説明

マルチX線の発生方法及びその装置

【課題】低エネルギー領域と高エネルギー領域において、明確に分離されたX線ピークを有するマルチX線を発生させる方法及びその装置の提供。
【解決手段】連続X線発生器に金属材料のフィルターを配置して管電圧をかけることにより低エネルギーの狭帯域及び/又は高エネルギーの狭帯域にX線ピークを有するマルチX線の発生方法であって、金属材料のフィルターが少なくとも1種類の金属元素からなり、該金属フィルターが金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、exp(−μρx)≦0.1(μは金属元素の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属元素の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)、かつ管電圧が該金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧または該電圧より数kV以上高い電圧であることを特徴とするマルチX線の発生方法及びその装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチX線の発生方法及びその装置に関し、詳しくは金属材料フィルターを配することにより、低エネルギーの狭帯域及び/又は高エネルギーの狭帯域にX線ピークを有するマルチX線の発生方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線発生装置から発生するX線は、種々のエネルギーの光子からなり、なだらかな連続X線エネルギースペクトルをもつ白色X線となる。この連続X線の波長範囲を限定したり、複数の波長範囲に分離し、複数の単色化したX線を発生させ、物質中を通過するそれぞれのエネルギーにおけるX線の吸収係数から種々の物質の定量装置に用いる試みがなされている。
高いエネルギーのX線と低いエネルギーのX線を発生させる方法としては、例えば、タングステン等をターゲット材として加速電子により発生するX線を回折格子を用いて発生させる方法(例えば、特許文献1参照。)、2種類のフィルターを用いX線の管電圧を変化させる方法(例えば、特許文献2参照。)、X線発生器のターゲットに2種類の物質を用いる方法(例えば、特許文献3参照。)などがある。しかしながら、特許文献1の方法では回折格子を複数個使用する必要があり、特許文献2の方法では管電圧を変えて2回の測定を行なう必要があり、特許文献3の方法ではターゲットが複雑になるので、装置が大きくなったり、コストがかかったり、測定が複雑になってしまうという問題があった。
【0003】
また、フィルターを用いる方式においては、1種類の元素のみでなく2種類以上の元素により構成されているKエッジフィルターを用いる方法があり、例えば、主要部分が少なくとも2種類以上の元素を含む材料により構成されており、その少なくとも2種類の元素のK吸収端エネルギーが5〜10keVの差を有するフィルターを用いてX線連続スペクトルを単色化してデュアルX線を発生させる方法(例えば、特許文献4参照。)が開示され、その中では具体的に、Gd板とEr板とを重ねたものや、PbとPoを組み合わせたものが用いられている。しかしながら、これらの元素の組み合わせにおいては、各元素のK吸収端にある程度の差があるために、そのフィルターを通したX線エネルギーは、分離されたX線のエネルギー分離境界付近でのX線強度が十分に低減されるものではなく、低エネルギー領域と高エネルギー領域とを十分明確に分離することができず、特に、X線は低エネルギーにおいてビームハードニングの影響を大きく受けるため、単に高エネルギー領域と低エネルギー領域を分離するだけでは低エネルギー領域における正確な単一エネルギーとしてのX線強度の測定が困難であるという問題があった。
【0004】
さらに、X線源と、このX線源から発生したX線を複数のエネルギーに分離するKエッジフィルターと、X線検出器とを備え、Kエッジフィルターを構成する元素としてヨウ素とセシウムとを用い、X線検出器を構成する元素としてテルルとカドミウムとを用いた技術が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、このようなフィルターを用いても低エネルギー領域のビームハードニング現象を必ずしも抑えることができていなかった。なお、特許文献5では、Snを用いたフィルターを用いると、低エネルギーのピークは低く、高エネルギーのピーク幅は広くなり、低エネルギー領域と高エネルギー領域とで確実に分離できなかった。
【特許文献1】特開昭64−49547号公報
【特許文献2】特開平10−85208号公報
【特許文献3】特開平8−299318号公報
【特許文献4】特開平5−27043号公報
【特許文献5】特開平8−289886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題に鑑み、低エネルギー領域と高エネルギー領域とにおいて、十分明確に分離されたX線ピークを有するマルチX線を発生させる方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ビームハードニング現象、特に低エネルギー領域での現象は、用いる金属元素フィルターの厚さと管電圧に起因することを見出し、それぞれの金属元素における特性を把握することにより、低エネルギー領域と高エネルギー領域とを十分明確に分離するとともに、マルチX線の発生を可能にすることを見出し本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、連続X線発生器に金属材料のフィルターを配置して管電圧をかけることにより低エネルギーの狭帯域及び/又は高エネルギーの狭帯域にX線ピークを有するマルチX線の発生方法であって、金属材料のフィルターが少なくとも1種類の金属元素からなり、該金属フィルターが金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属元素の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属元素の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が該金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧または該電圧より数kV以上高い電圧であることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0008】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、金属材料のフィルターが1種類の金属元素からなり、該金属フィルターが金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属元素の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属元素の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が該金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧でシングルX線を発生させることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0009】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、金属材料のフィルターが1種類の金属元素からなり、該金属フィルターが金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属元素の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属元素の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が該金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧より数kV以上高い電圧でデュアルX線を発生させることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0010】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、フィルターが2種類の金属元素からなり、フィルターの厚さが2種類の金属元素の内の高原子番号の金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が2種類の金属元素の高原子番号の金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧でデュアルX線を発生させることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、フィルターが2種類の金属元素からなり、フィルターの厚さが2種類の金属元素の内の高原子番号の金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が2種類の金属元素の高原子番号の金属元素の特性X線のエネルギー該金属の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧より数kV以上高い電圧でトリプルX線を発生させることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、金属元素が原子番号22〜83の間の元素であることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第7の発明によれば、第4又は5の発明において、金属フィルターが2種類の金属元素の貼り合わせフィルターであることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第8の発明によれば、第4又は5の発明において、金属フィルターが2種類の金属元素の粉体を混合して成形したフィルターであることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第9の発明によれば、第3の発明において、金属元素がSnであり、フィルター厚さが0.7〜1.7mm、管電圧が50〜70kVであることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第10の発明によれば、第3の発明において、金属元素がTiであり、フィルター厚さが60〜80μm、管電圧が8kV以上であることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第11の発明によれば、第4の発明において、金属元素がSnとGdであり、Snのフィルター厚さが0.3〜0.8mmでGdのフィルター厚さが0.2〜0.5mm、管電圧が50〜75kVであることを特徴とするマルチX線の発生方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第12の発明によれば、連続X線発生器及び少なくとも1種類の金属材料からなるフィルターからなる低エネルギーの狭帯域及び/又は高エネルギーの狭帯域にX線ピークを有するマルチX線の発生装置であって、連続X線発生器と金属材料からなるフィルターを第1〜11のいずれかの発明の条件で組み合わせて操作することを特徴とするマルチX線の発生装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低エネルギー領域及び/又は高エネルギー領域にX線ピークを有するマルチX線を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のマルチX線の発生方法は、連続X線発生器に少なくとも1種類の金属からなる金属元素のフィルターを配置して、管電圧をかけることによりマルチX線を発生させる方法であって、該金属フィルターの厚さと管電圧を調整することにより該金属の特性X線である単色X線のピークとそれより高エネルギー位置に現れる連続X線のピークからなるマルチX線を発生させる方法である。以下に詳細を説明する。
【0021】
本発明で用いる金属材料のフィルターに用いることのできる金属材料としては、原子番号が22〜83の金属元素が好ましい。これらの金属元素は、それぞれの金属が有する特性X線のエネルギーの用途において使い分けられる。該金属材料は、公知の方法でフィルター形状に成形されて、連続X線発生器に設置される。なおX線を絞るコリメーターを用いる場合は、その前あるいは後に設置される。
【0022】
本発明のマルチX線の発生方法においては、連続X線発生器に金属材料のフィルターを配置して管電圧をかけることにより低エネルギーの狭帯域及び/又は高エネルギーの狭帯域にX線ピークを発生させるが、フィルターに用いる金属材料のフィルターの厚みとX線を発生させる管電圧を制御することが必要である。
【0023】
金属材料のフィルターの厚みは、用いる金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
好ましくは、下記式(1’)を満足する必要がある。
exp(−μρx)≦0.05 …(1’)
(式(1)、(1’)中、μは金属元素の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属元素の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
金属フィルターの厚みをexp(−μρx)の値が0.1以下になるようにし、管電圧を制御することにより、該金属フィルターの特性X線の発生するエネルギー近辺における連続X線を遮蔽し、かつ高エネルギー領域における連続X線ピークを単一化することができる。exp(−μρx)の値が0.1を超えると特性X線に連続X線が重なってしまう。
【0024】
ここで、exp(−μρx)は、通常のX線の強度を求める式であり、μは金属の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)であって、文献(例えば、NSRDS−NBS29(1969) by J.H.Hubbell)により求められる値であり、ρは金属の密度(g/cm)であり、xは金属フィルターの厚さ(cm)である。
【0025】
管電圧は、該金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な電圧より数kV以上高い電圧にし、特性X線のエネルギーが数10keVの時は10kV以上高い電圧にすることが必要である。管電圧が該金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な電圧より低いと何も現れなくなる。
【0026】
通常、X線発生装置から発生するX線は、種々のエネルギー光子からなるので、図5に示すようななだらかな連続X線スペクトルのエネルギースペクトルをもつ。ここに、特定の厚さの金属フィルターを用いると、該フィルターを透過したX線は、該金属の減弱係数に依存してK吸収端以下のX線エネルギーを十分減弱し、該金属の特性X線のエネルギー領域における透過量が急激に減少して連続スペクトルは現れなくなる。このフィルターの厚みとX線を発生させる管電圧の制御を行なって、マルチX線を発生させることに成功したのが本発明である。
【0027】
金属元素として、1種類の金属を用い、上記のフィルター厚みと管電圧を制御すると、低エネルギー領域において用いた金属の特性X線エネルギーのピークが得られ、かつ高エネルギー領域に連続X線のピークが得られ、2種類のX線ピークを発生させることができる。
なお、ここで、管電圧を金属フィルターの特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧にすることにより、高エネルギー領域における連続X線のピークの発生を抑えることができ、低エネルギー領域においてフィルターとして用いた金属の特性X線の単色ピークのみを得ることができる。
【0028】
例えば、金属元素として、Snを用いた場合、そのX線スペクトルの図1及び図2で説明する。Snの特性X線エネルギーは、28.5keVであるので、その10〜30keVの高エネルギー位置におけるexp(−μρx)の値が0.1以下になるフィルター厚みにし、かつ、管電圧をSnの特性X線エネルギー28.5keVを発生させることのできる28.5kVより10kV以上高い電圧をかけると、図1のような、28.5keVにSnの特性X線の単色ピークと約65keVに連続X線のピークのデュアルX線が発生する。
また、この時、管電圧を高エネルギー領域における連続X線のピークの発生を抑えることができる50kV以下にすることにより、連続X線のピークの出現を抑えることができ、図2に示すようなSnの単色スペクトルの単一のピークを得ることができる。
【0029】
ここで、Snをフィルターとした場合は、Snの厚さを0.7〜1.7mmにし、管電圧を50〜75kVにすると、60keVでのexp(−μρx)の値は0.039〜0.00039となり、デュアルX線が得られる。また、管電圧を30〜50kVにするとSnの単色X線のみが得られる。
【0030】
また、Tiをフィルターとした場合は、Tiの厚さを60〜80μmにし、管電圧を8kV以上にすると、10keVでのexp(−μρx)の値は0.049〜0.018となり、デュアルX線が得られる。
【0031】
フィルター金属として、2種類以上の金属を用いる場合は、最も原子番号の高い金属について、上記のフィルター厚みと管電圧を制御すると、低エネルギー領域において用いた金属の2種類以上の特性X線エネルギーのピークと、高エネルギー領域において連続X線のピークの3種類以上のX線ピークを発生させることができる。
なお、ここで、管電圧を原子番号の高い方の金属フィルターの特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧にすることにより、高エネルギー領域における連続X線のピークの発生を抑えることができ、低エネルギー領域においてフィルターとして用いた2種類以上の金属の特性X線の単色ピークのみを得ることができる。
【0032】
例えば、金属元素として、SnとGdの2種類の金属を用いた場合のX線スペクトルを図3及び図4で説明する。Snの特性X線エネルギーは、28.5keVであり、Gdの特性X線エネルギーは、48.7keVである。2種類の金属のうち、原子番号の高い方の金属Gdの特性X線エネルギー48.7keVの10〜30keVの高エネルギー位置におけるexp(−μρx)の値が0.1以下になるフィルター厚みにすればよく、また、管電圧はGdの特性X線エネルギー48.7keVを発生させることのできる48.7kVより10kV以上高い電圧をかけると、図3に示すような28.4keVにSnの特性X線の単色ピークと48.7keVにGdの単色ピークが表れ、60keVの位置に連続X線のピークが現れ、トリプルX線となる。また、この時、管電圧を該金属の特性X線エネルギーを発生させるエネルギーの電圧でかつ10kV以下に抑えることにより、連続X線のピークの出現を抑えることができ、図4に示すようなSnの単色スペクトルとGdの単色スペクトルのデュアルX線を得ることができる。
【0033】
ここで、2種類の金属のフィルターを用いる場合において、SnとGdをフィルターとして用いた場合は、それぞれの金属毎にフィルターを形成し、それを重ねて一つのフィルターとして用いており、Snの厚さを0.3〜0.8mm、Gdの厚さを0.2〜0.5mmにし、管電圧を65〜75kVにすると、60keVでのexp(−μρx)の値は0.034〜0.00090となり、トリプルX線が得られる。また、管電圧を50〜65kVにするとSnとGdの単色X線のみのデュアルX線が得られる。
【0034】
2種類の金属を用いる場合は、2種類の金属元素のフィルターを貼り合わせたフィルターであっても、2種類の金属元素の粉体を混合して成形したフィルターであっても良い。
2種類の金属フィルターを貼りあわせて用いる場合は、2種類の金属フィルターの厚みと、管電圧を主に調整するが、2種類の金属を用いる場合の原子番号の高い方の金属フィルターの厚みと原子番号の低い方のフィルターの厚み比は、低エネルギー側と高エネルギー側のそれぞれのピークをどのような比にするかにより決まる。
【0035】
本発明のマルチX線を発生させる装置は、従来公知のX線装置のX線発生器と、必要に応じて用いるX線を絞るコリメーターからなり、連続X線を単色化してマルチX線を取り出す金属材料フィルターをX線発生器に接して配した装置である。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
X線発生器として東芝社製I311を用い、X線検出器として、NaI検出器(50.8φ×50.8mm)を用い、フィルターとして、1mm厚のSn金属を用いた。管電圧63kV、管電流0.5mAの電圧をかけてX線スペクトルを得た。X線スペクトルを図6に示す。28.4keVにSnの特性X線の単色ピークと約62keVに連続X線のピークが現れデュアルX線となった。なお、60keVにおけるexp(−μρx)の値は0.0098であった。
【0038】
(実施例2)
X線発生器としてリガク社製XB150CP−10を用い、X線検出器としてCdTe検出器(4×4×0.3mm)を用い、フィルターとして0.7mm厚のSn金属を用いた。管電圧を75kV、管電流0.5mAの電圧をかけてX線スペクトルを得た。X線スペクトルを図7のAに示す。28.4keVにSnの特性X線の単色ピークと約67keVに連続X線のピークが現れデュアルX線となった。なお、60keVにおけるexp(−μρx)の値は0.039であった。
【0039】
(比較例1)
実施例2において、Sn金属フィルターの厚さを0.3mmとする以外は、実施例2と同様にしてX線を発生させた。X線スペクトルを図7のBに示す。なだらかなパイルアップした連続X線ピークしかあらわれなかった。なお、60keVにおけるexp(−μρx)の値は0.25であった。
【0040】
(実施例3)
実施例2において、Sn金属フィルターの厚さを1mm、管電圧を50kVとする以外は、実施例2と同様にしてX線を発生させた。X線スペクトルを図8のAに示す。Sn金属の特性X線の単色ピークのみが現れた。
【0041】
(比較例2)
実施例2において、管電圧を30kVとする以外は、実施例3と同様にしてX線を発生させた。X線スペクトルを図8のBに示す。Sn金属の特性X線の単色ピークがわずかしか現れなかった。
【0042】
(実施例4)
X線発生器としてソフテックス社製RE−1030特を用い、X線検出器としてNaI検出器(50.8φ×3mm)を用い、金属フィルターとして、72μm厚のTi金属フィルターを用い、管電圧を10kV、管電流0.02mAにしてX線を発生させた。X線スペクトルを図9に示す。4.9keVにTiの特性X線の単色ピークと約8.5keVに連続X線のピークが現れ、デュアルX線となった。なお、10keVにおけるexp(−μρx)の値は0.027であった。
【0043】
(実施例5)
金属フィルターとして、1mm厚のCd金属フィルターを用い、X線検出器としてNaI検出器(50.8φ×50.8mm)を用い、管電圧を60kV、管電流0.5mAにする以外は、実施例2と同様にしてX線を発生させた。X線スペクトルを図10に示す。26.1keVにCdの特性X線の単色ピークと約56keVに連続X線のピークが現れ、デュアルX線となった。なお、60keVにおけるexp(−μρx)の値は0.0065であった。
【0044】
(実施例6)
金属フィルターとして、1mm厚のAg金属フィルターを用い、管電圧を60kV、管電流0.5mAにする以外は、実施例5と同様にしてX線を発生させた。X線スペクトルを図10に示す。24.9keVにAgの特性X線の単色ピークと約56keVに連続X線のピークが現れ、デュアルX線となった。なお、60keVにおけるexp(−μρx)の値は0.0030であった。
【0045】
(実施例7)
金属フィルターとして、0.25mm厚のGd金属フィルターと0.5mm厚のSn金属フィルターを用い、管電圧を70kV、管電流0.5mAにする以外は、実施例2と同様にしてX線を発生させた。X線スペクトルを図11に示す。28.5keVにSnの特性X線の単色ピークと48.7keVにGdの単色ピークが表れ、約60keVに連続X線のピークが現れ、トリプルX線となった。なお、60keVにおけるexp(−μρx)の値は0.017であった。
【0046】
(実施例8)
金属フィルターとして、0.25mm厚のGd金属フィルターと0.5mm厚のSn金属フィルターを用い、管電圧を60kV、管電流0.5mAにする以外は、実施例2と同様にしてX線を発生させた。X線スペクトルを図12に示す。28.5keVにSnの特性X線の単色ピークと48.7keVにGdの単色ピークが表れ、約60keVに連続X線のピークのデュアルX線が現れた。なお、60keVにおけるexp(−μρx)の値は0.017であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のマルチX線の発生方法、装置によれば、低エネルギー領域と高エネルギー領域とにおいて、十分明確に分離されたX線ピークを有するマルチX線を発生させることができるので、骨塩量測定装置、乳製品中の脂肪量の測定装置、ガソリン中の添加剤の測定装置、ラミネートフィルムの各フィルム層の厚さの測定装置等、非破壊検査分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の方法により得られるデュアルX線のスペクトルの一例である。
【図2】本発明の方法により得られるシングルX線のスペクトルの一例である。
【図3】本発明の方法により得られるトリプルX線のスペクトルの一例である。
【図4】本発明の方法により得られるデュアルX線のスペクトルの一例である。
【図5】連続X線のスペクトルである。
【図6】実施例1のSnフィルターを用いたX線のスペクトルである。
【図7】実施例2及び比較例1のX線のスペクトルである。
【図8】実施例3及び比較例2のX線のスペクトルである。
【図9】実施例4のX線のスペクトルである。
【図10】実施例5及び実施例6のX線のスペクトルである。
【図11】実施例7のX線のスペクトルである。
【図12】実施例8のX線のスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続X線発生器に金属材料のフィルターを配置して管電圧をかけることにより低エネルギーの狭帯域及び/又は高エネルギーの狭帯域にX線ピークを有するマルチX線の発生方法であって、金属材料のフィルターが少なくとも1種類の金属元素からなり、該金属フィルターが金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属元素の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属元素の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が該金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧または該電圧より数kV以上高い電圧であることを特徴とするマルチX線の発生方法。
【請求項2】
金属材料のフィルターが1種類の金属元素からなり、該金属フィルターが金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属元素の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属元素の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が該金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧でシングルX線を発生させることを特徴とする請求項1に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項3】
金属材料のフィルターが1種類の金属元素からなり、該金属フィルターが金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属元素の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属元素の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が該金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧より数kV以上高い電圧でデュアルX線を発生させることを特徴とする請求項1に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項4】
フィルターが2種類の金属元素からなり、フィルターの厚さが2種類の金属元素の内の高原子番号の金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が2種類の金属元素の高原子番号の金属元素の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧でデュアルX線を発生させることを特徴とする請求項1に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項5】
フィルターが2種類の金属元素からなり、フィルターの厚さが2種類の金属元素の内の高原子番号の金属元素の特性X線のエネルギーより10〜30keVの高エネルギー位置において、下記式(1)を満足し、
exp(−μρx)≦0.1 …(1)
(式(1)中、μは金属の特定のエネルギーにおける質量減弱係数(cm/g)、ρは金属の密度(g/cm)、xは金属フィルターの厚さ(cm)を表す)
かつ管電圧が2種類の金属元素の高原子番号の金属元素の特性X線のエネルギー該金属の特性X線のエネルギーを発生させるに必要な管電圧より数kV以上高い電圧でトリプルX線を発生させることを特徴とする請求項1に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項6】
金属元素が原子番号22〜83の間の元素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項7】
金属フィルターが2種類の金属元素の貼り合わせフィルターであることを特徴とする請求項4又は5に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項8】
金属フィルターが2種類の金属元素の粉体を混合して成形したフィルターであることを特徴とする請求項4又は5に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項9】
金属元素がSnであり、フィルター厚さが0.7〜1.7mm、管電圧が50〜70kVであることを特徴とする請求項3に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項10】
金属元素がTiであり、フィルター厚さが60〜80μm、管電圧が8kV以上であることを特徴とする請求項3に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項11】
金属元素がSnとGdであり、Snのフィルター厚さが0.3〜0.8mmで、Gdのフィルター厚さが0.2〜0.5mm、管電圧が50〜75kVであることを特徴とする請求項4に記載のマルチX線の発生方法。
【請求項12】
連続X線発生器及び少なくとも1種類の金属材料からなるフィルターからなる低エネルギーの狭帯域及び/又は高エネルギーの狭帯域にX線ピークを有するマルチX線の発生装置であって、連続X線発生器と金属材料からなるフィルターを請求項1〜11のいずれか1項に記載の条件で組み合わせて操作することを特徴とするマルチX線の発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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