説明

モータのロック構造及び伝達比可変操舵システム

【課題】ロックリングとロックレバーとの間に緩衝部材を備えたものにおいて、ロックの信頼性を向上することが可能なモータのロック構造及び伝達比可変操舵システムの提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る伝達比変更モータ22のロック構造は、ロックレバー32の金属係止面32A1,32A2に、その金属係止面の一部から突出した樹脂製又はゴム製の弾性部材50が設けられ、弾性部材50は、通常は、ロックレバー32と係合凹部31Aの金属係止面31A1,32A1同士又は、金属係止面31A2,32A2同士が直接当接することを防ぐと共に、伝達比変更モータ22にかかる外部負荷トルクによって弾性変形して、金属係止面同士が直接当接することを許容する。これにより、ロックレバー32と係合凹部31Aとが樹脂製又はゴム製の緩衝部材を挟んで間接的に係止するものに比べて、伝達比変更モータ22のロック状態を強固にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転状況に応じてハンドルから転舵輪への伝達比を変更可能な伝達比可変動作システム用のモータのロック構造及び伝達比可変操舵システムに関し、特に、モータのロータと一体回転する金属製のロックリングと、ロックリングの外周面に形成された係合凹部に係合してモータをロックする金属製のロックレバーとを備えたモータのロック構造及び伝達比可変操舵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のモータのロック構造として、ロックリングの係合凹部とロックレバーの先端部との間に、樹脂やゴム等の弾性体で構成された緩衝部材を備えたものが知られている(特許文献1,2参照)。これらのロック構造では、緩衝部材が、係合凹部の全体又はロックレバーの先端部の全体を覆っていた。
【特許文献1】特開2005−53446号公報(請求項1、段落[0043]、第3図)
【特許文献2】特開2005−67284号公報(段落[0048]、第12図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上述した従来のロック構造では、係合凹部にロックレバーの先端が突入したロック状態でモータに外部負荷トルクがかかった場合に、ロックレバーと係合凹部とが緩衝部材を挟んで間接的に係止することになるため、ロックレバーと係合凹部の金属面同士が直接係止するものに比べて、ロックの信頼性が損なわれる虞があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ロックリングとロックレバーとの間に緩衝部材を備えたものにおいて、ロックの信頼性を向上することが可能なモータのロック構造及び伝達比可変操舵システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係るモータのロック構造は、運転状況に応じてハンドルから転舵輪への伝達比を変更可能な伝達比可変操舵システム用のモータのロック構造であって、モータのロータと一体回転する金属製のロックリングと、ロックリングの外周面に形成された係合凹部と、モータのステータの端面に往復動可能に組み付けられ、係合凹部に係合してモータをロックする一方、係合凹部から離脱してモータの回転を許容する金属製のロックレバーとを備えたモータのロック構造において、ロックレバー及び係合凹部のうちロックリングの回転方向で対向し得る金属係止面の一方には、その金属係止面の一部から突出した樹脂製又はゴム製の係止面緩衝突部が設けられ、係止面緩衝突部は、通常は金属係止面同士が直接当接することを防ぐと共に、モータにかかる外部負荷トルクによって弾性変形して金属係止面同士が直接当接することを許容するところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のモータのロック構造において、ロックレバー及び係合凹部のうちロックリングの径方向で対向し得る金属突き合わせ面の一方には、その金属突き合わせ面の一部から突出し、金属突き合わせ面同士が直接当接することを防ぐための樹脂製又はゴム製の突き合わせ面緩衝突部が設けられたところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2に記載のモータのロック構造において、ロックレバー及び係合凹部の金属係止面は、モータにかかる外部負荷トルクを受けてロックレバーを係合凹部の奥部に引き込むように傾斜し、突き合わせ面緩衝突部は、通常は金属突き合わせ面同士が直接当接することを防ぐと共に、モータにかかる外部負荷トルクによってロックレバーが係合凹部の奥部に引き込まれたときに弾性変形して金属突き合わせ面同士が直接当接することを許容するところに特徴を有する。
【0008】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載のモータのロック構造において、ロックレバーにおける一方の金属係止面、金属突き合わせ面、他方の金属係止面に亘って緩衝部材固定溝を形成し、その緩衝部材固定溝に固定した樹脂製又はゴム製の弾性部材をロックレバーの金属面から突出させて係止面緩衝突部及び突き合わせ面緩衝突部を構成したところに特徴を有する。
【0009】
請求項5の発明に係る伝達比可変操舵システムは、請求項1乃至4の何れかに記載のロック構造を有したモータを駆動源として備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
[請求項1の発明]
請求項1の発明によれば、金属製のロックレバー及びロックリングの係合凹部のうち、ロックリングの回転方向で対向し得る金属係止面の一方には、その金属係止面の一部から突出した樹脂製又はゴム製の係止面緩衝突部が設けられており、この係止面緩衝突部により、通常は、ロックレバーとロックリングの金属係止面同士が直接当接することが防がれる。これにより、ロックレバーが係合凹部に係合及び離脱するときの金属係止面同士の衝突音又は摺接音を防ぐことができる。
【0011】
一方、ロックレバーがロックリングの係合凹部に係合したロック状態において、モータに外部負荷トルクがかかると、ロックレバー及び係合凹部の金属係止面同士の間で係止面緩衝突部が弾性変形して、金属係止面同士が直接当接するので、ロックレバーと係合凹部とが樹脂製又はゴム製の緩衝部材を挟んで間接的に係止するものに比べて、モータのロック状態を強固にすることができる。また、金属係止面同士が直接当接すれば、係止面緩衝突部のそれ以上の変形が禁止されるので、係止面緩衝突部の過剰な変形を防ぐことができ、係止面緩衝突部の疲労を抑制することができる。さらに、緩衝部材である係止面緩衝突部は、ロックレバー又は係合凹部における金属係止面の一部だけに設ければよいから、ロックレバーの先端部の金属面全体又は係止凹部の金属面全体を樹脂製又はゴム製の緩衝部材で覆ったものに比べて、緩衝部材の材料費を抑えることができる。
【0012】
[請求項2及び4の発明]
請求項2の発明によれば、ロックレバー及び係合凹部のうちロックリングの径方向で対向し得る金属突き合わせ面の一方には、その金属突き合わせ面の一部から突出した樹脂製又はゴム製の突き合わせ面緩衝突部が設けられ、その突き合わせ緩衝突部により、通常は、金属突き合わせ面同士が直接当接することが防がれる。これにより、ロックレバーが係合凹部に突入して係合したときの金属突き合わせ面同士の衝突音や、係合状態でロックレバーとロックリングが相対回転したときの金属突き合わせ面同士の摺接音を防ぐことができる。
【0013】
ここで、係止面緩衝突部及び突き合わせ面緩衝突部は、別部品で構成してもよいし、一部品で構成してもよい。具体的には、例えば、ロックレバーにおける金属係止面及び金属突き合わせ面にそれぞれ個別に凹所を設けて、それら凹所に別部品で構成された樹脂製又はゴム製の弾性部材を固定してもよいし、請求項4の発明のように、ロックレバーにおける一方の金属係止面、金属突き合わせ面、他方の金属係止面に亘って緩衝部材固定溝を形成し、その緩衝部材固定溝の全体に一部品で構成された樹脂製又はゴム製の弾性部材を固定してもよい。
【0014】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、ロックレバーがロックリングの係合凹部に係合したロック状態において、モータに外部負荷トルクがかかると、金属係止面の傾斜によってロックレバーが係合凹部の奥部に引き込まれる。すると、ロックレバーと係合凹部の金属突き合わせ面同士の間で突き合わせ面緩衝突部が弾性変形し、やがて、金属突き合わせ面同士が直接当接して、突き合わせ面緩衝突部のそれ以上の変形を禁止する。これにより、突き合わせ面緩衝突部の過剰な変形を防ぐことができ疲労を抑制することができる。
【0015】
[請求項5の発明]
請求項5の伝達比可変操舵システムは、上記請求項1乃至4の何れかに記載のロック構造を有したモータを駆動源として備えているので、信頼性が高まると共に、ハンドルの操舵フィーリングや静粛性を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施形態を図1〜図8に基づいて説明する。
図1に示された車両10における1対の前輪11,11(本発明の「転舵輪」に相当する)の間には、ラック12が設けられ、そのラック12の両端部がタイロッド13,13を介して前輪11,11に連結されている。また、ラック12は筒状のラックケース12Cで覆われ、そのラックケース12Cが車両本体14に固定されている。また、ラック12にはピニオン15が噛合しており、そのピニオン15がラックケース12Cに回転可能に軸支されている。そして、ピニオン15とハンドル17との間が、インタミシャフト18とステアリングシャフト19とによって連結され、それらインタミシャフト18とステアリングシャフト19の間に伝達比可変操舵システム20が連結されている。なお、インタミシャフト18及びステアリングシャフト19における中間部分には、それぞれユニバーサルジョイント18J,19Jが備えられている。
【0017】
図2に示すように、伝達比可変操舵システム20は、差動式の減速機21の同軸上方にモータ22(以下、「伝達比変更モータ22」という)を配置し、これら減速機21と伝達比変更モータ22とを共通のアッシスリーブ23内に収容して備えている。減速機21は中心部に入力部21Aを備え、その入力部21Aが伝達比変更モータ22のロータ22Rが固定されている。また、減速機21は下端部外面に出力部21Bを備え、その出力部21Bには、インタミシャフト18の上端部に設けた円板18Cが固定されている。そして、伝達比変更モータ22により減速機21の入力部21Aを回転駆動すると、その回転が減速されてインタミシャフト18が回転する。
【0018】
伝達比変更モータ22の上端寄り位置には回転位置検出部24が設けられている。そして、この回転位置検出部24により、伝達比変更モータ22のステータ22Sに対するロータ22Rの回転位置が検出される。なお、回転位置検出部24は、ロータ22Rと一体回転する磁石24Aと、ステータ22Sに固定されたホール素子24Bとからなる。
【0019】
伝達比変更モータ22のステータ22S上面には、ロック機構30が備えられ、そのロック機構30を含む伝達比変更モータ22の上端部が、連結ハウジング25によって覆われている。連結ハウジング25は、伝達比変更モータ22の上面に対向した天板部25Aと、天板部25Aから下方に延びた大径円筒部25Bと、天板部25Aから上方に延びた小径円筒部25Cとを備えてなる。大径円筒部25Bの下端部にアッシスリーブ23が嵌合固定される一方、小径円筒部25Cには、ステアリングシャフト19が嵌合固定されている。また、ステアリングシャフト19の上端部には、ハンドル17(図1参照)が固定されている。これにより、ハンドル17を操舵した際に、伝達比変更モータ22のロータ22Rが回転すれば、ハンドル17及びステアリングシャフト19に対してインタミシャフト18が相対回転し、ロータ22Rが回転しなければ、インタミシャフト18がハンドル17及びステアリングシャフト19と共に一体回転する。即ち、伝達比変更モータ22のロータ22Rを回転させることで、ハンドル17の操舵角に対するインタミシャフト18の回転角を変更することができる。
【0020】
連結ハウジング25の上部には、ドーナッツ状の収容空間を有するケーブルケース26が組み付けられている。そして、ケーブルケース26の内部に収容されたスパイラルケーブル27を介して伝達比変更モータ22、回転位置検出部24等が操舵制御装置60に接続されている。
【0021】
さて、本発明に係るロック機構30は、図3に示すように、以下に説明するロックリング31、ロックレバー32及び直動駆動源35を備えてなる。伝達比変更モータ22の上面には、ロータ22Rの上端部が突出しており、そのロータ22Rの上端部に金属製のロックリング31が一体回転可能に固定されている。ロックリング31はリング状をなし、その外周面には複数の係合凹部31Aが形成されている。
【0022】
詳細には、ロックリング31の外周面には、係合凹部31Aより広角な複数(例えば、4つ)のサブ係合凹部31Bが形成されており、それら各サブ係合凹部31Bの一部をさらに段付き状に凹ませて係合凹部31Aが形成されている。図4に示すように、係合凹部31Aは、ロックリング31の回転方向でロックレバー32と対向し得る1対の金属係止面31A1,31A2と、それら1対の金属係止面31A1,31A2の間を接続し、ロックリング31の径方向でロックレバー32と対向し得る金属突き合わせ面31A3とを有している。
【0023】
なお、本実施形態では、係合凹部31Aが、各サブ係合凹部31Bのうち、図3における時計回り方向の前端部に配設されている。従って、ロックレバー32が係合凹部31Aではなく、サブ係合凹部31Bに係合した場合でも、その状態からロックリング31が図3における反時計回り方向に回転すれば、ロックレバー32と係合凹部31Aとの係合が可能である。
【0024】
ロックレバー32は、ロックリング31と同じく金属製であり、伝達比変更モータ22の上面から起立した支柱33に回動可能に軸支されている。支柱33は、ロックレバー32の一端寄り位置を貫通している。ロックレバー32のうち支柱33の貫通部分から比較的長く延びたアーム32Bの先端には、ロックリング31に向けて係合凸部32Aが突出している。
【0025】
図3に示すように、ロックレバー32にはトーションバネ34が取り付けられている。トーションバネ34はコイルバネ構造をなし、そのコイルバネを構成するバネ線材の一端が支柱33の端面に係止され、他端がロックレバー32に係止している。このトーションバネ34の弾発力によりロックレバー32は、ロック位置に付勢されている。そして、ロックレバー32がこのロック位置に位置した状態(図3に示した状態)で、係合凸部32Aがロックリング31の係合凹部31Aに凹凸係合し、ロータ22Rが回り止めされる。即ち、伝達比変更モータ22がロック状態になる。
【0026】
図4に示すように、係合凸部32Aは、ロックリング31の回転方向で係合凹部31Aの金属係止面31A1,31A2と対向し得る1対の金属係止面32A1,32A2と、それら1対の金属係止面32A1,32A2の間を接続し、ロックリング31の径方向で係合凹部31Aの金属突き合わせ面31A3と対向し得る金属突き合わせ面32A3とを有している。
【0027】
また、係合凹部31Aと係合凸部32Aのうち、ロックリング31の回転方向で対向し得る金属係止面31A1,32A1及び金属係止面31A2,32A2は、ロック状態でロータ22Rに外部負荷トルクがかかった場合に、ロックレバー32を係合凹部31Aの奥部に引き込むように傾斜している。
【0028】
具体的には、金属係止面31A1,31A2は、金属突き合わせ面31A3から離れるに従って互いに近づくように傾斜しており、金属突き合わせ面31A3と金属係止面31A1とがなす角度及び、金属突き合わせ面31A3と金属係止面31A2とがなす角度が、共に鋭角となっている。これに対し、係合凸部32Aの金属係止面32A1,32A2は、係合凸部32Aの基端部から金属突き合わせ面32A3に近づくに従って互いに離れるように傾斜しており、金属突き合わせ面32A3と金属係止面32A1とがなす角度及び、金属突き合わせ面32A3と金属係止面32A2とがなす角度が、共に鋭角となっている。これにより、係合凸部32と係合凹部31とが係合すれば、解除操作を意図的に行わない限り、その係合が解除され難くなっている。
【0029】
ところで、ロックレバー32の係合凸部32Aには、本発明の「係止面緩衝突部」及び「突き合わせ面緩衝突部」を構成する弾性部材50が取り付けられている。弾性部材50は、ゴム製又は樹脂製(具体的には、熱可塑性エラストマー)であり、係合凸部32Aの先端の金属面(金属係止面32A1,32A2及び金属突き合わせ面32A3)に沿って略「コ」の字状をなしている。
【0030】
図5(B)に示すように、係合凸部32Aには、一方の金属係止面32A1と、金属突き合わせ面32A3と、他方の金属係止面32A2とに亘って形成された略「コ」の字状の弾性部材固定溝39(本発明の「緩衝部材固定溝」に相当する)が形成され、そこに弾性部材50が固定されている(図5(A)及び図6(A)参照)。また、弾性部材50は、幅方向の切断面が蒲鉾状をなしており(図6(B)参照)、図4に示すように、ロックレバー32(係合凸部32A)の各金属面(金属係止面32A1,32A2、金属突き合わせ面32A3)から盛り上がるように突出している。
【0031】
ここで、弾性部材50は、予め成形したものを弾性部材固定溝39に嵌め込んで固定してもよいし、未加硫状態のゴム又は流動状態の熱可塑性エラストマーを弾性部材固定溝39に充填して硬化させることでロックレバー32に固定してもよい。なお、弾性部材50とロックリング31とが摺接し得ることを考慮すると、弾性部材50は摩擦係数の小さいものが好ましい。
【0032】
ロックレバー32は、伝達比変更モータ22の上面に設けられた直動駆動源35(図3参照)により、トーションバネ34の弾発力に抗してロック位置からロック解除位置へと移動する。直動駆動源35は、ソレノイド36の励磁によりプランジャ37を直動させる構成になっており、プランジャ37の先端部が、ロックレバー32のうち支柱33の外側に延びた側の端部に連結されている。
【0033】
例えば、車両10のイグニッションスイッチがオフの状態では、ソレノイド36の励磁が停止されており、プランジャ37はソレノイド36内を自由に直動可能となっている。従って、ロックレバー32はトーションバネ34の弾発力によって、ロック位置に付勢され、伝達比変更モータ22はロックされる(図3に示す状態)。
【0034】
イグニッションスイッチをオフからオンにすると、ソレノイド36が励磁され、プランジャ37がソレノイド36の中空部の奥側に引き込まれるように直動する。これにより、ロックレバー32が図3における反時計回り方向に回動する。この結果、ロックレバー32がロック解除位置に至り、係合凸部32Aと係合凹部31A及びサブ係合凹部31Bとの係合が解除されて、ロータ22Rが回転可能な状態になる(図4に示す状態)。
【0035】
ここで、係合凸部32Aの各金属面(金属係止面32A1,32A2及び金属突き合わせ面32A3)の一部から突出した弾性部材50は、それら金属面が係合凹部31Aの各金属面(金属係止面31A1,31A2及び金属突き合わせ面31A3)と直接当接することを防いでいる。これにより、ロックレバー32がロック位置からロック解除位置へと移動する際の、金属係止面31A1,32A1同士又は、金属係止面31A2,32A2同士の摺接音を防止することができる。
【0036】
イグニッションスイッチをオンからオフにすると、トーションバネ34の弾発力によって、ロックレバー32がロック解除位置からロック位置へと移動する。即ち、ロックレバー32の係合凸部32Aがロックリング31の係合凹部31Aに突入して凹凸係合し、伝達比変更モータ22がロックされる。
【0037】
このとき、図7に示すように、係合凸部32Aの各金属面の一部から突出した弾性部材50が、係合凸部32Aの各金属面と係合凹部31Aの各金属面とが直接当接することを防ぐので、係合凸部32Aが係合凹部31Aに突入して係合するときの金属面同士の衝突音や摺接音を防ぐことができる。
【0038】
凹凸係合した(ロック状態の)係合凸部32Aと係合凹部31Aとの間には、通常、ロックリング31の回転方向に所定のクリアランスが形成される。従って、ロック状態でハンドル17が操作される等により、伝達比変更モータ22に外部負荷トルクがかかった場合には、ロックレバー32とロックリング31とが、そのクリアランスの範囲で相対回転し得る。
【0039】
このとき、弾性部材50が、係合凹部31Aと係合凸部32Aの金属突き合わせ面31A3,32A3同士の当接を防ぐので、それら金属突き合わせ面31A3,32A3同士の摺接音を防止することができる。
【0040】
また、ロックレバー32とロックリング31とが相対回転すると、係合凸部32Aと係合凹部31Aの金属係止面31A1,32A2同士又は金属係止面31A2,32A2同士の間では、弾性部材50が押し潰されて弾性変形する。そして、弾性部材50が所定量変形すると、図8に示すように、金属係止面31A1,32A2同士又は金属係止面31A2,32A2同士が直接当接する。なお、このときの当接音は、互いに当接する金属係止面間に備えた弾性部材50によって小さく抑えられる。
【0041】
ロック状態において、例えば、ロックリング31がロックレバー32に対して図3における時計回り方向に相対回転した場合には、図7から図8への変化に示すように、係合凹部31Aと係合凸部32Aの金属係止面31A1,32A1の傾斜により、ロックレバー32が係合凹部31Aの奥部に引き込まれる(係合が深まる)。すると、金属突き合わせ面31A3,32A3同士の間で弾性部材50が押し潰されて弾性変形し、やがて、金属突き合わせ面31A3,32A3同士が直接当接して、弾性部材50のそれ以上の変形が禁止される。なお、このときの当接音は、互いに当接する金属突き合わせ面31A3,32A3の間に備えた弾性部材50によって小さく抑えられる。
【0042】
このように本実施形態によれば、ロックレバー32の係合凸部32Aには、その金属面(金属係止面32A1,32A2、金属突き合わせ面32A3)の一部から突出するように弾性部材50が設けられ、この弾性部材50により、通常は、係合凸部32Aと係合凹部31Aの金属面同士が直接当接することが防がれる。これにより、伝達比変更モータ22がロック及びロック解除(係合凸部32Aが係合凹部31Aに凹凸係合及び係合解除)されるときの衝突音及び摺接音を防ぐことができる。
【0043】
一方、係合凸部32Aが係合凹部31Aに凹凸係合したロック状態において、伝達比変更モータ22に外部負荷トルクがかかると、係合凸部32A及び係合凹部31Aの金属面同士の間で弾性部材50が弾性変形する。そして、係合凸部32A及び係合凹部31Aの金属係止面31A1,32A1同士又は金属係止面31A2,32A2同士が直接当接(係止)するので、ロックレバー32と係合凹部31Aとが樹脂製又はゴム製の緩衝部材を挟んで間接的に係止するものに比べて、伝達比変更モータ22のロック状態を強固にすることができる。また、係合凸部32A及び係合凹部31Aの金属面同士が直接当接すれば、弾性部材50のそれ以上の変形が禁止されるので、弾性部材50の過剰な変形を防ぐことができ、弾性部材50の疲労(破壊やへたり)を抑制して長寿命化を図ることができる。
【0044】
さらに、緩衝部材である弾性部材50は、ロックレバー32の先端部の金属面(金属係止面32A1,32A2及び金属突き合わせ面32A3)又は係合凹部31Aの金属面(金属係止面31A1,31A2及び金属突き合わせ面31A3)の一部だけに設ければよいから、ロックレバー32の先端部の金属面全体又は係止凹部31Aの金属面全体を樹脂製又はゴム製の緩衝部材で覆ったものに比べて、緩衝部材の材料費を抑えることができる。
【0045】
本実施形態の伝達比可変操舵システム20は、上述した効果を奏するロック機構30を有した伝達比変更モータ22を駆動源として備えているので、信頼性が高まると共に、ハンドル17の操舵フィーリングや静粛性を良好に保つことができる。
【0046】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0047】
(1)前記実施形態では、係合凸部32Aに、一方の金属係止面32A1と、金属突き合わせ面32A3と、他方の金属係止面32A2とに亘って形成された弾性部材固定溝39を設け、ここに一部品で構成された弾性部材50が固定されていたが、図9に示すように、一方の金属係止面32A1と、他方の金属係止面32A2と、金属突き合わせ面とに別々に凹所39Aを陥没形成して、それら各凹所39Aに別部品で構成された弾性部材50をそれぞれ固定してもよい。
【0048】
(2)前記実施形態において、弾性部材50は断面が蒲鉾形状をなしていたが、図10(A)に示すように複数の隆起部をロックレバー32の回転軸方向(図10における左右方向)に並べて配置した形状(具体的には、二山形状)としてもよい。また、同図(B)に示すように門形又はアーチ形状としてもよいし、同図(C)に示すように中空構造としてもよい。さらに、図示しないが、前記実施形態のように、弾性部材50の表面全体を金属面から突出させるのではなく、金属面から突出する突部を弾性部材の表面全体に点在させたり、弾性部材の表面を波状面にしてもよい。このような弾性部材50の形状は、ロックレバー32がロックリング31と衝突するときの衝撃力に応じて適宜決定すればよい。
【0049】
(3)上記実施形態において、ロックレバー32は、一部品で構成されていたが、図11に示すように、1対のサイドプレート70,70と、それらサイドプレート70,70の間に板厚方向で挟持され、1対のサイドプレート70,70との間で弾性部材固定溝39を形成する中間プレート71とから構成してもよい。この場合、サイドプレート70,70を金属製とし、中間プレート71は樹脂製としてもよい。
【0050】
(4)上記実施形態では、ロックレバー32の係合凸部32Aに弾性部材50を固定していたが、ロックリング31の係合凹部31Aに、その金属面の一部から突出するように弾性部材50を固定してもよい。具体的には、例えば、図12に示すように、係合凹部31Aの一方の金属係止面31A1と、金属突き合わせ面31A3と、他方の金属係止面31A2との間に亘って弾性部材固定溝38を陥没形成し、ここに固定した弾性部材50を係合凹部31Aの各金属面から突出させればよい。
【0051】
又は、図示しないが、係合凹部31Aの一方の金属係止面31A1と、金属突き合わせ面31A3と、他方の金属係止面31A2とに別々に凹所を陥没形成し、それら各凹所に別部品で構成された弾性部材50を固定してもよい。
【0052】
なお、前記実施形態のようにロックレバー32側に弾性部材50を固定した構成であれば、ロックレバー32が、ロックリング31の係合凹部31A以外の部分(例えば、サブ係合凹部31B)に当接した場合でも、衝突音や摺接音の発生を防ぐことができるという点で、ロックリング31側に固定したものよりも有利である。
【0053】
(5)前記実施形態では、係合凸部32Aが、支柱33を中心とした円弧上で往復動して、伝達比変更モータ22をロック及びロック解除する構成であったが、例えば、係合凸部がロックリング31の外周面に対して、所謂、ピストン運動の如く一直線上で往復動するように構成してもよい。
【0054】
(6)前記実施形態では、ロックレバー32と係合凹部31Aの金属面のうち、弾性部材50を固定する方(ロックレバー32)の金属面に、弾性部材50の一部を受容可能な陥没凹所(弾性部材固定溝39)を形成して、そこに弾性部材50を固定していたが、弾性部材50を固定する方の金属面にはそのような陥没凹所を設けずに、弾性部材50を固定しない方の金属面に、弾性部材50を受容可能でかつ弾性部材50の突出量よりも浅い陥没凹所を形成しておき、ロック状態でモータに外部負荷トルクがかかった場合に、弾性部材50が陥没凹所の内側で弾性変形して、金属面同士が直接当接することを許容するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る伝達比可変操舵システムを備えた車両の概念図
【図2】伝達比可変操舵システムの側断面図
【図3】ロック機構の平面図
【図4】ロックレバー及びロックリングの平面図
【図5】(A)弾性部材を備えたロックレバーの先端部の斜視図、(B)弾性部材を除いたロックレバーの斜視図
【図6】(A)ロックレバーの先端部の部分断面図、(B)弾性部材の断面図
【図7】ロック状態におけるロックレバー及びロックリングの平面図
【図8】外部負荷トルクがかかった状態のロックレバー及びロックリングの平面図
【図9】変形例に係るロックレバーの平断面図
【図10】変形例に係る弾性部材の断面図
【図11】変形例に係るロックレバーの(A)斜視図、(B)分解状態における正面図
【図12】変形例に係るロックリングの係合凹部の(A)斜視図、(B)平面図
【符号の説明】
【0056】
11 前輪(転舵輪)
17 ハンドル
20 伝達比可変操舵システム
22 伝達比変更モータ
22R ロータ
22S ステータ
30 ロック機構
31 ロックリング
31A 係合凹部
31A1,31A2 金属係止面
31A3 金属突き合わせ面
32 ロックレバー
32A1,32A2 金属係止面
32A3 金属突き合わせ面
39 弾性部材固定溝(緩衝部材固定溝)
50 弾性部材(係止面緩衝突部、突き合わせ面緩衝突部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転状況に応じてハンドルから転舵輪への伝達比を変更可能な伝達比可変操舵システム用のモータのロック構造であって、
前記モータのロータと一体回転する金属製のロックリングと、
前記ロックリングの外周面に形成された係合凹部と、
前記モータのステータの端面に往復動可能に組み付けられ、前記係合凹部に係合して前記モータをロックする一方、前記係合凹部から離脱して前記モータの回転を許容する金属製のロックレバーとを備えたモータのロック構造において、
前記ロックレバー及び前記係合凹部のうち前記ロックリングの回転方向で対向し得る金属係止面の一方には、その金属係止面の一部から突出した樹脂製又はゴム製の係止面緩衝突部が設けられ、
前記係止面緩衝突部は、通常は前記金属係止面同士が直接当接することを防ぐと共に、前記モータにかかる外部負荷トルクによって弾性変形して前記金属係止面同士が直接当接することを許容することを特徴とするモータのロック構造。
【請求項2】
前記ロックレバー及び前記係合凹部のうち前記ロックリングの径方向で対向し得る金属突き合わせ面の一方には、その金属突き合わせ面の一部から突出し、前記金属突き合わせ面同士が直接当接することを防ぐための樹脂製又はゴム製の突き合わせ面緩衝突部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載のモータのロック構造。
【請求項3】
前記ロックレバー及び前記係合凹部の前記金属係止面は、前記モータにかかる前記外部負荷トルクを受けて前記ロックレバーを前記係合凹部の奥部に引き込むように傾斜し、
前記突き合わせ面緩衝突部は、通常は前記金属突き合わせ面同士が直接当接することを防ぐと共に、前記モータにかかる前記外部負荷トルクによって前記ロックレバーが前記係合凹部の奥部に引き込まれたときに弾性変形して前記金属突き合わせ面同士が直接当接することを許容することを特徴とする請求項2に記載のモータのロック構造。
【請求項4】
前記ロックレバーにおける一方の前記金属係止面、前記金属突き合わせ面、他方の前記金属係止面に亘って緩衝部材固定溝を形成し、その緩衝部材固定溝に固定した樹脂製又はゴム製の弾性部材を前記ロックレバーの金属面から突出させて前記係止面緩衝突部及び前記突き合わせ面緩衝突部を構成したことを特徴とする請求項2又は3に記載のモータのロック構造。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載のロック構造を有したモータを駆動源として備えたことを特徴とする伝達比可変操舵システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−184572(P2009−184572A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27971(P2008−27971)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】