説明

マトリックスチップに関する方法および組成物

本発明の態様は、細胞同士の相互作用および細胞とマトリックス材料との相互作用を評価するための装置および方法に関し、そこにおいて、そのような相互作用の結果として形成される細胞分布のパターンが、該細胞の一つまたは複数の侵襲能力の指標となる。さらに、そのような装置および方法は、侵襲性の細胞が転移する優先的な部位を示すことができ、そのような細胞に適用される抗癌剤の有効性を示すことができ、そして、腫瘍の増殖または転移を促進または増強する薬剤の可能性を示すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国仮特許出願第60/511543号(2003年10月14日出願)、第60/526792号(2003年12月4日出願)、および第60/574437号(2004年5月26日出願)に基づく優先権を主張するものであり、それらの内容はこの引用によりそっくり本明細書に記載されたものとする。
【0002】
国立衛生研究所からの認可番号R01EY10457およびエネルギー省からの認可番号W−7405−ENG−48により米国政府は本発明について固有の権利を有し得る。
【0003】
(背景)
(1.発明の分野)
本発明は総じて細胞生物学および癌の診断に関する。特に本発明は、侵襲性の哺乳動物細胞を検出するための、細胞の侵襲性の程度を区別するための、そして、細胞の侵襲性を調節する化合物を特定または識別するための、組成物、方法および装置に関する。
【背景技術】
【0004】
(2.関連技術の説明)
癌の検出用に多くの方法が考え出されている。それらは、X線による腫瘍塊の画像化および生検(生体組織検査)により得られた組織試料中の細胞を評価することによる光学的手法から、癌性細胞によって体液(例えば血液および尿)に放出される蛋白質および他の分子種の検出まで、さまざまである。これらの方法の中で、生検により得られた細胞の直接的な評価のみが、癌の検出、部位特定および特徴づけにとって最も信頼できるものであり、従って、単独の方法としてあるいは他の方法により得られた結果を確認または精査するための手段として、一般に好ましい方法である。
【0005】
癌の細胞レベルでの検出、診断、分類、および特徴付けは、伝統的に、組織または細胞の標本を構成する細胞の形態を顕微鏡で見て評価することにより行われてきた。より最近、癌性細胞によって特定的にまたは特異的に発現されるある特定の細胞表面蛋白質(マーカー類)を検出および定量するための自動化された画像分析法および免疫組織化学法が、この目的に用いられるようになってきた。大きな群の蛋白質について発現の変化を評価することにより癌細胞を特定するプロテオーム法が、開発中であるが、日常的に臨床に用いられるには至っていない。それらのより新しい技法は、癌性細胞の検出にある程度有用であるが、やはり、細胞の形態を目視により顕微鏡で評価することが、そのような検出の確認並びに、癌の診断、分類および特徴づけの一般に認められた標準となっている。
【0006】
癌の検出に細胞形態を用いることについての主な限界は、そのプロセスに付き物である低いシグナル対ノイズ比(SN比)(SNR)に大きく起因する。癌細胞は、存在するのであれば、通常、臨床標本のわずかな構成要素である。例えば、子宮頸癌について広く用いられている「パップテスト(子宮癌検査法)」のスクリーニング試験において、典型的な標本を構成する約50000〜300000の細胞群において、異常な細胞が1〜10存在すれば、癌の存在について陽性であると断言すべき標本として、通常、十分なものである。従って、このことだけを根拠にしても、陽性の標本についてSN比は1/300000と低い。このSN比は、他の要因(最も顕著には「生物学的ノイズ」)によってさらに低くなる。
【0007】
そのような標本における生物学的ノイズは、主に二つの原因に由来する。一つの原因は、多くの遺伝的要因および環境的要因(例えば、病歴、人口統計、およびホルモン状態など)を反映する患者間での本来的なばらつきである。他の原因は、細胞の形態学的特徴が正常なものから明確な癌に至るまで連続的であり、癌性細胞と非癌性細胞とを区別する明確な境界がないということに由来する。実際、もし繰返して見なければ、癌性細胞に関連する多くの形態学的特徴は、正常な細胞の過程(例えば、傷の回復や感染などの事象に対する反応)の結果見られる特徴とよく似ている。また、関連する形態学的基準は、多くの種類の癌の間で、いくらか異なっている。そのような要因のため、細胞形態の評価を通じて癌を検出することは、いくらか主観的なものになっており、そして、特別に訓練され高度に熟練した者がそのような評価を行うことが必要になる。そのような訓練や細胞形態の評価を体系化する多くの試みにもかかわらず、ある特定の細胞が本当に癌性であるかどうかについて、もしそうならば、それが示す癌の種類について、そして、その予後について、あるコンセンサスに至るのは、やはりしばしば困難である。予想可能なように、この主観性のため、細胞形態を評価するための自動化されたシステムの性能は、顕著に限られたものとなってくる。
【0008】
癌検出のため免疫組織化学法およびプロテオーム法が開発されている主な原動力の一つは、検出の感度および特異性を向上させるため、検出プロセスのSN比を向上させる必要があるということである。免疫組織化学法の目的は、特定の種類の癌に特有の細胞表面マーカー、あるいは、特定の種類の癌によって過剰に発現される細胞表面マーカーを提示する細胞を目立たせることにより、正常細胞と癌性細胞との区別を容易にするということである。次いで、そのような目印をつけられた細胞は、検出を確認するため、そして、癌を分類および特徴付けするプロセスを開始するため、形態学的評価に供される。プロテオーム法は、大きな群の「標識(インジケーター)」(そのいずれも、それ自体単独で、同様の目的に対し必ずしも決定的なものである必要はない)の統計学的解釈かつ/またはパラメーター解釈を利用するものである。しかし、これらの方法はいずれも、生物学的ノイズに影響されることが知られており、そのため、最終的な決定を得るため、形態学的分析と共に用いられる。
【0009】
経済学的要因および人口統計学的要因により、癌の検出に関して「ケアの標準」への世界的な変化が進んでいる。従来、可能な最も早い段階で癌を検出するため、高度に感受性のスクリーニング試験を使用することが強調されてきた。そのような高度に感受性の試験は、本来的に、高いレベルの偽陽性の結果を生じさせ、それらの結果はそれぞれ、広範で高価な追跡調査を必要とし、従って、医療資源の顕著な浪費となる。疫学調査および他の調査から現在明らかになっていることは、すくなくともある特定の癌については、スクリーニング集団を、明らかに正常、明らかに癌性、および「疑わしい」の群に分類して優先順位をつけるべく、高度に特異的で好ましくは予後の試験を用いることが、医療上および経済上、より有効だということである。このモデルにおいて、追跡調査および治療は、明らかに癌を有することがわかっている患者に対して集中的に行われ、一方、疑わしい群の患者は、監視のレベルを引き上げられる。この結果、従来偽陽性の結果を解決するのに費やされていた資源を再配分して、スクリーニングの範囲および頻度を高めるのに使うことが可能になる。少なくともこのような動きが最も進んでいる子宮頸癌スクリーニングの領域では、このアプローチにより、ケアの質および利用可能性が経済的に目に見える形で向上していることが明らかになってきた。人口の増加、その人口における平均年齢の上昇、そして、細胞の形態学的評価について訓練を受ける者の数の継続的な減少を考えると、このことは特に重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの理由およびその他の理由から、感度が高く、高度に特異的であり、広い範囲の癌の種類におしなべて適用することができ、そして、臨床上有用な結論に至るまでに必要な利用者の技量および解釈が最小限で済むような、癌細胞検出のためのあいまいでなく費用対効果の高い方法が求められている。また、そのような方法は、検出された癌の侵襲能力を決定するという点で、予後のものであることも望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の概要)
本発明の態様は、細胞同士の相互作用および/または細胞と細胞のマトリックス材料との相互作用を評価するための装置および方法に関する。そのような相互作用に起因して形成される細胞分布のパターンが、一種または複数種の特定の細胞の侵襲能力を示し得る。さらに、そのような装置および方法は、侵襲性の細胞が転移する優先的な部位を示すことができ、そのような細胞に適用される抗癌剤の有効性を示すことができ、そして、腫瘍の増殖または転移を促進または増強する薬剤の可能性(能力)を示すことができる。
【0012】
本発明は、種々の種類および特徴の細胞と、異なる種類および厚みの細胞外マトリックスおよび/または種々のマトリックス材料との間における相互作用の解明に基づいている。本発明の態様には、癌の検出、診断および特徴付け、さらには、抗癌剤および抗癌治療の有効性の評価を可能にする装置および方法、癌を促進および増強する薬剤候補の評価を可能にする装置および方法、並びに、細胞の増殖、分化および遺伝子発現の研究における装置および方法がある。具体的に、本発明は、蛋白質および/または他のマトリックス材料からなる下地層の性質および厚みの関数として細胞の増殖および細胞の形態の評価を可能にする装置からなり、さらに本発明は、癌の検出、診断および特徴付け、薬剤の発見および評価、癌を促進または増強する活性についての薬剤のスクリーニング、並びに、細胞生物学の領域における研究および調査を目的とした、そのような装置を使用するための方法からなる。
【0013】
本発明の態様には、細胞を評価するための装置があり、該装置は、マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材を含み、ここで、一領域内の該マトリックス材料は、(a)評価すべき細胞が該領域のマトリックス材料に入り込んで該材料を再形成することがない厚みAであるか、(b)評価すべき細胞が該領域のマトリックス材料に入り込んで該材料を再形成することが可能である一方、該細胞が該材料中に埋め込まれることを可能にしない厚みBであるか、(c)評価すべき細胞が、該領域のマトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることが可能である厚みCであるか、または(d)それらの組合せである。本発明のある局面において、厚みAは50ミクロン未満であり、厚みBは50〜100ミクロンであり、厚みCは100ミクロンを超えるものである。該マトリックス材料は、細胞外蛋白質および/またはその他のマトリックス材料からなることができる。ある態様において、該マトリックス材料は、蛋白質性成分(例えば、ラミニン、コラーゲン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、一以上の生物組織から分離された細胞マトリックス材料、またはそれらの組合せ)を含む。該装置の一以上の細胞増殖領域は、塗布、タンポ(tampo)印刷、転写印刷、スクリーン印刷、インクジェット沈着、リソグラフィーのリフトオフ(lift off)法、エンボス加工、ソフトリソグラフィー、成形、キャスティング、エッチングと充填(ダマスク模様づけ)、またはそれらの組合せにより、形成することができる。一以上の細胞増殖領域は、基材もしくは支持材料の表面に形成することができ、または、基材もしくは支持材料のくぼみまたは穴の中に形成することができる。該方法によって評価すべき細胞は、ヒトの細胞とすることができ、特に、癌性または病理学的に過剰増殖性の可能性があるヒトの細胞とすることができる。該装置は、基準としてのフィブロネクチンからなる一以上の基準領域をさらに含んでもよく、該領域に対して、他のマトリックス材料からなる細胞増殖領域上での細胞増殖によって形成されるパターンが比較される。
【0014】
ある態様において、細胞を評価するための装置は、マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材を備え、一以上の細胞増殖領域は厚みが異なっている。種々の態様において、該一以上の細胞増殖領域は、連続的な態様で厚みが異なっている。本発明のある局面において、一以上の細胞増殖領域の厚みは、(i)細胞が該マトリックス材料に付着して該マトリックス材料上で増殖することを可能にするのに十分である一方、(ii)該細胞が該領域のマトリックス材料に入り込んで該材料を再形成することを可能にするのに不十分である最小限の厚みから、該細胞が該領域のマトリックス材料に入りこみ、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な最大厚みまで、変わる。細胞増殖領域の厚みは、50ミクロン未満から、500ミクロン以上まで、変わることができる。ある好ましい態様において、細胞増殖領域を含むマトリックス材料は、ラミニン、コラーゲン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、一以上の生物組織から分離された細胞マトリックス材料、またはそれらの組合せである。一以上の細胞増殖領域は、塗布、タンポ印刷、転写印刷、スクリーン印刷、インクジェット沈着、リソグラフィーのリフトオフ法、エンボス加工、ソフトリソグラフィー、成形、キャスティング、またはエッチングと充填(ダマスク模様づけ)により、形成することができる。該一以上の細胞増殖領域は、基材の表面に形成することができ、または、基材のくぼみまたは穴の中に形成することができる。評価すべき細胞には、ヒトの細胞があるが、それに限定されるものではない。本発明の装置は、フィブロネクチンからなる一以上の基準領域を含んでもよく、該領域に対して、マトリックス材料からなる該細胞増殖領域上での細胞増殖によって形成されるパターンが比較される。
【0015】
本発明の他の態様には、細胞の侵襲能力を決定するための方法があり、該方法は、(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に評価すべき細胞を配置すること、(b)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で一以上の細胞増殖領域上にある該細胞をインキュベートすること、(c)一以上の細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを識別または特定すること、および(d)該細胞のパターンを解釈して該細胞の侵襲能力を決定することを包含する。ある態様において、一以上の細胞増殖領域の少なくとも一部は、該細胞が該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みのものである。該方法は、一以上の細胞増殖領域上で増殖させられる細胞を、(e)細胞透過性化剤(permeabilizing agent)、(f)エンドヌクレアーゼALU、ヌクレアーゼ(例えばDNase(デオキシリボヌクレアーゼ))またはその両方、および(g)核酸染料で処理することをさらに備えてもよい。評価すべき細胞は、侵襲性の細胞、侵襲性細胞であることが疑われるもの、および/または非侵襲性の細胞の混合物とすることができる。ある態様において、評価すべき細胞を、MSP I酵素で処理することができ、その後、核酸染料(例えば臭化エチジウム)にさらすことができる。
【0016】
本発明のある局面において、マトリックス材料からなる一以上の領域の少なくとも一部は、該細胞が該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みのものである。該方法は、一以上の細胞増殖領域上で増殖させられる細胞を、(e)細胞透過性化剤、(f)エンドヌクレアーゼALU、ヌクレアーゼDNase、またはその両方、および(g)核酸染料で処理することをさらに備えてもよい。ある局面において、評価すべき細胞を、MSP I酵素で処理することができ、その後、核酸染料(例えば臭化エチジウム)にさらすことができる。
【0017】
本発明の他の局面において、細胞の該混合物は、ここに記載するとおり、一以上の細胞増殖領域上で増殖させられた正常なまたは非侵襲性の細胞の層の上に配置される。種々の態様において、一以上の細胞増殖領域の少なくとも一部は、該侵襲性細胞が該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みのものである。該方法は、細胞の該混合物を、(e)細胞透過性化剤、(f)エンドヌクレアーゼALU、DNase、またはその両方、および(g)核酸染料で処理することをさらに備えてもよい。ある局面において、評価すべき細胞を、MSP I酵素で処理することができ、その後、核酸染料(例えば臭化エチジウム)にさらすことができる。
【0018】
本発明の態様には、侵襲性の細胞が転移する可能性のある組織または器官の部位を特定するための方法があり、該方法は、(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に評価すべき侵襲性細胞を配置すること(ここで、該マトリックス材料は、そこに該侵襲性細胞が移動し得る組織または器官から得られるものであるかまたは該組織または該器官に由来するものである)、(b)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で一以上の細胞増殖領域上にある該侵襲性細胞をインキュベートすること、(c)一以上の細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを識別または特定すること、および(d)該細胞のパターンを解釈して侵襲性細胞が転移し得る組織または器官の部位を決定することを包含する。ある局面において、該細胞増殖領域の少なくとも一部は、該細胞が該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みのものである。該方法は、該細胞を、(e)細胞透過性化剤、(f)ALUエンドヌクレアーゼ、DNaseまたはその両方、および(g)核酸染料で処理することをさらに備えてもよい。ある局面において、評価すべき細胞、組織または器官を、MSP I酵素で処理することができ、その後、核酸染料(例えば臭化エチジウム)にさらすことができる。
【0019】
さらなる態様は、抗癌の化合物、薬剤または医薬組成物としての有効性について、化合物、薬剤または医薬組成物をスクリーニングするための方法を含むことができ、該方法は、(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に癌性の細胞もしくは前癌性の細胞を配置すること、(b)該癌性の細胞もしくは前癌性の細胞を、評価すべき化合物、薬剤または医薬組成物で処理すること、(c)該癌性の細胞もしくは前癌性の細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で一以上の細胞増殖領域上にある該癌性の細胞もしくは前癌性の細胞をインキュベートすること、(d)一以上の細胞増殖領域上にある該癌性の細胞もしくは前癌性の細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを識別または特定すること、および(e)該細胞のパターンを解釈して該化合物、薬剤または医薬組成物の該癌性の細胞もしくは前癌性の細胞に対する効果を判定することを包含する。ある局面において、一以上の細胞増殖領域の少なくとも一部は、該細胞が該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みのものである。該方法は、抗癌剤または抗癌医薬組成物の有核細胞または除核細胞(サイトプラスト)に対する有効性を評価することを含んでもよい。該方法は、該癌性の細胞もしくは前癌性の細胞を、(f)細胞透過性化剤、(g)ALUエンドヌクレアーゼ、DNaseまたはその両方、および(h)核酸染料で処理することをさらに備えてもよい。ある局面において、評価すべき細胞を、MSP I酵素で処理することができ、その後、核酸染料(例えば臭化エチジウム)にさらすことができる。
【0020】
さらに他の態様が意図するところは、抗癌の薬剤または医薬組成物の有効性を判定するための方法であって、該方法は、(a)細胞マトリックス材料からなる細胞増殖領域を有する基材上に、評価すべき抗癌の薬剤または医薬組成物で処理された癌性の細胞もしくは前癌性の細胞を配置すること、(b)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で該細胞増殖領域上にある該細胞をインキュベートすること、(c)該細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを識別または特定すること、および(d)該細胞のパターンを解釈して該抗癌の薬剤または医薬組成物の該細胞に対する効果を判定することを包含する。ある局面において、該細胞マトリックス材料の少なくともある部分は、該細胞が該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みのものである。抗癌の薬剤または医薬組成物の有核細胞または除核細胞(サイトプラスト)に対する効果を評価することができる。該方法は、該癌性の細胞もしくは前癌性の細胞を、(f)細胞透過性化剤、(g)ALUエンドヌクレアーゼ、DNaseまたはその両方、および(h)核酸染料で処理することをさらに備えてもよい。ある局面において、評価すべき細胞を、MSP I酵素で処理することができ、その後、核酸染料(例えば臭化エチジウム)にさらすことができる。
【0021】
さらに他の態様には、細胞において癌性の作用を誘発、促進または強化する化合物を検出するための方法があり、該方法は、(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に正常なまたは非侵襲性の細胞を配置すること、(b)該細胞を、評価すべき化合物で処理すること、(c)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で一以上の細胞増殖領域上にある該細胞をインキュベートすること、(d)該細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを識別または特定すること、および(e)該細胞のパターンを解釈して該化合物が該細胞において癌性の作用を誘発、促進かつ/または強化するかどうか決定することを包含する。ある局面において、一以上の細胞増殖領域の少なくともある部分は、該細胞が該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みのものである。該方法は、癌性の細胞もしくは前癌性の細胞を、(f)細胞透過性化剤、(g)ALUエンドヌクレアーゼ、DNaseまたはその両方、および(h)核酸染料で処理することをさらに備えてもよい。ある局面において、評価すべき細胞を、MSP I酵素で処理することができ、その後、核酸染料(例えば臭化エチジウム)にさらすことができる。
【0022】
本発明の態様は、細胞において癌性の作用を誘発、促進または強化する化合物を検出するための方法を含み、該方法は、(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に、評価すべき化合物で処理された正常なまたは非侵襲性の細胞を配置すること、(b)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下でマトリックス材料の一以上の領域上にある該細胞をインキュベートすること、(c)一以上の細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを識別または特定すること、および(d)該細胞のパターンを解釈して該化合物が該細胞において癌性の作用を誘発、促進または強化するかどうか決定することを包含する。ある局面において、一以上の細胞増殖領域の少なくともある部分は、該細胞が該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みのものである。抗癌の薬剤または医薬組成物の有核細胞または除核細胞(サイトプラスト)に対する有効性を評価することができる。該方法は、癌性の細胞もしくは前癌性の細胞を、細胞透過性化剤、ALUエンドヌクレアーゼ、DNaseまたはその両方、および核酸染料で処理することをさらに備えてもよい。ある局面において、評価すべき細胞を、MSP I酵素で処理することができ、その後、核酸染料(例えば臭化エチジウム)にさらすことができる。
【0023】
本発明のさらなる態様において、本発明の装置および方法は、難治性で侵襲性の癌に対する治療薬の有効性をインビトロで評価するのに用いることができる。そのような装置において、薄いマトリックス上で増殖する細胞が、厚いマトリックス上で増殖する細胞に対し、手順の対照として働くよう、薄いマトリックスの層と厚いマトリックスの層を並列することが都合がよい。細胞外マトリックスの薄い層および厚い層の上で、患者または他の起源からの癌細胞を、該厚いマトリックス上にある細胞によって腫瘍巣が形成される時点まで、増殖させる。次いで、該細胞を、(典型的に細胞増殖培地に該治療薬を添加することにより)治療薬にさらし、そして、そのさらした結果を観察する。有効な薬剤は、薄いマトリックス上で増殖させられる細胞すべてに付着し、そして、厚いマトリックス上で腫瘍巣を形成する細胞集塊中に浸透する。有効性は、薬剤浸透の増加と相関する。治療薬に長くさらすことで、壊死および/またはアポトーシスの徴候について腫瘍巣を観察することにより、有効性のさらなる証拠を得ることができる。治療薬で処理した細胞を、ここに記載する態様でヌクレアーゼ(例えばALUまたはDNase)にさらすことにより、有効性のさらなる目安を得ることができる。
【0024】
本発明のさらなる態様において、本発明の装置および方法を使用し、薄いマトリックスおよび厚いマトリックスの上、または厚みに傾斜が設けられたマトリックスの上で、細胞を増殖させる。薄いマトリックスおよび厚いマトリックスの上で増殖させられた細胞は、別々に採集される。採集は、機械的に行うことが好ましい。化学的方法(例えばEDTAやEGTAのようなキレート剤による処理、または、そのような目的に通常使用されるトリプシンのような蛋白質分解酵素による処理)の使用に伴い得る不都合な結果を回避するためである。次いで、薄いマトリックスおよび厚いマトリックスから採集された細胞を、「遺伝子アレイ」チップ(例えば、Affymetrix II Microarray(Affymetrix))に適用するため、別々に準備する。次いで、これらのチップから得られたデータを、好ましくは両側T検定、相関分析または類似の方法を用いて、解析し、薄いマトリックスおよび厚いマトリックスの上で増殖させられた細胞間で発現が異なる特定の遺伝子を特定または識別する。本発明の方法は、細胞の表現型を調節するための治療法または治療上のターゲットを特定または識別することを含む。該表現型は、老化の表現型または侵襲性の表現型とすることができる。望ましい表現型は、望ましい治療効果に基づく。例えば、侵襲性の表現型は、ある特定の治療法により敏感であり得る一方、老化の表現型は、その治療法に耐性であり得るが、転移の確率は下がる。転移を最小限に抑えることは、手術または他の癌治療法とともに用いることができる。
【0025】
本発明の態様は、抗癌剤候補の有効性を評価することができる腫瘍の組織および/または細胞の標準化したパネルの解析に用いるためのさらなる方法を含む。そのようなパネルのあるものは、患者の腫瘍から摘出された生きた組織からなり、一方、そのようなパネルの他のものは、基質上または懸濁物中で増殖させられた腫瘍の培養細胞を含む。本発明の装置および/または方法を用いて、一つまたは複数の必要な種類の腫瘍細胞を増殖させることにより、改良された腫瘍パネルを構築することができる。ある局面において、該腫瘍パネルは、インビボの腫瘍増殖が起こる環境により近いものであり、従って、抗癌剤の有効性のより実際的な評価をもたらす。そのような改良されたパネルは、腫瘍組織を含むパネルよりも、明確で管理された環境を提供するため、比較評価を容易にする。薄いマトリックス上で増殖させられた侵襲性の腫瘍細胞は、厚いマトリックス上で増殖させられた同じ細胞よりも、典型的に、抗癌剤の作用に対してより感受性である。従って、薄いマトリックス上で増殖させられる侵襲性細胞に対し試験された薬剤の見かけの有効性は、人為的に上昇させられる。逆に、厚いマトリックス上で増殖させられた腫瘍の侵襲作用は、薄いマトリックス上で増殖させられた同じ細胞の侵襲作用よりも小さくなり得る。これは、試験される薬剤の有効性を覆い隠し得る。本発明で具体化される態様において、薄いマトリックスおよび厚いマトリックスの両方で増殖させられた細胞を対照材料として用いれば、より正確な試験を行うことができる。
【0026】
さらなる態様において、方法は、細胞をまず固体の基質に移すことを要するよりも、液体の懸濁物において試料細胞を直接利用することを含む。この方法は、細胞を培養することを含み、該細胞は、患者の試料に由来するものであってもよいし、由来しないものであってもよい。細胞が、単層培養において増殖させられるか、または、生検試料または他の腫瘍試料中に含まれる場合、該細胞を機械的に採集してもよい。細胞は、遠心分離によりペレットにされる。該細胞ペレットは、適当な緩衝液中に再懸濁され、室温で適当な時間インキュベートされ、遠沈され、そして、再懸濁される。この懸濁物のアリコートにヨウ化プロピジウムが添加される。Alu I制限酵素が、残りの細胞懸濁物に添加され、調製物は37℃でインキュベートされる。この混合物のアリコートが、種々の時間(例えば、ALUの添加後、0時間(ベースライン)、1時間、3時間、および5時間)において、評価のために取り出される。ヨウ化プロピジウムが、消化された試料のそれぞれに添加される。得られる消化されかつ染色された細胞懸濁物は、FACS分析または類似する分析法を用いた標準的な方法により、分析される。細胞懸濁物のアリコートは、透過性化後、PIで処理することができるが、ALUで消化されていないものは、処理開始の前に細胞調製物のそれぞれに存在するDNAの量について、対照として役立つ。
【0027】
意図するところによれば、ここに記載される任意の方法または組成物は、ここに記載される任意の他の方法または組成物に対して、実施することができる。
【0028】
請求項および/または本明細書において、用語「Comprising(含む、備える、または包含する)」とともに用いるとき、「a」または「an」(「一つの」または「ある」)の語の使用は、「one(一つの)」を意味し得るが、それはまた、「一(つ)以上の」、「少なくとも一つの」および「一つまたは一つより多い」の意味とも合致する。
【0029】
明細書の開示が、どちらかのみおよび「および/または」を指す定義を支持しているとしても、どちらかのみであるかまたは選択すべきものが互いに両立しないことを明示しない限り、請求項において用語「または(or)」は、「および/または(and/or)」を意味するよう用いられる。
【0030】
本発明の他の目的、特徴および効果は、以下の詳細な説明から明らかになる。ただし、当然のことながら、詳細な説明および具体例は、本発明の特定の態様を示すものである一方、単なる例示のために提供されるものであり、本発明の精神および範囲内において、種々の変更および修飾が可能であることは、この詳細な説明から当業者に明らかなことである。
【0031】
(図面の簡単な説明)
以下の図面は、本明細書の一部をなし、本発明の特定の局面をさらに説明するものとして含まれる。本発明は、ここに示す特定の態様の詳細な説明と併せてこれらの図面の一以上を基準することにより、さらに理解を深めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(具体的態様の説明)
本発明の態様は、ここに記載するように、現在の診断用装置、組成物および方法の種々の限界に取り組むものである。本発明は、細胞の侵襲性を検出かつ/または決定(判定)するための、そして、細胞の侵襲性の程度を識別するための、組成物、方法および/または装置に関する。ある態様において、本発明は、細胞同士の相互作用および細胞とマトリックス材料との相互作用を評価するための装置および方法に関し、そこにおいて、そのような相互作用の結果として形成される細胞分布のパターンが、該細胞の一つまたは複数の侵襲能力の指標となり、あるいは、細胞混合物、組織、器官、または他の生物学的試料における一種以上の細胞の一つまたは複数の侵襲能力の指標となる。さらに、そのような装置および方法は、侵襲性の細胞が転移する優先的な部位を示すことができ、そのような細胞に適用される抗癌剤の有効性を示すことができ、そして、腫瘍の増殖または転移を促進または増強する薬剤の可能性を示すことができる。
【0033】
本発明とは対照的に、癌性細胞の研究に使用される細胞培養の現行法は、懸濁物中の細胞増殖に基づくものであり、固体支持体上の単層として、超集密(ハイパー・コンフルエント)増殖に耐えるものではない。慣例に従って行う場合、懸濁培養は、細胞同士の相互作用を介する細胞の他の細胞への付着だけを主に可能にする。そのような条件下において、侵襲能力の低い正常細胞または癌細胞は、孤立した細胞を含む懸濁物を形成する傾向にある一方、同様の条件下で培養された攻撃性の高い癌細胞は、顕著なサイズ(数ミリメートルの直径)の細胞集合体を形成し得る。
【0034】
単層細胞培養は、細胞同士の相互作用と、細胞と基質との相互作用の両方を可能にする。単層細胞増殖を促進するため、慣例として、厚みがほぼ数百ナノメートル程度の血清蛋白質の層を固体支持体に吸着させる。この蛋白質層は、細胞の固体支持体への付着を容易にする一方、細胞に対してごくわずかの厚みを有するため、付着した細胞を単一の面に制限する。そのような条件下で、観察される細胞増殖パターンは、増殖させられる細胞の種類に特有のものとなる傾向にある。あまり一般的に使用されていないアプローチであるが、その代わりとなるものとして、Chemicon International(Temecula,CA)により市販される「In−Vitro Angiogenesis Assay Kit(インビトロ新脈管形成キット)」に例示されるものがある。このアプローチにおいて、細胞は、微生物細胞培養に類似する態様で、ゲル状細胞培養培地の比較的厚い(典型的に1mmを超える)層上に増殖させられる。言及した新脈管形成アッセイで使用されるようないくつかの種類の細胞は、ゲルの表面で増殖する一方、他の細胞は、ゲルの中に入り込みゲル内で増殖し得る。やはり、観察される増殖パターンは、細胞の種類によって変わる傾向にある。
【0035】
細胞は、種々の種類の細胞表面蛋白質(例えば「インテグリン受容体」)を通じて、お互いに相互作用し、そして、細胞外マトリックスと相互作用することが知られている。細胞は、その細胞骨格に機械的張力を生じさせることができ、そして、その張力が、細胞と細胞外マトリックスとの間に働くけん引力をもたらし得ることがさらに知られている。これらの力を調節すれば、細胞の形を変えることができ、そして、細胞を増殖と分化の間で切り替えることができる。この切り替え作用は、細胞内の機能(例えば遺伝子発現および細胞周期進行)と同様に、細胞表面と細胞外マトリックスの機械的相互作用の間に、ある関係が存在することを示唆している。本発明に係る一つの所見は、細胞表面のインテグリン受容体に人為的にかけられる機械力によって、生物学的条件下で見られるものと同じような、核および細胞質の細胞形態の速やかな変化がもたらされる点で、上記関係に対し意義深い機械的要素が存在すると考えられることである。
【0036】
本発明に係るもう一つの所見は、細胞の形態およびその集合体の形態は、細胞が接触する細胞外マトリックスの性質および厚みに、制御されるとまではいわないにせよ、強く影響されるということである。このことに付随する所見として、この影響は細胞が癌性であるか否かによって変わってくること、この影響は細胞の侵襲性の程度によって変わってくること、そして、この影響は問題となる細胞に接触し得る他の細胞によって変わってくることがある。これらの同じ形態変化の多くは、除核細胞(サイトプラスト)によって再現されるということがさらに認められた。
【0037】
本発明において、明らかにされたことは、厚みが上述した厚みの中間である細胞外マトリックスの層上で増殖する細胞は、その細胞の種類に比較的関係のない細胞増殖パターンをもたらす一方、該細胞の侵襲能力に強く依存する細胞増殖パターンをもたらすということである。この目的のため、三つの異なる厚みの形態を規定することができる。固体支持体上に吸着させられた血清蛋白質(例えば、細胞外マトリックス蛋白質コラーゲンおよびラミニンがあるが、それらに限定されない)の層は、典型的に、数百ナノメートル未満の厚みである。そのような層の上で増殖させられる細胞は、該層に入り込まないと考えられ、また、そこに存在する細胞外マトリックス蛋白質を再形成することもないと考えられる。厚みが50ミクロンを超えるが100ミクロン未満である細胞外マトリックス(薄いマトリックス)の層上で増殖させられる細胞は、マトリックス蛋白質の該層の中に入り込むことができ、該層を再形成することができる一方、その中に組み込まれない。約100ミクロンを超える厚みの層において、細胞は、該マトリックス蛋白質に入り込むことができ、該マトリックス蛋白質を再形成することができ、そして、該マトリックス蛋白質中に埋め込まれることができる。
【0038】
正常な脈管形成内皮細胞の特異的な例を除いて、侵襲能力の低い正常細胞および癌細胞は、厚みが50ミクロン未満から1000ミクロンを超える範囲にある細胞外マトリックスの層または固体支持体に吸着させられた血清蛋白質の上で、集密に至らない密度で増殖させられるとき、少数の細胞を含む集塊を形成する。これらの細胞は、飽和濃度の細胞増殖因子の存在下または低酸素条件下において増殖させられた場合においても、細胞分布の識別可能なパターンを示さない。吸着させられた血清蛋白質上で集密になる密度まで増殖させられた正常な脈管形成上皮細胞は、特徴的な「丸石」状の単層を形成する。これらの正常な内皮細胞は、薄いマトリックス上で増殖させられるとき、特徴的な索状構造物を形成し、厚いマトリックス上で増殖させられるとき、それらの索のネットワーク(網状組織)を形成する。これらの脈管形成索の形成は、血管形成の前駆体として知られており、抗脈管形成剤(例えば、薬剤TNP−470(フマギリンの誘導体))を培養培地に添加することにより、妨げられる。
【0039】
同様に、侵襲性の高い癌細胞も、吸着血清蛋白質上で集密に近い密度まで増殖させられるとき、識別可能なパターンをもたない集合体を形成する。しかし、そのような集合体は、正常細胞および/または非攻撃性癌細胞を同じ条件下で増殖させるときに見られるものより、大きくなる傾向にある。薄いマトリックス上で増殖させられるとき、攻撃性の癌細胞は、索状構造物を形成し、それは、類似の条件下で正常な内皮細胞によって形成される構造と外観が似ている。これらの索は、作り変えられたマトリックス蛋白質に囲まれる癌細胞の群からなり、短い距離、液体を導くことができる。しかし、それらは脈管形成性ではない。というのも、その形成は、培養培地に抗脈管形成剤を添加することによって阻害されず、また、それらが血管に成熟し得るとする証拠はないからである。そのような索は、「脈管形成の模倣」を示すものとして説明される。厚いマトリックス上で、攻撃性の癌細胞は、高度に作り変えられたマトリックス蛋白質の複雑な網状組織中に組み込まれた、そして、該網状組織に囲まれた、腫瘍細胞を含む(長)球状〜円筒状の腫瘍「巣」を形成する。該マトリックス層の面に垂直に見ると、これらの巣は、腫瘍細胞と細胞外マトリックスとの混合物を含む特徴的な「ルーピング」パターンによって縁取られた細胞集塊として見える。類似のルーピングパターンが、腫瘍の生検標本に見られ、また、高度に侵襲性で転移性の癌の存在と相関していた。
【0040】
癌細胞によって形成される該パターンは、侵襲能力について細胞種が異なる程度を除いて、細胞の種類にほぼ無関係である。細胞の増殖に必要な範囲内で、これらのパターンは、種々の細胞増殖因子、酸素圧力、および細胞培養法に関係する同様の因子とも無関係である。正常細胞および非攻撃性の癌細胞によってもたらされるパターンは、攻撃性の癌細胞によって生産される可溶性因子によって影響されない。以下に述べる特定の範囲内において、正常細胞、非攻撃性細胞および/または攻撃性細胞の混合培養物における各亜集団は、混合物における他の細胞種と無関係に増殖し、パターンを形成する。本発明の範囲内で、明らかにされたことによれば、評価されたすべてのマトリックス蛋白質のうち、フィブロネクチンおよび高度に変性されたI型コラーゲンだけが、侵襲性細胞に特有の増殖パターンの形成に対応せず、また、それらのマトリックス上で増殖させられる細胞のクロマチンは、DNaseのようなヌクレアーゼによる消化から保護されない。このため、これらのマトリックス材料は、特に複数種のマトリックス材料が使用される薬剤評価のような用途において、「負」の対照として用いることができる。マトリックス材料には、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、硫酸プロテオグリカン、フィブリン、エラスチン、テナシン(テネイシン)、またはそれらの組合せがあり得るが、それらに限定されるものではない。マトリックスを形成するための種々の材料が、当該技術において知られており、それらは、本発明とともに用いることができる。
【0041】
厚いマトリックス上または組織において癌がルーピングパターンを形成する傾向(性向)と、腫瘍の転移による好ましくない予後または結果との間には、強い臨床的相関関係が成立した。これに関連して、注目すべき重要なことは、そのようなルーピングパターンを形成する攻撃的癌の能力は、癌と細胞外マトリックスの両方の種類に依存するということである。例えば、黒色腫の転移性の表現型は、コラーゲン(原発腫瘍形成の典型的な部位における細胞外マトリックスの主成分)の厚い層においてルーピングパターンを容易に形成し、また、肝臓(黒色腫の転移の優先的な部位)に由来する細胞外マトリックスの厚い層においても、ルーピングパターンを容易に形成する一方、骨(黒色腫転移の二次的部位)に由来する細胞外マトリックスの厚い層においては、それほど容易にルーピングパターンを形成することはない。同様に、前立腺癌(それは最初に骨に転移する)の転移性表現型は、この種のマトリックスにおいて容易にルーピングパターンを形成する。反対に、乳癌(コラーゲンに富む部位に通常転移しない)は、厚いコラーゲン層においてルーピングパターンを形成しない。すなわち、ルーピングパターンの形成を支持するマトリックス種は、転移性癌がターゲットとする部位を示唆する。今日まで、いかなる種類の癌についても、厚いフィブロネクチンマトリックス上にルーピングパターンを形成するよう誘導できなかったことは、妥当なことである。この知見の臨床的意味はこれから調べる必要があるが、細胞外マトリックス上での細胞パターンの形成に基づくアッセイのため、フィブロネクチンを負の対照として利用できると考えられる。
【0042】
本発明の関連する局面は、正常細胞、侵襲性が最小限の細胞、および侵襲性が高い細胞の混合物を、同じ薄いまたは厚いマトリックス上でともに増殖させるとき、実証することができる。具体的には、正常細胞と侵襲性が最小限の細胞とは、長時間接触した状態で共存できる一方、侵襲性の高い細胞は、正常細胞および侵襲性が最小限の細胞に対して、高度に細胞毒性でありかつ細胞溶解性であり、典型的な細胞培養条件下において1時間以内の接触で、そのような細胞を死滅させる。この作用は、細胞と細胞が接触する条件下においてのみ示される。すなわち、侵襲性の高い細胞は、それが接触する正常細胞および侵襲性が最小の細胞を溶解し、死滅させるが、物理的に接触していないそのような細胞には、明らかな作用を及ぼさない。例えば、腫瘍の標本から得られる細胞の懸濁物を、薄いマトリックス上で増殖する正常細胞の層の上に塗布すると、腫瘍に由来する攻撃的な細胞が存在するところでは、正常細胞の層が侵され溶解されるが、正常細胞および/または非侵襲性の腫瘍細胞が存在するところでは、そうならない。このような細胞と細胞の接触による効果は、本発明を用いて検出しかつ評価することができる。
【0043】
本発明は、化合物(例えば抗癌剤)を有効性についてスクリーニングするのに用いることができ、また逆に、癌の攻撃性を促進または増強するその能力について薬剤をスクリーニングするのに用いることができる。前者の場合、評価すべき化合物または薬剤で攻撃性癌細胞を処理し、その後、該細胞を厚いマトリックス上で培養し、該薬剤の処理によってルーピングパターンの形成が抑制されるかどうか判定する。逆に、細胞攻撃性を促進または増強することが疑われる薬剤は、マトリックス上の正常細胞または侵襲性が最小限の細胞を該薬剤で処理し、得られる細胞パターンの変化を観察することにより、評価することができる。同様に、本発明は、抗癌剤または対象とする薬剤の作用が、核のレベルで働いているかどうかかつ/または細胞質のレベルで働いているかどうか調べるため用いることができ、それは、試験用の該抗癌剤または薬剤で適当な種類の細胞を処理することによりできるパターンと、同じ種類の細胞から調製されたサイトプラストまたは除核細胞を同じ抗癌剤または薬剤で処理することによりできるパターンとを比べることにより行われる。
【0044】
本発明の他の局面は、正常細胞、侵襲性が最小限の細胞、および侵襲性が高い細胞を区別するため、種々の厚みの細胞外マトリックス上に形成される形態学的パターンに基づくものであり、細胞核も遺伝子転写も必要としないものである。特に、正常細胞種および侵襲性が最小限の細胞種を除核することによって得られるサイトプラスト(細胞質体)は、細胞外マトリックスの層上に播種されるとき、サイトプラストの孤立した集塊を形成する。一方、攻撃性の細胞から得られるサイトプラストは、索状構造物を形成し、これは、薄いマトリックス上の無傷の攻撃性細胞によって形成される構造とよく似たものであった。しかし、除核された侵襲性の高い細胞が、厚いマトリックス上でルーピングパターンを形成することは確認されていない。
【0045】
係属中の特許出願番号10/862235号(2004年6月7日出願)(名称:「Quantitative Chromosome Stability Assay」(定量的染色体安定性アッセイ)、その内容はこの引用によりそっくり本明細書に記載されたものとする)は、エンドヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ、および/またはプロテアーゼとの組合せによる消化に対するクロマチンの感受性の違いに基づいて、正常細胞と癌性細胞とを区別するための方法を記載する。特に、ヌクレアーゼであるDNaseは、透過性化された正常細胞および非侵襲性細胞にあるクロマチンを優先的に分解する一方、侵襲性細胞内のクロマチンをほぼ無傷のまま残す。このアッセイに使用される細胞は、懸濁培養物中で増殖させることができ、あるいは、吸着血清蛋白質で被覆された固体支持体上で単層培養物として増殖させることができる。
【0046】
DNase消化に対する細胞クロマチンの感受性は、基材に吸着させた血清蛋白質上においてまたは懸濁物においてその他は同じ条件下で増殖させた細胞と比べて、細胞外マトリックス上で増殖させた細胞において、さらに減少する。本発明において、マトリックス上のまたはマトリックスから離れた正常細胞と侵襲性細胞とを識別するため、この違いが増した感受性を利用することができる。例えば、トリトンX−100で透過性化された細胞をDNaseで1時間処理すると、血清蛋白質上の正常細胞および侵襲性細胞におけるクロマチン並びにマトリックス上の正常細胞におけるクロマチンは、分解されるが、マトリックス上で増殖させられる侵襲性細胞のクロマチンは、無傷のまま残る。DNaseの濃度や露出時間のような条件を調節することにより、より細かい区別が可能になり、例えば、マトリックス上で分解耐性の索状構造物を形成する侵襲性が中位の細胞と、腫瘍巣およびルーピングパターンを形成するさらにより分解耐性である侵襲性の高い細胞との区別が可能になる。この特徴は、特に、その後の処理(透過性化され、DNaseで消化された細胞の核酸染料(例えば、臭化エチジウム、ドキソルビシン、またはビスベンズアミド)による処理などがあるが、これらに限定されるものではない)と組み合わせることにより、本発明によって形成される細胞パターンを把握して評価する際、顕著なSN比の増加をもたらす。
【0047】
正常細胞/非侵襲性細胞と侵襲性細胞との間で認められるクロマチン安定性(ヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼ、および/またはプロテアーゼとの組合せによる消化に対する安定性)の違い、並びに、血清蛋白質上で増殖させられる細胞とマトリックス上で増殖させられる細胞との間で認められる該クロマチン安定性の違いは、クロマチンの隔離(封鎖)および遺伝子発現の顕著な違いがこれらの細胞種と増殖条件によるものであることをはっきりと示している。これと同じ結論を示すもう一つの指標は、「遺伝子アレイチップ」を用いる遺伝子発現の評価に基づくものである。二つの表現型の間で遺伝子発現を比較すると、1081の相違点が明らかとなり、吸着血清蛋白質上で増殖させられたM−619細胞と比べて、マトリックス上で増殖させられたM−619細胞では546の遺伝子がアップレギュレーションされ535の遺伝子がダウンレギュレーションされていた。正常細胞、侵襲性が最小限の細胞、および侵襲性細胞の間で、異なるマトリックス蛋白質の層上で増殖させられる細胞間で、そして、分離された細胞と他の細胞に接触している細胞との間で、発現パターンの別の変化を示すことができる。
【0048】
係属中の特許出願番号10/862235号(2004年6月7日出願)(名称:「Quantitative Chromosome Stability Assay」(定量的染色体安定性アッセイ)、その内容はこの引用によりそっくり本明細書に記載されたものとする)は、本発明とともに利用できる方法を開示する。この定量的染色体安定性アッセイは、特定のエンドヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ、およびプロテアーゼによる消化に対するクロマチンの感受性に基づくものであり、それは、クロマチンを含むまたは与える細胞の侵襲性の程度を反映するものである。
【0049】
本発明者らは、より侵襲性の細胞のゲノム全体にわたって、より高次のクロマチン構造のレベルで、メチル化が概して増加し得るという仮説を立てている。典型的に、MSP PCRを用いる特定の遺伝子のメチル化は、種々の会社(例えば、Serologicals Corporation(Norcross,GA)、OncoMethylome Sciences S.A.(Durham,NC)など)から入手可能なある範囲の分子「キット」によって検出される。例えば、Qiagen(Valencia,CA)は、いくつかの特異的プロモーターに対してメチル化−特異的PCR(MSP)を用いるため、MSP PCRを開発している。これらのプロモーターのメチル化−特異的PCR(MSP)は、説明書によれば、DNAのGCに富む領域におけるDNAメチル化パターンの正確なマッピングを可能にする。プロモーター領域の高メチル化が、ヒトの癌の腫瘍抑制遺伝子の不活性化においてしばしば決定的な要因であると考えられる。
【0050】
しかし、今日までに特定された多くの腫瘍抑制遺伝子は、リンケージ(連鎖)研究が可能であった家族性癌に限られて特定されたものであった。NCIの「癌発生率リスト」によれば、これらの癌の発生率は、すべての癌の約1%である。このことは、癌の99%において、メチル化を検出すべきマーカー遺伝子がないということを意味する。このことが主な理由となって、MSP PCRの産業界、研究者および専門家は、一致して、これからの課題は、リンケージ分析(連鎖分析)が可能でない主要な散発性の癌(例えば、散発性の乳癌、前立腺癌、膀胱癌、肺癌、および多くの他の癌)において重要な遺伝子を特定することであると考えている。腫瘍抑制遺伝子が特定されている家族性癌の中においても、多くの著者が、試験されるそのターゲット遺伝子を「推定腫瘍抑制遺伝子」と呼んでいる。
【0051】
これらの困難のため、本発明者らはアッセイを開発し、それは、溶解細胞モデルにおいて、フローサイトメトリーを用いるアッセイにおいて、また、パップテストに類似する塗抹標本において、通常の生理学的イオン条件の下、細胞群のクロマチン試験を用いるものである。この試験は、その遺伝子の隔離および露出が、ヒストン八量体またはトポイソメラーゼ(Maniotis et al.,1997;Bojanowski et al.,1998)のレベルのみならず、より高次のクロマチン構造(Karavitis et al.,2003;Maniotis et al.,2003)のレベルでも制御されている統合された機構単位としての細胞に基づくものである。Alu、Eco RI、Mbo、Hind−1、PST−1、並びに他の特異的および非特異的ヌクレアーゼおよびプロテアーゼの感受性を試験することにより、本発明者らは、細胞がその侵襲性作用を増すに従って、そして、細胞が特定のマトリックス分子およびマトリックス厚みと結びつくに従って、ジスルフィドに富む蛋白質が、特異的に、Alu配列を隔離(封鎖)するということを突き止めた。さらに、細胞は、その細胞骨格の組織(構成)に依存して、Alu配列を特異的に隔離(封鎖)する。
【0052】
MSP I消化に対する感受性または消化に対する非感受性を、侵襲性および転移性の作用を増加させている細胞内の核の一般化された性質として試験した。これらの研究の結果(以下に記載)は、メチル化部位の隔離または露出が、特定の推定される癌遺伝子または遺伝子配列のレベルのみならず、より高次のクロマチン折り畳みのレベルで起こることを示している。
【0053】
(I.マトリックス材料)
ある特定の細胞外マトリックス材料、例えば、コラーゲン、ラミニン、およびフィブロネクチンを、市販品として、種々のタイプ、形態、グレード、純度、および態様の調製物で入手可能であり、本発明の実施に用いることができる。その他の細胞外マトリックス材料を、当該技術において知られる方法(一般的な具体的方法として、米国特許第6372494号、第5830708号、および第5162114号参照(これらの内容は、この引用により本明細書に記載されたものとする))により調製することができる。マトリックス材料は、蛋白質性材料(例えば細胞外マトリックス材料)、および非蛋白質性材料、またはそれらの組合せを含み得る。マトリックス材料には、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン類、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、硫酸プロテオグリカン類、フィブリン、エラスチン、テナシン(テネイシン)、アクチン類、カドヘリン類、ICAM類/VCAM類、インテグリン類、キネシン類、メロシン類、微小管結合蛋白質、ミオシン類、神経フィラメント類、プロフィラクチン、プロフィリン類、プロネクチン、セレクチン、トロンボスポンジン類、トロポニン類、チューブリン、ビメンチン、ビトロネクチン、またはそれらの組合せがあるが、それらに限定されるものではない。マトリックス材料は、そこに配置される細胞を少なくとも物理的に支持し、そして、成長(増殖)のために、また、他の生存プロセスのために生理学的に支持し得る、マトリックス材料を指す。一例として、肝臓組織からの細胞外マトリックスは、以下のように調製できる。新鮮な肝臓組織を、氷冷脱イオン水または氷冷蒸留水で洗浄し、小さな(例えば1mm立方体)断片に刻み、0.02Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH=7.3(0.5mMのNaHPO、1.9mMのNaHPO、17.9mMのNaCl)中に懸濁し、ホモジナイズする。得られる懸濁液を4℃で5分間放置した後、2500×Gで15分間遠心分離にかける。肝臓細胞外マトリックス蛋白質を含む上澄みを、0.22ミクロン孔径のメンブレンフィルターでろ過することにより回収し、−4℃で保存する。他の組織(例えば、リンパ節、胸腺外皮、骨、脳、および肺などがあるが、これらに限定されるものではない)から、細胞外マトリックス蛋白質を、類似の方法および/または当該技術において知られる対応の方法を用いて分離することができる。
【0054】
(II.装置の製造)
本発明の実施に適する装置は、基材上または基材内に配置もしくは形成された所定の組成および厚みの材料からなる一以上の領域または区域で構成することができる。ある態様において、そのような装置は、基材上または基材内に配置または形成された材料からなる複数の領域または区域を含む。各領域は、同じ基材上の材料からなる一以上の他の領域と、同じまたは異なる組成および/または厚みを有することができる。ある場合、(複数の)該領域は互いに隣接することが望ましい。他の場合、該領域は、相隔たっているか、バリア(障壁)によって分割されていることが望ましい。
【0055】
顕微鏡用ガラスカバースリップは、平坦であり、平滑であり、厚みが均一であり、透明であり、かつ比較的不活性であるという利点、さらに、蛋白質および細胞を容易に結合し固定化できる表面化学を有するという利点があり、本発明の装置を調製するための一つの都合のよい基材を構成するものである。シリコンウエハ、および、特に適当な厚みに成長したまたは堆積された酸化物、窒化物または他のコーティングを有するシリコンウエハは、それが不透明で可視光をよく反射するという欠点を有するにもかかわらず、もう一つの適当な基材の材料である。同様に、ポリマー材料(例えば、充填剤、可塑剤または他の添加物を用いることなく調製され、該ポリマー中の未反応のモノマーおよび低分子量のオリゴマーの量が最小限に抑えられる条件下で製造されたバージンポリスチレンなどを含むが、これらに限定されるものではない)を、この目的に用いることができる。そのような基材の表面は、蛋白質の付着および他の特性を向上させるため、さらにコーティング、調整、改質、またはその他の処理を施すことができる。種々の態様において、3部の30%Hと7部の濃HSOの混合物のような製剤を用いることにより、ガラス表面を有機汚染物質のないものにすることができる。次いで、該表面をさらに処理して、金属汚染物質を除くことができ、また、3部の30%Hと7部の濃HCLまたは濃NHOHの混合物のような製剤を用いる処理によりガラス表面を疎水性または親水性の状態にすることができる。そのような表面は、シラン試薬(例えば、クロロ−ジメチル−アミノプロピルシラン)を用いる処理によりさらに修飾することができる。ポリマー表面は、ガスプラズマまたはコロナ放電処理などのような手段によって同様に調製することができる。記載した基材の材料および処理法は、例示を意味するものであって、網羅的または包括的なリストを構成するものではない。多数のそのような他の材料および方法が、当業者に知られており、そして、本発明の精神から逸脱することなく、本発明の実施に用いることができる。
【0056】
同様に、選択された基材上にまたは選択された基材に組み込んで、マトリックス蛋白質の領域または区域を配置または形成するため、多くの方法が存在し、当業者に知られている。上述したように、厚みが数百ナノメートルであるマトリックス蛋白質を含む蛋白質の層は、(一種または複数種の)蛋白質の溶液から基材表面に吸着させることができる。そのような吸着層は、それ自体で、その上において細胞が増殖できる基質として有用であり、また、後に堆積または形成される他の蛋白質層の付着を容易にする層として有用である。基材の表面全体を、浸漬、スピンコーティング、またはスプレーコーティング(それらはすべて当業者によく知られている)のようなプロセスにより、厚みが制御された均一な蛋白質層で被覆することができる。そのようなプロセスにより形成される蛋白質層の厚みは、多くのプロセス変量(例えば、蛋白質溶液の蛋白質濃度、表面張力および粘度、基材の表面自由エネルギー、引き出し速度またはスピン速度のプロファイル、環境の温度および湿度、気流の速度および分配などがあるが、これらに限定されるものではない)の敏感な関数である。形成される層の厚みは、これらおよび類似のパラメーターを調節することにより、かつ/または、同じまたは異なる蛋白質の複数の層を基材に付与することにより、制御することができる。
【0057】
書き込み、塗布、および印刷のプロセス(例えば、スクリーン印刷および「インクジェット」印刷を含むが、これらに限定されるものではない)は、基材上または基材内にマトリックス蛋白質の領域を配置するためのもう一つの種類の手段に相当する。この種の具体例として、約10ミクロンの幅×100ミクロンの長さ×20〜50ミクロンの厚みのマトリックスからなる領域を、微小な火床を用いて細いガラス棒を直径約5ミクロンになるまで引き延ばすことにより製造される「ペン」を使用し、基材上に「書き込む」ことができる。このペンは、ミクロマニュピレータに搭載することができ、マトリックス蛋白質の溶液に浸すことができる。ペンに付着する蛋白質溶液は、ペン先を基材に接触させ、必要なパターンで基材上に蛋白質溶液を刻み込むようにペン先を基材に対して動かすことにより、基材に転写される。一方、必要な体積のマトリックス蛋白質溶液の液滴を基材上に落とし、ペンを用いて基材の必要な領域にこの溶液を広げることができる。
【0058】
そのようなプロセスの他の具体例では、シリコーンゴムのような弾性材料のパッドを用いる。該パッドは、当業者に知られたいくつかの方法(例えば、微細加工された用具に対するキャスティング)のいずれかにより、必要な配置パターンのネガティブイメージに作りこまれる。このパッドの型が形成された表面を、必要なマトリックス蛋白質の溶液に浸すことができ、そして、パッドの型が形成された面を基材に接触させることにより、パッドに付着した蛋白質溶液を基材に転写することができる。多くの場合、そのようなプロセスに適する「インク」は、約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、または9mM(その間の値を含む)〜約11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20mM(その間の値を含む)(多くのマトリックス材料または蛋白質について約10mMが好ましい濃度である)の濃度で、(一種または複数種の)必要なマトリックス蛋白質を、脱イオン水中0.15MのNaClおよび0.002MのMgClからなる溶液に溶解させることにより、調製することができる。例えば、0.5mM〜20mM、9mM〜20mM、9mM〜11mM、および0.5mM〜11mMの範囲が含まれる。このようなプロセスによって形成される蛋白質層の厚みは、多くのプロセス変量(例えば、蛋白質溶液の蛋白質濃度、表面張力および粘度、基材およびペン先またはパッドの表面自由エネルギー、接触圧力、刻み込み速度、環境の温度および湿度、気流の速度および分配などがあるが、これらに限定されるものではない)の敏感な関数である。形成される層の厚みは、これらのおよび類似のパラメーターを調節することにより、かつ/または、同じまたは異なる蛋白質からなる複数の層を基材に付与することにより、制御することができる。
【0059】
基材上または基材内にマトリックス蛋白質の領域を形成するためのさらに別の種類の手段は、よく知られたダマスク模様づけまたは「エッチングおよび充填」プロセスに基づく。そのようなプロセスは、基材の表面上または表面内に形成すべきパターンのネガティブレリーフ像を形成する。次いで、このネガティブレリーフ像にマトリックス蛋白質が充填される。そのようなプロセスの多くの知られた改良法の一つにおいて、シリコーンゴムのような弾性材料の層にマスクが形成される。そのようなマスクは、必要なパターンのネガティブレリーフ像を有する適当な用具上にゴムを流し込むような方法、または、必要なマトリックス配置パターンに従ってシリコーンゴムのシートを切断するか、または該シートに孔を開けることにより、形成される。開放気泡フォームのような支持材料にマトリックス蛋白質を閉じ込めることも、このカテゴリーの中に入る。
【0060】
そのようなマスクを形成する別の手段は、必要な厚みのフォトレジストの層を基材に付与し、標準的なフォトリソグラフィ法によって該フォトレジストに必要なネガティブレリーフパターンを形成するものである。用語「フォトレジスト」は、一般に、何らかの光化学活性ポリマー(PAC)(これは、光への暴露により、洗浄溶液に対して、典型的に不溶性または可溶性になる)を含む粘性のポリマー樹脂(溶液)を指す。フォトレジストによって、選択したパターンを基材上に描くことができる。電磁波放射に晒されないポジフォトレジストの領域は、洗浄プロセスにより除去することができる。半導体製造に使用されるような液体レジストまたは印刷回路基板の製造に使用されるようなフィルムレジストのいずれかを、この目的に用いることができる。体積ホログラムおよび位相ホログラムの作製に使用されるような光増感ゼラチンの組成物を、同様にこの目的に同様に用いることができる。ただし、二クロム酸カリウム(多くのそのような組成物において好ましい感光剤)は、細胞毒性であり得るため、得られるマスクから使用の前に完全に除去する必要がある。ポジ型のレジストはこの用途に最も都合がよい。というのも、ポジ型レジストは、多層構造物(そこにおいて、基材上にあるマトリックスの異なる領域が異なる厚みを有する)の構築を容易にするからである。ネガ型のレジストも同様に用いることができるが、種々の層においてレリーフ領域の位置に何らかの制約があり、あるいは、補助的な工程(例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)または堆積中間物のエッチストップ)が必要となる。いずれにせよ、特定のレジスト材料に特有の手順に従って、適当なフォトレジスト材料を塗布し、光でパターニングし、現像し、そして、硬化すれば、基材上にマトリックス蛋白質のパターンを配置するための適当なマスクを形成することができる。
【0061】
この目的のため基材を調製するさらに別の手段には、当業者に良く知られた方法を用いて、基材の表面に適当なレリーフパターンを、流しこみ、成形、エンボス加工、彫刻、エッチング、またはホットスタンピングによって形成することがある。そのような手段は、歴史的なダマスク模様づけのプロセスに最も近く、そのような基材に形成されたマトリックス蛋白質構造物の露出表面は、該基材の表面と同じ面にあるという利点をもたらす。また、潜在的に有害な材料の存在が回避される。
【0062】
上記方法のいずれかにより調製された基材は、型として用いることができ、そこに、一種または複数種のマトリックス蛋白質が投入される。マスクの受け入れ面が複数の異なる面に位置する構造を有する場合、マスクの空隙は、該空隙を適切に満たすよう予め計算された容量のマトリックス蛋白質溶液を分注することにより、ふさぐことができる。マスクの受け入れ面が単一の面にあるマスクの空隙を満たすため、これと同じ方法を用いることができる。この場合、分注される液体の容量は、空隙を完全にまたは部分的に満たすのに十分なものとすることができる。空隙を部分的に満たすことにより、単一の厚みを有するマスクを用いて複数の異なる厚みのマトリックス領域を形成することが可能になる。その代わりに、マスクの表面全体をマトリックス蛋白質溶液に浸すことによって空隙すべてを満たし、過剰の溶液をドクターブレードによるふき取り、スピニング、デカンテーション、または類似の方法によって除去することができる。
【0063】
基材上にマトリックス蛋白質のパターンを形成するための他の方法が、米国特許出願第60/427646号(2003年11月19日出願、名称:「Three Dimensional Multilayer Microstructure of Cells and Biopolymers Created by Microfluidic Layer−by−Layer Technique」)に記載されている。
【0064】
あるマトリックス蛋白質は安定なゲルを形成し、それは、基材に流し込むかまたは塗布する際、そのまま本発明に用いるのに適当である。多くのマトリックス蛋白質は、堆積または流し込みの条件において、十分安定なゲルを形成せず、例えば、細胞培養条件にさらされるとき、溶解し得る。このため、場合によって、堆積したまたは投入したマトリックス蛋白質を、55℃で約1時間焼成して、該蛋白質を変性させ、不溶性でかつ機械的に耐久性となるようにすることが望ましい。該マトリックス蛋白質を変性させた後、シリコーンゴムマスクまたは類似のマスクを、基材から取り除くことができ、それにより、裸の基材または血清蛋白質で被覆された基材によって分離されたマトリックス蛋白質の複数のアイランドをそれぞれ残すことができる。フォトレジストマスク、特にネガ型フォトレジストを用いて形成したものは、マトリックス蛋白質の領域を損傷せずに基材から取り除くことが難しい。そのようなマスクは、該装置を用いる間、適当な位置に残しておくのが一番よい。あるポジ型のフォトレジストは、取り除くべきフォトレジストが適切に高強度のUV光に暴露され適当な溶媒に溶解可能にされているならば、ハードベイキングの後でもマトリックス蛋白質を傷つけることなく基材から取り除くことができる。
【0065】
(III.組織からの細胞の調製)
細胞は、当業者に知られた方法により、腫瘍生検のような組織から分離することができる(概観としてFreshney,1987参照)。そのような方法は、一般的に、上述したような肝臓から細胞外マトリックス蛋白質を分離するため方法に類似するが、ただし、細胞間の相互作用を破壊するため、トリプシンのような蛋白質分解酵素を含む培地とともに該組織をインキュベートするかまたは該培地において該組織をホモジナイズすることがあり、さらに、必要な細胞は、上澄みではなく細胞ペレットに存在する。
【0066】
当業者に知られた方法に従って細胞培養を行うことができる。多くの場合、適当な増殖培地は、10%胎児ウシ血清、そして、場合によって、妥当で適当な濃度の細胞増殖因子(例えば、塩基性線維芽細胞増殖因子、形質転換増殖因子β、血管上皮増殖因子、インターロイキン類、および培養される(一つまたは複数の)特定の細胞種の適切な増殖に必要であり得るような他の薬剤などがあるが、これらに限定されるものではない)で補足されたDMEM(Bio Whittaker,Walkersville,MD)からなる。特定の態様において、本発明の実施に使用するための細胞の培養において、抗菌剤または抗真菌剤を使用しない。というのも、そのような薬剤は、一次細胞種の分化能力を妨げることが知られているからである。細胞培養は、約5%CO/空気(残部)からなる雰囲気において37℃で行われる。
【0067】
(IV.データの獲得と解釈)
細胞による増殖とパターン形成は、目でモニターすることができ、かつ/または、当業者に知られた顕微鏡イメージングにより、その後の定量分析のため、電子画像として捕らえることができる(一般的方法について、Current Protocols in Cell Biology(2001);Murphy,Fundamentals of Light Microscopy and Electronic Imaging(2001)参照)。視覚によるイメージングおよび電子画像キャプチャーのための一つの適当な顕微鏡法によるプラットフォームは、透過光、位相差、微分干渉コントラスト、並びに20倍、40倍、および63倍の倍率によるエピ蛍光視覚映像および電子映像について装備されたLeica DM IRB倒立顕微鏡(Leica,Wetzlar,Germany)からなる。さらに、この顕微鏡法によるプラットフォームは、長時間にわたる反応の時間的経過のモニターを容易にするため、撮像される標本を任意の温度(最も一般的には25℃または37℃)に保持する手段を装備してもよい。同様な装備を有するアップライト型顕微鏡(例えばLeicaのモデルLSまたはLB)も用いることができる。
【0068】
標本の像は、画像増強管(イメージ増強装置)を用いてまたは用いることなく、CCDビデオカメラにより電子的に捕らえることができ、また、コンピュータメモリ、および/または磁気記録媒体または光記録媒体(例えばCD−ROMまたはビデオテープ)に、電子的に保存することができる。また、他の画像取り込み手段および画像蓄積手段を用いてもよい。電子的に捕らえた画像は、当業者によく知られた画像解析法を用いて評価することができる(一般的な手法についてCurrent Protocols in Cytometry(1997)またはDigital Image Processing:PIKS Inside(2001)参照)。例えば、DNAアーゼによってクロマチンが消化されており蛍光染色された細胞と、DNAアーゼによってクロマチンが消化されておらず蛍光染色された細胞とを識別することは、適応しきい値処理法(ある閾値を上回るピクセル強度を示す領域(核と推定される)とある閾値を下回るピクセル強度を示す領域とに画像を分割し、その後、閾値を上回る各領域の積分されたピクセル強度の大きさ、形および平均を求める方法)を利用することにより、遂行することができる。そのような方法の多くの可能で適当な具体例の一つは、標本の画像を捕らえるため、DAGE MTI(Michigan City,IN)またはPhotometrics(Tucson,AZ)冷却CCDカメラを利用する。自動イメージフォーカシングは、VayTek Microtomeイメージデコンボリューションソフトウェアパッケージ(VayTek,Fairfield,IA)に含まれる条件付反復オートフォーカスアルゴリズムを用いて、遂行することができる。興味ある領域は、手動で特定することができ、それらの領域内の平均ピクセルシグナルレベルは、Scanalytics IPLabイメージ定量ソフトウェア(Scanalytics,Fairfax,VA)を用いて求めることができる。また、このソフトウェアは、定常的なイメージ調製作業(例えば、平坦化、バックグランドおよび「ホットピクセル」の補正、および固定および/または適応しきい値処理を含むが、これらに限定されるものではない)に用いることもできる。当業者に知られたより高度な方法(例えば、ピクセルトラッキング、形態素解析、パターンマッチング、相関および類似するアルゴリズムの画像解析法などがあるが、これらに限定されるものではない)を、本発明の特定の用途に必要に応じて用いてもよい。
【0069】
染料(透過光、反射光、および蛍光顕微鏡法において細胞、細胞成分、および細胞構造の可視性(視感度)を高めるのに通常使用される)のような外因性物質の存在は、細胞の増殖(成長)を妨げる可能性がある。この理由から、ある特定の態様では、標本の視覚化および/または画像化を容易にするためコントラスト増強剤を使用する必要がない位相差画像化モードまたは他の類似の画像化モードを、細胞の増殖が完了するまで利用し、そして、細胞の増殖が完了した時点で、標本を、DNA結合染料、染色液、または標本中のクロマチンとその他の物質のコントラストを選択的に高める他の試薬で処理する。例えば、蛍光DNA結合染料である臭化エチジウムは、本発明の好ましい態様の下記の説明において、具体的に記載されている。さらに多くの適当な蛍光、吸収、および他のタイプのコントラスト増強剤が、当業者に知られており、例えば、Molecular Probes:Handbook(2003年9月7日更新)www.probes.com/handbook(その内容はこの引用により本明細書に記載されたものとする)を参照されたい。これらの中で、DNAに特異的かつ化学量論的に結合しかつDNAに結合すると蛍光が顕著に増強される特定の蛍光DNA結合染料(例えば、TO−PRO、YO−YO、YO−PRO、およびPO−PRO系の色素が含まれるが、これらに限定されるものではない)は、存在するDNAの量を定量する必要がある場合、本発明の具体的態様において特に有益である。
【0070】
顕微鏡によるイメージング、イメージ取得、およびイメージ解析の他の多くの適当な方法が、当業者に知られている。ここに特定される方法は、例示を目的とするものであって、決して本発明の範囲を限定または制限するものではない。
【0071】
細胞DNAの染色および評価を解析するための好ましい方法は、フローサイトメトリーまたはレーザー走査サイトメトリーによる。さらにより好ましい態様において、定量的DNA染料で染色された細胞は、フローサイトメトリーに供される。フローサイトメトリーは、当該技術において知られる蛍光細胞分析分離装置(FACS)を用いて行うことができる。利用できる典型的なFACSの設備には、FACS−Calibur(Becton Dickinson;Mountain View,Calif)およびCoulterフローサイトメーター(Hialeah,Fla,USA)EPICS Elite(登録商標)がある。定量化は、CellQuest(Becton Dickinson;Mountain View,Calif)、WinList(Verity Software House,Inc.Topsham,Me.)、Multicycleソフトウェア(Phoenix Flow Systems,San Diego,Calif.USA)およびFACScan(Becton Dickinson,Mountain View,Calif)ソフトウェアを用いて行うことができる。
【0072】
フローサイトメーターは、各細胞に結合する発光物質の量および他のパラメーターを測定し、例えば、ヒストグラム、点プロット(ドットプロット)、またはフラクションテーブルの形態で、出力をもたらす。各細胞に結合する一つの発光物質の量は、その細胞の他の特性(例えば、該細胞群がさらされたもう一つの発光物質の量、サイズ、粒度、または固有の発光)と比べることができる。
【0073】
細胞を含むシース液がレーザーを通過するとき(典型的に一つずつ)、細胞は種々の波長の光に晒される。サイトメーターによって検出される各粒子は、「事象(イベント)」と呼ばれる。事象が入射光のいくらかを透過または散乱する程度が、該事象の特性(例えば結合された発光物質)の測定値をもたらす。例えば、該事象は、自発的に光を発してもよいし、該事象に導入される蛍光物質により生じる蛍光を発してもよい。そのような物質の一例は、蛍光DNA染料である。蛍光団は、既知の周波数の光を発することにより、特定の周波数の入射光に応答し、それは、例えば、サイトメーターの光電子増倍管(PMT)によって検出される。発光または反射光の強度を、サイトメーターによって測定し、記憶する。
【0074】
サイトメーターは、発光データをヒストグラムに編集する。このヒストグラムは、一次元の形式で記録することができる。一方、それは、他の入射波長から得られる発光のヒストグラムと組み合わせてもよい。そのような組合せは、典型的に「ドットプロット」として記録され、そこにおいて、事象はグリッド(方眼)上にプロットされ、そして、該グリッドの軸は、測定される二つのパラメーターに対応する。例えば、事象は、ある特定の波長の入射光に晒すことができ、そして、光の前方散乱および他の波長での発光について検定することができる。
【0075】
細胞群は、そのDNA含量に基づいて分離することができる。細胞の正常なDNA含量に対応するヨウ化プロピジウム染色において、ピークが生じる。また、より高い倍数の一倍数n(おそらく倍数細胞または有糸分裂細胞に対応する)においてもピークが生じ得る。また、一倍数nの倍数に相当しないヨウ化プロピジウム染色のレベルにおいてもピークまたはバックグランドを上回る水平域が生じ得る。これらの事象は、種々のDNA分解剤(因子)に敏感な細胞に対応し得るものである。種々の範囲のDNA含量に分類される細胞を、異なるDNA含量の細胞と区別するため、ゲートを形成してもよい。
【0076】
細胞のDNA含量を特定するための他の方法は、定量的DNA染料と組織化学を用いるものである。また、これらの技法は、フローサイトメトリー分析と組み合わせることができる。例えば、フローサイトメトリーを介して、ある特定の細胞を他の細胞から分別することができる。次いで、それらの細胞を、フローサイトメトリー以外の技法を用い、DNA含量について分析することができる。
【0077】
(V.キットおよび診断)
本発明の種々の局面において、キットが、診断および/または細胞侵襲性の検出のため、意図される。ある態様において、本発明は、ヒトの組織試料または生検における細胞の細胞侵襲性を検出するための診断用キットを提供する。該キットは、ここに記載するような細胞侵襲性の識別、分析または検出のためマトリックスまたは細胞成分を検出できる試薬を備え得る。該キットの試薬は、少なくとも一つの基材(それは、該基材の表面または該基材内にある一つまたは複数の領域内または領域間に、(複数の)可変性の厚みを有するマトリックス材料からなる一以上の領域を有する)と、以下のいずれか(一種または複数種の培養培地、緩衝剤、免疫組織化学試薬、顕微鏡検査用試薬、抗体もしくは抗原、またはそれらの組合せ)とを含むことができる。
【0078】
ある態様において、該キットは、適当な収容手段をさらに備えることができ、それは、該キットの成分と反応しない容器(例えば、エッペンドルフチューブ、アッセイプレート、シリンジ、またはチューブ)である。
【0079】
該キットは、説明書をさらに含むことができ、それは、アッセイの手順工程を概説するものであり、ここに記載されるものと実質的に同じ手順に従うものであるかまたは当業者に知られたものである。
【実施例】
【0080】
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含められたものである。当業者に明らかなとおり、実施例に開示される技法は、本発明の実施においてうまく機能する代表的な技法に従うものであり、従って、その実施のための好ましい態様を構成するものであるとみなすことができる。しかし、本発明の開示に照らして、当業者には明らかなとおり、開示される種々の態様には多くの変更を行うことができ、それでもなお、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、同様のまたは類似の結果を得ることができる。
【0081】
(実施例1)
(装置の製造−別々の高さのもの)
本発明の実施に適する装置は、基材上または基材内に配置または形成された所定の組成および厚みの材料からなる一以上の領域または区域で構成され得る。ある態様において、そのような装置は、基材上または基材内に配置または形成された材料からなる複数の領域または区域を含む。各領域は、同じ基材上の材料からなる一以上の他の領域と、組成および/または厚みが同じであってもよいし、異なっていてもよい。ある場合、領域が互いに隣接することが望ましい。他の場合、領域が相隔たるかまたはバリア(障壁)によって分割されていることが望ましい。
【0082】
そのようなプロセスの一例は、限定されることなく、以下のとおり調製することができるSU−8/250ネガティブレジスト(Microlithography Chemical Co.)を用いて形成されるマスクを含む。適切に清浄にされた基材を、200℃で1時間乾燥し、そして、乾燥雰囲気中、室温まで冷却する。次いで基材をウエハスピナーのチャックに置き、適当な容量のSU−8フォトレジストを基材の中心に静かに分注し、25秒間広がるようにし、次いで850RPMで15秒間回転させる。次いでレジストでコーティングされた基材を、95℃で少なくとも6時間ソフトベークし、ネガティブフォトマスクを介してUV光に11秒間20J/cmの光束で暴露し、95℃で15分間ハードベイクし、そして、SU−8現像液において現像する。このフォトレジストを用いて、この方法により、厚みが最高300ミクロンの単層マスクを調製できる。より厚いマスクおよび種々の調節された深さを特徴とするものを調製するため、他のフォトレジストを用いるかまたは同じフォトレジストを複数回塗布することができる。
【0083】
(実施例2)
(装置の製造−勾配)
場合により、ある領域内においてマトリックス蛋白質の厚みが、ある最小値と最大値の間で連続的に変化していることが都合がよいかまたは望ましい。これは、上述したダマスク法のいずれかに従って(ただし、該方法の変性焼付け工程中、必要な厚みの勾配ができるよう計算されたある角度(水平に対する角度)で基材を支持するよう該方法を変更して)基材の表面にマトリックス領域を形成することにより最も便利に達成することができる。一方、必要な厚みの勾配は、マトリックス蛋白質を塗布する前に、鋳造、成形、エンボス加工、彫刻、エッチング、またはホットスタンピングにより、基材に作りこむことができる。
【0084】
(実施例3)
(細胞の侵襲性の測定)
コラーゲンマトリックス蛋白質からなる二本の平行なライン二組(各ラインは中心から中心まで100ミクロンの間隔をとって10ミクロン×100ミクロンの大きさである)で構成される装置を、上述したようなシリコーンゴムマスクの開口部に各ラインを流し込むことにより、顕微鏡用ガラスカバースリップ上に形成した。各ラインを構成するマトリックス材料の厚みは、マスクの開口部に分注するマトリックス蛋白質溶液の量を調節することにより制御した。二組の平行なラインは、55℃で1時間のアニーリング後、それぞれ約30ミクロン(薄いマトリックス)と200ミクロン(厚いマトリックス)のマトリックス蛋白質の厚みを有した。マスクを除いた後、マトリックス蛋白質のラインを施したカバースリップを、プラスチック製細胞培養皿の底に置き、10%胎児ウシ血清が補足されたDMEM細胞培養培地約30mLで覆った。マイクロピペットを用いて、各組の一つのラインに非侵襲性のOCM−1a黒色腫細胞を約10000細胞/ラインの密度で播種した。同様に、各組の第二および第三のラインに、同様の密度で、侵襲性が中程度のM−619黒色腫細胞および侵襲性が高く転移性のMUM−2B黒色腫細胞をそれぞれ播種した。同様に、隣接するライン間のスペースにOCM−1a、M−619およびMUM−2B細胞を播種した。これらのライン間領域における基材表面は、細胞培養培地から基材上に吸着させられた血清蛋白質からなる。基材上に播種された細胞は、5%CO/空気(残部)からなる雰囲気において37℃で24時間インキュベートすることにより増殖させられた。
【0085】
吸着血清蛋白質上、薄いマトリックス上、および厚いマトリックス上にある非侵襲性OCM−1a細胞の位相差画像は、これらすべての条件下で、該細胞が、孤立した小さな集塊を形成することを示している。吸着血清蛋白質上、薄いマトリックス上、および厚いマトリックス上にある侵襲性が中程度のM−619細胞の位相差画像は、吸着血清蛋白質上で該細胞が孤立した細胞集塊を形成し、薄いマトリックスおよび厚いマトリックス上で共に索状構造物を形成することを示している。吸着血清蛋白質上、薄いマトリックス上、および厚いマトリックス上にある侵襲性が高いMUM−2B細胞の位相差画像は、吸着血清蛋白質上で増殖させられたMUM−2B細胞が、同じ条件下で増殖させられたOCM−1a細胞またはM−619細胞のいずれについて認められるものよりも実質的に大きなサイズの孤立した細胞集塊を形成したことを示している。薄いマトリックス上で、MUM−2B細胞は索上構造物の網状組織を形成する一方、厚いマトリックス上で、該細胞は、大幅に作り変えられたマトリックス蛋白質中に組み込まれた腫瘍巣を形成し、この種の構造に伴うルーピングパターンを示す。
【0086】
吸着血清蛋白質を有する基材領域と厚いマトリックスを有する基材領域との境界におけるMUM−2B細胞の位相差画像は、細胞を0.1%トリトンX−100で3分間透過性化し、DNaseで60分間処理し、そして、核酸染料臭化エチジウムで染色した後の同じ領域における蛍光画像と比較した結果、厚いマトリックス上にある高度に攻撃性のMUM−2B細胞のクロマチンはこの処理後も無傷のままであることを示している。無傷の細胞は、大きく、おおむね球状であり、鮮やかに染色された細胞核によって示される一方、吸着血清蛋白質上の該MUM−2B細胞のクロマチンは、核小体(画像において、光の小さく明るい点)だけが残るところまで分解される。このような条件下、正常細胞、非侵襲性OCM−1a細胞、および侵襲性が中位のM−619細胞におけるクロマチンは、細胞がマトリックス上にあったか、あるいは吸着蛋白質上にあったかに関係なく、完全に分解される。DNase消化に用いる条件の時間およびストリンジェンシーを減少させると、最も安定なものから最も不安定なもののほぼ順で(マトリックス上の侵襲性細胞、マトリックス上の正常なまたは非侵襲性の細胞、吸着蛋白質上の侵襲性細胞、吸着蛋白質上の正常なまたは非侵襲性の細胞のほぼ順で)クロマチンの保持が可能になる。
【0087】
また、図1Aは、細胞外マトリックス蛋白質上で増殖する高度に侵襲性のMUM−2B細胞を示す。マトリックス蛋白質の厚みは、左側(矢印の先)の約35nm(吸着蛋白質)から右側(長い矢印)の約1mmまで変わっている。約50ミクロンまで(黒い線の左まで)のマトリックス厚みにおいて、細胞はランダムな単層集合体を形成する。約50〜150ミクロンのマトリックス厚みの範囲(チェックマーク)において、細胞は、腫瘍の脈管新生に似た索状構造物を形成する。約150〜250ミクロンを超える厚みにおいて、細胞は、作り変えられたマトリックス蛋白質によって囲まれる円筒状または球状の腫瘍巣を形成する。図1Bは、同様のマトリックス勾配(厚みは右に向かって増加)上で増殖する非侵襲性OCM−1a細胞を示す。該細胞は、すべての厚みのマトリックス蛋白質において、ばらばらのランダムな集合体を形成する。また、図1Cは、マトリックスのいずれの厚みにおいても、(長)球体を形成する非侵襲性の細胞を示す。
【0088】
図2Aは、厚み約35nmの吸着ラミニン蛋白質からなる均一な層上に約100ミクロンの厚みで数字の「3」の形に配置されたラミニンマトリックス蛋白質の明視野画像を示す。MFC−10A乳癌細胞を、この全体の領域に均一に配置し、DNAアーゼで消化した。図2Bは、DNA染料である臭化エチジウムで染色した後のこの同じ領域の蛍光画像を示す。最も厚いマトリックス蛋白質の領域に細胞DNAが局在していることが、明らかである。図2Cおよび2Dは、図2Bに示す領域の中心部の画像を、倍率を次第に高くして示している。この薄いマトリックス上で増殖する細胞は、DNAアーゼの作用に影響されなかった。細胞を取り囲む吸着マトリックス蛋白質の領域における小さな蛍光物は、DNAアーゼ処理によって細胞のDNAが消化された後に残った核小体である。
【0089】
(実施例4)
(混合細胞培養物における侵襲性細胞の検出)
細胞または組織の標本(例えば、生検または類似の方法により患者から得られるような試料)に侵襲性の(従って癌性の)細胞が存在するかどうかは、細胞の侵襲能力を測定するための上述した方法により測定(判定)することができる。ただし、装置上にある細胞マトリックスおよび吸着血清蛋白質の領域上に播種される細胞は、細胞または組織の標本をばらばらにすることによって得られる細胞種の混合物からなる。基材上で最初に播種された細胞の増殖によって得られる細胞間の接触が最小限である低い細胞密度において、基材上に播種された細胞種の混合物中に存在するそれぞれの種類の細胞は、存在し得る他の種類の細胞とはほぼ無関係にふるまう。従って、例えば、侵襲性が中位の細胞は、薄いマトリックスおよび厚いマトリックスの両方において索状構造物を形成する一方、侵襲性の高い細胞は、薄いマトリックス上で索体の網状組織を形成し、厚いマトリックス上でルーピングパターンを伴う腫瘍巣を形成する。このような挙動により、標本中の正常な細胞および非侵襲性の細胞を、標本中の侵襲性の(従って癌性の)細胞から区別することができる。上述したDNase消化法により該混合物を構成する細胞中のクロマチンの感受性を測定(判定)することにより、この区別をさらに改良することができ、また、測定のSN比をさらに向上させることができる。特に、厚いマトリックス上で混合細胞種を増殖させ、次いで、クロマチンをDNaseで消化し、核酸染料でクロマチンを染色することにより、侵襲性(癌性)の細胞と正常な細胞とのはっきりとした区別がもたらされる。
【0090】
細胞を互いに接触するよう増殖させるとき、細胞の挙動を観察することによって、細胞種の混合物を含む標本中に侵襲性(癌性)の細胞が存在するかどうかについてさらなる知見を得ることができる。例えば、厚いマトリックス上で、正常な細胞および非侵襲性の細胞は、互いに接触して共存することができる。さらに、正常な細胞は、非侵襲性の細胞の層または集塊の中に入り込むことができる一方、非侵襲性の細胞は、正常な細胞の層または集塊にほとんど入り込むことがない。さらに、正常な細胞は、厚いマトリックス上で、侵襲性(特に高度に侵襲性)の細胞と共存しない。具体的に、正常な細胞は、侵襲性の細胞と接触するようになるとき、速やかに(典型的に1時間未満で)溶解され、死滅させられる。また、侵襲性の細胞は、正常な細胞の層および集塊の中に容易に入り込むことができる一方、正常な細胞は、侵襲性の細胞によって形成される構造物の中に入り込むことができない。これらの挙動は、本発明に従って細胞の混合物が増殖させられるときに生じる細胞パターンから明らかであり、特に、上述した方法でDNaseによる消化および細胞クロマチンの蛍光染色を行うことによりそのようなパターンのSN比が向上させられるとき、はっきりとしたものになる。
【0091】
この方法の別の実施例は、ある臨床上有用なものである。別の一実施例において、臨床試料が得られるタイプの組織を構成する正常な細胞種に相当する正常な細胞の単層を、薄いマトリックスまたは厚いマトリックス上で、適当な条件下、増殖させる。次いで、臨床試料を構成する細胞を分散させることによって得られる混合細胞種のアリコートを、正常細胞の単層の上に低い細胞密度で播種し、上述したようにインキュベートする。分散された臨床試料中に存在する侵襲性細胞は、それが接触する下地の正常細胞に入り込んでそれを溶解し、その結果、顕著な、容易に識別される局所的な破壊が、該単層の構造にもたらされる。そのようなパターンのSN比は、上述したようにDNaseによる消化および細胞クロマチンの蛍光染色を行うことにより、向上する。分散された臨床試料中に存在し得る正常細胞および非侵襲性細胞は、正常細胞の層に入り込んで溶解することがなく、従って、単層の構造を破壊することがない。
【0092】
(実施例5)
(転移の部位)
具体例として二つの装置(それぞれ、マトリックス蛋白質からなる7つの平行なラインを含み、各ラインは、中心から中心まで100ミクロンの間隔をとって、幅約10ミクロン×長さ約100ミクロンである)を、上述したようなシリコーンゴムマスクの開口部に各ラインを流し込むことにより、顕微鏡用ガラスカバースリップ上に形成した。そのように形成した各ラインは、異なるマトリックス蛋白質(具体的には、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンI、並びに、肝臓、骨、肺、および胸腺外皮組織から分離されたマトリックス材料)からなるものであった。各ラインを構成するマトリックス材料の厚みは、マスクの開口部に分注するマトリックス蛋白質溶液の量を調節することにより、制御した。ラインは、55℃1時間のアニーリング後、約200ミクロン(厚いマトリックス)のマトリックス蛋白質の厚みを有した。マスクを除いた後、マトリックス蛋白質のラインを施したカバースリップを、プラスチック製細胞培養皿の底に置き、評価すべき細胞種に適する培養培地約30mLで覆った。具体例として、黒色腫細胞に用いた培養培地は、10%胎児ウシ血清で補足されたDMEMであり、それは、乳癌細胞の増殖に使用されるとき、必須アミノ酸、上皮細胞増殖因子、およびインシュリンでさらに補足された。
【0093】
T4乳癌細胞を、一つの装置のマトリックス蛋白質からなる各ライン上に、約10000細胞/ラインの密度で播種した。一方、他の装置のマトリックス蛋白質ライン上にMUM−2B黒色腫細胞を同様に播種した。上述したような細胞種に適当な培養培地に、各装置を浸した。細胞が播種された両方の装置を、5%CO/空気(残部)の雰囲気において37℃で24時間インキュベートし、その後、得られた細胞の増殖パターンを評価した。
【0094】
いずれの細胞種も、フィブロネクチンマトリックス上で、腫瘍巣、ルーピングパターン、または索状構造物を形成しなかった。T4乳癌細胞は、ラミニン、骨、肺および胸腺上皮のマトリックス材料上で、明確な細胞パターンを形成したが、コラーゲンおよび肝臓のマトリックス材料上では、集合体以外に明確な構造物を形成しなかった。MUM−2B細胞は、フィブロネクチン以外の全てのマトリックス材料上で、明確な細胞増殖パターンを形成し、肝臓のマトリックス上で形成されたパターンが最もよく発達していた。これらの知見は、T4乳癌細胞の知られた性向(まずラミニンに富む部位に転移し、その後、肺および胸腺に二次転移する一方、肺に転移しない)およびMUM−2B癌細胞の知られた性向(まず肝臓に転移し、その後、骨および他の部位に転移する)と整合するものである。他の種類の癌から得られる細胞も同様に、原発腫瘍形成および転移の部位に特有のマトリックス蛋白質に対する選択性(志向性または優先性)を示す。
【0095】
腫瘍細胞の転移の選択性および性向は、上述したように、異なる種類のマトリックス蛋白質上で増殖させられた細胞をトリトンX−100で透過性化し、細胞のクロマチンをDNaseで処理し、そして、DNA染料(例えば臭化エチジウム)で細胞を染色することにより、さらに特徴づけることができる。異なるマトリックス材料上で増殖させられる細胞の、DNaseによるクロマチン分解に対する、相対的な感受性は、消化試薬中のDNaseの濃度を変えることによるクロマチン分解度への影響、そして、DNaseに細胞をさらす時間を変えることによるクロマチン分解度への影響を見ることにより、評価することができる。この方法において、ラミニンマトリックス上でのT4乳癌細胞のクロマチン、肝臓マトリックス上でのMUM−2B細胞のクロマチン、そして、骨マトリックス上での前立腺癌細胞のクロマチンは、他のマトリックス材料上で増殖させられる同じ細胞のクロマチンよりも、DNase消化に対して有意により耐性である。
【0096】
転移の選択性および性向を調べるため時に好ましい別の装置構成は、マトリックス蛋白質領域の形成に用いたマスク材料が適当な位置に残されていること以外上記と同じであるか、または、マトリックス蛋白質が基材上に形成されるよりむしろ上記方法により基材本体に埋め込まれていること以外上記と同じである。いずれの場合においても、マトリックス材料の露出面は、周囲のマスクまたは基材とほぼ同一面にある。そのような構成により、単一の容量の細胞懸濁物を、基材上にある全てのマトリックス領域の露出面に接触させることができる。そして、生検標本の分解により得ることができるような細胞の混合集団を、侵襲性で転移性の細胞が存在するかどうかについてスクリーニングすることが目的の場合、そのような構成は特に便利である。この構成の装置は、上述した態様で使用されるが、ある設置時間の後、インキュベーションを開始する前に、マトリックス領域上の播種される細胞の密度を制限するため、残留する細胞懸濁物を該装置から除くことが望ましい場合がある。
【0097】
(実施例6)
(薬剤の評価)
本発明の具体的装置は、臨床治療および創薬の両方の環境において、抗癌剤のスクリーニングおよび評価に利用することもできる。特に、本発明の態様は、多数の抗癌剤を複数種の癌に対する有効性についてスクリーニングする場合に有用であり、また、患者の治療のため最も有効な抗癌剤またはそのような抗癌剤の組合せを決めるのに有用である。そのような用途を、以下に記載する方法により例示する。
【0098】
コラーゲンまたは他の選択された一つまたは複数のマトリックス蛋白質からなる二本の平行なライン四組(各ラインは中心から中心まで100ミクロンの間隔をとって約10ミクロン×100ミクロンの大きさである)を含む装置を、上述したようなシリコーンゴムマスクの開口部に各ラインを流し込むことにより、顕微鏡用ガラスカバースリップ上に形成した。各ラインを構成するマトリックス材料の厚みは、マスクの開口部に分注するマトリックス蛋白質溶液の量を調節することにより制御した。55℃で1時間のアニーリング後、平行なラインからなる各組の一つのラインは、約30ミクロン(薄いマトリックス)のマトリックス蛋白質の厚みを有した一方、該組の他のラインは、約200ミクロン(厚いマトリックス)の厚みを有した。マスクを除いた後、(一種または複数種の)マトリックス蛋白質のラインを施したカバースリップを、プラスチック製細胞培養皿の底に置き、10%胎児ウシ血清が補足されたDMEM細胞培養培地約30mLで覆った。
【0099】
マイクロピペットを用いて、一組のラインにおける薄いマトリックスのラインと厚いマトリックスのラインの両方に、未処理のMUM−2B細胞を約10000細胞/ラインの密度で播種し、さらに、それらのラインの間にある露出した吸着血清蛋白質に、面積に比例する密度(約90000細胞)で播種した。同様にして、第二、第三および第四の組のラインを構成するラインおよび間にあるスペースに、正常な内皮細胞、そのような処理のため確立したプロトコルに従ってポリアミン11157で処理したMUM−2B細胞、および同じようにポリアミン11157で処理された正常な内皮細胞をそれぞれ播種した。この実施例において、ポリアミンで処理されたMUM−2B細胞は実験試料を構成する一方、他の組のラインに付与された細胞は対照としての役割を果たす。使用される培養培地が、その基材上で評価すべき全種類の細胞の増殖に適合する限り、基材上にあるラインの組数は、複数連の試料、追加の薬剤および処理法、追加の対照、および/またはさらなる種類の癌を受け入れるため、当然のことながら、増やすことができる。基材上に播種された細胞は、5%CO/空気(残部)からなる雰囲気において37℃で24時間(ある他の細胞種についてはより長く)インキュベートすることにより増殖させられる。
【0100】
マトリックスのライン上および間にあるスペース上で生じる細胞のパターンは、化合物、薬剤または処理の有効性を調べるため、上述した方法のいずれかにより検査される。抗癌剤、薬剤候補、および治療法の場合、実験試料における索状構造物、腫瘍巣およびルーピングパターンの形成が、未処理の癌細胞の対照に対して抑制されているならば、有効性が示される。同時に、有効な処理は、同じ基材上にある正常な対照細胞の増殖および挙動に影響を及ぼさない。また、異常細胞におけるクロマチンのDNase消化に対する耐性を減少させる一方、対照である正常細胞のクロマチンの挙動に影響を与えない、薬剤または処理(治療)の能力は、薬剤または化合物の有効性の指標となり得る。抗癌剤をスクリーニングするこの方法は、特に有利である。というのも、この目的で目下使用される方法とは異なり、本発明の方法は、腫瘍巣を形成した癌細胞が従来の培養条件下で増殖させられた同じ細胞よりも抗癌剤に対して150倍も耐性であるという知られた事実に直接対処しているからである。
【0101】
この同じ方法は、特定の患者に特に有利になり得る薬剤、薬剤の組合せ、または治療法を見出すため、用いることができる。そのような方法は、患者からの癌を含む生検試料をばらばらにすることにより、使用される癌細胞が得られること、そして、同じ組織または器官から得られる正常な細胞をばらばらにすることにより正常な対照細胞が得られることを除いては、薬剤スクリーニングについて上述したと同じ態様で実行される。
【0102】
また、この方法は、逆の態様で適用することができ、そこにおいて、実験用細胞は評価される物質にさらされ、癌への転換を促進または増強するその能力が調べられる。この目的で使用される細胞は、典型的に正常な表現型であるかまたは侵襲性が最小限である表現型である。癌への転換を促進または増強する物質によって、これらの最初の細胞のある部分は、形態学的特徴(例えば、侵襲性細胞の表現型に関連する索、索の網状組織、および/またはルーピングパターンの形成)を示すようになる。この方法は、労働衛生、環境試験、および生物学的研究を含むがそれらに限定されることのない分野において有用であり得る。
【0103】
(実施例7)
(薬剤の評価−サイトプラスト(細胞質体))
本発明の他の新しい局面として、マトリックス蛋白質上で増殖させられる細胞の形態は、多くの点で、遺伝子の発現および細胞の核内で起こる他の過程によって調節されておらず、むしろ、細胞質内での過程および事象によって調節されていることがある。この知見に基づいて、例えば、細胞核内のプロセスに影響する薬剤(例えば抗癌剤)の作用と、細胞質のプロセスに影響する薬剤の作用とをはっきり区別することが可能になる。
【0104】
細胞質のプロセスと核のプロセスとを明確に区別するには、評価すべき細胞から核を除くことが必要である。このことは顕微鏡による解剖術により達成することができるが、この方法により十分な数の除核細胞(サイトプラスト)を得ることは、非常に大きな労力を要し、時間の浪費である。この理由から、細胞の除核のためのバルク法が開発された。この方法では、血清フィブロネクチンで被覆した顕微鏡用ガラスカバースリップ上で、除核すべき細胞を集密近くまで増殖させる。次いで、カバースリップを、10mg/mLのサイトカラシンBを含む50mL遠心管に細胞側を下にして置き、8000×Gで30分間遠心分離にかけ、細胞核が細胞膜を貫いて外にでるようにする。こうして形成したサイトプラストは、カバースリップに付着して残っており、懸濁物として回収することができ、あるいは、ある時間マトリックス蛋白質に該サイトプラストを接触させることにより、ラミニンまたは他のマトリックス蛋白質の層に直接移すことができる。
【0105】
この方法で調製したサイトプラストは、マトリックス上で成長させられるとき、親細胞によって発現される形態を概して再現する。具体的に、正常細胞、非侵襲性細胞、侵襲性が中位の細胞、および侵襲性が高い細胞から得られるサイトプラストは、基材に吸着された血清蛋白質上で成長させられるとき、ばらばらの集塊を形成する。これらの同じサイトプラストが、例えば、厚いマトリックス上で成長させられるとき、正常細胞および非侵襲性細胞から得られるサイトプラストは、孤立した集塊(あるいは、正常な内皮細胞の場合、玉石状の単層)を形成する一方、侵襲性の表現型から得られるサイトプラストは、厚いマトリックス上で索状構造物を形成する。高度に侵襲性の細胞から得られるサイトプラストは、今のところ、厚いマトリックス上で、腫瘍巣およびルーピングパターンの形成を引き起こしていない。評価される薬剤について核の効果と細胞質の効果とを識別するため、上述した薬剤の評価試験において、サイトプラストを無傷の細胞の代わりに直接使用することができ、あるいは、サイトプラストと無傷の細胞とを区別をつけて併用することができる。
【0106】
(実施例8)
(スライドに基づく方法)
本発明のある特定の態様に、スライドに基づく試験がある。スライドに基づく試験の一例は、試験サンプルを得ること(例えば、それらの培養プレートから細胞をこすり取ること)、該サンプルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁すること、ラミニンで被覆されたスライド上にその細胞懸濁液を滴下することを含む。被覆されたスライドに付与されたサンプルは、空気乾燥させられる(約15分間)。乾燥させられたスライドをALUによる消化に供する(約15分間)。消化の後、スライドを臭化エチジウムで染色し(1分間)、蛍光下で撮像する。速いだけでなく、この方法は、標準的な「スミア」法(塗布法)(パップテストに類似)に対する改良法でもある。というのも、この方法は、標準的な方法に大きな問題を生じさせ、保存料および固定剤の使用を必要にする空気乾燥産物に対して感受性でないからである。別のサンプリング法は、スライドを組織塊に接触させることにより、細胞を付着させることを含む。この剥奪細胞(関心のある細胞である)はスライドに付着する一方、他の細胞のほとんどは付着しない。
【0107】
(実施例9)
(機械的に損傷した線維芽細胞)
ここに記載する組成物、方法および装置を用いるさらなる具体例は、機械的に損傷した線維芽細胞を試料として使用することを含む。消化されかつ染色されるとき、損傷した細胞のうちかなりの割合が、特有の「リング」パターンを生成させることが認められた。損傷した線維芽細胞は、「反応性」かつ「修復性」の細胞のモデルとして用いることができる。損傷した線維芽細胞は、その他の点では、物理的損傷、感染などから回復しつつある正常な細胞である。標準的な顕微鏡検査および免疫化学的試験では、これらの損傷した線維芽細胞または損傷した線維芽細胞に類似する細胞を、異常細胞と区別することは困難である。回復プロセスを受けている本質的に正常な細胞と異常細胞とを区別するのが不可能であることが、偽陽性の一般的な原因である。本発明の種々の態様において、この反応性かつ修復性の細胞は、異常細胞とはっきり区別される。
【0108】
(実施例10)
(逆の構成)
本発明の他の局面において、スライドに基づく構成は「逆」のものとすることができる。すなわち、ここに記載される処理に対して感受性を示すはずの細胞を処理することによって、感受性細胞が処理に対して反応しないようにし、非感受性細胞が処理に対して反応するようにすることができる。従って、該方法の結果は反対になる。この試験の逆転は、処理溶液にチオール試薬(例えばDTT)を添加することによりもたらすことができる。すなわち、異常細胞が無傷で残り、正常細胞が分解されるように通常の試験を構成する場合、DTTを添加することで、正常細胞が無傷で残り異常細胞が分解されるように、結果は逆転させられる。
【0109】
(実施例11)
(MSP I消化)
(方法)
ヒトの線維芽細胞、侵襲性が低いヒト黒色腫細胞(OCM−1)、および侵襲性が高いヒト黒色腫細胞(MUM−2B)を、ラバーポリスマンを用いてそれらのプラスチック細胞培養フラスコの底からこすり取り、そのクロマチン構造がEGTAによって破壊されるのを回避し、また、その多糖外被(グリコカリックス)がトリプシンによって破壊されるのを回避した。各細胞スラリー25μLをガラススライドに滴下し、液滴を含む細胞が完全に乾燥するまで、30分〜1時間インキュベートした。次いで、0.5μLのMSP Iを、DMEMまたはPBSの液滴25μLに添加し、その25μLを、乾燥した細胞のブロット上に滴下した。そして、密封した加湿チャンバー内の37℃インキュベーターにスライドを24時間置いた。消化の後、MSP Iを除き、臭化エチジウムで置換し、エピ蛍光顕微鏡下で視覚化し、そして、ブロットを撮影した。
【0110】
(結果)
MSP I中で1、2、4、5、6、および24時間インキュベートしたが、いずれにおいても、MSP I消化からの隔離(MSP I消化の影響を受けない度合い)は、細胞の侵襲性作用が増すに従って増加するようであった。正常な間質細胞(例えば線維芽細胞)は、侵襲性の低い細胞または侵襲性の高い細胞に比べて、消化の程度がより大きかった。典型的に、細胞は機械的に得られる。というのも、トリプシン−EGTA溶液中で細胞をトリプシン処理すると、非特異的で、時に全く反応しない感受性が、(複数の)酵素に対して生じたからである。例えば、トリプシンEGTAを用いた場合、細胞の種類に関わらず、細胞クロマチンは、あらゆる制限酵素による消化に対し、機械的に分離した細胞と比べて、さらにより安定であった。該時間の大部分について、細胞は、感受性について段階的な相違を示した(MSP Iおよび他の制限酵素による消化に対して耐性が完全でないならば、正常細胞が最も感受性であり、侵襲性の低い細胞は感受性が低く、そして、侵襲性の高い細胞は最も耐性であった(図6A〜6C))。
【0111】
フラスコから細胞をEGTA−トリプシン処理するのではなく、フラスコから細胞を擦り取ることは、典型的に以下の二つの目的にかなう。(1)解析環境に使用されているMSP I消化の予測(そこにおいて、トリプシンのようなプロテアーゼは、ヒトの患者から細胞を得るのに、通常使用されないか、あるいは、使用することができない)、および(2)試薬EGTAの回避(該試薬は、組織または組織培養フラスコからの細胞の分離を促進させるため通常使用される)。さらに、マグネシウムのような必須イオンをEGTAまたはEDTAにより回収すれば、接着受容体が特異的に破壊されるという仮説は、単純化しすぎたものであることが分かった。というのも、実際、これらのキレート剤は、クロマチンの組織および構造に対して計り知れない影響を及ぼすからである(Maniotis et al.,1997)。EGTA−トリプシンを細胞分離の手段として用いる実験から、種々の細胞種において制限酵素に対する感受性が、消化に対して急激により安定になることが明らかとなった(恐らくはEGTAの作用のため、そして、トリプシンが誘導する凝集による細胞集合の違いのため)。従って、臨床上の有用性を高めるため、そして、クロマチン組織の変化を避けるため、プロテアーゼ消化を用いることなく、また、EGTAを存在させることなく、MSP Iを使用し、その代わりに、患者から細胞を取り出すように、細胞をその環境からそのまま機械的に取り出した。
【0112】
正常細胞、侵襲性の低い細胞、および侵襲性の高い細胞に属する細胞の核をMSP I消化によって区別できるという事実は、より高次の構造のメチル化が重要であることを示唆しており、また、それが、メチル化の細胞パターンとともに、細胞の癌性または非癌性の状態を調節する際、重要な因子となり得ることを示唆している。消化が遺伝子の種類よりむしろ細胞の種類に特異的であったため、家族性の腫瘍(1%)(疑わしい癌遺伝子(p53、p21、網膜芽細胞腫(rb)など)が、何らかの原因として作用していると考えられるもの)のみならず、散発性の腫瘍(99%)(リンケージ群がわからず、その家族性のリンケージが確立していないもの)からの、侵襲性が低い細胞および侵襲性が高い細胞、並びに正常細胞を、該アッセイが区別できる可能性がある。
【0113】
(実施例12)
(侵襲性腫瘍細胞の薬剤耐性の評価)
本発明の具体的な装置は、侵襲性腫瘍細胞の薬剤耐性を評価するのに利用することもできる。この種の情報は、癌治療のための治療薬の選択に役立ち、抗癌剤のような新しい化学的実体の評価に役立ち、また、他の同様の目的のために役立つ。侵襲性の腫瘍細胞は、高度に作り変えられた細胞外マトリックス蛋白質中に組み込まれる腫瘍細胞からなる「腫瘍巣」を形成することが知られており、その全体構造には、血管に一見似ているがそうではない潅流路が通されている。腫瘍中にそのような構造物が存在することは、好ましくない予後、抗癌剤に対する耐性、および高い死亡率と、強い相関関係がある。
【0114】
細胞外マトリックス蛋白質の厚い層上に増殖させられる侵襲性の腫瘍細胞は、インビトロで腫瘍巣を形成し、インビボでの同様の構造物に対する抗癌剤の有効性を評価するためのモデル系として用いることができる。腫瘍巣のシヌソイドに微量注入した蛍光色素(Texas Red)の蛍光顕微鏡画像により、腫瘍巣における腫瘍細胞群間の潅流路に該色素が移動するのが通常わかる。この移動は、該色素が腫瘍巣に浸透するまで続く。巣に注入するのではなく、腫瘍巣を含むマトリックス蛋白質の組織または層に、中性の蛍光染料を塗布したとき、この同じ潅流パターンが明らかとなる。蛍光標識したデキストラン抱合体を用いて行う同様の測定により、分子量が最高で少なくとも2000000の中性分子が、これらの潅流路および隣接する細胞集塊に入って蓄積することがわかる。
【0115】
細胞外マトリックス蛋白質の薄い層上で増殖させられるとき、腫瘍細胞は、高度に侵襲性のタイプでも、腫瘍巣を形成しない。むしろ、細胞は、潅流路を形成する形跡なく、細胞の集塊またはシートを形成する。薄いマトリックス上で増殖させられた腫瘍細胞の核は、蛍光DNA結合染料(例えば、ビスベンズイミドまたは抗腫瘍剤ドキソルビシン)によって速やかにかつ効率的に標識される。同じ種類の侵襲性腫瘍細胞を、腫瘍巣が形成される条件下で増殖させ、該巣を上記の方法でDNA結合剤(例えば、ビスベンズイミドおよびドキソルビシン)にさらした場合、長時間の暴露後においても、該巣を形成する腫瘍細胞塊の周辺部にある細胞の核だけが、該染料で標識される。侵襲性の腫瘍細胞をインビトロで厚いマトリックス上において増殖させ、培養培地にビスベンズイミドを添加して染色した場合、腫瘍巣を形成する個々の細胞集塊の周辺部にある細胞の核に、染色が限定されることがわかった。これらの実験および他の類似の実験から、ビスベンズイミドおよびドキソルビシンのような極性の試薬は、腫瘍巣を構成する細胞から系統的に排除されることが明らかとなり、一方、これらの細胞は、同様の分子量を有する中性分子を受け入れやすいことが明らかとなった。
【0116】
実施例1、2、3、および5(上記)に説明される装置、並びにそれに変わる形態および構成(例えば、マイクロタイタープレートで、そのウェルに適当な厚みおよび組成の一種または複数種のマトリックス蛋白質を含むもの)は、耐性である侵襲性の癌に対する治療薬の有効性をインビトロで評価するのに、有利に用いることができる。薄いマトリックス上で増殖する細胞が、厚いマトリックス上で増殖する細胞に対し、方法上の対照として働くように、装置において、薄いマトリックスの層と厚いマトリックスの層を並べて配置することが都合よい。いずれの場合も、患者または他の起源からの癌細胞を、細胞外マトリックスの薄い層および厚い層上で増殖させ、厚いマトリックス上で該細胞が腫瘍巣を形成する時点までそれを行う。次いで、該細胞を治療薬にさらし(典型的に、該薬剤を細胞増殖培地に添加することにより)、その暴露の結果を観察する。有効な薬剤は、薄いマトリックス上で増殖させられる細胞のすべてに付着し、そして、厚いマトリックス上の腫瘍巣を形成する細胞集塊に浸透する。有効性は、浸透の増加と相関する。治療薬に長期間さらすことによって壊死および/またはアポトーシスの徴候があるかどうか腫瘍巣を観察することにより、有効性についてさらなる証拠を得ることができる。治療剤で処理した細胞を上述した態様でヌクレアーゼ(例えばALUまたはDNAアーゼ)にさらすことにより、有効性のさらなる目安を得ることができる。
【0117】
(実施例13)
(治療を行うためのターゲットの特定)
本発明の装置および方法を、癌治療を行うための有効なターゲットを見出すのに、さらに用いることができ、また、そのようなターゲットに対して向けられる治療薬の設計、開発および評価に、さらに用いることができる。上記実施例において例示したように、ALUのような薬剤による分解に対する侵襲性細胞内クロマチンの感受性、および、化学治療剤に対するそのような細胞の耐性は、該細胞が増殖させられる細胞外マトリックス蛋白質(一種または複数種)の組成および厚みに依存する。そのような特性は、ある程度、細胞内の遺伝的構成物および遺伝子転写活性を反映し、従って、治療を行うためのターゲットを示唆する。
【0118】
一例として、高度に侵襲性のMUM−2B黒色腫細胞を、上記実施例1、2および3に記載したような装置を用いて、薄いマトリックスおよび厚いマトリックス上で増殖させた。この実施例の目的のため、必須ではないが、確実に同じ環境(マトリックス蛋白質の厚みまたは評価すべき他の変量を除く)で全ての細胞が増殖するよう、薄いマトリックスおよび厚いマトリックスの領域並びにその上で増殖させられる細胞は、互いに十分に接近していることが好ましい。次いで、薄いマトリックスおよび厚いマトリックス上で増殖させられた細胞を別々に採取する。化学的方法(例えばEDTAまたはEGTAのようなキレート剤による処理、あるいは、採取の目的によく用いられるトリプシンのような蛋白質分解酵素による処理)の使用に伴い得る産物を回避するため、採取は機械的に行うことが好ましい。次いで、薄いマトリックスおよび厚いマトリックスから採取された細胞を、別々に準備し、「遺伝子アレイ」チップ(例えばAffymetrix II Microarray(Affymetrix))に、該チップの製造者が特定する手順に従って、付与する。次に、これらのチップから得られるデータを、好ましくは両側T検定、相関分析、または類似の方法を用いて、解析し、薄いマトリックスおよび厚いマトリックス上で増殖させられた細胞間で発現が異なる特定の遺伝子を見出す。
【0119】
一具体例において、薄いマトリックス上で増殖させられるMUM−2B細胞と厚いマトリックス上で増殖させられるMUM−2B細胞とで区別をつけて、約1044の遺伝子を発現させる。薄いマトリックス上で増殖させられるMUM−2B細胞は、種々の蛋白質(複数種のサイクリン、数種のヒストン、トロンボスポンジン、マトリックス蛋白質(例えばラミニン、コラーゲン、およびフィブロネクチン)、並びにそれらのマトリックス蛋白質のための対応する細胞表面接着受容体を含むがこれらに限定されるものではない)についてそれぞれ遺伝子を発現させる。これらの蛋白質の発現は、同じ条件下、厚いマトリックス上で増殖させられるMUM−2B細胞において抑制される。逆に、厚いマトリックス上で増殖させられるMUM−2B細胞は、P21、SPP1、オステオポンチン、BPAG、およびトロンボモデュリン(これらは、薄いマトリックス上で増殖させられる細胞において顕著に発現されない)などの遺伝子を発現させる。すなわち、薄いマトリックス上で増殖させられる高度に侵襲性のMUM−2B細胞によってもたらされる示差的遺伝子発現パターンは、急速に増殖する移動性の(侵襲性の)細胞から予想されるものに合致するパターンである。一方、厚いマトリックス上で増殖させられる同じ細胞によってもたらされる遺伝子発現パターンは、十分に分化した老化細胞から予想されるものに合致するパターンに相当する。厚いマトリックスから薄いマトリックスに細胞を移すことによって、細胞は、老化の遺伝子発現パターンから、増殖性で侵襲性の遺伝子発現パターンに逆戻りさせられ、また、その逆も起こる。
【0120】
多くの補助的な情報源からのデータを、本発明によって得られる示差的遺伝子発現と相関させることができ、それにより、活性化または抑制される経路を特定することができ、また、それらの間にある調節フィードバックループを特定することができる。また、そのような解析により、これまで知られていない遺伝子および遺伝子機能を見出すことができる。一具体例として、SPP1遺伝子は、蛋白質オステオポンチン(骨の成長および止血を含む複数の生物学的機能に関与するリン蛋白質)をコードする。このSPP1発現は、薄いマトリックス上で増殖させられるMUM2B細胞(侵襲状態)において抑制され、厚いマトリックス上で増殖させられるMUM2B細胞(老化状態)においてかなり上昇する。トロンボモデュリン(その他の機能の中で、トロンビンによって媒介されるオステオポンチンの開裂に関与する多機能蛋白質)は、薄いマトリックス上で増殖させられる細胞においてアップレギュレーションされる(増加の方向に調節される)。
【0121】
開裂されたオステオポンチンおよびトロンボスポンジンは、多くの種類の腫瘍から、癌細胞のCD44インテグリン受容体に結合することが知られており、そして、細胞と細胞外マトリックスとの接着を減少させるようであることが知られている。さらに知られているとおり、アンキリン(これは、細胞骨格のアクチンフィラメントにCD44受容体をつなげる)の発現、およびBPAG(これは、アクチンフィラメントと中間(径)フィラメントとの結合を形成する)の発現は、薄いマトリックス上で増殖させられる細胞において、増加する。他のデータから明らかなとおり、CD44受容体は、アクチンフィラメントおよび他の細胞骨格成分を介して、核孔に機械的につなげられ、また、CD44受容体に働く機械的な力は、核中のクロマチンを、老化の表現型と侵襲性の表現型の間で「切り替える」ことができる。これらの事象の最終的な効果は、細胞の侵襲能力のダウンレギュレーション(下降調節)である。オステオポンチンのトロンボモデュリンによる開裂は、このダウンレギュレーションを逆転させる。この簡単な実例となる周期的経路が示唆するとおり、侵襲性の細胞は、外部条件に応答して、侵襲性の表現型と老化の表現型の間で、可逆的に切り替わることができ、また、この経路における数工程のいずれかを破壊すると、一方または他方の表現型に細胞を固定することができる。
【0122】
従来の癌治療に対する「戦術的な」アプローチは、特定の経路および/または分子ターゲットの破壊による癌細胞の選択的な破壊に基づく。本発明は、そのような戦術的ターゲットを特定し、それに対して開発される薬剤を評価しかつ検証するための手段を提供する。上述した例証となる経路は、不完全に記載されているとしても、ある「戦略的な」代替的でかつ補完的な治療法をさらに示唆するには、十分詳細に示されているものである。実施例6で記載した態様およびその代わりの態様において、本発明を実施すれば、癌細胞の治療剤に対する応答は、該癌細胞がその侵襲性の表現型にあるか老化の表現型にあるかによって、顕著に異なり得ることを示すことができる。本発明により示される別の一つの戦略は、癌細胞をその表現型、典型的に侵襲性の表現型に固定する治療薬を用いることである(該表現型は、第二の治療薬に最も感受性となる)。本発明により示され、そして、高度に攻撃的で速やかに移動する癌に特に適当な別の戦略は、細胞を老化の表現型に固定することにより急性疾患の状態を慢性疾患の状態に効果的に変換し、有効な治療を開始するためにさらに時間をもたらすような治療薬で治療を行うことである。同様の戦略的治療が、充実性腫瘍の手術による除去に対して、有用な補助手段であることがわかり得る。というのも、手術の前に、侵襲性細胞の放出を最小限に食い止めるため、癌を老化状態にすることができるからである。さらに、化学療法の間、癌細胞を、侵襲性で薬剤により感受性の状態に切り替え、次いで、転移を抑制するため化学療法後に癌細胞を老化状態に切り替えることによって、手術後の化学療法の有効性を高めることができる。
【0123】
同様に、実施例5の装置を、転移の特異的な抑制に有用であり得る特定の分子および調節ターゲットを見出すため、用いることができる。そのような場合、装置の一領域は、原発腫瘍に存在するマトリックス蛋白質の組成からなり、一方、他の領域の組成は、腫瘍が転移し得る組織に存在する細胞外マトリックスの組成に相当する。この二種類のマトリックスにより調節される示差的遺伝子発現を、可能性のある治療ターゲットおよび治療薬を特定するため、用いることができる。関係する組織の個々の環境をより正確に反映するように存在するさらなるパラメーター(例えば、ガス圧力、pHおよびサイトカイン類の混合物)を変えることが可能な態様で、異なるマトリックス組成および/または厚みの領域を互いに分離するように装置を修飾すれば、これらの研究はさらに洗練されたものとなり得る。
【0124】
前の実施例と併せて記載されるとおり、これらの装置は、本実施例を踏まえて開発される治療薬の有効性を評価するため、さらに用いることができる。
【0125】
(実施例14)
(抗癌剤の評価のための基準材料)
国立がん研究所およびその他の機関は、抗癌剤候補の有効性を評価することができるような腫瘍の組織および/または細胞の標準的なパネルを、準備し、利用可能にし、かつ/または利用する。いくつかのそのようなパネルは、患者の腫瘍から摘出した生きた組織からなる一方、他のものは、基質または懸濁物において増殖させられた培養された腫瘍細胞からなる。上記実施例で明らかなとおり、腫瘍細胞の挙動は、細胞が増殖する下地となる条件(特に、細胞外マトリックスに関係する条件)に強く影響される。この環境による感受性は、これまで具体化されてきた腫瘍パネルにおいて、意図されたことも、検討されたこともない。実施例1、2、3、および5において上述されたような装置上で、一つまたは複数の必要な種類の腫瘍細胞を増殖させることにより、改良された腫瘍パネルを構築することができ、そこにおいて、該細胞が増殖させられるマトリックス蛋白質の組成および厚みは、上述したように制御される。そのような改良されたパネルは、インビボの腫瘍増殖が起こる環境に代わるものとしてよりふさわしいものであり、従って、抗癌剤の有効性について、より現実的な評価をもたらす。これらの改良されたパネルは、腫瘍組織からなるパネルよりも、より明確で制御された環境を提供し、従って比較評価を容易にする。例えば、腫瘍パネルは、しばしば、吸着血清蛋白質からなる基質上で腫瘍細胞を増殖させることにより、調製される。この基質は、上述した「薄いマトリックス」の条件に相当するが、腫瘍巣の形成や、より厚いマトリックス層上で見られる侵襲性細胞の他の発現を、支援するものではない。上記実施例で示されたように、薄いマトリックス上で増殖させられる侵襲性の腫瘍細胞は、厚いマトリックス上で増殖させられる同じ細胞よりも、抗癌剤の作用に対してより感受性である。従って、薄いマトリックス上で増殖させられる侵襲性細胞に対して試験される薬剤の見かけの有効性は、人為的に高くなる。逆に、上記実施例で示されるとおり、厚いマトリックス上で増殖させられる腫瘍の侵襲性作用は、薄いマトリックス上で増殖させられる同じ細胞の侵襲性作用よりも小さくなり得る。このことは、試験される薬剤の有効性を隠し得る。本発明において具体化されるように、薄いマトリックスと厚いマトリックスの両方において増殖させられる細胞を基準材料として用いれば、より正確な試験を行うことができる。
【0126】
(実施例15)
(フローサイトメトリーによる侵襲性細胞の検出)
本発明の上記実施例において記載される侵襲性細胞検出のための方法は、クロマチン分解剤で細胞を処理する前に、基質(典型的に細胞外マトリックス蛋白質の層)に細胞が接触している必要がある。この工程は、臨床環境において不都合となり得る。血液癌の細胞は、通常、液体媒質(例えば血液またはリンパ液)中の細胞懸濁物として採取される。同様に、充実性腫瘍から標本を最初に採集するため臨床上一般に使用される特定の方法(例えば細針吸引(FNA))によれば、採集細胞の液体媒質懸濁物が形成される。さらに、液体媒質中への細胞の分散は、顕微鏡用スライド上で単層調製物を作るプロセスにおいて本来的な要素であり、さらに、組織培養および同様の方法による評価のための標本作りにおいても本来的な要素である。この理由から、最初に細胞を固体の基質に移すことが必要でなく、懸濁液中の標本細胞を直接利用するように、本発明を実施できれば、都合がよい。上記実施例3および4の方法に類似する態様で本発明を実施する際の懸濁細胞の利用を、以下のとおり例示する。
【0127】
この実施例では、例示の目的で、侵襲性の程度が異なる培養細胞を利用する。患者の試料からの細胞懸濁物を、同様に用いることができる。この実施例で用いる培養細胞株は、WI−38線維芽細胞(正常細胞)、OCM1(侵襲性の乏しい原発性ブドウ膜黒色腫)、M619(侵襲性の高い原発性ブドウ膜黒色腫)、およびMUM2B(侵襲性の高い転移性ブドウ膜黒色腫)である。よく知られた標準的方法に従って、すべての細胞を単層培養において増殖させ、DMEM培地中に機械的に採取し、卓上遠心分離機において5分間1400RPMで遠心分離することにより、ペレット化した。その基質から細胞を分離するため、トリプシンおよびEGTAのような薬剤を用いるよりむしろ、その培養細胞を機械的に採集することを用いる。これにより、EGTAの存在により生じるクロマチン構造の破壊の可能性を回避し、トリプシンによって生じるような多糖外被の破壊を回避する。
【0128】
細胞のペレットを、0.1%トリトンX−100に再懸濁し、1分間室温でインキュベートし、1400rpmで5分間再度遠沈し、そしてDMEMに再懸濁した。ヨウ化プロピジウム(PI:10μl/ml、Molecular Probes,Eugene,OR)を、この懸濁液のアリコートに添加した。DMEM40μl中のAlu I制限酵素0.5μlを、残存する細胞懸濁液に添加した。そして、この調製物を37℃でインキュベートした。この混合物のアリコートを、ALUの添加後、0時間(ベースライン)、1時間、3時間、および5時間で、評価のため採取した。ヨウ化プロピジウムを、これらの消化サンプルのそれぞれに添加した。得られた消化されかつ染色された細胞懸濁物を、FACS Caliburフローサイトメーター(BD Bioscience,San Jose,CA)(前方および側方の散乱に対する488nmレーザー励起検出器と、蛍光シグナルに対する520nm、575nmおよび675nm検出器を装備)を用いる標準的な方法に従って分析した。10000の細胞を数え、結果をFACS点プロットおよびヒストグラムにより解析した。CellQuestソフトウェア(BD Bioscience)を統計解析に使用した。
【0129】
ヨウ化プロピジウムは、化学量論的DNA蛍光染色剤であり、従って、評価される細胞のDNA含量をフローサイトメトリーによって測定される蛍光シグナル強度から決定することを可能にする。透過性化の後、PIで処理される一方、ALUで消化されていない細胞懸濁物のアリコートは、処理開始前の細胞調製物のそれぞれに存在するDNAの量についての対照として用いられる。図7は、Alu I制限酵素に1、3、および5時間さらした後、PIで染色した各細胞株について測定されたフローサイトメーター蛍光強度ヒストグラムプロットを示す。
【0130】
UM54正常ブドウ膜メラニン細胞についてのPIシグナルの減少は、1時間で検出され、3時間および5時間でさらに減少した。5時間で、ベースラインシグナルの有効な成分は減少して、装置の検出閾値の限界を下回った(図7a、上列)。このことは、正常なブドウ膜メラニン細胞におけるDNAの顕著な分解を示している。侵襲性に乏しいOCM1a黒色腫細胞は、1時間のAlu I酵素による消化後、PIシグナルについて同様の減少を示したが、その後、シグナル強度は顕著に減少しなかった(図7、第二列)。
【0131】
UM54正常ブドウ膜メラニン細胞および侵襲性に乏しいOCM1a黒色腫細胞とは異なり、高度に侵襲性のM619黒色腫細胞またはMUM2B黒色腫細胞は、1時間のAlu I消化において、PIシグナルの有意な減少を示さなかった(図7a、下の二列)。しかし、侵襲性が高い原発性M619黒色腫細胞からのPIシグナルは、3時間で減少した。一方、侵襲性が高い転移性のMUM2B黒色腫細胞について、シグナルは、5時間でも、ベースラインシグナルと有意に異なるものではなかった。従って、透過性化した細胞をAlu I制限酵素に種々の時間さらした後、PIシグナルを測定すれば、四種類の細胞株についてそれぞれを識別(区別)することが可能であり、それにより、侵襲性細胞の検出および分類にフローサイトメトリーを利用することが可能である(図7B)。
【0132】
(実施例16)
(核を用いる薬剤評価)
12mm直径のガラスカバースリップに付着した細胞を、上述のように調製する。細胞が付着した該カバースリップを、通常増殖培地中10mg/mlサイトカラシンBを5cc含む50ccの円錐遠心管に、細胞側を下にして入れ、カバースリップの端部が該管の円錐壁に当たるようにし、かつ、カバースリップの面が該管の長軸に垂直になるようにする。1400RPMで5分間遠心分離することにより、細胞の核は細胞膜を突き抜けて移動し、遠心管の底にペレットとして集まる。除核細胞は、カバースリップに付着したまま残る。
【0133】
集めた細胞核を、DMEM中で洗浄し、DMEM中洗浄剤トリトンX−100の0.1%溶液で2分間処理することにより透過性化し、その後、ALUまたはDNAアーゼで処理する。上述したように、ALUは、正常細胞および非侵襲性細胞からの核のクロマチンを選択的に分解する。さらに、透過性化された核を、DMEM中のDNAアーゼ100単位で30〜60分間処理することにより、正常細胞および非侵襲性細胞からの核のクロマチンが消化される一方、侵襲性細胞からの核におけるクロマチンは、大部分無傷のまま残る。実施例13に関連する一方ここに記載されていない他のデータが示唆するところによれば、光散乱により検出可能であり得る細胞骨格の変化は、細胞核におけるクロマチンの状態に影響し得る。本方法において起こる細胞膜を貫通する核の移動は、顕著なレベルの相互作用の混乱なく、核の因子と細胞質の因子とを区別することを可能にすることにおいて、十分に迅速なものであると考えられる。
【0134】
以上に具体化された特定の装置および方法の記載は、本発明の典型例を示そうとするものであって、本発明を限定しようとするものではない。本発明の装置および方法を好ましい態様について記載してきたが、当業者に明らかなとおり、ここに記載したものの代わりになる実施例、組成物および/または方法を、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、創出することが可能である。具体的に言うと、当然のことながら、ここに記載した装置を、別の代わりの手段によって実施することができ、また、ここに記載した組成および条件を、特定の細胞および標本のタイプに適合するよう変更することができ、その一方で、ここに記載したと同じまたはそれに類似する結果をやはり達成することができる。そのような当業者に明らかな類似の置換および修飾はすべて、添付の請求の範囲に規定される本発明の範囲および精神を逸脱しないものであるとみなされる。
【0135】
(引用文献)
以下の引用文献は、ここに説明したものを補足する例示的な手順や他の詳細を提供するものである限り、この引用により特定的に本明細書にその内容が記載されたものとする。
米国特許第5,162,114号
米国特許第5,830,708号
米国特許第6,372,494号
米国特許出願番号60/427,646
Bojanowskiら、J.Cellular Biochem.第69巻:127−142,1998
Chanら、Gut 52:502−506,2003
Current Protocols in Cell Biology,John Wiley & Sons,Inc.,Bonifacinoら(編)0−471−24108−3,2001
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Goesslら、Prostate Cancer Prostatic Dis.第3巻,補遺1,S17−S17頁,2000
Maniotisら、J Cellular Biochem.第65巻:114−130,1997
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Murphy:Fundamentals of Light Microscopy and Electronic Imaging,Wiley−Liss,1−360,2001
Toyookaら、Cancer Research 62,3382−3386,2002年6月15日
Uekiら、Oncogeize.2002年5月27日;21(13):2114−7,2002
Wongら、Molecular Oncology,Markers,Clinical Correlates,2003
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1Aは、細胞外マトリックス蛋白質上で増殖する高度に侵襲性のMUM−2B細胞を示す。該マトリックス蛋白質の厚みは、左側(矢印の先)の約35nm(吸着蛋白質)から右側(長い矢印)の約1mmまでの範囲にわたる。最高約50ミクロンまで(黒い線の左まで)のマトリックス厚みにおいて、細胞はランダムな単層集合体を形成する。約50〜150ミクロンのマトリックス厚みの範囲(チェックのマーク)において、細胞は腫瘍の脈管化に似た索状構造を形成する。約150〜250ミクロンを超える厚みにおいて、細胞は、作り変えられたマトリックス蛋白質によって囲まれる円筒状または球状の腫瘍巣を形成する。図1Bは、同様のマトリックス勾配(厚みは右に向かって増加する)上で増殖する非侵襲性のOCM−1a細胞を示す。これらの細胞は、マトリックス蛋白質のそれぞれの厚みにおいて、別個のランダムな集合体を形成する。図1Cは、任意の厚みのマトリックス上で(長)球状体を形成する非攻撃的な細胞を示す。
【図2】図2Aは、厚み約35nmの吸着ラミニン蛋白質からなる均一な層上に約100ミクロンの厚みで数字の3の形に配置されたラミニンマトリックス蛋白質の明視野像を示す。MFC−10A乳癌細胞を、この全体の領域に均一に配置し、DNAアーゼで消化した。図2Bは、DNA染料である臭化エチジウムで染色した後のこの同じ領域の蛍光像を示す。最も厚いマトリックス蛋白質の領域に細胞DNAが局在していることが、明らかである。図2Cおよび2Dは、図2Bに示す領域の中心部の像を倍率を次第に高くして示している。この薄いマトリックス上で増殖する細胞は、DNAアーゼの作用に影響されなかった。細胞を取り囲む吸着マトリックス蛋白質の領域における小さな蛍光体は、DNAアーゼ処理によって細胞のDNAが消化された後に残った核小体である。
【図3】約35nm(溶液からガラス上に蛋白質を吸着させることによって形成されるフィルムの厚み)〜約1mmの範囲の厚みを有するマトリックス材料の複数のラインからなる「くさび形」(または「勾配形」)のチップを示す図である。
【図4】図4Aは、図3と同様のチップ(ただし、マトリックスのラインは格子パターンに配置される)の一部を示す図である。該ラインはフィブロネクチンまたはコラーゲンであり、四角形はラミニンである。図4Bおよび4Cは、このチップ上にある攻撃的な(侵襲性の)MB231細胞を示し、図4Dおよび4Eは、同じチップ上にある非攻撃的な(非侵襲性の)MCF10a細胞を示す。細胞をセットしたものは両方とも、ALUで60分間処理された。各ペアにおける一番上の画像は、位相差顕微鏡によるものであり、一番下の画像は、臭化エチジウムによる染色後の蛍光によるものである。厚い(約1mm)ラミニン上にある攻撃性細胞(侵襲性細胞)は無傷で残っている一方、フィブロネクチンまたはコラーゲン上にある攻撃性細胞および両方のマトリックス蛋白質上にある非攻撃性細胞は、大幅に分解されている。
【図5】図5A、5C、5E、および5Gは、位相差顕微鏡で画像化された細胞を示す一方、図5B、5D、5F、および5Hは、臭化エチジウム染色後に同じ細胞を蛍光で画像化したものを示す。図5A、5B、5E、および5Fは、それぞれ、消化の30分後および150分後の細胞を示す対照である。図5C、5D、5G、および5Hは、対応する対照と同じ条件下で消化する前に実験用ポリアミン抗癌剤で約15分間処理した細胞を示す。両方の場合において、ポリアミンは、分解に対してDNAを安定化する。
【図6】MSP Iで24時間インキュベートした後の線維芽細胞(図6A)、OCM1a(図6B)(侵襲性の低い黒色腫細胞)、およびMUM2B(図6C)(侵襲性の高い黒色腫細胞)の感受性を示す調査の図である。留意すべきことに、線維芽細胞の核は、24時間で完全に消化されている。OCM1aの核は、いくらか局所的に残った染色を示した一方、MUM2Bの核は、メチル化特異的酵素に対し、完全な安定性および隔離を示した。
【図7】図7Aは、Alu I制限酵素に1、3、および5時間さらした後PIで染色を行ったWI−38線維芽細胞(正常細胞)、OCM1(侵襲性の低い原発ブドウ膜黒色腫)、M619(侵襲性の高い原発ブドウ膜黒色腫)、およびMUM2B(侵襲性の高い転移性ブドウ膜黒色腫)のそれぞれについて測定したフローサイトメーター蛍光強度ヒストグラムプロットを示す。図7Bは、各時点についての蛍光強度を併せて示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材を備える、細胞を評価するための装置であって、領域内の該マトリックス材料は、以下:
(a)該評価すべき細胞が該領域の該マトリックス材料に入り込んで該材料を再形成することがない厚みAであるか、
(b)該評価すべき細胞が該領域の該マトリックス材料に入り込んで該材料を再形成することができる一方、該細胞が該材料中に埋め込まれることを可能にしない厚みBであるか、
(c)該評価すべき細胞が、該領域の該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることが可能である厚みCであるか、または
(d)それらの組合せである、
装置。
【請求項2】
厚みAは50ミクロン未満であり、厚みBは50ミクロンと100ミクロンの間であり、かつ厚みCは100ミクロンより大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記マトリックス材料は、ラミニン、コラーゲン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、一以上の生物組織から単離された細胞マトリックス材料、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
一以上の細胞増殖領域は、塗布、タンポ印刷、転写印刷、スクリーン印刷、インクジェット沈着、リソグラフィーのリフトオフ法、エンボス加工、ソフトリソグラフィー、成形、キャスティング、エッチングおよび充填(ダマスク模様づけ)、またはそれらの組合せにより、形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
一以上の細胞増殖領域は、基材の表面上に形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
一以上の細胞増殖領域は、基材内に形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記評価すべき細胞はヒトの細胞である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
基準としてのフィブロネクチンからなる一以上の基準領域をさらに備え、該基準領域に対し、他のマトリックス材料を含む細胞増殖領域上での細胞増殖によって形成されるパターンが比較される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材を備える、細胞を評価するための装置であって、一以上の細胞増殖領域は厚みが異なっている、装置。
【請求項10】
一以上の細胞増殖領域は、連続的な態様で厚みが異なっている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
請求項9に記載の装置であって、一以上の細胞増殖領域の前記厚みは、(i)細胞が前記マトリックス材料に付着して該マトリックス材料上で増殖することを可能にするのに十分であり、かつ(ii)該細胞が該領域のマトリックス材料に入り込んで該材料を再形成することを可能にするのには不十分である、最小限の厚みから、該細胞が該領域の該マトリックス材料に入りこみ、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な最大厚みまで、変わっている、装置。
【請求項12】
細胞増殖領域の前記厚みは、50ミクロン未満から、500ミクロン超まで変わっている、請求項9に記載の装置。
【請求項13】
前記細胞増殖領域を含む前記マトリックス材料は、ラミニン、コラーゲン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、一以上の生物組織から単離された細胞マトリックス材料、またはそれらの組合せである、請求項9の装置。
【請求項14】
一以上の細胞増殖領域は、塗布、タンポ印刷、転写印刷、スクリーン印刷、インクジェット沈着、リソグラフィーのリフトオフ法、エンボス加工、ソフトリソグラフィー、成形、キャスティング、またはエッチングおよび充填(ダマスク模様づけ)により形成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項15】
一以上の細胞増殖領域は、基材の表面上に形成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項16】
一以上の細胞増殖領域は、基材内に形成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項17】
前記評価すべき細胞はヒトの細胞である、請求項9に記載の装置。
【請求項18】
フィブロネクチンからなる一以上の基準領域をさらに備え、それに対し、マトリックス材料からなる前記細胞増殖領域上での細胞増殖によって形成されるパターンが比較される、請求項9に記載の装置。
【請求項19】
細胞の侵襲能力を決定するための方法であって、
(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に評価すべき該細胞を配置する工程、
(b)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で一以上の細胞増殖領域上にある該細胞をインキュベートする工程、
(c)一以上の細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを同定する工程、および
(d)該細胞のパターンを解釈して該細胞の侵襲能力を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項20】
一以上の細胞増殖領域の少なくとも一部は、前記細胞が前記マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法であって、一以上の細胞増殖領域上で増殖させられた前記細胞を、
(e)細胞透過性化剤、
(f)エンドヌクレアーゼALU、ヌクレアーゼDNase、またはその両方、および
(g)核酸染料
で処理する工程をさらに包含する、方法。
【請求項22】
請求項19に記載の方法であって、一以上の細胞増殖領域上で増殖させられた前記細胞を、
(e)MSP I酵素、および
(f)核酸染料
で処理する工程をさらに包含する、方法。
【請求項23】
前記評価すべき細胞は、侵襲性細胞と非侵襲性細胞との混合物である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
マトリックス材料からなる一以上の領域の少なくとも一部は、前記細胞が該記マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項23に記載の方法であって、一以上の細胞増殖領域上で増殖させられた前記細胞を、
(e)細胞透過性化剤、
(f)エンドヌクレアーゼALU、ヌクレアーゼDNase、またはその両方、および
(g)核酸染料
で処理する工程をさらに包含する、方法。
【請求項26】
前記侵襲性細胞と非侵襲性細胞との混合物は、前記一以上の細胞増殖領域上で増殖させられた正常細胞の層の上に配置される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
一以上の細胞増殖領域の少なくとも一部は、前記侵襲性細胞が前記マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項26に記載の方法であって、前記細胞の混合物を、
(e)細胞透過性化剤、
(f)エンドヌクレアーゼALU、DNase、またはその両方、および
(g)核酸染料
で処理する工程をさらに包含する、方法。
【請求項29】
侵襲性の細胞が転移する可能性のある組織または器官の部位を決定するための方法であって、
(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に評価すべき侵襲性細胞を配置する工程であって、ここで、該マトリックス材料は、該侵襲性細胞が移動し得る組織または器官から得られるかまたは該組織または該器官に由来する、工程
(b)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で、一以上の細胞増殖領域上にある該侵襲性細胞をインキュベートする工程、
(c)一以上の細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを同定する工程、および
(d)該細胞のパターンを解釈して侵襲性細胞が転移し得る組織または器官の部位を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項30】
前記細胞増殖領域の少なくとも一部は、前記細胞が前記マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項29に記載の方法であって、前記細胞を、
(e)細胞透過性化剤、
(f)ALUエンドヌクレアーゼ、DNaseまたはその両方、および
(g)核酸染料
で処理する工程をさらに包含する、方法。
【請求項32】
抗癌化合物、抗癌薬または抗癌医薬組成物としての有効性について、化合物、薬剤または医薬組成物をスクリーニングするための方法であって、
(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に癌性の細胞または前癌性の細胞を配置する工程、
(b)該癌性の細胞または前癌性の細胞を、該評価すべき化合物、薬剤または医薬組成物で処理する工程、
(c)該癌性の細胞または前癌性の細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で、一以上の細胞増殖領域上にある該癌性の細胞もしくは前癌性の細胞をインキュベートする工程、
(d)一以上の細胞増殖領域上にある該癌性の細胞または前癌性の細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを同定する工程、および
(e)該細胞のパターンを解釈して、該化合物、薬剤または医薬組成物の該癌性の細胞または前癌性の細胞に対する効果を判定する工程
を包含する、方法。
【請求項33】
一以上の細胞増殖領域の少なくとも一部は、前記細胞が前記マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
有核細胞に対する抗癌薬または抗癌医薬組成物の有効性が評価される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
除核細胞(サイトプラスト)に対する抗癌薬または抗癌医薬組成物の有効性が評価される、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
請求項32に記載の方法であって、前記癌性の細胞または前癌性の細胞を、
(f)細胞透過性化剤、
(g)ALUエンドヌクレアーゼ、DNase、またはその両方、および
(h)核酸染料
で処理する工程をさらに包含する、方法。
【請求項37】
抗癌薬または抗癌医薬組成物の有効性を決定するための方法であって、
(a)細胞マトリックス材料からなる細胞増殖領域を有する基材上に、評価すべき抗癌薬または抗癌医薬組成物で処理された癌性の細胞または前癌性の細胞を配置する工程、
(b)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で該細胞増殖領域上にある該細胞をインキュベートする工程、
(c)該細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを同定する工程、および
(d)該細胞のパターンを解釈して、該抗癌薬または抗癌医薬組成物の該細胞に対する効果を決定する工程
を包含する、方法。
【請求項38】
前記細胞マトリックス材料の少なくとも一部分は、前記細胞が該マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
有核細胞に対する抗癌薬または抗癌医薬組成物の効果が評価される、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
除核細胞(サイトプラスト)に対する抗癌薬または抗癌医薬組成物の効果が評価される、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
請求項37に記載の方法であって、前記癌性の細胞もしくは前癌性の細胞を、
(f)細胞透過性化剤、
(g)ALUエンドヌクレアーゼ、DNaseまたはその両方、および
(h)核酸染料
で処理する工程をさらに包含する、方法。
【請求項42】
細胞において癌性の作用を誘発、促進または強化する化合物を検出するための方法であって、
(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に正常細胞または非侵襲性の細胞を配置する工程、
(b)該細胞を、該評価すべき化合物で処理する工程、
(c)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で一以上の細胞増殖領域上にある該細胞をインキュベートする工程、
(d)該細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを同定する工程、および
(e)該細胞のパターンを解釈して、該化合物が該細胞において癌性の作用を誘発、促進かつ/または強化するか否かを決定する工程
を包含する、方法。
【請求項43】
一以上の細胞増殖領域の少なくとも一部分は、前記細胞が前記マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
請求項42に記載の方法であって、前記癌性の細胞または前癌性の細胞を、
(f)細胞透過性化剤、
(g)ALUエンドヌクレアーゼ、DNaseまたはその両方、および
(h)核酸染料
で処理する工程をさらに包含する、方法。
【請求項45】
細胞において癌性の作用を誘発、促進または強化する化合物を検出するための方法であって、
(a)マトリックス材料からなる一以上の細胞増殖領域を有する基材上に、評価すべき化合物で処理された正常細胞または非侵襲性の細胞を配置する工程、
(b)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下で、マトリックス材料からなる一以上の領域上にある該細胞をインキュベートする工程、
(c)一以上の細胞増殖領域上にある該細胞の移動、増殖、または移動および増殖によって生じる細胞のパターンを同定する工程、および
(d)該細胞のパターンを解釈して、該化合物が該細胞において癌性の作用を誘発、促進または強化するか否かを決定する工程
を包含する、方法。
【請求項46】
一以上の細胞増殖領域の少なくとも一部分は、前記細胞が前記マトリックス材料に入り込み、該材料を再形成し、かつ該材料中に埋め込まれることを可能にするのに十分な厚みである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
有核細胞に対する抗癌薬または抗癌医薬組成物の有効性が評価される、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
除核細胞(サイトプラスト)に対する抗癌薬または抗癌医薬組成物の有効性が評価される、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
請求項45に記載の方法であって、前記癌性の細胞または前癌性の細胞を、
(e)細胞透過性化剤、
(f)ALUエンドヌクレアーゼ、DNaseまたはその両方、および
(g)核酸染料
で処理する工程をさらに包含する、方法。
【請求項50】
示差的に発現される遺伝子を同定するための方法であって、
(a)マトリックス材料からなる第一の細胞増殖領域を有する基材上に、細胞の第一の集団を配置する工程であって、ここで、該マトリックス材料は、100ミクロン未満の厚みである、工程、
(b)マトリックス材料からなる第二の細胞増殖領域を有する基材上に、細胞の第二の集団を配置する工程であって、ここで、該マトリックス材料は、少なくとも100ミクロンの厚みである、工程、
(c)該細胞の移動、増殖、または移動および増殖を可能にする条件下でマトリックス材料からなる該第一および第二の領域上にある該細胞をインキュベートする工程、
(d)該第一の細胞集団と該第二の細胞集団との間で、遺伝子発現を比較する工程、および
(e)該第一の細胞集団と該第二の細胞集団との間で、示差的に発現される遺伝子を特定する工程
を包含する、方法。
【請求項51】
遺伝子発現は、核酸アレイによって比較される、請求項50に記載の方法。

【図1】
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【図2A−2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−516699(P2007−516699A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535595(P2006−535595)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/033658
【国際公開番号】WO2005/037998
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(503060525)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (25)
【Fターム(参考)】