説明

マラリア・プラスモジウム抗原ポリペプチドSE36変異体、その精製方法、並びにこれより得られる抗原を用いるワクチン及び診断剤

【課題】量産化しうる、安全性、有効性の高いマラリアワクチン及び診断剤を提供する。
【解決手段】マラリア原虫由来の抗原SE36の配列の一部を、アミノ酸置換、オリゴペプチド付加、又はオリゴペプチド決失させたSE36変異体遺伝子を合成し、SE36変異体を大腸菌で量産し、高度精製する。SE36変異体に特異的に結合するヒトIgG3抗体は、赤血球内での原虫の増殖を極めて有効に防止し、その結果、発熱の抑制、脳性マラリアの抑制をもたらし、致死の防止を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱帯熱マラリア原虫、プスモジウム(Plasmodium falciparum)のSERA(serine−repeat antigen)由来の抗原ポリペプチドと、その精製方法、並びにこれより得られる精製抗原を有効成分として用いるマラリアワクチン及び診断剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マラリアは、1種、又はそれ以上のマラリア原虫(Plasmodium)の感染により生じ、これには次の4種、熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum、以下「Pf」と略記する)、三日熱マラリア(P.vivax)、四日熱マラリア(P.malariae)及び卵型マラリア(P.ovale)が知られている。上記原虫は、ハマダラカ属(Anopheles)の雌カの刺咬により、その唾液腺からsporozoiteの状態でヒト体内に侵入し感染する。尚、原虫の生活環の概要は次の通りである:
[カ]原虫の有性増殖によるsporozoiteの形成→<刺咬>→
[ヒト]sporozoite<血中への侵入>→<肝細胞内への侵入>
→[赤血球外期]肝細胞でのsporozoite→schizont→
merozoiteの形成・肝細胞破壊による血中への
放出→<merozoiteの赤血球内への侵入>
→[赤血球内期]merozoite→ring→trophozoite
→schizontの無性増殖→merozoiteの
形成・赤血球破壊による血中への放出サイクルの反復→
<発症>; 又は
merozoite→雌雄のgametocyteへの
分化→<吸血>→
[カ]雌雄gametocyte→雌雄gamete→有性生殖→
ookineteへの分化→oocyteへの分化・増殖→
sporozoiteの形成・唾液腺への移動。

また、この発明に係る上記マラリア原虫(Pf)の抗原に関し、以下に示す合計約40に及ぶ多種多様な抗原の存在が報告されている:例えば、上記の生活環の赤血球内期(intra−erythrocytic stage)ではSERA(serine−repeat antigen;別名、SERP:serine−rich protein)、HRP−2(histidine−rich protein−2)等;メロゾイト(merozoite)ではMSP−1(merozoit surface antigen−1)、MSP−2(merozoit surface antigen−2)、AMA−1(apical membrane antigen−1)等;スポロゾイト(sporozoite)−赤血球外期(exo−erythrocytic stage)ではSSP−2(sporozoite surface antigen−1)、LSA−3(liver−specific antigen−3)等;更に、有性増殖期(sexual stage)ではPfs230,Pfs45/48等(“Topley & Wilson´s Microbiology and Microbial Infections”,第9版、volume 5−Parasitology,p.383,L.Collierら著,Arnold社1998年発行)。また、これ等の抗原を単独、混合、あるいは遺伝子DNAのかたちで用いるワクチンの開発が精力的に試みられてはいるが、実用化されたワクチンは未だ知られていない(“The Jordan Report 2000”,pp.141−142,米国National Institute Health 2000年発行)。
【0003】
更に、この発明に係る前記SERA(あるいはSERP)とその遺伝子を用いるマラリアワクチンの製造に関する従来技術として、例えば、欧州特許第283,882号(SERPの140kd抗原遺伝子の第1882−1917番塩基、第2403−2602番塩基、及び第2602−2631番塩基がコードする親水性エピトープ)、米国特許第5,395,614号(SERPエピトープとHRP−2との融合タンパク)、米国特許第6,024,966号(2種のプローブAとBで同定される遺伝子がコードするSERA抗原ポリペプチド)、また、SERAの47kdに由来のSE47´の発現系と、この系におけるSE47´抗原の生産に関する報告(Vaccine,14,pp.1069−1076,1996)等が知られてはいるが、これ等のワクチン抗原の免疫原性や純度等は不十分であり、また、精製工程が量産化には不向きである。更に、その安全性、有効性、又は均質性に係る保証が不明であり、これ等の解決には製造工程に格段の創意や進歩を要する。そのため、これ等の実用化は未だ達成されていない。
【0004】
ところで、SERA(serine−repeat antigen)は、赤血球内期のPf遺伝子により発現される合計989アミノ酸からなる分子量が115kdのタンパク抗原であり、その構造はN末端からC末端方向に順に、47kd−50kd−18kdの3つのドメインからなる。これ等のドメインの前駆体としてのSERAは、合計5868塩基からなるSERA遺伝子DNA上に分散する4つのエキソンによる発現後、赤血球内期でのメロゾイト放出の際にプロセッシングされ、上記3ドメインに開裂する(Molecular and Biochemical Parasitology,86,pp.249−254,1997;及びExperimental Parasitology,85,pp.121−134,1997)。尚、SERA遺伝子DNAとこれがコードするアミノ酸配列の完全長データはGenBankで公開され入手可能である(Accession Number:J04000;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。また、SERAのN末端領域(以下「47kdドメイン」と表記する)は、合計382アミノ酸からなり、その配列に係るPf株間のホモロジー検索によれば、アミノ酸の欠失や付加の領域、約20ヵ所におけるアミノ酸の変異(非同義置換)等の散在が見られ多様である(Molecular and Biochemical Parasitology,同前;及びExperimental Parasitology,同前)。
【0005】
マラリアは世界において、急性下気道感染症、エイズ、及び下痢症に次ぐ多発感染症であり、WHO(World Health Organization)の推計によれば、1999年の罹患は約4,500万例、そのうち約110万例が死亡している(The World Health Report 2000,p.164,及びp.170,WHO2000年発行)。かかる高い死亡率は、重篤な熱帯熱マラリア、いわゆる脳性マラリアによるものであり、その主な原因は、Pf増殖に伴う破壊赤血球の破片の脳血管内での滞積による脳血栓にあり、感覚鈍麻、うわごと、異常行動、痙攣等を経て死に至ると考えられており、かかる脳性マラリアの回避は最重要課題であるといっても過言ではない。
【0006】
また、マラリア多発の理由として、quinine、chloroquine、pyrimethamine−sulfadoxine、mefloquine、halofantrine等の抗マラリア剤に対する薬剤耐性あるいは多剤耐性マラリア原虫の出現と蔓延が提起されている。1950年代末、南米と東南アジアでのクロロキン耐性Pfの出現が報告されて以来、かかる耐性原虫は現在、中米、カリブ海及び中近東の一部を除く熱帯〜亜熱帯のマラリア発生諸国のほぼ全域に広がり、非常手段としてDDT散布が余儀なく勧告されるほど、マラリア制圧は国交頻度が激化する今日の保健行政上のグローバル課題となっている(WHO Expart Committee on Malaria:Technical Report Series、No.892、pp.1−71、2000、WHO発行)。
【0007】
更に、地球温暖化によるマラリア発生地域の拡大が将来課題として既に危惧されており(Science、289、1763−1766、2000)、今や、マラリア対策は全人類に逼迫した緊急の課題となっている。
【0008】
特に、マラリアのワクチン開発に関し、これまで世界各国においてこのワクチン開発に多大の努力と精力が払われてきたにも拘らず、未だ有効なワクチン完成に至らない主な原因として、次の(a)〜(c)の課題が上げられる:(a)マラリア抗原は、前述の通り多種多様であるため、かかる抗原からの感染防御抗原の特定が困難かつ曖昧である;(b)マラリア抗原は遺伝子多型であり、Pf原虫株により互いに抗原性が異なる。従って、Pf由来の単一抗原、例えば、MSP−1やAMA−1等の周知のワクチン候補抗原は、抗原性のスペクトルが狭く、どのようなPf株に対しても感染予防に必ずしも有効ではない;及び(c)上記のMSP−1やAMA−1等のワクチン候補抗原に知られるように、精製工程下で変性し、立体構造あるいはエピトープが破壊され、その抗原性が低下したり消失する。
【発明の開示】
【0009】
この発明は、熱帯熱マラリア原虫PfのSERA由来のタンパク抗原(ポリペプチドSE36)と、これをコードする合成ポリヌクレオチド、ポリペプチドSE36の精製方法、並びにこれより得られる精製抗原を有効成分として用いるマラリアワクチン及び診断剤を提供することにより、上記課題を解決する。
【0010】
尚、特筆すべきは、この発明が、前述(a)〜(c)の課題に対応した次の発見と知見に基づいていることである:(a)本発明に係るSE36抗原に対するIgG3抗体価が、マラリア流行地域住民のマラリアに対する獲得免疫とほぼ完全に相関するという驚くべき発見、及びかかる住民の血清中の上記IgG3抗体は赤血球内でのPf増殖を阻止するという知見(Pf増殖阻止により、マラリアによる発熱及び赤血球破壊の抑制、ひいては脳性マラリアによる死亡の防止が達成される);(b)このSE36抗原は、抗原性のスペクトルが広く、SERA47kdドメインに見られる遺伝子多型の代表的なタイプであるFCR3、Honduras−1、及びK1の3株(Molecular and Biochemical Parasitology,同前)の共通抗原として機能し、前記IgG3抗体は、中和反応により、これ等の全タイプのPf原虫の増殖を阻害するという発見;及び(c)量産下でのSE36抗原の抗原性あるいはエピトープが、破壊ないしは損なわれない精製方法の発見。
【0011】
この発明は、前記のとおりの発見および知見に基づき、以下の(1)−(10)の発明を提供する。
(1)配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列において、次のアミノ酸置換:
第19番のGlyがVal;
第128番GluがLys;
第157番GlyがSer;
第160番GlyがSer;
第172番ProがSer;
第178番GluがVal;
第179番SerがAsn;
第180番LeuがPro;
第185番ProがAla;
第186番AspがGly;
第188番ProがThr;
第189番ThrがPro;
第190番ValがAsp;
第191番LysがAla;
第192番ProがLys;
第193番ProがLys;
第194番ArgがLys;
第219番IleがLeu;
第252番SerがAsn;
第273番AlaがSer;
第274番LeuがIle;および
第327番AsnがLys
の1または数個を有するポリペプチドSE36変異体。
(2)配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列における第18番Glyと第19番Glyとの間に、配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが付加したポリペプチドSE36変異体。
(3)配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列における第42番Alaと第43番Serとの間に、配列番号8のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが付加したポリペプチドSE36変異体。
(4)配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列における第19番Glyから第26番Glyまでのアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが欠失したポリペプチドSE36変異体。
(5)配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列における第163番Thrから第175番Aspまでのアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが欠失した請求項1のポリペプチドSE36変異体。
(6)前記(1)から(5)のポリペプチドSE36変異体より選択される少なくとも1種のポリペプチドを有効成分として含有することを特徴とするマラリアワクチン。
(7)前記(1)から(5)のポリペプチドSE36変異体より選択される少なくとも1種のポリペプチドを有効成分として含有することを特徴とするマラリア診断剤。
(8)前記(1)から(5)のいずれかのポリペプチドSE36変異体をコードする合成DNA断片。
(9)前記(8)の合成DNA断片によって形質転換した大腸菌の培養液から集菌の後、菌体破砕、塩析による分画、膜濾過、Sephacryl S-300またはS-200カラムクロマトグラフィー、Octyl Sepharose疎水性カラムクロマトグラフィー、塩析による沈殿、膜濾過、Sephacryl S-300またはS-200カラムクロマトグラフィー、及び透析の順序で、これ等の各工程を行うことを特徴するポリペチドSE36変異体の精製方法。
(10)ポリペプチドSE36変異体の濃度が10〜100μg/mlになるように調整した後に透析を行う前記(10)の精製方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ポリペプチドSE36分子の基本構造:
この発明に係るポリペプチドSE36(以下「SE36」と略記する)は、前述した熱帯熱マラリア原虫PfのHonduras−1株のSERAドメイン47kd(以下「47kd」と略記する)を基礎とするSE47´抗原(Vaccine,14,pp.1069−1076,1996;以下、「SE47´」と略記する)に由来し、47´kdのセリン反復領域の全長又は一部分が切除された基本構造からなる。SE36分子の基本構造と上記(Honduras−1株由来の)47´kdとの間のアミノ酸配列の相違を図1に、また、SE36分子の基本構造の全長アミノ酸配列を図2に、それぞれ示す。尚、これ等の図では、アミノ酸配列がNからC末端方向に左から右へ、アミノ酸1文字記号を用いて記載されている。また、図1では、前記Honduras−1株がHond−1と略記され、この株と他のPf株との間のホモロジー検索により検出される欠失領域は----で、同一のアミノ酸配列は……で、それぞれ表記されている。図1において、SE36の基本構造は、Hond−1の47kdを構成する合計382アミノ酸のN末端のメチオニンを起点(第1番アミノ酸)としてC末端方向に順次、序数付けした第16番アミノ酸(アスパラギン)のコドンを、開始コドン(メチオニン)に置換し、かつ、第382番アミノ酸(グルタミン酸)の後に翻訳停止コドンを隣接挿入し、更に、そのセリン反復領域を占める合計33個の重合セリン残基(第193番から第225番セリンまで)を切除した合計334アミノ酸からなるポリペプチドである。
【0013】
尚、上記の図1−2と対比される「配列表]において、[配列番号1]は、前記Honduras−1のSERAドメイン47kd遺伝子DNAの完全長塩基配列と、それがコードする47kd完全長アミノ酸配列を示す。
【0014】
[配列番号2]は、配列番号1に記載の47kdの完全長アミノ酸配列を示す。この配列は、合計382アミノ酸からなり、その第16〜382番アミノ酸までが、図1と後述する図3に記載の各Hond−1のそれと同じである。
【0015】
[配列番号3]は、SE36遺伝子の大腸菌コドンへの変換後の合成DNAの完全長塩基配列とそれがコードする完全長アミノ酸配列を示す。その第1番アミノ酸Metは、前記47kdの第16番アミノ酸Asnが開始コドンMetに置換された形になっている。また、塩基配列は、ほとんど全てのPfコドンから大腸菌コドンに変換されている。かかる大腸菌コドンへの変換に関しては後述される。
【0016】
[配列番号4]は、配列番号3に記載のSE36分子の基本構造としての完全長アミノ酸配列を示す。この配列は、図1に記載のSE36、及び図2に記載の各アミノ酸配列と同じである。
SE36の誘導体・変異体:
SE36の変異に関し、図3に例示する。この図は、図1に記載のHonduras−1株(Hond−1)のアミノ酸配列を基準に用い、図1と同じ約束でアミノ酸番号を付し、欠失は----、また、同一配列は……の表記により、他のPf株(HB3、T9/96、3D7、K1、T9/102、PA/7、及びCamp)の各アミノ酸配列を併記し、これ等の株間のアミノ酸配列の相違を示す。尚、図3では上記基準(Hond−1)と他の株との間のアミノ酸配列の変異又は相違の個所がアミノ酸1文字記号で示されている。
【0017】
以下、上記の図3に記載のアミノ酸変異の位置と領域、並びにこれ等のアミノ酸番号、及び配列表の配列番号4に記載のSE36基本構造のアミノ酸配列に基づき、図3と配列番号4の両記載を対応させ、SE36の誘導体あるいは変異体の構成と態様につき説明する。
【0018】
SE36分子の基本構造は、図2(配列番号4)に示す通り、合計334アミノ酸からなるポリペプチドであるが、この構造の加工、変形、修飾等により、その誘導体あるいは派生体、修飾体、変異体等を得ることができる。これ等は、図3の記載に基づくアミノ酸の非同義置換、オリゴペプチドの付加あるいは欠失、及びセリン反復(serine−repeat)領域を占める重合セリン残基数の制限、また、47kdエピトープ(Experimental Parasitology,同前)の選択等の単独利用あるいは適宜、組合せて用いることにより調製することができる。即ち、この発明によれば、次の(1)−(4)が可能である。
(1)配列番号4に記載のSE36のアミノ酸配列において次のアミノ酸置換(a)〜(v)から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸置換が可能である:
(a) 第19番のGlyがVal;
(b) 第128番GluがLys;
(c) 第157番GlyがSer;
(d) 第160番GlyがSer;
(e) 第172番ProがSer;
(f) 第178番GluがVal;
(g) 第179番SerがAsn;
(h) 第180番LeuがPro;
(i) 第185番ProがAla;
(j) 第186番AspがGly;
(k) 第188番ProがThr;
(l) 第189番ThrがPro;
(m) 第190番ValがAsp;
(n) 第191番LysがAla;
(o) 第192番ProがLys;
(p) 第193番ProがLys;
(q) 第194番ArgがLys;
(r) 第219番IleがLeu;
(s) 第252番SerがAsn;
(t) 第273番AlaがSer;
(u) 第274番LeuがIle;および
(v) 第327番AsnがLys。
(2)図3に記載のPf株間相互のアミノ酸配列の付加あるいは欠失を考慮し、配列番号4に記載のSE36のアミノ酸配列において、次のオリゴペプチドの付加、あるいは欠失の組合せ加工(i)〜(vi)が可能である:
(i)第18番Glyと第19Glyとの間に配列番号5のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドの付加;
(ii)第18番Glyと第19Glyとの間に配列番号6のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドの付加;
(iii)第42番Alaと第43番Serとの間に配列番号7のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドの付加;
(iv)第42番Alaと第43番Serとの間に配列番号8のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドの付加;
(v)第19番Glyから第26番Glyまでのアミノ酸配列からなるオリゴペプチドの欠失;
(vi)第163番Thrから第175番Aspまでのアミノ酸配列からなるオリゴペプチドの欠失。
(3)配列番号4に記載のSE36のアミノ酸配列において第175番Aspと第178番Gluとの間でペプチド結合により重合するセリン残基数が0〜30、好ましくは0〜20、更に好ましくは10を超えない範囲、即ち、0から10の範囲内が望ましい。かかるセリン残基数の制限は、35個の重合セリン残基を有する前述SE47´は精製が困難であり、その実用化に至らなかったという本発明者の経験(Vaccine、前出)、及びセリン反復領域の重合セリン残基数とSE36の物性との間の関係「重合セリン残基数の減少に伴い、SE36の水溶性あるいは可溶化性、更に、その抗原性あるいは免疫原性がいずれも高まる」という驚くべき発見に基づいている。この現象は、重合セリンの切除が、SE36分子の立体構造に変化をもたらし、そのエピトープを含む親水性領域が露出されることを示唆する。従って、この発明によれば、SE36を可溶化しその精製を容易にすると共に、その抗原としての機能と品質を高めるには、セリン反復領域の重合セリン残基数の制限は、必須条件である。
(4)上述のセリン残基数の制限と47kdエピトープの選択利用との組み合せにより、SE36との間で交差する抗原性を有し、かつ、アミノ酸のホモロジー検索により検出されるセリン反復領域の重合セリン残基数が、例えば、0から10の範囲内にあるポリペプチドを調製することができる。尚、この発明では、上記抗原性の交差は抗原抗体反応により検出し、セリン反復領域はSE36(配列番号4)の第157番Glyから第183番Asnまでのアミノ酸配列を比較基準として用いるアミノ酸のホモロジー検索により検出することができる。
【0019】
以上につき換言すれば、配列番号4に記載のSE36のアミノ酸配列は、SE36本来の抗原性・免疫原性、及びこれ等のスペクトルが損なわれない限り、その分子構造を多様に修飾、変形あるいは加工することができる。即ち、この発明に係るポリペプチドSE36は、配列番号4に記載のSE36基本構造のみならず、上記(1)−(4)に記載のアミノ酸又はオリゴペプチドの付加、切除あるいは置換等による上記構造の誘導体あるいは派生体、変異体、修飾体等をも包括する、これ等すべての総称である。また、これ等のSE36は、ワクチン及び診断剤の有効成分として、個別に単独使用できるだけではなく、抗原性や免疫原性のスペクトルを広げるため、これ等の少なくとも2種を混合することにより用いることができる。
【0020】
更に、特筆すべきは、SE36の生産において、SE36をコードする自然界の47kd遺伝子DNA断片そのものを全く使用しないことである。この発明によれば、SE36の量産は、そのアミノ酸配列をコードする自然界のPfコドンを全て大腸菌コドンに変換したかたちで、全長SE36をコードするDNA断片(以下、SE36遺伝子DNAと記載することがある)を合成かつクローニングした後、その合成遺伝子クローンの発現ベクターを構築し、次いで、これを宿主大腸菌に移入し、作成される形質転換体を培養することにより行う。尚、上記のDNA合成による大腸菌コドンへの変換は、本来のPfコドンのSE36遺伝子DNAは大腸菌での発現効率が低いので、SE36の量産を目的とした産業上利用の観点からこれを高めるために行う。以下、これにつき更に詳しく説明する。
SE36遺伝子DNAの合成とクローニング:
Pfの机上のSE36遺伝子DNA塩基配列とそれがコードするアミノ酸配列は、衆知の遺伝子データベース公開機関、例えば、DDBJ、GenBank、EMBL等からインターネットにより入手可能である。
【0021】
Pfコドンから大腸菌コドンへの机上の変換は、例えば、GenBankのCoden Usageデータベースや発明者の既報(前述のVaccine;及びMolecular Biochemistry of Parasitology、63、265−273、1994)等を参考に用いることにより行うことができる。大腸菌コドンへの変換においては、N末端アミノ酸を開始コドンのMetに置換する以外は、自然界におけるPf本来のアミノ酸配列を十分に重視し、その抗原性がアミノ酸の非同義置換により損なわれないよう留意する。
【0022】
DNA合成は、市販のDNA合成機、例えば、DNA/RNA合成機[Applied Biosystem Medel 392:PE社(米国)製]、ASM−102U DNA合成機[BIOSSET社(米国)製]等を用いることができる。かかる合成機により、約100ないし約200ヌクレオチドが重合のセンス(+)とアンチセンス(−)の両鎖DNA断片を別途に合成の後、各合成DNA断片は、例えば、ポリアクリルアミド電気泳動により精製する。次いで、精製された単鎖DNA断片の相補鎖(対)のアニーリングにより合成2本鎖DNA断片を調製する。
【0023】
合成2本鎖DNA断片のクローニングには、既知又は市販の、宿主が大腸菌のクローニング用ベクター(“Cloning Vectors:A Laboratory Manual”、I−1〜I−D−i−8、P.H.Pouwelsら著、Elsevier1988発行に多種多様に紹介されている)、例えば、プラスミドpBluescriptII SK+と大腸菌XL1−Blueとの組合せ[Stratagene社(米国)製]を用いることができる。かかるクローニングでは、例えば、上記DNA断片の制限酵素断片を、これと同一の酵素で開裂したベクターの制限酵素サイトに挿入連係し構築したベクターを宿主に移入することにより、形質転換体としてのクローンが得られる。次いで、2本鎖DNA断片の各クローンは、上記形質転換体の培養により増幅の後、これ等の各塩基配列をチェインターミネーター法(dideoxy法)やマクサム・ギルバート法により決定する。尚、これには、市販のDNAシーケンサー、例えば、ABI PRISM 3700[PE社(米国)製]を用いることができる、その結果に基づき、SE36遺伝子DNAの全長をカバーする2本鎖DNA断片を約5〜10クローンを選択する。
【0024】
全長SE36遺伝子DNAのクローニングは、前記2本鎖DNA断片クローンの連結により行う。例えば、前記において8クローン(8対)が選択された場合には、これ等の2本鎖DNA断片を順次、連結することにより全長SE36遺伝子DNAを得ることができる。次いで、この全長DNAを、前述と同様にしてクローニングする。尚、上記連結の際には、2本鎖DNAの各断片の両末端に連結用の制限酵素cohesiveサイトの導入が望まれる。但し、かかる導入には、Pf本来のアミノ酸配列が変化しないよう、コドンとしての塩基配列を整合させる必要がある。
SE36遺伝子の発現系の構築:
SE36遺伝子の発現ベクターの作成には、既知又は市販の、宿主が大腸菌の発現用ベクター(“Cloning Vectors:A Laboratory Manual”、同前に多種多様に紹介されている)、例えば、プラスミドpET−3aと、大腸菌BL21(DL3)pLysS、又は大腸菌BL21(DL3)pLysEとの組合せ[Stratagene社(米国)製]を用いることができる。かかる作成は、例えば、前記クローニングベクターから全長SE36遺伝子DNAを含む制限酵素断片を切出した後、これと同一の酵素で開裂したベクターの制限酵素サイトに挿入連係することにより行う。また、pET−SE47´(Vaccine、同前)からも作成することができる。この場合には、例えば、pET−SE47´又はこれが保有のSE47´合成遺伝子からセリン反復領域をコードする全領域ないしは一部領域を制限酵素で切除することにより、上記と同様にして作成することができる。次いで、作成した発現ベクターを宿主に移入することにより形質転換体が得られる。かかる形質転換体から、ポリペプチドSE36の量産を指標として、SE36遺伝子の発現系として産業上利用の観点から適確なものを選別することができる。
ポリペプチドSE36の生産:
SE36の量産は、上記の大腸菌形質転換体の培養により行う。尚、かかる培養系は、SE36の生産収率を高める観点から、インデューサー、例えば、IPTG(isopropyl−1−thio−β−D−galactopyranoside)の使用、カタボライト・リプレッションの回避、培地組成、培養の温度と時間、宿主細胞内プロテアーゼの除去等につき改良あるいは改善することが可能であり、これ等は、発現ベクターの改造、更に、プロモーターや宿主菌株の変更等により行うことができる。
ポリペプチドSE36の精製:
SE36が細胞外へ分泌される場合には、上記の形質転換体の培養物の除菌培養液を上記SE36抽出の出発材料として用いる。細胞内に蓄積される場合は、例えば、培養物から遠心、濾過等により集菌し採取した菌体から上記SE36を抽出する。先ず、抽出第一段階としての菌体の破砕には、酵素による消化、浸透圧による破壊、急激な加圧減圧、超音波、種々のホモジナイザー等々を用いることができる。次いで、菌体破砕物を分別するための手段として、物理的な低速遠心、超遠心、濾過、分子ふるい、膜濃縮等、化学的な沈殿剤、可溶化剤、吸脱着剤、分散剤等、物理化学的な電気泳動、カラムクロマトグラフィー、支持体、透析、塩析等を、それぞれ組合せて用いることができる。また、これ等の手段の適用においては、温度、圧力、pH、イオン強度等の物理化学的条件を適宜、設定できる。
【0025】
この発明では、上記の多種多様な手段と条件のうち、超音波処理、硫安塩析、遠心、カラムクロマトグラフィー、濾過、膜濃縮等を組合せて用い、これ等を次に記載の精製工程(1)−(10)の順序で行うことにより、SE36ポリペプチドを精製する:
(1)培養菌体ペーストの超音波による破砕と遠心による細胞破片の除去;
(2)4℃の水に対する硫酸アンモニウム(以下「硫安」と略記する)の飽和度 が、下限20%と上限50%、望ましくは下限30%と上限35%になるよう硫安を添加混合する塩析による分画;
(3)6Mから完全飽和までの尿素、望ましくは9M尿素と、0.2%(W/W)から5%(W/W)Tween80、望ましくは1%(W/W)Tween80、更に、ジスルフィド結合を還元するに十分な濃度の2−メルカプトエタノール、若しくはジチオスレイトール、あるいは他の還元剤を含有する緩衝液によるSE36ポリペプチドの可溶化;
(4)6Mから完全飽和までの尿素、望ましくは9M尿素と、ジスルフィド結合を還元するに十分な濃度の2−メルカプトエタノール、若しくはジチオスレイトール、あるいは他の還元剤を含有する緩衝液による、Sephacryl S−300又はS−200、あるいはこれに相応する分子ふるいのカラムクロマトグラフィーを用いる分子量による分画;
(5)Octyl Sepharose疎水性カラムクロマトグラフィーによる分画と透析;
(6)35−65%飽和硫安、好ましくは45−55%飽和硫安による塩析;
(7)6Mから完全飽和までの尿素、望ましくは9M尿素と、ジスルフィド結合を還元するに十分な濃度の2−メルカプトエタノール、若しくはジチオスレイトール、あるいは他の還元剤を含有する緩衝液によるSE36ポリペプチドの可溶化;
(8)6Mから完全飽和までの尿素、望ましくは9M尿素と、ジスルフィド結合を還元するに十分な濃度の2−メルカプトエタノール、若しくはジチオスレイトール、あるいは他の還元剤を含有する緩衝液による、Sephacryl S−300又はS−200、あるいはこれに相応する分子ふるいのカラムクロマトグラフィーを用いる分子量による分画;
(9)Sephacryl S−300又はS−200、あるいはこれに相応する分子ふるいのカラムクロマトグラフィーを用いる分子量による分画;
(10)SE36タンパク質の濃度が10〜100μg/ml、好ましくは20〜30μg/mlになるように調整後、透析;
(11)膜濃縮。尚、ワクチン調製のための無菌化は、例えば、0.22μM−フィルターによる濾過滅菌により行う。
SE36分子とその抗原性の確認:
SE36分子の検出とサイズの確認は、例えば、沈降係数の測定、分子ふるい、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動等により行うことができる。また、SE36分子の抗原性は、SERAの47kdに対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体を用いるWestern blot分析、ELISA、凝集反応,蛍光抗体法、ラジオイムノアッセイ等での抗原抗体反応により確認できる。更に、SE36ポリペプチドの免疫原性、及び抗SE36抗体のPf原虫増殖阻害能は、熱帯熱マラリア患者の血清や、該ポリペプチドで免疫した実験小動物、例えば、ラットやマウス等の血清等を用いる上記抗原抗体反応、Pf merozoiteの赤血球内での増殖阻止試験(いわゆる中和反応)、SE36抗体の保有者の血中Pf数の測定等により確認することができる。
ワクチンの調製:
先ず、前記の精製ポリペプチドSE36を抗原として、これを溶媒、例えば、等張のPBS(phosphate buffer saline)に浮遊し、ワクチン原液を調製する。
【0026】
尚、上記ワクチン抗原は常用の不活化剤で固定化することにより立体構造を安定化できる。不活化剤としては、例えば、ホルマリン、フェノール、グルタルジアルデヒド、β−プロピオラクトン等をワクチン原液の調製の前又は後に添加して用いることができる。ホルマリンを使用の場合、その添加量は約0.005−0.1%(V/V)、不活化温度は約4−38℃、不活化時間は、約5−180日である。但し、不活化により抗原性が損なわれる場合には、不活化条件を緩和するための創意工夫を要する、かかる緩和は、例えば、不活化剤の減量、中性アミノ酸や塩基性アミノ酸等の添加、不活化温度の低下等により達成できる。また、不活化工程で残存する遊離ホルムアルデヒドは、必要なら、等量の亜硫酸水素ナトリウムを添加してこれを中和するか、透析により除去できる。
【0027】
また、ワクチンの経口や経鼻接種による粘膜免疫あるいは局所免疫の誘導を目的として、上記SE36抗原を加工あるいは修飾できる。これには、例えば、リポソーム、エマルジョン、マイクロカプセル、マイクロスフェアー、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等を用いるDDS(drug delivery system)に係る技術を適用できる。以上により得られた調製物をワクチン原液として次の工程に供する。
【0028】
上記ワクチン原液を、例えば、前記PBSで希釈し、ワクチン中の抗原量が、抗体産生を誘導し、免疫を奏するに必要な量になるよう調整する。その際、ワクチンの耐熱性を増強する安定化剤や、免疫原性を高める補助剤としてのアジュバントを添加混合できる。例えば、安定化剤として、糖類やアミノ酸類、また、アジュバントとして、鉱物油、植物油、ミョウバン、アルミニウム化合物、ベントナイト、シリカ、ムラミルジペプチド誘導体、サイモシン、インターロイキン等を利用できる。
【0029】
次いで、適当な量、例えば、約1−20ml容のバイアルに分注し、密栓・密封の後、ワクチンとして使用に供する。かかるワクチンは、液状のみならず、分注後に凍結乾燥を行うことにより。乾燥製剤として使用に供することができる。
ワクチンの検定:
ワクチンの工程管理及び品質管理に係る検定は、薬事法(昭和35年法律第145号)第42条第1項の規定に基づく日本国の規程「生物学的製剤基準」、WHOの勧告“Requirements for Biological Substances”[WHO Technical Report Series(TRS)、No.889、pp.105−111、1999]等に準拠して行われる。マラリアワクチンは、未だ実用化されておらず、その製剤基準が存在しないので、その検定は、これに類似のワクチンに係る基準、例えば、上記WHOの勧告“Requirements for Hepatitis B Vaccoines Made by Recombinant DNA Techniques”(上記TRS、No.786、1898、及びNo.889、1999)、“Requirements for Japanese Encephalitis Vaccine(Inactivated)for Human Use”(上記TRS、No.771、1988)等に記載の安全性と有効性に関する種々の規定に準拠し行うことができる。例えば、無菌、異常毒性否定、タンパク質含量、純度、水素イオン濃度、抗原確認、抗原ポリペプチド等、要求あるいは勧告される種々の試験規定に準拠して検定を行い、これ等の全ての検定試験に合格した製造ロットを適格なマラリアワクチン製剤として実用に供する。
ワクチンの用法:
ワクチン接種は、例えば、1ドーズ約0.25−0.5mlを皮下接種する。尚、かかる接種は、約2−4週間隔で1−3回、行う。但し、ワクチン用法は、上記の例にのみ限定されるものではない。
診断剤の調製:
SE36ポリペプチドは、マラリアの診断用抗原、例えば、沈降反応、凝集反応、中和反応、蛍光抗体法、酵素免疫測定法、ラジオイムノアッセイ等の抗原として提供できる。また、上記ポリペプチドを動物、例えば、ウサギ、モルモット、マウス等の腹腔内、皮下や筋肉内等に接種し、抗体産生させたこれ等の動物の血清から抗体を作成することができる。かかる抗体は,例えば,上記の各種診断法での抗原検出用として提供できる。尚、この発明に係る診断用の抗原や抗体は、これ等の診断剤中の含量が、抗原抗体反応を呈するに必要な量となるよう、溶媒、例えば、前記PBSで希釈調整し使用に供する。
【0030】
以下、この発明の態様並びに構成と効果を、実施例及び参考例を示し、具体的に説明する。但し、本発明は、これ等に限定されるものではない。
実施例1:SE36発現系の構築
Pfコドンから大腸菌コドンに机上で変換した全長SE36遺伝子DNA塩基配列を8分割し、各分割断片のセンス(+)鎖とアンチセンス(−)鎖の単鎖DNA断片を合計16本(8対)合成すると共にアニーリングし、合計8対の2本鎖DNAを調製の後、これ等を相互に連結し、全長SE36遺伝子を作成し、その発現ベクターを構築した。尚、合成DNA断片のクローニングと連結の基本操作は、Sambrookらの方法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989)により行った。
【0031】
前記の単鎖DNA断片はそれぞれ、DNA/RNAシンセサイザー“Applied Biosystem model 392”[PE社(米国)製]を用いて合成した。これ等の合成断片は、10%(W/V)ポリアクリルアミド(50mM Tris−ホウ酸塩、pH8.3,1mM EDTA,及び8M 尿素を含有)の電気泳動により精製した。次いで、20p moles の精製断片DNAの各+と−の相補鎖を混合の後、緩衝液(20μl の20mM Tris−HCl、pH7.0、50mM NaCl、及び2mM MgCl2)中で85℃、5分間、保温した。更に、上記両鎖の相補領域をアニーリングするため、ZymoreactorII[ATTO社(日本)製]を用い、その温度を5℃/5分の割合で55℃まで、次に、5℃/10分の割合で25℃まで下げた。アニーリング終了の後、等量の緩衝液[20mM Tris−HCl、pH7.8、10mM MgCl、5mMのジチオスレイトール(DTT)、4種のnucleoside−5´−triphosphate(NTP)の各1mM NTP、及び3units のT4 DNAポリメラーゼ]を添加混合し、4℃で5分、25℃で5分、更に、37℃で120分、順次、保温した。これより得られた各2本鎖DNA断片は、SE36遺伝子の構築に用いるため、制限酵素KpnI及びBamHIで消化し、pBluescriptII SK+と大腸菌XL1−Blueでクローニングかつ増幅し、各クローンの上記DNA断片の塩基配列をdideoxy法で決定すると共に、全長SE36遺伝子をカバーする8クローンを選定した。これ等の8クローン(8対)の合成2本鎖DNA断片を連結することにより全長SE36遺伝子の2本鎖DNAを調製した。尚、その際、Pf本来のアミノ酸配列が変化しないよう配慮された塩基配列を利用して、連結用の制限酵素サイトが各対DNAの両末端に導入された。次いで、全長SE36遺伝子は、pBluescriptII SK+でクローニングの後、大腸菌XL1−Blueに移入し増幅すると共に、その塩基配列をdideoxy法で決定した。その結果を配列表の配列番号3に示す。
【0032】
次いで、上記クローンの制限酵素NdeI−BamHI断片をプラスミドpET−3aのNdeI及びBamHI両切断サイトに挿入連係し、SE36発現ベクターpET−SE36を構築した。この発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)pLysSに移入することにより形質転換体、大腸菌BL21(DE)pLysS/pET−SE37を作製し、これを大腸菌BL/SE36と命名した。
実施例2:SE36の発現と精製
実施例1で得た大腸菌BL/SE36をアンピシリン50μg/ml含有のLB培地[Bacto−trypton 1%(W/V)、Bacto−yeast extract 0.5%(W/V)、及びNaCl 1%(W/V)]で37℃にて18時間培養しシードを調製した。次いで、上述の新鮮LB培地5L に上記シード50 mlを接種した後、37℃で培養した。菌数が1×10/mlに達した時点で、IPTG(isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)を、最終濃度が50μg/mlになるよう添加混合の後、更に、37℃にて3時間培養した。培養終了後、遠心(5,000rpm、10分)により集菌し、細胞ペースト3.2gを得た。このペーストを、9.6mlの氷冷した溶菌(lysis)緩衝液(50mM Tris−HCl、pH8.0、及び1mM EDTA)に懸濁の後、以下(1)−(6)の操作を記載の順に、4℃で行った。
(1)超音波処理
超音波(19.5kHz、50W)で20秒間、6回処理により上記ペースト細胞を破砕の後、その遠心(15,000rpm、30分)上清を採取し、20ml容のビーカーに移注した。
(2)硫安塩析I
上記ビーカー内液に、攪拌下で2.37gの結晶(NH42SO4 を35%(W/W)飽和になるよう添加混合し、更に、30分間撹拌を続け塩析を行った。次いで、これを遠心(12,000rpm、10分)し、その上清を捨て、沈渣に、30%(W/W)硫安飽和になるよう9mlの氷冷硫安溶液[1.1M (NH42SO4を含有の前記lysis緩衝液]を加え、懸濁した。この懸濁液を遠心(12,000rpm、10分)し、その上清を捨てた後、8.8mlの溶解緩衝液[50mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM EDTA,50mM 2−メルカプトエタノール、9M 尿素、及び1%(W/V)Tween 80]を添加し、沈渣を再懸濁し回収した。この再懸濁液の1/2量(4.4ml)を60℃で10分間保温し、再び氷冷の後、0.45μm−フイルター[Millipore社(米国)製]で濾過した。
(3)カラム精製I
上記濾液を、GF緩衝液[50mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM EDTA、50mM 2−メルカプトエタノール、及び8M 尿素]で平衡化したSephacryl S−300(26/60)カラムクロマトグラフィー(流速0.3ml/分、4℃)で分画(3.5ml/分画)した後、第22−43各分画をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動にかけ、その泳動像に基づき検出されるSE36タンパク質を多量に含む第32−37分画をプールした。残りの再懸濁液(4.4ml)も上記と同様に処理した後、前記の分画プールと併せて次(4)の操作に用いた。
(4)カラム精製II
上記の分画プールを室温に置き、攪拌下でこの分画プール1ml当たり0.093gの(NH42SO4 を添加混合し、硫安の最終濃度が0.7Mになるよう調整した。一方、容量13mlの水性カラムOctyl Sepharose(Pharmacia Biotech)を10倍量のHIC緩衝液[0.7M(NH42SO4を含有の前記GF緩衝液]で平衡化した。このカラムに上記の硫安濃度調整の分画プールを流速0.5ml/分にて流入した。更に、吸光度が下がるまでHIC緩衝液を流入の後、確認のため、(NH42SO4を含有しないGF緩衝液により吸着成分を溶出した。このカラムでの未吸着分画を透析バッグに入れ、1Lの20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)(1mM EDTA含有)を外液に用い4℃で10時間、透析した。尚、この透析の間、外液を2回交換した。
(5)硫安塩析II
透析済みバッグを更に、0.3Lの50%(W/W)飽和(NH42SO4溶液[20mM Tris−HCl(pH8.0)及び1mM EDTA含有]を外液に用い4℃で10時間、透析することにより、タンパク質を沈殿させた。この沈殿物は、遠心(12,000rpm、10分)により、沈渣として回収の後、2mlのGF緩衝液に懸濁した。
(6)カラム精製III
上記の懸濁液を60℃で10分間保温の後、4℃に戻した。これを前記0.45μm−フィルターで濾過し、その濾液を流速0.3ml/分にて、GF緩衝液2[10mM Tris−HCl(pH8.0),1mM EDTA、20mM 2−メルカプトエタノール、及び8M 尿素]で平衡化した前記S−300カラム(26/60)にかけ分画した。前述(3)と同様にして、各分画のSDS−ポリアクリルアミド電気泳動にかけ、SE36タンパク質の分画を選別の後、これ等をプールして該分画12mlを得た。この分画プールを希釈用緩衝液[10mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM EDTA、及び2M尿素]に撹拌添加し、SE36タンパク質の濃度が25μg/mlとなるように希釈した。この希釈液を2LのPBS[9mM NaHPO4、3mM NaH2PO4、及び137mM NaCl(pH7.4)]を外液に用い4℃で10時間、透析した。尚、この透析の間、外液を2回交換した。次いで、透析終了後の内液を、Centprep 30で濃縮した後、Durapore 0.22μm−フィルター[Millipore社 (米国)製]で濾過滅菌し、SE36タンパク質を1mg/mlを含有の無菌標品10mlを得、これをSE36ワクチン原液として4℃に保存し、爾後の検定に供した。
【0033】
上記標品の、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動では40kdのSE36タンパク質のメインバンドのほかに数本のバンドが可視検出された(図5)。これらのバンドは全てウエスタンブロットにおいて、抗SE36モノクローナル抗体と反応することが確認され、上記標品の純度は99%(W/W)を超えると推定された。
【0034】
尚、タンパク質濃度は、1mg=0.491(OD278 )を以て算出した。この値は、SE36分子にはTrp、Tyr及びPheがそれぞれ1、10及び9個存在し、これ等を合算した分子吸光係数、ε278 =19160/モルに基づいた。
実施例3:アミノ酸配列決定
実施例2で得たSE36タンパク質のN末端のアミノ酸配列は、タンパク質シークエンサー Applied Biosystems 473A[PE社(米国)製]を用いるエドマン分解により決定した。その結果を図2及び配列表の配列番号4に示す。
実施例4:抗原性および免疫原性の検定
実施例2で得たSE36ワクチン原液中のSE36タンパク質の抗原性と免疫原性につき、次(1)−(3)の通り検定した。
(1)ワクチンの調製
上記ワクチン原液をPBSで5倍階段希釈し、抗原量(μg/0.05ml)が200、40、及び8の各溶液をそれぞれ調製し、等量(V/V)のフロイントコンプリートアジュバント、及び、フロイントインコンプリートアジュバントと混合し、エマルジョンにし、前者を第一回免疫、後者を第2回および第3回免疫に用いた。
(2)マウス免疫血清の作製
7週齢、雌のBALB/cマウス[CLEA社(日本)製]を合計20匹(5匹/群、合計4 群)用い、上記ワクチンを0.1ml/マウスずつ、初回免疫、初回から7日目及び21日目の合計3回、皮下接種した。第1群マウスには抗原量200μgのワクチンを、また、第2群は40μg、第3群は8μg、尚、第4群マウスにはPBSをアジュバントと混合したものを0.1ml/マウス、皮下接種し比較対照として用いた。初回免疫から30日目に各マウス毎に採血し、その血清は、マウス毎に個別に56℃で30分加熱により非働化した後、全て−20℃に保存し、マウス抗血清、及び比較対照マウス血清としてそれぞれ爾後の検定に供した。尚、上記の第1−3群の免疫マウスは全て、ワクチン接種後の飼育の間、比較対照の第4群マウスと同様に健常であり、異常な体重減少・行動・排泄物・外観、及び死亡例はいずれも見られず、このワクチンの安全性が確認された。
(3)Pf増殖阻止試験
Plasmodium falciparumのHonduras−1株を用い、その培養と維持は、Trager及びJensenの方法(Science、193、673−675、1976)、及びBanyal及びInserbergの方法(American Journal of Tropical and Medical Hygiene、34、1055−1064、1985)により行った。先ず、培養下のPf寄生赤血球の80%がtrophozoite及びschizontが寄生の赤血球に達したとき、その維持培地を新鮮赤血球で希釈し、この寄生赤血球数を全血球数の0.5 %に調整した。次いで、これを更に完全培地で希釈して赤血球濃度を2 %(V/V)に調整することにより、Pf寄生赤血球培養液を調製した。この培養液を96ウエルのマイクロプレートに100μl/ウエルずつ滴下の後、1/20量(5μl)の前記(2)のマウス抗血清と混合し、37℃で72時間培養した。比較対照には前述のPBS接種のマウス血清を用いた。培養終了後、これをスライド上に塗布してギムザ染色し、スライド上の5000個の赤血球を検鏡し、Pf寄生赤血球数を計数した。Pf増殖阻止率(%)は、これより計数された同一希釈血清の存在下でのPf寄生赤血球数を用いる次式、
100×(1−マウス抗血清下でのPf寄生赤血球数/
比較対照マウス血清下でのPf寄生赤血球数)
により算出した。その結果、前記の第1群および第2群(各群5匹)の各マウス抗血清はいずれも上記阻止率が90%、また、第3群の5匹マウスの平均値は70%であった。尚、マウス抗血清及び比較対照マウス血清は、上記の阻止試験前にそれぞれ、次の前処理を行った:これ等の各々の0.5mlに、2mlの赤血球パックとを添加混合の後、37℃で2時間保温し、次に、室温で遠心(1,500rpm、5分)し、その上清を採取した。この上清に更に0.5mlの新鮮赤血球パックを添加混合の後、上記と同様にして保温及び遠心を行い、その上清を採取し、これを上述の阻止試験に供した。
(3)抗原解析
ELISA及びWestern blot分析にはVectastain ABCキット[Vector Laboratories社(米国)製]を用いた。ELISAには、抗原としてSE36タンパク質を、また、基質として2,2´−azino−bis−(3−ethylbenzothiaziline−6−sulfonic acidを用いた。ELISA価は、505nmのマイクロプレートリーダー“Titertek Multiskan MCC/340 KMII”[Titerteck Scienfic社(米国)製]で読み取り、吸光度0.3で判定した。Western blot分析には基質としてdiaminobenzidine tetrahydrochlorideを用いた。
【0035】
Pf寄生赤血球は、少なくともその80%が成熟trophozoite及びschizontが寄生の赤血球の培養物から調達した。この寄生赤血球を、0.075%(W/V)サポニン溶液中で37℃で10分間、静置して溶かした後、遠心(5,000g、5分)し、その沈渣を採取した。次いで、沈渣をPBSに浮遊の後、この浮遊液をsodium dodecyl sulfate−polyacrylamide electrophoresis(SDS−PAGE)のサンプル緩衝液と混合し、マラリア細胞破砕液としてWestern blot分析に供した。
【0036】
前記の第1群〜第3群(各群5匹マウス)のELISA価の平均値は、第1群が90,000、第2群が88,000、第3群が42,000、及び第4群の比較対照は100未満であった。また、前記マラリア細胞リゼートのWestern blot分析の結果、第1群〜第3群の各マウス抗血清と反応するタンパク質が120kdの位置に検出され、他方、第4群の各マウス血清と反応するタンパク質は全く検出されなかった。尚、上記分析は、上記細胞破砕液を12.5%(W/V)polyacrylamideのSDS−PAGEにかけた泳動像をPVDF(polyvynilidene difluoride membrane filter)に移した後、前記の第1群〜第3群のマウス抗血清、及び比較対照マウス血清とそれぞれ反応させることにより行った。
実施例5:チンパンジーを用いた免疫試験
SE36タンパク質を水酸化アルミニウムゲルに吸着させて調製した試作ワクチンをチンパンジーに接種し、各時点で採血した血液について血液学的及び血液生化学的検査を行うと共に、その血清について免疫応答を試験した。
(1)方法
3頭のチンパンジーに、試作ワクチンを1回当たりSE36タンパク質として450μg(雄、11才)、50μg(雌、10才)、10μg(雌、6才)ずつ背中に皮下接種した。試験スケジュールは、初回接種を0週とし、4週目に追加接種を行った。また、採血を各接種前に行うとともに、追加接種時及びその後経時的に行った。
【0037】
なお、以上の試験は、三共化学研究所 熊本霊長類パークでの倫理委員会での承認を得た後、同施設にて行った。
(2)結果
試作ワクチンを接種したチンパンジーから採血した血液の血液学的および血液生化学的検査の結果から、SE36タンパク質として450μg/回という非常に多量のタンパク質を接種した場合においても、異常は確認されなかった。この結果から、SE36タンパク質を水酸化アルミニウムゲルに吸着させて作成したワクチンの安全性が確認された。
【0038】
また、得られた血清のSE36タンパク質特異的抗体価をIgGのサブクラス毎に測定した結果、450μg/回で接種したものでは、全てのサブクラスで高い抗体価の上昇が確認され、特に2回目接種後には約10000倍に達した。この高い抗体価は、10週目でも維持されていた(図6A)。また、50μg/回で接種したものでも、450μg/回で接種したものと同程度の免疫応答が得られた(図6B)。10μg/回で接種したものでは、免疫応答が得られるのにやや時間を要するものの、4週目には全てのサブクラスで抗体価が上昇し、2回目接種後には約1000倍に達した(図6C)。この結果から、本発明のワクチンが、ヒト用ワクチンとして現実的な接種量で免疫応答を可能とすることが確認された。
【0039】
さらに、450μg/回で接種して得た免疫血清を用いてIgG依存的なADCI(Antibody-Dependent Cellular Inhibition of Parasite Growth)によるマラリア原虫の増殖阻害を試験した。すなわち、100μlのマラリア原虫の培養液に、免疫血清と2×10cells/mlの単球を加えて培養を続け、48時間後の原虫数を測定した。チンパンジーの免疫血清について試験した系では0.38mg/mlの免疫前全IgG分画を添加した場合の原虫数を、またマラリアに対する免疫を獲得したヒトの血清について測定した系では10μg/mlの非特異的IgG3画分を添加した場合の原虫数を対照(100%)とし、各測定系での原虫数を割合(%)で示した。
【0040】
結果は図7に示したとおりである。チンパンジー免疫前および後の全IgG分画を各々1.5mg/ml添加した場合の増殖は、免疫前の全IgG分画を添加したものが対照の約70%まで増殖するのに対し、免疫後の全IgG分画を添加したものでは約40%の増殖にとどまった。
【0041】
上記の試験において、添加したチンパンジーの全IgG分画濃度は、チンパンジーの血清中のIgG濃度の約1/10の濃度であり、免疫前の全IgG分画を添加した場合と比較して、免疫後の全IgG分画を添加した方が約30%良好な原虫増殖阻害が得られたことは、生体の血中においてはほぼ完全な阻害効果が期待される。また、ヒト血中の測定にはSE36タンパク質に特異的なIgG3を用いていることを考慮すれば、マラリア原虫に対し免疫を獲得したヒトの原虫増殖阻害効果に匹敵すると考えられる。以上の結果から、本発明のワクチンの有効性が確認された。
参考例1:疫学検査I
ウガンダのマラリア高度流行地域における10歳以下(平均6歳)の児童の血清を用い、SE36タンパク質に対する血中のIgG3抗体の保有状況を前述のELISAにより検査した。その結果、発熱をしていない(体温37.5℃未満の)健康な児童31例のうち、8例がIgG3抗体陽性、他方、発熱を伴う(37.5℃以上の)児童患者9例は全てIgG3抗体陰性であった。これにより抗SE36IgG3抗体の産生あるいは保有者においてはマラリア発熱が全く見られず、同抗体はマラリア発症を抑制するという相関が示唆された。
参考例2:疫学検査II
さらに同地区において採取した15歳以下の児童(86例)の血中原虫(Pf)数とELISAによる抗SE36IgG3抗体価との間の相関関係を検査した。その結果、上記IgG3抗体価が高いほど血中のPf数が低いという相関のあることが示唆された。
参考例3:疫学検査III
マラリア高度流行地域住民の年齢別(0−40歳以上)の、SE36タンパク質に対する血中抗体価の保有状況をELISAにより検査した。その結果、抗SE36IgG3抗体価は、全年齢において他のIgG1、IgG2及びIgG4の各抗体価が横ばいで低値であるのに比べ、0から8歳までは常にこれ等の2倍以上高く、しかも、8歳を超えると、加齢に伴い対数曲線的に上昇することが観察された。
参考例4:熱帯熱マラリア原虫の増殖阻止試験
マラリア高度流行地域住民(成人)25名の血清の、SE36タンパク質に反応する血中抗体価の保有状況をELISAにより検査し、同血清を用いて試験管内における熱帯熱マラリア原虫の増殖阻止実験を行った。培養液量の5%に相当する量の各血清をFCR3株、Honduras−1株、及びK1株のそれぞれに加え、マラリア免疫のない日本人の血清を対照として24時間後の原虫増殖の阻止能を調べた。その結果、いずれの株においても抗SE36IgG3抗体価と増殖阻止能は正の相関を示し、SE36タンパク質が原虫増殖阻害的に作用するヒト抗体のエピトープを提供していることが示唆された。さらに、SERAの遺伝子多型はワクチン効果に影響のないことも示唆された(図8)。
参考例5:SE36の中和能
実施例2で得たSE36無菌標品の共存下における、参考例4で用いたマラリア高度流行地域住民の抗SE36IgG3抗体価の高い代表的な血清によるPf増殖阻止能の消長を、参考例4に記載の試験管内における熱帯熱マラリア原虫の増殖阻止実験により測定した。SE36との比較対照としてバキュロウイルスベクターにより生産した自然な立体構造を持つ全長SERAタンパク質、及び全長SERAタンパク質の中央部ドメインに由来するSE50Aタンパク質(ワクチン効果なし)(Vaccine,同前)をそれぞれ用いた。
【0042】
その結果、マラリア高度流行地域住民の血清のPf増殖阻止能は、SE36共存濃度の上昇に伴い最も強く阻害(中和)され、SE50Aでは全く阻害されなかった。また、上記阻害の程度に基づくSE36の中和能は、全長SERAタンパクのそれに比べ優れていた(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明により、発熱を伴うマラリア症状と死亡の原因となる脳性マラリアの根本原因である、赤血球内でのマラリア原虫(Pf)の増殖を阻止するIgG3抗体を誘導する、極めて有効なマラリア予防のワクチンが提供される。併せて、マラリア診断剤が提供される。その結果、上記のPf増殖に伴う、死を招く脳性マラリアの原因とマラリアへの恐怖が一掃される。従って、本発明は、世界有数の多発感染症、マラリアを制圧するための優れて強力な手段として寄与すると共に、地球温暖化に伴うマラリア発生地域の拡大が懸念されている今日にあっては、人類の保健だけではなく、観光、経済、政治等に係るグローバルかつ健全な活動を確保する上で、待望かつ多大の効果と福音をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】Plasmodium falciparum Honduras−1株のSERAドメイン47kdの第16〜382番アミノ酸(N〜E)配列とポリペプチドSE36全長アミノ酸配列、第1〜334番アミノ酸(M〜E)との間の相違を示す。NからC末端方向に左から右へ、アミノ酸の1文字記号により記載。Hond−1はHonduras−1株、……は同一配列、----は欠失、また、[数字]はSE36のアミノ酸番号をそれぞれ意味する。
【図2】ポリペプチドSE36分子の基本構造としての全長アミノ酸配列を示す。NからC末端方向に左から右へ、アミノ酸の1文字記号により記載。
【図3】図1に記載のHonduras−1株47kdアミノ酸配列を基準にし、他のP.falciparum株のそれとの間の相違を示す。[数字]はSE36のアミノ酸番号を意味する。
【図4】カラム1は分子量マーカー、カラム2はSE36を発現していない大腸菌の全タンパク、カラム3はSE36をIPTG添加により発現させた大腸菌の全タンパクの電気泳動像。
【図5】実施例2で調製したSE36無菌標品(ワクチン原液)のSDS−ポリアクリルアミド電気泳動像。SE36以外の夾雑物の存在が可視的に検出されないことを示す。
【図6】SE36タンパク質での免疫によるチンパンジーの抗体価をIgGのサブクラス毎に示したグラフである。
【図7】SE36タンパク質で免疫したチンパンジー、およびマラリア免疫を獲得したヒトIgGによるマラリア原虫の増殖阻害を示したグラフである。
【図8】マラリア高度流行地域住民の血清によるPf原虫増殖阻止と、抗SE36IgG抗体価との間には正の相関のあることを示す。
【図9】マラリア高度流行地域住民の血清によるPf原虫増殖阻止は、比較対照の共存に比べ、SE36無菌標品(ワクチン原液)の共存により著しく阻害(中和)されることを示す。図中、○は自然な立体構造を持つ全長のSE36タンパク質、●はSE36タンパク質、■はワクチン効果のないSE50Aタンパク質を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列において、次のアミノ酸置換:
第19番のGlyがVal;
第128番GluがLys;
第157番GlyがSer;
第160番GlyがSer;
第172番ProがSer;
第178番GluがVal;
第179番SerがAsn;
第180番LeuがPro;
第185番ProがAla;
第186番AspがGly;
第188番ProがThr;
第189番ThrがPro;
第190番ValがAsp;
第191番LysがAla;
第192番ProがLys;
第193番ProがLys;
第194番ArgがLys;
第219番IleがLeu;
第252番SerがAsn;
第273番AlaがSer;
第274番LeuがIle;および
第327番AsnがLys
の1または数個を有するポリペプチドSE36変異体。
【請求項2】
配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列における第18番Glyと第19番Glyとの間に、配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが付加したポリペプチドSE36変異体。
【請求項3】
配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列における第42番Alaと第43番Serとの間に、配列番号8のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが付加したポリペプチドSE36変異体。
【請求項4】
配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列における第19番Glyから第26番Glyまでのアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが欠失したポリペプチドSE36変異体。
【請求項5】
配列番号4のアミノ酸配列の全長からなるポリペプチドSE36の変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列における第163番Thrから第175番Aspまでのアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが欠失した請求項1のポリペプチドSE36変異体。
【請求項6】
請求項1から5のポリペプチドSE36変異体より選択される少なくとも1種のポリペプチドを有効成分として含有することを特徴とするマラリアワクチン。
【請求項7】
請求項1から5のポリペプチドSE36変異体より選択される少なくとも1種のポリペプチドを有効成分として含有することを特徴とするマラリア診断剤。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかのポリペプチドSE36変異体をコードする合成DNA断片。
【請求項9】
請求項8の合成DNA断片によって形質転換した大腸菌の培養液から集菌の後、菌体破砕、塩析による分画、膜濾過、Sephacryl S-300またはS-200カラムクロマトグラフィー、Octyl Sepharose疎水性カラムクロマトグラフィー、塩析による沈殿、膜濾過、Sephacryl S-300またはS-200カラムクロマトグラフィー、及び透析の順序で、これ等の各工程を行うことを特徴するポリペチドSE36変異体の精製方法。
【請求項10】
ポリペプチドSE36変異体の濃度が10〜100μg/mlになるように調整した後に透析を行う請求項10の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−271958(P2008−271958A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87818(P2008−87818)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【分割の表示】特願2002−559804(P2002−559804)の分割
【原出願日】平成14年1月24日(2002.1.24)
【特許番号】特許第4145348号(P4145348)
【特許公報発行日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000173692)財団法人阪大微生物病研究会 (23)
【出願人】(501085636)
【Fターム(参考)】