説明

メタボリック症候群に作用する組成物の調製における植物エクジソンの使用

【課題】哺乳動物におけるメタボリック症候群のネガティブな効果を低減する。
【解決手段】本発明は、特に過体重である個人の脂肪体重を低減するために、植物エクジソンを使用することを提案する。植物エクジソンは食品組成物に添加されることが有利である。本発明では、植物エクジソンはキノアなどの食用植物由来であってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物におけるメタボリック症候群の予防または治療のための組成物の調製における、純粋な形または抽出物の形の植物エクジソンの使用に関するものである。より詳細には、本発明による使用により、脂肪体重を下げることができ、且つ/または、特に腹部への脂肪の蓄積を下げることができる。本発明はまた、そのような組成物の調製に使用することができる、植物エクジソンが濃縮されている植物抽出物に関する。本発明は、機能性食品または薬効ある食品を得るために、食品に植物エクジソンを添加する食品加工業において有利に使用することができる。本発明はまた、例えば、医薬組成物に使用される植物エクジソンの医療分野への適用を提供する。
【背景技術】
【0002】
近頃、過体重は、あらゆる年齢層及び文化において広く見られる生理的状態である。この生理的障害は多くの健康障害の原因となり得る。例えば、メタボリック症候群は、個人の過体重に最も関連がある生理的障害である。対象者がメタボリック症候群に関連する5つの臨床症状、すなわち、内臓型または腹部肥満、高トリグリセリド血症、アテローム性異脂肪血症、高血圧、高血糖症の少なくとも3つを示した場合、メタボリック症候群であると判断されている(Isomaaら、2001)。さらに、肥満はそれ自体がII型糖尿病または肥満性糖尿病及び心臓血管疾患を発症するリスクを増大する(Rexrodeら、1998)。
【0003】
ハイリスク者における心臓血管疾患の発症を抑制する、降圧剤やコレステロール低下剤など、多くの薬剤が開発されている(Foster-Schubertら、2006)。低脂肪低糖の食事療法ではもはや十分ではない糖尿病患者には、インスリンも投与される。
【0004】
しかし、メタボリック症候群個体の多くにとって、厳しい食事療法と規則的な運動の必要性に連携している薬物混合物の投与は好まれず、また、その有益な効果はすぐには現れず、更に、より健康的な生活をする努力を維持しない限りメタボリック症候群に関連する症状が再発するリスクがあるので、なおさらその投与に消極的である(Wasanら、2005)。
【0005】
したがって、メタボリック症候群個体が、厳しすぎる且つ/または大変な努力を必要とする治療に耐える必要がなく、特に心臓血管疾患の発症に関してもはやハイリスク者と判断されないように、生理的バランスを回復できることが必要である。また、除脂肪体重の損失及びメタボリック症候群の診断につながる、随伴症状の全てまたは一部の誘発を避けることも必要である(Unger、2003)。
【0006】
機能性食品や栄養補助食品が補充されたバランスの取れた食事は、過体重の哺乳動物の健康状態に作用し、メタボリック症候群の誘発を抑制することができる。過体重の哺乳動物の体重減少に有利に働き(Saperら、2004)、心臓血管疾患や糖尿病の発症を抑制する(McWorther、2001)、多くの栄養補助食品や機能性食品が開発されている。現在市販されている食品の多くは、腹部肥満の治療において十分な効果を示さず、中には有害であるとされるものもある(Pittleら、2005)。したがって、毒性を示さず、脂肪体重に効果的な成分及び機能性食品を開発するために、哺乳動物の食事中に既に存在する、新しい天然分子を同定することが必要である。
【0007】
植物エクジソンは、トリテルペン類に属する天然分子であり、植物界に比較的多量に存在し、野生植物の5%に見出すことができる(Bathori et Pongracs、2005)。哺乳動物での植物エクジソン、特に20−ヒドロキシエクジソンの生理的効果については、いくつかのチームが研究している。特に、これらの分子はタンパク質合成を刺激し(Otakaら、1968;Khimikoら、2000;Syrov、2000)、動物の成長を促す(Purser及びBaker、1994)ことが示されている。さらに、血糖降下作用(Uchiyamaら、1970;Mironova et Kholodova、1982;Takahashi et Nishimoti、1992;Yangら、2001;Chenら、2004、2006)、脂質低下作用(Mironovaら、1982;Syrovら、1983)及び利胆効果(Syrovら、1986)について報告されている。さらに、これらの分子は抗酸化性であり(Kuzmenkoら、2001)、無毒性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】英国特許公開第2420066号公報
【特許文献2】米国特許第6355249号明細書
【特許文献3】国際特許公開第WO94/18984号公報
【特許文献4】特開平04−124135号公報
【非特許文献】
【0009】
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【非特許文献3】Chen Q, Xia Y, Qiu Z, 2006, Effect of ecdysterone on glucose metabolism in vitro. Life Sci. 78:1108-1113.
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【非特許文献5】Findeisen E, 2004, Ecdysteroide in der menschlichen Nahrung. Ph.D. Thesis, University of Marburg(Germany).
【非特許文献6】Foster-Schubert KE, Cummings DE, 2006, Emerging therapeutic strategies for obesity. Endocrine Rev. 27:779-793.
【非特許文献7】Isomaa B, Almgren P, Tuomi T, Forsen B, Lahti K, Nissen M, Taskinen MR, Groop L, 2001, Cardiovascular morbidity and mortality associated with the metabolic syndrome. Diabetes Care, 24:683-689.
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【非特許文献15】Rexrode K, Carey V, Hennekens CH, Walters EE, Colditz GA, Stampfer MJ, Willett WC, Manson JE, 1998, Abdominal adiposity and coronary heart disease in women. JAMA 280:1843-1848.
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【非特許文献22】Unger RH, 2003, Minireview: weapons of lean body mass destruction: the role of ectopic lipids in the metabolic syndrome. Endocrinology 144:5159-5165.
【非特許文献23】Wasan KM, Looije NA, 2005, Emerging pharmacological approaches in the treatment of obesity. J. Pharm. Pharmaceut. Sci. 8:259-271.
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、定期的または不定期な植物エクジソンの摂取は、少なくとも脂肪体重の、基本的には腹部での蓄積に対して陽性に作用することを見出した。植物エクジソンは、植物由来のエクジソンである。「陽性に作用する」とは、食餌は、摂取哺乳動物が成長期にあろうと成人期あろうと、脂肪体重が増加する方向に働くものであるにもかかわらず、植物エクジソンの摂取により、既に肥満した哺乳動物の脂肪体重が低減することを意味する。植物エクジソンの摂取は脂肪体重を減少させるだけでなく、高血糖症やアテローム性異脂肪血症にも作用するので、肥満個体や過体重個体のメタボリック症候群の予防または治療が可能である。
【0011】
肥満度指数(BMI)が25を超える場合、過体重であるとみなされ、BMIが30以上である場合、肥満とみなされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、メタボリック症候群の発現を抑制または防止するために、哺乳動物用の組成物または医薬組成物による植物エクジソンの供給を提案する。既に獲得された脂肪体重の減少により、個体によっては将来的にメタボリック症候群にかかることがなくなる。事実、脂肪体重の減少は、メタボリック症候群に関連するいくつかの症状、特に、腹部肥満、血糖症、アテローム性異脂肪血症に間接的に作用する。さらに、過体重を有する者に対して、既に獲得している脂肪体重の減少且つ/または体重の増加の阻止により、メタボリック症候群の発症を予防するように作用する。
【0013】
さらに、通常、本発明の植物エクジソンの使用により、BMIの値にかかわらず、腹部脂肪体重の蓄積を阻止し、個体が既に獲得している腹部脂肪体重を減少させることができ、肥満個体または過体重の個体のメタボリック症候群を予防し且つ/または治療することが可能である。
【0014】
植物エクジソンは純粋な形または植物抽出物を多少濃縮した形で供給することができる。有利には、本発明の植物エクジソンに富む植物抽出物は、キノア抽出物由来である。確かに、キノアは、元来植物エクジソンに富む、食べられる擬穀類である(Zhuら、2001;Diniら、2005)。したがって、植物エクジソンが濃縮されたキノア抽出物を、乳製品や飲料などの食品に導入するか、カプセル状などの栄養補助食品として摂取することにより、食餌を補うことが可能である。キノアは、小麦やソバなどのヒトの食餌となる植物であるが、無視できる程度の副作用を有する薬用植物ではないことが特に興味深い。本発明者らは、キノアの栄養価だけでなく、多量の植物エクジソンを天然に含有することから、キノアに関心を持った。
【0015】
栽培植物種の大部分は、植物エクジソンの産生能力を失っているようであるので、「通常」のヒトの食餌からは、ほんの少量、すなわち、平均で1日当たり1mg以下の植物エクジソンしか摂取できない。キノアは、これまでのところ、非常に植物エクジソンに富んでいる食用植物の代表である(Zhuら、2001)。これらの植物エクジソンは、キノアの種子を覆う膜に多量に存在する。例えば、60グラム(乾燥重量)のキノア種子中には、15〜20ミリグラムの20−ヒドロキシエクジソンが含まれる。
【0016】
ホウレンソウ及びある種のキノコからも、植物エクジソンに富む植物抽出物を有利に作成することができる(Findeisen E、2004)。
【0017】
本発明の目的は、哺乳動物の腹部脂肪体重を低減する組成物の調製における、純粋な、または植物エクジソンに特に富んでいる植物抽出物に含有される植物エクジソンの使用である。特に、既に腹部に付いた脂肪体重の低減を可能にする。さらに、特に高脂質食の場合に、腹部脂肪体重の蓄積を軽減することも可能である。
【0018】
本発明によれば、植物エクジソンを有する組成物は、特に過体重個体または肥満個体に用いることを目的としており、メタボリック症候群を予防し且つ/または治療することができる。
【0019】
そのように調製された組成物を、過体重であり、メタボリック症候群に罹っているか、メタボリック症候群を発症しそうな者に摂取させることができる。本発明の組成物の定期的な摂取は、特に腹部領域の脂肪体重を低減させる。合併症のリスクは、過剰な脂肪重量が低減するに従って、低下する。
【0020】
組成物は、例えば、飲料や乳製品などの食品を意味する。もちろん、組成物は、例えばピルの形状で使用され、したがって非常に正確な量の植物エクジソンを含有する医薬組成物とすることもできる。「医薬組成物」とは、脂肪体重の蓄積に対して、またはメタボリック症候群に対して間接的に、治療し且つ/または予防的な特性を有する組成物を意味し、その摂取は、程度の差はあるが、厳しい後療法を伴う。ピルの形状での摂取は、植物エクジソンの摂取量を確実な方法で決定でき、食欲にもかかわりなく摂取できるという利点を有する。もちろん、植物エクジソンを食物と一緒にすると、すなわち、食品組成物の形状での植物エクジソンの摂取は、治療という概念から離れることが可能になるため、特定の臨床状態に関連した制限を受けることがない。
【0021】
使用する植物エクジソンは、植物エクジソンを含有する植物から抽出することができる。使用される植物エクジソンはまた、合成植物エクジソンでもよい。抽出物の場合には、使用される植物抽出物は、キノアのような食用植物の抽出物であることが好ましい。「食用植物」とは、広範な地理的領域で食品または香菜として本来使用されている植物を意味する。一方、薬用植物とは、本来その治癒力ゆえに使用される植物である。
【0022】
本発明の目的はまた、植物エクジソンが濃縮された食用植物の抽出物である。有利には、この抽出物は、少なくとも1%、好ましくは1%〜7%、より好ましくは1.5%〜3%、一層好ましくは2%の重量の植物エクジソンを有する。
【0023】
本発明に従って抽出物を得る植物は、キノア、ホウレンソウ及びキノコから有利に選択される。
【0024】
本発明の目的はまた、植物エクジソンが濃縮された植物抽出物を有する、哺乳動物用の食品組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】与えた食餌による、マウスの体重増加(g/日)を示すグラフである。
【図2】与えた食餌による、マウスの副精巣脂肪細胞の百分率(%EAT:mg/g体重)を示すグラフである。
【図3】与えた食餌による、マウスの皮下脂肪細胞(%SCAT:mg/g体重)を示すグラフである。
【図4】ラード食を与えられたマウスに適用された処置に応じた、脂肪細胞直径(μm)を示すグラフである。
【図5】ラード食を与えられたマウスに適用された処置に応じた、脂肪細胞直径の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、純粋な植物エクジソンの濃縮投与量を与えるか、または植物エクジソンを濃縮した植物抽出物により、過体重者の衛生状態を改善する、または腹部及び内臓脂肪体重の蓄積による過体重を回避することを提案する。脂肪体重は、メタボリック症候群の基本的な臨床マーカーの1つであり、心臓血管疾患やII型糖尿病を発症するリスク因子である。
【0027】
本発明の組成物に含有され、脂肪体重に陽性に作用することができる植物エクジソンの閾値投与量は、ヒトでは、0.3〜0.5mg/kg、すなわち、平均で1日当たり20〜30mgである。これは、5mg/kgの投与量でマウス(C57BL/6系ハツカネズミ)に生理的効果が得られたことに基づいて見積もられた。この投与量は、植物エクジソンの平均半減期はマウスよりもヒトにおいて長いことを考慮して、薬理学的対応要因により調整した(Simon及びKoolman、1989)。
【0028】
本発明によれば、例えば、キノアなどの植物抽出物の形で植物エクジソンの上記1日量を、個人が通常飲食している食品に添加して、供給することが可能である。植物エクジソンを濃縮して0.5重量%としたキノア抽出物の4グラム内には、20ミリグラムの植物エクジソンが存在する。同量の植物エクジソンをキノア種子から得るためには、50〜100グラムの未処理のキノア種子を摂取する必要がある(Diniら、2005)。したがって、本発明のキノア抽出物は、抽出物を得るためのキノア種子に含まれる50倍もの量の植物エクジソンを含有することになる。したがって、本発明の使用により、ヨーグルトなどの一般の食品一種類だけを摂取することによって必要量が供給されるので、食事制限を受けることなく、個人の植物エクジソンの必要量に対応できると考えられる。本発明の抽出物は、最終食品が植物エクジソンを含有するように、食品組成物の加工時に添加してもよい。したがって、スーパーマーケットや大型スーパーマーケットで販売される食品や飲料物が、必要量の植物エクジソンを含有することになる。植物エクジソンが濃縮された抽出物を、摂取する穀類に、その調理前または後に添加してもよい。その場合には、植物エクジソンの量を自分の必要な量に合わせることができる。
【0029】
本発明の一例では、植物エクジソンが濃縮された植物抽出物を、毎日の食品、すなわち、治療または予防の目的ではなく、特に栄養食品として摂取される食品に添加する。
【0030】
量の観点から、各個人は、同一の食品を1年に数百キログラム摂取することができる。植物エクジソンが濃縮された植物抽出物をこのような基本的に消費される食品に添加すれば、その食品の消費者は、特に腹部への脂肪の過大な蓄積による過体重の発現、またはそのような状態の悪化を抑制するのに十分な投与量の植物エクジソンを摂ることができ、治療の必要がなくなる。この濃縮抽出物は、「強壮効果のある」物質と認めることができる(Bathori et Pongracs、2005)。「強壮効果のある物質」とは、薬剤ではないが、個人の抵抗力を高め、過体重におけるメタボリック症候群に関連する疾患の発症を抑制するように全体的なバランスを改良する物質を意味する。
【0031】
キノアは、特別な手入れの必要がなく、少量の水だけで厳しい生育条件に耐えることができ、簡単に栽培できる植物である点で有利である。
【0032】
加えて、キノアから得られる植物エクジソンは熱不安定性でない。したがって、本発明により濃縮されたキノア抽出物を、加熱または調理する必要のある食品組成物に調製することができる。
【0033】
もちろん、本発明の他の例では、同量の植物エクジソンを、植物エクジソンの処方量を有する医薬組成物、例えば、カプセル剤や錠剤の形で供給される組成物を、患者に摂取させることにより提供することができる。
【実施例1】
【0034】
[I.植物エクジソンを濃縮したキノア抽出物を調製する方法の例]
:方法A
以下のように連続抽出を行う。2Lの熱湯に500gのキノア種子を添加して、混合物を80℃に5分間保持することにより水による抽出を行う。水を除いた後、80℃のエタノールと水(1:1)の混合溶液2Lによる二次抽出を、20分間、撹拌しながら行う。
【0035】
このように連続抽出することによって、キノア種子に多量に含まれ、抽出物に苦味を与える、サポニンの抽出を抑制することができる(Muirら、2002)。
【0036】
エタノール抽出物をミラクロス(miracloth)TMでろ過し、蒸発乾燥後、400mLの無水エタノールを加えて多量の不溶性残留物を得る。
【0037】
エタノール留分をろ過または遠心分離した後、乾燥させる。
【0038】
クロマトグラフィー分析(HPLC)の結果は、上記抽出物には、重量で2±0.2%の20−ヒドロキシエクジソンが含まれていることを示す。
【実施例2】
【0039】
:方法B
50gのキノアの種子を、400mLの蒸留水と混合し、混合物を平均消費電力800Wの電子レンジで5分間処理する。
【0040】
次いで、エタノール(400mL)による二次抽出を平均消費電力800Wの電子レンジ中で2.5分間行う。
【0041】
どちらの抽出方法でも、処理したキノアの種子1kg当たり、150〜200ミリグラムの植物エクジソンを得ることができ、その85〜90%が20−ヒドロキシエクジソンであり、残りは構造が非常に似ているエクジステロイドである。
【実施例3】
【0042】
:抽出物の濃縮方法C
方法A(またはB)の抽出物からブタノール/水分配によりほとんどの極性化合物を除き、ブタノール相を蒸発させて、さらに植物エクジソンが濃縮された(重量で5〜7%)抽出物を得ることができる。
【0043】
[II.脂肪体重の保存に対する植物エクジソンの効果の実験的研究]
[プロトコール]
3週間脂肪食を与えられたマウスに対する植物エクジソンの効果について調査するために試験を行う。
【0044】
脂肪食または誘導食は、ラードの形で多量の脂肪分を供給するものである。本調査のために、誘導食開始時において6週齢のオスC57BL/6マウスを使用する。そのようなマウスは、本発明の植物エクジソンが濃縮されているキノア抽出物が、メタボリック症候群の生理的パラメーターに及ぼす影響を分析するための研究モデルとして好適である。
【0045】
同時に、対照例として脂肪食ではなく、通常の食餌を与えられたマウスに対する植物エクジソンの効果を調査するための試験を行う。
【0046】
表1は、与えられた食餌と処置による研究対象マウスの分布を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
誘導食は、ラード添加食餌である。
【0049】
純粋活性成分は、純粋20−ヒドロキシエクジソン(20E)である。
【0050】
各群合わせて24匹のマウスに、表2に詳細に示した食餌を3週間与え、同時に、20−ヒドロキシエクジソン(20E)の純粋分子、1.6%まで濃縮したキノア抽出物(対照例群に対する処置最終週は2.24%)または7%濃縮キノア抽出物を与えた。20−ヒドロキシエクジソンの濃度は、餌1kg当たり40mgに調整する。
【0051】
マウスの餌の平均摂取量を考慮して決定した20Eの投与量は、3つの処置群では、1日当たり、体重1kgに付き5mgに相当する。餌は、両食餌群のそれぞれの処置群に対して、週3回、過剰に与えられる。平均で、各ケージに1日当たり40g、すなわち、1日当たり6.5gの餌が各マウスに与えられる。
【0052】
表2は、マウスに与えた食餌の構成をより詳細に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
[サクリファイス]
サクリファイス時に、マウスの体重(Bwt)とともに、肝、副精巣脂肪組織(EAT)及び皮下脂肪組織(SCAT)の重量を測定する。
【0055】
副精巣脂肪組織の細胞を計数し、形態学的分析を行う。
【0056】
[結果]
体重増加
図1は、食餌及び与えられた処置によるマウスの体重増加をg/日として示すグラフである。
【0057】
期待された通り、ラード食餌を与えられたマウスでは、ラードを与えられなかったマウスよりもその体重増加が大きいことが注目される。ラード食餌を与えられたマウスでは、処置の種類にかかわりなく、平均で250mg/日の体重増加があった。一方、ラードを与えられたマウス群も、通常の食餌を与えられたマウス群と同様、体重増加について、処置の種類による有意な差は見られない。
【0058】
[脂肪体重の測定]
図2は、食事及び与えられた処置による生殖腺組織の脂肪体重(%EAT)を示すグラフである。
【0059】
期待された通り、ラード食餌を与えられた対照例マウスでは、通常の食餌を与えられた対照例マウスよりも脂肪細胞が増えていることが注目される。
【0060】
ラード食餌群のマウスでは、純粋分子、2%及び7%抽出物による処置により、それぞれ50%、30%及び20%の脂肪細胞の減少がみられる。
【0061】
通常の食餌を与えられたマウス群では、2%または7%抽出物での処置により、脂肪細胞が未処理マウスよりも僅かに増えているが、この効果は有意なものではない。一方、純粋分子での処置では、通常の食餌を与えられたマウスの脂肪細胞に変化を与えない。
【0062】
図3は、食事及び与えられた処置による皮下鼠径組織における脂肪体重を示すグラフである。
【0063】
これらの結果は、生殖腺組織の脂肪細胞に関する結果と同様である。ラード食餌を与えられたマウスでは、2%及び7%抽出物による処置ではその低減は大きくない。通常の食餌を与えられたマウスでは、処置による有意な効果は認められない。
【0064】
[脂肪細胞の測定]
脂肪細胞は、脂肪組織を構成する細胞である。これらの細胞は、脂質の合成及びその貯留において本質的な役割を果たしている脂肪滴を、その細胞質に有している。脂肪滴の直径の縮小によるこれら細胞の直径の縮小は、貯留した脂肪体重に対する効果を有すると考えられる。
【0065】
図4は、処理による脂肪細胞の直径に対する効果を示す。ラード食餌を与えられたマウスでは、脂肪細胞はその直径が、通常の食餌を与えられたマウスに比較して肥大している。純粋分子または2%抽出物による処置により、脂肪細胞の大きさが著しく縮小される。一方、7%抽出物は、脂肪細胞の直径に対して著しい効果を示さない。
【0066】
図5は、脂肪細胞の直径の分布に対する各処置の効果を示す。
【0067】
ラード食餌を与えられた対照例マウスは、ほとんどの細胞が大きな直径(最頻値が約70で、110nmまで)を有するような分布を示す。純粋の植物エクジソンを投与されたマウスは、最頻値が60で、最大直径が90nmである分布を示す。2%抽出物を投与されたマウスも、大きさが縮小している細胞が大部分である、同様の分布を示す。7%抽出物を投与されたマウスは、ラード食餌のマウスと2%抽出物投与のマウスの中間の分布を示す。
【0068】
[結論]
純粋の分子の投与は、2%抽出物の投与と同様、高脂質及び高カロリー食により誘導される肥満の発症を避けることができ、正常食、すなわち、高カロリーでも低カロリーでもない食餌を与えられた非肥満動物に対しては効果を示さない。この効果は、生殖腺組織及び皮下組織に対しても同様に働く。7%抽出物は、通常の食餌の場合に、小(皮下)脂肪細胞を誘導し、ラード食餌の場合の2%抽出物による処置と同等の脂肪細胞の低減を示す。
【0069】
脂肪細胞の結果と体重増加の結果との比較では、マウスは脂肪体重を得ることなく成長し体重を増やすことを示している。これは、筋肉の除脂肪体重の増加によると思われる。
【0070】
[III.2%キノア抽出物のカプセルなどの生薬製剤の例]
重量で2%まで植物エクジソンを濃縮したキノア抽出物の375mgを、75mgのキャッサバ粉に添加する。この混合物を360mg型カプセルに詰める。カプセル1個で、患者は7.5mgの植物エクジソンを吸収する。内科的合併症の観点から、特にメタボリック症候群のリスク群患者と診断される過体重の場合、推奨される投与量は、患者が毎日30mgの植物エクジソンを摂れるように、1日4カプセルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の腹部脂肪量を低減することを特徴とする組成物の調製における植物エクジソンの使用。
【請求項2】
腹部脂肪量を低減することによって、過体重の哺乳動物または肥満哺乳動物のメタボリック症候群を予防し且つ/または治療することを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
植物エクジソンを濃縮した植物抽出物の形状で植物エクジソンを供給することを特徴とする請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
植物抽出物がキノア由来であることを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
組成物が食品または栄養補助食品であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
組成物が医薬組成物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
植物エクジソンが20−ヒドロキシエクジソンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
植物エクジソンを濃縮した植物抽出物であって、該植物がキノア及び他の植物エクジソンに富む食用植物から選択されることを特徴とする植物エクジソンを濃縮した植物抽出物。
【請求項9】
請求項8に記載の植物抽出物を有することを特徴とする哺乳動物による摂取のための組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の植物抽出物を有することを特徴とする医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−504921(P2011−504921A)
【公表日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535430(P2010−535430)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【国際出願番号】PCT/FR2008/052088
【国際公開番号】WO2009/071804
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(510150282)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT BIOPHYTIS SAS
【住所又は居所原語表記】14, avenue de l’Opera F−75001 Paris FRANCE
【出願人】(510150363)ユニベルシテ.ピエール.エ.マリー.キュリー (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PIERRE ET MARIE CURIE
【住所又は居所原語表記】4, place Jussieu F−75252 Paris Cedex 5 FRANCE
【出願人】(310022567)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク−シーエヌアールエス (1)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE−CNRS
【住所又は居所原語表記】3, rue Michel−AngeF−75794Paris FRANCE
【Fターム(参考)】