ミシンの布押え金具および布押えセット
【課題】 伸縮性布地の伸び特性を損なうことなく縫製するミシンの布押え金具および布押えセットが望まれている。
【解決手段】 布押え金具1は、縫針28が通される第1針通し穴21を有する針板20の上面20Aに近接して布地Sを押える押え部材4を備えた金具であって、押え部材4に縫針28が通される第2針通し穴10が形成されていて、押え部材4における第2針通し穴10の布送り方向上流位置に、押え部材4の下面から突出した垂凸部13が設けられたものである。そして、前記の布押え金具1と、第1針通し穴21の布送り方向上流位置で、下降した布押え金具1の垂凸部13と対面する上面20A位置に、下向きに陥入して形成された凹部25を有する針板20とから、布押えセットAが構成される。
【解決手段】 布押え金具1は、縫針28が通される第1針通し穴21を有する針板20の上面20Aに近接して布地Sを押える押え部材4を備えた金具であって、押え部材4に縫針28が通される第2針通し穴10が形成されていて、押え部材4における第2針通し穴10の布送り方向上流位置に、押え部材4の下面から突出した垂凸部13が設けられたものである。そして、前記の布押え金具1と、第1針通し穴21の布送り方向上流位置で、下降した布押え金具1の垂凸部13と対面する上面20A位置に、下向きに陥入して形成された凹部25を有する針板20とから、布押えセットAが構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年多用されている伸縮性布地の縫製に適したミシンの布押え金具および布押えセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般のミシンにおいては、針板上に置かれた布地の縫い付けに際して縫針および布押え金具が下降し、針板の送りガイド溝から突出する送り部材が布押え金具の下面との間で布地を挟み持ちながら布地を一定量送り、更に布押え金具が下降して針板との間で布地を押え、この状態で縫針が布地を縫い付けるようになっている。かかるミシンの布押え金具は、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−226282号公報(図1他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これまでのミシンは伸縮性の小さな布地を主に縫製してきた。その一方で、近年、伸縮性に富んだ布地が衣服に多用されつつある。そこで、伸縮性のある布地を上記文献1開示のミシンで縫製したところ、図11に示すように通常の縫目Fが布地Sに形成された。このように縫製した布地Sの位置Dを片手で持ち、他方の手で位置Eを持って縫目方向に沿って引っ張ったところ、布地S自体はまだ伸びるゆとりがあるにも拘らず、縫目Fの小さな伸びに規制されて位置Eの部分が位置Eaまでしか伸びなかった。このように布地Sの伸びが少ないと、せっかくの布地特有の伸び特性が生かされなくなる。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、伸縮性布地の伸び特性を損なうことなく縫製するミシンの布押え金具および布押えセットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るミシンの布押え金具は、縫針が通される第1針通し穴を有する針板の上面に近接して布地を押える押え部材を備えた布押え金具であって、押え部材に縫針が通される第2針通し穴が形成されていて、押え部材における第2針通し穴の布送り方向上流位置に、押え部材の下面から突出した垂凸部が設けられた構成にしてある。
【0007】
また、前記構成における垂凸部が、押え部材に上下移動自在に設けられた移動子の下部に形成されており、押え部材と移動子とが、移動子を下向きに付勢する弾性部材を介して連結されているものである。
【0008】
そして、本発明に係る布押えセットは、前記した各構成の布押え金具と、第1針通し穴の布送り方向上流位置で、下降した布押え金具の垂凸部と対面する上面位置に、下向きに陥入して形成された凹部を有する針板とからなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るミシンの布押え金具および布押えセットによれば、縫い付け時に、下降する布押え金具の垂凸部が針板の凹部内に進入し、垂凸部と凹部の間に布地が配置されるので、ミシンの送り部材による布送り動作時に布地に送り抵抗がかかり、垂凸部および凹部と送り部材間の布地が伸びた状態となり、その状態で縫針により縫い付けられる。従って、布地にループの大きな縫目を形成することができる。これにより、縫目の伸びによって規制される縫目方向の布地の伸びを大きくとることができ、伸縮性布地の伸び特性を有効に引き出すことが可能となる。
【0010】
また、布押え金具の垂凸部が、押え部材に上下移動自在に設けられた移動子の下部に形成されており、押え部材と移動子とが、移動子を下向きに付勢する弾性部材を介して連結されている場合は、垂凸部と凹部が布地を挟持している時間が弾性付勢により長くなるので、より大きなループの縫目を形成して布地の伸びをいっそう大きくすることができる。また、布地の押え度合が柔らかくなって美しい縫い上がりが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。ここに、図1は本発明の一実施形態に係るミシンの布押え金具を示す外観図、図2は前記布押え金具の側面図、図3は前記布押え金具の底面図である。
各図において、この実施形態に係る布押え金具1は、ミシンの上下駆動軸2に装着固定されるホルダ3と、ホルダ3の前下部に枢支軸5を介して上下揺動自在に枢支された布地押え用の押え部材4とを備えている。
【0012】
このミシンは3本の縫針28を取付け可能な3本針扁平縫いミシンを例に挙げている。かかる3本の縫針28を通すため、押え部材4のほぼ中央部分に3つの第2針通し穴10,10,10が左右横並びに形成されている。但し、本発明のミシンは、縫針を1本のみ、2本、あるいは3本全てを使用した形態も含んでいる。押え部材4の後部両側にはガイド穴14,14が縦方向に上下連通して形成されている。押え部材4における第2針通し穴10,10,10近傍で布送り方向(矢印W方向)の上流側の位置には、左右の側面から左右中央部分に向かって陥入し上下に貫通した貫通部11,11が形成されている。
【0013】
そして、押え部材4の両側に沿って、一対の補助押え部材(移動子の例)6,6が配備されている。補助押え部材6,6はそれぞれの後部に立設された摺動軸部7,7を有している。これらの摺動軸部7,7は押え部材4のガイド穴14,14内で摺動可能であることから、補助押え部材6,6が押え部材4に対し上下移動自在となっている。押え部材4の後部両側には、それぞれ捻りバネ9,9(弾性部材の例)の一端が取付けられている。捻りバネ9,9の他端は摺動軸部7,7の上部に形成された掛止穴8,8にそれぞれ掛止されている。これにより、押え部材4と補助押え部材6とが、補助押え部材6を下向き(矢印T方向)に弾性付勢する捻りバネ9を介して連結される。補助押え部材6,6の前部には、補助押え部材6,6の下面から下向きに例えば2mm突出した垂凸部13が設けられている。垂凸部13は正面から見て略凹字形状に形成されていて左右の補助押え部材6,6の下部間をつないでいる。垂凸部13の左右の上部12,12は押え部材4の貫通部11,11内に収められて上下移動自在に案内される。
【0014】
一方、針板20は、図4に示すように、3つの第1針通し穴21,21,21が左右横並びに形成されている。これらの第1針通し穴21,21,21は、針板20がミシン本体26の所定位置に取付けられた状態で、上方から近接した布押え金具1の第2針通し穴10,10,10と対面する位置に配置され、縫針が押え部材4の上方から第2針通し穴10および第1針通し穴21を一連に通過するようになっている。そして、針板20における第1針通し穴21,21,21の布送り方向(矢印W方向)の上流側には上下貫通する2条の送りガイド溝23,23が布送り方向に沿って形成され、第1針通し穴21,21,21の布送り方向の下流側にも上下貫通する2条の送りガイド溝24,24が布送り方向に沿って形成されている。第1針通し穴21,21,21、送りガイド溝23,23、および、送りガイド溝24,24の左右両側には、上下貫通する長尺の送りガイド溝22,22が布送り方向に沿って形成されている。
【0015】
そして、針板20において、第1針通し穴21,21,21の布送り方向の上流側直前位置で、下降した布押え金具1の垂凸部13と対面する位置(例えば、第1針通し穴21,21,21の1mm手前)の上面20Aには、凹部25,25,25が下向き(例えば、深さ1.5mm)に陥入して形成されている。かかる針板20は、ミシンMのミシン本体26の上面に設置されビスなどで固定されている(図5参照)。この針板20と、前記の布押え金具1とから、本実施形態に係る布押えセットAが構成される。
【0016】
引続き、上記構成のミシンMの布押え金具1および布押えセットAによる布地Sの縫製動作を図1〜図4を基に図5〜図8に沿って説明する。ここで、布地Sとしては、ポリエステル繊維やナイロン繊維などを含む糸を用いて形成された伸縮性の大きな生地を使用した。
まず、縫針28および布押え金具1が上がっている状態で、押え部材4の下面4Aと針板20の上面20Aとの間に布地Sを挿入し、ミシンMを駆動させる。
これにより、図5に示すように、縫針28および布押え金具1が下降する。また、送り部材27が送りガイド溝24から突出して押え部材4の下面4Aとの間で布地Sを挟み持つ。
【0017】
そして、図6に示すように、送り部材27は布地Sを挟み持ちながら矢印W方向に移動して布地Sを引っ張る。このとき、布地Sは送り部材27の上流側位置で垂凸部13により凹部25内面に軽く押し付けられることにより引っ張り抵抗が付与されるため、垂凸部13から送り部材27までの間で広幅矢印Vのように引き伸ばされる。布押え金具1が下降を続けることにより、布地Sは補助押え部材6,6と針板20との間で挟持される。
【0018】
更に布押え金具1が下降することにより、押え部材4が針板20の上面20Aに近づき、押え部材4の下面と補助押え部材6,6の下面とが面一となって、共に布地Sを押える。このように布地Sは引き伸ばされた状態で押し付け固定され、図7に示すように、下降した縫針28で縫い付けられる。
【0019】
縫い付け後は、図8に示すように、縫針28および布押え金具1が上昇して縫針28が布地Sから抜け出し、送り部材27は布地Sから離れて送りガイド溝24内に没入する。これにより、それまで引っ張られていた布地Sは自由となり、垂凸部13に向かい(広幅矢印Y方向)縮んで戻る。このとき、縫糸が多量に繰り出されて大きな縫目が形成される。
【0020】
上記の布押えセットAを備えたミシンMで伸縮性のある布地Sを縫製したところ、図9に示すようなループの大きな縫目Fa(>従来の縫目F(図11参照))が形成された。そこで、布地Sの位置Dを片手で持ち、他方の手で位置Eを持って縫目方向に引っ張ったところ、位置Eの部分は従来ミシンにより縫製された布地が伸びた位置Ea(図11参照)よりも遠い位置Ebまで伸びた。
このように、本実施形態によれば、ループの大きな縫目Faを形成することができるので、縫目Faの伸びにより規制される縫目方向の布地Sの伸びを大きくとることができ、伸縮性の布地Sの伸び特性を有効に引き出すことが可能となった。これにより、縫製のねじれ、縫糸の縮み、パッカリングなどのない美しさと、縫製後の布地Sを伸ばしたときに縫糸の抵抗を感じない縫い上がりを実現することができたのである。
【0021】
また、押え部材4と補助押え部材6,6とが、補助押え部材6,6を下向きに付勢する捻りバネ9を介して連結されているので、布地Sの押え度合が柔らかくなって美しい縫い上がりが得られる。また、布押え金具1の垂凸部13と針板20の凹部25が布地Sを挟んでいる時間が長くなるので、より大きなループの縫目が形成され布地Sの伸びがいっそう大きくなる。但し、本発明の弾性部材としては上記の捻りバネに限るものでなく、例えばコイルバネ、板バネ、ゴム材などを使用しても構わない。
【0022】
尚、上記の実施形態では、扁平縫いミシン用の布押え金具および布押えセットを例示したが、本発明の布押え金具および布押えセットはそれに限定されるものでなく、図10に示すように、例えば本縫い用ミシンの布押え金具1aおよび布押えセットAaも本発明に含まれる。
この布押え金具1aでは、ホルダ3aに取付けられた押え部材4aの前部に、上下貫通するガイド穴14aが形成されており、このガイド穴14aに棒状の移動子6aが上下摺動自在に装着されている。移動子6aは一端が押え部材4aに掛止され他端が移動子6aの上部に掛止された捻りバネ9aにより下向きに付勢されている。移動子6aの下端部は、押え部材4aの下面から突出した垂凸部13aとなっている。この場合も、例えば既述した針板20が使用される。針板20は、ミシンの縫製動作により下降した布押え金具1aの垂凸部13aと対面する上面位置に、下向きに陥入して形成された凹部25が形成されている。すなわち、この実施形態では、布押え金具1aと針板20とから布押えセットAaが構成される。この布押えセットAaによっても、既述した布押えセットAと同様に、ループの大きな縫目を形成して縫目方向の布地の伸びを大きくとることができる。
【0023】
また、本発明が適用されるミシンとしては、縫針、布押え金具と針板とから成る布押えセット、および送り部材を有するミシンであれば特に限定されない。すなわち、上記した扁平縫いミシンや本縫い用ミシンに限るものでなく、例えばオーバロック用ミシンなど種々のミシンにも適用可能である。そして、本発明は、移動子および弾性部材を省略して、押え部材の下面に直に垂凸部を設けた布押え金具も含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るミシンの布押え金具を示す外観図である。
【図2】前記布押え金具の側面図である。
【図3】前記布押え金具の底面図である。
【図4】前記布押え金具とともに布押えセットを成す針板の平面図である。
【図5】前記布押えセットを装備したミシンの縫製動作を示し図4のA−A線矢視断面を含む説明図である。
【図6】図5に続く縫製動作を示す一部側断面を含む説明図である。
【図7】図6に続く縫製動作を示す一部側断面を含む説明図である。
【図8】図7に続く縫製動作を示す一部側断面を含む説明図である。
【図9】本実施形態のミシンにより縫製された縫目を示す平面図である。
【図10】本発明の別の実施形態に係る布押えセットを示す一部側断面を含む側面図である。
【図11】従来のミシンにより縫製された縫目を示す平面図である。
【符号の説明】
【0025】
1,1a 布押え金具
4,4a 押え部材
4A 下面
6 補助押え部材(移動子)
6a 移動子
7 摺動軸部
9,9a 捻りバネ(弾性部材)
10 第2針通し穴
11 貫通部
13,13a 垂凸部
14,14a ガイド穴
20 針板
20A 上面
21 第1針通し穴
25 凹部
27 送り部材
28 縫針
A,Aa 布押えセット
M ミシン
S 布地
T 矢印
W 矢印
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年多用されている伸縮性布地の縫製に適したミシンの布押え金具および布押えセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般のミシンにおいては、針板上に置かれた布地の縫い付けに際して縫針および布押え金具が下降し、針板の送りガイド溝から突出する送り部材が布押え金具の下面との間で布地を挟み持ちながら布地を一定量送り、更に布押え金具が下降して針板との間で布地を押え、この状態で縫針が布地を縫い付けるようになっている。かかるミシンの布押え金具は、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−226282号公報(図1他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これまでのミシンは伸縮性の小さな布地を主に縫製してきた。その一方で、近年、伸縮性に富んだ布地が衣服に多用されつつある。そこで、伸縮性のある布地を上記文献1開示のミシンで縫製したところ、図11に示すように通常の縫目Fが布地Sに形成された。このように縫製した布地Sの位置Dを片手で持ち、他方の手で位置Eを持って縫目方向に沿って引っ張ったところ、布地S自体はまだ伸びるゆとりがあるにも拘らず、縫目Fの小さな伸びに規制されて位置Eの部分が位置Eaまでしか伸びなかった。このように布地Sの伸びが少ないと、せっかくの布地特有の伸び特性が生かされなくなる。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、伸縮性布地の伸び特性を損なうことなく縫製するミシンの布押え金具および布押えセットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るミシンの布押え金具は、縫針が通される第1針通し穴を有する針板の上面に近接して布地を押える押え部材を備えた布押え金具であって、押え部材に縫針が通される第2針通し穴が形成されていて、押え部材における第2針通し穴の布送り方向上流位置に、押え部材の下面から突出した垂凸部が設けられた構成にしてある。
【0007】
また、前記構成における垂凸部が、押え部材に上下移動自在に設けられた移動子の下部に形成されており、押え部材と移動子とが、移動子を下向きに付勢する弾性部材を介して連結されているものである。
【0008】
そして、本発明に係る布押えセットは、前記した各構成の布押え金具と、第1針通し穴の布送り方向上流位置で、下降した布押え金具の垂凸部と対面する上面位置に、下向きに陥入して形成された凹部を有する針板とからなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るミシンの布押え金具および布押えセットによれば、縫い付け時に、下降する布押え金具の垂凸部が針板の凹部内に進入し、垂凸部と凹部の間に布地が配置されるので、ミシンの送り部材による布送り動作時に布地に送り抵抗がかかり、垂凸部および凹部と送り部材間の布地が伸びた状態となり、その状態で縫針により縫い付けられる。従って、布地にループの大きな縫目を形成することができる。これにより、縫目の伸びによって規制される縫目方向の布地の伸びを大きくとることができ、伸縮性布地の伸び特性を有効に引き出すことが可能となる。
【0010】
また、布押え金具の垂凸部が、押え部材に上下移動自在に設けられた移動子の下部に形成されており、押え部材と移動子とが、移動子を下向きに付勢する弾性部材を介して連結されている場合は、垂凸部と凹部が布地を挟持している時間が弾性付勢により長くなるので、より大きなループの縫目を形成して布地の伸びをいっそう大きくすることができる。また、布地の押え度合が柔らかくなって美しい縫い上がりが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。ここに、図1は本発明の一実施形態に係るミシンの布押え金具を示す外観図、図2は前記布押え金具の側面図、図3は前記布押え金具の底面図である。
各図において、この実施形態に係る布押え金具1は、ミシンの上下駆動軸2に装着固定されるホルダ3と、ホルダ3の前下部に枢支軸5を介して上下揺動自在に枢支された布地押え用の押え部材4とを備えている。
【0012】
このミシンは3本の縫針28を取付け可能な3本針扁平縫いミシンを例に挙げている。かかる3本の縫針28を通すため、押え部材4のほぼ中央部分に3つの第2針通し穴10,10,10が左右横並びに形成されている。但し、本発明のミシンは、縫針を1本のみ、2本、あるいは3本全てを使用した形態も含んでいる。押え部材4の後部両側にはガイド穴14,14が縦方向に上下連通して形成されている。押え部材4における第2針通し穴10,10,10近傍で布送り方向(矢印W方向)の上流側の位置には、左右の側面から左右中央部分に向かって陥入し上下に貫通した貫通部11,11が形成されている。
【0013】
そして、押え部材4の両側に沿って、一対の補助押え部材(移動子の例)6,6が配備されている。補助押え部材6,6はそれぞれの後部に立設された摺動軸部7,7を有している。これらの摺動軸部7,7は押え部材4のガイド穴14,14内で摺動可能であることから、補助押え部材6,6が押え部材4に対し上下移動自在となっている。押え部材4の後部両側には、それぞれ捻りバネ9,9(弾性部材の例)の一端が取付けられている。捻りバネ9,9の他端は摺動軸部7,7の上部に形成された掛止穴8,8にそれぞれ掛止されている。これにより、押え部材4と補助押え部材6とが、補助押え部材6を下向き(矢印T方向)に弾性付勢する捻りバネ9を介して連結される。補助押え部材6,6の前部には、補助押え部材6,6の下面から下向きに例えば2mm突出した垂凸部13が設けられている。垂凸部13は正面から見て略凹字形状に形成されていて左右の補助押え部材6,6の下部間をつないでいる。垂凸部13の左右の上部12,12は押え部材4の貫通部11,11内に収められて上下移動自在に案内される。
【0014】
一方、針板20は、図4に示すように、3つの第1針通し穴21,21,21が左右横並びに形成されている。これらの第1針通し穴21,21,21は、針板20がミシン本体26の所定位置に取付けられた状態で、上方から近接した布押え金具1の第2針通し穴10,10,10と対面する位置に配置され、縫針が押え部材4の上方から第2針通し穴10および第1針通し穴21を一連に通過するようになっている。そして、針板20における第1針通し穴21,21,21の布送り方向(矢印W方向)の上流側には上下貫通する2条の送りガイド溝23,23が布送り方向に沿って形成され、第1針通し穴21,21,21の布送り方向の下流側にも上下貫通する2条の送りガイド溝24,24が布送り方向に沿って形成されている。第1針通し穴21,21,21、送りガイド溝23,23、および、送りガイド溝24,24の左右両側には、上下貫通する長尺の送りガイド溝22,22が布送り方向に沿って形成されている。
【0015】
そして、針板20において、第1針通し穴21,21,21の布送り方向の上流側直前位置で、下降した布押え金具1の垂凸部13と対面する位置(例えば、第1針通し穴21,21,21の1mm手前)の上面20Aには、凹部25,25,25が下向き(例えば、深さ1.5mm)に陥入して形成されている。かかる針板20は、ミシンMのミシン本体26の上面に設置されビスなどで固定されている(図5参照)。この針板20と、前記の布押え金具1とから、本実施形態に係る布押えセットAが構成される。
【0016】
引続き、上記構成のミシンMの布押え金具1および布押えセットAによる布地Sの縫製動作を図1〜図4を基に図5〜図8に沿って説明する。ここで、布地Sとしては、ポリエステル繊維やナイロン繊維などを含む糸を用いて形成された伸縮性の大きな生地を使用した。
まず、縫針28および布押え金具1が上がっている状態で、押え部材4の下面4Aと針板20の上面20Aとの間に布地Sを挿入し、ミシンMを駆動させる。
これにより、図5に示すように、縫針28および布押え金具1が下降する。また、送り部材27が送りガイド溝24から突出して押え部材4の下面4Aとの間で布地Sを挟み持つ。
【0017】
そして、図6に示すように、送り部材27は布地Sを挟み持ちながら矢印W方向に移動して布地Sを引っ張る。このとき、布地Sは送り部材27の上流側位置で垂凸部13により凹部25内面に軽く押し付けられることにより引っ張り抵抗が付与されるため、垂凸部13から送り部材27までの間で広幅矢印Vのように引き伸ばされる。布押え金具1が下降を続けることにより、布地Sは補助押え部材6,6と針板20との間で挟持される。
【0018】
更に布押え金具1が下降することにより、押え部材4が針板20の上面20Aに近づき、押え部材4の下面と補助押え部材6,6の下面とが面一となって、共に布地Sを押える。このように布地Sは引き伸ばされた状態で押し付け固定され、図7に示すように、下降した縫針28で縫い付けられる。
【0019】
縫い付け後は、図8に示すように、縫針28および布押え金具1が上昇して縫針28が布地Sから抜け出し、送り部材27は布地Sから離れて送りガイド溝24内に没入する。これにより、それまで引っ張られていた布地Sは自由となり、垂凸部13に向かい(広幅矢印Y方向)縮んで戻る。このとき、縫糸が多量に繰り出されて大きな縫目が形成される。
【0020】
上記の布押えセットAを備えたミシンMで伸縮性のある布地Sを縫製したところ、図9に示すようなループの大きな縫目Fa(>従来の縫目F(図11参照))が形成された。そこで、布地Sの位置Dを片手で持ち、他方の手で位置Eを持って縫目方向に引っ張ったところ、位置Eの部分は従来ミシンにより縫製された布地が伸びた位置Ea(図11参照)よりも遠い位置Ebまで伸びた。
このように、本実施形態によれば、ループの大きな縫目Faを形成することができるので、縫目Faの伸びにより規制される縫目方向の布地Sの伸びを大きくとることができ、伸縮性の布地Sの伸び特性を有効に引き出すことが可能となった。これにより、縫製のねじれ、縫糸の縮み、パッカリングなどのない美しさと、縫製後の布地Sを伸ばしたときに縫糸の抵抗を感じない縫い上がりを実現することができたのである。
【0021】
また、押え部材4と補助押え部材6,6とが、補助押え部材6,6を下向きに付勢する捻りバネ9を介して連結されているので、布地Sの押え度合が柔らかくなって美しい縫い上がりが得られる。また、布押え金具1の垂凸部13と針板20の凹部25が布地Sを挟んでいる時間が長くなるので、より大きなループの縫目が形成され布地Sの伸びがいっそう大きくなる。但し、本発明の弾性部材としては上記の捻りバネに限るものでなく、例えばコイルバネ、板バネ、ゴム材などを使用しても構わない。
【0022】
尚、上記の実施形態では、扁平縫いミシン用の布押え金具および布押えセットを例示したが、本発明の布押え金具および布押えセットはそれに限定されるものでなく、図10に示すように、例えば本縫い用ミシンの布押え金具1aおよび布押えセットAaも本発明に含まれる。
この布押え金具1aでは、ホルダ3aに取付けられた押え部材4aの前部に、上下貫通するガイド穴14aが形成されており、このガイド穴14aに棒状の移動子6aが上下摺動自在に装着されている。移動子6aは一端が押え部材4aに掛止され他端が移動子6aの上部に掛止された捻りバネ9aにより下向きに付勢されている。移動子6aの下端部は、押え部材4aの下面から突出した垂凸部13aとなっている。この場合も、例えば既述した針板20が使用される。針板20は、ミシンの縫製動作により下降した布押え金具1aの垂凸部13aと対面する上面位置に、下向きに陥入して形成された凹部25が形成されている。すなわち、この実施形態では、布押え金具1aと針板20とから布押えセットAaが構成される。この布押えセットAaによっても、既述した布押えセットAと同様に、ループの大きな縫目を形成して縫目方向の布地の伸びを大きくとることができる。
【0023】
また、本発明が適用されるミシンとしては、縫針、布押え金具と針板とから成る布押えセット、および送り部材を有するミシンであれば特に限定されない。すなわち、上記した扁平縫いミシンや本縫い用ミシンに限るものでなく、例えばオーバロック用ミシンなど種々のミシンにも適用可能である。そして、本発明は、移動子および弾性部材を省略して、押え部材の下面に直に垂凸部を設けた布押え金具も含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るミシンの布押え金具を示す外観図である。
【図2】前記布押え金具の側面図である。
【図3】前記布押え金具の底面図である。
【図4】前記布押え金具とともに布押えセットを成す針板の平面図である。
【図5】前記布押えセットを装備したミシンの縫製動作を示し図4のA−A線矢視断面を含む説明図である。
【図6】図5に続く縫製動作を示す一部側断面を含む説明図である。
【図7】図6に続く縫製動作を示す一部側断面を含む説明図である。
【図8】図7に続く縫製動作を示す一部側断面を含む説明図である。
【図9】本実施形態のミシンにより縫製された縫目を示す平面図である。
【図10】本発明の別の実施形態に係る布押えセットを示す一部側断面を含む側面図である。
【図11】従来のミシンにより縫製された縫目を示す平面図である。
【符号の説明】
【0025】
1,1a 布押え金具
4,4a 押え部材
4A 下面
6 補助押え部材(移動子)
6a 移動子
7 摺動軸部
9,9a 捻りバネ(弾性部材)
10 第2針通し穴
11 貫通部
13,13a 垂凸部
14,14a ガイド穴
20 針板
20A 上面
21 第1針通し穴
25 凹部
27 送り部材
28 縫針
A,Aa 布押えセット
M ミシン
S 布地
T 矢印
W 矢印
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫針が通される第1針通し穴を有する針板の上面に近接して布地を押える押え部材を備えた布押え金具であって、押え部材に縫針が通される第2針通し穴が形成されていて、押え部材における第2針通し穴の布送り方向上流位置に、押え部材の下面から突出した垂凸部が設けられていることを特徴とするミシンの布押え金具。
【請求項2】
垂凸部が、押え部材に上下移動自在に設けられた移動子の下部に形成されており、押え部材と移動子とが、移動子を下向きに付勢する弾性部材を介して連結されていることを特徴とする請求項1に記載のミシンの布押え金具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の布押え金具と、第1針通し穴の布送り方向上流位置で、下降した布押え金具の垂凸部と対面する上面位置に、下向きに陥入して形成された凹部を有する針板とからなることを特徴とする布押えセット。
【請求項1】
縫針が通される第1針通し穴を有する針板の上面に近接して布地を押える押え部材を備えた布押え金具であって、押え部材に縫針が通される第2針通し穴が形成されていて、押え部材における第2針通し穴の布送り方向上流位置に、押え部材の下面から突出した垂凸部が設けられていることを特徴とするミシンの布押え金具。
【請求項2】
垂凸部が、押え部材に上下移動自在に設けられた移動子の下部に形成されており、押え部材と移動子とが、移動子を下向きに付勢する弾性部材を介して連結されていることを特徴とする請求項1に記載のミシンの布押え金具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の布押え金具と、第1針通し穴の布送り方向上流位置で、下降した布押え金具の垂凸部と対面する上面位置に、下向きに陥入して形成された凹部を有する針板とからなることを特徴とする布押えセット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−223513(P2006−223513A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40100(P2005−40100)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(505060750)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(505060750)
【Fターム(参考)】
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