説明

ミートスプレッドの製造方法

【課題】獣臭がなく、食肉本来の風味を残したまま、アミノ酸やペプチドなど栄養成分が増加し呈味性が増強され、可塑性に優れ、かつ50〜180℃の高温領域における保形性に優れているミートスプレッド及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】豚肉、牛肉、鶏肉等の食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させて、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を調製し、得られるゲル状酵素処理肉と水との混合物に、食用固形油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、架橋エーテル化ワキシーコーン澱粉を含むスプレッド用配合剤を加えてスプレッド生地を調製し、このスプレッド生地を真空包装した後、加熱処理を施し、冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状酵素処理肉に食用固形油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、架橋エーテル化ワキシーコーン澱粉を配合し、加熱処理を施したミートスプレッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉は栄養学的に優れた食品でありながら、その食感の硬さから乳幼児や高齢者、さらには病人などの咀嚼や嚥下が困難な人達にとっては摂取しづらい素材である。この問題を解決するために、従来、畜肉及び鳥類の肉を磨砕後、蛋白の(F−N/T−N)比が0.2−0.4となるまで酵素反応を行って得られる、80メッシュ振動篩通過分が90重量%以上のペースト肉(例えば、特許文献1参照)や、畜肉の磨砕物に蛋白質分解酵素を作用させてミオシン重鎖を切断させた後、該酵素を加熱失活させたものを一次処理原料とし、該一次処理原料に添加物、水、油脂の1又は2以上を加えて2次処理することにより得られる、畜肉のゲル化能が減少して、滑らかな舌触りの食感を持つ畜肉スプレッド(例えば、特許文献2参照)や、食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得ることができ、その10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である優れた分散性を示し、かつ、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉(例えば、特許文献3参照)や、咀嚼困難者及び軽度の嚥下困難者用に適した固形状の食肉ソフト加工食品であって、ミンチ状又は細切状の食肉材に、少なくとも澱粉と油脂と増粘多糖類と水とが添加混合された食肉混合材からなり、この食肉混合材が所定の形状に成形された食肉混合成形品を含んでいることを特徴とする食肉ソフト加工食品(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0003】
その他、食肉に油脂を適用する技術としては、融点25℃以上の油脂を平均粒径2μm以下の固形油脂分散液として水溶液中に5〜60重量%含有することを特徴とする食肉用油脂注入液(例えば、特許文献5参照)や、油脂およびグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉を含むことを特徴とする食肉加工食品用品質改良剤(例えば、特許文献6参照)や、食肉100重量部に対して、0.05〜10重量部のモノグリセリドとポリカルボン酸とのエステルおよび/またはジグリセリドとポリカルボン酸とのエステル、そして0.001〜5重量部のプロテアーゼを含む油脂組成物を注入することを特徴とする食肉の改質処理方法(例えば、特許文献7参照)や、1〜90重量%の油脂、及び油脂中に溶解又は分散されてなる99〜10重量%の、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン及びステアロイル乳酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の活性剤を含み、かつ油脂が活性剤に対して10倍量以下である組成物を、食肉中に活性剤が0.05〜10重量%注入されるような量にて注入することを特徴とする食肉の改質処理方法(例えば、特許文献8参照)が知られている。
【0004】
また、食肉にポリグリセリン脂肪酸エステルを適用する技術としては、水中油型乳化物中に、ポリグリセリン脂肪酸エステル、pH調製剤を含むことを特徴とする食肉改質剤(例えば、特許文献9参照)や、ジグリセリン脂肪酸エステル、レシチン及びHLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステルから構成されることを特徴とする食肉の品質改良剤(例えば、特許文献10参照)や、1〜90重量%の油脂、該油脂中に溶解または分散されてなる9〜98.9重量%の、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン及びステアロイル乳酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の活性剤、および0.1〜90重量%のプロテアーゼを含み、かつ油脂が活性剤に対して10倍量以下である油脂組成物を、食肉100重量部に対して、活性剤が0.05〜10重量部およびプロテアーゼが0.001〜5重量部となる量にて注入することを特徴とする食肉の改質処理方法(例えば、特許文献11参照)が知られている。
【0005】
また、食肉に加工澱粉を適用する技術としては、油脂およびグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉を含むことを特徴とする食肉加工食品用品質改良剤(例えば、特許文献12参照)や、塩化ナトリウムに対しマグネシウムを0.025〜0.7重量%含む焼き塩1重量部に対し、糖アルコールを2.5〜5.5重量部、エステル化又は/及びエーテル化された澱粉誘導体を1.0〜2.5重量部、及び有機酸塩を0.3〜1.3重量部含有することを特徴とする食肉用改良剤(例えば、特許文献13参照)や、油脂分10〜50重量%およびα化澱粉とβ澱粉の混合物を5〜20重量%および乳化剤を含むことを特徴とする食肉加工用水中油滴型乳化液(例えば、特許文献14参照)が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−117723号公報
【特許文献2】特開平9−275937号公報
【特許文献3】特許第3817125号公報
【特許文献4】特開2005−110677号公報
【特許文献5】特開2002−142671号公報
【特許文献6】特開2005−318871号公報
【特許文献7】特開平8−214838号公報
【特許文献8】特開平7−313106号公報
【特許文献9】特開2004−57042号公報
【特許文献10】特開2001−269117号公報
【特許文献11】特開平8−214839号公報
【特許文献12】特開2005−318871号公報
【特許文献13】特開2003−304836号公報
【特許文献14】特開2000−157218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、獣臭がなく、食肉本来の風味を残したまま、アミノ酸やペプチドなど栄養成分が増加し呈味性が増強され、可塑性に優れ、かつ50〜180℃の高温領域における保形性に優れているミートスプレッド及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、食肉にエンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させ、失活させたゲル状酵素処理肉と水との混合物に、食用固形油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、架橋エーテル化ワキシーコーン澱粉を含むスプレッド用配合剤を加えてスプレッド生地を調製し、このスプレッド生地を真空包装した後、60〜65℃で20〜40分間の一次加熱処理、次いで80〜90℃で20〜40分間の二次加熱処理を施し、冷却することにより得られるミートスプレッドが、獣臭がなく、食肉本来の風味を残したまま、アミノ酸やペプチドなど栄養成分が増加し呈味性が増強され、可塑性に優れ、かつ50〜180℃の高温領域における保形性に優れていることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)ゲル状酵素処理肉10〜70質量%と水10〜50質量%の混合物に、食用固形油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、架橋エーテル化ワキシーコーン澱粉を含むスプレッド用配合剤を加えてスプレッド生地を調製し、調製したスプレッド生地を真空包装した後、加熱処理を施し、冷却することを特徴とするミートスプレッドの製造方法に関する。
【0010】
また本発明は、(2)ゲル状酵素処理肉として、食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させて、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を用いることを特徴とする上記(1)記載のミートスプレッドの製造方法や、(3)スプレッド生地が、10〜30質量%の食用固形油脂を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)記載のミートスプレッドの製造方法や、(4)食用固形油脂100質量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを12〜18質量部使用することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法や、(5)ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、モノステアリン酸デカグリセリルを用いることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法や、(6)スプレッド生地が、架橋エーテル化澱粉を1〜10質量%含有することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法や、(7)架橋エーテル化澱粉が、架橋エーテル化ワキシーコーン澱粉であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法や、(8)スプレッド用配合剤として、グラニュー糖を使用することを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法や、(9)加熱処理が、60〜65℃で20〜40分間の一次加熱処理、次いで80〜90℃で20〜40分間の二次加熱処理からなることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法に関する。
【0011】
さらに本発明は、(10)上記(1)〜(9)のいずれか記載の製造方法により得られることを特徴とする可塑性に優れたミートスプレッドや、(11)50〜180℃の高温領域における保形性に優れていることを特徴とする上記(10)記載の可塑性に優れたミートスプレッドに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のミートスプレッドの製造方法によれば、獣臭がなく、食肉本来の風味や栄養成分を残したまま、アミノ酸やペプチドなどの呈味成分が豊富なミートスプレッドが得られる。この可塑性に優れたミートスプレッドを、タルタルソース、オーロラソース、ヨーグルトソース、ストロベリーソース、クリームソースなどとしてスプレッド製品として有利に用いることができる。また、これらスプレッド製品を50〜180℃の高温処理しても、型くずれのしない保形性に優れたスプレッド製品が得られる。さらに、製品の保管や流通においては、チルド又は常温での保存及び流通が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のミートスプレッドの製造方法としては、10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%のゲル状酵素処理肉と、10〜50質量%、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは15〜30質量%の水との混合物に、食用固形油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、架橋エーテル化ワキシーコーン澱粉を含むスプレッド用配合剤を加えてスプレッド生地を調製し、調製したスプレッド生地を真空包装した後、加熱処理を施し、冷却する方法であれば特に制限されず、用いられる原料食肉としては、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉、猪肉、鶏肉、合鴨肉等の畜肉及び家禽肉を具体的に例示することができ、魚肉は含まれず、また、畜種あるいは部位で限定されるものではないが、脂肪組織及び結合組織を除去した食肉が好ましく、入手のしやすさ、処理のしやすさなどを考慮すると、豚や牛のモモ肉や鶏のササ身がより好ましい。
【0014】
上記ゲル状酵素処理肉としては、食肉、好ましくは粉砕した食肉に、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ等の酵素を作用させ、ゲル状とした処理肉であれば特に制限されないが、食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させて、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を特に好適に用いることができる。
【0015】
上記食肉、好ましくは脂肪組織及び結合組織を除去した食肉の粉砕処理は常法により行うことができ、肉塊が残らない程度に破砕、粉砕又は磨砕することができれば特に制限されるものではなく、例えば、グラインダーによる挽肉処理及び/又はサイレントカッターによる破砕処理等を例示することができる。かかる粉砕処理に際して、食塩等の調味料などを添加してもよく、また破砕処理の際にプロテアーゼを添加してもよい。
【0016】
上記脂肪組織及び結合組織を除去した食肉の粉砕物は、エンド型プロテアーゼやエキソ型プロテアーゼにより酵素処理される。エンド型プロテアーゼやエキソ型プロテアーゼとしては、特に制限されるものではなく、市販のものを使用することができ、これらは単独あるいは組み合わせて使用することができ、これら酵素を組み合わせて使用する場合、同時に併用してもよく、また順次作用させてもよい。かかる酵素の使用条件、すなわちプロテアーゼの種類、作用温度、作用pH、反応時間、使用量等は、かかるプロテアーゼ処理に引き続いて実施される加熱処理後のゲル状物における破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%となる条件であれば、特に制限されるものではないが、50℃付近に至適作用温度を有するプロテアーゼや、食肉自体が弱酸性側のpHを有することから弱酸性側に至適pHを有するプロテアーゼが好ましく、また反応時間としては温和な反応が好ましいことから1〜5時間、特に2〜4時間程度が好ましく、反応温度としては45〜55℃が好ましい。上記破断応力の測定にはレオメーターが用いられ、サンプル厚15mm、プランジャー径10mm、テーブルスピード60mm/分の測定条件で測定した値が用いられる。
【0017】
食肉粉砕物にプロテアーゼを作用させた後に施される加熱処理によりプロテアーゼの失活が行われるが、かかる加熱処理としては、加熱処理後のゲル状物の水分散性、加熱処理後のゲル状物の殺菌、加熱処理効率等の観点からして、85〜95℃で120〜45分間の加熱処理が好ましく、特に90℃で1時間の加熱処理が好ましい。かかる加熱処理により、酵素処理後の食肉粉砕物はゲル状を呈し、該加熱処理後のゲル状物について前記破断応力が測定される。この破断応力をプロテアーゼ未処理の対照と比較して、その値が33〜67%にあるゲル状酵素処理肉が選択される。かかる破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%にある加熱処理後のゲル状酵素処理肉は、水に懸濁させた場合、優れた懸濁分散性を示す。プロテアーゼ未処理の対照と比較して、破断応力の値が33%未満である加熱処理後のゲル状物の水懸濁液は、懸濁分散性には優れるものの食肉本来の風味を失う傾向にあり、一方、破断応力の値が67%を越える加熱処理後のゲル状物の水懸濁液は、食肉本来の風味を有するものの懸濁分散性に劣る傾向がある。このゲル状酵素処理肉は冷凍した場合に氷結が生じることが少なく、冷凍・解凍処理によりその品質が劣化しないことから、冷凍状態で流通・保存することができる。また、このゲル状酵素処理肉について、毛、軟骨、硬骨などの異物を除去する目的で裏漉し処理をすることもできる。
【0018】
上記食用固形油脂とは、室温(18℃)で固体のものをいい、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、フレッシュバター等を挙げることができるが、油脂の硬化度指数(SFI)の選択や、油脂の組み合わせで融点等の硬度調整を行うこともできる。スプレッド生地における食用固形油脂の含量は、最終スプレッド製品の種類によっても異なるが、10〜30質量%、好ましくは10〜20質量%とすることができる。スプレッド生地に食用固形油脂を用いることにより、ミートスプレッドにクリーミーな食感を付与することができ、また、ミートスプレッドに優れた可塑性を付与することができる。
【0019】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルは乳化剤として用いられ、その使用量は食用固形油脂100質量部に対して、12〜18質量部、中でも14〜16質量部使用することが好ましい。スプレッド生地にポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることにより、ミートスプレッドに滑らかな食感を付与することができ、また、ミートスプレッドに優れた可塑性を付与することができる。
【0020】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノステアリン酸ジグリセリル、モノステアリン酸テトラグリセリル、モノステアリン酸ヘキサグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸ジグリセリル、ジオレイン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、モノオレイン酸テトラグリセリル、トリステアリン酸テトラグリセリル、ペンタステアリン酸テトラグリセリル、ペンタオレイン酸テトラグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、モノオレイン酸ヘキサグリセリル、トリステアリン酸ヘキサグリセリル、テトラベヘン酸ヘキサグリセリル、ペンタステアリン酸ヘキサグリセリル、ペンタオレイン酸ヘキサグリセリル、ポリリシノレイン酸ヘキサグリセリル、モノラウリン酸デカグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸デカグリセリル、モノリノール酸デカグリセリル、ジステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル、トリステアリン酸デカグリセリル、トリオレイン酸デカグリセリル、ペンタステアリン酸デカグリセリル、ペンタヒドロキシステアリン酸デカグリセリル、ペンタイソステアリン酸デカグリセリル、ペンタオレイン酸デカグリセリル、ヘプタステアリン酸デカグリセリル、ヘプタオレイン酸デカグリセリル、デカステアリン酸デカグリセリル、デカイソステアリン酸デカグリセリル、デカオレイン酸デカグリセリル、デカマカデミアナッツ脂肪酸デカグリセリル、ポリリシノレイン酸デカグリセリルを例示することができるが、中でもモノステアリン酸デカグリセリルを好適に例示することができる。
【0021】
上記架橋エーテル化澱粉としては、ヒドロキシアルキルエーテル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシアルキルエーテル化ヒドロキシプロピル架橋澱粉、カルボキシアルキルエーテル化ヒドロキシプロピル架橋澱粉、カルボキシアルキルエーテル化リン酸架橋澱粉等を例示することができ、また、澱粉の種類としては、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、モチトウモロコシ澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等を挙げることができるが、架橋エーテル化ワキシーコーン澱粉を好適に例示することができる。スプレッド生地における架橋エーテル化澱粉の含量は、最終スプレッド製品の種類によっても異なるが、1〜10質量%、好ましくは1.5〜5質量%とすることができる。スプレッド生地に架橋エーテル化澱粉を用いることにより、ミートスプレッドにクリーミーな食感を付与することができ、また、ミートスプレッドに優れた可塑性や、50〜180℃の高温領域における優れた保形性を付与することができる。
【0022】
最終スプレッド製品の種類によって、上記スプレッド用配合剤として、グラニュー糖、アスパルテーム、ステビアサイド等の甘味料や、各種香料、各種調味料、各種着色料、ミネラル、ビタミン、水溶性食物繊維、水溶性低分子コラーゲン等を添加することができる。
【0023】
また、スプレッド生地を真空包装する方法としては、例えば、酸素不透過性、あるいは酸素難透過性の合成樹脂製袋やアルミパック等の容器にスプレッド生地を収容した後、容器内の空気が実質的に残存しない程度に吸引排除する真空包装する方法が好ましく、その際、スプレッド生地中に残存する空気をもできる限り排除することが好ましい。具体的には、20〜30mmHgの水銀圧で、5分間吸引することが好ましい。
【0024】
上記加熱処理としては、真空包装されたスプレッド生地を殺菌することができる加熱処理であれば特に制限されないが、60〜65℃で20〜40分間の一次加熱処理、次いで80〜90℃で20〜40分間の二次加熱処理からなる加熱処理が、優れた風味の維持の点で好ましく、この加熱処理によるミートスプレッド製品はチルド流通されることになる。また、レトルトパウチに充填したスプレッド生地の加熱処理として、製品の中心温度が120℃で4分間、あるいはこれと同等以上の効力を有する方法でレトルト(加圧加熱)処理することもでき、この加熱処理によるミートスプレッド製品は常温で流通されることになる。加熱処理後の真空包装されたスプレッド生地は、急冷することが好ましい。
【0025】
本発明のミートスプレッドとしては、上記本発明のミートスプレッドの製造方法により得られ、常温において可塑性を有するものであれば特に制限されず、また、50〜180℃の高温領域における保形性に優れているミートスプレッドが好ましい。本発明のミートスプレッドは、パンやクラッカー用のスプレッドとして、また、ケーキやピザ用のデコレーションとして用いることができる。
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
[ゲル状酵素処理肉(イーミート)の調製]
〈配合〉
鶏ムネ肉(脂肪組織、結合組織を除いたもの) 100%
増粘多糖類(アイスターM、大日本製薬) 0.3%
タンパク質分解酵素(アマノP3G、天野エンザイム株式会社) 0.005%
タンパク質分解酵素(アマノS、天野エンザイム株式会社) 0.005%
酸化防止剤Vi.E(ドライEミックスF20、理研ビタミン) 0.1%
〈製法〉
1)上記した原材料をサイレントカッターで細切する。
2)細切後の挽肉を真空包装する。
3)50℃で3時間保管し、酵素反応を行う。
4)90℃で1時間加熱処理し、酵素を失活させる。
5)速やかに氷水中で急冷する。
【実施例2】
【0028】
[ミートスプレッドの調製−1]
〈配合〉
イーミート 44.84%
食用固形油脂(BST−G、不二製油) 17.94%
添加水 26.91%
加工でんぷん(ファリネックスVA−70WM、松谷化学) 2.69%
乳化剤(グリスターMSW−7S、坂本薬品) 2.69%
チャ抽出物(ティーフレッシュ80S、日本葉緑素) 0.005%
調味料など 4.93%
〈製法〉
1)イーミートと添加水をサイレントカッターで混合する。
2)乳化剤(モノステアリン酸デカグリセリル)を加える。
3)油脂、でんぷん(架橋エーテル化ワキシーコーン澱粉)、チャ抽出物、調味料などを加える。
4)出来上がった生地を真空包装する。
5)63℃で30分間加熱処理を行う。
6)80℃で30分間加熱処理を行う。
7)速やかに氷水中で急冷する。
【実施例3】
【0029】
[ミートスプレッドの調製−2]
〈配合〉
イーミート 33.04%
食用固形油脂(BST−G、不二製油) 13.23%
添加水 19.81%
加工でんぷん(ファリネックスVA−70WM、松谷化学) 1.96%
乳化剤(グリスターMSW−7S、坂本薬品) 1.96%
チャ抽出物(ティーフレッシュ80S、日本葉緑素) 0.005%
グラニュー糖 27.5%
調味料など 2.5%
〈製法〉
1)イーミートと添加水をサイレントカッターで混合する。
2)乳化剤を加える。
3)油脂、でんぷん、チャ抽出物、グラニュー糖、調味料などを加える。
4)出来上がった生地を真空包装する。
5)63℃で30分間加熱処理を行う。
6)80℃で30分間加熱処理を行う。
7)速やかに氷水中で急冷する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル状酵素処理肉10〜70質量%と水10〜50質量%の混合物に、食用固形油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、架橋エーテル化澱粉を含むスプレッド用配合剤を加えてスプレッド生地を調製し、調製したスプレッド生地を真空包装した後、加熱処理を施し、冷却することを特徴とするミートスプレッドの製造方法。
【請求項2】
ゲル状酵素処理肉として、食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させて、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を用いることを特徴とする請求項1記載のミートスプレッドの製造方法。
【請求項3】
スプレッド生地が、10〜30質量%の食用固形油脂を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のミートスプレッドの製造方法。
【請求項4】
食用固形油脂100質量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを12〜18質量部使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法。
【請求項5】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、モノステアリン酸デカグリセリルを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法。
【請求項6】
スプレッド生地が、架橋エーテル化澱粉を1〜10質量%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法。
【請求項7】
架橋エーテル化澱粉が、架橋エーテル化ワキシーコーン澱粉であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法。
【請求項8】
スプレッド用配合剤として、グラニュー糖を使用することを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法。
【請求項9】
加熱処理が、60〜65℃で20〜40分間の一次加熱処理、次いで80〜90℃で20〜40分間の二次加熱処理からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載のミートスプレッドの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか記載の製造方法により得られることを特徴とする可塑性に優れたミートスプレッド。
【請求項11】
50〜180℃の高温領域における保形性に優れていることを特徴とする請求項10記載の可塑性に優れたミートスプレッド。

【公開番号】特開2008−125420(P2008−125420A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313388(P2006−313388)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000113067)プリマハム株式会社 (72)
【Fターム(参考)】