説明

メンブレンリフレクタおよびその製造方法

【課題】温度変化による鏡面精度の劣化を抑制することのできるメンブレンリフレクタを提供すること。
【解決手段】本発明のメンブレンリフレクタは、多孔質鏡面部と、この多孔質鏡面部に接着剤を介して接着結合された結合部品とを備え、結合部品が接着結合される部分に対応した多孔質鏡面部の少なくとも接着結合面側に、樹脂が含浸されているので、結合部品との接着結合面周囲における多孔質鏡面部の孔への接着剤の浸透が防止される。含浸させる樹脂としては、接着剤と熱膨張係数が同等であるか、もしくは接着剤よりも熱膨張係数が小さいものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンブレンリフレクタおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人工衛星等の宇宙機器に搭載されるリフレクタとしては、様々なものが知られている。特に、軽量化を目的としたリフレクタとして、強化繊維からなる2軸織物または3軸織物を強化材として用いた薄膜複合材料で鏡面部を構成したメンブレンリフレクタがある。このメンブレンリフレクタは、少なくとも、反射面を有する鏡面部と、鏡面の非反射面側に配置される背面構造と、鏡面部および背面構造を結合する結合部品とから構成される。メンブレンリフレクタの鏡面部および結合部品は、多くの場合、接着剤により接着結合される。
【0003】
メンブレンリフレクタの鏡面部は、2軸織物または3軸織物によって構成されているため、面内方向および面外方向に空隙が存在する多孔質構造を有する。例えば、面内方向には、隣接する繊維束同士に隙間があるために空隙が存在する。また、面外方向には、繊維束の交差部近傍において一方の繊維束が他方の繊維束に乗り上げるために繊維束の厚み相当分の空隙が存在する。
【0004】
人工衛星等の宇宙機器に搭載されるメンブレンリフレクタには、軽量で且つ高剛性である性能とともに、運用軌道上における温度変化に対して所要の反射面形状を維持する性能が要求される。メンブレンリフレクタは、軌道上において約−180℃〜約+100℃の広範な温度範囲の条件下にさらされる。特に、日陰時には常温からの温度差が−200℃に達するため、熱膨張による鏡面部の変形により、反射面が反り変形を生じることになる。Ka帯等の高い周波数を利用するメンブレンリフレクタでは、このような軌道上での反射面の反り変形により性能が低下することになる。
【0005】
温度変化によるメンブレンリフレクタの鏡面精度劣化を抑制するために、これまで種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、反射面を有する鏡面部と、反射面の裏面側に接着結合されたバネ性を有する袋形状の結合部品と、結合部品の開口部に挿入される背面構造とを備えるメンブレンリフレクタが開示されている。このメンブレンリフレクタによれば、温度変化による鏡面精度の影響を低減することができるとされている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−217696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるメンブレンリフレクタでは、結合部品自体の熱膨張係数に起因する鏡面精度の劣化をある程度抑制することができるものの、メンブレンリフレクタ全体としての鏡面精度の劣化の抑制は未だ不十分である。
【0008】
従って、本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、温度変化による鏡面精度の劣化をより抑制することのできるメンブレンリフレクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来のメンブレンリフレクタの構成について検討した結果、多孔質鏡面部と結合部品との間に介在する接着剤が多孔質鏡面部の孔(空隙)に浸透し、接着剤が浸透した部分の熱膨張率が局所的に増大することにより、温度変化によって反射面の反りを発生させているものと考えた。つまり、多孔質鏡面部は、一般的に熱膨張係数が1ppm/℃以下であるのに対し、接着剤は、一般的に熱膨張係数が20〜50ppm/℃であるため、多孔質鏡面部において接着剤が浸透していない部分と接着剤が浸透した部分では、大きな熱膨張差が生じるためである。
そこで、本発明者は、結合部品との接着結合面周囲における多孔質鏡面部の孔へ接着剤を浸透させない手段について鋭意検討した結果、結合部品が接着結合される部分に対応した多孔質鏡面部の少なくとも接着結合面側に、樹脂を含浸させることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、多孔質鏡面部と、この多孔質鏡面部に接着剤を介して接着結合された結合部品とを備えるメンブレンリフレクタであって、結合部品が接着結合される部分に対応した多孔質鏡面部の少なくとも接着結合面側に、樹脂が含浸されていることを特徴とするメンブレンリフレクタである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、結合部品との接着結合面周囲における多孔質鏡面部の孔への接着剤の浸透が防止されるため、温度変化による鏡面精度の劣化をより抑制することのできるメンブレンリフレクタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るメンブレンリフレクタの構成を説明するための分解斜視図であり、図2は、本発明の実施の形態1に係るメンブレンリフレクタの構成を説明するための模式断面図である。図1および2において、本実施の形態1に係るメンブレンリフレクタは、3軸織物からなり、反射面を有する多孔質鏡面部1と、多孔質鏡面部1の反射面の裏面(接着結合面)側に配置され、多孔質鏡面部1に接着剤4を介して接着結合された結合部品2とを備えている。結合部品2が接着接合される部分に対応した多孔質鏡面部1の少なくとも接着結合面、つまり、結合部品2の接着結合面直下の多孔質鏡面部1には、樹脂3を含浸させることで、多孔質鏡面部1の孔(空隙)を目止めしている。このように多孔質鏡面部1の孔(空隙)を目止めしておくことで、メンブレンリフレクタを製造する際に、多孔質鏡面部1と結合部品2とが接着結合されるべき部分に接着剤4を塗布しても多孔質鏡面部1の孔への接着剤4の浸透が防止されるため、多孔質鏡面部1において熱膨張差を生じ難くすることができる。
【0013】
本発明における接着剤4としては、当該技術分野で公知のものを制限なく用いることができ、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤等が挙げられる。また、本発明における樹脂3としては、接着剤4と熱膨張係数が同等であるかまたは接着剤4よりも熱膨張係数が小さいものが好ましい。接着剤4と樹脂3との好ましい組み合わせとしては、例えば、エポキシ系接着剤とエポキシ樹脂との組み合わせが挙げられる。また、含浸させる樹脂3の粘度は、加圧によって多孔質鏡面部1の孔に樹脂3を含浸させることができる程度であることが好ましく、好ましくは20N・s/m2〜80N・s/m2であり、最も好ましくは50N・s/m2(500ポイズ)程度である。
【0014】
上記のように構成されたメンブレンリフレクタは、結合部品2の接着結合面直下の多孔質鏡面部1に樹脂3を含浸させることができるように、多孔質鏡面部1の結合部品2が接着結合される部分以外をマスキングし、次に、マスキングされていない部分に樹脂3を含浸させて多孔質鏡面部1の孔を目止めし、続いて、その目止めされた多孔質鏡面部1と結合部品2とを接着剤4を用いて接着結合することにより製造することができる。多孔質鏡面部1への樹脂3の含浸は、ボイド混入の回避という観点から、加圧により行うことが好ましい。
【0015】
実施の形態1によれば、結合部品2との接着結合面周囲における多孔質鏡面部1の孔への接着剤4の浸透が防止されるため、メンブレンリフレクタの温度変化による鏡面精度の劣化を抑制することができる。
【0016】
なお、実施の形態1では、多孔質鏡面部1として、3軸織物を使用した場合について説明したが、2軸織物等の当該技術分野で公知のものを使用しても同様の効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1に係るメンブレンリフレクタの構成を説明するための分解斜視図である。
【図2】実施の形態1に係るメンブレンリフレクタの構成を説明するための模式断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 多孔質鏡面部、2 結合部品、3 樹脂、4 接着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質鏡面部と、この多孔質鏡面部に接着剤を介して接着結合された結合部品とを備えるメンブレンリフレクタであって、
前記結合部品が接着結合される部分に対応した前記多孔質鏡面部の少なくとも接着結合面側に、樹脂が含浸されていることを特徴とするメンブレンリフレクタ。
【請求項2】
多孔質鏡面部と、この多孔質鏡面部に接着剤を介して接着結合された結合部品とを備えるメンブレンリフレクタの製造方法であって、
前記多孔質鏡面部の前記結合部品が接着結合される部分以外をマスキングした後、マスキングされていない部分に樹脂を含浸させて多孔質鏡面部の孔を目止めし、次に、目止めされた多孔質鏡面部と結合部品とを前記接着剤を用いて接着結合することを特徴とするメンブレンリフレクタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−16747(P2010−16747A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176783(P2008−176783)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】