説明

マット施薬機

【課題】作業者等が容易に薬剤ホッパの高さを変更することができ、容易に薬剤ホッパに薬剤を補給することができるマット施薬機を提供する。
【解決手段】薬剤が貯溜される薬剤ホッパ41と、該薬剤ホッパ41の薬剤を苗載台16上の苗マットに散布する散布部43と、を具備するマット施薬機10・110において、該薬剤ホッパ41及び散布部43を平行リンク機構50・150を介して支持し、該平行リンク機構50・150の前後回動によって該薬剤ホッパ41の高さを変更可能にし、若しくは、平行リンク機構50・150によって薬剤ホッパ41を上下及び前後方向にスライド可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機等の苗載台上に載置された苗マット上に肥料や農薬等の薬剤を散布するマット施薬機の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多忙な田植え直前の時期に手散布により育苗箱に所定量の薬剤を丁寧に散布する作業は非常に煩わしい作業であるため、従来から動力散布機等を用いて圃場に大量の薬剤散布作業を施す方法が採られていた。
しかし、そのような動力散布機を用いる薬剤散布では、植え付けられる苗に薬剤を均一に散布することが難しく面倒であったため、近年では、田植機の苗載台上方にマット施薬機を搭載し、該マット施薬機によって苗マット上に薬剤を散布する、つまり、田植えと同時に施薬を行うことができる作業機が用いられるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−027895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献に記載のマット施薬機の場合、該マット施薬機の薬剤ホッパが苗載台の後上方に支持されているため、薬剤ホッパの薬剤補給口の位置が高く、作業者等が薬剤ホッパに薬剤を補給することが困難であった。即ち、薬剤を収納した袋を高く持ち上げる必要があり、多量の薬剤を持ち上げるには大きな力が必要となる。また、薬剤補給口を目視できないまま高い位置で薬剤を補給すると該薬剤をこぼしてしまう虞があった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、作業者等が容易に薬剤ホッパの高さを変更することができ、容易に薬剤ホッパに薬剤を補給することができるマット施薬機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0005】
即ち、請求項1においては、薬剤が貯溜される薬剤ホッパと、該薬剤ホッパの薬剤を苗載台上の苗マットに散布する散布部と、を具備するマット施薬機において、該薬剤ホッパ及び散布部を平行リンク機構を介して支持し、該平行リンク機構の前後回動によって該薬剤ホッパの高さを変更可能にしたものである。
【0006】
請求項2においては、前記薬剤ホッパを前記平行リンク機構上部にて支持し、前記散布部下部を該平行リンク機構前下部にて着脱自在に支持したものである。
【0007】
請求項3においては、前記薬剤ホッパを前記平行リンク機構上部に立設した上支持柱によって支持し、前記散布部下部を該平行リンク機構前上部にて支持したものである。
【0008】
請求項4においては、薬剤ホッパの薬剤を散布部に繰り出す繰出部と、該繰出部へ駆動力を伝達する繰出用ロッドと、を具備し、該繰出用ロッドを上ロッドと下ロッドとに分割し、該上ロッドと下ロッドとを着脱自在に連結したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1においては、作業者等が容易に薬剤ホッパの高さを変更することが可能になり、マット施薬機への薬剤の補給を容易に行えるようになる。
【0011】
請求項2においては、平行リンク機構の前下部において散布部下部の支持を解除することにより、水平状態を保ったまま薬剤ホッパを後下方へとスライドさせることができる。
【0012】
請求項3においては、平行リンク機構の前上部における散布部下部の支持を解除することなく、そのままの状態で水平状態を保ったまま薬剤ホッパを後下方へとスライドさせることができる。
【0013】
請求項4においては、薬剤ホッパ等を後下方へスライドさせる際においても繰出用ロッドが突っ張ったり障害になったりすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係るマット施薬機10を備えた乗用田植機100の全体構成を示した側面図、図2は乗用田植機100を示した側面図、図3は同じく背面図、図4は薬剤ホッパ41を下降させた状態の乗用田植機100後部を示した側面図、図5は本発明の別実施例に係る乗用田植機100後部の側面図、図6は薬剤ホッパ41を下降させた状態の乗用田植機100後部を示した側面図である。
【実施例1】
【0015】
以下では、図1乃至図3を用いて本発明のマット施薬機の実施の一形態であるマット施薬機10を具備した乗用田植機100の全体構成について説明する。
なお、本発明に係るマット施薬機10は田植機に広く適用可能であって、その適用範囲は本実施例の乗用田植機100に限定されるものではない。ここで、「田植機」とは、水田に稲の苗を植え付ける機械を指し、作業者が乗って操作する乗用田植機及び作業者が手で押して操作する歩行式田植機の両方を含む。
以下の説明では、便宜上機体進行方向(図1中の矢印A方向)を「前方」と定義し、進行方向に向かって左方向(図3において左方向)を左方とし、進行方向に向かって右方向(図3において右方向)を右方として説明を行う。
【0016】
乗用田植機100は田植機の実施の一形態であり、走行部1の後部に昇降リンク機構27を介して植付部4が配設されている。
走行部1は車体フレーム3の前部上方にエンジン2を搭載し、前下部にてフロントアクスルケースを介して前輪6を支持し、後下部にてリヤアクスルケース7を介して後輪8を支持する。エンジン2はボンネット9に覆われている。
【0017】
乗用田植機100はボンネット9の後部に設けられたダッシュボード5の上に操向ハンドル14を配置し、ボンネット9の左右両側およびボンネット9の後部の車体フレーム3の上面を車体カバー12で覆っている。該操向ハンドル14の後方には座席13を配置し、ボンネット9の左右両側と座席13の前方と座席13の左右両側と座席13の後方を作業者が足を載せるためのステップとしている。
乗用田植機100には、座席13の側部に走行変速レバー30や植付昇降および作業走行変速用の副変速レバー31や植付感度調節レバー等が配設され、ダッシュボード5の下部のステップ上には主クラッチペダル32や左右ブレーキペダルが配設されて、座席13の後方に施肥機33が配設されている。
【0018】
植付部4は、苗載台16・植付爪17・フロート34等から構成され、該植付部4にマット施薬機10が装着される。苗載台16は前高後低に配設されて、その下部が下ガイドレール18に、前面上部が上ガイドレール19に左右往復摺動自在に支持されている。該下ガイドレール18および該上ガイドレール19は、フレーム等を介して植付センターケース20によって支持されている。植付センターケース20には、連結パイプを介して後方へと植付ケース21が突設されており、該植付ケース21の後部には一方向に回動するロータリケース22が設けられ、該ロータリケース22の両側に一対の植付爪17・17が設けられる。
【0019】
このようにして、乗用田植機100は、前進走行とともに苗載台16を横送り機構により左右に往復運動(摺動)し、この往復運動に同期させて植付爪17・17・・・を駆動して各条ごとに一株分の苗を切り出しながら、連続的に植付作業を行うものである。
なお、植付センターケース20の前部には、図示しないローリング支点軸を介して昇降リンク機構27が連結されており、詳しくは、該昇降リンク機構27がトップリンク25やロワーリンク26等から構成されて、座席13下方に配置した昇降シリンダ28によって植付部4を昇降する構成になっている。
【0020】
図2及び図3に示す如く、苗載台16の上面には各条の左右両側にリブ85・85・・・が前後方向に立設され、該リブ85・85・・・間に苗マット載置部86・86・・・が形成されている。つまり、隣り合うリブ85・85間に形成された苗マット載置部86とその上に載置された苗マットとが、乗用田植機100が植付作業を行う一条分に対応している。
該苗マットの縦送り機構は、従動ローラ37・駆動ローラ38・苗送りベルト35等から構成される。苗マット載置部86の下部から上下中間位置にかけて開口部が設けられ、該開口部の上下に従動ローラ37と駆動ローラ38とが配設され、従動ローラ37と駆動ローラ38の間に苗送りベルト35が巻回される。該苗送りベルト35・35・・・の表面には多数の突起が設けられ、苗マット載置部86の下部から上下中間位置にかけて設けられた開口部から該ベルト表面が露出する。
【0021】
このような構成にして、苗マットの縦送り機構の上方に設けられた苗マット押え機構36と苗送りベルト35とによって苗マットを保持しつつ、苗マットを正確に下方へ縦送りしながら、安定した苗の植付けを行う。
詳しくは、苗載台16の左右往復運動と、該往復運動に同期して植付爪17・17・・・が行う苗の切り出し作業によって、苗マットの下端が一定幅ずつ切断され、切断された苗マットが下方へと搬送されて、苗が水田に植え付けられていく。また、苗マットは苗載台16の左右端での折り返し時に縦送り機構の苗送りベルト35によって下方へと運ばれる。
そして、この植付作業の際、苗載台16上方に配設されたマット施薬機10によって、苗の植付と同時に苗マット上に散布ムラのない確実な施薬が行われる。
【0022】
以下では、図1乃至図4を用いて、本発明の要部であるマット施薬機10の詳細構成を説明する。
図1乃至図3に示すように、マット施薬機10は乗用田植機100の苗載台16の後上方に設けられ、移植作業である苗載台16の横方向往復運動や植付爪17・17・・・の植付駆動と連動しながら、繰出部42を駆動して苗マットに肥料や農薬等の薬剤を施薬するものである。マット施薬機10が取り扱う薬剤は、主に粉体の原料を粒状に成形したものであるが、他の粒状の薬剤(例えば、表面にコーティングを施した粒状の薬剤)に適用することも可能である。
【0023】
本実施例の乗用田植機100は8条植えの田植機であるため、4つの苗マット載置部86・86・86・86の左右中央後上方に1台のマット施薬機10が配置される。即ち、苗載台16上方左右両側に1つずつマット施薬機10・10が配設される。これは、一台のマット施薬機10によって4つの苗マット載置部86・86・86・86に施薬可能な構成としているためである。
【0024】
本実施例におけるマット施薬機10は主に薬剤ホッパ41・繰出部42・散布部43等から構成され、後述する支持フレーム53によって走行部1の後部上方に支持されて成るものである。
まず、薬剤ホッパ41は苗マットに施薬される薬剤を貯溜する容器であって、該薬剤ホッパ41の上部には蓋41aが着脱自在に設けられている。作業者等は、該蓋41aを開けて薬剤ホッパ41の内部に薬剤を補充する。薬剤ホッパ41の下半部は漏斗状になっており、下端部には開口部が設けられている。つまり、薬剤ホッパ41に貯溜された薬剤が、自重で薬剤ホッパ41の下端部に設けられた開口部より下方の繰出部42に落下する構成になっている。
【0025】
そして、繰出部42は、前記薬剤ホッパ41に貯溜された薬剤を所定量ずつ後述する散布部43へと繰り出すものであって、その内部には図示しない繰出ロールが一方向クラッチ23を介して回動可能に収容されている。
詳しくは、図2及び図3に示すように、植付ケース21の後部上にロッド駆動ケース67を設け、該ロッド駆動ケース67より出力軸を突出し、該出力軸には前記植付爪17・17・・・を駆動する動力を分岐して伝えるものとしている。該出力軸からは、下繰出用ロッド68・伝動プレート69・70・上繰出用ロッド71等を介して、図示しない繰出アームへと動力が伝達され、該繰出アームと前記ロール軸49の間に配置した一方向クラッチ23を介して図示しない繰出ロールが間欠的に一方向へ回動する構成となっている。
【0026】
ここで、該下繰出用ロッド68は中途部に形成された連結部68bにおいて上下方向に分割されているものであり、上ロッド68Uと下ロッド68Bとが該連結部68bにおいて着脱自在に連結されてなるものである。該上ロッド68Uと下ロッド68Bとはワンタッチで着脱できる構成であると好ましいが、このような構成に限定するものではない。具体的には、図2に示すように、下ロッド68B上端部に上ロッド68U下端部を嵌入し、両者をピン66等で固定する構成や、下ロッド68B上端部と上ロッド68U下端部に雄ネジを形成して、両者を内周にネジ山が形成された筒状の雌ネジにて螺設する構成とすることが考えられる。
【0027】
このように、薬剤ホッパ41の薬剤を散布部43に繰り出す繰出部42と、該繰出部42へ駆動力を伝達する繰出用ロッド68と、を具備し、該繰出用ロッド68を上ロッド68Uと下ロッド68Bとに分割し、該上ロッド68Uと下ロッド68Bとを着脱自在に連結したので、後述するように、薬剤ホッパ41等を後下方へスライドさせる際においても該繰出用ロッド68が突っ張ったり障害になったりすることがない。
【0028】
そして、散布部43は繰出部42に連結され、繰出部42により繰り出された薬剤を導いて、苗マットへと施薬するものである。散布部43は主に分岐部材61、ガイドホース64・64・64・64、散布ノズル65・65・65・65等から構成される。
分岐部材61は繰出部42下端に連結される略漏斗状の部材であって、下端部に4箇所の開口部が設けられて、それぞれがガイドホース64・64・64・64に連結されるものである。
【0029】
図2及び図3に示す如く、ガイドホース64・64・64・64は管状の部材であり、その上端部が分岐部材61の下端部に連結され、その下部は後述するホース支持部材60によって支持されている。各ガイドホース64の下端には散布ノズル65が枢設されている。
前後ノズルステー51に支持された際のガイドホース64・64・64・64の姿勢は、該ガイドホース64・64・64・64の上端部が機体後方かつ上方を向き、ガイドホース64・64・64・64の下端部が機体前方かつ下方を向く、つまり、苗載台16下部方向に向くように支持されている。
【0030】
次に、図2乃至図4を用いて、マット施薬機10の支持構成について説明する。
支持フレーム53は、マット施薬機10・10を乗用田植機100の苗載台16の後上方に固定するための部材であって、主に、基部フレーム54や下支持柱55や後上フレーム58や前上フレーム57や横ノズルステー59や平行リンク機構50等から構成されている。
【0031】
まず、基部フレーム54は支持フレーム53の下部を成す部材であって、前記植付ケース21の後上部に立設されながら、下支持柱55下端部を枢支するものである。詳しくは、植付ケース21の後上部にボルト固定または溶接等よって基部フレーム54の下部が固設されており、該基部フレーム54の上下中途部に下支持柱55の下端が枢支されている。そして、該基部フレーム54の上部には前後方向に向かって円弧状の長穴54bが形成されており、一方の下支持柱55の下部には該長穴54bと略同じ高さの位置に図示しないネジ孔が形成されている。つまり、ネジ等を長穴54b及び該ネジ孔に通して、該下支持柱55と該基部フレーム54とを締め付け固定することにより、基部フレーム54の長穴54bの範囲内において下支持柱55の下部を中心に任意の傾きにおいて保持することが可能になっているのである。
換言すれば、該長穴54bの範囲内において、下支持柱55を前後方向に揺動させることができ、マット施薬機10自体を前後方向に揺動させることが可能になっている。
【0032】
本実施例においては、前記長穴54bを貫通させるネジ等に、乗用田植機100外側方向の端部に握り部が設けられたネジ(以下、ノブ62とする。)を使用しており、作業者等は該ノブ62を緩めることによって、基部フレーム54と下支持柱55との締め付けを緩めて下支持柱55を基部フレーム54に対して前後回動可能にする構成になっている。逆に、該ノブ62を締め付けることによって、マット施薬機10を乗用田植機100の走行部1に対して固定可能としている。
【0033】
図2乃至図4に示すように、下支持柱55は略角柱形状の部材であって、前述したように該下支持柱55の下端部は前後方向揺動可能に基部フレーム54に枢支されている。該下支持柱55の上端部には、前後ノズルステー51の後部が溶接等によって固定されており、該前後ノズルステー51は前後方向に略水平に支持されている。
【0034】
そして、前後ノズルステー51の前部右側面には前後回動可能に前縦ステー72が枢支されており、該前後ノズルステー51の後端部左側面には前後回動可能に後縦ステー73が枢支されている。該前後縦ステー72・73は、互いに等しい長さに形成されており、且つ、互いに平行に該前後ノズルステー51に枢支されている。
つまり、前後ノズルステー51と後述するホッパステー74と該前後縦ステー72・73によって、平行リンク機構50が形成されるのである。
【0035】
詳述すると、図3に示すように、前縦ステー72の上端には左右方向に前上フレーム57が回動可能に連結されており、その中途部が左右一対の前後ノズルステー51・51前部に枢支された左右一対の前縦ステー72・72の上端部に枢支されている。
一方、該後縦ステー73の上端には左右方向に後上フレーム58が回動可能に連結されており、前上フレーム57と同様に、該後上フレーム58の中途部は左右一対の前後ノズルステー51・51後端部に枢支された左右一対の後縦ステー73・73の上端部に枢支されている。
【0036】
ここで、前上フレーム57は前縦ステー72上端部に左右方向に横架される略角柱形状の部材であって、後上フレーム58は後縦ステー73上端部に左右方向に横設される略角柱形状の部材である。なお、隣り合うマット施薬機10・10にそれぞれ対応する前上フレーム57を図示しない連結フレーム等で連結し、支持フレーム53の剛性を更に向上させることが可能である。
【0037】
前述したように、乗用田植機100の左右両側には、それぞれ薬剤ホッパ41と繰出部42と散布部43とからなるマット施薬機10が配設されており、詳しくは、乗用田植機100の左右両側において、一対のホッパステー74・74が前上フレーム57と後上フレーム58との間に前後方向に略水平に横架されて、該ホッパステー74上に薬剤ホッパ41が載置されて、ホッパステー74の下方に繰出部42や散布部43が支持されている。換言すれば、該ホッパステー74は後上フレーム58から前方に突設される板状部材であって、該ホッパステー74によってマット施薬機10の薬剤ホッパ41や繰出部42が支持される。
【0038】
前後ノズルステー51は、溶接等により下支持柱55の上端部から前方へ向けて延設される角柱部材であって、その前端部には左右方向に横ノズルステー59が横設されている。
該横ノズルステー59には苗載台16の各条ごとにホース支持部材60・60・・・が溶接固定されており、前述したように、前記ガイドホース64・64・・・の下部がそれぞれのホース支持部材60・60・・・の下部に挟持されることによって支持されている。具体的には、各ホース支持部材60の下端部に可撓性のホース挟持部60aが形成されており、作業者の任意によってガイドホース64の下部を該ホース挟持部60aに挟持させたり抜き取ったり(脱着)することが可能な構成となっている。
【0039】
つまり、本発明におけるマット施薬機10の支持フレーム53は、下支持柱55に支持された平行リンク機構50を備えるものである。詳しくは、前後縦ステー72・73が互いに平行に枢支されて、前後ノズルステー51とホッパステー74とが平行に保たれており、薬剤ホッパ41等を傾けることなく上下前後方向へとスライド可能にするための平行リンク機構50が形成されているのである。これによって、前後縦ステー72・73をそれぞれの下端部を軸にして側面視時計方向へ回動させて、水平状態を保ったままホッパステー74を後下方へと移動させることが可能な構成になっている。
【0040】
換言すれば、本実施例に係るマット施薬機10は、前後ノズルステー51やホッパステー74や前後縦ステー72・73等から構成される平行リンク機構50の上部に薬剤ホッパ41や繰出部42が支持されており、横ノズルステー59やホース支持部材60・60・・・を介して平行リンク機構50の前下部に散布部43のガイドホース64・64・・・の下部が着脱自在に支持されている。
【0041】
そして、後縦ステー73と前後ノズルステー51または下支持柱55との間には固定手段46が設けられている。つまり、前後ノズルステー51の後部にステーを立設してまたは下支持柱55を上方に延設して、後縦ステー73と前後ノズルステー51との間にピン44を挿入してまたはボルト等により固定するようにして、該後縦ステー73が直立状態から前方向へ傾いた状態にて安定して保持される構成となっている。
尚、溶接等により後縦ステー73下部から右方へ向かって上掛止片を突設して、該上掛止片が前後ノズルステー51後部上面に当接することにより容易に位置決めできるようにすることもできる。また、前後ノズルステー51の後部上面に、溶接等により左方へ向かって上掛止片を突設する構成であっても良い。
【0042】
また、下支持柱55の上部後面には右方へ向かって下掛止片47が突設されており、図4に示すように、ホッパステー74と共に薬剤ホッパ41等が後下方へ移動した状態において、前縦ステー72の下面(図2においては前縦ステー72の後面)が該下掛止片47に当接することによって、薬剤ホッパ41等が下降した状態において平行リンク機構50が安定して保持される構成となっている。
【0043】
本実施例においては、平行リンク機構50を前後ノズルステー51の下方まで回動可能とするために、前縦ステー72と後縦ステー73とを互いに前後ノズルステー51の左右逆側に枢設する構成としているが、両縦ステー72・73を一側方にまとめて枢設し、前縦ステー72を後縦ステー73より外側において枢支する構成であっても良い。
また、平行リンク機構50を前後ノズルステー51の高さより下げなくても作業者が前記薬剤ホッパ41に薬剤を容易に補給できる構成である場合には、正面視において両縦ステー72・73が重複する位置に枢設される構成であっても良い。
【0044】
以下、本実施例のマット施薬機10の薬剤ホッパ41を下降させる作業手順について説明する。
図1乃至図3に示すように、田植作業時においては、本実施例におけるマット施薬機10は薬剤ホッパ41が前後ノズルステー51の略上方に保持されている。詳しくは、前記後縦ステー73下端部が、前記固定部材46を介して前後ノズルステー51にピン44またはボルトで固定された状態となっており、前後縦ステー72・73が略直立状態に保持されている。
【0045】
そして、薬剤ホッパ41に薬剤を補給するときや、乗用田植機100後部の高さを低くしたいとき等には、作業者が、各ホース支持部材60のホース挟持部60aからガイドホース64を取り外し、下繰出用ロッド68の連結を解除し、ピン44等の固定部材46を解除してから、図4に示すように、薬剤ホッパ41・繰出部42・上ロッド68Uを後下方へスライドさせる。詳しくは、薬剤ホッパ41等を支持しているホッパステー74を後下方へとスライドさせるべく、前記平行リンク機構50において、前後縦ステー72・73を左側面視時計方向へと回動させるのである。
【0046】
該前縦ステー72が回動して、該前縦ステー72下面が前記下掛止片47に当接すると、前後縦ステー72・73の回動が停止して、つまり薬剤ホッパ41の下降が停止して、その位置において平行リンク機構50の姿勢が安定する。
薬剤ホッパ41が低い位置で保持された状態においては、作業者等は背伸び等をすることなく薬剤ホッパ41に容易に薬剤を補給することが可能になる。
【0047】
本実施例に示すように、前記薬剤ホッパ41を前記平行リンク機構50上部にて支持し、前記散布部43下部を該平行リンク機構50前下部にて着脱自在に支持したので、平行リンク機構50前下部において散布部43下部の支持を解除することにより、水平状態を保ったまま薬剤ホッパ41を後下方へとスライドさせることができる。
【実施例2】
【0048】
次に、マット施薬機110の別実施例について説明する。
以下、本実施例の説明においては、前記実施例1と共通の部材については、同符号として説明を省略する。
前記実施例1に係るマット施薬機10においては、薬剤ホッパ41を後下方へとスライドさせる前に予めホース支持部材60からガイドホース64を取り外しておく必要がある。そこで、本実施例のマット施薬機110においては、ガイドホース64や薬剤ホッパ41等の姿勢を変えることなくそのまま後下方へとスライド可能な構成としている。即ち、前記基部フレーム54に平行リンク機構150を連結し、該平行リンク機構150の上部に上支持柱155を固設して、該上支持柱155によって薬剤ホッパ41や繰出部42や散布部43を支持するのである。
【0049】
本実施例においては、後述するように、ガイドホース64の下部が、平行リンク機構150上部に配設される上前後ノズルステー175前端部に固設された横ノズルステー159から前方へ延設されたホース支持部材160により挟持されて支持される構成となっている。
つまり、平行リンク機構150によって、該平行リンク機構150の上方に支持された上支持柱155を薬剤ホッパ41や散布部43ごと後下方へとスライド可能とし、横ノズルステー159やホース支持部材160によるガイドホース64の支持状態を変更することなく後下方へとスライド可能とした構成になっている。
【0050】
以下、本実施例のマット施薬機110の支持構成について詳述する。
本実施例のマット施薬機110の支持フレーム153は、主に、基部フレーム54や上支持柱155や後上フレーム158や横ノズルステー159や平行リンク機構150等から構成されている。
【0051】
該基部フレーム54は、実施例1と同様の部材であり、前記植付ケース21の後上部に立設されて、平行リンク機構150の下端部を支持するものである。詳しくは、該基部フレーム54の上部に平行リンク機構150の下前後ノズルステー151がボルト若しくは溶接等によって固設されている。
本実施例のマット施薬機110は下部から後下方へとスライドさせることが可能であるため、マット施薬機110を非作業位置(補給位置)に移動可能として苗載台16のメンテナンス等を可能としているが、実施例1と同様に基部フレーム54に長穴54bを形成し、該下前後ノズルステー151を前後揺動可能としてマット施薬機110自体を前後方向に揺動可能としても良い。
【0052】
該下前後ノズルステー151は略角柱形状の鋼材であって、その前後略中途部が基部フレーム54上部にボルト若しくは溶接等によって固設されている。該下前後ノズルステー151の前部右側面には前後回動可能に前縦ステー172が枢支されており、該下前後ノズルステー151の後端部左側面には前後回動可能に後縦ステー173が枢支されている。該前後縦ステー172・173は、互いに等しい長さに形成されており、且つ、互いに平行に該下前後ノズルステー151に枢支されている。そして、該前縦ステー172上端部と該後縦ステー173上端部には、上前後ノズルステー175が前後方向に略水平に横架されている。詳しくは、該上前後ノズルステー175前部が該前縦ステー172上端部に枢支されており、該上前後ノズルステー175後端部が該後縦ステー173上端部に枢支されている。
つまり、下前後ノズルステー151と上前後ノズルステー175と前後縦ステー172・173によって、本実施例の平行リンク機構150が形成されるのである。
【0053】
上前後ノズルステー175の前端部には左右方向に横ノズルステー159が横設されており、該横ノズルステー159には苗載台16の各条ごとにホース支持部材160・160・・・が溶接固定されて、前記ガイドホース64・64・・・の下部がそれぞれのホース支持部材160・160・・・によって挟持されて保持されている。
そして、該上前後ノズルステー175後部右側面には溶接等によって略角柱形状の上支持柱155が略垂直上方向へと立設されており、該上支持柱155の上端部には後上フレーム158が左右方向へと横設されている。
【0054】
該後上フレーム158は上支持柱155上端部に左右方向に横架される略角柱形状の部材であって、乗用田植機100の左右両側において一対のホッパステー174・174が該後上フレーム158から前方へと略水平に横架されて、該ホッパステー174上に薬剤ホッパ41が載置されて、ホッパステー174の下方に繰出部42や散布部43が支持されている。換言すれば、該ホッパステー174は後上フレーム158から前方に突設される板状部材であって、該ホッパステー174によってマット施薬機110の薬剤ホッパ41や繰出部42や散布部43が保持される。
【0055】
つまり、図5に示すように、本実施例におけるマット施薬機110の支持フレーム153は、基部フレーム54に支持された平行リンク機構50と該平行リンク機構150に支持された上支持柱155とから成るものである。詳しくは、前後縦ステー172・173が互いに平行に枢支されて、下前後ノズルステー151と上前後ノズルステー175とホッパステー174とが平行に保たれており、薬剤ホッパ41等を傾けることなく上下前後方向へとスライド可能にするための平行リンク機構150が形成されているのである。これによって、図6に示すように、前後縦ステー172・173をそれぞれの下端部を軸にして側面視時計方向へ回動させて、水平状態を保ったままホッパステー174を後下方へと移動させることが可能な構成になっている。
【0056】
換言すれば、本実施例に係るマット施薬機110は、下前後ノズルステー151や上前後ノズルステー175や前後縦ステー172・173等から構成される平行リンク機構150の上部に立設された上支持柱155によって薬剤ホッパ41や繰出部42が支持されており、横ノズルステー159やホース支持部材60・60・・・を介して平行リンク機構150の前上部に散布部43のガイドホース64・64・・・の下部が着脱自在に支持されている。
【0057】
そして、図5に示すように、後縦ステー173と下前後ノズルステー151との間には固定手段146が設けられており、前記同様にピン144またはボルトにより下前後ノズルステー151と後縦ステー173とが固定されることによって、該後縦ステー173が直立状態から前方向へと傾いた状態において平行リンク機構150及びマット施薬機110が安定して保持される構成となっている。但し、下前後ノズルステー151の後部上面に、溶接等により左方へ向かって上掛止片を突設する構成であっても良い。
また、図6に示すように、下前後ノズルステー151上面から右方へ下掛止片147が突設されており、ホッパステー174と共に薬剤ホッパ41等が後下方へ移動した状態において、前縦ステー172の下面(図5における前縦ステー172の後面)が該下掛止片147に当接することによって、薬剤ホッパ41等が下降した状態において平行リンク機構150及びマット施薬機110が安定して保持される構成となっている。
【0058】
本実施例においても、両縦ステー172・173を一側方にまとめて枢設し、前縦ステー172を後縦ステー173より外側において枢支する構成にすることが可能である。
また、平行リンク機構150を下前後ノズルステー151の高さより下げなくても作業者が前記薬剤ホッパ41に薬剤を容易に補給できる構成である場合には、正面視において両縦ステー172・173が重複する位置に枢設される構成であっても良い。
【0059】
以下、本実施例のマット施薬機110の薬剤ホッパ41を下降させる作業手順について説明する。
図5に示すように、田植作業時においては、本実施例におけるマット施薬機110は薬剤ホッパ41が下前後ノズルステー151の略上方に保持されている。詳しくは、ピン144等の固定部材146や前記上掛止片等によって、前記後縦ステー173が下前後ノズルステー151後端部上面に固定された状態となっており、前後縦ステー172・173が略直立状態に保持されている。
【0060】
そして、薬剤ホッパ41に薬剤を補給するときや、乗用田植機100後部の高さを低めたいとき等には、下繰出用ロッド68の連結を解除し、ピン144等の固定部材146を解除してから、図6に示すように、薬剤ホッパ41・繰出部42・上ロッド68Uを後下方へとスライドさせる。詳しくは、薬剤ホッパ41等を支持しているホッパステー174を後下方へとスライドさせるべく、前記平行リンク機構150において、前後縦ステー172・173を左側面視時計方向へと回動させるのである。
【0061】
そして、該前縦ステー172が回動して該前縦ステー172下面が前記下掛止片147に当接すると、前後縦ステー172・173の回動が停止して、つまり薬剤ホッパ41の下降が停止して、その位置において平行リンク機構150の姿勢が安定する。
薬剤ホッパ41が低い位置で保持された状態においては、作業者等は背伸び等をすることなく薬剤ホッパ41に容易に薬剤を補給することが可能になる。
【0062】
本実施例に示すように、前記薬剤ホッパ41を前記平行リンク機構150上部に立設した上支持柱155によって支持し、前記散布部43下部を該平行リンク機構150前上部にて支持したので、平行リンク機構150前上部における散布部43下部の支持を解除することなく、そのままの状態で水平状態を保ったまま薬剤ホッパ41を後下方へとスライドさせることができる。
【0063】
このように、本発明においては、薬剤が貯溜される薬剤ホッパ41と、該薬剤ホッパ41の薬剤を苗載台16上の苗マットに散布する散布部43と、を具備するマット施薬機10・110において、該薬剤ホッパ41及び散布部43を平行リンク機構50・150を介して支持し、該平行リンク機構50・150の前後回動によって該薬剤ホッパ41の高さを変更可能にしたので、即ち平行リンク機構50・150によって薬剤ホッパ41を上下及び前後方向にスライド可能としたので、作業者等が容易に薬剤ホッパ41の高さを変更することが可能になり、マット施薬機10・110の薬剤ホッパ41への薬剤の補給を容易に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施例に係わる乗用田植機の全体構成を示した側面図。
【図2】乗用田植機後部を示した側面図。
【図3】同じく背面図。
【図4】薬剤ホッパを下降させた状態の乗用田植機後部を示した側面図。
【図5】本発明の別実施例に係る乗用田植機後部の側面図。
【図6】薬剤ホッパを下降させた状態の乗用田植機後部を示した側面図
【符号の説明】
【0065】
1 走行部
4 植付部
10・110 マット施薬機
41 薬剤ホッパ
42 薬剤繰出部
43 薬剤散布部
68 繰出用ロッド
68B 下ロッド
68U 上ロッド
50・150 平行リンク機構
51・151 前後ノズルステー
53・153 支持フレーム
59・159 横ノズルステー
100 田植機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤が貯溜される薬剤ホッパと、
該薬剤ホッパの薬剤を苗載台上の苗マットに散布する散布部と、を具備するマット施薬機において、
該薬剤ホッパ及び散布部を平行リンク機構を介して支持し、
該平行リンク機構の前後回動によって該薬剤ホッパの高さを変更可能にしたことを特徴とするマット施薬機。
【請求項2】
前記薬剤ホッパを前記平行リンク機構上部にて支持し、
前記散布部下部を該平行リンク機構前下部にて着脱自在に支持したことを特徴とする請求項1に記載のマット施薬機。
【請求項3】
前記薬剤ホッパを前記平行リンク機構上部に立設した上支持柱によって支持し、
前記散布部下部を該平行リンク機構前上部にて支持したことを特徴とする請求項1に記載のマット施薬機。
【請求項4】
薬剤ホッパの薬剤を散布部に繰り出す繰出部と、
該繰出部へ駆動力を伝達する繰出用ロッドと、を具備し、
該繰出用ロッドを上ロッドと下ロッドとに分割し、
該上ロッドと下ロッドとを着脱自在に連結したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のマット施薬機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−61578(P2008−61578A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243238(P2006−243238)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(391025914)八鹿鉄工株式会社 (131)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】