説明

マトリクスコンバータ

【課題】電源側で欠相が発生した場合等にマトリクスコンバータユニットを停止させても、異常解決後には復帰が可能となるマトリクスコンバータを提供する。
【解決手段】交流電源1の各相に接続されるリアクトル21とリアクトル21間に接続されるコンデンサ22とから成るLCフィルタ2と、LCフィルタ2の出力側に接続されるマトリクスコンバータ用スイッチング素子4と、マトリクスコンバータ用スイッチング素子4に接続されたスナバモジュール52のエネルギで駆動されるスイッチング素子用制御コントローラ50とを備えて成るマトリクスコンバータ5において、コンデンサ22と直列にパワーリレー3を接続し、交流電源1側で欠相が発生した場合、電源電圧異常検出による信号にてパワーリレー3を遮断させて、コンデンサ22を交流電源1と切り離すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリクスコンバータ(PWMサイクロコンバータ)に関するもので、特にその電源側での欠相時にLC入力側フィルタの遮断に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、マトリクスコンバータ(PWMサイクロコンバータ)は知られている。マトリクスコンバータは、ヒューズとLCフィルタと双方向スイッチング素子(例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)を2個対向直列に接続して成る。)と双方向スイッチング素子に並列に接続されるスナバ回路とから構成され、交流電源と負荷となる交流電動機との間に間挿されて使用され、交流電源からの電力を所望の電力に変換して交流電動機に供給している。各IGBTは外部信号により独立に開閉制御可能となっており、スナバ回路は、IGBTが自身に流れている電流を遮断する際に発生するサージ電圧を吸収する役割をしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−262264号公報
【0003】
そして、このようなマトリクスコンバータにおいて、電源側で欠相が発生した場合や電源電圧の異常を検出した場合にマトリクスコンバータを停止させる保護機能を持っていたが、同一系統に接続された機器(例えば、単相トランス)によって、マトリクスコンバータが停止している状態でも共振を起こす可能性について認識していなくて、その対応がなされていなかった。
前記のとおり、同一系統に接続された機器(例えば、単相トランス)によってマトリクスコンバータと共振を起こす可能性があるので、本出願人は、その解決方法の1つとして電源電圧異常時の信号でマトリクスコンバータを停止させた時に電源側と切り離す方法を考えて見た。
図3は電源電圧異常時の信号でマトリクスコンバータを停止させた時に電源側と切り離す具体的な1つの回路である。
図において、1は三相交流電源、2はLCフィルタで、リアクトル21とコンデンサ22とから成る。4はスイッチング素子IGBT、5はマトリクスコンバータ(ユニット)、50は制御コントローラ(ゲートドライバ)、52はサージエネルギーを吸収するスナバモジュール、53は放電回路、54は突入抑制回路、55は平滑コンデンサ、56は突入抑制用駆動電源、57は制御電源、6は三相交流電源1とマトリクスコンバータ5との間に間挿されている電源コンタクタである。
マトリクスコンバータ5は、電源コンタクタ6を介して三相交流電源1に接続され、三相交流電源1の電力(電圧、電流、周波数)を変換して所望の電力をモータに供給している。
制御コントローラ50は、マトリクスコンバータ5のスイッチング素子IGBT4がスイッチングした際に、高調波を電源系統へ漏らさぬためのLCフィルタ2とスイッチングしたサージエネルギーを吸収するスナバモジュール52及びそのエネルギーを吸収する平滑コンデンサ55とのエネルギーを電力源とし、制御電源57より与えられている。
三相交流電源の各相にはリアクトル21が接続され、この各相のリアクトル21間にコンデンサ22が挿入されて、LCフィルタ2を構成してる。
三相交流電源1に電源電圧異常が発生すると、その電源電圧異常時の信号で電源コンタクタ6をOFFにして、マトリクスコンバータ5を三相交流電源1側と切り離すようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図3のようなマトリクスコンバータ5では、その回路構成上、異常解決後の復帰が出来なくなってしまうという問題があった。すなわち、制御コントローラ50が、スナバモジュール52及びそのエネルギーを吸収する平滑コンデンサ55のエネルギーを電力としているので、三相交流電源1とマトリクスコンバータ5とを切り離してしまうと、制御コントローラ用電源57の供給も絶たれてしまうため、制御コントローラ用電源57が落ち、その結果、制御コントローラ50の不動作による異常解決後の復帰が出来なくなってしまうからである。
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、電源側で欠相が発生した場合や電源電圧の異常時にマトリクスコンバータユニットを停止させても、異常解決後の復帰が可能となるマトリクスコンバータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、マトリクスコンバータに係り、交流電源に接続されて前記交流電源電力を所望の電力に変換してモータに供給するためのマトリクスコンバータであって、前記交流電源の各相に接続されるリアクトルと該各相のリアクトル間に接続されるコンデンサとから成るLCフィルタと、該LCフィルタの出力側に接続されるマトリクスコンバータ用スイッチング素子と、該マトリクスコンバータ用スイッチング素子に接続されたスナバモジュールのエネルギで駆動される前記スイッチング素子用制御コントローラとを備えて成るマトリクスコンバータにおいて、前記LCフィルタの前記コンデンサと直列にパワーリレーを接続し、前記交流電源側で欠相が発生した場合、電源電圧異常検出による信号にて前記パワーリレーを遮断させて、前記LCフィルタの前記コンデンサを前記電源と切り離すようにしたことを特徴としている。
請求項2記載の発明は、マトリクスコンバータに係り、交流電源に接続されて前記交流電源電力を所望の電力に変換してモータに供給するためのマトリクスコンバータであって、前記交流電源の各相に接続されるリアクトルと該各相のリアクトル間に接続されるコンデンサとから成るLCフィルタと、該LCフィルタの出力側に接続されるマトリクスコンバータ用スイッチング素子と、該マトリクスコンバータ用スイッチング素子に接続されたスナバモジュールのエネルギで駆動される前記スイッチング素子用制御コントローラとを備えて成るマトリクスコンバータにおいて、前記制御コントローラ用電源を本来の供給源とは別に外部電源供給用の端子側に設け、かつ該端子に前記マトリクスコンバータユニットの入力側各相に電源コンタクタを接続し、前記交流電源側で欠相が発生した場合、電源電圧異常検出による信号にて前記電源コンタクタを遮断させて、前記LCフィルタを前記電源と切り離すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
以上述べたように、請求項1記載の発明によれば、電源電圧異常時にマトリクスコンバータを停止させた際に共振する可能性の元となるLCフィルタのACコンデンサを遮断するものであり、これにより、三相交流電源とマトリクスコンバータとが切り離されることはなくなるので、制御コントローラ用電源の供給が絶たれることがなくなり、異常解決後の復帰が可能となる。
また、請求項2記載の発明によれば、電源電圧異常時にマトリクスコンバータを停止させた際に共振する可能性の元となるLCフィルタを遮断しかつ制御コントローラ用電源として外部電源から供給するので、制御コントローラ用電源の供給が絶たれることがなくなり、異常解決後の復帰が可能となる。
尚、本発明の目的とは別に、製品用途的に電源側にコンタクタを設置した場合を考慮して、制御コントローラ用電源を本来の供給先とは別に外部電源供給用の端子を設け、かつ、電源電圧検出信号用も兼用にすることも合わせて解決することができる。
このように、電源電圧異常時及び異常後の対応がユニット内で全て完結することが出来ることと、それによってシステム設計が容易になり、マトリクスコンバータとしての利用(応用)範囲が拡大するメリットがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の実施例1について、図1に基づいて説明する。
〈実施例1〉
図において、1は三相交流電源、2はLCフィルタで、リアクトル21とコンデンサ22とから成る。3は本発明によって設けられたパワーリレー、4はスイッチング素子IGBT、5はマトリクスコンバータ、50は制御コントローラ(ゲートドライバ)、51は降圧用整流回路、52はサージエネルギーを吸収するスナバモジュール、53は放電回路、54は突入抑制回路、55は平滑コンデンサ、56は突入抑制用駆動電源、57は制御電源である。
マトリクスコンバータ5は、三相交流電源1に接続され、三相交流電源1の電力(電圧、電流、周波数)を変換して所望の電力をモータに供給している。
制御コントローラ50は、マトリクスコンバータ5のスイッチング素子IGBT4がスイッチングした際に、高調波を電源系統へ漏らさぬためのLCフィルタ2とスイッチングしたサージエネルギーを吸収するスナバモジュール52及びそのエネルギーを吸収する平滑コンデンサ55とのエネルギーを電力源とし、制御電源57より与えられている。
三相交流電源の各相にはリアクトル21が接続され、この各相のリアクトル21間にコンデンサ22が挿入されて、LCフィルタ2を構成してる。
パワーリレー3を駆動するための接点信号(DO:MCON)によって、パワーリレー3を駆動させ、その動作したというアンサー信号(DI:MCANS)を制御コントローラ側に返す回路構成を採っている。
なお、図1では、パワーリレー3にアンサー信号が無いため、アンサー信号(DI:MCANS)をコモンさせ対応している。
また、電源電圧検出信号、つまり、入力電圧の電位、位相、及び周期を演算・電源監視するための元となる信号を制御コントローラに取り込み、交流電源側の異常(欠相)を検出している。
そして、本発明により、そのコンデンサ22と直列にパワーリレー3を接続し、三相交流電源1側に欠相が発生した場合、降圧用整流回路51を電源として、DO:MCONからの接点信号がパワーリレー3に送られ、その接点を開いて、パワーリレー3を遮断させて、コンデンサ22を三相交流電源1と切り離すようにしている。
【0008】
以上のように、実施例1によれば、上記マトリクスコンバータユニットにおいて、三相交流電源側で欠相が発生した場合や電源電圧の異常時にマトリクスコンバータユニットを停止させ、マトリクスコンバータユニット内のLCフィルタのコンデンサをパワーリレーによって遮断して電源系統と切り離すことで同一系統に接続された機器(例えば、単相トランス)によってマトリクスコンバータが停止している状態でも共振を起こす可能性を除去すると共に、スナバモジュールや平滑コンデンサには三相交流電源が接続された状態にあるので異常解決後の復帰が可能となる。
なお、放電回路53と突入抑制回路54との間にある3相整流ブリッジ58は、本実施例の目的とは別に、外部電源供給用として設けた端子(Rs、Ss、Ts)から入力される3相交流電源を整流し、直流として制御コントローラ用電源の供給源になっているものである。
これにより、例えばシステムとして、同一電源系統に可変速電力変換装置(インバータなど)を接続する際、装置異常時の電源系統への保護の観点から系統からの分離可能な構成を取るため、各々の装置の頭にコンタクタ或いは配線用遮断機を設置し、本装置が持つ保護機能動作による外部出力故障信号(IO)を使用した場合を考慮して、制御コントローラ用電源を上記本実施例による本来の供給先とは別に外部電源供給用の端子を設け、かつ、電源電圧検出信号用も兼用にすることによって、制御コントローラ用電源が落ちることがなく、かつ、異常解決後の復帰も行うことができるようにすることができる。
【0009】
次に、本発明の実施例2について、図2に基づいて説明する。
〈実施例2〉
図において、1は三相交流電源、2はLCフィルタで、リアクトル21とコンデンサ22とから成る。3は本発明によって設けられたパワーリレー、4はスイッチング素子IGBT、5はマトリクスコンバータ、50は制御コントローラ(ゲートドライバ)、52はサージエネルギーを吸収するスナバモジュール、53は放電回路、54は突入抑制回路、55は平滑コンデンサ、56は突入抑制用駆動電源、57は制御電源、6は三相交流電源1とマトリクスコンバータ5との間に間挿されている電源コンタクタである。
本実施例により、整流ブリッジ58を放電回路53と突入抑制回路54との間に設け、整流ブリッジ58に三相交流電源1を外部電源供給用端子を介して接続し、常時、平滑コンデンサ55に充電をしている。
マトリクスコンバータ5は、電源コンタクタ6を介して三相交流電源1に接続され、三相交流電源1の電力(電圧、電流、周波数)を変換して所望の電力をモータに供給している。
制御コントローラ50は、マトリクスコンバータ5のスイッチング素子IGBT4がスイッチングした際に、高調波を電源系統へ漏らさぬためのLCフィルタ2とスイッチングしたサージエネルギーを吸収するスナバモジュール52及びそのエネルギーを吸収する平滑コンデンサ55とのエネルギーを電力源とし、制御電源57より与えられていると共に、上記の如く三相交流電源1からも外部電源供給用端子を介して平滑コンデンサ55を充電し、制御電源57より与えられている。
三相交流電源の各相にはリアクトル21が接続され、この各相のリアクトル21間にコンデンサ22が挿入されて、LCフィルタ2を構成してる。
三相交流電源1に電源電圧異常が発生すると、その電源電圧異常時の信号で電源コンタクタ6をOFFにして、マトリクスコンバータ5のLCフィルタ2を三相交流電源1側と切り離すようにして、同一系統に接続された機器(例えば、単相トランス)によってマトリクスコンバータと共振を起こす可能性を除去している。
また、マトリクスコンバータ5を三相交流電源1側と切り離しても、三相交流電源1から整流ブリッジ58に外部電源供給用端子を介してエネルギを与えられているので、異常解決後のマトリクスコンバータユニット5の復帰が可能となる。
【0010】
以上のように、実施例2によれば、上記マトリクスコンバータユニットにおいて、三相交流電源側で欠相が発生した場合や電源電圧の異常時にマトリクスコンバータユニットを停止させ、マトリクスコンバータユニット内のLCフィルタを電源コンタクタによって三相交流電源から遮断して電源系統と切り離すことで同一系統に接続された機器(例えば、単相トランス)によってマトリクスコンバータが停止している状態でも共振を起こす可能性を除去すると共に、平滑コンデンサには外部電源供給用端子を介して三相交流電源が接続された状態にあるので異常解決後の復帰が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電源電圧異常時に保護する本発明の実施例1に係るマトリクスコンバータの回路図である。
【図2】本発明の実施例2に係るマトリクスコンバータの回路図である。
【図3】本発明の先行技術に係る回路で、電源電圧異常時の信号でマトリクスコンバータを停止させた時に電源側と切り離す具体的な1つの回路である。
【符号の説明】
【0012】
1 三相交流電源
2 LCフィルタ
21 リアクトル
22 コンデンサ
3 パワーリレー
4 スイッチング素子IGBT
5 マトリクスコンバータ
50 制御コントローラ(ゲートドライバ)
51 降圧用整流回路
52 スナバモジュール
53 放電回路
54 突入抑制回路
55 平滑コンデンサ
56 突入抑制用駆動電源
57 制御電源
58 整流ブリッジ
6 電源コンタクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源に接続されて前記交流電源電力を所望の電力に変換してモータに供給するためのマトリクスコンバータであって、前記交流電源の各相に接続されるリアクトルと該各相のリアクトル間に接続されるコンデンサとから成るLCフィルタと、該LCフィルタの出力側に接続されるマトリクスコンバータ用スイッチング素子と、該マトリクスコンバータ用スイッチング素子に接続されたスナバモジュールのエネルギで駆動される前記スイッチング素子用制御コントローラとを備えて成るマトリクスコンバータにおいて、
前記LCフィルタの前記コンデンサと直列にパワーリレーを接続し、
前記交流電源側で欠相が発生した場合、電源電圧異常検出による信号にて前記パワーリレーを遮断させて、前記LCフィルタの前記コンデンサを前記電源と切り離すことを特徴とするマトリクスコンバータ。
【請求項2】
交流電源に接続されて前記交流電源電力を所望の電力に変換してモータに供給するためのマトリクスコンバータであって、前記交流電源の各相に接続されるリアクトルと該各相のリアクトル間に接続されるコンデンサとから成るLCフィルタと、該LCフィルタの出力側に接続されるマトリクスコンバータ用スイッチング素子と、該マトリクスコンバータ用スイッチング素子に接続されたスナバモジュールのエネルギで駆動される前記スイッチング素子用制御コントローラとを備えて成るマトリクスコンバータにおいて、
前記制御コントローラ用電源を本来の供給源とは別に外部電源供給用の端子側に設け、かつ該端子に前記マトリクスコンバータユニットの入力側各相に電源コンタクタを接続し、
前記交流電源側で欠相が発生した場合、電源電圧異常検出による信号にて前記電源コンタクタを遮断させて、前記LCフィルタを前記電源と切り離すことを特徴とするマトリクスコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−151235(P2007−151235A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338843(P2005−338843)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】