説明

メッキ製品の製造方法

【課題】スズ又はスズ合金からなる表面メッキ層を有するメッキ製品の製造方法において、表面品質を良好に維持しつつウィスカの発生を抑制する。
【解決手段】基材である導電性金属からなるテープを長手方向に移動させながらその表面にスズ又はスズ合金からなる表面メッキ層を連続的に形成し、引き続きテープを長手方向に移動させながら表面メッキ層にレーザー光線を照射して加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属からなるテープ状の基材の表面にスズ合金からなるメッキ層を有するメッキ製品の製造方法に関する。特には、端子やコネクタなどに用いられるメッキ製品であって、該メッキ層からのウィスカの発生を抑制することができるメッキ製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、端子やコネクタなどの、はんだ付けがなされる電子部品には、その表面にスズを主成分とする合金のメッキ処理がなされていた。このようなメッキ用の合金として、はんだ濡れ性がよく、ウィスカが発生しにくいという理由から、鉛を含有するSn−Pb系はんだ合金が好適に用いられていた。しかしながら、人体や環境への影響に対する懸念から、上記のような電子部品の表面メッキ処理に関しても鉛フリー化が要求されている。そこで、これらの表面にスズ単独又はSn−Ag、Sn−Bi、Sn−Cuなどの鉛を含まないスズ合金からなるメッキ皮膜を形成することが検討されている。ところが、このような鉛を含まないスズ又はスズ合金はメッキ皮膜からウィスカを発生しやすく、発生したウィスカによって回路の短絡が引き起こされるという問題があった。
【0003】
このようなウィスカの発生を抑制するために、基材に銅又は銅合金を用い、該基材表面に所定量の銅を含むスズ合金からなるメッキ皮膜を形成した後に、加熱炉で熱処理(リフロー)を行う方法がある(例えば、特許文献1及び2参照)。リフローを行うことにより、鉛を含まないスズ合金からなるメッキ皮膜を用いた場合にも、ウィスカの発生を抑制することができるとされている。また、スズ又はスズ合金皮膜が形成された部材の、他の部材が圧接固定される部分に外部荷重を加えた状態で加熱する方法も開示されている(例えば、特許文献3参照)。これにより、上記皮膜が形成された部材において、皮膜からのウィスカの発生を抑制できるとされている。更に、メッキされた導電リード上のウィスカの形成を減少させるために、メッキ層を構成する材料のうちの一つの融点以上の温度で、該導電リードのアニール処理を行う技術も開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
上記各先行技術はいずれも、メッキ皮膜からのウィスカの発生を抑制するために、加熱炉による熱処理(リフロー)を行うものである。しかしながら、従来のリフローによる処理を行った場合、部材表面のメッキ皮膜とその下地層との間に形成される拡散層が広くなるため、得られる電子部品の品質のばらつきが大きくなることがあった。また、従来のリフロー工程においては、部品全体が加熱されるため、加熱を必要としない部分まで加熱されることとなり、例えばはんだ付けがなされる部分のはんだ濡れ性が低下することがあった。
【0005】
また、スズ又はスズ合金のメッキを施した材料の表面に、揮発分解温度105℃以上の無機化合物又は有機化合物を塗布した後、赤外線を照射する方法も開示されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、この先行技術では、具体的には0.25kWのYAGレーザーを試料全体に2秒間という長時間照射する必要があるため、上述した拡散層がリフローを行った場合と同様に厚くなりやすく、製品の品質のばらつきを生じるおそれがあった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−69688号公報
【特許文献2】特開2003−193289号公報
【特許文献3】特開2005−154835号公報
【特許文献4】特開2005−203781号公報
【特許文献5】特開昭59−143089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、スズ又はスズ合金からなる表面メッキ層を有するメッキ製品の製造方法において、表面品質を良好に維持しつつウィスカの発生を抑制することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、テープ状の基材上にスズ又はスズ合金からなる表面メッキ層を形成するメッキ製品において、該テープを移動させながらレーザー光線を照射することにより、メッキ製品の表面品質を好適に維持しつつウィスカの発生を抑制することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、基材である導電性金属からなるテープを長手方向に移動させながらその表面にスズ又はスズ合金からなる表面メッキ層を連続的に形成し、引き続きテープを長手方向に移動させながら表面メッキ層にレーザー光線を照射して加熱することを特徴とするメッキ製品の製造方法である。このとき、前記表面メッキ層を形成する前に、予め銅、ニッケル、銀からなる群から選択される少なくとも1種の金属を主成分とする下地メッキ層を形成することが好ましい。また、このときに使用されるレーザー光線の波長が1000nm以下であることが好ましい。更に、テープ長手方向に垂直な向きのレーザー照射幅が0.01〜30mmであることも好ましい。
【0010】
本発明の製造方法では、表面メッキ層の所定の場所においてレーザー光線が照射される時間が0.001〜0.5秒であることが好ましい。また、レーザー光線を照射する際のテープの移動速度が1〜50m/分であることも好ましい。また、単位面積当たりに照射されるレーザー光のエネルギーが0.05〜5J/mmであることも好ましい。更に、本発明の製造方法では、レーザー光線を照射して加熱することによって、前記表面メッキ層と前記基材又は前記下地メッキ層との間に拡散層を形成し、得られる拡散層が表面メッキ層の表面に露出しないことが好ましい。
【0011】
本発明の製造方法の好適な実施態様は、前記テープが、電子部品となるべき部分が接続部分を介して多数連結された形に打ち抜かれ、かつ前記電子部品となるべき部分がはんだ付けされるための端子部を有するテープであり、該端子部に前記表面メッキ層を形成し、引き続きレーザー光線を照射する方法である。このとき、前記テープの両側に配置された2本のレーザーを用いて進行方向の斜め前方と斜め後方の2方向から前記表面メッキ層に前記レーザー光線を照射することが好ましい。また、前記端子部に形成された表面メッキ層にはレーザー光線を照射せず、それ以外の部分にレーザー光線を照射することが好ましい。更に、前記電子部品が、端子部と接点部とを有するコネクタ用端子であり、端子部と接点部の両方に対して前記表面メッキ層を形成し、端子部にはレーザー光線を照射せず、接点部にはレーザー光線を照射することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導電性金属からなるテープ状の基材の表面にスズ又はスズ合金からなる表面メッキ層を有するメッキ製品において、表面メッキ層の表面状態を良好に維持しつつウィスカの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明を説明する。図1は、本発明の製造方法によって製造されるメッキ製品を有するテープの一態様の一部を示す平面図である。コネクタ等の極めて小型の電子部品にメッキを施す場合には、電子部品の基材となる部分が接続部分を介して多数連結されたテープ(フープ)を使用して、連続的にメッキを施す方法が広く用いられている。本発明は、このようなテープにメッキを施してなるメッキ製品の製造方法に関するものであり、基材である導電性金属からなるテープを長手方向に移動させながらその表面にスズ又はスズ合金からなる表面メッキ層を連続的に形成し、引き続きテープを長手方向に移動させながら表面メッキ層にレーザー光線を照射して加熱することを特徴とする。
【0014】
図1は、本発明で得られるメッキ製品を構成するテープの繰り返し単位を示すものであり、端子部3と接点部4とを有するコネクタ2と、切断線5を介してコネクタ2と接続する接続部分6とからなる。なお、端子部3は後にはんだ付けされる部分である。このような繰り返し単位を、コネクタが平行に並んだ状態、即ち図中横方向に多数連結した状態で繰り返すことにより、多数のコネクタ2を有するテープ1を構成する。
【0015】
本発明で用いられるテープ1は、導電性金属からなる基材と、その表面に形成されたスズ又はスズ合金からなる表面メッキ層を有する。基材を構成する導電性金属は、目的とする製品に応じた任意の金属を用いることができ、特に限定されない。なお、このような導電性金属として、導電性能などの観点から、銅又は銅を主成分とする合金が好適に使用される。ここで、「主成分とする」とは50重量%以上含有するという意味であり、70重量%以上含有することが好ましい。
【0016】
まず、導電性金属からなるテープをコネクタ2及び接続部分6の形状に打ち抜き、図1に示すような形状とする。打ち抜かれたテープ1を長手方向(図1においては横方向)に移動させながら、テープ1の表面にスズ又はスズ合金のメッキを連続的に施すことにより、表面メッキ層を形成する。
【0017】
表面メッキ層の形成に先立ち、必要に応じて基材上に下地メッキ層を形成してもよい。下地メッキ層の材料はメッキ製品の使用目的等に応じて適宜選択されるが、銅、ニッケル、銀からなる少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。ここで、「主成分とする」とは50重量%以上含有するという意味である。下地メッキ層は、上記金属を少なくとも1種含む2種以上の金属からなる単層のメッキ層であってもよいし、2層以上が積層されてなるものであってもよい。
【0018】
表面メッキ層に用いられるスズ合金は、スズを主成分として他の金属成分を1種又は2種以上含む合金を示す。好適には、スズ−銀、スズ−ビスマス、スズ−銅などの系が用いられるが、これらに限定されるものではない。スズ合金中のスズ含有量は通常50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【0019】
表面メッキ層及び下地メッキ層を形成する際のメッキ方法は特に限定されず、電解メッキ法や無電解メッキ法などを用いることができる。テープ全体にメッキを施してもよいが、テープ1表面の必要な部分のみにメッキを施してもよい。また、各メッキ層形成の前後において、適宜洗浄やエッチングなどの操作を行ってもよい。
【0020】
表面メッキ層の厚みは、該表面メッキ層の材料、後述するレーザー光線の種類及び照射条件、メッキ製品の使用目的によって適宜選択されるが、好ましくは0.2〜15.0μmである。表面メッキ層の厚みが薄すぎると、後述するレーザー光線を照射した際に下地メッキ層と表面メッキ層との境界に形成される拡散層が表面メッキ層の表面まで達してしまい、所望の電気的性質を得られない場合があり、好ましくない。表面メッキ層の厚みはより好ましくは0.5μm以上であり、更に好ましくは1.0μm以上である。また、表面メッキ層の厚みが厚すぎると、レーザー光線照射によるエネルギーが下層(下地メッキ層又は基材)まで十分に到達しない場合があり、ウィスカ発生を抑制するために必要な加熱を行えないことがある。更に、メッキ製品が使用される電子製品の小型化に対応できなくなることもあり、好ましくない。表面メッキ層の厚みはより好ましくは10.0μm以下であり、更に好ましくは5.0μm以下である。
【0021】
表面メッキ層を形成した後、引き続きテープ1を長手方向に移動させながらこの表面メッキ層にレーザー光線を照射する。即ち、本発明においては、テープ表面への表面メッキ層の形成及び該表面メッキ層へのレーザー光の照射が、テープを長手方向に移動させながら連続的に行われる。このとき、レーザー光線の光源は固定された状態で照射を行うので、テープの移動に伴って、レーザー光線は短手方向(テープ表面において長手方向に垂直な方向;即ち図1においては縦方向)に一定の幅(照射幅)をもって、長手方向に沿ってテープ上を走査されることとなる。
【0022】
前述したように、テープに表面メッキ層を形成した後にこれを加熱炉内に導入することによりリフロー処理を行った場合でも、表面メッキ層からのウィスカの発生を抑制することができる。このとき、加熱により表面メッキ層とその下地層(下地メッキ層又はテープ)との界面で金属の相互拡散により拡散層が形成される。従来の加熱炉によるリフロー処理を行った場合にはこの拡散層が厚くなり、表面メッキ層の表面にまで到達して接触抵抗が上昇するなど、得られるメッキ製品の電気的性質に悪影響を及ぼすことがあった。これに対して、本発明のように、スズ又はスズ合金からなる表面メッキ層にレーザー光線を照射した場合、従来の加熱炉によるリフロー処理を行った場合に比べて、極めて短い時間で表面メッキ層を効率よく加熱することができる。これにより拡散層を薄く制御することが可能となり、拡散層が表面メッキ層の表面に露出することを防ぐことができる。従って、メッキ層の表面品質を損なわずにウィスカの発生を抑制することができる。
【0023】
また、従来の加熱炉によるリフロー処理を行う場合は、必然的に表面メッキ層が形成されたテープ全面を加熱することとなるが、この加熱によって表面メッキ層の表面状態が変化して、加熱前に比べて表面メッキ層のはんだ濡れ性が低下することが知られている。このようなはんだ濡れ性の低下に対処する方法の一つとして、従来は加熱炉によるリフローを行った後に、はんだ付けがなされる部分(図1の例においては端子部3)を含む所定部分のみに、再度スズ又はスズ合金の部分メッキを行うという方法が用いられていた。しかし、本発明の製造方法では、スズ又はスズ合金からなる表面メッキ層の熱処理をレーザー光線の照射によって行うため、加熱炉と違ってテープ表面の必要な部分のみを選択的に加熱することができる。よって、メッキ製品において高いはんだ濡れ性を維持したい部分にはレーザー照射を行わず、ウィスカ発生が懸念される部分にはレーザー照射を行うといった、いわゆる部分リフローが可能となる。即ち、図1に示すコネクタ2の製造においては、少なくともはんだ付けされる端子部3にはレーザー照射を行わず、それ以外の部分(接点部4及び樹脂への圧入部を含む部分)にレーザー照射を行うことが最適である。このように、表面メッキ層の必要な部分にのみ選択的にレーザー光線を照射することによって、コネクタ2のはんだ付けがなされる端子部3のはんだ濡れ性を損なうことなく、ウィスカ発生を抑制することができる。
【0024】
本発明において好適に用いられるレーザー光線は、波長が1000nm以下のものである。レーザー光線の波長がより短い方がスズ又はスズ合金に対する吸収率が高くなるため、波長が900nm以下のレーザー光線がより好ましく用いられる。また、レーザー光線の波長の下限については特段の限定はないが、300nm以上であることが好ましい。レーザー光線の種類としては、ガスレーザー、固体レーザー、半導体レーザー等が挙げられ、これらから上記波長領域のものを適宜選択して用いることができる。また、レーザー光線は1つの波長からなるものに限らず、2以上の波長が混合されたものも好ましく用いることができる。この場合には、2以上の波長のうちの少なくとも1以上が、上記波長域のものであることが好ましい。
【0025】
本発明では、表面メッキ層の所定の場所においてレーザー光線が照射される時間が0.001〜0.5秒であることが好ましい。例えば上記のような半導体レーザーを用いてレーザー光線を照射した場合、このような極めて短時間の照射であっても表面メッキ層からのウィスカの発生を抑制することができる。しかも、照射時間が極めて短いため、上記拡散層を薄く制御することができ、得られるメッキ製品の表面品質を良好に維持することができる。
【0026】
上記レーザー光線の照射時間が長すぎると拡散層の厚みが拡大し、これが表面メッキ層の表面にまで達してメッキ製品の電気的性質に悪影響を及ぼすことがあるため好ましくない。このような観点から、表面メッキ層の所定の場所におけるレーザー光線の照射時間は0.1秒以下であることが好ましく、0.05秒以下であることがより好ましい。一方、照射時間が短すぎるとウィスカ発生を抑制するのに十分な加熱が行えない場合がある。このような観点から、表面メッキ層の所定の場所におけるレーザー光線の照射時間は、0.005秒以上であることが好ましく、0.01秒以上であることがより好ましい。なお、この表面メッキ層の所定の場所におけるレーザー光線の照射時間は、テープ長手方向におけるレーザー光線の照射径と、テープの移動速度を適宜選択することにより調整することができる。
【0027】
また、本発明においては、レーザー光線を適宜デフォーカスさせて表面メッキ層に照射することにより、テープ表面において短手方向(長手方向に垂直な方向)のレーザー照射幅を調整することも好ましい。特に、上述したようなレーザー光線による部分リフローを行う場合、即ち表面メッキ層の特定の部分にレーザー光線を選択的に照射する場合には、照射したい部分のテープ長手方向に垂直な向きの幅に合わせてレーザー照射幅を調整することにより、所望の部分へのレーザー照射を容易に行うことができる。また、レーザー照射幅を変化させることにより、表面メッキ層の単位面積当たりに照射されるレーザー光線のエネルギーを調整することもできる。このレーザー照射幅はテープ上のレーザー照射を行うべき幅や、表面メッキ層の単位面積当たりに付与すべきエネルギー量に応じて適宜選択しうるが、0.01〜30mmであることが好ましい。なお、上記レーザー照射幅が狭すぎると表面メッキ層が過度に加熱され、上記拡散層の厚みが拡大される懸念がある。よって、レーザー照射幅は0.05mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましい。一方、レーザー照射幅が広すぎると、ウィスカ発生を抑制するのに十分な加熱が行えない場合がある。また、テープ上への部分的なレーザー照射が困難になるという問題もある。従って、レーザー照射幅は20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましい。
【0028】
更に、本発明においては、レーザー光線を照射する際のテープの移動速度が1〜50m/分であることが好ましい。上述したように、本発明の製造方法は、表面メッキ層に極めて短時間のレーザー光線の照射を行うことによって、拡散層を狭く制御しつつ表面メッキ層からのウィスカの発生を抑制するという効果を奏している。よって、テープの移動速度を速くすることが可能であり、製造工程の高速化にも対応できる。このテープの移動速度はより好ましくは5〜40m/分であり、更に好ましくは10〜30m/分である。
【0029】
また、表面メッキ層の単位面積当たりに照射されるレーザー光線のエネルギーは、0.05〜5J/mmであることが好ましい。表面メッキ層の単位面積当たりに照射されるレーザー光線のエネルギーの好適な量は、基材の材質、下地層の材質及び厚さ、並びに表面メッキ層の厚さ等に応じて決定されるが、多すぎると表面メッキ層の過度の加熱により拡散層の幅が拡大されることがあるため、好ましくない。このような観点から、上記レーザー光線のエネルギーは2J/mm以下であることが好ましく、0.8J/mm以下であることがより好ましい。また、上記レーザー光線のエネルギーが少なすぎるとウィスカ発生を抑制するのに十分な加熱が行えないことがあるため、好ましくない。このような観点から、上記レーザー光線のエネルギーは0.08J/mm以上であることが好ましく、0.2J/mm以上であることがより好ましい。なお、このレーザー光線のエネルギーは、レーザーの出力、表面メッキ層への照射面積、及びテープの移動速度を適宜選択することによって所望の値に調整することができる。
【0030】
本発明の製造方法においては、テープ上に形成された表面メッキ層上にレーザー光線を照射することにより、表面メッキ層とその下地層(基材又は下地メッキ層)との間に拡散層が形成されるが、この拡散層の厚さをできるだけ薄くなるように制御することが重要であることは上述した通りである。拡散層が表面メッキ層の表面に露出すると表面メッキ層の表面品質が変化して、得られるメッキ製品の接触抵抗が上昇するなど、電気的性質に悪影響を及ぼす場合がある。よって、本発明では、拡散層が表面メッキ層の表面に露出しないことが好ましい。拡散層の厚みは薄いほど好ましいが、一方で拡散層の厚みが過度に薄い、又は拡散層が形成されない場合には、ウィスカの発生を抑制できない場合がある。拡散層の厚みは形成した表面メッキ層の厚みの1/20〜1/2倍とすることがより好ましく、1/5〜1/2倍とすることが更に好ましい。
【0031】
拡散層の厚みは、例えば、SEM(Scanning Electron Microscope)、X線マイクロアナライザ(EPMA)又はSIM(Scanning Ion Microscope)などの公知の手段により、レーザー照射後のテープ断面像を取得し、この断面像上で各層の厚みを測定することにより求めることができる。拡散層とその上下の層との界面に凹凸がある場合には、上記断面像上の拡散層が最も厚い部分における拡散層の厚みを本発明で用いる拡散層と定義する。なお、拡散層の厚みは表面メッキ層の厚み、及びレーザー光線の照射時間、照射幅、テープの移動速度などのレーザー照射条件をそれぞれ適宜選択することにより、調整することができる。
【0032】
なお、表面メッキ層へのレーザー光線の照射の方法は特に限定されず、テープを長手方向に移動させた状態で、テープ上の必要な部分を走査しながら照射を行うことができればよく、テープの長手方向を含む表面に対して垂直にレーザー光を照射する方法などが挙げられる。なお、図1に示すテープ1は、金属テープを打ち抜くことによって製造されているので、テープ1の表面は、長手方向を含む表裏面と、それらに垂直な切断面とから構成される。金属テープを打ち抜いた後に表面メッキ層のメッキを施す場合には、この切断面にも表面メッキ層が形成される。このような場合には、図2に示すように、テープの両側に2本のレーザーを配置し、これらを用いて進行方向の斜め前方と斜め後方の2方向から表面メッキ層にレーザー光線を照射することも好ましい。
【0033】
図2において、テープ1の両側には第一レーザー10及び第二レーザー11が固定されている。テープ1の進行方向(図中の矢印方向)の斜め後方から第一レーザー10からレーザー光を照射し、進行方向の斜め前方から第二レーザー11からレーザー光を照射する。
第一レーザー10によって、表裏面のうちの片方の面と、2つの切断面のうちの一方の面に対して帯状にレーザー光線を照射することができる。また、第二レーザー11によって、表裏面及び切断面の残りの面に対して帯状にレーザー光線を照射することができる。このような方法でレーザー照射を行った場合には、テープ1の表裏面のみでなく、切断面上に形成された表面メッキ層に対してもレーザー照射を行うことができることができ、切断面上の表面メッキ層からのウィスカの発生も好適に抑制することができる。
【0034】
表面メッキ層へのレーザー照射がなされたテープ1を切断線5で切断することにより、本発明におけるメッキ製品としてのコネクタ2が得られる。なお、本明細書においては、端子部及び接点部を有するコネクタを製造するためのテープを用いて説明したが、本発明の製造方法はこれに限らず、実装型集積回路のリードフレームなどの、はんだ付けされる電子部品等のメッキ製品の製造方法であって、テープ表面にスズ又はスズ合金をメッキする工程を含む種々のメッキ製品の製造にも適用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
〈実施例1〉
基材として、図1に示すような、コネクタとなるべき部分が接続部分を介して多数連結されてなるリン青銅製のテープを用い、このテープ全面にフープメッキにより銅メッキを行った。銅メッキは、シアン化銅浴を用い、液温50℃、電流密度15A/dmの条件で行い、膜厚2μmの下地メッキ層を得た。得られた下地メッキ層上の全面にスズメッキを行った。スズメッキは、アルカンスルホン酸浴を用い、液温35℃、電流密度15A/dmの条件で行い、膜厚2μmの表面メッキ層を得た。
【0036】
下地メッキ層及び表面メッキ層が形成されたテープの全面に、以下の条件でレーザー照射による加熱を行った。レーザーの熱源として波長800nm、940nm、及び980nmの3波長混合の半導体レーザーを用いた。レーザー光線のコリメート径は46mm、焦点距離は100mmであり、最小スポット径は600μmであった。レーザー光線の照射は、出力400W、照射距離120mmの条件で行い、テープ表面に対して100mm/secの速度で走査した。なお、本実施例では、テープに対してレーザーを走査することにより照射したが、実質的にはレーザーを固定してテープを移動させることと同様の効果を得ることができる。即ち、本実施例におけるレーザー走査速度に対応するテープの移動速度は100mm/secであった。
【0037】
レーザー光線の照射径は、レーザーのコリメート径、焦点距離、及び照射距離の相関より算出した。これより得られたレーザー照射径は10mmであった。即ち、短手方向におけるレーザー照射幅も10mmであった。また、長手方向におけるレーザー照射幅とレーザー走査速度とから得られる表面メッキ層の所定の場所における照射時間は0.1秒であった。また、表面メッキ層の単位面積あたりに照射されるレーザー光線のエネルギーは、レーザーの出力と照射時間の積をレーザーの照射面積で除して求めた。これより、本実施例における上記エネルギーは0.51J/mmであった。なお、レーザー照射の際、シールドガスのフローは行わなかった。このようにして、本発明のメッキ製品としてのコネクタを多数連結された状態で有するテープを得た。
【0038】
得られたテープについて、以下の評価を行った。
(1)断面観察
テープ上に銅メッキにより保護層を形成した後、この上に更にタングステンのデポジション膜を形成した。FIB(集積イオンビーム)により、このテープ表面の接点部の一部(図1の観察部位7)を加工することにより、テープの断面を得た。SIMにより、得られた断面に対して斜め上方から観察を行った。観察部位の断面の顕微鏡写真を図3に示す。図3において、20は銅保護層、21は表面メッキ層、22は拡散層、23は下地メッキ層、24は基材であるリン青銅を、それぞれ示す。表面メッキ層及び拡散層の厚みは、得られた顕微鏡写真上における各層の厚みを図3に基づいて換算することにより求めた。これにより得られた表面メッキ層の厚みは0.90μmであり、拡散層の厚みは2.24μmであった。
【0039】
(2)はんだ濡れ評価
JISC 60068−2−54に記載されたはんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して以下の条件で試験を行い、試験開始(試料にかかる力が0)から、再度試料にかかる力が0になるまでの時間(ゼロクロスタイム)を測定した。測定は10点の試料(コネクタ部分)について行い、これらの平均値を測定結果とした。なお、ゼロクロスタイムが短いほどはんだ濡れ性が良好であることを示す。
【0040】
[試験条件]
測定器:タルチンケスター製 SWET 2100e
はんだ:Sn−3Ag−0.5Cu
フラックス :CF-110VH−2A
測定条件:速度=2mm/sec、浸漬深さ=0.2mm、浸漬時間=5sec
温度:245℃、測定レンジ=10mN
【0041】
(3)ウィスカ発生試験
ウィスカ発生試験は荷重試験法により行った。テープを2枚のアクリル板に挟み込み、これを4隅にネジを有するSUS製保持具により固定した。4隅のネジを固定トルク(50mN)で締め付けることにより、テープに外圧を加え、500時間保持した。その後、アクリル板からテープを取り出し、金属顕微鏡によりウィスカ発生の有無を確認した。
【0042】
〈比較例1〉
実施例1において、下地メッキ層及び表面メッキ層が形成されたテープにレーザー光線を照射する代わりに加熱炉によるリフローを行った以外は、実施例1と同様の方法によりコネクタを多数連結された状態で有するテープを得た。リフローは公知の方法により、表面メッキ層のスズが溶融しうる温度で所定時間行った。その際、テープの酸化防止のため、加熱炉内にNガスをフローした。得られたテープについて、実施例1と同様の評価を行った。観察部位の断面の顕微鏡写真を図4に示す。
【0043】
図3及び図4に示すように、比較例1では拡散層が表面メッキ層の表面に到達しているのに対し、レーザーによる加熱を行った実施例1では拡散層を薄く抑えることができたため、表面メッキ層の表面に拡散層が露出することを防ぐことができた。これとは別に、実施例1及び比較例1で得られたテープの表面をEPMAの組成像(COMP像)で観察したところ、実施例1と比較例1とでは表面張力によるメッキの寄り(基材平坦部においてメッキ層が厚くなり、角部近傍では薄くなる現象)に差は確認されず、両方とも加熱によって表面メッキ層の表面が同様の溶融状態になったことが分かった。はんだ濡れ評価の結果は、実施例1が0.296、比較例1が0.394であり、実施例1の方が良好なはんだ濡れ性を示すことが確認された。また、ウィスカ発生試験の結果はともに良好で、実施例1と比較例1のいずれにもウィスカの発生が見られなかった。
【0044】
〈実施例2〉
実施例1において、レーザー光線の照射条件を以下のように変更した以外は実施例1と同様の方法により、コネクタを多数連結された状態で有するテープを得た。レーザー光線は、出力700W、焦点距離120mmの条件で照射し、テープ表面に対して200mm/secの速度で走査した。即ち、本実施例におけるレーザー走査速度に対応するテープの移動速度は200mm/secであった。テープ短手方向(長手方向に垂直な方向)におけるレーザー照射幅は10mmであり、表面メッキ層の所定の場所における照射時間は0.05秒であった。また、表面メッキ層の単位面積あたりに照射されるレーザー光線のエネルギーは0.44J/mmであった。なお、これらの値は実施例1と同様の方法により求めた。
【0045】
得られたテープについて、実施例1と同様に断面観察を行った。観察部位の断面の顕微鏡写真を図5に示す。図5から明らかなように、実施例2では実施例1と比較して、拡散層の厚さが驚くほど薄く制御されていることが観察された。このように拡散層を薄く制御できたということは、同時にレーザー光線による表面メッキ層の表面状態への影響も少なく、従ってはんだ濡れ性も良好に維持できていると考察される。また、このテープについてウィスカ発生試験も行ったが、実施例1と同様、ウィスカの発生は観察されなかった。これより、本発明の方法によれば、レーザー光線の照射時間を極めて短くすることにより、拡散層を薄く制御しつつウィスカの発生を抑制することができた。
【0046】
〈実施例3〉
基材として、実施例1で用いたものと同様のリン青銅製のテープを用い、このテープ全面にフープメッキによりニッケルメッキを行った。ニッケルメッキは、スルファミン酸浴を用い、液温50℃、電流密度15A/dmの条件で行い、膜厚2μmの下地メッキ層を得た。得られた下地メッキ層上の全体に実施例1と同様の方法によりスズからなる表面メッキ層を形成した後、実施例1と同様の条件で表面メッキ層の全面にレーザー光線を照射することによりコネクタを多数連結された状態で有するテープを得た。得られたテープについて、実施例1と同様に断面観察及びウィスカ発生試験を行った。
【0047】
〈比較例2〉
実施例3と同様の方法を用いて、基材上にニッケルからなる下地メッキ層及びスズからなる表面メッキ層を有するテープを得た。このテープに対し、比較例1と同様に加熱炉によるリフローを行うことにより、コネクタを多数連結された状態で有するテープを得た。得られたテープについて、実施例1と同様に断面観察及びウィスカ発生試験を行った。
【0048】
断面観察の結果、比較例2では拡散層が表面メッキ層の表面に到達しているのに対し、レーザーによる加熱を行った実施例3では拡散層を薄く抑えることができたため、表面メッキ層の表面に拡散層が露出することを防ぐことができた。また、ウィスカ発生試験の結果はともに良好で、実施例3と比較例2のいずれにもウィスカの発生が見られなかった。また、実施例3と比較例2とでは表面メッキ層の表面張力によるメッキの寄りに差は確認されず、両方とも加熱によって表面メッキ層の表面が同様の溶融状態になったことが分かった。
【0049】
〈実施例4〉
実施例3と同様の方法を用いて、基材上にニッケルからなる下地メッキ層及びスズからなる表面メッキ層を有するテープを得た。得られたテープにおいて、はんだ付けがなされる端子部のみにはレーザー光線が照射されず、それ以外の部分にはレーザー光線が照射されるように、レーザー照射(レーザー光線による部分リフロー)を行ってコネクタを多数連結された状態で有するテープを得た。レーザーの照射条件は実施例1と同様としたが、端子部に照射されないようレーザーの走査位置をずらした。なお、レーザー照射に際し、テープの酸化防止のためにNガスをフローした。レーザー照射の対象箇所が小さくピン先のような複雑形状を有する場合は酸化しやすいため、シールドガスを流す方が望ましい。
【0050】
実施例4により得られたテープの外観写真を図6に示す。選択的にピン先のみリフローされ、端子部にはレーザー照射前のスズメッキが残っていることが確認できた。このように、本発明の方法によれば、テープ上の必要な部分にのみレーザー照射による加熱を行う、いわゆる部分リフローが容易に行えることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の製造方法が適用されるテープの一態様の一部を示す平面図である。
【図2】2本のレーザーを用いて、テープの進行方向の斜め前方と斜め後方の2方向から表面メッキ層にレーザー光線を照射する様子を示す概略上面図である。
【図3】実施例1で得られたテープの断面の観察像である。
【図4】比較例1で得られたテープの断面の観察像である。
【図5】実施例2で得られたテープの断面の観察像である。
【図6】実施例4で得られたテープの外観写真である。
【符号の説明】
【0052】
1 テープ
2 コネクタ
3 端子部
4 接点部
5 切断線
6 接続部分
7 観察部位
10、11 レーザー
20 銅保護層
21 表面メッキ層
22 拡散層
23 下地メッキ層
24 リン青銅基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材である導電性金属からなるテープを長手方向に移動させながらその表面にスズ又はスズ合金からなる表面メッキ層を連続的に形成し、引き続きテープを長手方向に移動させながら表面メッキ層にレーザー光線を照射して加熱することを特徴とするメッキ製品の製造方法。
【請求項2】
前記表面メッキ層を形成する前に、予め銅、ニッケル、銀からなる群から選択される少なくとも1種の金属を主成分とする下地メッキ層を形成する請求項1記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項3】
レーザー光線の波長が1000nm以下である請求項1又は2記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項4】
テープ長手方向に垂直な向きのレーザー照射幅が0.01〜30mmである請求項1〜3のいずれか記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項5】
表面メッキ層の所定の場所においてレーザー光線が照射される時間が0.001〜0.5秒である請求項1〜4のいずれか記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項6】
レーザー光線を照射する際のテープの移動速度が1〜50m/分である請求項1〜5のいずれか記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項7】
単位面積当たりに照射されるレーザー光線のエネルギーが0.05〜5J/mmである請求項1〜6のいずれか記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項8】
レーザー光線を照射して加熱することによって、前記表面メッキ層と前記基材又は前記下地メッキ層との間に拡散層を形成し、得られる拡散層が表面メッキ層の表面に露出しない請求項1〜7のいずれか記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項9】
前記テープが、電子部品となるべき部分が接続部分を介して多数連結された形に打ち抜かれ、かつ前記電子部品となるべき部分がはんだ付けされるための端子部を有するテープであり、該端子部に前記表面メッキ層を形成し、引き続きレーザー光線を照射する請求項1〜8のいずれか記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項10】
前記テープの両側に配置された2本のレーザーを用いて進行方向の斜め前方と斜め後方の2方向から前記表面メッキ層に前記レーザー光線を照射する請求項9記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項11】
前記端子部に形成された表面メッキ層にはレーザー光線を照射せず、それ以外の部分にレーザー光線を照射する請求項9又は10記載のメッキ製品の製造方法。
【請求項12】
前記電子部品が、端子部と接点部とを有するコネクタ用端子であり、端子部と接点部の両方に対して前記表面メッキ層を形成し、端子部にはレーザー光線を照射せず、接点部にはレーザー光線を照射する請求項11記載のメッキ製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−297668(P2007−297668A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125864(P2006−125864)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(303028734)オーエム産業株式会社 (4)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【Fターム(参考)】