説明

ミトコンドリア機能の改善のためのカルジオリピン含有リポソーム

本出願において、リポソーム、カルジオリピン、及び少なくとも1の抗酸化剤を含む組成物であって、ミトコンドリア膜及び/又はミトコンドリア機能を改善、維持、又は回復するために有用である組成物が開示される。1例では、リポソームは、主にホスファチジルコリンから構成され、当該カルジオリピンが、テトラオレオイル-カルジオリピンであり、そして当該少なくとも1の抗酸化剤がメチルゲンチセート、I-カルノシン、又はその両方である。当該組成物は、局所的投与、経口投与、又は非経口投与、例えば注射により投与されてもよい。局所投与される場合、組成物は、例えば、クリーム、ローション、ゲル、ペースト、スプレー、トニック、又は他の適切な形態として投与されてもよく、例えばさまざまな添加剤、例えば1以上の皮膚軟化剤、保湿剤、浸透促進剤、ビタミン、香料、色素、及び湿潤剤のうちの1以上を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア機能を維持するばかりでなく、ミトコンドリア機能を改善及び回復し、及び/又はミトコンドリア膜を修復する固有組成物に基づく。具体的に、本発明の組成物は、カルジオリピンが埋め込まれたリポソーム及び抗酸化剤の固有の組み合わせである。
【背景技術】
【0002】
酸素非含有ラジカル又は活性酸素種(ROS)は、酸化及びそれに続く脂質、タンパク質及び核酸の機能障害を介した細胞損傷において主要な因子であると知られている反応性の高い化学種である。実際、活性酸素は、加齢、並びに癌を含む幾つもの疾患の主要な原因として示唆されている。ROSは特にミトコンドリアを損傷することが知られている。ミトコンドリアに対する酸化損傷は、細胞老化、そして最終的な細胞死において主要な因子であると考えられている。
【0003】
ミトコンドリアは、遺伝的物質を含む体の全ての細胞に存在する要素である。実際、全ての真核生物の細胞においてミトコンドリアは発見されている。ミトコンドリアは、酸素を処理し、そして食品由来の物質を細胞機能に必須のエネルギーに変換することに関与する。ミトコンドリアは、アデノシン三リン酸(ATP)の形態でエネルギーを産生し、ATPは次に多くの細胞機能において使用するために、細胞の細胞質へと輸送される。ミトコンドリアは、細胞の発電所として知られている。なぜなら、ミトコンドリアが産生するATPは、多細胞生物により用いられる代謝エネルギーの約90%を供給するからである。
【0004】
酸素代謝におけるミトコンドリアの役割により、ミトコンドリアは酸素ラジカルによる損傷に対する主要な標的となる。具体的に、ミトコンドリア呼吸反応連鎖(つまり、電子伝達系)は、ROSの主要な細胞内起源として認識されている。ミトコンドリアにおけるATPの形成は、過酸化水素及びヒドロキシルラジカルなどの他のROSへと変換されうる反応性の高いスーパーオキシド非含有ラジカルをもたらす。細胞は、この酸化ストレスをうまく処理するメカニズムを有するが、処理の効率は、年齢とともに、そしてストレスなどの外因性の要因の影響により低下する。最終的にミトコンドリアは、ATPを産生する能力を持たなくなり、細胞機能の低下、そしてしばしば細胞死をももたらす。
【0005】
ROSは、ミトコンドリア内膜のタンパク質及び脂質の構造的分解によりミトコンドリアに対して損傷を引き起こしうる。最も損傷を与えるROS種のうちの1つは、脂質の過酸化を引き起こすヒドロキシルラジカルである。脂質の過酸化が時間とともに増加するにつれ、ミトコンドリア内膜の主要な脂質のうちの1つであるカルジオリピンに構造変化が引き起こされる。これらの構造変化は、内膜及びそれに関連した電子伝達に必須のカルジオリピン-タンパク質相互作用に損傷をもたらす。例えば、シトクロームcは、健常な通常の機能を有するミトコンドリアではカルジオリピンに結合する。しかしながら、カルジオリピンが分解されると、シトクロームcは遊離し、これが次にプログラムされた細胞死をもたらす事象のカスケードの引き金をひくことになる。
【0006】
カルジオリピンの外からの添加は、全般的なミトコンドリアの機能不全を改善しうるということが示唆されている。しかしながら、外からカルジオリピンのデリバリーを試みる際に多くの困難に遭遇した。カルジオリピンは不安定であり、酸化分解に対して極度に感受性である。例えば、ヒトカルジオリピンは、その85%超がリノレン酸系列に属する多不飽和脂肪酸を含む。飽和又は一不飽和脂肪酸とは異なり、リノレン酸などの多不飽和脂肪酸は、ROSにより容易に分解される。さらに、カルジオリピンの単純な局所適用は、カルジオリピンの酸化分解のため、そして輸送障壁のため、十分に機能的な細胞に基づく複雑なモデル、特にin vivoにおいて、ミトコンドリア内膜に浸透することが予期されていない。
【0007】
現在、ミトコンドリア機能不全に対処する幾つかの他の方法が存在するが、そのいずれも、ミトコンドリアの老化に関連する最も致命的な故障に対処することはないという点で限定されている。例えば、1の提案された解決法は、ATP産生のための基質に過ぎないものを提供することによりATP産生を増加させることを狙いとしたが、この解決法は、全般的なミトコンドリア機能不全に対処することに付いては完全に失敗している。ミトコンドリア機能不全に対する別の提案された解決法は、抗酸化剤を外から加えることに基づいている。このアプローチは、ミトコンドリアの現状及び機能を維持することにより、あるレベルの成功を達成した。しかしながら、このアプローチは、現存する損傷の回復については対処することなく、そうして理想的な解決法ではない。解決法のさらに別の例はNeolipid(商標)、具体的にNeoPharma(Waukegan、Illinois)から市販されている特異的脂質コンジュゲートゲムシタビン、である。NeoLipid(商標)はホスファチジルコリン・リポソーム中に埋め込まれたカチオン改変されたカルジオリピンである。しかしながら、この解決法でさえ、ミトコンドリア機能不全を治療することを狙いとした局所治療に理想的ではない。
【発明の概要】
【0008】
ミトコンドリア機能不全は、ROSにより、そしてミトコンドリア膜からカルジオリピンが消失することにより引き起こされる脂質の過酸化を含む酸化損傷に直接関連する。ミトコンドリア機能不全は、細胞老化及び細胞死に直接関連する。本発明は、ミトコンドリア機能を維持するばかりでなく、ミトコンドリア機能を改善及び回復し、及び/又はミトコンドリア膜を修復する固有組成物に基づく。具体的に、本発明の組成物は、カルジオリピンが埋め込まれたリポソーム及び抗酸化剤の固有の組み合わせである。
【0009】
1の実施態様では、本発明の組成物は、カルジオリピン及び抗酸化剤が埋め込まれたリポソームである。
【0010】
さらなる例では、本発明の組成物は、リポソーム、例えば、ホスファチジルコリンから主に構成されるリポソームであって、カルジオリピン、及び1以上の抗酸化剤が埋め込まれており、ここで当該カルジオリピンは、テトラオレオイル-カルジオリピン、テトラパルミトレオイル-カルジオリピン、又はテトラミリストイル-カルジオリピンのうちの1つであり、そして上記リポソームのリン脂質二重層中に埋め込まれており、かつ当該1以上の抗酸化剤は、上記リポソームのリン脂質二重層中、上記リポソームの水性中心中、又はその両方に埋め込まれる、前記リポソームである。1の例では、少なくとも1の抗酸化剤は、水溶性抗酸化剤であってもよい。別の例では、少なくとも1の抗酸化剤は、脂溶性抗酸化剤であってもよい。さらなる例では、本発明の組成物中に含まれた抗酸化剤は、水溶性かつ一重項酸素スカベンジャー、又は脂溶性かつ一重項酸素スカベンジャーのいずれかであってもよい。
【0011】
別の例では、本発明の組成物は、カルジオリピン、例えばテトラオレオイル-カルジオリピン、が埋め込まれ、そして少なくとも1の抗酸化剤、例えばメチルゲンチセート(ゲンチシン酸メチル)及びI-カルノシンのうちの1以上が埋め込まれたホスファチジルコリンから主に構成されるリポソームである。
【0012】
別の例では、本発明の組成物は、種子油に由来するカルジオリピン及び少なくとも1の抗酸化剤が埋め込まれたリポソーム、例えばホスファチジルコリンから主に構成されるリポソームである。更なる例では、少なくとも1の抗酸化剤は、メチルゲンチセート、I-カルノシン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、tert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)、又はその幾つかの組み合わせであってもよい。
【0013】
さらなる例では、本発明の組成物は、1又は複数の脂質、リン脂質、浸透促進剤、湿潤剤、香料、セラミド類、スフィンゴ脂質、タンパク質、コレステロール、植物ステロール、硫酸コレステロール、糖、ビタミン、ミネラル、又は細胞膜に天然に見られる他の任意の化合物を含んでもよい。
【0014】
1の例では、本発明の組成物は、クリーム、ローション、ゲル、トニック、水中油エマルジョン、油中水エマルジョン、ペースト、又はスプレーとして局所投与される。他の例では、本発明の組成物は、経口投与又は非経口投与、例えば注射により投与されてもよい。
【0015】
さらなる例では、本発明の組成物は安定であり、そして少なくとも1時間から1日、数日、1週間、数週間、1ヶ月、数ヶ月、1年、数年の範囲の任意の時間、室温、約68°F/21.1℃で貯蔵された場合に、実質的な酸化損傷に対して感受性ではない。
【0016】
別の例では、本発明の組成物は安定であり、そして約10℃〜約60℃、好ましくは、約20℃〜約55℃、好ましくは約30℃〜約50℃の範囲の温度で貯蔵された場合に、実質的な酸化損傷に対して感受性ではない。
【0017】
更なる例では、本発明は、カルジオリピン及び抗酸化剤が埋め込まれたリポソームを含む組成物を局所的に投与することを含む、ミトコンドリア機能を改善、回復、又は維持する方法である。1の例では、リポソームは、ホスファチジルコリンから構成されており、そしてカルジオリピン、及び1以上の抗酸化剤が埋め込まれており、ここで当該カルジオリピンは、例えば、テトラパルミトオレイル-カルジオリピン、テトラミリストイル-カルジオリピン、又はテトラオレオイル-カルジオリピンのうちの1つであり、そしてリポソームのリン脂質二重層中に埋め込まれており;当該1以上の抗酸化剤は、リポソームのリン脂質二重層中、当該リポソームの水性中心の中、又はその両方に埋め込まれる。1の例では、少なくとも1の抗酸化剤が、水溶性抗酸化剤であってもよい。別の例では、少なくとも1の抗酸化剤は、脂溶性抗酸化剤であってもよい。さらなる例では、少なくとも1の抗酸化剤は、一重項酸素スカベンジャーであってもよい。更なる例では、抗酸化剤は、本発明の組成物中に含まれる抗酸化剤は、水溶性かつ一重項酸素スカベンジャーであるか、又は脂溶性かつ一重項酸素スカベンジャーのいずれかであってもよい。さらなる例では、リポソーム中に埋め込まれた抗酸化剤は、メチルゲンチセート、I-カルノシン、又はその両方であってもよい。
【0018】
別の例では、本発明は、カルジオリピンと抗酸化剤が埋め込まれたリポソームを含む組成物を局所投与することを含む、ミトコンドリア膜を修復する方法である。1の例では、リポソームは、ホスファチジルコリンから主に構成されており、そしてカルジオリピン、及び1以上の抗酸化剤が埋め込まれており、ここで当該カルジオリピンは、好ましくは、テトラパルミトオレイル-カルジオリピン、テトラミリストイル-カルジオリピン、又はテトラオレオイル-カルジオリピンのうちの1であり、そして上記リポソームのリン脂質二重層中に埋め込まれ;そして当該1以上の抗酸化剤は、上記リポソームの脂質二重層、上記リポソームの水性中心、又はその両方に埋め込まれる。1の例では、少なくとも1の抗酸化剤は、水溶性抗酸化剤であってもよい。別の例では、少なくとも1の抗酸化剤は、脂溶性抗酸化剤であってもよい。さらなる例では、少なくとも1の抗酸化剤は、一重項酸素スカベンジャーであってもよい。さらなる例では、本発明の組成物中に含まれる抗酸化剤は、水溶性かつ一重項酸素スカベンジャー、又は脂溶性かつ一重項酸素スカベンジャーのうちのいずれかであってもよい。さらなる例では、リポソームに埋め込まれた抗酸化剤は、メチルゲンチセート、I-カルノシン、又はこれらの両方であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、(1)クリステ、(2)マトリクス、(3)外膜、及び(4)内膜を示すミトコンドリアの図である。
【0020】
【図2】図2は、カルジオリピンの化学構造の略図である。
【0021】
【図3】図3は、脂質の親水性頭部(2);脂質の疎水性尾部(3);水性中心(4);及び疎水性尾部の間の空間(5)を含む脂質二重層(1)を示すリポソームの図である。
【0022】
【図4】図4は、ホスファチジルコリンの化学構造の略図である。
【0023】
【図5】図5は、(a)I-カルノシン;(b)DCメチルゲンチセート1%;(c)空のリポソーム(カルジオリピンのみ);(d)充填済みリポソーム(つまり、I-カルノシン、メチルゲンチセート、及びカルジオリピンで充填されるリポソーム);及び(e)充填済みリポソームつまりI-カルノシン、メチルゲンチセート、及びカルジオリピンで充填されたリポソーム)を用いて達成されるATP産生を示すグラフである。
【0024】
【図6】図6は、ESIを備えたZeiss-902電子顕微鏡を用いてとられた2つのTEM図(写真)の比較である。図6(a)は、カルジオリピン、メチルゲンチセート、及びI-カルノシンが埋め込まれたリポソームを含む標準クリーム製剤のTEM図(写真)である。図6(a)のTEM図(写真)は、クリーム製剤が作成された後、カルジオリピン、メチルゲンチセート、及びI-カルノシンが埋め込まれたリポソームを含むクリーム製剤を貯蔵する前に取られたものである。図6(b)は、図6(a)と同じカルジオリピン、メチルゲンチセート、及びI-カルノシンが埋め込まれたリポソームを含む標準クリーム製剤であるが、図6(b)は、クリーム製剤を50℃で1ヶ月間貯蔵した後に撮られたものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、本明細書に記載された特定の組成物、方法論、又はプロトコルに限定されないということを理解されたい。さらに、他に定義されない限り、本明細書に用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術分野の当業者に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書は、本明細書において使用される専門用語は、特定の例のみを記載することを目的としており、そして本発明の範囲を制限することを意図しない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ制限されるものである。
【0026】
本発明は、カルジオリピン及び少なくとも1の抗酸化剤が埋め込まれたリポソームの固有の組み合わせが、投与されたとき、例えば局所適用されたときに、ミトコンドリア機能を改善し、維持し、又は回復し、及び/又はミトコンドリア膜を修復する驚くべき発見に基づいている。1の例では、本発明のリポソームは、例えば、ホスファチジルコリンから主に構成され、カルジオリピンは、例えば、テトラオレオイル-カルジオリピン、テトラパルミトオレイル-カルジオリピン、又はテトラミリストイル-カルジオリピンのうちの1であり;そして抗酸化剤は、例えばメチルゲンチセートとI-カルノシンのうちの1以上である。
【0027】
さらに、本発明の固有の組成物は、およそ室温又はそれ以上で貯蔵された場合に安定であり、そして酸化損傷、分解、又は不安定性に対して抵抗性であるという驚くべき利点を有する。例えば、以下の実施例3に論じられるように、ホスファチジルコリンから主に構成されるリポソームを含み、そしてテトラオレオイル-カルジオリピン、メチルゲンチセート、及びI-カルノシンが埋め込まれたリポソームを含む本発明の組成物は、少なくとも1ヶ月間、50℃の貯蔵条件化で有意に安定であることが示された。
【0028】
本発明では、上記少なくとも1の抗酸化剤は、本発明のリポソームを含む組成物の局所投与により上記カルジオリピンが細胞にデリバリーされるまでカルジオリピンを安定化すると考えられている。1の例では、カルジオリピンを安定化する上記少なくとも1の抗酸化剤は、メチルゲンチセート、カルジオリピンを酸化から保護する強力な抗酸化剤である。さらに、リポソームデリバリー技術の性質により、リポソームは、水内部を含む。例えば図3を参照のこと。リポソーム内でカルジオリピンの酸化を避けるために、本発明は、第二抗酸化剤、例えばI-カルノシンを含んでもよい。I-カルノシンは、ペプチドに基づく強力な水溶性抗酸化剤である。
【0029】
改善された細胞機能は、本発明の組成物により達成される。なぜなら本発明は、抗酸化剤、例えば酸化損傷から細胞を保護するためのI-カルノシン、及び例えばミトコンドリア機能を改善、維持、又は修復するための、及び/又はミトコンドリア膜を修復するためのテトラオレオイル-カルジオリピンの両方を含むからである。ミトコンドリアの改善され、維持され、又は修復された機能活性についての補強証拠は、例えばin vitro試験データーを介して提供される。例えば、実施例2に記載される方法によって、ホスファチジルコリンから主に構成され、そしてテトラオレオイルーカルジオリピン、メチルゲンチセート、及びI-カルノシンが埋め込まれたリポソームを含む本発明の組成物の投与は、これらの成分を単独で投与したものよりも有意に高いATP産生レベルをもたらしたということが示唆される。
【0030】
ミトコンドリア
ミトコンドリアは、細胞の代謝活性に依存してさまざまな量で全ての細胞内に存在し、本発明の組成物の意図された標的である。実際、本発明の組成物は、ミトコンドリアのインテグラル構造、つまりミトコンドリア膜、にカルジオリピンをデリバリーするように設計されている。
【0031】
ミトコンドリアは、細胞の発電所と考えることができるロッド型のオルガネラであり、酸素及び栄養素をアデノシン三リン酸(ATP)に変換する。ATPは、細胞の代謝活性を駆動する細胞の化学エネルギーの「通貨」である。任意の所定細胞におけるミトコンドリアの数は、ほぼ完全に、細胞の代謝活性に依存する。ミトコンドリアはかなり柔軟であり、そして生細胞の経時的研究により、ミトコンドリアは形状を迅速に変化させて、そしてほぼ一定に細胞内を動き回るということが示された。ミトコンドリアの動きは、細胞内に存在する微小管にいかようにかして結合し、そしてミトコンドリアは、おそらくモータータンパク質とともにネットワークに沿って移動している。結果として、ミトコンドリアは、長期移動鎖(lengthy traveling chains)として組織化されてもよいし、比較的安定な群にまとめられてもよいし、又は細胞の特定の必要性、及び微小管ネットワークの特徴に基づいた多くの他の形態に見えてもよい。
【0032】
ミトコンドリアは、そのオルガネラの機能に決定的である複雑な構造を有する。2つの特殊化された膜は、細胞内の各ミトコンドリアを取り囲み、オルガネラを狭い膜内スペースとずっと大きい内側マトリクスにわけ、その各々は高度に特殊化されたタンパク質を含む。ミトコンドリアの外膜は、タンパク質ポーリンにより形成された多くのチャネルを含み、そして大きすぎる分子をろ別するシーブのように作用する。同様に、クリステと呼ばれる多数の陥没が形成されるように高度に入り組んでいる内膜は、内膜を通して特定の分子のみが移動することを可能にし、そして外膜よりもずっと選択的である。マトリクスに必須である物質のみがミトコンドリアに入ることを可能にすることを確かにするために、内膜は、正確な分子のみを輸送する一群の輸送タンパク質を利用する。さらに、ミトコンドリアのさまざまな区画は、協調して作用して複雑な他段階プロセスでATPを生成する。
【0033】
具体的に、3つの複合体に電子を通過させ、そしてプロトン濃縮を生成し、プロトン駆動力を可能にすることによる複雑な一連の反応を介してATPは産生される。4の複合体は、NADHデヒドロゲナーゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、bc1複合体、及びシトクロームcオキシダーゼである。電子の輸送及び随伴する酸化的リン酸化が、約75%のタンパク質と20%のカルジオリピンを含むミトコンドリア内膜で行われる。機能に不可欠なものは、内膜脂質、カルジオリピン、及び複合体と輸送キャリアを含むタンパク質との間で形成される4次構造である。その例は、シトクロムcオキシダーゼ並びにMileykovaskayaらにより報告されたように構造及び機能に決定的である密着して結合されたカルジオリピンを含むATP/ADPキャリアである。Mileykovskayaら、「Cardiolipin in Energy Transducing Membranes」Biochemistry (Mosc). 2005, 70 (2): 154-8を参照のこと。当該文献の内容全ては、本明細書に援用される。さらに、Gorbenkoらは、シトクロームcとカルジオリピンとの間の相互作用を詳細に記載する。Gorbenkoら、「Cytochrome c interaction with Cardiolipin/Phosphatidylcholine Model Membranes: Effect of Cardiolipin on Protonation」 Biophys J. 2006, 90 (11):4093-103を参照のこと。当該文献の内容全てを本明細書に援用する。また、Petrosilloら、「Role of Reactive Oxygen Species and Cardiolipin in the Release of Cytochrome c from Mitochondria」FASEB J, 2003, 17:2202-2208を参照のこと。当該文献の内容全てを本明細書に援用する。さらに、極めて重要な関係が、カルジオリピンと電子伝達系の複合体IIIとの間に存在することが、Paradiesらにより示された。Paraiesら、「Reactive oxygen species generated by the mitochondrial respiratory chain affect the complex III activity via cardiolipin peroxidation in beef-heart submitochondrial particles」 Mitochondrion 2001, 1:151-159を参照のこと。当該文献の内容全てを本明細書に援用する。Paraiesら、「Reactive oxygen species affect mitochondrial electron transport complex I activity through oxidative cardiolipin damage」Gene 2002, 286-135-141,を参照のこと。当該文献の内容全てを本明細書に援用する。
【0034】
ミトコンドリアは、アポトーシス誘導に決定的な役割をはたす。ミトコンドリアからのシトクロムcの放出は、最終的にプログラムされた細胞死を導くアポトーシスカスケードの誘導において中心的な事象であるようである。それにも関わらず、カスパーゼの活性化を引き起こすミトコンドリアからのシトクロムcの放出の基礎をなすメカニズムは、主にROSにより媒介されているようである。さらに、ミトコンドリアからのシトクロムcの放出に先立ちシトクロムcはミトコンドリア内膜から乖離する。シトクロムcは、内膜リン脂質の外表面に結合し、主にカルジオリピン分子に結合している。シトクロームcのカルジオリピンへの結合は、よく研究されており、そして相互作用についての幾つかの分子面が解明されている。カルジオリピンは、不飽和脂肪酸に富み、当該タンパク質を膜に固定するためにシトクロムcとの相互作用に必須であるようである。ROSによるカルジオリピンに対する酸化損傷が、ミトコンドリア内膜のレベルでシトクロムcとリン脂質との相互作用を乱し、これは次に膜からのシトクロムcの乖離を誘導し、ミトコンドリアの外の空間に放出することを可能にする。従って、脂質過酸化のため、シトクロムcとカルジオリピンとの間の分子間相互作用が失われることが報告された。さらに、酸化損傷又は生合成経路の変化のため生じるカルジオリピン含量の変化は、アポトーシスプロセスの間にミトコンドリアからのシトクロムcの放出を引き起こす。
【0035】
カルジオリピン
カルジオリピンは、ミトコンドリアにデリバリーするために、本発明のリポソームに埋め込まれている。カルジオリピンは、細菌及びミトコンドリアの膜にのみ見つかっている。ミトコンドリア膜におけるカルジオリピンの固有かつ限定された位置は、本発明のリポソーム及び/又はリポソーム中に埋め込まれたカルジオリピン、ミトコンドリア膜を標的とするということを示唆する。
【0036】
さらに、上に記載されるように、カルジオリピンは、ミトコンドリア内膜の目立った成分であり、そして複数の個々のミトコンドリア機能の制御に寄与する。実際、カルジオリピンは、ミトコンドリアの固有の脂質成分であるので、このオルガネラにおける生物学的機能は明らかに重要である。例えば、カルジオリピンは、少なくとも部分的に膜流動性を維持するのに寄与する。実際、ミトコンドリアがカルジオリピンを失うと、ミトコンドリアはいっそう硬くなり、機能を失い、そして最終的に細胞死を引き起こす。こうして、本発明の組成物の付加された利点は、カルジオリピンをミトコンドリア及びミトコンドリア膜にデリバリーすることが、ミトコンドリア及び/又はミトコンドリア膜流動性を維持、修復、又は回復する点で助けとなる。
【0037】
上に論じられるように、カルジオリピンは、主にミトコンドリア内膜に位置し、ここでカルジオリピンは、多数のミトコンドリアタンパク質と相互作用する。この相互作用は、特定の酵素、特に酸化的リン酸化に関与する酵素の機能的活性化に影響する。酸化的リン酸化に関与する全てのミトコンドリアタンパク質複合体は、その4次構造に結合されるカルジオリピン分子を含み、ここで当該分子は、複合体とその周囲との間、又は複合体内のサブユニット間の境界面の必須成分である。
【0038】
ミトコンドリアカルジオリピン分子は、不飽和脂肪酸の高含量、及びROS産生部位付近にあるミトコンドリア内膜の位置のため、酸素遊離ラジカル攻撃の標的である。ミトコンドリア膜からのカルジオリピン除去は、複合体の破壊が生じ、そして機能喪失が生じる。例えば、カルジオリピンは、シトクロムbc1複合体、つまり、ユビキノールとシトクロムcとの間の電子伝達系を脂質二重層を通したプロトンの転移と共役させる呼吸反応連鎖の膜タンパク質複合体、において決定的な役割を果たす。具体的に、1のカルジオリピン分子は、ユビキノン還元部位の近くに結合され、そして触媒部位の安定性、並びにプロトン取り込みに関与することが信じられている。
【0039】
カルジオリピンは、普通でない構造のリン脂質であり、そして不飽和脂肪酸に富む。一般的に、リノレン酸は、カルジオリピンに存在する不飽和脂肪酸の少なくとも85%を表す。こうして、本発明の1例では、約85%リノレン酸から構成されるカルジオリピンは、リポソーム中に、例えば当該リポソームのリン脂質二重相中に埋め込まれる。本発明の別の例では、テトラオレオイル-カルジオリピンは、リポソーム中に埋め込まれる。テトラオレオイル-カルジオリピンは、4つのオレイン酸構成要素(C18:1、テトラオレオイル-カルジオリピン)から構成され、これは酸化損傷及び破壊に対してリノレン酸カルジオリピンよりも感受性が低い。別の例では、本発明のカルジオリピンは、テトラパルミトレオイル-カルジオリピン、テトラミリストイル-カルジオリピン、又は種子油由来カルジオリピンであってもよい。本発明の組成物及び方法において用いることができるカルジオリピンの他の例が、Avanti(登録商標)Polar Lipids,Inc.(Alabaster,Al)から利用できる。Avanti(登録商標)Polar Lipids,Inc.から市販されているカルジオリピンの例として、以下の:1,1’,2,2’-テトラミリストイル カルジオリピン(アンモニウム塩)(製品番号No. 770332);1,1’,2,2’−テトラミリストイル カルジオリピン(ナトリウム塩)(製品番号No.750332又は710335);1,1’−オレオイル2,2’−ビオチニル(アミノドデカノイル))カルジオリピン(アンモニウム塩)(製品番号No.860564);カルジオリピン(大腸菌、二ナトリウム塩)(製品番号No.841199);カルジオリピン(ウシ心臓−二ナトリウム塩)(製品番号No.770012);カルジオリピン(ウシ心臓−二ナトリウム塩)(製品番号No.840012);カルジオリピン,水素付加(ウシ心臓−二ナトリウム塩)(製品番号No.830057);ジリソカルジオリピン(ウシ心臓二ナトリウム塩)(製品番号No.850082);ジリソカルジオリピン(心臓−ナトリウム塩);水素付加心臓カルジオリピン;リソカルジオリピンリソカルジオリピン;モノリソカルジオリピン(ウシ心臓−二ナトリウム塩)(製品番号No.850081);及びモノリソカルジオリピン(心臓−ナトリウム塩)が挙げられる。
【0040】
さらなる例では、リポソームに埋め込まれたカルジオリピンは、ジホスファチジルグリセロール、又はより正確に1,3−ビス(sn−3’-ホスファチジル)−sn−グリセロールであってもよい。一般に、カルジオリピンの全ての形態は、4つのアシル基を有し、そして潜在的に2の負の荷電を有する二量体構造を有する。例えば、図2を参照のこと。4つアシル残基は同一である場合でさえ、カルジオリピンは、2つの化学的に区別されるホスファチジル部分を有する。なぜなら、2つのキラル中心が存在するからであり、そのうちの1つは、外側のグリセロール基に存在する。天然のジホスファチジルグリセロールは、R/R構成を有するが、これらは、ジアステレオマーを生じる場合がある。結果として、2つのリン酸基は、異なる化学環境を有する。これらは、中心のグリセロールに対して1’-リン酸及び3’リン酸と名づけられる。カルジオリピンの各形態は、1の酸性プロトンを含むが、これらはかなり異なるレベルの酸性度を有する。例えば、pK1=2.8かつpK2>7.5である。第二リン酸の弱酸性は、中心2’-水酸基との安定した分子内水素結合の結果であると考えられる。実際、通常の生理条件下では、カルジオリピン分子は、1の負の荷電しか有さなくてもよい。さらに、カルジオリピンのモデルにより、プロトンがとらわれ、酸-アニオンを形成し、特にコンパクトな構造を与える場合、そのリン酸は、密接な二環構造を形成することができるということが示される。
【0041】
動物組織では、カルジオリピンは、ミトコンドリア外膜から内膜へのコレステロール転移のための重要なコファクターであると考えられ、そしてステロイド産生組織では、カルジオリピンは、ミトコンドリアのコレステロール側鎖の切断を活性化し、そしてステロイド産生の強力な促進因子である。カルジオリピンは、ミトコンドリア内へのタンパク質の輸送において具体的役割を有する。カルジオリピンは、クロマチン中のDNAに高い特異性で結合し、そして実際、クロマチン中に存在する全てのカルジオリピンが、DNAに結合し、ここでその両方が、共通する「リン酸間の」構造モチーフを有する。こうして、カルジオリピンは、遺伝子発現の制御において機能的な役割を有するようである。例えば、バース症候群、X染色体に関連したヒト疾患状態(X染色体心骨格筋症)、は、カルジノリピンの脂肪酸組成の顕著な異常、つまりテトラ-リノレオイル分子種の減少及びモノリソカルジオリピンの蓄積、に関連する。
【0042】
抗酸化剤
本発明によると、少なくとも1の抗酸化剤が、リポソーム中にカルジオリピンとともに埋め込まれる。抗酸化剤は、当該リポソームの例えばリン脂質二重層中、当該リポソームの水性中心、又はその両方に埋め込まれてもよい。上に説明されるように、本発明の組成物に含まれる抗酸化剤は、リポソームの水性中心、又はリポソーム外のROSのいずれかにより生ずる酸化損傷又は分解からカルジオリピンを保護することにより機能してもよい。実際、細胞における抗酸化剤の1の主要な作用は、ROSの作用のため生じる損傷を予防することである。活性酸素種は、過酸化水素(H22)、スーパーオキシドアニオン(O2-)、そしてヒドロキシルラジカル(OH-)などの遊離ラジカルを含む。これらの分子は、不安定であり、高反応性であり、そして脂質過酸化などの化学連鎖反応により細胞を損傷しうる。
【0043】
本発明の組成物中に含まれうる多くの抗酸化剤が存在する。例えば、本発明のリポソーム中に埋め込まれる抗酸化剤は、水溶性であってもよく、そうしてリポソームの水性中心に埋め込まれる。別の例では、リポソーム中に埋め込まれる抗酸化剤は、脂溶性であってもよく、そうしてリポソームの脂質二重層中に埋め込まれる。さらなる例では、本発明のリポソーム中に埋め込まれる抗酸化剤は、一重項酸素スカベンジャーであってもよい。別の例では、抗酸化剤は、水溶性かつ一重項スカベンジャーであってもよいし、又は脂溶性かつ一重項酸素スカベンジャーであってもよい。更なる例では、1超の抗酸化剤は、本発明のリポソーム中に埋め込まれてもよい。例えば、以下の抗酸化剤:メチルゲンチセート、I-カルノシン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、tert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)、又はその幾つかの組み合わせのうちの1以上を本発明のリポソーム中に埋め込んでもよい。
【0044】
1の例では、メチルゲンチセートが、本発明の抗酸化剤として用いられる。なぜなら、メチルゲンチセートは脂溶性であり、そしてカルジオリピンを安定化する能力を有するからである。以下に記載される実施例1により、メチルゲンチセートが、酸化ストレスからの有意な保護を示さず、メチルゲンチセートが高い酸素ラジカル吸着能(ORAC)(25605μmolTeq/g)を有することが示され、メチルゲンチセートが強力な抗酸化剤であることを示している。そのORAC値に基づいて、例えば高いORAC値を有する抗酸化剤を選択することにより、本発明において使用するための抗酸化剤を選択することは可能である。こうして1の例では、メチルゲンチセートは、その高いORAC値のため、本発明において使用するために選択される。かかる例では、本発明は、例えばリン脂質二重層中に埋め込まれたカルジオリピン及びメチルゲンチセートを有するリポソームから構成される。
【0045】
別の例では、I-カルノシンは、本発明において抗酸化剤として用いられる。なぜなら、I-カルノシンは水溶性であり、かつリポソームの水性中心のため生じる酸化損傷からカルジオリピンを保護する能力を有するためである。こうして、1の例では、リポソームの水性中心は、I-カルノシンを含む。さらなる例では、リポソームのリン脂質二重層には、カルジオリピン及びメチルゲンチセートが埋め込まれ、そしてリポソームの水性中心は、I-カルノシンを含む。
【0046】
別の例では、本発明のリポソーム中に埋め込まれた抗酸化剤は、ミトコンドリア中に発見される抗酸化剤、例えばグルタチオンであってもよい。グルタチオンが、人工的に細胞から欠乏された場合、酸化損傷が増加するということが示されていた。ミトコンドリア中のグルタチオンのレベルは、細胞の残りの部分におけるグルタチオンのレベルよりもずっと重要であるかもしれない。ミトコンドリアのグルタチオンレベルは、細胞の残りの部分におけるグルタチオンレベルの減少よりも顕著に年齢とともに減少する。この低下は、酸化損傷に対してミトコンドリアをより感受性高いものとしているように思える。
【0047】
アスコルビン酸(つまり、ビタミンC)とビタミンE(つまり、トコフェロール)は、本発明のリポソーム中にカルジオリピンとともに埋め込まれうる抗酸化剤の他の例である。本発明のリポソームに埋め込まれうる他の多くの抗酸化剤が存在することを理解されたい。
【0048】
リポソーム
本発明によると、カルジオリピンは、おそらく抗酸化剤とともに、リポソームを用いてミトコンドリアにデリバリーされる。リポソームは、化粧品及び皮膚科製品において局所的用するための効率のよい薬剤デリバリーシステムであることが知られている。特に、リポソームはリン脂質二重層から構成される膜を伴う球状のベシクルである。リポソームは、さまざまな卵ホスファチジルエタノールアミンなどの混合型脂質鎖を有する天然由来リン脂質、又はDOPE(ジオレオリルホスファチジルエタノールアミン)などの純粋な成分から構成されうる。リポソームは典型的に、小さいサイズであり、約25〜1000nmの範囲である。リポソームは、リン脂質二重層から構成される密封構造であり、そして水溶性、親水性分子をその水性中心に封入することができ、そして油溶性、疎水性分子を二重層の疎水性領域に封入することができる。図3は、リポソームの一般的構造を例示する。一般的に、リポソームは、中性、陰性、又は陽性であってもよい。例えば、陽性リポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、カルジオリピン及びホスファチジルセリンを含むよう液から形成されてもよい。リポソームは、多層ベシクル及び単層ベシクルの混合物であってもよい。
【0049】
リポソームの脂質二重層は、他の二重層、例えば細胞及び/又はミトコンドリア膜などと融合することができ、こうしてリポソームの内容物をデリバリーすることができる。1の例では、本発明は、ミトコンドリア膜と融合し、そして埋め込まれたカルジオリピンをミトコンドリアにデリバリーすることにより、ミトコンドリア及び/又はミトコンドリア膜の改善、維持、回復、又は修復を達成する。
【0050】
上に説明されるように、リポソームは、リン脂質から構成される。リン脂質分子は、天然で親水性である「頭部」と2つのアシル鎖からなる疎水性「尾部」を有する。リン脂質の水溶性は、疎水性尾部の長さと、頭部の水に対する親和性の両方に依存する。例えば、飽和C-Cの直鎖(未分岐状)の形態の14以上の炭素を含む各アシル鎖を有する純粋な脂質は、水不溶性である。一般的に、脂質のアシル鎖長が増加するにつれ、決定的なミセル濃度は急激に減少する。
【0051】
本発明のリポソームは、主に細胞膜中に存在する脂質、例えばリン脂質、セラミド類、スフィンゴ脂質、コレステロール、及びトリグリセリド、又は他の脂質、例えば植物由来の植物ステロールから主に構成されてもよい。1の例では、本発明で使用されるリポソームは、主にホスファチジルコリン(又はホスファチジル コリン)から構成されてもよい。ホスファチジルコリンは、細胞膜の主要な構成要素であるリン脂質である。ホスファチジルコリンは、1,2-ジヘキサンデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン、PtdCho及びレシチンとしても知られている。不飽和ホスファチジルコリンは、コリン、オメガ-6不飽和脂肪酸(例えば、リノレン酸)、オメガ-3脂肪酸(例えば、γ-リノレン酸)を含み、そして低レベルの残存グリセリドを含む(か又は残存グリセリドを含まない)。図4は、ホスファチジルコリンの化学構造を示す。ホスファチジルコリンは、通常の細胞膜組成物及び修復に重要である。
【0052】
具体的に、細胞膜の完全性の維持におけるホスファチジルコリンの役割は、DNAからRNAそしてタンパク質へと細部内で生じる情報フロー、細胞エネルギーの形成、及び細胞内連絡、又はシグナル伝達を含む基本的な生物学的プロセスの全てにおいて必須である。ホスファチジルコリン、特にポリ不飽和脂肪酸に富むホスファチジルコリンは、細胞膜に顕著な流動性効果を有する。低い細胞膜流動性及び細胞膜完全性の破壊、並びに細胞膜修復メカニズムの障害は、多くの障害、例えば肝臓疾患、神経系疾患、さまざまな癌及び細胞死と関連する。
【0053】
その結果、特にリポソームがホスファチジルコリンから主に構成されている場合、本発明の組成物の1例の追加の利点は、リポソームがさらなるホスファチジルコリンを細胞膜及びミトコンドリア膜に提供しうるということである。
【0054】
リポソーム研究の進歩により、リポソームは体の免疫系、具体的に細網内皮系(RES)の細胞、による検出を避けることが可能になった。このようなリポソームは、「ステルスリポソーム」として知られており、そして皮膜としてPEG(ポリエチレングリコール)で構築される。体内で不活性であるPEG皮膜は、薬剤デリバリーメカニズムに長期間の循環寿命を可能にする。こうして、本発明の組成物は、主にホスファチジルコリンから構成され、そしてカルジオリピン、例えばテトラオレオイルカルジオリピン及び少なくとも1の抗酸化剤、例えばメチルゲンチセート及び/又はI-カルノシンが埋め込まれたリポソームであってもよく、そしてさらにPEG「ステルス」皮膜を含んでもよい。PEG皮膜に加え、本発明のステルスリポソームは、デリバリーの標的部位への結合を可能にするリガンド接着を有してもよい。
【0055】
スキンケア製品又は化粧品では、リポソームは、セラム、ローション、ゲル、又はクリームなどの適切なマトリクス中に剤形することができる。好ましくは、本発明のリポソームは界面活性剤の存在下で調製されることはない。実際、本発明のリポソームの製造にあたり、リポソームの主要な不安定化因子として界面活性剤、温度、pH、及び脂質過酸化が挙げられるということが当業者により認識されよう。こうして、これらからの有害効果を最小化するために、相当の注意が払われるべきである。
【0056】
本発明のリポソームが、さまざまな技術を用いて製造され、及び/又はさまざまなソースから得られうるということを認められたい。例えば、本発明のリポソームは、微粉流体化技術、水中での脂質のソニケーション、又は乳化剤、例えばレシチンを用いてエマルジョン中でミセルを形成して製造されてもよい。別の例では、本発明のリポソームを、Centerchem、Inc.(Netwalk、CT)又はLipotech(Spain)から入手してもよい。
【0057】
微小流体技術を用いて本発明のリポソームの製造する1の利点は、リポソームを連続して大量に製造することを可能にすることである。微小流体技術は、脂質を溶解する有機溶媒をまったく必要とせず、そして水相中で高濃度の脂質を、当該技術を用いて使用できる。結果として、本発明などの化粧品適用において使用するためにはかなり適切なものである。
【0058】
より具体的に、微小流体技術は、かなり高圧(10000〜20000psi)で1〜5μmの孔サイズのフィルターを通して分散液を送り出すマイクロフルイダイザー中にスラリー様濃縮脂質/水分散液を導入することに関する。かなり高速で移動する液体は、2つの規定マイクロチャネルを通るように液体を押し進めることにより、2つの液流に分割される。次に2つの液流をかなり速い速度で直角に衝突させる。高圧かつ高速により与えられるかなりのエネルギーにより、脂質のリポソームへの自己集合が引き起こされる。最終的に集められた液体は、均一に見える分散が得られるまで再通過させられる。
【0059】
上に記載されるように、リポソームは、水中でリン脂質をソニケーションすることにより製造することができる。低いシアレートは、たまねぎのように多くの層を有する多層リポソームを生成する。連続した高シアソニケーションは、より小さい単層リポソームを形成する傾向がある。この技術では、リポソーム含量は、水相の含量と同じであってもよい。
【0060】
以下の表1は、サイズ、一般的な製法、対応するおよその封入体積、封入効率、及びPOPC(1−パルミトイル,2−オレオイルホスファチジルコリン)分子の計算された数を含むリポソームの幾つかの例を示す。実際の捕捉された体積又は封入効率は、リポソームの製造方法、液体タイプ、及びその活性に依存して変化する。ペイロードのタイプ及び量は、リポソームの安定性に影響を及ぼす。油溶性分子の封入効率は、ほぼ100%である。なぜならこれらの分子、例えばカルジオリピンは、二重層の疎水性領域中に存在するからである。表1の最後の列は、特定のサイズのPOPCリポソームあたりのPOPC分子の計算された数を示す。表1はまた、リポソームの生成のために使用される脂質タイプを選択するための重要なパラメーターである主要熱相移転温度(Tm)を示す。この温度は、当該リポソームの適切な貯蔵条件を決定するために有用である。
【0061】
【表1】

【0062】
疎水性及び親水性分子の両方をリポソーム中に埋め込むことができる。水溶性分子がリポソーム製造の仮定で埋め込まれるならば、これは「受動充填」として知られている。乾燥脂質を水和するために使用される緩衝液中に親水性分子(単数又は複数)をあらかじめ溶解することにより達成することができる。埋め込まれなかった分子は、空の緩衝液に対して透析することにより、又は分散液をSephadex(登録商標)ゲルカラムを通過させることにより取り除くことができる。多くの化粧品及び個人のケア製品では、埋め込まれなかった分子の除去は、重要ではないと考えられている。なぜなら、このような処理には高い費用が伴い、そして化粧品分子は一般的に用いられるレベルでは非毒性であるからである。
【0063】
リポソームの中心に取り込まれる親水性分子とは対照的に、疎水性分子は一般的に、脂質二重層の疎水性領域に取り込まれる。このプロセスは、脂質とともに疎水性分子を適切な有機溶媒に溶解させる分配方法に関する。その後、溶媒を吸引することにより取り除き、次に脂質を水和させた。当該分子がエタノールに溶解する場合、当該分子は、エタノール中に脂質とともに溶解され;エタノール注入法によりリポソームが生成される。逆充填とも呼ばれる能動充填では、pH又はイオン勾配がリポソームの内側と外側の間に最初に作られる。「空の」リポソームが最初に低pH(クエン酸緩衝液、pH=〜4)で調製される。その後、活性物質(例えば弱酸)を含む高pH(pH=〜7.4)緩衝液を、空のリポソームに加える。pH勾配の結果として、弱酸などの活性物質は、内部中心に分画される。
【0064】
リポソームに分子を埋め込む効率に影響する因子は、リポソーム調製に用いられる脂質組成、リポソームのタイプ(SUV/LUV/MLV)、リポソーム製造方法、及びリポソームの荷電が挙げられる。緩衝液強度(高い強度の緩衝液は、得られた封入量を低下させる)及び埋め込まれる分子の性質は、封入効率に寄与する重要な因子である。水溶性ペイロード(脂質頭部との相互作用のため)、及び疎水性ペイロード(二重層膜の脂肪アシル鎖との相互作用のため)の両方は、脂質二重層の分子パッケージに影響する。最終的に、これらの因子は、リポソームの安定性に影響する。およそ6.5のpHが、最適安定性を有するリポソームの製造に好ましい。
【0065】
本発明の組成物
こうして、本発明の組成物は、カルジオリピン及び少なくとも1の抗酸化剤が埋め込まれ、そしてミトコンドリア機能を維持、回復、又は改善するため、及び/又はミトコンドリア膜を修復するために効果的であるリポソームを含む。本発明の組成物が、水、ひまし油、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トウモロコシ油、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、イソプロパノール、ダイズ油、グリセリン、可溶性コラーゲン、又はカオリンなどの添加物を含んでもよい。
【0066】
より具体的に、本発明の組成物は、1以上の湿潤剤、例えば非限定的に、フタル酸ジブチル;可溶性コラーゲン;ソルビトール;又はナトリウム2−ピロリドン−5−カルボキシレートを含んでもよい。本発明を実施する際に使用されうる湿潤剤の他の例は、CTFA化粧品性分ハンドブックにおいて見出すことができる。当該文献の関連する部分を本明細書に援用する。
【0067】
さらに、本発明の組成は、さらに1以上の皮膚軟化薬、例えば非限定的に:ブタン−1,3−ジオール;パルミチン酸セチル;ジメチルポリシロキサン;モノリシノール三グリセリル;モノステアリン酸グリセリル;パルミチン酸イソブチル;ステアリン酸イソセチル;パルミチン酸イソプロピル;ステアリン酸イソプロピル;ステアリン酸ブチル;ラウリン酸イソプロピル;ラウリン酸ヘキシル;オレイン酸デシル;ミリスチン酸イソプロピル;乳酸ラウリル;オクタデカン−2−オール;カプリル酸トリグリセリド;カプリン酸トリグリセリド;ポリエチレングリコール;プロパン−1,2−ジオール;トリエチレングリコール;ゴマ油;やし油;紅花油;ラウリン酸イソアミル;ノノキシノール-9;パンテノール;水素付加植物油;酢酸トコフェリル;リノール酸トコフェリル;アラントイン;プロピレングリコール;ラッカセイ油;ヒマシ油;イソステアリン酸;パルミチン酸;リノール酸イソプロピル;乳酸ラウリル;乳酸ミリスチル;オレイン酸デシル;又はミリスチン酸ミリスチルを含む。本発明を実施するのに使用されうる皮膚軟化薬の他の例は、CTFA化粧品性分ハンドブックに見出すことができ、当該文献の関連する部分を本明細書に援用する。
【0068】
さらなる例では、本発明の組成物は、さらに、非限定的に:ピロリドン、例えば2−ピロリドン;アルコール類、例えばエタノール;アルカノール類、例えばデカノール;グリコール類、例えばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール;又はテルペン類を含んでもよい。
【0069】
本発明の組成物は、当該組成物により提供される所望のミトコンドリア維持、改善、回復、及び修復機能に悪影響を及ぼさない限り、さまざまな既知かつ慣用の化粧品アジュバントを含んでもよい。例えば、本発明の組成物は、1以上の添加剤又は当該技術分野に周知の随意的な成分を含むことができ、これらは非限定的にフィラー(例えば、固体、半固体、液体など);キャリア;希釈液;肥厚剤;ゲル化剤;ビタミン、レチノイド、及びレチノール(例えば、ビタミンB3、ビタミンAなど);色素;芳香;日焼け止め(sunscreen and sunblock);剥離剤;皮膚コンディショナー;湿潤剤;セラミド類、シュードセラミド類、リン脂質、スフィンゴ脂質、コレステロール、グルコサミン、医薬として許容される浸透剤(例えば、n−デシメチルスルホキシド、レシチンオリガノゲル、チロシン、リジンなど);保存料;抗菌薬;アミノ酸、例えばプロリン、ピロリドンカルボン酸、その誘導体及び塩、サッカライドイソメラート、パンテノール、トリエタノールアミン又は水酸化ナトリウムなどの塩基をいれた緩衝液;ワックス、例えば蜜蝋、オゾケライトワックス、パラフィンワックス;植物抽出物、例えばアロエベラ、とうもろこし粉、マンサク、ニワトコ、又はキュウリ及びその組み合わせを含む。他の適切な添加剤及び/又は接着剤は、米国特許6,184,247号に記載され、その内容全ては本明細書に援用される。
【0070】
本発明の組成は、さらなる不活性成分、例えば非限定的に共溶媒、及び賦形剤を含みうる。有用な共溶媒は、非限定的にアルコール類及びポリオール類、ポリエチレングリコールエーテル類、アミド類、エステル類、他の適した共溶媒、及びその混合物が挙げられる。本発明の組成物は、賦形剤又は添加剤、例えば甘味料、香味剤、着色料、抗酸化薬、保存料、キレート薬、年弾性調節剤、等張剤、匂い物質、乳白剤、懸濁剤、結合剤、及びそれらの混合物を含みうる。
【0071】
本発明の組成物中に含まれうる他の添加剤は、当業者に明らかであり、そして本発明の範囲内に含まれる。
【0072】
投与様式
本発明の組成物は、経口投与されてもよく、注射又は局所投与されてもよい。一般的に、本発明の組成物は、少なくともデイリーベースで投与される。本発明の組成物の投与は、任意の適切な期間続けられてもよい。美容向上の程度、及びミトコンドリアの維持、改善、回復又は修復の程度は、使用される組成物の総量及び頻度により直接変化するであろう。
【0073】
有用な剤形は、当業者によりよく理解されている方法及び技術により製造され、そして適切な剤形をもたらす追加成分の使用を含んでもよい。1の例では、カルジオリピンと少なくとも1の抗酸化剤を埋め込まれた本発明のリポソームを取り込む本発明の製剤は、を1日あたり少なくとも1回局所投与される。別の例では、製剤は、一日2回投与されてもよい。さらなる例では、製剤は、1日あたり3〜5回投与されてもよい。別の例では、一日あたり投与される製剤の量に制限はない。
【0074】
前述の詳細な記載は、限定的であるよりは例示的であるとみなされることを意図する。本発明はさらに、以下の実験的調査及び実施例により例示されるが、これらは限定的なものとして解釈すべきではない。本特許出願をとおして引用された全ての引用文献、特許、及び出願公開の内容は、本明細書に援用される。
【実施例】
【0075】
実施例1:酸化ストレスからの保護の計測
本実験において記載されるアッセイは、ミトコンドリア内で生じる酸化ストレスを計測する。上に記載されるように、ミトコンドリアにより用いられて、エネルギーを産生するATP分子を生成する生化学反応は、副産物としてかなり酸化力のあるスーパーオキシド遊離ラジカルも産生する。フローサイトメトリーを用いて、以下の例は、試験物質で治療した後にミトコンドリア内のスーパーオキシドの状態をモニタリングすることにより、さまざまな試験サンプルにおける酸化ストレスからの保護を計測する。
【0076】
MitoSOX Redミトコンドリアスーパーオキシド指標物質(Invitrogenカタログ番号M36008)は、ミトコンドリアにより選択的に取り込まれる蛍光色素である。ミトコンドリアに入ると、MitoSOXが、スーパーオキシド遊離ラジカルと反応して、ミトコンドリア核酸に結合する蛍光生成物を形成する(励起/放出最大=510/580nm)。高い蛍光読み取り値は、ミトコンドリア内に存在する高レベルのスーパーオキシド遊離ラジカルに相当する。
【0077】
細胞培養:サンプルあたり、1つの6ウェルプレートを用いる。複数のプレートを同時に調製してもよい。プレートの説明については表IIを参照のこと。THP−1単球(ATCCカタログ番号TIB−202)を、(10%FBSを添加したRMPI1640培地を2ml/ウェルで入れた)6ウェルプレート内に1.5×106細胞/ウェルで撒き、そして処理前に1時間インキュベートした。
【0078】
【表2】

【0079】
処理:
グルタチオン単層(GMEE、100μM終濃度)を陽性対照として用いる。より具体的に、4mgのグルタチオンモノエチルエステルを10ml培地(10%FBSを加えたRMPI1640培地)に溶解することにより1.2mMストック溶液を作成することにより、陽性対照を調製した。陽性対照ワーキング溶液(300μM)を次に、2.5mlのストック溶液を7.5ml培地に加えることにより調製する。1mlの陽性対照ワーキング溶液を1ウェルのプレートに加え、100μMグルタチオンモノエチルエステルの処理終濃度を与えた。
【0080】
1mlの培地(10%FBSを添加したRMPI1640培地)をプレート上の指定ウェルに加えることにより、培地陰性対照及び通常の対照を調製する(対照あたり1ウェル)。
【0081】
100mg試験サンプルを15mlの使い捨て遠心管に測っていれ、そして10mlの脱イオン水を加えることにより、10mg/mlの濃度でサンプルストック溶液を調製することにより試験サンプルを調製することができる。本実施例では、試験サンプルは、テトラオレオイルカルジオリピン、テトラミリスチルカルジオリピン、Neolipin(商標)カルジオリピン、I-カルノシン及びメチルゲンチセート(各サンプルについて1のプレート)を含む。次にサンプルストック溶液を連続希釈して、300μg/mlのサンプルワーキング溶液を与えた。1mlのサンプルワーキング溶液を次に、プレートの3つの残りのウェルにそれぞれと加え(3回分のウェル)、各サンプルウェルについて、100μg/mlの最終サンプル濃度を与えた。
【0082】
試験サンプルと対照ウェルの両方を含むプレートを次に、37℃にて3時間5%CO2でインキュベートする。
【0083】
暴露:
3時間のインキュベートの後、試験サンプル、陽性対照、及び陰性対照を含むウェル中の細胞を暴露溶液に導入することにより酸化ストレスにかける。暴露溶液は、以下のように調製する:
852μl 8.8M H22+4.15ml培地(=1.5M H22
1ml 1.5M H22+9ml培地(=150mM H22
1ml 150mM H22+30ml培地(=5mM H2O2)
1mlの5mM H22を、通常対照を除いたプレートの全てのウェルに加える。1mlの培地(10%FBSを添加したRMPI 1640培地)を通常の対照ウェルに加える。次にプレートを、37℃にて5%CO2で3時間インキュベートした。
【0084】
撹拌:
暴露溶液とのインキュベーションに続き、全てのウェルの内容物をフローサイトメトリー用のチューブに移し、そして100×gで5分間遠心した。細胞を取り出し、そして次に1mlのMitoSOX(5μM)を各チューブに加えることにより細胞を染色する。具体的に、MitoSOX染色は、2バイアルのMitoSOX(1バイアルあたり50μg、Invitrogenカタログ番号M36008)を、1バイアルあたり13μlのDMSOを用いて溶解して、1バイアルあたり5mMの溶液を与えた(mw=760g/mol)。両方のバイアルの内容物を26ml培地に移す(5μM)。室温で暗所にて15分間細胞をインキュベートして染色した。
【0085】
フローサイトメトリー
染色に続き、488nm励起レーザー及びFL2 588nmの放射フィルターを用いて、フローサイトメトリー(例えば、Becton−Dickinson FACS Caliber)によりサンプルを分析する。陰性対照と通常対照の応答により定義される曲線へと線形化させた(0%保護=未処理/暴露陰性対照、100%保護=未処理/未暴露通常対照)。これらの条件下で陽性対照(100μMグルタチオンメチルエステル)は、酸化ストレスから35%の保護を提供する。
【0086】
結果:
本実験の結果を以下の表3に報告する。結果が示すように、テトラオレオイル-カルジオリピンは、酸化ストレスから有意、つまり平均97%、の保護を示す。
【0087】
【表3】

【0088】
実施例2:ATPレベルの計測
細胞内ATPのレベルは、細胞及びミトコンドリアの健康状態のマーカーである。本実施例において説明されるように、ATPレベルは、ATPの存在下で光を発生するATP依存性ルシフェラーゼを用いてモニターすることができる。発生した光の量は、存在するATP量に正比例する。
【0089】
CHO-K1(チャイニーズハムスター卵巣)細胞を、ATCC(Manassas, VA)(細胞受託番号ATCC CCL61)から購入する。細胞培養物を、1ウェルあたり1×104細胞で96ウェル不透明プレートに樹立した。接着後、細胞を低いグルコース培地(1g/l)に移し、そして一晩インキュベートする。低グルコース培地に培養された細胞は、低いATP含量を有する。
【0090】
一晩の培養に続き、細胞をt−ブチル-ペルオキシド(1mM)に2時間晒して、細胞ストレスを誘導する。過酸化物は、グルコース単独よりもATPレベルを低下させ、そして損傷細胞状態を模倣する。過酸化物暴露に続き、新たな低いグルコース培地を細胞に加える。過酸化物での暴露に続いてすぐに、1、10、及び100mg/mlの終濃度で試験サンプルに晒す。細胞を試験サンプルと37℃で4時間インキュベートする。以下の表IVに示されるように、当該実施例に用いられる試験サンプルは、I-カルノシン、DCメチルゲンチセート、空のリポソーム(カルジオリピンのみ)、AGI Dermatics,Inc(Freeport、NY)から得られたリポソームであって、テトラオレオイルーカルジオリピン、I-カルノシン、及びメチルゲンチセートを充填されたリポソームを含んだ。
【0091】
このアッセイは、損傷細胞状態を模倣するストレスをかけた条件の後にATPレベルを回復する能力に付いて化合物をスクリーニングする。その結果、暴露された細胞を試験サンプルとインキュベーションした後に、相対的な細胞ATPレベルを、Promega(Madison,WI)から市販されるCell−Titer Glo試薬を用いて計測する。簡潔に記載すると、細胞を室温で平衡化させ、この時点で培地をウェルから取り出した。希釈された試薬をウェルに加え、そしてプレートを室温で15分間インキュベートする。発光をWallachプレートリーダーで読み取る。
【0092】
各処理群の平均発光が計算され、そして未処理対照%を、各試験群からの平均を、未処理対照の平均で割ることにより測定した。未処理対照は、100%であると考えられ、そして上記の結果において100%は、細胞内ATPレベルが正味で増加したと考えられる。実施例の結果を以下の表IV及び図5に報告する。
【0093】
【表4】

【0094】
これらの結果により、充填されたリポソームが、低い濃度で、酸化ストレスに晒された細胞においてATPレベルを増強するということが示される。カルジオリピンのみを含む空のリポソームは高い濃度でATPを増加させ、リポソームに充填されたほかの成分が、充填済みのリポソームの低濃度での効果にとって重要であったということが示される。これらの結果により、カルジオリピン及び抗酸化剤を細胞内に導入する際に、リポソームデリバリービヒクルが助けとなったということが示される。
【0095】
実施例3:リポソーム安定性
透過型電子顕微鏡(TEM)は、リポソームの大きさ及び形態特性を決定するためにしばしば用いられる。TEM画像を得るための一般的に用いられるサンプル調製法は、リポソーム懸濁液の液滴を、プラスチック皮膜されたグリッドに適用し、次にリンタングステン酸又はモリブデン酸アンモニウムで当該物質をネガティブ染色する。結果は、ネガティブ染色中に埋め込まれたリポソームの単層である。
【0096】
より具体的に、TEM画像のためにサンプルは以下のように調製されてもよい:1%アガロース水溶液(w/v)をプラスチック製ペトリ皿に注ぎ、そして室温で10分間風乾する。Formvar又はCollodion皮膜されたグリッドを、グロー放電により親水性にし、そしてグリッドを、Whatman no.1フィルターペーパー上に配置する。1滴のサンプル懸濁液を各グリッドに配置する。フィルターペーパーにより液体のほとんどをグリッドの周辺部において吸収させると、グリッドをアガロースプレートに30分間〜1時間移して、塩及び液体をアガロース中に拡散させた。
【0097】
未染色のグリッドを観察し、そしてESIを備えたZeiss902を用いて写真を撮った。リポソームは、個々の丸い構造として写るべきであり、そして凝集は観察されるべきでない。
【0098】
本方法は、本発明のリポソームの安定性を決定するために使用された。TEM画像を撮り、貯蔵前と貯蔵後1ヶ月の両方においてクリーム製剤中における本発明のリポソームのサイズ及び構造を決定した。具体的に、分析されたリポソームは、主に、ホスファチジルコリンから構成され、そしてテトラオレオイル-カルジオリピン、メチルゲンチセート及びI-カルノシンが埋め込まれている。TEM画像は、リポソームをクリーム製剤に加えてすぐに撮られ、そして当該リポソーム(クリーム製剤中で)をおよそ室温(50℃)で1ヶ月貯蔵した後に撮影された。貯蔵前及び1ヶ月の貯蔵後の本発明のリポソームのTEM画像は、図6に示される。これらのTEM画像により、リポソームの1ヶ月の貯蔵の後に、無傷の膜を有する分離した安定な構造のまま残ったということが示される。
【0099】
上の記載は、本発明の好ましい実施態様についての記載である。均等論を含む特許法の原則に従って解釈されるべきである添付の特許請求の範囲に定義される本発明の本質及び広い態様から逸脱することなく、さまざまな変更及び変化がなされうる。単数形、例えば「a」、「an」、「当該」、又は「上記」を使用した請求項の記載の要素は、単数の要素に限定するものとして解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソーム、カルジオリピン及び少なくとも1の抗酸化剤を含む、ミトコンドリア機能を改善、維持、又は回復するための組成物であって、ここで当該カルジオリピンが、上記リポソームのリン脂質二重層中に埋め込まれており、そして上記少なくとも1の抗酸化剤が、上記リポソームのリン脂質二重層中に埋め込まれるか、上記リポソームの水性中心に含まれるか、又はその両方である、前記組成物。
【請求項2】
前記リポソームが主にホスファチジルコリンから構成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記カルジオリピンが、テトラオレオイル−カルジオリピンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1の抗酸化剤がメチルゲンチセートであり、そしてさらに当該メチルゲンチセートが前記カルジオリピンとともに前記リポソームのリン脂質二重層中に埋め込まれる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
さらに第二抗酸化剤を含み、ここで当該第二抗酸化剤がI-カルノシンであり、そしてさらに上記I-カルノシンが前記リポソームの水性中心に含まれる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が以下の:
約0.01〜約10重量%のテトラオレオイル-カルジオリピン;
約0.01〜約10重量%のメチルゲンチセート;及び
約0.01〜約10重量%のI-カルノシン
を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記カルジオリピンが、テトラミリストイルカルジオリピンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記カルジオリピンが、テトラパルミトオレオイル カルジオリピンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記カルジオリピンが、種子油に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記リポソームがさらに、以下の:コレステロール、コレステロール・サルフェート、セラミド類、植物ステロール類及び糖のうちの1以上を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、クリーム、ローション、ゲル、トニック、水中油エマルジョン、油中水エマルジョン、ペースト、又はスプレーとして局所的に投与される、請求項5に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、皮膚軟化剤、保湿剤、浸透促進剤、ビタミン、香料、色素、及び湿潤剤のうちの1以上をさらに含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
リポソーム、カルジオリピン及び少なくとも1の抗酸化剤を含むミトコンドリア膜を修復する組成物であって、ここで当該カルジオリピンが、リポソームのリン脂質二重層中に埋め込まれ、そして上記少なくとも1の抗酸化剤が、リポソームのリン脂質二重層中に埋め込まれるか、リポソームの水性中心に含まれるか、又はその両方である、前記組成物。
【請求項14】
前記リポソームが、主にホスファチジルコリンから構成される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記カルジオリピンが、テトラオレオイル-カルジオリピンである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1の抗酸化剤が、メチルゲンチセートであり、そしてさらに当該メチルゲンチセートが、カルジオリピンとともにリポソームのリン脂質二重層中に埋め込まれる、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
さらに第二抗酸化剤を含み、ここで当該第二抗酸化剤がI-カルノシンであり、そしてさらに当該I-カルノシンが前記リポソームの水性中心に含まれる、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、以下の:
約0.01〜約10重量%のテトラオレオイル-カルジオリピン;
約0.01〜約10重量%のメチルゲンチセート;及び
約0.01〜約10重量%のI-カルノシン
を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記カルジオリピンが、テトラミリストイル カルジオリピン、テトラパルミトオレオイル カルジオリピンであるか、又は種子油に由来する、請求項13に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物が、クリーム、ローション、ゲル、トニック、水中油エマルジョン、油中水エマルジョン、ペースト、又はスプレーとして局所投与される、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、1以上の皮膚軟化剤、保湿剤、浸透促進剤、ビタミン、香料、色素、及び湿潤剤のうちの1以上をさらに含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
細胞においてミトコンドリア機能を改善、維持、又は回復する方法であって、請求項5に記載の組成物を当該細胞に投与することを含む、前記方法。
【請求項23】
細胞内のミトコンドリア膜を修復する方法であって、請求項17に記載の組成物を当該細胞に投与することを含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−512386(P2010−512386A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541305(P2009−541305)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/024617
【国際公開番号】WO2008/073230
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(302070822)アクセス ビジネス グループ インターナショナル リミテッド ライアビリティ カンパニー (122)
【Fターム(参考)】