説明

ムギネ酸類金属錯体トランスポーター及びその用途

【課題】新規なムギネ酸類金属錯体トランスポーターを提供する。
【解決手段】ムギネ酸類金属錯体トランスポーター、それをコードするポリヌクレオチド等に関する。特定の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、特定のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドを含有する発現ベクターと形質転換体。更に該ポリヌクレオチドを用いたアルカリ土壌で栽培可能な植物のスクリーニング方法、並びに前記形質転換体を用いたムギネ酸類金属錯体トランスポータータンパク質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なムギネ酸類金属錯体トランスポーターをコードするポリヌクレオチド及びその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球の土壌面積のうち、穀物等を栽培できる農地は約10%に過ぎず、残りの90%の土地は、植物の生育が阻害される不良土壌であるといわれている。このような不良土壌の約30%は、植物の生育に必須の、鉄、マンガン、ホウ素等の微量必須元素が欠乏・不溶態化している。このような状況の中、限られた土壌資源をより有効に活用するため、植物がこれらの微量必須元素を取り込むメカニズムが広く研究されている。
【0003】
イネ科においては、種々の植物について、金属をムギネ酸金属錯体として、膜トランスポーターを介して取り込むことが明らかになっており、このようなトランスポーターの機能等について複数の報告がなされている。例えば、イネ(Oryza sativa)では、OsYSL2(Oryza sativa Yellow Stripe-like protein 2)が、Fe(II)及びMn(II)のニコチアナミン錯体のトランスポーターとして機能することが報告されている(非特許文献1)。また、イネのOsYSL15及びOsYSL18は、Fe(III)-デオキシムギネ酸錯体の輸送を媒介することが報告されている(非特許文献2及び3)。
【0004】
一方、トウモロコシ(Zea mays)では、ZmYS1が、Ni(II)、Fe(II)及びFe(III)のデオキシムギネ酸錯体やFe(II)のニコチアナミン錯体の膜輸送を媒介することが報告されている(非特許文献4及び5)。
【0005】
本発明者らは、オオムギ(Hordeum vulgare)の金属取り込みシステムについて詳細な研究を行った結果、鉄欠乏状態で生育した根に強く発現し、Fe(III)- ムギネ酸類(フィトシデロフォア)の膜輸送を媒介するトランスポーターHvYS1を単離することに成功している(特許文献1、非特許文献6)。しかしながら、現時点において、オオムギから発見されたムギネ酸類金属錯体トランスポーターとしては、上記が唯一の報告例であり、オオムギからはFe(III)以外の金属の錯体輸送に関与するトランスポーターは未だ発見されていない。また、HvYS1によって根からオオムギ体内に取り込まれた鉄錯体が、その後、どのような経路によって植物体全体に輸送されるかも明らかではない。
【0006】
オオムギにおいて、Fe(III)以外の金属の錯体輸送に関与するトランスポーターが発見され、その機能が解明されれば、従来よりも効率的に生長に必要な多種の金属錯体を取り込むことのできる植物を作出することが可能である。また、オオムギ体内での鉄錯体輸送に関わるトランスポーターが発見されれば、HvYS1と該トランスポーターを協同して発現させることで、鉄錯体の取り込みに続き、体内輸送効率も高められた植物を作出することが可能となる。よって、HvYS1単独で発現させた場合よりも、よりアルカリ耐性能の高まった植物、もしくは、鉄を必要とする代謝系がより活性化された植物を作出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開公報第2006/126294号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ishimaru, Y. et al., The Plant Journal,(2004) 39, 415-424
【非特許文献2】Aoyama, T., Plant Mol Biol (2009) 70: 681-692
【非特許文献3】Inoue, H. et al., Journal of Biological Chemistry, vol. 284, no. 6, 3470-3479 (2009)
【非特許文献4】Curie, Catherine. et al., Nature, vol. 409, 346-349 (2001)
【非特許文献5】Schaaf, G. et al., Journal of Biological Chemistry, vol. 279, no. 10, 9091-9096 (2004)
【非特許文献6】Murata, Y. et al., The Plant Journal (2006) 46, 563-572
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような状況下で、Fe(III)以外の金属の錯体輸送に関与するトランスポーターや、植物体内の金属輸送に関わるトランスポーターの単離及びその利用法の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、イネ科植物であるオオムギのHvYS1のホモログ(HvYS2)をコードする遺伝子をクローニングすることに成功し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のポリヌクレオチド、タンパク質、発現ベクター、形質転換体、該ポリヌクレオチドを用いたアルカリ土壌で栽培可能な植物をスクリーニングする方法並びに前記形質転換体を用いたムギネ酸類金属錯体トランスポータータンパク質の製造方法を提供する。
【0011】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 以下の(a)〜(e)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号1の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2のアミノ酸配列において、1〜70個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[2] 以下の(f)又は(g)のいずれかに記載の前記[1]に記載のポリヌクレオチド:
(f)配列番号2のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(g)配列番号2のアミノ酸配列に対して、95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[3] 配列番号1の塩基配列を含有する、前記[1]に記載のポリヌクレオチド。
[4] 配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする、前記[1]に記載のポリヌクレオチド。
[5] DNAである、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
[7] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
[8] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリヌクレオチドが導入された非ヒト形質転換体。
[9] 前記[7]に記載のベクターが導入された非ヒト形質転換体。
[10] 植物である、前記[8]又は[9]に記載の非ヒト形質転換体。
[11] 以下の工程を含む、アルカリ土壌で栽培可能な植物をスクリーニングする方法。
(1)被検植物からポリヌクレオチドを抽出する工程
(2)前記ポリヌクレオチドと、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせる工程
(3)前記ハイブリダイゼーションを検出する工程
[12] 前記[8]又は[9]に記載の非ヒト形質転換体を培養することを特徴とする、ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリヌクレオチドは、種々の宿主細胞(例えば、植物細胞)の形質転換に利用することができ、そのようにして得られる形質転換体は、本発明のポリヌクレオチドにコードされるムギネ酸類金属錯体トランスポーターの製造に利用することができる。
【0013】
また、本発明のポリヌクレオチドで植物細胞を形質転換した場合、該形質転換体を栽培して得られる植物体は、野生型が育成できないようなアルカリ土壌環境においても生育可能な特徴を有するので、非常に有用である。さらに、植物体内で本発明のポリヌクレオチドをHvYS1と共発現させた場合、鉄錯体の吸収及び植物体内での輸送の両機能が向上した植物体を得ることができる。このような植物体は、HvYS1の単独発現により得られる植物体と比べ、よりアルカリ耐性能が高められ、あるいは色素合成など鉄を必要とする反応系がより活性化された状態にあるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】HvYS2タンパク質と、既知のムギネ酸類金属錯体トランスポータータンパク質(YSL)との関連を示す系統樹である。
【図2】HvYS2タンパク質及びHvYS1タンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す図である。
【図3】オオムギ植物体におけるHvYS2遺伝子及びHvYS1遺伝子の発現部位及び鉄欠乏処理による発現誘導性を示すグラフである。
【図4】オオムギ植物体におけるHvYS2遺伝子及びHvYS1遺伝子の発現部位及び各種金属欠乏処理による発現誘導性を示すグラフである。
【図5】HvYS2遺伝子を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞によるムギネ酸金属錯体の細胞内取り込みを膜電位変化として検出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、後述の実施例において詳細に記載するように、オオムギ由来のHvYS1のホモログの遺伝子(HvYS2)の全長cDNAのクローニングに初めて成功した。また、本発明者らは、オオムギ由来の HvYS2のゲノムDNAの塩基配列、及び推定アミノ酸配列も同定した。HvYS2のCDS配列及び推定アミノ酸配列は、それぞれ配列番号1及び2である。これらのポリヌクレオチド及び酵素は、後述の実施例に記載した手法、公知の遺伝子工学的手法、公知の合成手法等によって取得することが可能である。
【0016】
1.本発明のポリヌクレオチド
まず、本発明は、以下の(a)〜(e)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のポリヌクレオチドを提供する。
(a)配列番号1の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2のアミノ酸配列において、1〜70個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0017】
本明細書中、「ポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAを意味する。
本明細書中、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、例えば、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドの全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor, Laboratory Press 2001"及び"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"などに記載されている方法を利用することができる。
【0018】
本明細書中、「ストリンジェントな条件」とは、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃又は5 x SSC、1% SDS、50 mM Tris−HCl(pH7.5)、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃又は0.2 x SSC、0.1% SDS、65℃、0.2xSSC, 0.5%SDS、50%ホルムアミド、60℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い同一性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度等の複数の要素が考えられ、当業者であればこれらの要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0019】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling and Detection System(GE Healthcare)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1%(w/v)SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。あるいは、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列、又は配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列の全部又は一部に基づいてプローブを作製する際に、市販の試薬(例えば、PCRラベリングミックス(ロシュ・ダイアグノスティクス社)等)を用いて該プローブをジゴキシゲニン(DIG)ラベルした場合には、DIG核酸検出キット(ロシュ・ダイアグノスティクス社)を用いてハイブリダイゼーションを検出することができる。
【0020】
上記以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLAST等の相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号1のDNA、又は配列番号2のアミノ酸配列をコードするDNAと60%以上、61%以上、62%以上、63%以上、64%以上、65%以上、66%以上、67%以上、68%以上、69%以上、70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の同一性を有するDNAをあげることができる。
【0021】
なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、FASTA(Science 227 (4693): 1435-1441, (1985))や、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたblastn、blastx、blastp、tblastnやtblastxと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。blastnを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、blastpを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0022】
上記した本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法又は公知の合成手法によって取得することが可能である。
【0023】
2.本発明のタンパク質
本発明は、次に示すタンパク質を提供する。
(i)上記(a)〜(e)のいずれかのポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(iii)配列番号2のアミノ酸配列における1若しくは複数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質。
(iv)配列番号2のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質。
【0024】
上記(iii)又は(iv)に記載のタンパク質は、代表的には、天然に存在する配列番号2のタンパク質の変異体であるが、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487(1982)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409(1982)"、"Gene, 34, 315 (1985)"、"Nuc. Acids. Res., 13, 4431(1985)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488(1985)"等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、人為的に取得することができるものも含まれる。
【0025】
本明細書中、「配列番号2のアミノ酸配列における1若しくは複数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる、ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質」としては、配列番号2のアミノ酸配列において、例えば、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個(1〜数個)、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、又は1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。
【0026】
また、このようなタンパク質としては、配列番号2のアミノ酸配列と87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質が挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
【0027】
ここで、「ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性」とは、細胞膜を解した外界からのムギネ酸類金属錯体の取り込みを促進する活性を意味する。
【0028】
ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性は、適切な宿主細胞を本発明のポリヌクレオチドで形質転換し、該形質転換体をムギネ酸類金属錯体含有培地中で培養し、前記形質転換による形質転換体のムギネ酸類金属錯体取り込み能の増加として確認することができる。前記宿主細胞は、特に限定されないが、天然状態ではムギネ酸類金属錯体の取り込み能を有しない酵母又は大腸菌等の細胞が挙げられる。ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性の確認方法の具体例としては以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(i)酵母を用いた方法
Saccharomyces cerevisiaeの二重変異体fet3fet4(DDY4株)を本発明のポリヌクレオチドで形質転換し、得られた形質転換体を、ムギネ酸類鉄錯体含有培地で培養する。宿主細胞であるDDY4株は、Fe(II)の取り込み系に欠損を有しており、鉄制限培地中では増殖することができない(Eide, D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93: 5624-5628 (1996))。また、DDY4株は、ムギネ酸鉄(III)錯体の取り込み能を有していないため(Loulergue, C., Gene, 225: 47-57 (1998))、形質転換によりムギネ酸鉄(III)錯体の取り込み能を獲得した場合に、初めて増殖することが可能になる。従って、DDY4株を本発明のポリヌクレオチドで形質転換した形質転換体がムギネ酸類鉄錯体含有培地で生育能を獲得した場合は、本発明のポリヌクレオチドは、ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするものであると判断できる。
(ii)アフリカツメガエル(Xenopus)の卵母細胞を用いた方法
アフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞は、物質の膜輸送解析モデルとして広く使用されている(WO2006/126294)。アフリカツメガエルの卵母細胞を本発明のポリヌクレオチドで形質転換し、得られた形質転換体を、ムギネ酸類金属錯体含有培地で培養する。形質転換卵母細胞内の電気生理活性を測定することにより、ムギネ酸類金属錯体の取り込みを検出することができる。具体的には、前記形質転換体が発現するタンパク質のムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性によりムギネ酸類金属錯体が細胞内に取り込まれた際に、細胞膜電位変化が生じるので、この電位変化を検出することにより、ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を確認することができる。
【0029】
「ムギネ酸類金属錯体」とは、ムギネ酸類と金属イオンとが配位結合することにより形成されるキレート化合物を意味する。ここで、「ムギネ酸」とは、イネ科の植物により分泌されるアミノ酸の一種(イミノ酸)であり、C12H20O8N2の分子式で表されるものを指す。ムギネ酸類の具体例としては、ムギネ酸、2’-デオキシムギネ酸、3-ヒドロキシムギネ酸、3-エピヒドロキシムギネ酸、ディスティコン酸、エピヒドロキシデオキシムギネ酸及びアベニン酸等、これらの前駆体並びに誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本発明のムギネ酸類金属錯体トランスポーターは、複数種類の金属元素に対し、ムギネ酸類金属錯体トランスポーターとして機能することが可能である。従って、本発明において、ムギネ酸類金属錯体に含まれる金属原子は特に限定されないが、好ましくは、遷移元素に属する金属原子であり、より好ましくは、第一遷移元素(3d遷移元素:スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛)に属する金属原子であり、さらに好ましくは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛である。鉄は、鉄(II)又は鉄(III)のいずれでもよいが、好ましくは、鉄(III)である。 ムギネ酸類金属錯体は、Schaaf, G. et al (J. Biol. Chem. 279: 9091-9096 (2004))の記載に沿って作製することができる。
【0031】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたとは、同一配列中の任意かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1若しくは複数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、o−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸;C群:アスパラギン、グルタミン;D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸;E群:プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン;F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0032】
また、本発明のタンパク質は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、Advanced Automation Peptide Protein Technologies社製、Perkin Elmer社製、、Protein Technologies社製、PerSeptive社製、Applied Biosystems社製、SHIMADZU社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0033】
3.本発明のベクター及びこれを導入した形質転換体
本発明はまた、別の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを提供する。
本発明のベクターは、通常、
(i)宿主細胞内で転写可能なプロモーター;
(ii)該プロモーターに結合した、上記(a)〜(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;及び
(iii)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、宿主細胞内で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセット
を含むように構成される。
このように構築されるベクターは、宿主細胞に導入される。発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ又はコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0034】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明のポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明のポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
本発明の発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター及び/又は複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。アフリカツメガエル卵母細胞用の発現ベクターの例としては、pSP64 poly A (Promega, Madison, WI, USA)が挙げられる。また動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、栄養要求性マーカー(ura5、niaD)、薬剤耐性マーカー(hygromycine、ゼオシン)、ジェネチシン耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)(Marin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 81, p. 337, 1984)、セルレニン耐性遺伝子(fas2m, PDR4)(それぞれ、猪腰淳嗣ら, 生化学, vol. 64, p. 660, 1992;Hussain et al., Gene, vol. 101, p. 149, 1991)などが利用可能である。
発現ベクターは、本発明のポリペプチドを細胞膜移行シグナル配列と結合した形で発現するものであってもよい。
【0035】
また、本発明は、本発明のポリヌクレオチド(例えば、前記(a)〜(e)のいずれかのポリヌクレオチド)が導入された形質転換体を提供する。
形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されないが、例えば、上述した組換えベクターを宿主に導入して形質転換する方法が挙げられる。ここで用いられる宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができる。上記の宿主細胞のための適切な培養培地及び条件は当分野で周知である。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞で例示した各種微生物、植物又は動物が挙げられる。
宿主細胞の形質転換方法としては一般に用いられる公知の方法が利用できる。例えば、エレクトロポレーション法(Mackenxie, D. A. et al., Appl. Environ. Microbiol., vol. 66, p. 4655-4661, 2000)、パーティクルデリバリー法(特開2005-287403「脂質生産菌の育種方法」に記載の方法)、スフェロプラスト法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 75, p. 1929, 1978)、酢酸リチウム法(J. Bacteriology, vol. 153, p. 163, 1983)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法)で実施可能であるが、これらに限定されない。
【0036】
その他、一般的なクローニング技術に関しては、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Methods in Yeast Genetics、A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)"等を参照することができる。
【0037】
本発明の別の態様において、形質転換体は、植物形質転換体であり得る。本実施形態に係る植物形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入することによって取得される。
組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーターを有するベクター又は外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。
【0038】
植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウィルスの35S RNAプロモーター、rd29A遺伝子プロモーター、rbcSプロモーター、前記カリフラワーモザイクウィルスの35S RNAプロモーターのエンハンサー配列をアグロバクテリウム由来のマンノピン合成酵素プロモーター配列の5’側に付加したmac-1プロモーター等が挙げられる。
【0039】
外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターの例としては、mouse mammary tumor virus(MMTV)プロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター、メタロチオネインプロモーター及びヒートショックプロテインプロモーター等が挙げられる。
【0040】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)又は植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、単子葉植物綱又は双子葉植物綱に属する植物のいずれでもよい。
【0041】
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。例えば、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法が周知である。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著、植物遺伝子操作マニュアル(1990)27〜31頁、講談社サイエンティフィック、東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagel et alの方法(Micribiol. Lett., 67: 325 (1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlant Molecular Biology Manual(Gelvin, S.B. et al., Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞又は植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行う場合には、バイナリーベクター(pBI121又はpPZP202など)を使用することができる。
【0042】
また、遺伝子を直接植物細胞又は植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法が知られている。パーティクルガンを用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物又は試料によって異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
遺伝子が導入された細胞又は植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。
【0043】
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、組換えベクターを遺伝子銃、エレクトロポレーション法などで培養細胞に導入する。形質転換の結果得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0044】
遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた形質転換植物体が一旦取得されれば、当該植物体の有性生殖又は無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該植物体又はその子孫、あるいはこれらのクローンから、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物体を量産することができる。従って、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された植物体、若しくは当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、又はこれら由来の組織も含まれる。
【0045】
また、種々の植物に対する形質転換方法が既に報告されている。本発明に係る形質転換体植物としては、ナス科植物(例えば、ナス、トマト、トウガラシ、ジャガイモ、タバコ、チョウセンアサガオ、ホオズキ、ペチュニア、カリブラコア、ニーレンベルギア等)、マメ科植物(例えば、ダイズ、アズキ、ラッカセイ、インゲンマメ、ソラマメ、ミヤコグサ等)、バラ科植物(例えば、イチゴ、ウメ、サクラ、バラ、ブルーベリー、ブラックベリー、ビルベリー、カシス、ラズベリー等)、ナデシコ科植物(カーネーション、カスミソウ等)、キク科植物(キク、ガーベラ、ヒマワリ等)、ラン科植物(ラン等)、サクラソウ科植物(シクラメン等)、リンドウ科植物(トルコギキョウ、リンドウ等)、アヤメ科植物(フリージア、アヤメ、グラジオラス等)、ゴマノハグサ科植物(キンギョソウ、トレニア等)ベンケイソウ(カランコエ)、ユリ科植物(ユリ、チューリップ等)、フロウソウ科植物(ペラルゴニウム、ゼラニウム等)、モクセイ科植物(レンギョウ等)、ブドウ科植物(例えば、ブドウ等)、ツバキ科植物(ツバキ、チャノキ等)、イネ科植物(例えば、イネ、オオムギ、コムギ、エンバク、ライムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエ、コウリャン、サトウキビ、タケ、カラスムギ、シコクビエ、モロコシ、マコモ、ハトムギ、牧草等)、クワ科植物(クワ、ホップ、コウゾ、ゴムノキ、アサ等)、アカネ科植物(コーヒーノキ、クチナシ等)ブナ科植物(ナラ、ブナ、カシワ等)、ヒルガオ科植物(ヒルガオ、サツマイモ等)、ゴマ科植物(ゴマ等)、ミカン科植物(例えば、ダイダイ、ユズ、ウンシュウミカン、サンショウ)及びアブラナ科植物(赤キャベツ、ハボタン、ダイコン、シロナズナ、アブラナ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー等)が挙げられる。植物の好ましい例としては、ムギネ酸類を分泌するイネ科植物(例えば、イネ、オオムギ、コムギ、エンバク、ライムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエ、コウリャン、サトウキビ、タケ、カラスムギ、シコクビエ、モロコシ、マコモ、ハトムギ、牧草等)が挙げられる。
【0046】
4.アルカリ土壌で栽培可能な植物をスクリーニングする方法
本発明は、アルカリ土壌で栽培可能な植物をスクリーニングする方法を提供する。具体的には、前記方法は、以下の(1)〜(3)の工程を含む。
(1)被検植物からポリヌクレオチドを抽出する工程
(2)前記ポリヌクレオチドと、本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせる工程
(3)前記ハイブリダイゼーションを検出する工程
【0047】
上記工程(1)は、被検植物から、ゲノムDNA又はmRNA等のポリヌクレオチドを抽出することにより行うことができる。本発明のポリヌクレオチドは、植物体の根及び地上部分のいずれにおいても発現しているので、ポリヌクレオチドの抽出に用いる植物体の部位は特に限定されない。mRNAを抽出した場合には、逆転写することにより、mRNA からcDNAを調製してもよい。
【0048】
工程(2)は、上記で抽出したポリヌクレオチドに対し、本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブ又はプライマーとして、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることにより行うことができる。ストリンジェントな条件は、既に述べたとおりである。
【0049】
工程(2)において本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして用いた場合には、工程(3)は、通常のサザンブロッティング、ノーザンブロッティング、マイクロアレイ、Fluorescent In Situ Hybridization(FISH)等のハイブリダイゼーション検出方法により行うことができる。一方、工程(2)において本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドをプライマーとして用いた場合には、工程(3)は、PCR増幅反応を行い、得られた増幅産物を電気泳動又はシークエンシング等によって解析することにより、ハイブリダイゼーションを検出することができる。
【0050】
5.本発明のタンパク質の製造方法
本発明はまた、別の実施形態において、上記の形質転換体を用いる本発明のタンパク質の製造方法を提供する。
具体的には、上記形質転換体の培養物から、本発明のタンパク質を分離・精製することによって、本発明のタンパク質を得ることができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体若しくは培養細胞、又は培養菌体若しくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明のタンパク質の分離・精製は、通常の方法に従って行うことができる。
具体的には、本発明のタンパク質が培養菌体内若しくは培養細胞内に蓄積される場合には、培養後、通常の方法(例えば、超音波、リゾチーム、凍結融解など)で菌体若しくは細胞を破砕した後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により本発明のタンパク質の粗抽出液を得ることができる。本発明のタンパク質が培養液中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により菌体若しくは細胞と培養上清とを分離することにより、本発明のタンパク質を含む培養上清を得ることができる。
このようにして得られた抽出液若しくは培養上清中に含まれる本発明のタンパク質の精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法及び限外ろ過法等を、単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されない。
【0052】
HvYS2 cDNAのクローニング
(1) Total RNAの抽出 Ueno, D. et al (J. Exp. Bot. 60: 3513-3520 (2009))の記載に沿って、播種後2週間オオムギ(品種Morex)を栽培した。鉄欠乏処理は播種後1週間目から完全培地から鉄源を抜き取った水耕溶液で栽培することにより行った。Plant RNeasy Kit (Qiagen)を用いて、根又は葉からtotal RNAを抽出し、SuperScripts III (invitrogen)を用いて逆転写を行うことでcDNAを調製した。逆転写反応には、以下のプライマーを用いて、下記の条件で行った。

5’- GGAACCCACAGAAGTCGCCG - 3’ for SP1 (配列番号12)

逆転写反応液組成
cDNA Symthesis buffer:_4μl
Deoxynucleotide mixture:_2μl
cDNA Synthesis primer (配列番号12) :_1μl
totalRNA(1μg/μl):_1μl
DMSO (最終濃度1%):_1μl
H2O:11μl

逆転写反応条件
55℃:_60分間
85℃:_5分間

cDNAはQIA quick PCR purification kit(QIAGEN)を用いて精製した。
【0053】
(2) 5’ RACE ムギネ酸類金属錯体トランスポーターであるHvYS1遺伝子のホモログ遺伝子(以下において「HvYS2」)の単離を目的とし、NCBI(URL: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に登録されているオオムギのEST配列の中からオオムギ由来HvYS1遺伝子(配列番号3:アミノ酸配列は配列番号4)と60%以上の配列同一性を有するEST配列の検索を行ったところ、以下のEST配列がヒットした。
【表1】

これらの配列情報を元に 以下のプライマーを作製した。

5’ - GAGCACGGCAGTGGCAGTCC - 3’ for SP2 (配列番号13)
5’- GGTAGGTTAGCTTGTAGTCGATC - 3’ for SP3 (配列番号14)

これらのプライマーを用いて、以下の手順でオオムギ由来cDNAに対して以下の手順で5’ RACE を行った(5’/3’ RACE Kit, 2nd Generation (Roche Applied Science))。

まず、5’/3’ RACE Kitに添付のマニュアルに従い、上記「Total RNAの抽出」で精製したcDNAにPoly(A)を付加した。得られたPoly(A)付加cDNAを用いて、1st-PCR及び2nd-PCR反応を行った。

1st-PCR反応液組成
Poly(A)付加cDNA:5μl
Oligo dT-Anchor primer(5’/3’ RACE Kitに付属) :1μl
プライマー(配列番号13):1μl
dNTPs:3μl
10×バッファー:5μl
Ex-Taq(Takara):0.2μl
H2O:34.8μl

1st-PCR反応条件
94℃:2分間
[94℃:15秒間―55℃:30秒間―72℃:1分30秒間]×35サイクル
72℃:7分

2nd-PCR反応液組成
1st-PCR増幅産物の20倍希釈物:1μl
PCR Anchor primer(5’/3’ RACE Kitに付属) :1μl
プライマー(配列番号14):1μl
10×バッファー:5μl
dNTPs:3μl
Ex-Taq(Takara):0.25μl
H2O:38.75μl

2nd-PCR反応条件
94℃:2分間
[94℃:30秒間―58℃:30秒間―72℃:1分20秒間]×30サイクル
72℃:7分間

【0054】
上記5’RACE法ではHvYS2の開始コドンを含む配列の取得ができなかったので、
Tail-PCR法(Yao-Guang, L. et al., The Plant Journal 8: 457-463 (1995))によりHvYS2の5’末端側の取得を試みた。
Yao-Guang, L. et al.に記載される以下の3種類のプライマー:

tail-PCR 5’- NGTCGASWGANAWGAA- 3’ for tail1 (配列番号15)
5’- GTNCGASWCANAWGTT- 3’ for tail2 (配列番号16)
5’- WGTGNAGWANCANAGA- 3’ for tail3 (配列番号17)

及びこれまでに取得できたHvYS2の5’側ポリヌクレオチドのシーケンスにより得られた配列情報を基に作製した以下のプライマー:

5’- GTGTTCTCCTGGCGGGTGAA - 3’ for GSP14 (配列番号18)
5’- GTGGGGACGAGCCCCGTGGTGAGG- 3’ for GSP11 (配列番号19)
5’- CATGACGATCACGGTGTACA - 3’ for GSP12 (配列番号20)

を用いてtail-PCRを行った。tail-PCRの条件は、以下の通りである。

1st-tail-PCR反応液組成
gDNA:1μl
10×バッファー:2μl
dNTPs:1.6μl
プライマー (10 μM)(配列番号18):0.4μl
変性プライマー (100 μM)(配列番号15〜17のいずれか1種類):1μl
EX-Taq (Takara) :0.2μl
H2O:13.8μl

1st-tail-PCR反応条件
94℃:2分間
[94℃:1分間―65℃:1分間―72℃:3分間]×5サイクル
94℃:1分間
30℃:1分間
72℃:3分間
[94℃:30秒間―68℃:1分間―72℃:3分間―94℃:30秒間68℃:1分間
―72℃:3分間―94℃:30秒間―44℃:1分間―72℃:3分間]×13サイクル
72℃:7分間

2nd-tail-PCR反応液組成
1st-tail-PCRのPCR産物:1μl
10×バッファー:_2μl
dNTPs:1.6μl
プライマー (10 μM)(配列番号19):0.4μl
変性プライマー (100 μM)(配列番号15〜17のいずれか1種類):0.8μl
EX-Taq (Takara) :0.16μl
H2O:14.04μl

2nd-tail-PCR反応液条件
[94℃:2分間―94℃:30秒間―68℃:1分間―72℃:3分間―
94℃:30秒間―68℃:1分間―72℃:3分間―94℃:30秒間―
44℃:1分間―72℃:3分間]×13サイクル
72℃:4分間

3rd-tail-PCR反応液組成
2nd-tail-PCRのPCR産物:1μl
10×バッファー:2μl
dNTPs 1.6μl、プライマー (10 μM)(GSP11) :0.4μl
変性プライマー (100 μM)(配列番号15〜17のいずれか1種類):0.8μl
EX-Taq (Takara) :0.16μl
H2O:14.04μl

3rd-tail-PCR反応液条件
[94℃:2分間―94℃:30秒間―68℃:1分間―72℃:3分間―
94℃:30秒間―68℃:1分間―72℃:3分間―94℃:30秒間―
44℃:1分間―72℃:3分間]×13サイクル
72℃で4分間

上記tail-PCRの結果、5’末端側に開始コドンと推定される塩基配列を取得することができた。
【0055】
(3) 3’ RACE さらに、HvYS2の3’UTRを取得するために配列番号5〜11を参考にして以下のプライマーを設計して3’RACE法を行い(3’RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends(Invitrogen))、シーケンスによりヌクレオチド配列を解析した:

5’- GTGGTACTTCGTGGTGATCGCCTACCT -3’ (配列番号23)
5’- acctcatgcacgacttcaagacggc -3’ (配列番号24)

まず、上記キット付属のマニュアルに従ってcDNAを合成し、このcDNAを鋳型として以下のようにPCRを行った。

1st-PCR反応液組成
cDNA:2μl
5×PCRバッファー:10μl
dNTPs:4μl
プライマー 5’側(配列番号23):1.5μl
プライマー 3’側(AUAP (上記キットに付属)):1.5μl
Prime STAR HS DNA Polymerase:0.5μl
H2O:30.5μl

1st-PCR反応条件
94℃で3分間
[98℃で10秒間―60℃で15秒間―72℃で1分間]×30サイクル

2nd-PCR反応液組成
1st-PCRの増幅産物:2μl
5×PCRバッファー:10μl
dNTPs:4μl
プライマー 5’側(配列番号24):1.5μl
プライマー 3’側(AUAP (上記キットに付属)):1.5μl
Prime STAR HS DNA Polymerase:0.5μl
H2O:30.5μl

2nd-PCR反応条件
94℃:3分間
[98℃:10秒間―60℃:15秒間―72℃:1分間]×30サイクル
【0056】
HvYS2の全長配列を取得するために以下のプライマーを用いてPCRを行い、シーケンスによりヌクレオチド配列を解析した:
FWプライマー:5’- caccATGGGCTCACGGCGTTTCCATC -3’ (配列番号21)
RVプライマー:5’- CTAGCTTCCGGGCGTGAACTTCATG -3’ (配列番号22)

PCR反応液組成
cDNA:0.5μl
5×PCRバッファー:10μl
dNTPs:4μl
FWプライマー(配列番号21):1.5μl
RVプライマー:(配列番号22):1.5μl
Prime STAR HS DNA Polymerase:0.5μl
H2O:32μl

PCR反応条件
94℃:1分間
[98℃:10秒間―55℃:5秒間―72℃:2分50秒間]×30サイクル

最終的に本方法により、HvYS2遺伝子の完全長ヌクレオチド配列(配列番号1)及びその推定アミノ酸配列が得られた(配列番号2)。
【0057】
系統樹の作成 これまでに単離されてきているオオムギ、トウモロコシ、イネ及びシロイヌナズナのYellow Stripe Likeタンパク質(YSL)のアミノ酸配列を取得して系統樹を作成した。用いたプログラムはClustalW program(Thompson, J. D., Nucl. Acids Res. 22: 4673-4680 (1994))とMEGA4 program(Tamura, K. et al., Mol Biol Evol 24: 1596-1599 (2007); Kumar, S., Brief Bioinform 9: 299-306 (2008))である。
用いた配列のアクセッション番号は以下のとおりである:
【表2】

【0058】
結果
系統樹を作成した結果(図1)、HvYS2はこれまでに機能が同定されているZmYS1、HvYS1、OsYSL2とOsYSL15が含まれるグループに属することが判明した。また、HvYS2タンパク質は、そのアミノ酸配列において、HvYS1、OsYSL2及びOsYSL16の各タンパク質と、以下の配列同一性を有することが分かった。
【表3】

HvYS2タンパク質とHvYS1タンパク質の推定アミノ酸配列のアライメントを図2に示す。
なお、OsYSL2遺伝子及びOsYSL16遺伝子のヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号25及び27に示すとおりである。OsYSL16の配列、遺伝子発現パターンは既報の論文で紹介されているが、その輸送活性は明らかになっていない。
【0059】
HvYS2遺伝子の発現解析
上記項目「HvYS2 cDNAのクローニング」と同様の条件で、播種後2週間オオムギ(品種Morex)を栽培した。播種後2週間目からオオムギの幼植物体を完全培地、Fe欠乏培地、Cu欠乏培地、Zn欠乏培地に移して1週間処理した。上記項目「HvYS2 cDNAのクローニング」と同様の方法で、各栽培グループのオオムギから、それぞれcDNAを調製した。
上記のいずれかのcDNAを鋳型とし、SYBR Premix Ex Taq II (Perfect Real Time) (TaKaRa)、ABI Prism7000 (AppliedBiosystems)及び以下のHvYS2特異的プライマーを用いてHvYS2遺伝子について定量的PCRを行った:

5’-ACGGATTCCACACACCTCAA- 3’(FW: 配列番号29)
5’-TGGAGGAACCCACAGAAGTC- 3’(RV: 配列番号30)

また、上記と同様の条件で、HvYS1遺伝子の定量的PCRを行った。但し、HvYS1遺伝子には、HvYS1特異的プライマーを用いた。
HvYS1特異的プライマー及び内部標準遺伝子特異的プライマーは、過去の論文を参考に調製した(Murata, Y., The Plant Journal 46: 563-572 (2006); Trevaskis, B., Plant Physiol. 140: 1397-1405 (2006); Ueno, D. et al., J. Exp. Bot. 60: 3513-3520 (2009))。
PCR条件は、以下の通りである。

PCR反応溶液組成
cDNA:2μl
SYBR Premix Ex-TaqII(2×) :10μl
FWプライマー(配列番号29:10 μM) :0.8μl
RVプライマー(配列番号30:10 μM) :0.8μl
ROX dye:0.4μl
H2O:6μl

PCR反応条件
95℃:30秒
[95℃:5秒―60度:31秒]×40サイクル
【0060】
結果
HvYS2の遺伝子発現は、地下部よりも地上部で発現していることが判明した(図3及び図4:HvYS1は根で特異的に発現する)。また、HvYS2遺伝子の発現は、鉄欠乏処理によって誘導されなかった(図3及び図4:HvYS1は鉄欠乏により発現が誘導される)。
HvYS2は、HvYS1とは異なる部位で発現し、また、その発現誘導のメカニズムも異なることから、オオムギ植物体において、HvYS1とは異なる機能を有することが示唆される。HvYS2は、植物体の地上部分で発現されることから、ムギネ酸類金属錯体として地中から吸収された金属の植物体全体への輸送に関与しているものと考えられる。
【0061】
卵母細胞を用いたHvYS2のムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性の測定

上記項目「HvYS2 cDNAのクローニング」で調製したcDNAを鋳型とし、以下のプライマーを用いてHvYS2遺伝子をPCR増幅した。
5’-gctctagagctaccATGGGCTCACGGCGTTTCCATC- 3’ (FW: 配列番号31) 5’-cgcggatccgcgCTAGCTTCCGGGCGTGAACTTCATG -3’ (RV: 配列番号32)

得られた増幅産物を制限酵素 XbaIとBamHIで処理し、アフリカツメガエル卵母細胞用の発現ベクター pSP64 poly A (Promega, Madison, WI, USA)に導入した。以降の実験はこのコンストラクトをテンプレートにして合成されたcRNA (mMESSAGE mMACHINE kit; Ambion)を用いた。
アフリカツメガエル卵母細胞に、50 nlのHvYS2 cRNA (500 ng/ μl), HvYS1 cRNA、 ZmYS1 cRNA又はDEPC処理した水(モック処理(ネガティブコントロール))のいずれかを注入し、16 oC で ND96 buffer(pH 7.6)溶液中で3から4日間インキュベートした。その後、前記卵母細胞を用いて以下のように輸送活性の測定を行った。
【0062】
(1) ムギネ酸類金属錯体の作製
なお、デオキシムギネ酸(DMA)鉄(金属)錯体は、Schaaf, G. et al (J. Biol. Chem. 279: 9091-9096 (2004))の記載に沿って作製した。 また、同様に、銅、亜鉛、ニッケル、マンガン、コバルトのデオキシムギネ酸錯体も作製した。
【0063】
(2) アフリカツメガエル卵母細胞の膜電位測定
HvYS2を発現させた卵母細胞をND-96溶液で充たしたチャンバーにセットし、各基質(ムギネ酸類金属錯体)7.5mMを10 μL添加し(最終濃度50 μM)、その後、電気生理活性を測定した。卵母細胞に2本の3 M KClを充たした微小電極(内部抵抗0.5-2 MΩ)を差し込み、実験槽の電位を0 mVに固定したモードで、Axoclamp-2型二電極電位固定アンプ(アクソン社製)を用いて電位固定した。電流は1 kHzのローパスフィルター(-3dB, 8ポールベッセル型フィルター/サイバー アンプ、アクソン社製)を通し、デジデータ1200型インターフェース(アクソン社製)を用いて10 kHzでサンプリングし、デジタル化して保存した。Chrat 4(Windows(登録商標))で電位の変化を記録及び保存したデータを用いた。固定電位-80 mVで測定した。
【0064】
結果
HvYS2はFe(III)-DMA、Zn(II)-DMA、Ni(II)-DMA、Cu(II)-DMA、Mn(II)-DMA及びCo(II)-DMAのDMA金属錯体を輸送することが判明した(図5)。すでに報告されているHvYS1はFe(III)-DMAを選択的に輸送すると報告されているので、HvYS2の輸送基質の選択性はHvYS1と異なっていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のポリヌクレオチドを植物体に導入すれば、植物体のムギネ酸類金属錯体の取り込み能力が増加する。このため、本来アルカリ土壌では生育できなかった植物種であっても、アルカリ土壌において栽培することが可能になる。また、本発明のポリヌクレオチドをHvYS1遺伝子と組み合わせて植物体に導入した場合、その植物体は、ムギネ酸類金属錯体取り込み能及び植物体全体への金属輸送能が増加し、より一層アルカリ土壌に対する耐性が強化されることが期待される。
【配列表フリーテキスト】
【0066】
配列番号12:合成DNA
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
配列番号15:合成DNA
配列番号16:合成DNA
配列番号17:合成DNA
配列番号18:合成DNA
配列番号19:合成DNA
配列番号20:合成DNA
配列番号21:合成DNA
配列番号22:合成DNA
配列番号23:合成DNA
配列番号24:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(e)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号1の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2のアミノ酸配列において、1〜70個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下の(f)又は(g)のいずれかに記載の請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(f)配列番号2のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(g)配列番号2のアミノ酸配列に対して、95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号1の塩基配列を含有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
DNAである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドが導入された非ヒト形質転換体。
【請求項9】
請求項7に記載のベクターが導入された非ヒト形質転換体。
【請求項10】
植物である、請求項8又は9に記載の非ヒト形質転換体。
【請求項11】
以下の工程を含む、アルカリ土壌で栽培可能な植物をスクリーニングする方法。
(1)被検植物からポリヌクレオチドを抽出する工程
(2)前記ポリヌクレオチドと、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせる工程
(3)前記ハイブリダイゼーションを検出する工程
【請求項12】
請求項8又は9に記載の非ヒト形質転換体を培養することを特徴とする、ムギネ酸類金属錯体トランスポーター活性を有するタンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−5370(P2012−5370A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141792(P2010−141792)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】