説明

メッキの前処理方法およびめっき方法

【課題】
この発明は、分子構造中に炭素−水素結合を有する高分子材料、すなわちプラスチック製品、繊維又は繊維製品等の表面にめっきをするに当たって、表面粗化工程を経ることなく、また、重金属の排出などの環境に負荷のかかる排出物を排出することのない、めっき前処理方法およびめっき方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
分子構造中に炭素−水素結合を有する高分子材料をめっきするに当たり、塩化オキサリル〔(COCl)2 〕を含む雰囲気中で、前記高分子材料に活性エネルギ−線を照射し、次いで照射後の高分子材料を水に接触させることを特徴とするめっき前処理方法、およびめっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はメッキの前処理方法およびめっき方法に関し、さらに詳しくは、特別な公害防止の措置等を採用する必要がなく、高分子素材の種類に限定されることなく、連続処理が可能である等の数々の優れた有利な効果を有するメッキの前処理方法およびめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料の表面を湿式法でめっきするための前処理方法として、従来から、洗浄工程、表面粗化工程及び触媒付与工程からなる方法が一般的に知られている(非特許文献1)。
【0003】
この非特許文献1によると、洗浄工程は成形品の表面の汚れを除去する工程であり、表面粗化工程は成形品の表面に微小な凹凸を形成させて、めっき被膜の密着性を高めるとともに、親水性を付与するもので化学エッチングと呼ばれる工程であり、触媒付与工程は無電解めっきの最初の析出に必要な触媒核(Pd、Ag、Auなど)を形成させる工程である。
【0004】
上記の表面粗化工程は高分子材料の種類に応じた特有の工程となっている。例えば、表面粗化工程として、ABS樹脂については、高濃度の硫酸にABS樹脂成形品を浸漬する粗化工程(非特許文献1)、ABS樹脂についてはその他に、高濃度のクロム酸/硫酸溶液中に浸漬する方法(非特許文献2)、ポリフェニレンサルファイド樹脂については、HNO−NHF・HFをエッチャントとして使用方法(非特許文献3)、ポリエステル樹脂については、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等の水溶液であるアルカリ処理液でポリエステル樹脂製品を浸漬するエッチング工程(特許文献1)、及びポリアミド樹脂については、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、及びクロム酸等の無機酸又はギ酸、酢酸、及びクエン酸などの有機カルボン酸でエッチングするエッチング処理工程(特許文献2)が知られている。
【0005】
上記の触媒付与工程は高分子表面にPd核を沈着させる工程である(非特許文献1)。この触媒付与工程を実施するにはアクチベーション法とアクセレータ法とがあり、いずれの方法も二塩化錫と二塩化パラジウムとを使用する(非特許文献1)。触媒付与を行う具体的な方法として、触媒としてのパラジウムを、羊毛、絹、及び綿等の天然繊維及びポリエステル、ナイロン等の化学繊維の表面に付与するために、パラジウムヒドロゾルを使用する方法(特許文献3)、ポリエステル繊維の表面にパラジウムを付与するために、塩化第一錫−塩酸酸性溶液で増感処理をしてからパラジウム含有水溶液に浸漬する方法(特許文献1、特許文献4)、自動車の外板やバンパー等に多く用いられるポリフェニレンエーテル樹脂とポリアミド樹脂を主たる成分とする樹脂組成物、及びポリアミド樹脂とポリプロピレン樹脂を主たる成分とする樹脂組成物を、キャタリスト−アクセラレター法、センシタイザー−アクチベータ法、又はパラジウム溶液−還元溶液浸漬法等により処理する方法(特許文献2)、並びに、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、及びポリオレフィン等の合成繊維を塩化第一錫−塩酸系増感剤中で処理する方法(特許文献4)がある。
【0006】
上述したように高分子材料の表面にめっきをするための前処理においては、クロム等の重金属を使用し、あるいは強酸で処理をすることによりエッチングを行い、エッチングの後に触媒を付与するという手順が採用されている。
しかしながら、近年においては、地球環境保護の意識が高まっている中で、プラスチック製品及び繊維製品等の高分子材料の表面にめっきを施すにあたり、廃液処理工程の問題は非常に重要であり、重金属を使用せず、強アルカリ又は強酸を使用するエッチング工程(表面粗化工程)を経ることなく簡単に高分子材料の表面を前処理する方法が強く望まれている。
【0007】
しかも、ある特定の高分子材料に有効な前処理方法は他の高分子材料では有効ではないという問題があり、各種の高分子材料に適するめっき前処理方法は開発されていなかった。特に炭素ー水素結合の部分を前処理により親水化することが難しかった。それ故、ポリオレフィン系の高分子材料のめっきは通常の方法では困難とされていた(非特許文献4)。電池用のセパレーターに用いるポリオレフィン系の高分子膜の親水性を高める目的で塩化オキサリルを用いて高分子膜表面をカルボキシル化する技術は知られているが(特許文献5)、高分子材料表面の透明性を維持し、めっき膜の付着性を向上させると言う観点からの技術開示がなされていないので、めっきの前処理に利用できる技術とはされていなかった。
【0008】
【非特許文献1】「めっき教本」電気鍍金研究会編、日刊工業社発行、1996年10月4日発行、第233頁〜第244頁
【非特許文献2】西村美津恵、片山純一 「プラスチック素材への装飾用直接電気銅めっき(CRPプロセス)」トップテクノフォーカス、奥野製薬工業(株)発行、2000年8月号、No.23、第1頁〜第4頁
【非特許文献3】佐藤一也 「ポリフェニレンサルファイド樹脂のめっき処理法」トップテクノフォーカス、奥野製薬工業(株)発行、1988年、第12号、第8頁〜第13頁
【非特許文献4】電気鍍金研究会 編 「無電解めっきー基礎と応用」 発行、 1999年10月29日発行、第143頁
【0009】
【特許文献1】特開昭61−89370号公報
【特許文献2】特開平6−192842号公報
【特許文献3】特開昭62−215069号公報
【特許文献4】特開昭46−13960号公報
【特許文献5】特開2001−76705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、表面粗化工程を経ることなく、また、重金属の排出などの環境に負荷のかかる排出物を排出することなく、高分子材料、すなわちプラスチック製品、繊維又は繊維製品の表面にめっきをするに当たっての前処理方法を提供することを、目的とする。
【0011】
この発明は、重金属の排出などの環境に負荷のかかる排出物を排出することなく前処理された高分子材料、すなわちプラスチック製品、繊維又は繊維製品等の表面をめっきすることを特徴とする材料のめっき方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための第一の発明の手段は、分子構造中に炭素−水素結合を有する高分子材料をめっきするに当たり、塩化オキサリル〔(COCl)2 〕を含む雰囲気中で、前記高分子材料に活性エネルギ−線を照射し、次いで照射後の高分子材料を水に接触させることを特徴とするめっき前処理方法である。
前記課題を解決するための第二の発明の手段は、分子構造中に炭素−水素結合を有する高分子材料をめっきするに当たり、塩化オキサリル〔(COCl)2 〕を含む気相雰囲気中で、前記高分子材料に活性エネルギ−線を照射し、次いで照射後の高分子材料を水に接触させることを特徴とするめっき前処理方法である。
前記課題を解決するための第三の発明の手段は、高分子材料がプラスチック製品、繊維又は繊維製品である前記第一又は第二の発明に記載のめっき前処理方法である。
【0013】
前記課題を解決するための第四の発明の手段は、塩化オキサリル〔(COCl)2 〕を含む雰囲気中で、分子構造中に炭素−水素結合を有する高分子材料に活性エネルギ−線を照射し、照射後の高分子材料に水を接触させた後めっきを施すことを特徴とするめっき方法である。すなわち、高分子材料に前記第一の発明の前処理を行った後にめっきを施す方法である。
前記課題を解決するための第五の発明の手段は、前記塩化オキサリルを含む雰囲気が気相である第四の発明に記載のめっき方法である。
前記課題を解決するための第六の発明の手段は、高分子材料がプラスチック製品、繊維又は繊維製品である第四又は第五の発明に記載のめっき前処理方法である。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係るめっき前処理方法は、高分子材料の表面をめっきするに先立って行われる。この前処理方法においては、高分子材料を塩化オキサリル含有の雰囲気中に配置する。前記塩化オキサリル含有の雰囲気中の高分子材料に、活性エネルギ−線を照射する。そうすると、高分子材料の表面にクロロカルボニル基が導入される。クロロカルボニル基を表面に導入された高分子材料を水に接触させると、表面に導入されたクロロカルボニル基が加水分解されカルボン酸基になる。その結果、表面にカルボン酸基を有する高分子材料が形成される。
【0015】
めっきの前処理工程として、高分子材料表面にカルボン酸基を形成するために、従来のようなクロム等の重金属を使用し、あるいは強酸で処理をすることによるエッチングを行う必要がなくなった。排水処理等の面からも優れた効果がある。さらに、この発明の前処理方法によれば従来のクロム酸・強酸によるエッチング処理等と異なり、高分子材料表面に白濁や傷が発生しない。このことは、この発明の処理方法は、透明な高分子材料にインジウムめっきなどを施し透明導電性材料を製造する場合などの前処理方法として好適に利用できる。また、この発明に係るめっき前処理方法は、活性エネルギー線の照射を常温常圧で行うことができるので、大がかりな装置構成によらずに簡単に実施することができる。
【0016】
この発明の前処理は、従来表面処理が困難であったポリオレフィン系の高分子材料にも有効に適用出来る。また、この発明に係るめっき前処理方法により前処理された高分子材料の表面にカルボン酸基が存在するので、めっき処理工程における触媒付与によりカルボン酸基と触媒金属との間に結合が形成されることにより触媒が材料の表面に強固に結合することとなり、その後に行われるめっき処理により形成される金属めっき被膜がプラスチック、繊維又は繊維製品などの高分子材料の表面に強固に結合する。これにより、高品質で寿命の長いめっき製品が得られる。特にこの発明の前処理方法では、高分子材料に気体の塩化オキサリルを反応させてクロロカルボニル基を導入するので、クロム酸水溶液などでは浸透し難い疎水性の繊維の間隙などにも容易に表面処理が出来る。よってポリオレフィン繊維などにも非常に均一なめっきが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<めっき前処理>
この発明に係るめっき前処理方法に供される高分子材料は、分子構造中に炭素−水素結合を有する高分子からなる。
【0018】
このような高分子材料の例としては、プラスチック製品、繊維又は繊維製品がある。なお、不織布も高分子材料の中に含まれる。この発明では繊維製品の一種とみなすこととする。高分子材料の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリメタアクリレート及びポリアクリレート等のポリ(メタ)アクリレート、ナイロン等のポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール及びこれらの共重合体等のポリビニル樹脂、ポリイミド、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート、ABS、並びにAS,SBR、AR等の合成ゴム等、あるいはこれらの共重合体、ポリマーアロイ、およびそれらを含む混合物などをあげることができる。その他にも、天然高分子材料として、天然ゴム、木材、セルロース繊維や羊毛、絹などをあげることが出来る。この発明においては、前記例示に限らず炭素−水素結合を有する高分子である限り、特に制限なく、このめっき前処理方法に供することができる。もっとも、前記各種の高分子材料の中でも、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステル、ポリアミド及びABS等が好適である。
【0019】
この発明に係るめっき前処理に供されるプラスチック製品としては、その表面にめっき被膜を形成する必要のある製品である限り特に制限がなく、種々の製品があげられる。この発明に係るめっき前処理に供されるプラスチック製品として、たとえば、自動車、家電製品、建築材料、文房具、什器、日用品等を挙げることができる。さらに具体的には、自動車の樹脂製バンパー、自動車のプラスチック内装品、自動車のシート等の自動車用プラスチック製品、テレビ、ビデオ、ラジオ、ラジカセ、ファックシミリ、掃除機、冷蔵庫、食器洗い器、電話、携帯電話、パソコン、コンポ、カーバビゲーションシステム、デジタルカメラ、蛍光灯、DVD、CDプレーヤ、電子レンジ、エアコン等の各種の家電製品、シャープペンシル、万年筆、ボールペン、クリヤファイル等の文房具、コップ、皿、ボウル、ピッチャー等の什器、ドアの表面板、サッシ、窓枠、壁板、床板、天井板、柱等のプラスチック製品、道路におけるポール、交通標識、反射板等の道路資材、回路基板、電磁波遮蔽部材、透明電極のような透明導電性材料等々を挙げることができる。
【0020】
また前記プラスチック製品の形状乃至形態についても特に制限がなく、たとえばシート状、フィルム状、及び成形品等であってもよい。
【0021】
この発明のめっき前処理方法に供される対象物は前記プラスチック製品の他に、繊維又は繊維製品をも挙げることができる。
【0022】
前記繊維又は繊維製品としては、短繊維、長繊維、各種の太さや形状の糸、中空糸、撚糸、天然繊維、合成繊維、再生繊維、織布、不織布、織物及び編み物を挙げることができる。前記繊維又は繊維製品の素材としては前記の素材と同様の素材を挙げることができる。繊維製品の場合など、その疎水性もあいまって、クロム酸−硫酸溶液による前処理では繊維が密に詰まった個所の反応性が悪くなる。その点、この発明は、通常気相中でクロ ロカルボニル化を行うので繊維の表面全体に反応が行き渡るので非常に均一な表面処理が可能であり繊維の強度低下を抑えることが出来る。
【0023】
繊維製品としては、衣服、カーテン、壁布、袋物、バック、シート、不織布、フィルター、濾布、等々を挙げることができる。
【0024】
この発明の方法においては、前記高分子材料を、塩化オキサリル〔(COCl)2 〕を含む雰囲気中に置き、前記高分子材料に活性エネルギ−線を照射する。塩化オキサリル含有の雰囲気中で前記高分子材料に活性エネルギー線を照射すると、前記高分子材料の表面に塩化カルボニル基が導入される。
【0025】
ここで、塩化オキサリルを含む雰囲気としては、気体の雰囲気及び液体の雰囲気のいずれであってもよく、気体の雰囲気であるのが好ましい。
【0026】
塩化オキサリルを含むガス雰囲気としては、塩化オキサリルを不活性ガスで希釈してなる希釈混合ガス雰囲気を挙げることができる。この希釈混合ガス雰囲気における塩化オキサリルの濃度は、高分子材料の表面に導入しようとするカルボニル基の量に応じて適宜に決定することができる。多くの場合、希釈混合ガス雰囲気における塩化オキサリルの濃度は、0.001mol〜5mol/lが好ましい。希釈混合ガス雰囲気における塩化オキサリルの濃度が前記下限値よりも小さいと十分な量のカルボニル基をプラスチック製品の表面に導入することが困難になることがあり、また希釈混合ガス雰囲気における塩化オキサリルの濃度が前記上限値よりも多いと、必要量以上の割合でカルボニル基を多く導入する合理的な理由を見いだすのが困難になることがある。
【0027】
希釈混合ガス雰囲気における不活性ガスとしては、塩化オキサリルを化学変化させず、同時に前記塩化オキサリルと反応しない気体であればよく、例えば窒素、並びにアルゴン及びヘリウム等の希ガス等を挙げることができる。多くの場合は、コストの安い窒素が不活性ガスとして好適に選択される。
【0028】
塩化オキサリルを含む液相雰囲気としては、塩化オキサリルを溶媒中に含有する塩化オキサリル溶液を挙げることができる。前記溶媒としては、塩化オキサリルと反応せず、また塩化オキサリルを溶解することのできる溶媒が選択され、例えばフッ素化炭化水素例えばフロンを好適例として挙げることができる。塩化オキサリル溶液における塩化オキサリルの濃度としては、高分子材料の表面に導入しようとするカルボニル基の量に応じて適宜に決定することができる。なお、塩化オキサリルを含む液相雰囲気でめっき前処理をするためには、塩化オキサリル溶液に高分子材料を浸漬するのがよい。
【0029】
気相及び液相のいずれにおいても、塩化オキサリル雰囲気下にある高分子材料に活性エネルギー線が照射される。
【0030】
この活性エネルギー線としては、各種の紫外線、X線や電子線などを使用することができるが、366nm付近の波長の紫外線からなる紫外光が最も好ましい。具体的には活性エネルギー線としては、例えば紫外線ランプにより生じる紫外線が、簡単な装置により容易に実現可能であることから、好ましい。紫外線源としては、366nm付近の紫外線を照射できる市販の通常の殺菌灯を用いることも出来る。
【0031】
活性エネルギー線の照射時間は、高分子材料の表面に導入するカルボニル基の量に応じて決定され、多くの場合、数十秒から数十分で充分である。
この発明に係るめっき前処理方法によると、塩化オキサリルを使用することにより塩化水素が副生成物として発生する。この塩化水素は、アルカリ溶液と接触させると中和されるので、このめっき前処理方法を実施することにより生じる塩化水素をアルカリ液と接触させる工程を付設することにより、塩化水素を外部に放出することによる環境への悪影響が簡単に防止される。
【0032】
活性エネルギー線を照射した後に、照射後の高分子材料を水に接触させることにより、高分子材料の表面に形成されている塩化カルボニル基を加水分解してカルボン酸基に変換する。なお、処理する水は、単なる水であっても、アルカリ性物質例えば苛性ソーダを溶解したアルカリ水溶液であってもよい。
【0033】
前記活性エネルギー線の照射及び水で処理することにより高分子材料の表面で生じると考えられる反応を、以下に示す。
【0034】
R−H+(COCl)→R−COCl+CO+HCl
R−COCl+HO→R−COOH+HCl
ただし、前記式においてR−Hは高分子材料の表面の分子中で、水素が炭素に結合している状態を表している。
【0035】
活性エネルギー線照射後に水処理を終えた高分子材料は、通常の場合、乾燥する必要がなく、水で濡れたままの、あるいは表面に水分を含んだままの高分子材料が、次のめっき工程に供給することができる。
【0036】
この発明に係るめっき前処理方法により処理された高分子材料は、従来のめっき処理工程に必要とされていたエッチング(表面粗化)が行われていないので、表面が白濁することがなく、また、平滑な表面を維持している。また、表面にカルボキシル基を導入するだけで、従来におけるように例えばクロム酸及び硫酸の混液を使用する場合に生じるような粗面が高分子材料の表面に生じることがなく、強度低下も抑えることが可能となる。
【0037】
<めっき処理工程>
表面にカルボキシル基を生じさせた高分子材料は、めっき処理工程に供される。めっき処理工程は、活性化工程と化学めっき工程とを有する。活性化工程は、カルボキシル基を有する高分子材料の表面に触媒金属を付与する工程である。触媒金属を付与する手法としてセンシタイザー・アクチベータ法及びキャタリスト法を挙げることができる。
センシタイザー・アクチベータ法は、カルボニル基を有する高分子材料の表面に還元力の強いスズイオンを吸着させる方法であり、例えば塩化第一スズ−塩酸水溶液に前記高分子材料を浸漬する工程を含む。浸漬する際の前記塩化第一スズ−塩酸水溶液の温度としては、通常25〜35℃を挙げることができる。キャタリスト法では、例えば塩化第一スズと塩化パラジウムとのコロイド溶液を塩酸水溶液で希釈して得られる溶液に、前記高分子材料を浸漬する。キャタリスト法では、前記高分子材料の表面にパラジウム及びスズとカルボキシル基との結合が形成される。活性化工程では、最終的に、パラジウム金属を高分子材料の表面に析出させる。
【0038】
化学めっき工程におけるめっきは、置換めっき及び無電解めっきのいずれによってもよい。置換めっきは、母材中の金属と液中の金属とを高分子材料の表面に置換析出させるめっき方法である。無電解めっきは、還元剤を使用して、強い還元力によって高分子材料表面に金属を析出させる方法である。この発明においては、めっき処理工程において無電解めっき法を採用するのが、好ましい。無電解めっきにより、高分子材料の表面に、ニッケル若しくはその合金、コバルト若しくはその合金、銅、スズ、鉄、金、銀等のめっきを、することができる。
【0039】
高分子材料の表面にめっきを施してから、さらにそのめっき表面に別の金属からなるめっきを、電解めっき又は無電解めっきにより、施すことができる。めっきをする際の条件としては、従来から公知のめっき条件が採用される。例えば、還元剤として、ジメチルアミンボラン、及びトリメチルアミンボラン等のボラン−アミンコンプレックス、水素化ホウ素カリウム、及び水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素化合物、並びにホルムアルデヒド等を挙げることができる。還元剤の濃度としては、広い範囲から適宜に選択することができ、例えば0.001〜5mol/l、好ましくは0.05〜3mol/lである。
この発明においては高分子材料のすべての表面にめっきにより金属被膜を形成することができるし、また高分子材料の表面の一部にめっきにより金属皮膜を形成することができる。高分子材料の表面に形成されるめっきの皮膜の厚みは特に制限がなく、高分子材料の用途に応じて適宜に決定することができる。以上の工程は無電解めっき工程であるが、この発明の前処理をした高分子材料は、通常の方法で電解めっきすることも出来る。
【実施例1】
【0040】
(実施例1)
厚み38μm、縦3cm及び横30cmの寸法に裁断されたPETフィルム(エンブレットS−38LS、ユニチカ株式会社)を基材として用いた。このPETフィルムを、真空中で、50℃に加熱しながら1時間かけて乾燥した。この乾燥PETフィルムを、パイプ状ガラス器具内に吊し、内部を窒素ガスで置換した。このパイプ状ガラス器具に設けられた側管に接続された枝付きフラスコ内に二塩化オキサリルの分圧100mmHg、窒素ガスが660mmHgの分圧になるようにキャピラリーにて注入した。
次に、パイプ状ガラス器具におけるパイプ内部に装入した低圧水銀灯(30W)により、室温にて、10分間、前記PETフィルムに紫外線(366nm)を照射した。照射後に、パイプ状ガラス器具内からPETフィルムを取り出した。取り出したPETフィルムを水洗した後めっきに供した。
【0041】
(実施例2)
予め減圧下で乾燥させた厚み180μmのポリエチレンテレフタレート布を実施例1と同様の条件下で二塩化オキサリルにて処理後水洗乾燥してその引張強度を測定した。
【0042】
(比較例)
実施例2で用いたと同様のポリエステルテレフタレート布を無電解ニッケルめっきが出来るとされる親水化処理条件である50℃で10%NaOH水溶液に10分間浸漬後水洗乾燥して引張強度を測定した。
【0043】
ポリエステル布の引張強度の測定
測定装置は島津製作所製オートグラフS−500−Dにより測定した。
2.5×23cmに切断したものを、オートグラフのクランプ間距離を15cmにして測定を開始した。測定条件は温度20℃、湿度50RH%でおこなった。
相対引張強度は未処理のポリエステル布に対する処理後のポリエステル布の引張強度の比で表した。
実施例2による処理のものが94%であるに対し、比較例による10%NaOHによる処理は20%と著しく引張強度が低下していた。
【0044】
実施例1のPETフィルムを、25℃に調節されたセンシタイザー(奥野製薬工業(株)製センシタイザー100ml/l水溶液にて1分間浸漬し、水洗後に、25℃に調節されたアクチベーター(奥野製薬工業(株)製の100ml/l水溶液)に1分間浸漬し、水洗した。その後、センシタイザー処理及びアクチベータ処理のなされたPETフィルムを、30〜50℃における適宜温度に維持された100mlの濃硫酸に3分間浸漬することにより、PETフィルムの表面に存在するパラジウムを金属化した。金属化したパラジウムが表面に存在するPETフィルムを、pH8〜9.5及び30〜40℃に調節されたニッケルめっき浴(奥野製薬(株)製TMP化学ニッケルHR−T)に5〜10分間浸漬し、0.2〜0.8μmの厚みを有するニッケル皮膜をPETフィルム表面に形成した。
【0045】
(実施例3)
PETフィルムの代わりに厚さ0.39mm及び目付量50g/mである不織布(シンテックスPS−110、三井化学株式会社製)を使用した他は前記実施例1と同様に実施してニッケル被膜を有する不織布を得た。
【0046】
(実施例4)
PETフィルムの代わりに前記PETフィルムと同じ寸法のポリプロピレンフィルムを使用した他は、前記実施例1と同様に実施してニッケル皮膜を有するポリプロピレンフィルムを得た。
【0047】
(実施例5)ポリエーテルイミド樹脂のナチュラルグレード(ウルテム1000、日本ジーイープラスチック社製)の角板成形品(100mm×50mm×3mm)を実施例の条件で光カルボニル化処理をした後水洗し、塩化パラジウム0.5g/l,塩化第一錫0.5g/l及び35%塩酸200ml/lを含有する触媒水溶液に25℃で3分間浸漬し触媒付与処理した。
水洗後、硫酸ニッケル25g/l,クエン酸20g/l,次亜燐酸ナトリウム15g/l,及び塩化アンモニウム5g/lの水溶液からなるpH8.5〜9.5の範囲に調整した無電解ニッケルめっき液に40℃で8分間浸漬することにより無電解ニッケルめっきを行った。
【0048】
(実施例6)透明メチルメタクリレート(住友化学社製スミペック)を用い、奥野製薬社製洗浄剤エースクリーンA−220 50g/lの液に60℃で5分間浸漬して、表面を清浄にした後乾燥して、実施例1と同様の処理により光カルボニル化処理をし、奥野製薬社製センシタイザーTMP100ml/l,25℃で1分間浸漬した後、アクチベーターTMPアクチベーター100ml/lの水溶液25℃に1分間浸漬して触媒付与をした。水洗後、硝酸亜鉛0.1モルとDMAB(ジメチルボラン)0.1モルの酸化亜鉛処理溶液60℃で30分処理した。
透明な導電膜を得ることが出来た。
【0049】
以上の実施例から明らかにされたように、クロム酸/硫酸混液のような重金属を使用することがないので重金属含有の廃液処理をする必要がなく、カルボキシル基を表面に導入するために強アルカリ溶液も使用する必要がなく、高分子材料の表面にめっき皮膜を形成することができた。したがって、この発明に係るめっき前処理方法及びめっき方法によると、重金属含有の廃液処理設備を不要とし、エッチング処理をする場合におけるように高分子材料の表面に傷をつけることがなく、したがって高分子材料の機械的特性の低下を生じさせることなく、めっき皮膜を形成することができる。また、従来のめっき方法におけるようにエッチング処理をしないので、この発明のめっき前処理方法及びめっき方法によると、透明な高分子製品のその透明性を維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中に炭素−水素結合を有する高分子材料をめっきするに当たり、塩化オキサリル〔(COCl)2 〕を含む雰囲気中で、前記高分子材料に活性エネルギ−線を照射し、次いで照射後の高分子材料を水に接触させることを特徴とするめっき前処理方法。
【請求項2】
前記塩化オキサリルを含む雰囲気が気相である前記請求項1に記載のめっき前処理方法。
【請求項3】
高分子材料がプラスチック製品、繊維又は繊維製品である前記請求項1又は2に記載のめっき前処理方法。
【請求項4】
塩化オキサリル〔(COCl)2 〕を含む雰囲気中で、分子構造中に炭素−水素結合を有する高分子材料に活性エネルギ−線を照射し、照射後の高分子材料に水を接触させた後めっきを施すことを特徴とするめっき方法。
【請求項5】
前記塩化オキサリルを含む雰囲気が気相である前記請求項4に記載のめっき方法。
【請求項6】
高分子材料がプラスチック製品、繊維又は繊維製品である前記請求項4又は5に記載のめっき前処理方法。

【公開番号】特開2006−37185(P2006−37185A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221052(P2004−221052)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(598031763)
【出願人】(000208260)大和化学工業株式会社 (28)
【出願人】(399039498)
【Fターム(参考)】