説明

メタクリル酸製造用触媒

【課題】メタクリル酸を高収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒を提供する。
【解決手段】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン元素、リン元素、銅元素、並びに、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるZ元素、を含むメタクリル酸製造用触媒であって、前記触媒を300℃でメタクロレインを含む雰囲気に接触させた後、300℃を維持して空気雰囲気に接触させた際の銅K吸収端X線吸収微細構造スペクトルを1階微分して得られるパターンが、8982eVから8985eVの領域に極大を示す第1ピークの強度の最大値をm、8990eVから8993eVの領域に極大を示す第2ピークの強度の最大値をnとしたとき、m/nの値が1.8≦m/n≦4.4であるメタクリル酸製造用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するためのメタクリル酸製造用触媒(以下、単に「触媒」とも記す。)、及び該触媒を用いたメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒としては、モリブデン及びリンを含むヘテロポリ酸系触媒が知られている。このようなヘテロポリ酸系触媒としては、カウンターカチオンがプロトンであるプロトン型ヘテロポリ酸、及びそのプロトンの一部をセシウム、ルビジウム、カリウム等のアルカリ金属で置換し、ヘテロポリ酸塩にしたものが知られている(以下、プロトン型ヘテロポリ酸を単に「ヘテロポリ酸」とも言い、プロトン型ヘテロポリ酸及び/又はヘテロポリ酸塩を「ヘテロポリ酸(塩)」とも言う。)。なお、プロトン型ヘテロポリ酸は水溶性であるが、プロトンがアルカリ金属で置換されたヘテロポリ酸塩はこれらカチオンのイオン半径が大きいため、一般に水に難溶性である。
【0003】
例えば、非特許文献1には、ヘテロポリ酸(塩)の構造として、以下のような記載がある。
(a)ヘテロポリ酸(塩)は中心に異種元素があり、酸素を共有して縮合酸基が縮合して形成される単核又は複核の錯イオンを有している。縮合形態は数種類知られており、リン、ヒ素、ケイ素、ゲルマニウム、チタン等が中心元素となり得る。
【0004】
またヘテロポリ酸系触媒を用い、メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒や、その製造方法に関して、例えば特許文献1〜3には以下の内容が開示されている。
(b)触媒として、リン、モリブデン及びヒ素を含有するヘテロポリ酸系の組成物とモリブデン酸銅及び/又はモリブデン酸銀とからなる混合物を使用することを特徴とする不飽和酸の製造法が開示されている(特許文献1)。
(c)触媒として、少なくともモリブデン、リン、バナジウム及び銅を含む固体酸と300〜800℃で熱処理して得られた少なくともモリブデン及びジルコニウムを含む複合酸化物とからなるメタクリル酸の製造法が開示されている(特許文献2)。
(d)Mo、V、P及びCuを必須の活性成分とする触媒において、該触媒の調製用Cu原料として、その必要量の全部又は一部に酢酸銅を使用したものであることを特徴とするメタクロレインの気相接触酸化によるメタクリル酸製造用触媒が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−210042号公報
【特許文献2】特開2002−95972号公報
【特許文献3】特開2002−233760号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大竹正之,小野田武,触媒,vol.18,No.6(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記従来の触媒は、工業触媒としてはメタクリル酸の収率がいまだ不充分であり、工業触媒として用いるためには、更なるメタクリル酸の収率向上が望まれている。本発明は、メタクリル酸を高い収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒、及びメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高い収率で製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン元素、リン元素、銅元素、並びに、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるZ元素、を含むメタクリル酸製造用触媒であって、
前記触媒を300℃でメタクロレインを含む雰囲気に接触させた後、300℃を維持して空気雰囲気に接触させた際の銅K吸収端X線吸収微細構造スペクトルを1階微分して得られるパターンが、8982eVから8985eVの領域に極大を示す第1ピークの強度の最大値をm、8990eVから8993eVの領域に極大を示す第2ピークの強度の最大値をnとしたとき、m/nの値が1.8≦m/n≦4.4である。
【0009】
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高い収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒、及びそのメタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1、比較例1の触媒についての1階微分X線吸収スペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<メタクリル酸製造用触媒>
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン元素、リン元素、銅元素、並びに、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるZ元素、を含むメタクリル酸製造用触媒であって、前記触媒を300℃でメタクロレインを含む雰囲気に接触させた後、300℃を維持して空気雰囲気に接触させた際の銅K吸収端X線吸収微細構造スペクトルを1階微分して得られるパターンが、8982eVから8985eVの領域に極大を示す第1ピークの強度の最大値をm、8990eVから8993eVの領域に極大を示す第2ピークの強度の最大値をnとしたとき、m/nの値が1.8≦m/n≦4.4である。
【0013】
前記触媒の組成としては特に限定されないが、前記触媒に含まれるリン元素の1モル当量に対する、前記触媒に含まれる銅元素のモル当量の値が0.01以上、0.6以下であることが、触媒の熱安定性の観点から好ましい。特に、前記触媒は下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。なお、下記式(1)の触媒組成は原料の仕込み量から算出した値とする。
【0014】
MoabCucdefg (1)
(式中、Mo、P、Cu及びOはそれぞれモリブデン、リン、銅及び酸素を示す元素記号である。Xはケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、Yはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ジルコニウム、銀、ビスマス、ランタン、マグネシウム及びバリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、Zはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g及びhは各元素の原子比率を表し、a=12のとき、b=0.5〜3、c/b=0.01〜0.6、d=0〜3、e=0〜3、f=0.01〜3であり、gは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)。
【0015】
<銅K吸収端X線吸収微細構造(XAFS)スペクトルの測定方法>
銅K吸収端XAFSスペクトルの測定は、財団法人高輝度光科学研究センター 大型放射光施設 SPring−8のビームラインBL01B1において、下記条件により行う。
X線分光器 :Si(111)二結晶分光器
触媒内部の測定法 :蛍光法XAFS用19素子Ge検出器
エネルギー校正 :8μm銅薄膜の銅K吸収端XAFSスペクトルにおいて、プレエッジピークの吸収強度が最大となるエネルギーを8979.0eVとした。
【0016】
本発明で使用するXAFS解析法では、銅のK吸収端のX線吸収微細構造(XAFS:X−ray Absorption Fine Structure)の測定を行い、このうちのX線吸収近傍構造(XANES:X−ray Absorption Near Edge Structure)部分を解析することにより、金属の電子状態(価数や結合状態)の評価を行うことができる。このようなXAFSの測定方法は、「X線吸収微細構造−XAFSの測定と解析−、日本分光学会測定法シリーズ26、8−10頁」などに記載されている。
【0017】
さらに具体的な測定方法を以下に示す。触媒100mgをメノウ乳鉢を用いて充分に粉砕し、適量の窒化ホウ素を希釈材として加え、さらに混合、粉砕して試料を得る。この試料をステンレス製の鋳型でペレット状にし、ガス導入口、ガス排出口、メタクロレイン注入口、X線入射光窓、蛍光X線透過窓が付いた密閉型のガラス製セル内に固定する。ガラス製セルを300℃に加熱して150分間維持する。ガラス製セルの温度を維持しながら、ガラス製セル内を窒素ガスで置換し、メタクロレイン200μLを注入して150分間維持する。ガラス製セルの温度を維持しながら、ガラス製セル内を窒素ガスで置換し、続いて空気で置換し、10分間維持して試料を再酸化する。この状態の試料に、銅原子が吸収する範囲のX線を照射し、試料から反射した蛍光X線を測定する。ここで、試料前後のX線強度を各々I0及びIとし、X線のエネルギーを横軸に、吸光度μ=ln(I0/I)を縦軸にプロットしたものをX線吸収スペクトルとする。このX線吸収スペクトルを「X線吸収分光法 −XAFSとその応用−、株式会社アイピーシー発行、59−60頁」に記載の方法により規格化し、さらに1階微分して得られるパターンを1階微分X線吸収スペクトルとする。
【0018】
本発明においては、前記1階微分X線吸収スペクトルにおいて、8982eVから8985eVの領域に極大を示す第1ピークの強度の最大値をm、8990eVから8993eVの領域に極大を示す第2ピークの強度の最大値をnとしたとき、m/nの値が、1.8≦m/n≦4.4である。好ましくは、m/nの値が、1.9≦m/n≦2.8である。m/nの値がこの範囲にある触媒のメタクリル酸収率が向上する理由は明らかでないが、m/nの値が前記範囲にあることにより、銅原子の酸化状態、周辺構造が触媒の活性点に対して最適に作用すると考えられる。メタクロレインを注入した状態におけるm/nの値は4.6以上の値を示していることから、再酸化した状態におけるm/nの値が4.6以上であることはメタクロレインを注入した状態を維持していることになり好ましくない。
【0019】
<メタクリル酸製造用触媒の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、例えば以下の方法により製造することができる。なお、本発明は該方法に限定されない。
【0020】
〔調製工程〕
まず、モリブデン原料、リン原料、銅原料及びZ元素原料を含む水溶液又は水性スラリーを調製する。
【0021】
銅原料には、ヘテロポリ酸銅、ビスマス酸銅(Cu(BiO32)及びヒ酸銅(Cu3(AsO42)からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を用いることが好ましい。前記銅原料を使用することでm/nの値を前記範囲とすることができ、再酸化したときの銅原子の酸化状態、周辺構造が触媒の活性点に対して最適に作用し、メタクリル酸収率が向上すると考えられる。ヘテロポリ酸銅としては、Cu3[PMo12402、Cu2[PMo11140]、Cu5[PMo102402、Cu3[PMo9340]、Cu3[AsMo12402、Cu2[AsMo11140]、Cu5[AsMo102402、Cu3[AsMo9340]が好ましい。
【0022】
銅以外の元素の原料としては、特に限定されず、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、及びハロゲン化物等を組み合わせて使用することができる。例えば、モリブデン原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、及び塩化モリブデン等が使用できる。リン原料としては、正リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0023】
Z元素原料は、前記式(1)で表される組成を有する触媒を製造する場合においては、前記式(1)のZ元素の原料となる。Z元素はカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるが、Z元素原料の熱安定性の観点からセシウムが好ましい。カリウム原料としては、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、硝酸カリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。ルビジウム原料としては、炭酸ルビジウム、重炭酸ルビジウム、硝酸ルビジウム、水酸化ルビジウム等が挙げられる。セシウム原料としては、炭酸セシウム、重炭酸セシウム、硝酸セシウム、水酸化セシウム、酸化セシウム等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0024】
各原料の添加量としては、前記式(1)の組成を満たす添加量であることが好ましい。特に、リン元素のモル当量に対する銅元素のモル当量c/b値が、c/b=0.01〜0.6であることが熱安定性の観点から好ましい。
【0025】
前記触媒原料を水に溶解又は分散させて、水溶液又は水性スラリーを調製する。調製される水溶液又は水性スラリーのpHは、4以下が好ましく、2以下がより好ましい。調製される水溶液又は水性スラリーのpHを調整するために、硝酸もしくは硝酸化合物、アンモニア水もしくはアンモニア化合物を添加してもよい。硝酸化合物としては、硝酸アンモニウム等が挙げられる。アンモニア化合物としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。
【0026】
〔乾燥工程〕
次に、水性スラリーを熱処理して乾燥物を調製する。熱処理の方法は特に限定されないが、例えば、スプレードライヤー、スラリードライヤー、ドラムドライヤーを用いる方法や、蒸発乾固して塊状の乾燥物を粉砕する方法等を用いることができる。担持触媒を製造する場合には、乾燥時に担体や乾燥して担体となる成分を加えることで、担体に付着した乾燥物を製造することができる。
【0027】
〔賦形工程〕
得られた乾燥物をそのまま熱処理してもよいが、その乾燥物を賦形し、得られた賦形品を熱処理してもよい。また、乾燥物を後述する熱処理工程で熱処理したものを賦形してもよい。賦形は、前記乾燥物をバインダーや添加剤等と混合した後に行ってもよい。乾燥物又は熱処理した乾燥物の賦形に用いる装置としては、打錠成形機、押出成形機、転動造粒機等の公知の粉体用成形機が挙げられる。賦形品の形状としては特に制限はなく、球状、リング状、円柱状、星型状等の任意の形状が挙げられる。賦形品の大きさとしては、通常、賦形品径が10mm以下であることが好ましい。賦形品径が10mmを超えると、活性が低下する場合がある。また、賦形品径が過度に小さくなると、反応管内の圧力損失が大きくなるため、通常、賦形品径は0.1mm以上であることが好ましい。
【0028】
〔熱処理工程〕
次に、前記乾燥物又は乾燥物の賦形品を熱処理することで、触媒を製造することができる。熱処理条件としては、特に限定はなく、公知の熱処理条件を適用できる。熱処理は、空気等の酸素含有ガス流通下及び/又は不活性ガス流通下で行うことが好ましい。熱処理温度は200〜500℃が好ましく、300〜450℃がより好ましい。また、熱処理時間は0.5時間以上が好ましく、1〜40時間がより好ましい。
【0029】
以上の方法により製造した本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率で製造できる。
【0030】
<メタクリル酸の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、前記本発明に係るメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造することを特徴とする。
【0031】
具体的には、メタクロレイン及び分子状酸素を含む原料ガスと、本発明に係る触媒とを接触させることで、メタクリル酸を製造する。この反応は、通常、固定床反応器で行う。本発明に係る方法に用いる固定床反応器の形式は、特に限定されないが、例えば、多管式熱交換型、単管式熱交換型、自己熱交換型、多段断熱型、断熱型等が挙げられる。工業的には固定床多管式熱交換型反応器が好ましく使用される。
【0032】
触媒層は1層でもよく、2層以上でもよい。本発明に係る触媒は、充填補助材と混合して使用してもよい。充填補助材の材料は特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイト、チタニア、マグネシア、セラミックボールやステンレス鋼等が挙げられる。また、充填補助材の形状は特に限定されず、例えば、ボール状、ラシヒリング状、バネ状、サドル状、インタロックス状、ポールリング状、レッシングリング状やテラレッテパッキング状等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
原料ガス中のメタクロレインの濃度は広い範囲で変えることができ、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。メタクロレインには、水、低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいることがあり、このようなメタクロレインを気化して原料ガスの原料とするとこれらの不純物が原料ガスに含まれることがあるが、本反応に実質的な影響はない。原料ガス中の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4〜4モルが好ましく、0.5〜3モルがより好ましい。なお、分子状酸素源としては、経済性の点から、空気が好ましい。必要であれば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体等を用いてもよい。
【0034】
原料ガスは、メタクロレイン及び分子状酸素源を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに、水蒸気を加えてもよい。水蒸気の存在下で反応を行うことにより、メタクリル酸をより高収率で得ることができる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1〜50容量%が好ましく、1〜40容量%が特に好ましい。
【0035】
原料ガスとメタクリル酸製造用触媒との接触時間は、1.5〜15秒が好ましく、2〜5秒がより好ましい。反応圧力は、大気圧〜数気圧(例えば1MPa−G)が好ましい。反応温度は200〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例中の「部」は質量部を意味する。原料ガス及び生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、及びメタクリル酸の単流収率を下記式にて求めた。
【0037】
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸の選択率(%) =(C/B)×100
メタクリル酸の単流収率(%)=(C/A)×100
式中、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0038】
[実施例1]
(調製工程)
純水400質量部に、三酸化モリブデン88.0質量部、メタバナジン酸アンモニウム5.4質量部、及び85質量%リン酸水溶液7.2質量部を溶解し、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。50℃まで冷却後、回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、重炭酸セシウム14.6質量部を純水25質量部に溶解した溶液を添加し、15分間攪拌した。次いで、炭酸アンモニウム8.3質量部を純水20質量部に溶解した溶液を添加し、さらに15分間攪拌した。次いで、Cu3[PMo12402 13.3質量部を添加し、さらに20分間攪拌した。
【0039】
(乾燥工程)
以上のようにして得られた触媒成分の原料化合物を含有する混合スラリーを、スプレー乾燥機を用いて平均粒径40μmの乾燥球状粒子とした。
【0040】
(賦形工程)
得られた球状粒子形状の触媒材料100質量部を、グラファイト粉末2質量部と混合した後、外径5mm、高さ5mmに打錠成形した。
【0041】
(熱処理工程)
得られた賦形品を空気流通下に380℃で10時間熱処理した。得られた触媒の元素組成(酸素は省略、以下同様)は、次の通りであった。なお、触媒の元素組成は原料の仕込み量から算出した値である。
【0042】
Mo120.81.2Cu0.18Cs1.3
リン元素のモル当量は1.2であり、銅元素のモル当量は0.18であり、リン元素のモル当量に対する銅元素のモル当量c/b値は、0.18/1.2=0.15であった。
【0043】
(XAFSスペクトルの測定)
この触媒を用いて前記XAFS測定を行った。得られた1階微分X線吸収スペクトルの8982eVから8985eVの領域に極大を示す第1ピークの強度の最大値mは0.173であり、8990eVから8993eVの領域に極大を示す第2ピークの強度の最大値nは0.0725であり、m/n値は0.173/0.0725=2.4であった。その1階微分X線吸収スペクトルを図1に示す。
【0044】
(メタクリル酸の製造)
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の原料ガスを反応温度290℃、接触時間3.6秒で通じた。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析してメタクロレイン転化率、メタクリル酸選択率及びメタクリル酸の単流収率を求めた。触媒組成、c/b値、銅原料、m/n値、反応結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
三酸化モリブデン88.0質量部を100.0質量部、85質量%リン酸水溶液7.2質量部を8.0質量部、Cu3[PMo12402 13.3質量部を硝酸銅(II)3水和物2.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸を合成する反応を行った。触媒組成、c/b値、銅原料、m/n値、反応結果を表1に示す。この触媒を用いてXAFS測定により得られた1階微分X線吸収スペクトルを図1に示す。
【0046】
[比較例2]
三酸化モリブデン88.0質量部を82.0質量部、85質量%リン酸水溶液7.2質量部を6.8質量部、Cu3[PMo12402 13.3質量部をH3PMo1240 24.7質量部に変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸を合成する反応を行った。触媒組成、反応結果を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
三酸化モリブデン88.0質量部を100.0質量部、85質量%リン酸水溶液7.2質量部を8.0質量部、Cu3[PMo12402 13.3質量部を酸化銅(II)0.83質量部に変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸を合成する反応を行った。触媒組成、c/b値、銅原料、m/n値、反応結果を表1に示す。
【0048】
[比較例4]
三酸化モリブデン88.0質量部を33.3質量部、85質量%リン酸水溶液7.2質量部を3.6質量部、Cu3[PMo12402 13.3質量部を74.0質量部に変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸を合成する反応を行った。触媒組成、c/b値、銅原料、m/n値、反応結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
三酸化モリブデン88.0質量部を72.5質量部、メタバナジン酸アンモニウム5.4質量部は添加しない、85質量%リン酸水溶液7.2質量部を5.3質量部、85質量%リン酸水溶液に続いて60質量%ヒ酸水溶液8.2質量部を添加、重炭酸セシウム14.6質量部を12.3質量部、Cu3[PMo12402 13.3質量部をCu2PMo11140 33.1質量部に変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸を合成する反応を行った。触媒組成、c/b値、銅原料、m/n値、反応結果を表1に示す。
【0050】
[実施例3]
三酸化モリブデン88.0質量部を100.0質量部、メタバナジン酸アンモニウム5.4質量部を4.1質量部、85質量%リン酸水溶液7.2質量部を7.3質量部、85質量%リン酸水溶液に続いて60質量%ヒ酸水溶液2.7質量部を添加、重炭酸セシウム14.6質量部を12.3質量部、Cu3[PMo12402 13.3質量部をCu(BiO32 8.4質量部に変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸を合成する反応を行った。触媒組成、c/b値、銅原料、m/n値、反応結果を表1に示す。
【0051】
[実施例4]
Cu(BiO32 8.4質量部を26.7質量部に変更した以外は実施例3と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸を合成する反応を行った。触媒組成、c/b値、銅原料、m/n値、反応結果を表1に示す。
【0052】
[実施例5]
三酸化モリブデン88.0質量部を100.0質量部、メタバナジン酸アンモニウム5.4質量部は添加しない、85質量%リン酸水溶液7.2質量部を8.0質量部、85質量%リン酸水溶液に続いて60質量%ヒ酸水溶液9.6質量部を添加し、続いて硝酸鉄(III)九水和物4.7質量部を添加、重炭酸セシウム14.6質量部を重炭酸セシウム7.9質量部と硝酸ルビジウム0.85質量部、Cu3[PMo12402 13.3質量部をCu3(AsO42 1.4質量部に変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸を合成する反応を行った。触媒組成、c/b値、銅原料、m/n値、反応結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、メタクリル酸の収率が高く、メタクリル酸の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン元素、リン元素、銅元素、並びに、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるZ元素、を含むメタクリル酸製造用触媒であって、
前記触媒を300℃でメタクロレインを含む雰囲気に接触させた後、300℃を維持して空気雰囲気に接触させた際の銅K吸収端X線吸収微細構造スペクトルを1階微分して得られるパターンが、8982eVから8985eVの領域に極大を示す第1ピークの強度の最大値をm、8990eVから8993eVの領域に極大を示す第2ピークの強度の最大値をnとしたとき、m/nの値が1.8≦m/n≦4.4であるメタクリル酸製造用触媒。
【請求項2】
前記触媒に含まれるリン元素の1モル当量に対する、前記触媒に含まれる銅元素のモル当量が0.01以上、0.6以下である請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−30212(P2012−30212A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174305(P2010−174305)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】