説明

モニター可能な分光計測装置

【課題】 測定対象のモニターが可能な分光計測装置を小型化すること。
【解決手段】 モニター可能な分光計測装置は、測定対象Smから光学系30、スリット−ミラーブロック21のスリット部23を介して分光器本体25に到る第1の光路L1と、測定対象Smから光学系30、スリット−ミラーブロック21の鏡面22を介して2次元撮像装置40に到る第2の光路L2が設けられる。スリット部23と分光器本体25は一体となって分光部20を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光計測システムに関し、特に走査される測定部位周辺をモニターすることができる小型化された分光計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メラノーマ等の皮膚疾患を早期診断するために測定対象を走査しながら分光測定するシステムが知られている。関連する分光測定装置は分光器(第1光学機器)およびオートフォーカスコントローラ(第2光学機器)を備え、対物光学系の焦点付近にスリットミラーを配置し、スリットミラーの反射光が位置センサで検出されて対物光学系のオートフォーカス制御をするとともに、スリットを直進した透過光が分光器に入射して回折格子により分光測定される。測定対象を走査することにより測定対象における2次元の分光情報を得ることができる。また、スリットミラーの反射光の一部を用いて分光対象部分以外の測定対象を2次元カメラでモニターすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−289619号公報
【特許文献2】特開2001−208979号公報
【特許文献3】特開2004−145372号公報
【特許文献4】特開2007−086470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記関連技術においては、スリットミラー部を含む本体に独立した分光器を接続する構造を有し、スリットの透過光を光学系で再度集光した状態で測定位置を特定するために入射スリットを介してグレーティング等の分光器に入力する必要があった。そのため装置の全長が大きくなり走査装置も大がかりになるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記問題に鑑みて創案されたものであって、本発明によれば分光装置をコンパクトに構成することができるため走査装置も軽量化され測定部位の走査速度や操作性を向上させることができる。また2次元モニタ−画像において分光対象部分もリアルタイムで確認することができる。
【0006】
本発明の技術的側面によれば、モニター可能な分光計測装置は、測定対象から分光器本体に到る第1の光線を導く第1の光路および前記対象から二次元撮像装置に到る第2の光線を導く第2の光路が設けられ、前記第1の光路および前記第2の光路が通る光学系と、前記光学系を通った前記第1の光線を透過させかつ前記第2の光線を反射する反射ブロックであって、前記第1の光線以外の光線を反射する反射領域を備え、前記第1の光路における前記光学系の焦点面に位置づけられるスリット領域が前記反射領域に形成され、前記分光器本体が前記反射ブロックに隣接配置されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る分光計測システムの概念図である。
【図2】本発明に係る部分透過ブロックの概念図である。
【図3】本発明に係る分光計測システムのモニター表示の概念図である。
【図4】本発明に係る分光計測システムの周回衛星への搭載例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態について図1〜図4を参照して説明する。なお、本実施形態においては分光計測システム1は皮膚表面の所定領域を走査しながら分光計測する装置として説明する。また、図において方向はXYZ直交座標系で表現する。本発明の実施形態に係る分光計測システム1は光学系30、その焦点位置FLに光透過領域としてのスリット部23を有する反射ブロック21、スリット部23と一体となって1次元状に分布する分光測定領域Sfの分光計測を行う分光器本体25、分光結果を取得する2次元撮像装置28を具備する。
【0009】
分光計測装置1は図示しない走査装置に搭載され皮膚表面の測定領域TをカバーするようにX軸に平行なA方向に走査しながら計測を繰り返す。分光部20の瞬時測定領域に対応する分光測定領域Sfは1次元状の領域であり、その反射光(発光、蛍光を含む)は光学系30の光軸である光路L1に沿ってスリット部23で収束し透過して分光器本体25に到る。また、分光測定領域Sfの周辺領域Voからの反射光は、反射ブロック21の反射領域22で反射されて光路L2に沿って進み2次元撮像装置40の撮像面で結像する。
【0010】
図1においては、2次元撮像装置40で取得する2次元画像の測定領域Smおよび分光部20の分光測定領域Sfが走査により時間とともにA方向に移動する。
【0011】
また、光学系30は対物光学系を含み図示しないオートフォーカス機構により焦点位置FLがスリット部23の位置に維持されるように光軸方向に移動制御可能である。オートフォーカス機構は関連技術が利用可能であり、特許文献4の機構を適用する場合には測定領域Tで散乱したレーザー光を光路L2から分岐して位置センサ(図示せず)で検出することができる。
【0012】
<スリット−ミラーブロック>
光透過領域としてのスリット部23を含む反射ブロック21(以下スリット−ミラーブロックという。)は、後述する分光部25のスリットと観察光を二次元撮像装置40に向けて反射するミラーとを兼ねている。図2にはスリット−ミラーブロックの模式図を示す。スリット−ミラーブロック21は所定の屈折率を有するプリズムに光軸L1に対して斜めに横断するように反射領域が形成される。また、反射領域22は長形の開口を有する鏡面である。ブロックは典型的には直方体であり2つの三角プリズムを鏡面を挟んで貼り合わせて構成することができる。
【0013】
長形の開口がスリット部23でありプリズムと同一の屈折率をもつ材料で構成されるため透過光はスリット部23を直進する。またスリット部23の主軸はY軸方向に沿って配置される。なお接合面となる三角プリズムの一面を金属薄膜コーティングして鏡面薄膜を形成することにより反射領域22およびスリット部23を構成することもできる。
【0014】
光学系30の焦点位置FLが常にスリット部23に位置づけられるため、測定領域Smにおける特定の長形の領域である分光測定領域Sfの反射光のみがスリット部23を通過し、他の領域Voの反射光は反射領域22で反射されて光路L2に沿って進み2次元撮像装置40に結像する。また、平板ミラーの一部に透過部を形成して傾斜配置することにより一部透過部材となりうるが、透過部分が傾斜していることにより基板の厚さに依存して基板材料内で多重反射によるゴーストが発生すし正確な分光測定を行うことが困難になる。本実施例のスリット−ミラーブロック21により後述する分光器本体と一体化して小型で正確な分光測定をすることができ、また鏡面部分を挟む構造であるため機械的にも安定で信頼性が向上する。
【0015】
なお、本実施形態では鏡面22において光路が90度変更されるように構成したが、鏡面22の光軸L1に対して成す角度は45度に限定されず任意である。
【0016】
<分光部>
本発明にかかる分光部20はスリットとしてのスリット−ミラーブロック21とこれに隣接配置されグレーティング35を含む分光器本体25とから成る。グレーティング35は透過型でも反射型でもよい。
【0017】
スリット−ミラーブロック21のスリット部23の位置により測定領域Tの特定の1次元状の領域(分光測定領域)Sfが選択される。すなわち分光測定領域Sfは瞬時測定領域であり光学系30による実像がその焦点位置FLに形成され、スリット部23の実効幅δが分光測定領域SfのX方向の幅に対応する。
【0018】
スリット部23を透過した分光測定領域Sfの反射光はコリメータレンズ33により平行光束となりグレーティング35により分光測定領域SfのY軸方向の位置に応じて分光され、分光結果は集光光学系37を介して位置情報とスペクトル情報を反映した2次元画像として2次元撮像装置28で取得される。
【0019】
2次元撮像装置28の出力データはそのままモニターできるが、後述する測定領域Smのモニター画像と関連づけて保管される。
【0020】
<リアルタイムモニター>
二次元撮像装置40は2次元イメージセンサを有するエリアCCDカメラ等を含み、分光にかかる分光測定領域Sfの周辺領域である測定領域Smの2次元画像(以下モニター画像という。)を取得する。したがって、A方向(X軸方向)に皮膚表面を走査しつつ分光計測を行う場合に、常に測定領域Smの分光測定領域Sfを除く部分Voの2次元画像を取得することができる。図1、2において分光測定領域Sf以外の1点Voからの反射光の光束を破線で表している。
【0021】
走査により分光測定領域Sfが時間とともに移動するが、測定領域Smが表示されることにより現に測定対象となっている分光測定領域Sfのリアルタイムでの確認が容易となる。なお、2次元撮像装置40には分光測定領域Sfの反射光は到達せずモニター画像ではスリット部23の実像が黒く表示されるので分光測定領域Sfの位置を容易かつ正確に確認することができる。
【0022】
図3には改良された二次元撮像装置によるモニター画像表示の概念図を示す。前述したように分光にかかる分光測定領域Sfの部分画像はモニター画像には含まれず黒抜けの部分画像Bf1、Bf2として表される。もし、直前(t=t1)のモニター画像に分光測定領域Sfに対応する部分画像Df2が含まれている場合にはこれを欠損部分Bf2の対応部分にペーストするように画像処理することができる。
【0023】
モニター画像は図示しない画像処理部の蓄積装置(メモリ)に一時保管される。また、スリット部23に対応するモニター画像の画素範囲を特定することができるため、当該スリット部に対応する画像要素Df2(t=t1)で黒抜けの画像要素Bf2(t=t2,t1<t2)を置き換えることで欠損のないモニター画像Dm2’を構成することができる。
【0024】
その結果、図3(c)に例示するように、モニター画面には分光測定領域Sfに対応する部分Df2により補完した欠損のない画像Dm2’が表示され、さらに分光測定領域Sfの位置が確認できるように枠If2が表示される。したがって、図3において疾患等の特定領域Eがリアルタイムで2次元のモニター画像で確認できるとともに、分光測定領域との位置関係も容易に視認できる。
【0025】
なお、直前のモニター画像とは部分画像Df2が含まれる直近の画像であるが、これに限定されず部分画像Df2が含まれる複数の画像から合成してもよい。
【0026】
<変更実施形態>
本発明にかかる測定対象がモニター可能な分光計測システムは、飛翔体等に搭載してリモートセンシングに利用することが可能である。図4には惑星等の天体を周回する周回衛星50に本発明の分光計測システム1を搭載した例を示す。分光測定領域Sfはスリット部23からみた測定対象表面における瞬時視野(IFOV)に対応し、周辺の測定領域Smはモニター画像を取得する2次元撮像装置40に搭載された2次元イメージセンサ(CCD等)の瞬時視野に対応する。
【0027】
この場合には光学系(望遠鏡)30のオートフォーカス制御や走査機構は不要である。スリット部の主軸方向(Y軸方向)は周回衛星50の飛翔方向(走査方向)Aに垂直となるように設定される。本発明にかかる分光計測システム1はスリットミラーによる部分透過機構21と分光器本体25を一体化したことにより小型化を図ることができ、またスリット−ミラーブロック21の採用により正確かつ安定した分光計測を行うことができるため、軽量化と高い信頼性が要求される飛翔体への搭載が可能である。
【0028】
また、2次元撮像装置40はリアルタイムモニターが可能であるが、所定の容量を有する画像蓄積装置を備えることにより分光計測画像とモニター画像とを関連づけて一時保管することができる。分光計測時に一連の画像データを保管し、計測完了後に所定の画像データを地上局に送信してもよい。この場合には、地上で一連の計測データを受信した後に、スリット部23に対応する画像要素Df2により黒抜けの画像要素Bf2を置き換えて欠損のないモニター画像Dm2’を構成してもよい。
【0029】
発明の効果
以上のように、本発明によれば、スリット−ミラーブロックと分光器本体を一体化して分光部を構成することにより装置を小型かつ軽量に構成することができる。また、反射領域およびスリット部をブロックと一体に構成したことによりスリット部における多重反射の影響がなく、かつ強度や信頼性が向上する。
【0030】
スリット−ミラーブロックを介してモニター画像を取得することができるのでリアルタイムで分光測定領域の位置を確認することができる。さらに、直前のモニター画像を利用して分光測定領域の画像を補完することにより、リアルタイムで分光測定領域の位置及び画像を容易に視認することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 分光計測システム
20 分光部
21 スリット−ミラーブロック
22 反射領域
23 スリット部
25 分光器本体
28 2次元撮像装置
30 光学系
FL 焦点位置
35 グレーティング
40 2次元撮像装置
T 測定対象(走査領域)
A 走査方向
Sm 測定領域
Sf 分光測定領域(瞬時測定領域)
50 周回衛星(飛翔体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モニター可能な分光計測装置であって、測定対象から分光器本体に到る第1の光線を導く第1の光路および前記対象から二次元撮像装置に到る第2の光線を導く第2の光路が設けられ、
前記第1の光路および前記第2の光路が通る光学系と、
前記光学系を通った前記第1の光線を透過させかつ前記第2の光線を反射する反射ブロックであって、
前記第1の光線以外の光線を反射する反射領域を備え、
前記第1の光路における前記光学系の焦点面に位置づけられるスリット領域が前記反射領域に形成されるものとを具備し、
前記分光器本体が前記反射ブロックに隣接配置されることを特徴とするモニター可能な分光計測装置。
【請求項2】
前記反射ブロックの前記反射領域以外の屈折率が均一であることを特徴とする請求項1記載のモニター可能な分光計測装置。
【請求項3】
前記分光器本体の分光測定データおよび2次元モニターの画像データを関連づけて一時保管する蓄積装置をさらに具備することを特徴とする請求項1又は2記載のモニター可能な分光計測装置。
【請求項4】
前記スリット領域に対応する前記2次元モニターの画像データを前記測定対象の過去の画像データに基づいて補完する画像処理装置をさらに具備することを特徴とする請求項3記載のモニター可能な分光計測装置。
【請求項5】
前記光学系は光軸方向に移動可能な対物光学系を含み、前記測定対象に対してオートフォーカス制御されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のモニター可能な分光計測装置。
【請求項6】
測定対象に対して飛翔移動する飛翔体に搭載され、飛翔方向に走査しながら測定対象の分光測定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のモニター可能な分光計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−98050(P2012−98050A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243381(P2010−243381)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(390013033)三鷹光器株式会社 (114)
【Fターム(参考)】