザーバRに連通する開口溝23と後述するプライマリ液圧室51との連通を遮断する。
【0029】
セカンダリピストン9とシリンダ本体5の底部2との間には、縮長状態でセカンダリピストン9をシリンダ本体5の口部4側へ付勢するコイル状のセカンダリリターンスプリング56を含むバネ組立体57が円筒部46内に挿入された状態で設けられている。
【0030】
このバネ組立体57は、シリンダ本体5の底部2に当接する軸線方向長さの長い部材58と、セカンダリピストン19の底部56に当接する軸線方向長さの短い部材59と、これら一対の部材64,65を連結する軸部材60とからなるリテーナ61を有している。軸部材60は、長さの短い部材59に一端部が固定されるとともに長さの長い部材58を所定範囲内でのみ摺動自在に支持するもので、セカンダリリターンスプリング56は、リテーナ61の両側の相対移動可能に連結された部材58,59間に縮長可能に介装されており、リテーナ61で最大長が規制されている。図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態のセカンダリピストン9とシリンダ本体5の底部2との間隔は、バネ組立体57によって決められる。また、バネ組立体57によってプライマリピストン8とともにセカンダリピストン9がシリンダ本体5内を摺動することになる。
【0031】
シリンダ本体5の口部4側に嵌合されるプライマリピストン8は、軸線方向一側が、小径ピストン部65とされ、軸線方向他側がこれより大径の大径ピストン部66とされた段付きの外形形状をなしている。また、プライマリピストン8は、小径ピストン部65側に軸方向に沿って穴部70が形成され、大径ピストン部66側に軸方向に沿って穴部71が形成されている。大径ピストン部66の小径ピストン部65側には径方向内方に凹む円環溝73が形成されており、この円環溝73よりも小径ピストン部65側には軸線方向に沿って延在する連通溝74が複数形成されている。
【0032】
そして、プライマリピストン8は、その小径ピストン部65がシリンダ本体5内における小径シリンダ部43内の第2小径摺動内径部12に摺動可能に挿入されるとともに大径ピストン部66がシリンダ本体5内における大径シリンダ部44内の大径摺動内径部13に摺動可能に挿入されている。
【0033】
プライマリピストン8の小径ピストン部65の大径ピストン部66に対し反対側の端部の円筒状部分には、径方向内方に若干凹む円環状の環状凹部72が形成されており、この環状凹部72に、径方向に貫通するポート75が複数放射状に形成されている。
【0034】
ここで、シリンダ本体5の第1小径摺動内径部11と第2小径摺動内径部12との間とプライマリピストン8とセカンダリピストン9とで画成され、シールリング22およびシールリング29でシールされる部分がプライマリ吐出路41に液圧を供給するプライマリ液圧室(圧力室,小径液圧室)51となっている。また、シリンダ本体5の第2小径摺動内径部12と大径摺動内径部13との間とプライマリピストン8とで囲まれ、シールリング29およびシールリング34でシールされる部分がプライマリ液圧室51より大径の大径与圧室76となっている。プライマリ液圧室51は、プライマリピストン8がポート75を大径与圧室76に開口させる位置にあるとき、大径与圧室76に連通する。
【0035】
シリンダ本体5の第2小径摺動内径部12に設けられたシールリング29は、内周がプライマリピストン8の外周側に摺接することになり、プライマリピストン8がポート75をシールリング29よりも底部2側に位置させた状態では、プライマリ液圧室51と大径与圧室76との連通を遮断可能となっている。また、シールリング29は、カップシールであることから、シリンダ本体5内を大径ピストン部66側の大径与圧室76と小径ピストン部65側のプライマリ液圧室51とに区画するとともに、これらの間に圧力差が生じた場合に大径与圧室76側からプライマリ液圧室51側への作動液の流れのみを許容する。
【0036】
シール周溝32に設けられたシールリング34は、内周がプライマリピストン8の大径ピストン部66の外周側に摺接することになり、プライマリピストン8が連通溝74および円環溝73をシールリング34よりも底部2側に位置させた状態では、大径与圧室76と連通穴37つまりリザーバRとの連通を遮断可能となっている。このシールリング34も、カップシールであることから、大径与圧室76とリザーバRとの間に圧力差が生じた場合に開口溝36および連通穴37,38を介してリザーバR側から大径与圧室76側への作動液の流れのみを許容する。
【0037】
以上により、大径与圧室76の液圧がリザーバRの液圧(=大気圧)以下であり、プライマリ液圧室51の液圧が大径与圧室76の液圧より低い場合は、シールリング29,34のうちの少なくともシールリング29が開弁して、シリンダ本体5に、取付穴18と、連通穴37,38と、大径摺動内径部13、口部側大径内径部31および第2小径摺動内径部12とプライマリピストン8との隙間とを介して、リザーバRからプライマリ液圧室51に作動液を補給する。シールリング29,34のうちの少なくともシールリング29が開弁することで形成される、取付穴18と、連通穴37,38と、大径摺動内径部13、口部側大径内径部31および第2小径摺動内径部12とプライマリピストン8との隙間とが、シリンダ本体5に形成されてリザーバRからプライマリ液圧室51に作動液を補給する補給通路85を構成する。
【0038】
また、口部4側のシール周溝33に設けられたシールリング35は、プライマリピストン8の大径ピストン部66に摺接することにより、シリンダ本体5の内周側とプライマリピストン8の外周側との隙間を介しての連通穴37つまりリザーバRと外気との連通を遮断する。
【0039】
セカンダリピストン9とプライマリピストン8との間には、縮長状態でプライマリピストン8をシリンダ本体5の口部4側へ付勢するコイル状のプライマリリターンスプリング78を含むバネ組立体79が穴部70内に挿入された状態で設けられている。
【0040】
このバネ組立体79は、セカンダリピストン9の底部47に当接する軸線方向長さの長い部材80と、プライマリピストン8の穴部70の底面に当接する軸線方向長さの短い部材81と、これら一対の部材80,81を連結する軸部材82とからなるリテーナ83を有している。軸部材82は、長さの短い部材81に一端部が固定されるとともに長さの長い部材80を所定範囲内でのみ摺動自在に支持するもので、プライマリリターンスプリング78は、リテーナ74の両側の相対移動可能に連結された部材80,81間に縮長可能に介装されており、リテーナ83で最大長が規制されている。図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態のセカンダリピストン9とプライマリピストン8との間隔はバネ組立体79によって決められる。
【0041】
なお、シリンダ本体5は、底部2と筒部3と取付台部15,16とが、例えばアルミニウム鋳造品からなる一体成形の素材から加工されて形成されている。
【0042】
セカンダリピストン9は、図示略のブレーキペダル側から入力がない図1に示す初期状態(このときの各部の位置を初期位置と以下称す)で、バネ組立体57のセカンダリリターンスプリング56の付勢力で最も底部2から離れた初期位置にある。このとき、セカンダリピストン9は、ポート48を開口溝23に開口させており、その結果、セカンダリ液圧室50を、ポート48、開口溝23、連通穴24および取付穴17で構成される補給通路(他の補給通路)86を介してリザーバRに液補給可能に連通させている。
【0043】
この状態からセカンダリピストン9が、ブレーキペダルの入力をプライマリピストン8およびバネ組立体79を介して受けて底部2側に移動すると、セカンダリピストン9はそのポート48がシールリング21で閉塞され、その結果、セカンダリ液圧室50とリザーバRとの連通が遮断されることになり、これにより、さらにセカンダリピストン9が底部2側に移動することでセカンダリ液圧室50からセカンダリ吐出路40を介してブレーキ装置に作動液を供給する。なお、ポート48を閉塞させた状態であってもリザーバR側の液圧(大気圧)よりもセカンダリ液圧室50の液圧が低くなると、シールリング21が開いてリザーバRの作動液がセカンダリ液圧室50に流れるようになっている。
【0044】
また、プライマリピストン8は、バネ組立体57のセカンダリリターンスプリング56の付勢力とバネ組立体79のプライマリリターンスプリング78の付勢力とによって最も口部4側の初期位置に配置された状態にあるとき、プライマリ液圧室51に連通するポート75を開いてプライマリ液圧室51と大径与圧室76とを連通させている。
【0045】
この状態から、プライマリピストン8がブレーキペダルの入力で底部2側に移動すると、プライマリピストン8は、そのポート75がシールリング29で閉塞され、プライマリ液圧室51と大径与圧室76側とのポート75を介しての連通を遮断することになり、この状態からさらに底部2側に移動すると、プライマリ液圧室51からプライマリ吐出路41を介してブレーキ装置に作動液を供給する。なお、ポート75を閉塞させた状態であっても大径与圧室76の液圧がプライマリ液圧室51の液圧より高くなると、シールリング29を開いて大径与圧室76の作動液がプライマリ液圧室51に流れるようになっている。
【0046】
また、プライマリピストン8は、初期位置にあるとき、連通溝74と円環溝73と開口溝36と連通穴37,38と取付穴18とで構成される補給通路(一の補給通路)87によって大径与圧室76とリザーバRとを液補給可能に連通させている。この状態からプライマリピストン8が、底部2側に摺動すると、連通溝74および円環溝73がシールリング34で閉塞されて、大径与圧室76とリザーバRとの連通を遮断することになり、さらに摺動すると、大径ピストン部66が大径与圧室76の体積を減少させることで、大径与圧室76の液圧を高め、大径与圧室76とプライマリ液圧室51との間に設けられたシールリング29を開いて、大径与圧室76側からプライマリ液圧室51へ液補給を行うことになる。ブレーキ装置に対して作動液を供給する際、このように作動初期に大容量の作動液を供給する、いわゆるファストフィルを行うことで、ストローク初期の無効液量分を補い、ペダルストロークを短縮する。
【0047】
そして、第1実施形態に係るマスタシリンダ1では、上記したファストフィル時に、プライマリ液圧室51への液補給の進行に伴って大径与圧室76の液圧を徐々に解除する必要がある。このため、上記した大径与圧室76、プライマリ液圧室51およびリザーバRに接続されるとともに、大径与圧室76の液圧を低下させるようにリザーバ側Rに逃がす制御弁機構90が、シリンダ本体5に組み込まれて設けられている。この制御弁機構90は、大径与圧室76の液圧をプライマリ液圧室51の液圧上昇に応じて徐々に低下させるようにリザーバR側に逃がす。
【0048】
また、第1実施形態に係るマスタシリンダ1では、車両姿勢安定制御システムの図示略のポンプによるポンプアップに対応するため、シリンダ本体5とプライマリピストン8との隙間に形成される補給通路85をバイパスしてリザーバRとプライマリ液圧室51とを連通するバイパス通路91と、バイパス通路91に介装されてプライマリ液圧室51内の圧力がリザーバRの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁としてのカップシール92とが、シリンダ本体5に不動に組み込まれて設けられている。言い換えれば、リザーバRとプライマリ液圧室51とをバイパス接続させるバイパス通路91に、リザーバR側からプライマリ液圧室51側への作動液の流通を許し、プライマリ液圧室51側からリザーバR側への作動液の流通を遮断する逆止弁としてのカップシール92が、シリンダ本体5に組み込まれて設けられている。
【0049】
このため、シリンダ本体5には、筒部3のシリンダ軸方向の中間位置、具体的には、二カ所の取付台部15,16の間位置からシリンダ径方向に沿ってシリンダ状をなして突出する径方向突出部94が形成されている。この径方向突出部94も、シリンダ本体5の鋳造時に底部2、筒部3および取付台部15,16と一体成形される。なお、説明の都合上、径方向突出部94は、シリンダ本体5からシリンダ径方向に沿って鉛直下方に突出するように形成されているが、リザーバRとの連通穴を形成するために、シリンダ本体5からシリンダ径方向に沿って車両の左右いずれかの方向に突出するように形成することが好ましい。
【0050】
径方向突出部94は制御弁機構90およびカップシール92が組み込まれるケーシングを構成するもので、径方向突出部94の内側には、シリンダ径方向である鉛直方向に沿う径方向穴95が下側から形成されている。この径方向穴95は、図2に示すように、筒部3側から順に、口部側大径内径部31に開口することで大径与圧室76に連通する第1穴部96と、この第1穴部96と同軸でこれよりも大径の第2穴部97と、この第2穴部97と同軸でこれよりも大径の第3穴部98と、この第3穴部98と同軸でこれよりも大径の第4穴部99とを有している。第3穴部98には、第4穴部99側にメネジ100が形成されており、また、第4穴部99における第3穴部98とは反対側において、径方向穴95が外側に開口する。なお、径方向穴95は、すべて径方向突出部94の突出方向前方から工具で加工形成される。
【0051】
シリンダ本体5には、径方向穴95の第3穴部98の軸方向における第2穴部97側の端部に、図1に示すように中間大径内径部26とを結ぶことで、プライマリ液圧室51に連通する連通穴101が形成されている。図2に示すように、この連通穴101の延長線は径方向穴95内にあって径方向穴95の開口部内の位置から外方に延出する。この連通穴101は、径方向穴95から挿入される工具で加工形成される。
【0052】
加えて、シリンダ本体5には、径方向穴95の第2穴部97の軸方向における第1穴部96側の端部に、図1に示すようにシリンダ本体5における口部4側の取付穴18内に開口することでリザーバRに連通する連通穴102が形成されている。この連通穴102の延長線は、径方向穴95内にあって径方向穴95の開口部内の位置から外方に延出するとともに、取付穴18内にあり、この連通穴102は、径方向穴95または取付穴18から挿入される工具で加工形成される。
【0053】
ここで、径方向穴95は、開口部側が蓋体105で閉塞されることになり、蓋体105で閉塞された径方向穴95の第1穴部96を除く部分と、取付穴18と、連通穴101と、連通穴102とによって、シリンダ本体5とプライマリピストン8との隙間に形成される補給通路85をバイパスしてリザーバRとプライマリ液圧室51とを連通する上記したバイパス通路91が形成されている。また、蓋体105で閉塞された径方向突出部94の径方向穴95内は、制御弁機構90の後述する制御弁体145を摺動可能に収容するシリンダ通路106をも構成している。このシリンダ通路106は、シリンダ本体5の径方向に沿って形成されており、リザーバRと大径与圧室76とを連通する補給通路87と、リザーバRとセカンダリ液圧室50とを連通する補給通路86との間に形成されている。
【0054】
図2に詳細に示すように、径方向穴95の第2穴部97内には、筒状のガイド部材(保持部材)110が嵌合されている。言い換えれば、このガイド部材110は、上記したバイパス通路91内に配置されている。ガイド部材110は、軸方向一側が、第2穴部97に嵌合し第2穴部97の底面に当接する円板状部111とされ、軸方向他側が円板状部111よりも小径で円板状部111と同軸の円筒状部112となっている。ガイド部材110の中央には、第1穴部96よりも大径で軸線方向に貫通する貫通穴113が形成されており、貫通穴113は、軸線方向において円板状部111側の端部から円筒状部112の中間位置まで形成される小径穴部114と、円筒状部112側の端部に小径穴部114と同軸で小径穴部114よりも大径に形成される大径穴部115とを有している。
【0055】
また、円板状部111の軸方向の中間部には、外周部から径方向内方に凹む円環状の円環溝116が小径穴部114と同軸に形成されており、円板状部111を第1の円板状部111Aと第2の円板状部111Bとに分割している。上記円環溝116の底部には、円環溝116と小径穴部114とを連通させる複数の連通穴117がそれぞれ円板状部111の径方向に沿って形成されている。さらに、円板状部111には、円環溝116から円筒状部112側に抜けるべく第2の円板状部111Bを貫通する複数の連通穴118がそれぞれ円板状部111の軸方向に沿って形成されている。これら複数の連通穴118とカップシール92との間には、一方向弁として機能するディスクバルブである図示せぬ金属製のスペーサが配置されている。このスペーサによりシリンダ通路106からリザーバRへの作動液の流れが阻止されるようになっている。
【0056】
なお、上記スペーサは連通穴118を形成したときに必要であるため、図3の変形例に示すように、連通穴118およびスペーサを設けないようにしてもよい。この場合、ガイド部材110の少なくとも第2の円板状部111’Bの外径φdは、第2穴部97の内径φDよりも小さくし、第2の円板状部111’Bと第2穴部97とのクリアランスを0.2〜0.4mmとすることが好ましい。この変形例においては、第1実施形態に示すものに対して連通穴118およびスペーサを廃止できるため、加工や組み付けの工数が低減でき、マスタシリンダの製造効率が向上する。
【0057】
また、ガイド部材110の円筒状部112には、大径穴部115の位置に、連通穴119が円筒状部112の径方向に沿って形成されている。なお、ガイド部材110は円板状部111において第2穴部97の底面に当接すると円環溝116の軸方向位置を連通穴102の第2穴部97への開口位置に合わせることになる。また、連通穴102の第2穴部97への開口範囲は、ガイド部材110の円板状部111の範囲内となっている。
【0058】
径方向穴95は、径方向突出部94とともにケーシングを構成する上記した蓋体105で閉塞されている。この蓋体105は、軸方向一端側から順に、先端軸状部122と、先端軸状部122よりも大径でオネジ123が形成されたネジ軸部124と、先端軸状部122より大径でネジ軸部124よりも若干小径の軸状部125と、ネジ軸部124および軸状部125よりも大径の軸状部126と、軸状部126よりも大径の当接板状部127とをそれぞれ同軸に有する段付きの外形形状をなしている。
【0059】
また、蓋体105には、当接板状部127とは反対側の中央に蓋体穴129が形成されている。蓋体穴129は、先端軸状部122の当接板状部127とは反対側の端部にある大径の第1穴部130と、この第1穴部130の底面から当接板状部127側に形成される、第1穴部130に対して同軸で小径の第2穴部131と、この第2穴部131の底面から当接板状部127側に形成される、第2穴部131に対して同軸で小径の第3穴部132とからなっている。先端軸状部122には、第2穴部131の位置に、径方向に貫通する連通穴133が形成されている。なお、第3穴部132はガイド部材110の大径穴部115と同軸で同径となっており、よって小径穴部114よりも大径となっている。
【0060】
蓋体105は、ネジ軸部124に形成されたオネジ123において径方向穴95のメネジ100に螺合されると、当接板状部127の軸状部126側の端面を径方向突出部94の先端面に当接させるとともに、第2穴部131の底面にガイド部材110の円筒状部112の円板状部111とは反対側の端面を当接させる。これにより、ガイド部材110が、径方向穴95および蓋体105と同軸に配置された状態で、蓋体105によって径方向突出部94に固定されることになる。この状態でオネジ123とメネジ100との螺合位置の外側となる蓋体105の軸状部125と径方向穴95の第4穴部99との間には、径方向突出部94と蓋体105との隙間をシールするシールリング134が配設されている。
【0061】
ここで、上記のように蓋体105が径方向突出部94に螺合された状態で、蓋体105の第2穴部131の内側に、径方向突出部94内に嵌合されたガイド部材110の円筒状部112が径方向に隙間をもって配置されることになる。また、この状態で、ガイド部材110の円環溝116が、上記のように連通穴102に連通することになり、径方向突出部94の第2穴部97および第3穴部98と、ガイド部材110の円板状部111の円筒状部112側および円筒状部112と、蓋体105の先端軸状部122側との間の部分の室136が、円環溝116および連通穴118を介して連通穴101に連通する。これにより、バイパス通路91内に配置されるガイド部材110の円環溝116および連通穴118と、バイパス通路91内にガイド部材110および蓋体105によって形成される室136とが、取付穴18と連通穴102と連通穴101とによって、リザーバRとプライマリ液圧室51とを連通する連通路137を構成する。なお、蓋体105の連通穴133も室136に含まれる。
【0062】
そして、バイパス通路91の連通路137を構成する室136内には、バイパス通路91内に設けられるガイド部材110により保持されるカップシール92が設けられている。このカップシール92は、円環板状のベース部140と、ベース部140の内周縁部から軸方向一側に延出する略円筒状の内周リップ部141と、ベース部140の外周縁部から内周リップ部141と同側に延出する、延出先端側ほど拡径する略テーパ筒状の外周リップ部142とを有している。カップシール92には、ベース部140の軸方向における外周リップ部142とは反対側の端面に軸方向に凹み径方向に貫通して形成されるとともにこの端面から外周リップ部142の外周面の軸方向途中位置まで径方向内方に凹んで延出する通路溝143が円周方向に間隔をあけて複数形成されている。また、内周リップ部141の外周面には軸方向に凹凸状をなす凹凸部144が全周にわたって形成されている。
【0063】
カップシール92は、外周リップ部142がベース部140に対して角度が変化するようになっており、径方向の肉厚が内周リップ部141よりも外周リップ部142の方が薄くなっている。
【0064】
カップシール92は、そのベース部140が、蓋体105とガイド部材110の円板状部111との間に配置され、かつ内周リップ部141が蓋体105の第1穴部130の径方向内側に配置された状態で、内周リップ部141においてガイド部材110の円筒状部112に密着するように嵌合されることになる。このとき、カップシール92は、そのベース部140が、蓋体105の先端軸状部122に対し軸方向の隙間を形成可能となっており、その内周リップ部141が、蓋体105の第1穴部130との間に径方向および軸方向の隙間を形成可能となっている。また、カップシール92は、外周リップ部142が蓋体105の先端軸状部122と径方向穴95の第2穴部97との隙間に配置されることになり、自然状態にあるときバイパス通路91の連通路137の内周面を構成する径方向穴95の第2穴部97の内周面に接触する。この状態で、外周リップ部142は蓋体105の先端軸状部122との間に径方向の隙間が形成されており、この隙間分、先端軸状部122側に撓むと、外周リップ部142が第2穴部97の内周面から離間する。つまり、外周リップ部142は連通路137の内周面を構成する第2穴部97に対して接離可能となっている。
【0065】
そして、カップシール92は、リザーバRから連通路137を介してのプライマリ液圧室51への作動液の流通を、外周リップ部142が撓んで第2穴部97から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を外周リップ部142が第2穴部97に接して遮断する。つまり、カップシール92は、プライマリ液圧室51側の液圧がリザーバR側の液圧(大気圧)以上であると、外周リップ部142が連通路137の内周面に接触することで連通路137を閉じて、プライマリ液圧室51から連通路137を含むバイパス通路91を介してのリザーバRの作動液の流通を規制する。他方、カップシール92は、リザーバR側の液圧(大気圧)よりもプライマリ液圧室51側の液圧が低くなると液圧差で外周リップ部142が連通路137の内周面から離間する方向に撓んで連通路137を開いて、リザーバRから連通路137を含むバイパス通路91を介してのプライマリ液圧室51の作動液の流通を行わせることになる。このような、カップシール92の作用は、上述したように径方向の肉厚が内周リップ部141よりも外周リップ部142の方が薄くなっていることで、確実に行われるようになっている。
【0066】
シリンダ通路106内の、蓋体105の第3穴部132の内側およびガイド部材110の貫通穴113の内側に、これら蓋体105およびガイド部材110の軸方向に沿って往復移動する制御弁体145が摺動可能に収容されており、制御弁体145をシリンダ本体5の筒部3側に付勢する弁スプリング146も収容されている。制御弁体145および弁スプリング146が制御弁機構90を構成する。
【0067】
制御弁体145は、軸方向一側から順に、第1軸部148と、第1軸部148と同軸でこれより大径の第2軸部149と、第2軸部149と同軸でこれより大径の第3軸部150とを有するピストン部材151を有している。ピストン部材151の第1軸部148の先端の径方向の中央には軸方向に凹む軸直交断面が円形状をなす嵌合凹部152が同軸状に形成されており、第2軸部149の第1軸部148側の外周部には径方向内方に凹む円環状のシール溝153が同軸状に形成されている。さらに、第3軸部150の外周部にも、径方向内方に凹む円環状のシール溝154が同軸状に形成されている。
【0068】
また、ピストン部材151には、軸方向に沿って第3軸部側130側に形成される第1穴部156と、第1穴部156の底部から第1穴部156と同軸をなして嵌合凹部152の手前まで形成される、第1穴部156よりも小径の第2穴部157と、第2穴部157の第1穴部156とは反対側の端部位置から第2穴部157に直交するように径方向に形成される直交穴部158とが形成されている。これら第1穴部156、第2穴部157および直交穴部158は、ピストン部材151の嵌合凹部152とは反対側の端部に一端側が開口するとともに他端側が第1軸部148の第2軸部149側の外径面に開口する内部通路159を構成している。ピストン部材151は、第2軸部149がガイド部材110の小径穴部114に摺動可能に嵌合され、第3軸部150が蓋体105の第3穴部132の内周面に摺動可能に嵌合される。
【0069】
制御弁体145は、嵌合凹部152に嵌合され、ピストン部材151の径方向穴95の第2穴部97の底面に先端の円環状の突部161を当接させることで第1穴部96を閉塞可能なシール部材162と、第2軸部149のシール溝153に嵌合されて、第2軸部149とガイド部材110の小径穴部114との隙間を常時シールするシールリング163と、第3軸部150に嵌合されて、第3軸部150と蓋体105の第3穴部132との隙間を常時シールするシールリング164とを有している。
【0070】
弁スプリング146は、一定径のコイルスプリングであり、ピストン部材151の第1穴部156内に挿入されており、第1穴部156の底面と蓋体105の第3穴部132の底面とに当接して制御弁体145をそのシール部材162で第1穴部96を閉塞する方向に付勢する。
【0071】
上記したシリンダ通路106のうち、ガイド部材110の小径穴部113と径方向穴95の第2穴部97の底面と制御弁体145との間の部分が制御弁室166となっている。この制御弁室166は、シリンダ本体5の連通穴102と、ガイド部材110の円環溝116および連通穴117とを介してリザーバRに常時連通するとともに、径方向穴95の第1穴部96を介して大径与圧室76に連通可能であって、制御弁体145によって大径与圧室76との連通・遮断が行われることになる。
【0072】
また、シリンダ通路106のうち、主に制御弁体145と、ガイド部材110の大径穴部115と蓋体105の第3穴部132との間の部分が小径圧室167となっている。この小径圧室167は、シリンダ本体5の連通穴101と、径方向穴95、蓋体105、カップシール92およびガイド部材110の間の室136と、ガイド部材110の連通穴119とを介してプライマリ液圧室51に連通し、制御弁体145にプライマリ液圧室51の液圧を作用させる。この小径圧室167に導入されたプライマリ液圧室51の液圧は、制御弁体145の大径のシールリング164によるシール部分と小径のシールリング163によるシール部分とに作用し、これらの受圧面積差による推力を制御弁体145に発生させる。
【0073】
カップシール92は、上記したようにシリンダ通路106の室136内に配置されており、ガイド部材110の連通穴117、円環溝116および連通穴118を介して室136に連通する制御弁室166と、ガイド部材110の連通穴119を介して室136に連通する小径圧室167とを区画するとともに、制御弁室166から小径圧室167への作動液の流通を外周リップ部142が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断する。
【0074】
制御弁機構90の制御弁体145が径方向穴95の第2穴部97の底面から離れた状態で、径方向穴95の第1穴部96と、制御弁室166と、ガイド部材110の連通穴117および円環溝116と、連通穴102と、取付穴18とを介して大径与圧室76とリザーバRとが連通する。これらの第1穴部96と、制御弁室166と、ガイド部材110の連通穴117および円環溝116と、連通穴102と、取付穴18とが、大径与圧室76とリザーバRとを連通させることで、大径与圧室76の液圧を制御弁機構90を介してリザーバRに逃がす開放通路170を形成している。
【0075】
逆止弁として機能するカップシール92は、プライマリ液圧室51側の液圧がリザーバR側の液圧(大気圧)以上であると、外周リップ部142がベース部140に対して鈍角に傾斜することで、取付穴18と、連通穴102と、ガイド部材110の円環溝116および連通穴118と、室136と、連通穴101とからなる連通路137のうちの室136を構成する第2穴部97の内周面に接触する。すると、カップシール92は、第2穴部97の内周面と対向して連通路137を形成しているガイド部材110の円筒状部112との隙間を内周リップ部141が閉塞していることから連通路137を閉じることになり、これにより、プライマリ液圧室51から連通路137を介してのリザーバRへの作動液の流通を遮断するとともに、制御弁室166への作動液の流通も遮断する。他方、カップシール92は、リザーバR側の液圧(大気圧)よりもプライマリ液圧室51側の液圧が低くなると液圧差で外周リップ部142がベース部140に対して略垂直をなすように撓んで、連通路137を構成する第2穴部97の内周面から離間して連通路137を開くことになり、これにより、リザーバRからバイパス通路91を介してのプライマリ液圧室51の作動液の流通を行わせることになる。このとき、ガイド部材110の連通穴118を通過した作動液は、カップシール92と円板状部111との間を主にカップシール92の通路溝143を通過して外周リップ部142側に流れ、外周リップ部142と第2穴部97との隙間を通ることで、連通路137のうちのカップシール92が配置された部分を通過する。
【0076】
以上から、車両姿勢安定制御システムの図示略のポンプでプライマリ液圧室51の作動液をポンプアップすると、その吸引圧力によってプライマリ液圧室51が負圧となり、カップシール92が上記のように撓んで開弁し、リザーバRから、連通路137を介してプライマリ液圧室51へ作動液を、シールリング29が開弁することで連通状態となるシリンダ本体5とプライマリピストン8との間の補給通路85を介するよりも大流量で流すことになり、補給通路85と連通路137とを合わせた大流量で流すことができる。
【0077】
制御弁機構90は、その小径圧室167が、連通穴101、室136およびガイド部材110の連通穴119を介して常時プライマリ液圧室51に連通している。その結果、制御弁体145には、プライマリ液圧室51の液圧とシールリング163,144の受圧面積差とで弁スプリング146の付勢力に抗する推力つまり開弁方向の推力が生じる。これにより、制御弁体145が弁スプリング146の付勢力に抗して移動すると、第1穴部96を含む開放通路170が開放され、開放通路170の第1穴部96を介して連通する大径与圧室76の液圧を開放通路170を介してリザーバR側に逃がすことになる。ここで、小径圧室167に導入されるプライマリ液圧室51の液圧に応じて制御弁体145に生じる推力が変わることになり、その結果、制御弁体145は、大径与圧室76の液圧を、プライマリ液圧室51の液圧上昇に応じて徐々に低下させるようにリザーバR側に逃がすことになる。
【0078】
つまり、上記したファストフィル時に、シールリング29を押し開いて、補給通路85の一部である、シリンダ本体5とプライマリピストン8との隙間を介して、大径与圧室76からプライマリ液圧室51に作動液が送り込まれ、ストローク初期の無効液量分(主にキャリパロールバック分)を補うことになるが、その後、プライマリ液圧室51の小径化に伴う液量不足を補うため、シリンダ本体5とプライマリピストン8との隙間を介して大径与圧室76からプライマリ液圧室51に作動液が送り込まれながら、大径与圧室76とプライマリ液圧室51とが同圧で与圧室解除液圧まで上昇する。そして、与圧室解除液圧まで上昇すると、それまで閉状態にあった制御弁機構90の制御弁体145が開弁し、開放通路170を介して大径与圧室76の液圧をリザーバR側に逃がすことで大径与圧室76の液圧が解除される。このとき、制御弁機構90は、プライマリ液圧室51の液圧の上昇に応じて徐々に大径与圧室76の液圧が下がるように、大径与圧室76の液圧をリザーバR側に逃がすことになる。このため、ブレーキペダルを操作するときに、大径与圧室76の液圧解除によるペダル抜け感が低減され、ブレーキフィーリングを向上させることができる。
【0079】
ここで、上記した特許文献1のマスタシリンダでは、下流側からの吸引でリザーバの作動液を比較的大流量で流すことができるように、シリンダ本体に、シリンダ本体とピストンとの隙間を介する通路とは別に、リザーバとシリンダ本体内の液圧室とを連通させるバイパス通路を形成し、このバイパス通路に、液圧室の液圧低下で摺動可能な逆止弁体を保持するようになっている。このため、下流側からの吸引に対して作動液を円滑に流すための構成が大型で高コストとなり、マスタシリンダ全体の構成が大型で高コストになってしまうという問題があった。
【0080】
これに対し、第1実施形態のマスタシリンダ1によれば、バイパス通路91に介装されてプライマリ液圧室51内の圧力がリザーバRの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁としてカップシール92を用いている。このカップシール92は、リザーバRからプライマリ液圧室51への作動液の流通を外周リップ部142が撓んでバイパス通路91の連通路137を構成する第2穴部97の内周面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を外周リップ部142が第2穴部97の内周面に接して遮断するするようになっている。このため、大型化および高コスト化を抑制しつつ下流側からの吸引でリザーバRの作動液を円滑に流すことができる。したがって、車両姿勢安定制御システムの作動が的確に行なわれるようになる。
【0081】
しかも、第1実施形態のマスタシリンダ1は、段付きのシリンダ本体5と段付きのプライマリピストン8とを用いて、プライマリ液圧室51よりも大径の大径与圧室76を形成し、シールリング29を押し開いて大径与圧室76からプライマリ液圧室51に作動液を供給するファストフィルを行うとともに、ファストフィル後に大径与圧室76の液圧を低下させるようにリザーバR側に逃がす制御弁機構90を設けている。この制御弁機構90内に上記したカップシール92を設けているため、マスタシリンダの大型化および高コスト化を効果的に抑制することができる。
【0082】
具体的には、上記したカップシール92は、制御弁機構90の制御弁体145を収容するシリンダ通路106内に、制御弁体145により大径与圧室76との連通・遮断が行われる制御弁室166と制御弁体145にプライマリ液圧室51の液圧を作用させる小径圧室167とを区画するように設けられている。このカップシール92が、制御弁室166から小径圧室167への作動液の流通を外周リップ部142が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断することで、制御弁機構90の常時リザーバRに連通する制御弁室166からプライマリ液圧室51に常時連通する小径圧室167に作動液を流す。よって、制御弁機構90の通路をポンプアップ時の液補給用として兼用できる。
【0083】
また、カップシール92は、ベース部140から延出する外周リップ部142と内周リップ部141とを有し、外周リップ部142がベース部140に対して角度が変化するようになっているため、開弁時に良好に作動液を流すことができる。
【0084】
また、カップシール92は、径方向の肉厚が内周リップ部141よりも外周リップ部142の方が薄いため、液圧の変化に対して反応良く、また、確実に開弁および閉弁することができる。
【0085】
また、カップシール92は、バイパス通路91内に設けられるガイド部材110によりバイパス通路91に保持されるため、カップシール92をシリンダ本体5とは別体のガイド部材110に予め保持した状態でシリンダ本体5に組み付けることができ、組み付けが容易となる。
【0086】
また、シリンダ通路106は、シリンダ本体5の径方向に沿って形成されているため、リザーバRやプライマリ圧力室51との連通穴の加工が容易となっており、マスタシリンダの製造効率が向上するようになっている。
【0087】
また、シリンダ本体5内には、プライマリピストン8とともに摺動するセカンダリピストン9が設けられるとともに、セカンダリピストン9と小径シリンダ部43とでセカンダリ液圧室50が形成され、リザーバRと大径与圧室76とを連通する補給通路87と、リザーバRとセカンダリ液圧室50とを連通する補給通路86との間にシリンダ通路106が形成されているため、シリンダ通路106とリザーバRとを連通させる連通穴102を補給通路86,87との干渉を容易に回避しつつ形成することができる。このため、マスタシリンダの製造効率が向上するようになっている。
【0088】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に図4に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0089】
第2実施形態においては、径方向穴95の一部構成が第1実施形態とは異なっている。つまり、この径方向穴95には、第2穴部97の内周面における第1穴部96側に径方向外方に凹む円環状の通路溝175が第2穴部97と同軸に形成されており、第2穴部97の通路溝175よりも第3穴部98側に径方向外方に凹む円環状の環状溝176が同軸に形成されている。さらに、第2穴部97の環状溝176よりも第3穴部98側には、径方向外方に凹んで環状溝176から軸方向に沿って第3穴部98まで延在する軸方向溝177が形成されている。なお、連通穴102は通路溝175に開口している。
【0090】
また、第2実施形態においては、ガイド部材110の一部構成が第1実施形態とは異なっている。このガイド部材110は、径方向穴95の第2穴部97に嵌合される円筒状の第1円筒状部179と、この第1円筒状部179の軸方向一端側に同軸に設けられた、第1円筒状部179よりも外径が小径であり内径が大径であって軸方向長が短い第2円筒状部180とを有している。ガイド部材110の貫通穴113は、第1円筒状部179の内側が小径穴部114となっており、第2円筒状部180の内側が、小径穴部114よりも大径の大径穴部115となっている。そして、第1円筒状部179の第2円筒状部180とは反対側に径方向に貫通して連通穴117が形成されており、第2円筒状部180に径方向に貫通して連通穴119が形成されている。なお、ガイド部材110は第1円筒状部179において第2穴部97の底面に当接すると、第2穴部97の軸方向において連通穴117を第2穴部97の通路溝175の範囲内に配置することになる。
【0091】
また、第2実施形態においては、蓋体105の一部構成が第1実施形態とは異なっている。この蓋体105は、先端軸状部122からネジ軸部124の途中位置まで一定径の穴部181が形成されている。なお、蓋体105には径方向に貫通する連通穴は形成されていない。穴部181はガイド部材110の大径穴部115と同軸で同径となっており、よって小径穴部114よりも大径となっている。
【0092】
この蓋体105は、ネジ軸部124に形成されたオネジ123において径方向穴95のメネジ100に螺合されると、当接板状部127の軸状部126側の端面を径方向突出部94の先端面に当接させるとともに、先端軸状部122のネジ軸部124とは反対側の端面にガイド部材110の第2円筒状部180の第1円筒状部179とは反対側の端面を当接させる。これにより、ガイド部材110が、径方向穴95および蓋体105と同軸に配置された状態で、蓋体105によって径方向突出部94に固定されることになる。
【0093】
ここで、蓋体105が径方向突出部94に螺合された状態で、ガイド部材110の連通穴117が、上記のように通路溝175に連通することになる。また、径方向突出部94の第2穴部97の環状溝176から第3穴部98側および第3穴部98と、ガイド部材110と、蓋体105の先端軸状部122側との間の部分に室136が形成され、この室136が連通穴101に連通する。通路溝175は、環状溝176および軸方向溝177を介して室136に連通可能となっており、その結果、径方向突出部94の通路溝175、環状溝176および軸方向溝177と、室136とが、取付穴18と連通穴102と連通穴101とによって、リザーバRとプライマリ液圧室51とを連通するバイパス通路91の連通路137を構成する。
【0094】
環状溝176は、径方向穴95の第2穴部97に形成されており、その結果、制御弁体145を摺動可能に収容するシリンダ通路106の内周面に形成されている。
【0095】
第2実施形態においては、第1実施形態とは一部構成が異なるカップシール92が環状溝176に設けられている。第2実施形態のカップシール92は、円環板状のベース部140の径方向の中間部から内周リップ部141および外周リップ部142と同側に延出する略円筒状の中間突出部183を有している。つまり、この中間突出部183は、外周リップ部142と内周リップ部141との間に設けられている。ここで、中間突出部183は、内周リップ部141および外周リップ部142よりもベース部140とは反対側に突出して形成されている。中間突出部183の先端部には、軸方向に凹んで径方向に貫通する切欠溝184が複数形成されている。
【0096】
第2実施形態のカップシール92も、外周リップ部142がベース部140に対して角度が変化するようになっており、径方向の肉厚が内周リップ部141および中間突出部183よりも外周リップ部142の方が薄くなっている。
【0097】
このカップシール92は、そのベース部140が、環状溝176の通路溝175側の面に対向し、中間突出部183が環状溝176の通路溝175とは反対側の面に当接するようにして環状溝176内に配置されることになり、かつ内周リップ部141にガイド部材110の第1円筒状部179を密着状態で嵌合させることになる。この状態で、内周リップ部141および外周リップ部142は、環状溝176の通路溝175とは反対側の面から離間しており、ベース部140および外周リップ部142のベース部140側は、環状溝176の溝底面から離間している。なお、カップシール92は、外周リップ部142が、自然状態にあるときバイパス通路91の連通路137の内周面を構成する環状溝176の溝底面に接触する。外周リップ部142は、この状態から中間突出部183側に撓むと、環状溝176の溝底面から離間する。つまり、外周リップ部142は、連通路137の内周面を構成する環状溝176の溝底面に対して接離可能となっている。
【0098】
そして、第2実施形態のカップシール92は、リザーバRから連通路137を介してのプライマリ液圧室51への作動液の流通を、外周リップ部142が撓んで連通路137の内周面を構成する環状溝176の溝底面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を外周リップ部142が環状溝176の溝底面に接して遮断する。
【0099】
第2実施形態においては、蓋体105の穴部181の内側およびガイド部材110の貫通穴113の内側に、これら蓋体105およびガイド部材110の軸方向に沿って鉛直に往復移動する第1実施形態と同様の制御弁体145が摺動可能に収容されており、制御弁体145をシリンダ本体5の筒部3側に付勢する第1実施形態と同様の弁スプリング146も収容されている。
【0100】
制御弁体145は、ピストン部材151の第2軸部149およびシールリング163がガイド部材110の小径穴部114に摺動可能に嵌合され、ピストン部材151の第3軸部150およびシールリング164が蓋体105の穴部181の内周面に摺動可能に嵌合される。
【0101】
弁スプリング146は、ピストン部材151の第1穴部156内に挿入されており、第1穴部156の底面と蓋体105の穴部181の底面とに当接して制御弁体145をそのシール部材162で第1穴部96を閉塞する方向に付勢する。
【0102】
主にガイド部材110の小径穴部94と径方向穴95の第2穴部97の底面と制御弁体145との間の部分の制御弁室166は、シリンダ本体5の連通穴102および通路溝175と、ガイド部材110の連通穴117とを介してリザーバRに常時連通する。
【0103】
また、主に制御弁体145と、ガイド部材110の大径穴部115および蓋体105の穴部181との間の部分が小径圧室167となっており、この小径圧室167は、シリンダ本体5の連通穴101と、室136と、ガイド部材110の連通穴119とを介してプライマリ液圧室51に連通し、制御弁体145にプライマリ液圧室51の液圧を作用させる。
【0104】
ここで、上記したカップシール92は、シリンダ通路106の室136を構成する環状溝176内に配置されており、ガイド部材110の連通穴117および径方向突出部94の通路溝175を介して室136に連通する制御弁室166と、ガイド部材110の連通穴119を介して室136に連通する小径圧室167とを区画するとともに、制御弁室166から小径圧室167への作動液の流通を外周リップ部142が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断する。
【0105】
制御弁機構90の制御弁体145が径方向穴95の第2穴部97の底面から離れた状態で、径方向穴95の第1穴部96と、制御弁室166と、ガイド部材110の連通穴117と、通路溝175と、連通穴102と、取付穴18とを介して大径与圧室76とリザーバRとが連通する。これらの第1穴部96と、制御弁室166と、ガイド部材110の連通穴117と、通路溝175と、連通穴102と、取付穴18とが、大径与圧室76とリザーバRとを連通させることで、大径与圧室76の液圧を制御弁機構90を介してリザーバRに逃がす開放通路170を形成している。
【0106】
逆止弁として機能するカップシール92は、プライマリ液圧室51側の液圧がリザーバR側の液圧(大気圧)以上であると、外周リップ部142がベース部140に対して鈍角で傾斜することで、取付穴18と、連通穴102と、径方向突出部94の通路溝175と、室136と、連通穴101とからなる連通路137のうちの室136の内周面を構成する環状溝176の溝底面に接触する。すると、カップシール92は、環状溝176の溝底面と対向して連通路137を形成しているガイド部材110の第1円筒状部179との隙間を内周リップ部141が閉塞していることから連通路137を閉じることになり、これにより、プライマリ液圧室51から連通路137を介してのリザーバRへの作動液の流通を遮断するとともに、制御弁室166への作動液の流通も遮断する。他方、カップシール92は、リザーバR側の液圧(大気圧)よりもプライマリ液圧室51側の液圧が低くなると液圧差で外周リップ部142がベース部140に対して略垂直をなすように撓んで、連通路137を構成する環状溝176の溝底面から離間して連通路137を開くことになり、これにより、リザーバRからバイパス通路91を介してのプライマリ液圧室51への作動液の流通を行わせることになる。このとき、径方向突出部94の通路溝175側から流れる作動液は、カップシール92と環状溝176の通路溝175側の端面との間を通過して外周リップ部142側に流れ、外周リップ部142と環状溝176の溝底面との隙間を通り、中間突出部183の切欠溝184を通ることで、カップシール92を大流量で通過する。
【0107】
以上に述べた第2実施形態によれば、カップシール92が、シリンダ通路106の内周面を構成する径方向穴95の第2穴部97に形成される環状溝176に保持されるため、ガイド部材110にカップシール92を保持するためのフランジ部が不要になり、蓋体105も一定径の穴部181を形成すれば済む。よって、ガイド部材110および蓋体105を簡素な形状にすることができ、さらなる低コスト化が図れる。
【0108】
また、カップシール92が、外周リップ部142と内周リップ部141との間に、外周リップ部142よりも突出して形成される中間突出部183を有するため、環状溝176内での軸方向の移動を規制することができる。
【0109】
「第3実施形態」
次に、第3実施形態を主に図5に基づいて第2実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第2実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0110】
第3実施形態においては、ガイド部材110の一部構成が第2実施形態とは異なっている。ガイド部材110は、第2実施形態に対して、第2円筒状部180の軸方向長が第1円筒状部179に対して同等となるように長くなっている。そして、第2円筒状部180Bの第1円筒状部179側に連通穴119が形成され、第2円筒状部180の第1円筒状部179とは反対側の外周側に径方向内方に凹む円環状のシール溝186が形成されている。
【0111】
また、第3実施形態においては、蓋体105の一部構成が第2実施形態とは異なっている。蓋体105は、第2実施形態の先端軸状部122がなく、ネジ軸部124が当接板状部127とは反対側の端部に配置されている。そして、このネジ軸部124の範囲内で一定径の穴部181が形成されている。この穴部181はガイド部材110の第2円筒状部180を内側に嵌合可能となっている。
【0112】
この蓋体105は、ネジ軸部124に形成されたオネジ123において径方向穴95のメネジ100に螺合されると、当接板状部127の軸状部126側の端面を径方向突出部94の先端面に当接させるとともに、穴部181の底面にガイド部材110の第2円筒状部180の第1円筒状部179とは反対側の端面を当接させる。これにより、ガイド部材110が、径方向穴95および蓋体105と同軸に配置された状態で、蓋体105によって径方向突出部94に固定されることになる。この状態で、シール溝186が蓋体105の穴部181の軸方向の中間位置に配置されることになり、このシール溝186に、穴部181とガイド部材110との隙間をシールするシールリング187が設けられる。
【0113】
ここで、上記のように蓋体105が径方向突出部94に螺合された状態で、径方向突出部94の第2穴部97の環状溝176から第3穴部98側および第3穴部98と、ガイド部材110と、蓋体105のネジ軸部124との間の部分に室136が形成される。
【0114】
第3実施形態においては、ガイド部材110の貫通穴113の内側に、ガイド部材110の軸方向に沿って鉛直に往復移動する第2実施形態と同様の制御弁体145が摺動可能に収容されており、制御弁体145をシリンダ本体5の筒部3側に付勢する第2実施形態と同様の弁スプリング146も収容されている。
【0115】
制御弁体145は、ピストン部材151の第2軸部149およびシールリング163がガイド部材110の小径穴部114に摺動可能に嵌合され、ピストン部材151の第3軸部150およびシールリング164がガイド部材110の大径穴部115に摺動可能に嵌合される。制御弁体145とガイド部材110の大径穴部115との間の部分が小径圧室167となっている。
【0116】
以上に述べた第3実施形態によれば、一つの部品であるガイド部材110のみで制御弁体145の摺動を案内することができるため、径方向穴95、ガイド部材110および蓋体105の組み付け精度を比較的緩くでき、製造がさらに容易となる。
【0117】
「第4実施形態」
次に、第4実施形態を主に図6に基づいて第2実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第2実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0118】
第4実施形態においては、第2実施形態のガイド部材110が設けられていない。そして、第2実施形態とは一部構成が異なる径方向穴95を備えており、この径方向穴95の第2穴部97で直接制御弁体145を案内するようになっている。つまり、第2穴部97の内径が第2実施形態よりも小さくされ、この第2穴部97に通路溝175、環状溝176および軸方向溝177が形成されている。
【0119】
また、第4実施形態においては、蓋体105の一部構成が第2実施形態とは異なっている。この蓋体105は、第2実施形態の先端軸状部122がなく、ネジ軸部124が当接板状部127とは反対側の端部に配置されている。そして、ネジ軸部124から軸状部125および軸状部126内で一定径の穴部181が形成されている。
【0120】
この蓋体105は、ネジ軸部124に形成されたオネジ123において径方向穴95のメネジ100に螺合されると、当接板状部127の軸状部126側の端面を径方向突出部94の先端面に当接させる。
【0121】
第4実施形態においては、蓋体105の穴部181の内側および径方向穴95の第2穴部97の内側に、これら蓋体105およびガイド部材110の軸方向に沿って往復移動する制御弁体145が摺動可能に収容されており、制御弁体145をシリンダ本体5の筒部3側に付勢する弁スプリング146も収容されている。
【0122】
第4実施形態の制御弁体145は、第2実施形態と一部構成が異なっており、ピストン部材151の第2軸部149の外周側が、第1軸部148側の大径部149aと、第3軸部150側にあって大径部149aよりも若干小径の小径部149bとを有する段差状をなしている。また、ピストン部材151の第2軸部149には第2実施形態のシール溝153が形成されておらず、シールリング163も設けられていない。そして、ピストン部材151の第2軸部149の大径部149aが、径方向穴95の第2穴部97と第2穴部97の環状溝176に保持されたカップシール92とに摺動可能に嵌合され、ピストン部材151の第3軸部150およびシールリング164が蓋体105の穴部181の内周面に摺動可能に嵌合される。
【0123】
ここで、制御弁体145および弁スプリング146を収容しつつ蓋体105が径方向突出部94に螺合された状態で、径方向突出部94内のシリンダ通路106のうち、径方向突出部94の第2穴部97の環状溝176から軸方向溝177を含む第3穴部98側および第3穴部98と、蓋体105の穴部181の当接板状部127とは反対側と、制御弁体145の第2軸部149との間の部分が、連通穴101に連通する小径圧室167となる。
【0124】
また、主に径方向穴95の第2穴部97の底面および内周面の通路溝175側と、制御弁体145の第1軸部148側との間の部分が制御弁室166となっている。この制御弁室166は、シリンダ本体5の連通穴102を介してリザーバRに常時連通する。
【0125】
また、小径圧室167と、制御弁室166と、環状溝176および軸方向溝177を含む第2穴部97と制御弁体145の第2軸部149との隙間とが、取付穴18と連通穴102と連通穴101とによって、リザーバRとプライマリ液圧室51とを連通するバイパス通路91の連通路137を構成することになり、この連通路137内の環状溝176に、第2実施形態と同様のカップシール92が設けられている。このカップシール92には、内周リップ部141に制御弁体145の第2軸部149の大径部149aが摺動可能に嵌合されている。
【0126】
ここで、第4実施形態のカップシール92は、連通路137内において制御弁室166と小径圧室167とを区画するとともに、制御弁室166から小径圧室167への作動液の流通を外周リップ部142が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断する。なお、第4実施形態の制御弁体145は、カップシール92のシール径と、これよりも大径のシールリング164のシール径との受圧面積差で小径圧室167の液圧に応じた推進力を発生させる。
【0127】
制御弁機構90の制御弁体145が径方向穴95の第2穴部97の底面から離れた状態で、径方向穴95の第1穴部96と、制御弁室166と、連通穴102と、取付穴18とを介して大径与圧室76とリザーバRとが連通する。これらの第1穴部96と、制御弁室166と、連通穴102と、取付穴18とが、大径与圧室76とリザーバRとを連通させることで、大径与圧室76の液圧を制御弁機構90を介してリザーバRに逃がす開放通路170を形成している。
【0128】
以上に述べた第4実施形態によれば、シリンダ本体5で直接制御弁体145を摺動可能に保持するため、部品点数を低減することができ、さらなる低コスト化が図れる。
【0129】
また、カップシール92で制御弁体145の小径側の外周面をシールできるため、シールリングの数を減らすことができ、この点でも、部品点数を低減することができ、さらなる低コスト化が図れる。
【0130】
「第5実施形態」
次に、第5実施形態を主に図7に基づいて第4実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第4実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0131】
第5実施形態においては、径方向穴95の一部構成が第4実施形態とは異なっている。この径方向穴95は、第2穴部97に環状溝176および軸方向溝177が形成されておらず、よって、第2穴部97にカップシール92は設けられていない。
【0132】
また、第5実施形態においては、制御弁体145の一部構成が第4実施形態とは異なっている。この制御弁体145は、第2軸部149の大径部149aに、径方向内方に凹む環状溝185が形成されており、この環状溝185内にカップシール92’が設けられている。
【0133】
小径圧室167と、制御弁室166と、第2穴部97と、環状溝185を含む制御弁体145の第2軸部149との隙間が、取付穴18と連通穴102と連通穴101とによって、リザーバRとプライマリ液圧室51とを連通するバイパス通路91の連通路137を構成することになり、この連通路137内の環状溝185に、カップシール92’が設けられている。
【0134】
第5実施形態においては、カップシール92’の一部構成が第4実施形態とは異なっている。このカップシール92’は、内周リップ部141’がベース部140に対して角度が変化するようになっており、径方向の肉厚が、外周リップ部142’および中間突出部183よりも内周リップ部141’の方が薄くなっている。
【0135】
このカップシール92’は、そのベース部140が、環状溝185の第1軸部148側の面に対向し、中間突出部183が環状溝185の第1軸部148とは反対側の面に当接するようにして環状溝185内に配置されることになり、かつ外周リップ部142’に径方向突出部94の第2穴部97を常に密着させることになる。この状態で、内周リップ部141’および外周リップ部142’は、環状溝185の第1軸部148とは反対側の面から離間しており、ベース部140および内周リップ部141’のベース部140側は、環状溝185の溝底面から離間している。なお、カップシール92’は、内周リップ部141’が、自然状態にあるときバイパス通路91の連通路137の内周面を構成する環状溝185の溝底面に接触する。内周リップ部141’は、この状態から中間突出部183側に撓むと、環状溝185の溝底面から離間する。つまり、内周リップ部141’は、連通路137の内周面を構成する環状溝185の溝底面に対して接離可能となっている。
【0136】
ここで、第5実施形態のカップシール92’も、連通路137内において制御弁室166と小径圧室167とを区画するとともに、リザーバRから連通路137を介してのプライマリ液圧室51の作動液の流通を、内周リップ部141’が撓んで連通路137の内周面を構成する環状溝185の溝底面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を内周リップ部141’が連通路137の内周面を構成する環状溝185の溝底面に接して遮断する。なお、第5実施形態の制御弁体145は、カップシール92’のシール径と、これよりも大径のシールリング164のシール径との受圧面積差で小径圧室167の液圧に応じた推進力を発生させる。
【0137】
以上に述べた第5実施形態によれば、シリンダ本体5とは別体の制御弁体145に環状溝185を形成してカップシール92’を保持するため、カップシール92’の組み付けが容易となり、さらなる低コスト化が図れる。
【0138】
「第6実施形態」
次に、第6実施形態を主に図8および図9に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0139】
第6実施形態では、図8に示すように、シリンダ本体5の一部構成が第1実施形態と異なっている。つまり、シリンダ本体5の二カ所の取付台部15,16をシリンダ軸方向に連結するように鉛直上方に連結台部188が形成されており、後述する制御弁機構190およびカップシール92が組み込まれるケーシングを構成する径方向突出部194が、第1実施形態とは異なり、この連結台部188の取付台部16側からシリンダ径方向に沿って鉛直上方に突出している。これらの径方向突出部194および連結台部188も、シリンダ本体5の鋳造時に底部2、筒部3および取付台部15,16と一体成形される。
【0140】
径方向突出部194の内側には、シリンダ径方向である鉛直方向に沿う径方向穴195が上側から形成されている。図9に示すように、この径方向穴195は、筒部3側から順に、口部側大径内径部31に開口することで大径与圧室76に連通する第1穴部196と、この第1穴部196と同軸でこれよりも大径の第2穴部197と、この第2穴部197と同軸でこれよりも大径の第3穴部198と、この第3穴部198と同軸でこれよりも大径の第4穴部199と、この第4穴部199と同軸でこれよりも大径の第5穴部200とを有している。径方向穴195は、第5穴部200において外側に開口することになり、第5穴部200には、開口側の所定範囲にメネジ201が形成されている。なお、径方向穴195は、すべて径方向突出部194の突出方向前方から工具で加工形成される。
【0141】
シリンダ本体5には、径方向穴195における第3穴部198の第2穴部197側の端部と、図8に示す中間大径内径部26および第2小径摺動内径部12の境界付近とを結ぶことで、プライマリ液圧室51に連通する連通穴101が形成されている。なお、第2小径摺動内径部12の連通穴101の連通位置には、シリンダ径方向外方に凹みシリンダ軸方向に延在する軸方向溝203が形成されている。
【0142】
図9に示すように、この連通穴101の延長線は径方向穴195内にあって径方向穴195の開口部内の位置から外方に延出する。この連通穴101は、径方向穴195から挿入される工具で加工形成される。
【0143】
図8に示すように、シリンダ本体5には、取付穴18に開口する連通穴38が取付穴18と同軸をなして形成されており、図9に示す径方向穴195の第4穴部199における第3穴部198側の端部と、図8に示す連通穴38の内周面のボア6側かつ底部2側とを連通穴102が連通させている。この連通穴102は、図9に示すように、その延長線が径方向穴195内にあって径方向穴195の開口部内の位置から外方に延出することになり、径方向穴195から挿入される工具で加工形成される。
【0144】
径方向穴195の第3穴部198および第4穴部199内には、筒状の第1ガイド部材(保持部材)210が嵌合されている。この第1ガイド部材210は、軸方向一側が、第3穴部198に嵌合する円板状部211とされ、軸方向他側が円板状部211よりも小径で円板状部211と同軸の円筒状部212となっている。ガイド部材210は、この円筒状部212で第3穴部198の底面に当接する。ガイド部材210の内側には、軸方向に貫通する略一定径の貫通穴213が形成されている。
【0145】
また、円板状部211には、軸方向の中間部に、外周部から径方向内方に凹む円環状の円環溝216が貫通穴213と同軸に形成されており、円環溝216から円筒状部212側に抜ける複数の連通穴218がそれぞれ円板状部211の軸方向に沿って形成されている。加えて、第1ガイド部材210の円筒状部212には、円板状部211とは反対側の端部に、軸方向に凹み径方向に貫通する連通溝219が形成されている。なお、複数の連通穴218とカップシール92との間には、第1実施形態と同様の図示せぬスペーサが設けられている。
【0146】
径方向穴195の第4穴部199および第5穴部200内には、有蓋筒状の第2ガイド部材222が嵌合されている。この第2ガイド部材222は、円板状部223と、この円板状部223の外周側から略同径で同軸をなして突出する円筒状部224と、この円筒状部224の円板状部223とは反対側にあって円筒状部224に対して同軸であって内径が等しく外径が小さい先端円筒状部225とを有している。第2ガイド部材222は、円板状部223において第5穴部200に嵌合し円筒状部224において第4穴部199に嵌合して、先端円筒状部225において第1ガイド部材210の円板状部211に当接する。
【0147】
第2ガイド部材222には、その先端円筒状部225に径方向に貫通する連通穴226が形成されており、円筒状部224の外周部には径方向内方に凹む円環状のシール溝227が形成されている。このシール溝227には、径方向穴195と円筒状部224との隙間をシールするためのシールリング228が配設されている。第2ガイド部材222の円筒状部224および先端円筒状部225により形成される内側の穴部229は、一定径となっている。
【0148】
なお、第1ガイド部材210が円筒状部212において第3穴部198の底面に当接し、第2ガイド部材222が先端円筒状部225において第1ガイド部材210の円板状部211の外周側に当接した状態で、径方向穴195のメネジ201に蓋体230が螺合されることで、第1ガイド部材210および第2ガイド部材222が径方向突出部194に固定される。なお、蓋体230には、メネジ201に螺合するためのオネジ231が外周部に形成されており、中央に六角工具穴232が形成されている。
【0149】
ここで、径方向穴195は、径方向突出部194とともにケーシングを構成する上記した第2ガイド部材222および蓋体230で閉塞されている。第2ガイド部材222および蓋体230で閉塞された径方向穴195の第1穴部196を除く部分と、取付穴18と、連通穴38と、連通穴101と、連通穴102とによって、補給通路85をバイパスしてリザーバRとプライマリ液圧室51とを連通するバイパス通路191が形成されている。第1ガイド部材210は、上記したバイパス通路191内に配置されている。また、第2ガイド部材222および蓋体230で閉塞された径方向突出部194の径方向穴195内は、制御弁機構190の後述する制御弁体245を摺動可能に収容するシリンダ通路233を構成している。このシリンダ通路233も、シリンダ本体5の径方向に沿って形成されており、リザーバRと大径与圧室76とを連通する補給通路87と、リザーバRとセカンダリ液圧室50とを連通する補給通路86との間に形成されている。
【0150】
ここで、上記のように蓋体230が径方向突出部194に螺合された状態で、第1ガイド部材210および第2ガイド部材222と第4穴部199との間の部分の室235が、連通穴102に連通することになり、第1ガイド部材210と第3穴部198との間の部分の室236が連通路101に連通することになる。そして、これら室235,236は、第1ガイド部材210に形成された円環溝216および連通穴218によって互いに連通可能となっていることから、室235、円環溝216、連通穴218および室236が、取付穴18と連通穴38と連通穴102と連通穴101とによって、リザーバRとプライマリ液圧室51とを連通する連通路237を構成する。
【0151】
そして、バイパス通路191の連通路237を構成する室236内に、バイパス通路191内に設けられる第1ガイド部材210および保持部材240により保持されて第1実施形態と同様のカップシール92が設けられている。
【0152】
保持部材240は、円筒状の立壁部241と、この立壁部241の円周方向の複数位置において、軸方向一側から径方向内方に切り倒された係止片部242とを有している。そして、保持部材240は、立壁部241の軸方向他端側において第3穴部198の底面に当接し複数の係止片部242において第1ガイド部材210の円筒状部212の外周面に係合する。なお、立壁部241の前記他端側には軸方向に凹み径方向に貫通する図示略の連通溝が形成されている。
【0153】
カップシール92は、そのベース部140が、保持部材240の立壁部241と第1ガイド部材210の円板状部211との間に配置され、かつ内周リップ部141が保持部材240の立壁部241の径方向内側に配置された状態で、内周リップ部141において第1ガイド部材210の円筒状部212に密着するように嵌合されることになる。このとき、カップシール92は、そのベース部140が、保持部材240の立壁部241に対し軸方向の隙間を形成可能となっており、その内周リップ部141が、保持部材240の立壁部241との間に径方向の隙間を形成可能となっている。内周リップ部141は保持部材240の係止片部242に当接することで第1ガイド部材210に対する軸方向移動が規制される。
【0154】
また、カップシール92は、外周リップ部142が保持部材240の立壁部241の外側に配置されることになり、自然状態にあるときバイパス通路191の連通路237の内周面を構成する径方向穴195の第3穴部198の内周面に接触する。この状態で、外周リップ部142は保持部材240の立壁部241との間に径方向の隙間が形成されており、この隙間分、立壁部241側に撓むと、外周リップ部142が第3穴部198の内周面から離間する。つまり、外周リップ部142はバイパス通路191の連通路237の内周面を構成する第3穴部198に対して接離可能となっている。
【0155】
そして、カップシール92は、リザーバRからバイパス通路191の連通路237を介してのプライマリ液圧室51の作動液の流通を、外周リップ部142が撓んで連通路237の内周面を構成する第3穴部198から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を外周リップ部142がバイパス通路191の連通路137の内周面を構成する第3穴部198に接して遮断する。つまり、カップシール92は、プライマリ液圧室51側の液圧がリザーバR側の液圧(大気圧)以上であると、外周リップ部142がバイパス通路191の連通路237の内周面に接触することで連通路237を閉じて、プライマリ液圧室51からバイパス通路191を介してのリザーバRの作動液の流通を規制する。他方、カップシール92は、リザーバR側の液圧(大気圧)よりもプライマリ液圧室51側の液圧が低くなると液圧差で外周リップ部142が連通路237の内周面から離間する方向に撓んで連通路237を開いて、リザーバRからバイパス通路191を介してのプライマリ液圧室51の作動液の流通を行わせることになる。
【0156】
シリンダ通路233内の、径方向穴195の第2穴部197の内側、第1ガイド部材210の貫通穴213の内側および第2ガイド部材222の穴部229の内側に、第1ガイド部材210および第2ガイド部材222の軸方向に沿って往復移動する制御弁体245が摺動可能に収容されており、制御弁体245をシリンダ本体5の筒部3側に付勢する弁スプリング246も収容されている。制御弁体245および弁スプリング246が制御弁機構190を構成する。
【0157】
制御弁体245は、軸方向一側から順に、第1軸部248と、第1軸部248と同軸でこれより大径の第2軸部249と、第2軸部249と同軸でこれより小径の第3軸部250と、第3軸部250と同軸で第2軸部249よりも大径の円板部251と、円板部251と同軸でこれより小径の端軸部252とを有するピストン部材253を有している。ピストン部材253の第1軸部248の外周部には径方向内方に凹む円環状のシール溝254が同軸状に形成されており、第2軸部249の外周部にも径方向内方に凹む円環状のシール溝255が同軸状に形成されている。さらに、円板部251の第3軸部250側の端面には、軸方向に凹む円環状のシール溝256が同軸状に形成されている。
【0158】
また、ピストン部材253には、第1軸部248の端面から軸方向に沿って形成される軸方向穴部257と、軸方向穴部257の奥側の端部位置からこれに直交するように径方向に形成される直交穴部258とが形成されている。これら軸方向穴部257および直交穴部258は、第1軸部248の軸線方向端部に一端側が開口するとともに他端側が第3軸部250の外径面に開口する内部通路259を構成している。ピストン部材253は、第1軸部248が径方向穴195の第2穴部197に摺動可能に嵌合され、第2軸部249が第1ガイド部材210の貫通穴213に摺動可能に嵌合される。また、円板部251の第3軸部250側の端面が第1ガイド部材210の円板状部211の円筒状部212とは反対側の端面に当接可能となっている。
【0159】
制御弁体245は、第1軸部248のシール溝254に嵌合されて、第1軸部248と径方向穴195の第2穴部197との隙間を常時シールするシールリング261と、第2軸部249のシール溝255に嵌合されて、第2軸部249と第1ガイド部材210の貫通穴213との隙間を常時シールするシールリング262と、円板部251のシール溝256に嵌合され、第1ガイド部材210の円板状部211と円板状部251との隙間を開閉するシールリング263とを有している。
【0160】
弁スプリング246は、軸方向一側ほど拡径するテーパ状のコイルスプリングであり、小径側端部の内側にピストン部材253の端軸部252を挿通させて小径側端部で円板部251に当接する。弁スプリング246の大径側端部は第2ガイド部材222の穴部229の底面に当接する。これにより、弁スプリング246は、制御弁体245を、その円板状部251およびシールリング263が第1ガイド部材210の円板状部211に当接する方向に付勢する。
【0161】
上記したシリンダ通路233のうち、主に第2ガイド部材222と制御弁体245との間の部分が制御弁室266となっている。この制御弁室266は、シリンダ本体5の連通穴102と、径方向穴195の第4穴部199と第2ガイド部材222および第1ガイド部材210との間の部分の室235と、第2ガイド部材222の連通穴226とを介してリザーバRに常時連通する。他方で、制御弁室266は、径方向穴195の第1穴部196と制御弁体245の内部通路259とを介して大径与圧室76に連通可能であって、制御弁体245の主にシールリング263によって大径与圧室76との連通・遮断が行われることになる。
【0162】
また、シリンダ通路233のうち、制御弁体245の第1軸部248と第1ガイド部材210との間の部分が小径圧室267となっている。この小径圧室267は、シリンダ本体5の連通穴101と、室236と、保持部材240の図示略の連通溝と、第1ガイド部材210の連通溝219とを介してプライマリ液圧室51に常時連通し、制御弁体245にプライマリ液圧室51の液圧を作用させる。この小径圧室267に導入されたプライマリ液圧室51の液圧は、制御弁体245の大径のシールリング262によるシール部分と小径のシールリング261によるシール部分とに作用し、これらの受圧面積差による推力を制御弁体245に発生させる。
【0163】
ここで、上記したカップシール92は、シリンダ通路233の室236内に配置されており、第2ガイド部材222の連通穴226、室235および第1ガイド部材210の円環溝216および連通穴218を介して室236に連通する制御弁室266と、第1ガイド部材210の連通溝219および保持部材240の図示略の連通溝を介して室236に連通する小径圧室267とを区画するとともに、制御弁室266から小径圧室267への作動液の流通を外周リップ部142が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断する。
【0164】
制御弁機構190の制御弁体245のシールリング263が第1ガイド部材210の円板状部211の端面から離れた状態で、径方向穴195の第1穴部196と、制御弁体245の内部通路259と、制御弁室166と、第2ガイド部材222の連通穴226と、室235と、連通穴102と、連通穴38と、取付穴18とを介して大径与圧室76とリザーバRとが連通する。これらの第1穴部96と、制御弁体245の内部通路259と、制御弁室166と、第2ガイド部材222の連通穴226と、室235と、連通穴102と、連通穴38と、取付穴18とが、大径与圧室76とリザーバRとを連通させることで、大径与圧室76の液圧を制御弁機構190を介してリザーバRに逃がす開放通路270を形成している。
【0165】
逆止弁として機能するカップシール92は、プライマリ液圧室51側の液圧がリザーバR側の液圧(大気圧)以上であると、外周リップ部142が連通路237を構成する第3穴部198の内周面に接触して連通路237を閉じることになり、これにより、プライマリ液圧室51から連通路237を介してのリザーバRへの作動液の流通を遮断するとともに、制御弁室266への作動液の流通も遮断する。他方、カップシール92は、リザーバR側の液圧(大気圧)よりもプライマリ液圧室51側の液圧が低くなると液圧差で外周リップ部142が撓んで、連通路237を構成する第3穴部198の内周面から離間して連通路237を開くことになり、これにより、リザーバRからバイパス通路191を介してのプライマリ液圧室51への作動液の流通を行わせることになる。このとき、第1ガイド部材120の連通穴218を通過した作動液は、カップシール92と円板状部211との間を主にカップシール92の通路溝143を通過して外周リップ部142側に流れ、外周リップ部142と第3穴部198との隙間を通ることで、連通路237のうちのカップシール92が配置された部分を通過する。
【0166】
以上から、車両姿勢安定制御システムの図示略のポンプでプライマリ液圧室51の作動液をポンプアップすると、その吸引圧力によってプライマリ液圧室51が負圧となり、カップシール92が上記のように撓んで開弁し、リザーバRから、連通路237を介してプライマリ液圧室51へ作動液を、シールリング29が開弁することで連通状態となるシリンダ本体5とプライマリピストン8との間の補給通路85を介するよりも大流量で流すことになり、補給通路85と連通路237とを合わせた大流量で流すことができる。
【0167】
制御弁機構190は、その小径圧室267が、連通穴101、室236および第1ガイド部材210の連通溝219等を介して常時プライマリ液圧室51に連通している。その結果、制御弁体245には、プライマリ液圧室51の液圧とシールリング261,262の受圧面積差とで弁スプリング246の付勢力に抗する推力つまり開弁方向の推力が生じる。これにより、制御弁体245が弁スプリング246の付勢力に抗して移動すると、シールリング263が第1ガイド部材210から離間して開放通路270を開放し、開放通路270の第1穴部196および内部通路259を介して連通する大径与圧室76の液圧を開放通路270を介してリザーバR側に逃がすことになる。ここで、小径圧室267に導入されるプライマリ液圧室51の液圧に応じて制御弁体245に生じる推力が変わることになり、その結果、制御弁体245は、大径与圧室76の液圧を、プライマリ液圧室51の液圧上昇に応じて徐々に低下させるようにリザーバR側に逃がすことになる。
【0168】
つまり、上記したファストフィル時に、シールリング29を押し開いて、シリンダ本体5とプライマリピストン8との隙間を介して、大径与圧室76からプライマリ液圧室51に作動液が送り込まれ、ストローク初期の無効液量分(主にキャリパロールバック分)を補うことになり、その後、大径与圧室76とプライマリ液圧室51とが同圧で与圧室解除液圧まで上昇すると、それまで閉状態にあった制御弁機構190の制御弁体245が開弁して大径与圧室76の液圧をリザーバR側に逃がして解除する。このとき、制御弁機構190は、プライマリ液圧室51の液圧の上昇に応じて徐々に大径与圧室76の液圧が下がるように、大径与圧室76の液圧をリザーバR側に逃がすことになる。
【0169】
第6実施形態によれば、バイパス通路191に介装されてプライマリ液圧室51内の圧力がリザーバRの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁として、リザーバRからプライマリ液圧室51への作動液の流通を外周リップ部142が撓んでバイパス通路191の連通路237を構成する第3穴部198の内周面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を外周リップ部142が第3穴部198の内周面に接して遮断するカップシール92を用いている。このため、大型化および高コスト化を抑制しつつ下流側からの吸引でリザーバRの作動液を流すことができる。
【0170】
しかも、段付きのシリンダ本体5と段付きのセカンダリピストン9とを用いて、プライマリ液圧室51よりも大径の大径与圧室76を形成し、シールリング29を押し開いて大径与圧室76からプライマリ液圧室51に作動液を供給するファストフィルを行うとともに、ファストフィル後に大径与圧室76の液圧を低下させるようにリザーバR側に逃がす制御弁機構190を設けているが、この制御弁機構190内に上記したカップシール92を設けているため、大型化および高コスト化を効果的に抑制することができる。
【0171】
具体的に、制御弁機構190の制御弁体245を収容するシリンダ通路233内に、制御弁体245により大径与圧室76との連通・遮断が行われる制御弁室266と制御弁体245にプライマリ液圧室51の液圧を作用させる小径圧室267とを区画するように上記したカップシール92を設けており、このカップシール92が、制御弁室266から小径圧室267への作動液の流通を外周リップ部142が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断することで、制御弁機構190の常時リザーバRに連通する制御弁室266からプライマリ液圧室51に常時連通する小径圧室267に作動液を流す。よって、制御弁機構190の通路をポンプアップ時の液補給用として兼用できる。
【0172】
また、カップシール92は、バイパス通路191内に設けられる第1ガイド部材210によりバイパス通路191に保持されるため、カップシール92をシリンダ本体5とは別体の第1ガイド部材210に予め保持した状態でシリンダ本体5に組み付けることができ、組み付けが容易となる。
【0173】
また、シリンダ通路233は、シリンダ本体5の径方向に沿って形成されているため、加工が容易となり、また、取付台部15,16と同じ上側に形成されているため、これらの加工方向が共通することになって、加工時間を短縮できる。
【0174】
また、シリンダ本体5内には、プライマリピストン8とともに摺動するセカンダリピストン9が設けられるとともに、セカンダリピストン9と小径シリンダ部43とでセカンダリ液圧室50が形成され、リザーバRと大径与圧室76とを連通する補給通路87と、リザーバRとセカンダリ液圧室50とを連通する補給通路86との間にシリンダ通路233が形成されているため、シリンダ通路233とリザーバRとを連通させる連通穴102を補給通路86,77との干渉を容易に回避しつつ形成することができる。
【0175】
「第7実施形態」
次に、第7実施形態を主に図10および図11に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0176】
第7実施形態では、図10に示すように、まず、シリンダ本体5の一部構成が第1実施形態と異なっている。つまり、第7実施形態のシリンダ本体5は、第1実施形態の大径摺動内径部13および口部側大径内径部31が形成されていない。そして、第2小径摺動内径部12に、シールリング29が配置されるシール周溝28と、シールリング35が配置される口部4側のシール周溝33とが形成され、さらにこれらシール周溝28,33の間に、連通穴37,38を介してリザーバRに常時連通する開口溝36が形成されている。これにより、シリンダ本体5には、小径シリンダ部43のみが形成されている。
【0177】
また、これに合わせてシリンダ本体5の第2小径摺動内径部12に摺動可能に挿入される第7実施形態のプライマリピストン8は、環状凹部72を除いて一定外径をなしており、円環溝73および連通溝74は形成されていない。よって、第7実施形態では、大径与圧室76は形成されておらず、プライマリピストン8が最も口部4側の初期位置に配置された状態にあるとき、プライマリ液圧室51は、ポート75を開口溝36に開口させる位置にあって、開口溝36と連通穴37,38と取付穴18とで構成される補給通路87によってリザーバRに連通する。第7実施形態では、いわゆる、ファストフィル型のマスタシリンダではないため、大径与圧室が形成されておらず、制御弁機構も設けられていない。
【0178】
シリンダ本体5の第2小径摺動内径部12に設けられたシールリング29は、プライマリピストン8がポート75をシールリング29よりも底部2側に位置させた状態では、プライマリ液圧室51とリザーバRとの連通を遮断可能となっている。また、シールリング29は、カップシールであることから、リザーバRとプライマリ液圧室51との連通を遮断するとともに、これらの間に圧力差が生じた場合にリザーバR側からプライマリ液圧室51側への作動液の流れのみを許容する。
【0179】
以上により、プライマリ液圧室51の液圧がリザーバRの液圧(=大気圧)より低い場合は、シールリング29が開弁して、シリンダ本体5に、取付穴18と、連通穴37,38と、第2小径摺動内径部12とプライマリピストン8との隙間とを介してリザーバRから、プライマリ液圧室51に作動液を補給する。シールリング29が開弁することで形成される、取付穴18と、連通穴37,38と、第2小径摺動内径部12とプライマリピストン8との隙間とが、リザーバRからプライマリ液圧室51に作動液を補給する補給通路85を構成する。
【0180】
初期位置から、プライマリピストン8がブレーキペダルの入力で底部2側に移動すると、プライマリピストン8は、そのポート75がシールリング29で閉塞され、プライマリ液圧室51とリザーバRとのポート75を介しての連通を遮断することになり、この状態からさらに底部2側に移動すると、プライマリ液圧室51からプライマリ吐出路41を介してブレーキ装置に作動液を供給する。
【0181】
また、第7実施形態では、カップシール92が組み込まれるケーシングを構成する径方向突出部280が、筒部3からシリンダ径方向に沿って水平側方に突出している。この径方向突出部280も、シリンダ本体5の鋳造時に底部2、筒部3および取付台部15,16と一体成形される。
【0182】
図11に示すように、径方向突出部280の内側には、シリンダ径方向である水平方向に沿う径方向穴281が筒部3とは反対側から形成されている。この径方向穴281は、筒部3側の第1穴部282と、この第1穴部282と同軸でこれよりも大径の第2穴部283と、この第2穴部283と同軸でこれよりも大径の第3穴部284とを有している。径方向穴281は、第3穴部284において外側に開口することになり、第3穴部284には、開口側の所定範囲にメネジ285が形成されている。なお、径方向穴281は、すべて径方向突出部280の突出方向前方から工具で加工形成される。
【0183】
シリンダ本体5には、径方向穴281における第1穴部281の底面の内周面側と中間大径内径部26とを結ぶことで、プライマリ液圧室51に連通する連通穴101が形成されている。この連通穴101の延長線は径方向穴281内にあって径方向穴281の開口部内の位置から外方に延出する。この連通穴101は、径方向穴281から挿入される工具で加工形成される。
【0184】
シリンダ本体5には、図10に示すように、取付穴18に開口する連通穴38が取付穴18と同軸をなして形成されており、図11に示すように径方向穴281の第1穴部282と第2穴部283との境界部分とこの連通穴38の内周面とを連通穴102が連通させている。この連通穴102も、その延長線が径方向穴281内にあって径方向穴281の開口部内の位置から外方に延出することになり、径方向穴281から挿入される工具で加工形成される。
【0185】
径方向穴281の第1穴部282および第2穴部283内には、段付き軸状の保持部材290が嵌合されている。この保持部材290は、軸方向一側から順に、一端軸部291と、一端軸部291と同軸であって一端軸部291よりも大径の円板部292と、円板部292と同軸であって円板部292よりも小径の中間軸部293と、中間軸部293と同軸であって円板部292よりも大径の他端軸部294とを有している。円板部292には軸方向に貫通する複数の連通穴296が形成されており、他端軸部294の外周部には径方向内方に凹む円環状のシール溝297が同軸状に形成されている。
【0186】
保持部材290は、一端軸部291において第1穴部282の底面に当接し、円板部292で第1穴部282の内周面に嵌合し、他端軸部294で第2穴部283の内周面に嵌合する。この状態で第3穴部284のメネジ285に蓋体300が螺合されることで、保持部材290が径方向突出部280に固定される。なお、蓋体300には、メネジ285に螺合するためのオネジ301が外周部に形成されている。シール溝297には、径方向穴281の第2穴部283と他端軸部294との隙間をシールするためのシールリング298が配設されている。
【0187】
ここで、蓋体300で閉塞された径方向穴281と、取付穴18と、連通穴38と、連通穴101と、連通穴102とによって、補給通路85をバイパスしてリザーバRとプライマリ液圧室51とを連通するバイパス通路303が形成されている。保持部材290は、このバイパス通路303内に配置されている。
【0188】
上記のように蓋体300が径方向突出部280に螺合された状態で、保持部材290の中間の部分と第1穴部282と第2穴部283の境界部分との間の室305が、連通穴102に連通することになり、保持部材290の一端軸部291と第1穴部282との間の部分の室306が連通路101に連通することになる。そして、これら室305,306は、保持部材290に形成された連通穴296によって互いに連通可能となっていることから、室305、連通穴296および室306が、取付穴18と連通穴38と連通穴102と連通穴101とによって、リザーバRとプライマリ液圧室51とを連通する連通路307を構成する。
【0189】
そして、バイパス通路303の連通路307を構成する室306内に、バイパス通路303内に設けられる保持部材290により保持されて第1実施形態と同様のカップシール92が設けられている。なお、上記連通穴296とカップシール92との間には、第1実施形態と同様の図示せぬスペーサが設けられている。
【0190】
カップシール92は、そのベース部140が、保持部材290の円板部292に対向するようにして、内周リップ部141において保持部材290の一端軸部291に密着するように嵌合されることになる。カップシール92の外周リップ部142は、自然状態にあるとき、バイパス通路303の連通路307の内周面を構成する径方向穴281の第1穴部282の内周面に接触する。この状態から、外周リップ部142が内周リップ部141側に撓むと、外周リップ部142が第1穴部282の内周面から離間する。つまり、外周リップ部142はバイパス通路303の連通路307の内周面を構成する第1穴部282に対して接離可能となっている。
【0191】
そして、カップシール92は、リザーバRからバイパス通路303の連通路307を介してのプライマリ液圧室51の作動液の流通を、外周リップ部142が撓んで連通路307の内周面を構成する第1穴部282から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を外周リップ部142がバイパス通路303の連通路307の内周面を構成する第1穴部282に接して遮断する。つまり、カップシール92は、プライマリ液圧室51側の液圧がリザーバR側の液圧(大気圧)以上であると、外周リップ部142がバイパス通路303の連通路307の内周面に接触することで連通路307を閉じて、プライマリ液圧室51からバイパス通路303を介してのリザーバRの作動液の流通を規制する。他方、カップシール92は、リザーバR側の液圧(大気圧)よりもプライマリ液圧室51側の液圧が低くなると液圧差で外周リップ部142が連通路307の内周面から離間する方向に撓んで連通路307を開いて、リザーバRからバイパス通路303を介してのプライマリ液圧室51の作動液の流通を行わせることになる。
【0192】
以上から、車両姿勢安定制御システムの図示略のポンプでプライマリ液圧室51の作動液をポンプアップすると、その吸引圧力によってプライマリ液圧室51が負圧となり、カップシール92が上記のように撓んで開弁し、リザーバRから、連通路307を介してプライマリ液圧室51へ作動液を、シールリング29が開弁することで連通状態となるシリンダ本体5とプライマリピストン8との間の補給通路85を介するよりも大流量で流すことになり、補給通路85と連通路307とを合わせた大流量で流すことができる。
【0193】
第7実施形態によれば、バイパス通路303に介装されてプライマリ液圧室51内の圧力がリザーバRの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁として、リザーバRからプライマリ液圧室51への作動液の流通を外周リップ部142が撓んでバイパス通路303の連通路307を構成する第1穴部282の内周面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を外周リップ部142が第1穴部282の内周面に接して遮断するカップシール92を用いている。このため、大型化および高コスト化を抑制しつつ下流側からの吸引でリザーバRの作動液を流すことができる。
【0194】
また、カップシール92は、バイパス通路303内に設けられる保持部材290によりバイパス通路303に保持されるため、カップシール92を保持部材290に予め保持した状態でシリンダ本体5に組み付けることができ、組み付けが容易となる。
【0195】
「第8実施形態」
次に、第8実施形態を主に図12に基づいて第7実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第7実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0196】
第8実施形態では、保持部材290の一部構成が異なっている。つまり、保持部材290の一端軸部291から同軸をなして軸状に突出する、一端軸部291よりも小径の突起部309が形成されており、この突起部309に別の保持部材310が固定されている。この保持部材310は、円筒状の円筒状部311と、円筒状部311の軸方向の中間部から径方向内方に延出する板状部312とを有している。
【0197】
板状部312の中央に形成された取付穴313に突起部309を挿入し板状部312を一端軸部291に当接させた状態で突起部309を加締めることで保持部材310が保持部材290に一体化される。なお、保持部材310の板状部312と保持部材290の円板部292との間であって円筒状部311の径方向内側にカップシール92の内周リップ部141が配置されることになり、円筒状部311の径方向外側にカップシール92の外周リップ部142が配置されることになる。
【0198】
そして、第8実施形態において、カップシール92は、リザーバR側の液圧(大気圧)よりもプライマリ液圧室51側の液圧が低くなると液圧差で外周リップ部142が、保持部材310の円筒状部311との隙間の範囲で連通路307の内周面を構成する第1穴部282から離間する方向に撓んで連通路307を開いて、リザーバRからバイパス通路303を介してのプライマリ液圧室51の作動液の流通を行わせることになる。
【0199】
第8実施形態によれば、カップシール92の保持部材290からの抜けを保持部材310で規制できるため、カップシール92を確実に保持部材290に保持した状態でシリンダ本体5に組み付けることができ、組み付けが容易となる。
【0200】
上記の第1〜第8実施形態によれば、リザーバから作動液が導入されるシリンダ本体と、該シリンダ本体に摺動自在に嵌合されて前記シリンダ本体内に圧力室を画成するピストンと、前記シリンダ本体に形成されて前記リザーバから前記圧力室に作動液を補給する補給通路と、該補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室とを連通するバイパス通路と、該バイパス通路に介装されて前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁と、備え、前記逆止弁は、前記バイパス通路内に配置され前記リザーバから前記圧力室への作動液の流通をリップ部が撓んで前記バイパス通路の内周面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を前記リップ部が前記内周面に接して遮断するカップシールからなっている。これにより、大型化および高コスト化を抑制しつつ下流側からの吸引でリザーバの作動液を下流側に円滑に流すことができる。
【0201】
また、第1〜第6実施形態によれば、大径シリンダ部および小径シリンダ部を有する段付シリンダと、該段付シリンダの前記大径シリンダ部内に摺動可能に挿入される大径ピストン部および前記小径シリンダ部内に摺動可能に挿入される小径ピストン部を有する段付ピストンと、前記段付シリンダ内を前記大径ピストン部側の大径与圧室と前記小径ピストン部側の小径液圧室とに区画するとともに前記大径与圧室側から前記小径液圧室側への作動液の流れのみを許容する逆止開閉部と、前記大径与圧室、前記小径液圧室およびリザーバに接続され、前記大径与圧室の液圧を低下させるように前記リザーバ側に逃がす制御弁体を有する制御弁機構と、を有し、該制御弁機構には前記制御弁体を摺動可能に収容するシリンダ通路が形成され、該シリンダ通路は、前記小径液圧室に連通し前記制御弁体に前記小径液圧室の液圧を作用させる小径圧室と、前記リザーバおよび前記大径与圧室に連通し、前記制御弁体により前記大径与圧室との連通・遮断が行われる制御弁室とを有し、前記シリンダ通路内に配置され前記制御弁室と前記小径圧室とを区画するとともに、前記制御弁室から前記小径圧室への作動液の流通をリップ部が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断するカップシールを備えている。これにより、大型化および高コスト化を抑制しつつ下流側からの吸引でリザーバの作動液を下流側に流すことができる。しかも、段付シリンダと段付ピストンとを用いて、小径液圧室よりも大径の大径与圧室を形成し、逆止開閉部を介して大径与圧室から小径液圧室に作動液を供給するとともに、大径与圧室の液圧を低下させるようにリザーバ側に逃がす制御弁機構を設けているが、この制御弁機構内にカップシールを設けているため、大型化および高コスト化を効果的に抑制することができる。
【0202】
具体的に、第1〜第6実施形態によれば、制御弁機構の制御弁体を収容するシリンダ通路内に、制御弁体により大径与圧室との連通・遮断が行われる制御弁室と制御弁体に小径液圧室の液圧を作用させる小径圧室とを区画するようにカップシールを設けており、このカップシールが、制御弁室から小径圧室への作動液の流通をリップ部が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断することで、制御弁機構のリザーバに連通する制御弁室から小径液圧室に連通する小径圧室に作動液を流す。よって、制御弁機構の通路を液補給用として兼用できる。
【0203】
また、第1〜第4,第6〜第8実施形態によれば、前記カップシールは、ベース部から延出する外周リップ部と内周リップ部とを有し、前記外周リップ部が前記ベース部に対して角度が変化するようになっている。このため、開弁時に良好に作動液を流すことができる。
【0204】
また、第1〜第4,第6〜第8実施形態によれば、前記カップシールは、外周リップ部と内周リップ部とを有し、径方向の肉厚が前記内周リップ部よりも前記外周リップ部の方が薄くなっている。このため、液圧の変化に対して反応良く開弁および閉弁することができる。
【0205】
また、第2〜第5実施形態によれば、前記カップシールは、外周リップ部と内周リップ部とを有し、これら外周リップ部と内周リップ部との間に、前記外周リップ部よりも突出して形成される中間突出部を有している。これにより、中間突出部でカップシールの軸方向移動を規制できる。
【0206】
また、第1,第6〜第8実施形態によれば、前記カップシールは、前記バイパス通路内に設けられる保持部材により前記バイパス通路に保持されるようになっている。これにより、カップシールを保持部材に予め保持した状態で組み付けることができ、組み付けが容易となる。
【0207】
また、第2〜第4実施形態によれば、前記カップシールは、前記シリンダ通路の内周面に形成される環状溝に保持されるようになっている。このため、カップシールを保持するための構成を簡素化でき、さらなる低コスト化が図れる。
【0208】
また、第1〜6実施形態によれば、前記シリンダ通路は、前記段付シリンダの径方向に沿って形成されている。このため、加工が容易となる。
【0209】
また、第1〜6実施形態によれば、前記段付シリンダ内には、前記段付ピストンとともに摺動する他のピストンが設けられるとともに、該他のピストンと前記小径シリンダ部とで他の液圧室が形成され、前記リザーバと前記大径与圧室とを連通する一の補給通路と、前記リザーバと前記他の液圧室とを連通する他の補給通路との間に前記シリンダ通路が形成されている。このため、一の補給通路および他の補給通路との干渉を容易に回避しつつシリンダ通路とリザーバとを連通させることができる。
【符号の説明】
【0210】
1 マスタシリンダ
5 シリンダ本体(段付シリンダ)
8 プライマリピストン(ピストン,段付ピストン)
9 セカンダリピストン(他のピストン)
29 シールリング(逆止開閉部)
43 小径シリンダ部
44 大径シリンダ部
50 セカンダリ液圧室(他の液圧室)
51 プライマリ液圧室(圧力室,小径液圧室)
65 小径ピストン部
66 大径ピストン部
76 大径与圧室
85 補給通路
86 補給通路(他の補給通路)
87 補給通路(一の補給通路)
90,190 制御弁機構
91,191,303 バイパス通路
92,92’ カップシール(逆止弁)
106,233 シリンダ通路
110 ガイド部材(保持部材)
140 ベース部
141’ 内周リップ部(リップ部)
142 外周リップ部(リップ部)
145,245 制御弁体
166,266 制御弁室
167,267 小径圧室
176 環状溝
183 中間突出部
210 第1ガイド部材(保持部材)
240,290 保持部材
R リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバから作動液が導入されるシリンダ本体と、
該シリンダ本体に摺動自在に嵌合されて前記シリンダ本体内に圧力室を画成するピストンと、
前記シリンダ本体に形成されて前記リザーバから前記圧力室に作動液を補給する補給通路と、
該補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室とを連通するバイパス通路と、
該バイパス通路に介装されて前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁と、
を備え、
前記逆止弁は、前記バイパス通路内に配置され前記リザーバから前記圧力室への作動液の流通をリップ部が撓んで前記バイパス通路の内周面から離れることで許容し、逆方向の作動液の流通を前記リップ部が前記内周面に接して遮断するカップシールからなることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
大径シリンダ部および小径シリンダ部を有する段付シリンダと、
該段付シリンダの前記大径シリンダ部内に摺動可能に挿入される大径ピストン部および前記小径シリンダ部内に摺動可能に挿入される小径ピストン部を有する段付ピストンと、
前記段付シリンダ内を前記大径ピストン部側の大径与圧室と前記小径ピストン部側の小径液圧室とに区画するとともに前記大径与圧室側から前記小径液圧室側への作動液の流れのみを許容する逆止開閉部と、
前記大径与圧室、前記小径液圧室およびリザーバに接続され、前記大径与圧室の液圧を低下させるように前記リザーバ側に逃がす制御弁体を有する制御弁機構と、
を有し、
該制御弁機構には前記制御弁体を摺動可能に収容するシリンダ通路が形成され、
該シリンダ通路は、
前記小径液圧室に連通し前記制御弁体に前記小径液圧室の液圧を作用させる小径圧室と、
前記リザーバおよび前記大径与圧室に連通し、前記制御弁体により前記大径与圧室との連通・遮断が行われる制御弁室とを有し、
前記シリンダ通路内に配置され前記制御弁室と前記小径圧室とを区画するとともに、前記制御弁室から前記小径圧室への作動液の流通をリップ部が撓むことで許容し逆方向の作動液の流通を遮断するカップシールを備えたことを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項3】
前記カップシールは、ベース部から延出する外周リップ部と内周リップ部とを有し、前記外周リップ部が前記ベース部に対して角度が変化するようになっていることを特徴とする請求項1または2に記載のマスタシリンダ。
【請求項4】
前記カップシールは、外周リップ部と内周リップ部とを有し、径方向の肉厚が前記内周リップ部よりも前記外周リップ部の方が薄いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマスタシリンダ。
【請求項5】
前記カップシールは、外周リップ部と内周リップ部とを有し、これら外周リップ部と内周リップ部との間に、前記外周リップ部よりも突出して形成される中間突出部を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のマスタシリンダ。
【請求項6】
前記カップシールは、前記バイパス通路内に設けられる保持部材により前記バイパス通路に保持されることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
【請求項7】
前記カップシールは、前記シリンダ通路の内周面に形成される環状溝に保持されることを特徴とする請求項2に記載のマスタシリンダ。
【請求項8】
前記シリンダ通路は、前記段付シリンダの径方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項2に記載のマスタシリンダ。
【請求項9】
前記段付シリンダ内には、前記段付ピストンとともに摺動する他のピストンが設けられるとともに、該他のピストンと前記小径シリンダ部とで他の液圧室が形成され、
前記リザーバと前記大径与圧室とを連通する一の補給通路と、前記リザーバと前記他の液圧室とを連通する他の補給通路との間に前記シリンダ通路が形成されていることを特徴とする請求項8に記載のマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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