説明

モノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法

【課題】高純度のモノグリセリドケタール及びモノグリセリドの混合物の簡便かつ効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】(a)一般式(1)R1−COOH(式中、R1は炭素数3〜25の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基を示す。)で表される脂肪酸と、(b)一般式(2)で表されるグリセリンケタールとを(a)脂肪酸に対して1.5モル倍以上使用し、酸触媒の存在下で反応させ、かつ反応により副生する水を反応系外に留去させないで反応を行う一般式(3)で表されるモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法である。


(R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜22のアルキル基若しくはアルケニル基、又はアルキル基で置換されていてもよい、総炭素数6〜30のアリール基を示し、R1は前記と同じである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノグリセリド及びその合成中間体であるモノグリセリドケタールの混合物の簡便かつ効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度モノグリセリドを得る方法として、モノグリセリドケタールを経ず、直接油脂とグリセリンとを塩基存在下で反応させ、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドの混合物を得た後、分子蒸留にてモノグリセリドのみを得る方法が知られている。しかしながら、この方法はモノグリセリド以外の生成物の回収と再反応を行うため設備が大掛かりとなり、また蒸留により精製するため、各々の蒸留後の回収物を貯蔵する必要があり、設備的に負担が大きい。
【0003】
一方、モノグリセリドケタールを脱ケタール化してモノグリセリドを得る方法も知られている。この方法に用いられるモノグリセリドケタールの合成法として、グリセリンとケトン又はアルデヒドを反応させてグリセリンケタールを得た後、それを脂肪酸メチルエステルと塩基触媒存在下で反応させる方法がある。しかしこのエステル交換による方法では着色しやすく、その上副生するメタノールの混入が化粧品等の用途として使用しにくい等の問題がある。
【0004】
また、脂肪酸メチルエステルの代わりに脂肪酸を用いて、酸触媒存在下で、グリセリンケタールと直接エステル化反応を行う方法も知られている。酸触媒存在下ではエステル化によって生成した水が保護基であるケタール又はアセタールや生成したエステルを加水分解するため、水を留去しながら反応を行っている(例えば、特許文献1参照)。この場合、設備的な負荷がかかるとともに、ケタールの原料となるケトン、アルデヒドは水より沸点の高いものに制限される。
また、酸触媒の代わりに酵素を用い、減圧下反応を行うことで、高収率でモノグリセリドケタールを得る方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法は、酵素に対応した設備が必要となり、また長鎖脂肪酸では、酵素に適した温度での反応を行いにくいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−181271号公報
【特許文献2】特開平11−187891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高純度のモノグリセリドケタール及びモノグリセリドの混合物の簡便かつ効率的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酸触媒存在下におけるグリセリンケタールと脂肪酸とのエステル化反応において、基質兼脱水剤としてグリセリンケタールを脂肪酸に対して過剰量用い、かつ副生水を反応系外に留去させないで反応を行うことにより、前記課題を解決し得ることを見出した。すなわち、グリセリンケタールがグリセリンよりも脂肪酸に対する反応性が高いため、グリセリンケタールが脂肪酸と優先的に反応することを利用することで、高選択的に反応を進行させることができる。
すなわち、本発明は、(a)一般式(1)で表される脂肪酸と、(b)一般式(2)で表されるグリセリンケタールとを、酸触媒の存在下で反応させる、一般式(3)で表されるモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法であって、(b)グリセリンケタールを(a)脂肪酸に対して1.5モル倍以上使用し、かつ反応により副生する水を反応系外に留去させないで反応を行う、モノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法を提供する。
1−COOH (1)
(式中、R1は炭素数3〜25の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基を示す。)
【0008】
【化1】

(式中、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜22のアルキル基若しくはアルケニル基、又はアルキル基で置換されていてもよい、総炭素数6〜30のアリール基を示し、R2とR3が互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
【0009】
【化2】

(式中、R1、R2及びR3は前記と同じである。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高純度のモノグリセリドケタール及びモノグリセリドの混合物を、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法は、(a)一般式(1)で表される脂肪酸と、(b)一般式(2)で表されるグリセリンケタールとを、酸触媒の存在下で反応させる方法であって、(b)グリセリンケタールを(a)脂肪酸に対して1.5モル倍以上使用し、かつ反応により副生する水を反応系外に留去させないで反応を行うことを特徴とする。
なお、本発明における「ケタール」は、アセタールも包含する。
【0012】
[(a)脂肪酸]
本発明においては、原料(a)の脂肪酸として、一般式(1)で表される脂肪酸が用いられる。
1−COOH (1)
一般式(1)において、R1は炭素数3〜25の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基であり、この脂肪族炭化水素基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、好ましくは炭素数7〜17、より好ましくは炭素数11〜17の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基である。
一般式(1)で表される脂肪酸としては、炭素数8〜18の脂肪酸が好ましく、炭素数12〜18の脂肪酸がより好ましい。具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられ、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸が好ましく、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸がより好ましい。
上記の脂肪酸は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
[(b)グリセリンケタール]
本発明においては、原料(b)のグリセリンケタールとして、一般式(2)で表される化合物が用いられる。
【0014】
【化3】

【0015】
一般式(2)において、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜22のアルキル基若しくはアルケニル基、又はアルキル基で置換されていてもよい、総炭素数6〜30のアリール基を示し、R2とR3が互いに結合して環構造を形成していてもよい。
2及びR3の総炭素数は、グリセリンケタールの親水性の観点から、1〜10が好ましく、従って、(b)グリセリンケタールの総炭素数は5〜14であることが好ましい。
具体的には、ケトンとして、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のグリセリンケタールが挙げられ、アルデヒドとして、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等のグリセリンアセタールが挙げられる。
【0016】
原料の(b)グリセリンケタールは、グリセリンとの混合物でも用いることができる。この場合、グリセリンの仕込み量は、脂肪酸に対して2〜10モル倍が好ましく、生産性、反応性の観点から2〜6モル倍がより好ましく、3〜5モル倍が特に好ましい。
本発明においては、(a)脂肪酸に対する(b)グリセリンケタールの使用割合〔(b)/(a)〕は、反応選択性の観点から、1.5モル倍以上である。
(a)脂肪酸に対する(b)グリセリンケタールの使用割合〔(b)/(a)〕は、モノグリセリドケタール及びモノグリセリドの選択率の観点から、〔(b)/(a)〕のモル比で、好ましくは2〜12、より好ましくは2.2〜10、更に好ましくは2.5〜8、特に好ましくは2.8〜7である。
【0017】
[酸触媒]
本発明においては、前記(a)脂肪酸と、(b)グリセリンケタールとの反応は、酸触媒の存在下で行われる。
この酸触媒は、反応性の観点から、25℃における酸解離指数(pKa)が3以下のものが好ましく、2以下のものがより好ましい。
その具体例としては、硫酸(水溶液中2段目pKa:1.9)、リン酸(pKa:2.2)、パラトルエンスルホン酸(pKa:−2.6)、ベンゼンスルホン酸(pKa:−6.5)、トリフルオロメタンスルホン酸(pKa:−13)及びナフィオン[デュポン社の登録商標、ペルフルオロスルホン酸/PTFE共重合体]分散液(pKa:約−6)等の有機スルホン酸、リンタングステン酸(pKa:1.6)、リンモリブデン酸(pKa:2.4)等のヘテロポリ酸等が挙げられる。これらの中では、硫酸及び有機スルホン酸が好ましく、特に硫酸、パラトルエンスルホン酸が好ましい。
上記の酸触媒は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸解離指数(pKa)は、例えば日本化学会編の化学便覧(改訂3版、昭和59年6月25日、丸善株式会社発行)に記載の酸解離指数等を利用することができる。
触媒の使用量は、副反応抑制の観点から、脂肪酸に対して0.1〜10モル%が好ましく、0.5〜8モル%がより好ましく、1〜6モル%が更に好ましい。
【0018】
[反応条件]
反応温度は120℃以下が好ましく、20〜100℃がより好ましく、反応効率及び選択性の観点から40〜100℃がより好ましく、60〜100℃が更に好ましい。
反応は着色抑制の観点から窒素雰囲気下で行うことが好ましい。また生成する水はグリセリンケタールの加水分解によって消費されるため、共沸脱水や減圧留去等の方法は必要としない。すなわち、本発明は、反応により副生する水を反応系外に留去させないで反応を行うことができる。
このようにして、下記一般式(3)で表されるモノグリセリドケタール及びモノグリセリドの混合物を、高い選択率で得ることができる。
【0019】
【化4】

(式中、R1、R2及びR3は前記と同じである。)
【0020】
上記のような方法で得られた反応物は、該反応物中に含まれる余剰のグリセリン及びグリセリンケタールを、減圧留去する方法、水洗による除去方法等で除去し、モノグリセリドケタール及びモノグリセリドの混合物を容易に得ることができる。
なお、本発明の製造方法においては、モノグリセリドケタール及びモノグリセリドの他に、ジグリセリドやトリグリセリドが副生する場合がある。
モノグリセリドケタール及びモノグリセリドの選択率の和は、用途にもよるが、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。
また、副生成物であるジグリセリドの選択率は、好ましくは30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、更に好ましくは17モル%以下、特に好ましくは9モル%以下である。トリグリセリドの選択率は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、更に好ましくは3モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
【0021】
本発明の方法で高選択的に反応が進行するのは、脂肪酸に対するグリセリンケタールの反応性が、グリセリン又はモノグリセリドの反応性よりも高く、脱保護基反応が並行して進行し、グリセリン又はモノグリセリドが生じたとしても、グリセリンケタールが脂肪酸と優先的に反応するためと考えられる。また、エステル化反応によって生成する水はグリセリンケタール又はモノグリセリドケタールと加水分解反応するが、グリセリンケタールを脂肪酸に対して過剰に存在させることにより、グリセリンケタールと脂肪酸の反応は有利に進行する。更に、より低温で反応を行うことで、グリセリン又はモノグリセリドと脂肪酸との反応を最小限に抑えることができ、高選択的にモノグリセリド及びモノグリセリドケタールを製造することができる。
【実施例】
【0022】
実施例1
フラスコに、ソルケタール(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール:和光純薬工業株式会社製)50.4g(0.38モル)、パルミチン酸(花王株式会社製 ルナックP−95)20.0g(0.076モル)、及び触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物(和光純薬工業株式会社製)を0.45g(0.0024モル)仕込み、60℃にて窒素を系内に流通させながら(窒素流通量:50mL/min)、5時間反応を行った。
反応終了後の溶液はトリメチルシリル化した後、ガスクロマトグラフィー[カラム:Ultra−alloyキャピラリーカラム15.0m×250μm(Frontier Laboratories社製)、検出器:FID、インジェクション温度:300℃、ディテクター温度:350℃、He流量:4.6mL/min.]にて分析し、生成物を定量した。
その結果、脂肪酸転化率99%、モノグリセリドケタール及びモノグリセリド合計の選択率は96モル%、(モノグリセリド/モノグリセリドケタール)のモル比は37/63であった。製造条件及び結果を表1に示す。
なお、脂肪酸転化率、モノグリセリドケタール及びモノグリセリド合計の選択率は以下の式により算出した。
脂肪酸転化率(%)=[残存脂肪酸のモル量/[原料脂肪酸の仕込みモル量]×100
モノグリセリドケタール及びモノグリセリド合計の選択率(モル%)=[(生成モノグリセリドのモル量+生成モノグリセリドケタールのモル量)/(生成モノグリセリドのモル量+生成モノグリセリドケタールのモル量+生成ジグリセリドのモル量+生成トリグリセリドのモル量)]×100
【0023】
実施例2〜6及び比較例1、2
表1に示す製造条件にて、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1から、実施例1〜6の製造方法によれば、反応温度60〜100℃、反応時間1〜10時間で、脂肪酸転化率が98〜100%に達し、かつモノグリセリドケタール及びモノグリセリド合計の選択率が89〜96%であることが分かる。
これに対し、ソルケタール[(a)成分]を用いない比較例1においては、反応温度100℃、反応時間5時間で、脂肪酸転化率が99%に達しているが、モノグリセリドケタール及びモノグリセリド合計の選択率は48モル%と著しく低い。また、ソルケタールを用いないで、反応温度が60℃である比較例2においては、反応時間が10時間経過しても、実質上反応が進行していない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法によれば、化粧品等の乳化剤や保湿剤及び工業用乳化剤等として広く利用されているモノグリセリド及びその合成中間体であるモノグリセリドケタールの混合物を、効率的に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式(1)で表される脂肪酸と、(b)一般式(2)で表されるグリセリンケタールとを、酸触媒の存在下で反応させる、一般式(3)で表されるモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法であって、(b)グリセリンケタールを(a)脂肪酸に対して1.5モル倍以上使用し、かつ反応により副生する水を反応系外に留去させないで反応を行う、モノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法。
1−COOH (1)
(式中、R1は炭素数3〜25の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基を示す。)
【化1】

(式中、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜22のアルキル基若しくはアルケニル基、又はアルキル基で置換されていてもよい、総炭素数6〜30のアリール基を示し、R2とR3が互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
【化2】

(式中、R1、R2及びR3は前記と同じである。)
【請求項2】
(a)脂肪酸に対する(b)グリセリンケタールの使用割合〔(b)/(a)〕が、モル比で2〜12である、請求項1に記載のモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法。
【請求項3】
脂肪酸と一般式(2)で表されるグリセリンケタールとを反応させる際に、25℃における酸解離定数(pKa)が3以下である酸触媒を用いる、請求項1又は2に記載のモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法。
【請求項4】
酸触媒が、有機スルホン酸及び硫酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載のモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法。
【請求項5】
反応温度が100℃以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法。
【請求項6】
(b)グリセリンケタールの総炭素数が5〜14である、請求項1〜5のいずれかに記載のモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法。
【請求項7】
一般式(2)及び一般式(3)におけるR2及びR3が、それぞれメチル基である、請求項1〜6のいずれかに記載のモノグリセリドケタール及びモノグリセリド混合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−280605(P2010−280605A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134729(P2009−134729)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】