説明

マトリクスコンバータ装置及びその保護装置

【課題】マトリクスコンバータの入出力に大きなエネルギーが発生してもマトリクスコンバータを過電圧から保護し、入出力に発生するエネルギーの大小に応じた適正な外形寸法及びコストが維持できるマトリクスコンバータ装置及びマトリクスコンバータ装置の保護装置を提供する。
【解決手段】マトリクスコンバータ装置6に、スナバ回路4の2個の全波整流器41及び42の共通の直流側に接続された接続端子61を設ける。マトリクスコンバータ2の入出力に大きなエネルギーが発生し、整流スナバ回路4で充分吸収できない場合は、保護装置7を接続端子61に付加する。保護装置7の接続端子71は保護装置7内の放電回路75に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定周波数の三相交流電源から任意の周波数の交流電源を直接生成するマトリクスコンバータ(PWMサイクロコンバータ)装置に関し、特に過電圧保護機能を備えたマトリクスコンバータ装置及びその保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一定周波数の三相交流電源から任意の周波数の交流電源を直接生成するマトリクスコンバータ装置に関し、マトリクスコンバータの端子間に発生する過電圧を防止する整流スナバ回路を備えたマトリクスコンバータ装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。
周知のように、マトリクスコンバータは、電源電圧の最大電圧と最小電圧とに着目して各相に接続された図示しない双方向スイッチを選択し、PWM制御により入力の交流電圧を所望の大きさ、周波数を有する交流電圧に直接変換して出力するものである。
【0003】
図4は、従来のマトリクスコンバータ装置の構成図である。
図4において、1は三相交流電源、2はマトリクスコンバータ、3はマトリクスコンバータ2で発生したキャリア周波数分のパルス電流を低減するためのフィルタ、4はマトリクスコンバータの入出力に発生する過電圧を抑制する整流スナバ回路で、整流スナバ回路4は、電源側の全波整流器41、負荷側の全波整流器42、前記2個の全波整流器の整流側である直流側が並列に接続され、その共通の直流側に接続されたコンデンサ43、前記直流側の電圧を検出する電圧検出回路44、前記直流側に並列に接続されコンデンサ43の放電回路を形成する半導体スイッチ451および抵抗器452からなる放電回路45、前記直流側の電圧が所定の電圧を超えたとき半導体スイッチ451を駆動するゲートドライバ46から構成されている。また、5はモータ等の誘導性負荷である。
【0004】
次に、整流スナバ回路の動作について説明する。
図4において、運転中にマトリクスコンバータ2を遮断した時にはマトリクスコンバータ2内部の双方向スイッチは通常全てオフとなる。この時に、モータ5の巻線にはインダクタンスによるエネルギーがあり、そのエネルギーにより、モータ端子、すなわちマトリクスコンバータ2の負荷側端子間に電圧が発生する。発生した電圧は整流回路42を通じて整流され、コンデンサ43を充電することにより直流電圧の上昇が抑制され、過電圧を防止している。また、発生したエネルギーが大きく、この直流電圧がさらに上昇した場合には、電圧検出回路44でそれを検出し、直流電圧が所定の電圧を超えた場合、ゲートドライバ46は半導体スイッチ451をオンしてエネルギーを消費することにより、過電圧を防止している。
【0005】
なお、マトリクスコンバータ2の電源側に接続された整流回路41は、電源側の配線インダクタンスにより発生するサージ電圧から双方向スイッチ(図示せず)を保護するためのもので、配線インダクタンスに蓄えられたエネルギーは整流回路41を介してコンデンサ43により吸収される。
【特許文献1】特開2000−139076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の整流スナバ回路は、マトリクスコンバータの負荷側に接続されるモータ等の誘導負荷のインダクタンスや電源側の配線インダクタンスに蓄えられたエネルギーが大きい場合、遮断時に整流スナバ回路で充分に吸収できず、マトリクスコンバータに過電圧が発生し、双方向スイッチが破壊するという問題があった。また、このような状況に対しても過電圧が発生しないように整流スナバ回路のコンデンサや放電抵抗を選定すると、発生するエネルギーがあまり大きくない場合、整流スナバ回路は過剰な能力を備えることになり、マトリクスコンバータ装置のコストパーフォーマンスが低下し、また、形状も大きくなる問題が発生した。
【0007】
また、電源のインピーダンスが大きい場合、モータの回生エネルギーによって、マトリクスコンバータの電圧が上昇し、頻繁に加減速を繰り返す場合は、整流スナバ回路の放電回路が頻繁に動作し、放電抵抗が過熱するという問題があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、マトリクスコンバータの電源側又は負荷側に大きなエネルギーが発生してもマトリクスコンバータを過電圧から保護し、入出力に発生するエネルギーの大小に応じた適正な外形寸法及びコストが維持できるマトリクスコンバータ装置及びその保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、双方向半導体スイッチで三相交流電源と負荷とを直接接続し、前記負荷に可変周波数の電源を供給するマトリクスコンバータと、前記マトリクスコンバータの過電圧を抑制する整流スナバ回路とを備え、前記整流スナバ回路は、前記マトリクスコンバータの電源側に並列接続された全波整流器と、前記マトリクスコンバータの負荷側に並列接続された全波整流器と、前記2個の全波整流器の直流側を並列に接続し、その共通の直流側に接続されたコンデンサと、前記直流側の電圧を検出する電圧検出回路と、前記直流側に並列接続され前記コンデンサの放電回路を形成する半導体スイッチ及び抵抗からなる放電回路と、前記直流側の電圧が所定の第1レベルの電圧を超えた場合前記半導体スイッチを駆動するゲートドライバとを備えたマトリクスコンバータ装置において、前記マトリクスコンバータ装置は、前記直流側に並列接続され前記コンデンサの放電回路を形成する保護装置に接続する接続端子を備えたことを特徴としている。
また、請求項2に記載の発明は、双方向半導体スイッチで三相交流電源と負荷とを直接接続し、前記負荷に可変周波数の電源を供給するマトリクスコンバータと、前記マトリクスコンバータの過電圧を抑制する整流スナバ回路とを備え、前記整流スナバ回路は、前記マトリクスコンバータの電源側に並列接続された全波整流器と、前記マトリクスコンバータの負荷側に並列接続された全波整流器と、前記2個の全波整流器の直流側を並列に接続し、その共通の直流側に接続されたコンデンサと、前記直流側の電圧を検出する電圧検出回路と、前記直流側に並列接続され前記コンデンサの放電回路を形成する半導体スイッチ及び抵抗からなる放電回路と、前記直流側の電圧が所定の第1レベルの電圧を超えた場合前記半導体スイッチを駆動するゲートドライバとを備えたマトリクスコンバータ装置の保護装置であって、前記保護装置は、前記直流側の電圧を検出する電圧検出回路と、半導体スイッチ及び抵抗で構成された放電回路と、前記直流側の電圧が前記第1レベルの電圧と異なる所定の電圧である第2レベルの電圧を超えたとき、前記半導体スイッチを駆動するゲートドライバと、前記放電回路を前記直流側に並列接続する接続端子と、を備えたことを特徴としている。
また、請求項3に記載の発明は、前記保護装置は、前記第2レベルの電圧を任意に設定できる設定機能を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、マトリクスコンバータ装置が、保護装置を接続する接続端子を備えているので、マトリクスコンバータ装置の遮断時に大きいエネルギーが発生する場合、接続端子に保護装置を付加することによって過電圧を抑制できる。従ってマトリクスコンバータ装置の信頼性が向上する。
また、マトリクスコンバータ装置の電源条件、負荷条件、運転条件などの使用条件に応じて、大きいエネルギーが発生するときにのみ付加すればよいので、大きいエネルギーが発生しない場合において余分なコストアップや形状寸法の増加が発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は本発明のマトリクスコンバータ装置の一実施形態を示す構成図であり、図5と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、以下では図5と異なる部分を中心に説明する。
図1において、6はマトリクスコンバータ装置を表しており、マトリクスコンバータ装置6は全波整流器41及び42の共通の直流側に接続された接続端子61を備えている。
また、7は保護装置で、保護装置7は接続端子71を備え、接続端子71の2つの端子は端子台61の2つの端子とそれぞれ接続され、さらに、接続端子71は保護装置7内の放電回路75に接続されている。
なお、マトリクスコンバータ2の構成及び動作については公知であるのでその説明を省略する。
【0012】
図2は、保護装置7の詳細な構成を示すブロック図である。
図において、74は整流スナバ回路の直流電圧を検出する電圧検出回路、75は半導体スイッチ751と放電抵抗752が直列接続された放電回路、76は半導体スイッチ751を駆動するゲートドライバである。
【0013】
次に、保護装置の動作について説明する。
図3は本発明の保護装置の動作を示す模式図である。
図3において、201は整流スナバ回路4の放電回路45の動作レベルである第1レベルを示し、202は保護装置7の放電回路75の動作レベルである第2レベルを示している。
モータ等の誘導負荷が遮断された場合、整流スナバ回路4の直流電圧が上昇する。この直流電圧が第1レベル201達すると放電回路45の半導体スイッチ451がオンし、抵抗452を通して電流が流れ誘導負荷のもつエネルギーが消費される。しかし、遮断時のエネルギーが大きく整流スナバ回路で充分に消費できない場合、図3に示すようにさらに直流電圧が上昇する。
この直流電圧は保護装置7の電圧検出回路74で検出される。保護装置7の放電回路75の動作レベルである第2レベルは第1レベル201よりわずかに高く設定してあり、第2レベル202に達するとゲートドライバ76は半導体スイッチ751を駆動する。これによって、抵抗752を通して電流が流れ直流電圧の上昇が抑えられる。
【0014】
また、電源のインピーダンスが大きい場合、モータの回生エネルギーで電源が上昇する場合がある。このような電源条件で頻繁に加減速が行うと整流スナバ回路の放電回路が頻繁に動作し、放電抵抗が過熱するという問題が発生する。
しかし、保護装置7の放電回路75に回生エネルギーによる電圧上昇を抑制できる適正なエネルギー消費能力を持たせ、第2レベルを第1レベル201より低く設定すれば、これによって、放電回路75で回生エネルギーを吸収し、整流スナバ回路4の放電抵抗452の過熱を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のマトリクスコンバータ装置の一実施形態を示す構成図
【図2】本発明の保護装置の詳細な構成を示すブロック図
【図3】本発明の保護装置の動作を示す模式図
【図4】従来のマトリクスコンバータ装置の構成図
【符号の説明】
【0016】
1 三相交流電源
2 マトリクスコンバータ
3 フィルタ
4 整流スナバ回路
41、42 全波整流回路
43 コンデンサ
44、74 電圧検出回路
45、75 放電回路
451、751 半導体スイッチ
452、752 抵抗
46、76 ゲートドライバ
5 誘導負荷(モータ)
6 マトリクスコンバータ装置
61、71 接続端子
7 保護装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
双方向半導体スイッチで三相交流電源と負荷とを直接接続し、前記負荷に可変周波数の電源を供給するマトリクスコンバータと、前記マトリクスコンバータの過電圧を抑制する整流スナバ回路とを備え、
前記整流スナバ回路は、前記マトリクスコンバータの電源側に並列接続された全波整流器と、前記マトリクスコンバータの負荷側に並列接続された全波整流器と、前記2個の全波整流器の直流側を並列に接続し、その共通の直流側に接続されたコンデンサと、前記直流側の電圧を検出する電圧検出回路と、前記直流側に並列接続され前記コンデンサの放電回路を形成する半導体スイッチ及び抵抗からなる放電回路と、前記直流側の電圧が所定の第1レベルの電圧を超えた場合前記半導体スイッチを駆動するゲートドライバとを備えたマトリクスコンバータ装置において、
前記マトリクスコンバータ装置は、前記直流側に並列接続され前記コンデンサの放電回路を形成する保護装置に接続する接続端子を備えたことを特徴とするマトリクスコンバータ装置。
【請求項2】
双方向半導体スイッチで三相交流電源と負荷とを直接接続し、前記負荷に可変周波数の電源を供給するマトリクスコンバータと、前記マトリクスコンバータの過電圧を抑制する整流スナバ回路とを備え、
前記整流スナバ回路は、前記マトリクスコンバータの電源側に並列接続された全波整流器と、前記マトリクスコンバータの負荷側に並列接続された全波整流器と、前記2個の全波整流器の直流側を並列に接続し、その共通の直流側に接続されたコンデンサと、前記直流側の電圧を検出する電圧検出回路と、前記直流側に並列接続され前記コンデンサの放電回路を形成する半導体スイッチ及び抵抗からなる放電回路と、前記直流側の電圧が所定の第1レベルの電圧を超えた場合前記半導体スイッチを駆動するゲートドライバとを備えたマトリクスコンバータ装置の保護装置であって、
前記保護装置は、前記直流側の電圧を検出する電圧検出回路と、半導体スイッチ及び抵抗で構成された放電回路と、前記直流側の電圧が前記第1レベルの電圧と異なる所定の電圧である第2レベルの電圧を超えたとき、前記半導体スイッチを駆動するゲートドライバと、前記放電回路を前記直流側に並列接続する接続端子と、を備えたことを特徴とするマトリクスコンバータ装置の保護装置。
【請求項3】
前記保護装置は、前記第2レベルの電圧を任意に設定できる設定機能を備えたことを特徴とする請求項2記載のマトリクスコンバータ装置の保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−221844(P2007−221844A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35967(P2006−35967)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】