説明

マンガン鉱石処理物

【課題】 硫酸マンガン製造に用いられるマンガン鉱石処理物であって、硫酸に溶解させたときのマンガン溶解率が高く、かつ、カリウム含量の低い、マンガン鉱石処理物を提供すること、さらに、このようなマンガン鉱石処理物を容易にかつ経済的に製造できるマンガン鉱石処理物の製造方法を提供する。
【解決手段】 硫酸マンガン製造用のマンガン鉱石処理物であって、硫酸へ溶解させたときのマンガン溶解率が98.0%以上であるマンガン鉱石処理物及びその製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸マンガン製造用のマンガン鉱石処理物およびその製造方法に関する。詳しくは、電解二酸化マンガンの製造等に用いられる硫酸マンガン溶液の原料として好適な、硫酸へのマンガン溶解性の高い、かつ鉱石中のカリウムが低減されたマンガン鉱石処理物と、その効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸マンガンは、乾電池材料に用いられる電解二酸化マンガン製造の原料およびフェライト、顔料、セラミック等の工業中間薬品として広く用いられている有用な化合物である。
【0003】
従来、天然に産出するマンガン鉱石から、不純物含量の少ない硫酸マンガン溶液は、1)天然に産出するマンガン鉱石を高温還元ばい焼しマンガン還元鉱石を得る還元工程、2)このマンガン還元鉱石を硫酸にて溶解し、粗硫酸マンガン溶液を得る溶解工程、3)粗硫酸マンガン溶液から不純物を除去して高純度硫酸マンガンを得る精製工程、の工程を経て得られている。
【0004】
この各工程を順に説明する。
【0005】
1)還元工程
マンガン酸化物はマンガンの酸化状態により様々なマンガン酸化物の形態をとり、天然に産するマンガン鉱石ではこれら様々な形態のマンガン酸化物が種々の比率で混在している。これらの内、硫酸に完全に溶解するのは酸化第一マンガンのみであることから、硫酸溶解にあたって、マンガン鉱石は酸化第一マンガンまで還元する必要がある。
【0006】
マンガン鉱石は400℃以上の温度で還元することができるが、700℃以下の低温で還元されたマンガン還元鉱石は保存安定性が低く、通常の保存方法では酸不溶物を形成し易く、硫酸へのマンガン溶解率が低下する欠点があり、安定なマンガン還元鉱石を得るためには、700℃以上好ましくは1000℃程度の還元が必要とされている(例えば、非特許文献1または2参照)。
【0007】
また、マンガン還元鉱石は、1093℃以上に加熱すると鉱石同士が焼結し、この処理が困難になることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
このため、工業的なマンガン鉱石の還元は、マンガン還元率、還元速度、マンガン還元鉱石の安定性、炉の耐熱性、操作の安定性の観点から、粉砕したマンガン鉱石を、メタンガス、水素ガス、一酸化炭素などの還元剤の存在下、800〜1000℃の高温で酸化第一マンガンに転化するに十分必要な時間をかけて還元し、達成できることが開示されている(例えば、特許文献2または3参照)。しかしながら、800〜1000℃といった高温では、還元炉の材質にキャスタブル耐火物やタングステン耐熱鋼を用いねばならず装置が非常に高価となっていた。
【0009】
2)溶解工程
溶解工程では、前記の還元工程で還元された還元鉱石を硫酸に添加し、溶解させ、粗硫酸マンガン溶液を得る。この際、不純物であるカリウム、鉄、コバルト等の金属類も同時に溶解される。また、溶解工程での硫酸へのマンガン溶解率は97%台以下であった。
【0010】
このように、還元鉱石からのマンガン溶解効率が低いことは、経済性の低下をまねき、工業化に際しての大きな課題であった。また、マンガンを含んだ鉱滓が多量に発生し、その利用が困難であり、環境保全上問題で、このことも工業化に際しての大きな課題であった。
【0011】
3)精製工程
精製工程では、前記の溶解工程で得られた粗硫酸マンガン溶液より、鉄や各種重金属類が硫化水素等の処理により沈殿除去され、硫酸マンガンが精製される。しかしながら、これらの方法では、粗硫酸マンガン溶液に混在するカリウムを除去することが極めて困難であった。そして、カリウムは電解二酸化マンガン中に含有されると乾電池の性能に好ましくない影響を与えるため、以下のカリウム除去方法が提案されてきたが、満足できるものではなかった。
【0012】
a)ジャロサイト法
硫酸マンガン溶液中に3価の鉄を加えてpHを調整することにより、溶液中のカリウムを鉄及び硫酸根との複塩であるジャロサイト[KFe(SO(OH)12]として沈殿濾過し除去する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、このジャロサイト法では、比較的容易にカリウムを除去することができるが、この方法により得られた硫酸マンガン溶液中のカリウム濃度は、現状要求されているカリウム濃度に到達できず、また、沈殿するジャロサイトは濾過性が悪いという問題点があった。さらにこの方法では、ジャロサイトの生成後、過剰の鉄を沈殿除去するために、中和剤を用いpHを中性付近に調整する必要があり、この中和剤として、一般にマンガン鉱石類の使用が知られているが、これを用いた場合にマンガン鉱石類中のカリウムが溶出し、低下させたカリウム濃度が再度増加してしまうという課題があった。
【0013】
b)水浸出法
マンガン還元鉱石中のカリウムを酸溶解前にあらかじめ除去するために、マンガン還元鉱石をアルカリ性水溶液中で80℃以上好ましくは100℃以上に加熱処理する方法(例えば、特許文献5参照)が、マンガン還元鉱石を100℃以上の熱水で処理する方法(例えば、特許文献6参照)が、開示されているが、アルカリ性水溶液中で加熱処理する方法では、多量のアルカリ薬剤を必要とし、経済性の低下をまねき、また、熱水を用いる方法では、薬剤は不要となるものの、浸出温度が100℃以上の為、大型の高価な耐高圧設備が必要となってしまう。このように従来の水浸出法では、経済性や設備面で、工業化に際して大きな課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公昭51−30036号公報
【特許文献2】特公昭56−4498号公報
【特許文献3】特公昭51−30036号公報
【特許文献4】特公昭60−166231号公報
【特許文献5】特開平4−74720号公報
【特許文献6】特公昭47−2424号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】鉄と鋼,49巻,971頁(1963年)
【非特許文献2】鉄と鋼,49巻,1059頁(1963年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記したような従来の硫酸マンガン溶液製造における様々な課題を克服することを目的としている。すなわち、硫酸マンガン製造に用いられるマンガン鉱石処理物であって、このマンガン鉱石処理物を硫酸に溶解させたときのマンガン溶解率が高く、かつ、カリウム含量の低い、マンガン鉱石処理物を提供することにある。また本発明は、このようなマンガン鉱石処理物を、容易にかつ経済的に製造できるマンガン鉱石処理物の製造方法を提供することもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、硫酸マンガン溶液製造上の課題を解決するために、従来の技術が抱える問題点を鋭意検討した。その結果、マンガン鉱石の還元条件を巧みに制御して得た還元鉱石を温水でさらに処理するという新たな方法により、硫酸へのマンガン溶解率がこれまでになく高く、かつ鉱石中の硫酸溶解性カリウム含量が極めて少ないマンガン鉱石処理物を見出し、また、このようなマンガン鉱石処理物を容易に得ることができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、硫酸マンガンの製造に用いられるマンガン鉱石処理物であって、硫酸に溶解させたときのマンガン溶解率が98.0%以上であるマンガン鉱石処理物であり、さらにこのマンガン鉱石処理物を製造するにあたり、原料となるマンガン鉱石を400〜790℃で還元ガスと接触させて還元鉱石を得、得られた還元鉱石を70℃以上、大気圧下での沸点以下の温度の水で浸漬して得る製造方法である。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明のマンガン鉱石処理物の原料は、天然に産出されるマンガン鉱石である。なかでも、軟マンガン鉱、硬マンガン鉱、等の酸化マンガン鉱が産出量も多く、マンガン含量も高くかつ入手が容易であり、好適に用いることができる。
【0021】
本発明のマンガン鉱石処理物はマンガン鉱石が処理されて得られたものであり、硫酸へのマンガン溶解率は98.0%以上と極めて高い溶解性を示す。このような優れた性質により、マンガンを工業的により有効に利用することができ、また、鉱滓の発生量も著しく減少することから、硫酸マンガンの工業的製造や環境保全の面において極めて有用となる。
【0022】
尚、本明細書において、硫酸とは硫酸を含む水溶液を総称して表すものであり、例えば、濃硫酸、希硫酸や、硫酸マンガンを含んだ硫酸水溶液等が例示できる。
【0023】
さらに、本発明のマンガン鉱石処理物に含まれる硫酸溶解性カリウムの量とマンガンの量との重量比(K/Mn)が0.001以下であるものが好ましい。このように含まれるカリウム成分が低いために、本発明のマンガン鉱石処理物より硫酸マンガンを製造するにあたっては、カリウム含量を極めて低くすることができ、従来行われている他の脱カリウム操作を省略することができる。
【0024】
また、本発明のマンガン鉱石処理物中に含まれる鉄の硫酸への溶解率は、70%以上が好ましく、さらには80%以上が好ましい。これにより鉱滓発生量をより少なくできる。
【0025】
本発明のマンガン鉱石処理物の粒度としては、硫酸へのマンガン成分の溶解速度を大きくすることができ、カリウムの除去率も向上することで、硫酸マンガンの製造にとり効果的となるため、500μm以下であることが好ましい。このように、硫酸への溶解速度がマンガン鉱石処理物の粒度と関係するのは、マンガン鉱石処理物の表面積に依存するためと考えられる。
【0026】
次に、本発明のマンガン鉱石処理物の製造方法について述べる。
【0027】
この製造方法としては、原料となるマンガン鉱石を400〜790℃で還元ガスと接触させて還元鉱石を得る第一工程と、第一工程で得られる還元鉱石を70℃以上、大気圧下での沸点以下の温度の水で浸漬する第二工程の2つの工程よりなる。
【0028】
本発明の方法に用いられ、原料となるマンガン鉱石は、粒度500μm以下、さらに300μm以下に粉砕した後、第一工程を行うことが好ましい、この粉砕処理によりマンガン鉱石の表面積が増し、本発明のマンガン鉱石処理物を製造する際に、マンガン鉱石の還元速度及びカリウム溶出速度が向上させることができる。
【0029】
第一工程の操作方法は特に限定されないが、好ましい具体例としては原料となるマンガン鉱石を外熱式のロータリーキルンを用いて還元ガスと加熱混合しつつ連続的に接触させることによって達成できる。
【0030】
ロータリーキルンを用いる場合、ロータリーキルンにおける還元ガスと原料マンガン鉱石の流れ方向は、並流、向流いずれでもよいが、還元ガスと鉱石の接触効率を高め、より短時間で高い還元率を得るには向流が好ましい。
【0031】
ロータリーキルンの形状は、内部の鉱石の攪拌が効率よく行えるものであれば特に制限されないが円筒形又は多角筒形が望ましい。
【0032】
円筒形とは、筒の両端が円形である形状のものをさす。
【0033】
多角筒形とは、筒の両端が多角形である形状のものをさし、五角形、六角形、七角形、八角形等が例示できる。
【0034】
また、ロータリーキルンはその内部に、鉱石と還元ガスの接触効率を高めるために、鉱石と還元ガスを混合する装置を具備することがより好ましい。
【0035】
鉱石と還元ガスを混合する装置としては、鉱石と還元ガスを混合する機能を有するものであれば特に限定されないが、構造が単純でメンテナンスが容易でかつ接触効率が優れるものとして、ロータリーキルン内に設置された可動式の攪拌翼や、キルン内壁固定式の攪拌翼、いわゆるリフターを設置することが好ましい。
【0036】
また、これらを組み合わせたロータリーキルンでも良い。
【0037】
可動式攪拌翼の形状、及びその使用方法について、より詳しく述べると、特許第52177号公報、特公平2−46877号公報、特公平2−55708号公報、特公平2−55709号公報、特公平2−55710号公報、特公平4−19471号公報を挙げることができる。これら先行文献で示された技術が本特許に好ましく適用できる。
【0038】
以上のように、内部の鉱石の攪拌を効率よく行う形状のロータリーキルン及び/又は鉱石と還元ガスを混合する装置を具備するロータリーキルンを用いることにより、マンガン鉱石の還元をより短時間で、より低い温度で、より当量に近い還元ガス量で、本発明が実施できる。
【0039】
攪拌翼の枚数は特に制限されないが、接触効率を高める為に、可動式の攪拌翼は3枚以上、キルン外壁固定式の攪拌翼は2枚以上が好ましい。
【0040】
第一工程における還元温度としては、400〜790℃の範囲が好ましく、さらに630〜720℃の範囲が好ましい。これは、還元温度が400℃よりも低いと、原料マンガン鉱石の還元が十分ではなく、得られるマンガン鉱石処理物を硫酸へ溶解する際に、マンガン溶解率が悪化することがあり、一方、790℃より高くしても、マンガン溶解率が悪化することがあり、この結果、マンガン溶解率が98.0%以上という高い溶解率を達成することができなくなるからである。
【0041】
また、従来のマンガン鉱石の還元処理は、800〜1000℃といった高温であるために、炉の材質として、キャスタブル耐火物やタングステン耐熱鋼が必要であり、還元炉は非常に高価なものであった。これに対し、本発明の製造方法での還元では炉の材質として、通常のステンレス鋼が使用できるため、装置の製作は容易で、かつ安価となる。
【0042】
第一工程で用いられる還元ガスとしては、水素、一酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素、メタン等の還元性のガスを用いることができ、これらは1種単独で用いるのみならず、2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。さらに、これらの内でも、反応速度が大きく、反応生成ガスが水蒸気で排ガス処理が不要なことなどから水素が好ましく用いられる。
【0043】
還元ガスの使用量としては、還元反応を終了させ、マンガン鉱石処理物のマンガン溶解率を低下させないようにするために、原料マンガン鉱石の還元に理論的に必要な量に対して1.0倍量以上とすることが好ましく、さらに経済性も考慮すれば、1.0〜2.0倍量とすることが好ましい。
【0044】
尚、ここでいうマンガン鉱石の還元に理論的に必要な量とは、マンガン鉱石中の高次の酸化マンガンと高次の酸化鉄を酸化第一マンガンおよび酸化第一鉄に還元するに必要な還元ガスの体積量(リットル)であり、以下の式により求めることができる。
【0045】
W=W1×(W2×0.01/55+W3×0.01×0.5/56)×0.082×T/P
(式中、Wはマンガン鉱石の還元に理論的に必要な還元ガスの量(単位はリットル)、W1は還元されるマンガン鉱石の量(単位はg)、W2はマンガン鉱石中のマンガン含量(単位は重量%)、W3はマンガン鉱石中の鉄含量(単位は重量%)、Tは還元ガスの絶対温度(単位は絶対温度K)、Pは還元ガスの圧力(単位はatm)である。)
また、用いられる還元ガスは適時、窒素、アルゴン、水蒸気、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスで希釈して使用することができ、これらの内でも、大量に入手でき、取り扱いが容易で安価な窒素が好ましく用いられる。これにより還元ガスの爆発等の危険性を抑えたり、原料マンガン鉱石と還元ガスとの反応性を制御できる。
【0046】
第一工程において、マンガン鉱石を還元処理する時間としては、10〜120分間が好ましく、さらには30〜60分が好ましい。これは、還元処理の時間が10分未満では、マンガン鉱石の還元が不十分となって硫酸へのマンガン溶解率が悪化することがあり、120分より長くしてもマンガン溶解率は限界で増加せず、装置が大型化し経済的でなくなることがある。
【0047】
第一工程の後に、第一工程で得られた還元鉱石を非酸化雰囲気下にて150℃以下まで冷却し、この後、第二工程を行うことが好ましい。これは、還元終了直後のマンガン鉱石は数百度の温度の状態にあるため不安定であり、これが空気に曝されると酸不溶物を生成することがあるからである。さらに、酸不溶物の生成反応は150℃以下では遅くなり、この状態で第二工程に供してもよいが、常温まで冷却することが好ましい。
【0048】
また、この反応は極めて速いため、冷却の際には空気の混入を遮断するだけでなく、前述の不活性ガスもしくは還元ガス、及びそれらの混合ガスを装置内に流通させて酸不溶物の生成をいっそう抑えることが好ましい。
【0049】
冷却を行うにあたっては、ロータリーキルンタイプの冷却管で前述の還元ガスや不活性ガスを流通しつつ連続式で行うとよい。用いられる冷却管の形式としては、空冷式でもよいが、冷却効率を高め速やかに冷却させるために、外壁に水シャワー等を行う水冷式がより好ましい。
【0050】
第二工程は、第一工程で得られたマンガン還元鉱石を70℃以上であって、かつ大気圧下での沸点以下の加温された水、すなわち温水で浸漬することによって達成される。
【0051】
第二工程の操作方法は特に限定されないが、好ましい具体例としては、一槽以上の連続式攪拌槽にて、第一工程で得られたマンガン還元鉱石と温水とを連続的に攪拌混合し、連続的にスラリーを抜き出すことによって達成される。
【0052】
第二工程において用いられる温水とは、水を加温したものであれば特に制限はなく、純水、イオン交換水、水道水、夾雑物を濾過した河川水等が例示でき、これらの内でも、イオン交換水、河川水が好ましく用いられる。
【0053】
温水の温度としては、70℃以上であって、水の大気圧下での沸点以下の温度となっていることが好ましく、さらに、80〜95℃の範囲の温度となっていることが好ましい。水の温度が70℃未満の場合には、カリウムの除去が不十分となり、また、水の大気圧下での沸点を超えるような温度の熱水を用いた場合には、カリウムの除去効果は限界で大きな効果は望めないばかりでなく、装置として高圧設備が必要となり経済的でなくなってしまう。
【0054】
第二工程の処理時間としては、1〜24時間の範囲が好ましく、さらには、3〜5時間の範囲が好ましい。これは、処理時間が1時間未満では、カリウムの除去が不十分となることがあり、また、24時間を超える場合には、カリウムの除去効果は限界であるばかりでなく、装置が大型化して経済性が低下してしまうことがある。
【0055】
第二工程において、温水を加えて得られるスラリー中のマンガン還元鉱石の濃度、すなわちスラリー濃度としては、10〜40重量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは20〜30重量%である。スラリー濃度が40重量%を超える場合には、マンガン還元鉱石と温水との混合性が悪化してカリウムの除去が不十分となることがあり、10重量%未満では、カリウムの除去効果は限界であるばかりでなく、水が多量に必要となって装置が大型化し経済性が低下することがある。
【0056】
第二工程の終了後、再現性、操作性を高め、不純物の混入を防止するために、得られたマンガン鉱石処理物の洗浄を行うことが望ましい。洗浄を行うには、通常、水が用いられるが、純水、イオン交換水、水道水、夾雑物を濾過した河川水等が例示できる。これらの内でも、イオン交換水、河川水が好適に用いられる。洗浄水量は、マンガン鉱石処理物のケークに対して、当容量から10倍容量の範囲が望ましい。洗浄回数も特に制限されないが、1回から10回が望ましい。
【0057】
洗浄後、スラリーをそのまま酸溶解に供してもよいが、フィルタープレス、遠心分離、ベルトフィルター等で濾過を行うか、沈降分離して、そのケークを酸溶解に供することが水バランス上望ましい。このスラリーの固液分離性は良好であり、常法の固液分離法で容易にマンガン鉱石処理物が分離できる。
【0058】
本発明では、上記の工程および操作をバッチ式あるいは連続式のいずれによっても実施できるが、設備のコンパクト化、運転操作性の向上、そして生産性の向上を実現できる連続式で行うことが好ましい。この連続式の具体的な態様は、原料、生産規模等により適宜選択して決められるが、これらの工程を相互に有機的に組み合わせてもよく、また、必要に応じて、一部の工程で得られる処理物を保管後そのままあるいは順次得られる処理物を集めた後次工程へと処理する方式であってもよい。
【0059】
本発明のマンガン鉱石処理物を製造する方法は、カリウム除去が、特殊な設備や高価な薬剤を用いることなく、容易で、かつ安価に安全に高効率に行えるため、工業上有用であり、さらに、カリウムと同族であるナトリウムも、この製造方法により、原料マンガン鉱石から80%以上除去することができる。
【0060】
また、従来、還元鉱石からカリウムを除去するためには、高価なアルカリ薬品を用いて加熱処理するか、または、オートクレーブ等の高価な高圧設備を用い100℃以上の熱水処理を行っており、多大なコスト、設備、労力が必要であり、工業的に困難であった。これに対し、本発明の製造方法により、マンガン鉱の還元物を温水で浸漬処理したものは、保存安定性が高く、酸不溶物を形成し難い。この理由は定かではないが、マンガン鉱石処理物の周りに水の膜が生成し、これが酸不溶物の形成を抑制しているためと推定される。
【0061】
しかしながら、このような推定は本発明を何ら拘束するものではない。
【0062】
以上の方法により所定の本発明のマンガン鉱石処理物を得ることができる。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば以下の効果を奏する。
【0064】
本発明のマンガン鉱石処理物は、硫酸へ溶解させたときのマンガン溶解率が極めて高く、さらに、カリウム含量が低いため、電解二酸化マンガン製造用の高純度の硫酸マンガン溶液を得るのに優れた性質を有しており、また、従来のマンガン還元と比較し鉱滓発生量が非常に少なく、実用上極めて有用である。
【0065】
また、本発明のマンガン鉱石処理物の製造方法は、高価な材質の還元設備や高圧設備は必要なく、かつ、高価なアルカリ薬剤が不要となる。さらに、本発明のマンガン鉱石処理物を用いることにより、硫酸マンガン溶液中に含まれるカリウムを極めて低い濃度に低下させることができ、また、カリウムと同族であるナトリウム、等のアルカリ金属も同時に極めて低い濃度に低減できうる。このため、品質の高い硫酸マンガン製造用のマンガン鉱石処理物を、容易に製造できる上に設備費も安価となり、大量生産に適し、かつ工業的である。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、Mn、Fe、Kの含量については、マンガン成分、鉄製分、カリウム成分の各成分の原子重量に換算した量として算定した。
【0067】
実施例1
Mn:52.2重量%,Fe:2.63重量%,K:5750ppm(0.575重量%)を含有する二酸化マンガン鉱を、粒度300μm以下に粉砕した後、内径200mm長さ4mの外熱式ロータリーキルン中に1100g/分の速度で導入すると共に、水素ガスを還元反応当量の1.2倍量、同じキルン内に向流接触するように窒素にて40容積%に希釈して導入し、還元ばい焼を行った。還元温度は700℃、還元時間は30分に設定した。この還元鉱石を窒素ガス気流中にて50℃以下に冷却後、攪拌槽に導入し、90℃の温水にてスラリー濃度20重量%、5時間処理した後、洗浄・濾過を行い、Mn:37.4重量%,Fe:1.71重量%,K:279ppm(0.0279重量%)の本発明の硫酸マンガン製造用マンガン鉱石処理物を得た。このマンガン鉱石処理物を湿式篩にて篩分分析した結果、粒度300μm以下であった。
【0068】
このマンガン鉱石処理物13.3gを、90℃に加熱した3.0重量%の硫酸水溶液にpH1.5になるように溶解した後、硫酸マンガン溶液と、鉱滓に濾別した。硫酸溶液の組成はMn:1.35重量%,Fe:486ppm(0.0486重量%),K:6ppm(0.000006重量%)であった。鉱滓量は0.48gであり、その組成はMn:0.69重量%,Fe:10.9重量%,K:2460ppmであった。この結果より、得られたマンガン鉱石処理物を硫酸へ溶解させたときのマンガン溶解率(以下、単に「マンガン溶解率」という。)は99.9%,得られたマンガン鉱石処理物を硫酸へ溶解させたときの鉄溶解率(以下、単に「鉄溶解率」という。)は76.8%であり、硫酸溶解性カリウムの量とマンガンの量との重量比(以下、「K/Mn」という。)は0.000507であった。これらの結果を表1に示した。
【0069】
【表1】

実施例2
還元時間を90分に設定した以外は実施例1と同様にしてマンガン鉱石処理物を得た。この硫酸マンガン製造用マンガン鉱石処理物を湿式篩にて篩分分析した結果、粒度300μm以下であった。
【0070】
このマンガン鉱石処理物15.1gを、実施例1と同様にして処理してマンガン溶解率、鉄溶解率、K/Mnを測定し、その結果を表1に示した。
【0071】
実施例3
還元時間を90分に設定し、温水処理時間を3時間にした以外は実施例1と同様にしてマンガン鉱石処理物を得た。この硫酸マンガン製造用マンガン鉱石処理物を湿式篩にて篩分分析した結果、粒度300μm以下であった。
【0072】
このマンガン鉱石処理物15.3gを、実施例1と同様にして処理してマンガン溶解率、鉄溶解率、K/Mnを測定し、その結果を表1に示した。
【0073】
実施例4
水素ガスを還元反応当量の2.0倍量用い、これを窒素にて20容積%に希釈し、還元温度710℃、還元時間を90分に設定し、スラリー濃度を40重量%にした以外は実施例1と同様にしてマンガン鉱石処理物を得た。この硫酸マンガン製造用マンガン鉱石処理物を湿式篩にて篩分分析した結果、粒度300μm以下であった。
【0074】
このマンガン鉱石処理物16.1gを、実施例1と同様にして処理してマンガン溶解率、鉄溶解率、K/Mnを測定し、その結果を表1に示した。
【0075】
実施例5
水素ガスを還元反応当量の1.6倍量用い、これを窒素にて90容積%に希釈し、還元時間を90分に設定し、温水の温度を80℃にした以外は実施例1と同様にしてマンガン鉱石処理物を得た。この硫酸マンガン製造用マンガン鉱石処理物を湿式篩にて篩分分析した結果、粒度300μm以下であった。
【0076】
このマンガン鉱石処理物16.0gを、実施例1と同様にして処理してマンガン溶解率、鉄溶解率、K/Mnを測定し、その結果を表1に示した。
【0077】
比較例1
還元温度350℃、還元時間を60分に設定し、温水の温度を80℃にした以外は実施例1と同様にしてマンガン鉱石処理物を得た。この硫酸マンガン製造用マンガン鉱石処理物を湿式篩にて篩分分析した結果、粒度300μm以下であった。
【0078】
このマンガン鉱石処理物13.4gを、実施例1と同様にして処理してマンガン溶解率、鉄溶解率、K/Mnを測定し、その結果を表1に示した。
【0079】
比較例2
還元ガスとしてCOガスを用い、還元温度980℃、還元時間を100分に設定し、還元鉱石を窒素ガス気流中にて室温に冷却後、オートクレーブ攪拌槽に導入し、110℃の熱水にて処理した以外は実施例1と同様にしてマンガン鉱石処理物を得た。この硫酸マンガン製造用マンガン鉱石処理物を湿式篩にて篩分分析した結果、粒度300μm以下であった。
【0080】
このマンガン鉱石処理物13.7gを、実施例1と同様にして処理してマンガン溶解率、鉄溶解率、K/Mnを測定し、その結果を表1に示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸マンガン製造用のマンガン鉱石処理物であって、硫酸へ溶解させたときのマンガン溶解率が98.0%以上であり、硫酸溶解性カリウムの量とマンガンの量との重量比(K/Mn)が0.0005以上0.001以下であるマンガン鉱石処理物。
【請求項2】
硫酸へ溶解させたときの鉄溶解率が70%以上であることを特徴とする請求項1に記載のマンガン鉱石処理物。
【請求項3】
マンガン鉱石を400〜790℃で還元ガスと接触させて還元鉱石を得、これを70℃以上、大気圧下での沸点以下の温度の水で浸漬してなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマンガン鉱石処理物。

【公開番号】特開2010−275188(P2010−275188A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155008(P2010−155008)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【分割の表示】特願2000−323316(P2000−323316)の分割
【原出願日】平成12年10月18日(2000.10.18)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】