メタノールの製造方法
【課題】本発明は、製造原料中に水、二酸化炭素等が少量存在しても活性低下の度合いが低く、低温、低圧で、連続反応において安定的にメタノールを得る液相でのメタノールの合成方法を提供する。
【解決手段】一酸化炭素、二酸化炭素のいずれか、及び水素を含む原料ガスを反応させてメタノールを製造する方法であって、均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度で存在する条件下で原料ガスの反応を行い、メタノールを得ることを特徴とするメタノールの製造方法である。
【解決手段】一酸化炭素、二酸化炭素のいずれか、及び水素を含む原料ガスを反応させてメタノールを製造する方法であって、均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度で存在する条件下で原料ガスの反応を行い、メタノールを得ることを特徴とするメタノールの製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールの製造方法に関する。さらに詳しくは、一酸化炭素、二酸化炭素のいずれかの炭素源と水素からメタノールを製造する際に、安定性の高い触媒を用いて高効率で生成物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、工業的にメタノールを合成する際には、メタンを主成分とする天然ガスを水蒸気改質して得られる一酸化炭素と水素(合成ガス)を原料とし、銅・亜鉛系等の触媒を用いて固定床気相法にて、200〜300℃、5〜25MPaという厳しい条件で合成される(非特許文献1)。反応機構としては以下に示すように、二酸化炭素の水素化により、メタノール、水が生成し、次いで生成水が一酸化炭素と反応し二酸化炭素と水素が生成(水性ガスシフト反応)する逐次反応であるとする説が一般的に受け入れられている。
【0003】
【化1】
【0004】
本反応は発熱反応であるが、気相法では熱伝導が悪いために、効率的な抜熱が困難であることから、反応器通過時の転化率を低く抑えて、未反応の高圧原料ガスをリサイクルするという効率に難点のあるプロセスとなっている。しかし、合成ガス中に含まれる、水、二酸化炭素による反応阻害は受け難いという長所を活かして、様々なプラントが稼働中である。
【0005】
一方、液相でメタノールを合成して、抜熱速度を向上させる様々の方法が検討されている。中でも、低温(100〜180℃程度)で活性の高い触媒を用いる方法は、熱力学的にも生成系に有利であり、注目を集めている(非特許文献2等)。使用される触媒はアルカリ金属アルコキサイドであるが、これらの方法では、合成ガス中に必ず含有される水、二酸化炭素による活性低下が報告され、何れも実用には至っていない(非特許文献3)。これは、活性の高いアルカリ金属アルコキサイドが反応中に、低活性で安定なギ酸塩等に変化するためである。活性低下を防ぐためにはppbオーダーまで、原料ガス中の水、二酸化炭素を除去する必要があるが、そのような前処理を行うとコストが高くなり現実的ではない。
【0006】
本発明者らはこれまでに、水、二酸化炭素による活性低下が小さい触媒として、アルカリ金属アルコキサイドを除くアルカリ金属系触媒とアルカリ土類金属系触媒の一方又は双方を水素化分解触媒と共存させて使用する系を見出している(特許文献1)。本特許では、水素化分解触媒としてはCu/Mn、Cu/Re等が有効であると記載されている。しかし、その後の検討において、Cu/MgOが特に高い活性を示すことを見出したが、活性の経時劣化があることも併せて判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-862701号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. C. J. Bart, et al., Catal. Today, 2, 1 (1987)
【非特許文献2】大山聖一, PETROTECH, 18(1), 27 (1995)
【非特許文献3】S. Ohyama, Applied Catalysis A: General, 180, 217 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決することを目的とするものであり、メタノールの合成原料ガス中に二酸化炭素、水等が少量混在しても触媒の活性低下の度合いが低く、かつ、低温、低圧、液相でのメタノールの合成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴とするところは、以下に記す通りである。
(1) 一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素を含む原料ガスと、溶媒としてのアルコールと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒の存在下で、反応を行うギ酸エステルを経由するメタノールの製造方法であって、前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が前記溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度での存在下で前記原料ガスの反応を行い、メタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
(2) 一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素を含む原料ガスと、溶媒としてのアルコールと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒の存在下で、反応を行うギ酸エステルを経由するメタノールの製造方法であって、前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が前記溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度での存在下で前記原料ガスの反応を行い、得られた生成物を反応系から分離した後、該生成物中のギ酸エステルを前記水素化分解触媒で水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
(3) 前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属がギ酸塩であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のメタノールの製造方法。
(4) 前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属がギ酸塩に変化し得る化合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のメタノールの製造方法。
(5) 前記ギ酸塩がギ酸ナトリウム又はギ酸カリウムであることを特徴とする(3)又は(4)に記載のメタノールの製造方法。
(6) 前記水素化分解触媒がCuを含有する触媒であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のメタノールの製造方法。
(7) 前記Cuを含有する触媒がCu、Mgを含有する固体触媒であることを特徴とする(6)に記載のメタノールの製造方法。
(8) 前記Cu、Mgを含有する固体触媒が共沈法で製造された触媒であることを特徴とする(7)に記載のメタノールの製造方法。
(9) 前記Cu、Mgを含有する固体触媒を共沈法で製造する際にpH=8〜11の範囲で一定に保持することを特徴とする(8)に記載のメタノールの製造方法。
(10) 前記溶媒としてのアルコールが、第一級アルコールであることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のメタノールの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明における、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒を、溶媒アルコールと共存させた系で、均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が溶媒アルコールに対して0.5mol/L以上の濃度において、合成原料ガスである、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか及び水素からメタノールを製造すると、低温、低圧で連続反応において安定的にメタノールを高効率で合成することが可能となった。また、合成原料ガス中に水、二酸化炭素等が少量混在しても触媒の活性低下の度合いが低いため、安価でメタノールを製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の低温液相メタノール合成を実施する反応装置である。
【図2】実施例1に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図3】実施例2に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図4】実施例3に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図5】実施例4に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図6】実施例5に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図7】実施例6に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図8】比較例1に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図9】比較例2に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図10】比較例3に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図11】比較例4に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、鋭意検討した結果、触媒及び溶媒を反応器に仕込み原料ガスを供給する半回分式の連続反応において、均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が溶媒アルコールに対して0.5mol/L以上の濃度で存在させると、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素と溶媒アルコール類からのメタノールの製造において、安定的に高収率で製造可能であることを見出し、本発明に至った。
【0014】
本発明におけるギ酸エステル、そしてメタノールの製造方法は、次の反応式に基づくものと推定される(アルコール類が鎖状又は脂環式炭化水素類に水酸基が付いたものである場合を例にとって示す)。
【0015】
【化2】
【0016】
但し、反応系に水が存在する場合は、次に示す反応式に基づくと考えられ、前記反応式と並行して、ギ酸エステル又はメタノールが生成するものと推定される。
【0017】
【化3】
【0018】
したがって、メタノールの製造原料は、一酸化炭素と水素、二酸化炭素と水素の、少なくともいずれかであり、アルコール類は回収、再利用し得る。式(4)で示した反応には均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が触媒作用を示し、式(5)で示した反応には水素化分解触媒が触媒作用を示す。本発明方法によれば、原料ガス中にCO2、H2Oが、少量存在していても、触媒の活性低下は小さい。
【0019】
例えば、図1に示すような反応プロセスで連続的にメタノールを製造し得る。半回分式反応器2に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び水素化分解触媒を溶媒アルコールと共に仕込み、合成ガス1を供給する。反応器出口の生成物(ギ酸エステル、メタノール)、未反応ガスの混合物3を冷却器4で冷却し、未反応ガス5、ギ酸エステルとアルコールの液体混合物6に分離する。後者は、次段に設置した蒸留塔7においてギ酸エステル8、メタノール9に分離する。転化率が低い場合は未反応ガス5を再度半回分式反応器2に供給することも可能であるが、高収率で得られる場合は未反応ガスを合成ガス製造の熱源(燃料)として利用する。
【0020】
均一系触媒に含まれるアルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム等の金属化合物もしくは単体が挙げられ、一方、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム等の金属化合物もしくは単体が挙げられる。これらの金属化合物としては、金属塩もしくは金属酸化物が好適であり、さらに好適にはアルカリ金属塩、例えば、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩が挙げられ、ギ酸塩が最も好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属成分としては、ナトリウム、カリウムが好ましく、従って、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウムを使用すると触媒活性が高くなり、好ましい。
【0021】
また、反応中にギ酸塩の形態を取り得るアルカリ金属又はアルカリ土類金属系触媒を用いても良好な結果が得られ、反応仕込み時の形態は特に限定されない。
【0022】
このようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属系触媒としては、例えば炭酸カリウムが挙げられる。炭酸カリウムを用いた場合、以下に示す反応でギ酸カリウムに変化していると推察される。他の形態で仕込んだ場合も、安定なギ酸塩に変化するものと推察される。
【0023】
【化4】
【0024】
なお、アルカリ金属アルコキサイド(メトキサイド、エトキサイド等)は、原料ガス中のCO2、H2Oによって実質的に被毒されるので除外されるが、反応中にアルカリ金属ギ酸塩に変化する条件が採用される場合には、使用することが可能である。
【0025】
これら均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の使用量は、反応溶媒に対して0.5mol/L以上である。上限については特に制限が無いが、必要以上に添加すると溶媒アルコールに一部が不溶となり、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の反応への寄与効率が低下するため好ましくない。溶媒、アルカリ金属又はアルカリ土類金属によって、溶解量が異なるため、好ましい範囲が異なる。また、2mol/Lを上回る濃度では活性レベルが低下する傾向があるため、この濃度を下回る範囲に設定することが好ましく、反応寄与効率の観点からは1mol/Lを下回る範囲がより好ましい。また、0.5mol/Lを下回る範囲においては、触媒の安定性が低下し、CO転化率の経時劣化が見られる。
【0026】
反応に用いる溶媒アルコール類としては、鎖状又は脂環式炭化水素類に水酸基が付いたものの他、フェノール及びその置換体、更には、チオール及びその置換体でも良い。これらアルコール類は、第1級、第2級及び第3級のいずれでもよいが、反応効率等の点からは第1級アルコールが好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール等の低級アルコールが最も一般的である。
【0027】
反応は、液相、気相のいずれでも行うことができるが、温和な条件を選定し得る系を採用することができる。具体的には、温度70〜250℃、圧力3〜100気圧が好適な条件であり、より好ましくは温度120〜200℃、圧力15〜80気圧であるが、これらに限定されない。アルコール類は、反応が進行する程度の量があれば良いが、それ以上の量を溶媒として用いることもできる。また、上記反応に際してアルコール類の他に、適宜有機溶媒を併せて用いることができる。有機溶媒を併せて用いた場合には、反応系内に存在させるアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、これらアルコール類と有機溶媒の総量に対して、前述の濃度範囲に設定する。
【0028】
得られるギ酸エステルは、蒸留等の常法により精製することができるが、そのままメタノールの製造に供することもできる。即ち、ギ酸エステルを水素化分解してメタノールを製造し得る。
【0029】
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属と共存させる固体触媒の水素化分解触媒は、例えば、Cu、Pt、Ni、Co、Ru、Pd系の一般的な水素化分解触媒を用いることができるが、Cu系触媒を用いると良好な結果が得られ、Cu/MgOX(Xは化学的に許容し得る値)が特に好ましい。Cu/MgOXの調製は、含浸法、沈殿法、ゾルゲル法、共沈法、イオン交換法、混練法、蒸発乾固法等の通常の方法によれば良く、特に限定されるものではないが、共沈法によると好結果が得られ易い。共沈法で調製する際に一定に保つpHによって、CO転化率は大きく異なる。Cu/MgOXを調製する際のpHは8〜11が好ましく、より好ましくは8.5〜10.5であり、更に好ましくは9〜10である。pHが11を超える範囲については、高アルカリ雰囲気に保持する為に沈殿剤として使用するアルカリ性化合物の使用量が著しく増加する為、経済的でない。pHが8を下回る場合には、pHが8〜11の条件で調製された触媒よりも活性が相対的に低いため、好ましくない。
【0030】
また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属をCu/MgOXへ担持した固体触媒を水素化分解触媒として用いることも可能であり、担持するアルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム塩又はカリウム塩が好適である。担持方法は、上記の通常の方法によれば良く、特に限定されるものではないが、含浸法又は蒸発乾固法によると好結果が得られ易い。Cu/MgOXに対するNaの担持量は、特に限定されることは無いが、60mass%以下の範囲が好ましく、より好ましくは40mass%以下であり、更に好ましくは30mass%以下である。また、担持するナトリウム塩又はカリウム塩としては、ギ酸塩、炭酸塩等が好ましい。ナトリウム塩又はカリウム塩を担持しないCu/MgOXと比較して、活性は若干低下する傾向が見られるが、本発明のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度で存在させる系において、同様の安定性を示す。
【0031】
ギ酸エステル選択率が高い反応条件において、一段階でメタノールを製造することが困難な場合は、反応で得られた生成物を反応系から蒸留法等で分離した後、該生成物中のギ酸エステルを水素化分解触媒及び水素を共存させて、水素化分解してメタノールを得ることも可能である。
【0032】
本発明の触媒を用いた方法では、原料ガス中の炭素源としてはCO2のみでもメタノールを得ることができるが、COのみの場合と比較すると活性は低い。また、炭素源としてCOを主成分とする原料ガス中に含有されるCO2、H2O濃度は、低いほど高収率でメタノールを得ることができるが、それぞれ1%程度含有しても、CO転化率、メタノール収率は殆ど影響を受けない。しかし、それ以上の濃度で含有すると、CO転化率、メタノール収率は低下する。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0034】
以下の実施例、比較例に記載した、CO転化率は次に示す式により算出した。
【0035】
CO転化率(%) = [1-(反応後に回収されたCOモル数)/(仕込んだCOモル数)]×100
【0036】
(実施例1)
内容積85mlのオートクレーブを用い、溶媒としてエタノール15mlに、ギ酸ナトリウム7.5mmol、水素化分解触媒としてCu(NO3)2・3H2O、Mg(NO3)2・6H2Oを原料として、pH=10.0に保ちながら共沈法により調製したCu/MgOx(Xは化学的に許容し得る値)を0.5g添加し、合成ガス(CO:32.4vol%、H2:64.6vol%、Ar:バランス)を30ml/minで供給し、160℃-5.0MPaの条件で5時間の連続反応を行った。ギ酸ナトリウムの濃度は0.5mol/Lである。反応生成物はガスクロマトグラフで分析した。活性の指標となるCO転化率の経時変化を図2に示す。CO転化率の経時低下は見られなかった。
【0037】
(実施例2)
添加するギ酸ナトリウムの量を12.5mmolとする他は実施例1に記載の方法で反応を行った。ギ酸ナトリウムの濃度は0.83mol/Lである。CO転化率の経時変化を図3に示す。CO転化率の経時低下は見られなかった。
【0038】
(実施例3)
Cu/MgOxに代えて、Cu/MgOxを同様の調製方法にて調製後、HCOONaを蒸発乾固法にて9mass%担持したCu/MgOx/HCOONaを添加する他は、実施例1に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図4に示す。Cu系固体触媒にHCOONaを担持しない実施例1と比較するとCO転化率は減少したものの、CO転化率の経時低下は極めて小さかった。
【0039】
(実施例4)
添加するギ酸ナトリウムの量を12.5mmolとする他は、実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図5に示す。Cu系固体触媒にHCOONaを担持しない実施例2と比較するとCO転化率は減少したものの、CO転化率の経時低下は極めて小さかった。
【0040】
(実施例5)
ギ酸ナトリウムに代えて、炭酸ナトリウムを添加する他は実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図6に示す。実施例3と比較するとCO転化率は減少したものの、CO転化率の経時低下は小さかった。
【0041】
(実施例6)
ギ酸ナトリウムに代えて、炭酸水素ナトリウムを添加する他は実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図7に示す。実施例3と比較するとCO転化率は減少したものの、CO転化率の経時低下は極めて小さかった。
【0042】
(比較例1)
添加するギ酸ナトリウムの量を2.4mmolとする他は実施例1に記載の方法で反応を行った。ギ酸ナトリウムの濃度は0.16mol/Lである。CO転化率の経時変化を図8に示す。CO転化率は時間の経過と共に減少した。
【0043】
(比較例2)
ギ酸ナトリウムを添加しない他は実施例1に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図9に示す。本反応条件では全く反応しなかった。
【0044】
(比較例3)
添加するギ酸ナトリウムの量を2.4mmolとする他は実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図10に示す。CO転化率は時間の経過と共に減少した。
【0045】
(比較例4)
ギ酸ナトリウムを添加しない他は実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図11に示す。CO転化率は時間の経過と共に大きく減少した。
【0046】
上記の実施例、比較例より、均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の添加量を溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度とすることで、活性の経時劣化を抑制することができることが明らかである。当該触媒系を採用することで触媒コストを減少することができ、安価にメタノールを製造することが可能となった。
【符号の説明】
【0047】
1 合成ガス
2 半回分式反応器
3 生成物、未反応ガスの混合物
4 冷却器
5 未反応ガス
6 ギ酸エステルとメタノールの液体混合物
7 蒸留塔
8 ギ酸エステル
9 メタノール
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールの製造方法に関する。さらに詳しくは、一酸化炭素、二酸化炭素のいずれかの炭素源と水素からメタノールを製造する際に、安定性の高い触媒を用いて高効率で生成物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、工業的にメタノールを合成する際には、メタンを主成分とする天然ガスを水蒸気改質して得られる一酸化炭素と水素(合成ガス)を原料とし、銅・亜鉛系等の触媒を用いて固定床気相法にて、200〜300℃、5〜25MPaという厳しい条件で合成される(非特許文献1)。反応機構としては以下に示すように、二酸化炭素の水素化により、メタノール、水が生成し、次いで生成水が一酸化炭素と反応し二酸化炭素と水素が生成(水性ガスシフト反応)する逐次反応であるとする説が一般的に受け入れられている。
【0003】
【化1】
【0004】
本反応は発熱反応であるが、気相法では熱伝導が悪いために、効率的な抜熱が困難であることから、反応器通過時の転化率を低く抑えて、未反応の高圧原料ガスをリサイクルするという効率に難点のあるプロセスとなっている。しかし、合成ガス中に含まれる、水、二酸化炭素による反応阻害は受け難いという長所を活かして、様々なプラントが稼働中である。
【0005】
一方、液相でメタノールを合成して、抜熱速度を向上させる様々の方法が検討されている。中でも、低温(100〜180℃程度)で活性の高い触媒を用いる方法は、熱力学的にも生成系に有利であり、注目を集めている(非特許文献2等)。使用される触媒はアルカリ金属アルコキサイドであるが、これらの方法では、合成ガス中に必ず含有される水、二酸化炭素による活性低下が報告され、何れも実用には至っていない(非特許文献3)。これは、活性の高いアルカリ金属アルコキサイドが反応中に、低活性で安定なギ酸塩等に変化するためである。活性低下を防ぐためにはppbオーダーまで、原料ガス中の水、二酸化炭素を除去する必要があるが、そのような前処理を行うとコストが高くなり現実的ではない。
【0006】
本発明者らはこれまでに、水、二酸化炭素による活性低下が小さい触媒として、アルカリ金属アルコキサイドを除くアルカリ金属系触媒とアルカリ土類金属系触媒の一方又は双方を水素化分解触媒と共存させて使用する系を見出している(特許文献1)。本特許では、水素化分解触媒としてはCu/Mn、Cu/Re等が有効であると記載されている。しかし、その後の検討において、Cu/MgOが特に高い活性を示すことを見出したが、活性の経時劣化があることも併せて判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-862701号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. C. J. Bart, et al., Catal. Today, 2, 1 (1987)
【非特許文献2】大山聖一, PETROTECH, 18(1), 27 (1995)
【非特許文献3】S. Ohyama, Applied Catalysis A: General, 180, 217 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決することを目的とするものであり、メタノールの合成原料ガス中に二酸化炭素、水等が少量混在しても触媒の活性低下の度合いが低く、かつ、低温、低圧、液相でのメタノールの合成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴とするところは、以下に記す通りである。
(1) 一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素を含む原料ガスと、溶媒としてのアルコールと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒の存在下で、反応を行うギ酸エステルを経由するメタノールの製造方法であって、前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が前記溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度での存在下で前記原料ガスの反応を行い、メタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
(2) 一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素を含む原料ガスと、溶媒としてのアルコールと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒の存在下で、反応を行うギ酸エステルを経由するメタノールの製造方法であって、前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が前記溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度での存在下で前記原料ガスの反応を行い、得られた生成物を反応系から分離した後、該生成物中のギ酸エステルを前記水素化分解触媒で水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
(3) 前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属がギ酸塩であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のメタノールの製造方法。
(4) 前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属がギ酸塩に変化し得る化合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のメタノールの製造方法。
(5) 前記ギ酸塩がギ酸ナトリウム又はギ酸カリウムであることを特徴とする(3)又は(4)に記載のメタノールの製造方法。
(6) 前記水素化分解触媒がCuを含有する触媒であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のメタノールの製造方法。
(7) 前記Cuを含有する触媒がCu、Mgを含有する固体触媒であることを特徴とする(6)に記載のメタノールの製造方法。
(8) 前記Cu、Mgを含有する固体触媒が共沈法で製造された触媒であることを特徴とする(7)に記載のメタノールの製造方法。
(9) 前記Cu、Mgを含有する固体触媒を共沈法で製造する際にpH=8〜11の範囲で一定に保持することを特徴とする(8)に記載のメタノールの製造方法。
(10) 前記溶媒としてのアルコールが、第一級アルコールであることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のメタノールの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明における、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒を、溶媒アルコールと共存させた系で、均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が溶媒アルコールに対して0.5mol/L以上の濃度において、合成原料ガスである、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか及び水素からメタノールを製造すると、低温、低圧で連続反応において安定的にメタノールを高効率で合成することが可能となった。また、合成原料ガス中に水、二酸化炭素等が少量混在しても触媒の活性低下の度合いが低いため、安価でメタノールを製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の低温液相メタノール合成を実施する反応装置である。
【図2】実施例1に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図3】実施例2に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図4】実施例3に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図5】実施例4に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図6】実施例5に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図7】実施例6に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図8】比較例1に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図9】比較例2に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図10】比較例3に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【図11】比較例4に記載の反応におけるCO転化率の経時変化である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、鋭意検討した結果、触媒及び溶媒を反応器に仕込み原料ガスを供給する半回分式の連続反応において、均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が溶媒アルコールに対して0.5mol/L以上の濃度で存在させると、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素と溶媒アルコール類からのメタノールの製造において、安定的に高収率で製造可能であることを見出し、本発明に至った。
【0014】
本発明におけるギ酸エステル、そしてメタノールの製造方法は、次の反応式に基づくものと推定される(アルコール類が鎖状又は脂環式炭化水素類に水酸基が付いたものである場合を例にとって示す)。
【0015】
【化2】
【0016】
但し、反応系に水が存在する場合は、次に示す反応式に基づくと考えられ、前記反応式と並行して、ギ酸エステル又はメタノールが生成するものと推定される。
【0017】
【化3】
【0018】
したがって、メタノールの製造原料は、一酸化炭素と水素、二酸化炭素と水素の、少なくともいずれかであり、アルコール類は回収、再利用し得る。式(4)で示した反応には均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が触媒作用を示し、式(5)で示した反応には水素化分解触媒が触媒作用を示す。本発明方法によれば、原料ガス中にCO2、H2Oが、少量存在していても、触媒の活性低下は小さい。
【0019】
例えば、図1に示すような反応プロセスで連続的にメタノールを製造し得る。半回分式反応器2に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び水素化分解触媒を溶媒アルコールと共に仕込み、合成ガス1を供給する。反応器出口の生成物(ギ酸エステル、メタノール)、未反応ガスの混合物3を冷却器4で冷却し、未反応ガス5、ギ酸エステルとアルコールの液体混合物6に分離する。後者は、次段に設置した蒸留塔7においてギ酸エステル8、メタノール9に分離する。転化率が低い場合は未反応ガス5を再度半回分式反応器2に供給することも可能であるが、高収率で得られる場合は未反応ガスを合成ガス製造の熱源(燃料)として利用する。
【0020】
均一系触媒に含まれるアルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム等の金属化合物もしくは単体が挙げられ、一方、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム等の金属化合物もしくは単体が挙げられる。これらの金属化合物としては、金属塩もしくは金属酸化物が好適であり、さらに好適にはアルカリ金属塩、例えば、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩が挙げられ、ギ酸塩が最も好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属成分としては、ナトリウム、カリウムが好ましく、従って、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウムを使用すると触媒活性が高くなり、好ましい。
【0021】
また、反応中にギ酸塩の形態を取り得るアルカリ金属又はアルカリ土類金属系触媒を用いても良好な結果が得られ、反応仕込み時の形態は特に限定されない。
【0022】
このようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属系触媒としては、例えば炭酸カリウムが挙げられる。炭酸カリウムを用いた場合、以下に示す反応でギ酸カリウムに変化していると推察される。他の形態で仕込んだ場合も、安定なギ酸塩に変化するものと推察される。
【0023】
【化4】
【0024】
なお、アルカリ金属アルコキサイド(メトキサイド、エトキサイド等)は、原料ガス中のCO2、H2Oによって実質的に被毒されるので除外されるが、反応中にアルカリ金属ギ酸塩に変化する条件が採用される場合には、使用することが可能である。
【0025】
これら均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の使用量は、反応溶媒に対して0.5mol/L以上である。上限については特に制限が無いが、必要以上に添加すると溶媒アルコールに一部が不溶となり、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の反応への寄与効率が低下するため好ましくない。溶媒、アルカリ金属又はアルカリ土類金属によって、溶解量が異なるため、好ましい範囲が異なる。また、2mol/Lを上回る濃度では活性レベルが低下する傾向があるため、この濃度を下回る範囲に設定することが好ましく、反応寄与効率の観点からは1mol/Lを下回る範囲がより好ましい。また、0.5mol/Lを下回る範囲においては、触媒の安定性が低下し、CO転化率の経時劣化が見られる。
【0026】
反応に用いる溶媒アルコール類としては、鎖状又は脂環式炭化水素類に水酸基が付いたものの他、フェノール及びその置換体、更には、チオール及びその置換体でも良い。これらアルコール類は、第1級、第2級及び第3級のいずれでもよいが、反応効率等の点からは第1級アルコールが好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール等の低級アルコールが最も一般的である。
【0027】
反応は、液相、気相のいずれでも行うことができるが、温和な条件を選定し得る系を採用することができる。具体的には、温度70〜250℃、圧力3〜100気圧が好適な条件であり、より好ましくは温度120〜200℃、圧力15〜80気圧であるが、これらに限定されない。アルコール類は、反応が進行する程度の量があれば良いが、それ以上の量を溶媒として用いることもできる。また、上記反応に際してアルコール類の他に、適宜有機溶媒を併せて用いることができる。有機溶媒を併せて用いた場合には、反応系内に存在させるアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、これらアルコール類と有機溶媒の総量に対して、前述の濃度範囲に設定する。
【0028】
得られるギ酸エステルは、蒸留等の常法により精製することができるが、そのままメタノールの製造に供することもできる。即ち、ギ酸エステルを水素化分解してメタノールを製造し得る。
【0029】
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属と共存させる固体触媒の水素化分解触媒は、例えば、Cu、Pt、Ni、Co、Ru、Pd系の一般的な水素化分解触媒を用いることができるが、Cu系触媒を用いると良好な結果が得られ、Cu/MgOX(Xは化学的に許容し得る値)が特に好ましい。Cu/MgOXの調製は、含浸法、沈殿法、ゾルゲル法、共沈法、イオン交換法、混練法、蒸発乾固法等の通常の方法によれば良く、特に限定されるものではないが、共沈法によると好結果が得られ易い。共沈法で調製する際に一定に保つpHによって、CO転化率は大きく異なる。Cu/MgOXを調製する際のpHは8〜11が好ましく、より好ましくは8.5〜10.5であり、更に好ましくは9〜10である。pHが11を超える範囲については、高アルカリ雰囲気に保持する為に沈殿剤として使用するアルカリ性化合物の使用量が著しく増加する為、経済的でない。pHが8を下回る場合には、pHが8〜11の条件で調製された触媒よりも活性が相対的に低いため、好ましくない。
【0030】
また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属をCu/MgOXへ担持した固体触媒を水素化分解触媒として用いることも可能であり、担持するアルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム塩又はカリウム塩が好適である。担持方法は、上記の通常の方法によれば良く、特に限定されるものではないが、含浸法又は蒸発乾固法によると好結果が得られ易い。Cu/MgOXに対するNaの担持量は、特に限定されることは無いが、60mass%以下の範囲が好ましく、より好ましくは40mass%以下であり、更に好ましくは30mass%以下である。また、担持するナトリウム塩又はカリウム塩としては、ギ酸塩、炭酸塩等が好ましい。ナトリウム塩又はカリウム塩を担持しないCu/MgOXと比較して、活性は若干低下する傾向が見られるが、本発明のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度で存在させる系において、同様の安定性を示す。
【0031】
ギ酸エステル選択率が高い反応条件において、一段階でメタノールを製造することが困難な場合は、反応で得られた生成物を反応系から蒸留法等で分離した後、該生成物中のギ酸エステルを水素化分解触媒及び水素を共存させて、水素化分解してメタノールを得ることも可能である。
【0032】
本発明の触媒を用いた方法では、原料ガス中の炭素源としてはCO2のみでもメタノールを得ることができるが、COのみの場合と比較すると活性は低い。また、炭素源としてCOを主成分とする原料ガス中に含有されるCO2、H2O濃度は、低いほど高収率でメタノールを得ることができるが、それぞれ1%程度含有しても、CO転化率、メタノール収率は殆ど影響を受けない。しかし、それ以上の濃度で含有すると、CO転化率、メタノール収率は低下する。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0034】
以下の実施例、比較例に記載した、CO転化率は次に示す式により算出した。
【0035】
CO転化率(%) = [1-(反応後に回収されたCOモル数)/(仕込んだCOモル数)]×100
【0036】
(実施例1)
内容積85mlのオートクレーブを用い、溶媒としてエタノール15mlに、ギ酸ナトリウム7.5mmol、水素化分解触媒としてCu(NO3)2・3H2O、Mg(NO3)2・6H2Oを原料として、pH=10.0に保ちながら共沈法により調製したCu/MgOx(Xは化学的に許容し得る値)を0.5g添加し、合成ガス(CO:32.4vol%、H2:64.6vol%、Ar:バランス)を30ml/minで供給し、160℃-5.0MPaの条件で5時間の連続反応を行った。ギ酸ナトリウムの濃度は0.5mol/Lである。反応生成物はガスクロマトグラフで分析した。活性の指標となるCO転化率の経時変化を図2に示す。CO転化率の経時低下は見られなかった。
【0037】
(実施例2)
添加するギ酸ナトリウムの量を12.5mmolとする他は実施例1に記載の方法で反応を行った。ギ酸ナトリウムの濃度は0.83mol/Lである。CO転化率の経時変化を図3に示す。CO転化率の経時低下は見られなかった。
【0038】
(実施例3)
Cu/MgOxに代えて、Cu/MgOxを同様の調製方法にて調製後、HCOONaを蒸発乾固法にて9mass%担持したCu/MgOx/HCOONaを添加する他は、実施例1に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図4に示す。Cu系固体触媒にHCOONaを担持しない実施例1と比較するとCO転化率は減少したものの、CO転化率の経時低下は極めて小さかった。
【0039】
(実施例4)
添加するギ酸ナトリウムの量を12.5mmolとする他は、実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図5に示す。Cu系固体触媒にHCOONaを担持しない実施例2と比較するとCO転化率は減少したものの、CO転化率の経時低下は極めて小さかった。
【0040】
(実施例5)
ギ酸ナトリウムに代えて、炭酸ナトリウムを添加する他は実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図6に示す。実施例3と比較するとCO転化率は減少したものの、CO転化率の経時低下は小さかった。
【0041】
(実施例6)
ギ酸ナトリウムに代えて、炭酸水素ナトリウムを添加する他は実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図7に示す。実施例3と比較するとCO転化率は減少したものの、CO転化率の経時低下は極めて小さかった。
【0042】
(比較例1)
添加するギ酸ナトリウムの量を2.4mmolとする他は実施例1に記載の方法で反応を行った。ギ酸ナトリウムの濃度は0.16mol/Lである。CO転化率の経時変化を図8に示す。CO転化率は時間の経過と共に減少した。
【0043】
(比較例2)
ギ酸ナトリウムを添加しない他は実施例1に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図9に示す。本反応条件では全く反応しなかった。
【0044】
(比較例3)
添加するギ酸ナトリウムの量を2.4mmolとする他は実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図10に示す。CO転化率は時間の経過と共に減少した。
【0045】
(比較例4)
ギ酸ナトリウムを添加しない他は実施例3に記載の方法で反応を行った。CO転化率の経時変化を図11に示す。CO転化率は時間の経過と共に大きく減少した。
【0046】
上記の実施例、比較例より、均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の添加量を溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度とすることで、活性の経時劣化を抑制することができることが明らかである。当該触媒系を採用することで触媒コストを減少することができ、安価にメタノールを製造することが可能となった。
【符号の説明】
【0047】
1 合成ガス
2 半回分式反応器
3 生成物、未反応ガスの混合物
4 冷却器
5 未反応ガス
6 ギ酸エステルとメタノールの液体混合物
7 蒸留塔
8 ギ酸エステル
9 メタノール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素を含む原料ガスと、溶媒としてのアルコールと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒の存在下で、反応を行うギ酸エステルを経由するメタノールの製造方法であって、前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が前記溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度での存在下で前記原料ガスの反応を行い、メタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項2】
一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素を含む原料ガスと、溶媒としてのアルコールと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒の存在下で、反応を行うギ酸エステルを経由するメタノールの製造方法であって、前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が前記溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度での存在下で前記原料ガスの反応を行い、得られた生成物を反応系から分離した後、該生成物中のギ酸エステルを前記水素化分解触媒で水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項3】
前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属がギ酸塩であることを特徴する請求項1又は2に記載のメタノールの製造方法。
【請求項4】
前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属がギ酸塩に変化し得る化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のメタノールの製造方法。
【請求項5】
前記ギ酸塩がギ酸ナトリウム又はギ酸カリウムであることを特徴とする請求項3又は4に記載のメタノールの製造方法。
【請求項6】
前記水素化分解触媒がCuを含有する触媒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のメタノールの製造方法。
【請求項7】
前記Cuを含有する触媒がCu、Mgを含有する固体触媒であることを特徴とする請求項6に記載のメタノールの製造方法。
【請求項8】
前記Cu、Mgを含有する固体触媒が共沈法で製造された触媒であることを特徴とする請求項7に記載のメタノールの製造方法。
【請求項9】
前記Cu、Mgを含有する固体触媒を共沈法で製造する際にpH=8〜11の範囲で一定に保持することを特徴とする請求項8に記載のメタノールの製造方法。
【請求項10】
前記溶媒としてのアルコールが、第一級アルコールであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のメタノールの製造方法。
【請求項1】
一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素を含む原料ガスと、溶媒としてのアルコールと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒の存在下で、反応を行うギ酸エステルを経由するメタノールの製造方法であって、前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が前記溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度での存在下で前記原料ガスの反応を行い、メタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項2】
一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素を含む原料ガスと、溶媒としてのアルコールと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む均一系触媒、及び、水素化分解触媒の存在下で、反応を行うギ酸エステルを経由するメタノールの製造方法であって、前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が前記溶媒に対して0.5mol/L以上の濃度での存在下で前記原料ガスの反応を行い、得られた生成物を反応系から分離した後、該生成物中のギ酸エステルを前記水素化分解触媒で水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項3】
前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属がギ酸塩であることを特徴する請求項1又は2に記載のメタノールの製造方法。
【請求項4】
前記均一系触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属がギ酸塩に変化し得る化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のメタノールの製造方法。
【請求項5】
前記ギ酸塩がギ酸ナトリウム又はギ酸カリウムであることを特徴とする請求項3又は4に記載のメタノールの製造方法。
【請求項6】
前記水素化分解触媒がCuを含有する触媒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のメタノールの製造方法。
【請求項7】
前記Cuを含有する触媒がCu、Mgを含有する固体触媒であることを特徴とする請求項6に記載のメタノールの製造方法。
【請求項8】
前記Cu、Mgを含有する固体触媒が共沈法で製造された触媒であることを特徴とする請求項7に記載のメタノールの製造方法。
【請求項9】
前記Cu、Mgを含有する固体触媒を共沈法で製造する際にpH=8〜11の範囲で一定に保持することを特徴とする請求項8に記載のメタノールの製造方法。
【請求項10】
前記溶媒としてのアルコールが、第一級アルコールであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のメタノールの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−215543(P2010−215543A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62094(P2009−62094)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】
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