説明

マルチメディア総合品質推定方法および装置

【課題】一定区間内に同時に映像および音劣化が発生する場合においても十分な推定精度を得る。
【解決手段】劣化発生パターン一致度算出部25で、映像パケット情報と音パケット情報とに基づき、計測時間のうち映像と音の両方で劣化が発生した同時劣化区間数に基づき劣化発生パターン一致度を算出し、劣化同時発生影響度推定部26で、劣化同時発生影響度推定モデル13Cに基づき、劣化発生パターン一致度に対応する劣化同時発生影響度を算出する。この後、マルチメディア総合品質推定部27で、マルチメディア総合品質推定モデル13Dに基づき、映像品質推定部23で算出した映像品質推定値、音品質推定部24で算出した音品質推定値、および劣化同時発生影響度推定部26で算出した劣化同時発生影響度に対応するマルチメディア総合品質値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信品質推定技術に関し、特に映像品質と音品質を総合したユーザ体感品質を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
IP網のアクセス網が広帯域化する中、映像配信サービスやテレビ会議など映像系のサービスが普及しつつある。これらの映像アプリケーションでは、ネットワークや端末でパケットの損失や遅延が生じた場合に映像品質劣化や音品質劣化となり、サービス品質が落ちるため、一定のマルチメディア総合品質を確保するようネットワークや端末の品質を管理する必要がある。このためには、例えば、パケット損失や遅延などのネットワーク品質がユーザの視聴する映像品質や音品質からマルチメディア総合品質すなわちユーザ体感品質がどうなっているのか品質推定する必要がある。
【0003】
このような映像通信サービスにおけるマルチメディア総合品質を推定する方法として、音品質、映像品質および両者の遅延時間などからマルチメディア総合品質を推定する方法がある(例えば、非特許文献1など参照)。この方法を用いれば、ユーザが体感するマルチメディア総合品質を推定することが可能となる。
【0004】
【特許文献1】特許3579334号公報
【特許文献2】特開2006−033722号公報
【非特許文献1】PCT/JP2006/317637:"Video communication quality for Estimation device,Method,and Program"
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来技術では、映像品質劣化と音品質劣化が同時に発生した場合、独立して発生した場合に比べてユーザ体感品質への影響が軽減されるような映像品質劣化と音品質劣化の劣化発生パターンのユーザ体感品質への影響については考慮されておらず、マルチメディア総合品質の推定誤差を生じる要因となっていた。
本発明はこのような課題を解決するものであり、複数発生したパケット損失に起因して、一定区間内に同時に映像および音劣化が発生する場合や独立して劣化が発生する場合など、いずれの場合においても十分な推定精度が得られるマルチメディア総合品質推定方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明にかかるマルチメディア総合品質推定方法は、映像および音の符号化データをそれぞれ別個のデータパケットに格納して送信装置から通信網を介して受信装置へ送信する映像通信について、演算処理部と記憶部を備えるマルチメディア総合品質推定装置により、任意の計測期間内に取得したデータパケットから得た映像パケットに関する映像パケット情報から推定した映像品質値と、データパケットから得た音声パケットに関する音パケット情報から推定した音品質値とを用いて、映像通信の総合的な品質を示すマルチメディア総合品質を推定するマルチメディア総合品質推定方法であって、記憶部により、劣化パターン一致度と劣化同時発生影響度との対応関係を示す劣化同時発生影響度推定モデルを記憶するとともに、映像品質値、音品質値、および劣化同時発生影響度と、マルチメディア総合品質値との対応関係を示すマルチメディア総合品質推定モデルを記憶する記憶ステップと、演算処理部により、映像パケット情報と音パケット情報とに基づいて、計測時間を区切って設けた複数の区間のうち、映像と音の両方で劣化が発生した同時劣化区間数に基づき劣化発生パターン一致度を算出する劣化発生パターン一致度算出ステップと、演算処理部により、記憶部から読み出した劣化同時発生影響度推定モデルに基づいて、劣化発生パターン一致度に対応する劣化同時発生影響度を算出する劣化同時発生影響度推定ステップと、演算処理部により、記憶部から読み出したマルチメディア総合品質推定モデルに基づいて、映像品質推定値、音品質推定値、および劣化同時発生影響度に対応するマルチメディア総合品質値を算出するマルチメディア総合品質推定ステップとを備えている。
【0007】
この際、劣化発生パターン一致度算出ステップで、映像パケット情報と音パケット情報とから得た各区間における映像無効パケットと音無効パケットとの発生有無に基づいて、区間ごとに同時劣化区間であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0008】
また、劣化発生パターン一致度算出ステップで、各区間のうち少なくとも映像または音のいずれか一方で劣化が発生した区間の数に対する同時劣化区間数の割合を、劣化発生パターン一致度として算出するようにしてもよい。
【0009】
また、劣化同時発生影響度推定モデルとして、劣化発生パターン一致度の増加に応じて劣化同時発生影響度が単調減少する関数を用いてもよい。
【0010】
また、マルチメディア総合品質推定モデルとして、映像品質値、音品質値、これら映像品質値と音品質値の積、および劣化同時発生影響度の重み付き線形和からマルチメディア総合品質を算出する関数を用いてもよい。
【0011】
また、本発明にかかるマルチメディア総合品質推定装置は、映像および音の符号化データをそれぞれ別個のデータパケットに格納して送信装置から通信網を介して受信装置へ送信する映像通信について、任意の計測期間内に取得したデータパケットから得た映像パケットに関する映像パケット情報から推定した映像品質値と、データパケットから得た音声パケットに関する音パケット情報から推定した音品質値とを用いて、映像通信の総合的な品質を示すマルチメディア総合品質を推定するマルチメディア総合品質推定装置であって、劣化パターン一致度と劣化同時発生影響度との対応関係を示す劣化同時発生影響度推定モデルを記憶するとともに、映像品質値、音品質値、および劣化同時発生影響度と、マルチメディア総合品質値との対応関係を示すマルチメディア総合品質推定モデルを記憶する記憶部と、映像パケット情報と音パケット情報とに基づいて、計測時間を区切って設けた複数の区間のうち、映像と音の両方で劣化が発生した同時劣化区間数に基づき劣化発生パターン一致度を算出する劣化発生パターン一致度算出部と、記憶部から読み出した劣化同時発生影響度推定モデルに基づいて、劣化発生パターン一致度に対応する劣化同時発生影響度を算出する劣化同時発生影響度推定部と、記憶部から読み出したマルチメディア総合品質推定モデルに基づいて、映像品質推定値、音品質推定値、および劣化同時発生影響度に対応するマルチメディア総合品質値を算出するマルチメディア総合品質推定部とを備えている。
【0012】
この際、劣化発生パターン一致度算出部で、映像パケット情報と音パケット情報とから得た各区間における映像無効パケットと音無効パケットとの発生有無に基づいて、区間ごとに同時劣化区間であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0013】
また、劣化発生パターン一致度算出部で、各区間のうち少なくとも映像または音のいずれか一方で劣化が発生した区間の数に対する同時劣化区間数の割合を、劣化発生パターン一致度として算出するようにしてもよい。
【0014】
また、劣化同時発生影響度推定モデルとして、劣化発生パターン一致度の増加に応じて劣化同時発生影響度が単調減少する関数を用いてもよい。
【0015】
また、マルチメディア総合品質推定モデルとして、映像品質値、音品質値、これら映像品質値と音品質値の積、および劣化同時発生影響度の重み付き線形和からマルチメディア総合品質を算出する関数を用いてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、映像と音を含む映像通信の総合的なマルチメディア総合品質を推定する際、映像品質劣化と音品質劣化が同時に発生した場合に、これらが独立して発生した場合に比べてユーザ体感品質への影響が軽減される傾向を考慮して、マルチメディア総合品質を推定することができる。
このため、複数発生したパケット損失に起因して、一定区間内に同時に映像および音劣化が発生する場合や独立して劣化が発生する場合など、いずれの場合においても十分な推定精度を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[マルチメディア総合品質推定装置の構成]
まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態にかかるマルチメディア総合品質推定装置について説明する。図1は、本発明の一実施の形態にかかるマルチメディア総合品質推定装置の構成を示すブロック図である。
【0018】
マルチメディア総合品質推定装置1は、全体として映像通信サービスのサーバ装置やパーソナルコンピュータ、あるいは映像通信端末などのコンピュータを用いた情報処理装置からなり、送信装置により、所定の符号化方式に基づき映像および音声の情報をデータパケットに格納し、通信網を介して接続された受信装置へ送信する映像通信のマルチメディア総合品質を推定する機能を有している。ここでは、マルチメディア総合品質推定装置1を、受信端末とは独立して実現した場合について説明する。
【0019】
このマルチメディア総合品質推定装置1には、演算処理部10、操作入力部11、画面表示部12、記憶部13、通信インタフェース部14(以下、通信1/F部という)、映像パケット情報収集部21、音パケット情報収集部22、映像品質推定部23、音品質推定部24、劣化発生パターン一致度算出部25、劣化同時発生影響度推定部26、マルチメディア総合品質推定部27が設けられている。また、記憶部13には、映像品質推定モデル13A、音品質推定モデル13B、劣化同時発生影響度推定モデル13C、マルチメディア総合品質推定モデル13D、およびプログラム13Pが記憶されている。
【0020】
本実施の形態は、劣化発生パターン一致度算出部25において、映像パケット情報収集部21で得た映像パケット情報と音パケット情報収集部22で得た音パケット情報とに基づいて、計測時間を区切って設けた複数の区間のうち、映像と音の両方で劣化が発生した同時劣化区間数に基づき劣化発生パターン一致度を算出し、劣化同時発生影響度推定部26において、記憶部13から読み出した劣化同時発生影響度推定モデル13Cに基づいて、劣化発生パターン一致度に対応する劣化同時発生影響度を算出する。
【0021】
この後、マルチメディア総合品質推定部27において、記憶部13から読み出したマルチメディア総合品質推定モデル13Dに基づいて、映像品質推定部23で算出した映像品質推定値、音品質推定部24で算出した音品質推定値、および劣化同時発生影響度推定部26で算出した劣化同時発生影響度に対応するマルチメディア総合品質値を算出する。
【0022】
次に、図1を参照して、本発明の一実施の形態にかかるマルチメディア総合品質推定装置の構成について説明する。
演算処理部10は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、あらかじめ記憶部13に保存されているプログラム13Pを読み込んでマイクロプロセッサで実行することにより、上記ハードウェアとプログラム13Pを協働させることにより各種機能処理部を実現する。
【0023】
前述した機能部のうち、映像パケット情報収集部21、音パケット情報収集部22、映像品質推定部23、音品質推定部24、劣化発生パターン一致度算出部25、劣化同時発生影響度推定部26、マルチメディア総合品質推定部27が演算処理部10で実現される機能処理部に相当する。なお、これら機能処理部については、専用の演算処理回路で実現してもよい。
【0024】
操作入力部11は、キーボードやマウスなどの操作入力装置からなり、オペレータの操作を検出して演算処理部10へ出力する機能を有している。
画面表示部12は、LCDやPDPなどの画面表示装置からなり、演算処理部10からの指示に応じて、操作メニューや映像品質推定結果などの各種情報を画面表示する機能を有している。
【0025】
記憶部13は、メモリやハードディスクなどの記憶装置からなり、−演算処理部10の機能処理部で用いる各種処理情報や各種推定用モデル、さらにはプログラム13Pを記憶する機能を有している。プログラム13Pは、通信1/F部14を介して接続された外部装置や記録媒体から読み込まれて記憶部13に格納される。
記憶部13で記憶される推定用モデルとしては、映像品質推定モデル13A、音品質推定モデル13B、劣化同時発生影響度推定モデル13C、およびマルチメディア総合品質推定モデル13Dがある。
【0026】
映像品質推定モデル13Aは、映像無効パケットなどに関する映像パケット情報と映像品質値との対応関係を示すモデルである。
音品質推定モデル13Bは、音無効パケットなどに関する映像パケット情報と音品質値との対応関係を示すモデルである。
劣化同時発生影響度推定モデル13Cは、劣化パターン一致度と劣化同時発生影響度との対応関係を示すモデルである。
マルチメディア総合品質推定モデル13Dは、マルチメディア総合品質値との対応関係を示すモデルである。
【0027】
これら推定用モデルは、関数式で構成されているのが一般的であるが、データベースなどの他の公知のモデル構成であってもよい。これに推定用モデルは、予め試験やシミュレーションで得られた入出力情報に基づき回帰分析して導出しておけばよい。また、同一目的で使用するモデルを複数用意しておき、映像パケット情報や音パケット情報から抽出したパラメータや品質推定時に入力した当該映像通信に関するパラメータに基づき、複数のモデルのうちから実際の推定に用いるモデルを選択するようにしてもよい。この際、モデル選択用パラメータによりモデル係数を制御して、モデル形状を変化させることにより、実際の推定に用いるモデルを選択するようにしてもよい。これにより、より高精度な推定が可能となる。
【0028】
通信I/F部14は、送信装置2と受信装置3を結ぶ通信回線から、品質評価対象となる映像通信で用いるデータパケットや制御パケットなどの各種パケットを受信する機能を有している。
【0029】
映像パケット情報収集部21は、通信1/F部14で受信された当該映像通信のパケットに基づいて、映像パケットに関する映像無効パケットなどの映像パケット情報を収集する機能を有している。ここで、無効パケットとは、パケット損失、順序逆転パケット、遅延ゆらぎによるバッファあふれにより端末で再生できなかったパケットを示す。
音パケット情報収集部22は、通信1/F部14で受信された当該映像通信のパケットに基づいて、音パケットに関する音無効パケットなどの音パケット情報を収集する機能を有している。
この際、映像パケット情報収集部21や音パケット情報収集部22では、パケット損失、順序逆転パケット、遅延ゆらぎによるバッファあふれを考慮した無効パケット情報を収集してもよい(例えば、特許文献1など参照)。
【0030】
映像品質推定部23は、記憶部13から映像品質推定モデル13Aを読み出して、映像パケット情報収集部21から得た映像パケット情報に対応する映像品質推定値を算出する機能を有している。
音品質推定部24は、記憶部13から音品質推定モデル13Bを読み出して、音パケット情報収集部22から得た音パケット情報に対応する音品質推定値を算出する機能を有している。
【0031】
これら、映像品質推定部23や音品質推定部24における品質推定方法については、例えば映像無効パケットや音無効パケットに基づきユーザ体感品質を推定するなどの、一般的な公知の技術を用いればよく、ここでの詳細な説明は省略する。また、市販の測定機器において、映像信号や音信号を入力した結果、映像品質推定値や音信号推定値が算出されるものがあれば、これら測定機器を映像品質推定部23や音品質推定部24として利用してもよい。
【0032】
劣化発生パターン一致度算出部25は、映像パケット情報収集部21と音パケット情報収集部22から映像パケット情報と音パケット情報を受け取り、映像無効パケットおよび音無効パケットの発生の有無を区間毎に調べる機能と、全劣化発生区間に対する映像無効パケットと音無効パケットが同時に発生している区間の割合を劣化発生パターン一致度として算出する機能とを有している。
劣化同時発生影響度推定部26は、記憶部13から劣化同時発生影響度推定モデル13Cを読み出して、劣化発生パターン一致度算出部25で算出された劣化発生パターン一致度に対応する劣化同時発生影響度を算出する機能を有している。
【0033】
マルチメディア総合品質推定部27は、記憶部13からマルチメディア総合品質推定モデル13Dを読み出して、映像品質推定部23で算出された映像品質推定値、音品質推定部24で算出された音品質推定値、および劣化同時発生影響度推定部26で算出された劣化同時発生影響度に対応するマルチメディア総合品質推定値を算出する機能を有している。
マルチメディア総合品質推定装置は、本実施例のように、受信装置の手前で測定器としておいてもよいし、映像配信サービスでセットトップボックス(STB)を介してテレビで映像・音を再生する場合には、STB内にマルチメディア総合品質推定機能を有してもよい。
【0034】
[劣化発生パターン一致度]
次に、図2を参照して、劣化発生パターン一致度のユーザ体感品質(MOS)への影響について説明する。図2は、劣化発生パターン一致度のユーザ体感品質への影響を示す説明図である。
【0035】
図2において、劣化発生パターン例(1)は、一定時間内での音劣化発生回数が2回、映像劣化発生回数が2回であり、これをマルチメディアとして総合すると一定時間内に異なる時間軸上に4回発生している。この場合の劣化発生パターン一致度は0である。劣化発生パターン例(2)は、一定時間内の音劣化発生回数および映像劣化発生回数は、劣化発生パターン例(1)と同じ2回であるが、同一時刻に発生しているため、マルチメディアとして総合すると、一定時間内にユーザが知覚する劣化発生回数は2回となる。この場合の劣化発生パターン一致度は1である。
【0036】
これらの場合についてユーザ体感品質に及ぼす影響を考える。劣化発生パターン例(1)および(2)について、音品質劣化に対する音品質主観評価値をそれぞれMOSA1、MOS盈、映像品質劣化に対する映像品質主観評価値をそれぞれMOSV1、MOSV2、マルチメディア総合品質をそれぞれMOSMM1、MOSMM2とする。
【0037】
このとき、音品質については、劣化発生パターン例(1)の場合も(2)の場合も一定時間内の劣化発生回数は同じなので、MOSA1、MOSA2は等しいと考えられる。また、映像品質についても同様に映像劣化発生回数は同じなので、MOSV1、MOSV2は等しいと考えられる。
ところが、マルチメディア総合品質評価についてみると、一定時間内の発生回数が劣化発生パターン例(1)では4回、劣化発生パターン例(2)では2回であるため、MOSMM1とMOSMM2は等しくならず、MOSMM1はMOSMM2より低くなる。
【0038】
[マルチメディア総合品質推定処理]
次に、図3を参照して、本発明の一実施の形態にかかるマルチメディア総合品質推定装置のマルチメディア総合品質推定動作について説明する。図3は、本発明の一実施の形態にかかるマルチメディア総合品質推定装置のマルチメディア総合品質推定処理を示すフローチャートである。
ここでは、送信装置2から任意の計測期間内に送信されて、通信網4を介して受信装置3で受信再生した音および映像からユーザが実感するユーザ体感品質値として、マルチメディア総合品質値を推定する場合を例として説明する。
【0039】
マルチメディア総合品質推定装置1の演算処理部10は、まず、通信I/F部14により、送信装置2と受信装置3を結ぶ通信回線から、品質評価対象となる映像通信に関するパケットを計測期間について収集する(ステップ100)。
次に、演算処理部10は、映像パケット情報収集部21により、通信1/F部14で収集したパケットから映像パケット情報を収集するとともに(ステップ101)、音パケット情報収集部22により、通信1/F部14で収集したパケットから音パケット情報を収集する(ステップ102)。
【0040】
続いて、演算処理部10は、映像品質推定部23により、記憶部13から映像品質推定モデル13Aを読み出して、映像パケット情報収集部21からの映像パケット情報に対応する映像品質推定値を算出するとともに(ステップ103)、音品質推定部24により、記憶部13から音品質推定モデル13Bを読み出して、音パケット情報収集部22からの音パケット情報に対応する音品質推定値を算出する(ステップ104)。
【0041】
また、演算処理部10は、劣化パターン一致度算出部25により、映像パケット情報収集部21からの映像パケット情報と音パケット情報収集部22からの音パケット情報とに基づき、計測期間内に分割して設けた複数の区間ごとに劣化発生状況を調べ、その結果に基づいて劣化パターン一致度を算出する(ステップ105)。
次に、演算処理部10は、劣化同時発生影響度推定部26により、記憶部13から劣化同時発生影響度推定モデル13Cを読み出して、劣化パターン一致度算出部25で算出した劣化パターン一致度に対応する劣化同時発生影響度を算出する(ステップ106)。
【0042】
この後、演算処理部10は、マルチメディア総合品質推定部27により、記憶部13からマルチメディア総合品質推定モデル13Dを読み出して、映像品質推定部23で算出された映像品質推定値、音品質推定部24で算出された音品質推定値、および劣化同時発生影響度推定部26で算出された劣化同時発生影響度に対応するマルチメディア総合品質推定値を算出し(ステップ107)、一連のマルチメディア総合品質推定処理を終了する。
【0043】
[劣化発生パターン一致度算出処理]
次に、図4を参照して、本発明の一実施の形態にかかるマルチメディア総合品質推定装置の劣化パターン一致度算出動作について説明する。図4は、劣化パターン一致度算出方法を示す説明図である。
【0044】
劣化パターン一致度算出部25は、計測期間T内において一定時間で区切られた区間tを一単位として、映像無効パケットおよび音無効パケットの発生状況から、各区間t内の劣化発生状況をそれぞれ調べ、その結果に基づいて映像劣化と音劣化が同時に発生している同時劣化区間数を計数する。図4の例では、区間S1,S5,S8,S9において映像無効パケットが確認され映像劣化が発生しており、区間S3,S5,S9において音無効パケットが確認され音劣化が発生している。したがって、映像劣化と音劣化が同時劣化区間はS5,S9となり、計測期間Tにおいて同時劣化区間数は2となる。
【0045】
一方、劣化パターン一致度算出部25は、映像無効パケットおよび音無効パケットの発生状況から、計測期間T内の総劣化発生区間数を計数する。図4の例では、少なくとも映像劣化または音劣化のいずれか一方が発生した区間は、S1,S3,S5,S8,S9となり、計測期間Tにおいて、総劣化発生区間数は5となる。
この後、劣化パターン一致度算出部25は、計測期間T内の総劣化発生区間数に対する同時劣化区間数の割合を劣化発生パターン一致度として算出する。
【0046】
このとき、劣化発生の有無については、区間内の無効パケットの発生の有無以外の方法で判定してもよい。また、映像無効パケットの場合は、映像無効パケットにより劣化が影響するフレーム時間長を考慮した映像無効フレームの発生の有無で算出してもよい(例えば、特許文献2など参照)。
また、パターン一致度を算出するための区間の時間長は、例えば、映像に劣化が加わった場合の劣化のリフレッシュ期間として一般的な映像配信サービスで用いられる0.5秒の整数倍としてもよい。また、劣化発生パターン一致度を算出するための全測定区間は、主観品質を推定する時間単位である10秒としてもよい。
【0047】
図5は、劣化発生パターン一致度と劣化同時発生影響度の関係を示すグラフである。劣化同時発生影響度推定モデルは、劣化発生パターン一致度x(但し、0≦x≦1)の増加に応じて劣化同時発生影響度が単調減少となる関数であればよく、例えばf(x)=1−ax,f(x)=1−ax2,f(x)=1−ax1/2,f(x)=1−(ax2+bx)などの関数f(x)を用いればよい。但し、a,bは定数である。
【0048】
次に、マルチメディア総合品質推定モデルとして、例えばMOSA、MOSV、MOSA×MOSV、f(x)の重み付き線形和でMOSMMを算出する次の関数式(1)を考える。但し、α,β,γ,εは定数(重み)である。
MOSMM=αMOSA+βMOSV+γMOSA×MOSV+f(x)+ε …(1)
【0049】
マルチメディア総合品質推定モデルを導出するためには、式(1)において、f(x)は前述の単調減少関数を当てはめて重回帰分析を行う。f(x)の式の関数形を変えた場合について同様に重回帰分析を行って、両重回帰分析結果を比較し、最も主観品質との対応がよい重相関係数が高いものをモデル式として選ぶ。また、マルチメディア総合品質推定モデルの形としては、式(1)に限定されるものではなく、MOSA、MOSV、f(x)のすべての交互作用を考慮したモデル式であってもよい。
【0050】
[本実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、劣化発生パターン一致度算出部25で、映像パケット情報と音パケット情報とに基づいて、計測時間のうち映像と音の両方で劣化が発生した同時劣化区間数に基づき劣化発生パターン一致度を算出し、劣化同時発生影響度推定部26で、記憶部13から読み出した劣化同時発生影響度推定モデル13Cに基づいて、劣化発生パターン一致度に対応する劣化同時発生影響度を算出する。
この後、マルチメディア総合品質推定部27で、記憶部13から読み出したマルチメディア総合品質推定モデル13Dに基づいて、映像品質推定部23で算出した映像品質推定値、音品質推定部24で算出した音品質推定値、および劣化同時発生影響度推定部26で算出した劣化同時発生影響度に対応するマルチメディア総合品質値を算出している。
【0051】
したがって、映像と音を含む映像通信の総合的なマルチメディア総合品質を推定する際、映像品質劣化と音品質劣化が同時に発生した場合、これらが独立して発生した場合に比べてユーザ体感品質への影響が軽減される傾向を考慮して、マルチメディア総合品質を推定することができる。
このため、複数発生したパケット損失に起因して、一定区間内に同時に映像および音劣化が発生する場合や独立して劣化が発生する場合など、いずれの場合においても十分な推定精度を得ることが可能となる。
【0052】
また、本実施の形態では、劣化同時発生影響度推定モデル13Cとマルチメディア総合品質推定モデル13Dを別個のモデルとして構成する場合を例として説明したが、劣化同時発生影響度推定モデル13Cをマルチメディア総合品質推定モデル13Dに組み込んでもよい。この場合、マルチメディア総合品質推定部27により、映像品質推定部23で算出された映像品質推定値、音品質推定部24で算出された音品質推定値、および劣化パターン一致度算出部25で算出された劣化パターン一致度を入力とし、マルチメディア総合品質推定モデル13Dに基づいてこれら入力に対応するマルチメディア総合品質推定値を算出することになる。これにより、劣化同時発生影響度推定部26や劣化同時発生影響度推定モデル13Cなどの構成を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるマルチメディア総合品質推定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】劣化発生パターン一致度のユーザ体感品質への影響を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態にかかるマルチメディア総合品質推定装置のマルチメディア総合品質推定処理を示すフローチャートである。
【図4】劣化パターン一致度算出方法を示す説明図である。
【図5】劣化発生パターン一致度と劣化同時発生影響度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
1…マルチメディア総合品質推定装置、10…演算処理部、11…操作入力部、12…画面表示部、13…記憶部、13A…映像品質推定モデル、13B…音品質推定モデル、13C…劣化同時発生影響度推定モデル、13D…マルチメディア総合品質推定モデル、13P…プログラム、14…通信1/F部、21…映像パケット情報収集部、22…音パケット情報収集部、23…映像品質推定部、24…音品質推定部、25…劣化発生パターン一致度算出部、26…劣化同時発生影響度推定部、27…マルチメディア総合品質推定部、2…送信装置、3…受信装置、4…通信網。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像および音の符号化データをそれぞれ別個のデータパケットに格納して送信装置から通信網を介して受信装置へ送信する映像通信について、演算処理部と記憶部を備えるマルチメディア総合品質推定装置により、任意の計測期間内に取得したデータパケットから得た映像パケットに関する映像パケット情報から推定した映像品質値と、前記データパケットから得た音声パケットに関する音パケット情報から推定した音品質値とを用いて、前記映像通信の総合的な品質を示すマルチメディア総合品質を推定するマルチメディア総合品質推定方法であって、
前記記憶部により、劣化パターン一致度と劣化同時発生影響度との対応関係を示す劣化同時発生影響度推定モデルを記憶するとともに、映像品質値、音品質値、および劣化同時発生影響度と、マルチメディア総合品質値との対応関係を示すマルチメディア総合品質推定モデルを記憶する記憶ステップと、
前記演算処理部により、前記映像パケット情報と前記音パケット情報とに基づいて、前記計測時間を区切って設けた複数の区間のうち、映像と音の両方で劣化が発生した同時劣化区間数に基づき劣化発生パターン一致度を算出する劣化発生パターン一致度算出ステップと、
前記演算処理部により、前記記憶部から読み出した劣化同時発生影響度推定モデルに基づいて、前記劣化発生パターン一致度に対応する劣化同時発生影響度を算出する劣化同時発生影響度推定ステップと、
前記演算処理部により、前記記憶部から読み出したマルチメディア総合品質推定モデルに基づいて、前記映像品質推定値、前記音品質推定値、および前記劣化同時発生影響度に対応するマルチメディア総合品質値を算出するマルチメディア総合品質推定ステップと
を備えることを特徴とするマルチメディア総合品質推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチメディア総合品質推定方法において、
前記劣化発生パターン一致度算出ステップは、前記映像パケット情報と前記音パケット情報とから得た前記各区間における映像無効パケットと音無効パケットとの発生有無に基づいて、前記区間ごとに同時劣化区間であるか否かを判定することを特徴とするマルチメディア総合品質推定方法。
【請求項3】
請求項1に記載のマルチメディア総合品質推定方法において、
前記劣化発生パターン一致度算出ステップは、前記各区間のうち少なくとも映像または音のいずれか一方で劣化が発生した区間の数に対する前記同時劣化区間数の割合を、前記劣化発生パターン一致度として算出することを特徴とするマルチメディア総合品質推定方法。
【請求項4】
請求項1に記載のマルチメディア総合品質推定方法において、
前記劣化同時発生影響度推定モデルは、劣化発生パターン一致度の増加に応じて劣化同時発生影響度が単調減少する関数からなることを特徴とするマルチメディア総合品質推定方法。
【請求項5】
請求項1に記載のマルチメディア総合品質推定方法において、
前記マルチメディア総合品質推定モデルは、映像品質値、音品質値、これら映像品質値と音品質値の積、および劣化同時発生影響度の重み付き線形和からマルチメディア総合品質を算出する関数からなることを特徴とするマルチメディア総合品質推定方法。
【請求項6】
映像および音の符号化データをそれぞれ別個のデータパケットに格納して送信装置から通信網を介して受信装置へ送信する映像通信について、任意の計測期間内に取得したデータパケットから得た映像パケットに関する映像パケット情報から推定した映像品質値と、前記データパケットから得た音声パケットに関する音パケット情報から推定した音品質値とを用いて、前記映像通信の総合的な品質を示すマルチメディア総合品質を推定するマルチメディア総合品質推定装置であって、
劣化パターン一致度と劣化同時発生影響度との対応関係を示す劣化同時発生影響度推定モデルを記憶するとともに、映像品質値、音品質値、および劣化同時発生影響度と、マルチメディア総合品質値との対応関係を示すマルチメディア総合品質推定モデルを記憶する記憶部と、
前記映像パケット情報と前記音パケット情報とに基づいて、前記計測時間を区切って設けた複数の区間のうち、映像と音の両方で劣化が発生した同時劣化区間数に基づき劣化発生パターン一致度を算出する劣化発生パターン一致度算出部と、
前記記憶部から読み出した劣化同時発生影響度推定モデルに基づいて、前記劣化発生パターン一致度に対応する劣化同時発生影響度を算出する劣化同時発生影響度推定部と、
前記記憶部から読み出したマルチメディア総合品質推定モデルに基づいて、前記映像品質推定値、前記音品質推定値、および前記劣化同時発生影響度に対応するマルチメディア総合品質値を算出するマルチメディア総合品質推定部と
を備えることを特徴とするマルチメディア総合品質推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載のマルチメディア総合品質推定装置において、
前記劣化発生パターン一致度算出部は、前記映像パケット情報と前記音パケット情報とから得た前記各区間における映像無効パケットと音無効パケットとの発生有無に基づいて、前記区間ごとに同時劣化区間であるか否かを判定することを特徴とするマルチメディア総合品質推定装置。
【請求項8】
請求項6に記載のマルチメディア総合品質推定装置において、
前記劣化発生パターン一致度算出部は、前記各区間のうち少なくとも映像または音のいずれか一方で劣化が発生した区間の数に対する前記同時劣化区間数の割合を、前記劣化発生パターン一致度として算出することを特徴とするマルチメディア総合品質推定装置。
【請求項9】
請求項6に記載のマルチメディア総合品質推定装置において、
前記劣化同時発生影響度推定モデルは、劣化発生パターン一致度の増加に応じて劣化同時発生影響度が単調減少する関数からなることを特徴とするマルチメディア総合品質推定装置。
【請求項10】
請求項6に記載のマルチメディア総合品質推定装置において、
前記マルチメディア総合品質推定モデルは、映像品質値、音品質値、これら映像品質値と音品質値の積、および劣化同時発生影響度の重み付き線形和からマルチメディア総合品質を算出する関数からなることを特徴とするマルチメディア総合品質推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−164727(P2009−164727A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339666(P2007−339666)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】