説明

マスターバッチ及びその製造方法、並びに成形物の成形方法

【課題】マスターバッチの状態で吸着性能を発現することなく、マスターバッチを樹脂と配合して成形した成形品の状態で吸着性能を発現せしめることを可能にしたものであり、吸着性物質である金属超微粒子の形成に用いられるマスターバッチ及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】熱可塑性樹脂中に、有機酸金属塩を含有して成り、且つ該有機酸金属塩の金属がCu、Ag、Au、In、Pd、Pt、Fe、Ni、Co、Zn、Nb、Sn、Ru及びRhから成る群から選択されて、金属超微粒子形成に用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターバッチ及びその製造方法並びにこのマスターバッチを配合して得る成形物の成形方法に関し、特に吸着性樹脂組成物用マスターバッチ及びその製造方法に関するものであり、より詳細にはマスターバッチの状態では吸着性能を発現することなく、樹脂に配合して成形された状態で吸着性能を発現可能なマスターバッチ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、メチルメルカプタン等の悪臭成分、或いはホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds 以下「VOC」という)を吸着可能な消臭剤或いは吸着剤は種々提案されており、一般に、活性炭、シリカゲル、ゼオライト等の多孔質物質を利用したものが一般的である。
熱可塑性樹脂に配合して成形品に、上記成分を吸着可能な性能を付加させたものも種々提案されており、例えば下記特許文献1には、活性炭や、多孔質ゼオライトやセピオライト等の無機フィラーや、或いは光触媒作用を応用した酸化チタンが記載されているように、広範な臭気成分を消臭可能であると共に熱可塑性樹脂との溶融混練も可能な耐熱性を有している。
また金属の超微粒子を用いた消臭剤も提案されており、例えば金属イオン含有液を還元して得られた金属超微粒子コロイド液を有効成分とする消臭剤が提案されている(特許文献2)。
【0003】
しかしながら、多孔性物質を利用したものは、臭い成分或いはVOCを吸着して吸着効果(消臭効果)を発現しているため、その吸着サイトが飽和状態になると効果は消失するという問題がある。また無機フィラーは分散性を向上させるために、熱可塑性樹脂と溶融混練する際に分散剤を用いる必要があり、このため無機フィラー表面の吸着サイトが樹脂や分散剤で覆われて吸着効果が著しく低下するという問題がある。
また光触媒作用を応用した消臭剤は、臭気成分を分解、無臭化させるために酸化チタン表面に常に紫外線が照射されていなければならないという問題がある。
更に金属超微粒子を用いる消臭剤において、かかる消臭剤を樹脂に配合して使用する場合には、表面活性の高い金属超微粒子によって樹脂が分解されてしまい、成形性が著しく阻害されてしまうという問題があると共に、ハンドリング性の点から分散液が必要であり、樹脂に配合するには十分満足するものではない。
【0004】
このような観点から、本発明者等は、金属超微粒子表面に有機酸成分を存在させることにより、金属表面と樹脂との直接接触を低減させ、樹脂の分解を有効に抑制して、樹脂の分子量の低下等を低減することができ、成形性を阻害することがない、吸着性金属超微粒子を提案した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−75434号公報
【特許文献2】特開2006−109902号公報
【特許文献3】国際公開第2006/080319
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂中に上記のような吸着性物質を配合させる際、吸着性物質を高濃度で配合するマスターバッチを予め作製し、これを樹脂に配合するのが一般的である。これは所望の成形品に加工する前に、予め樹脂と吸着性物質を混練し、吸着性物質を樹脂中に分散させることにより、成形品の加工工程を容易にすること、及び吸着性物質の樹脂中での分散性を向上させることを主たる目的としている。特に、吸着性物質として上述した金属超微粒子を用いる場合、表面積が極めて高いため均一分散が困難であること、金属超微粒子単独でのハンドリングが困難であることから、所望の成形品に加工する際にマスターバッチを使用することは特に効果的である。
しかしながら、これら吸着性物質はマスターバッチの状態でも臭気成分を吸着するため、前記マスターバッチを樹脂に配合して成形した成形物の吸着量が低下してしまうという問題が生じる。この問題は、吸着性物質として上述した金属超微粒子を用いる場合、その吸着能力の高さ故に、より顕著である。
また、樹脂中の金属超微粒子は、加熱を繰り返す度に、凝集や粒子成長する傾向があり、その為、加熱条件下で樹脂と混練を行うマスターバッチ化の工程は、最終製品、即ち成形品の吸着性能を低減させる要因となる。
【0007】
従って本発明の目的は、マスターバッチの状態で吸着性能を発現することなく、マスターバッチを樹脂と配合して成形した成形品の状態で吸着性能を発現せしめることを可能としたものであり、吸着性物質である金属超微粒子の形成に用いられるマスターバッチ及びその製造方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、上述したマスターバッチを用いて、吸着性物質である金属超微粒子が、樹脂中に均一分散してなる成形物の製造方法を提供することである。
【0008】
本発明によれば、熱可塑性樹脂中に、有機酸金属塩を含有して成り、且つ、該有機酸金属塩の金属がCu、Ag、Au、In、Pd、Pt、Fe、Ni、Co、Zn、Nb、Sn、Ru及びRhから成る群から選択され、金属超微粒子形成に用いるマスターバッチが提供される。
本発明のマスターバッチにおいては、
1.金属が、少なくともAgからなること、
2.プラズモン吸収波長300乃至700nmにおける吸光度ピーク高さの最大値と最小値の差が0.1未満であること、
3.有機酸が、脂肪酸であること、
4.脂肪酸が、3〜30の炭素数を有すること、
5.熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、熱可塑性樹脂と有機酸金属塩との混練を、有機酸金属塩が該樹脂中で熱分解しない温度で行う上記マスターバッチの製造方法が提供される。
【0010】
本発明によれば更に、熱可塑性樹脂に上記マスターバッチを配合し、有機酸金属塩が樹脂中で熱分解可能な温度、且つ熱可塑性樹脂の熱劣化温度以下で加熱混練することで、金属超微粒子が分散された成形物を成形する方法が提供される。
本発明の成形方法においては、金属超微粒子の平均粒径が1乃至100nmであること、が好適である。
【0011】
前述の本発明者等が提案した、有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子であって、前記有機酸成分と金属間の結合に由来する1518cm−1付近赤外吸収ピークを有することを特徴とする吸着性金属超微粒子は、表面活性が高くしかも表面積が大きいことから、臭気成分、VOC或いは微小蛋白質への反応性に優れ、通常の粒子よりも大きな吸着速度及び吸着量を有し、優れた吸着効果等を発現すると共に、金属超微粒子表面に有機酸成分が存在していることから、金属表面と樹脂との直接接触が低減されており、樹脂の分解を有効に抑制して、樹脂の分子量の低下等を低減し、成形性が阻害されることがないという、特徴を有している。
【0012】
本発明の特徴は、熱可塑性樹脂中において、上述の金属超微粒子に形成し得る有機酸金属塩が、前記金属超微粒子の前駆体としてマスターバッチに配合されることである。そして、前記マスターバッチの状態では、有機酸金属塩として存在する為に、吸着性能はほとんど発現しない。
そして、本発明のマスターバッチを、樹脂に配合して加熱条件下で成形加工して成形物とすることにより、平均粒径1〜100nmの金属超微粒子を樹脂中に均一分散させることができる。このように、樹脂中に金属超微粒子が形成された状態、即ち成形物となった状態で、顕著に吸着性能が発現される。従って、本発明のマスターバッチによれば、吸着性能の発現を制御することが可能となる。
【0013】
本発明のマスターバッチにおいては、プラズモン吸収波長300乃至700nmにおける吸光度ピーク高さの最大値と最小値の差が0.1未満であることが好ましい。すなわち、有機酸金属塩が樹脂中で金属超微粒子化及び均一分散しているか否かは、金属超微粒子のプラズモン吸収の存在により確認することができ、本発明のマスターバッチにおいては、上記範囲の吸光度ピーク高さの最大値と最小値の差が0.1未満であることにより、有機酸金属塩の金属が吸着性能を発現し得る金属超微粒子になっていないことが確認できる。
尚、本明細書でいう吸光度ピーク高さとは、プラズモン吸収波長300乃至700nmにおける吸光度ピークの両裾を直線に引いたベースラインからの高さであり、平均粒子径とは、金属と金属との間に隙間がないものを一つの粒子とし、その平均値をいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマスターバッチ自体は、ほとんど上述した悪臭成分、或いはVOC等に対して吸着性能を発現せず、最終成形品或いは二次成形品等の成形物の吸着性能がマスターバッチの保管・管理・流通等の経時による影響を受けず、成形物が安定した吸着性能を発現することができる。
また、本発明のマスターバッチは、金属超微粒子の前駆体となる有機酸金属塩が樹脂中に分散しているため、樹脂に直接有機酸金属塩を配合して加熱成形した成形物に比して、成形物中に金属超微粒子がより均一に分散され、優れた吸着性が発現される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(有機酸金属塩)
本発明のマスターバッチに配合される有機酸金属塩の金属は、Cu、Ag、Au、In、Pd、Pt、Fe、Ni、Co、Zn、Nb、Ru及びRhから成る群から選択され、中でもAu、Ag、Cu、Pt、Sn、特にAgが好適である。これらの金属成分は、単独で使用しても良く、複数の金属塩を併用しても良い。また合成が可能であれば複合有機酸金属塩として使用することも可能である。
本発明においては、使用される有機酸金属塩の有機酸としては、ミリスチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,パルミチン酸,n−デカン酸,パラトイル酸,コハク酸,マロン酸,酒石酸,リンゴ酸,グルタル酸,アジピン酸、酢酸等の脂肪族カルボン酸、フタル酸,マレイン酸,イソフタル酸,テレフタル酸,安息香酸、ナフテン酸等の芳香族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式カルボン酸等を挙げることができる。
本発明においては、用いる有機酸が、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等に代表される脂肪酸が炭素数3〜30である高級脂肪酸であることが特に好ましい。また、炭素数の多いものを使用することにより、有機酸成分自体も臭気成分或いはVOC等を吸着することができ、吸着効果(消臭効果)等をより向上することが可能となる。
用いる有機酸金属塩は特に限定を受けないが、平均粒径は、1乃至100μm、特に20乃至50μmの範囲にあり、含水率が200ppm以下であるものが、良好な吸着性能を有する成形物が得られることから好適に使用可能である。
【0016】
(熱可塑性樹脂)
本発明のマスターバッチにおいて、有機酸金属塩を含有する熱可塑性樹脂としては、溶融成形が可能な熱可塑性樹脂であれば従来公知のものをすべて使用でき、例えば、低−,中−,高−密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタエート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。特にポリエチレン、ポリプロピレンを好適に用いることができる。
【0017】
(マスターバッチ)
本発明のマスターバッチは、これに限定されるものではないが、上述した有機酸金属塩を熱可塑性樹脂中に樹脂100重量部当たり0.1乃至50重量部、特に1乃至10重量部の量で含有させることが好ましい。上記範囲よりも少ない場合には、マスターバッチを配合して成形された成形品に十分な吸着性能を付与することができず、その一方上記範囲よりも多い場合には有機酸金属塩の凝集が生じて、有機酸金属塩の平均粒径を1乃至200μmの範囲とすることが困難になる。
本発明のマスターバッチは、上記熱可塑性樹脂と有機酸金属塩、特に平均粒径1乃至100μmの有機酸金属塩を、熱可塑性樹脂の融点以上、且つ有機酸金属塩が樹脂中で熱分解しない温度で加熱混合することにより、調製することができる。
尚、有機酸金属塩が熱分解しない温度は、有機酸金属塩の分解開始温度未満の温度であるが、実際には押出機の設定温度以外にスクリューによる剪断発熱、或いは滞留時間等による影響を受けるため、滞留時間、加熱時間、スクリュー回転数等の加工条件を調整して、有機酸金属塩を分解しないことが重要である。
マスターバッチを調製するために必要な加熱条件は、用いる有機酸金属塩によっても相違するので、一概には規定できないが、一般的には130乃至220℃、特に140乃至200℃の温度で、1乃至1800秒、特に5乃至300秒加熱されることが望ましい。
熱可塑性樹脂と有機酸金属塩の混合は、これに限定されるものではないが、例えばタンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー又はスーパーミキサーのような混合機で予め均一に混合後、単軸押出機や多軸押出機で溶融混練造粒する方法や、ニーダーやバンバリーミキサー等で溶融混練した後に押出機を用いて造粒する方法等が挙げられる。
マスターバッチは、その用途に応じて、それ自体公知の各種配合剤、例えば、充填剤、可塑剤、レベリング剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を公知の処方に従って配合してもよい。
【0018】
(吸着性成形物)
本発明のマスターバッチを熱可塑性樹脂中に配合し、加熱混合されてなる成形物は、金属超微粒子が形成された平均粒径1乃至100nmの金属超微粒子が均一分散されており、優れた吸着性能を発現することが可能となる。
すなわち、本発明のマスターバッチを熱可塑性樹脂に配合し、加熱混合することにより、マスターバッチに含有されていた金属微粒子が熱可塑性樹脂中で金属超微粒子化すると共に均一分散し、平均粒径1乃至100nmの金属超微粒子が分散された吸着性成形物を成形することができる。また、成形温度は、有機酸金属塩が樹脂中で熱分解する温度、且つ熱可塑性樹脂の熱劣化温度以下の温度で加熱混合することが望ましい。
尚、有機酸金属塩が熱分解する温度は、有機酸金属塩の分解開始温度以上の温度であってもよいが、必ずしも分解開始温度以上の温度である必要はなく、前述したように、二軸押出機のスクリューによる剪断発熱、或いは滞留時間等による影響を受けるため、二軸押出機における滞留時間や加熱時間、スクリュー回転数等の加工条件を調整することで、有機酸金属塩を分解し、金属超微粒子を形成する。
ここでいう脂肪酸金属塩の分解開始温度は、脂肪酸部分が金属部分から脱離あるいは分解し始める温度であり、一般的に開始温度はJIS K 7120により定義されている。これによれば、有機化合物(脂肪酸金属塩)の質量を計測し、熱重量測定装置を用いて不活性雰囲気下で昇温した際の重量変化を測定する熱重量測定(TG)を行う。測定により得られた熱重量曲線(TG曲線)から分解開始温度を算出する。試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線とTG曲線における屈曲点間の勾配が最大になるような接線とが交わる点の温度を開始温度とすると定義づけられている。
樹脂成形品への具体的な成形温度は、成形方法や用いる熱可塑性樹脂及び有機酸金属塩の種類、マスターバッチ中の金属超微粒子の平均粒径等によって一概に規定できないが、一般的には120乃至230℃、特に160乃至220℃の温度で、1乃至1800秒、特に5乃至300秒加熱されることが望ましい。
【0019】
熱可塑性樹脂に対する配合量は、マスターバッチ中の有機酸金属塩の含有量、要求される吸着性能や用途、成形物の形態などによって一概に規定できないが、一般に熱可塑性樹脂100重量部当たり0.0001乃至5重量部の量で配合することが、金属超微粒子の分散性の点から望ましい。
またマスターバッチを配合すべき熱可塑性樹脂は、マスターバッチの形成に用いられた熱可塑性樹脂を用いることができるが、好適には、酸素透過係数が1.0×10−4cc・m/m・day・atm以上の熱可塑性樹脂であることが好ましい。これにより、吸着性金属超微粒子への臭気成分或いはVOCの吸着を容易にすることができ、吸着性能をより向上することができる。
更にその用途に応じて、マスターバッチの調製同様、それ自体公知の各種配合剤、例えば、充填剤、可塑剤、レベリング剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を公知の処方に従って配合することもできる。
【0020】
本発明のマスターバッチを用いて成る吸着性成形物は、二本ロール法、射出成形、押出成形、圧縮成形等の従来公知の溶融成形に賦することにより、最終成形品の用途に応じた形状、例えば、粒状、ペレット状、フィルム、シート、容器、建材、壁紙等の吸着性(消臭性)樹脂成形品を成形することができる。
本発明のマスターバッチを用いて成形された成形物中の金属超微粒子は、その最大径が1μm以下で、その平均粒径は特に1乃至100nmの範囲にあることが望ましい。
【実施例】
【0021】
1.分光光度計によるプラズモン吸収の確認と吸光度ピーク高さの差
マスターバッチ及び該マスターバッチからなる金属粒子含有フィルムの吸光度を分光光度計(島津製作所UV-3100PC)を用いて測定し、300〜700nmのプラズモン吸収の有無を確認すると共に、前記波長内の吸光度ピークの最大値から最小値の差を算出した。マスターバッチが粒状であるため測定の便宜上、熱可塑性樹脂の融点以上、且つ有機酸金属塩の熱分解温度未満の温度でホットプレスすることにより厚み50μmのシートを成形し、このシートの分光光度計による分光透過率をマスターバッチの吸光度とした。
【0022】
2.未消臭時メチルメルカプタン濃度の測定
口部をゴム栓で密封した窒素ガス置換した500mLガラス製瓶(GL-サイエンス社製)内に、悪臭物質メチルメルカプタン5μLをマイクロシリンジにて注入し、室温(25℃)で1日放置した。1日放置後、瓶中へ検知管(ガステック社製)を挿入し、残存メチルメルカプタン濃度を測定して未消臭時メチルメルカプタン濃度(A)とした。
【0023】
3.消臭後メチルメルカプタン濃度の測定
(1)マスターバッチ
マスターバッチを0.5g計量し、窒素ガス置換した500mLガラス製瓶内に入れてゴム栓で密封した後、前記瓶内の濃度が10ppmになるように調整された悪臭物質メチルメルカプタン5μLをマイクロシリンジにて注入し、室温(25℃)で1日放置した。1日放置後、瓶中へ検知管(ガステック社製)を挿入し残存メチルメルカプタン濃度を測定し、消臭後メチルメルカプタン濃度(B)とした。
【0024】
(2)二次成形時の金属粒子含有フィルム
金属粒子含有フィルムを5cm四方の大きさに切り取り、樹脂糸を用いて、500mLのガラス製瓶内に吊り下げた。次いで、窒素ガス置換しガラス製瓶内を密封した後、前記瓶内の濃度が10ppmになるように濃度を調整した悪臭物質メチルメルカプタン5μLをマイクロシリンジにて注入し、室温(25℃)で一日放置した。1日放置後、瓶中へ検知管(ガステック社製)を挿入し残存メチルメルカプタン濃度を測定し、消臭後メチルメルカプタン濃度(C)とした。
【0025】
4.メチルメルカプタン消臭率の算出
前記未消臭時メチルメルカプタン濃度(A)から消臭後メチルメルカプタン濃度(B)或いは(C)を引いた値を未消臭時メチルメルカプタン濃度(A)で割り百分率で表した値を消臭率とした。
【0026】
[実施例1]
低密度ポリエチレン樹脂3kgに、ステアリン酸銀が5wt%の含有率となるように配合したものを樹脂投入口から投入し、押出成形温度が前記樹脂の融点以上、且つステアリン酸銀の熱分解開始温度未満である140℃にて、二軸押出機から押し出し、マスターバッチを作製した。
次いで、得られたマスターバッチの分光光度計によるプラズモン吸収の確認と吸光度ピーク高さの差を算出、メチルメルカプタン消臭率の算出、を行った。
【0027】
[実施例2]
ステアリン酸銀の含有率が2wt%のマスターバッチとした以外は、実施例1と同様にマスターバッチを作製し、測定と算出を行った。
【0028】
[実施例3]
ステアリン酸銀の投入位置を吐出口近くのシリンダとした以外は、実施例1と同様にマスターバッチを作製し、測定と算出を行った。
【0029】
[実施例4]
ステアリン酸銀の含有率が2wt%のマスターバッチとした以外は、実施例3と同様にマスターバッチを作製し、測定と算出を行った。
【0030】
[実施例5]
ミリスチン酸銀を用いた以外は、実施例1と同様にマスターバッチを作製し、測定と算出を行った。
【0031】
[比較例1]
押出成形温度を、有機酸金属塩の熱分解開始温度以上である240℃とした以外は、実施例1と同様にマスターバッチを作製し、測定と算出を行った。
【0032】
[比較例2]
ミリスチン酸銀を用い、押出成形温度を有機酸金属塩の熱分解開始温度以上である260℃とした以外は、実施例1と同様にマスターバッチを作製し、測定と算出を行った。
【0033】
[実施例6]
実施例1で作製したマスターバッチを、室温37℃、湿度50%の環境暴露下にてそれぞれ1、2、3ヶ月間経時保管し、低密度ポリエチレン:マスターバッチ=9:1になるよう混合・配合後、押出成形温度200℃で二軸押出機にて押し出して厚み50μmの3種類の金属粒子含有フィルムを作成し、それぞれのフィルムの消臭後のメチルメルカプタン濃度を測定し消臭率の算出を行った。
【0034】
[実施例7]
実施例2で作製したマスターバッチを用いて、低密度ポリエチレン:マスターバッチ=3:1になるように混合・配合した以外は、実施例6と同様に金属粒子含有フィルムを作成し、測定と算出を行った。
【0035】
[実施例8]
実施例3で作製したマスターバッチを用いた以外は、実施例6と同様に金属粒子含有フィルムを作成し、測定と算出を行った。
【0036】
[実施例9]
実施例4で作製したマスターバッチを用いた以外は、実施例6と同様に金属粒子含有フィルムを作成し、測定と算出を行った。
【0037】
[実施例10]
実施例5で作製したマスターバッチを用いて、低密度ポリエチレン:マスターバッチ=3:1になるように混合・配合した以外は、実施例6と同様に金属粒子含有フィルムを作成し、測定と算出を行った。
【0038】
[比較例3]
比較例1で作製したマスターバッチを用いて、低密度ポリエチレン:マスターバッチ=9:1になるよう混合・配合した以外は、実施例6と同様に金属粒子含有フィルムを作成し、測定と算出を行った。
【0039】
[比較例4]
比較例2で作製したマスターバッチを用いた以外は比較例3と同様に金属粒子含有フィルムを作成し、測定と算出を行った。
【0040】
上記結果を表1及び表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
実施例から明らかなように、本発明の実施例1〜5におけるマスターバッチの消臭率は比較例1〜2よりも小さく、マスターバッチ自体はほとんど吸着性能を有しないことが明白である。
また、実施例1〜5のマスターバッチを用いた成形物とした実施例6〜10のナノ化された金属超微粒子含有フィルムの消臭率は高く、優れた吸着性能を発現し、比較例1〜2のマスターバッチを用いた成形物とした比較例3〜4の有機酸金属塩含有フィルムの消臭率は低い。
従って、本発明のマスターバッチを示す実施例1〜5、実施例6〜10においては、マスターバッチの状態では吸着性能が発現されず、これを用いて成形物とした時に発現されており、その発現も制御可能であることがわかる。
一方、比較例においては、マスターバッチを製造する際の熱可塑性樹脂と有機酸金属塩の加熱混練温度が、上記有機酸金属塩が熱可塑性樹脂中で熱分解する温度であり、このため、マスターバッチ中に金属超微粒子が形成され、マスターバッチの状態で吸着性能が発現しまうことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のマスターバッチは、マスターバッチの状態では、悪臭成分やVOC等に対して吸着性能を発現しないので、最終成形品或いは二次成形品等の成形物の吸着性能がマスターバッチの保管・管理・流通等の経時による影響を受けず、最終成形品或いは二次成形品等の成形物に優れた吸着性能を付与することができ、得られた成形物は例えば、粒状、ペレット状、繊維状、フィルム、シート、容器等の種々の形態に効率よく製造することができ、さまざまな産業分野で利用することが可能となる。
また本発明のマスターバッチは、金属超微粒子の前駆体となる有機酸金属塩が樹脂中に分散しているため、樹脂に直接有機酸金属塩を配合して加熱成形した成形物に比して、成形物中に金属超微粒子がより均一に分散されるため、優れた吸着性を有する成形物を効率よく提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂中に、有機酸金属塩を含有して成り、且つ、該有機酸金属塩の金属がCu、Ag、Au、In、Pd、Pt、Fe、Ni、Co、Zn、Nb、Sn、Ru及びRhから成る群から選択され、金属超微粒子形成に用いることを特徴とするマスターバッチ。
【請求項2】
前記金属が、少なくともAgからなる請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項3】
プラズモン吸収波長300乃至700nmにおける吸光度ピーク高さの最大値と最小値の差が0.1未満である請求項2に記載のマスターバッチ。
【請求項4】
前記有機酸が、脂肪酸である請求項1乃至3の何れかに記載のマスターバッチ。
【請求項5】
前記脂肪酸が、3〜30の炭素数を有する請求項4記載のマスターバッチ。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である請求項1乃至5の何れかに記載のマスターバッチ。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂と有機酸金属塩との混練を、有機酸金属塩が該樹脂中で熱分解しない温度で行う請求項1乃至6の何れかに記載のマスターバッチの製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂に請求項1乃至6の何れかに記載のマスターバッチを配合し、有機酸金属塩が樹脂中で熱分解可能な温度、且つ熱可塑性樹脂の熱劣化温度以下で加熱混練することで、金属超微粒子が分散された成形物を成形することを特徴とする成形方法。
【請求項9】
前記金属超微粒子の平均粒径が1乃至100nmである請求項8に記載の成形方法。

【公開番号】特開2009−227990(P2009−227990A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46234(P2009−46234)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000229874)東罐マテリアル・テクノロジー株式会社 (27)
【Fターム(参考)】