説明

モルタル壁のクラック補修方法

【課題】簡易な作業によってクラックの開口側部分を強固に且つ安定した状態で閉塞して、乾燥収縮によってモルタル壁に生じたクラックを効率良く効果的に補修できるモルタル壁のクラック補修方法を提供する。
【解決手段】ヘアークラック18の内部に配設可能な太さを有する少なくとも2本の線材19a,19bに、主剤20aと硬化剤20bとからなる接着剤20の主剤20a及び硬化剤20bの何れか一方又は他方を各々付着させると共に、主剤20aが付着した線材19a及び硬化剤20bが付着した線材19bをヘアークラック18に沿って重ねて挿入配置し、主剤20aと硬化剤20bとを反応させることで接着剤20を硬化させて、ヘアークラック18の開口側部分を閉塞する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル壁のクラック補修方法に関し、特に、乾燥収縮によってモルタル壁に生じたクラックを補修するためのモルタル壁のクラック補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタル壁として、例えばモルタル外壁は、耐火性能に優れた外壁として知られており、モルタル外壁は、例えば柱、間柱等の外壁骨組部材に支持させて壁下地用面材を取り付けると共に、壁下地用面材の表面を覆って防水シートを取り付け、さらに防水シートの表面にラス網を取り付けた後に、ラス網に支持させるようにしてモルタルを敷設し、モルタルが硬化したら、これの表面に外壁仕上材を塗布することによって形成されるのが一般的である。
【0003】
また、モルタル外壁を構成するモルタルは、これが硬化して表面に外壁仕上材が塗布された後も、乾燥収縮によってさらに収縮して、例えば0.03〜0.5mm程度の小幅のいわゆるヘアークラックを生じる場合がある。これらのヘアークラックは、モルタルを貫通して形成されるものではなく、モルタル外壁の止水性等に特に影響を及ぼすものではないが、ヘアークラックが表面の外壁仕上材にも及んで外観が劣ることになることから、このようなヘアークラックを補修する必要がある。
【0004】
一方、コンクリートやモルタルに生じたクラック(ひび割れ)の補修方法として、種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の補修方法では、モルタル等の亀裂部分に予め硬化刺激材を注入し、しかる後に硬化刺激材以外の補修用組成物成分の混練物を注入することで、クラックを閉塞するようになっており、また亀裂部分に硬化刺激材や補修用組成物成分を注入する方法として、自然にしみ込ます方法、流し込み方法、擦り込み塗装方法、コーキングガン等を用いた圧入方法等が採用されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−265256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、硬化刺激材や補修用組成物成分をクラックに注入する従来の方法によれば、特にクラックがヘアークラック等の小幅のものである場合には、注入作業を行い難く、また注入できたとしても、これらをクラックの中まで充分に充填することは困難である。このため、充填が不十分で、クラックを補修した後に短期間で再びクラックが生じることになったり、クラックの中まで無理に充填しようとして、クラックの周囲を汚したり材料を無駄に使用したりすることになる。
【0007】
本発明は、簡易な作業によってクラックの開口側部分を強固に且つ安定した状態で閉塞して、乾燥収縮によってモルタル壁に生じたクラックを効率良く効果的に補修することのできるモルタル壁のクラック補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、乾燥収縮によってモルタル壁に生じたクラックを補修するためのクラック補修方法であって、前記クラックの内部に配設可能な太さを有する少なくとも2本の線材に、主剤と硬化剤とからなる接着剤の前記主剤及び前記硬化剤の何れか一方又は他方を各々付着させると共に、前記主剤が付着した線材及び前記硬化剤が付着した線材を前記クラックに沿って重ねて挿入配置し、前記主剤と前記硬化剤とを反応させることで前記接着剤を硬化させて、前記クラックの開口側部分を閉塞するモルタル壁のクラック補修方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
そして、本発明のモルタル壁のクラック補修方法は、乾燥収縮によってモルタル壁に生じた前記クラックが、0.03〜0.5mm、特に0.1〜0.3mmの小幅のヘアークラックであることが好ましい。
【0010】
また、本発明のモルタル壁のクラック補修方法は、前記主剤と硬化剤とからなる接着剤が、エポキシ樹脂系接着剤であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明のモルタル壁のクラック補修方法は、前記線材が、グラスファイバー又は炭素繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモルタル壁のクラック補修方法によれば、簡易な作業によってクラックの開口側部分を強固に且つ安定した状態で閉塞して、乾燥収縮によってモルタル壁に生じたクラックを効率良く効果的に補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係るモルタル壁のクラック補修方法が適用されるモルタル外壁の構成を説明する部分破断斜視図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係るモルタル壁のクラック補修方法を説明する要部断面図である。
【図3】線材を主剤や硬化剤に浸漬した状態で収容した筒状容器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい一実施形態に係るモルタル壁のクラック補修方法は、例えば図1に示すような構成のモルタル外壁10の表面に生じたクラックを補修するための補修方法として採用されたものである。すなわち、図1に示すモルタル外壁10は、好ましくは標準仕様の防火構造を備えるものであり、外壁骨組部材11に支持させて、裏側に断熱材17を充填した状態で壁下地用面材12を取り付けると共に、壁下地用面材12の表面を覆って防水シート13を取り付け、さらに防水シート13の表面にラス網14を取り付けた後に、ラス網14に支持させるようにしてモルタル15を敷設し、モルタル15が硬化したら、これの表面に外壁仕上材16を塗布することによって形成されるものである。
【0015】
また、本実施形態では、硬化したモルタル15は、これの表面に外壁仕上材16が塗布された後も、乾燥収縮によって収縮して、例えば0.03〜0.5mm程度、特に0.1〜0.3mm程度の小幅のヘアークラック18(図2参照)を当該モルタル15の表面に生じており、生じたヘアークラック18が外壁仕上材16にも及んで外観が劣ることになることから、このようなヘアークラック18を補修するための方法として、本発明のクラック補修方法が用いられることになる。
【0016】
そして、本実施形態のモルタル壁のクラック補修方法は、乾燥収縮によってモルタル外壁10に生じたヘアークラック18を補修するための補修方法であって、図2及び図3に示すように、ヘアークラック18の内部に配設可能な太さを有する少なくとも2本の線材19a,19bに、主剤20aと硬化剤20bとからなる接着剤20の主剤20a及び硬化剤20bの何れか一方又は他方を各々付着させると共に、主剤20aが付着した線材19a及び硬化剤20bが付着した線材19bをヘアークラック18に沿って重ねて挿入配置し、主剤20aと硬化剤20bとを反応させることで接着剤20を硬化させて、ヘアークラック18の開口側部分を閉塞するようになっている。
【0017】
本実施形態では、例えばヘアークラック18が生じた部分の外壁仕上材16を、ヘアークラック18の両側部分に沿って削り取ってから、露出したモルタル15の表面に現れたヘアークラック18に、主剤20aが付着した線材19aと硬化剤20bが付着した線材19bとをヘアークラック18の延設方向に沿って重ねて挿入配置することでヘアークラック18を補修する。
【0018】
ここで、主剤20aと硬化剤20bとからなる接着剤20としては、2液混合型の接着剤として知られる種々の接着剤を用いることができるが、例えば低粘度形のエポキシ樹脂系接着剤を好ましく用いることができる。主剤20aと硬化剤20bとからなる接着剤20として、低粘度形のエポキシ樹脂系接着剤を用いることにより、その優れた流動性によって、線材19a,19bに付着させた状態でヘアークラック18の中に主剤20aや硬化剤20bを容易に入り込ませることができると共に、ヘアークラック18の中で主剤20aと硬化剤20bとをスムーズに反応硬化させることが可能になる。このような低粘度形のエポキシ樹脂系接着剤としては、より具体的には、例えば建築補修用注入エポキシ樹脂規格(JIS A 6024)に適合する、商品名「ボンドE206」(コニシ株式会社製)を用いることができる。
【0019】
また、接着剤20の主剤20aや硬化剤20bを付着させる線材19a,19bとしては、ヘアークラック18の内部に配設可能な例えば0.01〜0.3mm程度の太さを有する種々の線材を用いることができるが、例えば強靭で且つ細いといった相反する物性を併せ持つ、グラスファイバーや炭素繊維からなる線材を好ましく用いることができる。線材19a,19bとしてグラスファイバーや炭素繊維からなるものを用いることにより、接着剤20の主剤20aや硬化剤20bを付着させた状態で、線材19a,19bを狭いヘアークラック18にスムーズに押し込みつつ挿入配置してゆくことが可能になると共に、接着剤20が硬化した際には線材19a,19bが接着剤20の芯材として機能して、接着剤20と共にヘアークラック18の開口側部分を強固に且つ安定した状態で閉塞することが可能になる。
【0020】
そして、本実施形態では、図3に示すように、例えば主剤20aが充填された第1筒状容器21aに複数の線材19aを浸漬しておくと共に、硬化剤20bが充填された第2筒状容器21bに複数の線材19bを浸漬しておき、モルタル外壁10の表面に生じたヘアークラック18を補修する際には、これらの筒状容器21a,21bから線材19a,19bを取り出して、主剤20aが付着した線材19aと、硬化剤20bが付着した線材19bとを、一本一本、これらが互いに接触又は近接するように、ヘアークラック18の延設方向に沿って重ねて挿入配置してゆく。
【0021】
ここで、線材19a,19bをヘアークラック18の延設方向に沿って挿入配置してゆく作業は、例えば先端が細長く尖った針状の補助具を用いて容易に行うことができる。また、主剤20aが付着した線材19aや硬化剤20bが付着した線材19bを挿入配置する順序は、特に決まっておらず、どちらを先に挿入しても良い。さらに、主剤20aが付着した線材19aや硬化剤20bが付着した線材19bを、同じ箇所において1本づつ重ねて挿入配置する必要は必ずしもなく、例えばヘアークラック18の幅等に応じて、複数本ずつ重ねて挿入配置することもできる。主剤20aが付着した線材19aと硬化剤20bが付着した線材19bの本数を異ならせた状態で重ねて挿入配置することもできる。主剤20aが付着した線材19aや硬化剤20bが付着した線材19bは、クラック18の奥まで挿入配置する必要はなく、例えば線材19a,19bがモルタル15の表面から突出しない状態で、少なくともヘアークラック18の開口側部分に挿入配置されていれば良い。
【0022】
本実施形態では、ヘアークラック18に線材19a,19bと共に挿入された主剤20aと硬化剤20bとが反応硬化して形成された接着剤20の層によって、ヘアークラック18の開口側部分が閉塞されたら、必要に応じて、ヘアークラック18の硬化した接着剤20よりも開口側にバックアップ材を詰めてモルタル15の表面を平坦に仕上げてから、このようにして補修されたヘアークラック18を覆い隠すようにして、外壁仕上材16を削り取った部分に再び外壁仕上材16を塗布することによって、補修作業を終了する。
【0023】
そして、本実施形態のモルタル壁のクラック補修方法によれば、簡易な作業によってヘアークラック18の開口側部分を強固に且つ安定した状態で閉塞して、乾燥収縮によってモルタル外壁10に生じたヘアークラック18を効率良く効果的に補修することが可能になる。
【0024】
すなわち、本実施形態によれば、少なくとも2本の線材19a,19bに、接着剤20の主剤20a及び硬化剤20bの何れか一方又は他方を各々付着させると共に、これらの線材19a,19bをヘアークラック18に沿って重ねて挿入配置するだけの簡易な作業によって、主剤20aと硬化剤20bとを反応させて接着剤20を硬化させることで、ヘアークラック18の開口側部分を容易に閉塞することが可能になると共に、ヘアークラック18に挿入位置された線材19a,19bは、接着剤20の芯材として機能することにより、接着剤20と共にヘアークラック18の開口側部分を強固に且つ安定した状態で閉塞して、ヘアークラック18を効率良く効果的に補修することが可能になる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明のクラック補修方法によって補修されるクラックは、0.03〜0.5mm程度の小幅のヘアークラックである必要は必ずしも無く、例えば0.01〜2.00mm程度の幅のクラックや、モルタルを貫通するクラックであっても良い。また、本発明のクラック補修方法によってクラックが補修されるモルタル壁は、外壁である必要は必ずしもなく、内壁や仕切り壁等の他、基礎の立上り部の壁等であっても良い。
【符号の説明】
【0026】
10 モルタル外壁(モルタル壁)
11 外壁骨組部材
12 壁下地用面材
13 防水シート
14 ラス網
15 モルタル
16 外壁仕上材
17 断熱材
18 ヘアークラック
19a,19b 線材
20 接着材
20a 主剤
20b 硬化剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥収縮によってモルタル壁に生じたクラックを補修するためのクラック補修方法であって、
前記クラックの内部に配設可能な太さを有する少なくとも2本の線材に、主剤と硬化剤とからなる接着剤の前記主剤及び前記硬化剤の何れか一方又は他方を各々付着させると共に、前記主剤が付着した線材及び前記硬化剤が付着した線材を前記クラックに沿って重ねて挿入配置し、前記主剤と前記硬化剤とを反応させることで前記接着剤を硬化させて、前記クラックの開口側部分を閉塞するモルタル壁のクラック補修方法。
【請求項2】
乾燥収縮によってモルタル壁に生じた前記クラックが、0.03〜0.5mmの小幅のヘアークラックである請求項1記載のモルタル壁のクラック補修方法。
【請求項3】
前記主剤と硬化剤とからなる接着剤が、エポキシ樹脂系接着剤である請求項1又は2記載のモルタル壁のクラック補修方法。
【請求項4】
前記線材が、グラスファイバー又は炭素繊維である請求項1〜3のいずれかに記載のモルタル壁のクラック補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−58291(P2011−58291A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210302(P2009−210302)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【出願人】(597007282)住友林業ホームテック株式会社 (43)
【Fターム(参考)】