説明

ミキサ装置

【課題】音声データの送受信に使用する通信帯域を圧迫することなく、ミキサの入力端子数よりも多数の端末装置を接続して多地点会議を行うことを可能にする。
【解決手段】M(2以上の整数)個の入力端子の各々へ入力された音声データをミキシングして出力するミキサ手段を有し、N(M以上の整数)台の端末装置の各々から通信網を介して送信されてくる音声データの受信状況から、利用者が発言中である端末装置をM台以内で選択してその各々を互いに異なる1つの入力端子を割り当てるとともに、選択されなかった端末装置にはミキサ手段の出力データをそのまま送信する一方、選択手段により選択された端末装置に対しては、ミキサ手段の出力データからその端末装置から受信した音声データを差し引いて送信するミキサ装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地理的に離れた複数の拠点間での遠隔会議を通信網を利用して実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ADSLや光通信などの高速データ通信技術の普及に伴い、地理的に離れた複数の拠点の各々に設置された端末装置を用いて遠隔会議を行うことが一般になりつつある。このような遠隔会議のためのシステムは、利用者の発言を収音してその音声を示す音声データを通信網へ送出するとともに、その通信網から送信されてくる音声データを受信しその音声データの表す音声を再生する端末装置を上記複数の拠点の各々に設置するとともに、各端末装置から送信されてくる音声データをミキシングしそのミキシング結果に対応する音声データを上記各端末装置に配信するミキサ装置を上記通信網に接続することによって実現されるのである。
ところで、上記のようにして遠隔会議を実現する場合、上記ミキサ装置は各拠点に配置される端末装置の数と同数かそれよりも多数の入力端子を備えていなければならない。このため、上記のようにして実現される遠隔会議においては、ミキサ装置の入力端子数よりも多い数の端末装置を接続することはできず、事業規模の拡大に応じて拠点の数が増加したとしてもその増加に対応することができないという問題があった。
このような問題点を解決するための技術の一例としては、特許文献1に開示された技術が挙げられる。特許文献1には、複数の会議端末と各会議端末から送信されている音声データをミキシングして返信するミキサ装置とを多重化信号伝送手段たる通信網に接続するとともに、各会議端末の使用チャネルおよびミキシング対象のチャネルを指定する外部制御手段たるワークステーションを上記通信網に接続して多地点会議システムを構成することが開示されている。この特許文献1に開示された技術では、ミキシング対象のチャネルを上記ワークステーションによって適宜指定することで、ミキサ装置の入力端子数よりも多い数の会議端末を接続して遠隔会議を行うことが可能になっている。
【特許文献1】特開平5−110695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、使用チャネルの割り当てを行うための制御コマンドが各会議端末とワークステーションとの間で送受信されるとともに、ミキシング対象のチャネルを指定するための制御コマンドがミキサ装置とワークステーションとの間で送受信される。上記各制御コマンドを送受信するためには、通信帯域を割り当てる必要があるが、通信網にて利用可能な通信帯域は予め定まっているため、音声データ等の送受信に割り当て可能な通信帯域が減少する(すなわち、音声データの送受信に使用する通信帯域が圧迫される)。音声データの送受信に割り当て可能な通信帯域が減少してしまうと、音声データの送受信に許容範囲を超える遅延が生じるなどして遠隔会議の進行に支障が生じる場合がある。また、制御コマンドの送受信を司るワークステーションに障害が発生すると、各拠点から送信されてくる音声データのミキシングが不可能になり、会議通信ができなくなるといった問題もある。
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、音声データの送受信に使用する通信帯域を圧迫することなく、ミキサの入力端子数よりも多数の端末装置を接続して多地点会議を行うことを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために本発明は、最大でM(2以上の整数)個の音声データを受け取ってミキシングし、そのミキシング結果である音声データを出力するミキサ手段と、N(前記M以上の整数)台の端末装置の各々から通信網を介して送信されてくる音声データの受信状況、または受信した音声データの表す音声の音量レベルから前記N台の端末装置の各々についてその利用者が発言中であるか否かを判定し、その判定結果を示す判定結果データを出力する無音/有音検知手段と、利用者が発言中であることが前記判定結果データによって示されている端末装置のうちから最大でM台の端末装置を選択し、選択した端末装置の各々から受信した音声データを前記ミキサ手段に与えるとともに、選択されなかった端末装置には前記ミキサ手段から出力される音声データをそのまま送信する一方、前記選択した端末装置に対しては、前記ミキサ手段から出力される音声データから、その端末装置から受信した音声データを差し引いて送信する通信制御手段とを有することを特徴とするミキサ装置、を提供する。
【0005】
より好ましい態様においては、前記ミキサ装置の通信相手であるN台の端末装置の各々には予め優先順位が割り当てられており、前記ミキサ装置の通信制御手段は、新たな音声データを受信する度に、前記優先順位にしたがって最大でM台の端末装置を選択することを特徴とする。
【0006】
また、上記課題を解決するために本発明は、前記ミキサ装置の通信制御手段は、音声データの受信状況からその送信元である端末装置毎に優先順位を定め、その優先順位にしたがって最大でM台の端末装置を選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ミキサの入力端子数よりも多数の端末装置を接続して多地点会議を行うことが可能になるといった効果を奏する。また、本発明においては、特許文献1に開示された技術とは異なり、音声データとは別に制御データの送受信を行う必要はないため、音声データの送受信に使用する通信帯域が圧迫されることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(A:構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るミキサ装置20を有する多地点会議システムの構成例を示すブロック図である。図1に示すように、多地点会議システムは、会議端末10−k(k=1〜6)とミキサ装置20とを、例えばインターネットなどの通信網30に接続して構成されている。
【0009】
会議端末10−k(k=1〜6)の各々は、例えばパーソナルコンピュータなどのコンピュータ装置であり、企業の各支店や各事業所、本店などの拠点に1台ずつ配置されている。会議端末10−k(k=1〜6)の記憶部(例えば、ハードディスク:図示省略)には、遠隔会議を実現するための通信プログラムが予め記憶されている。会議端末10−k(k=1〜6)の制御部(例えば、CPU:図示省略)は、上記通信プログラムにしたがって作動することにより、通信コネクション確立処理、音声データ送信処理および音声再生処理など遠隔会議を実現するための各種処理を実行する。
【0010】
通信コネクション確立処理とは、例えば会議端末10−kの操作部(図示省略)に対して遠隔会議へ参加する旨の指示が入力されたことを契機に、通信網30を介してミキサ装置20との間に通信コネクションを確立する処理である。ここで、通信コネクションとは、その両端に位置する装置間のデータ授受を仲介する論理的通信路のことである。音声データ送信処理とは、マイクなどからなる音声入力部(図示省略)により利用者の発言を収音し、その音声を示す音声データを書き込んだ音声データパケットを上記通信コネクションを介して送信する処理である。この音声データパケットには、上記音声データの他にその送信元である会議端末10−kの通信アドレスやその宛先であるミキサ装置20の通信アドレスが書き込まれている。なお、本実施形態では、音声入力部により収音される音声の音量レベルが所定の閾値未満である場合には、意図的な発言ではないとみなして上記送信処理が行われることはない。これは、例えば利用者の独り言などのように会議の内容とは無関係な音声を示す音声データが上記通信コネクションを介して送受信されることを回避し、通信網30にて割り当て可能な通信帯域が無駄に使用されることを回避するためである。そして、音声再生処理とは、上記通信コネクションを介してミキサ装置20から受信した音声データパケットに含まれている音声データの表す音声をスピーカなどからなる音声出力部により再生する処理である。
【0011】
ミキサ装置20は、通信網30を介して会議端末10−k(k=1〜6)の各々との間に通信コネクションを確立して遠隔会議通信の制御を行う装置であり、各会議端末10−kから送信されてくる音声データをミキシングして返信するためのミキサ部240を有している。ここで注目すべきは、図1を参照すれば明らかなように、ミキサ部240が3つの入力端子、すなわち、ミキサ装置20が同時に通信コネクションの確立が可能な会議端末の数よりも少ない数の入力端子しか有していない点である。本実施形態では、入力端子を3つしか有さないミキサ部240を用いて6台の会議端末の会議通信を可能にするため、ミキサ装置20は、ミキサ部240の他に、無音/有音検出部210と、通信制御部220とを有している。なお、本実施形態では、ミキサ部240が3つの入力端子を有する場合について説明するが、ミキサ部240はM(2以上の整数)個の入力端子を有していれば良い。また、本発明に係る多地点会議システムに含まれる会議端末の数は6台に限定されるものではなく、N(上記M以上の整数)台の会議端末が含まれていれば良い。
【0012】
無音/有音検出部210は、図1では、詳細な図示は省略したが、通信インタフェース(以下、「IF」)部、ROMやRAMなどの記憶部および制御部を含んでいる。通信IF部は、例えばNIC(Network Interface Card)であり、通信網30に接続されている。この通信IF部は、通信網30を介して送信されてくる音声データパケットを受信し、上記制御部へ引き渡す一方、上記制御部から受け取った音声データパケットを通信網30へ送出する。上記ROMには、各会議端末10−kとの間に通信コネクションを確立する処理を制御部に実行させるためのコネクション管理プログラムやその確立状況を管理するためのコネクション管理テーブルが予め格納されている。一方、上記RAM内には、音声データパケットをその送受信先である各会議端末10−k毎に記憶するため受信バッファおよび送信バッファの2種類のバッファが会議端末10−k毎に割り当てられる。ここで、受信バッファとは、通信網30を介して受信した音声データパケットに含まれている音声データを蓄積し、通信制御部220などの後段の回路に引き渡すためのバッファである。送信バッファとは、上記後段の回路から引き渡される音声データを蓄積し、通信網30へ順次送出するためのバッファである。本実施形態では、6組のバッファが上記RAM内に予め設けられており、1台の会議端末10−k当たりに1組のバッファを割り当てることでその会議端末10−kとの間に通信コネクションが確立される。つまり、ミキサ装置20との間に同時に通信コネクションの確立が可能な会議端末の数は、上記各バッファのバッファサイズと何組の送信および受信バッファを上記RAM内に設けることができるか(すなわち、RAMの空き記憶容量)によって定まる。このため、同時に通信コネクションを確立する必要がある会議端末の数が増加しても、上記RAMの増設により対処することが可能である。
【0013】
コネクション管理テーブルは、図2(a)に示すように、会議端末10−kの各々を一意に識別する識別子である端末識別子(例えば、通信アドレス)とその会議端末10−kに割り当てた送信バッファおよび受信バッファの組を一意に識別する識別子(例えば、各バッファの先頭アドレスの組:以下、バッファ識別子)とを対応付けて格納することにより、会議端末10−k(k=1〜6)へのバッファの割り当て状況(すなわち、通信コネクションの確立状況)を管理するためのテーブルである。また、コネクション管理テーブルには、図2(a)に示すように、上記端末識別子およびバッファ識別子に対応付けて状態フラグが格納される。状態フラグとは、その状態フラグに対応する端末識別子で識別される会議端末10−kとの間の通信状態(その会議端末10−kの利用者が発言中である有音状態であるのか、それとも発言を行っていない無音状態であるのか)を示すフラグであり、上記コネクション管理プログラムにしたがって作動している制御部によって適宜更新される。具体的には、本実施形態では、有音状態である場合には、状態フラグは“1”にセットされ、無音状態である場合には、“0”にセットされる。
【0014】
コネクション管理プログラムは、通信コネクションの確立または切断を要求する旨の通信メッセージを受信したこと、および、通信コネクションを介した音声データパケットの受信状況からコネクション管理テーブルの格納内容を更新する処理を上記制御部に実行させるプログラムである。より詳細に説明すると、コネクション管理プログラムにしたがって作動している制御部は、通信コネクションの確立を要求する旨の通信メッセージを通信網30を介して受信すると、未割り当てのバッファ(バッファ識別子がコネクション管理テーブルに未登録のバッファ)のうちから1つを選択し、そのバッファ識別子とその通信メッセージの送信元アドレス(すなわち、会議端末10−kを一意に示す端末識別子)とをコネクション管理テーブルに書き込むことでバッファの割り当てを行う。また、新たにバッファの割り当てを行う際には、上記制御部は該当する状態フラグの値を“0”にセットする。そして、上記制御部は、通信コネクションを確立済の会議端末10−kから音声データパケットを受信すると、その音声データパケットの送信元アドレスに一致する端末識別子に対応付けてコネクション管理テーブルに格納されている状態フラグの値を“0”から“1”に更新し、その更新後の状態フラグの値と、値の更新が行われた状態フラグに対応するバッファ識別子とを含む判定結果データを上記状態フラグの更新が行われる度に通信制御部220に引き渡す。これにより、上記バッファ識別子を割り当てられた会議端末10−kにて発言が開始されたことが通信制御部220に伝達されるのである。以降、無音/有音検知部210の制御部は、状態フラグが“1”である端末識別子で識別される会議端末10−kからの音声データパケットの受信状況を監視し、一定時間経過してもその会議端末10−kから新たな音声データパケットが送信されてこなければ、その会議端末10−kの端末識別子に対応する状態フラグの値を“1”から“0”に更新し、その更新後の状態フラグの値と、値の更新が行われた状態フラグに対応するバッファ識別子とを含む判定結果データを上記状態フラグの更新が行われる度に通信制御部220に引き渡す。これにより、上記バッファ識別子を割り当てた会議端末10−kにて発言が終了したことが通信制御部220に伝達されるのである。また、上記制御部は、通信IF部から受け取った音声データパケットに含まれている音声データを該当受信バッファ(音声データパケットの送信元アドレスに対応する受信バッファ)へ書き込む処理、各受信バッファから音声データを読み出して後段の回路へ供給する処理、および後段の回路から受け取った音声データを上記各送信バッファへ書き込む処理、および各送信バッファから読み出した音声データを含む音声データパケットを生成して通信IF部に引き渡す処理を実行する。
【0015】
通信制御部220は、図1に示すように、スイッチ回路221、記憶部222および制御部223を含んでいる。
スイッチ回路221は、無音/有音検知部210から出力される音声データを受け取ってミキサ部240に与える一方、ミキサ部240から出力される音声データを受け取って無音/有音検知部210に与えるものである。スイッチ回路221は、ミキサ部240に音声データを与えるための3系統のミキサ側入力ラインと同ミキサ部240から出力される音声データを受け取るための4系統のミキサ側出力ラインと、無音/有音検知部210の制御部の各々異なる出力ポートに接続されている6系統の端末側出力ラインと、同制御部の各々異なる入力ポートに接続されている6系統の端末側入力ラインとを有している。上記各端末側出力ラインは前述した6つの受信バッファの各々に割り当てられており、上記各端末側入力ラインは前述した6つの送信バッファの各々に割り当てられている。上記各端末側出力ラインは、対応する受信バッファから読み出される音声データを受け取るためのデータ線であり、上記各端末側入力ラインは、対応する送信バッファに音声データを供給するためのデータ線である。このように、受信バッファと端末側出力ラインとは1対1に対応し、送信バッファと端末側入力ラインも1対1に対応するのであるから、前述したバッファ識別子は、1組の端末側入力ラインおよび端末側出力ラインを一意に示す役割も担っている。逆に、端末側入力ラインが接続されている入力ポートおよび端末側出力ラインが接続されている出力ポートを一意に識別するポート識別子(例えば、ポート番号)を上記バッファ識別子に代えて用いても良い。
【0016】
スイッチ回路221のミキサ側入力ラインと端末側出力ラインの交差にはスイッチが設けられており、ミキサ側出力ラインと端末側入力ラインの交差にもスイッチが設けられている。これらスイッチは、例えば半導体スイッチであり、図示せぬ信号線によって制御部223に接続されている。上記各スイッチのオン/オフ制御は制御部223によって為され、オン状態にセットされると該当位置の端末側ラインを同該当位置のミキサ側ラインに接続するのである。例えば、図1では、オン状態にセットされたスイッチは●印で、オフ状態にセットされたスイッチは○印で示されている。
【0017】
記憶部222は、ROMなどの不揮発性メモリとRAMなどの揮発性メモリを含んでいる。不揮発性メモリには、スイッチ回路221の各スイッチのオン/オフ制御を制御部223に実行させるための通信制御プログラムや図2(b)に示す制御パターンテーブルが記憶されている。一方、揮発性メモリは、上記通信制御プログラムを実行する際のワークエリアとして利用され、その通信制御プログラムの実行過程で更新および参照される各種データが格納される。通信制御プログラムの実行過程で更新および参照されるデータの一例としては、ミキサ部240が有する3つの入力端子のうちの空いている端子の数を示す空き端子数カウンタが挙げられる。ここで、空いている入力端子とは、音声データを入力されていない入力端子(すなわち、対応するミキサ側入力ラインが端末側出力ラインの何れにも接続されていない入力端子)のことである。この空き端子数カウンタは、ミキサ装置20の電源が投入されたことを契機としてその初期値である3にリセットされる。そして、上記通信制御プログラムにしたがって作動している制御部223によって、ミキサ部240の入力端子に会議端末10−kを割り当てる処理が為される度に、空き端子数カウンタのカウンタ値は1ずつ減算され、逆に、その割り当てを解除する処理が為される度にそのカウンタ値は1ずつ加算される。
【0018】
図2(b)に示すように、制御パターンテーブルには、前述した6個のバッファ識別子の各々に対応付けて、4種類のスイッチパターンデータが格納されている。より詳細に説明すると、上記4種類のスイッチパターンデータのうちの1つは、値が0である状態フラグを対応付けられており、他の3つは、値が1である状態フラグを対応付けられている。そして、値が1である状態フラグに対応付けられている3つのスイッチパターンデータの各々には、1、2および3の何れかの値の空き端子数が対応付けられている。上記4種類のスイッチパターンデータの各々は、それらスイッチパターンデータに対応付けて制御パターンテーブルに格納されているバッファ識別子で識別される端末側入力ラインおよび端末側出力ライン上に設けられている各スイッチをオン状態にするのか、それともオフ状態にするのかを示すデータである。
【0019】
図3(a)および(b)は、制御パターンテーブルに格納されているスイッチパターンデータの一例を示す図である。具体的には、図3(a)は、値が0である状態フラグに対応付けて制御パターンテーブルに格納されているスイッチパターンデータ(例えば、図2(b)のスイッチパターンデータ04)を例示する図である。また、図3(b)は、値が1である状態フラグおよび値が1である空き端子数に対応付けて制御パターンテーブルに格納されているスイッチパターンデータ(例えば、図2(b)のスイッチパターンデータ01)を例示する図である。図3(a)に示すように、1つのスイッチパターンデータには、スイッチ識別子と制御フラグとの組が合計7組含まれている。なお、図3(b)においては、スイッチ識別子の配列順は図3(a)と同一であるため、制御フラグの部分についてのみ図示されている。スイッチ識別子とは、スイッチパターンデータに対応するバッファ識別子で識別される端末側入力ラインおよび端末側出力ライン上に設けられている各スイッチを一意に示す識別子である。一方、制御フラグとは、その制御フラグに対応するスイッチ識別子で識別されるスイッチをオン状態にするのか、オフ状態にするのかを示すフラグである。本実施形態では、制御フラグの値が1であれば、その制御フラグに対応するスイッチ識別子で識別されるスイッチをオン状態にすることを意味し、逆に、同制御フラグの値が0であれば、該当スイッチをオフ状態にすることを示している。
【0020】
図3(a)を参照すれば明らかように、値が0である状態フラグに対応付けられているスイッチパターンデータは、そのスイッチパターンデータに対応するバッファ識別子で識別される端末側入力ラインとミキサ側出力ライン4との交差に位置するスイッチのみをオン状態にすることを示している。一方、図3(b)を参照すれば明らかように、値が1である状態フラグおよび値が1である空き端末数に対応するスイッチパターンデータは、そのスイッチパターンデータに対応する端末側入力ラインをミキサ側出力ライン1に接続し、同端末側出力ラインをミキサ側入力ライン1に接続することを示すデータである。なお、図3では詳細な図示は省略したが、本実施形態では、値がn(n=1〜3)である空き端子数には、端末側入力ラインとミキサ側出力ラインnとの交差に位置するスイッチ、および同端末側出力ラインとミキサ側入力ラインnとの交差に位置するスイッチをオン状態にすることを示すスイッチパターンデータが対応付けられている。図2(b)に示す制御パターンテーブルの格納内容は、通信制御プログラムにしたがって制御部223がスイッチ回路221の各スイッチのオン/オフ制御を行う際に利用される。制御部223が通信制御プログラムにしたがって行う処理については後に詳細に説明する。
【0021】
ミキサ部240は、前述した3つの入力端子と、1つの出力端子とを有している。ミキサ部240は、各入力端子へ入力された音声データを加算して1つの音声データを生成し、上記出力端子から出力する。なお、本実施形態では、ミキサ部240が複数の入力端子を有している場合について説明したが、時分割方式などにより1つの入力端子を介してミキシング対象の複数の音声データを受け取るようにしてもよい。ミキサ部240の出力端子から出力される音声データは、減算器250a、250bおよび250cと、スイッチ回路221のミキサ側出力ライン4に与えられる。減算器250a、250bおよび250cの各々には、ミキサ部240から出力される音声データが与えられる他に、スイッチ回路221のミキサ側入力ライン1〜3の各々から出力される音声データが与えられる。なお、以下では、上記3つの減算器の各々を区別する必要がない場合には、「減算器250」と表記する。減算器250は、ミキサ部240から与えられる音声データから、スイッチ回路221から与えられる音声データを減算し、その減算結果を示す音声データをスイッチ回路221に与える。減算器250は、発言中の会議端末10−kにてミキサ装置20から送信されてくる音声データの表す音声の再生を行う際に、ハウリングが生じないようにするため、その会議端末10−kにて収音した音声成分を差し引くものである。
以上がミキサ装置20の構成である。
【0022】
(B:動作)
次いで、多地点会議システムに含まれる各装置が実行する動作のうち、本発明の特徴を顕著に示す動作について図面を参照しつつ説明する.なお、本動作例では、会議端末10−kの利用者である会議参加者k(k=1〜6)の間で遠隔会議を行う旨の合意が予め為されており、以下に説明する動作の開始時点では、各会議端末10−k(k=1〜6)とミキサ装置20の間に通信コネクションが確立されているものとする。
【0023】
各会議端末10−kから送出される音声データパケットには、その送信先アドレスとしてミキサ装置20の通信アドレスが書き込まれている。このため、上記音声データパケットは通信網30内のネットワーク機器(例えば、ルータ)により適宜ルーティングされてミキサ装置20に到達する。ミキサ装置20の無音/有音検知部210は、上記音声データパケットの受信状況とコネクション管理テーブル(図2(a)参照)の格納内容とから、各会議端末10−kの利用者の発言状態の変化を判別し、その判別結果に応じた判定結果データを制御部223に引き渡す。より詳細に説明すると、無音/有音検知部210は、無音状態の会議端末10−kから新たに音声データパケットを受信した場合には、その会議端末10−kについて無音状態から有音状態に切り替わったことを示す判定結果データ(前述したように、内包している状態フラグの値が“1”である判定結果データ)を制御部223に引渡す。一方、有音状態の会議端末10−kから一定時間に亘って音声データパケットを受信しなかった場合には、その会議端末10−kについて有音状態から無音状態に切り替ったことを示す判定結果データ(前述したように、内包している状態フラグの値が“0”である判定結果データ)を制御部223に引き渡す。なお、無音状態の会議端末10−kとは、端末識別子に対応付けてコネクション管理テーブルに格納されている状態フラグの値が“0”である会議端末10−kのことであり、有音状態の会議端末10−kとは、同状態フラグの値が“1”である会議端末10−kのことである。
【0024】
図4は、制御部223が通信制御プログラムにしたがって実行するスイッチ制御の流れを示すフローチャートである。図4に示すように、制御部223は、判定結果データを無音/有音検知部210から受け取ると(ステップSA100)、有音状態に切り替わったことを示すデータであるのか否かをその判定結果データに含まれている状態フラグの値を参照して判定する(ステップSA110)。具体的には、有音/無音検知部210から受け取った判定結果データに含まれている状態フラグの値が“0”であれば、無音状態に切り替わったことを示す判定結果データであるからステップSA110の判定結果は“No”になり、同状態フラグの値が“1”であれば、有音状態に切り替わったことを示す判定結果データであるからステップSA110の判定結果は“Yes”になる。
以下、ステップSA100の判定結果が“Yes”である場合と、同判定結果が“No”である場合とに場合分けして制御部223の動作を説明する。
【0025】
(B−1:有音状態に切り替わったことを示す判定結果データを受け取った場合の動作)
ステップSA110の判定結果が“Yes”である場合には、制御部223は、前述した空き端子数カウンタの値を参照し、新たに有音状態へ切り替わった会議端末10−kから受信した音声データをミキサ部240へ入力可能であるか否かを判定する(ステップSA120)。具体的には、制御部223は、空き端子数カウンタの値が1〜3の何れかである場合には、ミキサ部240への音声データの入力が可能であると判定し、空き端子数カウンタの値が0である場合には、ミキサ部240への音声データの入力は不可能であると判定する。
【0026】
ステップSA120の判定結果が“Yes”である場合には、制御部223は、新たに有音状態となった会議端末10−kから送られてくる音声データをミキサ部240へ入力するべく、スイッチ回路221の該当スイッチのオン/オフ制御(ステップSA130)を行った後に、空き端子数カウンタの値を1だけ減算し(ステップSA140)、本制御処理を終了する。ステップSA130にて制御部223が実行する処理は以下の通りである。制御部223は、まず、無音/有音検知部210から受け取った判定結果データに含まれているバッファ識別子に対応付けて制御パターンテーブルに格納されているスイッチパターンデータのうち、空き端子数カウンタのカウンタ値に対応するスイッチパターンデータを読み出す。そして、制御部223は、上記バッファ識別子に対応する端末側入力ラインおよび端末側出力ライン上に設けられているスイッチのオン/オフ制御をそのスイッチパターンデータにしたがって行う。これにより、空き端子数カウンタの値がn(n=1〜3)であれば、上記バッファ識別子に対応する端末側入力ラインはミキサ側出力ラインnに接続され、同端末側出力ラインはミキサ側入力ラインnに接続されることになる。一方、ステップSA120の判定結果が“No”である場合には、制御部223は、ミキサ部240への音声データの入力が不能である旨を示す通信メッセージを返信するよう無音/有音検知部210を制御し(ステップSA150)、本制御処理を終了する。このような動作が為される結果、会議端末10−k(k=1〜6)の各々の利用者が順次発言を開始した場合には、その開始が早い順に3人まで、その発言内容がミキサ装置20によってミキシングされて各会議端末10−kに配信されることになる。
【0027】
(B−2:無音状態に切り替わったことを示す判定結果データを受け取った場合の動作)
ステップSA110の判定結果が“No”である場合の動作について説明する。
ステップSA110の判定結果が“No”である場合は、制御部223は、その判定結果データに含まれているバッファ識別子に対応付けて制御パターンテーブルに格納されているスイッチパターンデータのうち、値が0である状態フラグに対応するスイッチパターンデータを読み出し、そのスイッチパターンデータにしたがって該当スイッチのオン/オフ制御を行い(ステップSA160)、さらに、空き端子数カウンタの値に1を加算(ステップSA170)して、本制御動作を完了する。上記動作が為される結果、判定結果データに含まれているバッファ識別子で識別される端末側入力ラインとミキサ側出力ライン4との交差に位置するスイッチのみがオン状態にされる。これにより、ミキサ部240の入力端子の1つが開放され、新たに発言を介した利用者の音声を示す音声データをその入力端子を介してミキサ部240に入力することが可能になる。
【0028】
以上に説明したように、本実施形態に係るミキサ装置20によれば、スイッチ回路221に設けられている各スイッチのオン/オフ制御を制御部223に実行させることによって、ミキサ部240の入力端子数がミキサ装置20に同時接続可能な会議端末数よりも少なくても、それら会議端末間の会議通信を仲介することが可能になる。なお、本実施形態によれば、同時に発言が可能な利用者の人数は上記入力端子数に制限されることになるが、一般に会議通信においては、会議参加者全員が同時に発言を開始することは稀であるから、特段の問題は生じない。また、本実施形態によれば、特許文献1に開示された技術のような制御コマンドの送受信を行う必要はないため、通信網30にて利用可能な通信帯域を全て音声データの送受信に割り当てることが可能になる。
【0029】
(C:変形)
以上本発明の一実施形態について説明したが、かかる実施形態に以下に述べる変形を加えても良いことは勿論である。
(1)上記実施形態では、ミキサ部240の入力端子に空きがある場合には、発言を開始した順(すなわち、無音状態から有音状態への切り替わりが早い順)にその送信元である会議端末10−kを、上記空いている入力端子に割り当てた。しかし、各会議端末10−kに予め優先順位を割り当てておき、その優先順位にしたがって、ミキサ部240の入力端子を割り当てても良い。具体的には、会議端末10−k(k=1〜6)の各々に互いに異なる優先順位を割り当てておき、各会議端末10−kの各々の通信アドレスにその会議端末10−kに割り当てられている優先順位を表す優先順位データを対応付けて格納した優先順位テーブルを記憶させておく。そして、ミキサ部240の入力端子に空きがある状況下では、前述した実施形態と同様に発言の開始順に、発言の開始が検知された会議端末10−kを上記空いている入力端子に接続する処理を制御部223に実行させ、入力端子に空きがない状況下で新たに発言を検知した場合には、新たに発言が検知された会議端末10−kの優先順位と、入力端子に割り当て済みの各会議端末10−kの優先順位とを比較してミキサ部240への接続を制御する処理を制御部223に実行させるのである。例えば、新たに発言が検知された会議端末10−kの優先順位が、入力端子へ割り当て済みの各会議端末10−kの優先順位よりも高い場合には、それら割り当て済の会議端末10−kのうちで最も優先順位が低いものの割り当てを解除し、上記新たに発言が検知された会議端末10−kをその入力端子へ割り当てるのである。このようにすると、会議司会者の使用する会議端末10−kに最も高い優先順位を割り当てておくことによって、その会議司会者は常にその発言を他の会議参加者へ伝達することが可能になり、議事進行を円滑にすることが可能になる。
また、各会議端末10−kに固定的な優先順位を予め割り当てておくのではなく、各会議端末10−kからの音声データパケットの受信状況に応じて、各会議端末10−kの優先順位を定め、その優先順位にしたがってミキサ部240の入力端子を割り当てても良い。具体的には、音声データパケットの送信頻度が高い会議端末10−kほど高い優先順位を割り当てる態様や、各会議端末10−kについて発言可能時間(会議参加者の持ち時間)を定めておき、各会議端末10−k毎にミキサの入力端子への割り当てが行われている時間を集計し、その集計結果と上記発言可能時間との差が大きいほど優先順位を高くする態様が考えられる。
【0030】
(2)上記実施形態では、各会議端末10−k(k=1〜6)は、音声入力部へ入力された音声の音量レベルが所定の閾値を超えている場合に、その音声を示す音声データをミキサ装置20へ送信した。しかし、音声入力部へ入力された音声の音量レベルに拘わらず、その音声を示す音声データをミキサ装置20に送信させ、ミキサ装置20の無音/有音検知部210にて、受信した音声データの示す音量レベルと所定の閾値とを比較させ、その音量レベルが上記閾値を越えている場合に有音と判定させても良い。
【0031】
(3)上記実施形態では、ミキサ部240の入力端子に空きがない状態で、それら入力端子に割り当てられていない会議端末10−kについて発言の開始が検知された場合には、その会議端末10−kへ宛てて、入力端子に空きがない旨を示すメッセージを送信し、その会議端末の利用者にその旨を通知した。しかし、ミキサ装置20においては、空いている入力端子の数をコネクション管理テーブルを参照することによって特定することが可能であるから、その特定結果を、ミキサ装置20と通信コネクションを確立している各会議端末10−kに通知し、空き端子数を各会議参加者へ報知する処理を各会議端末10−kに行わせても良い。
【0032】
(4)上記実施形態では、スイッチ回路221をハードウェアで実現する場合について説明したが、ソフトウェアで実現しても勿論良い。また、上記実施形態では、本発明に係るミキサ装置に特徴的なスイッチ制御を制御部223に実行させる通信制御プログラムが同記憶部222に予め記憶されていた。しかし、例えばCD−ROM(Compact Disk−Read Only Memory)などのコンピュータ装置読み取り可能な記録媒体に上記通信制御プログラムを書き込んで配布しても良く、また、インターネットなどの電気通信回線を介したダウンロードにより上記制御プログラムを配布しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係るミキサ装置20を含む多地点会議システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】同ミキサ装置20に記憶されている各種テーブルの一例を示す図である。
【図3】同制御パターンテーブルに格納されているスイッチパターンデータの一例を示す図である。
【図4】同ミキサ装置20が実行する動作の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0034】
10−k(k=1〜6)…会議端末、20…ミキサ装置、210…無音/有音検出部、220…通信制御部、221…スイッチ回路、222…記憶部、223…制御部、240…ミキサ部、250A,250B,250C…減算器、30…通信網。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大でM(2以上の整数)個の音声データを受け取ってミキシングし、そのミキシング結果である音声データを出力するミキサ手段と、
N(前記M以上の整数)台の端末装置の各々から通信網を介して送信されてくる音声データの受信状況、または受信した音声データの表す音声の音量レベルから前記N台の端末装置の各々についてその利用者が発言中であるか否かを判定し、その判定結果を示す判定結果データを出力する無音/有音検知手段と、
利用者が発言中であることが前記判定結果データによって示されている端末装置のうちから最大でM台の端末装置を選択し、選択した端末装置の各々から受信した音声データを前記ミキサ手段に与えるとともに、選択されなかった端末装置には前記ミキサ手段から出力される音声データをそのまま送信する一方、前記選択した端末装置に対しては、前記ミキサ手段から出力される音声データから、その端末装置から受信した音声データを差し引いて送信する通信制御手段と、
を有することを特徴とするミキサ装置。
【請求項2】
前記N台の端末装置の各々には予め優先順位が割り当てられており、前記通信制御手段は、新たな音声データを受信する度に、前記優先順位にしたがって最大でM台の端末装置を選択することを特徴とする請求項1に記載のミキサ装置。
【請求項3】
前記通信制御手段は、音声データの受信状況からその送信元である端末装置毎に優先順位を定め、その優先順位にしたがって最大でM台の端末装置を選択することを特徴とする請求項1に記載のミキサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−301124(P2008−301124A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144205(P2007−144205)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】