説明

ミシンの糸通し装置

【課題】ルーパに糸を通す糸通し作業の容易化を図る
【解決手段】糸通し装置1は、ミシンフレーム2の外側に開口された糸挿入口である開口部10を有する糸経路13と開口部10の近傍で糸経路13と合流するエアー経路14とを備えた糸挿入部土台12と、エアー経路14に圧縮エアーを供給するエアー供給装置5とを備えている。糸挿入部土台12は、少なくとも糸経路13とエアー経路14との合流部が、開口部10から挿入された下糸Tをミシンフレーム2の外側から視認可能とする透明部材により形成されると共に、開口部10からの下糸Tの挿入量の指標を示す表示部15を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの糸通し装置に関し、特に、ルーパに糸を導く糸経路にエアーを吹き付けて糸を送るミシンの糸通し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、縫い針と協働して縫い目を形成するルーパの糸穴に糸を通すミシンの糸通し装置にあっては、ミシンフレームの外側に開口部を有すると共に該ミシンフレームの内側を通る糸経路である糸道管の内部に圧縮エアーを吹き付けてルーパ側に糸を送る技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記従来の糸通し装置は、オペレータの手動によるレバー操作(図5参照)に連動してエアーポンプで圧縮されたエアーを、前記糸道管の側面に斜めに取り付けられたノズルの先端から吐出することで糸道管の内部にエアーを供給するようになっている。
ところで、ノズルは、その先端から吐出されるエアーが、糸の挿入口である開口部から僅かに糸道管の内側すなわち下流側に入った位置で合流するように、当該糸道管の開口部からやや下流側の位置に斜めに取り付けられている。このため、糸供給源から供給される糸の先端を開口部から糸道管内に通す際には、当該糸の先端を前記ノズルの先端よりも下流側まで挿入した後、レバーを操作してエアーを吐出することにより、当該糸経路の下流側に向けて効率的に送ることができるようになっている。
【特許文献1】特許第2865470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に開示されるミシンでは、糸道管を支持する糸挿入部土台が不透明な部材により形成されているため、糸挿入口から挿入された糸の挿入量をユーザがミシンフレームの外側から視認することが困難であった。このため、糸挿入口からの糸の挿入量が十分でない場合、エアーポンプのレバーを繰り返し操作しても、糸に直接圧縮エアーを吹き付けることが出来ず、円滑に糸を送れないという問題があった。また、これにより、レバーを無駄に何度も操作することとなり、作業効率が低下するという問題があった。
【0004】
本発明は、ルーパに糸を通す糸通し作業の容易化を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、ミシンフレームの外側に開口された糸挿入口を有する糸経路と前記糸挿入口の近傍で前記糸経路と合流するエアー経路とを備えた糸挿入部土台と、前記エアー経路に圧縮エアーを供給するエアー供給装置とを備え、前記糸挿入部土台は、前記ミシンフレームの外側から少なくとも前記糸経路と前記エアー経路との合流部が視認可能な透明部材により形成されていることを特徴とするミシンの糸通し装置である。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記糸挿入部土台は、前記糸挿入口からの糸の挿入量の指標を示す表示部を備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明において、前記糸挿入部土台は、前記糸挿入口が透明なガラス材により形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3の何れか一項記載の発明において、前記合流部を照射する照明手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、糸挿入部土台は、少なくとも糸経路とエアー経路との合流部をミシンフレームの外部から視認できる透明部材により形成されているため、糸挿入口から挿入された糸が、エアー経路から吐出されるエアーにより効率的に送ることができる深さまで挿入されたか否かを容易に視認することができる。これにより、従来のミシンの糸通し装置のように、糸挿入口から十分な深さまで糸が挿入されたことが視認できないことによるエアー供給装置の無駄なエアー供給動作を防止することができ、糸通し作業の容易化及び効率化が図られる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、糸挿入部土台に、糸挿入口からの糸の挿入量の指標を示す表示部が設けられていることにより、エアー経路から吐出されるエアーによって効率良く糸を送ることができる十分な深さまで糸が挿入されたか否かを容易に判断することができる。これにより、糸通しの際の無駄なエアー供給動作を防止することができ、糸通し作業のさらなる容易化及び効率化を図ることができる。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は請求項2記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、糸挿入部土台の糸挿入口を透明としたことにより、該糸挿入口から挿入した糸の挿入量をミシンフレームの外側からより正確に視認することができる。また、糸挿入口は、該糸挿入口を通って供給される糸の摩擦により磨耗され、或いは、切削されることを防止するための強度が必要とされるが、この糸挿入口をガラス材としたことにより、外部からの視認性を向上しつつ、上記強度に耐え得る硬度を確保することができる。これにより、磨耗された糸挿入口に下糸が引っ掛かることによる糸切れや糸の供給不良を防止することができるため、円滑な糸経路を確保することができる。
【0012】
請求項4記載の発明によれば、請求項1から請求項3の何れか一項記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、照明手段により、糸経路とエアー経路との合流部を照射することができるため、糸挿入口から挿入した糸の視認性を向上させることができる。
また、例えば、糸挿入口が複数ある場合は、糸を挿入するべき糸挿入口に取り付けた照明手段を点灯させることで、当該糸を挿入するべき糸挿入口をオペレータに案内することができるため、該糸通し作業をさらに容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1〜図4を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について詳しく説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。また、本実施形態においては、各図中に示したXYZ軸を基準にしてミシンMの各部の方向を定めるものとする。ミシンMを水平面に設置した状態において、Z軸方向は鉛直方向となる上下方向を示し、Y軸方向はミシンアーム部2aの長手方向と一致する左右方向を示し、X軸方向は水平且つY軸方向に直交する前後方向を示す。
【0014】
(全体構成)
図1は本実施形態たるミシンの糸通し装置1(以下、単に糸通し装置1とする)を備えたミシンMの外観を示す概略斜視図である。
図1に示すように、糸通し装置1は、ミシンフレーム2の外側に開口された開口部10を有する糸挿入部土台12と、この糸挿入部土台12のエアー経路14(後述する)に圧縮エアーを供給するエアー供給装置5(図2参照)とを備えている。
以下、各部を詳しく説明する。
【0015】
(ミシンフレーム)
図1に示すように、ミシンフレーム2は、当該ミシンフレーム2の上部をなし縫い針3を上下動可能に支持するミシンアーム部2aと、ミシンフレーム2の下部をなし図示しないミシンテーブル上に載置されたミシンベッド部2bと、ミシンアーム部2aとミシンベッド部2bとを連結し、ミシンアーム部2a及びミシンベッド部2bの長手方向と直交する上下方向(Z軸方向)に立設される縦胴部2cとから構成されており、その外形が正面視にて略コ字状に成形されている。
ミシンベッド部2bには、縫い針3の下方において当該縫い針3との協働により縫い目を形成する図示しないルーパが設けられている。ルーパは、被縫製物たる布を突き刺した縫い針3が上昇する際に布の下方に形成される上糸ループに挿通される延出部を有し、該延出部の先端には、縫い目を形成するために上糸と交絡させる下糸Tを通すための糸穴が設けられている。そして、この糸穴には糸通し装置1によりミシンフレーム2内を通って送られてきた下糸Tが挿通される。
【0016】
(エアー供給装置)
エアー供給装置5は、伸縮自在な中空の蛇腹部によりエアーを圧縮するエアーポンプ6と、該エアーポンプ6から供給されるエアーを先端部8aから吐出するエアーノズル8と、エアーポンプ6で圧縮されたエアーをエアーノズル8に送るエアー供給管7と、蛇腹部の一端に接続され、エアーポンプ6をオペレータの手動により作動させるための操作部であるレバー9とを備えている。
エアーポンプ6は、ミシンフレーム2の縦胴部2c内に設けられており、オペレータの手動によるレバー9の操作に応じて蛇腹部が収縮することでエアーを圧縮するものである。
エアーノズル8は、開口部10から挿入された下糸Tをルーパ側に送ることができるように、糸挿入部土台12の側壁を糸経路13の下流側に向けて斜めに貫通して設けられている。このエアーノズル8の先端部8aは、糸挿入部土台12内に設けられた糸経路13の内壁面よりも当該糸経路13側に突出しないように、当該内壁と同一面か、僅かに引っ込んだ位置に設けられている。
なお、図1に示すレバー9は、ミシンフレーム2の前面に設けられたカバーの内側に設けられており、糸通し動作の際にはカバーを開いた状態で当該レバー9の操作が行われる。また、レバー9は、図2に示す矢印方向に押し下げられた後、基の上位置に自動で復帰するようになっている。
【0017】
(糸挿入部土台)
次に、本実施形態における糸挿入部土台12について詳しく説明する。
図2及び図3に示すように、糸挿入部土台12は、ミシンフレーム2の外側に開口された糸挿入口としての開口部10を有する糸経路13と、開口部10の近傍で糸経路13と合流するエアー経路14とを備えている。
糸経路13は、糸挿入部土台12をほぼZ軸方向に貫通しており、その下端部がルーパに糸を導く糸案内管16に連結されている。そして、ミシンフレーム2の内側からこの糸経路13の内部に向けてエアー経路14が設けられている。
開口部10には、該開口部10を通ってルーパに供給される下糸Tによる当該開口部10周縁の磨耗を防止するための糸挿入口部材11が設けられている。この糸挿入口部材11は、図2及び図3に示すように、ミシンフレーム2の外側に向けて略漏斗状に拡開されており、上記磨耗を防止するため、例えば、金属やセラミック等により成形されることが好ましい。
そして、本実施形態における糸挿入部土台12は、ミシンフレーム2の外側から少なくとも糸経路13とエアー経路14との合流部が視認可能な透明部材により形成されている。本実施形態では、図1〜図3に示す糸挿入部土台12全体が、透明部材として、例えば、アクリル等の透明な合成樹脂から形成されている。
また、糸挿入部土台12には、開口部10からの下糸Tの挿入量の指標を示す表示部15が設けられている。この表示部15は、エアーノズル8の先端部8aから吐出されるエアーによって、下糸Tを効率的に送ることが可能となる十分な深さまで当該下糸Tの先端が挿入されたか否かを、ミシンフレーム2の外側からオペレータが視認することを容易とするための指標である。本実施形態では、かかる表示部15が、糸経路13とエアー経路14との合流部よりも下方側、すなわち、下糸Tの供給経路において前記合流部よりも下流側となる高さに設けられている。
【0018】
(実施形態の動作説明)
次に、上記構成を備えるミシンの糸通し装置1の動作説明を行う。
まず、ルーパに通す下糸Tを開口部10から挿入する場合、オペレータは、ミシンフレーム2の外側に設けられた下糸供給源(図示省略)から繰り出された下糸Tの先端を当該開口部10に挿入する。その際、糸挿入部土台12が透明部材(アクリル)からなることにより、オペレータは、開口部10から挿入された下糸Tの先端をミシンフレーム2の外側から目視(図3中、矢印A参照)により確認しながら糸通し作業を行うことができる。
そして、下糸Tの先端が、表示部15まで挿入されたことが視認された後、レバー9を操作してエアーポンプ6を作動させることで、エアーノズル8の先端部8aから圧縮エアーが吐出され、下糸Tが糸供給経路の下流側すなわちルーパ側に向けて送られる。
【0019】
(実施形態の効果)
以上のように、本実施形態たるミシンの糸通し装置1によれば、エアーノズル8の先端を含む糸供給経路の上流側及び下流側の領域が透明部材により形成されていることにより、開口部10から挿入された下糸Tが、エアーノズル8の先端から吐出される圧縮エアーにより効率的に送ることができる深さまで挿入されたか否かをミシンフレーム2の外部からでも容易に視認することができる。これにより、エアーポンプ6の無駄な作動動作を防止することができ、糸通し作業の容易化及び効率化が図られる。また、開口部10からの糸の挿入量の指標を示す表示部15が設けられていることにより、エアーノズル8の先端から吐出されるエアーにより効率良く下糸Tを送ることが可能となる十分な深さまで該下糸Tが挿入されたか否かを容易に判断することができる。
【0020】
(その他)
なお、糸挿入口部材11は、透明なガラス材により形成することとしてもよい。このようにすれば、開口部10から挿入する下糸Tの挿入量を、ミシンフレーム2の外側からより明確に視認することが可能となる。またこの場合、当該糸挿入口部材11と糸挿入部土台12とをガラス材により一体に形成してもよい。
また、糸挿入部土台12は、図4に示すように、糸経路13とエアー経路14との合流部を照射する照明手段として、例えば、LED(Light Emitting Diode)20等の照明装置を設ける構成としてもよい。このようにすれば、合流部を照射することができるため、開口部10から挿入する糸を見易くする照明効果を得ることができると共に、例えば、上ルーパや下ルーパ等に糸を供給するための複数の糸挿入口がある場合、図示しない制御部からの制御信号に基づき、順に点灯する構成とすることでユーザに糸を通す順番を示す案内機能を得ることが可能となる。従って、糸通し作業の操作性を向上することができる。
また、表示部15は、糸挿入部土台12の表面或いは内部の何れに設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態におけるミシンの外観構造を示す概略斜視図である。
【図2】本実施形態における糸通し装置の要部構成を示す斜視図である。
【図3】本実施形態における糸通し装置の要部構成を示す断面図である。
【図4】本発明を適用したその他の例を示す概略図である。
【図5】従来の糸通し装置による糸通し動作を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 糸通し装置(ミシンの糸通し装置)
2 ミシンフレーム
2a ミシンアーム部
2b ミシンベッド部
2c 縦胴部
3 縫い針
5 エアー供給装置
6 エアーポンプ
7 エアー供給管
8 エアーノズル
8a 先端部
9 レバー
10 開口部(糸挿入口)
11 糸挿入口部材
12 糸挿入部土台(透明部材、ガラス材)
13 糸経路
14 エアー経路
15 表示部
20 LED(照明手段)
T 下糸
M ミシン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンフレームの外側に開口された糸挿入口を有する糸経路と前記糸挿入口の近傍で前記糸経路と合流するエアー経路とを備えた糸挿入部土台と、
前記エアー経路に圧縮エアーを供給するエアー供給装置とを備え、
前記糸挿入部土台は、前記ミシンフレームの外側から少なくとも前記糸経路と前記エアー経路との合流部が視認可能な透明部材により形成されていることを特徴とするミシンの糸通し装置。
【請求項2】
前記糸挿入部土台は、前記糸挿入口からの糸の挿入量の指標を示す表示部を備えていることを特徴とする請求項1記載のミシンの糸通し装置。
【請求項3】
前記糸挿入部土台は、前記糸挿入口が透明なガラス材により形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のミシンの糸通し装置。
【請求項4】
前記合流部を照射する照明手段を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項記載のミシンの糸通し装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate