説明

メトホルミンへの付加療法を含む2型糖尿病の治療方法

【課題】 メトホルミン単独では2型糖尿病が適切にコントロールされない患者に対する追加手段の提供。
【解決手段】 2型糖尿病の治療方法であって、(c)デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩;及び(d)メトホルミン又は/及び薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象者に投与することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、メトホルミン投与に対する付加療法(add-on therapy)としての、AVE0010(リキシセナチド)による2型糖尿病の治療方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
メトホルミンは、食事の改善に反応しない2型糖尿病の治療に用いられるビグアニド系血糖降下剤である。メトホルミンは、インスリン感受性を改善することにより血糖コントロールを改善する。メトホルミンは、通常、経口投与される。しかし、肥満体の患者におけるメトホルミンによる2型糖尿病のコントロールは不十分であると考えられる。従って、これらの患者においては、2型糖尿病のコントロールのために追加手段が必要と考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の第1の側面は、2型糖尿病の治療方法であって、
(a)デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩;及び
(b)メトホルミン又は/及び薬学的に許容されるその塩;
を、それを必要とする対象者に投与することを含む方法である。
【0004】
(a)及び(b)の化合物は、それを必要とする対象者に、治療効果を誘導するのに十分な量で投与することが出来る。
【0005】
化合物、デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2(AVE0010、リキシセナチド)は、エキセンジン−4の誘導体である。AVE0010は、国際公開第01/04156号にSEQ ID NO:93として記載されている。
・SEQ ID NO:1 AVE0010(44AS)
H−G−E−G−T−F−T−S−D−L−S−K−Q−M−E−E−E−A−V−R−L−F−I−E−W−L−K−N−G−G−P−S−S−G−A−P−P−S−K−K−K−K−K−K−NH2
・SEQ ID NO:2 エキセンジン−4(39AS)
H−G−E−G−T−F−T−S−D−L−S−K−Q−M−E−E−E−A−V−R−L−F−I−E−W−L−K−N−G−G−P−S−S−G−A−P−P−P−S−NH2
【0006】
エキセンジン類は、血中ブドウ糖濃度を低減することのできる1群のペプチドである。そのエキセンジン類似体であるAVE0010は、天然のエキセンジン−4の配列のC末端の切断により特徴づけられている。AVE0010は、エキセンジン−4に存在しない6個のC末端のリジンを含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の文脈においては、AVE0010には薬学的に許容されるその塩が含まれる。AVE0010の薬学的に許容される塩は、当業者に知られている。本発明に使用される好ましいAVE0010の薬学的に許容される塩は、酢酸塩である。
【0008】
AVE0010(デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2)又は/及び薬学的に許容されるその塩は、皮下注射により投与することが出来る。好適な注射デバイスとしては、例えば活性成分を含むカートリッジと注射針を含む、いわゆる「ペン」が知られている。AVE0010又は/及び薬学的に許容されるその塩は、好適な量、例えば1日1回、投与当たり10〜15μg又は15〜20μg(10から15μg及び20μgまでの漸進漸増投与(progressive titration)、20μgが有効維持量)の範囲の量で投与することが出来る。
【0009】
本発明においては、AVE0010又は/及び薬学的に許容されるその塩は、1日1回、10〜15μg又は15〜20μg(10から15μg及び20μgまでの漸進漸増投与、20μgが有効維持量)の範囲の日用量で投与することが出来る。AVE0010又は/及び薬学的に許容されるその塩は、1日1回の注射で投与することが出来る。
【0010】
本発明においては、デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩を含む液体組成物を使用することが出来る。非経口投与に好適なAVE0010の液体組成物は、当業者に知られている。本発明の液体組成物は、酸性の又は生理学的なpHを有してよい。酸性pHは、好ましくはpH1〜6.8、pH3.5〜6.8、又はpH3.5〜5の範囲である。生理学的pHは、好ましくはpH2.5〜8.5、pH4.0〜8.5、又はpH6.0〜8.5の範囲である。pHは薬学的に許容される希釈された酸(典型的にはHCl)又は薬学的に許容される希釈された塩基(典型的にはNaOH)により調整することが出来る。好ましいpHは、pH3.5〜5.0の範囲である。
【0011】
液体組成物は、ホスフェート、シトレート、アセテートなどの緩衝液を含有することが出来る。好ましくは、5μg/mLまで、4μg/mLまで、又は2μg/mLまでの量の酢酸緩衝液を含むことが出来る。
【0012】
本発明の液体組成物は、好適な保存料を含むことが出来る。好適な保存料は、フェノール、m−クレゾール、ベンジルアルコール及びp−ヒドロキシ安息香酸エステルから選択することが出来る。好ましい保存剤は、m−クレゾールである。
【0013】
本発明の液体組成物は、等張化剤を含むことが出来る。好適な等張化剤は、グリセリン、乳糖、ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、塩化ナトリウム、塩化カルシウムのようなカルシウム又はマグネシウム含有化合物から選択することが出来る。グリセリン、乳糖、ソルビトール、マンニトール及びブドウ糖の濃度は、100〜250mMの範囲でよい。塩化ナトリウムの濃度は150mMまででよい。好ましい等張化剤はグリセリンである。
【0014】
更に、液体組成物は、0.5μg/mLから20μg/mLまでの、好ましくは1μg/mLから5μg/mLまでのL−メチオニンを含有することが出来る。好ましくは、液体組成物はL−メチオニンを含有する。
【0015】
メトホルミンは、1、1−ジメチルビグアニド(CAS番号657−24−9)の国際一般名である。本発明においては、用語「メトホルミン」には、またその薬学的に許容されるいずれの塩が含まれる。
【0016】
本発明において、メトホルミンは経口的に投与することが出来る。経口投与による2型糖尿病の治療に好適なメトホルミン製剤は、当業者に知られている。メトホルミンは、少なくとも1.0g/日又は少なくとも1.5g/日の用量で投与することが出来る。経口投与のためには、メトホルミンは、錠剤又は丸剤のような固形の剤形に製剤化することが出来る。
【0017】
本発明において、デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容される塩は、メトホルミン投与の付加治療(add-on therapy)において投与される。
【0018】
本発明において、用語「付加(add-on)」、「付加治療(add-on treatment)」及び「付加療法」は、メトホルミン及びAVE0010による2型糖尿病の治療に関係する。メトホルミン及びAVE0010は、24時間の時間間隔内で投与することが出来る。メトホルミン及びAVE0010は、それぞれ、1日1回の用量で投与することが出来る。メトホルミン及びAVE0010は、異なった投与系路で投与することが出来る。メトホルミンは経口で投与してもよく、そしてAVE0010は皮下投与でもよい。
【0019】
本発明の方法で治療しようとする2型糖尿病に罹患している対象者は、肥満の対象者であり得る。本発明において、肥満の対象者は少なくとも30のボディマス指数を有し得る。
【0020】
本発明の方法で治療しようする対象者は、7%〜10%の範囲のHbA1c値を有し得る。
【0021】
本発明の方法で治療しようとする対象者は、成人の対象者であり得る。対象者は、18〜50歳の範囲の年齢を有し得る。
【0022】
本発明の方法は、好ましくは2型糖尿病に罹患している対象者の治療方法であって、2型糖尿病がメトホルミン単独による治療、例えば少なくともメトホルミン1.0g/日又は少なくともメトホルミン1.5g/日の用量による3か月間の治療で適切にコントロールされない対象者の治療方法である。本発明において、適切にコントロールされない2型糖尿病の対象者は、7%〜10%の範囲のHbA1c値を有し得る。
【0023】
本発明の別の側面は、
(a)デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩;及び
(b)メトホルミン又は/及び薬学的に許容されるその塩;
を含む薬学的組み合わせ物である。
【0024】
好ましくは、本発明の薬学的組み合わせ物は、2型糖尿病を治療するためのものである。
【0025】
本発明の組み合わせ物は、本発明の方法の文脈の中で本明細書に記載されたように投与することが出来る。本発明の組み合わせ物の化合物(a)及び(b)は、本発明の方法の文脈の中で本明細書に記載されたように製剤化することが出来る。
【0026】
本発明の更に別の側面は、2型糖尿病を治療する薬剤を製造するための、
(a)デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩;及び、
(b)メトホルミン又は/及び薬学的に許容されるその塩;
を含む組み合わせの使用である。
【0027】
薬剤は、本明細書に記載したように、別々の製剤のデスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2及びメトホルミンを含む。
【0028】
本発明を、以下の実施例により更に説明する。
【0029】
〔実施例1〕
50歳より若年の肥満型2型糖尿病の患者における、メトホルミンの付加としてのリキシセナチド(AVE0010)をシタグリプチンに対して比較する24週間の研究
本実施例の主題は、50歳より若年で、メトホルミンで適切にコントロールされない肥満体の2型糖尿病患者における、メトホルミンの追加治療としてのリキシセナチド(AVE0010)の有効性及び安全性をシタグリプチン(CAS番号486460−32−6)と比較する、無作為化、二重盲検、ダブルダミー、2治療群、並行群間比較、多施設共同の24週間の研究である。シタグリプチンは、ジぺプチジル・ぺプチダーゼ4(DPP4)阻害剤として作用し、その結果、グルカゴン様ペプチド1のレベルを上昇させ、それにより糖尿病患者の血中ブドウ糖レベルを低下させる抗糖尿病薬である。
【0030】
研究の第一目的
本研究の第一目的は、50歳より若年の肥満型の2型糖尿病患者における、メトホルミンの付加治療としてリキシセナチドの血糖コントロール(HbA1c)及び体重の複合エンドポイントに関する有効性を、シタグリプチンとの比較において24週間の期間に亘って評価することである。
【0031】
研究の第二目的
本研究の第二目的は:
・HbA1c及び体重の絶対値の変化量;
・空腹時血漿中ブドウ糖;
・2時間の標準食試験の間の血漿中ブドウ糖、インスリン、C−ペプチド、グルカゴン及びプロインスリン;
・HOMA−IRで評価するインスリン抵抗性;
・HOMA−βで評価するβ細胞機能;
・リキシセナチドの安全性と忍容性を評価すること;
・母集団薬物動態学的アプローチを用いてのリキシセナチドの薬物動態を評価すること及び抗リキシセナチド抗体の発現を評価すること;
に関し、リキシセナチドの効果の評価である。
【0032】
特定の脆弱性集団:
避妊をしている妊娠の可能性がある女性。
【0033】
組み入れ基準
WHO(21)により定義された2型糖尿病の患者(男性及び女性)であって、スクリーニングビジット(screening visit)の時に少なくとも1年間診断を受けていて、そのスクリーニングビジット前の少なくとも3カ月間、少なくとも1.5g/日の一定用量のメトホルミンで十分にコントロールされない患者。肥満(BMIが30kg/m2以上)及び年齢18歳から50歳未満の患者。
【0034】
除外基準
・スクリーニング時のHbA1cが7.0%未満、又はHbA1cが10%超;
・1型糖尿病;
・妊娠又は授乳;
・有効な避妊法を行っていない、妊娠の可能性がある女性;
・スクリーニング時の空腹時血漿ブドウ糖が250mg/dL(13.9mmol/L)を超える;
・スクリーニングビジット前の3カ月間に5kgを超える体重変化;
・原因不明の膵炎、慢性膵炎、膵臓摘出術、腹部/胃手術、炎症性腸疾患の既往;
・スクリーニング前1年以内の糖尿病性ケトアシドーシスを含む代謝性アシドーシスの既往;
・異常血色素症若しくは溶血性貧血、又はスクリーニング時前2か月以内の血液又は血漿製剤の受容;
・スクリーニングの直前6カ月以内の心筋梗塞、脳卒中、又は入院を要する心不全の既往;
・スクリーニング時の前6カ月以内の薬物又はアルコール乱用の明らかな既往;
・スクリーニング時の身体検査、臨床検査、心電図又はバイタルサインに認められた何らかの臨床上有意な異常であって、重要な全身疾患、臨床的に有意な糖尿病性網膜症の存在、又は研究期間内にレーザー治療が必要と思われる黄斑浮腫の存在のような、治験実施責任医師又は何れかの副責任者の判断において、試験の安全な完了を妨げる又は有用性評価を制約すると考えられる異常;
・スクリーニングの時にコントロールされていない又は不適切にコントロールされている高血圧であって、安静時の収縮期又は拡張期血圧が、それぞれ、180mmHgを超える又は110mmHgを超える高血圧;
・スクリーニング時に臨床検査所見が:
−アミラーゼ及び/又はリパーゼが、正常臨床検査値範囲上限の3倍を超える;
−総ビリルビンが、正常臨床検査値範囲上限の1.5倍を超える(ギルバート症候群の症例を除く);
−ヘモグロビンが11g/dL未満、及び/又は好中球が1,500/mm 3未満、及び/又は血小板が100,000/mm3未満;
−B型肝炎表面抗原及び/又はC型肝炎抗体検査が陽性;
−妊娠の可能性がある女性において血清妊娠試験が陽性;
・スクリーニング時前3カ月以内における、メトホルミン以外の経口又は注射用抗糖尿病薬又は血糖降下剤(例えば、スルホニル尿素、アルファグルコシダーゼ阻害剤、チアゾリジンジオン、エキセナチド、DPP−IV阻害剤、インスリンなど)の使用;
・スクリーニング時前3カ月以内の不安定な食事療法、不安定な抗肥満治療;
・スクリーニング時前3カ月以内の、1週間以上のグルココルチコイドの全身使用(局所塗布又は吸入形態を除く);
・スクリーニング時前3カ月以内の何れかの治験薬の使用;
・スクリーニング時前6カ月以内の、胃不全麻痺及び医学的治療を必要とする胃食道逆流症を含むがそれらに限定されない、遷延した吐き気及び嘔吐に関連した消化管疾患に臨床的に関連ある既往;
・リキシセナチドを用いた何れかの以前の治療(例えば、リキシセナチドを用いた以前の研究への参加);
・過去における何れかのGLP−1作動薬(例えば、エクセナチド、リラグルチド)又はメタクレゾールに対するアレルギー反応;
・シタグリプチンに対する重篤な過敏症反応の既往;
・中等度又は重症度の腎障害(50ml/分を下回るクレアチニン・クリアランス)。
【0035】
被験者当たりの研究継続期間
最大継続期間は27週±7日(3週間のスクリーニング+24週間の二重盲検、ダブルダミー、実薬対照治療+3日のフォロ−アップ)であった。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2型糖尿病の治療方法であって、
(a)デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩;及び
(b)メトホルミン又は/及び薬学的に許容されるその塩;
を、それを必要とする対象者へ投与することを含む方法。
【請求項2】
デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩が皮下的により投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メトホルミンが経口的に投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩がメトホルミン投与に対する付加療法として投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
治療しようとする対象者が肥満体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
対象者が少なくとも30のボディマス指数を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
治療しようとする対象者が成人の対象者である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
2型糖尿病がメトホルミン単独では適切にコントロールされない、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1.5g/日の用量のメトホルミン単独による3カ月間の治療が2型糖尿病を適切にコントロールしない、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
治療しようとする対象者が7%〜10%の範囲のHbA1c値を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
(a)デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩;及び
(b)メトホルミン又は/及び薬学的に許容されるその塩;
を含む薬学的組み合わせ物。
【請求項12】
薬学的組み合わせ物が2型糖尿病の治療のためのものである、請求項11に記載の組み合わせ物。
【請求項13】
2型糖尿病を治療する薬剤を製造するための、
(a)デスPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2又は/及び薬学的に許容されるその塩;及び、
(b)メトホルミン又は/及び薬学的に許容されるその塩;
の組み合わせ物の使用。

【公開番号】特開2011−105609(P2011−105609A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−259479(P2009−259479)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】