説明

メチオニンの製造方法

【課題】5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインからメチオニンを製造する際に、メチオニン2量体を加熱処理してメチオニンにして回収する設備が腐食されず、メチオニンを安定して製造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを炭酸カリウム、重炭酸カリウムまたは酸化カリウムを用いて加水分解した後に炭酸ガスの加圧下に晶析してメチオニンを分離、取得後、該ヒダントインの加水分解に循環、再使用する濾液の少なくとも一部を加熱処理し、該濾液中に含まれるメチオニン2量体をメチオニンにして回収するメチオニンの製造方法において、加熱処理して回収する設備の装置材料としてCr元素17.0〜32.0重量%、Mo元素1.0〜3.0重量%、Ni元素0.6重量%以下を含有するフェライト系ステンレス鋼またはジルコニウムを用いることを特徴とするメチオニンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料添加剤として有用なメチオニンの製造方法に関する。さらに詳しくは、メチオニン晶析濾液中に含まれるメチオニン2量体を加熱処理してメチオニンとして回収する設備の腐食を防止してメチオニンを安定して製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを炭酸カリウム、重炭酸カリウムおよび水酸化カリウムから選ばれたカリウム化合物の少なくとも1種を用いて加水分解した後に炭酸ガスの加圧下に晶析してメチオニンを分離、取得後、濾液を該ヒダントインの加水分解に循環、再使用する際に、濾液の少なくとも一部を加熱処理し、その後、濾液に水溶性溶剤を添加し、炭酸ガスの加圧下にメチオニンおよび重炭酸カリウムを晶析し、分離回収することにより、濾液中に含まれるメチオニン2量体をメチオニンとして回収する方法は知られている(特許文献1参照。)。
【0003】
この濾液の加熱処理は、通常、約150〜200℃で加熱処理されるが、温度を高くするとメチオニン2量体の加水分解は促進されるが、SUS316L等のステンレス鋼は耐食性が不十分という問題を有している。
また、SUS329J4L等の二相ステンレス鋼はSUS316Lよりは良好な耐食性を示すものの完全ではなく、メチオニン2量体の加熱処理装置に使用可能なより耐食性に優れた材料が望まれている。
【特許文献1】特開平10−182593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを炭酸カリウム、重炭酸カリウムおよび水酸化カリウムから選ばれたカリウム化合物の少なくとも1種を用いて加水分解した後に炭酸ガスの加圧下に晶析してメチオニンを分離、取得後、該ヒダントインの加水分解に循環、再使用する濾液の少なくとも一部を加熱処理し、該濾液中に含まれるメチオニン2量体をメチオニンにして回収するメチオニンの製造方法において、加熱処理して回収する設備に用いることが可能な耐食性に優れた装置材料を見いだし、この設備の寿命を著しく延長させ、メチオニン製造プロセスの安定操業を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインからメチオニンを製造する方法において、メチオニン2量体を加熱処理してメチオニンにして回収する設備の装置材料について鋭意検討した結果、Cr元素17.0〜32.0重量%、Mo元素1.0〜3.0重量%、Ni元素0.6重量%以下を含有するフェライト系ステンレス鋼またはジルコニウムを用いることによって設備が腐食されることなく、長期に安定してメチオニン2量体をメチオニンにして回収することができることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを炭酸カリウム、重炭酸カリウムおよび水酸化カリウムから選ばれたカリウム化合物の少なくとも1種を用いて加水分解した後に炭酸ガスの加圧下に晶析してメチオニンを分離、取得後、該ヒダントインの加水分解に循環、再使用する濾液の少なくとも一部を加熱処理し、該濾液中に含まれるメチオニン2量体をメチオニンにして回収するメチオニンの製造方法において、加熱処理して回収する設備の装置材料としてCr元素17.0〜32.0重量%、Mo元素1.0〜3.0重量%、Ni元素0.6重量%以下を含有するフェライト系ステンレス鋼またはジルコニウムを用いることを特徴とするメチオニンの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインからメチオニンを製造する際に、メチオニン2量体を加熱処理してメチオニンにして回収する設備が腐食されず、メチオニンを安定して製造することが可能となり、その工業的価値は大きいものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明方法について具体的に説明する。
本発明のメチオニン製造方法において、5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを炭酸カリウム、重炭酸カリウムおよび水酸化カリウムから選ばれたカリウム化合物の少なくとも1種を用いて加水分解した後に炭酸ガスの加圧下に晶析してメチオニンを分離、取得後、濾液を該ヒダントインの加水分解に循環、再使用する際に、濾液の少なくとも一部を加熱処理し、メチオニン2量体をメチオニンとし、その後、濾液にイソプロピルアルコール等水溶性溶剤を添加し、炭酸ガスの加圧下にメチオニンおよび重炭酸カリウムを晶析し、分離回収する。
【0009】
5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを炭酸カリウム、重炭酸カリウム等のカリウム化合物を用い、炭酸カリウム、重炭酸カリウム等のアルカリの使用量が、該ヒダントインに対し1倍量から5倍量、温度が約120〜220℃の範囲で加水分解した後、これに炭酸ガスを供給し、炭酸ガスによる飽和によってメチオニンを晶析する。析出したメチオニンは固液分離方法により分離する。メチオニンを濾過、分離した後の濾液は循環系に戻し、5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを加水分解するために循環使用する。濾液を長期に循環使用する場合には濾液中に不純物や分解生成物が蓄積され、析出するメチオニンの純度が低下するので、濾液中の不純物や着色成分の増加を避けるため、必要に応じて一定の割合で濾液を系外に除く、所謂、部分パージを行なうことが好ましい。濾液からのメチオニンの回収は該部分パージする濾液に対し、特に効果を発揮するものであるが、循環する濾液に対しても使用可能なものである。
【0010】
部分パージする濾液の量は、循環濾液中に含まれる不純物や着色物の量によって変わるが、通常、ヒダントインの加水分解後に循環させ、再使用する濾液全体量の約5〜20%である。濾液の加熱処理は、濾液をそのまま、または濃縮してから用いられる。通常、加熱処理用の濾液には、約30〜60g/l のメチオニン、約5〜25g/l のメチオニン2量体が含まれている。
【0011】
濾液の加熱処理温度は、含まれるメチオニン2量体の濃度により変わるが、通常、約150〜200℃、好ましくは約170〜190℃の範囲で加熱処理される。これより温度が低いとメチオニン2量体の加水分解速度が遅く、200℃を超える場合には、メチオニン2量体の加水分解は速やかに進行するが、同時にメチオニンの熱劣化等の問題が出てくる。
【0012】
加熱処理後の濾液は、そのまま/または部分的に濃縮した後、水溶性溶剤を添加し、炭酸ガスの加圧下にメチオニンおよび重炭酸カリウムを晶析し、分離回収する。ここで添加する水溶性溶剤としては、例えばイソプロピルアルコール、メタノール等のアルコールやアセトン等が挙げられる。
【0013】
使用する水溶性溶剤の量はそのまま/または部分的に濃縮した後の濾液1重量部に対して、約0.2〜2重量部用いられる。約0.2重量部未満ではメチオニン、重炭酸カリウムの回収率が低下し、約2重量部を越えても回収率が大きく向上することはない。
【0014】
濾液を加熱処理する前および/または加熱処理した後に、濃縮の操作を行ってもよいが、濃縮操作の条件は、メチオニンの熱劣化が起こらない限り特に限定されるものではなく、基本的には種々の条件をとり得る。ただし、エネルギー効率や濃縮設備の腐食の観点から、濃縮操作の温度は、好ましくは約50〜160℃で、より好ましくは約50〜140℃の条件で行う。なお、濃縮操作と加熱処理操作を組み合わせて同時に実施することも可能であり、その際には、前記加熱処理の操作条件で濃縮操作も行うことになるが、そのように濃縮操作を目的に、加熱処理の比較的厳しい操作条件を当てはめるのは、エネルギー効率その他の面からみて好ましくはない。部分パージした濾液を上記のように処理することにより、濾液中のメチオニンと重炭酸カリウムを有効に回収しながら、循環系内にある不純物や着色成分を系外に除去することが可能となる。
【0015】
本発明では、上述した濾液に含まれるメチオニン2量体を加熱処理してメチオニンを回収する設備に使用される装置材料として、Cr元素17.0〜32.0重量%、Mo元素1.0〜3.0重量%、Ni元素0.6重量%以下を含有するフェライト系ステンレス鋼またはジルコニウムを使用する。
メチオニン2量体を加熱処理してメチオニンを回収する設備としては加熱処理する反応器、熱交換器、濃縮器、配管、弁栓、計装機器等であり、これらの設備が上記のフェライト系ステンレス鋼またはジルコニウムで構成され、または設備が内張りされる。
【0016】
本発明で使用されるフェライト系ステンレス鋼において、含有されるCr元素は耐食性の確保に不可欠な合金元素であり、Cr元素の量が17.0重量%未満の場合には、良好な耐食性を維持することができず、32.0重量%を越える場合には脆性が著しくなる。Ni元素は加熱処理して回収する設備においてはステンレス鋼の耐食性を減退させるため、できるだけ少ない方が好ましい。Mo元素を上記範囲で存在せしめる場合には加熱処理して回収する設備において良好な耐食性を発揮する。
【0017】
なお、本発明に使用するフェライト系ステンレス鋼として、規定しない他の元素の存在は、加熱処理して回収する設備の装置材料として用いられた際に、その耐食性が著しく害されるものでない限り、その存在を制限するものではない。
【0018】
本発明において使用するフェライト系ステンレス鋼としては、上記した化学成分を有するものであれば特に制限されないが、市販のフェライト系ステンレス鋼のうち、SUS444、SUS445J2、SUS447J1、SUSXM27等が上記成分に合致するものであり、これらの使用が経済的である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、実施例は一態様にすぎず、これにより本発明が限定されるものではない。
なお、実施例において試験片の化学成分は蛍光X線分析装置を用いて測定した値である。
【0020】
実施例1、比較例1
1Lのオートクレーブの液相部および気相部に表1に示した試験片を挿入し、メチオニン4重量%、メチオニン2量体2重量%、カリウム12重量%を含むメチオニン晶析濾液600mlをオートクレーブに仕込み、温度180℃に保持した条件下で、8時間保持して、腐食試験を実施した。
試験前後の試験片の重量測定を行い、下記式により腐食度を求めた。
結果を表1に示す。
【0021】
腐食度(mm/年)={(W1−W2)/(d×S)}/試験時間×8760
W1:試験前の試験片重量(g)
W2:試験後の試験片重量(g)
d:試験片の密度(g/mm
S:試験片の表面積(mm
【0022】
【表1】

【0023】
実施例2、比較例2
オートクレーブの液相部に表2に示した試験片を挿入し、メチオニン4重量%、メチオニン2量体2重量%、カリウム12重量%を含むメチオニン晶析濾液をオートクレーブに4.7リットル/時間の割合で連続供給し、温度178〜185℃に保った条件下で、9日間の腐食試験を実施した。
試験前後の試験片の重量測定を行い、下記式により腐食度を求めた。W1、W2、dおよびSは実施例1と同じである。
結果を表2に示す。
【0024】
腐食度(mm/年)={(W1−W2)/(d×S)}/試験日数×365
【0025】
【表2】

【0026】
上記のとおり、Cr元素17.0〜32.0重量%、Mo元素1.0〜3.0重量%、Ni元素0.6重量%以下を含有するフェライト系ステンレス鋼であるSUS447J1およびジルコニウムの腐食度は0.1mm/年以下であり、メチオニン2量体を加熱処理してメチオニンにして回収する設備の装置材料として使用すると、設備が腐食されず、メチオニンを安定して製造することが可能になる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを炭酸カリウム、重炭酸カリウムおよび水酸化カリウムから選ばれたカリウム化合物の少なくとも1種を用いて加水分解した後に炭酸ガスの加圧下に晶析してメチオニンを分離、取得後、該ヒダントインの加水分解に循環、再使用する濾液の少なくとも一部を加熱処理し、該濾液中に含まれるメチオニン2量体をメチオニンにして回収するメチオニンの製造方法において、加熱処理して回収する設備の装置材料としてCr元素17.0〜32.0重量%、Mo元素1.0〜3.0重量%、Ni元素0.6重量%以下を含有するフェライト系ステンレス鋼またはジルコニウムを用いることを特徴とするメチオニンの製造方法。
【請求項2】
フェライト系ステンレス鋼がSUS444、SUS445J2、SUS447J1またはSUSXM27であることを特徴とする請求項1記載のメチオニンの製造方法。


【公開番号】特開2007−254442(P2007−254442A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84746(P2006−84746)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】