説明

メソ多孔性水酸化ニッケルを含む電気化学セル用電極

実質的に金属ニッケルまたは酸化ニッケル非含有のメソ多孔性の水酸化ニッケルを、伝導率を強化する物質および結合剤と共に含む、電気化学セル用電極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の電気化学セルに関する。本電気化学セルは、電池もしくはスーパーキャパシタ、またはその両方であってもよく、陽極として水酸化ニッケル[Ni(OH)2]を使用するものである。本発明によれば、水酸化ニッケルは、好ましくはメソ多孔性材料の形態であり、液晶を鋳型とする経路を用いて製造されている。
【背景技術】
【0002】
本発明において用いられるメソ多孔性材料は、「ナノ多孔体(nanoporous)」と称されることがある。しかしながら、「ナノ」という接頭辞は厳密には10-9を意味するが、このような材料における孔径は一般的に10-8〜10-9mの範囲であるため、それらは、我々が本明細書においてそうしているように「メソ多孔体(mesoporous)」と称することがより適切である。
【0003】
近年、かなりの時間と関心が、様々なタイプの電気化学セル、特にスーパーキャパシタ、電池、および、一体型のスーパーキャパシタ/電池の性能を改善しようとする試みに集中されている。具体的には、2つの要求、すなわち改善された出力密度への要求、および、改善されたエネルギー密度への要求に取り組まれている。
【0004】
本明細書において、用語「電池(battery)」は、その活性成分に含まれる化学エネルギーを、酸化還元(酸化−還元)反応によって電気エネルギーに直接変換する装置というその一般的な意味で用いられることに留意すべきである。電池の基本単位は電気化学セルであり、これは、少なくとも陽極、陰極および電解質を含み、それら全部は包装材料に内包されるだろう。当業界でよく知られるように、セパレーターのようなその他の成分が含まれていてもよい。電池は、1個またはそれより多くの上記セルからなっていもよい。
【0005】
電気化学セル中の陽極の一部として水酸化ニッケルを使用することが知られている。例えば、Nelson等[Journal of the Electrochemical Society,150(10),A1313〜1317(2003)]は、液晶を鋳型とする堆積によるメソ多孔性ニッケルの陽極の製造を説明する。得られたセルの最初の数サイクルの過程で、このようなニッケル層はその水酸化物に変換されるが、これは電気化学的に活性な材料である。しかしながら、電極の大部分(ニッケルを堆積させる基板、この場合は金、を除く)にはニッケル金属が含まれ、水酸化ニッケルは表面を被覆するのみである。
【0006】
Xing等[Acta Chimica Sinica,Vol.63,X,1−X(2005)]は、彼等が「メソ多孔性の水酸化ニッケル」と称する材料の製造を説明しており、この材料を続いて焼成してメソ多孔性の酸化ニッケル(NiO)を得て、続いて、これを電気化学セル用の陽極として用いる。しかしながら、この方法は、本発明にとって必須な液晶を鋳型とする方法を使用していない点に留意すべきである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで我々は、驚くべきことに、電極の活性成分が実質的に水酸化ニッケルのみからなっておりこの水酸化ニッケルが液晶を鋳型とするプロセスによって製造されている、従来の基板に支持された水酸化ニッケルを陽極として用いることにより、改善された出力密度を有する電気化学セルを製造できることを見出した。
【0008】
従って本発明は、実質的に金属ニッケルまたは酸化ニッケル非含有のメソ多孔性水酸化ニッケルを、伝導率を強化する物質(conductivity enhancer)および結合剤と共に含む電気化学セル用電極からなる。
【0009】
本発明はさらに、容器中に陽極、陰極および電解質を含み、該陽極は、実質的に金属ニッケルまたは酸化ニッケル非含有のメソ多孔性水酸化ニッケルを、伝導率を強化する物質および結合剤と共に含む、電気化学セルを提供する。
【0010】
本発明はさらに電気化学セルの製造方法を提供し、本方法は:
(a)液晶を鋳型とする媒体から水酸化ニッケルを堆積させ、メソ多孔性水酸化ニッケルを形成すること;
(b)前記実質的に金属ニッケルまたは酸化ニッケル非含有のメソ多孔性水酸化ニッケルと、伝導率を強化する物質および結合剤とを混合することによって電極を形成すること;および、
(c)工程(b)で形成された電極を、陽極として、電流コレクタに連結させて含む電気化学セルを組み立てること、
を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
「メソ多孔体(mesoporous)」を構造、材料、膜などに対して用いる場合、それぞれ、液晶を鋳型とするプロセスによって作製された構造、材料および膜を意味する。これらは一般的に、規定された位相および実質的に均一な孔サイズ(直径)を有する規則的な孔配置を有することが多い。従って、メソ多孔性の構造、材料および膜は、ナノ構造の構造、材料および膜、または、ナノ構造を有する構造、材料および膜のように説明される場合もある。
【0012】
それゆえに、本発明に従って用いられるメソ多孔性材料は、結晶化が不十分な材料とも異なるし、ばらばらのナノサイズを有する固形粒子を含む複合材料(例えば、一般的に意味するところの凝集したナノ粒子で構成される「ナノ材料(nanomaterials)」)とも異なる。
【0013】
好ましくは、メソ多孔性水酸化ニッケルは、実質的に規則的な孔構造、および、1〜50nmの範囲内の均一な孔サイズを有する。本発明において具体的には、孔の少なくとも75%が、好ましくは平均孔径の60%以内、より好ましくは30%以内、さらにより好ましくは10%以内、最も好ましくは5%以内の孔径を有する。
【0014】
このようなメソ多孔性材料の平均孔サイズは、好ましくは1〜50nm、より好ましくは1〜20nm、最も好ましくは1.5〜12nmである。
メソ多孔性水酸化ニッケルの規則的な孔構造は、例えば、立方晶系、層状、単斜晶系、面心立方、体心斜方晶系、体心正方晶系、菱面体、または、六方晶系であり得る。好ましくは、規則的な孔構造は、六方晶系である。
【0015】
当然のことながら、これらの孔の位相は、理想的な数学的な位相に限定されることはく、液晶鋳型中に存在する構造に関連する膜内の孔の空間的配置に認識し得る程度の構成または位相順序が存在していれば、これらの位相の歪みまたはその他の変化を含んでいてもよい。従って、本明細書で用いられる用語「六方晶系(hexagonal)」は、実験的測定の制限内で数学的に理想的な六方晶系の対称性を示す材料を包含するだけでなく、大部分のチャンネルが実質的に同じ距離で約6つの最隣接のチャンネルによって取り囲まれているのであれば、理想的な状態からの有意な識別可能な偏差を示す材料も包含する。同様に、本明細書で用いられる用語「立方晶系(cubic)」は、実験的測定の制限内で立方晶系の空間群に属する数学的に理想的な対称性を示す材料を包含するだけでなく、大部分のチャンネルが2〜6つの他のチャンネルに連結されているのであれば、理想的な状態からの有意な識別可能な偏差を示す材料も包含する。
【0016】
現在、液晶の特性を用いて鋳型とすることは周知の技術であり、本発明に用いられるメソ多孔性水酸化ニッケルは、この技術によって当業者周知の材料および条件を用いて製造することが可能である。例えば、適切な電気化学析出法は、EP−A−993,512;Nelson等の“Mesoporous Nickel/Nickel Oxide Electrodes for High Power Applications”,J.New Mat.Electrochem.Systems,5,63〜65(2002);Nelson等の“Mesoporous Nickel/Nickel Oxide−a Nanoarchitectured Electrode”,Chem.Mater.,2002,14,524〜529に開示されている。適切な化学沈殿法は、US−A−6,203,925で開示されている。
【0017】
好ましくは、このようなメソ多孔性材料は、リオトロピック液晶相からの化学的または電気化学析出によって形成される。一般的な方法によれば、鋳型は、所定の長鎖界面活性剤および水から望ましい液晶相(例えば六方晶相)に自己集合することによって形成される。適切な界面活性剤としては、オクタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル(C16EO8)が挙げられ、これは、親水性オリゴエーテルの頭部基に結合した長い疎水性炭化水素の尾部を有する。その他の例としては、多分散系の界面活性剤BrijR 56(C16EOn、式中nは〜10)、BrijR 78(C16EOn、式中nは〜20)、および、Pluronic 123(それぞれAldrichより入手可能である)、および、BC−10TX[およそC16(EO)10](日本のNikko Chemicals Co.Ltd.より入手可能である)が挙げられる。高い水溶液濃度(>30%)で、および、用いられる濃度および温度に応じて、それらの水溶液は、別々の親水性および疎水性ドメインからなる望ましいリオトロピック液晶相(例えば六方晶相)で安定化させることができ、ここで水溶液は親水性ドメインに閉じ込められる。また溶解した無機塩(例えば酢酸ニッケル)も親水性ドメインに閉じ込められると予想され、溶液に浸された電極で電気沈殿を起こし、水性ドメイン相構造の直接鋳造物である固形の中間相を形成するだろう。続いて、適切な溶媒中で洗浄して界面活性剤を除去することにより、電気沈殿した固体中に一連の孔が残される。その孔の配置は、選択されたリオトロピック液晶相によって決定される。位相、サイズ、周期性およびその他の孔の特徴は、界面活性剤、溶媒、金属塩、疎水性添加剤、濃度、温度および堆積条件を当業界既知の通りに適切に選択することによって様々に変化させることができる。あるいは、このような水酸化ニッケルは、1種またはそれより多くの上記界面活性剤の存在下での反応によって化学的に形成してもよく、例えば、硫酸ニッケルのようなニッケル塩と、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのようなアルカリとを反応させることによって形成してもよい。
【0018】
メソ多孔性水酸化ニッケルを製造した後、これを用いて電気化学セル中の陽極を形成する。このような水酸化ニッケルは、伝導率を強化する物質(conductivity enhancer)および結合剤と混合される。使用可能な様々なタイプの伝導率を強化する物質および結合剤の性質または数は特に制限されることはなく、これらの目的において一般的に使用されるこのような材料はいずれも、本発明においても等しく使用が可能である。適切な伝導率を強化する物質としては、炭素(その様々な形態で)が挙げられ、特にアセチレンブラックである。適切な結合剤は、ポリテトラフルオロエチレンである。
【0019】
次いで、このような水酸化ニッケルの混合物を、電流コレクタまたは支持体上に置くことが好ましく、このような電流コレクタまたは支持体は、好ましくは金属または炭素であり、より好ましくは、水酸化ニッケルが十分に基板に支持されるのに足りるサイズのセルを含むセル状の構造を有するものである。適切な支持体および電流コレクタは、金属ニッケル、好ましくはニッケル発泡体、または、焼結ニッケル繊維またはプレートである。
【0020】
続いて、これを陽極として用いて電気化学セルを組み立てる。このようなセルの構築は、スーパーキャパシタか電池かにかかわらず当業者周知であるため、ここでの詳細な説明は必要でない。このような陽極を有するセルのための陰極、電解質および容器はいずれも、従来の材料から作製されたものでもよい。最良の結果のためには、陰極は、陽極と同様に、メソ多孔性材料で作製されたものであろう。陰極の適切な材料は、炭素またはカドミウムである。
【0021】
またこのようなセルは、セパレーター、電流コレクタ、および、電気化学セルに一般的に包含されるその他の材料または構造をさらに含んでいてもよい。このようなセルは、一般的に、容器中に組み立てられ、適切な密封材で密封されるだろう。
【0022】
以下の非限定的な実施例で、本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0023】
メソ多孔性Ni(OH)2の合成1
溶融したBC−10TX(12g)を各々含む2個のガラスビーカーを準備した。そのうち一方のビーカーに、水酸化ナトリウム水溶液(8.0mL;3.3M;26.4mmol)を添加し;続いてこの混合物を室温に冷却するまで撹拌した。第二のビーカーに、硫酸ニッケル(II)(6.0mL;1.65M;9.9mmol)、および、塩化コバルト(II)(2.0mL;1.65M;3.3mmol)を含む溶液を添加し、この混合物を室温に冷却するまで撹拌した。次に、これら2種の粘性の混合物を、六方晶相の均質な混合物が得られるまで、撹拌しながら混合した。
【0024】
周囲温度で一晩そのままにした後、この反応混合物を、冷たい脱イオン水(300mL)に添加し、室温で20分間撹拌した。得られた懸濁液を遠心分離(2500rpm;10分間)によって分離し、固体を回収した。次に、この洗浄する手順を60℃以下で水中で3回繰り返し、続いて熱いメタノール中でさらに3回繰り返した。次に、最終的な材料を65℃に保持したオーブン中で一晩乾燥させた。
【0025】
BET解析によって、430m2/gの表面積を有することが解明された。図1に、孔サイズの分布を示す。細孔容積の大半はメソ細孔域の範囲内であり、面心格子は約30Åであった。XPS解析によれば、この材料は、Ni(II)の原子価状態のニッケル、すなわちNi(OH)2からなっていた。金属ニッケルが存在する証拠はなかった。
【実施例2】
【0026】
メソ多孔性Ni(OH)2の合成2
BC−10TX界面活性剤(27.5g)を、70℃で溶融するまで加熱した。溶融した界面活性剤に、ジメチルアミン−ボラン(DMAB,4.4g;75.0mmol)を添加し、この混合物を70℃でさらに1時間加熱した。硫酸ニッケル(II)(16.9mL;1.65M;27.9mmol)、および、塩化コバルト(II)(5.6mL;1.65M;9.2mmol)を含む溶液を製造し、これを溶融した界面活性剤/DMAB混合物に撹拌しながらゆっくり添加した。次に、この反応混合物をさらに5分間加熱し、その後熱を除去し、室温に冷却されるまで撹拌した。
【0027】
周囲温度で2〜3日そのままにした後、この反応混合物を脱イオン水(300mL)に添加し、室温で20分間撹拌した。得られた懸濁液を遠心分離(2500rpm;10分間)によって分離し、固体を回収した。次に、この洗浄する手順を60℃以下で水中で3回繰り返し、続いて熱いメタノール中でさらに3回繰り返した。次に、最終的な材料をオーブン中65℃で一晩で乾燥させた。BET解析では、452m2/gの表面積が示された。
【実施例3】
【0028】
メソ多孔性Ni(OH)2の合成3
BC−10TX界面活性剤(27.5g)を、80℃で溶融するまで加熱した。溶融した界面活性剤に、ジメチルアミン−ボラン(DMAB,4.4g;75.0mmol)を添加し、この混合物を80℃でさらに1時間加熱した。硫酸ニッケル(II)(16.9mL;1.65M;27.9mmol)、および、塩化コバルト(II)(5.6mL;1.65M;9.2mmol)を含む溶液を製造し、溶融した界面活性剤/DMAB混合物に添加した。次に、この反応混合物を室温に冷却するまで撹拌した。
【0029】
周囲温度で2〜3日そのままにした後、この反応混合物を冷たい脱イオン水(300mL)に添加し、室温で20分間撹拌した。得られた懸濁液を遠心分離(2500rpm;10分間)によって分離し、固体を回収した。次に、この洗浄する手順を60℃で水中で3回繰り返し、続いて熱いメタノール中でさらに3回繰り返した。次に、最終的な材料を、65℃以下に保持したオーブン中で一晩乾燥させた。BET解析では、465m2/gの表面積が示された。
【実施例4】
【0030】
複合電極の製造
メソ多孔性水酸化ニッケル(活性物質、実施例1と同様にして製造した)、アセチレンブラック、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用い、それらの(乾燥重量の)組成の比率を80:18:2として、複合電極を製造した。
【0031】
これは、まず最初に、0.18gのアセチレンブラックを、0.8gの水酸化ニッケルおよび0.12mLのプロパン−2−オール(IPA)に添加することによって行われた。これらを乳鉢および乳棒を用いて15分間混合した。混合した材料を、周囲温度で撹拌しながら約3mLのIPAを含むバイアルに移した。次に、得られたスラリーを5分間撹拌し、その後このスラリーを35分間音波破砕した。
【0032】
超音波破砕の後に、このスラリーに0.02gのPTFE結合剤(水中にPTFEを60重量%含む懸濁液として)を添加した。次に、このスラリーを周囲温度で一晩撹拌した。
【0033】
撹拌した後、このスラリーがニッケル発泡体の電流コレクタ上に被覆されるのに望ましい粘度に達するまで、このスラリーを45℃で加熱した。1cm2の幾何学的領域を有する複合電極を、このスラリーをスパーテルを用いてニッケル発泡体(厚さ1.7mm)上に被覆することによって製造した。発泡体がこのスラリーで完全に含浸されたら、この電極をホットプレート上で45℃で20分間乾燥させ、続いて真空中で70℃で1時間乾燥させた。次に、この電極をカレンダー加工し320μmの厚さにした。
【実施例5】
【0034】
複合電極の電気化学的な試験
サイクルを繰り返す前に、Ni(OH)2ベースの複合電極を、真空中で6MのKOH電解質に含浸させた。ニッケルメッシュにプレスした高表面積炭素からなる対電極を含む3電極式の電気化学セルを用いて、複合電極の電気化学的評価を行った。Hg/HgO参照電極を用いて、作用電極の電位をモニターした。電気化学的な性能に関するデータを収集する前に、当業界において一般的に行われているようにして上記電極を調整するか、または、上記電極を電気化学的にサイクルを繰り返すことによって形成した。
【0035】
この複合電極を、0V〜0.5Vの定電流の充放電サイクルと、参照電極との比較によって試験した。まず、セルをC/10レートで150%の充電深度に充電させ、C/10で放電することによって初期容量をチェックすることから着手した。次に、レート試験の電流は、C/10の容量チェックから得られた実用的な放電容量を用いて行われた。レートに関して、電極を以下のレート:C/5、C/2、1C、2C、3C、5C、7C、10C、20C、30C、60C、100C、150C、200C、および250Cで試験した。
【0036】
表1から、放電率としての、メソ多孔性Ni(OH)2ベースの複合電極に関する放電容量の減少(単位はmAh/gであり、C/5レートにおける容量のパーセンテージとして示される)が増加していることが示された。
【0037】
【表1】

【0038】
図2は、1Cレート(1時間の放電時間)でのメソ多孔性Ni(OH)2ベースの複合電極に関する定電流放電データを示す。このレートでの容量は、198mAh/gであった。
【0039】
図3は、放電率の関数として、厚さ320μmのメソ多孔性Ni(OH)2ベースの複合電極の放電容量の減少(保持された最大容量のパーセンテージとして示される)と、市販の材料の放電容量の減少との比較を示す図である。このメソ多孔性の複合電極は明らかに、市販のNi(OH)2ベースの複合電極と比較して高い放電レートで優れた容量保持を有し、高い電力性能を示した。電極Aは、ニッケル金属−ヒドリド電池で用いられる厚さ約800μmを有する市販の複合陽極である。電極Bは、スーパーキャパシタのセルで用いられる厚さ約500μmの複合陽極である。電極Cは、市販のスーパーキャパシタのセルで用いられる厚さ約320μmの陽極である。電極Dは、市販の電池グレードのNi(OH)2ベースの粉末を用いて製造された厚さ390μmの複合電極であり、それと同じ複合材料の製造法は、実施例4で説明されている。
【0040】
電極Dに比べて、メソ多孔性Ni(OH)ベースの電極は高い放電レートで優れた容量保持を有することから、前者の優れた性能は、メソ多孔性材料の使用によるものであって、複合電極の製造法によるものではないことが実証される。
【実施例6】
【0041】
Ni−Cdセルの構築および試験
Ni−Cd電池における陽極としてのメソ多孔性Ni(OH)2ベースの複合電極の評価を行った。まず、実施例4で製造されたNi(OH)2ベースの複合電極を、真空中で6MのKOH電解質に含浸させた。次に、6MのKOHに浸漬した厚さ150μmの繊維状のセパレーターを、市販のNi−Cdセルから得たNi(OH)2電極とCdベースの陰極との間に挟むことによって、この電極をセルの組み立て品に用いた。次に、組み立てられたセルを、電気化学的な評価のために包装した試験セルに挿入した。
【0042】
メソ多孔性Ni(OH)2−Cdセルを、0.6V〜1.4Vの定電流の充放電サイクルによって試験した。まず、セルをC/10レートで150%の充電深度に充電させ、C/10レートで放電することによって初期容量をチェックすることから着手した。次に、C/10の容量チェックから得られた実用的な放電容量を用いてレート試験を行った。レートに関して、この電極を7Cレートで試験し、放電中の電圧をモニターした。
【0043】
図4は、7Cレートでの放電中の、メソ多孔性Ni(OH)2を含むNi−Cdセルの容量保持能力と、市販のNi(OH)2(実施例5の電極D)を用いたセルの容量保持との比較を示す図である。このレートにおいて、メソ多孔性Ni(OH)2を用いたセルは、その全(C/10)容量の80%を保持するが、市販のNi(OH)2を含むセルは、その全容量のわずか31%しか保持しなかった。これは、メソ多孔性Ni(OH)2電極は、従来のNi(OH)2材料よりも有意に高い電力を実現できることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、実施例1の生成物の孔サイズの分布を示す。
【図2】図2は、1Cレート(放電時間は1時間)における実施例5のメソ多孔性Ni(OH)2ベースの複合電極に関する定電流放電データを示し;
【図3】図3は、実施例5の厚さ320μmを有するメソ多孔性Ni(OH)2ベースの複合電極の放電容量の減少と、商業的に供給された材料の放電容量の減少(保持された最大容量のパーセンテージとして示される)とを放電率の関数として比較する。
【図4】図4は、実施例6のメソ多孔性Ni(OH)2を含むNi−Cdセルの容量保持能力と、市販のNi(OH)2を用いたセルの容量保持とを比較する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に金属ニッケルまたは酸化ニッケル非含有のメソ多孔性水酸化ニッケルを、伝導率を強化する物質および結合剤と共に含む、電気化学セル用電極。
【請求項2】
前記メソ多孔性水酸化ニッケルが、1〜50nmの範囲内の孔サイズを有する、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記メソ多孔性水酸化ニッケルが、1〜20nmの範囲内の孔サイズを有する、請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記メソ多孔性水酸化ニッケルが、1.5〜12nmの範囲内の孔サイズを有する、請求項3に記載の電極。
【請求項5】
孔の少なくとも75%が、平均孔径の60%以内の孔径を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の電極。
【請求項6】
孔の少なくとも75%が、平均孔径の30%以内の孔径、好ましくは10%以内の孔径を有する、請求項5に記載の電極。
【請求項7】
孔の少なくとも75%が、平均孔径の5%以内の孔径を有する、請求項6に記載の電極。
【請求項8】
前記電極が基板に支持されている、請求項1〜7のいずれかに記載の電極。
【請求項9】
前記基板が、電流コレクタとして作用する、請求項8に記載の電極。
【請求項10】
前記基板が多孔性金属であり、それらの孔中に前記水酸化ニッケルが存在する、請求項8または9に記載の電極。
【請求項11】
前記基板がニッケル製である、請求項8〜10のいずれかに記載の電極。
【請求項12】
容器中に陽極、陰極および電解質を含む電気化学セルであって、
該陽極は、実質的に金属ニッケルまたは酸化ニッケル非含有のメソ多孔性水酸化ニッケルを、伝導率を強化する物質および結合剤と共に含む、
上記電気化学セル。
【請求項13】
前記電極が、請求項2〜11のいずれかで定義されたものである、請求項12に記載の電気化学セル。
【請求項14】
電気化学セルの製造方法であって、該方法は:
(a)液晶を鋳型とする媒体から水酸化ニッケルを堆積させ、メソ多孔性水酸化ニッケルを形成すること;
(b)前記実質的に金属ニッケルまたは酸化ニッケル非含有のメソ多孔性水酸化ニッケルと、伝導率を強化する物質および結合剤とを混合することによって電極を形成すること;および、
(c)工程(b)で形成された電極を、陽極として、電流コレクタに連結させて含む電気化学セルを組み立てること、
を含む、上記方法。
【請求項15】
前記電極が、請求項2〜11のいずれか一項に記載で定義されたものである、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−526356(P2009−526356A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553828(P2008−553828)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000445
【国際公開番号】WO2007/091076
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(507226606)ナノテクチャー・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】