説明

ミストフィルター

【課題】酸ミスト、オイルミスト、可塑剤ミスト、水ミストなどの各種ミストをガス中から分離除去するフィルターにおいて、再飛散によって分離性能が低下することを解消し、高分離性能を有し、しかも低い圧力損失をもつミストフィルターを提供する。
【解決手段】ガス中のミストを分離するミストフィルターにおいて、捕集層と凝集層からなるフィルター層の外層部下部にミスト凝集液を輸送させるシート層を有するミストフィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸ミスト、オイルミスト、可塑剤ミスト、水ミストなどの各種ミストをガス中から分離除去するために用いるミストフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タービン潤滑油用タンクから発生するミストや、機械加工中の油飛散や熱による油煙から発生するオイルミストによる作業現場環境の悪化や、周辺環境への汚染が環境上の問題となっている。
これらを解決する手段として、衝突壁への衝突分離方式、フィルターによるコレッシング方式等によってミストを分離する方法が開示されている(例えば特許文献1)。
このようなミストフィルターにおいて、ミストの再飛散を押さえるため、フィルター層の密度、孔径を変化させ多段の積層にすることにより、液滴化したミストを下部に落下させる方法が提案されている(特許文献2)。しかし、密度勾配をもたせた液滴化したミストを下部に落下させただけでは、ミストの再飛散による分離性能の低下をおさえられるものではなかった。
【0003】
すなわち、微細なガラス繊維等を使用した高性能のミストフィルターでは、上下端にリーク防止および形態を保持する接着層のプレートによって、カートリッジ構造を形成する。この場合、凝集され液滴化されたミストは下部に溜り、空気の流れおよびカートリッジの差圧によって多くが外側(下流側)に押し出される。しかし、フィルター層に保持されるミスト凝集液も多く存在する。これが空気の流れにより、気泡状となり再飛散を誘発し、分離性能低下を招いている。このようなミスト凝集液の再飛散を防ぐ好適な方法は得られていない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−255230号公報
【特許文献2】特許第3278453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、各種ミストをガス中から分離除去するミストフィルターにおいて、ミスト凝集液の再飛散によって分離性能が低下することを解消し、高分離性能を有し、しかも低い圧力損失をもつミストフィルターを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ミストフィルターにおいて、捕集層と凝集層からなるフィルター層の外層部の下部にミスト凝集液を外部へ輸送させるシート層を設けることにより、ミストの再飛散を防止出来ることを見出し本発明に達したものである。
本発明は、次の構成を有する。
1.ガス中のミストを分離するミストフィルターにおいて、捕集層と凝集層からなるフィルター層の外層部下部にミスト凝集液を輸送させるシート層を有することを特徴とするミストフィルター。
2.捕集層が繊維径0.1μm〜10μmの微細繊維層からなり、凝集層が繊維径5〜250μmからなることを特徴とする、上記1に記載のミストフィルター。
3.前記シート層が、不織布、織物、編物、メッシュ状物、フィルムよりなることを特徴とする、上記1.または2.に記載のミストフィルター。
4.前記シート層が、不織布、織物、編物、メッシュ状物、フィルムの1種又は2種以上
から選ばれる積層シートであることを特徴とする、上記1.〜3.のいずれかに記載のミストフィルター。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、酸ミスト、オイルミスト、可塑剤ミスト、水ミストなどの各種ミストをガス中から分離除去するミストフィルターにおいて、ミスト凝集液の再飛散によって分離性能が低下することを解消し、高分離性能を有し、しかも低い圧力損失をもつという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について以下に具体的に説明する。
図1、図2に本発明の態様の一例を示す。本例では、ミストを含有するガスは中空円筒状のミストフィルター下部から円筒中空部に導入され、フィルター層を通過する際にミストが分離される。
フィルター層は捕集層2および凝集層3からなり、それらの下端は接着剤層9によってプレート8上に固定されている。捕集されたミストの多くは凝集され液滴となり、フィルター層外側下部に移動して接着剤層上部付近に溜められる。
本発明のミストフィルターは、フィルター層外側下部にシート層が配置されていることを特徴とする。このシート層により、ミスト凝集液が効率的にフィルター層からシート層に移動し、更にフィルター下部に輸送される。集められたミスト凝集液はフィルター外に滴下される。
【0009】
このようにミスト凝集液を輸送させるシート層をフィルター層の外層部下部に配置させることによって、ミスト凝集液をフィルター外に排出させ、凝集液をガスの流れから除外させることによって、ミスト再飛散を防ぐことができる。
捕集層の形成素材は、特に限定されるものではないが、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリケトン繊維、セルロース繊維等が挙げられるが、特に微細な繊維を形成しやすいガラス繊維が好ましい。また繊維層の形態としては、織物、編物、不織布等が挙げられるが、嵩高で小さい孔径を均一に形成しやすい不織布が好ましい。また、この捕集層は、円筒状に積層したもの、プリーツ状にして濾過面積を増加させたもので形成することができる。圧力損失を低下させ、処理風量を大きくするには、プリーツ構造が好ましい。また、1μmより小さい微小なミストを捕集するために、繊維径が0.1〜10μmが好ましい。より好ましくは、0.1〜1μmである。また、0.1〜1μmを主体としたもののなかに1〜10μmの繊維径のものが含まれたものでも良い。
【0010】
凝集層の形成素材は、特に限定されるものではないが、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ポニフェニレンサルファイド繊維、ポリケトン繊維、セルロース繊維等が挙げられる。特にミストが油である場合は、ポリプロピレン、ポリエステルが好ましい。また繊維層の形態としては、織物、編物、不織布、メッシュ状物等が挙げられる。これらの複合やそれぞれの積層物によりより性能向上が可能となる。また、捕集層に重ねためプリーツ形態としても外周に積層する構造でも良い。繊維径については、ミストを凝集していくため5〜200μmが好ましい。より好ましくは、10〜100μmである。
【0011】
シート層は、カートリッジ形状の下側に油を輸送する目的とするものである。形成する材質は、特に限定されるものではないがポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリケトン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、またはこれらの材質からなるフィルム等が挙げられる。分離対象となるミスト凝集液を保持しすぎることなく、輸送しやすいものが良い。ミスト凝集液が油状である場合は、
ポリエステル、ナイロン、セルロースが特に好ましい。シート層の形態としては、織物、編物、不織布、メッシュ状物、フィルム等が挙げられる。これらの複合やそれぞれのものの2重、3重の積層にすることにより性能の向上がはかられる。例えば、編物/不織布や編物/不織布/フィルム等の積層シートにより、より性能が向上する。
【0012】
フィルター層下部は、濾材層を固定するプレートと接着剤からなる。シート層は、凝集層と接着剤に溜まった液を吸液し、プレート外部に液を排出するため、プレート部に重なっていることが好ましい。シート層の巾は、プレート層と凝集層に重なる状態で、あれば、限定されるものではなくフィルター前面を覆うものでも良い。しかし、製造時の加工性より0.5cm〜5cmが好ましい。より好ましくは、1〜3cmである。またシートを複数層重ねて使用する場合、液の輸送を妨げるものでなければシート巾が異なってても良い。また、該シート層をプレート部が位置するフィルター層の外層部下部に設けることは上記のとおりであるが、それ以外の部分、例えば、フィルター層の外層部上部等にも必要に応じ設けることができる。
【実施例】
【0013】
本発明を実施例に基づいて説明する。
本発明における評価方法は以下の通りである。
(1)分離効率
タービン油VG−32を加熱して、オイルミスト濃度200mg/mの被処理ガスを用意する。被処理ガスを340L/minの流量でミストフィルターに通過させ、オイルミストの分離試験を実施した。ミストフィルター前後で、パーティクルカウンタ(リオン社KC−01A)によってミスト粒子個数を計測して、0.3μm以上1.0μm未満、および、1.0μm以上のミストの分離効率を算出した。
(2)圧力損失
上記(1)と同様の被処理ガスを340L/minの流量でミストフィルターに通過させ、16時間経過後の圧力損失を評価した。
【0014】
[実施例1]
捕集層として、0.3〜1μmのガラス繊維を主体とし、1〜5μmのガラス繊維が10%程度含まれ、坪量400g/mの捕集膜に、その前後をステンレスの金属織物により挟んでプリーツ形状にして捕集層を得た。次に凝集層として、捕集層の外側に繊維径15〜35μmのポリエステル繊維不織布で坪量100g/mを2層巻きつけた。さらにその外側に繊維径220μmのコットンの編物100g/mを巻きつけて凝集層とした。これをもとに、ハウジングとプレートと接着剤により、外径200mmφ、高さ100mmのフィルターエレメントを作製した。
さらにシート層として、ポリエステル製のスパンボンド不織布で目付50g/mのものを2.5cmにスリットしたものをプレート部と凝集層の外層下部に巻きつけた。
【0015】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、フィルターエレメントを作製した。下部にシート層としてコットンの編物(目付100g/m)を1cmにスリットしたものを内側に、ポリエステル製スパンボンド不織布(坪量50g/m)を2.5cmにスリットしたものを外側にして巻きつけた。
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、フィルターエレメントを作製した。
下部にシート層としてコットンの編物(目付100g/m)1cmにスリットしたものを内側に、ポリエステル製スパンボンド不織布(坪量50g/m)とポリエステルフィルム(厚さ30μm)を2.5cmにスリットしたものをそれぞれ中側、外側にして、フィルター下部に巻きつけた。
【0016】
[比較例1]
実施例1と同様の製造方法にて得られたミストフィルターにシート層を装着することなく作成した。
実施例及び比較例によって得られたミストフィルターの分離性能を表1に示す。本発明のミストフィルターはミスト凝集液の再飛散を防いだことにより、好適な分離性能を発現できる。
【0017】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、酸ミスト、オイルミスト、可塑剤ミスト、水ミストなどの各種ミストをガス中から分離除去するフィルターにおいて、再飛散によって分離性能が低下することを解消し、高分離性能を有し、しかも低い圧力損失をもつミストフィルターを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ミストフィルター全体図
【図2】ミストの捕集、凝集、輸送の概略図
【符号の説明】
【0020】
1 ミストフィルター
2 捕集層
3 凝集層
4 シート層
5 捕集されたミスト
6 凝集されたミスト凝集液滴
7 輸送し排出される液
8 プレート
9 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中のミストを分離するミストフィルターにおいて、捕集層と凝集層からなるフィルター層の外層部下部にミスト凝集液を輸送させるシート層を有することを特徴とするミストフィルター。
【請求項2】
捕集層が繊維径0.1μm〜10μmの微細繊維層からなり、凝集層が繊維径5〜250μmからなることを特徴とする、請求項1に記載のミストフィルター。
【請求項3】
前記シート層が、不織布、織物、編物、メッシュ状物、フィルムよりなることを特徴とする、請求項1または2に記載のミストフィルター。
【請求項4】
前記シート層が、不織布、織物、編物、メッシュ状物、フィルムの1種又は2種以上から選ばれる積層シートであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のミストフィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−226322(P2009−226322A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75157(P2008−75157)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】