説明

モノアシルグリセロール高含有油脂の製造方法

【課題】リパーゼ活性を損なうことなく高純度のモノアシルグリセロールを効率良く製造する方法を提供すること。
【解決手段】脂肪酸又はその低級アルキルエステルとグリセリンを、固定化担体の単位表面積あたりのエステル化活性が100〜140000U/m2である固定化部分グリセリドリパーゼの存在下で反応させるモノアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノアシルグリセロール高含有油脂を効率良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノアシルグリセロール(以下、「モノグリセリド」又は「モノグリセライド」と記載することもある)は、乳化剤や抗菌剤等として食品、医薬品、化粧品等の分野に広く利用され、最近、モノアシルグリセロールの優れた生理活性に着目した食品が注目されている。このモノアシルグリセロールを得るため、脂肪酸又は脂肪酸メチルとグリセリンを反応させる方法、あるいは油脂とグリセリンを、高温下で金属触媒を添加して化学反応させる方法が用いられている。
【0003】
脂肪酸を原料として用いるモノアシルグリセロールの製造法として、エステル化法、エステル交換法又はグリセロリシス法等が挙げられる。
例えば、部分グリセリドリパーゼの存在下、脂肪酸又はその低級アルキルエステルとグリセロールとを反応させるモノグリセライドとジグリセライドの混合物の製造方法(特許文献1)が知られている。
また、Penicillium camembertii モノ及びジグリセリドリパーゼの存在下、共役リノール酸に対してモル比で3倍以上の過剰量のグリセリンを使用し、5℃で反応させるモノグリセリドの製造方法(特許文献2)が知られている。
【0004】
一方、炭酸カルシウムに固定化したPseudomonas sp.由来リパーゼの存在下、高度不飽和脂肪酸に対してモル比で30倍以上のグリセリンを使用し、反応させるモノグリセリドの製造方法(特許文献3)が知られている。
【0005】
そこで、脂肪酸とグリセリンを反応させてモノアシルグリセロール高含有油脂を効率よく製造する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−181390号公報
【特許文献2】特許第3970669号公報
【特許文献3】特許第3861941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来技術のうち、金属触媒を用いる化学反応は200℃以上の高温であるため、原料に不飽和脂肪酸を多く含む場合には劣化が生じ易い点、また、金属触媒の完全除去が困難である点等から、その適用が問題とされてきた。また、前記部分グリセリドリパーゼを用いる技術(特許文献1)では、反応の進行と共にモノアシルグリセロール濃度(モノアシルグリセロール/原料)は低下するので、モノアシルグリセロールの純度を上げるためにはエステル化反応の後に精留等の精製工程が必要となり、製造効率の点で課題がある。更に、前記モノ及びジグリセリドリパーゼを用いる技術(特許文献2)では、リパーゼの至適温度ではない低温で行われるため反応効率が良くない。また、炭酸カルシウムに固定化したリパーゼを用い脂肪酸に対してモル比で30倍以上のグリセリンを使用する技術(特許文献3)では、モノグリセリド濃度は16.7%に過ぎない。
【0008】
本発明は、脂肪酸とグリセリンを原料とし、リパーゼ活性を損なうことなくモノアシルグリセロールを効率良く製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、脂肪酸又はその低級アルキルエステルとグリセリンを固定化酵素である固定化部分グリセリドリパーゼを用いて反応させる際、意外にも酵素固定化用担体(以下、固定化担体とも云う。)の量に対して部分グリセリドリパーゼの使用割合を多くして調製した固定化部分グリセリドリパーゼではモノアシルグリセロールの生産効率が低くなるのに対し、固定化担体の量に対して部分グリセリドリパーゼの使用割合を少なくするとモノアシルグリセロールの生産効率が高まることを見出した。更には、固定化担体の表面積がモノアシルグリセロールの生産効率に関与していることも見出し、固定化担体の単位面積あたりのエステル化活性が特定範囲となるように調製された固定化部分グリセリドリパーゼの存在下で反応させると、高い反応率で高純度のモノアシルグリセロールを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、脂肪酸又はその低級アルキルエステルとグリセリンを、固定化担体の単位表面積あたりのエステル化活性が100〜140000U/m2である固定化部分グリセリドリパーゼの存在下で反応させるモノアシルグリセロール高含有油脂の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のモノアシルグリセロール高含有油脂の製造方法によれば、高純度のモノアシルグリセロールが効率良く得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明で使用する固定化部分グリセリドリパーゼは、部分グリセリドリパーゼが固定化担体に固定化されたものである。本発明において、固定化担体の単位表面積あたりのエステル化活性(以下「A値」と記載する)は、平均粒径の分かっている担体にリパーゼを固定化してエステル化活性を測定し、当該測定に用いた固定化部分グリセリドリパーゼの質量、及び担体の平均粒径から求めた担体の単位質量あたりの比表面積から、次の式(1)に従って求める。
【0013】
A〔U/m2〕=固定化リパーゼのエステル化活性〔U〕/(固定化担体比表面積〔m2/g〕×固定化リパーゼ質量〔g〕)・・・式(1)
【0014】
本発明においては、式(1)中の固定化リパーゼのエステル化活性〔U〕は、脂肪酸とグリセリンを合計で100g、脂肪酸/グリセリンをモル比0.6で混合し、これに固定化リパーゼを乾燥質量基準で5g加え、40℃、400Paで60分間攪拌後の脂肪酸濃度を測定し、1分間あたりに減少した脂肪酸のμモル数として定義する。ここで、固定化リパーゼ中、固定化担体の質量に対するリパーゼの質量は極めて小さいため、固定化担体の質量≒固定化リパーゼの質量とする。本発明においては、前記により測定したA値が100〜140000U/m2の範囲のものである。このA値は、反応速度を向上させつつジアシルグリセロールを副生させず、効率的にモノアシルグリセロール高含有油脂を得る点から好ましくは200〜70000U/m2、更に500〜30000U/m2、特に1500〜10000U/m2が好ましい。
【0015】
本発明において用いる固定化部分グリセリドリパーゼのエステル化活性は、効率的にモノアシルグリセロール高含有油脂を得る点から5〜8000U、更に10〜4000U、特に50〜2000U、殊更200〜1200Uが好ましい。
【0016】
本発明において用いる固定化部分グリセリドリパーゼに使用する固定化担体の比表面積は、固定化担体1gあたりの表面積であり、効率的にモノアシルグリセロール高含有油脂を得る点から0.0027〜0.536m2/g、更に0.0045〜0.268m2/g、特に0.0077〜0.179m2/g、殊更0.0107〜0.134m2/gが好ましい。当該比表面積は、固定化担体を篩によって分級し平均粒子径を求め、担体の形状が球状、真比重を1.12g/cm3と仮定して算出することができる。
【0017】
本発明で使用する部分グリセリドリパーゼは、モノアシルグリセロール及びジアシルグリセロールの部分グリセリドを加水分解するが、トリアシルグリセロールを加水分解し難いリパーゼである。
部分グリセリドリパーゼとしては、ラット小腸、ブタ脂肪組織などの動物臓器由来のモノグリセリドリパーゼ又はジグリセリドリパーゼ;バチルス・スピーシーズ(Bacillus sp.)H−257由来モノグリセリドリパーゼ(J. Biochem., 127, 419-425, 2000)、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)LP7315由来モノグリセリドリパーゼ(Journal of Bioscience and Bioengineering, 91(1), 27-32, 2001)、ペニシリウム・サイロピウム由来リパーゼ(J. Biochem, 87(1), 205-211, 1980)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii)U−150由来リパーゼ(J. Fermentation and Bioengineering, 72(3), 162-167, 1991)等が挙げられる。市販品としては、例えば「モノグリセライドリパーゼ(MGLPII)」(旭化成社)、「リパーゼG「アマノ」50」(天野エンザイム社)等がある。
【0018】
本発明で使用する固定化担体は、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体;セルロースパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子の担体等が挙げられるが、特にイオン交換樹脂が、保水力の点で好ましい。固定化担体の形状としては、特に限定されないが、粒子状、粉末状、顆粒状、繊維状、スポンジ状等が挙げられる。
【0019】
担体の粒子径は10〜2000μm、更に20〜1200μm、特に30〜700μm、殊更40〜500μmが好ましく、細孔径は10〜150nm、更に10〜100nmが好ましい。
イオン交換樹脂としては、多孔性の陰イオン交換樹脂が好ましい。樹脂の材質としては、フェノールホルムアルデヒド系、ポリスチレン系、アクリルアミド系、ジビニルベンゼン系等が挙げられる。特にフェノールホルムアルデヒド系樹脂(商品名Rohm and Hass社製Duolite A−568)がリパーゼ吸着性向上の点から好ましい。
【0020】
本発明では、高活性を発現するような吸着状態にするため、酵素の固定化の前処理として、固定化担体を脂溶性脂肪酸又はその誘導体で処理することが好ましい。またこれらは単一で用いてもよいが、2種以上を組み合わせることで一層の効果が発揮される。これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体と固定化担体の接触法としては、水又は有機溶剤中にこれらをそのまま加えてもよいが、分散性を良くするため、有機溶剤に脂溶性脂肪酸又はその誘導体を一旦分散・溶解させた後、水に分散させた固定化担体に加えてもよい。この有機溶剤としては、クロロホルム、ヘキサン、エタノール等が挙げられる。脂溶性脂肪酸又はその誘導体と固定化担体の比率は、固定化担体1質量部(乾燥質量)に対し、脂溶性脂肪酸又はその誘導体0.01〜1質量部、特に0.05〜0.5質量部が好ましい。接触温度は、0〜80℃、特に20〜60℃が好ましい。接触時間は、5分〜5時間程度でよい。本処理後濾過して固定化担体を回収するが、この時乾燥してもよい。乾燥温度は室温〜80℃が良く、減圧乾燥を行ってもよい。
【0021】
この固定化担体の前処理に用いられる脂溶性脂肪酸としては、炭素数4〜24の直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の、水酸基が置換していてもよい脂肪酸が挙げられる。好ましい脂溶性脂肪酸としては、炭素数8〜18の脂肪酸、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等の直鎖飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、リシノール酸等のヒドロキシ脂肪酸、イソステアリン酸等の分岐脂肪酸が挙げられる。脂溶性脂肪酸誘導体としては、炭素数8〜18の脂肪酸と水酸基を有する化合物とのエステルが挙げられ、1価アルコールエステル、多価アルコールエステル、リン脂質、あるいはこれらのエステルに更にエチレンオキサイドを付加した誘導体等が例示される。1価アルコールエステルとしては、メチルエステル、エチルエステル等が、多価アルコールエステルとしては、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、及びそれらの誘導体、あるいはポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体は、いずれも常温で液状であることが工程上望ましい。また、これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体としては、上記脂肪酸の混合物、例えば大豆脂肪酸などの天然由来の脂肪酸を用いることもできる。
【0022】
本発明の固定化部分グリセリドリパーゼは、一般的な固定化酵素の製造方法にて調製することができるが、例えば、固定化担体として、Duolite A−568(Rohm & Hass社製)を用いて、固定化担体に水酸化ナトリウム水溶液を加えて攪拌しながらアルカリ処理、緩衝液を加えて攪拌しながらpH調整、エタノールで置換後、脂肪酸を加えて攪拌しながら脂溶性脂肪酸又はその誘導体による前処理を行った後、リパーゼを加えて攪拌しながら固定化、さらに大豆脂肪酸を加えて油置換することにより固定化酵素を得る方法や上記固定化担体に部分グリセリドリパーゼ溶液を加えて攪拌することにより該固定化担体に該部分グリセリドリパーゼを吸着固定し、次いで該部分グリセリドリパーゼ溶液から不溶性担体を濾過し、イオン交換水又は緩衝液を用いて洗浄する方法等が挙げられる。該酵素は、必要に応じて精製したり、予め水や緩衝溶液等の水性媒体に分散又は溶解して用いてもよい。
【0023】
このとき用いる部分グリセリドリパーゼの量は、効率的にモノアシルグリセロール高含有油脂を得る点から固定化担体100質量部に対して、部分グリセリドリパーゼとしてリパーゼG「アマノ」50(50000u/g以上)を用いた場合、0.1〜500質量部、更に1〜200質量部、特に5〜100質量部、殊更10〜80質量部とすることが好ましい。なお、ここでいうu数は、LV乳化法によって、1分間に1μモルの脂肪酸の増加をもたらす酵素量を1単位[u]とする。LV乳化法とは、ラウリン酸ビニルの乳化液にリパーゼを作用(pH5.6、40℃にて30分間)させ、エタノール/アセトン混合溶媒で反応を停止し、水酸化ナトリウムで生成脂肪酸を中和後、残存する水酸化ナトリウムを塩酸で滴定することで、生成脂肪酸を定量してu数を求める方法である。
【0024】
なお、部分グリセリドリパーゼの固定化温度は、酵素の失活の起きない温度であればよく、0〜60℃、特に5〜30℃が好ましい。また固定化に用いる酵素水溶液のpHは、酵素の変性が起きないような範囲であればよく、pH3〜9が好ましい。特に至適pHが酸性とされているリパーゼを用いる場合に最大の活性を得るには、pH4〜6とするのがよい。また酵素水溶液に用いる緩衝液としては、一般的な酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等を用いることができる。
【0025】
本発明のモノアシルグリセロールを製造するための原料として用いる脂肪酸としては、炭素数4〜22の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく、例えば酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ゾーマリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ガドレン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等を用いることができる。また上記脂肪酸とエステルを形成する低級アルコールとしては、炭素数1〜3の低級アルコール類が好ましい。炭素数1〜3の低級アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどが挙げられる。これらの脂肪酸又はその低級アルキルエステル(以下、単に「脂肪酸等」と記載する)は、2種以上を併用することもできる。また、上記脂肪酸の混合物、例えば大豆脂肪酸などの天然由来の脂肪酸を用いることもできる。
【0026】
固定化部分グリセリドリパーゼの存在下での脂肪酸等とグリセリンのエステル化反応は、固定化部分グリセリドリパーゼと原料(脂肪酸等とグリセリン)を接触させればよく、接触手段としては、浸漬、攪拌、該固定化酵素を充填したカラムにポンプ等で通液すること等が挙げられる。攪拌する場合には、効率的にモノアシルグリセロール高含有油脂を得る点から、30〜1000r/minが好ましく、更には100〜700r/minが好ましい。
【0027】
本発明において用いる固定化部分グリセリドリパーゼは、効率的にモノアシルグリセロール高含有油脂を得る点から、固定化担体の粒径範囲に応じて次のようにエステル化活性〔U〕を設定することが好ましい。即ち、固定化担体の粒子径が20〜100μmでは、エステル化活性は50〜8000U、更に200〜4000U、特に500〜2000Uであることが好ましく、固定化担体の粒子径が100〜400μmでは、エステル化活性は10〜4000U、更に50〜2000U、特に200〜1200Uであることが好ましく、固定化担体の粒子径が400〜1200μmでは、エステル化活性は5〜2000U、更に10〜1200U、特に50〜800Uであることが好ましい。
【0028】
この反応において、脂肪酸等とグリセリンの反応モル比R〔R=脂肪酸等(mol)/グリセリン(mol)〕は、0.2〜1.5が好ましく、更には0.3〜1.35、特に0.4〜1.2であるのが好ましい。また、脂肪酸等とグリセリンを合計した原料100質量部に対し、前記固定化部分グリセリドリパーゼを0.1〜50質量部添加することが好ましく、更に0.5〜40質量部、特に2.5〜30質量部、殊更5〜25質量部とすることが、反応速度を向上させ、効率的にモノアシルグリセロール高含有油脂を得る点から好ましい。
【0029】
上記エステル化反応の反応温度は、反応速度を向上する点、酵素の失活を抑制する点から0〜100℃、更に10〜80℃、特に20〜70℃が反応性の点で好ましい。また反応時間は工業的な生産性の観点から、1〜200時間が好ましく、更には2〜150時間が好ましい。また、適宜圧力の調整を行なってもよく、該圧力条件は、効率的にモノアシルグリセロール高含有油脂を得る点から、10〜10000Paが好ましく、更には100〜1000Paが好ましい。
【0030】
また、効率的にモノアシルグリセロール高含有油脂を得る点から、反応生成水を反応系外に除去しながら行われることが好ましい。例えば、リパーゼ製剤に含まれる水分を除き、実質的に無水条件下で行われ、エステル化反応により生成した反応生成水は、減圧;ゼオライト、モレキュラーシーブス等の吸収剤の利用;反応槽中への乾燥した不活性ガスの通気等の方法により、系外に除去される。
【0031】
本発明方法によれば、グリセリンと脂肪酸等を原料として、トリアシルグリセロールをほとんど生成せず、かつジアシルグリセロールの生成を抑制しつつ、できるだけ高い反応率でモノアシルグリセロール高含有油脂を製造することができる。得られたモノアシルグリセロール高含有油脂は、少なくともモノアシルグリセロール濃度40質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上、更に60質量%以上、特に70質量%以上、殊更75質量%以上であることが好ましい。なお、該モノアシルグリセロール濃度は、モノアシルグリセロール/(モノアシルグリセロール+ジアシルグリセロール+トリアシルグリセロール)×100(質量%)で求めることができる。また、エステル化反応後のモノアシルグリセロール含有油脂の歩留は、エステル化反応を進行させて、脂肪酸濃度を低く、モノアシルグリセロールの含有量を高くする点から30質量%以上であることが好ましく、更に40質量%以上、特に50質量%以上、殊更60質量%以上であることが好ましい。ここで、モノアシルグリセロール含有油脂の歩留は、エステル化反応油中のモノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールの質量%の合計で求めることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0033】
〔分析方法〕
(i)酸価の測定
日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「酸価(2.3.1−1996)」に従って、試料1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数を求めた値いう。
【0034】
(ii)脂肪酸組成の測定
日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.2−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f-96(GLC法)に従って測定した。
【0035】
(iii)脂肪酸濃度の測定
前記方法により測定した酸価及び脂肪酸組成を用い、油脂製品の知識(株式会社 幸書房)に従って、次式(1)により求めた。
脂肪酸濃度(質量%)=x×y/56.1/10 (1)
(x=酸価[mgKOH/g]、y=脂肪酸組成から求めた平均分子量)
【0036】
(iv)グリセリド組成の測定
遠心分離が可能な試験管に反応終了油のサンプルを約3g採取し、3000r/minで10分間遠心分離を行い、沈降したグリセリンを除去した。次いで、ガラス製サンプル瓶に、上層を約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.5mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して、グリセリド組成の分析を行った。
【0037】
(v)固定化酵素の乾燥重量比率の測定
油分及び水分の付着した固定化酵素a質量部に対し10質量倍のヘキサン及びアセトンで交互に各3回ずつ洗浄後、70℃で15時間放置することにより脱溶剤し、固定化酵素のみの質量を秤量し(b質量部)、下記式より固定化担体100質量部に対する質量比として求めた。
固定化酵素の乾燥重量比率=b/a×100(%)
(a:油分及び水分の付着した固定化酵素質量、b:固定化酵素質量)
【0038】
〔固定化リパーゼ1の調製〕
Duolite A−568(Rohm & Hass社製、平均粒径480μm、以下同じ)50gを0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液500mL中で、1時間攪拌した。その後、500mLの蒸留水で1時間洗浄し、500mMの酢酸緩衝液(pH5)500mLで、2時間pHの平衡化を行った。その後50mMの酢酸緩衝液(pH5)500mLで2時間ずつ2回、pHの平衡化を行った。この後、濾過を行い、担体を回収した後、エタノール250mLでエタノール置換を30分間行った。濾過した後、大豆脂肪酸を50g含むエタノール250mLを加え30分間、大豆脂肪酸を担体に吸着させた。この後濾過し、担体を回収した後、50mMの酢酸緩衝液(pH5)500mLで4回洗浄し、エタノールを除去し、濾過して担体を回収した。その後、部分グリセリドリパーゼであるリパーゼG「アマノ」50(天野エンザイム(株)、以下同じ)50gを50mMの酢酸緩衝液(pH5)400mLに溶解したリパーゼ溶液と2時間接触させ、固定化を行った。さらに、濾過し固定化リパーゼを回収して、50mMの酢酸緩衝液(pH5)500mLで洗浄を行い、固定化していないリパーゼや蛋白を除去した。以上の操作はいずれも温度20℃で行った。その後、大豆脂肪酸500gを加え、温度40℃で攪拌しながら、圧力400Paに達するまで減圧して脱水し、固定化リパーゼ1を得た。
【0039】
〔固定化リパーゼ2〜4の調製〕
リパーゼG「アマノ」50の使用量を5、25、100gとした以外は固定化リパーゼ1と同様の方法により処理し、固定化リパーゼ2〜4を得た。
【0040】
〔固定化リパーゼ5の調製〕
Duolite A−568 500gをすり潰し、63μm及び38μmの篩で分級して得た平均粒径51μmの固定化担体を用いた以外は固定化リパーゼ1と同様の方法により処理し、固定化リパーゼ5を得た。
【0041】
Duolite A−568 500gをすり潰し、250μm及び150μmの篩で分級して得た平均粒径200μmの固定化担体を用いた以外は固定化リパーゼ1と同様の方法により処理し、固定化リパーゼ6を得た。
【0042】
〔固定化リパーゼ7〜10の調製〕
リパーゼを1,3位選択性リパーゼであるリリパーゼA−10FG(ナガセケムテックス(株))とし、使用量を5、25、50、100gとした以外は固定化リパーゼ1と同様の方法により処理し、固定化リパーゼ7〜10を得た。
【0043】
〔固定化リパーゼ11の調製〕
Duolite A−568 20gを0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液200mL中で、1時間攪拌した。その後、200mLの蒸留水で1時間洗浄し、500mMのリン酸緩衝液(pH7)200mLで、2時間pHの平衡化を行った。その後50mMのリン酸緩衝液(pH7)200mLで2時間ずつ2回、pHの平衡化を行った。この後、濾過を行い、担体を回収した後、エタノール100mLでエタノール置換を30分間行った。濾過した後、大豆脂肪酸を20g含むエタノール100mLを加え30分間、大豆脂肪酸を担体に吸着させた。この後濾過し、担体を回収した後、50mMのリン酸緩衝液(pH7)100mLで4回洗浄し、エタノールを除去し、濾過して担体を回収した。その後、非選択性リパーゼであるリパーゼAY「アマノ」30G(天野エンザイム(株))20gを50mMのリン酸緩衝液(pH7)400mLに溶解したリパーゼ溶液と4時間接触させ、固定化を行った。さらに、濾過し固定化リパーゼを回収して、50mMのリン酸緩衝液(pH7)100mLで洗浄を行い、固定化していないリパーゼや蛋白を除去した。以上の操作はいずれも温度20℃で行った。その後、脱臭大豆油100gを加え、温度40℃、10時間攪拌した後、濾過して脱臭大豆油と分離し、固定化リパーゼ11を得た。
【0044】
〔原料脂肪酸〕
反応原料として用いた脂肪酸は、油水向流式の高圧熱水型分解装置によって油脂を加水分解反応することにより得た。大豆油を高圧熱水型分解装置の下側から、水を装置の上側からそれぞれ連続的に送液した。送液量は、原料油脂100質量部に対して水50質量部とした。この時、分解塔内の平均滞留時間(hr)(塔容積(m3)/(原料油の流量(m3/hr)+水の流量(m3/hr)))は約4hrであった。装置の中で原料油脂は高圧熱水(5.0MPa、240℃)により加熱された。油水向流式の高圧熱水型分解装置の途中にあるサンプリング口から反応液を採取し、窒素シールし、遮光状態で25℃まで冷却した。その後、遠心分離(5,000g,30分)し、水層を除去後、脂肪酸層を温度70℃、真空度400Paで30分間減圧脱水し、原料脂肪酸Xを得た。また、原料脂肪酸Xを、ワイプトフィルム蒸発装置(神鋼パンテック社 2−03型、内径5cm、伝熱面積0.03m2)を用い、加熱ヒーター温度230℃、圧力2Pa、流量150ml/hrの操作条件で蒸留し、原料脂肪酸Yを得た。それぞれのグリセリド組成を表1に示す。ここで、FFAは遊離脂肪酸、GLYはグリセリン、MAGはモノアシルグリセロール、DAGはジアシルグリセロール、TAGはトリアシルグリセロールである(以下同じ)。
【0045】
【表1】

【0046】
〔固定化リパーゼのエステル化活性〕
三日月羽根をセットした300mlの4ツ口フラスコに、表1に示した原料脂肪酸100g及びエステル化原料に対して固定化リパーゼを乾燥質量基準で5g仕込み、温度40℃、攪拌400rpm、圧力400Paで30分間減圧脱水した。その後、原料脂肪酸で3回洗浄した。その後、原料脂肪酸を加え、次にグリセリンを加えて反応を開始し、真空ポンプで減圧にした。エステル化反応は温度40℃、攪拌400rpm、圧力400Paで行った。原料脂肪酸とグリセリンの合計を100g、FFA/GLYのモル比を0.6とした。60分後の反応液をサンプリングし、脂肪酸濃度の値からエステル化活性を算出した。なお、各原料脂肪酸の脂肪酸組成から算出した平均分子量は、原料脂肪酸X及びYのいずれも279であった。調製した固定化リパーゼの調製条件及び物性値を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
〔エステル化反応1〜18〕
三日月羽根をセットした300mlの4ツ口フラスコに、表3に示したX又はYのいずれかの原料脂肪酸100g及び固定化リパーゼを乾燥質量基準で表3に示す量仕込み、温度40℃、攪拌400rpm、圧力400Paで30分間減圧脱水した。その後、原料脂肪酸で3回洗浄した。その後、原料脂肪酸を加え、次に攪拌しながらグリセリンを加えて反応を開始し、真空ポンプで減圧にした。エステル化反応は温度40℃、攪拌400rpm、圧力400Paで行い、原料脂肪酸とグリセリンの合計を100g、表3に示したFFA/GLYのモル比とした。表3に示す反応時間で反応液をサンプリングし、グリセリド組成を求めた。
【0049】
〔エステル化反応19〜24〕
三日月羽根をセットした300mlの4ツ口フラスコに、表3に示した原料脂肪酸(X)、グリセリンを加えて攪拌を開始し、表4に示した量の粉末リパーゼGを添加した。エステル化反応は温度40℃、攪拌400rpm、表4に示す圧力で行い、減圧の場合は真空ポンプを用いた。原料脂肪酸とグリセリンの合計は100g、表4に示したFFA/GLYのモル比とした。表4に示す反応時間で反応液をサンプリングし、グリセリド組成を求めた。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
表3及び4より、本発明で規定するA値を有する固定化部分グリセリドリパーゼを使用したエステル化反応3〜5及び9〜15は、いずれも高いMAG濃度となったが、リパーゼ種、A値、固定化のいずれか1以上の要件を満たさないものにおいては、MAG濃度を高くすることはできなかった。
【0053】
(I)リパーゼ種の影響
エステル化反応1〜3及び16〜18の比較により、固定化リパーゼを用いたエステル化反応において、部分グリセリドリパーゼであるリパーゼGを固定化したものは1,3位選択性リパーゼであるリリパーゼや非選択性リパーゼであるリパーゼAYを固定化したものと比べて、最もMAG濃度が高くなった。また、リリパーゼを用いたものは、A値を本発明規定の範囲内としてもMAG濃度を高くすることはできなかった(エステル化反応16〜18)。
【0054】
(II)A値の影響
エステル化反応3〜15の比較から、固定化部分グリセリドリパーゼを用い、本発明で規定するA値の範囲内の固定化部分グリセリドリパーゼを用いて行ったエステル化反応においては、いずれもMAG濃度が高くなったが、A値が上限を超えるものを用いた場合にはMAG濃度を高くすることはできず、酵素濃度を低くしても同様であった(エステル化反応6〜8)。また、A値が高いほど反応速度は速くなるが、同時にDAGが副生してくる傾向であった(エステル化反応8、9及び13)。更に、エステル化反応原料仕込比をFFA/GLY=0.2とすると、MAG濃度はより高くなるが、反応系内にグリセリンが多くなるため歩留の点では不利であった(エステル化反応3〜5。なお、表3及び4に示した反応終了油のグリセリド組成は、前記「グリセリド組成の測定」に記載した通り、反応終了油をサンプリングして遠心分離し、沈降した未反応のグリセリンを除去した後に測定しているため、グリセリン量は反応終了油に溶解したもののみが測定されている。従って、反応終了油中にグリセリンと親和性の高いMAGの量が多くなるほど、グリセリンは実際よりも多く測定されることとなる。実際に「反応系内にグリセリンが多く」なっているのはエステル化反応番号4であり、仕込み原料100g中のグリセリン62%に対して、遠心分離で沈降し除去したグリセリンは52%であった。)。
また、担体粒径をより小さくし、固定化担体の表面積を大きくすると、反応時間の短縮とMAGの高濃度化を両立することができ、特に担体粒径を200μm以下とした場合に効果が高かった(エステル化反応10及び11)。更に、A値の低い固定化部分グリセリドリパーゼを高濃度で用いると、同様に反応時間の短縮とMAGの高濃度化を両立することができた(エステル化反応12及び13)。この際、エステル化反応原料仕込比をFFA/GLY=1.0としても歩留まりの高さとMAG濃度の高さを両立でき(エステル化反応14と15の比較)、また原料脂肪酸の脂肪酸濃度が高いほどMAG濃度が高くなった(エステル化反応12と14の比較)。
【0055】
(III)リパーゼ固定化の影響
固定化していない粉末の部分グリセリドリパーゼを用いて行ったエステル化反応19〜24においては、減圧条件、常圧条件のいずれにおいても、高MAG濃度と高歩留の両立ができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸又はその低級アルキルエステルとグリセリンを、固定化担体の単位表面積あたりのエステル化活性が100〜140000U/m2である固定化部分グリセリドリパーゼの存在下で反応させるモノアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。
【請求項2】
脂肪酸又はその低級アルキルエステルとグリセリンとの反応モル比R〔R=脂肪酸又はその低級アルキルエステル(mol)/グリセリン(mol)〕が、0.2〜1.5である請求項1に記載のモノアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。
【請求項3】
固定化担体がイオン交換樹脂である請求項1又は2に記載のモノアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。

【公開番号】特開2010−183873(P2010−183873A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30089(P2009−30089)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】