説明

マニジピンおよびスタチンの治療における組み合わせ

(±)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボン酸2−[4−(ジフェニルメチル)−1−ピペラジニル]エチルメチルエステル(マニジピン)または生理学的に許容可能な塩およびスタチンまたは生理学的に許容可能な塩を含んでなる薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓血管疾病の処置および/または予防のための、スタチン(statin)またはその生理学的に許容可能な塩と組み合わされた、(±)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボン酸2−[4−(ジフェニルメチル)−1−ピペラジニル]エチルメチルエステル(マニジピン(manidipine))またはその生理学的に許容可能な塩の使用に関し、該疾病はアテローム硬化症、合併した高血圧症および高脂血症、冠状心臓疾病または冠状動脈疾病(CAD)、狭心症、心筋梗塞(心臓発作)並びに発作を包含する。
【0002】
特別な態様では、本発明はマニジピンまたはその生理学的に許容可能な塩とスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩との、決められた組み合わせを含んでなる薬品に関する。
【0003】
別の態様では、本発明は該決められた組み合わせを含んでなる経口投与のための製薬学的組成物、並びにa)第一の単位投薬形態における、治療的に有効な量のマニジピンまたはその生理学的に許容可能な塩および製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、b)第二の単位投薬形態における、治療的に有効な量のスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩および製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、並びにc)該第一および第二の投薬形態を含有するための容器手段を含んでなるキットにも関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
心臓および/または関連血管に影響を与える心臓血管疾病、疾患または事象は罹病の主な原因であり且つ死亡の最も普遍的な原因の1つである。
【0005】
それらは、動脈血管壁の肥厚化および弾性損失により構成される一連の変化である、アテローム硬化症によりほとんどが引き起こされる。
【0006】
高血圧症および高脂血症、特に高コレステロール血症、がアテローム硬化症の進行に関する主要な危険因子であると考えられてきた。
【0007】
最近の数年間に、アテローム硬化症の進行に関するさらに新しい危険因子が同定され、そして炎症並びにそのマーカー、例えばC−反応性蛋白質(CRP)、酸化性ストレスおよび内皮機能不全、を包含する。
【0008】
さらに最近では、臨床的、病理学的および実験的な観察が心臓血管疾病の病因における全身的炎症に関する役割を強く支持している(非特許文献1)。
【0009】
内皮機能不全では、血管作動性物質の恒常性が乱される。血管細胞付着分子−1(VCAM−1)、細胞間付着分子−1(ICAM−1)およびサイトカイン類の増殖および流入を促進する血管収縮因子であるアンギオテンシンIIの水準並びに血管収縮ホルモンであるエンドテリン−1(ET−1)の水準が増加する。
【0010】
高血圧症では、主として増加したプラスミノーゲン活性化剤阻害剤タイプ1(PAI−1)水準および低下した組織プラスミノーゲン活性化剤(t−PA)活性として表示される、脂質代謝の疾病および低下したフィブリン溶解の間の緊密な関係も示された。
【0011】
最近の高血圧症処置指針は全体的な危険因子管理の役割に重点を置き、そして血圧を下げるだけでなく低密度リポ蛋白質(LDL)コレステロールの水準も下げて、全体的な心臓血管危険特徴を改良することを述べている。
【0012】
薬品療法高血圧症は最近では、アンギオテンシン−転化酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシン受容体遮断剤(ARB類)、利尿剤、β−遮断剤、並びに、2つの主要群、すなわちジヒドロピリジンおよび非−ジヒドロピリジン誘導体、に分類できるカルシウム−チャンネル遮断剤−CCB類−(カルシウム拮抗物質とも称する)を包含する異なる薬品種の使用に基づいている。
【0013】
ある種のジヒドロピリジンカルシウム−チャンネル遮断剤は抗アテローム硬化症性質を有すると思われる。
【0014】
マニジピン、すなわち(±)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボン酸2−[4−(ジフェニルメチル)−1−ピペラジニル]エチルメチルエステル、はジヒドロピリジン種に属する長期作用性カルシウム−チャンネル遮断剤である。それは最初に特許文献1に開示された。
【0015】
次に高コレステロール血症は最近では、一般的にスタチン類と称する3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル補酵素A(HMG−CoA)レダクターゼ阻害剤で処置される。
【0016】
最近市販されているスタチン類はロバスタチン(lovastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)およびロスバスタチン(rosuvastatin)である。
【0017】
スタチン類がLDL−コレステロールの水準を低下させることは既知である。
【0018】
さらに、スタチン類の数種の副作用の中では、それらが抗−炎症性質も有することが文献で報告されておりそしてそれらのアテロ保護(atheroprotective)効果は脂質−低下効果によるだけでなくそれらの抗−炎症性質にもより得ることが示唆されていた。特に、ある種のスタチン類はICAM−1およびIL−6水準の低下により反映されるように内皮機能を改良する(非特許文献2)。
【0019】
最近では、スタチン類が大部分がLDLコレステロール水準に依存しない方法でCRP水準を低下させること並びにスタチン療法の結果として得られるCRPの水準が同じ療法で得られるLDLコレステロール水準のものと同様な臨床的類似性を有しうることが報告されていた(非特許文献3)。
【0020】
これに反して、CRP水準に対するジヒドロピリジンCCB類の効果に関する対照的なデータが報告されていた。
【0021】
Yasunari K他(非特許文献4)はアンロジピン(amlodipine)が高血圧症患者においてCRP水準を有意に変えないことを見出したが、Takase H他(非特許文献5)はニフェジピン(nifedipine)が狭心症患者の冠状静脈洞において長期処置後にCRP水準を低下させることを見出した。
【0022】
スタチン類またはある種のジヒドロピリジンカルシウム−チャンネル遮断剤の使用の別の有利な面は心筋層を例えば心筋梗塞または発作の如き心臓血管事象に関連する損傷から
保護するそれらの能力によるものである。
【0023】
例えば、シンバスタチンは正常コレステロールラット心臓における虚血−再灌流心筋層を保護することが見出された(非特許文献6)が、Sakuraguchi他(非特許文献7)はCCB類であるマニジピンおよびベニジピン(benidipine)が虚血−再灌流のインビトロモデル(単離されたラット心臓)において相対的な心臓保護を示すことを示した。
【0024】
以上で報告されたことに鑑みて、抗高血圧症剤およびスタチンの効果的な組み合わせが追加または相乗的な方法で心臓血管疾病の危険因子に作用することができ、さらに心臓保護効果も与えうることは非常に有利であろう。
【0025】
先行技術
Imai Y他の文献(非特許文献8)は、軽度の腎機能不全および高脂血症の他に高血圧症のある患者における総コレステロール水準に対するプラバスタチンの効果が調査された。
【0026】
とりわけ、血圧、血清合計コレステロール、HDLコレステロールおよびトリグリセリド類のパラメーターが測定された。
【0027】
患者は試験中はジヒドロピリジンCCB類で処置され、そして、表2に従い、それらの中の6人が16.0±5.5mgのマニジピンを摂取した。
【0028】
種々のジヒドロピリジン類を摂取する患者群は同定されず、そして得られた結果が、処置のタイプとは独立して、一緒に報告されていた。
【0029】
試験の目的は、プラバスタチンが軽度の腎機能不全のある患者において血清の総−およびLDL−コレステロール水準を低下しうるかどうかを調査することであった。結果は、プラバスタチン処置が血清の総コレステロール水準を251.4mg/dlから218.2mg/dlに、そしてその結果としてプラバスタチン単独に関して先行技術で報告されたもの(20%より多い)より少ない程度(約13%)、低下させたことを示している。
【0030】
血圧は試験の間に変化しなかった。
【0031】
Jukema他の論文(非特許文献9)は、CCB類で処置した患者におけるアテローム硬化症の進行に関するプラバスタチンの効果を評価するための退行成長評価スタチン試験(Regression Growth Evaluation Statin Study)(REGRESS)と称する臨床試験の事後分析を取り扱っている。
【0032】
しかしながら、REGRESS試験はCCB投与の効果を試験するために企画されておらず、そして著者自身は脂質−低下療法に対するCCB添加の有益な効果に関して明確な結論を引き出しえないことを認識している(429頁、2欄、11−14行)。さらに、著者は全てのCCB類またはこれらの薬品の一部だけがプラスバスタチンの抗アテローム硬化症効果を拡大しうるかどうかはわからないことも言及していた。
【0033】
CCB類の中にマニジピンは挙げられていない。
【0034】
アテローム硬化症に対する可能な有益な効果に鑑みて、ジヒドロピリジンカルシウム−チャンネル遮断剤と脂質低下剤、特にスタチン、との組み合わせも特許文献に開示されていた。
【0035】
Pfizerの名前の特許文献2(‘259)は、アンロジピンとアトルバスタチン並びにそれらの製薬学的に許容可能な塩類との製薬学的組み合わせ、そのような組み合わせを含有するキット、並びに狭心症、アテローム硬化症、合併した高血圧症および高脂血症に罹っている患者を処置するため並びに心臓危険性の徴候を表わしている患者を処置するためのそのような組み合わせの使用方法を開示している。
【0036】
本文で、この組み合わせの抗アテローム硬化症、抗狭心症、抗高血圧症および抗脂血症効果は2種の活性成分を別個に投与することにより得られる抗狭心症効果より大きいことが報告されている。この組み合わせの効果は悪性の心臓事象に罹る危険性のある哺乳動物における心臓危険性を管理するためのものであることも報告されており、その効果は2種の活性成分を別個に投与することにより得られる心臓危険性管理効果の合計より大きい。
【0037】
実施例で、本発明の組み合わせの有用性がアテローム硬化症、狭心症、高血圧症の処置並びに心臓危険性の管理に関する臨床処方における活性により示される。
【0038】
特に、この組み合わせは現存する心臓動脈疾病の進行を遅延もしくは停止させるか、または退行させる際に有効であることが見出されている。
【0039】
特許文献3(‘260)および特許文献4(’263)は、アトルバスタチンもしくはその製薬学的に許容可能な塩とアンロジピンでない抗高血圧症剤およびその塩との製薬学的組み合わせ、並びにアンロジピンもしくはその製薬学的に許容可能な酸付加塩とスタチン類もしくはそれらの製薬学的に許容可能な塩との製薬学的組み合わせに関する同様な出願である。
【0040】
Masonの名義の特許文献5もアンロジピンとアトルバスタチンまたはアトルバスタチン代謝産物のいずれかとの組み合わせに関する。この組み合わせは人間の低密度リポ蛋白質(LDL)およびポリ不飽和脂肪酸類に富んだ膜小胞における脂質過酸化に対する相乗的な酸化防止効果を示す。
【0041】
さらに最近では、Fograi他(非特許文献10)は悪化したフィブリン溶解により特徴づけられるインスリン耐性のある高血圧性高コレステロール血症患者における血清組織プラスミノーゲン活性化剤(t−PA)および阻害剤(PAI−1)活性に対するアンロジピン−アトルバスタチン組み合わせの効果を評価した。
【0042】
結果は、インスリン敏感性の悪化した高血圧性高コレステロール血症患者ではアンロジピン−アトルバスタチン組み合わせが単一療法よりフィブリン溶解均衡を改良し且つ血圧を低下させることを示唆している。
【0043】
Bayerの名義の特許文献6は、少なくとも一種のジヒドロピリジン化合物、例えばニフェジピンまたはラシジピン(lacidipine)、好ましくはニフェジピン、およびHMG−CoAレダクターゼ阻害剤、好ましくはセリバスタチン(cerivastatin)、の組み合わせ、心臓血管疾病を処置するためのこの組み合わせの使用、この組み合わせを含有する薬品並びにそれらの製造に関する。
【0044】
発明者は一般的に、この発明の組み合わせが相乗的な酸化防止効果を示すため2種の活性成分の服用量を減じうることを述べている。
【0045】
彼らは、ニフェジピンおよびセリバスタチンの組み合わせが高血圧症、心不全および他の心臓血管疾病の処置に有効であることがわかったとも述べている。調剤の例だけが報告
されている。
【0046】
文献で提案されたカルシウム−チャンネル遮断剤およびスタチンの間の別の組み合わせは、アンロジピンおよびシンバスタチン、ラシジピンおよびシンバスタチン、アンロジピンおよびロバスタチン、ニフェジピンおよびロバスタチン、並びにフェロジピン(felodipine)およびシンバスタチンを含んでなる。
【0047】
特許文献7は、全身的炎症のマーカーの正常より高い水準を有することが既知である患者を選択しそしてカルシウム−チャンネル遮断剤、β−アドレナリン作用性受容体遮断剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤、またはアンギオテンシン系統阻害剤から選択される剤を投与することを含んでなる患者を処置して心臓血管疾患の危険性を減ずる方法に関する。
【0048】
試験では、この方法が脂質低下剤を包含する同時投与される他の剤をさらに含んでなりうることが一般的に述べられている。
【0049】
全身的炎症のマーカーの中には、CRPおよび可溶性の細胞付着分子ICAM−1が挙げられている。
【特許文献1】欧州特許第94195号明細書
【特許文献2】国際公開第99/11259号パンフレット
【特許文献3】国際公開第99/11260号パンフレット
【特許文献4】国際公開第99/11263号パンフレット
【特許文献5】国際公開第00/64443号パンフレット
【特許文献6】国際公開第01/21158号パンフレット
【特許文献7】国際公開第01/15744号パンフレット
【非特許文献1】Jain M et al Nat Rev Drug Discov 2005,4(12),977−987
【非特許文献2】Nawawi H et al Atherosclerosis 2003,169,283−291
【非特許文献3】Ridker P M et al New Engl J Med 2005,352,20−28
【非特許文献4】Yasunari K et al J Am Coll Cardiol 2004,43,2116−2123
【非特許文献5】Takase H et al,Am J Cardiol,May 2005,95,1235−1237 issued on−line on 9.07.2004
【非特許文献6】Allan M et al Circulation 1999,100,178−184
【非特許文献7】Sakaguchi et al,Circulation 2004,68,241−246
【非特許文献8】Imai Y et al,Clin Exper Hyper 1999,21(8),1345−1355
【非特許文献9】Jukema et al issued on Arterioscler Thromb Vasc Biol.1996 16(3),425−30
【非特許文献10】Fogari et al,J Hypertens 22 (Suppl 2)2004,S365
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0050】
抗高血圧症剤、そして特にジヒドロピリジン、を脂質低下剤、そして特にスタチン、と組み合わせて含んでなる数種の組成物が先行技術で提案されているが、心臓血管疾病の予防および処置のためのさらに有効な薬品に関する要望が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0051】
発明の目的
本発明は、(±)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボン酸2−[4−(ジフェニルメチル)−1−ピペラジニル]エチルメチルエステル(マニジピン)またはその生理学的に許容可能な塩およびスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩を含んでなる薬品を提供する。
【0052】
スタチンは有利にはロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンおよびロスバスタチンから選択される。
【0053】
好ましいスタチンの1種はシンバスタチンである。
【0054】
図面に関する説明
図面は虚血−再灌流にかけられた灌流ラット心臓標本における左心室端部−拡張期血圧(LVEDP)の時間経過を示す。心臓を5連続日にわたりマニジピンおよびシンバスタチンで単独または組み合わせて経口処置したラットから切除した。棒グラフはLVEDP曲線(右パネル)に関する曲線下面積(AUC)の定量化を示す。データは1群当たり8個の心臓の平均値±SEMである。対照に対してP<0.05、**P<0.01、***P<0.001;シンバスタチン単独に対してP<0.01。
【0055】
発明の詳細な記述
本発明は、心臓血管疾病の処置および/または予防のためのスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩との組み合せによる、(±)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボン酸2−[4−(ジフェニルメチル)−1−ピペラジニル]エチルメチルエステル(マニジピン)またはその生理学的に許容可能な塩の使用に関し、該疾病はアテローム硬化症、合併した高血圧症および高脂血症、冠状心臓疾病または冠状動脈疾病(CAD)、狭心症、心筋梗塞(心臓発作)並びに発作を包含する。
【0056】
特定の態様では、本発明はマニジピンまたはその生理学的に許容可能な塩と、スタチンまたはその生理学的に許容可能な塩との固定された組み合わせを含んでなる薬品に関する。
【0057】
別の態様では、本発明はa)第一の単位投薬形態における、治療的に有効な量のマニジピンまたはその生理学的に許容可能な塩および製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、b)第二の単位投薬形態における、治療的に有効な量のスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩および製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、並びにc)該第一および第二の投薬形態を含有するための容器手段を含んでなるキットにも関する。
【0058】
予備的な臨床試験では、マニジピンは本発明の組み合わせではアテローム硬化症および炎症の複数の危険因子に対して追加的および/または相乗的な方法で作用することが実際に見出された。
【0059】
マニジピンとスタチンとの組み合わせ投与は、収縮期および拡張期血圧(SBPおよびDBP)の両方を、マニジピン単独の場合と比べて有意に低下させ、そして総コレステロール水準を低下させる。
【0060】
この組み合わせはフィブリン溶解均衡も改良し、そして悪化したフィブリン溶解も心臓血管疾病の危険因子として記載されているため、このことは別の利点である。
【0061】
さらに、組み合わせ処置はそれぞれの単一薬品と比べてICAM−1水準の低下に対する相乗的効果も与える。
【0062】
追加の効果は、炎症および心臓血管疾病の進行の危険性に関連する別のマーカーである、CRP水準の低下に関しても生ずる。
【0063】
炎症のマーカーの低下は特に驚異的であり、そしてジヒドロピリジンカルシウム−チャンネル遮断剤とスタチンとの間の組み合わせに関しては、これまでに開示されていなかった。
【0064】
マニジピンとスタチンとの本発明の組み合わせの心臓保護効果も調査された。
【0065】
単離された灌流ラット心臓を用いて行われた試験では、5連続日にわたり経口的に与えられたマニジピンとシンバスタチンとの組み合わせ投与が、虚血後の心室機能不全の顕著な抑制を引き起こすことが見出された。該組み合わせにより誘発される心室硬直の低下および心筋収縮の回復は、相乗タイプの薬力学的相互作用と一致するようである。
【0066】
本出願に開示される発見により、スタチンと組み合わされたマニジピンは、心臓血管疾病を有効に処置または予防する療法のため、並びに、例えば心筋梗塞および発作の如き心臓血管事象に関連する心筋損傷から患者を保護するために有用であることがわかるであろう。
【0067】
マニジピンまたはその生理学的に許容可能な塩、および、スタチンまたはその生理学的に許容可能な塩は、別個にまたは一緒に、好ましくは一緒に、決められた量および量比(quantitative ratio)で決められた組み合わせとして投与できる。
【0068】
マニジピンは好ましくは塩酸塩の形態で使用される。
【0069】
決められた組み合わせでのマニジピンの投薬量(dosage amount)は5〜30mgの間である。好ましくは、塩酸塩としてのマニジピンの投薬量は10〜20mgの間である。
【0070】
有利には、スタチンはロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンおよびロスバスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩、例えばナトリウム塩、から選択される。
【0071】
好ましいスタチンの1種はシンバスタチンである。
【0072】
使用できる他のスタチン類はリバスタチン(rivastatin)、メバスタチン(mevastatin)、フルインドスタチン(fluindostatin)、ベロスタチン(velostatin)、ダルバスタチン(dalvastatin)、ジヒドロコンパクチン(dihydrocompactin)、コンパクチン(compactin)である。
【0073】
マニジピンおよびスタチンを、本発明の固定された組み合わせで使用できる比は、可変的である。スタチンの選択によって、本発明の範囲内で使用できる投薬量はそれぞれの治
療投薬範囲(therapeutic dosage ranges)に基づき変動する。
【0074】
有利には、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンおよびロスバスタチンから選択されるスタチンが使用される場合には、それは下記の薬用量で投与される:
シンバスタチン、一般的に2.5mg〜160mg、そして好ましくは10mg〜80mg;
プラバスタチン、一般的に2.5mg〜160mg、そして好ましくは10mg〜40mg;
フルバスタチン、一般的に2.5mg〜160mg、そして好ましくは20mg〜80mg;
および
ロスバスタチン、一般的に2.5mg〜160mg、そして好ましくは10mg〜80mg。
【0075】
本発明の好ましい固定された組み合わせの1つでは、10〜20mgの投薬量のマニジピン塩酸塩が10〜80mg、好ましくは40〜80mg、の投薬量のシンバスタチンと組み合わされる。
【0076】
本発明の組み合わせは有利には製薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含んでなる経口投与のための製薬学的組成物の形態で投与される。
【0077】
経口投与のための製薬学的組成物は有利には錠剤またはカプセル剤、好ましくは錠剤、の形態で投与できる。
【0078】
或いは、マニジピンおよびスタチンが別個に投与される場合には、個別成分を別個に調合することができる。この場合、2種の個別成分を絶対的に同時に摂取しなければならないわけでなく、ある種の場合には異なる時間における摂取が、最適な効果を得るために有利でありうる。特にマニジピンは朝に摂取されそしてスタチンは夕方(evening)に摂取されるであろう。そのような別個投与の場合には、2種の個別成分の調剤、例えば錠剤またはカプセル剤、を同時に適当な容器手段の中に包装することができる。適当な容器手段の中での成分のそのような別個包装もキットとして記載される。
【0079】
従って、本発明はa)第一の単位投薬形態における、治療的に有効な量のマニジピンまたはその生理学的に許容可能な塩および製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、b)第二の単位投薬形態における、治療的に有効な量のスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩および製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、並びにc)該第一および第二の投薬形態を含有するための容器手段を含んでなるキットにも関する。
【0080】
本発明の組み合わせは広範囲の作用分野を有する。それは主として心臓血管疾病、例えば狭心症、アテローム硬化症、合併した高血圧症および高脂血症、冠状心臓疾病または冠状動脈疾病、心筋梗塞および発作、の処置および予防のために使用される。しかしながら、それは再狭窄、移植動脈症、一時的虚血発作、血管血栓崩壊、心不全および心停止を包含する他の心臓血管疾病の処置においても有用でありうる。
【0081】
以下の実施例が本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0082】
実施例1−高血圧性高コレステロール血症患者における、単独および組み合わせての、マニジピンおよびシンバスタチンの効果
この試験の目的は、高血圧性高コレステロール血症患者における、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤(t−PA)および阻害剤(PAI−1)活性に対する、血漿細胞内付着分子タイプー1(ICAM−1)に対する並びに血清C−反応性蛋白質(CRP)に対するマニジピン−シンバスタチン組み合わせの効果を評価することであった。
【0083】
4週間の偽薬最終局面期間後に、30人の高血圧性高コレステロール血症患者にマニジピン20mgまたはシンバスチチン40mgまたはマニジピン−シンバスタチン組み合わせ処置を3×3交差設定に従い無作為に指定し、各処置は12週間の期間を有していた。
【0084】
偽薬最終局面期間および各処置期間の最終日に血圧を測定しそして静脈血液試料を(朝の同じ時間に)採取して血漿t−PAおよびPAI−1活性、TC血漿、ICAM−1およびCRPを評価した。
【0085】
主な結果を以下の表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
報告された結果から認識できるように、マニジピンの単独療法は収縮期および拡張期血圧(SBPおよびDBP)平均値の両方の低下において有意に効果的であった。シンバスタチンを用いる処置は、マニジピンと比べるとより少ない程度であるが、SBPを低下させた。
【0088】
マニジピンおよびシンバスタチンを用いる組み合わせ療法はSBP(−22.7mmHg、偽薬に対してp<0.0001)およびDBP平均値(−18.8mmHg、偽薬に対してp<0.001)の両方においていずれかの薬品の単独の場合より大きい低下をもたらした。
【0089】
シンバスタチンは合計コレステロール(−52.7mg/dl、偽薬に対してp<0.05)平均値を有意に低下させた。マニジピンの添加はシンバスタチンの脂質−低下効果を有意には変えなかった。
【0090】
マニジピン単独処置は血漿PAI−1活性に影響しなかったが、t−PA活性を有意に増加させた(+0.22U/ml、偽薬に対してp<0.05)。シンバスタチン単独療法はPAI−1を有意に低下させ(−8.5U/ml、偽薬に対してp<0.05)そしてt−PA活性に有意に影響しなかった。
【0091】
この組み合わせはPAI−1における有意に大きい低下(−8.7U/ml、偽薬に対してp<0.05)およびt−PA活性における増加(+0.24U/ml、偽薬に対してp<0.05)をもたらした。
【0092】
マニジピン(−17.6ng/ml、偽薬に対してp<0.05)およびシンバスタチン(−30.4ng/ml、偽薬に対してp<0.05)の両方はICAM−1水準の低下において有効であった。興味あることに、組み合わせ療法はICAM−1平均値(−47.7ng/ml、偽薬に対してp<0.01)をさらに低下させたことが見出された。
【0093】
追加の効果も心臓血管疾病を進行させる相対的危険性に関係する他のマーカーであるCRP水準の低下に対する組み合わせ処置により生じたと思われる。
【0094】
得られた結果は、特にICAM−1およびCRPに対する効果の点から、本発明の組み合わせが心臓血管疾病の危険因子を低下させるための有用な処置でありうることを示唆している。
【0095】
実施例2−虚血−再灌流により誘発される心筋層損傷の防止における、単独および組み合わせての、マニジピンおよびシンバスタチンの効果
この試験の目的は、ラットにおける心筋層虚血−再灌流に対するマニジピン−シンバスタチン組み合わせの保護効果を評価することであった。
【0096】
試験はこれまでに記載された方法(Rossoni G et al Pharmacol Exp Ther.2003 307(2),633−9)に従い行われた。
【0097】
雄のウィスターラットを6群(n=1群当たり6−8匹のラット)に無作為に分けた。マニジピン(1mg/kgおよび3mg/kg)並びにシンバスタチン(1mg/kg)を単独でまたは組み合わせて経口胃管栄養法により1日1回5連続日にわたり投与した。
【0098】
以下のパラメーターが測定された:
i)左心室端部−拡張期血圧(LVEDP)および左心室進行期血圧(LVDevP、ピーク左心室収縮期マイナスLVEDP)、
ii)心臓灌流液中のクレアチンキナーゼ(CK)およびラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)の活性。
【0099】
データは平均値±S.E.M(平均の標準偏差)として表示された。
【0100】
対照動物からの心臓標本では、活動停止後に虚血がLVEDPにおける徐々の上昇を誘発し、約20分でピークに達し(5±1〜37±4mmHg、P<0.001)、それは再灌流中でも実質的に未変化のままであった。マニジピンで経口処置されたラットからの心臓標本では、虚血および再灌流期間中のLVEDPにおける上昇は使用される服用量(dose)に応じて有意に低下した。対照的に、シンバスタチン(1mg/kg)で処置されたラットから得られた心臓標本では、LVEDP値の上昇はベヒクルで処置されたラットのものとほとんど同様であった。組み合わせ処置(マニジピン1または3mg/kg+シンバスタチン1mg/kg)で処置されたラットから得られた心臓が虚血−再灌流にかけられた場合には、VEDPの値は単独処置のものより有意に低く(P<0.01)、再灌流の最後に左心室堅さにおける相応する低下をもたらした(図1)。これらの結果は、それ自体ではほとんど無効である服用量(1mg/kg)で投与されるスタチンがマニジピン(1または3mg/kg)と組み合わされる場合には、マニジピン単独で観察されるものより有意に大きい顕著な抗−虚血効果を与えることを明らかに示している。マニジピン/シンバスタチン組み合わせで得られる有利な効果は、より大きい収縮性の回復並びに再灌流期間中の心臓灌流液中のCKおよびLDHの低下により確認された。まとめると、これらの結果は再灌流時の虚血および心室機能不全の低下におけるマニジピンおよびシンバスタチンの間の相乗的相互作用を示しているようである。
【0101】
マニジピンとスタチンの組み合わせは従って、虚血後心室機能不全に関連する損傷から心筋層を保護するための有効な療法でありうる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は虚血−再灌流にかけられた灌流ラット心臓標本における左心室端部−拡張期血圧(LVEDP)の時間経過を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓血管疾病の処置または予防のための、スタチン(statin)または生理学的に許容可能な塩との組み合わせにおける、(±)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボン酸2−[4−(ジフェニルメチル)−1−ピペラジニル]エチルメチルエステル(マニジピン(manidipine))または生理学的に許容可能な塩の、医薬としての使用であって、ここで該使用が該心臓血管疾病の危険因子を低下させる使用。
【請求項2】
組み合わせが、マニジピンをスタチンと一緒に決められた量および量比で含有する、決められた組み合わせである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
組み合わせが、a)第一の単位投薬形態における、治療的に有効な量のマニジピンまたはその生理学的に許容可能な塩および製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、b)第二の単位投薬形態における、治療的に有効な量のスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩および、製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、並びにc)該第一および第二の投薬形態を含有するための容器手段を含んでなるキットである請求項1に記載の使用。
【請求項4】
危険因子が高血圧症および高脂血症の合併症状である請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
高脂血症の症状が高コレステロール血症である請求項4に記載の使用。
【請求項6】
危険因子が炎症およびそのマーカーである請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
該炎症のマーカーが細胞間付着分子タイプ−1(ICAM−1)および/またはC−反応性蛋白質(CRP)である請求項6に記載の使用。
【請求項8】
マニジピンが5mg〜30mgの間に含まれる量で投与される前記請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
マニジピンの量が10mg〜20mgの間に含まれる請求項8に記載の使用。
【請求項10】
スタチンがロバスタチン(lovastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)およびロスバスタチン(rosuvastatin)から選択される前記請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
スタチンがシンバスタチンである請求項10に記載の使用。
【請求項12】
心臓血管疾病がアテローム硬化症、冠状動脈疾病(CAD)、心筋梗塞(心臓発作)、発作および狭心症から選択される前記請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
心臓血管疾病の処置または予防のための製薬学的組成物の製造のための、決められた組み合わせとしての、決められた量比の、マニジピンまたは生理学的に許容可能な塩およびスタチンまたは生理学的に許容可能な塩の使用。
【請求項14】
a)決められた組み合わせとしての、決められた量および量比の、マニジピンまたはその生理学的に許容可能な塩およびスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩、並びに
b)製薬学的に許容可能な担体または希釈剤
を含んでなる製薬学的組成物であって、ここでマニジピンが5〜30mgの間に含まれる量であり、そしてスタチンが10〜80mgの間に含まれる量である製薬学的組成物。
【請求項15】
マニジピンが塩酸塩の形態である請求項14に記載の製薬学的組成物。
【請求項16】
スタチンが40〜80mgの間に含まれる量のシンバスタチンである請求項14または15に記載の製薬学的組成物。
【請求項17】
該製薬学的組成物が経口投与に適する形態にある請求項14〜16のいずれか1項に記載の製薬学的組成物。
【請求項18】
該製薬学的組成物が錠剤またはカプセル剤の形態にある請求項17に記載の製薬学的組成物。
【請求項19】
a)第一の単位投薬形態における、治療的に有効な量のマニジピンまたはその生理学的に許容可能な塩および製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、b)第二の単位投薬形態における、治療的に有効な量のスタチンまたはその生理学的に許容可能な塩および製薬学的に許容可能な担体または希釈剤、並びにc)該第一および第二の投薬形態を含有するための容器手段を含んでなるキット。
【請求項20】
マニジピンの量が5mg〜30mgの間に含まれる請求項19に記載のキット。
【請求項21】
スタチンの量が2.5mg〜160mgの間に含まれる請求項19に記載のキット。

【図1】
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【公表番号】特表2008−530153(P2008−530153A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555496(P2007−555496)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001024
【国際公開番号】WO2006/087117
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(591095465)キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニ (12)
【Fターム(参考)】