説明

マテリアルリサイクル携帯電話筺体

【課題】薄肉かつ軽量化で、地球環境負荷低減に貢献できるマテリアルリサイクル携帯電話筺体を提供する。
【解決手段】複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)で構成された携帯電話筐体から回収された樹脂成分回収品を含む複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)を成形してなるマテリアルリサイクル携帯電話筺体。該樹脂成分回収品は、分解、破砕の各工程後に光学式識別装置により選別された選別品であり、組成物(I),(II)は、それぞれポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とポリエチレンナフタレート繊維(C)とを含み、組成物(II)中の樹脂成分回収品の含有量が、組成物(II)中の(A)〜(C)成分の合計100重量部に対して1〜50重量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物で構成され、マテリアルリサイクルされた携帯電話筺体に関するものであり、より詳しくは、薄肉かつ軽量化で、地球環境負荷低減に貢献できるマテリアルリサイクル携帯電話筺体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話は、著しい技術革新を遂げ世界中に広まり、更に発展途上国においても爆発的なビジネス成長が続いている。これらの携帯電話は、各携帯電話会社による頻繁なモデルチェンジにより、早いものでは、数ヶ月から半年で新規機種に置き換わっている。それに伴い携帯電話を使用する人たちの間では、簡単に機種変更することが行われ、旧型携帯電話の廃棄量は膨大な量となっている。現状、そのほとんどは焼却処分に廻され、レアメタル等の回収が行われてはいるが、筺体等に使用されているプラスチック類は、回収されることなく燃焼により大量の二酸化炭素を大気中に放散させる原因となっている。
【0003】
一方、ここ最近、環境対応材料としてバイオプラスチックが注目を集めている。これは、カーボンニュートラルの考え方を基にしており、炭酸ガスを吸収、固定化する植物由来資源の有効活用であり、化石由来資源より二酸化炭素発生量を削減しようとするものである。即ち、バイオプラスチックによって、二酸化炭素の発生量を抑制する一方で、将来的に枯渇が危惧される化石由来資源の代替を図るというものである。
加えて使用済みのバイオプラスチックを回収、再生させるマテリアルリサイクルの技術の確立も切望されている。
【0004】
現在、バイオプラスチックとしては、ポリ乳酸(PLA)を用いた材料系の提案が数多くなされており、一部、市場で使用されつつある。
【0005】
例えば、特許文献1「特開2006−137908号公報」、特許文献2「特開2006−161024号公報」には、ポリ乳酸樹脂にゴム含有グラフト共重合体と硬質共重合体を添加することにより、耐衝撃性、耐熱性等を改善したポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物が提案されている。また、特許文献3「特開2007−321096号公報」には、市場回収した光学ディスクを処理してポリカーボネートを再生し、ポリ乳酸樹脂とアロイ化して活用するマテリアルリサイクルしたポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
【0006】
一方、特許文献4「特開2008−54306号公報」には、繊維強化された薄肉、軽量、高剛性の携帯電話筺体が提案されているが、地球環境負荷低減に関する考慮は全くなされていない。
【0007】
なお、プラスチック材料を識別して選別する光学式識別装置として、特許文献5「特開2008−209128号公報」、特許文献6「特開2009−92458号公報」に、高速ラマン散乱に基づくプラスチックの選別方法および識別装置の提供がなされているが、選別されたプラスチックがどのようにマテリアルリサイクルされるかについては、全く言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−137908号公報
【特許文献2】特開2006−161024号公報
【特許文献3】特開2007−321096号公報
【特許文献4】特開2008−54306号公報
【特許文献5】特開2008−209128号公報
【特許文献6】特開2009−92458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における課題を解決し、薄肉かつ軽量化で、地球環境負荷低減に貢献できるマテリアルリサイクル携帯電話筺体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来の技術の検証・改良に鋭意努力した結果、特定の複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物で構成される携帯電話筐体が上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、本発明の要旨は、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(以下「複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)と称す。)で構成された携帯電話筐体から回収された樹脂成分回収品を含む複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(以下「複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)と称す。)を成形してなるマテリアルリサイクル携帯電話筺体であって、該樹脂成分回収品は、分解、破砕の各工程後に光学式識別装置により選別された選別品であり、該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)および該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)は、それぞれポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とポリエチレンナフタレート繊維(C)とを含む複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物であり、該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)中の前記樹脂成分回収品の含有量が、該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)を構成するポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とポリエチレンナフタレート繊維(C)との合計100重量部に対して1〜50重量部であることを特徴とするマテリアルリサイクル携帯電話筺体、に存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマテリアルリサイクル携帯電話筺体は、地球環境負荷低減に貢献できるマテリアルリサイクルされた携帯電話筐体であって、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物をベースとするものであることから、耐衝撃性、耐久性にも優れ、薄肉、軽量化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例で成形した携帯電話筐体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
なお、本明細書において、「(共)重合」は「重合」と「共重合」との総称である。また、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸および/またはメタクリル酸」を意味する。
【0016】
本発明のマテリアルリサイクル携帯電話筺体は、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(以下「複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)と称す。)で構成された携帯電話筐体(以下「原料携帯電話筐体」と称す場合がある。)から回収された樹脂成分回収品を含む複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(以下「複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)と称す。)を成形してなるマテリアルリサイクル携帯電話筺体であって、該樹脂成分回収品は分解、破砕、さらに必要に応じて行われる洗浄、脱水、乾燥の各工程後に光学式識別装置により選別された選別品であり、該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)および該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)は、それぞれポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とポリエチレンナフタレート繊維(C)とを含む複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物であり、該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)中の前記樹脂成分回収品の含有量が、該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)を構成するポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とポリエチレンナフタレート繊維(C)との合計100重量部に対して1〜50重量部であることを特徴とする。
【0017】
[複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物]
まず、本発明のマテリアルリサイクル携帯電話筺体および原料携帯電話筐体を構成する複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物について説明する。
【0018】
本発明のマテリアルリサイクル携帯電話筺体を構成する複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)も、原料携帯電話筐体を構成する複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)も、いずれも、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とポリエチレンナフタレート繊維(C)とを含むものであるが、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)と複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)とは、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)中の樹脂成分回収品以外の成分において、必ずしも同配合である必要はなく、各樹脂組成物を構成するポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有スチレン系樹脂(B)、ポリエチレンナフタレート繊維(C)はそれぞれ異なるものであってもよく、また、ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有スチレン系樹脂(B)、ポリエチレンナフタレート繊維(C)、その他の成分の配合割合が異なるものであってもよい。
ただし、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)も複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)も好ましくは、以下のポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有スチレン系樹脂(B)、およびポリエチレンナフタレート繊維(C)を以下の配合で含むことが好ましい。
【0019】
<ポリ乳酸樹脂(A)>
本発明の樹脂組成物に適用されるポリ乳酸樹脂(A)は、乳酸を直接脱水縮重合する方法、或いはラクチドを開環重合する方法等といった、公知の手段で得る事ができる。
【0020】
ポリ乳酸樹脂にはL体、D体、DL体の3種の光学異性体が存在し、市販されているポリ乳酸樹脂としては、L体の純度が100%に近いものがあるが、本発明で用いるポリ乳酸樹脂(A)は、特にその純度を規定するものではなく、また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合成分を含んだ共重合体でも構わない。
【0021】
ポリ乳酸樹脂(A)に含まれる他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類などを挙げることができる。このような共重合成分の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)中の全単量体成分中通常30モル%以下の含有量とするのが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0022】
ポリ乳酸樹脂(A)の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量としては、通常1万以上、好ましくは5万以上、さらに10万以上であることが望ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の重量平均分子量の上限については特に制限はないが、通常40万以下である。
【0023】
なお、分子量の測定はGPC(溶媒THF:テトラヒドロフラン)にて測定することができるが、ポリ乳酸がペレット状の場合、THFに溶解し難い場合があり、その場合は、クロロホルムに溶解させた後、メタノールを用いてポリマー成分を析出させ、そのポリマー成分を乾燥させたものをTHFに溶解させて可溶分の分子量を測定することができる。また、必要に応じて加温するなどして溶解させることもできる。
【0024】
本発明において、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分中のポリ乳酸樹脂(A)の配合量は、10〜95重量%の範囲であるが、好ましくは30〜95重量%、より好ましくは50〜90重量%であることが、カーボンニュートラルの観点や、耐衝撃性改善の点において好ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の配合量が上記下限値以上であることにより、ポリ乳酸樹脂を有効利用する本発明の目的を達成することができ、上記上限値以下であることにより耐衝撃性に優れた成形品が得られる。
【0025】
なお、ポリ乳酸樹脂(A)は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0026】
このようなポリ乳酸樹脂(A)の具体例としては、例えば、市販品のNature Works社製「Ingeo」、中国海生生物材料公司社製「REVODE」などが挙げられ、いずれも本発明に使用することができる。
【0027】
<ゴム含有スチレン系樹脂(B)>
本発明で使用するゴム含有スチレン系樹脂(B)とは、一般にABS、ASA、AES、HIPS、MBS等で表現されるゴム質重合体に硬質(共)重合体をグラフト重合したゴム含有グラフト共重合体である。
【0028】
ここで、ゴム含有グラフト共重合体とは、単量体をゴム質重合体にグラフト重合させることにより得られるものであり、このグラフト重合に際しては、中にはゴム質重合体にグラフト重合していない単量体の(共)重合物が生成する場合もあるが、本発明でいうグラフト共重合体はこれらを含めてグラフト共重合体とする。また、本発明で使用するゴム含有スチレン系樹脂(B)は、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)とを含むものであってもよい。
【0029】
(ゴム含有グラフト共重合体(b−1))
ゴム含有グラフト共重合体(b−1)を形成するゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル/ブタジエン共重合体等のブタジエン系ゴムや、スチレン/イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム;ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン/プロピレン共重合体等のオレフィン系ゴム;ポリオルガノシロキサン等のシリコン系ゴム等が挙げられ、これらのうち、生産コストが妥当で、ポリ乳酸への改質効果が良好であることにより、ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、オレフィン系ゴムが好ましい。これらのゴム質重合体は、1種を単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
なお、これらゴム質重合体は、モノマーから使用することができ、ゴム質重合体の構造がコア/シェル構造をとっても良い。例えば、ポリブタジエンをコアにして、アクリル酸エステルをシェルにしたゴム質重合体とすることもできる。
【0031】
上記のゴム質重合体のゲル含有量は、通常50〜90重量%、好ましくは60〜85重量%で、さらに好ましくは70〜85重量%である。ゲル含有量がこの範囲内であれば、得られる難燃複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の特性、特に、耐衝撃強度を向上させることができる。ゴム質重合体のゲル含有量が50〜90重量%であると耐衝撃強度の向上効果を十分に得ることができる理由の詳細は明らかではないが、ゲル含有量が上記下限値以上であることにより、ゴム質重合体の衝撃エネルギーの吸収が効率的に行われ、また、上記上限値以下であることにより、グラフト重合するビニル系単量体の一部がゴム質重合体の内部に含浸して、衝撃エネルギーの吸収や分散が得られるようになることによるものと推定される。従って、ゲル含有量が50〜90重量%の範囲であると、衝撃エネルギーの吸収または分散が効果的に行われ、耐衝撃性の向上に優れた効果を発現するものと考えられる。
【0032】
なお、ゴム質重合体のゲル含有量を測定するには、具体的には、秤量したゴム質重合体を、適当な溶剤に室温(23℃)で20時間かけて溶解させ、次いで、200メッシュ金網で分取して、金網上に残った不溶分を60℃で24時間乾燥した後秤量する。分取前のゴム質重合体に対する不溶分の割合(重量%)を求め、ゴム質重合体のゲル含有量とする。ゴム質重合体の溶解に用いる溶剤としては、例えば、ポリブタジエンではトルエンを、ポリブチルアクリレートではアセトンを用いると測定が行いやすい。
【0033】
また、ゴム質重合体の粒子径は、特に限定されるものではないが、0.1〜1μmが好ましく、0.2〜0.5μmである事がより好ましい。なお、ゴム質重合体の平均粒子径は、グラフト重合前であれば、光学的な方法で測定することができる。また、グラフト重合した後は、染色剤によりゴム質重合体を染色した後に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて平均粒子径を算出することができる。
【0034】
このようなゴム質重合体にグラフト重合させる硬質(共)重合体には、芳香族ビニル系単量体を主成分とする単量体を用いることが好ましい。具体的な芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0035】
また、ゴム質重合体にグラフト重合させる硬質(共)重合体には、芳香族ビニル系単量体を主成分として、その他の共重合可能な単量体を併用することができる。共重合可能な他の単量体としては、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド化合物が挙げられ、シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルが挙げられる。マレイミド化合物としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。特に、耐熱性や衝撃性などのバランスから、その他の共重合可能な単量体としてはアクリロニトリルを使用することが好ましい。また、場合により官能基により変性された単量体を含んでいてもよく、このような単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
なお、単量体の使用比率(重量比)としては、芳香族ビニル系単量体/その他の共重合可能な単量体として100/0〜60/40の範囲で用いることが好ましい。
【0037】
グラフト重合は、公知の乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合により行うことができ、これらの重合方法を組み合わせた方法でもよい。
【0038】
ゴム含有グラフト共重合体(b−1)としては、重合方法や成分組成の異なるゴム含有グラフト共重合体の2種以上を混合して用いても良い。
【0039】
(硬質(共)重合体(b−2))
本発明で使用されるゴム含有スチレン系樹脂(B)は、耐熱性や流動性などの特性改良のため、上記のゴム含有グラフト共重合体(b−1)に硬質(共)重合体(b−2)を配合したものであっても良い。
【0040】
この場合に用いられる硬質(共)重合体(b−2)に用いられる単量体成分としては、先のゴム含有グラフト共重合体(b−1)で紹介した芳香族ビニル系単量体を主成分とした単量体および、その他の単量体を使用することができ、その好適組成についても同様である。
【0041】
硬質共重合体(b−2)の重量平均分子量は、50,000〜300,000の範囲が好ましく、さらに好ましくは100,000〜250,000の範囲である。硬質共重合体(b−2)の重量平均分子量が上記下限値以上であることにより、得られる成形品の耐衝撃性が良好となり、また、上記上限値以下であることにより、成形加工性が良好となる。
【0042】
この硬質(共)重合体(b−2)についても1種を単独で用いても良く、異なる組成、分子量のものを2種以上混合して用いても良い。
【0043】
(ゴム含有量・アセトン可溶分の重量平均分子量・グラフト率)
本発明のゴム含有スチレン系樹脂(B)は、上述のゴム含有グラフト共重合体(b−1)よりなる場合であっても、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)とを含む場合であっても、以下の好適なゴム含有量、アセトン可溶分の重量平均分子量およびグラフト率を満たすことが好ましい。
【0044】
ゴム含有スチレン系樹脂(B)中のゴム含有量は好ましくは5〜80重量%、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは7〜30重量%の範囲となるように調整する。この範囲よりもゴム含有量が低い場合には、十分な耐衝撃性が得られず、また、この範囲より多くても耐衝撃強度の向上は望めず、分散性不良や、剛性などの機械的特性の低下を招くおそれがある。
【0045】
なお、ゴム含有スチレン系樹脂(B)のゴム含有量は、赤外分光測定装置を使用することにより測定することができる。
【0046】
また、ゴム含有スチレン系樹脂(B)のアセトン可溶分の重量平均分子量は、50,000〜600,000の範囲が好ましく、より好ましくは70,000〜400,000、さらに好ましくは100,000〜250,000の範囲である。アセトン可溶分の重量平均分子量がこの範囲より低い場合には、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が不足し、また、この範囲を超えた場合にはポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が低下する。
【0047】
また、ゴム含有スチレン系樹脂(B)のグラフト率((アセトン不溶分重量/ゴム質重合体重量−1)×100)は、15〜150重量%であることが好ましい。ゴム含有スチレン系樹脂(B)のグラフト率が15重量%より低い場合には、ゴム質重合体の分散性の低下や、衝撃強度の低下を生じる。また、グラフト率が150重量%より高い場合には、耐衝撃強度や成形性が低下する傾向にある。なお、ゴム質重合体にグラフト重合している(共)重合体は、ゴム質重合体の外部のみならず内部にオクルードした構造であっても良い。
【0048】
なお、ゴム含有スチレン系樹脂(B)中のゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)の割合は、上記の好適なゴム含有量、アセトン可溶分の重量平均分子量およびグラフト率を満たす範囲において任意であるが、通常、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)との合計であるゴム含有スチレン系樹脂(B)中の10〜100重量%、特に15〜50重量%がゴム含有グラフト共重合体(b−1)であることが好ましい。
【0049】
なお、これらゴム含有スチレン系樹脂(B)は、市場などから回収された樹脂や製造、あるいは成形工程で発生した樹脂屑などを配合してもよい。
【0050】
<ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分>
本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の樹脂成分(以下、本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物に含まれるポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)を「ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分」と称す。)であるポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)の配合割合は、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)との合計に対して、ゴム含有スチレン系樹脂(B)の配合量が、5〜90重量%の範囲、特に5〜70重量%、とりわけ10〜50重量%であることが、カーボンニュートラルの観点や、物性バランス改善の点において好ましい。ゴム含有スチレン系樹脂(B)の配合量が上記上限値以下であることにより、ポリ乳酸樹脂(A)の配合量を少なくすることなく、ポリ乳酸樹脂を有効利用する本発明の目的を達成し、上記下限値以上であることにより、物性バランスに優れた成形品を得ることができる。
【0051】
<ポリエチレンナフタレート繊維(C)>
(ポリエチレンナフタレート繊維)
本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物には、結晶化速度の向上、剛性等の物性向上を目的として、ポリエチレンナフタレート繊維(C)が配合されている。ここで、汎用のポリエステル繊維であるポリエチレンテレフタレート繊維ではなく、ポリエチレンナフタレート繊維を用いることは本発明の効果を得る上で重要であり、高強力・高モジュラスで、耐熱性や寸法安定性にも優れたポリエチレンナフタレート繊維をポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分に配合することにより、良好な配合効果を得ることができる。
【0052】
本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物において、ポリエチレンナフタレート繊維(C)は、好ましくは上記のポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分100重量部に1〜50重量部配合される。ポリエチレンナフタレート繊維(C)の配合量が上記下限値以上であることにより、良好な結晶化速度向上効果を得ることができ、成形サイクルを短くし、また、剛性の向上を図ることができる。また、ポリエチレンナフタレート繊維(C)の配合量が上記上限値以下であることにより、成形品外観が良好となり、また、ポリエチレンナフタレート繊維(C)を配合することによる衝撃強度の低下を防止することができる。
【0053】
なお、上記のポリエチレンナフタレート繊維(C)の配合量は、このポリエチレンナフタレート繊維(C)が後述の表面処理剤による表面処理が施されたものである場合、この表面処理によりポリエチレンナフタレート繊維(C)に付着した表面処理剤の重量を、含まない値である。
【0054】
本発明で使用するポリエチレンナフタレート繊維(C)は、繊維長が0.5〜10mm、好ましくは1.0〜8mmで、繊維径が10〜50μm、好ましくは15〜30μmのものであり、本発明では、このような特定の繊維長および繊維径のポリエチレンナフタレート繊維(C)を用いることにより、結晶化速度の向上による成形サイクルの短縮が可能となると共に、樹脂中の繊維の分散が均一になり、良好な耐熱性と耐衝撃強度、弾性率等の物性バランスの改善効果を得ることができる。
ポリエチレンナフタレート繊維の繊維長が上記下限未満では、耐衝撃性、剛性が低下する傾向にあり、上記上限を超えると樹脂中の繊維の分散が不均一になり、耐衝撃性、剛性が低下する傾向にあり、また、成形品外観も劣る傾向にある。また、ポリエチレンナフタレート繊維の繊維径が上記下限未満では、成形品外観は良好であるものの、耐熱性、耐衝撃性、剛性等の物性が全体的に低下する傾向にあり、上記上限を超えると結晶化速度が遅く、成形サイクルが長くなり、耐衝撃性、成形品外観も悪化する。
【0055】
なお、本発明において、ポリエチレンナフタレート繊維(C)の繊維長、繊維径とは、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分と混合する前のポリエチレンナフタレート繊維の50〜100本について顕微鏡観察により測定した繊維長、繊維径の平均値であるが、市販のポリエチレンナフタレート繊維を用いる場合は、そのカタログ値を採用することができる。また、本発明の成形品中に存在するポリエチレンナフタレート繊維も上記同様の条件が適応される。
【0056】
上記条件を満たすポリエチレンナフタレート繊維(C)の市販品としては、例えば帝人ファイバー(株)より「テオネックス」の商品名にて提供されるポリエチレンナフタレート繊維が挙げられるが、特定の商品に限定するものでは無い。
【0057】
ポリエチレンナフタレート繊維(C)は1種のみを用いてもよく、繊維長や繊維径、以下に示す表面処理の有無、用いた表面処理剤が異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0058】
(表面処理)
本発明で用いるポリエチレンナフタレート繊維(C)は、表面処理剤により表面処理されたものであってもよく、表面処理されたポリエチレンナフタレート繊維(C)であれば、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分との相溶性が向上し、良好な複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0059】
ポリエチレンナフタレート繊維(C)の表面処理剤としては、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、澱粉、植物抽、およびこれらの1種または2種以上とエポキシ化合物との混合物などが挙げられるが、表面処理剤は、特にポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分との相溶性の点でポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。
【0060】
表面処理剤としてのポリウレタン樹脂は、分子内に2個水酸基を有する化合物(以下、これをジオール成分と記す)と、分子内に2個イソシアネート基を有する化合物(以下、これをジイソシアネート成分と記す)とを、水を含まず、活性水素を有さない有機溶媒中で付加重合させることにより得ることができる。また、溶媒がない状態で原料を直接反応させることによっても目的物のポリウレタン樹脂を得ることができる。上記ジオール成分として、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカ−ボネートジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、ポリアセタ−ル、ポリシロキサン等のポリオール化合物、並びにエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール等の低分子量のグリコール類が挙げられる。表面処理剤として用いるポリウレタン樹脂は、低分子量グリコール成分を多く含むことが好ましい。
【0061】
表面処理剤としてのポリウレタン樹脂は、マルチフィラメントであるポリエチレンナフタレート繊維の各単糸表面に均一に付着して、単糸を収束させていることが好ましいが、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分との混練工程では低いシェアで単糸を解離し、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分中に分散させるものであることが好ましい。そのためには、ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の引張強度が低い必要があり、ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の引張強度は、好ましくは5〜60MPa、より好ましくは10〜50MPaである。該樹脂の乾燥皮膜の引張強度が上記下限値以上であることにより、該樹脂の皮膜が破壊しにくく、表面処理繊維に収束性を付与できる。該樹脂の乾燥皮膜の引張強度が上記上限値以下であることにより、混練工程で単糸が解離しやすく、表面処理繊維の分散斑の発生を防止することができる。
【0062】
また、表面処理剤としてのポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の伸度100%時モジュラスは、好ましくは0.1〜30MPa、より好ましくは1〜20MPaである。該樹脂の乾燥皮膜の伸度100%時のモジュラスが上記下限値以上であることにより、該樹脂の皮膜が破壊しにくく、表面処理繊維に収束性を付与できる。該樹脂の乾燥皮膜の伸度100%時モジュラスが上記上限値以下であることにより、混練工程で単糸が解離しやすく、表面処理繊維の分散斑の発生を防止することができる。
【0063】
また、表面処理剤としてのポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の伸度は、好ましくは100〜700%、より好ましくは130〜500%である。該樹脂の乾燥皮膜の伸度が上記下限値以上であることにより、樹脂皮膜が硬く脆くになりすぎず、成形品に衝撃が加わったときに容易にポリウレタン樹脂が破壊することなく、繊維で樹脂成分を補強する効果を十分に得ることができる。また、該樹脂の乾燥皮膜の伸度が上記上限値以下であることにより、混練工程で単糸が解離しやすく、表面処理繊維の分散斑の発生を防止することができる。
【0064】
ここで、引張強度、伸度100%時のモジュラスや伸度の測定に用いられるポリウレタン樹脂の乾燥被膜の製造方法は下記の通りである。
ポリウレタン樹脂の水溶液からガラスシャーレーやテフロンシャーレーなどを用いて、キャスト法によって揮発分である水を除去する。この際の処理温度は室温〜120℃程度で、試料に合わせて適宜処理時間を設定することにより乾燥皮膜を得ることができる。乾燥皮膜の膜厚は、好ましくは0.1〜1.0mm、より好ましくは0.5〜1.0mmである。この乾燥皮膜を測定項目に合わせて加工する。例えば、引張強度や伸度を測定する際にはダンベル状に試験片を打ち抜き、引張試験の試験片とする。
【0065】
表面処理剤としてのポリウレタン樹脂としては、上述のように、乾燥皮膜の引張強度や伸度100%時のモジュラスが低く、また伸度は700%以下であることが好ましい。このような場合には、表面処理繊維を樹脂成分に混合するまでの工程中では表面処理繊維に収束性を付与し、表面処理繊維束へ樹脂成分を含浸させる工程では工程中でのシェアにより、マルチフィラメントを容易に単糸に解離することができ、より高性能の樹脂組成物となる。また、ポリウレタン樹脂としては、乾燥皮膜の伸度が100%以上の柔軟なものであることが好ましく、このような場合には、繊維で樹脂成分を補強する効果が高くなり、高性能の樹脂組成物となる。
【0066】
ポリエチレンナフタレート繊維(C)の表面処理は、上述の表面処理剤を含んだ処理液をポリエチレンナフタレート繊維(C)の繊維束に含浸させ、熱により乾燥させることにより行うことができる。ここで、乾燥温度は80〜200℃、乾燥時間は30〜300秒程度であることが、繊維の強度保持と表面処理剤の接着の面から最適である。また、用いる乾燥機は繊維の表面状態を維持する目的から、非接触型であることが好ましい。
【0067】
このような表面処理剤を用いてポリエチレンナフタレート繊維を表面処理する場合、 表面処理後のポリエチレンナフタレート繊維への表面処理剤の固形分の付着量は、3〜20重量%、特には5〜17重量%であることが好ましい。表面処理剤の付着量が上記下限以上であることにより、収束性が向上し、繊維同士の絡まりが減少するとともに、樹脂成分と十分に混合されるようになり、結果として、表面処理による効果を十分に得ることができる。逆に、表面処理剤の付着量が上記上限以下であることにより、樹脂成分と混合する際に繊維が均一に分散するだけの十分な収束性を得ながら、繊維の表面処理工程でのスカムの発生などが少なく、生産性が向上したものとなる。
【0068】
<その他の成分>
本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物には、上記ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有スチレン系樹脂(B)およびポリエチレンナフタレート繊維(C)の他、更に各種の添加剤やその他の樹脂を配合することができる。この場合、各種添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料など)、炭素繊維やガラス繊維、タルクやウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカなどの充填剤、難燃剤(ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン化合物など)、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコ−ンオイル、カップリング剤などの1種または2種以上が挙げられる。
【0069】
また、その他の樹脂としては、HIPS樹脂などのゴム強化スチレン系樹脂、その他に、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などが挙げられる。また、これらを2種類以上ブレンドしたものでも良く、さらに、相溶化剤や官能基などにより変性された上記樹脂を配合してもよい。
【0070】
ただし、本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物において、上述のその他の樹脂は、前述のポリ乳酸系熱可塑性樹脂成分100重量部に対して50重量部以下、特に30重量部以下であることが、ポリ乳酸樹脂の有効利用の面で好ましい。
【0071】
[複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)の製造および携帯電話筐体の成形]
本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)をペレット化する方法としては、特に制限はなく、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等を用いることができるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、サイドフィードなどにより樹脂や繊維、その他の添加剤を配合することもできる。
【0072】
本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)により携帯電話筐体、即ち、原料携帯電話筐体となるものを成形する方法としては特に制限はなく、射出成形、ブロー成形、シート成形、真空成形などの通常の成形方法によって、所定の携帯電話筐体形状に成形することができるが、その成形法としては特に射出成形が好適である。
【0073】
[光学式識別装置による樹脂成分回収品の選別処理]
本発明においては、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物よりなる原料携帯電話筐体から光学式識別装置により樹脂成分回収品を回収する。
ここで、携帯電話筐体とは、携帯電話各社において製造販売されている携帯電話の生産から販売迄のあらゆる経路から発生するいわゆる不良品、返却品、回収品、更には使用済の携帯電話等の不用になった携帯電話の筐体である。
これらは、市場にて通常、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物に限らず、様々な樹脂材料から製造された携帯電話筐体が混在した状態で一括して回収される。回収された携帯電話筐体は、分解(解体)、破砕、さらには洗浄、脱水、乾燥工程などを経た後、光学識別装置にかけて分別する。破砕時の破砕片のサイズとしては、2〜50mmが好ましく、より好ましくは5〜30mmである。なお、ここで破砕片のサイズとは、破砕片を2枚の平行な板で挟んだときに、この2枚の平行な板の距離が最も大きくなる箇所の長さ(2枚の板の間隔)をさす。
【0074】
本発明においては、このような様々な回収携帯電話筐体から、光学式識別装置により複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)で構成された原料携帯電話筐体を選別して、樹脂成分回収品とし、この樹脂成分回収品を複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物に配合して本発明のマテリアルリサイクル携帯電話筺体の成形材料である複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)とする。
【0075】
光学式識別装置としては、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物よりなるものを選別できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、近赤外線、蛍光X線、ラマン散乱光を用いたものなど、一般的に知られているものをいずれも用いることができる。
【0076】
[複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)の製造および携帯電話筐体の成形]
複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)は、上記樹脂成分回収品を配合すること以外は、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)と同様にして製造することができる。本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)における樹脂成分回収品の配合量は、少な過ぎるとマテリアルリサイクル性が低く、本発明の目的を達成し得ず、多過ぎると成形品外観が損なわれたり、耐衝撃性が低下したりすることがあることから、複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)中のポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とポリエチレンナフタレート繊維(C)との合計100重量部に対して1〜50重量部、特に1〜30重量部とすることが好ましい。
【0077】
本発明に係る複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)によりマテリアルリサイクル携帯電話筺体を成形する方法としては特に制限はなく、射出成形、ブロー成形、シート成形、真空成形などの通常の成形方法によって、所定の携帯電話筐体形状に成形することができるが、その成形法としては特に射出成形が好適である。
【0078】
このようにして成形される本発明のマテリアルリサイクル携帯電話筺体は、各部の実測厚みが0.3〜1.0mmであることが好ましい。実測厚みが上記下限以上であることにより、携帯電話筐体としての必要な強度を満たすことができ、上記上限以下であることにより、薄肉、軽量化を図ることができる。
即ち、本発明に係る原料携帯電話筐体を構成する複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)も、本来耐衝撃性、曲げ弾性等の機械的強度に優れるものであるため、この原料携帯電話筐体から回収した樹脂成分回収品を含む複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)であっても耐衝撃性、曲げ弾性等の機械的強度が十分に高く、製品を薄肉として軽量化を図ることができる。
【実施例】
【0079】
以下に、合成例、実施例、および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0080】
なお、以下において、「部」は「重量部」を意味するものとする。
【0081】
以下において、ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有スチレン系樹脂(B)、およびポリエチレンナフタレート繊維(C)としては以下のものを用いた。
【0082】
ポリ乳酸樹脂(A):Nature Works社製「Ingeo 3001D」
(L体=98重量%、重量平均分子量=82,000、融点
(Tm)=170℃)
ゴム含有スチレン系樹脂(B):UMG ABS(株)製「UMG ABS EX120」
(ゴム含有量=12重量%,アクリロニトリル/スチレン
=24/76,グラフト率=70%,重量平均分子量
(Mw)=110000)
【0083】
ポリエチレンナフタレート繊維(C):帝人ファイバー(株)製「Teonex BHT
1670 T250」:(繊維長=3mm、繊
維径=20μm)
【0084】
[複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)の製造および携帯電話筐体の成形]
ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有スチレン系樹脂(B)およびポリエチレンナフタレート繊維(C)を表1に示す配合で混合した後、200〜240℃で2軸押出機(日本製鋼所製「TEX−30α」)にて溶融混合し、ペレット化することにより、各々複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)のペレットを作成した。
各樹脂ペレットを用いて、携帯電話筺体金型(実測厚み:0.7mm)で150t電動射出成形機(東芝(株)製)にて、図1に示すデザインの携帯電話筺体1を射出成形した。この携帯電話筺体1は、折り畳み式の携帯電話筺体であり、本体部1Aと上蓋部1Bとで構成される。
【0085】
[携帯電話筺体の耐久性処理]
得られた携帯電話筺体を恒温高湿槽に入れ、温度65℃、湿度95%R.H.の条件下、1000時間処理した。この条件下における実質耐用年数は、10年に相当することが、当業界においては良く知られている。
【0086】
[選別・処理]
上記耐久性処理を施した携帯電話筐体を、他の携帯電話筐体の回収品と共に混合し、5〜30mmに破砕後、洗浄、脱水、乾燥の各工程を経た後、(株)サイムの高速ラマン散乱プラスチック識別装置を用いて選別、回収した。回収率は、99.9%であった。
【0087】
[樹脂成分回収品を配合した複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)の製造およびマテリアルリサイクル携帯電話筺体の成形]
上記の樹脂成分回収品を表1に示す配合割合で、ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム含有スチレン系樹脂(B)およびポリエチレンナフタレート繊維(C)と混合し、200〜240℃で2軸押出機(日本製鋼所製「TEX−30α」)にて溶融混合し、リペレットした。リペレットは、上記と同様に、携帯電話筺体を成形すると共に、75t射出成形機(東芝(株)製)で220〜250℃、金型温度:85℃にて評価用のテストピースを成形し、テストピースの耐熱性(荷重たわみ温度)、耐衝撃性(シャルピー衝撃強さ)、曲げ弾性率を以下の方法で測定した。また、マテリアルリサイクル携帯電話筺体成形時の成形サイクル(冷却時間)、および成形品外観を下記方法で測定した。
【0088】
荷重たわみ温度(℃):ISO 75(測定荷重0.45MPa)
シャルピー衝撃強さ(KJ/m):ISO 179(常温)
曲げ弾性率(MPa):ISO 178(常温)
冷却時間:上記成形機にて携帯電話筺体を変形無く取り出せる時間(秒)
成形品外観:目視による観察
(判断基準 ○:良好、△:一部外観不良、×:前面外観不良)
【0089】
[実施例および比較例]
表1に、実施例1〜5、および比較例1〜3の結果を示した。
【0090】
【表1】

【0091】
[考察]
表1から明らかなように、本発明の請求項の要件を満たす実施例1〜5のマテリアルリサイクル携帯電話筺体は、耐熱性、耐衝撃性、曲げ弾性率の物性バランスに優れ、加えて成形品外観が良好であり、成形時の冷却時間が短く生産性に優れる。これに対して、比較例1〜3では、携帯電話の最重要特性である成形品外観に劣り、商品価値が無い。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のマテリアルリサイクル携帯電話筺体は、優れた外観、物性バランスを示す上に、地球環境負荷低減に貢献することができ、その工業的有用性は非常に高く、循環型社会構築にも有効である。
【符号の説明】
【0093】
1 携帯電話筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(以下「複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)と称す。)で構成された携帯電話筐体から回収された樹脂成分回収品を含む複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(以下「複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)と称す。)を成形してなるマテリアルリサイクル携帯電話筺体であって、
該樹脂成分回収品は、分解、破砕の各工程後に光学式識別装置により選別された選別品であり、
該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(I)および該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)は、それぞれポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とポリエチレンナフタレート繊維(C)とを含む複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物であり、
該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)中の前記樹脂成分回収品の含有量が、該複合ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(II)を構成するポリ乳酸樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とポリエチレンナフタレート繊維(C)との合計100重量部に対して1〜50重量部であることを特徴とするマテリアルリサイクル携帯電話筺体。
【請求項2】
請求項1において、該マテリアルリサイクル携帯電話筺体の各部の実測厚みが、0.3〜1.0mmであることを特徴とするマテリアルリサイクル携帯電話筺体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−246371(P2012−246371A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118033(P2011−118033)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】