説明

マスターバッチ、タイヤ用ゴム組成物、及び空気入りタイヤ

【課題】操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及びスチールコードとの接着性をバランスよく改善できるマスターバッチ、該マスターバッチを用いたタイヤ用ゴム組成物、及び該タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】クマロンインデン樹脂と硫黄とジエン系ゴムとを含み、前記クマロンインデン樹脂の含有量が8〜55質量%であるマスターバッチに関する。前記クマロンインデン樹脂の軟化点が−20〜45℃であることが好ましい。前記マスターバッチ100質量%中の前記ジエン系ゴムの含有量が10〜80質量%、前記硫黄の含有量が5〜80質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターバッチ、タイヤ用ゴム組成物、及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
安全面、環境面等から、タイヤ用ゴムには操縦安定性や、ゴム強度、低燃費性の向上が要求されている。さらに、これらの性能に加え、トレッドゴムに対しては耐摩耗性が要求され、スチールコード被覆ゴム(スチールコードトッピング用ゴム)に対してはスチールコードとの接着性が要求されている。
【0003】
操縦安定性を維持しながら低燃費性を向上する方法として、補強用充填剤との結合力が強い変性ブタジエンゴム(低シスブタジエンゴムを変性した変性ゴム)を使用する方法が知られている。しかし、この方法によれば、ゴム強度や耐摩耗性が低下するという問題がある。また、操縦安定性を維持しながらゴム強度を向上する方法として、硫黄の使用量を減少し、補強用充填剤の使用量を増加させる方法が知られている。しかし、この方法によれば、低燃費性が悪化するという問題がある。このように、操縦安定性を維持しながら、ゴム強度、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善することは困難であった。
【0004】
特許文献1には、所定のウェットマスターバッチを調製する工程を含むゴム組成物の製造方法が提案されている。しかし、ゴム強度、低燃費性を向上する点に未だ改善の余地がある。また、耐摩耗性やスチールコードとの接着性について、検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−156419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及びスチールコードとの接着性をバランスよく改善できるマスターバッチ、該マスターバッチを用いたタイヤ用ゴム組成物、及び該タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、クマロンインデン樹脂と硫黄とジエン系ゴムとを含み、上記クマロンインデン樹脂の含有量が8〜55質量%であるマスターバッチに関する。
【0008】
上記クマロンインデン樹脂の軟化点が−20〜45℃であることが好ましい。
【0009】
上記マスターバッチ100質量%中の上記ジエン系ゴムの含有量が10〜80質量%、上記硫黄の含有量が5〜80質量%であることが好ましい。
上記ジエン系ゴムが、天然ゴム又はイソプレンゴムであることが好ましい。
【0010】
上記マスターバッチがカーボンブラックを含み、上記マスターバッチ100質量%中の上記カーボンブラックの含有量が2〜35質量%であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記マスターバッチを用いて作製したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0012】
本発明はまた、トレッド用ゴム組成物として用いられる上記タイヤ用ゴム組成物に関する。
【0013】
本発明はまた、スチールコードトッピング用ゴム組成物として用いられる上記タイヤ用ゴム組成物に関する。
【0014】
本発明はまた、上記タイヤ用ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【0015】
本発明はまた、上記タイヤ用ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【0016】
本発明はまた、上記タイヤ用ゴム組成物を用いて作製したスチールコード/ゴム複合体を有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、特定量のクマロンインデン樹脂と硫黄とジエン系ゴムを含むマスターバッチであるので、該マスターバッチを用いて作製したゴム組成物における硫黄の分散性を大幅に向上できる。そのため、ポリマー間の架橋を均一化でき、ゴム組成物の性能(特に、ゴム強度、耐摩耗性、低燃費性、スチールコードとの接着性)を向上できる。
よって、上記マスターバッチを用いて作製したゴム組成物をトレッドに使用する(トレッド用ゴム組成物として使用する)ことで、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度及び耐摩耗性をバランスよく改善できる。
また、上記ゴム組成物をスチールコード/ゴム複合体(スチールコードを該ゴム組成物で被覆して得られる複合体)に使用する(スチールコードトッピング用ゴム組成物として使用する)ことで、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度をバランスよく改善できる。さらに、スチールコードとの接着性も改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(マスターバッチ)
本発明のマスターバッチ(MB)は、特定量のクマロンインデン樹脂と硫黄とジエン系ゴムを含む。ゴム組成物の製造において上記MBを使用すると、該ゴム組成物中の硫黄の分散性を大幅に向上し、ポリマー間の架橋を均一化できる。この理由は以下のように推測される。
【0019】
SP値が通常7.9〜8.7程度のNR、BR、SBRなどの極性が低いジエン系ゴムを含むゴム組成物中で、硫黄を良好に分散させることは一般に困難である。これに対し、先ずクマロンインデン樹脂と硫黄を含むMBを調製すると、MB中の極性を有するクマロンインデン樹脂と硫黄(特に、クマロンインデン樹脂中に含まれる酸素原子と硫黄)がファンデルワールス力で引き合うとともに、MB調製中に該樹脂と硫黄の接触機会も十分に確保される。そのため、硫黄表面がクマロンインデン樹脂によりコーティングされ、硫黄の表面エネルギーを低下できる(凝集力を低下できる)。
【0020】
次いで、硫黄がクマロンインデン樹脂でコーティングされたMBをゴム組成物の材料として使用することで、硫黄表面のSP値とジエン系ゴムのSP値の差を小さくすることができる。よって、これらの作用により、NR、BR、SBRなどの極性が低いジエン系ゴムを用いたゴム組成物であっても、混練により硫黄をゴム組成物全体に均一に分散できる。従って、加硫により、ポリマー間の架橋を均一化できるため、ゴム組成物の性能(特に、ゴム強度、耐摩耗性、低燃費性、スチールコードとの接着性)を向上できる。
なお、SP値とは、溶解度パラメーター(solubility parameter)(分子の極性を表す指標)である。
【0021】
さらに、クマロンインデン樹脂は比較的低分子であるため、MBとゴム成分等とを混練する際に、クマロンインデン樹脂がMBから染み出しやすく(拡散しやすく)、混練物(ゴム組成物)全体に拡散する。これにより、ポリマー鎖の滑性が向上し、ポリマー鎖同士の過度なほつれが少なくなる(ポリマーの分散剤として機能する)ため、加硫ゴム組成物の架橋密度をより一層均一化できる。
【0022】
MBに使用されるクマロンインデン樹脂の軟化点は、好ましくは−20℃以上、より好ましくは−5℃以上、更に好ましくは0℃以上である。−20℃未満であると、クマロンインデン樹脂の粘度が低くなり過ぎて、ゴム成分との混練性が悪化する傾向がある。また、上記クマロンインデン樹脂の軟化点は、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは70℃以下、特に好ましくは45℃以下、最も好ましくは35℃以下である。また、20℃以下、18℃以下、17℃以下であってもよい。特に、軟化点が45℃以下の場合に、硫黄の分散性をより向上でき、本発明の効果をより良好に得ることができる。これは、軟化点が45℃以下の場合、クマロンインデン樹脂が常温で高い流動性を有するため、可塑剤としての機能をより良好に果たすと共に、硫黄表面のコーティング剤、ポリマーの分散剤としての機能もより良好に果たすためと推測される。また、120℃を超えると、エネルギーロスが大きくなり、低燃費性が悪化する傾向がある。また、硫黄の分散性も劣る傾向があるため、耐摩耗性、破断強度も悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、軟化点とは、JIS K6220に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0023】
MB100質量%中のクマロンインデン樹脂の含有量は、8〜55質量%である。上記範囲内であれば、硫黄の分散性を向上でき、本発明の効果を良好に得ることができる。MBをトレッド用ゴム組成物に使用する場合、MB100質量%中のクマロンインデン樹脂の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、特に好ましくは40質量%以上、最も好ましくは45質量%以上である。また、該クマロンインデン樹脂の含有量は、好ましくは50質量%以下である。
【0024】
MBをスチールコードトッピング用ゴム組成物に使用する場合、MB100質量%中のクマロンインデン樹脂の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは18質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上である。また、該クマロンインデン樹脂の含有量は、好ましくは49質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下である。
【0025】
MBに使用される硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。本発明のMBを用いて作製されるタイヤ用ゴム組成物中の硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して3質量部以上となる場合には、分散性に優れるという理由から、MBの硫黄としては不溶性硫黄が好ましい。また、該含有量が2質量部を超え3質量部未満となる場合には、MBの硫黄としては、不溶性硫黄と可溶性硫黄との併用、又は、不溶性硫黄が好ましい。更に、該含有量が2質量部以下となる場合には、MBに使用される硫黄としては可溶性硫黄が好ましい。
【0026】
MBをトレッド用ゴム組成物に使用する場合、MB100質量%中の硫黄の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満では、ゴム組成物を製造する際に添加するMB総量が多くなり、MB含有のポリマー分散が低下する傾向がある。更に、破断強度、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、該硫黄の含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。80質量%を超えると、硫黄の分散性が悪化し、ゴム強度が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、硫黄の含有量とは、硫黄にオイル分が含まれる場合には、オイル分を除いた硫黄分のみの配合量を意味する。
【0027】
MBをスチールコードトッピング用ゴム組成物に使用する場合、MB100質量%中の硫黄の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。5質量%未満では、ポリマー分散が悪化し(仕上げ練り(ファイナル練り)ではポリマー分散が悪い傾向があるため)、破断強度、コード接着性が低下する傾向がある。また、該硫黄の含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、特に好ましくは55質量%以下、最も好ましくは45質量%以下である。80質量%を超えると、硫黄の分散性が悪化し、ゴム強度が悪化する傾向がある。
【0028】
MBに使用されるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などのジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、バインダーとして優れたまとまり性、粘着性を有し、安価であるという理由から、NR、IRが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、IRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0030】
MBをトレッド用ゴム組成物に使用する場合、MB100質量%中のジエン系ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、硫黄の分散が充分でないおそれがある。また、該ジエン系ゴムの含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、特に好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下である。また、30質量%以下であってもよい。80質量%を超えると、仕上げ練り(ファイナル練り)でMB量が多く必要となり、ポリマー分散が悪くなる傾向がある。
【0031】
MBをスチールコードトッピング用ゴム組成物に使用する場合、MB100質量%中のジエン系ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上である。10質量%未満であると、硫黄の分散が充分でないおそれがある。また、該ジエン系ゴムの含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、特に好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下である。また、30質量%以下、20質量%以下であってもよい。80質量%を超えると、仕上げ練り(ファイナル練り)でMB量が多く必要となり、ポリマー分散が悪くなる傾向がある。
【0032】
本発明のMBは、上記成分(クマロンインデン樹脂、硫黄、及びジエン系ゴム)以外に、例えば、オゾン・酸化劣化防止等のために、カーボンブラック、硫黄を含有するシランカップリング剤(エボニックデグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)、Si266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)等)、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0033】
本発明のMBは、カーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、MBの粘度を上昇させ、混練装置にかかるトルクを増大できるため、硫黄やクマロンインデン樹脂の分散性を向上することができる。
【0034】
MBがカーボンブラックを含む場合、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは70m/g以上である。50m/g未満であると、混練時のトルク増大効果が小さい傾向がある。また、破断強度、耐摩耗性が悪化する傾向がある。また、カーボンブラックのNSAは、好ましくは150m/g以下、より好ましくは100m/g以下、更に好ましくは95m/g以下、特に好ましくは90m/g以下である。150m/gを超えると、カーボンブラック自体の凝集力が強過ぎ、MB中の硫黄の分散性が悪化する傾向がある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K6217のA法によって求められる。
【0035】
MBがカーボンブラックを含む場合、カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、好ましくは50cm/100g以上、より好ましくは70cm/100g以上である。50cm/100g未満では、混練時のトルク増大効果が小さい傾向がある。また、破断強度、耐摩耗性が悪化する傾向がある。また、該DBP吸油量は、好ましくは150cm/100g以下、より好ましくは100cm/100g以下、更に好ましくは90cm/100g以下、特に好ましくは80cm/100g以下である。150cm/100gを超えると、カーボンブラック自体の凝集力が強過ぎ、MB中の硫黄の分散性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6221(1982)に記載の方法で測定される値である。
【0036】
MBがカーボンブラックを含む場合、MB100質量%中のカーボンブラックの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上である。2質量%未満であると、MBの粘度を充分に上昇させることができず、充分に硫黄の分散性を向上できないおそれがある。該カーボンブラックの含有量は、好ましくは35質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。35質量%を超えると、MBの粘度が上昇し過ぎ、加工性が悪化する傾向がある。
【0037】
本発明のMBの製造方法としては、例えば、前記各成分をバンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール等のゴム混練装置を用いて混練する方法が挙げられる。
【0038】
(タイヤ用ゴム組成物)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記マスターバッチ(MB)を用いて作製したゴム組成物であり、MB、必要に応じて更にゴム成分(ジエン系ゴムなど)、クマロンインデン樹脂、前述の成分などを含む。
【0039】
タイヤ用ゴム組成物100質量%中、上記MBの配合量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である。また、該配合量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。上記範囲内であれば、硫黄の分散性を向上でき、本発明の効果を良好に得ることができる。
【0040】
なお、以下に述べるタイヤ用ゴム組成物中のゴム成分、硫黄等の各成分の含有量は、MB由来の成分(MBに含まれる成分)を含む全含有量である。
【0041】
本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用されるゴム成分としては、上記MBに使用されるジエン系ゴムと同様の例が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、トレッド用ゴム組成物として使用する場合、グリップ性能、破断強度、耐摩耗性が良好であるという理由から、NR、BR、SBRが好ましく、NR、BR、SBRを併用することがより好ましい。
また、SBR、BRの2種併用系、又はSBR(S−SBR)、NRの2種併用系であってもよい(特に、トレッド用ゴム組成物が乗用車用タイヤとして用いられる場合)。
【0042】
SBRとしては特に限定されず、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、低分子量から高分子量のSBR(ポリマー)をバランス良く含むため、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度及び耐摩耗性をバランスよく改善できるという理由から、E−SBRが好ましい。
【0043】
SBRのスチレン含量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。スチレン含量が5質量%未満であると、グリップ性能が著しく低下するおそれがある。該スチレン含量は、好ましくは38質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは28質量%以下である。スチレン含量が38質量%を超えると、発熱性が著しく上昇し、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、本発明において、SBRのスチレン含量は、H−NMR測定により算出される。
【0044】
トレッド用ゴム組成物にSBRが使用される場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。40質量%未満であると、グリップ性能が低下する傾向がある。該含有量は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。80質量%を超えると、ゴム強度、耐摩耗性、低発熱性が低下する傾向がある。
【0045】
BRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、シス含量が80質量%以上のものを用いることが好ましい。これにより、耐摩耗性をより良好とすることができる。シス含量は、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が最も好ましい。
【0046】
トレッド用ゴム組成物にBRが使用される場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。10質量%未満であると、耐摩耗性が低下する傾向がある。該含有量は、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。40質量%を超えると、グリップ性能が低下する傾向がある。
【0047】
NRとしては、特に限定されず、MBに使用されるNRと同様のものを使用できる。
トレッド用ゴム組成物にNRが使用される場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。5質量%未満であると、グリップ性能、破断強度が低下する傾向がある。該含有量は、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。25質量%を超えると、グリップ性能が低下する傾向がある。
【0048】
一方、スチールコードトッピング用ゴム組成物として使用する場合、破断強度が著しく良いという理由から、NR、BRが好ましく、NRがより好ましい。
【0049】
NRとしては、特に限定されず、MBに使用されるNRと同様のものを使用できる。
スチールコードトッピング用ゴム組成物にNRが使用される場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%が特に好ましい。70質量%未満であると、破断強度が低下する傾向がある。
【0050】
本発明のタイヤ用ゴム組成物に配合されるクマロンインデン樹脂は、MB由来のクマロンインデン樹脂(MBに含まれるクマロンインデン樹脂)のみであってもよいが、必要に応じて更に配合してもよい。更に配合されるクマロンインデン樹脂としては、例えば、上記MBに使用されるクマロンインデン樹脂と同様のものを使用できる。
【0051】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド用ゴム組成物として使用する場合、クマロンインデン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましい。該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、12質量部以下が更に好ましい。上記範囲内とすることにより、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度及び耐摩耗性をバランスよく改善できる傾向がある。
【0052】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をスチールコードトッピング用ゴム組成物として使用する場合、クマロンインデン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましい。該含有量は、20質量部以下が好ましく、12質量部以下がより好ましく、8質量部以下が更に好ましい。上記範囲内とすることにより、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度をバランスよく改善できる傾向がある。さらに、スチールコードとの接着性も改善できる傾向がある。
【0053】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、カーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、補強性を高めることができ、操縦安定性、ゴム強度を向上できる。
【0054】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド用ゴム組成物として使用する場合、カーボンブラックのNSAは、好ましくは50m/g以上、より好ましくは120m/g以上、更に好ましくは145m/g以上である。50m/g未満であると、充分な補強性が得られない傾向がある。また、該カーボンブラックのNSAは、好ましくは250m/g以下、より好ましくは230m/g以下である。250m/gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0055】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド用ゴム組成物として使用する場合、カーボンブラックのDBP吸油量は、好ましくは80cm/100g以上、より好ましくは100cm/100g以上、更に好ましくは120cm/100g以上である。80cm/100g未満では、充分な補強性が得られないおそれがある。また、該DBP吸油量は、好ましくは200cm/100g以下、より好ましくは180cm/100g以下、更に好ましくは140cm/100g以下である。200cm/100gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0056】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をスチールコードトッピング用ゴム組成物として使用する場合、上記MBに使用されるカーボンブラックと同様のものが使用される。
【0057】
本発明のタイヤ用ゴム組成物がカーボンブラックを含む場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40質量部以上が好ましく、45質量部以上がより好ましく、50質量部以上が更に好ましく、53質量部以上が特に好ましい。該含有量は、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、68質量部以下が更に好ましく、62質量部以下が特に好ましい。上記範囲内とすることにより、良好な補強性や操縦安定性が得られる傾向がある。また、本発明では、上記マスターバッチを使用することにより、カーボンブラックの含有量を増量しなくとも、操縦安定性を維持しながらゴム強度を向上できるため、良好な低燃費性も得られる。
【0058】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド用ゴム組成物として使用する場合、シリカを含むことが好ましい。これにより、良好な低燃費性、補強効果が得られる。
【0059】
シリカのNSAは、好ましくは80m/g以上、より好ましくは100m/g以上、更に好ましくは120m/g以上である。80m/g未満であると、充分な補強性が得られないため、操縦安定性、耐摩耗性、ゴム強度が低下する傾向がある。また、シリカのNSAは、好ましくは220m/g以下、より好ましくは180m/g以下である。220m/gを超えると、配合したゴムの粘度が大幅に上昇し、加工性が悪化するおそれがある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0060】
本発明のタイヤ用ゴム組成物(トレッド用ゴム組成物)にシリカが使用される場合、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上が更に好ましい。10質量部未満であると、シリカを配合した効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、150質量部以下が好ましく、120質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましい。150質量部を超えると、シリカが分散しにくくなり、加工性が悪化するおそれがある。
【0061】
本発明のタイヤ用ゴム組成物(トレッド用ゴム組成物)にカーボンブラック及び/又はシリカが使用される場合、カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、80質量部以上となるよう混合されることが好ましく、100質量部以上がより好ましい。上記合計含有量は、180質量部以下が好ましく、160質量部以下がより好ましく、140質量部以下が更に好ましく、120質量部以下が特に好ましい。上記範囲内とすることにより、良好な補強性や操縦安定性が得られる傾向がある。また、本発明では、上記マスターバッチを使用することにより、上記合計含有量を増量しなくとも、操縦安定性を維持しながらゴム強度を向上できるため、良好な低燃費性も得られる。
【0062】
本発明のタイヤ用ゴム組成物(スチールコードトッピング用ゴム組成物)にカーボンブラック及び/又はシリカが使用される場合、カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40質量部以上となるよう混合されることが好ましく、50質量部以上がより好ましく、53質量部以上が更に好ましい。上記合計含有量は、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、68質量部以下が更に好ましく、62質量部以下が特に好ましい。上記範囲内とすることにより、前述と同様の効果が得られる。
【0063】
本発明では、シリカを使用する場合、シリカとともに、シランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィド系が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドが特に好ましい。
【0064】
シランカップリング剤が使用される場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは6質量部以上である。2質量部未満であると、低発熱性及び耐摩耗性が悪化する傾向がある。また、該シランカップリング剤の含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下である。15質量部を超えると、シランカップリング剤の配合による低発熱性及び耐摩耗性の改善効果がみられず、コストが増大してしまう傾向がある。
【0065】
本発明のタイヤ用ゴム組成物に配合される硫黄は、MB由来の硫黄(MB化された硫黄)のみであることが好ましいが、必要に応じて、MB由来以外の硫黄(例えば、不溶性硫黄等)を更に配合してもよい。
【0066】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド用ゴム組成物として使用する場合、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.2質量部以上が更に好ましい。該含有量は、5質量部以下が好ましく、2.9質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下が更に好ましい。上記範囲内とすることにより、操縦安定性を維持しながら良好なゴム強度が得られる傾向がある。また、本発明では、上記マスターバッチを使用することにより、操縦安定性を維持しながらゴム強度、耐摩耗性、低発熱性を向上できる。
【0067】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をスチールコードトッピング用ゴム組成物として使用する場合、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2.5質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4.5質量部以上が更に好ましく、6.5質量部以上が特に好ましく、8.0質量部以上が最も好ましい。該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、13質量部以下が更に好ましく、12質量部以下が特に好ましい。上記範囲内とすることにより、操縦安定性を維持しながら良好なゴム強度、スチールコードとの接着性が得られる傾向がある。また、本発明では、上記マスターバッチを使用することにより、操縦安定性を維持しながらゴム強度、接着性、低発熱性を向上できる。
【0068】
通常、スチールコードトッピング用ゴム組成物には、スチールコードとの接着性の確保のために、多量の硫黄(例えば、ゴム成分100質量部に対して4質量部以上)が配合されているが、大部分の硫黄は、分散不良を起こし、塊として存在し、架橋に寄与せずに存在しているものと推測される。そして、これに起因して、ポリマー間の架橋密度が不均一化し、ゴム強度が低下するものと思われる。しかし、本発明では、上記マスターバッチを使用することにより、多量の硫黄を配合した場合であっても、硫黄の分散性を向上できるため、上記不具合を解消できる。そのため、硬さ、エネルギーロス、ゴム強度をバランスよく改善でき、さらに、スチールコードとの接着性も改善できるものと推測される。
【0069】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をスチールコードトッピング用ゴム組成物として使用する場合、有機酸コバルトを含むことが好ましい。
有機酸コバルトは、スチールコードとゴムとを架橋する役目を果たすため、有機酸コバルトを含有することにより、スチールコードとゴムとの接着性を向上させることができる。有機酸コバルトの具体例としては、例えば、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素3デカン酸コバルトなどが挙げられる。なかでも、ステアリン酸コバルトが好ましい。
【0070】
本発明のタイヤ用ゴム組成物(スチールコードトッピング用ゴム組成物)に有機酸コバルトが使用される場合、ゴム成分100質量部に対して、有機酸コバルトの含有量は、コバルトに換算して0.05質量部以上が好ましく、0.08質量部以上がより好ましい。0.05質量部未満であると、接着性能が悪化するおそれがある。
該含有量は、コバルトに換算して0.30質量部以下が好ましく、0.20質量部以下がより好ましく、0.18質量部以下が更に好ましく、0.15質量部以下が特に好ましい。0.30質量部を超えると、加工中、加硫中及び使用中のいずれにおいても熱酸化劣化が発生する傾向がある。また、ゴム強度が低下するおそれがある。
【0071】
本発明では、上記マスターバッチを使用することにより、有機酸コバルトの含有量が少ない場合(例えば、ゴム成分100質量部に対して0.20質量部(コバルト換算)以下)であっても、充分なスチールコードとゴムとの接着性が確保される。そして、有機酸コバルトの含有量を低く(例えば、0.20質量部(コバルト換算)以下に)抑えることができるため、多量の有機酸コバルトを配合した場合に生じるゴム強度の低下を抑制できる。
【0072】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をスチールコードトッピング用ゴム組成物として使用する場合(特に、硫黄の含有量が少ない場合)、レゾルシン縮合体を含むことが好ましい。これにより、硫黄の使用量を抑えつつ、ゴム強度、スチールコードとの接着性を向上させることができる。
レゾルシン縮合体としては、レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体などがあげられる。なかでも、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体(例えば、田岡化学工業(株)製のスミカノール620)が好ましい。
なお、変性レゾルシンとは、レゾルシン縮合体がアルキル化されたものをいう。
【0073】
本発明のタイヤ用ゴム組成物(スチールコードトッピング用ゴム組成物)にレゾルシン縮合体が使用される場合、レゾルシン縮合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上、5質量部以下が好ましい。
【0074】
また、レゾルシン縮合体が使用される場合、メラミン樹脂を併用することが好ましい。メラミン樹脂を併用することにより、硫黄の使用量を抑えつつ、ゴム強度、スチールコードとの接着性をより向上させることができる。メラミン樹脂としては、変性エーテル化メチロールメラミン樹脂(例えば、田岡化学工業(株)製スミカノール507AP)などが挙げられる。
【0075】
本発明のタイヤ用ゴム組成物(スチールコードトッピング用ゴム組成物)にメラミン樹脂が使用される場合、メラミン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上、10質量部以下が好ましい。
【0076】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、クレー等の補強用充填剤、ステアリン酸、酸化防止剤、老化防止剤、加硫促進剤、ワックス、軟化剤、粘着付与剤などを必要に応じて配合してもよい。
【0077】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をスチールコードトッピング用ゴム組成物として使用する場合、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、8質量部以上が更に好ましい。2質量部未満では、熱劣化ゴム破断強度、温熱コード接着性が劣る傾向がある。該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、12質量部以下が更に好ましい。20質量部を超えると、ボイドが多く、破断強度が低下する傾向がある。
【0078】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、一般的な方法で製造される。例えば、前記MBなどの各成分をバンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール等のゴム混練装置を用いて混練し(混練工程)、その後加硫する方法等により製造できる。
【0079】
なお、本発明では、混練工程は、ポリマーとフィラー(補強用充填剤等)の分散を確保し、仕上げ練りを効率化するという点から、以下のステップを含むことが好ましい。
ステップ1:ジエン系ゴムと、補強用充填剤(カーボンブラック、シリカ等)等(シランカップリング剤、酸化亜鉛、老化防止剤、ワックス)とを混練し、混練物Xを得るステップ(ベース練り工程)
ステップ2:混練物Xと、MBと、加硫促進剤とを混練し、未加硫ゴム組成物を得るステップ(仕上げ練り工程)
このように、仕上げ練り工程で酸化亜鉛、老化防止剤、ワックス等の薬品を加えると溶解し混ざりにくいところ、該混練工程によれば、ベース練り工程でこれらの薬品を加えることができるため、MBと混練物Xとを効率的に分散できる。
【0080】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド用ゴム組成物として使用する場合、上記ステップ1は、ジエン系ゴムと補強用充填剤(カーボンブラック、シリカ等)、シランカップリング剤等とを混練する小ステップを複数回含むステップであることが好ましい。これにより、フィラー分散が良くなり、破断強度及び低発熱性を向上できる。
上記小ステップの回数は、2〜5回が好ましく、2〜3回がより好ましい。
【0081】
具体的には、例えば、上記ステップ1は、以下のステップを含んでいてもよい。
ステップ1−1:ジエン系ゴムと、ゴム組成物に最終的に配合されることになる補強用充填剤(カーボンブラック、シリカ等)の一部(所定量)とを混練し、混練物xを得るステップ
ステップ1−2:混練物xと、残りの補強用充填剤(ステップ1−1で混合されなかった補強用充填剤)と、酸化亜鉛等のその他の成分とを混練し、混練物Xを得るステップ
【0082】
ステップ1−1が行われる場合、上記所定量について、ゴム組成物に配合される補強用充填剤100質量%中の上記所定量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。該所定量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。上記範囲内とすることにより、フィラー分散が良くなり、破断強度及び低発熱性を向上できる。
【0083】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、タイヤの各部材(特に、トレッド、スチールコードをゴムにより被覆して得られるスチールコード/ゴム複合体(例えば、ベルト、ブレーカー、カーカス等)、クリンチエイペックス)に好適に使用できる。
【0084】
スチールコード/ゴム複合体に用いられるスチールコードとしては、とくに制限はないが、たとえば、単撚りスチールコード、層撚りスチールコード等があげられる。
【0085】
(空気入りタイヤ)
本発明の空気入りタイヤ(空気入りラジアルタイヤ)は、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材(特に、トレッド、スチールコードをゴムにより被覆して得られるスチールコード/ゴム複合体(例えば、ベルト、ブレーカー、カーカス等))の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【0086】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、ライトトラック用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられるが、なかでも、ライトトラック用タイヤ、乗用車用タイヤとしてより好適に用いられる。
【実施例】
【0087】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0088】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
IR:JSR(株)製のIR2200
BR150B:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量97質量%)
BR1250H:日本ゼオン(株)製のBR1250H
SBR1712:JSR(株)製のSBR1712(E−SBR、スチレン含量:23.5質量%)
シリカ:ローディア(株)製のZ1165MP(NSA:160m/g)
カーボンブラック(1):キャボットジャパン(株)製のショウブラックN134(NSA:148m/g、DBP吸油量123cm/100g)
カーボンブラック(2):三菱化学(株)製のダイヤブラックN326(NSA:84m/g、DBP吸油量74cm/100g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
老化防止剤6PPD:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエース0355
ステアリン酸:日油(株)製の椿
ステアリン酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のcost−F(コバルト含有量:9.5質量%)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
5%オイル含有粉末硫黄:鶴見化学工業(株)製の5%オイル処理粉末硫黄(オイル分5質量%を含む可溶性硫黄)
20%オイル含有粉末硫黄:フレキシス(株)製のクリステックスHSOT20(硫黄80質量%およびオイル分20質量%を含む不溶性硫黄)
CBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3ジフェニルグアニジン)
DCBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
レジンC10:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C10(液状クマロンインデン樹脂、軟化点:5〜15℃)
レジンC30:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C30(クマロンインデン樹脂、軟化点:20〜30℃)
レジンC90:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C90(クマロンインデン樹脂、軟化点:85〜95℃)
石油系C5レジン:丸善石油化学(株)製のマルカレッツレジン(C5系石油樹脂、軟化点:100℃)
T−DAEオイル:H&R(株)製のVivaTec400
アロマオイル:ジャパンエナジー(株)製のプロセスX−140
スミカノール620:田岡化学工業(株)製スミカノール620(変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体)
スミカノール507A:田岡化学工業(株)製スミカノール507AP(変性エーテル化メチロールメラミン樹脂)
【0089】
(マスターバッチの調製)
実施例1〜26、比較例6、12〜15、18については、表1〜4に示す配合処方に従い、ニーダーを用いて、混練温度が100℃になるまで混練し、マスターバッチ(MB)を調製した。なお、比較例1〜5、7〜11、16、17については、MBの調製を行わなかった。
【0090】
(トレッド用ゴム組成物の作製)
1.7Lバンバリーミキサーを用いて、それぞれ表1、2に示す配合量の半量のカーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤と、全量のゴム成分とを混練し、混練温度が150℃になったところで排出し、混練物(x)を得た。
次に、表1、2に示す配合処方に従い、混練物(x)にMB、硫黄及び加硫促進剤以外の材料(カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤の残量も含む)を混練し、混練温度が150℃になったところで排出し、混練物(X)を得た。
更に、混練物(X)にMB、硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、混練温度が105℃になったところで排出し、Tr用未加硫ゴム組成物を得た。
得られたTr用未加硫ゴム組成物を170℃で12分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0091】
(空気入りタイヤの作製)
上記Tr用未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材とはりあわせて未加硫タイヤを作製し、該未加硫タイヤを170℃で12分間加硫し、試験用タイヤ(195/65R15 91H)を得た。
【0092】
(スチールコードトッピング用ゴム組成物の作製)
表3、4に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、MB、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を混練し、混練温度が180℃になったところで排出し、混練物(y)を得た。更に、混練物(y)にMB、硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、混練温度が105℃になったところで排出し、BT用未加硫ゴム組成物を得た。得られたBT用未加硫ゴム組成物を170℃で12分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0093】
(剥離試験用サンプルの作製)
また、得られたBT用未加硫ゴム組成物を用いてスチールコードを被覆し、175℃、21kgf/cmの条件下で15分間プレス加硫し、その後、温度80℃、湿度95%の条件下で150時間劣化処理し、剥離試験用サンプルを作製した。
【0094】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤ及び剥離試験用サンプルを用いて以下の評価を行った。その結果を表1〜4に示す。
【0095】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、温度70℃又は40℃、周波数10Hz、初期歪10%および動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の複素弾性率E*(MPa)および損失正接tanδを測定した。なお、E*が大きいほど剛性が高く、操縦安定性が優れることを示し、tanδが小さいほど発熱性が低く、低燃費性が優れることを示す。
【0096】
(引張試験)
上記加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、25℃で引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。なお、EBが大きいほどゴム強度が優れることを示す。
【0097】
(実車摩耗試験)
上記試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着してテストコースを実車走行させ、約30000km走行した後のパターン溝深さの減少量を求めた。そして、比較例1の減少量を100とし、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
(耐摩耗性指数)=(比較例1の減少量)/(各配合の減少量)×100
【0098】
(接着試験(剥離後ゴム付き評点))
剥離試験用サンプルを用いて接着試験を行い、剥離後のゴム被覆率(スチールコードとゴム間を剥離したときの剥離面のゴムの覆われている割合)を測定し、比較例7を3点として評価した。評点の大きい方がスチールコードとの接着性が良好である。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
表1、2が示すように、特定量のクマロンインデン樹脂と硫黄とジエン系ゴムを含むマスターバッチを用いた実施例は、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性をバランスよく改善できた。
一方、比較例は、実施例に比べて性能が劣っていた。例えば、実施例1と比較例3を対比すると、本発明のマスターバッチを使用することによって、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性を改善できることが明らかとなった。
なお、比較例6は、流動性が大き過ぎ、マスターバッチに加工することができず、ゴム組成物を得ることができなかった。
【0104】
表3、4が示すように、特定量のクマロンインデン樹脂と硫黄とジエン系ゴムを含むマスターバッチを用いた実施例は、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、ゴム強度、スチールコードとの接着性をバランスよく改善できた。
一方、比較例は、本発明のマスターバッチを使用していないため、各性能のバランスが実施例に比べて劣っていた。
なお、比較例18は、流動性が大き過ぎ、マスターバッチに加工することができず、ゴム組成物を得ることができなかった(相分離のため)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クマロンインデン樹脂と硫黄とジエン系ゴムとを含み、
前記クマロンインデン樹脂の含有量が8〜55質量%であるマスターバッチ。
【請求項2】
前記クマロンインデン樹脂の軟化点が−20〜45℃である請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項3】
前記マスターバッチ100質量%中の前記ジエン系ゴムの含有量が10〜80質量%、前記硫黄の含有量が5〜80質量%である請求項1又は2に記載のマスターバッチ。
【請求項4】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴム又はイソプレンゴムである請求項1〜3のいずれかに記載のマスターバッチ。
【請求項5】
前記マスターバッチがカーボンブラックを含み、
前記マスターバッチ100質量%中の前記カーボンブラックの含有量が2〜35質量%である請求項1〜4のいずれかに記載のマスターバッチ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のマスターバッチを用いて作製したタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
トレッド用ゴム組成物として用いられる請求項6に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
スチールコードトッピング用ゴム組成物として用いられる請求項6に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項6に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。
【請求項10】
請求項7に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤ。
【請求項11】
請求項8に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いて作製したスチールコード/ゴム複合体を有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−219540(P2011−219540A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87325(P2010−87325)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】