説明

メンテナンス装置、流体噴射装置及びメンテナンス方法

【課題】複数のノズル内に形成されるメニスカスの破壊を抑制しつつ、各ノズルのノズル開口を閉塞することができるメンテナンス装置、流体噴射装置及びメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】プリンターは、ノズル23が複数設けられた流体噴射ヘッド18と、インク供給路20と、メンテナンス装置14とを備える。メンテナンス装置14は、減圧位置M2でインク供給路20内を減圧する圧力調整機構28と、圧力調整機構28による減圧が開始された後に、減圧位置M2から各ノズル23に至る流路毎の圧力損失の大きさに応じて、該圧力損失が相対的に小さい流路を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を優先的に閉塞するように、流体噴射ヘッド18に当接する密着キャップ50を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス装置、流体噴射装置及びメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、媒体に対して流体を噴射する流体噴射装置として、インクジェット式プリンターが広く知られている。このプリンターは、流体噴射ヘッドに形成されたノズルからインク(流体)を噴射することで、媒体に印刷処理を施すようになっている。
【0003】
こうしたプリンターにおいては、印刷待機時や電源OFF時のノズル開口からのインク溶媒の蒸発を抑制するために、ノズルを覆蓋するキャップ部材を備えたものがあった(例えば、特許文献1)。
【0004】
ところで、こうしたキャップ部材でノズルを覆蓋する際には、キャップ部材を開口部に密着させることでノズル開口を閉塞し、ノズル内に連通する空気の量を少なくする方が、蒸発を抑制する点では好ましい。しかし、ノズルの開口部にキャップ部材が接触すると、ノズル内に形成されたインクの液面(メニスカス)にキャップ部材が接触して、凹状のメニスカスを破壊してしまうという問題が生じうる。
【0005】
そのため、特許文献1のプリンターにおいては、キャップ部材でノズル開口を閉塞する際に、インク流路内を減圧して液面をノズル内に引き込むことで、キャップ部材と液面との接触を抑制するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−29113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、流体噴射ヘッドに複数のノズルが設けられている場合には、減圧時に液面が引き込まれるタイミングや引き込みの程度にばらつきが生じることがあった。そのため、液面の引き込みが不十分なノズルでは、液面とキャップ部材とが接触し、メニスカスが破壊されてしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数のノズル内に形成されるメニスカスの破壊を抑制しつつ、各ノズルのノズル開口を閉塞することができるメンテナンス装置、流体噴射装置及びメンテナンス方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のメンテナンス装置は、流体を噴射するノズルが複数設けられた流体噴射ヘッドと、該流体噴射ヘッド側となる下流側に向けて前記流体を供給する流体供給流路とを有する流体噴射装置のメンテナンス装置であって、前記流体噴射ヘッドよりも上流側の減圧位置で前記流体供給流路内を減圧する圧力調整機構と、該圧力調整機構による減圧が開始された後に、前記減圧位置から前記各ノズルに至る流路毎の圧力損失の大きさに応じて、該圧力損失が相対的に小さい流路を通じて前記流体が供給される前記ノズルのノズル開口を優先的に閉塞するように前記流体噴射ヘッドに当接する当接部材と、を備える。
【0010】
この構成によれば、圧力調整機構が流体供給流路内を減圧するときに、流路の圧力損失が小さいとノズル内の流体が引き込まれ易く、流路の圧力損失が大きいとノズル内の流体が引き込まれ難い。そのため、流路の圧力損失が小さく、減圧によって液面が引き込まれ易いノズルについては、先にノズル開口を閉塞することで、液面を引き込んだ状態でノズル内における流体の流動を抑制することができる。また、流路の圧力損失が小さい一部のノズル開口を当接部材が閉塞することで、閉塞前には全ノズルに分散されていた圧力を、流路の圧力損失が大きいノズルに集中させることができる。そのため、流路の圧力損失が大きく、減圧によって液面が引き込まれ難いノズルについても、圧力調整機構の減圧力を増すことなく液面を引き込むことができる。これにより、全てのノズルの液面を効率よく引き込むことが可能となる。したがって、複数のノズル内に形成されるメニスカスの破壊を抑制しつつ、各ノズルのノズル開口を閉塞することができる。
【0011】
本発明のメンテナンス装置において、前記当接部材は、前記減圧位置から前記各ノズルに至る流路毎の長さに応じて、該長さが相対的に短い流路を通じて前記流体が供給される前記ノズルのノズル開口から優先的に閉塞する。
【0012】
この構成によれば、当接部材が、減圧位置からの流路の長さが相対的に短い流路を通じて流体が供給されるノズルのノズル開口から優先的に閉塞することで、流路が長く、減圧によって液面が引き込まれ難いノズルに圧力を集中させて液面を引き込むことができる。また、閉塞のタイミングが異なる各ノズル開口を同じ当接部材で閉塞することができるので、複数の当接部材を備える必要がない。
【0013】
本発明のメンテナンス装置において、前記流体供給流路には、前記減圧位置の下流側において前記流体を一時貯留するために一方向に沿って延びる貯留部と、該貯留部内に前記流体を流入させるための流入孔と、前記貯留部内の前記流体を前記各ノズルに向けて供給するために前記一方向に沿って並ぶように配置された複数の流出孔とが設けられ、前記当接部材は、前記流入孔からの距離が短い前記流出孔を通じて前記流体が供給される前記ノズルのノズル開口を閉塞した後に、前記流入孔からの距離が長い前記流出孔を通じて前記流体が供給される前記ノズルのノズル開口を閉塞する。
【0014】
この構成によれば、貯留部は一方向に沿って延びるように設けられるとともに、流出孔は一方向に沿って並ぶように配置されるため、流入孔から流出孔に至るまでの圧力損失は、流入孔から流出孔までの距離に応じて異なる。そのため、当接部材が流入孔からの距離が短い流出孔を通じて流体が供給されるノズルのノズル開口を先に閉塞することで、過度に液面の位置が引き込まれるのを抑制することができる。また、その後、流入孔からの距離が長い流出孔を通じて流体が供給されるノズルのノズル開口を閉塞するまでに、圧力損失が大きいノズルに圧力を集中させて液面を十分に引き込むことができる。
【0015】
本発明のメンテナンス装置は、前記流体供給流路において、前記減圧位置よりも上流側の開閉位置に、前記流体供給流路を開閉可能な開閉弁をさらに備える。
この構成によれば、圧力調整機構が減圧を行う際に、減圧位置の上流側に位置する開閉弁が閉弁状態となることで、減圧の影響が開閉弁よりも下流側のみに及ぶようにすることができる。
【0016】
本発明のメンテナンス装置において、複数の前記ノズルのノズル開口は一平面上に並ぶように配置され、前記当接部材は、前記一平面と交差する方向に沿って移動可能であるとともに、複数の前記ノズルのうち一部のノズル開口を閉塞したときに、当該一部のノズル以外のノズルから離間した状態となる当接面を有する。
【0017】
この構成によれば、当接部材は一平面と交差する方向に沿って移動可能であるので、一平面に近接する方向に移動することでノズル開口を閉塞する一方、一平面から離間する方向に移動することで閉塞を解除することができる。また、当接部材は、複数のノズルのうち一部のノズル開口を閉塞したときに、当該一部のノズル以外のノズルから離間した状態となる当接面を有するので、移動の過程で一部のノズル開口を選択的に閉塞することができる。
【0018】
本発明のメンテナンス装置において、前記流体噴射ヘッドには、複数の前記ノズルからなるノズル列が設けられるとともに、複数の前記ノズルのノズル開口は一平面上に並ぶように配置され、前記当接部材は、ノズル列方向と交差する移動方向に沿って前記一平面に対してスライド移動可能であるとともに、前記ノズル開口を閉塞するための当接部及び該当接部と隣接する位置に設けられた開口部を有し、前記当接部材には、前記ノズル列方向に並ぶように配置された前記当接部及び前記開口部からなる第1領域と、該第1領域と前記移動方向に隣接する位置に配置された前記開口部からなる第2領域と、前記第1領域又は前記第2領域と前記移動方向に隣接する位置に配置された前記当接部からなる第3領域とが設けられる。
【0019】
この構成によれば、当接部材の第1領域をノズル列に対応する位置に配置することで、当接部と対応する位置にあるノズル開口のみを閉塞することができる。また、当接部材の第2領域をノズル列に対応する位置に配置することで、全てのノズル開口の閉塞を解除することができる。さらに、当接部材の第3領域をノズル列に対応する位置に配置することで、全てのノズル開口を閉塞することができる。すなわち、当接部材の移動に伴って閉塞するノズル開口の数を変化させることで、一部のノズル開口を選択的に閉塞することができる。
【0020】
本発明の流体噴射装置は、流体を噴射するノズルが複数設けられた流体噴射ヘッドと、該流体噴射ヘッド側となる下流側に向けて前記流体を供給する流体供給流路と、上記メンテナンス装置と、を備える。
【0021】
この構成によれば、上記メンテナンス装置と同様の作用効果に加え、キャッピングに伴うメニスカスの破壊を抑制することで、当接部材をノズルから離間させた後に、速やかに流体の噴射を行うことができる。
【0022】
上記目的を達成するために、本発明のメンテナンス方法は、流体を噴射するノズルが複数設けられた流体噴射ヘッド側となる下流側に向けて前記流体を供給する流体供給流路内を、前記流体噴射ヘッドよりも上流側の減圧位置において減圧し始める減圧開始工程と、該減圧開始工程の後に、複数の前記ノズルのうち、前記減圧位置から前記各ノズルに至る流路毎の圧力損失の大きさに応じて、該圧力損失が相対的に小さい流路を通じて前記流体が供給される一部のノズルのノズル開口を閉塞する第1閉塞工程と、該第1閉塞工程の後に、全ての前記ノズルのノズル開口を閉塞する第2閉塞工程と、を備える。
【0023】
この構成によれば、流路の圧力損失が小さいノズルでは、減圧開始工程から第1閉塞工程までの間に優先的に液面が引き込まれるが、第1閉塞工程でそのノズル開口を閉塞することで、液面を引き込んだ状態でノズル内における流体の流動を抑制することができる。また、第1閉塞工程から第2閉塞工程までの間には、流路の圧力損失が大きいノズルに圧力を集中させることで、減圧力を増すことなく液面を引き込むことができる。これにより、全てのノズルの液面を効率よく引き込むことが可能となる。したがって、複数のノズル内に形成されるメニスカスの破壊を抑制しつつ、各ノズルのノズル開口を閉塞することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態におけるプリンターの概略構成を示す断面図。
【図2】インク供給路、流体噴射ヘッド及びメンテナンス装置の構成を模式的に示す断面図。
【図3】キャップ部材の作用を説明するための断面図。
【図4】第2実施形態におけるキャップ部材の斜視図。
【図5】(a)〜(c)は、キャップ部材の構成及び作用を説明するための下面図。
【図6】第1実施形態の第1変形例を示す断面図。
【図7】第1実施形態の第2変形例を示す断面図。
【図8】第2実施形態の変形例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明を流体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター」という)に具体化した第1実施形態を図1〜図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は各図中に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。
【0026】
図1に示すように、流体噴射装置としてのプリンター11は、本体ケース12と、本体ケース12内に収容された記録部13と、メンテナンス装置14とを備えている。また、本体ケース12内には、左右方向に延びる棒状のガイド軸15と、媒体となる用紙Pを支持するプラテン16とが収容されている。
【0027】
記録部13は、ガイド軸15に左右方向への往復移動可能な状態で支持されたキャリッジ17と、キャリッジ17の下面側に支持された流体噴射ヘッド18とを備える。キャリッジ17は、図示しない駆動機構により、左右方向に往復移動するようになっている。なお、本実施形態においては、本体ケース12内の右端側をホームポジション側とするとともに、ホームポジション側から印刷領域となる左側に向かう左方向を移動方向Xとして図示している。
【0028】
キャリッジ17には、流体としてのインクを収容したインクカートリッジ19が着脱可能に装着されるとともに、流体噴射ヘッド18側となる下流側に向けてインクを供給する流体供給流路としてのインク供給路20が設けられている。インクカートリッジ19及びインク供給路20は、インクの色数等(本実施形態では4色)に対応して複数設けられている。
【0029】
また、キャリッジ17には加圧ポンプ21(図2参照)が設けられている。そして、加圧ポンプ21の駆動により、インクカートリッジ19に収容されたインクがインク供給路20を通じて下流側に供給されるようになっている。なお、加圧ポンプ21は、複数のインクカートリッジ19に対して加圧力を供給するように構成してもよい。
【0030】
流体噴射ヘッド18には、各インク供給路20を通じて供給されたインクを噴射する複数のノズル23が設けられているとともに、流体噴射ヘッド18の下面側からなるノズル形成面24には、ノズル23のノズル開口25が形成されている。また、プラテン16上には、図示しない搬送機構によって後方から前方に向けて用紙Pが搬送される。そして、キャリッジ17が移動方向Xに沿って直線移動(走査)しながら、ノズル23からプラテン16上の用紙Pにインク滴を噴射することにより、印刷(記録)が行われるようになっている。
【0031】
なお、流体噴射ヘッド18においては、各色に対応するノズル23が移動方向Xに沿って配置されるとともに、同一色のインクを噴射する複数のノズル23が用紙Pの搬送方向と一致するノズル列方向Yに沿って延びるノズル列N(図2参照)を形成している。すなわち、流体噴射ヘッド18には、複数のノズル23からなるノズル列Nが複数列設けられている。そして、キャリッジ17の走査毎にノズル列Nの長さに対応する幅の印刷が行われるとともに、間欠的に用紙Pが搬送されるようになっている。
【0032】
次に、インク供給路20の構成について詳述する。
図2に示すように、各インク供給路20には、ダイアフラム式の自己封止弁である差圧弁26と、差圧弁26よりも下流側の開閉位置M1でインク供給路20を開閉する開閉弁27とがそれぞれ設けられている。また、各インク供給路20には、開閉位置M1よりも下流側であって流体噴射ヘッド18よりも上流側の減圧位置M2で各インク供給路20内を減圧する圧力調整機構28が設けられている。なお、開閉弁27及び圧力調整機構28はメンテナンス装置14を構成する。
【0033】
ここで、差圧弁26の構成について説明する。
差圧弁26は、インクカートリッジ19から加圧供給されたインクを一次貯留する貯留室30と、貯留室30よりも下流側に位置する圧力室31と、弁体32とを有している。そして、貯留室30と圧力室31とは、両室を区画する隔壁34に設けられた連通孔33を通じて連通可能となっている。なお、貯留室30、圧力室31及び連通孔33は、インク供給路20を構成する。
【0034】
圧力室31の壁面の一部(図2では左側壁)は、可撓性を有するフィルム35によって構成されている。また、弁体32は、圧力室31内に向けて延びる一端側がフィルム35の中央付近に固着されている。そして、弁体32は、フィルム35の撓み変位に伴って、貯留室30内に収容された当接部36が連通孔33を閉塞する閉弁位置と、当接部36が連通孔33から離間する開弁位置との間を移動するようになっている。
【0035】
貯留室30内には、弁体32を開弁位置から閉弁位置に向かう閉弁方向(図2では左方向)に付勢するばね37が収容されている。また、弁体32がばね37の付勢力に抗して閉弁位置から開弁位置に向かう開弁方向(図2では右方向)に移動することで、貯留室30と圧力室31とが連通するようになっている。
【0036】
そして、ノズル23からインクが噴射されると、圧力室31内からインクが流出することで負圧が生じ、圧力室31内のインク圧と大気圧との差圧によって、フィルム35が圧力室31の内容積を減少させる方向(図2では右方向)に撓み変位する。この撓み力がばね37の付勢力より大きくなると、弁体32が開弁位置に移動し、加圧された貯留室30内のインクが圧力室31側へ流入する。
【0037】
圧力室31へのインクの流入によって負圧が解消されると、弁体32はばね37の付勢力によって再び閉弁位置に移動する。このように、差圧弁26は、インク圧と大気圧との差圧に基づいて開閉することで、消費量に応じたインクを供給するようになっている。
【0038】
また、差圧弁26は、圧力室31内の圧力が約−1kPaより小さくなった場合に開弁するように、ばね37の付勢力が調整されている。すなわち、差圧弁26は、連通孔33よりも下流側のインク供給路20内を−1kPa程度の負圧に保持する圧力調整機能を備えている。
【0039】
差圧弁26の下流側に設けられた開閉弁27は、任意に開閉操作を行うことができる弁である。なお、開閉弁27としては、電磁弁や機械的に動作する弁を採用することができる。
【0040】
圧力調整機構28は、インク供給路20内を減圧する機能を有する減圧ポンプである。減圧ポンプは、一定量のインクをインク供給路20内から吸引することで減圧を行い、吸引したインクをインク供給路20内に戻すことで減圧を解除する構成のものが好ましい。なお、圧力調整機構28としては、例えばピストンポンプやチューブポンプなどを採用することができる。そして、圧力調整機構28が減圧を行う際には、すぐ上流側に位置する開閉弁27を閉弁状態としてインク供給路20を閉じることで、減圧の影響が開閉弁27よりも下流側のみに及ぶようにする。
【0041】
次に、流体噴射ヘッド18の構成について詳述する。
図1の一部拡大断面図に示すように、流体噴射ヘッド18は、上下方向に積層された流路形成部材40、振動板41、流路形成部材42及びノズルプレート43を備えている。
【0042】
流路形成部材40には貯留部としてのリザーバー44と、収容室45とが形成されている。また、流路形成部材40には、リザーバー44内にインクを流入させるための流入孔46が形成されている。また、振動板41には、リザーバー44内のインクを各ノズル23に向けて供給する複数の流出孔47が設けられている。
【0043】
図2に示すように、リザーバー44は、圧力調整機構28の下流側においてインクを一時貯留するために、一方向(ノズル列方向Y)に沿って延びるように設けられている。そして、流入孔46は、リザーバー44のノズル列方向Yにおける中央付近に設けられているとともに、複数の流出孔47はノズル列方向Yに沿って並ぶように配置されている。なお、図2以降の各図中においては、簡略化のため、それぞれノズル列Nを構成するノズル23及び流出孔47の数を省略して図示している。
【0044】
図1に示すように、流路形成部材42には、流出孔47を通じてリザーバー44と連通するキャビティ48が形成されている。また、収容室45内において振動板41の上面側には、キャビティ48の上方となる位置に圧電素子49が配設されている。
【0045】
ノズルプレート43にはキャビティ48と連通するノズル23が貫通形成されている。また、流体噴射ヘッド18のノズル形成面24はノズルプレート43の下面(底面)によって構成されている。すなわち、複数のノズル23のノズル開口25は、一平面としてのノズル形成面24上に並ぶように配置されている。
【0046】
振動板41は上下方向に振動可能に貼り付けられているとともに、圧電素子49は駆動信号を受けて伸縮することで、振動板41を上下方向に振動させるようになっている。また、振動板41が上下方向に振動すると、キャビティ48の容積が拡縮するようになっている。そして、キャビティ48の容積が縮小されると、キャビティ48内のインクがノズル23からインク滴として噴射されるようになっている。
【0047】
なお、ノズル23からインク滴が噴射されると、ノズル23内にはキャビティ48内から毛管力によってインクが補充される。すなわち、各インクカートリッジ19からインク供給路20を通じて流体噴射ヘッド18に供給されたインクはリザーバー44に一時貯留され、リザーバー44から流出孔47及びキャビティ48を通じて各ノズル23に供給されるようになっている。本実施形態において、流入孔46、リザーバー44、流出孔47及びキャビティ48は、インク供給路20の一部を構成する。
【0048】
なお、ノズル23内はインクとの親和性(濡れ性)が高くなるように形成されている。また、ノズル23の背圧となる流体噴射ヘッド18内の領域(インク供給路20内)の圧力は、常持は、差圧弁26の圧力調整機能によって−1kPa程度の負圧に保持されている。この負圧は、ノズル23からインクが垂れ落ちることを防止するとともに、各ノズル23内に均等にメニスカスを形成して、噴射動作を安定させるためのものである。
【0049】
そのため、ノズル23内のインクの液面Sfは、周縁がノズル形成面24とノズル23との境界部(ノズル開口部)にクリップされるとともに、中央付近が上流側に向けて引き込まれた凹形状のメニスカスを形成する。ここで、メニスカスとは、流体(インク)が固体表面と接するときに、両者の分子間に働く付着力と流体分子間の凝集力の大小関係で生じる湾曲した流体表面のことをいう。
【0050】
次に、メンテナンス装置14について説明する。
図1及び図2に示すように、メンテナンス装置14は、同色のインクを噴射するノズル列N毎に、各ノズル23のノズル開口25を閉塞するように流体噴射ヘッド18に当接する当接部材としての密着キャップ50を備えている。
【0051】
また、メンテナンス装置14には、各密着キャップ50を上下方向に昇降移動させるための昇降機構51(図1参照)が設けられている。これにより、密着キャップ50は、上下方向に沿って移動可能となっている。また、密着キャップ50は、ノズル開口25を閉塞する当接面52aが上面側に形成されたゴム部材52と、ゴム部材52を下方で支持するスポンジ部材53と、スポンジ部材53と昇降機構51との間に配置された基台部54とを備えている。
【0052】
図2に示すように、密着キャップ50の当接面52aは、ノズル列方向Yにおける中央が盛り上がった凸状の曲面となっている。そのため、密着キャップ50は、ノズル列方向Yに並ぶ複数のノズル開口25のうち、中央付近に位置する一部のノズル開口25を閉塞したときに、該ノズル23以外、すなわち両端付近のノズル23から離間した状態となる。
【0053】
次に、密着キャップ50による密着キャッピングについて説明する。
キャリッジ17は、印刷が終了すると、プラテン16上の印刷領域から右方に移動して、密着キャップ50の上方となるホームポジションに停止する。そして、ノズル開口25からのインク溶媒の蒸発を抑制するために、密着キャップ50でノズル23のノズル開口25を閉塞する密着キャッピングが行われる。
【0054】
密着キャッピングは、ホームポジションで停止された流体噴射ヘッド18に向かって、昇降機構51が密着キャップ50を上昇移動させることで行われる。具体的には、基台部54が昇降機構51によって上方に移動される。このとき、密着キャップ50は、当接面52aがノズル形成面24と離間した位置から、図3に示すように当接面52aがノズル列方向Yに並ぶ全てのノズル開口25を閉塞する位置まで上昇移動するようになっている。
【0055】
なお、密着キャップ50の移動完了後、ゴム部材52は、弾性変形して当接面52aがノズル開口部を含むノズル形成面24に密着するとともに、収縮変形したスポンジ部材53の復元力によって付勢された状態となる。これにより、ノズル23はノズル開口25が閉塞されて略密閉状態となる。
【0056】
ここで、ノズル23内のインクの液面Sfは、周縁がノズル開口部にクリップされているので、密着キャップ50がノズル開口部に当接すると、密着キャップ50が液面Sfに接触してノズル23内に形成されたメニスカスを破壊してしまう虞がある。そこで、密着キャッピングの際には、圧力調整機構28によってインク供給路20内を減圧することで液面Sfを上流側に引き込み、密着キャップ50が液面Sfと接触しないようにする必要がある。
【0057】
ただし、圧力調整機構28が減圧を行う減圧位置M2から各ノズル23に至る流路毎の圧力損失の大きさが異なると、各ノズル23内への圧力の伝わり方がばらついてしまう。例えば、流入孔46、リザーバー44及び各流出孔47の位置関係から、圧力調整機構28から各ノズル23に至る流路毎の長さは、流入孔46から流出孔47までの距離に応じて異なる。
【0058】
すなわち、圧力調整機構28から各ノズル23に至る流路毎の圧力損失の大きさは、流入孔46から流出孔47までの距離に応じて変化することになる。そのため、図2に示すように、流入孔46からの距離が短い流出孔47を通じてインクが供給される中央付近のノズル23に比べて、流入孔46からの距離が長い流出孔47を通じてインクが供給される両端付近のノズル23は、流路の圧力損失が大きく、減圧の影響が及び難い。言い換えれば、流路の圧力損失が小さい中央付近のノズル23は減圧によってインクが引き込まれ易いが、流路の圧力損失が大きい両端付近のノズル23は減圧によってもインクが引き込まれ難い。その結果、全てのノズル23を対象として減圧を行っても、両端付近では液面Sfの位置が十分に上流側へ引き込まれない状態となる。
【0059】
また、液面Sfを引き込むべく周縁のクリップを外すためには、平坦な部分で液面Sfを移動させるよりも大きな力が必要になるため、減圧がクリップを外すのに十分でなかった場合には、ノズル23内の負圧が高くなってしまう。そして、負圧が高まったノズル23内の液面Sfに密着キャップ50が接触すると、密着キャップ50によってインクが引き出されたり、それと同時にノズル23内に気泡が巻き込まれたりする虞がある。
【0060】
そこで、本実施形態では、圧力調整機構28による減圧が開始された後に、減圧位置M2から各ノズル23に至る流路毎の圧力損失の大きさに応じて、該圧力損失が相対的に小さい流路を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を優先的に閉塞するように、密着キャップ50を流体噴射ヘッド18に当接させる。
【0061】
具体的には、まず、閉弁工程として開閉弁27を閉弁状態にする。次に、減圧開始工程として圧力調整機構28による減圧を開始する。これにより、各ノズル23の背圧が低下し、減圧位置M2から各ノズル23に至る流路の圧力損失が小さく、減圧され易いノズル23から優先的に液面Sfが引き込まれる。
【0062】
次に、移動工程として、密着キャップ50を一定の速度で連続的に上昇移動させる。これにより、ノズル列Nを構成する複数のノズル23のノズル開口25は、ノズル列方向Yにおける中央側から両端側に向けて、順次閉塞されていく。すなわち、密着キャップ50は、当接面52aが凸状の曲面からなるので、上昇移動に伴って、流入孔46からの距離が短い流出孔47を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を閉塞した後に、流入孔46からの距離が長い流出孔47を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を閉塞する。その結果、減圧位置M2から各ノズル23に至る流路毎の長さに応じて、該長さが相対的に短い流路を通じて流体が供給されるノズル23のノズル開口25から優先的に閉塞される態様となる。
【0063】
密着キャップ50によってノズル開口25が閉塞されたノズル23内では、インクの流動が抑制されるので、減圧が継続されても、液面Sfの上昇は抑制される。また、密着キャップ50が中央付近のノズル開口25を閉塞した後に、圧力調整機構28が減圧を継続して行うことにより、閉塞されていない両端付近のノズル23内に形成されるインクの液面Sfを集中的に上流側に向けて引き込む。
【0064】
なお、液面Sfの位置をノズル23内に留めておくために、圧力調整機構28(減圧ポンプ)がインク供給路20内から吸引するインクの量は、全ノズル23の合計容積と対応するように設定するのが好ましい。そして、密着キャップ50が上昇移動を終了し、密着キャップ50が全てのノズル開口25を閉塞すると、密着キャッピングが完了する。
【0065】
印刷を再開する際には、圧力調整機構28による減圧を解除し、その後密着キャップ50を下降移動させる。また、開閉弁27を開弁状態とする。すると、流体噴射ヘッド18内の領域(インク供給路20内)は、−1kPa程度の負圧に戻るとともに、ノズル23内の液面Sfの位置も元に戻る。これにより、ノズル開口25の閉塞を解除した後に、速やかに印刷動作に移行することができる。
【0066】
以上説明した実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)圧力調整機構28がインク供給路20内を減圧するときに、流路の圧力損失が小さいとノズル23内のインクが引き込まれ易く、流路の圧力損失が大きいとノズル23内のインクが引き込まれ難い。そのため、流路の圧力損失が小さく、減圧によって液面Sfが引き込まれ易いノズル23については、先にノズル開口25を閉塞することで、液面Sfを引き込んだ状態でノズル23内におけるインクの流動を抑制することができる。また、流路の圧力損失が小さい一部のノズル開口25を密着キャップ50が閉塞することで、閉塞前には全ノズル23に分散されていた圧力を、流路の圧力損失が大きいノズル23に集中させることができる。そのため、流路の圧力損失が大きく、減圧によって液面Sfが引き込まれ難いノズル23についても、圧力調整機構28の減圧力を増すことなく液面Sfを引き込むことができる。これにより、全てのノズル23の液面Sfを効率よく引き込むことが可能となる。したがって、複数のノズル23内に形成されるメニスカスの破壊を抑制しつつ、各ノズル23のノズル開口25を閉塞することができる。そして、密着キャッピングに伴うメニスカスの破壊を抑制することで、密着キャップ50をノズル23から離間させた後に、速やかにインクの噴射を行うことができる。
【0067】
(2)密着キャップ50が、減圧位置M2からの流路の長さが相対的に短い流路を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25から優先的に閉塞することで、流路が長く、減圧によって液面Sfが引き込まれ難いノズル23に圧力を集中させて液面Sfを引き込むことができる。また、閉塞のタイミングが異なる各ノズル開口25を同じ密着キャップ50で閉塞することができるので、同色インクの噴射に用いられるノズル列Nに対して複数の密着キャップ50を備える必要がない。
【0068】
(3)リザーバー44はノズル列方向Yに沿って延びるように設けられるとともに、流出孔47はノズル列方向Yに沿って並ぶように配置されるため、流入孔46から流出孔47に至るまでの圧力損失は、流入孔46から流出孔47までの距離に応じて異なる。そのため、密着キャップ50が流入孔46からの距離が短い流出孔47を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を先に閉塞することで、過度に液面Sfの位置が引き込まれるのを抑制することができる。また、その後、流入孔46からの距離が長い流出孔47を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を閉塞するまでに、圧力損失が大きいノズル23に圧力を集中させて液面Sfを十分に引き込むことができる。
【0069】
(4)圧力調整機構28が減圧を行う際に、減圧位置M2の上流側に位置する開閉弁27が閉弁状態となることで、減圧の影響が開閉弁27よりも下流側のみに及ぶようにすることができる。
【0070】
(5)密着キャップ50は上下方向に沿って移動可能であるので、ノズル形成面24に近接する上方向に移動することでノズル開口25を閉塞する一方、ノズル形成面24から離間する下方向に移動することで閉塞を解除することができる。また、密着キャップ50は、複数のノズル23のうち一部のノズル開口25を閉塞したときに、当該一部のノズル23以外のノズル23から離間した状態となる当接面52aを有するので、移動の過程で一部のノズル開口25を選択的に閉塞することができる。
【0071】
(6)中央が盛り上がった凸状の曲面からなる当接面52aを有する密着キャップ50を上昇移動させることで、複雑な制御を行うことなく、ノズル列方向Yにおける中央側から両端側に向けて、順次ノズル開口25を閉塞していくことができる。
【0072】
(7)圧力調整機構28は、全ノズル23の合計容積と対応する一定量のインクをインク供給路20内から吸引することで減圧を行い、吸引したインクをインク供給路20内に戻すことで減圧を解除する。そのため、圧力調整に伴ってインクを消費することがなく、また、減圧を解除することで液面Sfの位置を元に戻すことができる。
【0073】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図4及び図5に基づいて説明する。なお、第2実施形態は、メンテナンス装置14の構成の一部が第1実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0074】
図4に示すように、本実施形態のメンテナンス装置14は、図示しない移動機構によって上下方向に移動可能であるとともに、移動方向Xに沿ってノズル形成面24に対してスライド移動可能な略平板状の密着キャップ55を備えている。密着キャップ55は、ノズル開口25を閉塞するための当接部56と、ノズル開口25を露出させるために当接部56と隣接する位置に設けられた開口部57とを有している。
【0075】
図5に示すように、当接部56及び開口部57は、同色のインクを噴射する各ノズル列Nに対応するように、ノズル列方向Yに沿って延びるとともに、密着キャップ55と流体噴射ヘッド18の相対移動方向となる移動方向Xに沿って並ぶように複数配置されている。なお、図5においては、開口部57を通じて露出されることで大気に連通されたノズル23(ノズル開口25)を黒丸で図示する一方、当接部56によって閉塞されたノズル開口25(ノズル23)を白丸で図示している。
【0076】
図5(a)に示すように、密着キャップ55には、ノズル列方向Yに並ぶように配置された当接部56及び開口部57からなる第1領域としての領域D1が設けられている。また、密着キャップ55には、領域D1と移動方向Xにおける両側に隣接する位置に配置された開口部57のみからなる第2領域としての領域D2及び当接部56のみからなる第3領域としての領域D3が設けられている。なお、図4及び図5(b),(c)では、図5(a)に二点鎖線で示す領域D1〜D3の境界線の図示を省略している。
【0077】
開口部57は、同色のインクを噴射するノズル列N毎に設けられている。そして、領域D1と領域D2の開口部57は一体的に形成されているとともに、領域D1と領域D3の当接部56は一体的に形成されている。
【0078】
なお、移動方向Xにおける開口部57の両側には領域D3が配置されている。これにより、ノズル23が領域D1又は領域D2の開口部57を通じて大気に連通する状態から、密着キャップ55を左右何れの方向に移動させても、速やかに全てのノズル開口25を閉塞することができるようになっている。
【0079】
領域D1において、当接部56はノズル列方向Yにおける中央付近に設けられている一方、開口部57はノズル列方向Yにおける両端付近に設けられている。そのため、領域D1の当接部56は、流入孔46からの距離が短い流出孔47を通じてインクが供給されるノズル23、すなわち圧力損失が相対的に小さい流路を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を閉塞するようになっている。なお、領域D1において、中央付近の当接部56と両端付近の開口部57とがそれぞれカバーするノズル23の数は、任意に変更することができる。
【0080】
密着キャップ55は、図5(b)に示すようにノズル列Nの下方に領域D3が配置されるようにノズル形成面24に当接することで、ノズル列Nを構成する全ノズル開口25を閉塞する。また、密着キャップ55は、図5(a)に示すようにノズル列Nの下方に領域D2が配置されるようにノズル形成面24に当接することで、ノズル列Nを構成する全ノズル23を大気に連通させる。
【0081】
また、密着キャップ55は、図5(c)に示すように、ノズル列Nの下方に領域D1が配置されるようにノズル形成面24に当接することで、ノズル列方向Yにおける中央付近のノズル開口25を閉塞する一方、両端付近に位置するノズル23を大気に連通させる。すなわち、密着キャップ55は、複数のノズル23のうち一部のノズル開口25を閉塞したときに、当該一部のノズル開口25以外のノズル開口25を露出させる開口部57を有する。
【0082】
そして、密着キャッピングの際には、閉弁工程として開閉弁27を閉弁状態とした後、図5(a)に示すように各ノズル列Nの下方に領域D2が配置されるように、密着キャップ55をノズル形成面24に当接させる。次に、減圧開始工程として圧力調整機構28による減圧を開始する。
【0083】
また、所定時間経過後、第1閉塞工程として、密着キャップ55をノズル形成面24に摺接させつつ、移動方向X(左方向)にスライド移動させることで、図5(c)に示すようにノズル列Nの下方に密着キャップ55の領域D2を配置する。
【0084】
このとき、減圧位置M2から各ノズル23に至る流路毎の長さに応じて、該長さが相対的に短い流路を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25が領域D1の当接部56によって優先的に閉塞される。これにより、密着キャップ55によってノズル開口25が閉塞されたノズル23内では、インクの流動が抑制されるので、減圧が継続されても液面Sfの位置はそれ以上上昇しない。また、密着キャップ50が中央付近のノズル23のノズル開口25を閉塞した後に、圧力調整機構28が減圧を継続して行うことにより、ノズル開口25が閉塞されていない両端付近のノズル23内に形成されるインクの液面Sfを集中的に上流側に向けて引き込む。
【0085】
そして、第1閉塞工程から所定時間経過後、第2閉塞工程として、密着キャップ55をさらに移動方向Xに移動させて、図5(b)に示すようにノズル列Nの下方に密着キャップ55の領域D3を配置することで、全てのノズル23のノズル開口25を閉塞する。
【0086】
以上説明した実施形態によれば、上記(1)〜(4),(7)と同様の作用効果に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(8)流路の圧力損失が小さいノズル23では、減圧開始工程から第1閉塞工程までの間に優先的に液面Sfが引き込まれるが、第1閉塞工程でそのノズル開口25を閉塞することで、液面Sfを引き込んだ状態でノズル23内におけるインクの流動を抑制することができる。また、第1閉塞工程から第2閉塞工程までの間には、流路の圧力損失が大きいノズル23に圧力を集中させることで、減圧力を増すことなく液面Sfを引き込むことができる。これにより、全てのノズル23の液面Sfを効率よく引き込むことが可能となる。したがって、複数のノズル23内に形成されるメニスカスの破壊を抑制しつつ、各ノズル23のノズル開口25を閉塞することができる。
【0087】
(9)密着キャップ55の領域D1をノズル列Nに対応する位置に配置することで、当接部56と対応する位置にあるノズル開口25のみを閉塞することができる。また、密着キャップ55の領域D2をノズル列Nに対応する位置に配置することで、全てのノズル開口25の閉塞を解除することができる。さらに、密着キャップ55の領域D3をノズル列Nに対応する位置に配置することで、全てのノズル開口25を閉塞することができる。すなわち、密着キャップ55の移動方向Xに沿う移動に伴って閉塞するノズル開口25の数を変化させることで、一部のノズル開口25を選択的に閉塞することができる。
【0088】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・第1実施形態において、図6の第1変形例に示すように、流入孔46がリザーバー44のノズル列方向Yにおける一端側(図6では左端側となる後側)に設けられている場合には、流入孔46から流出孔47に至る流路の長さは、一端側ほど短く、他端側(図6では右端側となる前側)ほど長くなる。この場合には、一端側から他端側に向けて斜め下に傾斜する当接面52aを有する密着キャップ50Aを備えればよい。これにより、密着キャップ50Aの当接面52aは、上昇移動の過程で、一端側のノズル開口25を閉塞したときに、他端側のノズル23から離間した状態となる。
【0089】
・第1実施形態において、図7の第2変形例に示すように、流入孔46がリザーバー44のノズル列方向Yにおける両端側に設けられている場合には、流入孔46から流出孔47に至る流路の長さは、両端側ほど短く、中央付近ほど長くなる。この場合には、両端側から中央付近に向けて斜め下に傾斜する凹状の曲面からなる当接面52aを有する密着キャップ50Bを備えればよい。これにより、密着キャップ50Bの当接面52aは、両端側のノズル開口25を閉塞したときに、中央付近のノズル23から離間した状態となる。
【0090】
・第1実施形態において、密着キャップ50を複数回に分けて断続的に上昇移動させるようにしてもよい。この場合には、インク供給路20内の減圧を開始する減圧開始工程の後に、最初の移動に伴う第1閉塞工程で、圧力損失が相対的に小さい流路を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を閉塞する。また、次の移動に伴う第2閉塞工程で、圧力損失が相対的に大きい流路を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を閉塞することで、全てのノズル開口25を閉塞する。これにより、上記(8)と同様の作用効果を得ることができる。
【0091】
なお、第1実施形態のように密着キャップ50を一定の速度で連続的に上昇移動させる場合でも、移動開始から任意の途中時点までを第1閉塞工程、前記途中時点から移動終了までを第2閉塞工程とすれば、上記(8)と同様の作用効果があるといえる。
【0092】
・第1実施形態において、全てのノズル23(ノズル列N)のノズル開口25を1つの密着キャップ50で閉塞するようにしてもよい。
・第1実施形態において、密着キャップ50はスポンジ部材53を備えなくてもよい。
【0093】
・第2実施形態において、例えば図8に示すように、領域D1における当接部56及び開口部57の形状が異なる密着キャップ55Aを採用してもよい。すなわち、領域D1において、当接部56がノズル列方向Yにおける両端側から中央に向けて、左方側に突設するように傾斜する境界線で開口部57と区画されるようにする。この構成によれば、密着キャップ55Aを一定の速度で連続的に左方向に移動させることで、複雑な制御を行うことなく、中央側から両端側に向けて、順次ノズル開口25を閉塞していくことができる。
【0094】
・第2実施形態において、密着キャップ55に対して、キャリッジ17を左右方向に移動させるようにしてもよい。この場合には、密着キャップ55を左右方向に移動させるための移動機構を備える必要がない。すなわち、密着キャップ55と流体噴射ヘッド18とが相対移動可能な構成であればよい。
【0095】
・第2実施形態において、領域D1〜D3は互いに離間していてもよいし、その並び順を変更してもよい。
・流路の圧力損失は、リザーバー44の形状に限らず、インク供給路20全体を対象として決定してもよい。例えば、圧力調整機構28の下流側においてインク供給路20が長さの異なる2つの分岐流路に分岐され、各分岐流路がそれぞれ異なるリザーバー44に接続されている場合には、第1閉塞工程で短い方の分岐流路を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を閉塞する。また、第2閉塞工程で、長い方の分岐流路を通じてインクが供給されるノズル23のノズル開口25を閉塞すればよい。
【0096】
・1つのノズル列Nに対して複数の当接部材を設け、各当接部材が異なるタイミングでノズル列Nを構成するノズル23の各ノズル開口25を閉塞するようにしてもよい。
・ノズル23は、ノズルプレート43に貫通形成されるものに限らず、流体噴射ヘッド18から突設される円筒状の細い管によって形成されてもよい。
【0097】
・圧力調整機構28によってノズル23の背圧を調整するようにしてもよい。この場合には、差圧弁26を備えなくてもよい。また、圧力調整機構28をメンテナンス装置14の構成要素としなくてもよい。
【0098】
・開閉弁27を備えなくてもよい。
・流体噴射ヘッド18やノズル23の数、ノズル列Nの列数などは任意に設定することができる。また、同色のインク(同種の流体)に対応するノズル列Nが隣接するように複数列設けられる場合には、該複数列のノズル列に対応するように開口部を設けてもよい。
【0099】
・インクカートリッジ19は、着脱式でないインクタンクを採用してもよい。
・プリンターは、長尺の流体噴射ヘッドを備えるフルラインタイプのラインヘッド式プリンターや、ラテラル式プリンターとして実現してもよい。
【0100】
・上記実施形態では、流体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化したが、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置を採用してもよく、微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうち何れか一種の噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
11…流体噴射装置としてのプリンター、14…メンテナンス装置、18…流体噴射ヘッド、20…流体供給流路としてのインク供給路、23…ノズル、24…一平面としてのノズル形成面、25…ノズル開口、27…開閉弁、28…圧力調整機構、44…貯留部としてのリザーバー、46…流入孔、47…流出孔、50,50A,50B,55,55A…当接部材としての密着キャップ、52a…当接面、56…当接部、57…開口部、D1…第1領域としての領域、D2…第2領域としての領域、D3…第3領域としての領域、M1…開閉位置、M2…減圧位置、N…ノズル列、X…移動方向、Y…ノズル列方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射するノズルが複数設けられた流体噴射ヘッドと、該流体噴射ヘッド側となる下流側に向けて前記流体を供給する流体供給流路とを有する流体噴射装置のメンテナンス装置であって、
前記流体噴射ヘッドよりも上流側の減圧位置で前記流体供給流路内を減圧する圧力調整機構と、
該圧力調整機構による減圧が開始された後に、前記減圧位置から前記各ノズルに至る流路毎の圧力損失の大きさに応じて、該圧力損失が相対的に小さい流路を通じて前記流体が供給される前記ノズルのノズル開口を優先的に閉塞するように前記流体噴射ヘッドに当接する当接部材と、を備えることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項2】
前記当接部材は、前記減圧位置から前記各ノズルに至る流路毎の長さに応じて、該長さが相対的に短い流路を通じて前記流体が供給される前記ノズルのノズル開口から優先的に閉塞することを特徴とする請求項1に記載のメンテナンス装置。
【請求項3】
前記流体供給流路には、前記減圧位置の下流側において前記流体を一時貯留するために一方向に沿って延びる貯留部と、該貯留部内に前記流体を流入させるための流入孔と、前記貯留部内の前記流体を前記各ノズルに向けて供給するために前記一方向に沿って並ぶように配置された複数の流出孔とが設けられ、
前記当接部材は、前記流入孔からの距離が短い前記流出孔を通じて前記流体が供給される前記ノズルのノズル開口を閉塞した後に、前記流入孔からの距離が長い前記流出孔を通じて前記流体が供給される前記ノズルのノズル開口を閉塞することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のメンテナンス装置。
【請求項4】
前記流体供給流路において、前記減圧位置よりも上流側の開閉位置に、前記流体供給流路を開閉可能な開閉弁をさらに備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載のメンテナンス装置。
【請求項5】
複数の前記ノズルのノズル開口は一平面上に並ぶように配置され、
前記当接部材は、前記一平面と交差する方向に沿って移動可能であるとともに、複数の前記ノズルのうち一部のノズル開口を閉塞したときに、当該一部のノズル以外のノズルから離間した状態となる当接面を有することを特徴とする請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載のメンテナンス装置。
【請求項6】
前記流体噴射ヘッドには、複数の前記ノズルからなるノズル列が設けられるとともに、複数の前記ノズルのノズル開口は一平面上に並ぶように配置され、
前記当接部材は、ノズル列方向と交差する移動方向に沿って前記一平面に対してスライド移動可能であるとともに、前記ノズル開口を閉塞するための当接部及び該当接部と隣接する位置に設けられた開口部を有し、
前記当接部材には、前記ノズル列方向に並ぶように配置された前記当接部及び前記開口部からなる第1領域と、該第1領域と前記移動方向に隣接する位置に配置された前記開口部からなる第2領域と、前記第1領域又は前記第2領域と前記移動方向に隣接する位置に配置された前記当接部からなる第3領域とが設けられることを特徴とする請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載のメンテナンス装置。
【請求項7】
流体を噴射するノズルが複数設けられた流体噴射ヘッドと、
該流体噴射ヘッド側となる下流側に向けて前記流体を供給する流体供給流路と、
請求項1〜請求項6のうち何れか一項に記載のメンテナンス装置と、を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項8】
流体を噴射するノズルが複数設けられた流体噴射ヘッド側となる下流側に向けて前記流体を供給する流体供給流路内を、前記流体噴射ヘッドよりも上流側の減圧位置において減圧し始める減圧開始工程と、
該減圧開始工程の後に、複数の前記ノズルのうち、前記減圧位置から前記各ノズルに至る流路毎の圧力損失の大きさに応じて、該圧力損失が相対的に小さい流路を通じて前記流体が供給される一部のノズルのノズル開口を閉塞する第1閉塞工程と、
該第1閉塞工程の後に、全ての前記ノズルのノズル開口を閉塞する第2閉塞工程と、を備えることを特徴とするメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−245679(P2011−245679A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119277(P2010−119277)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】