説明

マルチバンド型弾性波フィルタ

【課題】優れた温度特性を得ることができるマルチバンド型弾性波フィルタを提供する。
【解決手段】SAWフィルタ10の中心周波数f1は、SAWフィルタ30の中心周波数f2より低い。SAWフィルタ10,30に関してすだれ状電極の膜厚hはすべて等しく設定されている。そして、SAWフィルタ10に関して入力側すだれ状電極12,14のメタライズ比、出力側すだれ状電極16,18のメタライズ比をそれぞれMi1、Mo1とし、SAWフィルタ30に関して入力側すだれ状電極32,34のメタライズ比、出力側すだれ状電極36,38のメタライズ比をそれぞれMi2、Mo2とすると、Mi1>Mi2及びMo1>Mo2が成立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(SAW)や横波弾性波(STW)等の弾性波を利用するマルチバンド型弾性波フィルタに関し、特に、各々が異なる通過周波数帯域を有する複数の弾性波フィルタを備えることで、複数の通過周波数帯域を有するマルチバンド型弾性波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のマルチバンド型弾性波フィルタの一例が特開2004−32116号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1のマルチバンド型弾性波フィルタにおいては、互いに並列接続された複数の共振器型SAWフィルタに用いられる圧電性基板が共通化されている。そして、圧電性基板上に形成されたすべての入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極の膜厚が等しく設定されている。さらに、通過周波数帯域の高い共振器型SAWフィルタほど、入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極の電極指対数が少なく設定されている。特許文献1においては、電極指対数をこのように設定することで、各共振器型SAWフィルタのQ値をそろえるとともに、すべての入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極の膜厚を等しくすることで、すだれ状電極を圧電性基板上に形成する工程数を減少させて生産性の向上を図っている。
【0003】
また、その他の背景技術として、非特許文献1のSAW遅延線が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−32116号公報
【非特許文献1】J.Y. DUQUESNOY他,"2.2 GHz SH-MODE SAW DELAY LINE",1982 ULTRASONICS SYMPOSIUM,IEEE,1982,p57-62
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
弾性波フィルタの温度特性は、すだれ状電極の膜厚変化に伴い変化する。複数の弾性波フィルタ間で温度特性をそろえるためには、すだれ状電極の膜厚hを弾性波の波長λで割った値であるすだれ状電極の規格化膜厚h/λを複数の弾性波フィルタ間で等しく設定することで、その実現が可能である。ただし、特許文献1のマルチバンド型弾性波フィルタにおいては、すべてのすだれ状電極の膜厚hが等しく設定されているため、複数の弾性波フィルタ間で、すだれ状電極の規格化膜厚h/λが異なり、温度特性も異なってくる。したがって、特許文献1においては、優れた温度特性を得ることが困難であるという問題点がある。一方、複数の弾性波フィルタ間で温度特性をそろえるためにすだれ状電極の規格化膜厚h/λを等しく設定した場合は、複数の弾性波フィルタ間ですだれ状電極の膜厚hが異なってくる。したがって、すだれ状電極を圧電性基板上に形成する工程数が増大してしまい、マルチバンド型弾性波フィルタの生産性が低下してしまうという問題点がある。
【0006】
本発明は、圧電性基板上に形成されたすべてのすだれ状電極の膜厚が等しく設定されている場合でも、優れた温度特性を得ることができるマルチバンド型弾性波フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るマルチバンド型弾性波フィルタは、各々が異なる通過周波数帯域を有する複数の弾性波フィルタを備えることで、複数の通過周波数帯域を有するマルチバンド型弾性波フィルタであって、各弾性波フィルタは、弾性波を圧電性基板へ励振する入力側すだれ状電極及び該弾性波を検出する出力側すだれ状電極を有するとともに、各弾性波フィルタに用いられる圧電性基板が共通化されており、すべての入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極の膜厚が略等しく、通過周波数帯域の高い弾性波フィルタほど、入力側すだれ状電極のメタライズ比と出力側すだれ状電極のメタライズ比の少なくとも一方が小さく設定されていることを要旨とする。
【0008】
本発明においては、通過周波数帯域の高い弾性波フィルタほど、入力側すだれ状電極のメタライズ比と出力側すだれ状電極のメタライズ比の少なくとも一方が小さく設定されているため、複数の弾性波フィルタ間ですだれ状電極の規格化膜厚が異なることに起因する温度特性差をすだれ状電極のメタライズ比の設定により補償することができる。したがって、本発明によれば、圧電性基板上に形成されたすべてのすだれ状電極の膜厚が等しく設定されていることで複数の弾性波フィルタ間ですだれ状電極の規格化膜厚が異なる場合でも、優れた温度特性を得ることができる。
【0009】
本発明に係るマルチバンド型弾性波フィルタにおいて、通過周波数帯域の高い弾性波フィルタほど、入力側すだれ状電極のメタライズ比と出力側すだれ状電極のメタライズ比の両方が小さく設定されているものとすることもできる。こうすれば、より優れた温度特性を得ることができる。
【0010】
本発明に係るマルチバンド型弾性波フィルタにおいて、各弾性波フィルタの中心周波数の温度に対する特性が変曲点を有することが好適である。
【0011】
本発明に係るマルチバンド型弾性波フィルタにおいて、各弾性波フィルタに用いられる圧電性基板が水晶基板であることが好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0013】
図1,2は、本発明の実施形態に係るマルチバンド型弾性波フィルタの構成の概略を示す図であり、図1は平面図を示し、図2は断面図を示す。本実施形態に係るマルチバンド型弾性波フィルタは、圧電性基板の表面を伝搬するSAW(レイリー波)を利用するSAWフィルタを弾性波フィルタとして備えており、各々が異なる通過周波数帯域を有する複数のSAWフィルタ10,30を備えることで複数の通過周波数帯域を有する。そして、互いに並列接続された複数のSAWフィルタ10,30に用いられる圧電性基板24が共通化されており、複数のSAWフィルタ10,30が1パッケージ化されている。ここでの圧電性基板24としては、例えば水晶基板が用いられる。
【0014】
SAWフィルタ10については、SAWを励振する入力側すだれ状電極12,14と、この励振されたSAWを検出する出力側すだれ状電極16,18と、が所定間隔をおいて圧電性基板24上に形成されることで構成される。同様に、SAWフィルタ30については、SAWを励振する入力側すだれ状電極32,34と、この励振されたSAWを検出する出力側すだれ状電極36,38と、が所定間隔をおいて圧電性基板24上に形成されることで構成される。そして、図1に示すように、SAWフィルタ10のすだれ状電極12,14,16,18及びSAWフィルタ30のすだれ状電極32,34,36,38については、SAW伝搬方向が略平行となるように配置されており、かつSAWフィルタ10の入力側すだれ状電極12,14が励振するSAWとSAWフィルタ30の入力側すだれ状電極32,34が励振するSAWとが互いに干渉しないように、SAW伝搬方向と略垂直方向に関して所定距離はなされて配置されている。ここでの入力側すだれ状電極12,14,32,34及び出力側すだれ状電極16,18,36,38の材料としては、例えばアルミニウムが用いられる。
【0015】
なお、SAWフィルタ10の入力側すだれ状電極14と出力側すだれ状電極16、SAWフィルタ30の入力側すだれ状電極34と出力側すだれ状電極36は、接地されている。また、SAWフィルタ10の入力側すだれ状電極12とSAWフィルタ30の入力側すだれ状電極32、SAWフィルタ10の出力側すだれ状電極18とSAWフィルタ30の入力側すだれ状電極38は、それぞれ共通接続されている。
【0016】
SAWフィルタ10は、中心周波数f1の周波数帯域の信号を通過させるフィルタ特性を有する狭帯域フィルタである。一方、SAWフィルタ30は、中心周波数f2の周波数帯域の信号を通過させるフィルタ特性を有する狭帯域フィルタである。ここで、f1とf2にはf1<f2という関係があり、SAWフィルタ30は、電極指ピッチ、開口長等の電極配置を変えずにSAWフィルタ10をf1/f2倍した構成である。このようにして、本実施形態に係るマルチバンド型弾性波フィルタのフィルタ特性は、中心周波数f1、f2の2つの異なる通過周波数帯域を有する。なお、後述するように、SAWフィルタ10,30の中心周波数f1、f2は、温度変化に対して変化する。すなわち、SAWフィルタ10,30の中心周波数f1、f2は、温度特性を有する。
【0017】
本実施形態においては、SAWフィルタ10の入力側すだれ状電極12,14と出力側すだれ状電極16,18、及びSAWフィルタ30の入力側すだれ状電極32,34と出力側すだれ状電極36,38に関して、膜厚はすべて等しく設定されている。すなわち、圧電性基板24上に形成されたすべての入力側すだれ状電極12,14,32,34及び出力側すだれ状電極16,18,36,38の膜厚が略等しい。この膜厚の設定により、入力側すだれ状電極12,14,32,34及び出力側すだれ状電極16,18,36,38を圧電性基板24上に形成する工程数を減少させることができるので、マルチバンド型弾性波フィルタの生産性を向上させることができる。
【0018】
ここで、シングルバンド型のSAWフィルタを水晶基板上に構成した場合の温度特性の一例を図3に示す。本実施形態におけるSAWフィルタ10,30も図3に示すような温度特性を有する。図3に示す水晶基板を用いたSAWフィルタの温度特性においては、温度に対する中心周波数の特性が非線形特性であり、2次曲線でほぼ近似可能な変曲点を有する特性となっている。より詳細には図3に示すように、温度がT0より小さい範囲では温度上昇に対してSAWフィルタの中心周波数が増大し、温度T0を変曲点として傾きの正負が反転し、温度がT0より大きい範囲では温度上昇に対してSAWフィルタの中心周波数が減少する。そのため、温度がT0近傍の範囲では温度変化に対してSAWフィルタの中心周波数はほとんど変化しない。以下、この温度T0を頂点温度とする。
【0019】
SAWフィルタにおいて、温度変化に対する中心周波数への影響を少なくするためには、前述の頂点温度T0が常用時の温度範囲内に含まれていることが好ましい。そして、本実施形態に係るマルチバンド型弾性波フィルタにおいては、複数のSAWフィルタ10,30の温度特性の頂点温度T0がいずれも常用時の温度範囲内に含まれていることが好ましい。したがって、複数のSAWフィルタ10,30間で温度特性(温度−中心周波数特性)が略一致していることが好ましい。
【0020】
SAWフィルタの温度特性(温度−中心周波数特性)は、すだれ状電極の膜厚変化に伴い変化する。複数のSAWフィルタ10,30間で温度特性(頂点温度T0)をそろえるためには、すだれ状電極の膜厚hをSAWの波長λで割った規格化膜厚h/λを複数のSAWフィルタ10,30間で等しく設定することで、その実現が可能である。ただし、本実施形態に係るマルチバンド型弾性波フィルタにおいては、すべてのすだれ状電極の膜厚hが略等しいため、複数のSAWフィルタ10,30間で、すだれ状電極の規格化膜厚h/λが異なり、温度特性(頂点温度T0)も異なってくる。なお、以上に説明した温度特性(温度−中心周波数特性)は、弾性波フィルタが圧電性基板の表面近傍を伝搬するSTW(バルク波)を利用するSTWフィルタである場合でも同様である。
【0021】
そこで、本実施形態においては、通過周波数帯域が高いSAWフィルタほど、入力側すだれ状電極のメタライズ比と出力側すだれ状電極のメタライズ比の少なくとも一方を小さく設定する。ここで、(メタライズ比)=(電極指幅)/(電極指ピッチ)=2×(電極指幅)/(SAWの波長)である。このすだれ状電極のメタライズ比の設定により、後述するように複数のSAWフィルタ10,30間ですだれ状電極の規格化膜厚h/λが異なることに起因する温度特性差を補償することができる。図2はその一例として、通過周波数帯域が高いSAWフィルタほど、入力側すだれ状電極のメタライズ比と出力側すだれ状電極のメタライズ比の両方が小さく設定されている場合を示している。すなわち、SAWフィルタ10に関して入力側すだれ状電極12,14のメタライズ比及び出力側すだれ状電極16,18のメタライズ比をそれぞれMi1(=2×wi1/λ1)及びMo1(=2×wo1/λ1)とし、SAWフィルタ30に関して入力側すだれ状電極32,34のメタライズ比及び出力側すだれ状電極36,38のメタライズ比をそれぞれMi2(=2×wi2/λ2)及びMo2(=2×wo2/λ2)とすると、f1<f2であるため、Mi1>Mi2及びMo1>Mo2が成立している。ただし、wi1、wo1、wi2、wo2は、それぞれ入力側すだれ状電極12,14の電極指幅、出力側すだれ状電極16,18の電極指幅、入力側すだれ状電極32,34の電極指幅、出力側すだれ状電極36,38の電極指幅である。そして、λ1はSAWフィルタ10にて励振されるSAWの波長であり、λ2はSAWフィルタ30にて励振されるSAWの波長である。
【0022】
次に、本願発明者が行った実験の結果について説明する。なお、以下の実験結果では、弾性波フィルタがSTWフィルタである場合について説明しているが、弾性波フィルタがSAWフィルタである場合でも同様である。
【0023】
まず水晶基板上にアルミニウムの入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極を形成したシングルバンド型のSTWフィルタについて、すだれ状電極の規格化膜厚h/λの変化に対する頂点温度T0の変化を調べた。より詳細には、入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極のメタライズ比Mをともに0.56(56%)の一定値に固定して、入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極の規格化膜厚h/λをともに変化させた場合におけるSTWフィルタの温度特性を測定することで、規格化膜厚h/λに対する頂点温度T0の特性を調べた。その実験結果を図4に示す。図4に示すように、規格化膜厚h/λに対する頂点温度T0の特性は、ほぼ線形特性にあり、規格化膜厚h/λの増大に対して頂点温度T0が低下している。
【0024】
次に、水晶基板上にアルミニウムの入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極を形成したシングルバンド型のSTWフィルタについて、すだれ状電極のメタライズ比Mの変化に対する頂点温度T0の変化を調べた。より詳細には、入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極の規格化膜厚h/λをともに一定値に固定して、入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極のメタライズ比Mをともに変化させた場合におけるSTWフィルタの温度特性を測定することで、メタライズ比Mに対する頂点温度T0の特性を調べた。その実験結果を図5に示す。図5に示すように、メタライズ比Mに対する頂点温度T0の特性は、ほぼ線形特性にあり、メタライズ比Mの増大に対して頂点温度T0が低下している。
【0025】
図4,5に示す実験結果から、すだれ状電極の膜厚hを一定値に保ちながら通過周波数帯域を変化させた場合に、規格化膜厚h/λの変化による頂点温度T0の変化をメタライズ比Mの変化により補償することができる。より具体的には、すだれ状電極の膜厚hが一定で通過周波数帯域が高くなると、規格化膜厚h/λは大きくなるので、図4から頂点温度T0は低下する。この頂点温度T0の低下を補償するためには、図5からメタライズ比Mを小さく設定すればよい。
【0026】
また、図4に示す規格化膜厚h/λ−頂点温度T0特性の傾きは、約−60/0.28(℃/%)であり、規格化膜厚h/λの変化分δ(h/λ)による頂点温度T0の変化分δThは、約−60/0.28×δ(h/λ)となる。一方、図5に示すメタライズ比M−頂点温度T0特性の傾きは、約−60/8(℃/%)であり、メタライズ比Mの変化分δMによる頂点温度T0の補償分δTMは、約−60/8×δMとなる。そのため、規格化膜厚h/λの変化による頂点温度T0の変化分δThをより正確に補償するためには、δTM=−δTh、すなわち、−60/8×δM=60/0.28×δ(h/λ)がほぼ成立することが好ましい。したがって、規格化膜厚h/λの変化分δ(h/λ)に対してメタライズ比Mの変化分δMを、約−8/0.28×δ(h/λ)に設定すればよい。ただし、頂点温度T0の60℃程度の変化に対する補償の際に、±20℃程度の誤差が生じても実用上は問題ない。そこで、頂点温度T0の変化分δThに対する補償分δTMの許容範囲を、−80/60×δTh≦δTM≦=−40/60×δThとしても、実用上問題なく頂点温度T0の変化を補償することができる。
【0027】
以上のことから、複数のSAWフィルタの中における任意の2つのSAWフィルタに関して、規格化膜厚差をδ(h/λ)、入力側すだれ状電極のメタライズ比の差をδMi、出力側すだれ状電極のメタライズ比の差をδMoとすると、以下の(1)式、及び(2)式に示す関係が成立することがさらに好ましい。その中でも、δMi/δ(h/λ)=−200/7、δMo/δ(h/λ)=−200/7がほぼ成立することが特に好ましい。
【0028】
−800/21≦δMi/δ(h/λ)≦−400/21 (1)
−800/21≦δMo/δ(h/λ)≦−400/21 (2)
【0029】
図2に示す例においては、以下の(3)式、及び(4)式に示す関係が成立するように、Mi1、Mo1、Mi2、Mo2の値を設定すればよい。
【0030】
−800/21≦(Mi2−Mi1)/(h/λ2−h/λ1)≦−400/21 (3)
−800/21≦(Mo2−Mo1)/(h/λ2−h/λ1)≦−400/21 (4)
【0031】
なお、図5では、入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極のメタライズ比Mをともに変化させた場合を説明している。ただし、メタライズ比Mの変化による頂点温度T0の変化については、入力側すだれ状電極と出力側すだれ状電極とでメタライズ比Mが異なる場合や、入力側すだれ状電極と出力側すだれ状電極のいずれか一方のメタライズ比Mを変化させた場合でも、ほぼ同様の現象が成立する。したがって、通過周波数帯域が高いSAWフィルタほど、入力側すだれ状電極のメタライズ比Miと出力側すだれ状電極のメタライズ比Moの少なくとも一方を小さく設定することで、複数のSAWフィルタ間における頂点温度T0の差を補償することができる。さらに、(1)、(2)式のいずれか一方が成立する場合でも、複数のSAWフィルタ間における頂点温度T0の差を正確に補償することができる。
【0032】
また、メタライズ比Mの変化による頂点温度T0の変化については、入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極の材料がアルミニウム以外であっても同様の現象が成立する。さらに、温度特性が変曲点を有する特性を示す圧電性基板であれば水晶基板以外であっても同様の現象が成立する。
【0033】
以上説明したように、本実施形態においては、複数のSAWフィルタ10,30間ですだれ状電極の規格化膜厚h/λが異なることに起因する温度特性(頂点温度T0)の差をすだれ状電極のメタライズ比Mの設定により補償することができる。したがって、すべてのすだれ状電極の膜厚hが等しく設定されている場合でも、複数のSAWフィルタ10,30間で温度特性(頂点温度T0)をそろえることができるので、優れた温度特性を得ることができる。
【0034】
そして、本実施形態においては、すべてのすだれ状電極の膜厚hが等しく設定されていることで、すだれ状電極を圧電性基板24上に形成する工程数を減少させることができるので、マルチバンド型弾性波フィルタの生産性を向上させることができる。
【0035】
さらに、本実施形態においては、(1)、(2)式の少なくとも一方が成立するようにすだれ状電極のメタライズ比Mを設定することで、複数のSAWフィルタ10,30間における温度特性(頂点温度T0)の差をより正確に補償することができるので、より優れた温度特性を得ることができる。
【0036】
以上の本実施形態の説明においては、2つのSAWフィルタを並列に備え、通過周波数帯域が2つであるマルチバンド型弾性波フィルタの場合について説明した。ただし、本発明は、3つ以上のSAWフィルタを並列に備え、通過周波数帯域が3つ以上であるマルチバンド型弾性波フィルタの場合についても適用可能である。
【0037】
また、以上の本実施形態の説明においては、各々が異なる通過周波数帯域を有する複数の弾性波フィルタとして、圧電性基板24の表面を伝搬するSAW(レイリー波)を利用するSAWフィルタ10,30を備えた場合について説明した。ただし、本実施形態においては、SAWフィルタ10,30の代わりに、圧電性基板24の表面近傍を伝搬するSTW(バルク波)を利用するSTWフィルタを備えることもできる。弾性波フィルタとしてSTWフィルタを用いた場合でも、複数のSTWフィルタ間ですだれ状電極の規格化膜厚h/λが異なることに起因する温度特性(頂点温度T0)の差をすだれ状電極のメタライズ比Mの設定により補償することができる。
【0038】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係るマルチバンド型弾性波フィルタの構成の概略を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るマルチバンド型弾性波フィルタの構成の概略を示す断面図である。
【図3】シングルバンド型のSAWフィルタを水晶基板上に構成した場合の温度特性の一例を示す図である。
【図4】シングルバンド型のSTWフィルタについて、メタライズ比を固定して規格化膜厚を変化させた場合における温度特性の頂点温度の実験結果を示す図である。
【図5】シングルバンド型のSTWフィルタについて、規格化膜厚を固定してメタライズ比を変化させた場合における温度特性の頂点温度の実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
10,30 SAWフィルタ、12,14,32,34 入力側すだれ状電極、16,18,36,38 出力側すだれ状電極、24 圧電性基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が異なる通過周波数帯域を有する複数の弾性波フィルタを備えることで、複数の通過周波数帯域を有するマルチバンド型弾性波フィルタであって、
各弾性波フィルタは、弾性波を圧電性基板へ励振する入力側すだれ状電極及び該弾性波を検出する出力側すだれ状電極を有するとともに、各弾性波フィルタに用いられる圧電性基板が共通化されており、
すべての入力側すだれ状電極及び出力側すだれ状電極の膜厚が略等しく、
通過周波数帯域の高い弾性波フィルタほど、入力側すだれ状電極のメタライズ比と出力側すだれ状電極のメタライズ比の少なくとも一方が小さく設定されていることを特徴とするマルチバンド型弾性波フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチバンド型弾性波フィルタであって、
通過周波数帯域の高い弾性波フィルタほど、入力側すだれ状電極のメタライズ比と出力側すだれ状電極のメタライズ比の両方が小さく設定されていることを特徴とするマルチバンド型弾性波フィルタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマルチバンド型弾性波フィルタであって、
各弾性波フィルタの中心周波数の温度に対する特性が変曲点を有することを特徴とするマルチバンド型弾性波フィルタ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のマルチバンド型弾性波フィルタであって、
各弾性波フィルタに用いられる圧電性基板が水晶基板であることを特徴とするマルチバンド型弾性波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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