モータ制御装置
【課題】永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を向上することができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】ロータ位置検出手段(10)は、検出した誘起電圧波高値と推定誘起電圧波高値との間の誘起電圧差をなくすべくパラメータを補正するモータパラメータ補正手段(30)を有し、該補正したパラメータに基づいて前記ロータ位置を検出する。
【解決手段】ロータ位置検出手段(10)は、検出した誘起電圧波高値と推定誘起電圧波高値との間の誘起電圧差をなくすべくパラメータを補正するモータパラメータ補正手段(30)を有し、該補正したパラメータに基づいて前記ロータ位置を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関し、詳しくは、永久磁石同期モータをセンサレス制御により可変速制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期モータ(Permanent Magnetic Synchronous Motor:PMSM)、特にロータ(回転子)に永久磁石を埋め込んだ埋込型永久磁石同期モータ(Interior Permanent Magnetic Synchronous Motor:IPMSM)は、高効率で可変速範囲の広いモータとして、車両用空調装置の圧縮機駆動用モータや電気自動車駆動用モータなどの用途にその応用範囲を拡大し、その需要が見込まれている。
【0003】
この種のモータの駆動を制御するモータ制御装置は、モータ、インバータ、直流電源、マイクロコンピュータを内蔵したコントローラから構成されている。
前記モータの運転では、一般にモータのステータ(電機子)に巻回されたコイルに流れる電流をコントローラにおいて検出し、この電流が目標電流位相に追従するように電流フィードバック制御が行われる。この電流フィードバック制御では、目標電流位相を磁界と平行なd軸成分であるd軸電流Idと、これに直交するq軸成分であるq軸電流Iqとに分解し、d−q軸座標上でd軸電流Id及びq軸電流Iqから合成された電流ベクトルを目標電流位相として設定して制御することで、モータを最適なトルクで高効率に運転することができる。
【0004】
また、前記モータでは、コントローラにて検出される電流及び電圧の情報などからモータの誘起電圧を検出し、ひいてはロータ位置を検出し、物理的なセンサを用いずにモータを制御する、いわゆるセンサレス制御が一般に行われている。センサレス制御時には実際のd、q軸が直接には不明であるため、コントローラでは本来のd、q軸に対してそれぞれ仮想軸を置き、この仮想軸上で電流ベクトル制御が実行される。
【0005】
しかし、仮想軸はあくまでもコントローラ内で仮定した軸であるから、実際のd、q軸との間にはΔθの角度誤差が存在し、モータを効率的に安定運転するためには、このΔθを迅速に且つ正確に零に収束させる必要があることが知られている。
例えば特許文献1には、軸位置の角度誤差Δθcを推定する以下の簡略化された軸位置誤差推定式が開示されている。
【0006】
【数1】
前記式では、Δθc:軸位置推定誤差(ロータ位置誤差、電流位相誤差)、Vdc:印加電圧のd軸成分、Vqc:印加電圧のq軸成分、Idc:d軸電流、Iqc:q軸電流、Lq:q軸インダクタンス、Ld:d軸インダクタンス、R:コイルの巻線抵抗、ω1:印加電圧の周波数である。Vdc、Vqc、Idc、Iqcは何れも仮想軸を前提にしたコントローラ内での仮定値であり、Lq、Ld、Rは何れもモータの機器定数であり、ω1は測定値である。そして、センサレス制御時には前記Δθcを零に収束させるべくコントローラにて制御が行われる。
【0007】
数1の軸位置誤差推定式の巻線抵抗Rはモータの機器定数であり、モータ固有の器差を含むパラメータであるため、このパラメータの理論値と実際値との間の誤差が軸位置推定精度に大きく影響する。このようなパラメータの誤差は、モータの器差から生じるのみならず、モータが曝される環境によっても変動する。特に、概してコイルは銅線から形成されることから、モータが曝される温度によってコイルの実際の巻線抵抗は変動しやすく、パラメータ誤差も大きくなる。
【0008】
このパラメータ誤差が大きくなると、前記軸位置誤差推定式における分母項が零かマイナスになるおそれがあり、この場合には軸位置が推定できず、ロータ位置も推定できないため、モータがセンサレス制御にて安定的に運転可能な安定運転限界を逸脱して運転され、脱調を生じるおそれがある。
そこで、上記従来技術では、巻線抵抗の理論値として設定される設定値R’と巻線抵抗の実際値Rとの間の誤差を前記d−q軸座標系で検出した電流位相に基づいて補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−87152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来技術では、モータパラメータとしての巻線抵抗Rの補正量のみを電流位相のみに基づいて計算する手法をとっており、巻線抵抗Rの実際値を推定しておらず、また電流位相のみに基づいて計算を行っているため、補正計算が複雑となり、センサレス制御に応答遅れが生じて制御の安定性に支障を来すおそれがある。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を向上することができるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明のモータ制御装置は、永久磁石同期モータのロータ位置をセンサレス制御により検出するモータ制御装置であって、モータのコイルに流れる電流を検出する電流検出手段と、モータのコイルに印加される電圧を検出する印加電圧検出手段と、電流検出手段で検出された電流と印加電圧検出手段で検出された電圧とに基づいて電流位相及び電流波高値、並びに誘起電圧位相及び誘起電圧波高値を検出し、検出された電流位相及び電流波高値、並びに誘起電圧位相とモータの機器定数であるパラメータとに基づいてロータ位置を検出するとともに推定誘起電圧波高値を検出するロータ位置検出手段と、ロータ位置検出手段で検出されたロータ位置に基づいてモータの回転数を検出する回転数検出手段と、電流検出手段で検出された電流と、ロータ位置検出手段で検出されたロータ位置とに基づいて目標電圧を設定する相電圧設定手段とを備え、ロータ位置検出手段は、検出した誘起電圧波高値と推定誘起電圧波高値との間の誘起電圧差をなくすべくパラメータを補正するモータパラメータ補正手段を有し、該補正したパラメータに基づいてロータ位置を検出することを特徴としている(請求項1)。
【0012】
具体的には、パラメータは、コイルの巻線抵抗であり(請求項2)、モータの永久磁石の磁束量である(請求項3)。
好ましくは、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態に応じてパラメータを補正する(請求項4)。
また、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態として、ロータ位置検出手段で検出された電流位相と回転数検出手段で検出された回転数とに基づいてパラメータを補正する(請求項5)。
【0013】
更に、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態を変化させてパラメータの補正量を決定する(請求項6)。
好ましくは、モータパラメータ補正手段のパラメータの補正によっても誘起電圧差が所定範囲以上にずれたとき、前記モータを異常と判定してこれを検出する異常検出手段を備える(請求項7)。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のモータ制御装置によれば、ロータ位置検出手段は、検出した誘起電圧波高値と推定誘起電圧波高値との間の誘起電圧差をなくすべくパラメータを補正するモータパラメータ補正手段を有し、該補正したパラメータに基づいてロータ位置を検出する。これにより、モータパラメータの理論値と実際値との間の誤差を解消し、この誤差の発生に伴うセンサレス制御不能状態を回避することが可能となり、永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を向上することができる。
【0015】
請求項2及び3記載の発明によれば、具体的には補正するパラメータはコイルの巻線抵抗や永久磁石の磁束量であり、これらパラメータはモータが曝される温度変化に影響を受けやすく、これらの誤差も大きい傾向にあることから、当該誤差の解消によりセンサレス制御の安定性を効果的に向上することができる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態に応じてパラメータを補正することにより、モータの運転状態に応じて変化するパラメータの補正量を変更することができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
請求項5記載の発明によれば、モータパラメータ補正手段は、具体的には、モータの運転状態として、ロータ位置検出手段で検出された電流位相と回転数検出手段で検出された回転数とに基づいてパラメータを補正する。
【0017】
請求項6記載の発明によれば、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態を変化させてパラメータの補正量を決定することにより、モータパラメータの補正を自発的に行うことができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
請求項7記載の発明によれば、モータパラメータ補正手段のパラメータの補正によっても誘起電圧差が所定範囲以上にずれたとき、モータを異常と判定してこれを検出する異常検出手段を備えることにより、モータパラメータ補正手段によっても誘起電圧差をなくすことができない場合をモータの異常として迅速に検出し、モータの出力を停止させることが可能であり、モータのセンサレス制御の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の構成図である。
【図2】図1のコントローラで行われるモータのロータ位置のセンサレス制御について示した制御ブロック図である。
【図3】図2のロータ位置検出部の詳細を示した制御ブロック図である。
【図4】図2のモータのU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの相電流波形図である。
【図5】図2のモータのU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの誘起電圧波形図である。
【図6】図2のモータのロータが回転しているときのモータベクトル図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るロータ位置検出部の詳細を示した制御ブロック図である。
【図8】図7の場合にモータパラメータから推定される推定誘起電圧波高値Ep’を表したモータベクトル図である。
【図9】図8の場合に比して磁束量Ψが減少した場合の実際値である誘起電圧波高値Epを表したモータベクトル図である。
【図10】図7のモータパラメータ補正部でモータパラメータを補正する際に用いられるデータテーブルの作成方法の説明図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係るモータパラメータ補正部に用意されるマップを示した図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係るモータパラメータ補正部に用意されるマップを示した図である。
【図13】本発明の第4実施形態に係るモータパラメータ補正部においてd軸電流Idを増加させた場合の誘起電圧波高値Epの減少について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の構成図である。モータ制御装置は、モータ1、インバータ2、直流電源4、マイクロコンピュータを内蔵したコントローラ6から構成されている。
図2はコントローラ6で行われるモータ1のセンサレス制御について示した制御ブロック図である。コントローラ6は、PWM信号作成部8、ロータ位置検出部(ロータ位置検出手段)10、回転数検出部(回転数検出手段)12、目標電流位相設定部(電流位相設定手段)14、加算器16、電圧波高値検出部18、電圧位相検出部20、相電圧設定部(相電圧設定手段)22を備えている。
【0020】
モータ1は、3相ブラシレスDCモータであり、3相のコイル(U相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWc)を含む図示しないステータと、永久磁石を含む図示しないロータとを有し、U相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcは、図1に示すように中性点Nを中心としてスター状に結線されるか、或いは、デルタ状に結線されている。
【0021】
インバータ2は、3相バイポーラ駆動方式インバータであり、モータ1の3相のコイルに対応した3相のスイッチング素子、具体的にはIGBT等から成る6個のスイッチング素子(上相スイッチング素子Us,Vs及びWsと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZs)と、シャント抵抗器R1,R2及びR3とを有している。
上相スイッチング素子Us、下相スイッチング素子Xs、シャント抵抗器R1と、上相スイッチング素子Vs、下相スイッチング素子Ys、シャント抵抗器R2と、上相スイッチング素子Ws、下相スイッチング素子Zs、シャント抵抗器R3とは、それぞれ直列に接続され、これら各直列接続線の両端には、高圧電圧Vhを発生する直流電源4の出力端子が並列接続されている。
【0022】
また、上相スイッチング素子Usのエミッタ側はモータ1のU相コイルUcに接続され、上相スイッチング素子Vsのエミッタ側はモータ1のV相コイルVcに接続され、上相スイッチング素子Wsのエミッタ側はモータ1のV相コイルWcに接続されている。
更に、上相スイッチング素子Us,Vs及びWsのゲートと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZsのゲートと直流電源4の2次側出力端子とは、それぞれPWM信号作成部8に接続されている。更に、シャント抵抗器R1の下相スイッチング素子Xs側とシャント抵抗器R2の下相スイッチング素子Ys側とシャント抵抗器R3の下相スイッチング素子Zs側とは、それぞれロータ位置検出部10に接続されている。
【0023】
インバータ2は、シャント抵抗器R1,R2及びR3それぞれで検出された電圧を利用して、モータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに流れる電流(U相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iw)を検出し(電流検出手段)、これらをロータ位置検出部10に送出する。
PWM信号作成部8は、直流電源4の高圧電圧Vhを検出し、高圧電圧Vhと相電圧設定部22で設定された相電圧とに基づいて、インバータ2の上相スイッチング素子Us,Vs及びWsのゲートと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZsのゲートに各スイッチング素子をオンオフするためのPWM信号を作成し、インバータ2に送出する。
【0024】
インバータ2の上相スイッチング素子Us,Vs及びWsと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZsは、PWM信号作成部8からのPWM信号によって所定パターンでオンオフされ、このオンオフパターンに基づく正弦波通電(180度通電)をモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに対し行う。
また、PWM信号作成部8は、ロータ位置検出部10に接続されており、PWM信号作成部8で検出された直流電源4の高圧電圧Vhを利用して、モータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに印加されている電圧(U相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vw)を検出し(印加電圧検出手段)、ロータ位置検出部10に送出する。
【0025】
図3はロータ位置検出部10について詳細に示した制御ブロック図である。ロータ位置検出部10は、相電流位相検出部24、誘起電圧位相検出部26、ロータ位置・電流位相推定部28、モータパラメータ補正部(モータパラメータ補正手段)30を備えている。
相電流位相検出部24は、インバータ2から送出されるU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwを利用して、相電流波高値Ip(電流位相)と相電流電気角θi(電流位相)とを検出し、これらをロータ位置・電流位相推定部28に送出する。また、ここで検出された相電流波高値Ipを目標電流位相設定部14に送出する。
【0026】
詳しくは、図4のモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの相電流波形図を参照すると、正弦波形を成すU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwにはそれぞれ120°の位相差がある。
この相電流波形図からすれば、U相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、相電流波高値Ipと、相電流電気角θiには、
・Iu=Ip×cos(θi)
・Iv=Ip×cos(θi−2/3π)
・Iw=Ip×cos(θi+2/3π)
の式が成り立つ。
【0027】
相電流位相検出部24における相電流波高値Ipと相電流電気角θiとの検出は前記式が成り立つことを前提として行われ、インバータ2から送出されたU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwを利用して、前記式による計算によって相電流波高値Ipと相電流電気角θiとが求められる。
誘起電圧位相検出部26は、インバータ2から送出されるU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、PWM信号作成部8から送出されるU相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vwとを利用して、実際値として、誘起電圧波高値Ep、誘起電圧電気角θe(誘起電圧位相)を検出し、これらをロータ位置・電流位相推定部28に送出する。また、検出した誘起電圧波高値Epをモータパラメータ補正部30に送出する。
【0028】
詳しくは、図5のモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの誘起電圧波形図を参照すると、正弦波形を成すU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewにはそれぞれ120°の位相差がある。
この誘起電圧波形図からすれば、U相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewと、誘起電圧波高値Epと、誘起電圧電気角θeには、
・Eu=Ep×cos(θe)
・Ev=Ep×cos(θe−2/3π)
・Ew=Ep×cos(θe+2/3π)
の式が成り立つ。
【0029】
また、U相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vwと、U相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、U相コイル抵抗Ru,V相コイル抵抗Rv及びW相コイル抵抗Rwと、U相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewとには、
・Vu−Iu×Ru=Eu
・Vv−Iv×Rv=Ev
・Vw−Iw×Rw=Ew
の式が成り立つ。
【0030】
誘起電圧位相検出部26における誘起電圧波高値Epと誘起電圧電気角θeの検出は前記式が成り立つことを前提として行われ、インバータ2から送出されたU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、PWM信号作成部8から送出されたU相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vwとを利用して、前記式(後者の式)からU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewが求められ、そして、求めたU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewを利用して、前記式(前者の式)から誘起電圧波高値Epと誘起電圧電気角θeとが求められる。
【0031】
ロータ位置・電流位相推定部28は、ここで検出された相電流電気角θiと予め用意された後述するデータテーブルから選定した電流位相βとを利用して、
・θm=θi−β−90°
の式からロータ位置θmを検出し、ロータ位置検出部10では物理的なセンサによらないセンサレス制御が行われる。なお、前述したように、センサレス制御により検出されたロータ位置θmは軸位置の角度誤差Δθが存在する。
【0032】
ここで用いられるデータテーブルは[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして電流位相βを規定したものであって、所期の電流位相βを[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして選定することができる。なお、[相電流波高値Ip]にはロータ位置検出部10で検出された相電流波高値Ipが該当し、また、[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]にはロータ位置検出部10で検出された誘起電圧電気角θeから相電流電気角θiを減算した値が該当する。
【0033】
図6はモータ1のロータが回転しているときのモータベクトル図であり、電圧V,電流I及び誘起電圧Eの関係をd−q軸座標にベクトルで表してある。図中のVdは電圧Vのd軸成分、Vqは電圧Vのq軸成分、Idは電流Iのd軸成分(d軸電流)、Iqは電流Iのq軸成分(q軸電流)、Edは誘起電圧Eのd軸成分、Eqは誘起電圧Eのq軸成分、αはq軸を基準とした電圧位相、βはq軸を基準とした電流位相、γはq軸を基準とした誘起電圧位相である。また、図中のΨaはロータの永久磁石の磁束、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Rはステータの巻線抵抗、Ψはロータの総合鎖交磁束である。
【0034】
このモータベクトル図からすれば、ロータの回転数をωとすると、
【数2】
の式が成り立ち、また、同式の右辺からωに関する値を左辺に移すと、
【数3】
の式が成り立つ。
【0035】
ロータ位置・電流位相推定部28でロータ位置θmを検出する際に用いられるデータテーブルの作成は、前記モータベクトル図下で前記式が成り立つことを前提として行われ、前記モータベクトル図に示した電流位相βと電流Iをそれぞれ所定範囲内で段階的に増加させながら〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕が所定値のときの電流位相βを保存し、〔電流I〕に相当する[相電流波高値Ip]と〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕に相当する[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]とをパラメータとした電流位相βのデータテーブルを作成する。そして、この作成されたデータテーブルを利用してロータ位置・電流位相推定部28で検出されたロータ位置θmは回転数検出部12に送出される。また、ここで利用される相電流波高値Ipをモータパラメータ補正部30に送出する。
【0036】
モータパラメータ補正部30は、モータの固有の機器定数であるモータパラメータ(Ψ、Ld、Lq、R、ω)を利用して、図6に示すモータベクトル図と前記数2、3式とが成立することを前提に作成されたデータテーブルから、推定誘起電圧波高値Ep’を検出する。そして、誘起電圧位相検出部26から送出されたU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewを利用して求めた、いわば実際値である誘起電圧波高値Epと前記推定誘起電圧波高値Ep’との誘起電圧波高値差ΔEpを検出する。そして、ロータ位置・電流位相推定部28から送出された相電流波高値Ipを利用して、以下の式により巻線抵抗Rの補正量△Rを計算する。
【0037】
・Ep=R・Ip
・Ep’=R’・Ip
両式の差をとると、
・Ep−Ep’=(R−R’)・Ip
の式が成り立つ。この式にEp−Ep’=ΔEp、R−R’=△Rを代入すると、
・△R=ΔEp/Ip
の式が成り立つ。
【0038】
この式により検出された補正量△Rを所定のローパスフィルタLPFを通過させてそのノイズを除去し、これを理論値である巻線抵抗Rに加算することにより補正巻線抵抗R’を計算すると、
・R’=R+LPF(△R)
の式が成り立つ。求められた補正巻線抵抗R’は、ロータ位置・電流位相推定部28に送出され、ロータ位置・電流位相推定部28では数式2,3に基づくデータテーブルにおいて理論巻線抵抗Rの代わりに使用され、ロータ位置θmの検出に利用される。
【0039】
回転数検出部12は、ロータ位置検出部10で検出されたロータ位置θmを利用して、ロータ位置θmから演算周期が1周期前のロータ位置θm−1を減じることにより、ロータ位置変化量Δθmを求め、このロータ位置変化量Δθmに所定のフィルタを掛けてモータ1の回転数ωを検出し、これを加算器16に送出する。そして、コントローラ6に対し指示されたモータ1の目標回転数ωtに回転数検出部12で求められた回転数ωを加算器16を通じてフィードバックさせ、P制御やPI制御等の処理により回転数差Δωを演算し、これを電圧波高値検出部18に送出する。
【0040】
電圧波高値検出部18は、求められた回転数差Δωを利用してP制御やPI制御等の処理によりモータ1に印加する電圧の印加電圧波高値Vpを検出し、これを相電圧設定部22に送出する。
目標電流位相設定部14は、例えば最大トルク/電流制御と称す電流ベクトル制御によって相電流に対するモータ1の発生トルクが最大になるように目標電流位相が設定される。具体的には、ロータ位置検出部10で検出された相電流波高値Ipと、予め用意されたデータテーブルとを利用して目標d軸電流Idtを設定し、これを電圧位相検出部20に送出する。
【0041】
電圧位相検出部20は、目標電流位相設定部14で設定された目標d軸電流Idtを利用して、モータ1に印加する電圧の印加電圧位相θv(目標電圧位相)を検出し、これを相電圧設定部22に送出する。
相電圧設定部22は、電圧波高値検出部18で検出された印加電圧波高値Vp及び電圧位相検出部20にて検出された印加電圧位相θvを利用して、モータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcにこれから印加する印加設定電圧(U相印加設定電圧Vut,V相印加設定電圧Vvt及びW相印加設定電圧Vwt)を設定し、これをPWM信号作成部8に送出する。
【0042】
PWM信号作成部8は、インバータ2を介してモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに対し相電圧設定部22で設定された印加設定電圧をPWM信号のオンオフパターンに基づいて正弦波通電(180度通電)し、これよりモータ1が所望の回転数で運転される。
以上のように、本実施形態では、誘起電圧位相に基づいてモータパラメータをその理論値と実際値との間の誤差をなくすべく補正するモータパラメータ補正部を備え、ロータ位置検出部は、モータパラメータ補正部で補正したモータパラメータに基づいてロータ位置を検出する。これにより、モータパラメータの理論値と実際値との間の誤差を解消し、この誤差の発生に伴うセンサレス制御不能状態を回避することが可能となり、永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を向上することができる。
【0043】
また、補正するモータパラメータをコイルの巻線抵抗Rとすることにより、概してコイルは銅線から形成され、巻線抵抗Rはモータ1が曝される温度変化に影響を受けやすく、その誤差も大きい傾向があることから、当該誤差の解消によりセンサレス制御の安定性を効果的に向上することができる。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図7は本実施形態に係るロータ位置検出部10について詳細に示した制御ブロック図である。なお、モータ制御装置の基本構成やセンサレス制御などのモータ1の基本的な制御方法などは第1実施形態の場合と同様であるため、説明は省略する。
【0045】
本実施形態のモータパラメータ補正部30は、第1実施形態の場合と同様に、モータの固有の機器定数であるモータパラメータ(Ψ、Ld、Lq、R、ω)を利用して、図6に示すモータベクトル図と前記数2、3式とが成立することを前提に作成されたデータテーブルから、推定誘起電圧波高値Ep’を検出する。そして、誘起電圧位相検出部26から送出された実際値である誘起電圧波高値Epとロータ位置・電流位相推定部28から送出された相電流波高値Ipとを利用して、以下の式により永久磁石磁束量Ψの補正量△Ψを計算する。
【0046】
・Ep=ω・Ψ
・Ep’=ω・Ψ
これら式においてΨは理論値、Ψ’は補正後の実際値であって、両式の差をとると、
・Ep−Ep’=ω・(Ψ−Ψ’)
の式が成り立ち、この式にEp−Ep’=ΔEp、Ψ−Ψ’=△Ψを代入すると、
・△Ψ=ΔEp/ω
の式が成り立つ。
【0047】
そして、この式により求められた補正量△Ψを所定のローパスフィルタLPFを通過させてそのノイズを除去し、これを理論値である磁束量Ψに加算することにより補正磁束量Ψ’を計算する。
・Ψ’=Ψ+LPF(△Ψ)
この式により求められた補正磁束量Ψ’は、ロータ位置・電流位相推定部28に送出され、ロータ位置・電流位相推定部28では数式2,3に基づくデータテーブルにおいて理論磁束量Ψの代わりに使用され、ロータ位置θmの検出に利用される。
【0048】
図8はモータの固有の機器定数であるモータパラメータ(Ψ、Ld、Lq、R、ω)から推定される推定誘起電圧波高値Ep’を表したモータベクトル図を示す。
図9は図8の場合に比して磁束量Ψが減少した場合の実際値である誘起電圧波高値Epを表したモータベクトル図を示す。なお、図9には図8の場合のベクトルを点線で示してある。
【0049】
図8、9を比較すると、磁束量Ψが減少することにより、誘起電圧位相γに相当する誘起電圧電気角θeと、電流位相βに相当する相電流電気角θiとは何れも大きくなる。ロータ位置・電流位相推定部28に予め用意されるデータテーブルは、[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして電流位相βを規定したものであって、所期の電流位相βを[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして選定することから、[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]に伴い電流位相βも変化することは明らかである。
【0050】
そこで、本実施形態のモータパラメータ補正部30では、前記式により算出したΔEpを利用して、磁束量Ψの補正のみならず、電流位相β、即ち相電流電気角θi(電流位相θi)をも補正している。
詳しくは、前記式から
・Ep/(ω・Ψ)=Ep’/(ω・Ψ’)
の式が成り立ち、この式を変形すると、
・Ψ=(Ep/Ep’)・Ψ’
の式が成り立つ。
【0051】
この式を利用して理論値Ψと補正後の実際値Ψ’との差をとると、
・Ψ−Ψ’=(Ep/Ep’)・Ψ’−Ψ’
=((Ep−Ep’)/Ep’)・Ψ’
の式が成り立ち、更にこの式を変形すると、
・(Ψ−Ψ’)/Ψ’=(Ep−Ep’)/Ep’
の式が成り立つ。
【0052】
この式より、磁束量Ψは誘起電圧波高値Epと等しい変化率Rcを有することが判る。
更にこの式に磁束量変化率をΔΨ、誘起電圧波高値変化率をΔEとして代入すると、
・(Ψ−Ψ’)/Ψ’=ΔΨ=(Ep−Ep’)/Ep’=ΔE=Rc
の式が成り立つ。
そして、モータパラメータ補正部30は、磁束量変化率ΔΨに対する相電流電気角θiの電流位相変化率Rciをデータテーブルにより検出している。
【0053】
ここで用いられるデータテーブルは[相電流波高値Ip]及び[相電流電気角θi]をパラメータとして電流位相θiの変化率Rciたる電流位相変化率Δθiを規定したものであって、所期の電流位相変化率Δθiを[相電流波高値Ip]及び[相電流電気角θi]をパラメータとして選定することができる。
具体的には、変化率Rciは、
・Rci=f(Ip,θi)
の関数式から計算され、この結果をデータとしたデータテーブルがモータパラメータ補正部30に予め用意される。
【0054】
磁束量Ψが変化率Rcで変化したときの電流位相変化率Δθiは、以下の式で計算される。
・Δθi=Rc・ΔE
そして、補正後の電流位相θi’は、以下の式で計算される。
・θi’=θi+Δθi
【0055】
モータパラメータ補正部30で変化率Rci、即ち電流位相変化率Δθiを検出する際に用いられるデータテーブルの作成は図6のモータベクトル図下で数2、3の式が成り立つことを前提として行われるものであって、前記モータベクトル図に示した電流位相βと電流Iをそれぞれ所定範囲内で段階的に増加させながら〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕が所定値のときの電流位相βを保存して、〔電流I〕に相当する[相電流波高値Ip]と〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕に相当する[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとした電流位相βのデータテーブルを作成することによって行われる。
【0056】
詳しくは、図10に示すように、電流位相βを−180°から180°まで0.001°ずつ増加させ、且つ、電流Iを0Aから64まで1Aずつ増加させながら(ステップST1,ST2及びST5〜ST8参照)、モータ1固有のモータパラメータを利用して前記モータベクトル図から誘起電圧E、磁束Ψ、及び電圧位相αと電流位相βと誘起電圧位相γを求め、そして、[磁束Ψ]の変化率ΔΨが1%,2%,3%…のときの電流位相βを保存する(ステップST3及びST4参照)。これにより、〔電流I〕に相当する[相電流波高値Ip]を1つのパラメータとし、且つ、〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕に相当する[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]を他のパラメータとする電流位相βのデータテーブルが作成される。
【0057】
以上のように、本実施形態では、第1実施形態の場合と同様に、モータパラメータの理論値と実際値との間の誤差を解消し、この誤差の発生に伴うセンサレス制御不能状態を回避することが可能となり、モータ1のセンサレス制御の安定性を向上することができる。 また、補正するモータパラメータを永久磁石の磁束量Ψとすることにより、概して永久磁石はフェライト若しくはネオジウムから形成され、磁束量Ψはモータ1が曝される温度変化に影響を受けやすく、その誤差も大きい傾向があることから、当該誤差の解消によりセンサレス制御の安定性を効果的に向上することができる。
【0058】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態では、モータの運転状態に応じて磁束量Ψと巻線抵抗Rとを重み付けして補正する手法をとっている。
詳しくは、モータが低速度・高トルクで運転されるときは、ωΨ<RIの関係式が成立することより、巻線抵抗Rの誤差の影響が大きいため、巻線抵抗Rの補正を優先させ、一方、モータが高速度・低トルクで運転されるときは、ωΨ>RIの関係式が成立することより、磁束量Ψの誤差の影響が大きいため、誘起電圧Eを補正することによって磁束量Ψの補正を優先させる。
【0059】
詳しくは、図11のモータ1の回転数ωに対する電流Iの座標上に磁束量Ψのみを補正する運転領域A1と誘起電圧Eのみを補正する運転領域A2とを区分して設けたマップがモータパラメータ補正部30に予め用意され、モータ1の運転状態が領域A1、A2のどちらにあるかを判定して補正対象を選定する。モータ1の運転状態が領域A1にあるときには磁束量Ψのみを補正し、領域A2にあるときには誘起電圧E、即ち磁束量Ψのみを補正する。
【0060】
また、モータ1の運転状態が各領域A1、A2の境界線L上にある場合には、磁束量Ψの補正量と巻線抵抗Rの補正量との割合を補間処理等の近似計算によって算出し、重み付けしたパラメータ補正によってモータ1を最適に制御する。
具体的な重み付けの手法としては、補正量が影響する度合いを電圧の変動範囲として計算し、これを重み付けのパラメータとして利用することにより補正量を算出する。
【0061】
詳しくは、巻線抵抗Rの変化に対して変動する電圧をVr、誘起電圧Eの変化に対して変動する電圧をVe、総電圧変化量を△Ep、巻線抵抗補正電圧割合をVr−rate、誘起電圧補正電圧割合Ve−rateとすると、
・Vr−rate=Vr/(Vr+Ve)
・Ve−rate=Ve/(Vr+Ve)
の式が成り立つ。
【0062】
これらの式を利用して、巻き線抵抗補正電圧△Er、誘起電圧補正電圧△Eeの変化量を計算すると、
・△Er=△Ep・Vr−rate
・△Ee=△Ep・Ve−rate
の式が成り立つ。更にこれらの式から、巻線抵抗補正量を△R、誘起電圧補正量を△Eとすると、
・△R=△Er/Ip
・△E=△Er/Ep
の式が成り立ち、各モータパラメータの補正量が計算される。
【0063】
以上のように、本実施形態では、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態に応じてパラメータを補正する。具体的には、モータの運転状態として、ロータ位置検出手段で検出された電流位相と回転数検出手段で検出された回転数とに基づいてパラメータを補正する。これにより、モータの運転状態に応じて変化するパラメータの補正量を変更することができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
【0064】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
本実施形態では、図12のモータ1の回転数ωに対するトルクTの座標上にモータ1の電圧誤差が異なるA1〜A3の各運転領域を区分して設けたマップがモータパラメータ補正部30に予め用意され、モータ1の運転状態が領域A1〜A3の何れにあるかを判定して補正対象を選定する。
【0065】
モータ1の運転状態が領域A1にあるときには、回転数ωがほぼ零となることから、誘起電圧E、即ち磁束量Ψの誤差はほとんど生じず、巻線抵抗Rの誤差のみを考慮することとし、巻線抵抗Rの補正量を計算する。一方、モータ1の運転状態が領域A2にあるときには、モータ1のトルクTはほぼ零となり、モータ1のコイルを流れる相電流もほぼ零となることから、巻線抵抗Rの誤差はほとんど生じず、誘起電圧Eの誤差のみを考慮することとし、誘起電圧E、即ち磁束量Ψの補正量を計算する。
【0066】
また、モータ1の運転状態が各領域A1、A2間の領域にある場合には、磁束量Ψの補正量と巻線抵抗Rの補正量との割合を補間処理等の近似計算によって算出し、重み付けしたパラメータ補正によってモータ1を最適に制御する。
一方、モータ1の運転状態が領域A3にあるときには、誘起電圧Eがほぼ零となることから、インバータ2に印加する電圧誤差の補正量を計算し、これを補正する。
【0067】
以上のように、本実施形態では、本実施形態では、第3実施形態の場合と同様に、モータの運転状態に応じて前記パラメータを補正することにより、モータの運転状態に応じて変化するパラメータの補正量を変更することができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
【0068】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
本実施形態では、モータ1の運転中に例えばd軸電流Idを増減させ、これに伴う誘起電圧波高値Epの変化量によりモータパラメータ(R、Ψ)を補正する。
例えば図13に示すように、負のd軸電流Idを1A増加させた場合、誘起電圧波高値Epは図中に示すように減少する。モータパラメータが誤差を有してばらつく場合には、誘起電圧波高値Epの減少度合いが異なることから、この特性を利用してモータパラメータの補正量を計算する。
【0069】
以上のように、本実施形態では、モータパラメータ補正部30は、モータの運転状態を変化させて前記パラメータの補正量を決定することにより、モータパラメータの補正を自発的に行うことができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
以上で本発明の実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
【0070】
具体的には、モータパラメータ補正部30のパラメータの補正によっても誘起電圧差が所定範囲以上にずれたとき、モータ1を異常と判定してこれを検出する異常検出手段を備えるようにしても良い。これにより、モータパラメータ補正部30によっても誘起電圧差をなくすことができない場合をモータ1の異常として迅速に検出し、モータ1の出力を停止させることが可能であり、モータ1のセンサレス制御の信頼性を高めることができる。
また、上記実施形態では、モータ1として3相ブラシレスDCモータを例示し、且つ、インバータ2として3相バイポーラ駆動方式インバータについて説明したが、これに限らず、3相以外の同期モータ用のインバータを備えたモータ制御装置であれば、本発明を適用して前記同様の作用,効果を得ることができる。
また、上記実施形態のモータ制御装置を車両用空調装置の圧縮機駆動用モータ制御に適用し、或いは電気自動車駆動用モータ制御に適用することにより、前述したようなセンサレス制御の不具合が改善され、圧縮機や電気自動車の制御性を向上することができて好適である。
【符号の説明】
【0071】
1 永久磁石同期モータ
10 ロータ位置検出部(ロータ位置検出手段)
12 回転数検出部(回転数検出手段)
22 相電圧設定部(相電圧設定手段)
30 モータパラメータ補正部(モータパラメータ補正手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関し、詳しくは、永久磁石同期モータをセンサレス制御により可変速制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期モータ(Permanent Magnetic Synchronous Motor:PMSM)、特にロータ(回転子)に永久磁石を埋め込んだ埋込型永久磁石同期モータ(Interior Permanent Magnetic Synchronous Motor:IPMSM)は、高効率で可変速範囲の広いモータとして、車両用空調装置の圧縮機駆動用モータや電気自動車駆動用モータなどの用途にその応用範囲を拡大し、その需要が見込まれている。
【0003】
この種のモータの駆動を制御するモータ制御装置は、モータ、インバータ、直流電源、マイクロコンピュータを内蔵したコントローラから構成されている。
前記モータの運転では、一般にモータのステータ(電機子)に巻回されたコイルに流れる電流をコントローラにおいて検出し、この電流が目標電流位相に追従するように電流フィードバック制御が行われる。この電流フィードバック制御では、目標電流位相を磁界と平行なd軸成分であるd軸電流Idと、これに直交するq軸成分であるq軸電流Iqとに分解し、d−q軸座標上でd軸電流Id及びq軸電流Iqから合成された電流ベクトルを目標電流位相として設定して制御することで、モータを最適なトルクで高効率に運転することができる。
【0004】
また、前記モータでは、コントローラにて検出される電流及び電圧の情報などからモータの誘起電圧を検出し、ひいてはロータ位置を検出し、物理的なセンサを用いずにモータを制御する、いわゆるセンサレス制御が一般に行われている。センサレス制御時には実際のd、q軸が直接には不明であるため、コントローラでは本来のd、q軸に対してそれぞれ仮想軸を置き、この仮想軸上で電流ベクトル制御が実行される。
【0005】
しかし、仮想軸はあくまでもコントローラ内で仮定した軸であるから、実際のd、q軸との間にはΔθの角度誤差が存在し、モータを効率的に安定運転するためには、このΔθを迅速に且つ正確に零に収束させる必要があることが知られている。
例えば特許文献1には、軸位置の角度誤差Δθcを推定する以下の簡略化された軸位置誤差推定式が開示されている。
【0006】
【数1】
前記式では、Δθc:軸位置推定誤差(ロータ位置誤差、電流位相誤差)、Vdc:印加電圧のd軸成分、Vqc:印加電圧のq軸成分、Idc:d軸電流、Iqc:q軸電流、Lq:q軸インダクタンス、Ld:d軸インダクタンス、R:コイルの巻線抵抗、ω1:印加電圧の周波数である。Vdc、Vqc、Idc、Iqcは何れも仮想軸を前提にしたコントローラ内での仮定値であり、Lq、Ld、Rは何れもモータの機器定数であり、ω1は測定値である。そして、センサレス制御時には前記Δθcを零に収束させるべくコントローラにて制御が行われる。
【0007】
数1の軸位置誤差推定式の巻線抵抗Rはモータの機器定数であり、モータ固有の器差を含むパラメータであるため、このパラメータの理論値と実際値との間の誤差が軸位置推定精度に大きく影響する。このようなパラメータの誤差は、モータの器差から生じるのみならず、モータが曝される環境によっても変動する。特に、概してコイルは銅線から形成されることから、モータが曝される温度によってコイルの実際の巻線抵抗は変動しやすく、パラメータ誤差も大きくなる。
【0008】
このパラメータ誤差が大きくなると、前記軸位置誤差推定式における分母項が零かマイナスになるおそれがあり、この場合には軸位置が推定できず、ロータ位置も推定できないため、モータがセンサレス制御にて安定的に運転可能な安定運転限界を逸脱して運転され、脱調を生じるおそれがある。
そこで、上記従来技術では、巻線抵抗の理論値として設定される設定値R’と巻線抵抗の実際値Rとの間の誤差を前記d−q軸座標系で検出した電流位相に基づいて補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−87152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来技術では、モータパラメータとしての巻線抵抗Rの補正量のみを電流位相のみに基づいて計算する手法をとっており、巻線抵抗Rの実際値を推定しておらず、また電流位相のみに基づいて計算を行っているため、補正計算が複雑となり、センサレス制御に応答遅れが生じて制御の安定性に支障を来すおそれがある。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を向上することができるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明のモータ制御装置は、永久磁石同期モータのロータ位置をセンサレス制御により検出するモータ制御装置であって、モータのコイルに流れる電流を検出する電流検出手段と、モータのコイルに印加される電圧を検出する印加電圧検出手段と、電流検出手段で検出された電流と印加電圧検出手段で検出された電圧とに基づいて電流位相及び電流波高値、並びに誘起電圧位相及び誘起電圧波高値を検出し、検出された電流位相及び電流波高値、並びに誘起電圧位相とモータの機器定数であるパラメータとに基づいてロータ位置を検出するとともに推定誘起電圧波高値を検出するロータ位置検出手段と、ロータ位置検出手段で検出されたロータ位置に基づいてモータの回転数を検出する回転数検出手段と、電流検出手段で検出された電流と、ロータ位置検出手段で検出されたロータ位置とに基づいて目標電圧を設定する相電圧設定手段とを備え、ロータ位置検出手段は、検出した誘起電圧波高値と推定誘起電圧波高値との間の誘起電圧差をなくすべくパラメータを補正するモータパラメータ補正手段を有し、該補正したパラメータに基づいてロータ位置を検出することを特徴としている(請求項1)。
【0012】
具体的には、パラメータは、コイルの巻線抵抗であり(請求項2)、モータの永久磁石の磁束量である(請求項3)。
好ましくは、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態に応じてパラメータを補正する(請求項4)。
また、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態として、ロータ位置検出手段で検出された電流位相と回転数検出手段で検出された回転数とに基づいてパラメータを補正する(請求項5)。
【0013】
更に、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態を変化させてパラメータの補正量を決定する(請求項6)。
好ましくは、モータパラメータ補正手段のパラメータの補正によっても誘起電圧差が所定範囲以上にずれたとき、前記モータを異常と判定してこれを検出する異常検出手段を備える(請求項7)。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のモータ制御装置によれば、ロータ位置検出手段は、検出した誘起電圧波高値と推定誘起電圧波高値との間の誘起電圧差をなくすべくパラメータを補正するモータパラメータ補正手段を有し、該補正したパラメータに基づいてロータ位置を検出する。これにより、モータパラメータの理論値と実際値との間の誤差を解消し、この誤差の発生に伴うセンサレス制御不能状態を回避することが可能となり、永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を向上することができる。
【0015】
請求項2及び3記載の発明によれば、具体的には補正するパラメータはコイルの巻線抵抗や永久磁石の磁束量であり、これらパラメータはモータが曝される温度変化に影響を受けやすく、これらの誤差も大きい傾向にあることから、当該誤差の解消によりセンサレス制御の安定性を効果的に向上することができる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態に応じてパラメータを補正することにより、モータの運転状態に応じて変化するパラメータの補正量を変更することができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
請求項5記載の発明によれば、モータパラメータ補正手段は、具体的には、モータの運転状態として、ロータ位置検出手段で検出された電流位相と回転数検出手段で検出された回転数とに基づいてパラメータを補正する。
【0017】
請求項6記載の発明によれば、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態を変化させてパラメータの補正量を決定することにより、モータパラメータの補正を自発的に行うことができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
請求項7記載の発明によれば、モータパラメータ補正手段のパラメータの補正によっても誘起電圧差が所定範囲以上にずれたとき、モータを異常と判定してこれを検出する異常検出手段を備えることにより、モータパラメータ補正手段によっても誘起電圧差をなくすことができない場合をモータの異常として迅速に検出し、モータの出力を停止させることが可能であり、モータのセンサレス制御の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の構成図である。
【図2】図1のコントローラで行われるモータのロータ位置のセンサレス制御について示した制御ブロック図である。
【図3】図2のロータ位置検出部の詳細を示した制御ブロック図である。
【図4】図2のモータのU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの相電流波形図である。
【図5】図2のモータのU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの誘起電圧波形図である。
【図6】図2のモータのロータが回転しているときのモータベクトル図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るロータ位置検出部の詳細を示した制御ブロック図である。
【図8】図7の場合にモータパラメータから推定される推定誘起電圧波高値Ep’を表したモータベクトル図である。
【図9】図8の場合に比して磁束量Ψが減少した場合の実際値である誘起電圧波高値Epを表したモータベクトル図である。
【図10】図7のモータパラメータ補正部でモータパラメータを補正する際に用いられるデータテーブルの作成方法の説明図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係るモータパラメータ補正部に用意されるマップを示した図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係るモータパラメータ補正部に用意されるマップを示した図である。
【図13】本発明の第4実施形態に係るモータパラメータ補正部においてd軸電流Idを増加させた場合の誘起電圧波高値Epの減少について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の構成図である。モータ制御装置は、モータ1、インバータ2、直流電源4、マイクロコンピュータを内蔵したコントローラ6から構成されている。
図2はコントローラ6で行われるモータ1のセンサレス制御について示した制御ブロック図である。コントローラ6は、PWM信号作成部8、ロータ位置検出部(ロータ位置検出手段)10、回転数検出部(回転数検出手段)12、目標電流位相設定部(電流位相設定手段)14、加算器16、電圧波高値検出部18、電圧位相検出部20、相電圧設定部(相電圧設定手段)22を備えている。
【0020】
モータ1は、3相ブラシレスDCモータであり、3相のコイル(U相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWc)を含む図示しないステータと、永久磁石を含む図示しないロータとを有し、U相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcは、図1に示すように中性点Nを中心としてスター状に結線されるか、或いは、デルタ状に結線されている。
【0021】
インバータ2は、3相バイポーラ駆動方式インバータであり、モータ1の3相のコイルに対応した3相のスイッチング素子、具体的にはIGBT等から成る6個のスイッチング素子(上相スイッチング素子Us,Vs及びWsと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZs)と、シャント抵抗器R1,R2及びR3とを有している。
上相スイッチング素子Us、下相スイッチング素子Xs、シャント抵抗器R1と、上相スイッチング素子Vs、下相スイッチング素子Ys、シャント抵抗器R2と、上相スイッチング素子Ws、下相スイッチング素子Zs、シャント抵抗器R3とは、それぞれ直列に接続され、これら各直列接続線の両端には、高圧電圧Vhを発生する直流電源4の出力端子が並列接続されている。
【0022】
また、上相スイッチング素子Usのエミッタ側はモータ1のU相コイルUcに接続され、上相スイッチング素子Vsのエミッタ側はモータ1のV相コイルVcに接続され、上相スイッチング素子Wsのエミッタ側はモータ1のV相コイルWcに接続されている。
更に、上相スイッチング素子Us,Vs及びWsのゲートと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZsのゲートと直流電源4の2次側出力端子とは、それぞれPWM信号作成部8に接続されている。更に、シャント抵抗器R1の下相スイッチング素子Xs側とシャント抵抗器R2の下相スイッチング素子Ys側とシャント抵抗器R3の下相スイッチング素子Zs側とは、それぞれロータ位置検出部10に接続されている。
【0023】
インバータ2は、シャント抵抗器R1,R2及びR3それぞれで検出された電圧を利用して、モータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに流れる電流(U相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iw)を検出し(電流検出手段)、これらをロータ位置検出部10に送出する。
PWM信号作成部8は、直流電源4の高圧電圧Vhを検出し、高圧電圧Vhと相電圧設定部22で設定された相電圧とに基づいて、インバータ2の上相スイッチング素子Us,Vs及びWsのゲートと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZsのゲートに各スイッチング素子をオンオフするためのPWM信号を作成し、インバータ2に送出する。
【0024】
インバータ2の上相スイッチング素子Us,Vs及びWsと下相スイッチング素子Xs,Ys及びZsは、PWM信号作成部8からのPWM信号によって所定パターンでオンオフされ、このオンオフパターンに基づく正弦波通電(180度通電)をモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに対し行う。
また、PWM信号作成部8は、ロータ位置検出部10に接続されており、PWM信号作成部8で検出された直流電源4の高圧電圧Vhを利用して、モータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに印加されている電圧(U相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vw)を検出し(印加電圧検出手段)、ロータ位置検出部10に送出する。
【0025】
図3はロータ位置検出部10について詳細に示した制御ブロック図である。ロータ位置検出部10は、相電流位相検出部24、誘起電圧位相検出部26、ロータ位置・電流位相推定部28、モータパラメータ補正部(モータパラメータ補正手段)30を備えている。
相電流位相検出部24は、インバータ2から送出されるU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwを利用して、相電流波高値Ip(電流位相)と相電流電気角θi(電流位相)とを検出し、これらをロータ位置・電流位相推定部28に送出する。また、ここで検出された相電流波高値Ipを目標電流位相設定部14に送出する。
【0026】
詳しくは、図4のモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの相電流波形図を参照すると、正弦波形を成すU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwにはそれぞれ120°の位相差がある。
この相電流波形図からすれば、U相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、相電流波高値Ipと、相電流電気角θiには、
・Iu=Ip×cos(θi)
・Iv=Ip×cos(θi−2/3π)
・Iw=Ip×cos(θi+2/3π)
の式が成り立つ。
【0027】
相電流位相検出部24における相電流波高値Ipと相電流電気角θiとの検出は前記式が成り立つことを前提として行われ、インバータ2から送出されたU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwを利用して、前記式による計算によって相電流波高値Ipと相電流電気角θiとが求められる。
誘起電圧位相検出部26は、インバータ2から送出されるU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、PWM信号作成部8から送出されるU相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vwとを利用して、実際値として、誘起電圧波高値Ep、誘起電圧電気角θe(誘起電圧位相)を検出し、これらをロータ位置・電流位相推定部28に送出する。また、検出した誘起電圧波高値Epをモータパラメータ補正部30に送出する。
【0028】
詳しくは、図5のモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに正弦波通電(180°通電)を行っているときの誘起電圧波形図を参照すると、正弦波形を成すU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewにはそれぞれ120°の位相差がある。
この誘起電圧波形図からすれば、U相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewと、誘起電圧波高値Epと、誘起電圧電気角θeには、
・Eu=Ep×cos(θe)
・Ev=Ep×cos(θe−2/3π)
・Ew=Ep×cos(θe+2/3π)
の式が成り立つ。
【0029】
また、U相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vwと、U相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、U相コイル抵抗Ru,V相コイル抵抗Rv及びW相コイル抵抗Rwと、U相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewとには、
・Vu−Iu×Ru=Eu
・Vv−Iv×Rv=Ev
・Vw−Iw×Rw=Ew
の式が成り立つ。
【0030】
誘起電圧位相検出部26における誘起電圧波高値Epと誘起電圧電気角θeの検出は前記式が成り立つことを前提として行われ、インバータ2から送出されたU相電流Iu,V相電流Iv及びW相電流Iwと、PWM信号作成部8から送出されたU相印加電圧Vu,V相印加電圧Vv及びW相印加電圧Vwとを利用して、前記式(後者の式)からU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewが求められ、そして、求めたU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewを利用して、前記式(前者の式)から誘起電圧波高値Epと誘起電圧電気角θeとが求められる。
【0031】
ロータ位置・電流位相推定部28は、ここで検出された相電流電気角θiと予め用意された後述するデータテーブルから選定した電流位相βとを利用して、
・θm=θi−β−90°
の式からロータ位置θmを検出し、ロータ位置検出部10では物理的なセンサによらないセンサレス制御が行われる。なお、前述したように、センサレス制御により検出されたロータ位置θmは軸位置の角度誤差Δθが存在する。
【0032】
ここで用いられるデータテーブルは[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして電流位相βを規定したものであって、所期の電流位相βを[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして選定することができる。なお、[相電流波高値Ip]にはロータ位置検出部10で検出された相電流波高値Ipが該当し、また、[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]にはロータ位置検出部10で検出された誘起電圧電気角θeから相電流電気角θiを減算した値が該当する。
【0033】
図6はモータ1のロータが回転しているときのモータベクトル図であり、電圧V,電流I及び誘起電圧Eの関係をd−q軸座標にベクトルで表してある。図中のVdは電圧Vのd軸成分、Vqは電圧Vのq軸成分、Idは電流Iのd軸成分(d軸電流)、Iqは電流Iのq軸成分(q軸電流)、Edは誘起電圧Eのd軸成分、Eqは誘起電圧Eのq軸成分、αはq軸を基準とした電圧位相、βはq軸を基準とした電流位相、γはq軸を基準とした誘起電圧位相である。また、図中のΨaはロータの永久磁石の磁束、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Rはステータの巻線抵抗、Ψはロータの総合鎖交磁束である。
【0034】
このモータベクトル図からすれば、ロータの回転数をωとすると、
【数2】
の式が成り立ち、また、同式の右辺からωに関する値を左辺に移すと、
【数3】
の式が成り立つ。
【0035】
ロータ位置・電流位相推定部28でロータ位置θmを検出する際に用いられるデータテーブルの作成は、前記モータベクトル図下で前記式が成り立つことを前提として行われ、前記モータベクトル図に示した電流位相βと電流Iをそれぞれ所定範囲内で段階的に増加させながら〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕が所定値のときの電流位相βを保存し、〔電流I〕に相当する[相電流波高値Ip]と〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕に相当する[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]とをパラメータとした電流位相βのデータテーブルを作成する。そして、この作成されたデータテーブルを利用してロータ位置・電流位相推定部28で検出されたロータ位置θmは回転数検出部12に送出される。また、ここで利用される相電流波高値Ipをモータパラメータ補正部30に送出する。
【0036】
モータパラメータ補正部30は、モータの固有の機器定数であるモータパラメータ(Ψ、Ld、Lq、R、ω)を利用して、図6に示すモータベクトル図と前記数2、3式とが成立することを前提に作成されたデータテーブルから、推定誘起電圧波高値Ep’を検出する。そして、誘起電圧位相検出部26から送出されたU相誘起電圧Eu,V相誘起電圧Ev及びW相誘起電圧Ewを利用して求めた、いわば実際値である誘起電圧波高値Epと前記推定誘起電圧波高値Ep’との誘起電圧波高値差ΔEpを検出する。そして、ロータ位置・電流位相推定部28から送出された相電流波高値Ipを利用して、以下の式により巻線抵抗Rの補正量△Rを計算する。
【0037】
・Ep=R・Ip
・Ep’=R’・Ip
両式の差をとると、
・Ep−Ep’=(R−R’)・Ip
の式が成り立つ。この式にEp−Ep’=ΔEp、R−R’=△Rを代入すると、
・△R=ΔEp/Ip
の式が成り立つ。
【0038】
この式により検出された補正量△Rを所定のローパスフィルタLPFを通過させてそのノイズを除去し、これを理論値である巻線抵抗Rに加算することにより補正巻線抵抗R’を計算すると、
・R’=R+LPF(△R)
の式が成り立つ。求められた補正巻線抵抗R’は、ロータ位置・電流位相推定部28に送出され、ロータ位置・電流位相推定部28では数式2,3に基づくデータテーブルにおいて理論巻線抵抗Rの代わりに使用され、ロータ位置θmの検出に利用される。
【0039】
回転数検出部12は、ロータ位置検出部10で検出されたロータ位置θmを利用して、ロータ位置θmから演算周期が1周期前のロータ位置θm−1を減じることにより、ロータ位置変化量Δθmを求め、このロータ位置変化量Δθmに所定のフィルタを掛けてモータ1の回転数ωを検出し、これを加算器16に送出する。そして、コントローラ6に対し指示されたモータ1の目標回転数ωtに回転数検出部12で求められた回転数ωを加算器16を通じてフィードバックさせ、P制御やPI制御等の処理により回転数差Δωを演算し、これを電圧波高値検出部18に送出する。
【0040】
電圧波高値検出部18は、求められた回転数差Δωを利用してP制御やPI制御等の処理によりモータ1に印加する電圧の印加電圧波高値Vpを検出し、これを相電圧設定部22に送出する。
目標電流位相設定部14は、例えば最大トルク/電流制御と称す電流ベクトル制御によって相電流に対するモータ1の発生トルクが最大になるように目標電流位相が設定される。具体的には、ロータ位置検出部10で検出された相電流波高値Ipと、予め用意されたデータテーブルとを利用して目標d軸電流Idtを設定し、これを電圧位相検出部20に送出する。
【0041】
電圧位相検出部20は、目標電流位相設定部14で設定された目標d軸電流Idtを利用して、モータ1に印加する電圧の印加電圧位相θv(目標電圧位相)を検出し、これを相電圧設定部22に送出する。
相電圧設定部22は、電圧波高値検出部18で検出された印加電圧波高値Vp及び電圧位相検出部20にて検出された印加電圧位相θvを利用して、モータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcにこれから印加する印加設定電圧(U相印加設定電圧Vut,V相印加設定電圧Vvt及びW相印加設定電圧Vwt)を設定し、これをPWM信号作成部8に送出する。
【0042】
PWM信号作成部8は、インバータ2を介してモータ1のU相コイルUc,V相コイルVc及びW相コイルWcに対し相電圧設定部22で設定された印加設定電圧をPWM信号のオンオフパターンに基づいて正弦波通電(180度通電)し、これよりモータ1が所望の回転数で運転される。
以上のように、本実施形態では、誘起電圧位相に基づいてモータパラメータをその理論値と実際値との間の誤差をなくすべく補正するモータパラメータ補正部を備え、ロータ位置検出部は、モータパラメータ補正部で補正したモータパラメータに基づいてロータ位置を検出する。これにより、モータパラメータの理論値と実際値との間の誤差を解消し、この誤差の発生に伴うセンサレス制御不能状態を回避することが可能となり、永久磁石同期モータのセンサレス制御の安定性を向上することができる。
【0043】
また、補正するモータパラメータをコイルの巻線抵抗Rとすることにより、概してコイルは銅線から形成され、巻線抵抗Rはモータ1が曝される温度変化に影響を受けやすく、その誤差も大きい傾向があることから、当該誤差の解消によりセンサレス制御の安定性を効果的に向上することができる。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図7は本実施形態に係るロータ位置検出部10について詳細に示した制御ブロック図である。なお、モータ制御装置の基本構成やセンサレス制御などのモータ1の基本的な制御方法などは第1実施形態の場合と同様であるため、説明は省略する。
【0045】
本実施形態のモータパラメータ補正部30は、第1実施形態の場合と同様に、モータの固有の機器定数であるモータパラメータ(Ψ、Ld、Lq、R、ω)を利用して、図6に示すモータベクトル図と前記数2、3式とが成立することを前提に作成されたデータテーブルから、推定誘起電圧波高値Ep’を検出する。そして、誘起電圧位相検出部26から送出された実際値である誘起電圧波高値Epとロータ位置・電流位相推定部28から送出された相電流波高値Ipとを利用して、以下の式により永久磁石磁束量Ψの補正量△Ψを計算する。
【0046】
・Ep=ω・Ψ
・Ep’=ω・Ψ
これら式においてΨは理論値、Ψ’は補正後の実際値であって、両式の差をとると、
・Ep−Ep’=ω・(Ψ−Ψ’)
の式が成り立ち、この式にEp−Ep’=ΔEp、Ψ−Ψ’=△Ψを代入すると、
・△Ψ=ΔEp/ω
の式が成り立つ。
【0047】
そして、この式により求められた補正量△Ψを所定のローパスフィルタLPFを通過させてそのノイズを除去し、これを理論値である磁束量Ψに加算することにより補正磁束量Ψ’を計算する。
・Ψ’=Ψ+LPF(△Ψ)
この式により求められた補正磁束量Ψ’は、ロータ位置・電流位相推定部28に送出され、ロータ位置・電流位相推定部28では数式2,3に基づくデータテーブルにおいて理論磁束量Ψの代わりに使用され、ロータ位置θmの検出に利用される。
【0048】
図8はモータの固有の機器定数であるモータパラメータ(Ψ、Ld、Lq、R、ω)から推定される推定誘起電圧波高値Ep’を表したモータベクトル図を示す。
図9は図8の場合に比して磁束量Ψが減少した場合の実際値である誘起電圧波高値Epを表したモータベクトル図を示す。なお、図9には図8の場合のベクトルを点線で示してある。
【0049】
図8、9を比較すると、磁束量Ψが減少することにより、誘起電圧位相γに相当する誘起電圧電気角θeと、電流位相βに相当する相電流電気角θiとは何れも大きくなる。ロータ位置・電流位相推定部28に予め用意されるデータテーブルは、[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして電流位相βを規定したものであって、所期の電流位相βを[相電流波高値Ip]及び[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとして選定することから、[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]に伴い電流位相βも変化することは明らかである。
【0050】
そこで、本実施形態のモータパラメータ補正部30では、前記式により算出したΔEpを利用して、磁束量Ψの補正のみならず、電流位相β、即ち相電流電気角θi(電流位相θi)をも補正している。
詳しくは、前記式から
・Ep/(ω・Ψ)=Ep’/(ω・Ψ’)
の式が成り立ち、この式を変形すると、
・Ψ=(Ep/Ep’)・Ψ’
の式が成り立つ。
【0051】
この式を利用して理論値Ψと補正後の実際値Ψ’との差をとると、
・Ψ−Ψ’=(Ep/Ep’)・Ψ’−Ψ’
=((Ep−Ep’)/Ep’)・Ψ’
の式が成り立ち、更にこの式を変形すると、
・(Ψ−Ψ’)/Ψ’=(Ep−Ep’)/Ep’
の式が成り立つ。
【0052】
この式より、磁束量Ψは誘起電圧波高値Epと等しい変化率Rcを有することが判る。
更にこの式に磁束量変化率をΔΨ、誘起電圧波高値変化率をΔEとして代入すると、
・(Ψ−Ψ’)/Ψ’=ΔΨ=(Ep−Ep’)/Ep’=ΔE=Rc
の式が成り立つ。
そして、モータパラメータ補正部30は、磁束量変化率ΔΨに対する相電流電気角θiの電流位相変化率Rciをデータテーブルにより検出している。
【0053】
ここで用いられるデータテーブルは[相電流波高値Ip]及び[相電流電気角θi]をパラメータとして電流位相θiの変化率Rciたる電流位相変化率Δθiを規定したものであって、所期の電流位相変化率Δθiを[相電流波高値Ip]及び[相電流電気角θi]をパラメータとして選定することができる。
具体的には、変化率Rciは、
・Rci=f(Ip,θi)
の関数式から計算され、この結果をデータとしたデータテーブルがモータパラメータ補正部30に予め用意される。
【0054】
磁束量Ψが変化率Rcで変化したときの電流位相変化率Δθiは、以下の式で計算される。
・Δθi=Rc・ΔE
そして、補正後の電流位相θi’は、以下の式で計算される。
・θi’=θi+Δθi
【0055】
モータパラメータ補正部30で変化率Rci、即ち電流位相変化率Δθiを検出する際に用いられるデータテーブルの作成は図6のモータベクトル図下で数2、3の式が成り立つことを前提として行われるものであって、前記モータベクトル図に示した電流位相βと電流Iをそれぞれ所定範囲内で段階的に増加させながら〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕が所定値のときの電流位相βを保存して、〔電流I〕に相当する[相電流波高値Ip]と〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕に相当する[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]をパラメータとした電流位相βのデータテーブルを作成することによって行われる。
【0056】
詳しくは、図10に示すように、電流位相βを−180°から180°まで0.001°ずつ増加させ、且つ、電流Iを0Aから64まで1Aずつ増加させながら(ステップST1,ST2及びST5〜ST8参照)、モータ1固有のモータパラメータを利用して前記モータベクトル図から誘起電圧E、磁束Ψ、及び電圧位相αと電流位相βと誘起電圧位相γを求め、そして、[磁束Ψ]の変化率ΔΨが1%,2%,3%…のときの電流位相βを保存する(ステップST3及びST4参照)。これにより、〔電流I〕に相当する[相電流波高値Ip]を1つのパラメータとし、且つ、〔誘起電圧位相γ−電流位相β〕に相当する[誘起電圧電気角θe−相電流電気角θi]を他のパラメータとする電流位相βのデータテーブルが作成される。
【0057】
以上のように、本実施形態では、第1実施形態の場合と同様に、モータパラメータの理論値と実際値との間の誤差を解消し、この誤差の発生に伴うセンサレス制御不能状態を回避することが可能となり、モータ1のセンサレス制御の安定性を向上することができる。 また、補正するモータパラメータを永久磁石の磁束量Ψとすることにより、概して永久磁石はフェライト若しくはネオジウムから形成され、磁束量Ψはモータ1が曝される温度変化に影響を受けやすく、その誤差も大きい傾向があることから、当該誤差の解消によりセンサレス制御の安定性を効果的に向上することができる。
【0058】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態では、モータの運転状態に応じて磁束量Ψと巻線抵抗Rとを重み付けして補正する手法をとっている。
詳しくは、モータが低速度・高トルクで運転されるときは、ωΨ<RIの関係式が成立することより、巻線抵抗Rの誤差の影響が大きいため、巻線抵抗Rの補正を優先させ、一方、モータが高速度・低トルクで運転されるときは、ωΨ>RIの関係式が成立することより、磁束量Ψの誤差の影響が大きいため、誘起電圧Eを補正することによって磁束量Ψの補正を優先させる。
【0059】
詳しくは、図11のモータ1の回転数ωに対する電流Iの座標上に磁束量Ψのみを補正する運転領域A1と誘起電圧Eのみを補正する運転領域A2とを区分して設けたマップがモータパラメータ補正部30に予め用意され、モータ1の運転状態が領域A1、A2のどちらにあるかを判定して補正対象を選定する。モータ1の運転状態が領域A1にあるときには磁束量Ψのみを補正し、領域A2にあるときには誘起電圧E、即ち磁束量Ψのみを補正する。
【0060】
また、モータ1の運転状態が各領域A1、A2の境界線L上にある場合には、磁束量Ψの補正量と巻線抵抗Rの補正量との割合を補間処理等の近似計算によって算出し、重み付けしたパラメータ補正によってモータ1を最適に制御する。
具体的な重み付けの手法としては、補正量が影響する度合いを電圧の変動範囲として計算し、これを重み付けのパラメータとして利用することにより補正量を算出する。
【0061】
詳しくは、巻線抵抗Rの変化に対して変動する電圧をVr、誘起電圧Eの変化に対して変動する電圧をVe、総電圧変化量を△Ep、巻線抵抗補正電圧割合をVr−rate、誘起電圧補正電圧割合Ve−rateとすると、
・Vr−rate=Vr/(Vr+Ve)
・Ve−rate=Ve/(Vr+Ve)
の式が成り立つ。
【0062】
これらの式を利用して、巻き線抵抗補正電圧△Er、誘起電圧補正電圧△Eeの変化量を計算すると、
・△Er=△Ep・Vr−rate
・△Ee=△Ep・Ve−rate
の式が成り立つ。更にこれらの式から、巻線抵抗補正量を△R、誘起電圧補正量を△Eとすると、
・△R=△Er/Ip
・△E=△Er/Ep
の式が成り立ち、各モータパラメータの補正量が計算される。
【0063】
以上のように、本実施形態では、モータパラメータ補正手段は、モータの運転状態に応じてパラメータを補正する。具体的には、モータの運転状態として、ロータ位置検出手段で検出された電流位相と回転数検出手段で検出された回転数とに基づいてパラメータを補正する。これにより、モータの運転状態に応じて変化するパラメータの補正量を変更することができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
【0064】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
本実施形態では、図12のモータ1の回転数ωに対するトルクTの座標上にモータ1の電圧誤差が異なるA1〜A3の各運転領域を区分して設けたマップがモータパラメータ補正部30に予め用意され、モータ1の運転状態が領域A1〜A3の何れにあるかを判定して補正対象を選定する。
【0065】
モータ1の運転状態が領域A1にあるときには、回転数ωがほぼ零となることから、誘起電圧E、即ち磁束量Ψの誤差はほとんど生じず、巻線抵抗Rの誤差のみを考慮することとし、巻線抵抗Rの補正量を計算する。一方、モータ1の運転状態が領域A2にあるときには、モータ1のトルクTはほぼ零となり、モータ1のコイルを流れる相電流もほぼ零となることから、巻線抵抗Rの誤差はほとんど生じず、誘起電圧Eの誤差のみを考慮することとし、誘起電圧E、即ち磁束量Ψの補正量を計算する。
【0066】
また、モータ1の運転状態が各領域A1、A2間の領域にある場合には、磁束量Ψの補正量と巻線抵抗Rの補正量との割合を補間処理等の近似計算によって算出し、重み付けしたパラメータ補正によってモータ1を最適に制御する。
一方、モータ1の運転状態が領域A3にあるときには、誘起電圧Eがほぼ零となることから、インバータ2に印加する電圧誤差の補正量を計算し、これを補正する。
【0067】
以上のように、本実施形態では、本実施形態では、第3実施形態の場合と同様に、モータの運転状態に応じて前記パラメータを補正することにより、モータの運転状態に応じて変化するパラメータの補正量を変更することができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
【0068】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
本実施形態では、モータ1の運転中に例えばd軸電流Idを増減させ、これに伴う誘起電圧波高値Epの変化量によりモータパラメータ(R、Ψ)を補正する。
例えば図13に示すように、負のd軸電流Idを1A増加させた場合、誘起電圧波高値Epは図中に示すように減少する。モータパラメータが誤差を有してばらつく場合には、誘起電圧波高値Epの減少度合いが異なることから、この特性を利用してモータパラメータの補正量を計算する。
【0069】
以上のように、本実施形態では、モータパラメータ補正部30は、モータの運転状態を変化させて前記パラメータの補正量を決定することにより、モータパラメータの補正を自発的に行うことができるため、センサレス制御の精度を更に高めることができ、その安定性を更に向上することができる。
以上で本発明の実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
【0070】
具体的には、モータパラメータ補正部30のパラメータの補正によっても誘起電圧差が所定範囲以上にずれたとき、モータ1を異常と判定してこれを検出する異常検出手段を備えるようにしても良い。これにより、モータパラメータ補正部30によっても誘起電圧差をなくすことができない場合をモータ1の異常として迅速に検出し、モータ1の出力を停止させることが可能であり、モータ1のセンサレス制御の信頼性を高めることができる。
また、上記実施形態では、モータ1として3相ブラシレスDCモータを例示し、且つ、インバータ2として3相バイポーラ駆動方式インバータについて説明したが、これに限らず、3相以外の同期モータ用のインバータを備えたモータ制御装置であれば、本発明を適用して前記同様の作用,効果を得ることができる。
また、上記実施形態のモータ制御装置を車両用空調装置の圧縮機駆動用モータ制御に適用し、或いは電気自動車駆動用モータ制御に適用することにより、前述したようなセンサレス制御の不具合が改善され、圧縮機や電気自動車の制御性を向上することができて好適である。
【符号の説明】
【0071】
1 永久磁石同期モータ
10 ロータ位置検出部(ロータ位置検出手段)
12 回転数検出部(回転数検出手段)
22 相電圧設定部(相電圧設定手段)
30 モータパラメータ補正部(モータパラメータ補正手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石同期モータのロータ位置をセンサレス制御により検出するモータ制御装置であって、
前記モータのコイルに流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記モータの前記コイルに印加される電圧を検出する印加電圧検出手段と、
前記電流検出手段で検出された前記電流と前記印加電圧検出手段で検出された前記電圧とに基づいて電流位相及び電流波高値、並びに誘起電圧位相及び誘起電圧波高値を検出し、検出された前記電流位相及び前記電流波高値、並びに前記誘起電圧位相と前記モータの機器定数であるパラメータとに基づいて前記ロータ位置を検出するとともに推定誘起電圧波高値を検出するロータ位置検出手段と、
前記ロータ位置検出手段で検出された前記ロータ位置に基づいて前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記電流検出手段で検出された前記電流と、前記ロータ位置検出手段で検出された前記ロータ位置とに基づいて目標電圧を設定する相電圧設定手段とを備え、
前記ロータ位置検出手段は、検出した前記誘起電圧波高値と前記推定誘起電圧波高値との間の誘起電圧差をなくすべく前記パラメータを補正するモータパラメータ補正手段を有し、該補正したパラメータに基づいて前記ロータ位置を検出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記パラメータは前記コイルの巻線抵抗であることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記パラメータは前記モータの永久磁石の磁束量であることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータパラメータ補正手段は、前記モータの運転状態に応じて前記パラメータを補正することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータパラメータ補正手段は、前記モータの運転状態として、前記ロータ位置検出手段で検出された前記電流位相と前記回転数検出手段で検出された前記回転数とに基づいて前記パラメータを補正することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記モータパラメータ補正手段は、前記モータの運転状態を変化させて前記パラメータの補正量を決定することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記モータパラメータ補正手段の前記パラメータの補正によっても前記誘起電圧差が所定範囲以上にずれたとき、前記モータを異常と判定してこれを検出する異常検出手段を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項1】
永久磁石同期モータのロータ位置をセンサレス制御により検出するモータ制御装置であって、
前記モータのコイルに流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記モータの前記コイルに印加される電圧を検出する印加電圧検出手段と、
前記電流検出手段で検出された前記電流と前記印加電圧検出手段で検出された前記電圧とに基づいて電流位相及び電流波高値、並びに誘起電圧位相及び誘起電圧波高値を検出し、検出された前記電流位相及び前記電流波高値、並びに前記誘起電圧位相と前記モータの機器定数であるパラメータとに基づいて前記ロータ位置を検出するとともに推定誘起電圧波高値を検出するロータ位置検出手段と、
前記ロータ位置検出手段で検出された前記ロータ位置に基づいて前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記電流検出手段で検出された前記電流と、前記ロータ位置検出手段で検出された前記ロータ位置とに基づいて目標電圧を設定する相電圧設定手段とを備え、
前記ロータ位置検出手段は、検出した前記誘起電圧波高値と前記推定誘起電圧波高値との間の誘起電圧差をなくすべく前記パラメータを補正するモータパラメータ補正手段を有し、該補正したパラメータに基づいて前記ロータ位置を検出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記パラメータは前記コイルの巻線抵抗であることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記パラメータは前記モータの永久磁石の磁束量であることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータパラメータ補正手段は、前記モータの運転状態に応じて前記パラメータを補正することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータパラメータ補正手段は、前記モータの運転状態として、前記ロータ位置検出手段で検出された前記電流位相と前記回転数検出手段で検出された前記回転数とに基づいて前記パラメータを補正することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記モータパラメータ補正手段は、前記モータの運転状態を変化させて前記パラメータの補正量を決定することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記モータパラメータ補正手段の前記パラメータの補正によっても前記誘起電圧差が所定範囲以上にずれたとき、前記モータを異常と判定してこれを検出する異常検出手段を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のモータ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−170251(P2012−170251A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29815(P2011−29815)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】
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