説明

メタルガスケット

【課題】安価に製作可能で、しかもボアビードの全屈を防止しつつ燃焼室周りのシール性能を十分に確保可能なメタルガスケットを提供する。
【解決手段】エンジンの燃焼室6に対応する位置に開口部12を形成した単又は複数枚のガスケット構成板10からなり、少なくとも1枚のガスケット構成板10に開口部12を取り囲むようにボアビード16を形成したメタルガスケット1において、ガスケット構成板10における、ボアビード16の外周縁とエンジンのシリンダブロック2に形成されるウォータジャケット7の内周面7a間に対応する部分に、ボアビード16の全屈を規制するシム板11を固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジンに好適に利用可能なメタルガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンのメタルガスケットとして、単又は複数枚のガスケット構成板からなり、このガスケット構成板に、燃焼室に対応させて開口部を形成するとともに開口部を取り囲むようにボアビードを形成し、更にボアビードの内周側にストッパーを形成して、ボアビードの全屈によるヘタリを防止できるように構成したものが採用されている。
【0003】
ストッパーとしては、ガスケット構成板の開口部の周縁を折り返して、この折り返し部分をストッパーとて利用したものが提案され実用化されている。しかし、このようにボアビードの内周側にストッパーを形成すると、ボアビードの全屈によるヘタリは防止できるものの、ストッパーに対応する位置における四厘がブロックのデッキ面の面圧が高くなってシリンダ孔の内面が樽形に変形し、シリンダ孔とピストンリング間におけるオイル消費量が増大するという問題がある。特に最近のエンジンにおいては、隣接するシリンダ孔間の距離を極力小さくして、エンジンの小型化を図るため、ボアビードの内周縁とシリンダ孔間の距離が狭くなる傾向にあり、それに応じてストッパーの幅も狭くなることから、シリンダ孔付近の面圧が高くなる傾向にある。
【0004】
そこで、最近では、シリンダ孔の変形を極力少なくするため、ボアビードの内周側だけでなく、ボアビードの外周側にもストッパーを設けたメタルガスケットも提案されている。例えば、特許文献1記載のように、ガスケット構成板のボアビードの内周側や外周側にコーティング層からなるストッパーをボアビードに沿って形成したものや、特許文献2記載のように、ガスケット構成板のボアビードの内周側や外周側にプレス成形によりボアビードに沿って断面波形状のストッパーを形成したものが提案されている。
【0005】
一方、ボアビードを有するガスケット構成板(以下、ビード板と称する。)を複数枚重ね合わせて構成したメタルガスケットにおいては、ボアビードの変位量を大きく設定できることから、ヘッドボルトの締め付けトルクをボアビードが全屈するまで高く設定しなくても、燃焼室周りのシール性を十分に確保できる。このため、ガスケット構成板のうちのシリンダライナに対応する位置全体に樹脂層を形成して、燃焼室周りの面圧をシリンダライナの全面で受け止めることで、シリンダ孔の変形を防止するように構成したものも提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
また、ボアビードを設けた部分を除いてガスケット構成板に面圧調整板を設け、ボアビードの全屈を防止しつつ、シリンダ孔の変形を防止するように構成したものも提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−547343号公報
【特許文献2】特開2005−207536号公報
【特許文献3】特開2004−278711号公報
【特許文献4】特開平2−1469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1記載のメタルガスケットでは、コーティング層によりストッパーを形成しているので、経年劣化等によりコーティング層が剥離して、シール性能が低下することが懸念される。また、特許文献2記載のメタルガスケットでは、プレス成形によりストッパーを形成するので、剥離等の問題は発生しないが、微細な凹凸を形成するために、プレス成形型の製作コストが高くなったり、成形型のストッパーを成形する部分が破損し易くなったりするという問題があり、実用化への障害になっている。
【0009】
特許文献3記載のメタルガスケットでは、ヘッドボルトの締め付けによるシリンダ孔の変形を防止でき、しかも十分なシール性能を確保できるが、ボアビードの全屈によるビードのクラックに伴なうシール性能の低下を防止するため、ビード板を少なくとも2枚必要とし、製作コストが高くなるという致命的な問題がある。
【0010】
一方、特許文献4記載のメタルガスケットでは、面圧調整板がボアビードの全屈を防止するストッパーとして機能するので、ボアビードの内周側にストッパーを設ける場合と比較して、シリンダライナとの接触面積を大きく設定できることから、シリンダ孔の変形を抑制できるというメリットがある。しかし、面圧調整板がボアビード以外の部分、つまりビード板の外縁部まで形成され、面圧調整板に関しては、燃焼室周りの面圧が他の部分の面圧よりも低くなることから、燃焼室周りのシール性能を十分に確保できないという問題がある。また、面圧調整板が、ビード板と略同じ寸法であることから、結局は2枚構成のメタルガスケットと同等の製作コストが必要になるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、安価に製作可能で、しかもボアビードの全屈を防止しつつ燃焼室周りのシール性能を十分に確保可能なメタルガスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、メタルガスケットの燃焼室周りにおける局部的な面圧上昇を抑えて、シリンダ孔の変形を防止しつつ、ボアビードの全屈によるシール性能の低下を防止可能なメタルガスケットについて鋭意検討した結果、ボアビードの外周側にストッパーとして機能するシム板を設けると、シリンダ孔から離れた位置においてシリンダブロックに面圧を作用させることができ、しかもボアビードの内周側よりもシリンダブロックとの接触面積を大きく設定できることに着目するとともに、該シム板をメタルガスケットの外縁部まで設けないで、ボアビードの外周側付近にのみ設けることで、燃焼室周りの面圧を十分に確保してシール性能の低下を防止できるとともに、メタルガスケットの製作コストを低減できることに着目して、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明に係るメタルガスケットは、エンジンの燃焼室に対応する位置に開口部を形成した単又は複数枚のガスケット構成板からなり、少なくとも1枚のガスケット構成板に開口部を取り囲むようにボアビードを形成したメタルガスケットにおいて、前記ガスケット構成板における、ボアビードの外周縁とエンジンのシリンダブロックに形成されるウォータジャケットの内周面間に対応する部分に、ボアビードの全屈を規制するシム板を固定したものである。
【0014】
このメタルガスケットでは、ボアビードの外周側にシム板が配置されるので、このシム板がボアビードの全屈を防止するストッパーとして機能し、ボアビードの全屈によるシール性能の低下を効果的に防止することができる。また、シム板は、ボアビードの外周縁とウォータジャケットの内周面間に対応する部分にのみ設けているので、シム板をメタルガスケットの外縁部まで設ける場合と比較して、シム板の製作コストを抑えることができるとともに、燃焼室周りの面圧を外周ビード等に比較して高く設定することができ、燃焼室周りのシール性能を十分に確保することができる。しかも、ボアビードの外周縁とウォータジャケットの内周面間の幅は、ボアビードの内周縁と開口部の口縁間の幅と比較して広く設定できるので、シリンダブロックの燃焼室周りに局部的に大きな面圧が作用することを防止できるとともに、シリンダ孔から離れた位置においてシリンダブロックに面圧を作用させることができるので、シリンダ孔が樽型に変形することを効果的に防止ができる。
【0015】
ここで、前記ボアビードが段差ビードからなることが好ましい実施の形態である。メタルガスケットでは、燃焼室内における燃料の燃焼にともなう、シリンダブロックとシリンダヘッド間の隙間の変動をビードの変位により吸収して、シール性能が確保されるように構成されている。また、ビードとしては、金属板に段差部を形成して、この段差部の上端部と下端部とでシールを行うように構成した段差ビードと、金属板に部分円弧状断面の凸部を形成して、この凸部の両端部と凸部の頂部とでシールを行うように構成した丸ビードとが知られている。ボアビードとしては、一般に丸ビードが広く採用されているが、丸ビードではその幅を大きく設定しないと変位量を十分に確保できない。このため、エンジンの小型化のため、丸ビードの幅を狭く設定する場合には、ヘッドボルトの締め付けトルクを高めて、シリンダブロックとシリンダヘッド間における隙間の変動幅を少なくする必要があり、シリンダ孔の変形が助長される。それに対して段差ビードは、段差を大きく設定することで変位量を大きく設定でき、しかも丸ビードと比較して面圧を小さく設定できるので、本発明のようにボアビードとして段差ビードを採用すると、シール性能を十分に確保しつつ、シリンダブロックに対する面圧を低く設定してシリンダ孔の変形を防止できる。
【0016】
前記段差ビードをプレス成形する当たり、段差ビードの加工高さをガスケット構成板の板厚の3〜4倍に設定して素材金属板をプレス成形することもできる。この場合には、ボアビードの変位量を十分に確保することで、シリンダブロックに対する面圧を低く設定して、シリンダ孔の変形を防止しつつシール性能を十分に確保できることになる。
【0017】
前記段差ビードをプレス成形する当たり、段差ビードの加工高さをガスケット構成板の板厚の3〜4倍に設定して素材金属板をプレス成形した後、段差ビードの加工高さをシム板の板厚以下に設定して素材金属板をフラットニング加工することもできる。この場合には、段差ビードの加工高さをガスケット構成板の板厚の3〜4倍から、シム板の板厚以下にフラットニング加工するので、加工硬化により段差ビードの硬度を高めて、段差ビードにおけるクラックの発生を効果的に防止できる。
【0018】
前記ガスケット構成板が複数の開口部を有し、前記シム板として、隣接する開口部の接近位置に対応する部分を省略したシム板を用いることができる。このように構成する場合には、隣接するシリンダ孔間の距離を極力小さく設定して、エンジンを小型に構成できる。
【0019】
前記シム板の外縁部をウォータジャケットの形成範囲内まで延設することも好ましい実施の形態である。このように構成すると、シム板を受け止めるシリンダブロックの受圧面を極力大きく設定して、燃焼室周りにおけるメタルガスケットの局部的な面圧上昇をより一層効果的に防止できる。
【0020】
前記シリンダブロックがオープンデッキタイプのシリンダブロックであり、前記シム板の外縁部をウォータジャケットの形成範囲内においてガスケット構成板に固定することもできる。シム板とガスケット構成板との結合は、スポット溶接やリベットやメカニカルクリンチにより行うことになるが、これらの結合部をウォータジャケット内に配置すると、結合部を収容するための凹部等をシリンダブロックやシリンダヘッドに形成する必要がないので好ましい。
【0021】
前記ガスケット構成板におけるボアビードを含む部分にコーティング層を形成することができる。このようなコーティング層を形成すると、シール性能を一層向上できるので好ましい。
【0022】
前記シム板又はそれに対応するガスケット構成板の部分におけるヘッドボルトのボルト挿通孔から離間した部分に厚肉部を形成することが好ましい実施の形態である。シリンダブロック及びシリンダヘッドとメタルガスケット間における燃焼室周りの面圧は、ヘッドボルトに近づくにしたがって高くなるので、ヘッドボルトが挿通するボルト挿通孔から離間した部分に厚肉部を形成することで、燃焼室周りの面圧を全周にわたって一様に設定することができ、シール性能を向上できるので好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るメタルガスケットによれば、ボアビードの外周側にシム板が配置されるので、このシム板がボアビードの全屈を防止するストッパーとして機能し、ボアビードの全屈によるシール性能の低下を効果的に防止することができる。また、シム板は、ボアビードの外周縁とウォータジャケットの内周面間に対応する部分にのみ設けているので、シム板をメタルガスケットの外縁部まで設ける場合と比較して、シム板の製作コストを抑えることができるとともに、燃焼室周りの面圧を外周ビード等に比較して高く設定することができ、燃焼室周りのシール性能を十分に確保することができる。しかも、ボアビードの外周縁とウォータジャケットの内周面間の幅は、ボアビードの内周縁と開口部の口縁間の幅と比較して広く設定できるので、シリンダブロックの燃焼室周りに局部的に大きな面圧が作用することを防止できるとともに、シリンダ孔から離れた位置においてシリンダブロックに面圧を作用させることができるので、シリンダ孔が樽型に変形することを効果的に防止ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1〜図4に示すメタルガスケット1は、多気筒直列エンジン用のメタルガスケットで、このメタルガスケット1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド3の結合面4、5間に介装されて、燃焼室6やウォータジャケット7や潤滑油通路(図示略)などにおいて両結合面4、5をシールするものである。本発明に係るメタルガスケット1は、鋳鉄製のシリンダブロックを備えたエンジンや、シリンダブロック及びシリンダヘッドをアルミニウム合金やマグネシウム合金などの軽合金を主体として構成したエンジンに適用できる。本実施の形態では、ウォータジャケット7の上面を開放させたオープンデッキタイプのシリンダブロック2を備え、シリンダブロック2及びシリンダヘッド3をアルミニウム合金で構成したエンジンに本発明を適用した場合について説明するが、ウォータジャケットの上面を開放させていないシリンダブロックに対しても同様に適用できる。
【0025】
メタルガスケット1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド3との結合面4、5の略全面にわたって介装されるガスケット構成板10と、ボアビード16の外周縁とエンジンのシリンダブロック2に形成されるウォータジャケット7の内周面7a間において、ガスケット構成板10に重ね合わせて設けたシム板11とを備えている。図2に示すメタルガスケット1では、シム板11側をシリンダブロック2側にして結合面4、5間にメタルガスケット1を介装したが、シム板11側をシリンダヘッド3側にして結合面4、5間にメタルガスケット1を介装することも可能である。
【0026】
ガスケット構成板10は、JIS規格におけるSUS301などのステンレス鋼板、あるいはこれと同等の特性を有する周知の金属材料で構成されている。ガスケット構成板10の外縁形状はシリンダブロック2の結合面4と略同じ形状に形成されている。ガスケット構成板10の厚さは、0.15mm未満であると後述するビード16〜19の剛性が低下して十分な面圧が得られず、0.4mmを越えると加工による材料の変質やヘッドボルト(図示略)の過締結により、ビード16〜19にクラックが発生する恐れがあることから、0.15〜0.4mm、より好ましくは0.15〜0.35mm、特に好ましくは0.2〜0.25mmに設定することになる。
【0027】
ガスケット構成板10の幅方向の略中央部には長さ方向に間隔をあけて丸孔からなる複数の開口部12が燃焼室6に対応させて形成され、一側の開口部12の外側にはウォータジャケット7に対応させて複数の冷却水孔13aが所定配列で形成され、隣接する開口部12間の前後にはウォータジャケット7に対応させて冷却水孔13bが形成されている。ウォータジャケット7の外側に対応する位置にはシリンダヘッド3をシリンダブロック2に固定するためのヘッドボルト(図示略)が挿通する複数のボルト挿通孔14が開口部12を取り囲むように略等間隔で形成され、シリンダヘッド3をシリンダブロック2に対してバランスよく締結できるように構成されている。特定のボルト挿通孔14の外側には潤滑油が流通する油孔15が形成され、シリンダブロック2からシリンダヘッド3側へ潤滑油を供給して、動弁機構等を潤滑できるように構成されている。
【0028】
ガスケット構成板10には、図2〜図5に示すように、燃焼室6を取り囲むボアビード16と、ボルト挿通孔14を取り囲むボルト孔ビード17と、ボルト挿通孔14と油孔15とを併せて取り囲むボルト油孔ビード18と、これら複数のボルト孔ビード17やボルト油孔ビード18全体を取り囲む外周ビード19が形成されている。尚、外周ビード19は、ウォータジャケット7を取り囲むように配置されていれば、ボルト孔ビード17やボルト油孔ビード18を取り囲まないように配置することも可能である。また、ビード16〜19は、金属板に形成した段差部からなるステップビードで構成されているが、断面形状が部分円弧状の丸ビードで構成することもできるし、段差ビードと丸ビードを任意に組み合わせて構成することもできる。ガスケット構成板10における、開口部12や冷却水孔13a、13bやボルト挿通孔14や油孔15の形状や個数や配置、ビード16〜19の形状や個数や配置はエンジンの構成等に応じて任意に設定することになる。
【0029】
ボアビード16を構成する段差ビードは、図6(a)に示すように、ガスケット構成板10をプレス成形するときに、段差ビードの加工高さをガスケット構成板10の板厚の3〜4倍の加工高さH1に設定して素材金属板をプレス成形した後、図6(b)に示すように、段差ビードの加工高さをシム板11の板厚以下の高さH2に設定して素材金属板をフラットニング加工して、図6(c)に示す高さHに成形されている。そして、このようにガスケット構成板10の板厚の3〜4倍の高さの段差ビードに成形した後、段差ビードの加工高さをガスケット構成板10の板厚以下に設定して素材金属板をフラットニング加工して、要求高さHの段差ビードを形成するので、加工硬化により段差ビードの疲労限が高められ、段差ビードにおけるクラックの発生を効果的に防止できる。要求高さHは、十分なシール性能が確保されるように、例えばシム板11の板厚の2〜4倍に設定することになる。但し、フラットニング加工は必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。また、ボアビード16以外のビード17〜19に関しても同様に成形することができる。
【0030】
このガスケット構成板10は、金属板のみで構成することも可能であるが、メタルガスケット1のシール性を向上するため、ガスケット構成板10の少なくとも上下面の一方に対してビード16〜19に沿ってゴムコーティング層等を形成した金属板を採用することが好ましい。具体的には、図1、図5に示すように、ガスケット構成板10の上面及び下面に、ボアビード16及びシム板11に対応するガスケット構成板10の部分を覆う第1コーティング層20と、ボルト孔ビード17とボルト油孔ビード18と外周ビード19を覆う第2コーティング層21とを設けることになる。
【0031】
シム板11は、ガスケット構成板10と同様に、JIS規格におけるSUS301などのステンレス鋼板、あるいはこれと同等の特性を有する周知の金属材料で構成され、ボアビード16の外周縁と、エンジンのシリンダブロック2に形成されるウォータジャケット7の内周面7a間に対応する領域に配置されている。ただし、ガスケット構成板10とは異なり、ビード16〜19を形成しないので、ガスケット構成板10よりも安価に入手可能な金属材料で構成することも可能である。シム板11の板厚は、0.05mm〜0.15mm、好ましくは0.08mm〜0.12mmに設定され、ヘッドボルトを締結した状態で、ボアビード16付近にシム板11の板厚に相当する隙間が形成され、ボアビード16が全屈しないように構成されている。
【0032】
シム板11にはボアビード16の外周縁と同径の丸孔からなる4つの開口部22が形成されこれら4つの開口部22の開口縁はボアビード16の外周縁に沿って配置されている。シム板11の外縁部は、シム板11に対応するシリンダブロック2の面圧を極力低く設定するため、ウォータジャケット7の内周面7aに対応する位置まで設けることになるが、ウォータジャケット7の内周面7aに対応する位置よりもやや内側に配置させたものも本発明の範疇である。また、ウォータジャケット7の内周面7aの成形精度は比較的低いので、ウォータジャケット7の内周面7aに対応する位置まで確実に設けられるようにするため、ウォータジャケット7に対応する領域内まで延設することが好ましい。ただし、シム板11の外縁部をウォータジャケット7の外周面7bよりも外側に延設することも可能ではあるが、シム板11の製作コストが高くなるので、ウォータジャケット7に対応する領域内で且つウォータジャケット7の内周面7aの近くに配置されるように構成することが好ましい。
【0033】
シム板11の左右両端の開口部22に対応する前部及び後部にはウォータジャケット7に対応する領域内に突出する固定部23が一体的に形成され、シム板11は、これら4つの固定部23をガスケット構成板10にスポット溶接やリベットやメカニカルクリンチなどで固定することで、ガスケット構成板10に固定されている。ガスケット構成板10における冷却水孔13a、13bに対応する位置においてシム板11には切欠部24及び冷却水孔25が形成され、シム板11が冷却水の流通を阻害しないように構成されている。
【0034】
このような構成のメタルガスケット1を組み付けたエンジンにおいては、ボアビード16の外周側にシム板11が配置されるので、シム板11がボアビード16の全屈を防止するストッパーとして機能し、ボアビード16の全屈によって、ボアビード16にクラックが発生することを防止でき、クラックの発生によるシール性能の低下を効果的に防止することができる。また、シム板11は、ボアビード16の外周縁とウォータジャケット7の内周面7a間に対応する部分にのみ設けているので、シム板11をメタルガスケット1の外縁部まで設ける場合と比較して、シム板11の製作コストを抑えることができるとともに、燃焼室6周りのボアビード16の面圧をビード17〜19と比較して高く設定することができ、燃焼室6周りのシール性能を十分に確保することができる。しかも、ボアビード16の外周縁とウォータジャケット7の内周面7a間の幅は、ボアビード16の内周縁と開口部12の口縁間の幅と比較して広く設定できるので、シリンダブロック2の燃焼室6周りに局部的に大きな面圧が作用することを防止できるとともに、シリンダ孔2aから離れた位置においてシリンダブロック2に面圧を作用させることができるので、シリンダ孔2aの変形を効果的に抑制することができる。
【0035】
次に、前記メタルガスケット1の構成を部分的に変更した他の実施の形態について説明する。尚、前記実施の形態と同一部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0036】
(1)第1コーティング層20の形成部位は、任意に設定できる。例えば、図7(a)に示すメタルガスケット1Aの第1コーティング層20Aのように、ガスケット構成板10Aの開口部12の口縁からシム板11の外縁に対応する位置までにおけるガスケット構成板10Aの上面(シリンダヘッド3側の面)と、ガスケット構成板10Aの開口部12の口縁からシム板11の内縁までのガスケット構成板10Aの下面(シリンダブロック2側の面)と、固定部23を除くシム板11の下面に設け、ガスケット構成板10Aとシム板11間にはコーティング層が形成されないように構成することもできる。
【0037】
また、図7(b)に示すメタルガスケット1Bの第1コーティング層20Bのように、ガスケット構成板10Bの開口部12の口縁からシム板11の外縁に対応する位置までにおけるガスケット構成板10Bの上面(シリンダヘッド3側の面)と、ガスケット構成板10Bの開口部12の口縁からシム板11の内縁までのガスケット構成板10Bの下面(シリンダブロック2側の面)とに設け、シム板11の下面やガスケット構成板10Bとシム板11間にはコーティング層が形成されないように構成することもできる。このように構成すると、面圧が高くなるシム板11に対応する部分にコーティング層をできるだけ設けないようにして、コーティング層の熱へタリや剥離によるボルト軸力低下を防止して、ボルト軸力低下によるシール性能の低下を効果的に防止できる。
【0038】
更に、図7(c)に示すメタルガスケット1Cの第1コーティング層20Cのように、ガスケット構成板10Cとシム板11間にのみ配置されるように、ガスケット構成板10C又はシム板11に第1コーティング層20Cを形成することもできる。
【0039】
(2)図8に示すシム板11Dのように、ボルト挿通孔14から離間したシム板11Dの上面と下面の少なくとも一方に、第1コーティング層20Dを形成することもできる。つまり、シリンダブロック2及びシリンダヘッド3とメタルガスケット1間における燃焼室6周りの面圧は、ヘッドボルトから離間するにしたがって低くなるので、ヘッドボルトが挿通するボルト挿通孔14から離間した部分、即ち隣接するボルト挿通孔14間の部分に、シム板11Dの厚さを実質的に厚肉に構成する厚肉部26を第1コーティング層20Dにより形成することで、燃焼室6周りの面圧を全周にわたって一様に設定することができ、シール性能を向上できるので好ましい。第1コーティング層20Dの形成範囲は、例えば第1コーティング層20Dの中央部における接線方向の形成範囲L1が、隣接するボルト挿通孔14間の距離L2の10〜40%の範囲になるように設定することになる。また、シム板11Dに第1コーティング層20Dを形成する代わりに、ガスケット構成板10における第1コーティング層20Dに対応する部分にコーティング層を形成して、燃焼室6周りの面圧を全周にわたって一様に設定することもできる。
【0040】
更に、図9、図10に示すシム板11Eのように、前記シム板11Dにおける第1コーティング層20Dに代えて、シム板11Eの第1コーティング層20Dに対応する部分にプレス加工を施して、断面波形状の厚肉部26Eを設けることもできる。厚肉部26Eの断面形状としては、正弦波状に形成することもできるし、三角波状や矩形波状に形成することもできる。また、図11、図12に示すメタルガスケット1Fのように、前記厚肉部26に対応するガスケット構成板10Fの部分にプレス加工を施して、断面波形状の厚肉部26Fを設けることもできる。
【0041】
(3)前記実施の形態では、ガスケット構成板10とシム板11とでメタルガスケット1を構成したが、複数枚のガスケット構成板10と1乃至複数枚のシム板11とでメタルガスケットを構成することも可能である。
【0042】
例えば、図13(a)に示すメタルガスケット1Gのように、前記メタルガスケット1の下側に、ビード16〜19の段差の方向を逆にした以外は同じ構成のガスケット構成板10Gを重ね合わせて設けることもできる。このような構成のメタルガスケット1Gは、2つのビード16により燃焼室6周りをシールできるので、燃焼圧の高い、ガソリン噴射ターボエンジンやディーゼルエンジンに好適に利用できる。
【0043】
また、図13(b)に示すメタルガスケット1Hのように、1枚のガスケット構成板10と2枚のガスケット構成板10Gを重ね合わせて設け、上側のガスケット構成板10Gの上側にシム板11を固定することもできる。このようなメタルガスケット1Hは、上側のガスケット構成板10Gの板厚を例えば0.05mm毎に複数種類使いわけることで、該ガスケット構成板10Gを圧縮比調整板として機能させることができ、ガスケットの厚さにバリエーションを持つディーゼルエンジンに好適に利用できる。
【0044】
更に、図13(c)に示すメタルガスケット1Jのように、ガスケット構成板10及びガスケット構成板10Gと、ビード16〜19を形成していない以外はガスケット構成板10と同様に構成した平坦な副板30とを設け、副板30の上下両側にシム板11を固定することもできる。
【0045】
更にまた、図13(d)に示すメタルガスケット1Kのように、メタルガスケット1のガスケット構成板10の上側に略平坦な副板30を重ね合わせて設けることもできる。このメタルガスケット1Kでは、副板30により、塗装ダメージを軽減したり、鋳物巣による悪影響を吸収することができる。
【0046】
また、図14に示すメタルガスケット1Lのように、メタルガスケット1Jにおける下側のシム板11に代えて、外縁部をガスケット構成板10の外縁部まで延ばしたシム板11Lを設けることも可能である。尚、ガスケット構成板10を複数枚用いる場合であっても、前記と同様にコーティング層を形成することができる。
【0047】
(4)前記実施の形態のシム板11においては、隣接する開口部12間にもシム板11を配置させたが、図15に示すメタルガスケット1Mのように、隣接する開口部12間における部分を省略したシム板11Mを採用することも好ましい実施の形態である。このように構成すると、隣接する開口部12間においてボアビード16を極力接近させることができるので、シリンダ孔2a間の距離を極力狭く設定してシリンダブロック2を小型に構成できるので好ましい。但し、隣接するシリンダ孔2aの距離Lが8mmを超える部分に関しては、シリンダ孔2a間におけるシリンダヘッドの浮き上がりを十分に押さえることができなくなるので、シム板11Mを設けることになり、距離Lが8mm以下になる部分にのみシム板11Mを設けないように構成することになる。尚、このシム板11Mは前述したメタルガスケットに対しても同様に適用できる。
【0048】
なお、本実施例では、多気筒直列エンジンのシリンダブロック2とシリンダヘッド3に装着されるメタルガスケットに本発明を適用したが、単気筒エンジンやV型エンジンに対しても本発明を同様に適用することが可能である。また、エンジン以外のエアポンプなどに対しても本発明を同様に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】メタルガスケットの底面図
【図2】シリンダブロックとシリンダヘッド間へのメタルガスケットの組付時における図1のII-II線での縦断面図
【図3】シリンダブロックとシリンダヘッド間へのメタルガスケットの組付時における図1のIII-III線でのエンジンの縦断面図
【図4】シム板付近におけるメタルガスケットの縦断面図
【図5】コーティング層を省略した状態でのガスケット構成板の平面図
【図6】(a)〜(c)はボアビードの成形方法の説明図
【図7】(a)〜(c)は他の構成のメタルガスケットのボアビード付近の縦断面図
【図8】他の構成のシム板の平面図
【図9】他の構成のシム板の平面図
【図10】同シム板のX-X線断面図
【図11】他の構成のガスケット構成板を備えたメタルガスケットのシム板を省略した状態での底面図
【図12】同メタルガスケットのXII-XII線断面図
【図13】(a)〜(d)は複板構成のメタルガスケットの縦断面図
【図14】他の複板構成のメタルガスケットにおけるシリンダブロックとシリンダヘッド間への組付時における縦断面図
【図15】他の構成のシム板を組み付けたメタルガスケットの底面図
【符号の説明】
【0050】
1 メタルガスケット 2 シリンダブロック
2a シリンダ孔 3 シリンダヘッド
4 結合面 5 結合面
6 燃焼室 7 ウォータジャケット
7a 内周面 7b 外周面
10 ガスケット構成板 11 シム板
12 開口部 13a 冷却水孔
13b 冷却水孔 14 ボルト挿通孔
15 油孔 16 ボアビード
17 ボルト孔ビード 18 ボルト油孔ビード
19 外周ビード 20 第1コーティング層
21 第2コーティング層 22 開口部
23 固定部 24 切欠部
25 冷却水孔
1A メタルガスケット 10A ガスケット構成板
20A コーティング層
1B メタルガスケット 10B ガスケット構成板
20B コーティング層
1C メタルガスケット 10C ガスケット構成板
20C コーティング層
11D シム板 20D コーティング層
26 厚肉部
11E シム板 26E 厚肉部
1F メタルガスケット 10F ガスケット構成板
26F 厚肉部
1G メタルガスケット 10G ガスケット構成板
1H メタルガスケット
1J メタルガスケット 30 副板
1K メタルガスケット
1L メタルガスケット 11L シム板
1M メタルガスケット 11M シム板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室に対応する位置に開口部を形成した単又は複数枚のガスケット構成板からなり、少なくとも1枚のガスケット構成板に開口部を取り囲むようにボアビードを形成したメタルガスケットにおいて、
前記ガスケット構成板における、ボアビードの外周縁とエンジンのシリンダブロックに形成されるウォータジャケットの内周面間に対応する部分に、ボアビードの全屈を規制するシム板を固定した、
ことを特徴とするメタルガスケット。
【請求項2】
前記ボアビードが段差ビードからなる請求項1記載のメタルガスケット。
【請求項3】
前記段差ビードをプレス成形する当たり、段差ビードの加工高さをガスケット構成板の板厚の3〜4倍に設定して素材金属板をプレス成形した請求項2記載のメタルガスケット。
【請求項4】
前記段差ビードをプレス成形する当たり、段差ビードの加工高さをガスケット構成板の板厚の3〜4倍に設定して素材金属板をプレス成形した後、段差ビードの加工高さをシム板の板厚以下に設定して素材金属板をフラットニング加工した請求項2記載のメタルガスケット。
【請求項5】
前記ガスケット構成板が複数の開口部を有し、前記シム板として、隣接する開口部の接近位置に対応する部分を省略したシム板を用いた請求項1〜4のいずれか1項記載のメタルガスケット。
【請求項6】
前記シム板の外縁部をウォータジャケットの形成範囲内まで延設した請求項1〜5のいずれか1項記載のメタルガスケット。
【請求項7】
前記シリンダブロックがオープンデッキタイプのシリンダブロックであり、前記シム板の外縁部をウォータジャケットの形成範囲内においてガスケット構成板に固定した請求項1〜6のいずれか1項記載のメタルガスケット。
【請求項8】
前記ガスケット構成板におけるボアビードを含む部分にコーティング層を形成した請求項1〜7のいずれか1項記載のメタルガスケット。
【請求項9】
前記シム板又はそれに対応するガスケット構成板の部分におけるヘッドボルトのボルト挿通孔から離間した部分に厚肉部を形成した請求項1〜8のいずれか1項記載のメタルガスケット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−333132(P2007−333132A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167161(P2006−167161)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(390007777)国産部品工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】