説明

マンコンベアの移動手摺装置、並びに、マンコンベア用手摺及びその製造方法

【課題】移動手摺が案内レール上を摺動することによって発生する摺動抵抗と、手摺駆動装置に必要な駆動ローラの押付力とを同時に低減させることができるマンコンベアの移動手摺装置を得る。
【解決手段】横断面C字状を呈する無端状の移動手摺8の内側面に、手摺駆動装置10に対応する高摩擦部と案内レール13に対応する低摩擦部とを、移動手摺8の長手に沿って形成する。そして、上記低摩擦部を、高摩擦部よりも低い摩擦特性を有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレータや動く歩道等のマンコンベアで使用される移動手摺装置、並びに、マンコンベアでの使用を目的としたマンコンベア用手摺とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道といったマンコンベアでは、一般に、断面C字状を呈する移動手摺が使用され、乗客が移動する際に乗る踏段と同期するように、この移動手摺が駆動されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
図6乃至図9は、下記特許文献1及び2に記載のものを含む、従来の一般的なマンコンベアの移動手摺装置の構成を示したものである。
ここで、図6及び図7は従来のマンコンベアの移動手摺装置を示す要部断面図、図8は従来のマンコンベアの移動手摺装置を示す要部側面図、図9は図8に示すC−C矢視図である。具体的に、図6は移動手摺の構成を、図7は移動手摺及び案内レールの構成を、図8及び図9は移動手摺及び手摺駆動装置の構成を示している。
【0004】
図6及び図7に示されているように、マンコンベアで使用される無端状の移動手摺21は、一般に、ゴムやポリウレタン等の樹脂からなる芯体22と、芯体22の内部に設けられた抗張体23と、移動手摺21の内側面を形成する帆布24とによって、その要部が構成されている。上記帆布24は、移動手摺21が案内レール25上を摺動する際に生じる摺動抵抗を低減させるためのものであり、例えば、ポリエステルやナイロン等の繊維からなる織編物によって構成される。
【0005】
一方、移動手摺21を駆動する手摺駆動装置26は、図8及び図9に示されたもののように、駆動ローラ27及び加圧ローラ28を使用した摩擦駆動方式を採用したものが多い。具体的に、かかる構成の手摺駆動装置26では、駆動ローラ27と加圧ローラ28とによって移動手摺21を上下から挟み込むとともに、この挟み込んだ状態で駆動ローラ27を回転させることにより、移動手摺21との間の摩擦力を利用して移動手摺21を駆動している。なお、移動手摺21の内側面に接触する駆動ローラ27、及び、乗客が把持する移動手摺21の把持面(外側面)に接触する加圧ローラ28の各表面は、一般に、駆動力の増加や摩擦面の保護を目的として、ポリウレタン樹脂等の弾性体29によってそれぞれ被覆されている。
【0006】
【特許文献1】特開2008−133073号公報
【特許文献2】特開2005−225636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マンコンベアで使用される従来の移動手摺は、特許文献1及び2に記載のものを含めて、案内レールによる案内と手摺駆動装置による駆動とが、共に、その内側面に設けられた帆布を介して行われていた。帆布は、上述したように、移動手摺が案内レール上を摺動する際に生じる摺動抵抗を低減させるためのものであり、低い摩擦特性を有する材質で構成されている。このため、手摺駆動装置では、移動手摺を駆動するための十分な駆動力を得るために、駆動ローラを移動手摺(の帆布)に強く押し付けなければならなかった。
【0008】
駆動ローラを移動手摺に押し付ける圧力(以下、単に「押付圧」という)が高いと、駆動ローラや加圧ローラ、移動手摺の内側面及び外側面の摩耗の進行が早まり、摩耗粉の発生が多くなるといった問題があった。なお、摩耗粉が駆動ローラの表面や移動手摺の内側面に付着すると、駆動ローラに滑り等が発生して、移動手摺に十分な駆動力が伝達されなくなってしまう。このため、移動手摺の速度が遅くなり、移動手摺と踏段との同期ずれが大きくなったり、専門技術者による頻繁な調整が必要になったりするといった問題があった。
【0009】
なお、手摺駆動装置による上記押付圧が高い場合は、移動手摺の把持面に圧痕が生じ、マンコンベアの意匠性を低下させたり、移動手摺の速度及び走行状態が不安定になったりするといった更なる問題も生じてしまう。また、上記押付圧が高いために、駆動ローラや加圧ローラの各表面が剥離したり、摩耗によって寿命が低下したりする恐れもあった。
【0010】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、移動手摺が案内レール上を摺動することによって発生する摺動抵抗と、手摺駆動装置に必要な駆動ローラの押付圧とを同時に低減させることができるマンコンベアの移動手摺装置、並びに、上記効果を実現することができるマンコンベア用手摺とその製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るマンコンベアの移動手摺装置は、横断面C字状を呈する無端状の移動手摺を備えたマンコンベアの移動手摺装置であって、前記移動手摺の内側面に、前記移動手摺の長手に沿って形成された高摩擦部と、前記移動手摺の内側面に、前記移動手摺の長手に沿って形成され、前記高摩擦部よりも低い摩擦特性を有する低摩擦部と、を備えたものである。
【0012】
この発明に係るマンコンベア用手摺は、横断面C字状を呈する手摺本体の内側面に、前記手摺本体の長手に沿って形成された高摩擦部と、前記手摺本体の内側面に、前記手摺本体の長手に沿って形成され、前記高摩擦部よりも低い摩擦特性を有する低摩擦部と、を備えたものである。
【0013】
この発明に係るマンコンベア用手摺の製造方法は、横断面C字状を呈する手摺本体の内側面に、前記手摺本体の長手に沿って高摩擦部を形成するステップと、前記手摺本体の内側面に、前記手摺本体の長手に沿って、前記高摩擦部よりも低い摩擦特性を有する低摩擦部を形成するステップと、を備えたものである。
【0014】
また、この発明に係るマンコンベア用手摺の製造方法は、長手に沿って多数の貫通孔が形成された低摩擦材を準備するステップと、成形後の摩擦特性が前記低摩擦材の摩擦特性よりも高い所定の原料を少なくともその一部に使用し、前記低摩擦材が少なくとも内側面の一部として配置されるように、横断面C字状の手摺本体を成形するステップと、前記所定の原料を、前記低摩擦材に形成された貫通孔を通過させて前記低摩擦材の両面側に配置することにより、前記前記所定の原料からなる高摩擦部を、前記手摺本体の内側面に前記手摺本体の長手に沿って形成するステップと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、マンコンベアにおいて、移動手摺が案内レール上を摺動することによって発生する摺動抵抗と、手摺駆動装置に必要な駆動ローラの押付圧とを同時に低減させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0017】
実施の形態1.
図1はマンコンベアの全体構成を示す側面図である。以下においては、マンコンベアの一例として、上下階床間の移動の際に利用されるエスカレータの構成について具体的に説明し、動く歩道等の他の例については、その説明を省略する。
【0018】
図1において、1は上下階床間に架け渡されたエスカレータのトラスである。エスカレータの自重及び積載荷重は、このトラス1によって支持される。2は乗客が上下階床間を移動する際に乗る踏段、3は踏段2が連結された無端状の踏段チェーン、4は踏段チェーン3が巻き掛けられた踏段駆動用スプロケット、5は踏段駆動用スプロケット4等を駆動するための駆動電動機、6は駆動電動機5の出力を減速し、チェーンを介して踏段駆動用スプロケット4を回転させる減速機、7は駆動電動機5の制御等、エスカレータの運転制御を司る制御盤である。
【0019】
8は上記踏段2と同期するように駆動される移動手摺である。この移動手摺8は無端状を呈しており、その上部側が、踏段2の両側に立設された欄干9の上端部に沿って移動する。また、移動手摺8は、エスカレータの上下乗降口において上下に反転され、下部側が、踏段2の両側に設けられたスカートガード内等に配置される。
10は移動手摺8を駆動するための手摺駆動装置である。この手摺駆動装置10は、図8に示す従来のものと同様に摩擦駆動方式によって移動手摺8を駆動する。なお、移動手摺8及び手摺駆動装置10の各具体的構成については後述する。
【0020】
11は踏段駆動用スプロケット4と同軸に設けられた手摺駆動用スプロケット、12は手摺駆動用スプロケット11の回転力を手摺駆動装置10に伝達するための手摺チェーンである。即ち、駆動電動機5の駆動力によって手摺駆動用スプロケット11が踏段駆動用スプロケット4とともに回転することにより、手摺チェーン12を介してその駆動力が手摺駆動装置10に伝達される。そして、移動手摺8は、手摺駆動装置10によって駆動され、踏段2に同期して上下乗降口間を循環移動する。
【0021】
次に、この発明における移動手摺装置について説明する。図2、図4、図5はこの発明の実施の形態1におけるマンコンベアの移動手摺装置を示す要部断面図、図3は図2の低摩擦材を示す図である。なお、図2及び図4は図1におけるA−A矢視、図5は図1におけるB−B矢視に相当し、更に、図2については移動手摺8の構成のみを示している。
【0022】
移動手摺8は、横(短手方向)断面が略C字状を呈しており、本願の上記目的を達成するため、その内側面に、高摩擦部と低摩擦部とが長手に沿って形成されている。高摩擦部は、手摺駆動装置10の駆動力を移動手摺8に効率的に伝達する機能を有しており、低摩擦部よりも高い摩擦特性(摩擦係数)を有している。
一方、低摩擦部は、移動手摺8が案内レール13上を摺動する際に生じる摺動抵抗を低減させる機能を有しており、高摩擦部よりも低い摩擦特性(摩擦係数)を有している。なお、案内レール13は、移動手摺8の移動を案内するためのものである。具体的に、案内レール13は、欄干9の上端部と上下乗降口付近の両湾曲部とに設けられ、移動手摺8の上部側と各反転部との移動を案内する。
【0023】
以下に、図2乃至図5を参照して、上記高摩擦部及び低摩擦部を備えた移動手摺8の具体例について説明する。
【0024】
移動手摺8は、図2等に詳細が示されているように、その要部が、例えば、芯体14、抗張体15、低摩擦材16、高摩擦材17によって構成される。
芯体14は、移動手摺8の要部を構成し、横断面がC字状を呈して無端状に形成されている。この芯体14は、その外側面14aが、乗客が踏段2に乗って移動する際に把持する把持面を構成する。なお、図2乃至図5は、芯体14がゴムやポリウレタン等の樹脂といった一種類の弾性体からなる場合を示しているが、芯体14は上記構成に限られる訳ではなく、例えば、移動手摺8に付与する機能等に合わせて複数の層等で構成されていても構わない。
【0025】
抗張体15は、移動手摺8に所定の引張強度を付与して、その伸びを防止するためのものである。この抗張体15は、例えば、鋼製のワイヤや薄板等からなり、芯体14の内部にその長手に渡って設けられている。なお、18は複数の抗張体15を一体化させるための固定用樹脂である。抗張体15は、芯体14内に埋め込まれる前に、この固定用樹脂18によって芯体14内に配置される複数本が一体化される。
【0026】
低摩擦材16は、低い摩擦特性を有するシート状或いは布(織編物)状のものによって構成され、横断面C字状を呈する芯体14の内側面に芯体14の長手に渡って設けられている。また、低摩擦材16には、図3に示すように、その長手に渡り多数の貫通孔16aが形成されており、この貫通孔16aが、芯体14(移動手摺8)に形成された開口8aに対向するように、芯体14の長手に渡って配置されている。なお、上記開口8aは、芯体14(移動手摺8)が横断面C字状を呈することによってその両端部間に形成された、把持面の反対側の間隙のことである。
【0027】
上記低摩擦材16は、従来の帆布に用いられていた摩擦特性の低い材料、例えば、ポリエステルやナイロン等の他、摩擦特性が更に低いPTFE繊維を用いた帆布等が採用される。例えば、フッ素樹脂を繊維化したもの(以下、「フッ素樹脂繊維」という)を含むシートや、フッ素樹脂繊維を含むフエルト、フッ素樹脂繊維を含む織編物等が、低摩擦材16として採用され得る。なお、このようなものの例としては、東レ株式会社製の「トヨフロン(登録商標)」や、株式会社巴川製紙所製の「トミーファイレック(登録商標)F」等がある。また、低い摩擦特性を有する繊維自体を使用しない場合は、例えば、通常の繊維で布を織る際に、PTFE材や二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑材を充填したり、樹脂に混合或いは含浸させたりして、低摩擦材16を構成しても良い。
【0028】
高摩擦材17は、低摩擦材16よりも高い摩擦特性を有する部材で構成され、その表面が移動手摺8の内側面の一部を形成するように、芯体14(移動手摺8)の長手に渡って設けられている。なお、本実施の形態においては、高摩擦材17が、芯体14と一体的に構成されたものを一例として示している。具体的には、芯体14を成形する際に、芯体14を構成する樹脂等の原料の一部を、低摩擦材16の貫通孔16aから低摩擦材16の表面側(移動手摺8の内側面側)に押し出し、低摩擦材16の表面上で薄い凸状を呈するように形成して高摩擦材17を完成させる。このため、高摩擦材17は、貫通孔16aの位置に対応して、開口8aに対向するように芯体14(移動手摺8)の長手に渡って配置される。
【0029】
上記構成を有する移動手摺8では、上記高摩擦部は、高摩擦材17、即ち芯体14の一部から、また、上記低摩擦部は、高摩擦材17で表面が覆われた部分を除く低摩擦材16の一部から構成される。即ち、低摩擦部は、高摩擦部の両側に、移動手摺8の長手に渡って形成され、高摩擦部は、隣接する低摩擦部の表面から突出するように、移動手摺8の内側面中央部に凸状に形成されている。
【0030】
次に、上記構成の移動手摺8の移動を案内するための案内レール13、及び、移動手摺8を駆動するための手摺駆動装置10の各構成について、具体的に説明する。
案内レール13は、図4にその詳細が示されているように、外形が横断面T字状を呈しており、上記開口8aから移動手摺8の中央部の空間に進入して移動手摺8の内側面に接触する。また、その上面中央部には、長手に渡って所定の幅及び深さを有する凹部13aが形成されており、この凹部13a内に、上面を摺動する移動手摺8の上記高摩擦材17が収納されるように構成されている。即ち、凹部13aは、移動手摺8の高摩擦部の対向位置に配置され、その幅が高摩擦部の幅よりも広く、その深さが、高摩擦部の突出量よりも深くなるように形成されている。このため、案内レール13は、移動手摺8に形成された低摩擦部にのみ接触し、高摩擦部には接触しない。
【0031】
一方、手摺駆動装置10は、上述の通り、摩擦駆動方式が採用されており、全体的には図8に示すものと同様の構成を有している。即ち、手摺駆動装置10は、駆動ローラ19と加圧ローラ20とによって移動手摺8を上下から挟み込むとともに、この挟み込んだ状態で駆動ローラ19を回転させることにより、移動手摺8との間の摩擦力を利用して移動手摺8を駆動する。
【0032】
駆動ローラ19は、上記開口8aから移動手摺8の中央部の空間に進入して移動手摺8の内側面に接触し、回転時の摩擦力によって移動手摺8を駆動する。移動手摺8の内側面の開口8aに対向する部分には、上述の通り、高摩擦材17が凸状に形成されているため、駆動ローラ19は、移動手摺8の内側面の高摩擦部にのみ接触し、低摩擦部には接触しない。なお、駆動ローラ19は、移動手摺8の内側面に接触する部分を含め、金属製(例えば、鋼製)で構成されている。
一方、加圧ローラ20は、移動手摺8の把持面に接触して、移動手摺8を駆動ローラ19側に押し付けるように機能する。なお、加圧ローラ20の上記把持面に接触する部分は、従来のものと同様に、把持面の保護を目的として、ポリウレタン樹脂等の弾性体20aによって被覆されている。
【0033】
次に、上記構成を有する移動手摺8の製造方法について具体的に説明する。
移動手摺8の製造に際しては、先ず、図2に示す移動手摺8と同じ構成を有する長尺の手摺本体を製作した後、この手摺本体を所定の長さに切断してその両端部を接続することにより、無端状(環状)の移動手摺8を完成させる。このため、本実施の形態においては、上記手摺本体を製造する手順について具体的に説明する。
【0034】
手摺本体の製造方法については種々のものが考えられるが、以下においては、製造性に優れた押し出し成形によって手摺本体を製造する場合について詳説する。なお、本説明では、低摩擦材16として、摩擦特性が特に低いフッ素樹脂繊維からなる織編物を採用し、芯体14の原料として、押し出し成形に適し、成形後の摩擦特性が低摩擦材16の摩擦特性よりも遥かに高いポリウレタンエラストマーを採用した場合について詳しく述べる。
【0035】
手摺本体の製造に際しては、予め、上記構成の抗張体15と低摩擦材16とを準備しておく。そして、押し出し成形を行う前に、上記抗張体15及び低摩擦材16に対して以下の処理を行う。
【0036】
抗張体15に対しては、上記ポリウレタンエラストマーとの溶着性に優れた所定の原料を用いて、手摺本体内に配置する複数のものを予め一体化しておく。即ち、一体化された後の抗張体15以外の部分が、図2における固定用樹脂18に相当する。
また、低摩擦材16に対しては、上記ポリウレタンエラストマーとの溶着性に優れた所定の原料を、反溶着面を除き予め含浸させておく、或いは、上記所定の原料で低摩擦材16を被覆しておく。
【0037】
そして、上記処理を施した後、低摩擦材16がその内側面に配置されるようにして、横断面C字状の手摺本体を押し出し成形によって成形する。また、この時、抗張体15を手摺本体の内部に埋め込み、手摺本体の長手に沿って配置する。
なお、手摺本体の押し出し成形時、低摩擦材16については含浸或いは被覆された樹脂が、また、抗張体15についてはその周囲の固定用樹脂18が、溶融したポリウレタンエラストマーと溶着されるため、手摺本体の成形後は、低摩擦材16及び抗張体15の双方とも、芯体14と一体化されて強固に固定される。
【0038】
また、押し出し成形時、芯体14の原料であるポリウレタンエラストマーは、その一部が、低摩擦材16の裏面側から貫通孔16aを通過して低摩擦材16の表面側(手摺本体の内側面側)に移動し、低摩擦材16の表面上で薄い凸状を呈するように形成される。即ち、押し出し成形時の圧力により、ポリウレタンエラストマーが低摩擦材16の表面側に押し出され、手摺本体の成形と同時に、高摩擦部が手摺本体の内側面に形成される。
以上の手順により、高摩擦部と低摩擦部とを内側面に備えた長尺の手摺本体が完成する。
【0039】
この発明の実施の形態1によれば、マンコンベアにおいて、移動手摺8が案内レール13上を摺動することによって発生する摺動抵抗と、手摺駆動装置10に必要な駆動ローラ19の押付圧とを同時に低減させることができるようになる。
【0040】
移動手摺8(或いは、手摺本体)の内側面にはその長手に沿って高摩擦部が形成されているため、手摺駆動装置10の駆動ローラ19をこの高摩擦部に接触させることにより、手摺駆動装置10の駆動力を移動手摺8に効率的に伝達させることができる。即ち、駆動ローラ19を高摩擦部に接触させて回転させることにより、駆動ローラ19の押付圧を低く設定しても、移動手摺8の駆動に必要な十分な摩擦力を得ることができる。特に、駆動ローラ19を高摩擦部にのみ接触させれば、駆動力の伝達効率を従来よりも大幅に向上させることができ、手摺駆動装置10の小型化が可能となる。
【0041】
また、高摩擦部を芯材14と一体的に(芯材14を構成する樹脂等の一部から)構成することにより、高摩擦部の接着強度を高め、高摩擦部の剥離を防止することも可能となる。
また、上記高摩擦部を移動手摺8に形成された開口8aの対向位置に移動手摺8の長手に渡って配置すれば、手摺駆動装置10の構成を従来のものから変更しなくても、上記効果を奏することができるようになる。即ち、既設のマンコンベアへの適用が容易となる。
【0042】
なお、高い摩擦特性を有するポリウレタンエラストマー等で上記高摩擦部を構成するため、従来のように、駆動ローラ19の表面上をポリウレタン樹脂で被覆する等、摩擦力を増加させるための工夫を施す必要がない。即ち、駆動ローラ19(の表面)を金属で構成することが可能となり、駆動ローラ19や移動手摺8の内側面からの摩耗粉の発生を大幅に減少させることができる。したがって、摩耗粉の発生に起因する不具合、例えば、移動手摺8と踏段2との同期ずれ等を確実に防止でき、保守の手間を低減させることが可能となる。また、駆動ローラ19の摩耗や表面部の剥離等の不具合も発生しなくなる。
なお、建物にマンコンベアが設置された後、移動手摺8には、清掃時の水や雨水等が付着することがある。このため、上記構成の駆動ローラ19が採用されている場合は、駆動ローラ19の表面に、微細なショットブラスト処理やローレット加工を施すことが有効である。
【0043】
一方、移動手摺8(或いは、手摺本体)の内側面には、上記高摩擦部とともに、その長手に沿って低摩擦部が形成されている。このため、案内レール13による移動手摺8の案内をこの低摩擦部を介して行えば、手摺駆動装置10に必要な押付圧を低減させた上で、摺動抵抗をも低減させることができるようになる。特に、案内レール13の上面に凹部13aを形成すること等によって案内レール13を低摩擦部にのみ接触させれば、摺動抵抗を大幅に低下させることができ、手摺駆動装置10の更なる小型化も可能となる。
【0044】
なお、高摩擦部が開口8aの対向位置に形成されている場合は、低摩擦部を、例えば、移動手摺8の長手に渡って高摩擦部の両側に配置する。かかる構成であれば、走行時の安定性を損なうことなく移動手摺8を案内することが可能となる。
【0045】
また、上記構成の移動手摺8は、案内レールによる案内機能と手摺駆動装置による駆動機能とを共に同じ帆布を介して実現していた従来のものとは異なり、上記低摩擦部(低摩擦材16)として摩擦特性の特に低いものを採用しても、移動手摺8を駆動する機能に影響を与えるものではない。即ち、低摩擦部として、従来の帆布では採用できなかった、フッ素樹脂繊維といった極めて低い摩擦特性を有する材料を採用することができる。このため、移動手摺8が案内レール13上を摺動することによって生じる摺動抵抗を従来よりも大幅に低減させることができるようになる。また、摺動抵抗が小さいため、移動手摺8の走行状態も長期に渡って安定する。
【0046】
なお、低摩擦部として、摩擦特性が特に低い材料(例えば、フッ素樹脂繊維からなる織編物やシート)を採用した場合は、低摩擦部を構成する部材(本実施の形態においては低摩擦材16)を、芯材14を構成する樹脂等(本実施の形態においてはポリウレタンエラストマー)に接着させることが困難になることも考えられる。かかる場合、例えば、低摩擦部を構成する部材を織編物によって構成することにより、芯材14を構成する樹脂等を繊維と繊維との間に浸透させて、その浸透した樹脂等のせん断力によって上記部材を芯材14に一体化させる。或いは、本実施の形態における低摩擦材16のように多孔質の部材を採用して、芯材14との一体化を図る。
【0047】
なお、本実施の形態における移動手摺8のように、低摩擦材16の貫通孔16aを通過した芯材14の一部を成形して高摩擦部(高摩擦材17)とすることにより、以下のような種々の効果を期待できる。
先ず、高摩擦部の接着強度が大幅に向上し、高摩擦部の剥離を確実に防止できる。
また、高摩擦部は、低摩擦材16を芯材14に固定する機能も有するため、低摩擦材16の剥離も防止できる。なお、本実施の形態における移動手摺8の構成の他にも、所定の樹脂等を低摩擦材の表面上に接着することによって高摩擦部を形成することも考えられる。しかし、かかる構成では、高摩擦部の接着強度が、低摩擦材16の芯材14に対する接着強度に依存してしまうため、芯体14への接着強度が期待できないものを低摩擦材16として採用することはできない。しかし、本実施の形態における移動手摺8の構成であれば、このような問題も解消することができる。このため、芯材14への接着が困難なフッ素樹脂繊維からなる織編物等を低摩擦材16として採用した場合であっても、低摩擦材16の剥離を確実に防止でき、移動手摺8の長寿命化を実現することが可能である。
【0048】
一方、移動手摺8(手摺本体)の製造においては、多数の貫通孔16aを有する低摩擦材16を採用することにより、押し出し成形時の圧力を利用して、手摺本体の成形と同時に高摩擦部を成形することができる。このため、低摩擦材16の表面上に高摩擦部となる樹脂等を接着するといった手間が省け、製造性を向上させることが可能となる。
【0049】
なお、低摩擦材16が織編物や多孔質のもので構成されている場合、手摺本体の製造時に受ける張力によって低摩擦材16が長手方向に引き伸ばされ、貫通孔16aが塞がったり低摩擦材16が千切れたりする恐れがある。このような不具合を防止するため、特に上記構成の低摩擦材16を使用する場合には、手摺本体の成形前に、所定の樹脂を予め含浸させておりたり、上記所定の原料で低摩擦材16を被覆しておいたりするのが良い。
【0050】
また、抗張体15を芯体14に接着する場合、芯体14がゴムであれば、一定時間の加熱及び加圧条件で加硫接着する必要があり、芯体14がポリウレタン等であれば、接着剤を塗布してから加熱処理を行う必要がある。このため、手摺本体の成形時に抗張体15の接着処理を実施するよりも、手摺本体の成形前に抗張体15の接着処理を予め行っておき、手摺本体の成形時は、芯体14を構成する樹脂等に固定用樹脂18を溶着させるだけの方が望ましい。かかる製造方法を採用することにより、設備の簡素化や製品の安定化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】マンコンベアの全体構成を示す側面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるマンコンベアの移動手摺装置を示す要部断面図である。
【図3】図2の低摩擦材を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるマンコンベアの移動手摺装置を示す要部断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1におけるマンコンベアの移動手摺装置を示す要部断面図である。
【図6】従来のマンコンベアの移動手摺装置を示す要部断面図である。
【図7】従来のマンコンベアの移動手摺装置を示す要部断面図である。
【図8】従来のマンコンベアの移動手摺装置を示す要部側面図である。
【図9】図8に示すC−C矢視図である。
【符号の説明】
【0052】
1 トラス、 2 踏段、 3 踏段チェーン、 4 踏段駆動用スプロケット、
5 駆動電動機、 6 減速機、 7 制御盤、 8 移動手摺、 8a 開口、
9 欄干、 10 手摺駆動装置、 11 手摺駆動用スプロケット、
12 手摺チェーン、 13 案内レール、 13a 凹部、 14 芯体、
14a 外側面、 15 抗張体、 16 低摩擦材、 16a 貫通孔、
17 高摩擦材、 18 固定用樹脂、 19 駆動ローラ、 20 加圧ローラ、
20a 弾性体、 21 移動手摺、 22 芯体、 23 抗張体、 24 帆布、
25 案内レール、 26 手摺駆動装置、 27 駆動ローラ、
28 加圧ローラ、 29 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面C字状を呈する無端状の移動手摺を備えたマンコンベアの移動手摺装置であって、
前記移動手摺の内側面に、前記移動手摺の長手に沿って形成された高摩擦部と、
前記移動手摺の内側面に、前記移動手摺の長手に沿って形成され、前記高摩擦部よりも低い摩擦特性を有する低摩擦部と、
を備えたことを特徴とするマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項2】
高摩擦部は、移動手摺に形成された開口に対向するように、前記移動手摺の長手に渡って配置され、
低摩擦部は、前記高摩擦部の両側に、前記移動手摺の長手に渡って配置された
ことを特徴とする請求項1に記載のマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項3】
高摩擦部は、隣接する低摩擦部の表面から突出して配置されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項4】
移動手摺は、
横断面C字状を呈し、外側面が把持面を形成する芯体と、
前記芯体の内側面に前記芯体の長手に渡って設けられ、前記芯体の長手に沿って多数の貫通孔が形成された低摩擦材と、
を備え、
低摩擦部は、前記低摩擦材の一部から構成され、
高摩擦部は、前記低摩擦材に形成された前記貫通孔を通過して前記低摩擦材の表面側に配置された前記芯体の一部から構成される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項5】
低摩擦部は、フッ素樹脂繊維を含むシート、フッ素樹脂繊維を含むフエルト、フッ素樹脂繊維を含む織編物の少なくとも何れか一つから構成されることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載のマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項6】
高摩擦部は、ポリウレタンエラストマーから構成されることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項7】
移動手摺に形成された開口から前記移動手摺の内側面に接触し、回転時の摩擦力によって前記移動手摺を駆動する駆動ローラと、
を更に備え、
前記駆動ローラは、前記移動手摺の内側面に形成された高摩擦部に接触し、低摩擦部に接触しないことを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載のマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項8】
移動手摺の把持面に接触して前記移動手摺を駆動ローラ側に押し付ける加圧ローラと、
を更に備え、
前記駆動ローラは、高摩擦部に接触する部分が金属からなり、
前記加圧ローラは、前記把持面に接触する部分が樹脂等の弾性体からなる
ことを特徴とする請求項7に記載のマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項9】
移動手摺に形成された開口から前記移動手摺の内側面に接触し、前記移動手摺の移動を案内する案内レールと、
を更に備え、
前記案内レールは、前記移動手摺の内側面に形成された低摩擦部に接触し、高摩擦部に接触しないことを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載のマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項10】
案内レールは、移動手摺の内側面に形成された高摩擦部の対向位置に、前記高摩擦部よりも幅の広い凹部が形成されたことを特徴とする請求項9に記載のマンコンベアの移動手摺装置。
【請求項11】
横断面C字状を呈する手摺本体の内側面に、前記手摺本体の長手に沿って形成された高摩擦部と、
前記手摺本体の内側面に、前記手摺本体の長手に沿って形成され、前記高摩擦部よりも低い摩擦特性を有する低摩擦部と、
を備えたことを特徴とするマンコンベア用手摺。
【請求項12】
横断面C字状を呈する手摺本体の内側面に、前記手摺本体の長手に沿って高摩擦部を形成するステップと、
前記手摺本体の内側面に、前記手摺本体の長手に沿って、前記高摩擦部よりも低い摩擦特性を有する低摩擦部を形成するステップと、
を備えたことを特徴とするマンコンベア用手摺の製造方法。
【請求項13】
長手に沿って多数の貫通孔が形成された低摩擦材を準備するステップと、
成形後の摩擦特性が前記低摩擦材の摩擦特性よりも高い所定の原料を少なくともその一部に使用し、前記低摩擦材が少なくとも内側面の一部として配置されるように、横断面C字状の手摺本体を成形するステップと、
前記所定の原料を、前記低摩擦材に形成された貫通孔を通過させて前記低摩擦材の両面側に配置することにより、前記前記所定の原料からなる高摩擦部を、前記手摺本体の内側面に前記手摺本体の長手に沿って形成するステップと、
を備えたことを特徴とするマンコンベア用手摺の製造方法。
【請求項14】
手摺本体の成形前に、前記手摺本体を構成する原料との溶着性に優れた所定の原料を低摩擦材に含浸させる、又は前記低摩擦材を前記所定の原料で被覆するステップと、
を更に備えたことを特徴とする請求項13に記載のマンコンベア用手摺の製造方法。
【請求項15】
手摺本体の成形前に、前記手摺本体内に配置する抗張体を、前記手摺本体を構成する原料との溶着性に優れた所定の原料を用いて一体化するステップと、
を更に備えたことを特徴とする請求項13に記載のマンコンベア用手摺の製造方法。
【請求項16】
押し出し成形によって手摺本体を成形することにより、前記手摺本体の成形と同時に、前記手摺本体の内側面に高摩擦部を形成することを特徴とする請求項12から請求項15の何れかに記載のマンコンベア用手摺の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−105801(P2010−105801A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281521(P2008−281521)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】