説明

ミシンの漏油防止及び防塵装置

【課題】 潤滑油の掻き落とし作用を確実良好に発揮させるとともに、掻き落とし潤滑油の滞留を防ぎ、かつ、防塵効果も発揮させて所期の漏油防止性能及び防麈性能を長期に亘り安定よく維持することができるようにする。
【解決手段】 ミシンフレーム1の開口2を覆うように固定された送り台ガイドサポート7と前部送り台シールガイド10との間に防塵用弾性シール板8を挟持するとともに、前部送り台シールガイド10と後部送り台シールガイド11との間及び後部送り台シールガイド11とシール押え14との間に、漏油防止用の第1弾性シール板12及び第2弾性シール板13を挟持し、かつ、第1弾性シール板12により揺動送り台3,4の外周面より掻き落とした潤滑油を油溜め部17に貯留し、この貯留した潤滑油を油回収パイプ21を通じて強制回収するように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンにおける布送り用の送り台のように、運動駆動源がミシンフレーム内部に配置される一方、送り歯の取付部分がミシンフレームの開口を通して外部に突出する状態に配置されて前後及び上下方向に揺動運動する揺動送り台を備えたミシンにおいて、ミシンフレーム内での給油に伴い飛散される潤滑油がその揺動送り台を伝って前記開口から外部に漏れて針板周辺部や縫製布などを汚損すること、並びに、前記開口を通じて糸屑等の外部の塵埃がミシンフレーム内に侵入することを防止するミシンの漏油防止及び防塵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のミシンの漏油防止装置として、従来、ミシンフレームの開口を覆うようにミシンフレームに固定され、揺動送り台の揺動変位を許容する窓が形成された防油壁本体と、この防油壁本体の内面側に配置され、揺動送り台が嵌合する嵌合孔を有する第1弾性シール板と、揺動送り台及び第1弾性シール板の上下動変位を許容する状態で前記第1弾性シール板を前記防油壁本体との間で挟持する本体シール押えと、前記揺動送り台の揺動変位を許容する窓が形成され、前記本体シール押えとの間に所定の隙間を有する状態で前記防油壁本体に固定される内部防油壁と、揺動送り台の嵌合する嵌合孔を有する第2弾性シール板と、揺動送り台及び第2弾性シール板の上下動変位を許容する状態で前記第2弾性シール板を前記内部防油壁との間で挟持する内部シール押えとを備えてなり、揺動送り台が前後揺動したとき、この揺動送り台の外周面に付着している潤滑油を先ず第2弾性シール板により掻き落とし、さらに、残った潤滑油を第1弾性シール板により掻き落とすとともに、その掻き落とされた潤滑油を本体シール押えと内部防油壁との間に形成の隙間を通して重力にてフレーム内部の下方へ自然落下(流下)させることで、潤滑油が第1弾性シール板に滞留することをなくし、その結果として、フレームの開口から潤滑油が外部に漏れることを防止するように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】 特開2003−181186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構成を持つ従来のミシンの漏油防止装置は、揺動送り台の外周面に付着している潤滑油を、第2及び第1弾性シール板の嵌合孔の内周縁部と揺動送り台の外周面との前後方向相対移動に伴う摺接作用によって二段階に掻き落とすものであるから、その油掻き落とし作用を十分に発揮させるためには、弾性シール板の嵌合孔の内周縁部と揺動送り台の外周面の接触力(面圧)を強く設定しなければならないが、接触力を強くすればするほど摩損しやすく、その摩損に伴って接触力が低下して潤滑油の掻き落とし作用が経時的に悪化することになる。加えて、従来の漏油防止装置では、掻き落とされた潤滑油を、本体シール押えと内部防油壁との間に形成されている隙間という空隙を通して重力にて自然流下させるものであるから、もともと粘性の高い潤滑油を弾性シール板に留めることなくスムーズにフレーム内の下方へ流下させにくいのみならず、特に、長時間に亘る連続縫製作業に対応して多量の給油が行われ、それに伴って掻き落とされる潤滑油の量が多くなると、潤滑油の自然流下量が掻き落とし量に追いつかず、第1弾性シール板に次第に多くの潤滑油が滞留されることになり、その結果、長時間に亘る連続縫製作業時にシール性能が経時的に低下して潤滑油がフレームの開口から外部に漏れ出し所期の漏油防止性能を保持することができなくなるという問題がある。
【0005】
また、上記従来の装置では、第1弾性シール板が防油壁本体の内面に弾接する状態に設けられているので、揺動送り台の外周面に付着している潤滑油の掻き落とし機能のほかにフレーム外部の塵埃が開口からフレームの内部に侵入することを防ぐ防塵機能も果たすことになるが、この第1弾性シール板の嵌合孔の内周縁部が既述のように摩損しやすく、かつ、掻き落とした潤滑油が滞留しやすいものであるために、防塵機能が早期のうちに損なわれてしまい、外部の塵埃がフレーム内部に侵入し、その侵入した塵埃が滞留潤滑油に混入して潤滑油の自然流下が妨げられてシール性能がますます低下するといった具合に、漏油防止性能及び防塵性能をともに安定よく維持することができないという問題があった。
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、潤滑油の掻き落とし作用を常に確実良好に発揮させるとともに、掻き落とし潤滑油の滞留もなくし、かつ、潤滑油への塵埃の混入も防いで、長時間に亘る連続縫製作業に対しても所期の漏油防止性能及び防塵性能を長期に亘り安定よく維持することができるミシンの漏油防止及び防塵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るミシンの漏油防止及び防塵装置は、前後及び上下方向に揺動運動可能に支持された揺動送り台が挿通するミシンフレームの開口に取付けられて、前記ミシンフレーム内での給油に伴い飛散した潤滑油が前記開口から外部に漏れることを防止するとともに、前記開口を通じて外部の塵埃がミシンフレーム内に侵入することを防止するミシンの漏油防止及び防塵装置であって、前記開口を覆うようにミシンフレームに固定され、前記揺動送り台の揺動変位を許容する窓が形成された送り台ガイドサポートと、この送り台ガイドサポートの内面側に配置され、前記揺動送り台が嵌合する嵌合孔を有する防塵用弾性シール板と、この防塵用弾性シール板を前記送り台ガイドサポートとの間で挟持し、前記揺動送り台及び防塵用弾性シール板の上下動変位を許容する前部送り台シールガイドと、前記揺動送り台の揺動変位を許容する窓が形成され、前記前部送り台シールガイドとの間に漏油防止用の第1弾性シール板を挟持して前記送り台ガイドサポートに固定される後部送り台シールガイドと、この後部送り台シールガイドの内面側に配置され、前記揺動送り台が嵌合する嵌合孔を有する漏油防止用の第2弾性シール板と、この第2弾性シール板を前記後部送り台シールガイドとの間で挟持し、前記揺動送り台と漏油防止用の第2弾性シール板の上下動変位を許容するシール押えと、を備え、前記漏油防止用の第1弾性シール板を挟持するように対向配置された前記前部送り台シールガイド及び後部送り台シールガイドの下端部間には、前記第1弾性シール板により揺動送り台から掻き落とされて流下する潤滑油を貯留可能な油溜め部が形成され、この油溜め部には、ポンプに接続されてミシンフレーム内に配設された油回収パイプの一端吸引口が開口接続されて、前記油溜め部に貯留された潤滑油を所定箇所に強制回収するように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記のごとき特徴構成を有する本発明によれば、揺動送り台の外周面に付着している潤滑油を第2及び第1弾性シール板で順に掻き落とすだけでなく、その掻き落としによっても揺動送り台の外周面に付着残留している少量の潤滑油を最終的に防塵用弾性シール板により掻き落とすことが可能で、全体として潤滑油の掻き落とし能力を高めてミシンフレームの開口から外部への潤滑油の漏れ出しを確実に防止することができる。しかも、第1弾性シール板で掻き落とされた潤滑油を、ポンプによる強制吸引力を介して油溜め部に即座に貯留させ、この油溜め部から油回収パイプを通じて所定箇所に強制回収(排油)することが可能であるため、長時間に亘る連続縫製作業に対応して多量の給油が行われ、それに伴い掻き落とされる粘性の高い潤滑油の量が多い場合であっても、その掻き落とされる多量の潤滑油を常に確実、スムーズに強制回収して潤滑油が第1弾性シール板に滞留されることを防ぐことができ、これによって、長時間に亘る連続縫製作業時にも高いシール性能を確保することができる。
【0009】
また、ミシンフレームの開口を覆うようにミシンフレームに固定された送り台ガイドサポートの窓が防塵用弾性シール板で塞がれているので、ミシンフレームの外部に発生する糸屑等の塵埃が開口を通じてミシンフレーム内部に侵入することを防止することが可能である。特に、この防塵用弾性シール板による掻き落とし油量はごく僅かであって、このシール板に潤滑油が滞留することによる防塵機能の低下は非常に少ないので、長期に亘って所期の防塵性能を安定よく維持することができ、またその結果、塵埃が潤滑油に混入して強制回収が妨げられたり、防塵用弾性シール板や漏油防止用の第1弾性シール板が異常に摩耗されたりすることも抑制し、所期の漏油防止性能を安定よく維持することができる。加えて、第1弾性シール板で掻き落とされた潤滑油を油溜め部に貯留し、その貯留した潤滑油を油回収パイプという定まった通路を経て所定箇所に強制回収することができるので、掻き落とされた潤滑油を重力にてミシンフレームの内面を伝わって垂れ流す場合のように、ミシンフレーム内部の部品を油で汚損したり、それら部品に過剰に給油したりすることがなくなり、所期の漏油防止性能、防塵性能の他にも適正な潤滑性能の向上を達成できるという効果を奏する。
【0010】
上記のような本発明に係るミシンの漏油防止及び防塵装置において、請求項2に記載のように、前記油溜め部を、前記前部送り台シールガイドの下端部近くに形成された貫通孔及び前記送り台ガイドサポートに形成された貫通孔を介してミシンフレームに形成された油回収用貫通長孔に連通接続し、このミシンフレームの油回収用貫通長孔に、前記油回収パイプの一端吸引口を開口接続して前記油溜め部に貯留された潤滑油を前記各貫通孔、貫通長孔及び油回収パイプを通じて所定箇所に強制回収するように構成することによって、潤滑油の強制回収のための構造を簡単化できるとともに、その強制回収構造を含めて複数の構成要素の組み付けに際して、組付け順位を工夫するなどの特別な配慮が不要で、装置全体を容易に組付けることができる。
【0011】
また、本発明に係るミシンの漏油防止及び防塵装置において、請求項3に記載のように、前記シール押えとして、左右に分割されてミシンフレーム内に組み込み配置される送り台ガイドにより兼用することにより、揺動送り台の左右位置を位置決めする機能を持つ送り台ガイドで漏油防止用の第2弾性シール板を所定位置に押え保持するための機能を兼ね備えることができ、部材の削減によって構造の一層の簡単化を図ることができる。
【0012】
さらに、本発明に係るミシンの漏油防止及び防塵装置において、請求項4に記載のように、前記油溜め部内に、少なくとも前記第1弾性シール板が下動変位した時、その第1弾性シール板に接触して揺動送り台から掻き落とされる潤滑油を毛細管現象により吸い取る吸油性多孔質部材を保持させる構成を採用することによって、第1弾性シール板で掻き落とされる潤滑油を吸油性多孔質部材による毛細管現象により直ちに吸い取って強制回収に導くことで、掻き落とした潤滑油が第1弾性シール板に滞留し、その滞留量が揺動送り台の揺動運動のたびに増えてシール性能が急速に悪化することを防止でき、これによって、所期の漏油防止効果、さらには防塵効果の一層の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の第一の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は、オーバーロックミシンのベッド部に本発明に係る漏油防止及び防塵装置を組み込んだ状態を示す要部の概略斜視図、図2は要部の分解斜視図、図3は組込み状態の拡大縦断側面図である。
【0014】
これら各図において、1はベッド部を構成するミシンフレームであり、このミシンフレーム1の前面部1aには開口2が形成されている。前記ミシンフレーム1の内部には、布送り装置用の前後一対の揺動送り台3,4が前後及び上下に揺動運動可能に支持されているとともに、これら前後一対の揺動送り台3,4の先端部分3a,4aは、前記開口2を挿通してミシンフレーム1の外部へ突出されており、それら突出先端部分3a,4aに、前後の送り歯(図示省略する)が取り付けられている。なお、前記前後一対の揺動送り台3,4は図3の矢印Xで示すように、前後及び上下方向に揺動運動して送り歯による所定の布送り動作を行わせるが、これら揺動送り台3,4の駆動機構は従来より周知であるため、図示及び説明を省略する。
【0015】
前記したミシンフレーム1の開口2には、ミシンフレーム1の内部において各種の摺動部等への給油に伴い飛散した潤滑油が前記開口2から外部に漏れることを防止するとともに、ミシンフレーム1の外部に発生した糸屑等の塵埃が前記開口2を通じてミシンフレーム1内に侵入することを防止する漏油防止及び防塵装置5が装備されている。
【0016】
この漏油防止及び防塵装置5は、前記開口2を覆うようにミシンフレーム1の前面部1aにねじ6を介して固定され、前記揺動送り台3,4の送りの揺動変位を許容する窓7aが形成された送り台ガイドサポート7と、この送り台ガイドサポート7の内面側に配置され、前記揺動送り台3,4が嵌合する嵌合孔8aを有する防塵用弾性シール板8と、この防麈用弾性シール板8を前記送り台ガイドサポート7との間で挟持し、前記揺動送り台3,4及び防塵用弾性シール板8の上下動変位を許容する窓10aを有し前記ねじ9及びねじ15を介して送り台ガイドサポート7に固定される前部送り台シールガイド10と、前記揺動送り台3,4の送りの揺動変位を許容する窓11aが形成され、前記前部送り台シールガイド10との間に前記揺動送り台3,4が嵌合する嵌合孔12aを有する漏油防止用の第1弾性シール板12を挟持して前記ねじ9及びねじ15を介して前記送り台ガイドサポート7及び前記前部送り台シールガイド10にそれぞれ固定される後部送り台シールガイド11と、この後部送り台シールガイド11の内面側に配置され、前記揺動送り台3,4が嵌合する嵌合孔13aを有する漏油防止用の第2弾性シール板13と、この第2弾性シール板13を前記後部送り台シールガイド11との間で挟持し、前記揺動送り台3,4及び第2弾性シール板13の上下動変位を許容する窓14aを有し前記ねじ9を介して前記送り台ガイドサポート7に固定されるシール押え14とから構成されている。
【0017】
前記シール押え14は、左右に分割されてミシンフレーム1内に組込み配置され、前記ねじ9を介して前記送り台ガイドサポート7と前記前部送り台シールガイド10及び後部送り台シールガイド11にそれぞれ固定される左右一対の送り台ガイド14A,14Bにより兼用されている。また、前記防塵用弾性シール板8並びに漏油防止用の第1弾性シール板12及び第2弾性シール板13は、耐油性及び弾性特性に優れた各種のゴム材料から製作されており、この実施形態では、それぞれ二枚を積層したもので示すが、単一枚のものであってもよい。
【0018】
そして、前記後部送り台シールガイド11の前端周縁部には、前部送り台シールガイド10の後端周縁部に当接する周壁16が一体に突出形成されており、この周壁16によって前記漏油防止用の第1弾性シール板12により揺動送り台3,4から掻き落とされた潤滑油を貯留可能な油溜め部17が形成されている。この油溜め部17は、前記前部送り台シールガイド10の下端部近くに形成された貫通孔18及び前記送り台ガイドサポート7に形成された油回収用貫通孔19を介して前記ミシンフレーム1の前面部1aに形成された貫通長孔20に連通接続されている。この貫通長孔20の下端内部には、ポンプ(図示省略する)に接続されてミシンフレーム1の内部に配設された油回収パイプ21の一端吸引口21aが開口接続されて、前記油溜め部17に貯留される潤滑油を図3の矢印で示すように、前記各貫通孔18,19、貫通長孔20及び油回収パイプ21を通じて、例えば潤滑油を収容しているオイルパン(図示省略する)内等の所定箇所に強制回収するように構成されている。なお、図3中の23は、前記送り台ガイドサポート7の下端部にまで貫いて形成された油回収用貫通孔19のうち、前記ミシンフレーム1の前面部1aに形成された貫通長孔20との連通接続箇所よりも下方に位置する不用な孔部分に詰め込み固定された詰栓であって、この詰栓23は、銅棒等の金属や吸油性のない樹脂で成形されたものである。
【0019】
次に、上記構成の漏油防止及び防塵装置5を備えたオーバーロックミシンの動作について説明する。
ミシンの回転に伴い前記前後一対の揺動送り台3,4は、図3の矢印Xで示すように、前後及び上下方向に揺動運動して、これら揺動送り台3,4の先端部分3a,4aに取り付けられている前後の送り歯(図示省略する)により所定の布送り動作が行われる。このとき、揺動送り台3,4の外周面には、ミシンフレーム1内部での給油に伴って飛散する潤滑油が付着されることになる。
【0020】
このように揺動送り台3,4の外周面に付着された潤滑油は、この揺動送り台3,4が前方へ揺動移動するとき、その外周面が第2弾性シール板13の嵌合孔13aの内周縁に摺接することで掻き落とされるとともに、続いて、第1弾性シール板12の嵌合孔12aの内周縁に摺接して大部分が掻き落とされる。さらに、それら二段階の掻き落としによっても揺動送り台3,4の外周面に付着残留している少量の潤滑油は最終的に防塵用弾性シール板8の嵌合孔8aの内周縁にも摺接して掻き落とされることになるので、全体として高い潤滑油の掻き落とし能力が発揮され、ミシンフレーム1の前面部1aの開口2からミシンフレーム1外部への潤滑油の漏れ出しを確実に防止することができる。
【0021】
そして、前記第2弾性シール板13で掻き落とされた潤滑油は重力にてミシンフレーム1の内部下方へ自然流下する一方、第1弾性シール板12で掻き落とされた大部分の潤滑油は油溜め部17に即座に貯留されたのち、ポンプによる強制吸引力が働いている貫通孔18,19、貫通長孔20及び油回収パイプ21を通じて、例えば潤滑油を収容しているオイルパン内等の所定箇所に強制回収されることになるため、長時間に亘る連続縫製作業に対応して多量の給油が行われ、それに伴い掻き落とされる粘性の高い潤滑油の量が多い場合であっても、その掻き落とされる多量の潤滑油を常に確実、スムーズに強制回収して潤滑油が第1弾性シール板12に滞留されることを防ぎ、これによって、長時間に亘る連続縫製作業時にも高いシール性能を確保することができる。
【0022】
また、ミシンフレーム1の開口2を覆うようにミシンフレーム1に固定された送り台ガイドサポート7の窓7aが防塵用弾性シール板8で塞がれているので、ミシンフレーム1の外部に発生する糸屑等の塵埃が開口2を通じてミシンフレーム1内部に侵入することを防止することが可能である。特に、この防塵用弾性シール板8による掻き落とし油量はごく僅かであって、このシール板8に潤滑油が滞留することによる防塵機能の低下はほとんどないため、長期に亘って所期の防塵性能を安定よく維持することができ、またその結果、塵埃が潤滑油に混入して強制回収が妨げられたり、防塵用弾性シール板8や漏油防止用の第1弾性シール板12が異常に摩耗されたりすることも抑制し、所期の漏油防止性能をも安定よく維持することができる。
【0023】
加えて、漏油防止用の第1弾性シール板12で掻き落とされた潤滑油は油溜め部17に貯留されたのち、貫通孔18,19、貫通長孔20及び油回収パイプ21という定まった通路を経て所定箇所に強制回収されることになるので、ミシンフレーム1内部の部品を油で汚損したり、それら部品に過剰に給油したりすることがなくなり、所期の漏油防止性能、防塵性能の他にも適正な潤滑性能を維持することができる。
【0024】
さらに、第一の実施の形態では、漏油防止及び防塵装置5におけるシール押え14として、左右に分割されてミシンフレーム1内に組み込み配置される送り台ガイド14A,14Bにより兼用しているので、このシール押え14で揺動送り台3,4の左右位置を位置決めする機能と漏油防止用の第2弾性シール板13を所定位置に押え保持するための機能を兼ねることが可能で、シール押えと送り台ガイドを各別に設ける場合に比して、部材数を削減して構造の一層の簡単化を図ることができる。
【0025】
図4は本発明の第二の実施の形態を示すもので、本発明に係る漏油防止及び防塵装置5をミシンフレーム1に組み込んだ状態の拡大縦断側面図である。この実施の形態では、前記後部送り台シールガイド11の前端周縁部から一体に突出形成した周壁16を前部送り台シールガイド10の後端周縁部に当接させることにより前後両シールガイド10,11間に形成された油溜め部17に、ポンプ(図示省略する)に接続されてミシンフレーム1の内部に配設された油回収パイプ21の一端吸引口21aを直接に開口接続させて、前記油溜め部17に貯留される潤滑油を、図4の矢印で示すように、油回収パイプ21を通じて、オイルパン(図示省略する)内等の所定箇所に強制回収するように構成したものである。
【0026】
この第二の実施の形態の場合は、上記した第一の実施の形態の場合に比べて、油回収パイプ21をミシンフレーム1に予め保持させて組み込むことができないため、漏油防止及び防塵装置5の各構成要素の組み付けに際して、組付け順位を工夫するなどの特別な配慮が必要となり、それだけ潤滑油の強制回収のための構造が少し複雑になるものの、第一の実施の形態の場合と同等な漏油防止及び防塵性能を確保することが可能である。なお、第二の実施の形態において、第一の実施の形態と同一部材、同一部位には同一の符号を付して、それらの説明を省略する。
【0027】
なお、上記各実施の形態では、油溜め部17を空間としたものについて説明したが、図5に示すように、該油溜め部17内に、前記第1弾性シール板12が下動変位したとき、その第1弾性シール板12の下端部に接触して揺動送り台3,4の外周面から掻き落とされる潤滑油を毛細管現象により吸い取る、フェルト等の吸油性多孔質部材22を保持させてもよい。この場合は、第1弾性シール板12で掻き落とされる潤滑油を吸油性多孔質部材22による毛細管現象により直ちに吸い取って強制回収に導くことが可能であるため、掻き落とした潤滑油が第1弾性シール板12に滞留し、その滞留量が揺動送り台3,4の揺動運動のたびに増えてシール性能が急速に悪化することを防止でき、これによって、所期の漏油防止効果、さらには防塵効果の一層の向上を図ることができる。
【0028】
また、図5の場合は、吸油性多孔質部材22が、第1弾性シール板12の下動変位時にのみ、その第1弾性シール板12の下端部に接触するようにしたが、図6に示すように、第1弾性シール板12の厚み中間部の下端部に開孔12bを形成し、この開孔12b内に一部22aが入り込む状態で吸油性多孔質部材22を油溜め部17内に保持させることによって、第1弾性シール板12をそれの上下動変位にかかわらず、常に吸油性多孔質部材22に接触保持させて第1弾性シール板12への油滞留量をより少なくし、シール性能の一層の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一の実施の形態で、漏油防止及び防塵装置が組込まれたオーバーロックミシンにおける要部の概略斜視図である。
【図2】同上要部の分解斜視図である。
【図3】漏油防止及び防塵装置を組込んだ状態の拡大縦断側面図である。
【図4】本発明の第二の実施の形態で、漏油防止及び防塵装置を組込んだ状態の拡大縦断側面図である。
【図5】本発明の他の実施の形態を示す要部の拡大縦断側面図である。
【図6】本発明のさらに別の実施の形態を示す要部の拡大縦断側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ミシンフレーム
2 開口
3,4 揺動送り台
5 漏油防止及び防塵装置
7 送り台ガイドサポート
7a 窓
8 防塵用弾性シール板
8a 嵌合孔
10 前部送り台シールガイド
11 後部送り台シールガイド
11a 窓
12 漏油防止用の第1弾性シール板
12a 嵌合孔
13 漏油防止用の第2弾性シール板
13a 嵌合孔
14 シール押え
14A,14B 分割送り台ガイド
17 油溜め部
18,19 貫通孔
20 貫通長孔
21 油回収パイプ
21a 一端吸引口
22 吸油性多孔質部材

【特許請求の範囲】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後及び上下方向に揺動運動可能に支持された揺動送り台が挿通するミシンフレームの開口に取付けられて、前記ミシンフレーム内での給油に伴い飛散した潤滑油が前記開口から外部に漏れることを防止するとともに、前記開口を通じて外部の塵埃がミシンフレーム内に侵入することを防止するミシンの漏油防止及び防塵装置であって、
前記開口を覆うようにミシンフレームに固定され、前記揺動送り台の揺動変位を許容する窓が形成された送り台ガイドサポートと、この送り台ガイドサポートの内面側に配置され、前記揺動送り台が嵌合する嵌合孔を有する防塵用弾性シール板と、この防塵用弾性シール板を前記送り台ガイドサポートとの間で挟持し、前記揺動送り台及び防麈用弾性シール板の上下動変位を許容する前部送り台シールガイドと、前記揺動送り台の揺動変位を許容する窓が形成され、前記前部送り台シールガイドとの間に漏油防止用の第1弾性シール板を挟持して前記送り台ガイドサポートに固定される後部送り台シールガイドと、この後部送り台シールガイドの内面側に配置され、前記揺動送り台が嵌合する嵌合孔を有する漏油防止用の第2弾性シール板と、この第2弾性シール板を前記後部送り台シールガイドとの間で挟持し、前記揺動送り台と漏油防止用の第2弾性シール板の上下動変位を許容するシール押えと、を備え、
前記漏油防止用の第1弾性シール板を挟持するように対向配置された前記前部送り台シールガイド及び後部送り台シールガイドの下端部間には、前記第1弾性シール板により揺動送り台から掻き落とされて流下する潤滑油を貯留可能な油溜め部が形成され、この油溜め部には、ポンプに接続されてミシンフレーム内に配設された油回収パイプの一端吸引口が開口接続されて、前記油溜め部に貯留された潤滑油を所定箇所に強制回収するように構成されていることを特徴とするミシンの漏油防止及び防塵装置。
【請求項2】
前記油溜め部は、前記前部送り台シールガイドの下端部近くに形成された貫通孔及び前記送り台ガイドサポートに形成された貫通孔を介してミシンフレームに形成された油回収用貫通長孔に連通接続され、このミシンフレームの油回収用貫通長孔に、前記油回収パイプの一端吸引口が開口接続されて、前記油溜め部に貯留された潤滑油を前記各貫通孔、貫通長孔及び油回収パイプを通じて所定箇所に強制回収するように構成されている請求項1に記載のミシンの漏油防止及び防塵装置。
【請求項3】
前記シール押えが、左右に分割されてミシンフレーム内に組み込み配置される送り台ガイドにより兼用されている請求項1または2に記載のミシンの漏油防止及び防塵装置。
【請求項4】
前記油溜め部内には、少なくとも前記第1弾性シール板が下動変位した時、その第1弾性シール板に接触して揺動送り台から掻き落とされる潤滑油を毛細管現象により吸い取る吸油性多孔質部材が保持されている請求項1ないし3のいずれかに記載のミシンの漏油防止及び防塵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−239341(P2006−239341A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95997(P2005−95997)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000114868)ヤマトミシン製造株式会社 (66)
【Fターム(参考)】