説明

メトホルミンの増加された吸収のための組成物及び投与形態物

メトホルミン及び、脂肪酸のような輸送部分からなる複合体が説明される。複合体は胃腸管、特に下部胃腸管中において高められた吸収を有する。複合体及び、複合体を使用して調製される組成物及び投与形態物は10〜24時間の期間にわたり薬剤の身体による吸収をもたらし、それによりメトホルミンの1日1回投与形態物を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメトホルミンの送達のための組成物及び投与形態物に関する。より特には、本発明は複合体が胃腸管中、そして更に特には下部胃腸管中においてメトホルミンの増加した吸収を提供するメトホルミン及び輸送部分複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
投与形態物の通常の製薬学的開発は一方では安定な投与形態物、そして他方では上部胃腸管中の吸収を最大にする投与形態物を得ることに基づく。大部分の薬剤投与形態物は薬剤を即時に放出するようになっているので、上部胃腸(G.I.)管が下部G.I.管よりずっと広い薬剤吸収の表面積を有するために、投与形態物は上部G.I.管内で十分に溶解されるようになっている。下部G.I.管又は結腸は上部G.I.管に存在する微絨毛(microvilli)が存在しない。微絨毛の存在は薬剤吸収のための表面積を著しく増加し、そして上部G.I.管は結腸よりも480倍大きい表面積を有する。
【0003】
上部G.I.管及び下部G.I.管の細胞の特徴の相異もまた、下部G.I.管中の分子の低い吸収の原因となる。図1はG.I.管の上皮組織を横断する化合物の輸送の2種の一般的な経路を表わす。10a、10b、10cにより表わされる個々の上皮細胞は小腸及び大腸に沿って細胞バリヤーを形成する。個々の細胞はジャンクション12a、12bのような水路(water channels)又は緊密な(tight)ジャンクションにより分離されている。上皮組織を横断する輸送は細胞を横断する経路及び傍細胞(paracellular)経路のいずれか又は双方により起る。矢印14により図1に示した輸送の細胞横断経路は受動的拡散又は担体に媒介される輸送により上皮細胞の壁及び本体を横切る化合物の移動を伴う。輸送の傍細胞経路は矢印16により示すように個々の細胞間の緊密なジャンクションをとおる分子の移動を伴う。傍細胞輸送は一部は、それがG.I.管の全長にわたり起るために、特異性は少ないが、ずっと大きい全体的能力を有する。しかし、緊密なジャンクションは、緊密なジャンクションの有効な「緊密性」における近位から遠位への増加する勾配を伴って、G.I.管の長さに沿って変動する。従って、上部G.I.管内の十二指腸は上部G.I.管内の回腸より「漏洩性(leaky)」であり、回腸は下部G.I.管中の結腸より「漏洩性」である、(非特許文献1参照)。
【0004】
上部G.I.管内の薬剤の典型的な滞留時間は約4〜6時間であるので、低い結腸での吸収を有する薬剤は経口摂取後4〜6時間のみの期間中に身体により吸収される。しばしば、投与された薬剤がその日の間中に比較的一定の濃度で患者の血流中に存在することが医学的に所望される。最少の結腸吸収を示す伝統的な薬剤調製物でこれを達成するためには、患者は1日3〜4回この薬剤を摂取することが必要と思われる。患者に対するこの不都合を伴う実際的経験により、これが最適な処置のプロトコールではないことが示唆される。従って、一日中にわたる長期間の吸収を伴うこのような薬剤の1日1回の投与が達成されることが望ましい。
【0005】
一定の投与量の処置を提供するために、通常の製薬学的開発により種々の徐放性薬剤システムが示唆されてきた。このようなシステムは投与後の長時間にわたり薬剤のそれらの有効荷重(payload)を放出することにより機能する。しかし、徐放性システムのこれらの通常の形態は最少の結腸の吸収を示す薬剤の場合には有効でない。薬剤は上部G.I.管でのみ吸収され、かつ上部G.I.管における薬剤の滞留時間が4〜6時間のみであるので、提唱された徐放性投与形態物が上部G.I.中の投与形態物の滞留期間後にその有効荷重を放出するかも知れないことは、身体が上部G.I.滞留の4〜6時間を過ぎて徐放性薬剤を吸収し続けるであろうことを意味しない。その代わりに、投与形態物が下部G.I.管に侵入(entered)した後に徐放性投与形態物により放出される薬剤は概括的に吸収されず、その代わり下部G.I.から他の物質とともに身体から排出される。
【0006】
メトホルミンは低い結腸吸収を有することが確証された化合物である(非特許文献2参照)。メトホルミン塩酸は元来、下部G.I.管又は結腸中における低い透過性及び吸収を有し、それがほとんど独占的に胃腸管の上部(上部G.I.管)における吸収をもたらす。
【0007】
メトホルミンはII型糖尿病の処置に使用されるビグアニドのクラスの抗高血糖剤である。それは塩酸塩のメトホルミンHClとして市販され、非インスリン依存性糖尿病(II型糖尿病)の処置のためのGlucophage(R)として市販されている。糖尿病の患者に対しては、薬力学的利点が血流中のメトホルミンの比較的一定な用量により提供されるので、1日1回のメトホルミン処置は好都合を超えた利点を提供すると考えられる。例えば、比較的一定な投与量が糖の利用及び耐糖能を改善することができると考えられる。
【0008】
メトホルミンの持続性放出に対する先行技術のアプローチは上部G.I.管中の滞留時間を増加することに焦点を当ててきた。例えば、特許文献1は、メトホルミンの吸収が主として上部G.I.管中のみで起り、下部G.I.管中では起らないという原理に基づいて断定されるメトホルミン送達システムを記載している(特許文献1参照)。メトホルミンの1日1回投与を処方する(formulate)他の先行技術の試みは大部分不成功であった。例えば、Glucophage XR(R)は1日1回の処方物(formulation)として提示されたが、1日1回の投与形態物に対して提唱される15〜20時間よりずっと短い約6時間以内に、インビトロでその投与量の90%を放出する。従って、Glucophage XR(R)の1日2回投与が必要である。他の研究者は胃内の投与形態物の滞留時間を増加することにより胃内の吸収時間を延長する、メトホルミンHClの徐放性投与形態物を提唱した(特許文献2及び3参照)。
【0009】
従って投与システムが下部G.I.管中のメトホルミンの吸収を提供する1日1回のメトホルミン投与システムの需要がまだ存在する。
【特許文献1】国際公開第99/47128号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,451,808号明細書
【特許文献3】米国特許第6,723,340号明細書
【非特許文献1】Knauf,H.等、Klin.Wochenschr.,60(19):1191−1200(1982)
【非特許文献2】Marathe,P等、Br.J.Clin.Pharmacol.,50:325−332(2000))
【発明の開示】
【0010】
従って、1つのアスペクトにおいて、本発明は、メトホルミン及び輸送部分が複合体(complex)を形成する、メトホルミン及び輸送部分を含んでなる物質を包含する。
【0011】
1つの態様において、複合体形成前の輸送部分はnが4〜16である場合の形態CH(C2n)COOHの脂肪酸である。
【0012】
もう1つの態様において、輸送部分はカプリン酸又はラウリン酸である。
【0013】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明はメトホルミン及び輸送部分を含んでなる複合
体、並びに製薬学的に許容できるビヒクルを含んでなる組成物を包含し、ここで組成物がメトホルミン塩酸より少なくとも4倍高い、下部胃腸管内の吸収を有する。
【0014】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明は前記の組成物を含んでなる投与形態物を包含する。
【0015】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明は前記の物質を含んでなる投与形態物を包含する。
【0016】
種々の態様において、投与形態物は浸透性投与形態物である。
【0017】
例示的投与形態物は(i)押し出し層(push layer);(ii)メトホルミン−輸送部分複合体を含んでなる薬剤層;(iii)押し出し層及び薬剤層の周囲に提供される半透性の壁;並びに(iv)出口、を含んでなるものである。
【0018】
もう1つの代表的投与形態物は(i)メトホルミン−輸送部分複合体、オスマジェント(osmagent)及び浸透性ポリマーを含んでなる浸透性調製物の周囲に提供される半透性の壁並びに(ii)出口、を含んでなるものである。
【0019】
1つの態様において、投与形態物は500〜2550mgの間の総1日投与量を提供する。
【0020】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明はメトホルミン又はメトホルミンの塩を含んでなる投与形態物における改良物を提供する。改良物はメトホルミン及び輸送部分の複合体を包含する投与形態物を含んでなる。
【0021】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明は前記の組成物を投与する工程を含んでなる、被験体の高血糖を処置するための方法を包含する。
【0022】
1つの態様において、組成物は経口投与される。
【0023】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明はメトホルミンの塩基を提供す工程;輸送部分を提供する工程;水より小さい誘電定数を有する溶媒の存在下でメトホルミンの塩基及び輸送部分を結合させる工程(combining);(それにより結合させる工程がメトホルミンの塩基及び輸送部分の間の複合体を形成する):を含んでなるメトホルミン−輸送部分複合体を調製する方法を包含する。
【0024】
1つの態様において、メトホルミン及び輸送部分は水の誘電定数より少なくとも2倍小さい誘電定数を有する溶媒中で結合される。例示的溶媒はメタノール、エタノール、アセトン、ベンゼン、メチレンクロリド及び四塩化炭素である。
【0025】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明はメトホルミン及び輸送部分を含んでなる複合体を提供する工程(ここで該複合体は緊密なイオン対結合を特徴としてもつ)及び複合体を患者に投与する工程を含んでなる、メトホルミンの胃腸の吸収を改善する方法を包含する。
【0026】
1つの態様において、改善された吸収は改善された下部胃腸の吸収を含んでなる。
【0027】
もう1つの態様において、改善された吸収は上部胃腸管中の改善された吸収を含んでなる。
【0028】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明は、メトホルミン及び輸送部分からなる複合体を投与する工程、第2の治療物質を投与する工程を含んでなる、II型糖尿病を有する被験体(subject)を処置する方法を包含する。
【0029】
1つの態様において、第2の治療物質の投与は抗糖尿病剤である第2の治療物質を投与する工程を含んでなる。
【0030】
もう1つの態様において、第2の治療物質はジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターである。
【0031】
更にもう1つの態様において、メトホルミン及び脂肪酸の輸送部分の複合体は複合体形成前の脂肪酸が形態CH(C2n)COOH(ここでnは4〜16である)のものである脂肪酸からなる。例示的脂肪酸はカプリン酸又はラウリン酸である。
【0032】
もう1つの態様において、複合体及び/又はDPP IVインヒビターは経口投与される。
【0033】
更にもう1つのアスペクトにおいて、本発明はメトホルミン及び輸送部分を含んでなる化合物を包含し、そこで該化合物が(i)メトホルミンの塩基を提供する工程;(ii)輸送部分を提供する工程;(iii)水より小さい誘電定数を有する溶媒の存在下でメトホルミンの塩基及び輸送部分を結合させる(ここで結合させる工程が緊密なイオン対結合により結合されたメトホルミンの塩基及び輸送部分間の複合体を形成する)工程により調製される。
【0034】
本発明のこれらの及び他の目的及び特徴物は、本発明の以下の詳細な説明が付記の図面と合わせて読み取られる時に、より完全に認識されるであろう。
【0035】
詳細な説明
I.定義
本発明は本明細書に提供される以下の定義、図面及び代表的説明を参照することによりもっともよく理解される。
【0036】
「組成物」とは、場合により更なる有効な製薬学的成分と組み合わせてそして/又は場合により製薬学的に許容できる担体、賦形剤、懸濁物質、界面活性剤、崩壊剤、結合剤、希釈剤、滑沢剤、安定剤、抗酸化剤、浸透剤、着色剤、可塑化剤等のような不活性成分と組み合わせた1種又は複数のメトホルミン−輸送部分複合体を意味する。
【0037】
「複合体」とは、緊密な−イオン対結合により結合された薬剤部分(例えば、メトホルミン)及び輸送部分を含んでなる物質を意味する。薬剤部分−輸送部分複合体は以下の関係:
【0038】
【数1】

【0039】
[式中、D、分配係数(distribution coefficient)(見かけの分配係数(partition coefficient))は設定されたpH(典型的には約pH=5.0〜約pH=7.0)そして摂氏25度における水(脱イオン水)中
の同一物質(species)に対するオクタノール中の薬剤部分及び輸送部分のすべての物質の平衡濃度の比率である。LogD(複合体)は本発明の説に従って調製された薬剤部分及び輸送部分複合体に対して決定される。LogD(緩いイオン対)は脱イオン水中の薬剤部分及び輸送部分の物理的混合物に対して決定される。例えば、想像される(putative)複合体(摂氏25度の脱イオン水中)のオクタノール/水のみかけの分配係数(D=Cオクタノール/C)を決定し、そして摂氏25度の脱イオン水中の輸送部分と薬剤部分の1:1(モル/モル)の物理的混合物に比較することができる。決定される、想像の複合体(D)に対するLogDと、1:1(モル/モル)の物理的混合物、D‖Tに対するLogD間の差が0.15以上である場合は、想像の複合体は本発明に従う複合体であることが確証される。好ましい態様において、ΔLogD≧0.20であり、そしてより好ましくは、ΔLogD≧0.25であり、より好ましくは更に、ΔLogD≧0.35である]
を特徴としてもつ、オクタノール/水の分配動態の相異により薬剤部分及び輸送部分の緩いイオン対から区別することができる。
【0040】
「投与形態物」とは、治療を必要とする患者に対する投与に適した媒質、担体、ビヒクル又はデバイス(device)中の製薬学的組成物を意味する。
【0041】
「薬剤(drug)」又は「薬剤部分(drug moiety)」とは、薬剤、化合物又は作用剤(agent)あるいは被験体に投与される時に幾らかの薬理学的効果を提供するような薬剤、化合物又は作用剤の残基(residue)を意味する。複合体形成に使用のためには、薬剤は酸性、塩基性又は双イオン性構造要素あるいは酸性、塩基性又は双イオン性残基構造要素を含んでなる。
【0042】
「脂肪酸」とは、炭化水素鎖が飽和されている(x=2n、例えば、パルミチン酸、C1531COOH)又は不飽和(x=2n−2、例えば、オレイン酸、CH1630COOH)のいずれかである一般式CH(C)COOHの有機酸の群のいずれかを意味する。
【0043】
「腸」又は「胃腸(G.I.)管」とは、小腸(十二指腸、空腸及び回腸)並びに大腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S字結腸及び直腸)からなる、胃の下方開口部から肛門まで延伸する消化管の部分を意味する。
【0044】
「緩いイオン対」とは、生理学的pHにおいてそして水性環境中で、緩いイオン対の環境内に存在する可能性がある他の緩く対を形成した又は遊離イオンと容易に互換性であるイオン対を意味する。緩いイオン対はアイソトープ標識及びNMR又は質量分析法を使用して、生理学的pHにおいてそして水性環境中で、もう1つのイオンとの緩いイオン対の1員の互換性に注目することにより実験的に見いだすことができる。緩いイオン対はまた、逆相HPLCを使用して生理学的pHにおいてそして水性環境中でイオン対の分離に注目することにより実験的に見いだすことができる。緩いイオン対はまた、「物理的混合物」と呼ばれることができ、媒質中でイオン対を物理的に一緒に混合することにより形成される。
【0045】
「下部胃腸管」又は「下部G.I.管」とは、大腸を意味する。
【0046】
メトホルミンはN,N−ジメチルイミドジカルボンイミド酸ジアミドを表わし、C11の分子式、129.17の分子量を有する。化合物はメトホルミン塩酸として市販されている。
【0047】
「患者」とは、治療的介入の必要な動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを
意味する。
【0048】
「緊密なイオン対」とは、生理学的pHにおいてそして水性環境中で緊密なイオン対の環境中に存在する可能性がある他の緩い対のイオン又は遊離イオンと容易には互換性でないイオンの対を意味する。緊密なイオン対はアイソトープ標識及びNMR又は質量分析法を使用して、生理学的pHにおいてそして水性環境中でもう1つのイオンと緊密なイオン対の1員の互換性の不在に注目することにより実験的に見いだすことができる。緊密なイオン対はまた、逆相HPLCを使用して生理学的pHにおいてそして水性環境中でイオン対の分離の欠乏に注目することにより実験的に見いだすことができる。
【0049】
「輸送部分」とは、輸送部分が非複合体形成薬剤との比較において上皮組織を横切る薬剤の輸送を改善するために働く、薬剤と複合体を形成することができる化合物又はそれを形成した化合物の残基、を意味する。輸送部分は疎水性部分及び酸性、塩基性又は双イオン性構造要素あるいは酸性、塩基性又は双イオン性残基構造要素を含んでなる。好ましい態様において、疎水性部分は炭化水素鎖を含んでなる。1つの態様において、塩基性構造要素又は塩基性残基構造要素のpKaは約7.0より大きく、好ましくは、約8.0より大きい。
【0050】
「製薬学的組成物」とは、治療を必要とする患者に対する投与に適した組成物を意味する。
【0051】
「構造要素」とは、(i)より大きい分子の一部であり、(ii)区別可能な化学的官能性を有する化学基を意味する。例えば、化合物上の酸性基又は塩基性基は構造要素である。
【0052】
「物質」とは、特定の特徴を有する化学的実在物を意味する。
【0053】
「残基構造要素」とは、もう1つの化合物、化学基、イオン、原子等との相互作用又は反応により修飾される構造要素を意味する。例えば、カルボキシル構造要素(COOH)はナトリウムと相互反応して、ナトリウム−カルボキシレート塩を形成し、ここでCOO−が残基構造要素である。
【0054】
「上部胃腸管」又は「上部G.I.管」とは、胃及び小腸を包含する胃腸管の部分を意味する。
【0055】
II.メトホルミン複合体の形成及び特徴付け
前記のように、メトホルミンは非インスリン依存性糖尿病(II型糖尿病)の血糖レベルを調節する補助をするために使用されるビグアニド群の抗高血糖剤である。図2に示したメトホルミンは12.4のpKaをもつカチオン性の水溶性化合物である。該薬剤のイオン化形態は陰性に帯電した腸の上皮組織に吸着する傾向があり、研究により、メトホルミンは健康なヒトの被験者において低い結腸吸収を有することが示された(Vidon,N.等、Diabetes Res.Clin.Pract.,4:223−229(1988))。塩酸メトホルミンの親水性は、メトホルミンHClのpHの関数としてオクタノール/水の分配係数の対数(logP)がプロットされている図3に示されている。7.0未満のpH値において塩酸メトホルミンは−3.7未満のlogPを伴い、親水性である。胃内の約1.2のpHから遠位回腸及び大腸内の約7.5のpHまでの範囲内にあるG.I管中のpHの勾配(Evans,D.F.等、Gut,29:1035−1041(1988))は、塩酸メトホルミンがG.I.管中のpHの範囲全体にわたり親水性であることを意味する。更に、メトホルミンHClはこれらのpH値において著しく解離されている。親水性及び電荷の組み合わせが細胞横断経路を介するその吸収を著しく限定する傾向があり、そしてその結果メトホルミンHClは下部G.I.管中では非常に吸収が低い。
【0056】
従って、1つのアスペクトにおいて、本発明は下部G.I.管内の著しく改善された吸収を有するメトホルミンを含んでなる物質を提供する。該物質はメトホルミン及び輸送部分複合体であり、図4Aに示す概略の合成反応スキームに従って塩酸メトホルミンのようなメトホルミンの塩から調製することができる。すなわち、メトホルミンを図中でTと表わされる輸送部分と結合される。例示的輸送部分は前記に挙げられ、そして脂肪酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、フマル酸及びサリチル酸を包含する。以下に考察されるように、2種の物質を水より小さい誘電定数を有する有機溶媒の存在下で接触させて、物質が表示のメトホルミン+(T)により図4A中に表わされるような緊密なイオン対により結合されているメトホルミン−輸送部分複合体を形成する。
【0057】
図4Bはメトホルミン−輸送部分複合体の形成に対する、より特定の合成反応スキームを表わす。このスキームにおいて、輸送部分は図中でT−COOと表わされるカルボキシル基(COO)を有する。カルボキシル−含有輸送部分、T−COOは水より小さい誘電定数を有する溶媒中に混合されて、メトホルミン+[(T−COO)と図中で表わされるハイブリッド結合又は緊密なイオン対により結合されたメトホルミン及び輸送部分複合体を形成する。
【0058】
実施例1には、輸送部分が脂肪酸であるメトホルミン鉄−輸送部分複合体を調製する方法の特定の例が提供され、図4Cに示される。メトホルミンの塩基はイオン交換法を使用して塩酸塩から調製される。溶媒中の脂肪酸の溶液をメトホルミンの塩基と接触させて、メトホルミン−脂肪酸複合体を形成する。
【0059】
実施例1において、複合体は例示的な脂肪酸輸送部分としてラウリン酸から形成した。ラウリン酸は単に例示であり、そして調製方法は輸送部分として適した他の物質及び任意の炭素鎖長の脂肪酸にも等しく適用することができることは理解されるであろう。例えば、種々の脂肪酸又は脂肪酸の塩(ここで脂肪酸が6〜18個の炭素原子、より好ましくは8〜16個の炭素原子そして更により好ましくは10〜14個の炭素原子を有する)とのメトホルミンの複合体形成が想定される。脂肪酸又はそれらの塩は飽和でも不飽和でもよい。複合体の調製における使用に想定される例示的飽和脂肪酸にはブタン酸(酪酸、4C);ペンタン酸(バレリン酸、5C);ヘキサン酸(カプロン酸、6C);オクタン酸(カプリル酸、8C);ノナン酸(ペラルゴン酸,9C);デカン酸(カプリン酸、10C);ドデカン酸(ラウリン酸,12C);テトラデカン酸(ミリスチン酸,14C);ヘキサデカン酸(パルミチン酸、16C);ヘプタデカン酸(マルガリン酸、17C)及びオクタデカン酸(ステアリン酸,18C)が包含され、ここで組織名の次に括弧内に、慣用名及び脂肪酸中の炭素原子数が続く。不飽和脂肪酸にはすべて18個の炭素原子を有するオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸が包含される。リノール酸及びリノレン酸は多不飽和である。
【0060】
硫酸アルキルが飽和でも不飽和でもよい場合の、硫酸アルキル又は硫酸アルキルの塩とのメトホルミンの複合体形成も想定される。例示的硫酸アルキル又はそれらの塩(ナトリウム、カリウム、マグネシウム等)は6〜18個、より好ましくは8〜16個、そして更により好ましくは10〜14個の炭素原子を有する。ベンゼンスルホン酸、安息香酸、フマル酸及びサリチル酸又はこれらの酸の塩とのメトホルミンの複合体形成もまた、想定される。
【0061】
1つの態様において、本発明に従う複合体はメトホルミン−チオクト酸(アルファ−リポ酸としても知られる)の複合体を除外する。
【0062】
実施例1を続けて参照すると、メトホルミン−ラウリン酸塩からなる複合体をアセトンから調製した。アセトンは単に例示的な溶媒であり、脂肪酸が可溶性である他の溶媒は適切である。例えば、脂肪酸はクロロホルム、ベンゼン、シクロヘキサン、エタノール(95%)、酢酸及びメタノール中に可溶性である。カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸のこれらの溶媒中の溶解度(g/L)を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
1つの態様において、複合体の形成に使用される溶媒は水より小さい誘電定数、そして好ましくは、水の誘電定数より少なくとも2倍小さい、より好ましくは水の定数より少なくとも3倍小さい誘電定数を有する溶媒である。誘電定数は溶媒の極性の指標であり、例示的溶媒の誘電定数は表2に示される。
【0065】
【表2】

【0066】
溶媒の水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール及び酢酸は電気的陰性原子、典型的には酸素に結合された水素原子を有する極性のプロトン性溶媒である。溶媒のアセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン及びアセトニトリルは双極性の非プロトン性溶媒であり、そして1つの態様において、メトホルミン複合体を形成する際の使用に好ましい。双極性非プロトン性溶媒はOH結合を含有しないが、典型的には炭素と、酸素又は窒素のいずれかの間の多重結合のお陰で大きな結合双極を有する。大部分の双極性の非プロトン性溶媒はC−O二重結合を含有する。表2に記載された双極性非プロトン性溶媒は水より少なくとも2倍小さい誘電定数を有する。
【0067】
実施例1に記載されたように形成されたメトホルミン−ラウリン酸塩複合体を分析するために逆相HPLCを使用した。HPLCの条件は以下の方法の節に記載されている。比較のために,メトホルミンHCl、ラウリン酸ナトリウム及びメトホルミンHClとラウリン酸ナトリウムの物理的混合物のHPLC曲線も作成し、結果を図5A〜5Dに示す。塩酸メトホルミンの曲線は図5Aに示され、1.1分に単一のピークが認められる。ラウリン酸の塩形態のラウリン酸ナトリウムは約3〜4分の間に単一の幅広いピークとして溶離する(図5B)。水中のメトホルミンHClとラウリン酸ナトリウムの1:1モル比の物理的混合物は塩酸メトホルミンに対応する1.1分における1個のピーク及びラウリン
酸ナトリウムの約2.7〜4分の間の第2のピークの2個のピークとして溶離する(図5C)。図5Dは実施例2の方法により形成される複合体のHPLC曲線を示し、そこでは3.9〜4.5分の間に溶離する単一のピークが認められる。HPLC曲線は、メトホルミンの塩基とラウリン酸で形成された複合体は水中の2成分の物理的混合物と異なることを示す。曲線はまた、複合体がHPLC分析のための溶媒系(水:アセトニトリル 50:50v:v)に暴露される時に分離しないことを示す。
【0068】
メトホルミン−ラウリン酸塩複合体の特徴を調べるもう1つの研究において、複合体のオクタノール/水、のみかけの分配係数(D=Cオクタノール/C)を測定し、メトホルミンHCl、塩酸メトホルミン:ラウリル硫酸ナトリウムの1:1(モル/モル)混合物及び塩酸メトホルミン:ラウリン酸ナトリウムの1:1(モル/モル)混合物に比較した。結果は表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
複合体は塩酸メトホルミンに比較して有意な増加の0.44のlogDを有し、複合体がメトホルミンの塩形態よりもオクタノールに対してより好ましく分配することを示す。複合体はまた、脂肪酸塩中のメトホルミン塩酸の物理的混合物に比較して高いlogDを有した。logDのこの相異は更に、メトホルミン−脂肪酸の複合体が2種の物質の物理的混合物ではない、すなわち単純な緩いイオン対ではなく、緊密なイオン対であることを確証する。
【0071】
メカニズムの特定の理解により限定されることを望まないが、発明者は以下のように考える。緩いイオン対が極性溶媒環境内に入れられると、極性の溶媒の分子がイオン結合により占拠された空間中に自身を挿入し、それにより結合されたイオンを分離させると推定される。遊離イオンに静電気的に結合された極性の溶媒分子を含んでなる溶媒和の殻が遊離イオンの周囲に形成されるかも知れない。次にこの溶媒和の殻が、遊離イオンがもう1つの遊離イオンと緩いイオン対形成イオン結合どころか何物も形成することを妨げる。極性溶媒中に多数のタイプの対イオンが存在する状況において、任意の与えられる緩いイオン結合は対イオンの競合に比較的感受性であるかも知れない。
【0072】
この効果は溶媒の誘電定数として表わされる極性が増加する時に更に顕著である。クーロンの法則に基づくと、誘電係数(e)の溶媒中で距離(r)だけ分離された電荷(q1)及び(q2)をもつ2個のイオン間の力は:
【0073】
【数2】

【0074】
[ここでεは空間の誘電率の定数である]:である。式は溶液中の緩いイオン対の安定性に対する誘電定数(ε)の重要性を示す。高い誘電定数(ε=80)を有する水溶液中では、水分子がイオン結合を攻撃して相対する帯電イオンを分離すると、静電気の引き付け力(electrostatic attraction force)が著しく減少する。
【0075】
従って、高い誘電定数の溶媒分子は一旦イオン結合の付近に存在すると、その結合を攻撃して、最終的にそれを破壊するであろう。次に未結合イオンは溶媒中を自由に動き回る。これらの特性が緩いイオン対を規定する。
【0076】
緊密なイオン対は緩いイオン対と異なって形成され、その結果、緩いイオン対と異なる特性を有する。緊密なイオン対は2個のイオン間の結合空間中の極性溶媒分子数を減少させることにより形成される。これはイオンを緊密に一緒に移動させ、そして緩いイオン対結合より著しく強力な結合をもたらすが、しかしまだイオン結合と考えられる。本明細書でより詳細に開示されたように、緊密なイオン対は、イオン間への極性溶媒の取り込みを減少するために水より極性の弱い溶媒を使用して得られる。
【0077】
緩いイオン対及び緊密なイオン対の更なる考察についてはD.Quintanar−Guerrero等、Pharm.Res.,14(2):119−127(1997)を参照されたい。
【0078】
緩いイオン対及び緊密なイオン対間の相異はまた、クロマトグラフィー法を使用しても観察することができる。逆相クロマトグラフィーを使用して、緩いイオン対は、緊密なイオン対を分離しないであろう条件下で容易に分離することができる。
【0079】
本発明に従う結合はまた、相互に対するカチオン及びアニオンの強度を選択することにより、更に強力にすることができる。例えば、溶媒が水である場合に、カチオン(塩基)及びアニオン(酸)を相互に更に強力に引き合うように選択することができる。より弱い結合が望まれる時は、より弱い引力物質を選択することができる。
【0080】
生物学的膜の部分は、このような膜を横切る分子の輸送を理解する目的のために脂質の2層として第一次近似物に模型化にすることができる。脂質の2層の部分を横切る輸送(能動的輸送物等に相反するものとして)は望ましくない分割(portioning)のためにイオンに対して好ましくない。種々の研究者がこのようなイオンの荷電の中和が膜横断輸送を促進することができることを提唱した。
【0081】
「イオン対」理論において、電荷を「埋封」させ、そして生成されるイオン対を脂質の2層中でより移動し易くさせるためにイオン性薬剤の部分が輸送部分の対イオンと対にされる。このアプローチは、特に腸上皮組織を横切る経口投与された薬剤の吸収を高めることに関してかなりの量の注目及び研究をもたらした。
【0082】
イオン対の形成は多大の注目及び研究をもたらしたが、それは必ずしも多大の成功をも
たらしたわけではなかった。例えば、2種の抗ウイルス化合物のイオン対は細胞横断輸送に対するイオン対の効果によらず、むしろ単層の保全性に対する効果により増加した吸収をもたらすことが見いだされた(J.Van Gelder等、Int.J. of Pharmaceutics,186:127−136(1999)。著者は、インビボシステム中に認められる他のイオンによる競合が対イオンの有益な効果を取り除く可能性があるので、イオン対の形成は帯電親水性化合物の上皮組織内輸送を高めるための戦略として非常に有効ではないかも知れないと結論した。他の著者は、イオン対による吸収実験は必ずしも明確なメカニズムを指摘しなかったことに注目した(D.Quintanar−Guerrero等、Pharm.Res.14(2):119−127(1997)。
【0083】
予期しなかったことには、本発明者らはこれらのイオン対吸収実験に伴う問題は、それらが緊密なイオン対でなく緩いイオン対を使用して実施されたことであることを発見した。実際、当該技術分野で開示された多数のイオン対の吸収実験は緩いイオン対と緊密なイオン対間を明白に区別さえしていない。当業者は、イオン対を製造する開示された方法を実際に復習し、そしてこのような開示された製造方法が緊密なイオン対ではなく、緩いイオン対に関するものであることに注目することにより、緩いイオン対が開示されていることを見分けなければならない。緩いイオン対は対イオン競合及び、緩いイオン対を結合するイオン結合の溶媒により仲介される(例えば、水により仲介される)分解に比較的感受性である。従って、イオン対の薬剤部分が腸上皮細胞膜壁に到達する時に、それは輸送部分と緩いイオン対で結合しているか又は結合していないかもしれない。膜の壁の近位に存在するイオン対の機会は、イオンを一緒に保持しているイオン結合よりむしろ、2個の個々のイオンの局所的濃度に、より多く左右されるかも知れない。薬剤部分が腸上皮細胞膜の壁に近付いた時に、結合されている2種の部分が存在しない場合は、非複合体形成薬剤部分の吸収速度は非複合体形成輸送部分により影響を受けないと考えられる。従って、緩いイオン対は薬剤部分単独の投与との比較において吸収に対してごく限定された影響を有すると考えられる。
【0084】
それに対し、本発明の複合体は水のような極性溶媒の存在下でより安定な結合を有する。従って、本発明者は、複合体を形成することにより、薬剤部分及び輸送部分はそれらの部分が膜の壁の近位にある時にはイオン対として結合される可能性が多いであろうと判断した。この結合は部分の電荷が埋封されて、生成されるイオン対に細胞膜中をより移動し易くさせる機会を増加すると考えられる。
【0085】
1つの態様において、複合体は薬剤部分と輸送部分間の緊密なイオン対結合を含んでなる。本明細書で考察されたように、緊密なイオン対結合は緩いイオン対結合より安定であり、従って、それらの部分が膜の壁の近位にあると考えられる時に薬剤部分と輸送部分がイオン対として結合される可能性を増加する。この結合は部分の電荷が埋封されて、緊密なイオン対結合の複合体に細胞膜中をより移動し易くさせる機会を増加すると考えられる。
【0086】
複合体は下部G.I.管だけでなく、概括的に細胞横断輸送を全体的に改善することが意図されるので、本発明の複合体は下部G.I.管のみでなく、G.I.管全体の非複合体形成薬剤部分に対する吸収を改善することができることに注目しなければならない。例えば、薬剤部分が主として上部G.I.中に見いだされる能動的輸送物質に対する基質である場合は、薬剤部分から形成される複合体は依然としてその輸送物質の基質であるかも知れない。従って、総輸送量は、本発明により提供される改善された細胞横断輸送量に加えて、該輸送物質により実施される輸送流量の総計であることができる。1つの態様において、本発明の複合体は上部G.I.管、下部G.I.管及び上部G.I.管と下部G.I.管双方における改善した吸収を提供する。
【0087】
本発明を支持して実施された研究において、メトホルミン−脂肪酸複合体を脂肪酸のカプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸及びオレイン酸を使用して、実施例1に記載の方法に従って調製した。メトホルミンとコハク酸エチレンの複合体も調製した。複合体は融点及び溶解度につき測定され、データを表4Aに要約される。更に、水溶液中(pH≒5.8)の種々の複合体の伝導率(conductivity)を23℃でCDM83伝導率測定装置(Radiometer Copenhagen)で測定した。値は表4Bに要約され、図6Aにグラフで示される。
【0088】
【表4】

【0089】
【表5】

【0090】
図6AはメトホルミンHCl(丸)、コハク酸塩(逆三角形)、カプリン酸塩(正方形)、ラウリン酸塩(ひし形)、パルミチン酸塩(三角形)及びオレイン三角形塩(八角形)としての複合されたメトホルミンに対するメトホルミン濃度の関数としてのマイクロシーメンス/センチメーター(μS/cm)における伝導率を示す。メトホルミンHClはすべての濃度において最高の伝導率を有した。複合体は塩酸メトホルミンより低い伝導率を有し、脂肪酸の炭素数の増加に従い伝導率が減少するように見える。
【0091】
伝導率(k)が帯電イオンの濃度に比例し、そしてメトホルミンHClが100%帯電されると仮定すると、非イオン化薬剤の百分率(f)は以下の方程式により算定された。更に、種々のサイズの脂肪酸分子の拡散効果は無視できると推定された。
【0092】
【数3】

【0093】
図6Bは式3から決定されたメトホルミン濃度の関数としての複合体それぞれに対する非イオン化薬剤のパーセントを示す。メトホルミンHCl(丸)は完全にイオン化され、他方メトホルミン−コハク酸塩(逆三角形)は約80%イオン化される。複合体メトホルミン−カプリン酸塩(正方形)及びメトホルミン−ラウリン酸塩(ひし形)は約50%イオン化され、そしてメトホルミン−パルミチン酸塩(三角形)及びメトホルミン−オレイン酸塩(八角形)は約30%イオン化される。ここでもまたこのデータはイオン対の塩酸メトホルミンとメトホルミン−脂肪酸複合体の間の相異を立証する。
【0094】
【数4】

【0095】
1つの態様において、解離ファクター(f)を100マイナス非イオン化薬剤のパーセントと定義すると、本発明の複合体は1リットル当たり20ミリモルのメトホルミンの濃度においてpH≒5.8の水性環境中で5〜90の間、より好ましくは5〜85、更に好ましくは10〜70、そして更により好ましくは20〜65の間の解離ファクターを示す。
【0096】
メトホルミン−ラウリン酸塩複合体の結腸の吸収を経口胃管強制投与(gavage)ラットモデルを使用してインビボで特徴を調べた。実施例2に記載されたように、飢餓ラットをメトホルミン塩酸又はメトホルミン−ラウリン酸塩複合体40mg/ラットで処置した。メトホルミン濃度の分析用に血液サンプルを採血し、結果を図7に示す。経口胃管強制投与によりメトホルミンHCl(丸)を投与されたラットの血漿濃度は処置後約1時間で約4080ng/mLのCmaxを伴って最大血漿濃度に達した。メトホルミン−ラウリン酸塩複合体(ひし形)を経口胃管強制投与で処置されたラットは処置の約1時間後に、約5090ng/mLのCmaxを伴って血漿濃度最大値を有した。複合体で処置されたラットの血漿濃度は処置後1〜8時間の間中、すべての試験時点でより高かった。データの分析により、複合体の形態で投与されると、メトホルミンの相対的生体利用能は、メトホルミンHClとして静脈内注射される時のメトホルミンの生体利用能(100%生体利用能)に比較して、151%であることを示した。
【0097】
複合体のインビボの結腸吸収もまたラットにおける洗浄結紮結腸モデルを使用して評価した。実施例3に記載されるように、種々の複合体10mg/ラットの投与量をラットの結紮結腸中に挿管投与した。各試験群中のラット(n=3)にメトホルミンHCl、メトホルミンコハク酸塩二量体、メトホルミンパルミチン酸塩、メトホルミンオレイン酸塩、メトホルミンカプリン酸塩又はメトホルミンラウリン酸塩を投与した。もう1つの群のラットは1mgのメトホルミンHClを静脈内投与された。血中メトホルミンの塩基濃度の分析用に血液サンプルを定期的に採血した。データは図8に示される。
【0098】
図8はメトホルミンHCl(丸)、コハク酸塩(ひし形)、パルミチン酸塩(三角形)、オレイン酸塩(逆三角形)、カプリン酸塩(正方形)及びラウリン酸塩(八角形)と複合されたメトホルミンに対する期間(時間)の関数としてラットにおけるメトホルミン血漿濃度(ng/mL)を示す。最高血漿濃度はラウリン酸(丸)及びカプリン酸(正方形)から調製された複合体から得られた。パルミチン酸塩(三角形)及びオレイン酸塩(逆三角形)との複合体はラウリン酸及びカプリン酸との複合体から達成されたものより低い、しかしメトホルミンHCl又はメトホルミンコハク酸塩により提供される血漿濃度よりは高いメトホルミンの血漿濃度を達成した。
【0099】
表5は相対的Cmax(メトホルミンHClの血漿濃度に関する各複合体に対するメトホルミンの塩基の最大血漿濃度)並びに結紮結腸に対する挿管により投与された(第4欄)メトホルミンHClの生体利用能に対して正規化された(normalized)、そして静脈内投与された(第3欄)メトホルミンHClの生体利用能に対する各複合体の相対的生体利用能を示す。
【0100】
【表6】

【0101】
メトホルミンはメトホルミン−輸送部分複合体の形態で結腸に吸収のために提供されると、HCl塩の生体利用能に対してメトホルミン−パルミチン酸塩複合体により達成される生体利用能のほとんど5倍の増加により認められるように著しく高められる。オレイン酸塩複合体はHCl塩の利用能に対して14倍の生体利用能の改善をもたらした。メトホルミン−カプリン酸塩複合体はHCl塩の利用能に対してほとんど18倍の改善した生体利用能を与えた。メトホルミン−ラウリン酸塩複合体はHCl塩の利用能に対して20倍を超える生体利用能の改善をもたらした。従って、本発明は、メトホルミン血漿濃度から決定されるメトホルミンの生体利用能により証明されるように、メトホルミンHClの結腸吸収に対して、複合体が少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも15倍、そしてより好ましくは少なくとも20倍の結腸吸収の増加を提供するところの、メトホルミン及び輸送部分で形成された複合体を含む(comprised of)、それから本質的になる、又はそれからなる(consisting of)化合物を想定する。従って、メトホルミン−輸送部分複合体の形態で投与される時のメトホルミンは血中へのメトホルミンの著しく増加した結腸吸収を提供する。
【0102】
もう1つの研究は、メトホルミンHCl及びラウリン酸ナトリウムの物理的混合物(1:1モル比)として提供される時のメトホルミンの生体利用能に対する複合体の形態で提供される時のメトホルミンの生体利用能を比較するために実施例3に記載された洗浄−結紮結腸モデルを使用して実施された。2種の試験調製物(メトホルミン−ラウリン酸塩複合体及び1:1モル比のメトホルミンHCl:ラウリン酸ナトリウム)の種々の用量を結紮結腸中に挿管投与した。メトホルミン濃度及び静脈内投与されたメトホルミンの生体利用能に対して決定された生体利用能につき、血漿サンプルを分析した。結果は図9に示す。
【0103】
図9はメトホルミンHClとラウリン酸ナトリウムの物理的混合物(丸)及びメトホルミンラウリン酸塩複合体(正方形)の塩基のmg/kgのメトホルミン投与量の関数としての生体利用能のパーセントを示す。複合体は物理的混合物より低い可変性を伴ってより高い生体利用能を有した。
【0104】
図10は結紮結腸に対する挿管投与(丸)により又は静脈内投与(三角形)により投与されたメトホルミンHClに比較した複合体(ひし形)の薬力学を表わすために、実施例3の表A、F及びGからのデータを示す。複合体は薬剤の塩形態より高い結腸吸収を与え、静脈内投与されたものより長く持続する血中濃度を有する。
【0105】
III. 例示的投与形態物及び使用方法
前記の複合体はG.I.管、そしてとりわけ下部G.I.管中の増加した吸収速度を提供する。今度は、複合体及びその増加した結腸吸収を使用する投与形態物及び処置方法が説明される。以下に説明される投与形態物は単に例示的であることが認められるであろう。
【0106】
多様な投与形態物がメトホルミン−輸送部分複合体を伴う使用に適する。前記に考察されたように、投与形態物は少なくとも約15時間、より好ましくは少なくとも18時間、そして更により好ましくは少なくとも約20時間の治療効果を達成するために1日1回の投与を提供する。該投与形態物はメトホルミンの所望される投与量を送達する任意のデザインに従って形成し、そして調製することができる。典型的には、投与形態物は経口投与可能で、通常の錠剤又はカプセルとしてのサイズ及び形態を有する。経口投与可能な投与形態物は種々の異なるアプローチの1つに従って製造することができる。例えば、該投与形態物は、レザボアデバイス又はマトリックスデバイスのような拡散システムとして、カプセル封入溶解システム(例えば、「小型時限ピル(time pill)」及びビーズを包含する)及びマトリックス溶解システムのような溶解システム並びにRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,pp.1682−1685(1990)中に記載のような拡散/溶解システムとイオン−交換樹脂システムの組み合わせ物、として製造することができる。
【0107】
メトホルミン−輸送部分複合体を伴う使用に適した投与形態物の特定の例は浸透性投与形態物である。浸透性投与形態物は概括的に、流体の自由な拡散を許すが、薬剤あるいは1種又は複数の浸透剤が存在する場合はそれらの拡散は許さない半透性の壁により少なくとも一部が形成されたコンパートメント中に流体を吸収するための駆動力を形成するために浸透圧を利用する。浸透システムに対する利点は、それらの操作がpH非依存性であり、従って、投与形態物が胃腸管を通過して、著しく異なるpH値を有する異なる微環境(microenvironment)に遭遇する時でも、長時間にわたり浸透的に決定される速度で継続することである。このような投与形態物の総説はSantus and Baker,“Osmotic drug delivery:a review of the patent literature,”Journal of Controlled Release,35:1−21(1995)に認められる。浸透性投与形態物はまた、それぞれそれらの全体が本明細書中に取り込まれている、以下の米国特許第3,845,770号、第3,916,899号、第3,995,631号、第4,008,719号、第4,111,202号、第4,160,020号、第4,327,725号、第4,519,801号、第4,578,075号、第4,681,583号、第5,019,397号及び第5,156,850号明細書に詳細に記載されている。
【0108】
当該技術分野で基本的浸透圧ポンプ投与形態物と呼ばれる例示的投与形態物が図11に示される。断面図に示した投与形態物20はまた、基本的浸透圧ポンプとも呼ばれ、内部コンパートメント24を囲み、封入する半透性の壁22からなる。内部コンパートメントは、選択された賦形剤と混合されたメトホルミン−輸送部分複合体28を含んでなる、本明細書で薬剤層26と呼ばれる単一成分層を含有する。賦形剤は、外部環境から壁22を通して流体を引き付け、そして流体の吸収時に送達可能なメトホルミン−輸送部分複合体調製物を形成するための浸透作用の勾配を提供するようになっている。賦形剤は本明細書で薬剤担体30とも呼ばれる適当な懸濁物質、結合剤32、滑沢剤34及び、オスマジェント(osmagent)36と呼ばれる浸透性活性物質を包含することができる。これらの各成分の例示的物質は以下に提供される。
【0109】
浸透性投与形態物の半透性の壁22は水及び生物学的流体のような外部流体の通過には透過性であるが、内部コンパートメント内の成分の通過には実質的に不透過性である。壁を形成するために有用な物質は投与形態物の寿命期間中、生物学的流体中で本質的に非腐食性で、実質的に不溶性である。半透性の壁を形成するための代表的ポリマーには、セルロースエステル、セルロースエーテル及びセルロースエステル−エーテルのようなホモポリマー及びコポリマーが包含される。壁の流体透過性を調整するために流量調整剤を壁形成材料と混合することができる。例えば、水のような流体に対する透過性を著しく増加させる作用剤はしばしば、本質的に親水性であり、他方、水に対して著しい透過性減少をもたらすものは本質的に疎水性である。例示的流量調整剤には、多価アルコール、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンジオール、アルキレングリコールのポリエステル等が包含される。
【0110】
操作中、浸透性活性剤の存在により壁22を横切る浸透圧勾配が壁を通して胃液を吸収させ、薬剤層の膨潤及び内部コンパートメント内に送達可能なメトホルミン−輸送部分の調製物(例えば、溶液、懸濁液、スラーリ又は他の流動性組成物)の形成をもたらす。送達可能なメトホルミン−輸送部分の調製物は、流体が内部コンパートメント内に侵入し続けるので、出口38から放出される。薬剤調製物が投与形態物から放出される時ですら、流体は内部コンパートメント中に吸引され続け、それにより連続的放出を駆動する。この方法において、メトホルミン−輸送部分は長期間にわたり、持続的で連続的な方法で放出される。
【0111】
図11に示したような投与形態物の調製は実施例4に説明される。
【0112】
図12はもう1つの例示的浸透性投与形態物のスキーム図である。この投与形態物は本明細書に引用により取り込まれている、米国特許第第4,612,008号、第5,082,668号及び第5,091,190号明細書に詳細に記載されている。簡単に言えば、断面図で示した投与形態物40は内部コンパートメント44を区画する半透性の壁42を有する。内部コンパートメント44は薬剤層46及び押し出し層48を有する2層圧縮コアを含有する。以下に説明されるように、押し出し層48は、使用中に押し出し層が膨張する時に薬剤層を形成する物質が出口50のような1個又は複数の出口を介して投与形態物から排出される(expelled)ように投与形態物内に配置されている排出組成物(displacement composition)である。押し出し層は図12に示されるような薬剤層と接触している層状配列に配置することができるか又は、押し出し層と薬剤層を分離する1層又は複数の介入層をもつことができる。
【0113】
薬剤層46は図11を参照して前記の考察されたような選択される賦形剤と混合された
メトホルミン−輸送部分複合体を含んでなる。例示的投与形態物はメトホルミン−ラウリン酸塩複合体、担体としてのポリ(エチレンオキシド)、オスマジェントとしての塩化ナトリウム、結合剤としてのヒドロキシプロピルメチルセルロース及び滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウムからなる薬剤層を含むことができる。
【0114】
押し出し層48は、当該技術分野で浸透性ポリマーと呼ばれる、水性又は生物学的流体を吸収して膨潤する、1種又は複数のポリマーのような浸透圧により活性な1種又は複数の成分を含んでなる。浸透性ポリマーは水及び水性の生物学的流体と相互反応し、高度に膨潤又は膨張する、典型的には2〜50倍の容量増加を示す、膨張性の親水性ポリマーである。浸透性ポリマーは架橋されてもされなくてもよく、そして好ましい態様においては、浸透性ポリマーは少なくとも軽度に架橋されて、大きすぎ、かつ絡まっているため使用中に投与形態を容易に脱出できないポリマーの網目を形成する。浸透性ポリマーとして使用することができるポリマーの例は浸透性投与形態物を詳細に説明する前記の参考文献中に提供される。典型的な浸透性ポリマーはポリ(エチレンオキシド)のようなポリ(アルキレンオキシド)及び、アルカリがナトリウム、カリウム又はリチウムである場合のポリ(アルカリカルボキシメチルセルロース)である。結合剤、滑沢剤、抗酸化剤及び着色剤のような更なる賦形剤もまた押し出し層中に包含することができる。使用中、流体が半透性の壁を横切って吸収される時に1種又は複数の浸透性ポリマーが膨張して、薬剤層を押して、1個又は複数の出口を通して投与形態物から薬剤の放出をもたらす。
【0115】
押し出し層はまた典型的には、ポリ−n−ビニルアミド、ポリ−n−ビニルアセトアミド、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ−n−ビニルカプロラクトン、ポリ−n−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン等のようなセルロース又はビニルポリマーである、結合剤と呼ばれる成分を包含することができる。押し出し層はまた、ステアリン酸ナトリウム又はステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤及び成分の酸化を妨げるための抗酸化剤を包含することができる。代表的抗酸化剤にはそれらに限定はされないが、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、2つ及び3つの第三級ブチル−4−ヒドロキシアニソールの混合物及びブチル化ヒドロキシトルエンが包含される。
【0116】
オスマジェントもまた浸透性投与形態物の薬剤層及び/又は押し出し層中に取り込むことができる。オスマジェントの存在は半透性の壁を横切る浸透作用の勾配を確立する。例示的オスマジェントには塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等のような塩及びラフィノース、蔗糖、ブドウ糖、乳糖のような糖及び炭水化物が包含される。
【0117】
図12を続けて参照すると、投与形態物は場合により、用量に従って投与形態物を色彩識別するためにあるいはメトホルミン又はもう1つの薬剤の即時放出を提供するための上塗り(overcoat)(図示されていない)を包含することができる。
【0118】
使用中、水は壁を横切って押し出し層及び薬剤層中に流動する。押し出し層は流体を吸収し、膨潤を開始し、その結果薬剤層44上を押して、層中の物質を出口を通して胃腸管中に押し出させる。押し出し層48は流体を吸収し、膨潤し続け、それにより投与形態物が胃腸管中にある期間中ずっと、薬剤層から薬剤を連続的に排出させるようになっている。このようにして、該投与形態物は15〜20時間の間中又はG.I.管中の投与形態物の通過の実質的に全期間中、胃腸管へのメトホルミン−輸送部分複合体の連続的供給を提供する。メトホルミン輸送部分複合体は上部及び下部G.I.管双方中で容易に吸収されるので、該投与形態物の投与はG.I.管中の投与形態物の移動の15〜20時間にわたり、血流中へのメトホルミンの送達を提供する。
【0119】
もう1つの例示的投与形態物は図13Aに示される。浸透性投与形態物60はメトホルミンHClの第1層64、メトホルミン−輸送部分複合体の第2の層66及び押し出し層
と呼ばれる第3層68からなる3層のコア62を有する。このタイプの投与形態物は米国特許第5,545,413号、第5,858,407号、第6,368,626号及び第5,236,689号明細書に詳細に記載されており、それぞれが引用により本明細書に取り入れられている。実施例5に示されるように、3層投与形態物は塩酸メトホルミン85.0重量%、100,000の分子量のポリエチレンオキシド10.0重量%、約35,000〜40,000の分子量を有するポリビニルピロリドン4.5重量%及びステアリン酸マグネシウム0.5重量%の第1層を有するように調製された。第2層はメトホルミン−ラウリン酸塩複合体(実施例1に記載のように調製された)93.0重量%、5,000,000の分子量のポリエチレンオキシド5.0重量%、約35,000〜40,000の分子量を有するポリビニルピロリドン1.0重量%及びステアリン酸マグネシウム1.0重量%を含んでなった。
【0120】
押し出し層はポリエチレンオキシド63.67重量%、塩化ナトリウム30.00重量%、酸化第2鉄1.00重量%、ヒドロキシプロピルメチルセルロース5.00重量%、ブチル化ヒドロキシトルエン0.08重量%及びステアリン酸マグネシウム0.25重量%からなった。半透性の壁は39.8%のアセチル含量を有する酢酸セルロース80.0重量%及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン・コポリマー20.0%を含んでなった。
【0121】
図13Aに示した投与形態物からのメトホルミンの溶解速度は実施例5に示した方法に従って決定された。結果はmg/時間のメトホルミンの放出速度が期間(時間)の関数として示される図13Bに結果が示される。投与形態物は水性環境と接触の4時間後、その後の12時間にわたりほとんど均一な量の薬剤を放出し始め、水性環境と接触後16時間を超える時点で薬剤放出が減少し始める。出口に隣接する薬剤層中に存在するメトホルミン塩酸の放出物が最初に放出される。水性環境との接触の約8時間後に、メトホルミン−輸送部分複合体の放出が起り、そして更に8時間にわたり、実質的に一定の速度で継続する。この投与形態物は、ダッシュ付き棒グラフにより示されるように、移動の最初の8時間にほぼ対応して、上部G.I.管中を移動する間、塩酸メトホルミンを放出するようにデザインされていることが認められるであろう。メトホルミン−輸送部分複合体は、図13B中の点付き棒グラフにより示されるように、投与形態物が摂取後約8時間を超える時間にほぼ対応して下部G.I.管中を移動するときに放出される。このデザインは複合体により提供される増加される結腸吸収を利用している。
【0122】
図14A〜14Cは当該技術分野で知られ、そして本明細書に引用により特に取り入れられている米国特許第5,534,263号、第5,667,804号及び第6,020,000号明細書に記載されているもう1つの例示的投与形態物を表わす。簡単には、図14Aにおいて胃腸管中への摂取の前の投与形態物80の断面図が示される。該投与形態物はメトホルミン−輸送部分複合体を含んでなる円筒形のマトリックス82を含んでなる。マトリックス82の末端82、86は好ましくは、摂取の容易性を確保するために丸く凸面の形状をもつ。バンド88、90及び92が円筒形マトリックスの周囲を同心的に囲み、水性環境中に比較的不溶性の物質で形成される。適した物質は上記に記載された特許及び以下の実施例6に示される。
【0123】
投与形態物80の摂取後、図14Bに表わすようなバンド88、90、92間のマトリックス82の領域が腐蝕し始める。マトリックスの腐蝕がG.I.管の流体状環境中へのメトホルミン−輸送部分複合体の放出を開始する。投与形態物がG.I.管中を移動し続けるので、図14Cに示されるようにマトリックスは腐蝕し続ける。ここでマトリックスの腐蝕は投与形態物が3片、94、96、98に分解する程度に進行した。腐蝕は各片のマトリックス部分が完全に腐蝕するまで継続するであろう。その後、バンド94、96、98がG.I.管から排出されるであろう。
【0124】
図11〜14に記載の浸透性投与形態物は単に、下部G.I.管へのメトホルミン−輸送部分複合体の送達を達成するようになっており、そしてその達成が可能な多様な投与形態物の例であることが認められよう。製薬業界の当業者は適当と思われる他の投与形態物を認めることができる。
【0125】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明は、複合体がメトホルミンと輸送部分間のハイブリッド結合又は緊密なイオン対結合を特徴としてもつ場合の、メトホルミンと輸送部分複合体を含有する組成物又は投与形態物を投与することにより、被験体の高血糖を処置する方法を提供する。該方法は非インスリン依存性糖尿病(II型糖尿病)及び/又はインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)をもつヒトを処置する用途を見いだす。複合体及び製薬学的に許容できるビヒクルを含んでなる組成物が患者に、典型的には経口投与により投与される。
【0126】
投与される投与量は概括的に、投与形態物及び所望の結果を考慮に入れて、患者の年齢、体重及び状態に従って調整される。概して、メトホルミン−輸送部分複合体の投与形態物及び組成物はPhysician’s Desk Reference中に示されるようなメトホルミンHCl(Glucophage(R)、Bristol−Myers Squibb Co.)に推奨される量で投与される。例えば、メトホルミンHClの経口投与量は成人で2550mgそして小児患者で2000mgの最大1日推奨量を超えずに、効力及び許容性(tolerance)に基づいて個別に決定される。メトホルミンHClは典型的には食餌とともに分服され、しばしば、典型的には薬850mg/日の低用量で開始され、個体の抗高血糖作用のために必要な最少の治療的有効量の確認を許すように徐々に増量する。従って1つの態様において、500〜2550mgの間の1日メトホルミン投与量を提供する投与形態物が提供され、ここでメトホルミンはメトホルミン−輸送部分複合体の形態で提供される。
【0127】
もう1つのアスペクトにおいて、本発明は特にII型糖尿病被験体における高血糖の処置及び体重の管理のための、第2の治療物質と組み合わせて、メトホルミン−輸送部分複合体を投与する工程を想定する。好ましい第2の治療物質は肥満、糖尿病、特にII型糖尿病及び糖尿病関連症状の処置に有用なものである。
【0128】
例示的な第2の治療物質にはそれらに限定はされないが、アルファグルコシダーゼインヒビターとして分類される化合物、ビグアニド(メトホルミン以外の)、インスリン分泌促進剤、抗糖尿病物質又はインスリン増感剤が包含される。例示的なアルファグルコシダーゼインヒビターにはアカルボース(acarbose)、エミグリテート、ミグリトール、ボグリボースが包含される。適した抗糖尿病物質はインスリンである。ビグアニドにはブフォルミン及びフェンフォルミンが包含される。適したインスリン分泌促進剤にはグリベンクラミー(glibenclamie)、グリピジド、グリクラジド、グリメピリド(glimepiride)、トラザミド、トルブタミン、アセトヘキサミド、カルブタミド、クロルプロパミド、グリボルヌリド、グリキドン、グリセンチド、グリソラミド、グリソキセピド、グリクロピアミド、レパグリニド、ナテグリニド及びグリシクラミドのようなスルホニル尿素が包含される。インスリン増感剤には2−(1−カルボキシ−2−{4−{2−(5−メチル−2−フェニル−オキサゾール−4−イル)−エトキシ]−フェニル}−エチルアミノ)−安息香酸メチルエステル及び2(S)−(2−ベンゾイルフェニルアミノ)−3−{4−[2−(5−メチル−2−フェニル−オキサゾール−4−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸のようなPPAR−ガンマアゴニストインスリン増感剤(国際公開第97/31907号パンフレットを参照されたい)が包含される。
【0129】
第2の治療物質は好ましくは、特にDPP−IVにより仲介される状態、とりわけ損傷された耐糖能(IGT)の状態、損傷された空腹時血糖の状態、代謝性アチドーシス(acidosis)、ケトーシス、関節炎、肥満及び骨粗鬆症及び好ましくは、糖尿病、特に2型糖尿病の予防、進行の遅延又は処置における同時の、分離された又は連続的使用のための、タンパク質のチロシンホスファターゼ(PTPase)のインヒビターのようなインスリン信号経路調整剤、非小分子疑似化合物及びグルタミン−フルクトース−6−ホスフェート・アミドトランスレラーゼ(GFAT)のインヒビター、グルコース−6−ホスファターゼ(G6Pase)のインヒビターのような調整不全肝臓グルコース生産に影響を与える化合物、フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ(F−1,6−BPase)のインヒビター、グリコーゲンホスホリラーゼ(GP)のインヒビター、グルカゴン受容体アンタゴニスト及びホスホエノールピルベート・カルボキシキナーゼ(PEPCK)のインヒビター、ピルベート・デヒドロゲナーゼ・キナーゼ(PDHK)インヒビター、インスリン感受性促進剤、インスリン分泌促進剤、α−グルコシダーゼインヒビター、胃内容排出のインヒビター、インスリン、及びα−アドレナリン作用アンタゴニストのような抗糖尿病化合物、又はこれらの化合物の製薬学的に許容できる塩及び場合により少なくとも1種の製薬学的に許容できる担体である。このような組み合わせ物は好ましくは、組み合わせた調製物又は製薬学的組成物である。
【0130】
組み合わせ処置法において、メトホルミン−輸送部分複合体及び第2の治療物質は同一又は異なる投与経路により同時に又は連続的に投与される。
【0131】
好ましい態様において、第2の治療物質はジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)インヒビターである。ジペプチジルペプチダーゼIVは腎臓、肝臓及び腸を包含する身体中の種々の組織中に認められるプロリン/アラニン後開裂セリンプロテアーゼである。該プロテアーゼは2位にプロリン又はアラニンを有するタンパク質から2個のN−末端アミノ酸を除去する。DPP−IVはその基質がペプチド−1(GLP−1)及び胃抑制ペプチド(GIP)のようなインスリン刺激ホルモンのグルカゴンを包含するので、糖代謝の調節に使用することができる。GLP−1及びGIPはそれらのそのままの形態でのみ活性であり;それらの2個のN−末端アミノ酸の除去はそれらを不活性化する(Holst,J.等、Diabetes,47:1663(1998))。
【0132】
従って、DPP−IVのインヒビターは例えば、米国特許第6,124,305号、第6,107,317号明細書及び国際公開第99/61431号、第98/19998号、第95/15309号、第98/18736号パンフレット中に記載された。該インヒビターは1[2−(5−シアノピリジン−2イル)アミノエチルアミノ]アセチル−2−シアノ−(S)−ピロリジン及び(2S)−1−[(2S)−2−アミノ−3,3−ジメチルブタノイル]−2−ピロリジンカルボニトリルのようなペプチド又は非ペプチド性であることができる。
【0133】
被験体がメトホルミン−輸送部分複合体と組み合わせたDPP−IVインヒビターで処置される場合のII型糖尿病を有する被験体を処置する方法が検討される。組み合わせ物質は物質単独又はDPP−IVインヒビター及び複合体形態でないメトホルミンの組み合わせ物いずれかに対して達成されるものより大きい有益な効果をもたらす。複合体により提供される高められた結腸吸収を完全に利用するためには、メトホルミン−輸送物質複合体は好ましくは、1日1回の投与形態物で経口投与される。DPP−IVインヒビターは化合物及び患者に適した任意の経路により投与することができる。
【0134】
1つの態様において、組み合わせ処置養生法(regimen)はII型糖尿病をもつ過剰体重又は肥満患者の体重増加を減少又は予防する際の使用のためである。近年、DPP−IVインヒビターとのメトホルミンの組み合わせ治療がZucker fa/faラ
ットにおける食餌摂取及び体重増加の減少をもたらすことが示された(Yasuda,N.等、J.Pharmacol.Experimental Therap.,310(2):614(2004))。本発明は増加した結腸吸収を達成するためにメトホルミン−輸送部分複合体としてのメトホルミンを投与することによる改善された組み合わせ養生法を提供する。
【0135】
以上のことから、本発明の種々の目的及び特徴物がいかに満足されるかを認めることができる。メトホルミン及び輸送部分がハイブリッド結合又は緊密なイオン対結合により結合される場合の、メトホルミン及び輸送部分からなる複合体は、メトホルミンHClに認められるものに比較してメトホルミンの高められた結腸吸収を提供する。該複合体は新規の工程から調製され、そこで塩基形態のメトホルミンが有機溶媒中に可溶化された輸送部分と接触され、ここで有機溶媒は水より極性が低く、より低い極性は例えば、より小さい誘電定数により証明される。メトホルミン塩基の輸送部分−溶媒混合物との接触が、2種の物質がイオン結合でなく、共有結合でなくて、ハイブリッド結合又は緊密なイオン対結合である結合により結合されている、メトホルミン及び輸送部分間の複合体の形成をもたらす。
【0136】
実施例
IV.実施例
以下の実施例は本明細書に記載される本発明を更に具体的に示し、本発明の範囲を限定することは全く意図されない。
【0137】
方法
1.HPLC:逆相クロマトグラフィーを蒸発光散乱検出装置をもつHewlett Packard 1100液体クロマトグラフ装置上でC3カラム(Agilent Zorbax SB C3、5μm、3.0×75mm)を使用して実施した。水:アセトニトリル 50:50v:vの移動相を使用した。カラム温度は40℃、流速は0.5mL/分であった。
【実施例1】
【0138】
メトホルミン−輸送部分複合体の調製
材料
塩酸メトホルミン 13.0g
ラウリン酸 16.0g
メタノール 675mL
アセトン 300mL
脱塩水 14mL
アニオン樹脂(Amberlyst A−26(OH)) 108g
【0139】
メトホルミン塩基の調製
1.イオン交換カラムにアニオン樹脂、Amberlyst A−26(OH)を充填し、正味の重量を得た。
2.最初にカラムを脱イオン(DI)水で洗浄し(逆洗浄)、次にカラムを乾燥させないように注意しながら2%v/vDI水を含有するメタノールですすぐ。
3.塩酸メトホルミンを2容量%のDI水含有のメタノール365mLからなる溶離剤に溶解した。
4.段階3の溶液を分離漏斗を使用してカラム中を滴下通過させ、溶出液を回収した。通過させた全塩酸メトホルミンはイオン交換樹脂の平衡点(最大能)より少ないことが計算された。カラムを溶離剤とほぼ等しい容量ですすいだ。合計690mLのメトホルミン塩基の溶出液を回収した。
5.合わせた溶出液を40℃の外部温度で真空下で蒸発乾燥させ、濃縮段階の最後には65℃ですすいで、残留水すべてを除去した。この濃縮段階はメトホルミン塩基の不安定性のために非常に急速な方法で実施した。
【0140】
複合体の形成
6.ラウリン酸−アセトン溶液、アセトン300mL中に溶解したラウリン酸16.0gを調製した。段階5からの濃縮メトホルミン塩基をアセトンの数回の洗浄物を使用して溶解し、これらの洗浄物をフィルターエイドの存在下で即座に濾過して、すべての未転化塩酸メトホルミンを除去した。濾液をエルレンマイヤーフラスコに回収し、撹拌しながらラウリン酸−アセトン溶液を分離漏斗を使用して急速落下で添加した。メトホルミンラウリン酸塩が析出した。外界温度(20〜25℃)で1晩撹拌を継続した。
7.溶媒及び沈殿したメトホルミンラウリン酸塩の混合物をブッフナー漏斗を通して濾過した。フィルターのケークを4×200mLのアセトンですすぎ、次に1時間真空吸引下で乾燥した。フィルターケークを濾紙からこそげ取り、秤量した。融点を毛細管中で決定した。外界温度で3時間真空オーブン中における最終乾燥を実施した。
【0141】
この方法は150℃〜153℃の融点をもつメトホルミンラウリン酸塩の複合体の形成をもたらした。塩酸メトホルミンの融点は225℃と報告されている。総合収率=使用されたメトホルミン塩酸及びラウリン酸の化学量論的量から計算された理論量に対して75%であった。
【実施例2】
【0142】
経口強制胃管投与ラットモデルを使用するインビボの結腸吸収
8匹のラットをランダムに2種の処置群に分類した。12〜24時間の飢餓後、第1群にメトホルミン塩酸の40mg/kg遊離塩基当量を経口胃管により投与した。第2群は実施例1に記載のように調製されたメトホルミンラウリン酸塩複合体の40mg/kgの遊離塩基当量の経口胃管投与を受けた。血液サンプルを経口胃管投与の15分、30分、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、6時間及び8時間後に尾の静脈から採血した。メトホルミン血漿濃度をLC/MS/MSにより分析した。結果は図7に示す。
【0143】
研究の最後にラットを殺して、試験動物のG.I.管の顕微鏡検査を実施して刺激の兆候を調べた。複合体又はメトホルミンHCl処置ラットに刺激は認めなかった。
【実施例3】
【0144】
ラットの洗浄結紮結腸モデルを使用するインビボの結腸吸収
「結腸内結紮モデル」として一般に知られる動物モデルを使用した。飢餓の0.3〜0.5kgのSprague−Dawley雄ラットを麻酔し、近位結腸のセグメントを隔離した(isolated)。結腸の便物質を洗浄した。試験調製物の送達のために内腔内にカテーテルを配置し、皮膚上に出しながらセグメントを両端で結紮した。結腸の内容物を洗浄し、結腸を動物の腹腔内に戻した。実験の設定に応じて、臨床的状態における実際の結腸の環境をより正確にシミュレートするためにセグメントを20mMのリン酸ナトリウムバッファー、pH7.4の1mL/kgで満たした後に試験調製物を添加した。
【0145】
外科的準備の後、そして各試験調製物への暴露の前に約1時間ラットを安定化(equilibrate)させた。メトホルミンHCl又はメトホルミン−脂肪酸複合体を10mgのメトホルミンHCl/ラット又は10mgのメトホルミン複合体/ラットの投与量で結腸内ボーラスとして投与した。ラットを、脂肪酸のカプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸及びオレイン酸及びコハク酸塩二量体(succinate acid dimer)を使用して実施例に記載のように調製されたメトホルミン−脂肪酸複合体で処置した。試験調製物投与の0、15、30、60、90、120、180及び240分後に頸静脈カテーテルから血液サンプルを得て、血液メトホルミン濃度を分析した。以下の表A〜Fは各複合体及び各ラットに対する各時点におけるナノグラム/ミリリッターで測定された血漿中に検出されたメトホルミン塩基の濃度を示す。
【0146】
【表7】

【0147】
【表8】

【0148】
【表9】

【0149】
【表10】

【0150】
【表11】

【0151】
【表12】

【0152】
比較のために2mg/ラット体重1kgの投与量のメトホルミンHClを3匹の試験ラットの血流中に直接静脈注射した。メトホルミン塩基の分析用に4時間にわたり定期的に血液サンプルを採血した。結果は表Gに示す。
【0153】
【表13】

【0154】
表A〜Fの結果は図8にグラフで示す。Cmax及び相対的生体利用能は上記の表5に示す。
【実施例4】
【0155】
メトホルミン−輸送部分複合体を含んでなる投与形態物の調製
図11に示したようなデバイスを以下のように調製する。メトホルミン−輸送部分複合体92.25重量%、カリウムカルボキシポリメチレン5重量%、約5,000,000の分子量をもつポリエチレンオキシド2重量%及び二酸化ケイ素0.5重量%を含んでなるコンパートメント形成組成物を一緒に混合する。次に混合物を40メッシュのステンレス鋼のスクリーンに通し、次にV−ブレンダー中で30分間乾燥混合して均一なブレンドを生成する。次にステアリン酸マグネシウム0.25%を80メッシュのステンレス鋼のスクリーンに通過させ、ブレンドを更に5〜8分間ブレンドする。次に均一に乾燥混合された粉末をホッパー中に入れ、コンパートメント形成プレス装置に供給し、ブレンドの知られた量を経口使用のためにデザインされた5/8インチの楕円形に圧縮する。次に楕円形の前コンパートメント物を39.8%のアセチル含量を有する91重量%の酢酸セルロース及び9%のポリエチレングリコール3350を含んでなる壁形成組成物により、Accela−Cota(R)壁形成コート装置中でコートする。コート後、壁をコートされた薬剤コンパートメントをコート装置から取り出し、壁形成工程中に使用された残留有機溶媒を除去するために乾燥オーブンに移す。次にコートされた装置を約12時間乾燥するために50℃の強制空気オーブンに移す。次に分配デバイスの各面の主軸上に2つの通路を開けるためにレーザーを使用してデバイスの壁に通路を形成する。
【実施例5】
【0156】
メトホルミン−輸送部分複合体を含んでなる投与形態物の調製
図13Aに示すように、メトホルミンHClの層及びメトホルミン−ラウリン酸塩複合体の層を含んでなる投与形態物を以下のように調製した。
【0157】
塩酸メトホルミン10グラム、100,000の分子量のポリエチレンオキシド1.18g及び約38,000の分子量をもつポリビニルピロリドン0.53gを通常のブレンダー中で20分間乾燥ブレンドして均一なブレンドを生成した。次にミキサーを連続的にブレンドしながら、3コンパートメントの乾燥ブレンドに変性無水アルコール4mLを緩徐に添加した。混合を更に5〜8分間継続した。ブレンドした湿った組成物を16メッシュのスクリーンに通過させ、室温で1晩乾燥させた。次に乾燥顆粒を16メッシュのスクリーンに通し、ステアリン酸マグネシウム0.06gを添加し、そしてすべての成分を5分間乾燥混合した。新鮮な顆粒は投与形態物中の最初の投与物層としての調製の準備ができた。顆粒は85.0重量%の塩酸メトホルミン、10.0重量%の100,000の分子量のポリエチレンオキシド、4.5重量%の約35,000〜40,000の分子量をもつポリビニルピロリドン及び0.5重量%のステアリン酸マグネシウムを含んでなった。
【0158】
投与形態物中のメトホルミン−ラウリン酸塩層を以下のように調製した。最初に実施例1に記載のように調製されたメトホルミンラウリン酸塩複合体9.30グラム、5,000,000の分子量のポリエチレンオキシド0.50g、約38,000の分子量を有するポリビニルピロリドン0.10gを通常のブレンダー中で20分間乾燥ブレンドすると均一なブレンドを生成した。次に5分間連続的に混合しながら、変性無水エタノールをブレンドに緩徐に添加した。ブレンドした湿った組成物を16メッシュのスクリーンに通し、室温で1晩乾燥した。次に乾燥した顆粒を16メッシュのスクリーンに通し、ステアリン酸マグネシウム0.10gを添加し、そしてすべての乾燥成分を5分間乾燥ブレンドした。組成物はメトホルミンラウリン酸塩93.0重量%、5,000,000の分子量のポリエチレンオキシド5.0重量%、約35,000〜40,000の分子量を有するポリビニルピロリドン1.0重量%及びステアリン酸マグネシウム1.0重量%からなった。
【0159】
浸透性ポリマーのヒドロゲル組成物からなる押し出し層を以下のように調製した。最初に7,000,000の分子量を含んでなる製薬学的に許容できるポリエチレンオキシド58.67g、Carbopol(R)974Pを5g、塩化ナトリウム30g及び酸化第2鉄1gを別々に40メッシュのスクリーンに通してスクリーンした。スクリーンを通した成分を9,200の分子量のヒドロキシプロピルメチルセルロース5gと混合すると均一なブレンドを生成した。次に5分間連続的に混合しながら変性無水アルコール50mLをブレンドに緩徐に添加した。次にブチル化ヒドロキシトルエン0.080gを添加し、次に更にブレンドした。新鮮に調製された顆粒を20メッシュのスクリーンに通し、室温(外気温)で20時間乾燥させた。乾燥した成分を20メッシュのスクリーンに通し、ステアリン酸マグネシウム0.25gを添加し、そしてすべての成分を5分間ブレンドした。最終組成物はポリエチレンオキシド58.7重量%、塩化ナトリウム30.0重量%、Carbopol(R)5.0重量%、ヒドロキシプロピルメチルセルロース5.0重量%、酸化第2鉄1.0重量%、ステアリン酸マグネシウム0.25重量%及びブチル化ヒドロキシトルエン0.08重量%からなった。
【0160】
3層投与形態物を以下のように調製した。最初に塩酸メトホルミン組成物118mgをパンチ及びダイセットに添加し、タンプし、次にメトホルミンラウリン酸塩組成物427mgを第2層としてダイセットに添加して、再度タンプした。次にヒドロゲル組成物272mgを添加し、3層を9/32インチ(0.714cm)直径のパンチダイセット中に1.0トン(1000kg)の圧縮力下で圧縮して緊密な3層のコア(錠剤)を形成した。
【0161】
80:20重量/重量の割合で原料をアセトン中に溶解して、5.0%固体の溶液を生成することにより、39.8%のアセチル含量を有する酢酸セルロース80.0重量%及び7680〜9510の分子量を有するポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン・コポリマー20.0%を含んでなる半透性の壁形成組成物を調製した。この工程中、溶液の容器を暖かい水浴中に入れることにより成分の溶解を促進した。壁形成組成物を3層コア上そして周囲に噴霧すると93mgの厚さの半透性壁を提供した。
【0162】
次に40mil(1.02mm)の出口開口部を半透性壁をもつ3層錠中にレーザーで孔を開けて送達デバイスの外部とのメトホルミン層の接触を提供した。該投与形態物をあらゆる残留溶媒及び水を除去するために乾燥した。
【0163】
投与形態物のインビトロの溶解速度を37℃の恒温水浴中のUSPタイプVIIの浴インデクサーに固定された金属コイルのサンプルホールダーに投与形態物を入れることによ
り測定した。各試験期間中、人工胃液(AGF)をシミュレートする媒質中に放出された薬剤の量を定量するために、放出媒質のアリコートをクロマトグラフィーシステム中に注入した。3種の投与形態物を試験し、平均溶解速度を図13Bに示す。
【実施例6】
【0164】
メトホルミン−輸送部分複合体を含んでなる投与形態物の調製
図14A〜14Cに示した投与形態物は以下のように調製される。メトホルミン−ラウリン酸塩複合体の持続的放出のための単位用量を以下のように調製する。メトホルミン−ラウリン酸塩複合体の形態のメトホルミンの所望用量を40ワイヤ/インチを有する分粒スクリーンに通す。8重量%のヒドロキシプロピル含量、22重量%のメトキシル(metoxyl)含量及び27,800グラム/モルの数平均分子量を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース20グラムを100ワイア/インチをもつ分粒スクリーンに通す。分粒された粉末を5分間回転混合する。湿った固まりが形成されるまで撹拌しながら無水エタノールを混合物に添加する。湿った固まりを20ワイア/インチをもつ分粒スクリーンに通す。生成される湿った顆粒を1晩空気乾燥し、次に再度20メッシュのふるいに通す。打錠滑沢剤のステアリン酸マグネシウム2グラムを80ワイア/インチをもつ分粒スクリーンに通す。分粒されたステアリン酸マグネシウムを乾燥した顆粒にブレンドすると最終的顆粒を形成する。
【0165】
最終的顆粒705mgのポーションを0.281インチ(0.71cm)の内径を有するダイキャビティに入れる。該ポーションを1トンの圧力ヘッド下で深い凹型パンチで圧縮して縦型のカプセル型錠剤を形成する。
【0166】
カプセルをTait Capsealer Machine(Tait Design
and Machine Co.,Manheim,Pa)に供給し、そこで3個のバンドを各カプセル上に印刷する。バンドを形成している物質はエチルセルロール分散物(Surelease(R),Colorcon,West Point,Pa)50重量%及びエチルアクリレートメチルメタクリレート(Eudragit(R)NE 30D,RohmPharma,Weiterstadt,ドイツ)50重量%の混合物である。バンドは水性分散液として適用され、過剰の水は暖かい空気流中で追いやられる。バンドの直径は2ミリメートルである。
【0167】
本発明は特定の態様に関して説明されてきたが、当業者に、本発明から逸脱せずに種々の変更及び修飾を実施することができることは明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0168】
以下の図面は実測を表わすために描かれず、本発明の種々の態様を具体的に示すために提示されている。
【図1】上皮組織を通る分子の輸送のための細胞横断経路及び傍細胞経路を表わす胃腸管の上皮細胞の図である。
【図2】メトホルミンの化学構造を示す。
【図3】メトホルミンHClのpHの関数としてのオクタノール/水分配係数の対数のプロットである。
【図4A】メトホルミン−輸送部分複合体の調製のための概略の合成反応のスキームを示す。
【図4B】輸送部分がカルボキシル基を包含するメトホルミン−輸送部分の複合体の調製のための概略合成反応スキームを示す。
【図4C】メトホルミン−脂肪酸複合体の調製のための合成反応スキームを示す。
【図5A−5D】メトホルミンHCl(図5A)、ラウリン酸ナトリウム(図5B)及びメトホルミンHCl、ラウリン酸ナトリウムの物理的混合物(図5C)及びメトホルミン−ラウリン酸塩複合体(図5D)のHPLC曲線である。
【図6A−6B】メトホルミン HCl(丸印)、コハク酸塩(逆三角形)、カプリン酸塩(正方形)、ラウリン酸塩(ひし形)、パルミチン酸塩(三角形)及びオレイン酸塩(八角形)として複合されたメトホルミンに対するメトホルミン濃度の関数としてのマイクロシーメンス/センチメーター(μS/cm、図6A)における伝導率(conductivity)のプロット及び非イオン化薬剤のパーセント(図6B)である。
【図7】ラットに化合物の経口経管投与後のメトホルミンHCl(丸)及びメトホルミン−ラウリン酸塩複合体(ひし形)に対する期間(時間)の関数としての、ラットにおけるメトホルミンの血漿濃度(ng/mL)を示す。
【図8】洗浄結紮(flush−ligated)した結腸モデルを使用する、メトホルミンHCl(丸印)、コハク酸塩(ひし形)、パルミチン酸塩(三角形)、オレイン酸塩(逆三角形)、カプリン酸塩(正方形)及びラウリン酸塩(八角形)として複合されたメトホルミン、に対する期間(時間)の関数としてのラットにおけるメトホルミンの血漿濃度(ng/mL)を示す。
【図9】洗浄結紮(flush−ligated)した結腸モデルを使用する、ラット血漿中のメトホルミンHCl及びラウリン酸ナトリウムの物理的混合物(丸)並びにメトホルミンラウリン酸塩複合体(正方形)のメトホルミン投与量(塩基のmg/kg)の関数としての生体利用能パーセントを示す。
【図10】洗浄結紮(flush−ligated)結腸モデルを使用する、2mg/kgのメトホルミン塩酸の静脈内投与後(三角形)及びメトホルミン塩酸(丸)又はメトホルミンラウリン酸塩複合体(ひし形)10mg/ラット用量の投与後の期間(時間)の関数としてのラットにおけるメトホルミンの塩基の血漿濃度(ng/mL)のプロットである。
【図11】断面図で示した例示的浸透性投与形態物を表わす。
【図12】メトホルミンの1日1回の投与のためのもう1つの例示的浸透性投与形態物を表わし、ここで該投与形態物は場合により外部コーティング中の複合体の添加投与量を伴うメトホルミン−輸送部分複合体を含んでなる。
【図13A】コーティングによるメトホルミンHClの、場合による添加投与量を伴う、メトホルミンHCl及びメトホルミン−ラウリン酸塩複合体の双方を含んでなる1日1回のメトホルミンの投与形態物の1つの態様を表わす。
【図13B】図13Aの投与形態物からの300mgのメトホルミン塩酸と当量の用量の、期間(時間)の関数としてのメトホルミンの放出速度(mg/時間)を示す棒グラフである。
【図14A−14C】被験体に投与の前の、そしてマトリックス中にメトホルミン−輸送部分複合体を含んでなる(図14A)、胃腸管中への摂取後の作用中の(in operation)(図14B)そしてマトリックスの十分な腐蝕がデバイスのバンドを付けた部分の分離を引き起こした後の(図14C)投与物(dosage)の態様を表わす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトホルミン及び輸送部分を含んでなり、かつ、該メトホルミン及び該輸送部分が複合体を形成する物質。
【請求項2】
複合体形成前の輸送部分が形態CH(C2n)COOH(ここで、nは4〜16である)の脂肪酸である請求項1の物質。
【請求項3】
脂肪酸がカプリン酸又はラウリン酸である請求項2の物質。
【請求項4】
メトホルミン及び輸送部分を含んでなる複合体並びに
製薬学的に許容できるベヒクル、
を含んでなり、かつ、
塩酸メトホルミンより少なくとも4倍高い下部胃腸管における吸収を有することを特徴とする、組成物。
【請求項5】
複合体形成前の輸送部分が形態CH(C2n)COOH(ここで、nは4〜16である)の脂肪酸である請求項4の組成物。
【請求項6】
脂肪酸がカプリン酸又はラウリン酸である請求項5の組成物。
【請求項7】
請求項4の組成物を含んでなる投与形態物。
【請求項8】
請求項1の物質を含んでなる投与形態物。
【請求項9】
投与形態物が浸透性投与形態物である請求項8の投与形態物。
【請求項10】
(i)押し出し層、(ii)メトホルミン−輸送部分複合体を含んでなる薬剤層、(iii)押し出し層及び薬剤層の周囲に提供される半透性の壁並びに(iv)出口、を含んでなる請求項9の投与形態物。
【請求項11】
(i)メトホルミン−輸送部分複合体、オスマジェント(osmagent)及び浸透性ポリマーを含んでなる浸透性調製物の周囲に提供される半透性の壁並びに(ii)出口を含んでなる請求項9の投与形態物。
【請求項12】
投与形態物が500〜2550mgの間の総1日投与量を提供する請求項9の投与形態物。
【請求項13】
メトホルミン又はメトホルミンの塩を含んでなる投与形態物における改善であって、メトホルミン及び輸送部分の複合体を含んでなる投与形態物を含んでなる改善。
【請求項14】
複合体形成前の輸送部分が形態CH(C2n)COOH(ここで、nは4〜16である)の脂肪酸である請求項13の改善された投与形態物。
【請求項15】
脂肪酸がカプリン酸又はラウリン酸である請求項14の改善された投与形態物。
【請求項16】
請求項4の組成物を投与する工程を含んでなる、被験体における高血糖を処置する方法。
【請求項17】
投与する工程が経口投与による請求項16の方法。
【請求項18】
メトホルミンの塩基を提供する工程、
輸送部分を提供する工程、
水より低い誘電定数を有する溶媒の存在下でメトホルミンの塩基及び輸送部分を結合させる工程を含んでなり、それにより
該結合させる工程がメトホルミンの塩基及び輸送部分を含んでなる複合体を形成することを特徴とする、
メトホルミン−輸送部分複合体を調製する方法。
【請求項19】
結合させる工程が水の誘電定数より少なくとも2倍低い誘電定数を有する溶媒中で接触させる工程を含んでなる請求項18の方法。
【請求項20】
溶媒がメタノール、エタノール、アセトン、ベンゼン、メチレンクロリド及び四塩化炭素からなる群から選択される請求項19の方法。
【請求項21】
メトホルミン及び輸送部分を含んでなる複合体であって、緊密なイオン対結合を特徴としてもつ複合体を提供する工程並びに
患者に複合体を投与する工程、
を含んでなる、メトホルミンのG.I.吸収を改善する方法。
【請求項22】
改善された吸収が改善された下部胃腸の吸収を含んでなる請求項21の方法。
【請求項23】
改善された吸収が上部胃腸管中の改善された吸収を含んでなる請求項21の方法。
【請求項24】
メトホルミン及び輸送部分を含んでなる複合体を投与する工程、
第2の治療物質を投与する工程、
を含んでなるII型糖尿病を有する被験体を処置する方法。
【請求項25】
第2の治療物質を投与する工程が抗糖尿病物質である第2の治療物質を投与する工程を含んでなる請求項24の方法。
【請求項26】
第2の治療物質を投与する工程がジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターを投与する工程を含んでなる請求項25の方法。
【請求項27】
投与する工程がメトホルミン及び脂肪酸輸送部分の複合体を投与する工程を包含し、ここで複合体形成前の該脂肪酸が形態CH(C2n)COOH(ここで、nは4〜16である)を有することを特徴とする、請求項24の方法。
【請求項28】
脂肪酸がカプリン酸又はラウリン酸である請求項27の方法。
【請求項29】
複合体の投与が複合体を経口投与する工程を包含する請求項24の方法。
【請求項30】
経口投与が浸透性投与形態の複合体を経口投与する工程により達成される請求項27の方法。
【請求項31】
(i)押し出し層、(ii)メトホルミン−脂肪酸複合体を含んでなる薬剤層、(iii)押し出し層及び薬剤層の周囲に提供される半透性の壁、並びに(iv)出口、を含んでなる請求項30の方法。
【請求項32】
(i)メトホルミン−脂肪酸複合体、オスマジェント及び浸透性ポリマーを含んでなる
浸透性調製物の周囲に提供される半透性の壁並びに(ii)出口からなる請求項30の方法。
【請求項33】
投与形態物が500〜2550mgの間の総1日投与量を提供する請求項29の方法。
【請求項34】
DPP IVインヒビターの投与が経口投与による請求項24の方法。
【請求項35】
メトホルミン及び輸送部分を含んでなり、(i)メトホルミンの塩基を提供する工程、(ii)輸送部分を提供する工程、(iii)水より低い誘電定数を有する溶媒の存在下でメトホルミンの塩基及び輸送部分を結合させる工程、により調製される化合物であって、
ここで該結合させる工程が緊密なイオン対結合により結合されたメトホルミンの塩基及び輸送部分の間に複合体を形成することを特徴とする、化合物。
【請求項36】
輸送部分が形態CH(C2n)COOH(ここで、nは4〜16である)の脂肪酸である請求項35に記載の化合物。
【請求項37】
脂肪酸がカプリン酸又はラウリン酸である請求項36の化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A−D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【公表番号】特表2007−509971(P2007−509971A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538321(P2006−538321)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/036038
【国際公開番号】WO2005/041923
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】