説明

メンテナンス装置および液体噴射装置

【課題】装置構成の複雑化、大型化を抑えつつ、フラッシング時におけるインク滴(液滴)の跳ね返りを抑制した、メンテナンス装置および液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体を噴射する噴射ヘッド110のメンテナンス装置である。撥水性の絶縁部120と絶縁部120から露出して配置される第1電極121とを含み、噴射ヘッド110から噴射された液体を受ける液体受け面と、絶縁部120により覆われる第2電極122と、液体受け面に噴射された液体を外部に排出する排出口116bと、を有する液体受け部116と、第1電極121と第2電極122との間に印加する電圧を制御する制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメンテナンス装置および液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク滴をインクジェットヘッドのノズルから記録紙(媒体)に対して噴射する液体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、「プリンター」と記す。)が広く知られている。このようなプリンターにおいて、インクジェットヘッドのノズルの噴射特性を維持又は回復させるべく、フラッシング処理を行うようにしている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−283658号公報
【特許文献2】特開2004−243708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術においては、フラッシングボックス内に設けられた多孔質体に廃インクが堆積するのを防止するべく、洗浄液を用いて多孔質体を洗浄するため、洗浄機構が必要となり、したがって装置構成が複雑化し、大型化するといった問題があった。
また、前記特許文献2に記載の技術においては、フラッシングされたインク液の跳ね返りによって装置の機器部や記録紙等を汚損しないように、空気を吸引する機構を備えていることから、やはり装置構成が複雑化し、大型化するといった問題があった。
【0005】
本発明は前記問題点の少なくとも1つに鑑みてなされたもので、その目的とするところは、装置構成の複雑化、大型化を抑えつつ、インクの堆積およびフラッシング時におけるインク滴(液滴)の跳ね返りを抑制した、メンテナンス装置および液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のメンテナンス装置は、液体を噴射する噴射ヘッドのメンテナンス装置であって、撥水性の絶縁部と前記絶縁部から露出して配置される第1電極とを含み、前記噴射ヘッドから噴射された前記液体を受ける液体受け面と、前記絶縁部により覆われる第2電極と、前記液体受け面に噴射された前記液体を外部に排出する排出口と、を有する液体受け部と、前記第1電極と前記第2電極との間に印加する電圧を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このメンテナンス装置によれば、液体受け部の底部の内面に撥水性の絶縁部を設けるとともに、第1電極を絶縁部から露出して配置し、絶縁部の外面側に第2電極を設けているので、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより、エレクトロウェッティングの原理によって絶縁部を撥水性から親水性に変化させることができ、また、電源をオフにして電圧の印加を停止することにより、絶縁部を再度撥水性に戻すことができる。したがって、特にフラッシング時に電源をオンにして底部(絶縁部)を親水性にしておくことにより、底部(絶縁部)上に着弾した液滴を濡れ拡がらせ、跳ね返りを抑制することができる。また、その後電源をオフにして底部(絶縁部)を撥水性に戻すことにより、排出手段によってフラッシングされた液体を排出口に容易に流すことができる。したがって、従来のように跳ね返り防止のための空気吸引機構や、廃インクの堆積を防止するための多孔質体の洗浄機構が不要になり、装置構成の複雑化、大型化を抑えることができる。
【0008】
また、前記メンテナンス装置において、前記液体受け面は、前記液体受け部の底面に形成された前記排出口に向かって下降する傾斜面であることが好ましい。
このようにすれば、前記したように電源をオフにして底部(絶縁部)を撥水性に戻すことにより、フラッシングされた液体は傾斜面によって排出口に向かって容易に流れるようになる。
【0009】
また、前記メンテナンス装置において、前記第1電極は、前記排出口に対してその周囲に連続的又は断続的な線状に配置されているとともに、前記排出口に遠い位置から近い位置にまで連続的に又は断続的に配置されていることが好ましい。
このようにすれば、底部上に着弾した液滴は着弾位置の近傍にある第1電極に容易に接するようになる。したがって、電源がオンになっていると液滴は第1電極によって帯電し、第2電極によって異なる極性に帯電した絶縁部に対する濡れ性が格段に高くなる。すなわち、絶縁部は前記したように親液性になる。
【0010】
また、前記メンテナンス装置において、前記制御部は、前記第1電極および前記第2電極に対して、前記排出口に遠い側から近い側に向かって、前記電圧が印加されている状態から順次非印加状態となるように、前記電圧を制御することが好ましい。
このようにすれば、制御部によって、第1電極および第2電極に対して排出口に遠い側から近い側に向かって電圧が印加されている状態から順次非印加状態となるように、電圧制御を行うことにより、フラッシングされた液体を排出口に向けて容易に移動させることができる。すなわち、液体を排出口に向けて流すことができる。
【0011】
本発明の液体噴射装置は、液体を噴射する噴射ヘッドと、前記のメンテナンス装置と、を備えることを特徴としている。
この液体噴射装置によれば、前記したように底部(絶縁部)上に着弾した液滴を濡れ拡がらせ、跳ね返りを抑制することができる液体受け部を有したメンテナンス装置を備えているので、従来のような空気を吸引する機構が不要になり、装置構成の複雑化、大型化を回避することができる。また、前記液体受け部が、排出手段によってフラッシングされた液体を排出口に容易に流すことができるので、従来のような多孔質体の洗浄機構が不要になり、装置構成の複雑化、大型化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係るプリンターの構成を示す図である。
【図2】インク供給系の構造を示す図である。
【図3】(a)〜(c)はフラッシング機構の構成を示す図である。
【図4】プリンターの電気的な構成を示すブロック図である。
【図5】(a)〜(d)はフラッシング動作に係る作用の説明図である。
【図6】フラッシングボックスの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせている。
【0014】
図1は本発明の液体噴射装置の一実施形態の概略構成を示す図であり、図1中符号100は液体噴射装置としてのインクジェット方式のプリンターである。このプリンター100は、例えば紙、プラスチックシートなどのシート状の媒体Mを搬送しつつ印刷処理を行う装置である。プリンター100は、筐体101と、媒体Mにインクを噴射するインクジェット機構102と、該インクジェット機構102にインクを供給するインク供給機構103と、媒体Mを搬送する搬送機構104と、インクジェット機構102の保全動作を行うメンテナンス機構(メンテナンス装置)105と、これら各機構を制御する制御装置(制御部)106とを備えている。
【0015】
以下、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を適宜参照しつつ各構成要素の位置関係を説明する。本実施形態では、液体の噴射方向をZ方向とし、ヘッドの移動方向をY方向とし、Z方向とY方向とに直交する方向をX方向とした。
【0016】
筐体101は、Y方向を長手とするように形成されている。筐体101には、前記のインクジェット機構102、インク供給機構103、搬送機構104、メンテナンス機構105及び制御装置106の各部が設けられている。また、筐体101には、プラテン13が設けられている。プラテン13は、媒体Mを支持する支持部材であり、筐体101内のX方向中央部に配置されている。プラテン13は、+Z方向に向けられた平坦面(図示せず)を有しており、この平坦面は、媒体Mを支持する支持面として用いられる。
【0017】
搬送機構104は、搬送ローラーや該搬送ローラーを駆動するモーターなどを有して構成されている。この搬送機構104は、筐体101の−X側から該筐体101の内部に媒体Mを搬送し、該筐体101の+X側から該筐体101の外部に排出する。また、搬送機構104は、筐体101の内部において、媒体Mがプラテン13上を通過するように該媒体Mを搬送する。さらに、搬送機構104は、制御装置106によって搬送のタイミングや搬送量などが制御されるようになっている。
【0018】
インクジェット機構102は、インク(液体)を噴射するヘッド(噴射ヘッド)110と、該ヘッド110を保持して移動させるヘッド移動機構107とを有している。ヘッド110は、プラテン13上に送り出された媒体Mに向けてインクを噴射する。ここで、ヘッド110から噴射されるインクは、本実施形態では電解質を含有した導電性で水性のものである。ヘッド110は、インクを噴射する噴射面(ノズル形成面)110aを有している。この噴射面110aは、−Z方向に向けられており、プラテン13の平坦面に対向するように配置されている。
【0019】
ヘッド移動機構107はキャリッジ4を有しており、該キャリッジ4には前記ヘッド110が固定されている。キャリッジ4は、筐体101の長手方向(Y方向)に架けられたガイド軸8に当接されている。ヘッド110及びキャリッジ4は、プラテン13の上方(+Z方向)に配置されている。
【0020】
ヘッド移動機構107は、キャリッジ4の他、パルスモーター9と、該パルスモーター9によって回転駆動される駆動プーリー10と、駆動プーリー10とは筐体101の幅方向の反対側に設けられた遊転プーリー11と、駆動プーリー10と遊転プーリー11との間に掛け渡されてキャリッジ4に接続されたタイミングベルト12とを有している。
【0021】
キャリッジ4は、タイミングベルト12に接続されており、該タイミングベルト12の回転に伴ってY方向に移動可能に設けられている。Y方向へ移動する際、キャリッジ4は、ガイド軸8によって案内されるようになっている。
【0022】
インク供給機構103は、ヘッド110にインクを供給するためのものである。インク供給機構103には、複数のインクカートリッジ6が収容されている。本実施形態のプリンター100は、インクカートリッジ6がヘッド110とは異なる位置に収容される構成(オフキャリッジ型)である。インク供給機構103は、ヘッド110とインクカートリッジ6とを接続する供給チューブTBを有している。インク供給機構103は、該供給チューブTBを介してインクカートリッジ6内に貯留されるインクをヘッド110に供給する、不図示のポンプ機構を有している。
【0023】
メンテナンス機構105は、ヘッド110のホームポジションに配置されている。このホームポジションは、媒体Mに対して印刷が行われる領域から外れた領域に設定されている。本実施形態では、プラテン13のY側にホームポジションが設定されている。ホームポジションは、例えばプリンター100の電源がオフである時や長時間に亘って記録が行われない時、あるいはメンテナス作業を行う際にヘッド110が待機する場所である。
【0024】
メンテナンス機構105は、本発明のメンテナンス装置の一実施形態となるもので、ヘッド110の噴射面110aを払拭するワイピング機構111と、該噴射面110aを覆うキャッピング機構112と、ヘッド110のノズルNZ(図3参照)からインクを噴射するフラッシング処理を行うためのフラッシング機構115と、を有している。キャッピング機構112には、例えば吸引ポンプなどの吸引機構113が接続されている。この吸引機構113によってキャッピング機構112は、例えばヘッド110の噴射面110aを覆いつつ、該噴射面110a上の空間を吸引できるようになっている。ヘッド110からメンテナンス機構105側に排出された廃インクは、例えば廃液回収機構(不図示)において回収されるようになっている。
【0025】
また、本実施形態に係るプリンター100は、図2に示すように、インクカートリッジ6内に設けられたインクパック6aを加圧することで供給チューブTBを介してインクをヘッド110側に供給する供給システム300を有している。供給システム300は、膨縮することでインクパック6aを加圧可能な膨縮部材301と、ポンプ302と、ポンプ302から送られる空気を膨縮部材301に搬送する搬送チューブ303と、を備えている。なお、ポンプ302は制御装置106に電気的に接続されており、その駆動が制御装置106によって制御されるようになっている。
【0026】
ポンプ302は大気開放が可能な構成とされている。これによって供給システム300は、搬送チューブ303を介して圧縮空気を供給したことで膨らんだ膨縮部材301がインクパック6aを押圧する動作、及び大気開放によりインクパック6aを押圧する膨縮部材301が縮小する動作、を繰り返すことにより、インクパック6aから供給チューブTBを介してインクをヘッド110に効率良く圧送し、供給できるようになっている。搬送チューブ303にはバルブV1が設けられており、バルブV1は制御装置106によってその開閉動作が制御されるようになっている。
【0027】
制御装置106は、インクパック6aからヘッド110にインクを供給する際、前記バルブV1を開いた状態でポンプ302を駆動するようになっている。
また、制御装置106は、プリンター100の電源(図示せず)に接続されている。さらに、図1に示すように制御装置106には、後述するようにフラッシング機構115におけるフラッシングボックス(液体受け部)に設けられた第1電極と第2電極との間に所定の電圧を印加するための電源の、オンオフ制御をなす制御機構106aが設けられている。なお、第1電極と第2電極との間に所定の電圧を印加するための電源は、プリンター100の電源から得るようになっている。
【0028】
図3(a)〜(c)は、本実施形態に係るフラッシング機構115の構成を示す図である。
図3(a)に示すようにフラッシング機構115は、ヘッド110のノズルNZからフラッシングされた(噴射された)インクを受けるフラッシングボックス(液体受け部)116と、フラッシングボックス116で受けたインクを接続チューブ117を介して回収する廃インクタンク118と、を備えて構成されている。
【0029】
フラッシングボックス116は、本実施形態では有底四角筒状のもので、その底部116aが正四角錐状に形成されている。すなわち、このフラッシングボックス116の底部116aは、下方に頂点を形成するように上下逆に配置された正四角錐形状の側面部によって構成されたもので、頂点部となる中心部に排出口116bを形成し。この排出口116bに連通して排出管116cを形成したものである。このような構成のもとに底部116aの内面は、排出口116bに向かって下降する傾斜面となっている。ここで、この傾斜面は、本発明においてフラッシングされたインク(液体)を排出口116bに流す排出手段を構成するものである。傾斜面の傾斜角度としては、特に限定されないものの、水平面に対して20°〜45°程度となっているのが好ましい。
【0030】
また、この底部116aは、その要部側断面図である図3(b)に示すように、その内面が絶縁層(絶縁部)120で覆われて形成されているとともに、その一部に第1電極121が露出して形成されている。第1電極121は、例えば底部116aの平面図である図3(c)に示すように、排出口116bに対してその周囲に連続した線状で正方形枠状の電極部121aを配置しているとともに、該正方形枠状の電極部121aを、排出口116bを中心としてこれに近い側から遠い側に(換言すれば遠い側から近い側に)、多数(複数)を断続的に配置している。これら正方形枠状の電極部121aは、互いに独立して配置されており、配線(図示せず)によってそれぞれ独立して制御されるようになっている。
【0031】
内側と外側とで隣り合う電極部121a、121a間の間隔としては、ヘッド110のノズルNzから噴射される液滴(液体)の径に近い長さとするのが好ましく、該液滴の径の数倍から数十倍程度とされる。これら電極部121aは、図1に示した制御装置(制御部)106における制御機構106aに配線を介してそれぞれ独立して接続されている。したがって、第1電極121は、制御機構106aを介して電源に接続されている。また、これら電極部121aは、後述するようにインクと直接接触することから、耐腐食性の高い金属、例えば金、白金、銀、チタン等によって形成されているのが好ましい。
【0032】
絶縁層120は、絶縁性であるとともに撥水性であり、したがって通常時には、導電性で水性のインクに対して濡れ性が低く、その接触角が大きくなるようになっている。このような絶縁層としては、例えばテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂膜や、化学蒸着法で形成されるパレリン膜等が用いられる。また、この絶縁層120は、図3(b)、(c)に示したように、底部116aの内面に第1電極121の各電極部121aを露出させた状態で、該電極部121aとの間で段差を形成することなく同一面を形成するように配設されている。絶縁層120の厚さとしては、後述する第2電極によってその表面(内面)側が十分に帯電するような厚さとされる。
【0033】
また、フラッシングボックス116の底部116aには、図3(b)に示すように、前記絶縁層120の裏面(外面)に当接して第2電極122が設けられている。第2電極122は、絶縁層120に当接することで該絶縁層120と電気的に接続し、その表面(内面)側を帯電させるためのもので、接地電極に接続されている。また、この第2電極122は、例えばアルミニウム等の金属からなっている。
【0034】
このような構成のもとに第2電極122と前記第1電極121との間には、制御機構106aを介して接続される電源によって所定の電圧が印加されるようになっている。なお、所定電圧としては、第1電極121と第2電極122との電位差が後述するエレクトロウェッティング現象を生じさせるのに必要な大きさとなるように設定され、例えば220Vとされる。
また、制御機構106aは、本実施形態では前記第1電極121に対して、排出口116bに遠い位置の電極部121aから近い位置の電極部121aに向かって、前記電源のオンオフ制御や、電圧の強さの制御を順次行えるようになっている。
【0035】
また、第2電極122の裏面(外面)側には、該第2電極122や第1電極121に接続する配線(図示せず)が配設され、さらにこれら第2電極122、第1電極121、配線を覆って絶縁性樹脂123が設けられている。さらに、必要に応じて絶縁性樹脂123の外側に、フラッシングボックス116の機械的強度を担う金属等の板材(図示せず)を設けてもよい。
【0036】
また、底部116aの排出口116bに連通する排出管116cも、その内面は、図3(b)に示した底部116aの内面と同様に、絶縁層120と該絶縁層120中に露出する第1電極121とを有しており、また絶縁層120の裏面(外面)には、該絶縁層120に当接して第2電極122が設けられている。そして、これら第1電極121、第2電極122も、前記制御機構106aを介して電源に接続されている。
また、図3(a)に示したように排出管116cには接続チューブ117が外挿されており、該接続チューブ117の下方には廃インクタンク118が配設されている。
【0037】
このような構成からなるフラッシング機構115は、後述するヘッド110のフラッシング動作の際、噴射されたインク(液体)をフラッシングボックス116で受け、排出口116aから排出して廃インクタンク118に廃棄するようになっている。
【0038】
図4は、プリンター100の電気的な構成を示すブロック図である。プリンター100は、プリンター100全体の動作を制御する制御装置106を備えている。制御装置106には、プリンター100の動作に関する各種情報を入力する入力装置IP、プリンター100の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置MRなどが接続されており、前述した搬送機構104や、ヘッド移動機構107、メンテナンス機構105等が接続されている。また、制御装置106には制御機構106aが備えられており、制御機構106aは前述したようにメンテナンス機構105のフラッシング機構115を制御するようになっている。
【0039】
次に、前記構成のプリンター100におけるフラッシング動作を説明する。
フラッシング動作を行わせる場合、制御装置106は、ヘッド110をフラッシング位置にまで移動させ、図3(a)に示したようにヘッド110の噴射面110aとフラッシング機構115のフラッシングボックス116とを対向させた状態とする。
【0040】
そして、この位置でノズルNZからインクを噴射させ、フラッシングを行わせるが、このフラッシング動作に先立ち、制御機構106aによって第1電極121と第2電極122との間に所定電圧を印加しておく。すると、図5(a)に示すようにフラッシングボックス116の底部116aの内面側は、第1電極121が例えば負の電位となり、第2電極122がその逆の電位、すなわち正の電位となる。また、第2電極122が正の電位となることで、これに当接する絶縁層120も正の電位となる。
【0041】
このような状態のもとで噴射されたインクは、フラッシングボックス116の底部116a上に着弾すると、図5(b)に示すようにその一部のインク滴(液滴)Iは、露出した第1電極121に接触し、負の電位となる。すると、インク滴Iは、図5(b)中二点鎖線で示すようにエレクトロウェッティングの原理によって絶縁層120上に瞬時に濡れ拡がり、したがって着弾時の衝撃が緩和されるため、その跳ね返りが抑制される。
【0042】
ここで、エレクトロウェッティングの原理について説明する。エレクトロウェッティングとは、電極と電気的に接続されている絶縁膜によって、電極が導電性を有する液体から絶縁されている際に、電極と液体との間に電圧を印加すると、電極と液体との間に電位差が存在しない場合と比べて、絶縁膜表面と液体との間の接触角が小さくなる現象である。つまり、電極(第2電極122)と液体(インク滴I)との間に電圧を印加すると、電極122と液体Iとの間に電位差が存在しない場合と比べて、見かけ上、絶縁膜(絶縁層120)表面の撥水性が低下し、濡れ性が高くなる。
【0043】
よって、底部116a上に着弾したインク滴Iが第1電極121と接触して負の電位になると、絶縁層120との間で電位差が生じ、これによって絶縁層120表面はその撥水性が低下し、濡れ性が高くなって親水性となる。これにより、着弾したインク滴Iは第1電極121に接触することで絶縁層120上に瞬時に濡れ拡がり、その跳ね返りが抑制される。なお、このようなエレクトロウェッティング現象は、第1電極121を正の電位にし、第2電極122を負の電位にしても、同様に起こる。
【0044】
また、第1電極121上に直接着弾しないインク滴Iにあっても、例えば図5(c)に示すように先に着弾して第1電極121と接触し、負の電位になっているインク滴に接触すると、図5(c)中に二点鎖線で示すように、図5(b)に示したインク滴Iと同様に濡れ拡がる。
【0045】
なお、フラッシングは非常に多くのインク滴Iを噴射するため、インク滴Iどうしが互いに接触することにより、その一部のインク滴Iが第1電極121に接触することにより、全体が負の電位となり、絶縁層120上に濡れ拡がるようになるため、従来に比べて着弾時の跳ね返りが格段に抑えられるようになる。
【0046】
また、本実施形態では、底部116aを排出口116bに向かって下降する傾斜面となっているため、図5(d)に示すように第1電極121の上側の絶縁層120上に着弾したインク滴Iは、傾斜面に沿って自重で流れ落ち、第1電極121に接触する。これにより、このインク滴Iも、図5(d)中二点鎖線で示すように絶縁層120上に濡れ拡がる。
【0047】
このようにして濡れ拡がったインク滴Iは、傾斜面に沿って自重で流れ落ちることにより、排出口116bに至る。そして、排出管116c、接続チューブ117を経て廃インクタンク118に排出される。その際、このような排出動作を速めて底部116a上でのインク滴Iの乾燥を防止するべく、フラッシング動作終了後には、制御機構106aによって第1電極121と第2電極122との間への所定電圧の印加を停止する。すると、絶縁層120とインク滴Iとの間で電位差がなくなることから、絶縁層120は元の撥水性に戻り、インク滴Iは絶縁層120に対する接触角が大きくなる。これにより、インク滴Iは底部116aの傾斜面に沿ってより流れ落ち易くなり、底部116aの内面上に付着し続けることなく、排出口116bから排出される。
【0048】
また、底部116a上でのインク滴Iの乾燥をより確実に防止するためには、前記制御機構106aにより、排出口116bに遠い側の電極部121aから近い側の電極部121aに向かって、電圧が印加されている状態から順次非印加状態となるように、前記電源のオンオフを制御する。このようにオンオフ制御を行うと、底部116aの傾斜面の上側から下側に向けて、その内面が順次親水性から撥水性に変わることにより、インク滴Iが撥水性の領域(底部116aの上側[排出口116bから遠い側])から親水性の領域(底部116aの下側[排出口116bに近い側])に押し出されるようになり、より迅速にインク滴Iの排出がなされるようになる。
【0049】
ここで、このように排出口11bに遠い側の電極部121aから近い側の電極部121aに向かって、電圧が印加されている状態から順次非印加状態となるように、前記電源のオンオフを制御する制御機構106aは、本実施形態では前記底部116aの内面の傾斜面とともに、本発明においてフラッシングされたインク(液体)を排出口116bに流す排出手段を、構成している。
【0050】
なお、排出管116cの内面の第1電極121、第2電極122についても、フラッシング動作時には所定電圧を印加してインク滴Iの濡れ性を高めて底部116a上のインク滴Iの排出性を高め、フラッシング動作終了時には非印加状態とすることで撥水性に戻し、排出管116cの内面からインク滴Iがより迅速に流れ落ちるようにする。
【0051】
このような構成のフラッシング機構115を備えたメンテナンス機構(メンテナンス装置)105にあっては、第1電極121と第2電極122との間に電圧を印加することにより、エレクトロウェッティングの原理によって絶縁層120を撥水性から親水性に変化させることができ、また、電源をオフにして電圧の印加を停止することにより、絶縁層120を再度撥水性に戻すことができる。
【0052】
したがって、フラッシング時に電源をオンにして絶縁層120を親水性にしておくことにより、絶縁層120(底部116a)上に着弾したインク滴Iを濡れ拡がらせ、着弾時の衝撃を緩和することにより、跳ね返りを抑制することができる。これにより、フラッシングされたインク滴Iの跳ね返りによって装置の機器部や記録紙等が汚損される不都合を解消することができ。
また、その後電源をオフにして絶縁層120(底部116a)を撥水性に戻すことにより、前記傾斜面や制御機構106aからなる排出手段によってフラッシングされたインク滴Iを排出口116bに容易に流すことができる。よって、従来のように跳ね返り防止のための空気吸引機構や、廃インクの堆積を防止するための多孔質体の洗浄機構が不要になり、装置構成の複雑化、大型化を抑えることができる。
【0053】
また、排出手段として、排出口116bに向かって下降する傾斜面を底部116aの内面に形成しているので、電源をオフにして絶縁層120(底部116a)を撥水性に戻すことにより、フラッシングされたインク滴Iを傾斜面によって排出口116bに容易に流すことができる。
【0054】
また、電極部121aを、排出口116bに対してその周囲に連続的な線状に配置するとともに、排出口116bに遠い位置から近い位置にまで断続的に配置して第1電極121を構成しているので、底部116a上に着弾したインク滴Iは着弾位置の近傍にある電極部121a(第1電極121)に容易に接するようになる。したがって、電源がオンになるとインク滴Iは第1電極121によって帯電し、第2電極122によって異なる極性に帯電した絶縁層120に対する濡れ性が格段に高くなる。
【0055】
また、排出手段が、前記電極部121aからなる第1電極121に対して、排出口116bに遠い側の電極部121aから近い側の電極部121aに向かって、電圧が印加されている状態から順次非印加状態となるように、電源のオンオフを制御するように構成されており、したがって、排出口116bに遠い側の電極部121aと第2電極122との間から、近い側の電極部121aと第2電極122との間に向かって、電圧が印加されている状態から順次非印加状態となるように、電源による電圧制御がなされるようになっているので、制御機構106aによって前記した電圧制御を行うことにより、フラッシングされたインク滴Iを排出口116bに向けて容易に移動させ、排出口116bから排出することができる。
【0056】
また、本実施形態のプリンター(液体噴射装置)100にあっては、前記したように絶縁層120(底部116a)上に着弾したインク滴Iを濡れ拡がらせ、跳ね返りを抑制することができるフラッシングボックス116を有したメンテナンス機構(メンテナンス装置)105を備えているので、従来のような空気を吸引する機構が不要になり、装置構成の複雑化、大型化を回避することができる。また、前記フラッシングボックス116が、排出手段によってフラッシングされた液体を排出口116bに容易に流すことができるので、従来のような多孔質体の洗浄機構が不要になり、装置構成の複雑化、大型化を回避することができる。
【0057】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では第1電極を、連続した線状で正方形枠状の電極部121aによって形成したが、連続せずに破線状に断続して配置された正方形枠状の電極部によって形成してもよい。その場合には、断続して配置された個々の電極部に対し、それぞれ配線を接続することにより、連続した線状で正方形枠状に第1電極を形成した場合に比べ、インク滴の動きを細かく制御することができる。
また、電極部121aの形状についても、正方形枠状でなく、円形枠状など、フラッシングボックス(液体受け部)116の形状に対応して種々の形状が採用可能である。
【0058】
また、第1電極全体を、例えば図6の平面図に示すように、渦巻き状に連続して形成してもよい。このようにすれば、第1電極121に対する配線を一つにすることができ、構造を簡易にすることができる。
さらに、短い線状の電極部を図6に示したように渦巻き状に断続的に配置して、第1電極を形成してもよい。この場合には、各電極部毎に配線を形成することにより、インク滴を渦巻き状に流れさせることができ、フラッシングされたインク滴を排出口に向けてより良好に移動させ、排出することができる。
【符号の説明】
【0059】
100…プリンター(液体噴射装置)、105…メンテナンス機構(メンテナンス装置)、106…制御装置(制御部)、106a…制御機構、110…ヘッド(噴射ヘッド)、115…フラシング機構、116…フラッシングボックス(液体受け部)、116a…底部(液体受け面)、116b…排出口、120…絶縁層(絶縁部)、121…第1電極、121a…電極部、122…第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する噴射ヘッドのメンテナンス装置であって、
撥水性の絶縁部と前記絶縁部から露出して配置される第1電極とを含み、前記噴射ヘッドから噴射された前記液体を受ける液体受け面と、前記絶縁部により覆われる第2電極と、前記液体受け面に噴射された前記液体を外部に排出する排出口と、を有する液体受け部と、
前記第1電極と前記第2電極との間に印加する電圧を制御する制御部と、
を備えることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項2】
前記液体受け面は、前記液体受け部の底面に形成された前記排出口に向かって下降する傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載のメンテナンス装置。
【請求項3】
前記第1電極は、前記排出口に対してその周囲に連続的又は断続的な線状に配置されているとともに、前記排出口に遠い位置から近い位置にまで連続的に又は断続的に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のメンテナンス装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1電極および前記第2電極に対して、前記排出口に遠い側から近い側に向かって、前記電圧が印加されている状態から順次非印加状態となるように、前記電圧を制御することを特徴とする請求項3記載のメンテナンス装置。
【請求項5】
液体を噴射する噴射ヘッドと、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のメンテナンス装置と、
を備えることを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−196883(P2012−196883A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62534(P2011−62534)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】