説明

メカニカルシール,メカニカルシールの仕上げ方法,遠心分離機用のギアボックス

【課題】例えば遠心分離機のギアボックスに組み込まれるメカニカルシールのように、第1封止環と第2封止環の双方が相対的な速度差をもって回転する形態で使用されるメカニカルシールの漏れの発生を抑制する。
【解決手段】第1封止環と、環状のベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢される第2封止環と、を備えたメカニカルシールであり、前記環状のベローズの外周面が、前記第2封止環が回転することによって発生する遠心力に抗して前記ベローズの外周面を押圧する流体と接するように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばギアボックスに組み込まれるメカニカルシール,メカニカルシールの仕上げ方法,メカニカルシールが組み込まれる遠心分離機用のギアボックスに関し、特に、メイティングリングとステイショナリーリングの双方が回転する使用形態におけるメカニカルシールのシール技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1,2に開示されているギアボックスは、リングギアとシャフト間におけるボウル内部空間に露出している部分を封止するために、メカニカルシールを備えている。メカニカルシールは、例えばシール面(摺動面)同士が接するように配置されるメイティングリングとステイショナリーリング、及びステイショナリーリングをメイティングリングに向けて付勢する弾性部材(例えば、ベローズなど)を備えている。このようなメカニカルシールの構造自体は、技術分野を問わず一般に広く使用されている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、例えばギアボックスに組み込まれるメカニカルシールは、通常の使用形態に比べて漏れを起こす場合が多い。すなわち、通常の使用形態では、シャフト側に配置されるメイティングリングの方だけ回転し、外装体(ハウジング)側に配置されるステイショナリーリングとベローズは静止している。これに対しギアボックスに組み込まれるメカニカルシールは、前記ハウジングに相当するリングギアがボウルと一体的に回転する構造であるため、メイティングリングの方だけでなくステイショナリーリングとベローズも高速で回転することとなる。このような特殊な使用形態である結果、ギアボックスに組み込まれるメカニカルシールは摺動面に片減りが起き易く、通常の使用形態に比べて漏れが発生することが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2008/078396号公報
【特許文献2】特開平5−184973号公報
【特許文献3】特開2000−97349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、本発明は、一例として挙げた上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、例えばギアボックスに組み込まれるメカニカルシールのようにメイティングリングとステイショナリーリングの双方が回転する使用形態において、漏れの発生を抑制することのできる技術を提供することにある。
【0006】
また、本発明の他の目的は、メイティングリングとステイショナリーリングの双方が回転する形態でメカニカルシールを使用する場合に、漏れの発生を抑制することのできるメカニカルシールの仕上げ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るメカニカルシールは、第1封止環と第2封止環の双方が相対的な速度差をもって回転する形態で使用されるメカニカルシールにおいて、前記メカニカルシールが、第1封止環と、環状のベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢される第2封止環と、を備え、前記環状のベローズの外周面が、前記第2封止環が回転することによって発生する遠心力に抗して前記ベローズの外周面を押圧する流体と接するように配置されることを特徴とする。
【0008】
前記メカニカルシールは、例えば、回転するシャフト側に設けられ、前記シャフトと一体的に回転される第1封止環と、前記シャフトの外周を囲む環状のベローズを介してハウジング側に設けられ、前記ベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢されると共に、前記ハウジングと一体的に回転される第2封止環と、を備え、前記環状のベローズの外周面が、前記ハウジング内に形成されている流体供給空間と接するように配置され、前記流体供給空間内に、前記第2封止環が回転することによって発生する遠心力に抗して前記ベローズの外周面を押圧する流体が供給される構成とすることができる。或いは、回転するハウジング側に設けられ、前記ハウジングと一体的に回転される第1封止環と、回転するシャフトの外周を囲む環状のベローズを介して前記シャフト側に設けられ、前記ベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢されると共に、前記シャフトと一体的に回転される第2封止環と、を備え、前記環状のベローズの外周面が、前記ハウジング内に形成されている流体供給空間と接するように配置され、前記流体供給空間内に、前記第2封止環が回転することによって発生する遠心力に抗して前記ベローズの外周面を押圧する流体が供給される構成とすることもできる。
【0009】
本発明に係るメカニカルシールの仕上げ方法は、第1封止環と、環状のベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢される第2封止環の双方が相対的な速度差をもって回転する形態で使用されるメカニカルシールにおける、前記第2封止環の摺動面の仕上げ方法であって、使用時における回転速度よりも大きい回転速度で第2封止環及びベローズを回転させて前記ベローズに遠心力を付与した後、第2封止環の摺動面を研磨処理して平滑にすることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る遠心分離機用のギアボックスは、駆動装置の駆動力によってボウルと一体的に回転されるリングギアと、ギアユニットを介して前記リングギアに連結され、スクリューコンベアと一体的に回転されるシャフトと、前記ボウルの内部空間に露出しているリングギアとシャフト間に配置されるメカニカルシールと、を含む遠心分離機用のギアボックスであって、メカニカルシールが、前記シャフト側に設けられ、前記シャフトと一体的に回転される第1封止環と、前記シャフトの外周を囲む環状のベローズを介して前記リングギア側に設けられ、前記ベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢されると共に、前記リングギアと一体的に回転される第2封止環と、を備え、ギアボックスが、前記ベローズの外周面側に形成され、遠心力に抗して前記ベローズの外周面を押圧する流体が加圧供給される流体供給空間を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シャフトと一体的に回転される第1封止環と、ハウジングと一体的に回転される第2封止環を備えたメカニカルシールにおいて、第2封止環をハウジングに配置するベローズの外周面側に流体を加圧供給することにより、この液圧によってベローズに作用する遠心力を相殺することができる。従って、例えばギアボックスのように、シャフト側に配置される第1封止環と、ハウジング側に配置される第2封止環の双方が回転する使用形態であってもベローズの変形が抑制できるので、摺動面の片減りを防止することが可能となる。
【0012】
さらに本発明に係るメカニカルの仕上げ方法は、予め使用時における回転速度よりも大きい回転速度で第2封止環及びベローズを回転させて前記ベローズに遠心力を付与した後、第2封止環の摺動面を研磨処理して平滑にする。このように、遠心力が付与された状態を予め経験させることによってベローズに塑性変形を起こさせ、この塑性変形した後のベローズによって付勢させる第2封止環の摺動面を研磨処理することにより、第1封止環に対して均等な力が加わる摺動面に仕上げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に従うギアボックスを備えたデカンタである。
【図2】上記ギアボックスの縦断面図である。
【図3】上記ギアボックスに組み込まれるベローズ式のメカニカルシールである。
【図4】上記ギアボックスに組み込まれたメカニカルシールの部分拡大図である。
【図5】上記ギアボックスの作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態によるメカニカルシールについて、例えば遠心分離機用のギアボックスに組み込んだメカニカルシールを一例に挙げ、添付図面を参照しながら詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態によるメカニカルシールを組み込んだギアボックスを有する遠心分離機の全体構成を示す。図1には、遠心分離機の一例として竪型のデカンタ1を示している。デカンタ1は、被処理液に遠心力を付与するための回転筒状体をなすボウル2を備えている。ボウル2は、外装体であるケーシング3内に配置されており、ケーシング3の外部に配置された駆動モーター31によって、ケーシング3内において鉛直軸回りに回転自在である。ボウル2の上部側は、フロントハブと称する円盤部材21が配置されており、この円盤部材21に分離液が排出される排出口(分離液排出口)21aが形成されている。一方、ボウル2の下部側には、固形物が排出される排出口(固形物排出口)22が形成されている。また、駆動モーター31の駆動力は、例えばプーリー32に架け渡された無端の回転ベルト33を通じてボウル2側のプーリー34に伝達される。
【0016】
ボウル2の内部には、固形物を排出口22に向けて搬送するスクリューコンベア4が配置されている。スクリューコンベア4は、ボウル2の回転速度に対して差速をもって鉛直軸回りに回転されることで、螺旋状に形成されたスクリュー羽根41によって固形物を搬送する。そのため、ボウル2とスクリューコンベア4は、差動装置であるギアボックス5によって連結されている。そして、駆動モーター31によってボウル2が回転されると、ギアボックス5を通じて回転速度が変速され、ボウル2の回転速度に対して差速をもってスクリューコンベア5が回転されるように構成されている。一方、ボウル2内には、供給ノズル23を通じて被処理液が連続的に供給されており、これにより固形物が分離された分離液が排出口21aから排出(いわゆるオーバーフロー)される。
【0017】
ボウル2とスクリューコンベア4の下端側は開口しており、回転するボウル2とスクリューコンベア4と接触しないようにして供給ノズル23の先端23aが挿入されている。そして、スクリューコンベア4の内部に形成されている空洞(バッファー)に被処理液を供給すると、スクリューコンベア4の胴部に形成されている液吐出孔42を通じて被処理液がボウル2内に供給される。また、供給ノズル23の先端23aは二重管で形成されており、外側の管がリンス液供給ノズル24に連通している。リンス液は、例えば分離された固形物を洗浄するためにボウル2内に供給することができる。但し、必ずしもリンス液は必要でない。
【0018】
前述のように、スクリューコンベア4は、ボウル2の回転速度に対して相対的な差速をもって回転する。この「相対的な差速をもって回転する」とは、ボウル2の回転速度よりも遅い速度で回転する場合だけでなく、ボウル2の回転速度よりも速い速度で回転する場合も含まれる。このような差速を形成する方法としては、所望の差速が形成されるギア比に設計したり、特許文献1や特許文献2のようにバック駆動モーターを配置してスクリューコンベア4にブレーキトルクをかけたりする方法がある。なお、図1は、バック駆動モーターも用いずに、ギアボックスのギア比のみで差速を形成するタイプのデカンタ1を示している。
【0019】
続いて、図2を参照しながらギアボックス5について詳しく説明する。ギアボックス5は、ボウル2の円盤部材21と接続されたリングギア51を備えている。リングギア51は、ギアボックス5の外装体(ハウジング)を兼ねており、下部側が開口すると共に上部側にシャフト51aが設けられている。このシャフト51aは、ケーシング3の上部を貫通して外部に突出しており、その延長線上にプーリー34が接続される。さらに、ケーシング3外に突出したシャフト51aの部分は、アンギュラベアリングなどの軸受機構(不図示)によって軸支されている。従って、駆動モーター31の駆動力でシャフト51aを回転させることにより、リングギア51とボウル2が一体となって同速度で回転する。なお、シャフト51aとケーシング3の貫通部分は、例えばメカニカルシール(不図示)によって封止されている。
【0020】
リングギア51の内部領域には、太陽ギア52A,遊星ギア52B及びキャリア52Cによって構成される第1のギアユニット52と、同様に太陽ギア53A,遊星ギア53B及びキャリア53Cによって構成される第2のギアユニット53が配置されている。遊星ギア52B(53B)の歯車は、太陽ギア52A(53A)の歯車と歯合している。さらに、遊星ギア52B(53B)の歯車は、リングギア51の内表面に周方向に形成されている歯車とも歯合している。従って、遊星ギア52B(53B)は、自転しながら太陽ギア52B(53B)の回りを公転することができる。また、キャリア52C(53C)は、遊星ギア52B(53B)が太陽ギア52A(53A)の回りを公転回転することと連動して回転されるシャフトを含む。なお、太陽ギア52A(53A)の回りに配置する遊星ギア52B(53B)の数が特に限定されることはないが、例えば4個の遊星ギアを太陽ギアの回りに配置することができる。
【0021】
このような第1及び第2ステージからなる2段構造のギアボックス5は、駆動モーター31の駆動力によってリングギア51が回転(例えば、1500rpm)されると、このリングギア51の駆動力によって第1ステージの遊星ギア52Bが自転しながら太陽ギア52Aの回りを公転し、これにより第1ステージのキャリア52Cが回転される。そして、この第1ステージのキャリア52Cが、第2ステージの太陽ギア53Aを自転させる。一方、リングギア51は、その駆動力によって第2ステージの遊星ギア53Bも公転させている。しかし、前述したように第1ステージのキャリア52Cが第2ステージの太陽ギア53Aを回転させることによって第2ステージの遊星ギア53Bの公転速度が変速されるので、結果として第2ステージのキャリア53Cの回転速度が変速される。このキャリア53Cのシャフト54がスクリューコンベア4と一体的に回転するので、結果的にボウル2とスクリューコンベア4との間に差速が形成されることとなる。ボウル2とスクリューコンベア4の差速は、例えば1〜50rpm程度に設定される。
【0022】
なお、図2に示すギアユニット52,53は、例えば特許文献1にも例示されている第1ステージと第2ステージからなる2段構成であるが、同じく特許文献1に示されるような第1〜第3ステージからなる3段構成であってもよい。
【0023】
本実施形態によるギアボックス5は、リングギア51とシャフト54間におけるボウル2の内部空間に露出している部分を封止するために、メカニカルシール6をさらに備えている。メカニカルシール6は、図3及び図4に示されるように、シール面(摺動面)同士が接するように配置されるメイティングリング61とステイショナリーリング62を備えており、さらにステイショナリーリング62の他端側にベローズ63が接続されている。さらにベローズ63の他端側には、ベローズ63の基台となる支持リング64が接続されている。このような構成のメカニカルシール6は、ベローズ式と称されることが多い。
【0024】
ベローズ63は、ステイショナリーリング62と概ね同径の環状であって、その胴部がいわゆる蛇腹に形成されている。従って、ベローズ63は、その蛇腹の部分の弾性力により発揮されるバネ特性によって、ステイショナリーリング62をメイティングリング61に向けて付勢することができる。メイティングリング61,ステイショナリーリング62,ベローズ63及び支持リング64は、例えばステンレスなどの金属で形成することができる。また、メイティングリング61,ステイショナリーリング62の摺動面は、例えばカーボンや硬質プラスチックなどによって環状に形成された部材(シール部材)61a,62aを各リング61,62の一面に装着することによって形成している。
【0025】
図4は、図2のギアボックス5のおけるメカニカルシール6の部分(拡大部分)を示す図である。メイティングリング61は、スクリューコンベア4と一体的に回転するシャフト54側に、第1の封止環として配置されている。より具体的には、メイティングリング61は、シャフト54の外周面に固着されたフランジ55の一面に接続されている。接続方法は、特に限定されることはなく、溶接等によって固着してもよく、ボルト等の固定手段によって脱着自在なように接続してもよい。従って、前述したギアボックス5の作用を通じてシャフト54が高速回転されると、メイティングリング61もシャフト54と共に高速回転する。
【0026】
一方、ステイショナリーリング62は、ボウル2と一体的に回転するリングギア51側に、第2の封止環として配置されている。より具体的には、ステイショナリーリング62は、支持リング64をリングギア51に接続することによって、ベローズ63を介してリングギア51に弾性的に接続されている。図4の例では、リングギア51の内周面に凹部51aを形成し、この凹部51aの底面に支持リング64を接続している。支持リング64と凹部51aとの接続方法は、溶接等によって固着してもよく、ボルト等の固定手段によって脱着自在なように接続してもよい。従って、駆動モーター31の駆動力によってリングギア51が高速回転されると、ステイショナリーリング62とベローズ63もリングギア51と一体となって高速回転する。このとき、メイティングリング61とステイショナリーリング62のシール面(摺動面)61a,62a同士は、ベローズ63のバネ特性(バネ作用)を利用して摺動自在に圧接されているので、これによりリングギア51とシャフト54の間が封止される。
【0027】
さらに本実施形態によるギアボックス5は、ステイショナリーリング62及びベローズ63の外周面と、リングギア51の表面(図4の場合は凹部51aの内周面)との隙間に流体が加圧供給される構造である。すなわち、図4に示される隙間(65)は、流体が加圧供給される流体供給空間65を形成している。流体としては、太陽及び遊星ギア及びキャリアのための潤滑液を利用することが好ましい。潤滑液としては、例えばギアオイルを用いることができる。この場合、潤滑液の供給は、例えば潤滑液をギアボックス内で強制循環させるための流路66と流体供給空間65とを連通させることによって行うことができる。潤滑液は、例えば、二重管で構成された供給路67を通じてギアボックス5内に供給され、ギアボックス内の流路66等を流れ、供給路67を通じてギアボックス5から排出される。
【0028】
流体は、流体供給空間65内の流体圧Pの値が、好ましくは数式:F=mrω=mv/rで算出される遠心力F以上(P≧F)となるように加圧供給される。遠心分離の実行時に発生する遠心力とのバランスを保つためであるが、詳しい作用については後述する。なお、前記数式において、mはベローズ63の質量であり、rはベローズ63の半径であり、ωは角速度であり、vは速度である。一例として、数式F=mrωで遠心力[単位kgf・m/sec2]を算出し、算出された値を重力加速度g[m/sec2]で除して[kgf]とし、さらに算出された値をベローズ63の外表面積で除することによって圧力Pとすることができる。あるいは、数式F=mv/rで遠心力[単位;N(ニュートン)]を算出し、算出された値をベローズ63の外表面積で除することによって圧力Pとすることができる。さらに、単位換算によって[MPa]とすることができる。
【0029】
さらに好ましくは、流体圧Pが、数式:F=mrω=mv/rで算出される遠心力Fと、ボウル2内のプロセス圧P1の和(=F+P1)と同じか或いは±0.2MPaの範囲内となるように加圧供給する。被処理液の種類や処理条件によって適宜決められることであるが、ボウル2内のプロセス圧P1は、例えば0.7MPaである。
【0030】
(作用)
上記構成のデカンタ1で遠心分離を行う場合、駆動モーター31によってボウル2を回転させ、供給ノズル23を通じてボウル2内に被処理液を供給する。これにより、被処理液に遠心力が付与され、液と固形物との比重差によって、ボウル2の内周面側に固形物が移動する。スクリューコンベア4も駆動モーター31の駆動力によって回転されるが、上述したギアボックス5の作用によってスクリューコンベア4には差速が生じている。スクリューコンベア4がボウル2に対して差速をもって回転することにより、回転するボウル2内において固形物を搬送することができ、排出口22を介して固形物をボウル2外に排出することができる。一方、分離液は、排出口21aを介してボウル2外に排出され、ケーシング3の内周面に形成された液受部35に供給される。そして、ケーシング3の側面に形成されている排出ノズル36を介して装置外に排出される。
【0031】
デカンタ1が前述の動作をするとき、ギアボックス5のメカニカルシール6は、以下のように作用する。すなわち、図5に模式的に示すように、ステイショナリーリング62とベローズ63がリングギア51と共に高速回転するため、ステイショナリーリング62とベローズ63には遠心力Fが作用する。特にベローズ63は、バネ特性を発揮するために蛇腹に形成されているため、この蛇腹の部分が遠心力Fの作用によって外側に膨らもうとする。ベローズ63の蛇腹の部分が外側に膨らんで湾曲してしまうと、ステイショナリーリング62の付勢方向にズレが生じ、付勢力が面内で均一でなくなる。そのため、シール面を形成しているカーボン等の部材62aが片減りを起こし、ついには液漏れを誘発する。従来のメカニカルシールは遠心力によるベローズの変形を許してしまっていたが、本実施形態によるメカニカルシール6は、流体供給空間65に潤滑液を加圧供給することによって、ベローズ63の外周面を回転軸に向けて付勢している。従って、その液圧Pの分だけベローズ63に作用する遠心力が相殺され、ベローズ63の変形が抑制される。液圧Pを遠心力Fと等しくすれば作用する遠心力を略相殺することも可能である。
【0032】
以上のように、本実施形態のギアボックス5によれば、メイティングリング61とステイショナリーリング62の双方が回転するというメカニカルシール6の特殊な使用形態において、ベローズ63に作用する遠心力Fを潤滑液の液圧Pによって相殺可能にした構成である。これにより、本実施形態のギアボックス5は、遠心力Fの作用によってベローズ63が変形することが抑制される。その結果、メイティングリング61とステイショナリーリング62の双方が回転する特殊な使用形態であっても、シール面(特に62a)の片減りが発生するのを抑制することができ、液漏れの発生を防止することが可能となる。
【0033】
このように本実施形態は、遠心力Fがベローズ63に及ぼす影響を抑制することができるので、ステイショナリーリング62とベローズ63を第1封止環としてシャフト54側に配置し、メイティングリング61を第2封止環としてリングギア51側に配置することも可能である。
【0034】
さらに上述の実施形態は、流体供給空間65に加圧供給する流体として潤滑液を用いているが、潤滑液に限定されることはなく、例えば水などを用いることもできる。さらには、必ずしも液体でなくともよく、例えば窒素などの不活性ガスであってもよい。
【0035】
なお、本実施形態によるギアボックス5が組み込まれる遠心分離機は、竪型のデカンタ1に限られず、ボウル2とスクリューコンベア4が水平軸周りに回転する横型のデカンタであってもよい。
【0036】
(メカニカルシールの仕上げ方法)
続いて、上述の実施形態に好適なメカニカルシール6の仕上げ方法について説明する。すなわち、以下に説明するメカニカルシール6の仕上げ方法は、メイティングリング61とステイショナリーリング62の双方が回転される特殊な使用形態のメカニカルシール6に適用することができる。
【0037】
具体的には、図3に示したメカニカルシール6をギアボックス5に組み込む前に、ギアボックス5の使用時における回転速度よりも大きい回転速度でステイショナリーリング62とベローズ63を回転させる(説明の便宜上、「予備回転」と呼ぶ)。例えば使用時の回転速度が1500rpmである場合、例えば2000rpmで予備回転させることができる。そして予備回転を停止させた後、ステイショナリーリング62の摺動面62aを研磨処理して平滑にする加工処理を行う。研磨処理は、ステイショナリーリング62の摺動面62aが、メイティングリング61の摺動面61aに対して平行となるようにする(すなわち、面同士が均一に接するようにする)。かかる加工処理を行った後、メカニカルシール6をギアボックス5に組み込むようにする。なお、前記処理が行われるメカニカルシール6自体は、例えば市販のものであってもよい。
【0038】
なお、予備回転は、ステイショナリーリング62とベローズ63を回転させることのできる専用の装置を製作して行ってもよく、或いはギアボックス5にメカニカルシール6を仮組して実行してもよい。
【0039】
上述したメカニカルシール6の仕上げ方法によれば、メカニカルシール6をギアボックス5に組み込む前に、ステイショナリーリング62とベローズ63を予備回転させてベローズ63を塑性変形させ、塑性変形させた後のベローズ63によって付勢させるステイショナリーリング62の摺動面62aを研磨処理して平滑にすることにより、シール面の片減りが発生するのを抑制することが可能となる。すなわち、予めベローズ63の塑性変形分を取り除いておくことにより、遠心力Fの作用でベローズ63が変形して元に戻らなくなるのを防止する。加えて、装置停止時に遠心力がなくなった際に、液圧Pでベローズ63が内側に膨らんで元に戻らなくなるのを防止する。従って、あとは復元可能な弾性変形の分を液圧Pで抑制すればよく、より確実にシール面(特に62a)の片減りが発生するのを抑制することが可能となる。
【0040】
ここで、上述の実施形態は、メカニカルシールを遠心分離機用のギアボックスに組み込んだ構成を一例に挙げている。しかしながら、第1封止環と第2封止環の双方が相対的な速度差をもって回転する形態で使用されるメカニカルシールであればよく、組み込まれる装置がギアボックスに限定されることはない。他の例としては、スクリューコンプレッサーに組み込むことが一例として挙げられる。
【0041】
以上、本発明を具体的な実施形態に則して詳細に説明したが、形式や細部についての種々の置換、変形、変更等が、特許請求の範囲の記載により規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われることが可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。従って、本発明の範囲は、前述の実施形態及び添付図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載及びこれと均等なものに基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0042】
1 デカンタ
2 ボウル
4 スクリューコンベア
5 ギアボックス
6 メカニカルシール
61 メイティングリング
62 ステイショナリーリング
63 ベローズ
65 流体供給空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1封止環と第2封止環の双方が相対的な速度差をもって回転する形態で使用されるメカニカルシールにおいて、
前記メカニカルシールが、第1封止環と、環状のベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢される第2封止環と、を備え、
前記環状のベローズの外周面が、前記第2封止環が回転することによって発生する遠心力に抗して前記ベローズの外周面を押圧する流体と接するように配置されることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
前記メカニカルシールが、回転するシャフト側に設けられ、前記シャフトと一体的に回転される第1封止環と、前記シャフトの外周を囲む環状のベローズを介してハウジング側に設けられ、前記ベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢されると共に、前記ハウジングと一体的に回転される第2封止環と、を備え、
前記環状のベローズの外周面が、前記ハウジング内に形成されている流体供給空間と接するように配置され、
前記流体供給空間内に、前記第2封止環が回転することによって発生する遠心力に抗して前記ベローズの外周面を押圧する流体が供給されることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記メカニカルシールが、回転するハウジング側に設けられ、前記ハウジングと一体的に回転される第1封止環と、回転するシャフトの外周を囲む環状のベローズを介して前記シャフト側に設けられ、前記ベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢されると共に、前記シャフトと一体的に回転される第2封止環と、を備え、
前記環状のベローズの外周面が、前記ハウジング内に形成されている流体供給空間と接するように配置され、
前記流体供給空間内に、前記第2封止環が回転することによって発生する遠心力に抗して前記ベローズの外周面を押圧する流体が供給されることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
第1封止環と、環状のベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢される第2封止環の双方が相対的な速度差をもって回転する形態で使用されるメカニカルシールにおける、前記第2封止環の摺動面の仕上げ方法であって、
使用時における回転速度よりも大きい回転速度で第2封止環及びベローズを回転させて前記ベローズに遠心力を付与した後、第2封止環の摺動面を研磨処理して平滑にすることを特徴とするメカニカルシールの仕上げ方法。
【請求項5】
駆動装置の駆動力によってボウルと一体的に回転されるリングギアと、ギアユニットを介して前記リングギアに連結され、スクリューコンベアと一体的に回転されるシャフトと、前記ボウルの内部空間に露出しているリングギアとシャフト間に配置されるメカニカルシールと、を含む遠心分離機用のギアボックスであって、
メカニカルシールが、前記シャフト側に設けられ、前記シャフトと一体的に回転される第1封止環と、前記シャフトの外周を囲む環状のベローズを介して前記リングギア側に設けられ、前記ベローズのバネ特性によって第1封止環に対して摺動自在に付勢されると共に、前記リングギアと一体的に回転される第2封止環と、を備え、
ギアボックスが、前記ベローズの外周面側に形成され、遠心力に抗して前記ベローズの外周面を押圧する流体が加圧供給される流体供給空間を備えていることを特徴とする遠心分離機用のギアボックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−7634(P2012−7634A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141762(P2010−141762)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(591162022)巴工業株式会社 (32)
【Fターム(参考)】