説明

モリブデン合金およびその製造方法

【課題】 2000℃の高温使用時においても局部的膨れ発生・結晶粒粗大化を抑制して部材の長寿命化を実現し、且つ複雑な加工工程を必要せず、大型部材の作製も容易となる作製方法・組成を提供する。
【解決手段】 Mo粉末に、Nb,TaおよびWの1種または2種以上の添加粉末を、マトリックスとなるモリブデン粉末に対し、20〜50原子%混合し、固化成形してなることを特徴とするモリブデン合金。上記マトリックスのモリブデン粉末の平均粒径が6〜30μmであること。また、上記添加粉末として、該添加粉末の平均粒径が15〜50μmであること、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2000℃以上の高温において強度が要求される高温環境で使用される部材で、その部材の材料として使用されるモリブデン合金およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Mo、W、およびこれらの合金は2000℃以上の融点を有し、主に電子部材、電極材、フィラメント材として従来用いられてきたが、近年、その優れた高温強度、耐食性に着目された構造用部材の材料として用途が期待されている。しかし、Mo、Wは融点が非常に高く、かつ加工性が悪いため、通常の溶解・加工といった方法で製品を作ることは困難であった。したがって、一般には粉末焼結法により各種部材を製造しているのが現状である。
【0003】
しかしながら、一般的な粉末焼結法で得られる焼結体の相対密度は90%程度で、その内部には多数の気孔が残留している。これら金属焼結体の強度や耐食性等の特性は密度に大きく依存することが知られており、焼結体内部の気泡は強度を著しく低下させたり、内部の気泡に腐食性溶液やガスが浸透し耐食性を著しく害する結果となる。一方、焼結温度が高すぎると結晶粒が粗大化し強度が低下し脆くなるという問題がある。従って、通常は熱間圧延、熱間鍛造といった塑性加工により高密度化を図っているのが現状である。
【0004】
これらの方法で作製した部材は、高温での使用により、等軸結晶粒となるため、高温強度の低下が著しく、耐久性悪化の原因となっている。また、Moは耐酸化性に非常に乏しいために、成形体中の酸素含有量が非常に高くなり、2000℃程度の高温環境で使用する場合には、酸素起因と考えられるガスの発生により、部材の一部分または全体的に局部的な膨らみが発生する場合がある。
【0005】
この問題に対して、例えば特開平9−196570号公報(特許文献1)に開示されいるように、W添加により結晶粒粗大化を抑制しているが、膨れ発生については明確に言及していない。また、加工工程が複雑で圧延にて作製する素材板作製工程と熱間スピニング絞り加工により作製されるため、大型部材作製時にはコスト増の原因となる。
【0006】
また、HIP法による焼結体の作製も試みられている。例えば、出願人が既に特許出願している発明では、高融点かつMo中で熱力学的に安定なセラミックスまたは金属をMo中に微細分散させ、結晶粒粗大化を抑制し、高強度なMo合金を製造する方法を提案している。
【特許文献1】特開平9−196570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した特許文献1のようにW添加により結晶粒粗大化を抑制しているが、膨れ発生については明確に言及していない。また、加工工程が複雑で圧延にて作製する素材板作製工程と熱間スピニング絞り加工により作製されるため、大型部材作製時にはコスト増の原因となる。また、既に特許出願している発明、すなわち高融点かつMo中で熱力学的に安定なセラミックスまたは金属をMo中に微細分散させ、結晶粒粗大化を抑制し、高強度なMo合金を製造する方法は、高温環境下におけるガスによる膨れの発生は考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、2000℃の高温使用時においても局部的膨れ発生・結晶粒粗大化を抑制して部材の長寿命化を実現し、且つ複雑な加工工程を必要せず、大型部材の作製も容易となる作製方法・組成を提供するものである。その要旨とするところは、
(1)Mo粉末に、Nb,TaおよびWの1種または2種以上の添加粉末を、マトリックスとなるモリブデン粉末に対し、20〜50原子%混合し、固化成形してなることを特徴とするモリブデン合金。
【0009】
(2)前記(1)に記載したマトリックスのモリブデン粉末の平均粒径が6〜30μmであることを特徴とするモリブデン合金。
(3)前記(1)に記載の添加粉末として、該添加粉末の平均粒径が15〜50μmであることを特徴とするモリブデン合金。
【0010】
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の混合粉末をHIPにて固化成形することを特徴とするモリブデン合金の製造方法。
(5)前記(4)に記載したHIP処理として、処理温度1100〜2100℃、圧力50〜300MPaとなる条件にて、保持を30分〜24時間行うことを特徴とするモリブデン合金の製造方法にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上述したように、2000℃の高温使用時においても局部的膨れ発生・結晶粒粗大化を抑制して部材の長寿命化を実現し、且つ複雑な加工工程を必要せず、大型部材の作製も容易となる作製方法・組成を提供することが出来る極めて優れた効果を奏するものである。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
上述したように、平均粒径15〜50μmのNb,TaおよびWの1種または2種以上の添加粉末を、マトリックスとなるモリブデン粉末に対し、20〜50原子%混合し、HIP成形体とすることで2000℃程度の高温環境において発生する膨れを抑制できることを見出し発明に至ったものである。さらには、第二相添加により結晶粒微細化効果が得られ、HIP法により作製することで非等軸結晶粒となるため、部材の長寿命化が現状できることにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る限定理由について説明する。
Nb,Ta,Wをマトリックスに対して第2相となる添加粉末とした理由は、第1に高温で溶融しないこと、第2に高温強度に優れることの2つの条件を満たす第2相粒子を分散させることによりマトリックスのモリブデン相の結晶粒粗大化を抑制し、且つ高温での強度を高めることにある。ただし、その添加量が20原子%未満では発生ガス圧力に対して十分な強度が得られない場合があるためである。また、50原子%を超える添加はその効果が飽和することから、その範囲を20〜50原子%とした。好ましくは20〜40原子%とする。
【0014】
マトリックスとなるモリブデン粉末の平均粒径を6〜30μmをした理由は、マトリッ
クスの平均粒径が6μm未満では、成形時の充填が極度に悪くなり実用として要求されるのに十分な密度が得られず強度不足となる。または、モリブデン中の酸素量が増加し、膨れの発生の要因となるためである。それに対し平均粒径が大きいと、第2相の分散状態が悪くなり、局所的な密度低下の原因となるためである。したがって、その範囲を6〜30μmとした。好ましくは10〜20μmとする。
【0015】
また、添加金属粉末の平均粒径を15〜50μmとした理由は、15μm未満では結晶粒界での切欠効果などにより局部的に強度の弱い部分が多くなり、粒界を通りガスが集まり、膨れ抑制効果が十分に得られないためである。平均粒径が50μmより大きいと、焼結性の低下によりHIP後に十分な密度が得られないためである。なお、モリブデン粉末および添加粉末の平均粒径はレーザー回折法により測定したものである。したがって、その範囲を15〜50μmとした。好ましくは30〜50μmとする。
【0016】
HIP処理として処理温度1100〜2100℃、圧力50〜300MPaとなる条件
にて、30〜24時間保持のHIP処理を行う。処理温度が1100℃未満では密度が不足し、2100℃を超える温度を得るためには実用設備上コストアップとなることから、その範囲とした。なお、HIP温度が1400℃を超える条件では、SC製容器が処理温度により溶融するため、市販のモリブデンやニオブやタンタルなど高融点材料の板を用いてSC製容器と同寸法の容器を作成し、HIP処理に用いることが好ましい。
【0017】
圧力50〜300MPaとした理由は、50MPa未満では十分な密度を得ることができず、また、300MPaを超える温度を得るためには実用設備上コストアップとなることから、その範囲を50〜300MPaとした。さらに、30分〜24時間保持とした理由は30分未満では十分な密度を得ることが出来ず、また、24時間を越えると結晶粒が粗大化することからである。好ましくは処理温度1200〜1700℃、圧力100〜200MPa、処理時間1〜10時間保持である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に示すモリブデン粉末に対する各種添加粉末を混合した組成の粉末20kgを直径250mmで高さ80mmの円柱形状のHIP用鉄カプセルに充填し、脱気封入し、処理温度1350℃、圧力147MPa、5時間保持、圧力媒体ArのHIP処理条件にて、直径200mmで厚さ40mmの成形体を作製した。作製した成形体の評価として、相対密度(%)を示し、実使用環境に合わせた評価のために、カーボンヒーターを用いて2000℃、不活性雰囲気にて、熱処理を実施した。上記2000℃の熱処理を施した成形体より、2000℃熱処理後の膨れ、マトリックスであるモリブデンの結晶粒径で示した。その結果を表1に示す。
【0019】
なお、成形体密度は、純モリブデン成形体の成形体密度と比較評価する。また、2000℃熱処理後のガスによる部材の局部的な膨れ、熱処理後結晶粒径(μm)の評価としては、研磨面を腐食し光学顕微鏡写真を撮影し、この写真に一定長さの試験直線を引き、この直線と結晶粒界との交点の数を測定し、[試験直線長さ(μm)]/[交点の数(個)]により評価した。
【0020】
【表1】

表1に示すように、No.1〜12は本発明例であり、No.13〜20は比較例である。
【0021】
表1に示すように、比較例No.20は純Moの場合であって、2000℃熱処理後膨れが観察され、熱処理後結晶粒径が大きい。比較例No.13は添加量が少ないために、2000℃熱処理後膨れが観察され、かつ熱処理後結晶粒径がやや大きい。比較例No.14は添加粉末の平均粒径が小さいために、2000℃熱処理後膨れが観察された。比較例No.15はMo粉末の平均粒径が小さいために、2000℃熱処理後膨れが観察される。
【0022】
比較例No.16はMo粉末の平均粒径が大きく、かつ添加粉末の添加量が少ないために、成形密度が低く、かつ2000℃熱処理後膨れが観察され、熱処理後結晶粒径がやや大きい。比較例No.17は添加粉末の添加量が少なく、かつ添加粉末の平均粒径が小さいために、2000℃熱処理後膨れが観察され、熱処理後結晶粒径がやや大きい。比較例No.18はMo粉末の平均粒径が小さく、かつ添加粉末の平均粒径が大きいために、成形密度が低い。
【0023】
比較例No.19はMo粉末の平均粒径が大きく、かつ添加粉末の添加量が多いために、成形密度が低く、熱処理後結晶粒径が大きい。これに対し、本発明例No.1〜12はいずれもMo粉末の平均粒径、添加粉末の添加量、添加粉末の平均粒径が本発明の条件を満たしていることから、成形体密度が高く、2000℃熱処理後膨れが観察されず、かつ熱処理後結晶粒径は小さいことが分かる。
【0024】
このように、Mo粉末に、高温強度の高いW粉末等を添加することで、発生ガス圧力より高い強度が得られ、部材の変形を抑制でき、また、2000℃の高温使用時においても局部的膨れ発生・結晶粒粗大化を抑制して部材の長寿命化を実現し、かつ複雑な加工工程を必要せず、大型部材の作製も容易となる。さらに従来法では、高温溶解の用途(約2000℃)への使用の際には、高温熱処理工程が必要となりコストアップの原因となるが、本発明では必要としない等極めて優れた効果を奏するものである。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo粉末に、Nb,TaおよびWの1種または2種以上の添加粉末を、マトリックスとなるモリブデン粉末に対し、20〜50原子%混合し、固化成形してなることを特徴とするモリブデン合金。
【請求項2】
請求項1に記載したマトリックスのモリブデン粉末の平均粒径が6〜30μmであることを特徴とするモリブデン合金。
【請求項3】
請求項1に記載の添加粉末として、該添加粉末の平均粒径が15〜50μmであることを特徴とするモリブデン合金。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の混合粉末をHIPにて固化成形することを特徴とするモリブデン合金の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載したHIP処理として、処理温度1100〜2100℃、圧力50〜300MPaとなる条件にて、保持を30分〜24時間行うことを特徴とするモリブデン合金の製造方法。

【公開番号】特開2011−214112(P2011−214112A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84801(P2010−84801)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】