説明

メタクロレイン製造用酸化物触媒、その触媒の製造方法及びその触媒を用いたメタクロレインの製造方法

【課題】イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールからメタクロレインを製造するに際し、工業触媒として十分な機械強度を有し、炭酸ガス、メタクリル酸の副生を抑制し、メタクロレイン選択率を向上させた新規な触媒とそれを用いるメタクロレイン製造方法の提供。
【解決手段】イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールの気相接触酸化によるメタクロレインの製造に用いるモリブデン、ビスマス、コバルト及び鉄を含有する酸化物触媒であって、触媒前駆体粉末に比表面積が0.5m/g以上の結晶セルロースを混合して成形し、得られた成形体を熱処理して得られた酸化物触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールを分子状酸素含有ガスと反応させてメタクロレインを製造する酸化物触媒とその触媒を用いたメタクロレインの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、イソブチレン又はtert−ブチルアルコールを気相接触酸化してメタクロレインを製造する触媒および方法に関し、数多くの提案がなされている。この中には、触媒細孔を制御する目的で、有機化合物や無機化合物を触媒に添加する例が多く見られる。例えば、特許文献1には、セルロース、ポリビニルアルコール等の有機物質を添加することが、特許文献2には、平均粒径0.01〜10μmのポリメタクリル酸メチルポリメタクリル酸、イソブチル及び/又はポリスチレン等の高分子有機化合物を添加することが、特許文献3には、ガラス繊維、アルミナ繊維およびシリカ繊維等の無機質繊維を添加することがそれぞれ記載されている。
特許文献4には、従来の転動式造粒法、マルメライザー成形法、流動層造粒法等の触媒成形方法に代えて、未焼成触媒粉体を遠心流動コーティング装置によって成形することにより、特定の表面積、細孔容積及び細孔分布を有する球状あるいは粒状触媒を再現性良く製造できることが開示されている。
しかし、これらの触媒は工業触媒としては機械強度が不十分であったり触媒活性の経時低下が大きいなどの欠点を有し、工業触媒としての使用に際しては更に改良が望まれているのが現状である。
【0003】
【特許文献1】特開昭57−119837号公報
【特許文献2】特開平5−23596号公報
【特許文献3】特開2002−273229号公報
【特許文献4】特開昭63−315147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、イソブチレン又はtert−ブチルアルコールからメタクロレインを製造するに際し、工業触媒として十分な機械強度を有し、メタクロレイン選択率を向上させた新規な酸化物触媒とそれを用いるメタクロレインの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、触媒前駆体に比表面積が0.5m/g以上の結晶セルロースを添加して熱処理した酸化物触媒が、この目的に適合しうることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
即ち、本発明は以下に記載の(1)〜(5)である。
【0006】
(1)イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールの気相接触酸化によるメタクロレインの製造に用いるモリブデン、ビスマス、コバルト及び鉄を含有する酸化物触媒であって、触媒前駆体粉末に比表面積が0.5m/g以上の結晶セルロースを混合して成形し、得られた成形体を熱処理して得られた酸化物触媒。
(2)前記結晶セルロースが棒状であることを特徴とする上記(1)に記載の酸化物触媒。
(3)触媒組成が下記一般式で表されることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の酸化物触媒。
(Mo+W)12BiFeSb
Aはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム及びイットリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり;
Bはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり;
Xはコバルト単独、またはコバルトを必須成分として、更にマグネシウム及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む混合物であり;
モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するモリブデン(Mo)の原子数の範囲は9以上12以下であり、タングステン(W)の原子数の範囲は0以上3以下であり;
そしてa、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ、モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するビスマス(Bi)、A、B、鉄(Fe)、X、アンチモン(Sb)及び酸素(O)の原子比率を表し、
0<a≦8、
0<b≦8、
0<c<3、
0.2<d<5、
1≦e≦12、
0≦f<3、
gは存在する他の元素の原子価状態を満足させるのに必要な酸素の原子数である。
(4)前記触媒前駆体粉末と前記結晶セルロースとの混合物の成形前のかさ比重が、該触媒前駆体のかさ比重未満であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の酸化物触媒。
(5)イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールを気相接触酸化させてメタクロレインを製造する方法であって、触媒として上記(1)〜(4)のいずれかに記載の酸化物触媒を用いることを特徴とするメタクロレインの製造方法。
【0007】
(6)イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールの気相接触酸化によるメタクロレインの製造に用いるモリブデン、ビスマス、コバルト及び鉄を含有する酸化物触媒の製造方法であって、触媒前駆体粉末に比表面積が0.5m/g以上の結晶セルロースを混合して成形し、得られた成形体を熱処理することを特徴とする酸化物触媒の製造方法。
(7)触媒組成が、下記一般式で表されることを特徴とする上記(6)に記載の酸化物触媒の製造方法。
(Mo+W)12BiFeSb
Aはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム及びイットリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり;
Bはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり;
Xはコバルト単独、またはコバルトを必須成分として、更にマグネシウム及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む混合物であり;
モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するモリブデン(Mo)の原子数の範囲は9以上12以下であり、タングステン(W)の原子数の範囲は0以上3以下であり;
そしてa、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ、モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するビスマス(Bi)、A、B、鉄(Fe)、X、アンチモン(Sb)及び酸素(O)の原子比率を表し、
0<a≦8、
0<b≦8、
0<c<3、
0.2<d<5、
1≦e≦12、
0≦f<3、
gは存在する他の元素の原子価状態を満足させるのに必要な酸素の原子数である。
(8)前記触媒前駆体粉末と前記結晶セルロースとの混合物の成形前のかさ比重を、該触媒前駆体粉末のかさ比重未満とすることを特徴とする上記(6)または(7)に記載の酸化物触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールからメタクロレインを製造するに際し、工業触媒として十分な機械強度を有し、炭酸ガス及びメタクリル酸の副生を抑制し、メタクロレイン選択率を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
高い透明性と耐候性を持つメタクリル系樹脂の原料としてメタクリル酸メチルは工業上有用な物質である。
原料を用いる代表的なメタクリル酸メチルの製法には、直接酸化法と直メタ法と呼ばれる製造方法がある。直接酸化法とは、イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールを酸化物触媒存在下に酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する前段酸化工程と、その生成物を更にヘテロポリ酸触媒存在下に酸化してメタクリル酸を製造する後段酸化工程、及び製造したメタクリル酸を酸触媒存在下にメタノールとエステル化し、メタクリル酸メチルを製造するエステル化工程の3工程より成る製造方法である。
【0010】
一方、直メタ法とは、イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールを酸化物触媒存在下に酸化してメタクロレインを製造する前段反応工程と、生成したメタクロレインをパラジウム含有触媒存在下にメタノール及び酸素と直接、酸化的エステル化してメタクリル酸メチルを製造する後段反応工程の2工程より成る製造方法である。
【0011】
直接酸化法の場合、前段酸化生成ガス中に後段酸化触媒を被毒し活性を下げる高沸点生成物が含まれるため、これを除去する目的で前段酸化生成ガスを一旦吸収分離した後、後段酸化反応が行なわれている。この時前段酸化工程で生成したメタクリル酸を精製回収するには非常に大きいエネルギーコストを必要とするため、前段酸化工程でのメタクリル酸の生成はむしろ好ましくない。
本発明の酸化物触媒はメタクリル酸の副生を抑制する効果が大きいので、直接酸化法の前段酸化工程用の触媒として好適に用いることができる。また、メタクリル酸を経由しない直メタ法の前段反応触媒としても、特に好適に用いることができる。
【0012】
本発明においては、触媒前駆体粉末を成形する際に、特定の比表面積を持つ結晶セルロースを触媒前駆体に添加することが重要である。すなわち、結晶セルロースの比表面積は0.5m/g以上であることが必要であり、より好ましくは0.5〜100m/gであり、更に好ましくは0.5〜50m/gであり、特に好ましくは0.5〜10m/gである。結晶セルロースの比表面積が0.5m/g未満では、成形触媒の熱処理後の機械強度の向上が少ない傾向があり、メタクロレイン選択率の向上が少ない傾向がある。結晶セルロースの比表面積は、NによるBET測定法により測定できる。
【0013】
本発明における結晶セルロースは、外形が棒状をした結晶セルロースが特に好ましい。棒状とは短径と長径を持ち、短径に対し長径が1.2倍以上長いものであり、それを個数として50%以上含有するものをいう。外形と個数は電子顕微鏡による観測で測定できる。具体的には、添加する結晶セルロースを一部採取し、電子顕微鏡を用いて100個の短径、長径を測定する。
結晶セルロースの添加量は、触媒前駆体と結晶セルロースとの合計に対し、0.1〜20wt%が好ましく、より好ましくは0.5〜10wt%であり、特に好ましくは1〜5wt%である。
【0014】
触媒前駆体に結晶セルロースを添加して得られる混合物の成形前のかさ比重は、触媒前駆体のかさ比重未満とすることが好ましく、より好ましくは触媒前駆体のかさ比重より0.03g/cm以上少なく、特に好ましくは触媒前駆体のかさ比重より0.03〜0.13g/cm少ない範囲である。混合物のかさ比重は、かさ比重計(日本工業規格)により測定できる。かさ比重は、触媒前駆体に対する結晶セルロースの種類や添加量を選択することにより制御できる。
【0015】
次に本発明の触媒を製造する方法について述べる。まず、触媒原料の水溶液又はスラリーを調製して、これを蒸発乾固法、噴霧乾燥法、沈殿法などの公知の方法によって処理して触媒混合物を製造する。特に好ましいのは噴霧乾燥法である。得られた触媒混合物を200〜350℃程度で熱処理して硝酸塩等の触媒原料の塩類を分解して触媒前駆体の粉末を製造し、これに0.5m/g以上の比表面積をもつ結晶セルロースを添加して混合する。十分混合後、公知の方法に従って成形する。特に好ましくは乾式で混合し打錠(圧縮)成形する。
成形された触媒は、250〜600℃程度で0.5〜30時間熱処理される。より好ましくは500〜600℃で3〜12時間熱処理される。この時、添加した結晶セルロースが触媒から除去される。
成形触媒の焼成後の縦方向の圧壊強度は、木屋式強度計で測定できる。
【0016】
触媒原料としては各元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ハロゲン化物などを組合せて使用することができる。例えば、モリブデン原料としてはモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、塩化モリブデン等が使用できる。
【0017】
触媒組成はモリブデン、ビスマス、コバルト及び鉄を含有し、更に下記一般式で表されるものが好ましい。
(Mo+W)12BiFeSb
(Aはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム及びイットリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Bはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Xはコバルト単独、またはコバルトを必須成分として、更にマグネシウム及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む混合物であり、モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するモリブデン(Mo)の原子数の範囲は9以上12以下であり、タングステン(W)の原子数の範囲は0以上3以下であり、そしてa、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ、モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するビスマス(Bi)、A、B、鉄(Fe)、X、アンチモン(Sb)及び酸素(O)の原子比率を表し、0<a≦8、0<b≦8、0<c<3、0.2<d<5、1≦e≦12、0≦f<3、gは存在する他の元素の原子価状態を満足させるのに必要な酸素の原子数である。
また、より好ましくは、酸化物触媒のa、b、c、d及びfが、0.02<b/(a+b+c)<0.6、0<c/(a+b+c)≦0.9、0.01<d/(a+b+d)≦0.9、0.1<d−f<2.5の範囲である。)
【0018】
本発明で得られる酸化物触媒はイソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールを分子状酸素で気相接触酸化する反応に用いられる。反応は固定床、流動床等の公知の方法で行なうことができる。特に好ましくは固定床反応方式であり、工業規模においては多管式固定床反応方式である。反応温度は250〜450℃が好ましい。反応圧力は常圧から数気圧までが好ましい。本発明のメタクロレイン選択率の向上効果は反応圧力が高い方が好ましい結果が得られる。好ましくは0.01〜0.5MPaであり、0.05〜0.2MPaが特に好ましい。酸素のモル数/イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールのモル数は、0.5〜3が好ましい。原料ガスは不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。酸素源としては空気、酸素を用いることができる。水蒸気を1〜10容量%程度入れることもできる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例および比較例によって本発明を説明する。実施例で用いた結晶セルロースは旭化成ケミカルズ製のものである。
尚、実施例、比較例中のイソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールの転化率、生成するメタクロレイン、副生するメタクリル酸、炭酸ガスの選択率は以下の様に定義する。
【0020】
イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールの転化率(%)=(R/F)×100
メタクロレインの選択率(%)=(Pmal/R)×100
メタクリル酸の選択率(%)=(Pmaa/R)×100
炭酸ガスの選択率(%)=(Pco×4/R)×100
R:反応したイソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールのモル数
F:供給したイソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールのモル数
Pmal:生成したメタクロレインのモル数
Pmaa:副生したメタクリル酸のモル数
Pco:副生した炭酸ガスのモル数
又、本反応は酸化反応であるため、転化率に従って選択率が変化する。従って、実施例、比較例は、ほぼ同一転化率での選択率を示した。
【0021】
[実施例1]
モリブデン酸アンモニウム214.5gを純水1000gに添加し攪拌下80℃に昇温した(この水溶液をa液とする)。別に、硝酸ビスマス88.7g、硝酸セリウム17.8g、硝酸コバルト221.7g、硝酸第二鉄73.9g、硝酸ルビジウム1.5g、硝酸セシウム7.9g、18wt%硝酸107gを純水1000gに添加し攪拌下60℃に昇温した(この水溶液をb液とする)。a液にb液を攪拌しながら混合し、スラリーを得、このスラリーを噴霧乾燥器で噴霧乾燥し乾燥粉末を得た。これを250℃で熱処理し触媒前駆体を得た。これに比表面積0.5m/gの棒状の結晶セルロース(短径に対する長径が2倍以上のものを90%以上含有)を、触媒前駆体と結晶セルロースの合計に対し2.5wt%添加した。この混合粉末のかさ比重は、0.78g/cmであった(以降示す全ての実施例、比較例において触媒前駆体のみのかさ比重は、0.81g/cmであった。)。これを打錠成形し、530℃で5時間、空気雰囲気下にて熱処理して酸化物触媒を製造した。得られた酸化物触媒の酸素以外の元素組成を表1に示す。
本触媒を固定床反応管に充填し、前還元処理(温度420℃、常圧下、イソブチレン6vol%、酸素10.8vol%、水蒸気10vol%、ヘリウム73.2vol%の混合ガスを180Ncc/minで供給)した後、イソブチレンからメタクロレインを製造する反応を、反応温度を375℃、反応圧力を0.05MPa、混合ガスを120Ncc/minに変更して行い、生成物をガスクロマトグラフィーで分析した。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0022】
[実施例2]
打錠成形する前に、比表面積0.5m/gの球状の結晶セルロース(短径に対する長径が1.1倍以下のものを90%以上含有)を添加した以外は、実施例1と同様にして同組成の触媒を調製した。成形前の触媒前駆体と結晶セルロースの混合粉末のかさ比重は、0.79g/cmであった。この触媒を用いて実施例1と同条件で反応を行なった。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0023】
[比較例1]
打錠成形する前に、比表面積0.2m/gの球状の結晶セルロース(短径に対する長径が1.1倍以下のものを90%以上含有)を添加した以外は、実施例1と同様にして同組成の触媒を調製した。成形前の触媒前駆体と結晶セルロースの混合粉末のかさ比重は、0.81g/cmであった。この触媒を用いて実施例1と同条件で反応を行なった。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0024】
[比較例2]
打錠成形する前に、結晶セルロースを添加しない以外は、実施例1と同様にして同組成の触媒を調製した。成形前の触媒前駆体のかさ比重は、0.81g/cmであった。この触媒を用いて実施例1と同条件で反応を行なった。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0025】
[実施例3]
打錠成形する前に、比表面積5.0m/gの棒状の結晶セルロース(短径に対する長径が2倍以上のものを90%以上含有)を用いた以外は、実施例1に準じて表1に示す元素組成の触媒を調製した。成形前の触媒前駆体と結晶セルロースの混合粉末のかさ比重は、0.75g/cmであった。この触媒を用いて実施例1と同条件で反応を行なった。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0026】
[比較例3]
打錠成形する前に、比表面積0.05m/gのポリビニルアルコール(和光純薬製、試薬特級)を用いた以外は、実施例3と同様にして同組成の触媒を調製した。成形前の触媒前駆体とポリビニルアルコールの混合粉末のかさ比重は、0.83g/cmであった。この触媒を用いて実施例1と同条件で反応を行なった。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0027】
[実施例4]
打錠成形する前に、比表面積6.0m/gの棒状の結晶セルロース(短径に対する長径が2倍以上のものを90%以上含有)を用いた以外は、実施例1に準じて表1に示す元素組成の触媒を調製した。成形前の触媒前駆体と結晶セルロースの混合粉末のかさ比重は、0.74g/cmであった。この触媒を用いて、反応条件を反応温度420℃、反応圧力0.1MPa、イソブチレン8vol%、酸素11vol%、水蒸気3vol%、ヘリウム78vol%の混合ガスを120Ncc/min供給に変更した以外は実施例1と同条件で反応を行なった。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0028】
[比較例4]
打錠成形する前に、結晶セルロースを添加しない以外は、実施例4と同様にして同組成の触媒を調製した。成形前の触媒前駆体のかさ比重は、0.81g/cmであった。この触媒を用いて実施例4と同条件で反応を行なった。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0029】
[実施例5]
反応原料中のイソブチレンをtert−ブタノールに変更した以外は、実施例1に準じて触媒を調製した。成形前の触媒前駆体と結晶セルロースの混合粉末のかさ比重は、0.78g/cmであった。この触媒を用いて実施例1と同条件で反応を行なった。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0030】
[比較例5]
打錠成形する前に、結晶セルロースを添加しない以外は、実施例5と同様にして同組成の触媒を調製した。成形前の触媒前駆体のかさ比重は、0.81g/cmであった。この触媒を用いて実施例5と同条件で反応を行なった。触媒物性、反応結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールを分子状酸素含有ガスと反応させてメタクロレインを製造する分野において好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールの気相接触酸化によるメタクロレインの製造に用いるモリブデン、ビスマス、コバルト及び鉄を含有する酸化物触媒であって、触媒前駆体粉末に比表面積が0.5m/g以上の結晶セルロースを混合して成形し、得られた成形体を熱処理して得られた酸化物触媒。
【請求項2】
前記結晶セルロースが棒状であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物触媒。
【請求項3】
触媒組成が下記一般式で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物触媒。
(Mo+W)12BiFeSb
Aはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム及びイットリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり;
Bはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり;
Xはコバルト単独、またはコバルトを必須成分として、更にマグネシウム及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む混合物であり;
モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するモリブデン(Mo)の原子数の範囲は9以上12以下であり、タングステン(W)の原子数の範囲は0以上3以下であり;
そしてa、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ、モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するビスマス(Bi)、A、B、鉄(Fe)、X、アンチモン(Sb)及び酸素(O)の原子比率を表し、
0<a≦8、
0<b≦8、
0<c<3、
0.2<d<5、
1≦e≦12、
0≦f<3、
gは存在する他の元素の原子価状態を満足させるのに必要な酸素の原子数である。
【請求項4】
前記触媒前駆体粉末と前記結晶セルロースとの混合物の成形前のかさ比重が、該触媒前駆体のかさ比重未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物触媒。
【請求項5】
イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールを気相接触酸化させてメタクロレインを製造する方法であって、触媒として請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物触媒を用いることを特徴とするメタクロレインの製造方法。
【請求項6】
イソブチレン及び/又はtert−ブチルアルコールの気相接触酸化によるメタクロレインの製造に用いるモリブデン、ビスマス、コバルト及び鉄を含有する酸化物触媒の製造方法であって、触媒前駆体粉末に比表面積が0.5m/g以上の結晶セルロースを混合して成形し、得られた成形体を熱処理することを特徴とする酸化物触媒の製造方法。
【請求項7】
触媒組成が、下記一般式で表されることを特徴とする請求項6に記載の酸化物触媒の製造方法。
(Mo+W)12BiFeSb
Aはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム及びイットリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり;
Bはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり;
Xはコバルト単独、またはコバルトを必須成分として、更にマグネシウム及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む混合物であり;
モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するモリブデン(Mo)の原子数の範囲は9以上12以下であり、タングステン(W)の原子数の範囲は0以上3以下であり;
そしてa、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ、モリブデン(Mo)とタングステン(W)の合計12原子に対するビスマス(Bi)、A、B、鉄(Fe)、X、アンチモン(Sb)及び酸素(O)の原子比率を表し、
0<a≦8、
0<b≦8、
0<c<3、
0.2<d<5、
1≦e≦12、
0≦f<3、
gは存在する他の元素の原子価状態を満足させるのに必要な酸素の原子数である。
【請求項8】
前記触媒前駆体粉末と前記結晶セルロースとの混合物の成形前のかさ比重を、該触媒前駆体粉末のかさ比重未満とすることを特徴とする請求項6または7に記載の酸化物触媒の製造方法。

【公開番号】特開2007−61763(P2007−61763A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253415(P2005−253415)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】